説明

マイクロ電気機械システムバルブ及びその製造方法

【課題】 消費電力が最小でありながら早い動作、大きなバルブ力及び大きな変位利点があるマイクロ電気機械システム(MEMS)のバルブ装置を提供する。
【解決手段】 開口70が形成された基板20と基板電極40と開口70の上に位置して電極素子層62及びバイアス素子層64、66を有する可動膜60とを含む。少なくとも1つの弾性的に圧縮可能な誘電体層50を設け、基板電極40と可動膜60の電極素子層62との間の電気的絶縁を確実にする。動作に当たっては、開口70に対して可動膜60を動かすように電圧差を基板電極40と可動膜60の電極素子層62との間に設け、これにより、可動膜60によってカバーされる開口70の部分を制御可能に調整する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、マイクロ電気機械システム(MEMS)式バルブ構造体に関し、より詳細には、低電力で高速の静電気的に動作するMEMSのバルブ構造体及び関連する製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
薄膜技術における進歩により、精巧な集積回路の開発が可能になった。この進歩した半導体技術を利用して、MEMS(マイクロ電気機械システム)の構造体を作り出してきた。MEMS構造体は、一般に、運動すなわち力を加えることができる。マイクロセンサ、マイクロギヤ、マイクロモータ、及び他の微小に設計された装置を含む、多くのいろいろ違った種類のMEMS装置が作り出されてきた。MEMS装置は、低価格、高い信頼性、及び極めて小さい寸法を提供するため、多種多様な用途向けに開発されている。
【0003】
MEMS装置の設計者に与えられた設計の自由度が、微細構造体内で所望の動作をさせるために必要な力を与える種々の技術及び構造体開発をもたらしている。例えば、マイクロカンチレバーを使用して、マイクロマシン化されたスプリング及びギヤを回転させるための機械的な回転力を与える。電磁場を使用して、マイクロモータを駆動する。圧電力もうまく使用して、マイクロマシン化された構造体を制御可能に動作させる。アクチュエータ又は他のMEMS素子の制御された熱膨張を使用して、マイクロ装置を駆動する力を作り出す。そのような装置の1つは、マイクロ装置を動かすために熱膨張を利用する、「Microprobe」という名称のMarcusらによる1995年12月12日に発行された米国特許第5,475,318号(特許文献1)の中で見出される。マイクロカンチレバーは、熱膨張係数が異なる材料から構成される。加熱されると、バイモルフ層が別個にアーチ形に曲がり、これによりマイクロカンチレバーを動かす。同様の機構は、発明者の名前がNorlingである1995年10月31日に発行された「Micromachined Thermal Switch」という名称の米国特許第5,463,233号(特許文献2)の中で説明されているように、マイクロマシン化された熱スイッチを動作させるために使用される。
【0004】
静電気力も、構造体を動かすために使用されてきた。従来の静電気装置は、プラスチック又はマイラー材料から切り取られた貼り合わせフィルムから組み立てられた。可撓性の電極がフィルムに取り付けられ、別の電極がベースの構造体に固定された。それぞれの電極を電気的に付勢すると、互いに電極を引き合う又は互いに電極から反発する静電気力を作り出した。これら装置の代表的な実施例は、発明者の名前がKaltである1981年5月12日に発行された「Method for Making Rolling Electrode for Electrostatic Device」という名称の米国特許第4,266,339号(特許文献3)の中で見出される。これらの装置は一般的な運動の用途に対してはうまく動作するが、これらの装置は小型化された集積回路、生物医学的な用途、又はMEMS構造体に適当な寸法で作ることはできない。
【0005】
MEMSの静電気装置は、寸法が極めて小さいために、種々の用途に都合よく使用される。電荷間の電界による静電気力は、MEMS装置内で固有の電極の離隔距離が小さいことを考えると、比較的大きな力を発生することができる。これらの装置の実施例は、Goodwin−Johanssonという発明者の名前で1999年6月30日に出願された「ARC resistant High Voltage Micromachined Electrostatic Switch」という名称の米国特許出願第09/345,300号及びGoodwin−Johanssonという発明者の名前で1999年5月27日に出願された「Micromachined Electrostatic Actuator with Air Gap」という名称の米国特許出願第09/320,891号の中で見出すことができる。これらの特許出願は両方とも、本発明の譲受人のMCNCに譲渡されている。
【0006】
一般的なMEMSバルブは、大きい流量でバルブを制御するために熱動作/熱活性化方法を採用している(すなわち、大きな開口及び開口の周りの大きな間隔面積)。熱動作は、必要な大きな距離にわたってバルブを制御するために必要な大きな力を提供できるため好ましい。しかしながら、バルブ材料に対する熱による時間の制約のために、これらのバルブの動作速度は比較的遅い。さらに、熱により動作するMEMSバルブは抵抗加熱法を使用するが、この方法では、消費される電力は電流に抵抗の自乗をかけることによって計算され、相当な電力がバルブの動作に消費される。
【0007】
大きな変位と大きな力の両方を発生できる静電気動作を用いて、MEMSバルブ装置を作ることが好ましいであろう。MEMSバルブの静電気の性質により消費電力を比較的小さくできるため、流れるガス又は流体の不当な加熱は発生しない。さらに、静電気のバルブは比較的高速の動作を行うため、バルブの開閉状態をより正確に制御することができる。その上、漏れ率を確実に低くするように、バルブカバーの境界面に信頼できるバルブシートを形成するようなMEMSバルブを開発することが好ましい。基板と可動膜との間の静止摩擦の発生を最小にするようなMEMSバルブを提供することも有益である。静止摩擦はマイクロエレクトロニクスでは周知の概念であり、MEMSの表面が互いに貼り付くように接触する傾向として定義される。静止摩擦は、圧力差が閉じたバルブの全体にわたって存在するようなバルブ装置では特に問題である。バルブを開く前に圧力差を取り除くMEMSバルブを考え出すことは有益である。
【0008】
このため、改良された性能特性を有するMEMS静電気バルブは、多くの用途で要求されている。例えば、使用電力が最小で早い動作、大きなバルブ力、また大きなバルブのフラップの変位を実現できるマイクロマシン化されたバルブが望ましいが、現在は入手できない。
【特許文献1】米国特許第5,475,318号公報
【特許文献2】米国特許第5,463,233号公報
【特許文献3】米国特許第4,266,339号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、バルブを通る増加した量のガス又は流体の効率的な搬送を可能にする、大きなバルブ力、高速な動作及び可動膜の大きな変位という利点がある改良されたMEMS静電気バルブを提供する。さらに、本発明に基づいて、MEMS静電気バルブを作る方法が提供される。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明に基づいて静電気力によって駆動されるMEMSバルブ装置は、開口が中に形成された平面基板とこの平面基板上に配置された基板電極とを備える。さらに、本発明のMEMSバルブ装置は、開口の上にあり、電極素子及びバイアス素子を有する可動膜を含む。この可動膜は、基板に取り付けられた固定部と基板に対して移動可能な末端部とを有するように横方向に定義される。その上、少なくとも1つの弾性的に圧縮可能な誘電体層を設けて、基板電極と可動膜の電極素子との間の電気的絶縁を確実にする。動作に当たっては、開口に対して膜を動かすように電圧差を基板電極と可動膜の電極素子との間に設けて、これにより、膜によってカバーされる開口の部分を制御可能に調整する。
【0011】
本発明によるMEMSバルブ装置の1つの実施形態では、弾性的に圧縮可能な誘電体層が基板電極上に形成され、バルブシート面を提供する。本発明の別の実施形態では、弾性的に圧縮可能な誘電体層が可動膜上に形成されてバルブシート面を提供する。さらに別の実施形態では、弾性的に圧縮可能な誘電体層が基板電極及び可動膜の両方に形成されて、バルブシート面及びバルブシール面の両方を提供する。誘電体層の弾性的に圧縮可能な性質により、確実に閉じたバルブを形成することができ、漏れ率を低くできる利点が生じる。
【0012】
さらに別の実施形態では、弾性的に圧縮可能な誘電体層は、バルブシート、バルブシールのいずれか又はその両方の表面にテクスチャー加工の表面を有する。これらの表面をテクスチャー加工することによって、バルブは静電気電圧が除かれた後でMEMSフィルムが一緒に貼り付く原因となる静止摩擦に打ち勝つことができる。実際において、テクスチャー加工は境界面をシールするバルブシートの周りの表面面積を減らして、これにより静止摩擦の影響を減少させる。さらに、テクスチャー加工により、バルブの開放を容易にするために圧力を都合よく使用することができる。
【0013】
本発明の別の実施形態では、圧力解放用の開口が平面基板の中に形成され、可動膜の下側に配置される。この圧力開放用の開口は、バルブを開く前に圧力を減らすことによって、バルブの開口にわたる圧力差を減少させる。
【0014】
別の方法では、本発明の別の実施形態は、静電気力によって駆動されるMEMSバルブアレイを提供する。このMEMSバルブアレイは、複数の開口が中に形成された平面基板と、この平面基板上に配置された基板信号用電極とを備える。さらに、本発明のMEMSバルブ装置は、複数の開口の上にあり、電極素子及びバイアス素子を有する可動膜を含む。この可動膜は、基板に取り付けられた固定部及び基板に対して移動可能な末端部を有するように横方向に形成される。その上、少なくとも1つの弾性的に圧縮可能な誘電体層を設けて、基板電極と可動膜の電極素子との間の電気的絶縁を確実にする。このアレイ構成によって、ガス又は流体の流れを増加させることができる。
【0015】
アレイの1つの実施形態では、基板は複数の開口と複数の可動膜とを備え、各開口は対応する可動膜を有する。この方法では、可動膜の電極素子には別個に静電気用電圧を与えることができるため、開閉する開口の数を制御することができる。この構成により、流量が可変のバルブが実現される。
【0016】
アレイの別の実施形態では、基板は複数の開口と複数の基板電極とを備え、各開口は対応する基板電極を有する。この方法では、基板電極には別個に静電気用電圧を与えることができるため、開閉する開口の数を制御することができる。この構成により、流量が可変のバルブが実現される。
【0017】
その上、本発明のアレイは、可動膜及び/又は基板内に複数の開口及び成形加工した(shaped)電極素子を有する基板の中で具体化される。成形加工した電極素子の性質により、電極間に印加された電圧の大きさに基づいて、膜を曲げない程度を調整することができる。
【0018】
あるいはまた、本発明の別の実施形態では、前述したMEMSバルブ装置を作る方法が提供される。この方法は、基板を通って部分的に伸びる開口を形成するために、基板の前面側をエッチングするステップと、この開口をプラグ材料で充填するステップと、基板の前面側上に膜バルブ構造体(membrane valve structure)を形成するステップと、プラグ材料を取り除くステップと、解離層までバルブ開口の裏面側をエッチングするステップと、膜を基板から少なくとも部分的に解放するために解離層を取り除くステップとを含む。この提供された方法により、開口と基板電極との位置合わせを基板の前面側上で実現することができる。
【0019】
このように、静電気力によって駆動されるMEMSバルブ装置は、大きな変位及び大きな力の両方を発生することができる。MEMSバルブの静電気の性質により消費電力を比較的小さくできるため、流れるガス又は流体の不当な加熱は発生しない。さらに、静電気のバルブは比較的高速の動作を行うため、より速いサイクル時間及びより正確な開閉状態の制御が可能になる。さらに、MEMSバルブは、漏れ率を確実に低くするように、バルブカバーの境界面に信頼できるバルブシートを提供する。付加的な利点は、基板と可動膜との間の静止摩擦の発生を最小にするようなMEMSバルブを提供することである。バルブシート及び/又はバルブシールの境界面にテクスチャー加工の表面を設けることによって又は圧力解放用の開口を基板内に形成できるようにすることによって、静止摩擦を克服する。本発明のMEMSバルブ装置により、これらのまたさらに多くの利点を理解することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0020】
本発明をここで添付の図面を参照して、以後より詳細に説明する。これらの図面には、本発明の好ましい実施形態が示されている。しかしながら、本発明は多くの異なった形態で具体化することができるが、本願に記載された実施形態に限定されると解釈してはならない。むしろ、これらの実施形態は、この開示が綿密で完全であり、また発明の範囲を当業者に十分に伝えるように、これらの実施形態が提供される。全体を通して、同じ番号は同じ素子を指している。
【0021】
図1及び図2を参照する。本発明の実施形態による基板構成体の断面図(図1)及び平面図(図2)により、高速で可変の流量を提供することができる静電気力によって駆動されるMEMSバルブ装置10が提供される。図1に示すように、MEMSバルブ装置の構成体の層が垂直に配置されて図示される。第1の実施形態では、静電気式MEMSバルブ装置10は、ほぼ平面の基板20、基板用絶縁体30、基板電極40、基板誘電体50、及び可動膜60から層状に構成される。基板は、バルブの開口として機能する、貫通して形成された開口70を形成する。図示した実施形態では、この開口70は基板20、基板用絶縁体30、基板電極40、及び基板用誘電体50と共同して形成される。この方法では、開口70は基板20、基板用絶縁体30、基板電極40、及び/又は基板誘電体50を貫通して形成される。流動性を有する媒体(すなわち、ガス、流体、光など)が基板構成体の一方の側から流入し基板構成体の反対側から流出することができるような各種の他の構成で開口70を形成することも可能であり、本願で開示する発明の概念に含まれる。一般に、開口70の形状は円筒形である。しかしながら、周囲がバルブシートにおいては小さくて基板の裏側の開口では大きいじょうご(ファンネル)形のような他の形状も可能であり、開示される発明の範囲に含まれる。
【0022】
可動膜60は、固定部80及び末端部90と呼ばれる2つの部分を有するとして説明される。これらの部分は、可動膜60の長さに沿って横方向に付着形成される。固定部80は、取付け点100において下側の基板すなわち中間層にしっかりと固定される。末端部90は、MEMSバルブ装置10を製造する間は、下側の基板すなわち中間層から離される。MEMSバルブ装置10が動作する間は、装置の末端部90は下側の基板及び基板電極40に対して動くことができる。このため、末端部90の動きにより、可動膜60によって覆われる開口70の部分が制御可能に調整される。
【0023】
図1の断面図では、可動膜60は、少なくとも1つの電極素子層62及び少なくとも1つのバイアス素子層64及び/又は66を含む複数の層から構成する。バイアス素子64、66は、図1に示したバイアスされた形状を有する可動膜60を提供する。製造の間に可動膜60を基板20から一旦離すと、バイアス素子64、66は膜構造体全体を基板20から離して位置付けることができる。図1に示した実施形態では、バイアスにより可動膜60の形状が上方に湾曲される。バイアスは、熱膨張率が異なり断面の厚さに相当な相違がある材料を与えることによって実現することができるが、他の材料の特性もバイアス効果を生じることができる。電極素子層62は、静電気動作の手段を有する可動膜60を提供する。バルブ動作に当たっては、電圧が電極素子層62に加えられると、電極素子層62は基板電極40に向かって静電気的に引き付けられる。基板構成体に接触すると、可動膜60は基板内に形成された開口70を密閉するバルブシールを形成する。
【0024】
可動膜60及び下側の基板層を含む静電気式MEMSバルブ装置10は、周知の集積回路の材料及びマイクロエンジニアリング技術を用いて組み立てられる。下側の基板層及び可動膜60を形成するために異なった材料、様々な多数の層、及び多数の層の配列も使用することができることは、当業者は理解するであろう。図面に示されたMEMSバルブ装置10は、製造の詳細を説明する例として使用されるが、この説明は、特に断りのない限り、本発明が提供する全てのMEMSバルブ装置10に等しく適用される。
【0025】
図1及び図2を参照する。基板20は、静電気式MEMSバルブ装置10がその上に構成される略平面22を規定する。基板20は、略平坦な面を有する任意の適当な基板材料を使用することができるが、シリコンなどのマイクロ電子基板から構成することが好ましい。本発明の製造に含まれるさらに別の処理ステップは、比較的低い温度で行われ、このため、使用する基板は従来の高温用基板に限定されない。一例として、石英、ガラス、又は絶縁特性を有する他の適当な材料は、基板として機能することができる。基板用絶縁体層30は概して基板20の平面22の上にあり、電気的な絶縁を行う。強力な絶縁特性を有する基板材料を実現するいくつかの実施形態では、基板用絶縁体層なしでMEMSバルブ装置10を形成することができる。この基板用絶縁体層は、ポリイミド樹脂又は窒化物などの非酸化ベースの絶縁体又はポリマーから成ることが好ましい。この用途では、解離層を除く処理においてある種の酸(フッ化水素酸など)を使用する場合は、酸化物ベースの絶縁体を使用することはできない。基板用絶縁体層は、基板の平面上に絶縁層を蒸着するために、従来のスピニング又は低圧化学蒸着(LPCVD)などの標準的な蒸着技術を用いることによって形成することが好ましい。
【0026】
基板電極40は、下側の基板用絶縁体層30又は基板20の表面の少なくとも一部に固定されたほぼ平面の層として蒸着される。基板電極40は、絶縁体層の上面に蒸着された金の層から構成することが好ましい。基板電極40が金の層から形成される場合、任意に薄いクロムの層を基板信号電極層(substrate signal electrode layer)を蒸着する前に蒸着することにより、絶縁層への接着を一層良好にすることができ、及び/又は基板信号電極層が蒸着された後で蒸着することにより、全てのその後の隣接する材料へより優れた接着を行うことができる。あるいはまた、他の適当な金属又は導電性の材料は、解離層の処理動作が結果として電極の腐食を生じない限り、基板信号電極用に使用することができる。標準的なフォトリソグラフィ及びエッチング技術を一般的に使用して、基板の表面に電極を蒸着する。
【0027】
一旦基板電極40が形成されると、好ましくは、基板誘電体層50が基板電極40の上に蒸着されて、基板信号を可動膜60内にある電極素子層62から電気的に絶縁する誘電体を提供する。基板誘電体層50を利用する実施形態では、この層50はバルブの開口70を取り巻くバルブシート52としての働きをする。好ましい実施形態では、基板誘電体層50は弾性的に圧縮可能な材料から構成する。所定の材料に対する弾性は、(a)バルブシート52の面積に対する開口70の周りのバルブの静電気力の比率(すなわち、加えた圧力)を、(b)所定の材料に対するヤング率(弾性の尺度)とバルブシートの厚さに対するバルブシート52の表面粗さとの積と比較することによって評価することができる。基板誘電体層50の弾性的に圧縮可能な性質により、バルブシート52は可動膜60と接触すると変形される。このバルブシート52の変形特性により正常なバルブシール52が形成されるため、流れ停止動作が改良される。1つのそのような弾性的に圧縮可能な基板誘電体50の材料にはポリイミドがあるが、解離層の処理に耐性のある他の弾性的に圧縮可能な誘電性絶縁体又はポリマーも使用することができる。基板誘電体層50は、標準的なスピニング技術又は低圧化学蒸着(LPCVD)などの従来の蒸着技術を用いることによって形成される。
【0028】
基板誘電体層50は(図1に示すように)ほぼ平坦な面を有するように形成されるか、又は基板誘電体層50はテクスチャー加工した平面を有するように形成される。バルブシート52の区域の表面をテクスチャー加工することは、可動膜60を離したいと望む場合に可動膜60が下側の基板に「粘着する」ようなこれらの実施形態においては好ましい。2つの結合するMEMS表面が互いに粘着する傾向があるというMEMSの現象は、静止摩擦として当業者には周知である。バルブシートにテクスチャー加工した表面を設けることにより、バルブシートが閉じる場合に可動膜に接触する表面積が小さくなるので、静止摩擦に打ち勝つための力は少なくなる。テクスチャー加工した表面は一般に製造する間に形成され、そのような表面を実現及び製造することは、当業者には周知である。
【0029】
解離層(図1及び図2には示していない)が、上側の可動膜60の末端部90のほぼ下側の区域内の基板誘電体層50の表面上に蒸着される。この解離層は、下側の基板構造体に固定されない可動膜部分の下側のこれらの区域上のみに蒸着される。解離層は、酸をそこに加えたときにエッチングで除去することができる酸化物又は他の適当な材料から構成することが好ましい。可動膜の上側の層を基板上に蒸着した後、フッ化水素酸エッチングのような標準的なマイクロエンジニアリングの酸エッチング技術によって解離層を取り除く。解離層が取り除かれた後、可動膜60の末端部90が下側の面から分離される。バイアス素子のバイアス特性に関連して基板から可動膜60を離すと、一般に結果として湾曲した形状の末端部90を有する薄いフィルム膜が生じる。可動膜60にバイアスを加えると、静電気力を印加しない場合、(図1に示すように)湾曲して基板から離れた可動膜60が一般に結果として生ずる。静電気力が印加されない場合に基板に向かって湾曲するように、可動膜にバイアスを加えることも可能である。
【0030】
可動膜60にバイアスを加える動作は、厚さ、熱膨張率又は任意の他のバイアス特性が異なるバイアス素子及び電極素子の材料を備えることによって実現することができる。別の方法では、可動膜60を湾曲させるような固有の応力を作り出す処理ステップを利用することによって、バイアス動作を製造の間に生じさせることができる。例えば、ポリマーのバイアス素子を液体として蒸着し、次に、固体のバイアス層を形成するように高温にすることによって、それを湾曲させることができる。バイアス素子が、電極素子62よりも熱膨張率が高いポリマー材料を含むことが好ましい。次に、バイアス素子及び電極素子62を冷却し、これにより熱膨張率の違いに起因する応力を膜の中に生じさせる。ポリマーのバイアス素子が電極層よりも早く収縮するために、可動膜60は湾曲する。
【0031】
さらに、バイアス素子層と電極素子層との間の熱膨張率に差を与えることにより、バイアスを作ることができる。温度を増加すると、これにより層は異なる速度で膨張するため、可動膜は熱膨張率が小さい層に向かって湾曲する。このため、熱膨張率が異なる2つの層を有する可動膜は、温度が上昇するにつれて、熱膨張率が小さい層に向かって湾曲する。さらに、熱膨張率が異なる2つのポリマーフィルムの層を電極層と並行に使用して、必要に応じて可動膜60にバイアスを加えることができる。
【0032】
可動膜60の層は、概して、基板電極40及び開口70の上に位置する。周知の集積回路製造工程を使用して、可動膜60を含む層を作る。この可動膜は、電極素子及びバイアス素子から構成する。可動膜の1つ又はそれ以上の層が電極素子を含み、1つまたはそれ以上の別の層がバイアス素子を含むことが好ましい。図1に示すように、可動膜の1つの好ましい実施形態には、2つのバイアス素子層64、66の間に配置された電極素子層62が含まれる。電極素子層が電極素子層のいずれかの側に配置された1つのバイアス層しか持たないように、可動膜を構成することも可能である。バイアス素子層は、基板電極と可動膜の電極素子との間を完全に電気的に絶縁することができる絶縁体として機能することもできる。
【0033】
可動膜を構成する少なくとも1つの層が可撓性の材料から形成されることが好ましい。例えば、可撓性のポリマー(すなわち、バイアス素子)及び/又は可撓性の導体(すなわち、電極)を使用することができる。好ましい実施形態では、バイアス素子は、可動膜を静電気力がない場合に静止位置に保持するために使用される可撓性のポリマーフィルムから成る。バイアス素子が基板に接触してバルブシールを形成するようなこれらの用途では、このバイアス素子は弾性的に圧縮可能な材料から構成することが好ましい。バイアス素子層の弾性的に圧縮可能な性質により、バルブシールは下側の基板構造体と接触すると変形される。この接触するバイアス素子表面の変形特性により正常なバルブシールが形成されるため、流れ停止動作が改良される。弾性的に圧縮可能な特性を有するポリマーフィルムの材料はポリイミド材料を含むが、弾性特性を有し解離層のエッチング処理に耐えることができる他の適当な可撓性のポリマーも使用することができる。1つの実施形態では、基板誘電体層及び可動膜のバイアス素子層の両方が、ポリイミド材料のような弾性的に圧縮可能な材料から形成される。
【0034】
可動膜の中でポリイミド材料を使用することは、膜がシールする目的の開口にわたって発生する圧力に耐えることが証明されている。さらに、ポリイミド材料の強度は、長期間にわたって使用した後でさえも、破裂又は膨れに耐えることが証明されている。圧力差が2.067MPa(300psi)の場合の円周が80マイクロメートルの穴部の上のポリイミド膜のたわみが、3マイクロメートルの膜に対しては約0.064マイクロメートルであり、2マイクロメートルの膜に対しては約0.22マイクロメートルであることが、計算によって証明されている。これらの計算は、可動膜全体のたわみ量を常にさらに限定する電極素子層を考慮に入れていない。
【0035】
可動膜60の電極素子62は、可撓性の導体材料の層から構成することが好ましい。電極素子は、基板構成体及び解離層の最も上の平面又は、必要に応じて、任意の第1のバイアス層(すなわち、ポリマーフィルム)上に直接蒸着される。電極素子は金で構成することが好ましいが、解離層の処理に耐える他の導体及び導電性のポリマーフィルムのような他の可撓性材料を使用することができる。電極素子の表面区域及び/又は構成は、所望の静電気力がMEMSバルブ装置を動作させることができるように必要に応じて変更することができる。電極素子を所定の方法で成形することによって、バルブの開放速度を変化させることが実現できる。金を使用して電極素子を形成する場合、金の層を可撓性のポリマーフィルムなどの1つ又はそれ以上のバイアス層のような隣接する材料により良く接着できるように、クロムの薄い層を電極素子上に蒸着する。
【0036】
可動膜の中で使用される層の数、層の厚さ、層の配列、及び材料の選定は、可動膜を必要に応じてバイアスさせるように選択する。特に、末端部が固定部から離れる場合に、末端部に変化するバイアスを加えることができる。末端部のバイアスされた部分を個別に又は集合的にカスタマイズして、下側の平面及び基板電極からの所望の分離を行わせることができる。例えば、末端部が下側の平面に平行に残るようにバイアスすることができる。あるいはまた、末端部をバイアスして、下側の平面に向かうように又はそこから離れるように湾曲させることによって、下側の平面からの分離を変更することができる。末端部にバイアスを加えて下側の基板から湾曲させて離し、そこからの分離を変更することが好ましい。1つ又はそれ以上のポリマーフィルムを使用することができ、またフィルムを電極素子のいずれか一方の側又は両側に蒸着することができることは、当業者に理解されよう。
【0037】
電圧が可動膜60の電極素子と基板電極との間に印加されると、電極間の静電気力が可撓性の電極素子を基板に向かって引き付け、可動膜60を広げて開口70の被覆率が変更する。2つの電極が極めて接近してバルブが閉じると、結果として強力な静電気力が生ずる。この強力な静電気力が、結果として漏れ率が少ないバルブシールを実現する。電圧が電極から除かれると、フィルム内の応力により可撓性の電極が基板から湾曲して離れてバルブを開く。開いた位置では、開口をカバーする膜の位置が基板から比較的大きな距離にあるので、開口を通過する大きな流れを制限なしに実現することができる。
【0038】
膜が開口をシールする場合に圧力差を膜に対していずれかの方向に加えることができるように、バルブを構成することができる。バルブが閉じているときに圧力が基板の後側から加わり膜を押し上げる場合、この圧力は電圧が除かれたときにフィルムが再度湾曲することを支援する。しかしながら、圧力が基板の前側から加わりバルブが閉じているときに膜を押し下げる場合は、バルブを開くために膜内の応力は加えられた圧力に対抗して動作する必要がある。この圧力の増大は、可動膜60の末端部90の終端に最も近い場所に基板を貫通する小さい開口を設けることによって、最小にすることができる。膜を巻き上げるために必要な応力は膜の全幅に比例するため、小さい圧力解放用開口において働く圧力と比較すると、この小さい開口を設けることによって湾曲応力を増加させることができる。一旦小さい圧力解放用開口を開くと、バルブの開口において膜に加わる圧力差が減少され、このため、膜内の応力がバルブを開くことを容易にする。そのような圧力解放用開口102の実施例を、図1及び図2に示す。
【0039】
図3は、本発明によるMEMS静電気バルブの別の実施形態の断面図を示す。この実施形態のMEMS静電気バルブ10は、可動膜60の中間部120の下側に特性上均一な空隙110を有する。この可動膜の中間部120は、固定部80と末端部90との間の水平領域として形成される。解離層(図3では図示せず)が、可動膜60の中間部120及び末端部90の下側の区域内の基板構成体の一番上の層上に蒸着される。その後、この解離層は取り除かれて、結果として可動膜60の中間部120及び末端部90と下側の基板20との間に全体的に分離した空間が生ずる。
【0040】
中間部120は末端部90とほぼ同様の構成で作られ、このため、電極素子62とバイアス素子64、66との間の熱膨張率の差により中間部120が湾曲する。可動膜60が湾曲する性質は、末端部90に対しては望ましいが、中間部120に対しては通常は望ましくない。予測可能性は改良された動作電圧特性に結び付くため、予測可能な中間部120及びこれにより予測可能な空隙110を備えることが重要である。中間部120が湾曲する傾向を減らすために、可動膜60の固定部80及び中間部120の上側にあり中間部120に構造的に制約を与えるバイアス制御層130を一般に設ける。一般に、このバイアス制御層130は膜の固定部80及び中間部120の上側にあり、バイアス制御層130を基板に留めることができるように、膜の両側の上にわたって外側に伸びる。バイアス制御層130は金属材料から形成することができ、中間部120を静止位置に保持するように、一般に下側の膜の材料とは異なる熱膨張率を有する。バイアス制御層130は、中間部120を支持し空隙110の形状を制御するために、一般に固体の層とするか、又は線、グリッド、クロスハッチング、又は必要に応じて他のパターンを含むことができる。
【0041】
別の方法では、可動膜60上の固定部80にタブ104(図2の平面図に示す)を設けることによって、可動膜60の中間部120を解放の間に制止することができる。これらのタブ104は、概ね膜を含む層の延長部であり、均一な空隙を中間部120の下側に確実に与えるようにする追加保持力(added holding force)を提供する。タブ104は可動膜60を含む1つ又はそれ以上の層から形成することができる。
【0042】
図4は、本発明によるMEMS静電気バルブのさらに別の実施形態の断面図を示す。この実施形態のMEMS静電気バルブ10は、可動膜60の中間部120の下側に空隙150を減少させる特徴を有する。この実施形態では、カンチレバー部は下側の基板構成体に接触するまで下に向かって傾斜し、この接触点で可動膜は末端部90に移行して、膜は湾曲して下側の平面から離れる。一例として、変曲領域160で薄い領域を作るようにバイアス層をパターニングすることによって、又は中間部120を基板20に向かって傾斜させるように中間部120の傾斜領域をパターニングすることによって、傾斜する中間部120を製造することができる。
【0043】
空隙の形状をあらかじめ形成することによって、最近開発されたMEMS静電気装置は、より低い不規則でない動作電圧で動作することができる。あらかじめ形成された空隙を有する最近開発されたMEMS静電気装置についてのこれ以上の説明は、本発明を過度に複雑にしないようにするために、この開示内容から省略する。最近開発された改良されたMEMS装置の実施例については、Goodwin−Johanssonという発明者の名前で1999年5月27日に出願された「Micromachined Electrostatic Actuator with Air Gap」という名称の米国特許出願第09/320,891号を参照されたい。この特許出願は、本発明の譲受人のMCNCに譲渡されており、参照することによってあたかも本願に完全に記載されているように本願に組み込まれる。
【0044】
1つの基板に形成された開口のアレイを作ることにより、ガス又は液体の流れを増加させることができる。図5〜図7は、本発明のさらに別の実施形態に基づいた、様々なMEMS静電気バルブのアレイの斜視図を示す。図5はMEMSバルブのアレイ200であり、このバルブアレイ200では、開口210が所定の配列で基板220の中で形成され、各バルブの開口は対応する可動膜230を有する。個々の膜内の電極素子を選択的にアドレス指定することにより、開閉するバルブの数を制御することによって、流量を可変にすることができる。
【0045】
図6はMEMSバルブのアレイ250であり、このバルブアレイ250では、開口210が所定の配列で基板220の中で形成され、各バルブの開口210は基板上に配置された対応する固定した基板電極を有する。基板内の固定した基板電極を選択的にアドレス指定することにより、開閉するバルブの数を制御することによって、流量を可変にすることができる。1つの大きな可動膜230を使用するため、これは一般に開口の行に対して電圧を与える必要がある。行はこの文脈では、可動膜の長さ方向に直角に走る開口の線として形成される。例えば、静電気電圧がバルブ構造体の固定部に最も近い開口の行に対する基板電極に加えられる場合、可動膜は下に引かれてこれらの開口をシールし、膜の残りの末端部は湾曲した位置に留まる。あるいはまた、この性質のアレイにより、開口の行が下側の基板電極の行に対してわずかな角度で傾斜を付けられて、階段状の流れの変化とは対照的により大きな可変の流れが提供される。図5の実施形態の個々の膜を図6の実施形態の個々の基板電極と結合するようなアレイを構成することも可能であり、開示された本願の発明の概念の中に含まれる。
【0046】
図7はMEMSバルブのアレイ270であり、このバルブアレイ270では、開口210が所定の配列で基板220の中で形成され、可動膜230は、成形加工した電極素子280(図7に二重の破線により輪郭が描かれている)を有する。この電極素子280により、電極素子280に印加された電圧の大きさに比例して膜を曲げない程度を調整することができる。この点に関して、電極素子280に最大限の電圧を加えると、可動膜は完全に湾曲が解けるため、アレイ内の全てのバルブをシールする。最大限の電圧よりも小さい電圧が加えられる場合は、膜は部分的に湾曲を解くため、膜の湾曲を解いた部分の下側のバルブのみがシールすることになる。電極素子の形状は、実施例の目的で示される。電極素子の形状は、可動膜の寸法、アレイの寸法及びアレイの構成に基づいて前もって決められる。別の方法では、成形加工した電極は基板電極とすることができる。膜電極とは対照的に基板電極を成形加工することは、可動膜の中で確実に均一に湾曲させるために好ましい。
【0047】
さらに、本発明は静電気力によって駆動されるMEMSバルブ装置を作る方法を提供する。図8〜図11は、本発明の実施形態を作る方法に基づいて、MEMS静電気バルブを製造する各種の段階を示す。この方法では、最初の開口の形成はバルブの製造の前に始まり、バルブの製造の後に完了する。この方法は、開口と周りの基板電極との間の位置合わせを基板構成の前側で実行できる利点を有する。可動膜を開口の上に来るように形成する必要があるので、開口を最終的に開くことは膜の形成の後に完了することになる。製造技術に対する薄膜の性質により、基板電極と膜の可撓性の電極素子とを形成する前に製造面がほぼ平坦であることが必要である。
【0048】
図8は、基板300の断面図を示す図である。この基板300は、大きな空洞310を形成するために後側がエッチングされ、バルブの開口320を形成するために前側がエッチングされている。最初、大きな空洞310が基板300の後側に形成される。一般的に、従来の湿式エッチング処理を使用して、大きな空洞310を形成する。この大きな空洞310は、一般に、基板300を約50マイクロメートルまで薄くする結果生じるが、他の望ましい厚さも可能である。大きな空洞310のエッチング処理は、流れの制限を最小にすると共に、その後のバルブの開口を簡単に形成するための任意の処理である。大きな空洞310が形成された後、バルブの開口320が基板の前側を部分的に通ってエッチングされる。一般に、バルブの開口に必要である正確なエッチングを行うために、リアクティブイオンエッチング(RIE)処理を使用する。次に、犠牲プラグ材料(sacrificial plug material)330を開口320内に入れて、連続的な基板層の上に容易にバルブを構成できるようにする。この犠牲プラグ材料330は一般に銅を含むが、任意の他の適当な材料も犠牲プラグ材料として使用することができる。一旦プラグ材料330が配置されると、それは一般に研磨処理を受けて確実に表面が平坦にされ、基板300にバルブを構成する準備ができる。
【0049】
図9は、バルブ構造体が基板の前面に形成された後のMEMSバルブ構成の断面図を示す。一般に、バルブ構造体の形成には、絶縁体層340を基板上に配置すること、基板電極層350を絶縁体層上に配置、パターンニング及びエッチングすること、及び誘電体層360を基板電極層上に配置することが含まれる。これらの層の形成に続いて、解離層370が形成される。この解離層370は一般に酸化物であり、その後で除かれて、基板から膜の部分が剥離することを容易にする。次に、膜380が解離層上に配置され、誘電体層を介して基板に留められる。図示した実施形態では、膜は、解離層及び誘電体層上に配置された第1のバイアス素子/誘電体層390と、この第1のバイアス素子/誘電体層上に配置された電極素子層400と、電極上に配置された第2のバイアス素子層410とから構成する。これらのバルブ構成層及び製造工程は実施例によって示されるが、他の層形成順序も可能であり、開示された本願の発明の概念に含まれる。最終的にバルブシート及びバルブカバーを形成する面をテクスチャー加工した面にして、MEMS装置が静止摩擦に関連した共通の剥離の問題を克服できるようにする。図示した実施形態では、誘電体層360及び/又は第1のバイアス素子/誘電体層390をテクスチャー加工することが望ましい。これらの面をテクスチャー加工することは、解離層370の蒸着及び除去と併せて行うことができる。MEMS装置の表面をテクスチャー加工する工程は、当業者には周知である。
【0050】
図10は、基板300の後側がプラグ材料330(図8参照)を露出するためにエッチングされた後の、MEMSバルブ構成の断面図を示す。このプラグ材料330は取り除かれ、開口320がエッチングされて解離層370を露出する。基板300の後側のエッチングは、一般に、湿式エッチング処理を用いて行われる。エッチング処理が犠牲プラグ材料330の後側を露出すると、プラグはエッチング処理を行うことによって除かれる。一般に、プラグ材料330は、従来の湿式エッチング処理によって除かれる。プラグ材料330が除かれた後、開口320は解離層370まで、バルブ構成の中にさらに進んで形成される。一般に、リアクティブイオンエッチング処理を使用して、開口320をさらに形成すると共に、開口320が確実に正確な仕上げ面を持つようにする。図11は、解離層370が除かれ、このため、膜の末端部を基板300から解離できるようにした後の、完成したMEMSバルブ構成を示す。
【0051】
この方法では、最初の開口の形成はバルブの製造の前に始まり、バルブの製造の後に完了する。この方法は、開口と周りの基板電極との間の位置合わせを基板構成の前側で実行できる利点を有する。
【0052】
本発明の多くの変形例及び他の実施形態は、前述した説明及び関連する図面の中で示した教義の利点を有する、本発明が属する技術の熟練技術者には思い浮かぶであろう。このため、本発明は開示された特定の実施形態に限定されるものではなく、また変形例及び他の実施形態は添付した特許請求の範囲の中に含まれるものとすることは理解されよう。本願の中で特定の用語が使用されるが、それらの用語は一般的で説明のためのみに使用されたものであり、本発明の範囲を多少なりとも限定する目的で使用したのではない。
【図面の簡単な説明】
【0053】
【図1】本発明の一実施形態によるMEMS静電気バルブの断面図である。
【図2】本発明の一実施形態によるMEMS静電気バルブの平面図である。
【図3】本発明の他の実施形態による、基板と可動膜との間に空隙を有するMEMS静電気バルブの断面図である。
【図4】本発明の他の実施形態による、基板と可動膜との間に減少する空隙を有するMEMS静電気バルブの断面図である。
【図5】本発明の別の実施形態による、アレイの開口に対して個別の可動膜を有するMEMS静電気バルブアレイの斜視図である。
【図6】本発明の別の実施形態による、アレイの開口に対して個別の基板電極を有するMEMS静電気バルブアレイの斜視図である。
【図7】本発明の別の実施形態による、可動膜内に成形加工した電極素子を有するMEMS静電気バルブアレイの斜視図である。
【図8】本発明の実施形態を作る方法による、製造の様々な段階の間のMEMSバルブ構成体の断面図である。
【図9】本発明の実施形態を作る方法による、製造の様々な段階の間のMEMSバルブ構成体の断面図である。
【図10】本発明の実施形態を作る方法による、製造の様々な段階の間のMEMSバルブ構成体の断面図である。
【図11】本発明の実施形態を作る方法による、製造の様々な段階の間のMEMSバルブ構成体の断面図である。
【符号の説明】
【0054】
10 MEMSバルブ装置
20、220、300 基板
22 平面(平坦な面)
40 基板電極
50 基板誘電体(誘電体層)
52 バルブシート
60、230 可動膜
62 電極素子層
64、66 バイアス素子層
70、210、320 開口
80 固定部
90 末端部
102 圧力解放用開口
200、250 バルブアレイ
330 犠牲プラグ材料
310 空洞
370 解離層

【特許請求の範囲】
【請求項1】
静電気力によって駆動されるMEMS(マイクロ電気機械システム)バルブであって、
基板を貫通する開口を形成する基板と、
前記基板上に配置された基板電極と、
概ね前記基板電極及び前記開口の上にあり、電極素子及びバイアス素子を備え、前記基板に取り付けられた固定部と前記固定部に隣接し前記基板電極に対して移動可能な末端部とを含む可動膜と、
前記基板電極と前記膜の電極素子との間に配置された少なくとも1つの弾性的に圧縮可能な誘電体層と、
を備え、
前記基板電極と前記可動膜の電極素子との間に確立された電圧差が前記膜を前記開口に対して移動させ、これにより、前記可動膜によってカバーされた前記開口の部分を制御可能に調整する、
ことを特徴とするMEMSバルブ。
【請求項2】
請求項1に記載のMEMSバルブであって、前記少なくとも1つの弾性的に圧縮可能な誘電体層が前記基板電極上に配置された第1の弾性的に圧縮可能な誘電体層を含み、前記基板、前記基板電極及び前記第1の弾性的に圧縮可能な誘電体層が協働してそれぞれを貫通する開口を形成し、前記第1の弾性的に圧縮可能な誘電体層がバルブシートを形成する、ことを特徴とするMEMSバルブ。
【請求項3】
請求項2に記載のMEMSバルブであって、前記第1の弾性的に圧縮可能な誘電体層がテクスチャー加工したバルブシート面を含み、前記テクスチャー加工したバルブシート面がバルブが動作する間に前記可動膜の剥離を容易にすることを特徴とするMEMSバルブ。
【請求項4】
請求項2に記載のMEMSバルブであって、前記第1の弾性的に圧縮可能な誘電体層がポリイミド材料を含むことを特徴とするMEMSバルブ。
【請求項5】
請求項1に記載のMEMSバルブであって、前記少なくとも1つの弾性的に圧縮可能な誘電体層が前記可動膜上に配置された第1の弾性的に圧縮可能な誘電体層であり、かつバルブシールとして動作する平面を形成することを特徴とするMEMSバルブ。
【請求項6】
請求項5に記載のMEMSバルブであって、前記第1の弾性的に圧縮可能な誘電体層がテクスチャー加工したバルブシール面を含み、前記テクスチャー加工したバルブシール面がバルブが動作する間に前記可動膜の剥離を容易にすることを特徴とするMEMSバルブ。
【請求項7】
請求項5に記載のMEMSバルブであって、前記第1の弾性的に圧縮可能な誘電体層がポリイミド材料を含むことを特徴とするMEMSバルブ。
【請求項8】
請求項1に記載のMEMSバルブであって、前記少なくとも1つの弾性的に圧縮可能な誘電体層が前記基板上に配置された第1の弾性的に圧縮可能な誘電体層及び前記可動膜上に配置された第2の弾性的に圧縮可能な誘電体層を備え、前記第1の弾性的に圧縮可能な誘電体層がバルブシートを形成し、前記第2の弾性的に圧縮可能な誘電体層がバルブシールを形成することを特徴とするMEMSバルブ。
【請求項9】
請求項8に記載のMEMSバルブであって、前記第1の弾性的に圧縮可能な誘電体層がテクスチャー加工したバルブシート面を含み、かつ前記第2の弾性的に圧縮可能な誘電体層がテクスチャー加工したバルブシール面を含み、前記テクスチャー加工したバルブシール面及び前記テクスチャー加工したバルブシート面がバルブが動作する間に前記可動膜の剥離を容易にすることを特徴とするMEMSバルブ。
【請求項10】
請求項8に記載のMEMSバルブであって、前記第1及び第2の弾性的に圧縮可能な誘電体層がポリイミド材料を含むことを特徴とするMEMSバルブ。
【請求項11】
請求項1に記載のMEMSバルブであって、前記開口の形状が概ね円筒形であることを特徴とするMEMSバルブ。
【請求項12】
請求項1に記載のMEMSバルブであって、前記開口の形状が、前記可動膜に最も近いところでは半径が小さく前記基板の後側に最も近いところではより大きな半径を有するような概ねファンネル状であることを特徴とするMEMSバルブ。
【請求項13】
請求項1に記載のMEMSバルブであって、前記可動膜の末端部が前記基板に向かって動く場合、前記可動膜が前記可動膜に直面する前記基板の表面に少なくとも部分的に一致することを特徴とするMEMSバルブ。
【請求項14】
請求項1に記載のMEMSバルブであって、前記電極素子及び前記バイアス素子が少なくとも1つの概ね可撓性の材料から形成されることを特徴とするMEMSバルブ。
【請求項15】
請求項1に記載のMEMSバルブであって、前記バイアス素子が少なくとも1つのポリマーフィルムの層を含むことを特徴とするMEMSバルブ。
【請求項16】
請求項1に記載のMEMSバルブであって、前記バイアス素子が前記電極素子を備える電極層の向かい合った側の上に蒸着された2つのポリマーフィルムを含むことを特徴とするMEMSバルブ。
【請求項17】
請求項1に記載のMEMSバルブであって、前記電極素子及び前記バイアス素子の熱膨張率が異なることを特徴とするMEMSバルブ。
【請求項18】
請求項1に記載のMEMSバルブであって、前記バイアス素子が少なくとも2つの厚さが異なるポリマーフィルムを備えることを特徴とするMEMSバルブ。
【請求項19】
請求項18に記載のMEMSバルブであって、前記少なくとも2つの厚さが異なるポリマーフィルムが、前記基板に最も近い前記電極素子の面上に蒸着された厚さが薄い第1のポリマーフィルムと、前記基板から最も遠い前記電極素子の面上に蒸着された厚さがより厚い第2のポリマーフィルムとを備えることを特徴とするMEMSバルブ。
【請求項20】
請求項1に記載のMEMSバルブ装置であって、前記バイアス素子が膨張率の異なる少なくとも2つのポリマーフィルムを含むことを特徴とするMEMSバルブ装置。
【請求項21】
請求項1に記載のMEMSバルブであって、前記可動膜の末端部が、前記電極素子と前記基板電極との間に静電気力が生成されない場合は、前記基板から離れるように湾曲することを特徴とするMEMSバルブ。
【請求項22】
請求項1に記載のMEMSバルブが、前記基板電極及び前記基板素子の少なくとも1つに電気的に接続された静電気エネルギーのソースをさらに備えることを特徴とするMEMSバルブ。
【請求項23】
請求項1に記載のMEMSバルブであって、前記基板電極が所定の形状を有することを特徴とするMEMSバルブ。
【請求項24】
請求項1に記載のMEMSバルブであって、前記電極素子が所定の形状を有することを特徴とするMEMSバルブ。
【請求項25】
請求項1に記載のMEMSバルブであって、前記基板が前記可動膜の下側にある圧力解放用開口をさらに形成することを特徴とするMEMSバルブ。
【請求項26】
請求項1に記載のMEMSバルブであって、前記基板及び前記基板電極が協働してそれぞれを貫通する開口を形成することを特徴とするMEMSバルブ。
【請求項27】
静電気力によって駆動されるMEMSバルブであって、
概ね平坦な面を有する基板と、
前記基板の概ね平坦な面上に配置された第1の基板誘電体層と、
前記第1の基板誘電体層上に配置された基板電極と、
前記基板上に配置された第2の基板誘電体層であって、前記基板、前記第1の基板誘 電体層、前記基板電極及び前記第2の基板誘電体層が協働してそれぞれを貫通する開 口を形成する前記第2の基板誘電体層と、
概ね前記基板電極及び前記開口の上にあり、第1のバイアス層、前記第1のバイアス 層上に配置された膜電極層及び前記膜電極層上に配置された第2のバイアス層を備え 、前記基板に取り付けられた固定部と前記固定部に隣接し前記基板電極に対して移動 可能な末端部とを含む可動膜と、
を備え、
前記基板電極と前記膜電極層との間に確立された電圧差が前記膜を前記開口に対して 移動させ、これにより、前記可動膜によってカバーされた前記開口の部分を制御可能 に調整する、
ことを特徴とするMEMSバルブ。
【請求項28】
静電気力によって駆動されるMEMSバルブアレイであって、
基板を貫通する複数の開口を形成する前記基板と、
前記基板上に配置された基板電極と、
概ね前記基板電極及び前記複数の開口の上にあり、電極素子及びバイアス素子を備え 、前記基板に取り付けられた固定部と前記固定部に隣接し前記基板電極に対して移動 可能な末端部とを含む可動膜と、
前記基板電極と前記電極素子との間に配置された少なくとも1つの誘電体層と、
を備え、
前記基板電極と前記電極素子との間に確立された電圧差が前記膜を前記複数の開口に対して移動させ、これにより、前記可動膜によってカバーされた前記複数の開口の部分を制御可能に調整する、
ことを特徴とするMEMSバルブアレイ。
【請求項29】
静電気力によって駆動されるMEMSバルブアレイであって、
基板を貫通する複数の開口を形成する前記基板と、
前記基板上に配置され、それぞれが対応する開口を有する複数の基板電極と、
概ね前記複数の基板電極及び前記複数の開口の上にあり、電極素子及びバイアス素子を備え、前記基板に取り付けられた固定部と前記固定部に隣接し前記複数の基板電極に対して移動可能な末端部とを含む可動膜と、
前記基板電極と前記電極素子との間に配置された少なくとも1つの誘電体層と、
を備え、
前記複数の基板電極の1つ以上の基板電極と前記電極素子との間に確立された電圧差が前記膜を前記複数の開口に対して移動させ、これにより、前記可動膜によってカバーされた前記複数の開口の部分を制御可能に調整する、
ことを特徴とするMEMSバルブアレイ。
【請求項30】
請求項29に記載のMEMSバルブアレイであって、前記複数の開口が前記可動膜の長さ方向に概ね直角に延びる行内に配置されることを特徴とするMEMSバルブアレイ。
【請求項31】
請求項30に記載のMEMSバルブアレイであって、流れを可変にするために、前記開口の行が前記対応する基板電極に対して所定の角度で全体的に傾斜されることを特徴とするMEMSバルブアレイ。
【請求項32】
静電気力によって駆動されるMEMSバルブアレイであって、
基板を貫通する複数の開口を形成する前記基板と、
前記基板上に配置された基板電気と、
それぞれが概ね前記基板電極及び前記複数の開口の対応する開口の部分の上にあり、それぞれが電極素子及びバイアス素子を含み、それぞれが前記基板に取り付けられた固定部と前記固定部に隣接し前記基板電極に対して移動可能な末端部とを含む複数の可動膜と、
前記基板電極と前記電極素子との間に配置された少なくとも1つの誘電体層と、
を備え、
前記基板電極と前記少なくとも1つの電極素子との間に確立された電圧差が前記少なくとも1つの膜を前記対応する開口に対して移動させ、これにより、前記可動膜によってカバーされた前記複数の開口の部分を制御可能に調整する、
ことを特徴とするMEMSバルブアレイ。
【請求項33】
静電気力によって駆動されるMEMSバルブを製造する方法であって、
基板を通って少なくとも部分的に伸びるバルブ開口を形成するために、前記基板の前面側をエッチングするステップと、
前記バルブ開口を犠牲プラグ材料で充填するステップと、
前記基板の前面側で前記バルブ開口の上に膜バルブ構造体を形成するステップと、
前記犠牲プラグを露出するために前記基板の後側をエッチングするステップと、
前記犠牲プラグ材料を取り除くステップと、
解離層まで前記膜バルブ構造体を部分的に通って、前記バルブ開口の後側をエッチングするステップと、
可動膜を前記基板から少なくとも部分的に離すために前記解離層をエッチングするステップと、
を含むことを特徴とする方法。
【請求項34】
請求項33に記載の方法であって、前記可動膜バルブ構造体を形成する方法が、
第1の基板誘電体層を前記基板の前面側に配置するステップと、
基板電極を前記第1の基板誘電体層の上に配置するステップと、
第2の基板誘電体層を前記基板電極の上に配置するステップと、
解離層を前記第2の基板誘電体層の上に配置するステップと、
第1のバイアス層を前記解離層及び前記第2の基板誘電体層の上に配置するステップと、
膜電極を前記第1のバイアス層の上に配置するステップと、
第2のバイアス層を前記膜電極の上に配置するステップと、
を含むことを特徴とする方法。
【請求項35】
請求項33に記載の方法が、
バルブ開口を形成するために前記基板の前面側をエッチングする前に、前記基板内に空洞を形成するために前記基板の後側をエッチングするステップをさらに含む、
ことを特徴とする方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【公開番号】特開2007−321986(P2007−321986A)
【公開日】平成19年12月13日(2007.12.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−197284(P2007−197284)
【出願日】平成19年7月30日(2007.7.30)
【分割の表示】特願2002−526693(P2002−526693)の分割
【原出願日】平成13年9月14日(2001.9.14)
【出願人】(500240896)リサーチ・トライアングル・インスティチュート (36)
【Fターム(参考)】