マグネトロンスパッタ装置及びマグネトロンスパッタ方法
【課題】成膜速度の面内均一性を確保しながら、成膜効率を向上させ、ターゲットの使用効率を向上させること。
【解決手段】真空容器2内に載置されたウエハ10に対向するようにターゲット31を配置し、このターゲット31の背面側にマグネット配列体5を設ける。このマグネット配列体5は、マグネット61,62がマトリックス状に配列された内側マグネット群54と、この内側マグネット群54の周囲に設けられ、電子の飛び出しを阻止するリターン用のマグネット53とを備えている。これによりターゲット31の直下にカスプ磁界による電子のドリフトに基づいて高密度のプラズマが発生し、またエロージョンの面内均一性が高くなる。このためターゲット31とウエハ10とを接近させてスパッタを行うことができ、成膜速度の面内均一性を確保しながら、成膜効率を向上させることができる上、ターゲットの使用効率が高くなる。
【解決手段】真空容器2内に載置されたウエハ10に対向するようにターゲット31を配置し、このターゲット31の背面側にマグネット配列体5を設ける。このマグネット配列体5は、マグネット61,62がマトリックス状に配列された内側マグネット群54と、この内側マグネット群54の周囲に設けられ、電子の飛び出しを阻止するリターン用のマグネット53とを備えている。これによりターゲット31の直下にカスプ磁界による電子のドリフトに基づいて高密度のプラズマが発生し、またエロージョンの面内均一性が高くなる。このためターゲット31とウエハ10とを接近させてスパッタを行うことができ、成膜速度の面内均一性を確保しながら、成膜効率を向上させることができる上、ターゲットの使用効率が高くなる。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、マグネトロンスパッタ装置及びマグネトロンスパッタ方法に関する。
【背景技術】
【0002】
半導体デバイスの製造工程で用いられるマグネトロンスパッタ装置は、例えば図33に示すように、低圧雰囲気に設定された真空容器11内に、基板12と対向するように成膜材料よりなるターゲット13を配置すると共に、ターゲット13の上面側にマグネット体14を設け、ターゲット13が導電体例えば金属である場合には、負の直流電圧を印加した状態でターゲット13の下面近傍に磁場を形成するように構成されている。また、真空容器11の内壁への粒子の付着を防止するために防着シールド(図示せず)が設けられている。
【0003】
前記マグネット体14は図34に示すように、一般的には例えば環状のマグネット15の内側に、当該マグネット15と異なる極性の円形のマグネット16を配置して構成されている。なお、図34はマグネット体14をターゲット13側から見た平面図であり、この例では、外側のマグネット15の極性はターゲット13側がS極、内側のマグネット16の極性はターゲット13側がN極になるように夫々設定されている。こうして、ターゲット13の下面近傍には前記外側のマグネット15に基づくカスプ磁界と内側のマグネット16に基づくカスプ磁界とにより水平磁場が形成される。
【0004】
前記真空容器11内に、アルゴン(Ar)ガス等の不活性ガスを導入して、DC電源部15からターゲット13に負の直流電圧を印加すると、この電界によってArガスが電離し、電子が生成する。この電子は、前記水平磁場と電界とによってドリフトし、こうして高密度プラズマが形成される。そして、プラズマ中のArイオンがターゲット13をスパッタしてターゲット13から金属粒子を叩き出し、当該放出された金属粒子によって基板12の成膜が行われる。
【0005】
このようなメカニズムであることから、ターゲット13の下面では、図35に示すように、外側のマグネット15と内側のマグネット16との中間部直下に、マグネットの配列に沿った環状のエロージョン17が形成される。この際、ターゲット13全面でエロージョン17を形成するためにマグネット体14を回転させているが、既述のマグネット配列では、ターゲット13の半径方向において均一にエロージョン17を形成することは困難である。
【0006】
一方、基板面内の成膜速度分布はターゲット13面内のエロージョン17の強弱(スパッタ速度の大小)に依存する。従って、上記のようにエロージョン17の不均一の程度が大きい場合には、図35に点線で示すように、ターゲット13と基板12との距離を小さくすると、エロージョンの形状がそのまま反映されて基板面内の成膜速度の均一性が悪化してしまう。このようなことから、従来ではターゲット13と基板との距離を50mm〜100mm程度と大きくしてスパッタ処理を行っている。
【0007】
この際、ターゲット13からスパッタにより放出された粒子は外方へ飛散していくので、ターゲット13から基板12を離すと、防着シールドに付着するスパッタ粒子が多くなり、基板外周部の成膜速度が低下してしまう。このため、外周部のエロージョンが深くなるように、即ち外周のスパッタ速度を高めるようにして、基板面内の成膜速度の均一性を確保することが一般的に行われている。しかしながら、この構成では、既述のように防着シールドに付着するスパッタ粒子が多くなることから、成膜効率が10%程度と非常に低く、速い成膜速度が得られない。このように、従来のマグネトロンスパッタ装置では、成膜効率と成膜速度の均一性を両立することは困難である。
【0008】
また、ターゲット13はエロージョン17が裏面側に到達する直前に交換する必要があるが、既述のように、エロージョン17の面内均一性が低く、エロージョン17の進行が早い部位が局所的に存在すると、この部位に合わせてターゲット13の交換時期が決定されるため、ターゲット13の使用効率は40%程度と低くなる。製造コストを低減し、生産性を向上させるためには、ターゲット13の使用効率を高くすることも要求されている。
【0009】
ところで近年では、メモリーデバイスの配線材料としてタングステン(W)膜が注目されており、例えば300nm/min程度の成膜速度で成膜することが要請されている。上述の構成では、例えば印加電力を15kWh程度に大きくすることにより前記成膜速度を確保することができるが、機構が複雑であり、稼働率が低くなり、製造コストが高くなってしまう。
【0010】
ここで、特許文献1には、任意の2つの間で等距離を有し、かつ交互の極性を有する複数のマグネットをターゲットと対向するように平面的に配列し、ターゲットの下側にポイントカスプ磁界を生成する構成が提案されている。ポイントカスプ磁界を生成するマグネットを点状マグネットと呼ぶことにすると、この点状マグネットを配列させた構成では、ターゲット近傍の電界Eと点状マグネットの水平磁場BによるE×Bによって電子が加速され、ドリフト運動して、プラズマを発生させる。
【0011】
しかしながら、マグネット配列の外周部では、NとSの配置により、E×Bのベクトル方向がターゲットの外に向う開放端が存在するため、ターゲット外周よりも外方に電子が飛び出してしまい、電子損失が大きくなる。ここで、ターゲットの全面でエロージョンを形成するためには、水平磁場がターゲット外周を覆うように点状マグネットを配列する必要がある。この場合には前記開放端がターゲットの外周近傍に位置することになるので、ターゲット外周部で電子の飛び出しが起こると、当該外周部にて円周方向に電子密度の粗密が発生したり、ターゲットの径方向に従って電子密度が低下するといった電子密度の不均一を生じさせる。このため、ターゲットの直下では、場所によって電子密度が異なり、プラズマ密度の面内均一性が低下してしまう。また、前記開放端付近の磁束が発散しているため、磁束のバランスが崩れ、電子密度の不均一が増長される。
【0012】
このように点状マグネットのみの配列では、マグネット間に生ずる水平磁場がマグネット配列により二次元的に広がるものの、十分なプラズマ密度が得られず、高いプラズマ密度の面内均一性を確保することが難しい。また、エロージョン面内における均一性は、点状マグネットの配列による周期的な水平磁場の粗密に依存して低下するが、プラズマ密度の粗密によってさらに低くなるため、結果としてターゲットの使用効率が低下する。この際、ターゲットよりもマグネット群の形成領域を大きくして、前記開放端に起因する問題を解消することも考えられるが、ターゲットとシールド部材との間に強い磁場があると異常放電を起こすおそれがあり、マグネット群の形成領域をターゲットよりも大きくすることは好ましくない。
【0013】
また、特許文献2には、各々ターゲットの表面と平行な中心軸を備える複数のマグネットを、互いの中心軸が略平行になるように配置すると共に、複数のマグネットをN極とS極とが前記中心軸に対して略直角方向に互いに対向するように形成した技術が記載されている。さらに、特許文献3には、ターゲットとウエハとの距離を近づけることにより、カバレージを改善する技術が記載されている。
【0014】
しかしながら、これら特許文献1〜特許文献3には、ターゲットと基板との距離を狭めて、成膜速度の面内均一性を確保しながら成膜効率を向上させることについては着目されておらず、これら特許文献1〜特許文献3の構成を適用しても、本発明の課題を解決することはできない。
【0015】
また、既述のようにWをマグネトロンスパッタ方法で成膜することについて検討されているが、微細配線でも抵抗上昇が起こらず信頼性の高い高融点金属として注目されている。このためマグネトロンスパッタ方法を利用するにあたっては、成膜速度が大きいことに加え、成膜された膜が低抵抗であることが要請される。
【0016】
Wのバルク比抵抗は室温で約5.3μΩ・cmであるが、近年の多層配線回路では例えば300nm/min以上の高速成膜と、10μΩ・cm以下の比抵抗が要請されている。しかし、従来技術では、上述したように成膜効率及びターゲットの使用効率が低いという問題に加え、Wの膜を低抵抗にすることと大きな成膜速度を得ることとはトレードオフの関係にあるという問題がある。成膜速度を増大させる場合、通常は直流電源部19から印加する電圧を増大させるが、その結果としてスパッタ膜の比抵抗が増大してしまう。例として、成膜速度が約50nm/minで得られる膜の比抵抗は約10μΩ・cmであるが、約300nm/minの高速成膜では比抵抗は約11μΩ・cm〜20μΩ・cm、あるいはそれ以上であり、バルク値の約2〜3倍の値になってしまう。
【0017】
配線抵抗増大の原因は、膜結晶グレインの粒界での電子散乱、膜中の格子欠陥による電子散乱、不純物(スパッタの場合はAr含む)による電子散乱及び表面、界面における電子散乱である。よってスパッタ膜を低抵抗化させるには、膜結晶グレインの大きさ及び結晶配向を揃えること、ならびに膜中の欠陥や不純物を少なくすることが重要である。これらを効果的に行うには、スパッタ成膜中のW粒子の表面拡散を激しくして粒子の再配列が行われやすいようにすることが必要となる。
非特許文献1によると、スパッタ成膜においては粒子の再配置を行うために、先ず基板温度を高くすることが重要であるが、W膜は高融点金属であるため、表面拡散を起こすには850℃以上の高温が必要である。この手法を通常のスパッタリング技術に適用することは困難である。また、成膜後にアニールにより再結晶化させ低抵抗化することも可能ではあるが、さらに高温の1000℃が必要となり半導体製造工程と相容れない。
【0018】
また、同様に表面拡散を起こすために、スパッタされた原子のエネルギーが使える低圧条件が好ましいとされている。即ち通常ターゲット電圧は200V〜800Vであり、この電圧で加速されたスパッタガス原子、例えばアルゴン(Ar)原子のエネルギーは10eV〜20eVといわれており、もしも低圧により空間での衝突がなければスパッタ原子はこのエネルギーで基板上の膜表面に到達し、膜表面でのエネルギー拡散に寄与するからである。ターゲット−基板間距離=30mm〜100mmであれば、<10mTorrが好ましいといわれている。しかしWとArの組み合わせは、低圧条件下ではArイオンがターゲットであるWと弾性衝突を起こし、反跳する中性のAr原子となり、基板上に成膜されたW膜に突入してダメージを与える。このAr原子のW膜への突入は弾性衝突であるため、ターゲット原料元素の原子量が大きいほど反跳Arのエネルギーは大きい。ターゲットがWの場合は反跳Arのエネルギーは100eV〜200eVとなる。Wのスパッタされる閾値電圧は33eV程度といわれており、この値と比較すると反跳Arのエネルギーは大きく、膜中に欠陥を多量に生成する原因となることは明らかである。また膜中のAr量も増大し、欠陥と共に抵抗増大の原因となる。この状況下で成膜速度を増大させるために直流電源部から印加する電圧を増大させると、ターゲット電圧も大きくなり、よってターゲット面で反跳するAr原子のエネルギーも増大するので、従って膜の欠陥は更に増悪して膜比抵抗は増大してしまう。
【0019】
この反跳Arの問題に対しては低圧Krガスを使う方法が特許文献4に開示されている。Krは質量、体積共にArより大きいため、反跳時のエネルギーが比較的小さく、W膜に入り込みにくいと考えられている。しかしKrガスはArガスの100倍以上のコストが掛かるため、半導体製造工程に使用することは難しい。
【0020】
一方、反対に圧力を増大させると、空間での衝突により反跳するAr原子エネルギーが失われるので、反跳Arによる欠陥は生じにくくなるが、スパッタ原子のエネルギーも減少してしまい、基板上の膜表面に到達した原子は拡散に寄与しない。その結果、欠陥が多く配向が揃わない膜が形成されるといわれている。更に圧力の増大によって、放電電流は増大するが、衝突散乱によりスパッタ原子がチャンバ壁に向かって拡散するという現象が生じる。この現象によりターゲット基板間距離が大きい従来技術では、基板上の成膜速度が一般に低下するため成膜効率の点でも好ましくない。
【0021】
他方で、基板に高周波電力を供給し、Arイオンを一定のエネルギーで基板に引き込むことで、膜表面に運動エネルギーを与えてW粒子の表面拡散を誘引する方法もある。しかし従来のマグネトロンスパッタ装置では、ターゲットと基板との距離が長いことと、低圧環境下で放電を起こしていることにより、基板近傍におけるプラズマの密度が低いので、Arイオンを高エネルギー化する必要がある。よって高電位の高周波電力を基板に印加しなければならないが、その結果、基板に必要以上の負電位が発生することで、過剰なエネルギーを有したArイオンを基板上に引き込み、前述したようにArイオンが成膜されたW膜に突入し、膜に欠陥を生じさせてしまう。印加する高周波電力を低減するために圧力を増大させることも考えられるが、上述したとおり成膜効率が低下してしまう。
【0022】
以上のように従来のターゲット13と基板との距離が50mm〜100mmのマグネトロンスパッタ装置では、Wのような高融点金属を成膜する場合に、高速成膜、成膜効率、ターゲット使用効率、低抵抗、及び良好な膜質という条件を同時に満たすことが難しいのが現状である。この問題は、他の高融点金属(タンタル(Ta)、チタン(Ti)、モリブデン(Mo)、ルテニウム(Ru)、ハフニウム(Hf)、コバルト(Co)、ニッケル(Ni)など)のスパッタ成膜においても同様である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0023】
【特許文献1】特開2004−162138号公報
【特許文献2】特開2000−309867号公報
【特許文献3】特開平9−118979号公報
【特許文献4】US2004/0214417号公報
【非特許文献】
【0024】
【非特許文献1】J. A. Thornton; Ann. Rev. Mater. Sci.、 7 (1977) p.239.
【非特許文献2】J. J. Cuomo; Handbook of Ion Beam Technol.、 (1989) p.194.
【非特許文献3】M. A. Liberman; Principles of Plasma Discharges and Materials Processing、 (1994) pp.469−470.
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0025】
本発明は、このような事情の下になされたものであり、その目的は、成膜速度の面内均一性を確保しながら、成膜効率を向上させると共に、ターゲットの使用効率を向上させることができる技術を提供することにある。本発明の他の目的は、大きな成膜速度で低抵抗な膜を成膜することができる技術を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0026】
本発明は、真空容器内に載置された被処理基板に対向するようにターゲットを配置し、このターゲットの背面側にマグネットを設けたマグネトロンスパッタ装置において、
前記ターゲットに電圧を印加する電源部と、
ベース体にマグネット群を配列したマグネット配列体と、
このマグネット配列体を被処理基板に対して直交する軸の周りに回転させるための回転機構と、を備え、
前記マグネット配列体は、カスプ磁界による電子のドリフトに基づいてプラズマが発生するように、マグネット群を構成する複数のN極及びS極がターゲットに対向する面に沿って互いに間隔をおいて配列され、
前記マグネット群における最外周に位置するマグネットは、電子がカスプ磁界の拘束から解放されてカスプ磁界の外に飛び出すことを阻止するようにライン状に配列され、
スパッタ時における前記ターゲットと被処理基板との距離が30mm以下であることを特徴とする。
【0027】
ここで、ライン状に配列されるとは、マグネットが直線状又は曲線状の帯状に形成される構成や、複数個のマグネットを直線状又は曲線状の帯状に配列する構成の他、電子がカスプ磁界の拘束から解放されてカスプ磁界の外に飛び出すことを阻止する役割を果たす場合には、複数個のマグネットを互いに僅かに間隔を開けて、直線状又は曲線状の帯状に配列する構成も含まれる。
【0028】
本発明はまた、真空容器内に載置された被処理基板に対向するようにターゲットを配置し、このターゲットの背面側にマグネットを設け、直径300mmの半導体ウエハである被処理基板に対してマグネトロンスパッタ処理を行うマグネトロンスパッタ装置において、
前記ターゲットに電圧を印加する電源部と、
ベース体にマグネット群を配列したマグネット配列体と、
このマグネット配列体を被処理基板に対して直交する軸の周りに回転させるための回転機構と、を備え、
前記マグネット配列体は、カスプ磁界による電子のドリフトに基づいてプラズマが発生するように、マグネット群を構成する複数のN極及びS極がターゲットに対向する面に沿って互いに間隔をおいて配列され、
前記マグネット群における最外周に位置するマグネットは、電子がカスプ磁界の拘束から解放されてカスプ磁界の外に飛び出すことを阻止するようにライン状に配列され、
ターゲットの直径をR(mm)、ターゲットと被処理基板との距離をTS(mm)とすると、
(TS´/R)×100(%)=0.0006151R2−0.5235R+113.4、かつ
TS≦1.1TS´となるように前記距離(TS)が設定されていることを特徴とする。
【0029】
本発明はさらに、真空容器内に載置された被処理基板に対向するようにターゲットを配置し、このターゲットの背面側にマグネットを設け、直径450mmの半導体ウエハである被処理基板に対してマグネトロンスパッタ処理を行うマグネトロンスパッタ装置において、
ベース体にマグネット群を配列したマグネット配列体と、
このマグネット配列体を被処理基板に対して直交する軸の周りに回転させるための回転機構と、を備え、
前記マグネット配列体は、カスプ磁界による電子のドリフトに基づいてプラズマが発生するように、マグネット群を構成する複数のN極及びS極がターゲットに対向する面に沿って互いに間隔をおいて配列され、
前記マグネット群における最外周に位置するマグネットは、電子がカスプ磁界の拘束から解放されてカスプ磁界の外に飛び出すことを阻止するようにライン状に配列され、
ターゲットの直径をR(mm)、ターゲットと被処理基板との距離をTS(mm)とすると、
(TS´/R)×100(%)=0.0003827R2−0.4597R+139.5、かつ
TS≦1.1TS´となるように前記距離(TS)が設定されていることを特徴とする。
【0030】
本発明のマグネトロンスパッタ方法は、本発明のマグネトロンスパッタ装置を用い、プロセス圧力を13.3Pa(100mTorr)以上に設定し、ターゲットへの投入電力をターゲットの面積で割った投入電力密度を3W/cm2以上に設定して、被処理基板に対して金属膜を成膜することを特徴とする。
【発明の効果】
【0031】
本発明によれば、複数のN極マグネット及びS極マグネットがターゲットに対向する面に沿って互いに間隔をおいて配列されるようにマグネット群を構成し、このマグネット群における最外周に位置するマグネットはライン状に配列されている。これにより、カスプ磁界による電子のドリフトに基づいてプラズマが発生すると共に、電子の飛び出しが阻止されているので高密度なプラズマが均一に形成される。また、複数のN極マグネット及びS極マグネットがターゲットに対向する面に沿って互いに間隔をおいて配列されることから、これらマグネットの水平磁場に基づいてターゲットに形成されるエロージョンの面内均一性が向上する。このため、ターゲットに被処理基板を接近させてスパッタを行うことができて、成膜速度の面内均一性を確保しながら、成膜効率を向上させることができる。また、プラズマ密度の均一性が高いことからターゲットの面内においてエロージョンが均一性を持って進行するため、局所的にエロージョンが進行する場合に比べてターゲットの寿命が長くなり、ターゲットの使用効率が向上する。他の発明によれば、本発明の装置を用いて、100mTorr以上もの高いプロセス圧力下で電力密度の高い状態でスパッタリングを行う方法により、発生したプラズマにおいてイオン密度は高く安定した状態となるため、プラズマは基板上で均一な密度となる。このため、高速かつ均一なスパッタを基板に対して行うことが可能となることから、高速な成膜速度を保ちつつ低抵抗の成膜を基板上へと行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0032】
【図1】本発明にかかるマグネトロンスパッタ装置の一実施の形態を示す縦断面図である。
【図2】前記マグネトロンスパッタ装置に設けられたマグネット配列体の一例を示す平面図である。
【図3】マグネット配列体を示す側面図である。
【図4】マグネット配列体に設けられたマグネットの一例を示す斜視図である。
【図5】マグネット配列体に設けられたマグネットの一例を示す斜視図である。
【図6】マグネット配列体を示す平面図である。
【図7】マグネット配列体の他の例を示す平面図である。
【図8】マグネット配列体のさらに他の例を示す平面図である。
【図9】ターゲットと基板との距離と成膜効率及び成膜速度の面内均一性との関係を示す特性図である。
【図10】マグネット配列体のさらに他の例を示す平面図である。
【図11】マグネット配列体のさらに他の例を示す平面図である。
【図12】マグネット配列体のさらに他の例を示す平面図である。
【図13】マグネット配列体のさらに他の例を示す平面図である。
【図14】マグネット配列体のさらに他の例を示す平面図である。
【図15】マグネット配列体のさらに他の例を示す平面図である。
【図16】実施例1の結果を示す特性図である。
【図17】実施例2の結果を示す特性図である。
【図18】実施例2の結果を示す特性図である。
【図19】実施例3の結果を示す特性図である。
【図20】実施例4の結果を示す特性図である。
【図21】実施例5の結果を示す特性図である。
【図22】マグネット配列体のさらに他の例を示す平面図である。
【図23】図22のマグネット配列体の拡大平面図である。
【図24】マグネット配列体を示す側面図である。
【図25】マグネット配列体を示す側面図である。
【図26】マグネット配列体のさらに他の例を示す平面図である。
【図27】膜厚分布のシミュレーションの結果を示したグラフである。
【図28】膜厚分布のシミュレーションの結果を示したグラフである。
【図29】成膜速度のシミュレーションの結果を示したグラフである。
【図30】実施例6の結果を示す特性図である。
【図31】実施例7の結果を示す特性図である。
【図32】実施例8の結果を示す特性図である。
【図33】従来のマグネトロンスパッタ装置を示す縦断面図である。
【図34】従来のマグネトロンスパッタ装置に用いられるマグネット体を示す平面図である。
【図35】従来のマグネトロンスパッタ装置の作用を説明する縦断面図である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0033】
本発明の一実施の形態に係るマグネトロンスパッタ装置について、図面を参照しながら説明する。図1は、前記マグネトロンスパッタ装置の一例を示す縦断面図であり、図中2は例えばアルミニウム(Al)により構成され、接地された真空容器2である。この真空容器2は天井部が開口しており、この開口部21を塞ぐようにターゲット電極3が設けられている。このターゲット電極3は、成膜材料例えばタングステン(W)よりなるターゲット31を、例えば銅(Cu)若しくはアルミニウムよりなる導電性のベース板32の下面に接合することにより構成されている。前記ターゲット31は例えば平面形状が円形状に構成され、その直径は被処理基板をなす半導体ウエハ(以下「ウエハ」という)10よりも大きくなるように、例えば400乃至450mmに設定されている。
【0034】
前記ベース板32はターゲット31よりも大きく形成され、ベース板32の下面の周縁領域が真空容器2の開口部21の周囲に載置されるように設けられている。この際、ベース板32の周縁部と真空容器2との間には、環状の絶縁部材22が設けられており、こうして、ターゲット電極3は、真空容器2とは電気的に絶縁された状態で真空容器2に固定されている。また、このターゲット電極3には電源部33により負の直流電圧が印加されるようになっている。
【0035】
真空容器2内には前記ターゲット電極3と平行に対向するように、ウエハ10を水平に載置する載置部4が設けられている。この載置部4は例えばアルミニウムからなる電極(対向電極)として構成され、高周波電力を供給する高周波電源部41が接続されている。当該載置部4は、昇降機構42により、ウエハ10を真空チャンバ2に対して搬入出する搬送位置と、スパッタ時における処理位置との間で昇降自在に構成されている。前記処理位置では、例えば載置部4上のウエハ10の上面と、ターゲット31の下面との距離TSが例えば10mm以上30mm以下に設定されている。
【0036】
また、この載置部4の内部には、加熱機構をなすヒータ43が内蔵され、ウエハ10が例えば400℃に加熱されるようになっている。さらに、この載置部4には、当該載置部4と図示しない外部の搬送アームとの間でウエハ10を受け渡すための図示しない突出ピンが設けられている。
【0037】
真空容器2の内部には、ターゲット電極3の下方側を周方向に沿って囲むように環状のチャンバシールド部材44が設けられていると共に、載置部4の側方を周方向に沿って囲むように環状のホルダシールド部材45が設けられている。これらは、真空容器2の内壁へのスパッタ粒子の付着を抑えるために設けられるものであり、例えばアルミニウム若しくはアルミニウムを母材とする合金等の導電体により構成されている。チャンバシールド部材44は例えば真空容器2の天井部の内壁に接続されており、真空容器2を介して接地されている。また、ホルダシールド部材45を介して載置部4が接地されるように、ホルダシールド部材45が接地されている。
【0038】
さらに、真空容器2は、排気路23を介して真空排気機構である真空ポンプ24に接続されると共に、供給路25を介して不活性ガス例えばArガスの供給源26に接続されている。図中27は、ゲートバルブ28により開閉自在に構成されたウエハ10の搬送口である。
【0039】
ターゲット電極3の上部側には、当該ターゲット電極3と近接するようにマグネット配列体5が設けられている。このマグネット配列体5は、図2及び図3(図2のA−A’線側面図)に示すように、透磁性の高い材料例えば鉄(Fe)よりなるベース体51にマグネット群52を配列することにより構成されている。前記ベース体51はターゲット31と対向するように設けられ、図2に示すように、その平面形状は円形状に形成されており、その直径は例えばターゲット31よりも大きくなるように、例えばターゲット径よりも60mm程度大きい値に設定されている。図2は、ターゲット31側からマグネット群52を見たときの平面図である。
【0040】
前記マグネット配列体5は、静止時にカスプ磁界による電子のドリフトに基づいて、ウエハ10の投影領域全体に亘ってプラズマが発生するようにマグネット群を構成するN極及びS極がターゲット31に対向する面に沿って後述するように互いに間隔をおいて配列され、マグネット群52の最外周には、リターン用のマグネット53が設けられている。このリターン用マグネット53は、電子がカスプ磁界による拘束から解放されてカスプ磁界の外に飛び出すことを阻止するように、後述の如くライン状に配列されている。
【0041】
マグネット群52のなかで、リターン用マグネット53よりも内側のマグネット群54を「内側マグネット群54」とし、内側マグネット群54のなかで、最外周に位置するマグネットを「外側マグネット」と呼ぶことにすると、前記内側マグネット群54は、複数個のマグネット6(61、62)をマトリックス状に配列して構成されている。マグネット6(61、62)は、図2に示すように、ターゲット31の左右方向(図1及び図2中X方向)と、奥行方向(図1及び図2中Y方向)に縦横に、n列×m行例えば3列×3行のマトリックス状に配列して構成され、隣接するマグネット6(61、62)が互いに異なる極性を備えるように配列されている。
【0042】
この例では、中央のマグネット61aがN極であり、その左右方向の両側及び奥行方向の両側に夫々S極のマグネット62a〜62dが互いに間隔を開けて並ぶように設けられている。ここで、本発明でいう極性とは、ターゲット31側に向いている極性、つまりターゲット31側から見たときの極性をいう。従って、前記マグネット61aは、ターゲット31側にN極、ベース体51側にS極が夫々向いている。
【0043】
これらマグネット61、62は、複数のマグネット要素に分割されて構成されている。図4に示すように、マグネット要素63は例えば円柱状に構成され、前記マグネット61aは、マグネット要素63を前記左右方向に2個、奥行方向に2個配列すると共に、これらを2段に積層して合計8個のマグネット要素63の集合体として構成されている。このようなマグネット要素63としては、例えば直径が20乃至30mm、厚さが10乃至15mm、1つのマグネット要素63の表面磁束密度が2乃至3kG程度のものが用いられる。これらマグネット要素63は、例えば平面形状が略正方形状のケース体64に収納され、ベース体51の下面に固定されている。
【0044】
これらマグネット61、62は、例えばケース体64の互いに隣接する辺が前記左右方向及び奥行方向に夫々平行に設けられ、また隣接するケース体64に対して互いに等距離分離れるように配列されている。つまり、中央のマグネット61aを例にして説明すると、左右方向に隣接するマグネット62a、62cとの離間距離L1と、奥行方向に隣接するマグネット62b、62dとの離間距離L2とが互いに等しくなるように設けられている。こうして、内側マグネット群54の配列の中心から見たときに、マグネット62a〜62dの中心同士が夫々同一半径上にあり、さらにマグネット61b〜61eの中心同士が夫々同一半径上にあるように、マグネット61、62がマトリックス状に配列されている。この例では、内側マグネット群54の配列の中心はベース体51の中心Oに相当する。
【0045】
また、内側マグネット群54は、N極のマグネット要素63の個数とS極のマグネット要素63の個数が同数になり、かつ配列の中心Oから見たときに、その中心が同一半径上にあるマグネット62a〜62d同士(マグネット61b〜61e同士)では、マグネット要素63の数が同数になるように構成されている。さらに、内側マグネット群54は、配列の中心Oから見たときに、外側のマグネットに向うに連れて(マグネット要素63の個数の調整で)磁力が小さくなるように設定されている。前記マグネット61、62は、複数のマグネット要素63に分割されて構成されているので、マグネット要素63の集合数によってマグネット61、62の磁力が調整される。
【0046】
ここで、図2における、マグネット要素63に描いた数字は、マグネット群の高さ方向(図4中Z方向)のマグネット要素63の積層数を示しており、例えば図5に外側マグネット61bを例にして示すと、当該マグネット61bは4個のマグネット要素63を組み合わせて構成されている。
【0047】
このように、この例の内側マグネット群54は、24個のN極のマグネット要素63と、24個のS極のマグネット要素63を備えており、かつ配列の中心Oから見たときに、その中心にあるマグネット61aのマグネット要素63は8個、同一半径上にあるマグネット62a〜62dはマグネット要素63が6個、最も外側の同一半径上にあるマグネット61b〜61eはマグネット要素63が4個になるように夫々設定されている。こうして内側マグネット群54の中で最外周に位置する外側マグネットの磁力は、当該外側マグネットよりも内側に位置するマグネットよりも小さくなるように設定されることになる。
【0048】
前記リターン用マグネット53a〜53dについて、リターン用マグネット53dを例にして説明すると、外側マグネットの中央のマグネット62dの周囲をドリフトする電子が、マグネット群52を平面的に見たときに、マグネット群52の隙間からマグネット群52の外に飛び出さずに内側に戻るように形成されている。このためリターン用マグネット53dはライン状に配列され、この例では、平面的に見たときに、直線状(直線状に伸びる帯状)に形成されている。また、その長さは、マグネット62dの長さよりも大きく、その長さ方向の両端部は、当該マグネット62dの両側に隣接する外側マグネット61c、61d側まで伸びるように形成されている。さらに、外側マグネットの中央に位置するマグネット62dと異なる極性に設定されている。
【0049】
そして、内側マグネット群54の前記左右方向の両側に夫々設けられたリターン用マグネット53a、53cは、その長さ方向が前記奥行方向に平行に設けられ、内側マグネット群54の前記奥行方向の両側に夫々設けられたリターン用マグネット53b、53dは、その長さ方向が前記左右方向に平行に設けられている。これら4つのリターン用マグネット53a〜53dは、内側マグネット群54の最外周である外側マグネット61、62との離間距離L3が互いに等しくなるように設けられている。
【0050】
本発明では、マグネット群52は、ドリフトしている電子群の運動領域よりもウエハ10の周縁位置が内側になるように構成されている。さらに、各リターン用マグネット53の磁束と、これに対応する内側マグネット群54の外側マグネット61、62の磁束の収支が合うように、リターン用マグネット53と内側マグネット群54の夫々の表面磁束密度が調整されている。
【0051】
また、水平磁場(磁束密度)の強度は、安定した放電を得るために、例えば100〜300Gに設定することが好ましい。この磁束密度は、マグネット61、62の大きさ、マグネット61、62の表面磁束密度、マグネット61、62の配列数、マグネット61、62間の距離、マグネット要素63の個数、マグネット要素63間の距離、外側マグネットの大きさ、外側マグネットと内側マグネット群54との距離、後述する回転偏心量等により適宜設計される。
【0052】
さらに、後述するように、リターン用のマグネット53と内側マグネット群54との夫々に電離が起こり、リターン用のマグネット53と内側マグネット群54とでは電離の強さが異なるが、リターン用のマグネット53の大きさや表面磁束密度、内側マグネット群54との離間間隔L3を調整することによって、電離の強さを制御することができる。
【0053】
また、ウエハ10の外縁から50mm外方の領域に、内側マグネット群54とリターン用のマグネット53の離間部分があると、成膜速度分布の均一性が良好であることがシミュレーションより明らかであり、このように構成することが好ましい。また、ターゲット31の外縁位置が内側マグネット群54とリターン用のマグネット53の離間部分にあるように設定すると、リターン用マグネット53による水平磁場がターゲット31外周を覆い、ターゲット31全面でのエロージョンが可能となる。ターゲット31よりマグネットの形成領域が大きくなると、異常放電が発生するおそれがあるが、リターン用マグネット53の磁束と、内側マグネット群54を構成するマグネット61、62の磁束の収支を合わせることによって、異常放電を防ぐことができると捉えている。
【0054】
このように、マグネット要素の大きさや、配列間隔等の種々の条件を調整することにより、ターゲット31の直下で均一な磁界が形成されるようにマグネット配列体5が設計される。この際、図2に示す例は、マグネット群52とウエハ10とベース体51との相対的大きさを示しており、このようにウエハ10の外縁はマグネット群52の形成領域よりも内側に位置している。但し、図2に示す例におけるマグネット群52は構成例の一つであり、ウエハ10の大きさに合わせて、マグネット61、62、リターン用のマグネット53の設置数が適宜増減される。
【0055】
ここで、設計例の一つを示すと、リターン用マグネット53は、縦断面の大きさが例えば10mm×20mm、長さが例えば120mm、表面磁束密度は2乃至3kGであるが、その大きさや積層数を調整することにより、内側マグネット群54の外側マグネットとに対する磁力の最適化を図ることができる。また、内側マグネット群54では、マグネット61、62同士の左右方向の離間距離L1及び奥行方向の離間距離L2は共に例えば5乃至10mm、内側マグネット群54の最外周のマグネット61、62とリターン用マグネット53との離間距離L3は例えば5乃至30mmに夫々設定されている。
【0056】
また、マグネット群54を構成するマグネット61、62、53は同じ厚さに設定され、このためこれらマグネット61、62、63の下面の高さ位置は揃うように構成されている。そして、これらマグネット61、62、63の下面とターゲット31の上面までの距離は、例えば15〜40mmに設定される。この際、マグネット要素63と同じ形状の鉄製のダミー体をベース体51側に入れることによって、マグネットの下面同士の高さを合わせることが可能である。鉄は透磁率が高いため、ベース体51に向う磁束が拡散しないので、ダミー体が無い場合とターゲット電極3側への磁束が同じになる。この場合のメリットは全体のバランスを維持してターゲット電極3側への磁束を調整できることにある。
【0057】
前記マグネット配列体5のベース体51の上面は、回転軸55を介して回転機構56に接続されており、この回転機構56によりマグネット配列体5は、ウエハ10に対して直交する軸の周りに回転自在に構成されている。この例では、図3に示すように、回転軸55はベース板51の中心Oから例えば20乃至30mm偏心した位置に設けられている。
【0058】
このマグネット配列体5の周囲には、当該マグネット配列体5の回転領域を形成した状態で、マグネット配列体5の上面及び側面を覆うように、冷却機構をなす冷却ジャケット57が設けられている。この冷却ジャケット57の内部には冷却媒体の流路58が形成されており、当該流路58内に所定温度に調整された冷却媒体例えば冷却水を供給部59から循環供給することにより、マグネット配列体5及び当該マグネット配列体5を介してターゲット電極3が冷却されるように構成されている。
【0059】
以上に説明した構成を備えるマグネトロンスパッタ装置は、電源部33や高周波電源部41からの電力供給動作、Arガスの供給動作、昇降機構42による載置部4の昇降動作、回転機構56によるマグネット配列体5の回転動作、真空ポンプ24による真空容器2の排気動作、ヒータ43による加熱動作等を制御する制御部100を備えている。この制御部100は、例えば図示しないCPUと記憶部とを備えたコンピュータからなり、この記憶部には、当該マグネトロンスパッタ装置によってウエハ10への成膜を行うために必要な制御についてのステップ(命令)群が組まれたプログラムが記憶されている。このプログラムは、例えばハードディスク、コンパクトディスク、マグネットオプティカルディスク、メモリーカード等の記憶媒体に格納され、そこからコンピュータにインストールされる。
【0060】
続いて、上述のマグネトロンスパッタ装置の作用について説明する。先ず、真空容器2の搬送口27を開き、載置部4を受け渡し位置に配置して、図示しない外部の搬送機構及び突き上げピンの協働作業により、載置部4にウエハ10を受け渡す。次いで、搬送口27を閉じ、載置部4を処理位置まで上昇させる。また、真空容器2内にArガスを導入すると共に、真空ポンプ24により真空排気して、真空容器2内を所定の真空度例えば1.46〜13.3Pa(11〜100mTorr)に維持する。一方、マグネット配列体5を回転機構56により回転させながら、電源部33からターゲット電極3に例えば100W〜3kWの負の直流電圧を印加すると共に、高周波電源部43から載置部4に数百KHz〜百MH程度の高周波電圧を10W〜1kW程度印加する。また、冷却ジャケット57の流路58には、常時冷却水を通流させておく。
【0061】
ターゲット電極3に直流電圧を印加すると、この電界によりArガスが電離して電子を発生する。一方、マグネット配列体5のマグネット群52により、図3に示すように、内側マグネット群54のマグネット61、62同士の間、及び内側マグネット群54の外側マグネットとリターン用マグネット53同士の間にカスプ磁界50が形成され、このカスプ磁界50が連続してターゲット31の表面(スパッタされる面)近傍に水平磁場が形成される。
【0062】
こうして、ターゲット31近傍の電界Eと前記水平磁場BによるE×Bによって前記電子は加速され、ドリフトする。そして、加速によって十分なエネルギーを持った電子が、さらにArガスと衝突し、電離を起こしてプラズマを形成し、プラズマ中のArイオンがターゲット31をスパッタする。また、このスパッタにより生成された二次電子は前記水平磁場に捕捉されて再び電離に寄与し、こうして電子密度が高くなり、プラズマが高密度化される。
【0063】
ここで、前記電子のドリフトの方向について図6に模式的に示す。例えば、内側マグネット群54の中央のN極のマグネット61aに着目すると、当該マグネット61aを時計回りに周回するように電子がドリフトし、S極のマグネット62a、62b、62c、62dでは、反時計回りに周回するように、電子がドリフトする。
【0064】
このマグネット群52のレイアウトによれば、ドリフトしている電子群の運動領域よりもウエハ10の周縁位置が内側になるように設定されている。これにより、マグネット配列体5が静止している時に、カスプ磁界による電子のドリフトに基づいてウエハ10の投影領域全体に亘ってプラズマが発生することになる。
【0065】
ここで、リターン用マグネット53dを例にして説明すると、当該リターン用マグネット53dは、既述のように左右方向に直線状に伸びる帯状に形成され、内側マグネット群54の最外周にある外側マグネット62dと離間間隔L3を介して設けられている。また、その長さ方向の両端側は、マグネット62dに隣接するマグネット61c、61d側まで伸び出している。
【0066】
従って、マグネット62dとマグネット61cの間をドリフトしている電子から見ると、進行方向の前方側に立ちはだかるようにマグネット53dが存在していることになる。そして、このマグネット53d由来のカスプ磁界の磁束とマグネット62d由来のカスプ磁界の磁束とが結合するため、マグネット62dとマグネット61cの間をドリフトしている電子は、そのままカスプ磁界に沿って動き、左方向にカーブしていく。次いで、マグネット62dとマグネット61dの間に至ると、これらの間のカスプ磁界により拘束されて左方向にカーブし、こうして再び内側マグネット群54の領域に戻される。このように、リターン用マグネット53を設けることにより、カスプ磁界の拘束によって電子がカスプ磁界の外に飛び出すことが阻止されるため、電子損失が抑制され、電子密度が高密度化される。
【0067】
一方、リターン用マグネット53が無い場合には、内側マグネット群54の外周部では、既述のように、E×Bのベクトル方向がターゲット31の外側に向う開放端が存在する。このため、マグネット62dとマグネット61cの間をドリフトしている電子は、ドリフト方向の前方側にはカスプ磁界が存在しないので、カスプ磁界の拘束から解放されてマグネット群52の外方に飛び出していく。こうして、内側マグネット群54の最外周のマグネットから電子が飛び出していくため電子損失が大きくなり、電子密度を高くすることができなくなる上、外周部の電子密度が小さくなるため、電子密度の面内均一性も低下してしまう。
【0068】
図6〜図8はマグネット配列体5をターゲット31側から見た平面図である。このように、リターン用マグネット53は、電子をマグネット群52の隙間からマグネット群52の外に飛び出させずに内側に戻す役割を果たしているため、当該作用を発揮するようにライン状に配列されればよい。外側マグネット62dに対応して設けられたリターン用マグネットマグネット53dを例にして説明すると、本発明者らは、リターン用のマグネット53dが外側マグネット62dと異なる極性を持つと共に、当該外側マグネット62dに対向して直線状又は曲線状に、かつその両端部を当該外側マグネット62dの両隣りの外側マグネット61c、61d側まで伸ばすように配列されるものであれば、前記作用を得られると捉えている。従って、図7に示すように、平面形状が略円弧状のリターン用マグネット531を用いるようにしてもよいし、図8に示すように、例えば点状マグネット60を複数個ライン状に配列してリターン用マグネット532を構成するようにしてもよい。この場合、点状マグネット60を互いに接触させて配列する場合の他、電子の飛び出しを防いで内側に戻す役割を果たす場合には、点状マグネット60を互いに僅かに間隔を開けて配列するようにしてもよい。例えば点状マグネットを用いる場合には、一つの点状マグネットの直径が15乃至25mm、高さが10乃至15mm、表面磁束密度が2乃至3kGのものを用いることができ。この際、その長さ方向の配列数や積層数により磁力を調整することができ、磁力の調整のために、磁力の強さの異なるものを配列するようにしてもよい。
【0069】
このようにして電子は、一つのマグネット61、62だけではなく、全てのマグネット61、62を周回するように飛び回りながら加速され、Arガスとの衝突と電離を繰り返す。この際、リターン用マグネット53と内側マグネット群54との間においても電離は起こり、これにより発生した二次電子は同様にドリフトして内側マグネット群54の領域に入ることによって、マグネット群52が形成された領域全体の電離に寄与する。この結果、ターゲット31の直下近傍において、高密度のプラズマを高い面内均一性で生成することができる。また、内側マグネット群54の最外周における磁束の発散が抑制され、磁束のバランスを確保できるので、この点からもプラズマ密度の面内均一性が高くなる。
【0070】
こうして、Arガスの電離を繰り返すことによりArイオンを生成し、このArイオンによりターゲット31がスパッタされる。これによりターゲット31表面から叩き出されたタングステン粒子は真空容器2内に飛散していき、この粒子が載置部4上のウエハ10表面に付着することで、ウエハ10にタングステンの薄膜が形成される。また、ウエハWから外れた粒子は、チャンバシールド部材44やホルダシールド部材45に付着する。この際、載置部4には高周波電力が供給されているので、Arイオンのウエハ10への入射が誘引され、ヒータ43による加熱との相乗作用により緻密で抵抗の低い薄膜が形成される。
【0071】
ターゲット31のエロージョンは既述のように、互いに異極のマグネット同士の間の中間部(中心及びその付近)に形成されるが、上述のマグネット配列体5では、マグネット61、62をマトリックス状に配列しているので、エロージョンが発生する箇所が多く、ターゲット31の全面に亘って周期的にエロージョンが形成される。また、既述のように、ウエハ10の投影領域全体に亘って、プラズマ密度をより均一にすることができるため、エロージョンの進行の程度が揃えられ、この点からも面内均一性が高くなる。
【0072】
この際、エロージョンの均一性をより高くするために、マグネット配列体5を回転機構56により鉛直軸回りに回転させている。プラズマ密度をミクロ的に見ると、水平磁場に基づく高低が形成されているが、マグネット配列体5を回転させることにより、このプラズマ密度の高低が均されるからである。さらに、この実施の形態では、マグネット配列体5を、ベース体51の中心から偏心させた位置を中心として回転させているので、後述の実施例から明らかなように、成膜速度分布の均一性がより高くなる。
【0073】
つまり、マグネット配列体5では、水平磁束密度がターゲット31の面内において均一に分配されるように形成され、マグネット61、62同士の間の中間部にエロージョンが発生するが、マグネット61、62の直下のカスプ部分には、水平磁場がなく、電離が起こらないので、スパッタが起きにくい。このため、マグネット61、62の直下の成膜速度が他の部分よりも小さくなり、直径方向でみれば、成膜速度分布は小さな凹凸が周期的に存在する形状となる。従って、マグネット配列体5を偏心回転させると、この凹凸が相殺され、より均一な成膜速度分布を得ることができる。
【0074】
この際、エロージョンを起こす部分が円周方向で交互に起こり、エロージョンが時間的に平準化し、エロージョンの回転対象が多くなるように、マグネット配列体5を形成すれば、回転数が少なくても成膜速度分布の均一化を図ることができるので、高速で短時間で成膜する際に有利となる。
【0075】
また、このようにエロージョンの面内均一性が高いことから、本発明では、ウエハ10とターゲット31との距離を30mm以下と接近させた状態でスパッタ処理が行われる。つまり、エロージョンの形状が成膜速度分布に反映されるため、エロージョンの均一性が高い場合には、ターゲット31にウエハ10を近付けても高い成膜速度分布の均一性を得ることができるからである。この際、ターゲット31からウエハ10を離すと、後述する実施例から明らかなように、ウエハ10の外周部における成膜速度が低下してしまう。これはターゲット31の外周側でスパッタされた粒子がウエハ10の外方へ飛散してしまい、成膜効率が低下するためである。
【0076】
このように本発明では、成膜速度の面内均一性を確保するためには、ウエハ10とターゲット31との距離を30mm以下に接近させてスパッタ処理をすることが必要である。但し、ターゲット31とウエハ10とを接近させ過ぎると、プラズマの生成空間が小さくなり過ぎ、放電が発生しにくいため、ターゲット31とウエハ10との距離は10mm以上に設定することが好ましい。
【0077】
そして、ウエハ10がターゲット31の直下に配置されているので、ターゲット31からスパッタされた粒子が速やかにウエハ10へ付着していく。このため、ウエハ10の薄膜の形成に寄与するスパッタ粒子が多くなり、成膜効率が高くなる。ここで、図9に、ターゲット31とウエハ10との距離と、成膜効率及び成膜速度の面内均一性との各関係を示す。横軸がターゲット31とウエハ10との距離、左縦軸が成膜効率、右縦軸が成膜速度の面内分布を夫々示している。成膜効率については、実線A1にて本発明の構成、二点鎖線A2にて従来の構成(図23に示す構成)のデータを夫々示し、成膜速度の面内均一性については、一点鎖線B1にて本発明の構成、点線B2にて従来の構成のデータを夫々示している。
【0078】
面内分布に着目すると、本発明では、ターゲット31とウエハ10との距離が小さい程均一性が高く、前記距離が大きくなるにつれて次第に低下していく。また、成膜効率に着目すると、ターゲット31とウエハ10との距離が小さい程、成膜効率が高く、前記距離が大きくなるにつれて次第に低下していく。このように、本発明の構成では、ターゲット31とウエハ10との距離が小さい程、成膜速度の面内均一性、成膜効率が共に良好になり、成膜速度の面内均一性と成膜効率の両立を図ることができる。
【0079】
これに対して、従来の構成では、ターゲット31とウエハ10との距離が小さい場合には、成膜速度の面内均一性が非常に低く、前記距離が大きくなるにつれて高くなり、ある距離を過ぎると再び低下していく。このため、高い面内均一性を確保しようとすると、ターゲット31とウエハ10との距離を大きく取らざるを得ないが、前記距離を大きくすると、成膜効率については本発明の構成に比べてかなり低くなってしまう。
【0080】
上述の実施の形態によれば、開放端のない閉じた網目状の水平磁場が形成されているので、既述のように、ターゲット31の直下において、ウエハ10の投影領域全体に亘って均一なプラズマを形成することができ、またエロージョンの面内均一性が高い。このため、ウエハ10とターゲット31との距離を30mm以下と接近させてスパッタ処理を行うことができる。この結果、ウエハ10から外れてチャンバシールド部材44やホルダシールド部材45に付着するスパッタ粒子が少なくなるので、成膜効率を向上させることができ、速い成膜速度を得ることができる。
【0081】
また、ターゲット31のエロージョンには、ミクロ的に見れば凹凸があるが、一部の凹部が他の部分に比べて深くなるといったことがなく、面内全体で一様にエロージョンが進行する。このため、ターゲット31の寿命が長くなり、ターゲット31の使用効率を高くすることができる。
【0082】
さらに、上述の実施の形態によれば、マグネット要素63を集合させたマグネット61、62を用いており、連続した水平磁場が長く取れるため、電子が加速されドリフトする距離が長い。このため、電離の機会が多くなるので、プラズマ密度が高くなる。その結果、ターゲット31ではエロージョンが速やかに進行して、多くのスパッタ粒子が放出されるので、成膜速度が増大する。
【0083】
さらにまた、マグネット要素63を集合させてマグネット61、62を構成しているので、一つのマグネット61、62の磁力の調整を容易に行うことができる。また、マグネット61、62内のマグネット要素63の数を調整できるため、N極のマグネット要素63とS極のマグネット要素63との数を同数にすることができて、N極とS極の磁束のバランスを取ることができる。これにより、水平磁場の偏りが抑えられ、エロージョンの形成及び成膜速度の面内ばらつきの発生を抑制することができる。
【0084】
さらにまた、内側マグネット群54の配列の中心Oから見たときに、その中心Oが同一半径上にあるマグネット62a〜62d同士(マグネット61b〜61e同士)では、マグネット要素63の数が同数に設定されており、前記中心Oから見たときに、外側のマグネットに向うに連れてマグネット要素63の数が少なくなるように設定されているので、後述の実施例より明らかなように、成膜速度の面内均一性をさらに高めることができる。
【0085】
つまり、内側マグネット群54の最外周の4つの角部に配置されたN極のマグネット61b、61c、61d、61eでは、4つの辺の2つに対しては、これらの辺と隣接して磁束の収束先であるS極のマグネット62が存在するが、残りの2つの辺については、対応するS極のマグネット62が存在しない状態である。このため、隣接するマグネット62との間との磁束が多くなり、その部分の水平磁場が強くなってしまう。従って、上述の実施の形態のように、これらマグネット61b、61c、61d、61eを構成するマグネット要素63の個数を少なくして磁力を小さくすれば、水平磁場のバランスを取ることができる。ここで、これらマグネット61b、61c、61d、61eの磁力は、マグネット要素63の個数を変えずに、表面磁束密度の小さいマグネット要素63を用いることによって小さくするようにしてもよい。
【0086】
このように、本発明の構成によれば、図33に示す従来のマグネトロンスパッタ装置に比べて成膜効率を400%(4倍)程度に向上させることができるので、例えばターゲット31とウエハ10との距離が20mmの場合には、印加電力が4kWh程度であっても、300nm/min程度の成膜速度を確保することができ、消費電力を抑えて、低コスト化を図ることができる。また、ターゲット31の使用効率も80%程度と高くなるので、この点からも低コスト化を図ることができる。
【0087】
上述の実施の形態では、マグネット61、62の平面形状は、正方形状である場合には限定されず、直方形状であってもよいし、円形状であってもよい。また、1つのマグネット61、62に収納されるマグネット要素63の最大数は8個には限らない。さらに、マグネット61、62に収納されるマグネット要素63の数は、上述の図2に記載した例に限定されず、例えば図10に示すように、全てのマグネット61、62を8個のマグネット要素63の集合体により構成してもよい。このようなマグネット配列体5Aでは、マグネット要素63の表面磁束密度を調整することにより、内側マグネット群54Aにおいて、最外周に位置する外側マグネットの磁力を、当該外側マグネットよりも内側に位置するマグネットの磁力よりも小さくするように調整してもよい。
【0088】
ここで、上述の例では、マグネット要素63はケース体64に収容しているので、所定のマグネット要素63を予めケース体64に収容しておくことによって、マグネット配列体5の組み立てを容易に行うことができるというメリットがあるが、必ずしもマグネット要素63をケース体64に収容する必要はない。また、既述のように、ウエハ10の大きさに合わせてマグネット61、62、リターン用のマグネット53の設置数を増減すればよく、この場合も同様の効果を得ることができる。さらにまた、上述の例では、ターゲット31の外縁をマグネット群52の内側に設定したが、ターゲット31の外縁をマグネット群52の外側に設定するようにしてもよい。
【0089】
さらに、マグネット配列体5は、ベース体51の中心Oから偏心させて回転させているので、この偏心回転時に、ウエハ10の外縁から50mm外方の領域に、内側マグネット群54とリターン用のマグネット53の離間部分があるように設定すれば、成膜速度分布の均一性を良好にすることができる。同様に、偏心回転時にターゲット31の外縁が内側マグネット群54の外縁とリターン用マグネット53との離間部分に位置するようにターゲット31とマグネット配列体5の大きさを設定すれば、ターゲット31の全面でエロージョンを形成することができ、均一な成膜処理を行うことができる。
【0090】
続いて、マグネット配列体511の他の例について説明する。図11に示すマグネット群521は、円柱状の点状マグネット611、621を3列×3行のマトリックス状に配列して内側マグネット群541を構成した例であり、各点状マグネット611、621は、互いに等間隔を開け、かつ隣接する点状マグネット611、621の極性が互いに異極になるように配列されている。この例においても、リターン用マグネット531は、内側マグネット群542を囲むようにライン状に配列されており、図11に矢印にて電子がドリフトする方向を示している。前記点状マグネット611、621としては、例えば直径20〜30mm、厚さが10〜15mm、表面磁束密度が4〜5kGのものを用いることができ、点状マグネット611、621の中心同士の距離は例えば60mmに設定される。
【0091】
この例においても、上述の実施の形態と同様に、ターゲット31の直下において、ウエハ10の投影領域全体に亘って均一なプラズマを形成することができ、またエロージョンの面内均一性が高い。このため、ターゲット31とウエハ10とを接近させてスパッタを行うことができるので、成膜効率を高くしながら、高い成膜速度の面内均一性を確保することができ、ターゲット31の使用効率も向上する。また、点状マグネットとしては、円柱状のみならず、例えば一辺が20〜30mmの正三角柱状や、一辺が20〜30mmの立方体状のもの等を用いることができる。
【0092】
また、マグネットはn列×m行のマトリックス状に配列してもよい。図12に示すマグネット配列体512のマグネット群522は、円柱状の点状マグネット611、621を6列×6行のマトリックス状に配列して内側マグネット群542を構成している。この例においても、点状マグネット611、621が、縦横に互いに等間隔を開け、かつ隣接する点状マグネット611、621の極性が互いに異極になるように配列されている。図12中矢印は電子がドリフトする方向を示している。
【0093】
また、内側マグネット群542の外側には、これら内側マグネット群542を囲むように、同じ極性のリターン用マグネット532がライン状に配列されている。この例では、前記n、mが偶数であるので、内側マグネット群542の最外周に配列された点状マグネットは、その両端に極性の異なる点状マグネットが位置している。このため、内側マグネット群542の角部のS極点状マグネット621a、621bの近傍では、当該点状マグネット621a、621bを囲むように、N極のリターン用マグネット532aが円弧状に配列される。
【0094】
従って、このマグネット配列体512では、内側マグネット群542の角部においても、電子がカスプ磁界の外に飛び出すことが阻止され、電子損失を抑制することができる。このため、上述の実施の形態と同様に、ターゲット31の直下において、ウエハ10の投影領域全体に亘って均一なプラズマを形成することができ、またエロージョンの面内均一性が高くなる。このため、ターゲット31とウエハ10とを接近させてスパッタを行うことができ、成膜効率を高くしながら、高い成膜速度の面内均一性を確保することができる上、ターゲット31の使用効率が向上する。
【0095】
さらに、点状マグネットの形状は、上述のマグネット要素63の集合体や、円柱状に限らず、三角柱状であってもよい。図13に示すマグネット配列体513のマグネット群523は、三角柱状のマグネット612、622を配列して内側マグネット群543を構成した例である。この例においては、マグネット612、622の平面形状は略二等辺三角形状に構成され、互いの斜辺同士を間隔を開けて対向するように配列して一つのユニット631を形成し、このユニット631をマトリックス状に配列して、内側マグネット群543を形成している。この例においても、隣接するマグネット611、622の極性が互いに異極になるように配列されている。
【0096】
また、内側マグネット群543の外側には、これら内側マグネット群543を囲むように、リターン用マグネット533、534がライン状に配列されている。この例のリターン用マグネット533、534は、平面形状が長方形状の4つのマグネット533a〜533dと、平面形状が略L字状の2つのマグネット534a、534bとにより構成されている。
【0097】
前記リターン用マグネット533a〜533dは、この例では、内側マグネット群543の前記左右方向及び奥行方向の両側に夫々設けられ、内側マグネット群543の最外周の中央に配置されたマグネット622a、622b、612a、612bとは異なる極性に設定されている。さらに、前記リターン用マグネット534a、534bは、内側マグネット群543の互いに対向する2つの角部に対応して、この例では、右下角部及び左上角部に設けられている。こうして、内側マグネット群543の角部のマグネット612c、622cの近傍では、当該マグネット612c、622cを囲むように、異極のリターン用マグネット534a、534bが配列されている。図13に示す矢印は、電子のドリフト方向を示している。
【0098】
従って、このマグネット配列体513においても、内側マグネット群543の最外周のマグネット612、622の多くをカバーするようにリターン用マグネット533、534が配置されるので、電子がカスプ磁界の外に飛び出すことが阻止され、電子損失を抑制することができる。
【0099】
従って、上述の実施の形態と同様に、ターゲット31の直下において、ウエハ10の投影領域全体に亘って均一なプラズマを形成することができ、またエロージョンの面内均一性が高くなる。このため、ターゲット31とウエハ10とを接近させてスパッタを行うことができ、成膜効率を高くしながら、高い成膜速度の面内均一性を確保することができる上、ターゲット31の使用効率が向上する。
【0100】
さらに、本発明では、図14に示すように、平面形状が長方形状のマグネット71、72を、例えばその長さ方向が奥行方向に揃うように、互いに間隔を開けて、隣接するマグネット同士が互いに異極になるように配列すると共に、これらマグネット71、72の周囲に、電子の飛び出しを抑えるためにライン状のマグネット73(731、732)を配列するようにしてもよい。
【0101】
この例のマグネット配列体514では、N極のマグネット71とS極のマグネット72の数を揃えるために、これらの最外のマグネット同士は互いに異極になるように設定されている。また、ライン状マグネット73は、例えば平面形状が円弧状に形成され、N極のマグネット731とS極のマグネット732とを備えている。これらライン状マグネット731、732は前記左右方向に伸びるように配列され、前記左右方向の両側のマグネット71、72の長さ方向の両端同士を、複数個のライン状のマグネット731、732により接続するように構成されている。こうして、これらマグネット71、72、ライン状マグネット731、732によりマグネット群524が構成されている。図14中の矢印は、電子のドリフト方向を示している。
【0102】
このような構成では、マグネット71、72により形成されるカスプ磁界の磁束が互いに結合するので、これらマグネット間71、72に水平磁場が形成され、電子がドリフト運動し、電離を起こす。マグネット71、72の両端部では、本来開放端で電子が磁界の外に飛び出し、電子損失を起こすが、ライン状マグネット731、732を配置しているので、電子がカスプ磁界の拘束から解放されてカスプ磁界の外に飛び出すことを阻止している。このため、電子損失が抑制され、電子密度の増大と均一化を図ることができる。
【0103】
これにより、上述の実施の形態と同様に、ターゲット31の直下において、ウエハ10の投影領域全体に亘って均一なプラズマを形成することができ、またエロージョンの面内均一性が高くなる。このため、ターゲット31とウエハ10とを接近させてスパッタを行うことができ、成膜効率を高くしながら、高い成膜速度の面内均一性を確保することができる上、ターゲット31の使用効率が向上する。
【0104】
さらにまた、本発明では、マグネット配列体515のマグネット群525を図15に示すように、構成してもよい。このマグネット群525は、平面形状が正方形状のマグネット81、82をマトリックス状に、隣接するマグネット81、82同士が互いに異極になるように配列すると共に、これらマグネット81、82を囲むように、平面形状が略コ字状であって極性がマグネット81、82とは異なるライン状のマグネット83、84を設け、さらにライン状のマグネット82、83の外側に、平面形状が長方形状のライン状のマグネット85を配列して構成されている。
【0105】
このような構成では、マグネット81、82のカスプ磁界の磁束と、ライン状マグネット83、84、85のカスプ磁界の磁束とが互いに結合して水平磁場回路網が形成されているので、その水平磁場に沿って電子が図15に矢印にて示す方向にドリフト運動して電離を起こす。この際、ライン状マグネット83〜85を配置しているので、電子がカスプ磁界の拘束から解放されてカスプ磁界の外に飛び出すことが阻止される。このため、電子損失が抑制され、電子密度の増大と均一化を図ることができる。これにより、上述の実施の形態と同様に、ターゲット31の直下において、ウエハ10の投影領域全体に亘って均一なプラズマを形成することができ、またエロージョンの面内均一性が高くなる。このため、ターゲット31とウエハ10とを接近させてスパッタを行うことができ、成膜効率を高くしながら、高い成膜速度の面内均一性を確保することができる上、ターゲット31の使用効率が向上する。
【0106】
また、ターゲットの材質としては、タングステン以外に、銅(Cu)、アルミニウム(Al)、チタン(Ti)、窒化チタン(TiN)、タンタル(Ta)、窒化タンタル(TaNx)、ルテニウム(Ru)、ハフニウム(Hf)、モリブデン(Mo)等の導電体や、酸化シリコン、シリコンナイトライド等の絶縁体が用いることができる。この場合、絶縁体よりなるターゲットを用いる場合には、電源部から高周波電圧を印加することにより、プラズマが生成される。また、導電体よりなるターゲットに対して高周波電圧を印加してプラズマを生成するようにしてもよい。
【0107】
さらに、マグネット配列体は回転機構により、ベース体の中心を回転中心として鉛直軸まわりに回転させるようにしてもよい。さらにまた、必ずしも載置部を電極として用いる必要はなく、当該載置部に高周波電力を供給する必要はない。さらに、前記マグネット配列体は、カスプ磁界による電子のドリフトに基づいて被処理基板の投影領域全体に亘ってプラズマが発生するように、マグネット群を構成する複数のN極及びS極がターゲットに対向する面に沿って互いに間隔をおいて配列されればよく、マグネットの配列は上述の例に限らない。例えば、内側マグネット群を構成するマグネットの配列間隔や形状をベース体の面内において変化させるようにしてもよい。
【0108】
また、マグネット群は、マグネット配列体を回転させたときに、被処理基板の投影領域全体に亘ってプラズマが発生するように構成されればよい。従って、マグネット配列体を偏心回転させるときには、回転時に被処理基板の外縁の一部がマグネット群の外側に位置する場合も、被処理基板の投影領域全体に亘ってプラズマが発生する場合に含まれる。
【0109】
さらにまた、前記リターン用のマグネットよりも内側に位置するマグネット群は、N極に対応するマグネットの強さの合計と、S極に対応するマグネットの強さの合計とが揃っていればよく、マグネットの強さは、マグネットの個数や大きさ等、いずれの手法により調整してもよい。
【0110】
次に、既述のマグネット配列体に補助マグネットを設けることにより、ターゲットの下面側における水平磁場の強度を調整する手法について述べる。図22は、図10に示すマグネット配列体5に補助マグネット65を設けた例を示しており、ターゲット31側からマグネット配列体5Aを見た平面図である。図10に示すマグネット配列体5のマグネット61、62及び53は、後述の図24に示すようにターゲット31側とその反対側とでは、互いに異なる磁極となるように着磁されている。そして補助マグネット65は、マグネット61と62との間隙、及びマグネット53と62の間隙とを埋めるように直方体状に形成されている。図23に示すように、補助マグネット65は長さ方向と直交する方向に磁極が分けられており、長辺である一辺側にN極、当該一辺と対向する他辺側にS極が夫々着磁されている。
【0111】
ターゲット31側における補助マグネット65の磁極とマグネット61(62、53)の磁極との関係については、補助マグネット65の一辺に隣接するマグネット61(62、53)の磁極と当該補助マグネット65の一辺側の磁極とが同極となるように設定されている。従ってマグネット配列体5Aについて、ターゲット31とは反対側(ベースプレート51側)においては、図24に示すように、補助マグネット65の一辺に隣接するマグネット61(62、53)の磁極と当該補助マグネット65の一辺側の磁極とが異極となる関係になっている。
【0112】
このような補助マグネット65を備えたマグネット配列体5Aにおける磁界の様子を、マグネット61、62の間に補助マグネット65を設けた部位を例にとって、図24に示す。また、補助マグネット65を用いないマグネット配列体5における磁界の様子を比較のために図25に示す。
【0113】
ベースプレート51側においては、マグネット61、62により発生する磁力線と補助マグネット65により発生する磁力線との向きが逆向きであるため、マグネット61、62による水平磁場が補助マグネット65の水平磁場により打ち消されて弱められるかあるいは消失する。
【0114】
一方、ターゲット31側においては、マグネット61、62により発生する磁力線と補助マグネット65により発生する磁力線との向きが同方向であるため、マグネット61、62による水平磁場が補助マグネット65の水平磁場と重畳され、水平磁場が強められる。
【0115】
補助マグネット65として、マグネット61、62と同じ磁力のマグネットを使用すれば、マグネット配列体5Aにおけるターゲット31側に生じる磁界の強さは2倍となり、一方ベースプレート51側においては磁界は略0となる。ターゲット31側に生じる磁界の強さは補助マグネット65の磁力の大きさにより調整可能であり、表面磁束密度、補助マグネット65の高さあるいは幅により調節することができる。
【0116】
代表的な補助マグネット65である直方体の大きさは、幅寸法がマグネット61、62の径または辺と同じ幅寸法である20〜30mmであり、長さ寸法がマグネット61と62の間の距離である30mm、高さ寸法がマグネット61、62の高さの1/3、1/2、1/1である。また補助マグネット65の表面磁束密度は4〜5kGaussである。補助マグネット65の表面磁束密度とマグネット61、62の表面磁束密度が略同じであれば、略マグネット61、62の高さに対する補助マグネット65の高さの割合だけ、ターゲット31側に生じる磁場が増大する。よって前述したように補助マグネット65の高さをマグネット61、62の高さの1/3、1/2、1/1に設定したとき、ターゲット31側に生じる磁場の強さは夫々約30%、約50%、約100%増大する。ベースプレート51側における磁場の打ち消し量も同様となる。また、補助マグネット65の高さをマグネット61、62と同一にし、幅を1/3、1/2、1/1とした場合も同様の効果が得られる。
【0117】
補助マグネット65は図10に示すマグネット配列体5に設けることに限られない。図26は、図11に示すマグネット配列体511に対して補助マグネット651を設けた例を示しており、補助マグネット651における磁極とマグネット611、621、531との位置関係は図22の例と同様である。また作用効果も同様である。
【0118】
さらに、本発明の発明者は上述してきた実施の形態から得られた知見に基づいて、本実施形態のマグネトロンスパッタ装置を用いて、スパッタ成膜の面内均一性を保ちつつランニングコストを飛躍的に低減させる手法について検討を重ねた。ランニングコストを低減するためには成膜効率及びターゲット31の使用効率をさらに上昇させ、かつ成膜速度を向上させることが重要であると考えられる。
【0119】
成膜効率を上昇させるためには、ターゲット31の下面とウエハ10の表面との間の距離であるTSを縮めることが効果的である。ターゲット31に印加する電力が一定であるとすると、TSが短いほど成膜量は格段に向上する。しかしTSを縮小しすぎると、十分な面内均一性が得られない。従って高い成膜量を保ちつつ十分な面内均一性が得られるTSの範囲を把握する必要がある。
【0120】
一方、ターゲット31の使用効率を向上させるためには、ターゲット31に生じるエロージョンを均一化することが効果的である。エロージョンの形状が均一であれば最大のターゲット使用効率が得られるからである。従って、TSを適切な値に設定すれば十分な成膜効率が得られると共に、均一エロージョン下で必要な成膜分布が得られる。
【0121】
そこで、成膜の均一性に着目し、上述の実施形態にかかるマグネトロンスパッタ装置を用いたスパッタリングにおいて、TSとターゲット径との関係についてシミュレーションを行った。エロージョンについては、ターゲットから粒子が等方的に放射されており、TSの二乗に比例してターゲットを構成する粒子の量がスパッタされて減少し、均一なエロージョンが形成されているものと仮定した。
【0122】
シミュレーションの結果を図27及び図28に示す。当該シミュレーションにおいて、ウエハ10における膜厚の面内均一性の評価については次式で算出する膜厚分布を用いた。
膜厚分布(%)={標準偏差(1σ)/各点の膜厚の平均値}×100
具体的には、ウエハ径300mmの場合において、ターゲット径を300mmから500mmまで20mmずつ増大させ、各ターゲット径毎に、TSを10.0mmから100.0mmまで10mmずつ増加させて、膜厚分布をシミュレートした。図27はターゲット径を横軸に取り、膜厚分布を縦軸にとって、TSをパラメータとしてターゲット径と膜厚分布との関係を示すグラフであるが、線図の重なりによる図示の煩雑さを避けるために、TSが50〜90mmの線図については図示を省略している。図27において、TSが50〜90mmの線図は、TSが40mmの場合と100mmの場合との間に位置している。このグラフから、ターゲット径が大きいほど、またTSが短いほど膜厚分布が向上することが分かる。
【0123】
図28の左側(実線)のグラフa1は、図27のグラフにおける膜厚分布3%のラインと各曲線との交点をプロットし直したものである。図28の横軸はターゲット径、縦軸はTSのターゲット径に対する百分比である。図28の右側(破線)のグラフb1は、上述したシミュレーションと同様のシミュレーションをウエハ径450mmの場合に対しても行い、膜厚分布3%の場合におけるターゲット径とTSのターゲット径に対する百分比との関係を、同様に夫々横軸と縦軸にしてプロットしたものである。
【0124】
300mm径のウエハ量産の現場で用いられるターゲット径は、一般的に450mm〜500mmであることから、450mm径ウエハにおけるターゲットについては、300mmウエハの場合の相似形を想定し、ターゲット径を50mm〜700mmに設定した。図28の実線から、300mm径ウエハについて膜厚分布が3%となるTSは、ターゲット径が450mmのときターゲット径の約2.4%(=約11mm)、ターゲット径が500mmのときターゲット径の約5.5%(=約27.5mm)であることがわかる。
図26の破線から、450mm径ウエハについて膜厚分布が3%となるTSは、ターゲット径が650mmのときターゲット径の約2.5%(=約16mm)、ターゲット径が700mmのときターゲット径の約5.3%(=約37mm)であることがわかる。
【0125】
従って膜厚分布が3%以下となるターゲット径(mm)に対するTS(mm)の比率(百分比)は、300mm径ウエハの場合には図28のグラフa1の下方側領域であり、450mm径ウエハの場合には同図のグラフb1の下方側領域である。前記比率((TS/R)×100%)をY%、ターゲット径をR(mm)とし、グラフa1、b1についてYとRの近似式で表すと夫々式(1)、(2)となる。
300mm径ウエハ…Y=0.0006151R2−0.5235R+113.4…(1)
450mm径ウエハ…Y=0.0003827R2−0.4597R+139.5…(2)
従って、膜厚分布が3%以下であることが好ましいプロセスであるとするならば、当該好ましいプロセスを行うためには、300mm径ウエハでは式(1’)、450mm径ウエハで式(2’)の関係が成立すればよい。
Y≦0.0006151R2−0.5235R+113.4…(1’)
Y≦0.0003827R2−0.4597R+139.5…(2’)
【0126】
ところで(1’)式、(2’)式は近似式であり多少の誤差がある。またウエハにスパッタされた薄膜について既述の式で定義された膜厚分布が3%を多少越えていても膜厚分布が良好であるという評価に影響を与えるものではないということができる。更にまたTSをディジタル的に変えたときのシミュレーションによる図27の結果に基づいて図28のグラフ(既述の近似式(1))を求めている。このようなことを総合すれば、膜厚分布が良好であるという効果が得られるTSの上限値(境界値)を既述の近似式(1)、(2)だけに頼って決定することは、最適であるとは言い難い。例えば、ウエハ径が300mmであり、ターゲット径が500mmであるときに、膜厚分布3%以下となるTSの上限値は(1)式により計算すると、27.125mmである。しかしTSが30mmである場合にも、図27のグラフから膜厚分布が3%を多少越えるが、膜厚分布が良好であるという評価をすることができる。またウエハ径が300mmであり、ターゲット径が450mmであるときに、膜厚分布3%以下となるTSの上限値は(1)式により計算すると、10.722mmである。しかしTSが12mmである場合にも、図27のグラフから膜厚分布が3%を多少超えるが、超える分はわずかであることから、その効果は膜厚分布が3%であるという効果と実質変わりはない。
【0127】
またウエハ径が450mmであり、ターゲット径が700mmであるときに、膜厚分布3%以下となるTSの上限値は(2)式により計算すると、36.631mmである。しかしTSが40mmである場合にも、膜厚分布が3%を多少越えるが、膜厚分布が良好であるということができる。そこで、膜厚分布が良好であるためのTSの上限値を決定する指標として既述の(1)、(2)式を活用することとし、得られたTSの値に対して多少のマージンを与えることにより、上限値(境界値)の決定に適切性を持たせることとした。このマージンが大きすぎれば発明の効果が得られ難くなるが、明細書の性格として発明を明確化する要請があり、この観点から本発明の目的が得られることに疑いが生じない範囲においてマージンを決定した。具体的には、ウエハが300mmの場合には、(1)で求められたTSの値に10%上増しした値を上限値とし、ウエハが450mmの場合には、(2)で求められたTSの値に10%上増しした値を上限値とする。
【0128】
この意味を式で表すと、ウエハが300mmの場合には、適切なTS(mm)の値は、次式で求められる。
Y=(TS´/R)×100(%)=0.0006151R2−0.5235R+113.4
TS≦1.1TS´…(3)
TS´は、(1)式から求めたウエハとターゲットとの間の適切な離間距離であり、TSは、このTS´に10%のマージンを与えた適切な離間距離の上限値である。
【0129】
またウエハが450mmの場合には、適切なTSの値は、次式で求められる。
Y=(TS´/R)×100(%)=0.0003827R2−0.4597R+139.5
TS≦1.1TS´…(4)
【0130】
TSの下限値については規定していないが、上限値よりもわずかに小さくなると本発明の効果が得られなくなるものではないことから、下限値まで正確に規定する意義はないと思われる。なお本発明者は、スパッタのメカニズムなどを総合すると、TSが5mmよりも大きければ、例えば図28に示す各プロットにおけるTSの値と同等の効果が得られると推測している。
【0131】
一方、成膜速度向上の観点から、成膜速度とTSとの関係についてもシミュレーションを行った。具体的には、ウエハ径が300mm及び450mmの場合において、それぞれ3種類の直径が異なるターゲットを用いて、成膜速度のTSに対する依存性をシミュレートした。得られた結果を図29に示す。(a2)がウエハ径300mm、(b2)がウエハ径450mmのシミュレーションの結果である。300mm径ウエハの場合、従来はTSを70mmに設定している場合が多く、このためTS=70mmにおける成膜速度を基準に評価を行うことにする。また、450mm径ウエハの場合には、単純に相似で考えてTSは1.5倍の105mmにおける成膜速度を基準に評価を行うことにする。図29(a2)のグラフから、TS=70mmの場合の成膜速度の1.5倍の成膜速度が得られるTSを求めると、約35mmである。同様に図27(b2)のグラフから、450mm径ウエハの場合、TS=105mmの場合の成膜速度の1.5倍の成膜速度を得られるTSを求めると、約55mmである。従って評価基準に対して1.5倍以上の成膜速度が得られるTSの距離はウエハ径300mmの場合は35mm以下、450mmの場合は55mm以下である。このTSの距離を比率(TS/ターゲット径)に換算すると、ウエハ径300mmの場合には、ターゲット径が450mmであるとすると、TS/ターゲット径は約8%以下となる。ウエハ径450mmの場合には、ターゲット径が700mmであるとすると、TS/ターゲット径は約8%以下となる。
【0132】
この結果は、図28のグラフa1及びb1の下方側領域であれば、成膜速度についても、評価基準の成膜速度に比べて1.5倍の成膜速度が得られることを意味している。従って、比率Y(TS/ターゲット径R)と、ターゲット径Rとの関係が、既述の式(1’)及び(2’)を満足していれば、膜厚分布3%以下と成膜速度1.5倍以上を両立させた成膜が可能となる。
【0133】
またさらに、本実施形態のマグネトロンスパッタ装置を用いて、プロセス圧力を調整することにより、低抵抗の配線(導電路や電極を含む)を高速で成膜することができる。この手法について説明すると、ターゲット表面での磁場強度が例えば100G以上となるようにマグネット群の調整を行う。そしてプロセス圧力を13.3Pa(100mTorr)以上に設定すると共に、電源部33(図1参照)から直流電力をターゲット31に印加し、その電力値をターゲットの面積で除算した放電電力密度が例えば3W/cm2以上となる値に設定する。またターゲット31に印加する電圧は例えば300V以下とし、高周波電源部41から載置部4に印加する高周波電力は例えば500W〜2000Wとする。
【0134】
この条件下でスパッタリングを行うと、後述する実験例の考察で詳しく述べるように、ターゲットと基板(被処理基板)との距離が狭いこと、及び既述のようにマグネットにより基板の全面に亘って放電することから、基板付近においてもイオン密度の高い状態を維持でき、かつ13.3Pa以上の高圧力条件において大きな成膜速度でW膜を成膜することによって、高速かつ高効率のスパッタ及び成膜された膜の低抵抗化を両立できる。
【0135】
以上において、本発明のマグネトロンスパッタ装置は、半導体ウエハ以外の液晶や太陽電池向けガラス、プラスチック等の被処理基板のスパッタ処理に適用できる。
【実施例】
【0136】
(実施例1)
図11のマグネット配列体511を備えたマグネトロンスパッタ装置にて、既述の処理条件で成膜処理を行い、ターゲット電極3に印加する直流電圧と、電流密度との関係の評価を行った。この際、ターゲット31とウエハ10間の距離を30mmとした。また、マグネット配列体511においてリターン用マグネット531を設けない構成(比較例1)、図23に示す従来のマグネトロンスパッタ装置を用いた構成(比較例2)、マグネットを用いずに、直流電圧の印加によって放電させる構成(比較例3)についても、同様に評価を行った。
【0137】
この結果を図16に示す。図中横軸は、ターゲット電極3に印加する直流電圧、縦軸はターゲット31とウエハ10間の電流密度を夫々示し、実施例1については□、比較例1については◇、比較例2については△、比較例3については×にて、夫々プロットした。
【0138】
この結果、電流密度は、実施例1は2〜4mA/cm2、比較例1は0.2〜0.5mA/cm2であり、リターン用マグネットを設けることにより、電流密度がかなり大きくなることが認められた。これにより、リターン用マグネットの配列によって電子損失を抑制でき、プラズマ密度を増大できることが理解される。また、実施例1は比較例2と比べて、印加電圧が小さい場合にも高い電流密度を確保できることが認められた。また、400Wの電力の印加により、約100nm/minの成膜速度が得られることが確認された。
【0139】
(実施例2)
図2のマグネット配列体5を備えたマグネトロンスパッタ装置にて、マグネット配列体5を回転させずに、既述の処理条件で夫々成膜処理を行い、ウエハ径方向における成膜速度分布を求めた。また図2のマグネット配列体5に代えて図10のマグネット配列体5Aを設けた場合についても同様に成膜速度を測定した。この結果について、マグネット配列体5を設けた構成については図17に、マグネット配列体5Aを設けた構成については図18に夫々示す。
【0140】
ここで、マグネット配列体5とマグネット配列体5Aの差異は、マグネット61、62を構成するマグネット要素63の個数のみであるが、このマグネット要素63の個数を調整することによって、ウエハ10の径方向の成膜速度分布が変化することが認められた。これにより、マグネット要素63の個数の調整により、一つのマグネット61、62の磁力が調整され、結果的に成膜速度の面内均一性を制御できることが理解される。
【0141】
また、マグネット配列体5は、N極とS極の個数が同じであり、配列中心Oから同一半径にあるマグネット要素63の数が同じであり、さらに配列中心Oから離れるに連れて、マグネット要素63の数が減少するように構成されているが、図17の結果から、マグネット配列体5の構成を採用することにより、成膜速度がウエハ10の径方向において揃えられ、面内均一性が向上することが認められた。
【0142】
さらに、全てのマグネット61、62のマグネット要素63の個数を同じにした場合には、図18の結果からウエハ10の径方向の周縁部の一方側の成膜速度が大きくなっていることが認められた。これは、内側マグネット群54Aの4つの角部のマグネット61a〜61dでは、既述のように、隣接するマグネットとの間の磁束が多くなり、その部分の水平磁場が、内側の磁束のバランスが取れている領域よりも強くなるためと推察される。但し、このような成膜速度分布は、内側マグネット54Aの最外周の外側マグネットとリターン用マグネットとの距離や、ターゲット31とウエハ10との距離を調整したり、マグネット配列体5Aを鉛直軸まわりに回転させることにより、より均一な分布に近付けることができる。
【0143】
(実施例3)
図2のマグネット配列体5を備えたマグネトロンスパッタにて、ターゲット31とウエハ10との距離を20mmに設定して、マグネット配列体5を回転させずに既述の処理条件で夫々成膜処理を行い、ウエハ径方向の成膜速度分布を求めた。また、ターゲット31とウエハ10との距離を50mmに設定した場合についても、同様に成膜速度を測定した。この結果を図19に、マグネット配列体5のマグネット群5の配列と、ターゲット31のエロージョンの様子と共に示す。なお、この実施例3では、マグネット配列体5のマグネット群52よりも大きいターゲット31を用いている。
【0144】
これにより、ターゲット31とウエハ10との距離が20mmのときには、50mmのときに比べて、成膜速度の面内均一性が高いことが認められた。また、前記距離が20mmの場合には、約4kWhの電力でターゲット電極3に直流電圧を印加したときの成膜速度が300nm/minであり、50mmの場合に比べて平均の成膜速度も大きくなることが確認された。さらに、成膜速度のウエハ10の径方向の分布は、多少凹凸した形状になっているものの、ウエハ10の径方向において一定の周期で凹凸が形成されることが認められた。エロージョンが互いに異極のマグネット同士の中間部に形成されることから、成膜速度は、エロージョン形状を反映していることが理解される。
【0145】
さらに、前記距離が50mmのときには、ウエハ10の外周部の成膜速度が急激に低下することが認められた。これは、ターゲット31外周側でスパッタされた粒子が外方側へ飛散してしまい、ウエハ10に届く粒子が少なくなって、成膜効率が低下するためと推測される。なお、ウエハ10の中央側では、成膜速度の凹凸は弱まっているが、これは、ターゲット31からの距離が大きく、粒子が拡散し、エロージョンの影響を受けにくいためと考えられる。
【0146】
この実施例3から、本発明のマグネット配列体5は、ターゲット31とウエハ10を接近させたときに、成膜速度の均一性を確保できることが認められ、成膜速度の均一性と成膜効率の両立を図ることができることが確認された。
【0147】
(実施例4)
図2のマグネット配列体5を備えたマグネトロンスパッタ装置にて、ターゲット31とウエハ10との距離を20mmに設定して、マグネット配列体5を回転させながら既述の処理条件で成膜処理を行い、ウエハ径方向の成膜速度分布を求めた。この際、マグネット配列体5は、ベース体51の中心から25mm偏心させた位置を中心として鉛直軸まわりに回転させた。この結果を図20に実線にて示し、同図において、マグネット配列体5を回転させずに有る位置で静止させてスパッタ処理を行ったときのデータを一点鎖線、当該位置から1/4回転させた位置で静止させてスパッタ処理を行ったときのデータを点線にて併せて示す。
【0148】
この結果より、マグネット配列体5を静止させたときの成膜速度分布では、ウエハ10の径方向において周期的に凹凸が形成されるが、ベース体51の中心から偏心させて回転させることにより、前記凹凸が相殺され、結果的に成膜速度分布の均一化を図ることができることが認められた。
【0149】
(実施例5)
図2のマグネット配列体5を備えたマグネトロンスパッタ装置にて、ターゲット31とウエハ10との距離を20mmに設定し、マグネット配列体5を回転させながら、既述の処理条件で成膜処理を行い、ウエハ径方向の成膜速度分布を求めた。マグネット配列体5の偏心量は実施例4と同様とした。この際、内側マグネット群54の最外周の外側マグネットと、リターン用のマグネット53との離間間隔L3を5mmに設定した場合P1と、30mmに設定した場合P2について、夫々評価を行った。
【0150】
この結果を図21に、P1については実線で、P2については点線で夫々示す。これにより、前記離間間隔L3を変えると、成膜速度分布が変化することが認められ、マグネットの位置の調整により、エロージョン位置が制御できることが理解される。こうして、マグネットの大きさや配列、マグネット同士の間隔を最適化することにより、所望のエロージョンを形成し、成膜速度分布の最適化を図ることができることが認められた。
【0151】
(実施例6)
図2のマグネット配列体5を備えたマグネトロンスパッタ装置にて、直径が400mmのターゲット31と300mmウエハ10との距離を20mmに設定し、図2に示した装置においてマグネット配列体5を回転させながら成膜処理を行い、ウエハ径方向の成膜速度分布を求めた。投入電力密度は投入電力をターゲットの面積で割った値であり、これらについて4.5W/cm2、3.2W/cm2及び1.6W/cm2となる条件下で実施した。
【0152】
この結果を図30に示す。横軸は真空容器2内の圧力、縦軸は成膜速度である。投入電力密度が4.5W/cm2の場合を実線、3.2W/cm2の場合を点線、1.6W/cm2の場合を破線、図33に示すスパッタリング装置の場合を一点破線で示した。成膜速度はターゲットに印加する電力が大きいほど良好であり、4.5W/cm2の場合は、成膜速度は13.3Pa(100mTorr)付近まで圧力と共に増大し、450mm/minの成膜速度に達するとその後ほぼ一定となっている。また、3.2W/cm2の場合は、成膜速度は13.3Pa(100mTorr)付近まで圧力と共に増大し、300mm/minの成膜速度に達するとその後ほぼ一定となっている。一方、図33に示す装置における従来技術のスパッタリング(ターゲット−基板間距離=50mm)では、圧力が一定値を超えると成膜速度が低下していく。この結果の違いについての考察は、実施例7と併せて検討する。
【0153】
(実施例7)
実施例6にて用いたマグネトロンスパッタ装置により、プロセス圧力を種々変えて、圧力毎にターゲット電圧(ターゲットに印加する直流電圧)とターゲットに流れる電流密度との関係を求めた。プロセス圧力としては、0.91、3.59、13.0、19.6、23.3Pa(7、27、98、147、175mTorr)の5通りに設定した。
【0154】
この結果を図31に示す。横軸はターゲット電圧、縦軸はターゲットに流れる電流密度である(凡例を参照)。ターゲット31に供給する電力が同じであっても、圧力が高い条件では、電流密度が高く、電圧が低い状態になる。プロットから、同一ターゲット電圧に対し、高圧では電流密度が高くなる一方、低圧では電流密度が低くなることが確認できる。また、高圧力下でターゲット電力を増大させると、低圧力下の場合と異なり、ターゲット電圧をほとんど増加させずにターゲット電流密度を増加させることが出来る。この電流が高い状態は、プラズマ中のArイオンの数が増大することに対応する。圧力が高いと電子とアルゴン原子との衝突頻度が高くなり電離が激しく行われるため、アルゴンイオンの数が増え、ターゲットに流れる電流が増大する。圧力が高い場合、スパッタされた原子と、アルゴンイオンやスパッタ原子同士との衝突が激しく、拡散が起こり、ターゲット面に垂直方向の基板方向だけでなく、ターゲット面に水平方向の周囲の壁に向かってもスパッタ原子は拡散するため、成膜速度は低下してしまう。この現象は、ターゲットと基板間距離が大きいと顕著になるのは自明であり、従来のスパッタ技術では6.65Pa(50mTorr)以上の圧力で成膜速度は低下するが、本発明のナローギャップではより高い圧力でも成膜速度は低下しないのである。また、実施例6では3.2W/cm2で十分な成膜速度が得られているので、電力密度は3W/cm2以上で、本発明の目的を十分に達成できると推測できる。この高圧条件下でも成膜速度が高速度でかつ低下しないのは、ナローギャップであることと、本発明のマグネットにより、ターゲット全面で放電するからである。
【0155】
(実施例8)
実施例6に用いたマグネトロンスパッタ装置により、ターゲット投入電力密度を4.5W/cm2、3.2W/cm2及び1.6W/cm2の3通りに設定し、各設定条件毎に、プロセス圧力とウエハ10に成膜されたW膜の比抵抗について関係を調べた。
【0156】
この結果を図32に示す。横軸はプロセス圧力、縦軸はW膜の比抵抗である。投入電力密度が4.5W/cm2の場合を実線、3.2W/cm2の場合を点線、1.6W/cm2の場合を破線で示した。グラフから、投入電力密度が4.5W/cm2の場合、および3.2W/cm2の場合、W膜の比抵抗は圧力と共に10μΩ・cm付近まで低下する一方、1.6W/cm2の場合は11μΩ・cm程度までしか低下しない。
圧力と共に比抵抗が低下する理由のひとつは、圧力が増大するとArイオンの数も増大し、ウエハ10側に入射するArイオンの数が増大する結果W膜表面にエネルギーが付与され、W粒子の表面拡散が促進されるためと考えられる。別の理由としては、圧力の増大と共に前述した反跳Ar原子がエネルギーを失い、ウエハ10に到達しなくなったものとも推測できる。
【0157】
図32のグラフと併せて考察すると、真空容器2内の圧力の上限は、W膜が低抵抗で、例えば10μΩ・cm付近で成膜できる圧力であれば良く、この場合例えば約200mTorrである。投入電力密度の上限についても同様であり、例えば10μΩ・cm付近で成膜出来れば良いとすると、投入電力密度の上限値は例えば10W/cm2であると推測できる。
【0158】
ここで、W粒子の表面拡散について更に推考する。
非特許文献2には、スパッタリングにおいて入射粒子によって膜表面における表面拡散を起こすための条件が提案されている。これによると、膜表面に入射したエネルギーの総和がWの結合エネルギーの総和よりも大きいとき、W粒子は移動可能である旨の解釈がなされている。すなわち、
Wの結合エネルギーの総和<(J+/Jm)×Vdc…(5)
ここで、J+、Jm、及びVdcは夫々、入射粒子が全てイオンであるとした場合におけるイオンの数、同場合のW原子の数、及び基板の直上に形成されたシースに高周波電源41から加わる直流電圧である。前述したように基板に印加する高周波電力を大きくすると成膜したW膜にダメージを与えるため、Vdcを大きくするよりもJ+を大きくする方が望ましい。W膜のスパッタ閾値は33eVであり、Wの金属結合エネルギーは9eVである。よって(5)より
(J+/Jm)×33eV>9eV…(6)
が成り立つ。
【0159】
もしW膜の成膜速度が300nm/minであるとすると、Jm=3×1016/cm2secであるので、イオン入射量J+は、最低でもJ+=8×1015/cm2secとなる。J+が定まると空間イオン密度も定まる。この密度は、J+に比して104のオーダーで低いので、空間イオン密度のオーダーは最低でも1011/cm2である。また、圧力を増大させると、イオン密度が大きくなるので成膜速度も大きくなる。なお、ターゲット−基板間距離が30mmよりも広い通常のスパッタ装置の条件下では、低圧雰囲気となるので空間イオン密度のオーダーは109/cm2となる。このため通常のスパッタ装置ではイオン密度が小さい分Vdcを増大させる必要があるが、前述したように過剰なエネルギーを有したArイオンがW膜に引き込まれ、成膜されたW膜に欠陥が生じる。Wのスパッタ閾値は33eVであるから、イオンのエネルギーは数十eV程度のオーダーにするべきである。
【0160】
ここで、ターゲット面積当たりの直流電力投入密度が4.5W/cm2である場合、直流電圧を300Vとすると、電子ドリフト部の電流密度は15mA/cm2と算出される。ターゲットの面積はこれより小さいので、ターゲット近傍の電流密度はこの値よりも大きく、従ってターゲット近傍のイオン密度は約1×1012/cm3以上となる。非特許文献3によると、このときのJ+は以下の式で計算できる。
J+=0.61e・ni・uB…(7)
ここで、eは電子1個の電荷、niはイオン密度、uBはボーム速度である。
本実施例ではターゲットと基板間の距離が20mmと近距離であるため、イオン密度は基板近傍とターゲット近傍の密度との間に大きな違いはなく、1011/cm3程度のオーダーと推定できる。よって、従来技術のスパッタリングに比して2桁程度イオン密度が高いことが推測できる。
【0161】
上述してきたように、W膜の比抵抗を低下させるためには、イオン密度を高めることとVdcを低く抑えることが重要である。しかし従来のマグネトロンスパッタ装置では、高速な成膜速度を保ちつつこのような条件を得ることは困難である。よってW膜の比抵抗は高くなる。
具体的に説明すると、従来のマグネトロンスパッタ装置では、ターゲットと基板間の距離が長いので、基板上のイオン密度は109/cm3台と低く、放電も不均一で断続的にしかイオンが生じないので、従って局所的にしかプラズマ化できない箇所も存在するものと思われる。基板上でプラズマ化していない箇所では、スパッタされたWは飛来してはくるが、イオンが存在しないため、飛来したW粒子が基板表面に良好に成膜されない。一方プラズマ化された箇所ではイオンが存在するため、飛来したW粒子は基板表面で良好に成膜される。このため、W粒子の状態が良好な部分と粗悪な部分が積層され、全体としてコンディションの良くない膜が形成される。結果として、形成されたW膜の比抵抗は高くなってしまう。
一方、本発明では、ターゲットと基板間の距離が20mmというナローギャップであり、更に上述した数式(5)
Wの結合エネルギーの総和<(J+/Jm)×Vdc
を常に満たすうえ、全面放電であるからマグネット回転でも高密度で連続的にイオンが照射されるので、基板全体で良好なW粒子の堆積を可能にし、結果として比抵抗の低い膜が成膜される。又成膜速度も400nm/min以上という高速性が維持される。W以外のTa、Ti、Mo、Ru、Hf、Co、Niの成膜についても同様のことがいえる。
【符号の説明】
【0162】
S 半導体ウエハ
2 真空容器
24 真空ポンプ
3 ターゲット電極
31 ターゲット
4 載置部
41 高周波電源部
5 マグネット配列体
52 マグネット群
53 リターン用マグネット
54 内側マグネット群
【技術分野】
【0001】
本発明は、マグネトロンスパッタ装置及びマグネトロンスパッタ方法に関する。
【背景技術】
【0002】
半導体デバイスの製造工程で用いられるマグネトロンスパッタ装置は、例えば図33に示すように、低圧雰囲気に設定された真空容器11内に、基板12と対向するように成膜材料よりなるターゲット13を配置すると共に、ターゲット13の上面側にマグネット体14を設け、ターゲット13が導電体例えば金属である場合には、負の直流電圧を印加した状態でターゲット13の下面近傍に磁場を形成するように構成されている。また、真空容器11の内壁への粒子の付着を防止するために防着シールド(図示せず)が設けられている。
【0003】
前記マグネット体14は図34に示すように、一般的には例えば環状のマグネット15の内側に、当該マグネット15と異なる極性の円形のマグネット16を配置して構成されている。なお、図34はマグネット体14をターゲット13側から見た平面図であり、この例では、外側のマグネット15の極性はターゲット13側がS極、内側のマグネット16の極性はターゲット13側がN極になるように夫々設定されている。こうして、ターゲット13の下面近傍には前記外側のマグネット15に基づくカスプ磁界と内側のマグネット16に基づくカスプ磁界とにより水平磁場が形成される。
【0004】
前記真空容器11内に、アルゴン(Ar)ガス等の不活性ガスを導入して、DC電源部15からターゲット13に負の直流電圧を印加すると、この電界によってArガスが電離し、電子が生成する。この電子は、前記水平磁場と電界とによってドリフトし、こうして高密度プラズマが形成される。そして、プラズマ中のArイオンがターゲット13をスパッタしてターゲット13から金属粒子を叩き出し、当該放出された金属粒子によって基板12の成膜が行われる。
【0005】
このようなメカニズムであることから、ターゲット13の下面では、図35に示すように、外側のマグネット15と内側のマグネット16との中間部直下に、マグネットの配列に沿った環状のエロージョン17が形成される。この際、ターゲット13全面でエロージョン17を形成するためにマグネット体14を回転させているが、既述のマグネット配列では、ターゲット13の半径方向において均一にエロージョン17を形成することは困難である。
【0006】
一方、基板面内の成膜速度分布はターゲット13面内のエロージョン17の強弱(スパッタ速度の大小)に依存する。従って、上記のようにエロージョン17の不均一の程度が大きい場合には、図35に点線で示すように、ターゲット13と基板12との距離を小さくすると、エロージョンの形状がそのまま反映されて基板面内の成膜速度の均一性が悪化してしまう。このようなことから、従来ではターゲット13と基板との距離を50mm〜100mm程度と大きくしてスパッタ処理を行っている。
【0007】
この際、ターゲット13からスパッタにより放出された粒子は外方へ飛散していくので、ターゲット13から基板12を離すと、防着シールドに付着するスパッタ粒子が多くなり、基板外周部の成膜速度が低下してしまう。このため、外周部のエロージョンが深くなるように、即ち外周のスパッタ速度を高めるようにして、基板面内の成膜速度の均一性を確保することが一般的に行われている。しかしながら、この構成では、既述のように防着シールドに付着するスパッタ粒子が多くなることから、成膜効率が10%程度と非常に低く、速い成膜速度が得られない。このように、従来のマグネトロンスパッタ装置では、成膜効率と成膜速度の均一性を両立することは困難である。
【0008】
また、ターゲット13はエロージョン17が裏面側に到達する直前に交換する必要があるが、既述のように、エロージョン17の面内均一性が低く、エロージョン17の進行が早い部位が局所的に存在すると、この部位に合わせてターゲット13の交換時期が決定されるため、ターゲット13の使用効率は40%程度と低くなる。製造コストを低減し、生産性を向上させるためには、ターゲット13の使用効率を高くすることも要求されている。
【0009】
ところで近年では、メモリーデバイスの配線材料としてタングステン(W)膜が注目されており、例えば300nm/min程度の成膜速度で成膜することが要請されている。上述の構成では、例えば印加電力を15kWh程度に大きくすることにより前記成膜速度を確保することができるが、機構が複雑であり、稼働率が低くなり、製造コストが高くなってしまう。
【0010】
ここで、特許文献1には、任意の2つの間で等距離を有し、かつ交互の極性を有する複数のマグネットをターゲットと対向するように平面的に配列し、ターゲットの下側にポイントカスプ磁界を生成する構成が提案されている。ポイントカスプ磁界を生成するマグネットを点状マグネットと呼ぶことにすると、この点状マグネットを配列させた構成では、ターゲット近傍の電界Eと点状マグネットの水平磁場BによるE×Bによって電子が加速され、ドリフト運動して、プラズマを発生させる。
【0011】
しかしながら、マグネット配列の外周部では、NとSの配置により、E×Bのベクトル方向がターゲットの外に向う開放端が存在するため、ターゲット外周よりも外方に電子が飛び出してしまい、電子損失が大きくなる。ここで、ターゲットの全面でエロージョンを形成するためには、水平磁場がターゲット外周を覆うように点状マグネットを配列する必要がある。この場合には前記開放端がターゲットの外周近傍に位置することになるので、ターゲット外周部で電子の飛び出しが起こると、当該外周部にて円周方向に電子密度の粗密が発生したり、ターゲットの径方向に従って電子密度が低下するといった電子密度の不均一を生じさせる。このため、ターゲットの直下では、場所によって電子密度が異なり、プラズマ密度の面内均一性が低下してしまう。また、前記開放端付近の磁束が発散しているため、磁束のバランスが崩れ、電子密度の不均一が増長される。
【0012】
このように点状マグネットのみの配列では、マグネット間に生ずる水平磁場がマグネット配列により二次元的に広がるものの、十分なプラズマ密度が得られず、高いプラズマ密度の面内均一性を確保することが難しい。また、エロージョン面内における均一性は、点状マグネットの配列による周期的な水平磁場の粗密に依存して低下するが、プラズマ密度の粗密によってさらに低くなるため、結果としてターゲットの使用効率が低下する。この際、ターゲットよりもマグネット群の形成領域を大きくして、前記開放端に起因する問題を解消することも考えられるが、ターゲットとシールド部材との間に強い磁場があると異常放電を起こすおそれがあり、マグネット群の形成領域をターゲットよりも大きくすることは好ましくない。
【0013】
また、特許文献2には、各々ターゲットの表面と平行な中心軸を備える複数のマグネットを、互いの中心軸が略平行になるように配置すると共に、複数のマグネットをN極とS極とが前記中心軸に対して略直角方向に互いに対向するように形成した技術が記載されている。さらに、特許文献3には、ターゲットとウエハとの距離を近づけることにより、カバレージを改善する技術が記載されている。
【0014】
しかしながら、これら特許文献1〜特許文献3には、ターゲットと基板との距離を狭めて、成膜速度の面内均一性を確保しながら成膜効率を向上させることについては着目されておらず、これら特許文献1〜特許文献3の構成を適用しても、本発明の課題を解決することはできない。
【0015】
また、既述のようにWをマグネトロンスパッタ方法で成膜することについて検討されているが、微細配線でも抵抗上昇が起こらず信頼性の高い高融点金属として注目されている。このためマグネトロンスパッタ方法を利用するにあたっては、成膜速度が大きいことに加え、成膜された膜が低抵抗であることが要請される。
【0016】
Wのバルク比抵抗は室温で約5.3μΩ・cmであるが、近年の多層配線回路では例えば300nm/min以上の高速成膜と、10μΩ・cm以下の比抵抗が要請されている。しかし、従来技術では、上述したように成膜効率及びターゲットの使用効率が低いという問題に加え、Wの膜を低抵抗にすることと大きな成膜速度を得ることとはトレードオフの関係にあるという問題がある。成膜速度を増大させる場合、通常は直流電源部19から印加する電圧を増大させるが、その結果としてスパッタ膜の比抵抗が増大してしまう。例として、成膜速度が約50nm/minで得られる膜の比抵抗は約10μΩ・cmであるが、約300nm/minの高速成膜では比抵抗は約11μΩ・cm〜20μΩ・cm、あるいはそれ以上であり、バルク値の約2〜3倍の値になってしまう。
【0017】
配線抵抗増大の原因は、膜結晶グレインの粒界での電子散乱、膜中の格子欠陥による電子散乱、不純物(スパッタの場合はAr含む)による電子散乱及び表面、界面における電子散乱である。よってスパッタ膜を低抵抗化させるには、膜結晶グレインの大きさ及び結晶配向を揃えること、ならびに膜中の欠陥や不純物を少なくすることが重要である。これらを効果的に行うには、スパッタ成膜中のW粒子の表面拡散を激しくして粒子の再配列が行われやすいようにすることが必要となる。
非特許文献1によると、スパッタ成膜においては粒子の再配置を行うために、先ず基板温度を高くすることが重要であるが、W膜は高融点金属であるため、表面拡散を起こすには850℃以上の高温が必要である。この手法を通常のスパッタリング技術に適用することは困難である。また、成膜後にアニールにより再結晶化させ低抵抗化することも可能ではあるが、さらに高温の1000℃が必要となり半導体製造工程と相容れない。
【0018】
また、同様に表面拡散を起こすために、スパッタされた原子のエネルギーが使える低圧条件が好ましいとされている。即ち通常ターゲット電圧は200V〜800Vであり、この電圧で加速されたスパッタガス原子、例えばアルゴン(Ar)原子のエネルギーは10eV〜20eVといわれており、もしも低圧により空間での衝突がなければスパッタ原子はこのエネルギーで基板上の膜表面に到達し、膜表面でのエネルギー拡散に寄与するからである。ターゲット−基板間距離=30mm〜100mmであれば、<10mTorrが好ましいといわれている。しかしWとArの組み合わせは、低圧条件下ではArイオンがターゲットであるWと弾性衝突を起こし、反跳する中性のAr原子となり、基板上に成膜されたW膜に突入してダメージを与える。このAr原子のW膜への突入は弾性衝突であるため、ターゲット原料元素の原子量が大きいほど反跳Arのエネルギーは大きい。ターゲットがWの場合は反跳Arのエネルギーは100eV〜200eVとなる。Wのスパッタされる閾値電圧は33eV程度といわれており、この値と比較すると反跳Arのエネルギーは大きく、膜中に欠陥を多量に生成する原因となることは明らかである。また膜中のAr量も増大し、欠陥と共に抵抗増大の原因となる。この状況下で成膜速度を増大させるために直流電源部から印加する電圧を増大させると、ターゲット電圧も大きくなり、よってターゲット面で反跳するAr原子のエネルギーも増大するので、従って膜の欠陥は更に増悪して膜比抵抗は増大してしまう。
【0019】
この反跳Arの問題に対しては低圧Krガスを使う方法が特許文献4に開示されている。Krは質量、体積共にArより大きいため、反跳時のエネルギーが比較的小さく、W膜に入り込みにくいと考えられている。しかしKrガスはArガスの100倍以上のコストが掛かるため、半導体製造工程に使用することは難しい。
【0020】
一方、反対に圧力を増大させると、空間での衝突により反跳するAr原子エネルギーが失われるので、反跳Arによる欠陥は生じにくくなるが、スパッタ原子のエネルギーも減少してしまい、基板上の膜表面に到達した原子は拡散に寄与しない。その結果、欠陥が多く配向が揃わない膜が形成されるといわれている。更に圧力の増大によって、放電電流は増大するが、衝突散乱によりスパッタ原子がチャンバ壁に向かって拡散するという現象が生じる。この現象によりターゲット基板間距離が大きい従来技術では、基板上の成膜速度が一般に低下するため成膜効率の点でも好ましくない。
【0021】
他方で、基板に高周波電力を供給し、Arイオンを一定のエネルギーで基板に引き込むことで、膜表面に運動エネルギーを与えてW粒子の表面拡散を誘引する方法もある。しかし従来のマグネトロンスパッタ装置では、ターゲットと基板との距離が長いことと、低圧環境下で放電を起こしていることにより、基板近傍におけるプラズマの密度が低いので、Arイオンを高エネルギー化する必要がある。よって高電位の高周波電力を基板に印加しなければならないが、その結果、基板に必要以上の負電位が発生することで、過剰なエネルギーを有したArイオンを基板上に引き込み、前述したようにArイオンが成膜されたW膜に突入し、膜に欠陥を生じさせてしまう。印加する高周波電力を低減するために圧力を増大させることも考えられるが、上述したとおり成膜効率が低下してしまう。
【0022】
以上のように従来のターゲット13と基板との距離が50mm〜100mmのマグネトロンスパッタ装置では、Wのような高融点金属を成膜する場合に、高速成膜、成膜効率、ターゲット使用効率、低抵抗、及び良好な膜質という条件を同時に満たすことが難しいのが現状である。この問題は、他の高融点金属(タンタル(Ta)、チタン(Ti)、モリブデン(Mo)、ルテニウム(Ru)、ハフニウム(Hf)、コバルト(Co)、ニッケル(Ni)など)のスパッタ成膜においても同様である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0023】
【特許文献1】特開2004−162138号公報
【特許文献2】特開2000−309867号公報
【特許文献3】特開平9−118979号公報
【特許文献4】US2004/0214417号公報
【非特許文献】
【0024】
【非特許文献1】J. A. Thornton; Ann. Rev. Mater. Sci.、 7 (1977) p.239.
【非特許文献2】J. J. Cuomo; Handbook of Ion Beam Technol.、 (1989) p.194.
【非特許文献3】M. A. Liberman; Principles of Plasma Discharges and Materials Processing、 (1994) pp.469−470.
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0025】
本発明は、このような事情の下になされたものであり、その目的は、成膜速度の面内均一性を確保しながら、成膜効率を向上させると共に、ターゲットの使用効率を向上させることができる技術を提供することにある。本発明の他の目的は、大きな成膜速度で低抵抗な膜を成膜することができる技術を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0026】
本発明は、真空容器内に載置された被処理基板に対向するようにターゲットを配置し、このターゲットの背面側にマグネットを設けたマグネトロンスパッタ装置において、
前記ターゲットに電圧を印加する電源部と、
ベース体にマグネット群を配列したマグネット配列体と、
このマグネット配列体を被処理基板に対して直交する軸の周りに回転させるための回転機構と、を備え、
前記マグネット配列体は、カスプ磁界による電子のドリフトに基づいてプラズマが発生するように、マグネット群を構成する複数のN極及びS極がターゲットに対向する面に沿って互いに間隔をおいて配列され、
前記マグネット群における最外周に位置するマグネットは、電子がカスプ磁界の拘束から解放されてカスプ磁界の外に飛び出すことを阻止するようにライン状に配列され、
スパッタ時における前記ターゲットと被処理基板との距離が30mm以下であることを特徴とする。
【0027】
ここで、ライン状に配列されるとは、マグネットが直線状又は曲線状の帯状に形成される構成や、複数個のマグネットを直線状又は曲線状の帯状に配列する構成の他、電子がカスプ磁界の拘束から解放されてカスプ磁界の外に飛び出すことを阻止する役割を果たす場合には、複数個のマグネットを互いに僅かに間隔を開けて、直線状又は曲線状の帯状に配列する構成も含まれる。
【0028】
本発明はまた、真空容器内に載置された被処理基板に対向するようにターゲットを配置し、このターゲットの背面側にマグネットを設け、直径300mmの半導体ウエハである被処理基板に対してマグネトロンスパッタ処理を行うマグネトロンスパッタ装置において、
前記ターゲットに電圧を印加する電源部と、
ベース体にマグネット群を配列したマグネット配列体と、
このマグネット配列体を被処理基板に対して直交する軸の周りに回転させるための回転機構と、を備え、
前記マグネット配列体は、カスプ磁界による電子のドリフトに基づいてプラズマが発生するように、マグネット群を構成する複数のN極及びS極がターゲットに対向する面に沿って互いに間隔をおいて配列され、
前記マグネット群における最外周に位置するマグネットは、電子がカスプ磁界の拘束から解放されてカスプ磁界の外に飛び出すことを阻止するようにライン状に配列され、
ターゲットの直径をR(mm)、ターゲットと被処理基板との距離をTS(mm)とすると、
(TS´/R)×100(%)=0.0006151R2−0.5235R+113.4、かつ
TS≦1.1TS´となるように前記距離(TS)が設定されていることを特徴とする。
【0029】
本発明はさらに、真空容器内に載置された被処理基板に対向するようにターゲットを配置し、このターゲットの背面側にマグネットを設け、直径450mmの半導体ウエハである被処理基板に対してマグネトロンスパッタ処理を行うマグネトロンスパッタ装置において、
ベース体にマグネット群を配列したマグネット配列体と、
このマグネット配列体を被処理基板に対して直交する軸の周りに回転させるための回転機構と、を備え、
前記マグネット配列体は、カスプ磁界による電子のドリフトに基づいてプラズマが発生するように、マグネット群を構成する複数のN極及びS極がターゲットに対向する面に沿って互いに間隔をおいて配列され、
前記マグネット群における最外周に位置するマグネットは、電子がカスプ磁界の拘束から解放されてカスプ磁界の外に飛び出すことを阻止するようにライン状に配列され、
ターゲットの直径をR(mm)、ターゲットと被処理基板との距離をTS(mm)とすると、
(TS´/R)×100(%)=0.0003827R2−0.4597R+139.5、かつ
TS≦1.1TS´となるように前記距離(TS)が設定されていることを特徴とする。
【0030】
本発明のマグネトロンスパッタ方法は、本発明のマグネトロンスパッタ装置を用い、プロセス圧力を13.3Pa(100mTorr)以上に設定し、ターゲットへの投入電力をターゲットの面積で割った投入電力密度を3W/cm2以上に設定して、被処理基板に対して金属膜を成膜することを特徴とする。
【発明の効果】
【0031】
本発明によれば、複数のN極マグネット及びS極マグネットがターゲットに対向する面に沿って互いに間隔をおいて配列されるようにマグネット群を構成し、このマグネット群における最外周に位置するマグネットはライン状に配列されている。これにより、カスプ磁界による電子のドリフトに基づいてプラズマが発生すると共に、電子の飛び出しが阻止されているので高密度なプラズマが均一に形成される。また、複数のN極マグネット及びS極マグネットがターゲットに対向する面に沿って互いに間隔をおいて配列されることから、これらマグネットの水平磁場に基づいてターゲットに形成されるエロージョンの面内均一性が向上する。このため、ターゲットに被処理基板を接近させてスパッタを行うことができて、成膜速度の面内均一性を確保しながら、成膜効率を向上させることができる。また、プラズマ密度の均一性が高いことからターゲットの面内においてエロージョンが均一性を持って進行するため、局所的にエロージョンが進行する場合に比べてターゲットの寿命が長くなり、ターゲットの使用効率が向上する。他の発明によれば、本発明の装置を用いて、100mTorr以上もの高いプロセス圧力下で電力密度の高い状態でスパッタリングを行う方法により、発生したプラズマにおいてイオン密度は高く安定した状態となるため、プラズマは基板上で均一な密度となる。このため、高速かつ均一なスパッタを基板に対して行うことが可能となることから、高速な成膜速度を保ちつつ低抵抗の成膜を基板上へと行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0032】
【図1】本発明にかかるマグネトロンスパッタ装置の一実施の形態を示す縦断面図である。
【図2】前記マグネトロンスパッタ装置に設けられたマグネット配列体の一例を示す平面図である。
【図3】マグネット配列体を示す側面図である。
【図4】マグネット配列体に設けられたマグネットの一例を示す斜視図である。
【図5】マグネット配列体に設けられたマグネットの一例を示す斜視図である。
【図6】マグネット配列体を示す平面図である。
【図7】マグネット配列体の他の例を示す平面図である。
【図8】マグネット配列体のさらに他の例を示す平面図である。
【図9】ターゲットと基板との距離と成膜効率及び成膜速度の面内均一性との関係を示す特性図である。
【図10】マグネット配列体のさらに他の例を示す平面図である。
【図11】マグネット配列体のさらに他の例を示す平面図である。
【図12】マグネット配列体のさらに他の例を示す平面図である。
【図13】マグネット配列体のさらに他の例を示す平面図である。
【図14】マグネット配列体のさらに他の例を示す平面図である。
【図15】マグネット配列体のさらに他の例を示す平面図である。
【図16】実施例1の結果を示す特性図である。
【図17】実施例2の結果を示す特性図である。
【図18】実施例2の結果を示す特性図である。
【図19】実施例3の結果を示す特性図である。
【図20】実施例4の結果を示す特性図である。
【図21】実施例5の結果を示す特性図である。
【図22】マグネット配列体のさらに他の例を示す平面図である。
【図23】図22のマグネット配列体の拡大平面図である。
【図24】マグネット配列体を示す側面図である。
【図25】マグネット配列体を示す側面図である。
【図26】マグネット配列体のさらに他の例を示す平面図である。
【図27】膜厚分布のシミュレーションの結果を示したグラフである。
【図28】膜厚分布のシミュレーションの結果を示したグラフである。
【図29】成膜速度のシミュレーションの結果を示したグラフである。
【図30】実施例6の結果を示す特性図である。
【図31】実施例7の結果を示す特性図である。
【図32】実施例8の結果を示す特性図である。
【図33】従来のマグネトロンスパッタ装置を示す縦断面図である。
【図34】従来のマグネトロンスパッタ装置に用いられるマグネット体を示す平面図である。
【図35】従来のマグネトロンスパッタ装置の作用を説明する縦断面図である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0033】
本発明の一実施の形態に係るマグネトロンスパッタ装置について、図面を参照しながら説明する。図1は、前記マグネトロンスパッタ装置の一例を示す縦断面図であり、図中2は例えばアルミニウム(Al)により構成され、接地された真空容器2である。この真空容器2は天井部が開口しており、この開口部21を塞ぐようにターゲット電極3が設けられている。このターゲット電極3は、成膜材料例えばタングステン(W)よりなるターゲット31を、例えば銅(Cu)若しくはアルミニウムよりなる導電性のベース板32の下面に接合することにより構成されている。前記ターゲット31は例えば平面形状が円形状に構成され、その直径は被処理基板をなす半導体ウエハ(以下「ウエハ」という)10よりも大きくなるように、例えば400乃至450mmに設定されている。
【0034】
前記ベース板32はターゲット31よりも大きく形成され、ベース板32の下面の周縁領域が真空容器2の開口部21の周囲に載置されるように設けられている。この際、ベース板32の周縁部と真空容器2との間には、環状の絶縁部材22が設けられており、こうして、ターゲット電極3は、真空容器2とは電気的に絶縁された状態で真空容器2に固定されている。また、このターゲット電極3には電源部33により負の直流電圧が印加されるようになっている。
【0035】
真空容器2内には前記ターゲット電極3と平行に対向するように、ウエハ10を水平に載置する載置部4が設けられている。この載置部4は例えばアルミニウムからなる電極(対向電極)として構成され、高周波電力を供給する高周波電源部41が接続されている。当該載置部4は、昇降機構42により、ウエハ10を真空チャンバ2に対して搬入出する搬送位置と、スパッタ時における処理位置との間で昇降自在に構成されている。前記処理位置では、例えば載置部4上のウエハ10の上面と、ターゲット31の下面との距離TSが例えば10mm以上30mm以下に設定されている。
【0036】
また、この載置部4の内部には、加熱機構をなすヒータ43が内蔵され、ウエハ10が例えば400℃に加熱されるようになっている。さらに、この載置部4には、当該載置部4と図示しない外部の搬送アームとの間でウエハ10を受け渡すための図示しない突出ピンが設けられている。
【0037】
真空容器2の内部には、ターゲット電極3の下方側を周方向に沿って囲むように環状のチャンバシールド部材44が設けられていると共に、載置部4の側方を周方向に沿って囲むように環状のホルダシールド部材45が設けられている。これらは、真空容器2の内壁へのスパッタ粒子の付着を抑えるために設けられるものであり、例えばアルミニウム若しくはアルミニウムを母材とする合金等の導電体により構成されている。チャンバシールド部材44は例えば真空容器2の天井部の内壁に接続されており、真空容器2を介して接地されている。また、ホルダシールド部材45を介して載置部4が接地されるように、ホルダシールド部材45が接地されている。
【0038】
さらに、真空容器2は、排気路23を介して真空排気機構である真空ポンプ24に接続されると共に、供給路25を介して不活性ガス例えばArガスの供給源26に接続されている。図中27は、ゲートバルブ28により開閉自在に構成されたウエハ10の搬送口である。
【0039】
ターゲット電極3の上部側には、当該ターゲット電極3と近接するようにマグネット配列体5が設けられている。このマグネット配列体5は、図2及び図3(図2のA−A’線側面図)に示すように、透磁性の高い材料例えば鉄(Fe)よりなるベース体51にマグネット群52を配列することにより構成されている。前記ベース体51はターゲット31と対向するように設けられ、図2に示すように、その平面形状は円形状に形成されており、その直径は例えばターゲット31よりも大きくなるように、例えばターゲット径よりも60mm程度大きい値に設定されている。図2は、ターゲット31側からマグネット群52を見たときの平面図である。
【0040】
前記マグネット配列体5は、静止時にカスプ磁界による電子のドリフトに基づいて、ウエハ10の投影領域全体に亘ってプラズマが発生するようにマグネット群を構成するN極及びS極がターゲット31に対向する面に沿って後述するように互いに間隔をおいて配列され、マグネット群52の最外周には、リターン用のマグネット53が設けられている。このリターン用マグネット53は、電子がカスプ磁界による拘束から解放されてカスプ磁界の外に飛び出すことを阻止するように、後述の如くライン状に配列されている。
【0041】
マグネット群52のなかで、リターン用マグネット53よりも内側のマグネット群54を「内側マグネット群54」とし、内側マグネット群54のなかで、最外周に位置するマグネットを「外側マグネット」と呼ぶことにすると、前記内側マグネット群54は、複数個のマグネット6(61、62)をマトリックス状に配列して構成されている。マグネット6(61、62)は、図2に示すように、ターゲット31の左右方向(図1及び図2中X方向)と、奥行方向(図1及び図2中Y方向)に縦横に、n列×m行例えば3列×3行のマトリックス状に配列して構成され、隣接するマグネット6(61、62)が互いに異なる極性を備えるように配列されている。
【0042】
この例では、中央のマグネット61aがN極であり、その左右方向の両側及び奥行方向の両側に夫々S極のマグネット62a〜62dが互いに間隔を開けて並ぶように設けられている。ここで、本発明でいう極性とは、ターゲット31側に向いている極性、つまりターゲット31側から見たときの極性をいう。従って、前記マグネット61aは、ターゲット31側にN極、ベース体51側にS極が夫々向いている。
【0043】
これらマグネット61、62は、複数のマグネット要素に分割されて構成されている。図4に示すように、マグネット要素63は例えば円柱状に構成され、前記マグネット61aは、マグネット要素63を前記左右方向に2個、奥行方向に2個配列すると共に、これらを2段に積層して合計8個のマグネット要素63の集合体として構成されている。このようなマグネット要素63としては、例えば直径が20乃至30mm、厚さが10乃至15mm、1つのマグネット要素63の表面磁束密度が2乃至3kG程度のものが用いられる。これらマグネット要素63は、例えば平面形状が略正方形状のケース体64に収納され、ベース体51の下面に固定されている。
【0044】
これらマグネット61、62は、例えばケース体64の互いに隣接する辺が前記左右方向及び奥行方向に夫々平行に設けられ、また隣接するケース体64に対して互いに等距離分離れるように配列されている。つまり、中央のマグネット61aを例にして説明すると、左右方向に隣接するマグネット62a、62cとの離間距離L1と、奥行方向に隣接するマグネット62b、62dとの離間距離L2とが互いに等しくなるように設けられている。こうして、内側マグネット群54の配列の中心から見たときに、マグネット62a〜62dの中心同士が夫々同一半径上にあり、さらにマグネット61b〜61eの中心同士が夫々同一半径上にあるように、マグネット61、62がマトリックス状に配列されている。この例では、内側マグネット群54の配列の中心はベース体51の中心Oに相当する。
【0045】
また、内側マグネット群54は、N極のマグネット要素63の個数とS極のマグネット要素63の個数が同数になり、かつ配列の中心Oから見たときに、その中心が同一半径上にあるマグネット62a〜62d同士(マグネット61b〜61e同士)では、マグネット要素63の数が同数になるように構成されている。さらに、内側マグネット群54は、配列の中心Oから見たときに、外側のマグネットに向うに連れて(マグネット要素63の個数の調整で)磁力が小さくなるように設定されている。前記マグネット61、62は、複数のマグネット要素63に分割されて構成されているので、マグネット要素63の集合数によってマグネット61、62の磁力が調整される。
【0046】
ここで、図2における、マグネット要素63に描いた数字は、マグネット群の高さ方向(図4中Z方向)のマグネット要素63の積層数を示しており、例えば図5に外側マグネット61bを例にして示すと、当該マグネット61bは4個のマグネット要素63を組み合わせて構成されている。
【0047】
このように、この例の内側マグネット群54は、24個のN極のマグネット要素63と、24個のS極のマグネット要素63を備えており、かつ配列の中心Oから見たときに、その中心にあるマグネット61aのマグネット要素63は8個、同一半径上にあるマグネット62a〜62dはマグネット要素63が6個、最も外側の同一半径上にあるマグネット61b〜61eはマグネット要素63が4個になるように夫々設定されている。こうして内側マグネット群54の中で最外周に位置する外側マグネットの磁力は、当該外側マグネットよりも内側に位置するマグネットよりも小さくなるように設定されることになる。
【0048】
前記リターン用マグネット53a〜53dについて、リターン用マグネット53dを例にして説明すると、外側マグネットの中央のマグネット62dの周囲をドリフトする電子が、マグネット群52を平面的に見たときに、マグネット群52の隙間からマグネット群52の外に飛び出さずに内側に戻るように形成されている。このためリターン用マグネット53dはライン状に配列され、この例では、平面的に見たときに、直線状(直線状に伸びる帯状)に形成されている。また、その長さは、マグネット62dの長さよりも大きく、その長さ方向の両端部は、当該マグネット62dの両側に隣接する外側マグネット61c、61d側まで伸びるように形成されている。さらに、外側マグネットの中央に位置するマグネット62dと異なる極性に設定されている。
【0049】
そして、内側マグネット群54の前記左右方向の両側に夫々設けられたリターン用マグネット53a、53cは、その長さ方向が前記奥行方向に平行に設けられ、内側マグネット群54の前記奥行方向の両側に夫々設けられたリターン用マグネット53b、53dは、その長さ方向が前記左右方向に平行に設けられている。これら4つのリターン用マグネット53a〜53dは、内側マグネット群54の最外周である外側マグネット61、62との離間距離L3が互いに等しくなるように設けられている。
【0050】
本発明では、マグネット群52は、ドリフトしている電子群の運動領域よりもウエハ10の周縁位置が内側になるように構成されている。さらに、各リターン用マグネット53の磁束と、これに対応する内側マグネット群54の外側マグネット61、62の磁束の収支が合うように、リターン用マグネット53と内側マグネット群54の夫々の表面磁束密度が調整されている。
【0051】
また、水平磁場(磁束密度)の強度は、安定した放電を得るために、例えば100〜300Gに設定することが好ましい。この磁束密度は、マグネット61、62の大きさ、マグネット61、62の表面磁束密度、マグネット61、62の配列数、マグネット61、62間の距離、マグネット要素63の個数、マグネット要素63間の距離、外側マグネットの大きさ、外側マグネットと内側マグネット群54との距離、後述する回転偏心量等により適宜設計される。
【0052】
さらに、後述するように、リターン用のマグネット53と内側マグネット群54との夫々に電離が起こり、リターン用のマグネット53と内側マグネット群54とでは電離の強さが異なるが、リターン用のマグネット53の大きさや表面磁束密度、内側マグネット群54との離間間隔L3を調整することによって、電離の強さを制御することができる。
【0053】
また、ウエハ10の外縁から50mm外方の領域に、内側マグネット群54とリターン用のマグネット53の離間部分があると、成膜速度分布の均一性が良好であることがシミュレーションより明らかであり、このように構成することが好ましい。また、ターゲット31の外縁位置が内側マグネット群54とリターン用のマグネット53の離間部分にあるように設定すると、リターン用マグネット53による水平磁場がターゲット31外周を覆い、ターゲット31全面でのエロージョンが可能となる。ターゲット31よりマグネットの形成領域が大きくなると、異常放電が発生するおそれがあるが、リターン用マグネット53の磁束と、内側マグネット群54を構成するマグネット61、62の磁束の収支を合わせることによって、異常放電を防ぐことができると捉えている。
【0054】
このように、マグネット要素の大きさや、配列間隔等の種々の条件を調整することにより、ターゲット31の直下で均一な磁界が形成されるようにマグネット配列体5が設計される。この際、図2に示す例は、マグネット群52とウエハ10とベース体51との相対的大きさを示しており、このようにウエハ10の外縁はマグネット群52の形成領域よりも内側に位置している。但し、図2に示す例におけるマグネット群52は構成例の一つであり、ウエハ10の大きさに合わせて、マグネット61、62、リターン用のマグネット53の設置数が適宜増減される。
【0055】
ここで、設計例の一つを示すと、リターン用マグネット53は、縦断面の大きさが例えば10mm×20mm、長さが例えば120mm、表面磁束密度は2乃至3kGであるが、その大きさや積層数を調整することにより、内側マグネット群54の外側マグネットとに対する磁力の最適化を図ることができる。また、内側マグネット群54では、マグネット61、62同士の左右方向の離間距離L1及び奥行方向の離間距離L2は共に例えば5乃至10mm、内側マグネット群54の最外周のマグネット61、62とリターン用マグネット53との離間距離L3は例えば5乃至30mmに夫々設定されている。
【0056】
また、マグネット群54を構成するマグネット61、62、53は同じ厚さに設定され、このためこれらマグネット61、62、63の下面の高さ位置は揃うように構成されている。そして、これらマグネット61、62、63の下面とターゲット31の上面までの距離は、例えば15〜40mmに設定される。この際、マグネット要素63と同じ形状の鉄製のダミー体をベース体51側に入れることによって、マグネットの下面同士の高さを合わせることが可能である。鉄は透磁率が高いため、ベース体51に向う磁束が拡散しないので、ダミー体が無い場合とターゲット電極3側への磁束が同じになる。この場合のメリットは全体のバランスを維持してターゲット電極3側への磁束を調整できることにある。
【0057】
前記マグネット配列体5のベース体51の上面は、回転軸55を介して回転機構56に接続されており、この回転機構56によりマグネット配列体5は、ウエハ10に対して直交する軸の周りに回転自在に構成されている。この例では、図3に示すように、回転軸55はベース板51の中心Oから例えば20乃至30mm偏心した位置に設けられている。
【0058】
このマグネット配列体5の周囲には、当該マグネット配列体5の回転領域を形成した状態で、マグネット配列体5の上面及び側面を覆うように、冷却機構をなす冷却ジャケット57が設けられている。この冷却ジャケット57の内部には冷却媒体の流路58が形成されており、当該流路58内に所定温度に調整された冷却媒体例えば冷却水を供給部59から循環供給することにより、マグネット配列体5及び当該マグネット配列体5を介してターゲット電極3が冷却されるように構成されている。
【0059】
以上に説明した構成を備えるマグネトロンスパッタ装置は、電源部33や高周波電源部41からの電力供給動作、Arガスの供給動作、昇降機構42による載置部4の昇降動作、回転機構56によるマグネット配列体5の回転動作、真空ポンプ24による真空容器2の排気動作、ヒータ43による加熱動作等を制御する制御部100を備えている。この制御部100は、例えば図示しないCPUと記憶部とを備えたコンピュータからなり、この記憶部には、当該マグネトロンスパッタ装置によってウエハ10への成膜を行うために必要な制御についてのステップ(命令)群が組まれたプログラムが記憶されている。このプログラムは、例えばハードディスク、コンパクトディスク、マグネットオプティカルディスク、メモリーカード等の記憶媒体に格納され、そこからコンピュータにインストールされる。
【0060】
続いて、上述のマグネトロンスパッタ装置の作用について説明する。先ず、真空容器2の搬送口27を開き、載置部4を受け渡し位置に配置して、図示しない外部の搬送機構及び突き上げピンの協働作業により、載置部4にウエハ10を受け渡す。次いで、搬送口27を閉じ、載置部4を処理位置まで上昇させる。また、真空容器2内にArガスを導入すると共に、真空ポンプ24により真空排気して、真空容器2内を所定の真空度例えば1.46〜13.3Pa(11〜100mTorr)に維持する。一方、マグネット配列体5を回転機構56により回転させながら、電源部33からターゲット電極3に例えば100W〜3kWの負の直流電圧を印加すると共に、高周波電源部43から載置部4に数百KHz〜百MH程度の高周波電圧を10W〜1kW程度印加する。また、冷却ジャケット57の流路58には、常時冷却水を通流させておく。
【0061】
ターゲット電極3に直流電圧を印加すると、この電界によりArガスが電離して電子を発生する。一方、マグネット配列体5のマグネット群52により、図3に示すように、内側マグネット群54のマグネット61、62同士の間、及び内側マグネット群54の外側マグネットとリターン用マグネット53同士の間にカスプ磁界50が形成され、このカスプ磁界50が連続してターゲット31の表面(スパッタされる面)近傍に水平磁場が形成される。
【0062】
こうして、ターゲット31近傍の電界Eと前記水平磁場BによるE×Bによって前記電子は加速され、ドリフトする。そして、加速によって十分なエネルギーを持った電子が、さらにArガスと衝突し、電離を起こしてプラズマを形成し、プラズマ中のArイオンがターゲット31をスパッタする。また、このスパッタにより生成された二次電子は前記水平磁場に捕捉されて再び電離に寄与し、こうして電子密度が高くなり、プラズマが高密度化される。
【0063】
ここで、前記電子のドリフトの方向について図6に模式的に示す。例えば、内側マグネット群54の中央のN極のマグネット61aに着目すると、当該マグネット61aを時計回りに周回するように電子がドリフトし、S極のマグネット62a、62b、62c、62dでは、反時計回りに周回するように、電子がドリフトする。
【0064】
このマグネット群52のレイアウトによれば、ドリフトしている電子群の運動領域よりもウエハ10の周縁位置が内側になるように設定されている。これにより、マグネット配列体5が静止している時に、カスプ磁界による電子のドリフトに基づいてウエハ10の投影領域全体に亘ってプラズマが発生することになる。
【0065】
ここで、リターン用マグネット53dを例にして説明すると、当該リターン用マグネット53dは、既述のように左右方向に直線状に伸びる帯状に形成され、内側マグネット群54の最外周にある外側マグネット62dと離間間隔L3を介して設けられている。また、その長さ方向の両端側は、マグネット62dに隣接するマグネット61c、61d側まで伸び出している。
【0066】
従って、マグネット62dとマグネット61cの間をドリフトしている電子から見ると、進行方向の前方側に立ちはだかるようにマグネット53dが存在していることになる。そして、このマグネット53d由来のカスプ磁界の磁束とマグネット62d由来のカスプ磁界の磁束とが結合するため、マグネット62dとマグネット61cの間をドリフトしている電子は、そのままカスプ磁界に沿って動き、左方向にカーブしていく。次いで、マグネット62dとマグネット61dの間に至ると、これらの間のカスプ磁界により拘束されて左方向にカーブし、こうして再び内側マグネット群54の領域に戻される。このように、リターン用マグネット53を設けることにより、カスプ磁界の拘束によって電子がカスプ磁界の外に飛び出すことが阻止されるため、電子損失が抑制され、電子密度が高密度化される。
【0067】
一方、リターン用マグネット53が無い場合には、内側マグネット群54の外周部では、既述のように、E×Bのベクトル方向がターゲット31の外側に向う開放端が存在する。このため、マグネット62dとマグネット61cの間をドリフトしている電子は、ドリフト方向の前方側にはカスプ磁界が存在しないので、カスプ磁界の拘束から解放されてマグネット群52の外方に飛び出していく。こうして、内側マグネット群54の最外周のマグネットから電子が飛び出していくため電子損失が大きくなり、電子密度を高くすることができなくなる上、外周部の電子密度が小さくなるため、電子密度の面内均一性も低下してしまう。
【0068】
図6〜図8はマグネット配列体5をターゲット31側から見た平面図である。このように、リターン用マグネット53は、電子をマグネット群52の隙間からマグネット群52の外に飛び出させずに内側に戻す役割を果たしているため、当該作用を発揮するようにライン状に配列されればよい。外側マグネット62dに対応して設けられたリターン用マグネットマグネット53dを例にして説明すると、本発明者らは、リターン用のマグネット53dが外側マグネット62dと異なる極性を持つと共に、当該外側マグネット62dに対向して直線状又は曲線状に、かつその両端部を当該外側マグネット62dの両隣りの外側マグネット61c、61d側まで伸ばすように配列されるものであれば、前記作用を得られると捉えている。従って、図7に示すように、平面形状が略円弧状のリターン用マグネット531を用いるようにしてもよいし、図8に示すように、例えば点状マグネット60を複数個ライン状に配列してリターン用マグネット532を構成するようにしてもよい。この場合、点状マグネット60を互いに接触させて配列する場合の他、電子の飛び出しを防いで内側に戻す役割を果たす場合には、点状マグネット60を互いに僅かに間隔を開けて配列するようにしてもよい。例えば点状マグネットを用いる場合には、一つの点状マグネットの直径が15乃至25mm、高さが10乃至15mm、表面磁束密度が2乃至3kGのものを用いることができ。この際、その長さ方向の配列数や積層数により磁力を調整することができ、磁力の調整のために、磁力の強さの異なるものを配列するようにしてもよい。
【0069】
このようにして電子は、一つのマグネット61、62だけではなく、全てのマグネット61、62を周回するように飛び回りながら加速され、Arガスとの衝突と電離を繰り返す。この際、リターン用マグネット53と内側マグネット群54との間においても電離は起こり、これにより発生した二次電子は同様にドリフトして内側マグネット群54の領域に入ることによって、マグネット群52が形成された領域全体の電離に寄与する。この結果、ターゲット31の直下近傍において、高密度のプラズマを高い面内均一性で生成することができる。また、内側マグネット群54の最外周における磁束の発散が抑制され、磁束のバランスを確保できるので、この点からもプラズマ密度の面内均一性が高くなる。
【0070】
こうして、Arガスの電離を繰り返すことによりArイオンを生成し、このArイオンによりターゲット31がスパッタされる。これによりターゲット31表面から叩き出されたタングステン粒子は真空容器2内に飛散していき、この粒子が載置部4上のウエハ10表面に付着することで、ウエハ10にタングステンの薄膜が形成される。また、ウエハWから外れた粒子は、チャンバシールド部材44やホルダシールド部材45に付着する。この際、載置部4には高周波電力が供給されているので、Arイオンのウエハ10への入射が誘引され、ヒータ43による加熱との相乗作用により緻密で抵抗の低い薄膜が形成される。
【0071】
ターゲット31のエロージョンは既述のように、互いに異極のマグネット同士の間の中間部(中心及びその付近)に形成されるが、上述のマグネット配列体5では、マグネット61、62をマトリックス状に配列しているので、エロージョンが発生する箇所が多く、ターゲット31の全面に亘って周期的にエロージョンが形成される。また、既述のように、ウエハ10の投影領域全体に亘って、プラズマ密度をより均一にすることができるため、エロージョンの進行の程度が揃えられ、この点からも面内均一性が高くなる。
【0072】
この際、エロージョンの均一性をより高くするために、マグネット配列体5を回転機構56により鉛直軸回りに回転させている。プラズマ密度をミクロ的に見ると、水平磁場に基づく高低が形成されているが、マグネット配列体5を回転させることにより、このプラズマ密度の高低が均されるからである。さらに、この実施の形態では、マグネット配列体5を、ベース体51の中心から偏心させた位置を中心として回転させているので、後述の実施例から明らかなように、成膜速度分布の均一性がより高くなる。
【0073】
つまり、マグネット配列体5では、水平磁束密度がターゲット31の面内において均一に分配されるように形成され、マグネット61、62同士の間の中間部にエロージョンが発生するが、マグネット61、62の直下のカスプ部分には、水平磁場がなく、電離が起こらないので、スパッタが起きにくい。このため、マグネット61、62の直下の成膜速度が他の部分よりも小さくなり、直径方向でみれば、成膜速度分布は小さな凹凸が周期的に存在する形状となる。従って、マグネット配列体5を偏心回転させると、この凹凸が相殺され、より均一な成膜速度分布を得ることができる。
【0074】
この際、エロージョンを起こす部分が円周方向で交互に起こり、エロージョンが時間的に平準化し、エロージョンの回転対象が多くなるように、マグネット配列体5を形成すれば、回転数が少なくても成膜速度分布の均一化を図ることができるので、高速で短時間で成膜する際に有利となる。
【0075】
また、このようにエロージョンの面内均一性が高いことから、本発明では、ウエハ10とターゲット31との距離を30mm以下と接近させた状態でスパッタ処理が行われる。つまり、エロージョンの形状が成膜速度分布に反映されるため、エロージョンの均一性が高い場合には、ターゲット31にウエハ10を近付けても高い成膜速度分布の均一性を得ることができるからである。この際、ターゲット31からウエハ10を離すと、後述する実施例から明らかなように、ウエハ10の外周部における成膜速度が低下してしまう。これはターゲット31の外周側でスパッタされた粒子がウエハ10の外方へ飛散してしまい、成膜効率が低下するためである。
【0076】
このように本発明では、成膜速度の面内均一性を確保するためには、ウエハ10とターゲット31との距離を30mm以下に接近させてスパッタ処理をすることが必要である。但し、ターゲット31とウエハ10とを接近させ過ぎると、プラズマの生成空間が小さくなり過ぎ、放電が発生しにくいため、ターゲット31とウエハ10との距離は10mm以上に設定することが好ましい。
【0077】
そして、ウエハ10がターゲット31の直下に配置されているので、ターゲット31からスパッタされた粒子が速やかにウエハ10へ付着していく。このため、ウエハ10の薄膜の形成に寄与するスパッタ粒子が多くなり、成膜効率が高くなる。ここで、図9に、ターゲット31とウエハ10との距離と、成膜効率及び成膜速度の面内均一性との各関係を示す。横軸がターゲット31とウエハ10との距離、左縦軸が成膜効率、右縦軸が成膜速度の面内分布を夫々示している。成膜効率については、実線A1にて本発明の構成、二点鎖線A2にて従来の構成(図23に示す構成)のデータを夫々示し、成膜速度の面内均一性については、一点鎖線B1にて本発明の構成、点線B2にて従来の構成のデータを夫々示している。
【0078】
面内分布に着目すると、本発明では、ターゲット31とウエハ10との距離が小さい程均一性が高く、前記距離が大きくなるにつれて次第に低下していく。また、成膜効率に着目すると、ターゲット31とウエハ10との距離が小さい程、成膜効率が高く、前記距離が大きくなるにつれて次第に低下していく。このように、本発明の構成では、ターゲット31とウエハ10との距離が小さい程、成膜速度の面内均一性、成膜効率が共に良好になり、成膜速度の面内均一性と成膜効率の両立を図ることができる。
【0079】
これに対して、従来の構成では、ターゲット31とウエハ10との距離が小さい場合には、成膜速度の面内均一性が非常に低く、前記距離が大きくなるにつれて高くなり、ある距離を過ぎると再び低下していく。このため、高い面内均一性を確保しようとすると、ターゲット31とウエハ10との距離を大きく取らざるを得ないが、前記距離を大きくすると、成膜効率については本発明の構成に比べてかなり低くなってしまう。
【0080】
上述の実施の形態によれば、開放端のない閉じた網目状の水平磁場が形成されているので、既述のように、ターゲット31の直下において、ウエハ10の投影領域全体に亘って均一なプラズマを形成することができ、またエロージョンの面内均一性が高い。このため、ウエハ10とターゲット31との距離を30mm以下と接近させてスパッタ処理を行うことができる。この結果、ウエハ10から外れてチャンバシールド部材44やホルダシールド部材45に付着するスパッタ粒子が少なくなるので、成膜効率を向上させることができ、速い成膜速度を得ることができる。
【0081】
また、ターゲット31のエロージョンには、ミクロ的に見れば凹凸があるが、一部の凹部が他の部分に比べて深くなるといったことがなく、面内全体で一様にエロージョンが進行する。このため、ターゲット31の寿命が長くなり、ターゲット31の使用効率を高くすることができる。
【0082】
さらに、上述の実施の形態によれば、マグネット要素63を集合させたマグネット61、62を用いており、連続した水平磁場が長く取れるため、電子が加速されドリフトする距離が長い。このため、電離の機会が多くなるので、プラズマ密度が高くなる。その結果、ターゲット31ではエロージョンが速やかに進行して、多くのスパッタ粒子が放出されるので、成膜速度が増大する。
【0083】
さらにまた、マグネット要素63を集合させてマグネット61、62を構成しているので、一つのマグネット61、62の磁力の調整を容易に行うことができる。また、マグネット61、62内のマグネット要素63の数を調整できるため、N極のマグネット要素63とS極のマグネット要素63との数を同数にすることができて、N極とS極の磁束のバランスを取ることができる。これにより、水平磁場の偏りが抑えられ、エロージョンの形成及び成膜速度の面内ばらつきの発生を抑制することができる。
【0084】
さらにまた、内側マグネット群54の配列の中心Oから見たときに、その中心Oが同一半径上にあるマグネット62a〜62d同士(マグネット61b〜61e同士)では、マグネット要素63の数が同数に設定されており、前記中心Oから見たときに、外側のマグネットに向うに連れてマグネット要素63の数が少なくなるように設定されているので、後述の実施例より明らかなように、成膜速度の面内均一性をさらに高めることができる。
【0085】
つまり、内側マグネット群54の最外周の4つの角部に配置されたN極のマグネット61b、61c、61d、61eでは、4つの辺の2つに対しては、これらの辺と隣接して磁束の収束先であるS極のマグネット62が存在するが、残りの2つの辺については、対応するS極のマグネット62が存在しない状態である。このため、隣接するマグネット62との間との磁束が多くなり、その部分の水平磁場が強くなってしまう。従って、上述の実施の形態のように、これらマグネット61b、61c、61d、61eを構成するマグネット要素63の個数を少なくして磁力を小さくすれば、水平磁場のバランスを取ることができる。ここで、これらマグネット61b、61c、61d、61eの磁力は、マグネット要素63の個数を変えずに、表面磁束密度の小さいマグネット要素63を用いることによって小さくするようにしてもよい。
【0086】
このように、本発明の構成によれば、図33に示す従来のマグネトロンスパッタ装置に比べて成膜効率を400%(4倍)程度に向上させることができるので、例えばターゲット31とウエハ10との距離が20mmの場合には、印加電力が4kWh程度であっても、300nm/min程度の成膜速度を確保することができ、消費電力を抑えて、低コスト化を図ることができる。また、ターゲット31の使用効率も80%程度と高くなるので、この点からも低コスト化を図ることができる。
【0087】
上述の実施の形態では、マグネット61、62の平面形状は、正方形状である場合には限定されず、直方形状であってもよいし、円形状であってもよい。また、1つのマグネット61、62に収納されるマグネット要素63の最大数は8個には限らない。さらに、マグネット61、62に収納されるマグネット要素63の数は、上述の図2に記載した例に限定されず、例えば図10に示すように、全てのマグネット61、62を8個のマグネット要素63の集合体により構成してもよい。このようなマグネット配列体5Aでは、マグネット要素63の表面磁束密度を調整することにより、内側マグネット群54Aにおいて、最外周に位置する外側マグネットの磁力を、当該外側マグネットよりも内側に位置するマグネットの磁力よりも小さくするように調整してもよい。
【0088】
ここで、上述の例では、マグネット要素63はケース体64に収容しているので、所定のマグネット要素63を予めケース体64に収容しておくことによって、マグネット配列体5の組み立てを容易に行うことができるというメリットがあるが、必ずしもマグネット要素63をケース体64に収容する必要はない。また、既述のように、ウエハ10の大きさに合わせてマグネット61、62、リターン用のマグネット53の設置数を増減すればよく、この場合も同様の効果を得ることができる。さらにまた、上述の例では、ターゲット31の外縁をマグネット群52の内側に設定したが、ターゲット31の外縁をマグネット群52の外側に設定するようにしてもよい。
【0089】
さらに、マグネット配列体5は、ベース体51の中心Oから偏心させて回転させているので、この偏心回転時に、ウエハ10の外縁から50mm外方の領域に、内側マグネット群54とリターン用のマグネット53の離間部分があるように設定すれば、成膜速度分布の均一性を良好にすることができる。同様に、偏心回転時にターゲット31の外縁が内側マグネット群54の外縁とリターン用マグネット53との離間部分に位置するようにターゲット31とマグネット配列体5の大きさを設定すれば、ターゲット31の全面でエロージョンを形成することができ、均一な成膜処理を行うことができる。
【0090】
続いて、マグネット配列体511の他の例について説明する。図11に示すマグネット群521は、円柱状の点状マグネット611、621を3列×3行のマトリックス状に配列して内側マグネット群541を構成した例であり、各点状マグネット611、621は、互いに等間隔を開け、かつ隣接する点状マグネット611、621の極性が互いに異極になるように配列されている。この例においても、リターン用マグネット531は、内側マグネット群542を囲むようにライン状に配列されており、図11に矢印にて電子がドリフトする方向を示している。前記点状マグネット611、621としては、例えば直径20〜30mm、厚さが10〜15mm、表面磁束密度が4〜5kGのものを用いることができ、点状マグネット611、621の中心同士の距離は例えば60mmに設定される。
【0091】
この例においても、上述の実施の形態と同様に、ターゲット31の直下において、ウエハ10の投影領域全体に亘って均一なプラズマを形成することができ、またエロージョンの面内均一性が高い。このため、ターゲット31とウエハ10とを接近させてスパッタを行うことができるので、成膜効率を高くしながら、高い成膜速度の面内均一性を確保することができ、ターゲット31の使用効率も向上する。また、点状マグネットとしては、円柱状のみならず、例えば一辺が20〜30mmの正三角柱状や、一辺が20〜30mmの立方体状のもの等を用いることができる。
【0092】
また、マグネットはn列×m行のマトリックス状に配列してもよい。図12に示すマグネット配列体512のマグネット群522は、円柱状の点状マグネット611、621を6列×6行のマトリックス状に配列して内側マグネット群542を構成している。この例においても、点状マグネット611、621が、縦横に互いに等間隔を開け、かつ隣接する点状マグネット611、621の極性が互いに異極になるように配列されている。図12中矢印は電子がドリフトする方向を示している。
【0093】
また、内側マグネット群542の外側には、これら内側マグネット群542を囲むように、同じ極性のリターン用マグネット532がライン状に配列されている。この例では、前記n、mが偶数であるので、内側マグネット群542の最外周に配列された点状マグネットは、その両端に極性の異なる点状マグネットが位置している。このため、内側マグネット群542の角部のS極点状マグネット621a、621bの近傍では、当該点状マグネット621a、621bを囲むように、N極のリターン用マグネット532aが円弧状に配列される。
【0094】
従って、このマグネット配列体512では、内側マグネット群542の角部においても、電子がカスプ磁界の外に飛び出すことが阻止され、電子損失を抑制することができる。このため、上述の実施の形態と同様に、ターゲット31の直下において、ウエハ10の投影領域全体に亘って均一なプラズマを形成することができ、またエロージョンの面内均一性が高くなる。このため、ターゲット31とウエハ10とを接近させてスパッタを行うことができ、成膜効率を高くしながら、高い成膜速度の面内均一性を確保することができる上、ターゲット31の使用効率が向上する。
【0095】
さらに、点状マグネットの形状は、上述のマグネット要素63の集合体や、円柱状に限らず、三角柱状であってもよい。図13に示すマグネット配列体513のマグネット群523は、三角柱状のマグネット612、622を配列して内側マグネット群543を構成した例である。この例においては、マグネット612、622の平面形状は略二等辺三角形状に構成され、互いの斜辺同士を間隔を開けて対向するように配列して一つのユニット631を形成し、このユニット631をマトリックス状に配列して、内側マグネット群543を形成している。この例においても、隣接するマグネット611、622の極性が互いに異極になるように配列されている。
【0096】
また、内側マグネット群543の外側には、これら内側マグネット群543を囲むように、リターン用マグネット533、534がライン状に配列されている。この例のリターン用マグネット533、534は、平面形状が長方形状の4つのマグネット533a〜533dと、平面形状が略L字状の2つのマグネット534a、534bとにより構成されている。
【0097】
前記リターン用マグネット533a〜533dは、この例では、内側マグネット群543の前記左右方向及び奥行方向の両側に夫々設けられ、内側マグネット群543の最外周の中央に配置されたマグネット622a、622b、612a、612bとは異なる極性に設定されている。さらに、前記リターン用マグネット534a、534bは、内側マグネット群543の互いに対向する2つの角部に対応して、この例では、右下角部及び左上角部に設けられている。こうして、内側マグネット群543の角部のマグネット612c、622cの近傍では、当該マグネット612c、622cを囲むように、異極のリターン用マグネット534a、534bが配列されている。図13に示す矢印は、電子のドリフト方向を示している。
【0098】
従って、このマグネット配列体513においても、内側マグネット群543の最外周のマグネット612、622の多くをカバーするようにリターン用マグネット533、534が配置されるので、電子がカスプ磁界の外に飛び出すことが阻止され、電子損失を抑制することができる。
【0099】
従って、上述の実施の形態と同様に、ターゲット31の直下において、ウエハ10の投影領域全体に亘って均一なプラズマを形成することができ、またエロージョンの面内均一性が高くなる。このため、ターゲット31とウエハ10とを接近させてスパッタを行うことができ、成膜効率を高くしながら、高い成膜速度の面内均一性を確保することができる上、ターゲット31の使用効率が向上する。
【0100】
さらに、本発明では、図14に示すように、平面形状が長方形状のマグネット71、72を、例えばその長さ方向が奥行方向に揃うように、互いに間隔を開けて、隣接するマグネット同士が互いに異極になるように配列すると共に、これらマグネット71、72の周囲に、電子の飛び出しを抑えるためにライン状のマグネット73(731、732)を配列するようにしてもよい。
【0101】
この例のマグネット配列体514では、N極のマグネット71とS極のマグネット72の数を揃えるために、これらの最外のマグネット同士は互いに異極になるように設定されている。また、ライン状マグネット73は、例えば平面形状が円弧状に形成され、N極のマグネット731とS極のマグネット732とを備えている。これらライン状マグネット731、732は前記左右方向に伸びるように配列され、前記左右方向の両側のマグネット71、72の長さ方向の両端同士を、複数個のライン状のマグネット731、732により接続するように構成されている。こうして、これらマグネット71、72、ライン状マグネット731、732によりマグネット群524が構成されている。図14中の矢印は、電子のドリフト方向を示している。
【0102】
このような構成では、マグネット71、72により形成されるカスプ磁界の磁束が互いに結合するので、これらマグネット間71、72に水平磁場が形成され、電子がドリフト運動し、電離を起こす。マグネット71、72の両端部では、本来開放端で電子が磁界の外に飛び出し、電子損失を起こすが、ライン状マグネット731、732を配置しているので、電子がカスプ磁界の拘束から解放されてカスプ磁界の外に飛び出すことを阻止している。このため、電子損失が抑制され、電子密度の増大と均一化を図ることができる。
【0103】
これにより、上述の実施の形態と同様に、ターゲット31の直下において、ウエハ10の投影領域全体に亘って均一なプラズマを形成することができ、またエロージョンの面内均一性が高くなる。このため、ターゲット31とウエハ10とを接近させてスパッタを行うことができ、成膜効率を高くしながら、高い成膜速度の面内均一性を確保することができる上、ターゲット31の使用効率が向上する。
【0104】
さらにまた、本発明では、マグネット配列体515のマグネット群525を図15に示すように、構成してもよい。このマグネット群525は、平面形状が正方形状のマグネット81、82をマトリックス状に、隣接するマグネット81、82同士が互いに異極になるように配列すると共に、これらマグネット81、82を囲むように、平面形状が略コ字状であって極性がマグネット81、82とは異なるライン状のマグネット83、84を設け、さらにライン状のマグネット82、83の外側に、平面形状が長方形状のライン状のマグネット85を配列して構成されている。
【0105】
このような構成では、マグネット81、82のカスプ磁界の磁束と、ライン状マグネット83、84、85のカスプ磁界の磁束とが互いに結合して水平磁場回路網が形成されているので、その水平磁場に沿って電子が図15に矢印にて示す方向にドリフト運動して電離を起こす。この際、ライン状マグネット83〜85を配置しているので、電子がカスプ磁界の拘束から解放されてカスプ磁界の外に飛び出すことが阻止される。このため、電子損失が抑制され、電子密度の増大と均一化を図ることができる。これにより、上述の実施の形態と同様に、ターゲット31の直下において、ウエハ10の投影領域全体に亘って均一なプラズマを形成することができ、またエロージョンの面内均一性が高くなる。このため、ターゲット31とウエハ10とを接近させてスパッタを行うことができ、成膜効率を高くしながら、高い成膜速度の面内均一性を確保することができる上、ターゲット31の使用効率が向上する。
【0106】
また、ターゲットの材質としては、タングステン以外に、銅(Cu)、アルミニウム(Al)、チタン(Ti)、窒化チタン(TiN)、タンタル(Ta)、窒化タンタル(TaNx)、ルテニウム(Ru)、ハフニウム(Hf)、モリブデン(Mo)等の導電体や、酸化シリコン、シリコンナイトライド等の絶縁体が用いることができる。この場合、絶縁体よりなるターゲットを用いる場合には、電源部から高周波電圧を印加することにより、プラズマが生成される。また、導電体よりなるターゲットに対して高周波電圧を印加してプラズマを生成するようにしてもよい。
【0107】
さらに、マグネット配列体は回転機構により、ベース体の中心を回転中心として鉛直軸まわりに回転させるようにしてもよい。さらにまた、必ずしも載置部を電極として用いる必要はなく、当該載置部に高周波電力を供給する必要はない。さらに、前記マグネット配列体は、カスプ磁界による電子のドリフトに基づいて被処理基板の投影領域全体に亘ってプラズマが発生するように、マグネット群を構成する複数のN極及びS極がターゲットに対向する面に沿って互いに間隔をおいて配列されればよく、マグネットの配列は上述の例に限らない。例えば、内側マグネット群を構成するマグネットの配列間隔や形状をベース体の面内において変化させるようにしてもよい。
【0108】
また、マグネット群は、マグネット配列体を回転させたときに、被処理基板の投影領域全体に亘ってプラズマが発生するように構成されればよい。従って、マグネット配列体を偏心回転させるときには、回転時に被処理基板の外縁の一部がマグネット群の外側に位置する場合も、被処理基板の投影領域全体に亘ってプラズマが発生する場合に含まれる。
【0109】
さらにまた、前記リターン用のマグネットよりも内側に位置するマグネット群は、N極に対応するマグネットの強さの合計と、S極に対応するマグネットの強さの合計とが揃っていればよく、マグネットの強さは、マグネットの個数や大きさ等、いずれの手法により調整してもよい。
【0110】
次に、既述のマグネット配列体に補助マグネットを設けることにより、ターゲットの下面側における水平磁場の強度を調整する手法について述べる。図22は、図10に示すマグネット配列体5に補助マグネット65を設けた例を示しており、ターゲット31側からマグネット配列体5Aを見た平面図である。図10に示すマグネット配列体5のマグネット61、62及び53は、後述の図24に示すようにターゲット31側とその反対側とでは、互いに異なる磁極となるように着磁されている。そして補助マグネット65は、マグネット61と62との間隙、及びマグネット53と62の間隙とを埋めるように直方体状に形成されている。図23に示すように、補助マグネット65は長さ方向と直交する方向に磁極が分けられており、長辺である一辺側にN極、当該一辺と対向する他辺側にS極が夫々着磁されている。
【0111】
ターゲット31側における補助マグネット65の磁極とマグネット61(62、53)の磁極との関係については、補助マグネット65の一辺に隣接するマグネット61(62、53)の磁極と当該補助マグネット65の一辺側の磁極とが同極となるように設定されている。従ってマグネット配列体5Aについて、ターゲット31とは反対側(ベースプレート51側)においては、図24に示すように、補助マグネット65の一辺に隣接するマグネット61(62、53)の磁極と当該補助マグネット65の一辺側の磁極とが異極となる関係になっている。
【0112】
このような補助マグネット65を備えたマグネット配列体5Aにおける磁界の様子を、マグネット61、62の間に補助マグネット65を設けた部位を例にとって、図24に示す。また、補助マグネット65を用いないマグネット配列体5における磁界の様子を比較のために図25に示す。
【0113】
ベースプレート51側においては、マグネット61、62により発生する磁力線と補助マグネット65により発生する磁力線との向きが逆向きであるため、マグネット61、62による水平磁場が補助マグネット65の水平磁場により打ち消されて弱められるかあるいは消失する。
【0114】
一方、ターゲット31側においては、マグネット61、62により発生する磁力線と補助マグネット65により発生する磁力線との向きが同方向であるため、マグネット61、62による水平磁場が補助マグネット65の水平磁場と重畳され、水平磁場が強められる。
【0115】
補助マグネット65として、マグネット61、62と同じ磁力のマグネットを使用すれば、マグネット配列体5Aにおけるターゲット31側に生じる磁界の強さは2倍となり、一方ベースプレート51側においては磁界は略0となる。ターゲット31側に生じる磁界の強さは補助マグネット65の磁力の大きさにより調整可能であり、表面磁束密度、補助マグネット65の高さあるいは幅により調節することができる。
【0116】
代表的な補助マグネット65である直方体の大きさは、幅寸法がマグネット61、62の径または辺と同じ幅寸法である20〜30mmであり、長さ寸法がマグネット61と62の間の距離である30mm、高さ寸法がマグネット61、62の高さの1/3、1/2、1/1である。また補助マグネット65の表面磁束密度は4〜5kGaussである。補助マグネット65の表面磁束密度とマグネット61、62の表面磁束密度が略同じであれば、略マグネット61、62の高さに対する補助マグネット65の高さの割合だけ、ターゲット31側に生じる磁場が増大する。よって前述したように補助マグネット65の高さをマグネット61、62の高さの1/3、1/2、1/1に設定したとき、ターゲット31側に生じる磁場の強さは夫々約30%、約50%、約100%増大する。ベースプレート51側における磁場の打ち消し量も同様となる。また、補助マグネット65の高さをマグネット61、62と同一にし、幅を1/3、1/2、1/1とした場合も同様の効果が得られる。
【0117】
補助マグネット65は図10に示すマグネット配列体5に設けることに限られない。図26は、図11に示すマグネット配列体511に対して補助マグネット651を設けた例を示しており、補助マグネット651における磁極とマグネット611、621、531との位置関係は図22の例と同様である。また作用効果も同様である。
【0118】
さらに、本発明の発明者は上述してきた実施の形態から得られた知見に基づいて、本実施形態のマグネトロンスパッタ装置を用いて、スパッタ成膜の面内均一性を保ちつつランニングコストを飛躍的に低減させる手法について検討を重ねた。ランニングコストを低減するためには成膜効率及びターゲット31の使用効率をさらに上昇させ、かつ成膜速度を向上させることが重要であると考えられる。
【0119】
成膜効率を上昇させるためには、ターゲット31の下面とウエハ10の表面との間の距離であるTSを縮めることが効果的である。ターゲット31に印加する電力が一定であるとすると、TSが短いほど成膜量は格段に向上する。しかしTSを縮小しすぎると、十分な面内均一性が得られない。従って高い成膜量を保ちつつ十分な面内均一性が得られるTSの範囲を把握する必要がある。
【0120】
一方、ターゲット31の使用効率を向上させるためには、ターゲット31に生じるエロージョンを均一化することが効果的である。エロージョンの形状が均一であれば最大のターゲット使用効率が得られるからである。従って、TSを適切な値に設定すれば十分な成膜効率が得られると共に、均一エロージョン下で必要な成膜分布が得られる。
【0121】
そこで、成膜の均一性に着目し、上述の実施形態にかかるマグネトロンスパッタ装置を用いたスパッタリングにおいて、TSとターゲット径との関係についてシミュレーションを行った。エロージョンについては、ターゲットから粒子が等方的に放射されており、TSの二乗に比例してターゲットを構成する粒子の量がスパッタされて減少し、均一なエロージョンが形成されているものと仮定した。
【0122】
シミュレーションの結果を図27及び図28に示す。当該シミュレーションにおいて、ウエハ10における膜厚の面内均一性の評価については次式で算出する膜厚分布を用いた。
膜厚分布(%)={標準偏差(1σ)/各点の膜厚の平均値}×100
具体的には、ウエハ径300mmの場合において、ターゲット径を300mmから500mmまで20mmずつ増大させ、各ターゲット径毎に、TSを10.0mmから100.0mmまで10mmずつ増加させて、膜厚分布をシミュレートした。図27はターゲット径を横軸に取り、膜厚分布を縦軸にとって、TSをパラメータとしてターゲット径と膜厚分布との関係を示すグラフであるが、線図の重なりによる図示の煩雑さを避けるために、TSが50〜90mmの線図については図示を省略している。図27において、TSが50〜90mmの線図は、TSが40mmの場合と100mmの場合との間に位置している。このグラフから、ターゲット径が大きいほど、またTSが短いほど膜厚分布が向上することが分かる。
【0123】
図28の左側(実線)のグラフa1は、図27のグラフにおける膜厚分布3%のラインと各曲線との交点をプロットし直したものである。図28の横軸はターゲット径、縦軸はTSのターゲット径に対する百分比である。図28の右側(破線)のグラフb1は、上述したシミュレーションと同様のシミュレーションをウエハ径450mmの場合に対しても行い、膜厚分布3%の場合におけるターゲット径とTSのターゲット径に対する百分比との関係を、同様に夫々横軸と縦軸にしてプロットしたものである。
【0124】
300mm径のウエハ量産の現場で用いられるターゲット径は、一般的に450mm〜500mmであることから、450mm径ウエハにおけるターゲットについては、300mmウエハの場合の相似形を想定し、ターゲット径を50mm〜700mmに設定した。図28の実線から、300mm径ウエハについて膜厚分布が3%となるTSは、ターゲット径が450mmのときターゲット径の約2.4%(=約11mm)、ターゲット径が500mmのときターゲット径の約5.5%(=約27.5mm)であることがわかる。
図26の破線から、450mm径ウエハについて膜厚分布が3%となるTSは、ターゲット径が650mmのときターゲット径の約2.5%(=約16mm)、ターゲット径が700mmのときターゲット径の約5.3%(=約37mm)であることがわかる。
【0125】
従って膜厚分布が3%以下となるターゲット径(mm)に対するTS(mm)の比率(百分比)は、300mm径ウエハの場合には図28のグラフa1の下方側領域であり、450mm径ウエハの場合には同図のグラフb1の下方側領域である。前記比率((TS/R)×100%)をY%、ターゲット径をR(mm)とし、グラフa1、b1についてYとRの近似式で表すと夫々式(1)、(2)となる。
300mm径ウエハ…Y=0.0006151R2−0.5235R+113.4…(1)
450mm径ウエハ…Y=0.0003827R2−0.4597R+139.5…(2)
従って、膜厚分布が3%以下であることが好ましいプロセスであるとするならば、当該好ましいプロセスを行うためには、300mm径ウエハでは式(1’)、450mm径ウエハで式(2’)の関係が成立すればよい。
Y≦0.0006151R2−0.5235R+113.4…(1’)
Y≦0.0003827R2−0.4597R+139.5…(2’)
【0126】
ところで(1’)式、(2’)式は近似式であり多少の誤差がある。またウエハにスパッタされた薄膜について既述の式で定義された膜厚分布が3%を多少越えていても膜厚分布が良好であるという評価に影響を与えるものではないということができる。更にまたTSをディジタル的に変えたときのシミュレーションによる図27の結果に基づいて図28のグラフ(既述の近似式(1))を求めている。このようなことを総合すれば、膜厚分布が良好であるという効果が得られるTSの上限値(境界値)を既述の近似式(1)、(2)だけに頼って決定することは、最適であるとは言い難い。例えば、ウエハ径が300mmであり、ターゲット径が500mmであるときに、膜厚分布3%以下となるTSの上限値は(1)式により計算すると、27.125mmである。しかしTSが30mmである場合にも、図27のグラフから膜厚分布が3%を多少越えるが、膜厚分布が良好であるという評価をすることができる。またウエハ径が300mmであり、ターゲット径が450mmであるときに、膜厚分布3%以下となるTSの上限値は(1)式により計算すると、10.722mmである。しかしTSが12mmである場合にも、図27のグラフから膜厚分布が3%を多少超えるが、超える分はわずかであることから、その効果は膜厚分布が3%であるという効果と実質変わりはない。
【0127】
またウエハ径が450mmであり、ターゲット径が700mmであるときに、膜厚分布3%以下となるTSの上限値は(2)式により計算すると、36.631mmである。しかしTSが40mmである場合にも、膜厚分布が3%を多少越えるが、膜厚分布が良好であるということができる。そこで、膜厚分布が良好であるためのTSの上限値を決定する指標として既述の(1)、(2)式を活用することとし、得られたTSの値に対して多少のマージンを与えることにより、上限値(境界値)の決定に適切性を持たせることとした。このマージンが大きすぎれば発明の効果が得られ難くなるが、明細書の性格として発明を明確化する要請があり、この観点から本発明の目的が得られることに疑いが生じない範囲においてマージンを決定した。具体的には、ウエハが300mmの場合には、(1)で求められたTSの値に10%上増しした値を上限値とし、ウエハが450mmの場合には、(2)で求められたTSの値に10%上増しした値を上限値とする。
【0128】
この意味を式で表すと、ウエハが300mmの場合には、適切なTS(mm)の値は、次式で求められる。
Y=(TS´/R)×100(%)=0.0006151R2−0.5235R+113.4
TS≦1.1TS´…(3)
TS´は、(1)式から求めたウエハとターゲットとの間の適切な離間距離であり、TSは、このTS´に10%のマージンを与えた適切な離間距離の上限値である。
【0129】
またウエハが450mmの場合には、適切なTSの値は、次式で求められる。
Y=(TS´/R)×100(%)=0.0003827R2−0.4597R+139.5
TS≦1.1TS´…(4)
【0130】
TSの下限値については規定していないが、上限値よりもわずかに小さくなると本発明の効果が得られなくなるものではないことから、下限値まで正確に規定する意義はないと思われる。なお本発明者は、スパッタのメカニズムなどを総合すると、TSが5mmよりも大きければ、例えば図28に示す各プロットにおけるTSの値と同等の効果が得られると推測している。
【0131】
一方、成膜速度向上の観点から、成膜速度とTSとの関係についてもシミュレーションを行った。具体的には、ウエハ径が300mm及び450mmの場合において、それぞれ3種類の直径が異なるターゲットを用いて、成膜速度のTSに対する依存性をシミュレートした。得られた結果を図29に示す。(a2)がウエハ径300mm、(b2)がウエハ径450mmのシミュレーションの結果である。300mm径ウエハの場合、従来はTSを70mmに設定している場合が多く、このためTS=70mmにおける成膜速度を基準に評価を行うことにする。また、450mm径ウエハの場合には、単純に相似で考えてTSは1.5倍の105mmにおける成膜速度を基準に評価を行うことにする。図29(a2)のグラフから、TS=70mmの場合の成膜速度の1.5倍の成膜速度が得られるTSを求めると、約35mmである。同様に図27(b2)のグラフから、450mm径ウエハの場合、TS=105mmの場合の成膜速度の1.5倍の成膜速度を得られるTSを求めると、約55mmである。従って評価基準に対して1.5倍以上の成膜速度が得られるTSの距離はウエハ径300mmの場合は35mm以下、450mmの場合は55mm以下である。このTSの距離を比率(TS/ターゲット径)に換算すると、ウエハ径300mmの場合には、ターゲット径が450mmであるとすると、TS/ターゲット径は約8%以下となる。ウエハ径450mmの場合には、ターゲット径が700mmであるとすると、TS/ターゲット径は約8%以下となる。
【0132】
この結果は、図28のグラフa1及びb1の下方側領域であれば、成膜速度についても、評価基準の成膜速度に比べて1.5倍の成膜速度が得られることを意味している。従って、比率Y(TS/ターゲット径R)と、ターゲット径Rとの関係が、既述の式(1’)及び(2’)を満足していれば、膜厚分布3%以下と成膜速度1.5倍以上を両立させた成膜が可能となる。
【0133】
またさらに、本実施形態のマグネトロンスパッタ装置を用いて、プロセス圧力を調整することにより、低抵抗の配線(導電路や電極を含む)を高速で成膜することができる。この手法について説明すると、ターゲット表面での磁場強度が例えば100G以上となるようにマグネット群の調整を行う。そしてプロセス圧力を13.3Pa(100mTorr)以上に設定すると共に、電源部33(図1参照)から直流電力をターゲット31に印加し、その電力値をターゲットの面積で除算した放電電力密度が例えば3W/cm2以上となる値に設定する。またターゲット31に印加する電圧は例えば300V以下とし、高周波電源部41から載置部4に印加する高周波電力は例えば500W〜2000Wとする。
【0134】
この条件下でスパッタリングを行うと、後述する実験例の考察で詳しく述べるように、ターゲットと基板(被処理基板)との距離が狭いこと、及び既述のようにマグネットにより基板の全面に亘って放電することから、基板付近においてもイオン密度の高い状態を維持でき、かつ13.3Pa以上の高圧力条件において大きな成膜速度でW膜を成膜することによって、高速かつ高効率のスパッタ及び成膜された膜の低抵抗化を両立できる。
【0135】
以上において、本発明のマグネトロンスパッタ装置は、半導体ウエハ以外の液晶や太陽電池向けガラス、プラスチック等の被処理基板のスパッタ処理に適用できる。
【実施例】
【0136】
(実施例1)
図11のマグネット配列体511を備えたマグネトロンスパッタ装置にて、既述の処理条件で成膜処理を行い、ターゲット電極3に印加する直流電圧と、電流密度との関係の評価を行った。この際、ターゲット31とウエハ10間の距離を30mmとした。また、マグネット配列体511においてリターン用マグネット531を設けない構成(比較例1)、図23に示す従来のマグネトロンスパッタ装置を用いた構成(比較例2)、マグネットを用いずに、直流電圧の印加によって放電させる構成(比較例3)についても、同様に評価を行った。
【0137】
この結果を図16に示す。図中横軸は、ターゲット電極3に印加する直流電圧、縦軸はターゲット31とウエハ10間の電流密度を夫々示し、実施例1については□、比較例1については◇、比較例2については△、比較例3については×にて、夫々プロットした。
【0138】
この結果、電流密度は、実施例1は2〜4mA/cm2、比較例1は0.2〜0.5mA/cm2であり、リターン用マグネットを設けることにより、電流密度がかなり大きくなることが認められた。これにより、リターン用マグネットの配列によって電子損失を抑制でき、プラズマ密度を増大できることが理解される。また、実施例1は比較例2と比べて、印加電圧が小さい場合にも高い電流密度を確保できることが認められた。また、400Wの電力の印加により、約100nm/minの成膜速度が得られることが確認された。
【0139】
(実施例2)
図2のマグネット配列体5を備えたマグネトロンスパッタ装置にて、マグネット配列体5を回転させずに、既述の処理条件で夫々成膜処理を行い、ウエハ径方向における成膜速度分布を求めた。また図2のマグネット配列体5に代えて図10のマグネット配列体5Aを設けた場合についても同様に成膜速度を測定した。この結果について、マグネット配列体5を設けた構成については図17に、マグネット配列体5Aを設けた構成については図18に夫々示す。
【0140】
ここで、マグネット配列体5とマグネット配列体5Aの差異は、マグネット61、62を構成するマグネット要素63の個数のみであるが、このマグネット要素63の個数を調整することによって、ウエハ10の径方向の成膜速度分布が変化することが認められた。これにより、マグネット要素63の個数の調整により、一つのマグネット61、62の磁力が調整され、結果的に成膜速度の面内均一性を制御できることが理解される。
【0141】
また、マグネット配列体5は、N極とS極の個数が同じであり、配列中心Oから同一半径にあるマグネット要素63の数が同じであり、さらに配列中心Oから離れるに連れて、マグネット要素63の数が減少するように構成されているが、図17の結果から、マグネット配列体5の構成を採用することにより、成膜速度がウエハ10の径方向において揃えられ、面内均一性が向上することが認められた。
【0142】
さらに、全てのマグネット61、62のマグネット要素63の個数を同じにした場合には、図18の結果からウエハ10の径方向の周縁部の一方側の成膜速度が大きくなっていることが認められた。これは、内側マグネット群54Aの4つの角部のマグネット61a〜61dでは、既述のように、隣接するマグネットとの間の磁束が多くなり、その部分の水平磁場が、内側の磁束のバランスが取れている領域よりも強くなるためと推察される。但し、このような成膜速度分布は、内側マグネット54Aの最外周の外側マグネットとリターン用マグネットとの距離や、ターゲット31とウエハ10との距離を調整したり、マグネット配列体5Aを鉛直軸まわりに回転させることにより、より均一な分布に近付けることができる。
【0143】
(実施例3)
図2のマグネット配列体5を備えたマグネトロンスパッタにて、ターゲット31とウエハ10との距離を20mmに設定して、マグネット配列体5を回転させずに既述の処理条件で夫々成膜処理を行い、ウエハ径方向の成膜速度分布を求めた。また、ターゲット31とウエハ10との距離を50mmに設定した場合についても、同様に成膜速度を測定した。この結果を図19に、マグネット配列体5のマグネット群5の配列と、ターゲット31のエロージョンの様子と共に示す。なお、この実施例3では、マグネット配列体5のマグネット群52よりも大きいターゲット31を用いている。
【0144】
これにより、ターゲット31とウエハ10との距離が20mmのときには、50mmのときに比べて、成膜速度の面内均一性が高いことが認められた。また、前記距離が20mmの場合には、約4kWhの電力でターゲット電極3に直流電圧を印加したときの成膜速度が300nm/minであり、50mmの場合に比べて平均の成膜速度も大きくなることが確認された。さらに、成膜速度のウエハ10の径方向の分布は、多少凹凸した形状になっているものの、ウエハ10の径方向において一定の周期で凹凸が形成されることが認められた。エロージョンが互いに異極のマグネット同士の中間部に形成されることから、成膜速度は、エロージョン形状を反映していることが理解される。
【0145】
さらに、前記距離が50mmのときには、ウエハ10の外周部の成膜速度が急激に低下することが認められた。これは、ターゲット31外周側でスパッタされた粒子が外方側へ飛散してしまい、ウエハ10に届く粒子が少なくなって、成膜効率が低下するためと推測される。なお、ウエハ10の中央側では、成膜速度の凹凸は弱まっているが、これは、ターゲット31からの距離が大きく、粒子が拡散し、エロージョンの影響を受けにくいためと考えられる。
【0146】
この実施例3から、本発明のマグネット配列体5は、ターゲット31とウエハ10を接近させたときに、成膜速度の均一性を確保できることが認められ、成膜速度の均一性と成膜効率の両立を図ることができることが確認された。
【0147】
(実施例4)
図2のマグネット配列体5を備えたマグネトロンスパッタ装置にて、ターゲット31とウエハ10との距離を20mmに設定して、マグネット配列体5を回転させながら既述の処理条件で成膜処理を行い、ウエハ径方向の成膜速度分布を求めた。この際、マグネット配列体5は、ベース体51の中心から25mm偏心させた位置を中心として鉛直軸まわりに回転させた。この結果を図20に実線にて示し、同図において、マグネット配列体5を回転させずに有る位置で静止させてスパッタ処理を行ったときのデータを一点鎖線、当該位置から1/4回転させた位置で静止させてスパッタ処理を行ったときのデータを点線にて併せて示す。
【0148】
この結果より、マグネット配列体5を静止させたときの成膜速度分布では、ウエハ10の径方向において周期的に凹凸が形成されるが、ベース体51の中心から偏心させて回転させることにより、前記凹凸が相殺され、結果的に成膜速度分布の均一化を図ることができることが認められた。
【0149】
(実施例5)
図2のマグネット配列体5を備えたマグネトロンスパッタ装置にて、ターゲット31とウエハ10との距離を20mmに設定し、マグネット配列体5を回転させながら、既述の処理条件で成膜処理を行い、ウエハ径方向の成膜速度分布を求めた。マグネット配列体5の偏心量は実施例4と同様とした。この際、内側マグネット群54の最外周の外側マグネットと、リターン用のマグネット53との離間間隔L3を5mmに設定した場合P1と、30mmに設定した場合P2について、夫々評価を行った。
【0150】
この結果を図21に、P1については実線で、P2については点線で夫々示す。これにより、前記離間間隔L3を変えると、成膜速度分布が変化することが認められ、マグネットの位置の調整により、エロージョン位置が制御できることが理解される。こうして、マグネットの大きさや配列、マグネット同士の間隔を最適化することにより、所望のエロージョンを形成し、成膜速度分布の最適化を図ることができることが認められた。
【0151】
(実施例6)
図2のマグネット配列体5を備えたマグネトロンスパッタ装置にて、直径が400mmのターゲット31と300mmウエハ10との距離を20mmに設定し、図2に示した装置においてマグネット配列体5を回転させながら成膜処理を行い、ウエハ径方向の成膜速度分布を求めた。投入電力密度は投入電力をターゲットの面積で割った値であり、これらについて4.5W/cm2、3.2W/cm2及び1.6W/cm2となる条件下で実施した。
【0152】
この結果を図30に示す。横軸は真空容器2内の圧力、縦軸は成膜速度である。投入電力密度が4.5W/cm2の場合を実線、3.2W/cm2の場合を点線、1.6W/cm2の場合を破線、図33に示すスパッタリング装置の場合を一点破線で示した。成膜速度はターゲットに印加する電力が大きいほど良好であり、4.5W/cm2の場合は、成膜速度は13.3Pa(100mTorr)付近まで圧力と共に増大し、450mm/minの成膜速度に達するとその後ほぼ一定となっている。また、3.2W/cm2の場合は、成膜速度は13.3Pa(100mTorr)付近まで圧力と共に増大し、300mm/minの成膜速度に達するとその後ほぼ一定となっている。一方、図33に示す装置における従来技術のスパッタリング(ターゲット−基板間距離=50mm)では、圧力が一定値を超えると成膜速度が低下していく。この結果の違いについての考察は、実施例7と併せて検討する。
【0153】
(実施例7)
実施例6にて用いたマグネトロンスパッタ装置により、プロセス圧力を種々変えて、圧力毎にターゲット電圧(ターゲットに印加する直流電圧)とターゲットに流れる電流密度との関係を求めた。プロセス圧力としては、0.91、3.59、13.0、19.6、23.3Pa(7、27、98、147、175mTorr)の5通りに設定した。
【0154】
この結果を図31に示す。横軸はターゲット電圧、縦軸はターゲットに流れる電流密度である(凡例を参照)。ターゲット31に供給する電力が同じであっても、圧力が高い条件では、電流密度が高く、電圧が低い状態になる。プロットから、同一ターゲット電圧に対し、高圧では電流密度が高くなる一方、低圧では電流密度が低くなることが確認できる。また、高圧力下でターゲット電力を増大させると、低圧力下の場合と異なり、ターゲット電圧をほとんど増加させずにターゲット電流密度を増加させることが出来る。この電流が高い状態は、プラズマ中のArイオンの数が増大することに対応する。圧力が高いと電子とアルゴン原子との衝突頻度が高くなり電離が激しく行われるため、アルゴンイオンの数が増え、ターゲットに流れる電流が増大する。圧力が高い場合、スパッタされた原子と、アルゴンイオンやスパッタ原子同士との衝突が激しく、拡散が起こり、ターゲット面に垂直方向の基板方向だけでなく、ターゲット面に水平方向の周囲の壁に向かってもスパッタ原子は拡散するため、成膜速度は低下してしまう。この現象は、ターゲットと基板間距離が大きいと顕著になるのは自明であり、従来のスパッタ技術では6.65Pa(50mTorr)以上の圧力で成膜速度は低下するが、本発明のナローギャップではより高い圧力でも成膜速度は低下しないのである。また、実施例6では3.2W/cm2で十分な成膜速度が得られているので、電力密度は3W/cm2以上で、本発明の目的を十分に達成できると推測できる。この高圧条件下でも成膜速度が高速度でかつ低下しないのは、ナローギャップであることと、本発明のマグネットにより、ターゲット全面で放電するからである。
【0155】
(実施例8)
実施例6に用いたマグネトロンスパッタ装置により、ターゲット投入電力密度を4.5W/cm2、3.2W/cm2及び1.6W/cm2の3通りに設定し、各設定条件毎に、プロセス圧力とウエハ10に成膜されたW膜の比抵抗について関係を調べた。
【0156】
この結果を図32に示す。横軸はプロセス圧力、縦軸はW膜の比抵抗である。投入電力密度が4.5W/cm2の場合を実線、3.2W/cm2の場合を点線、1.6W/cm2の場合を破線で示した。グラフから、投入電力密度が4.5W/cm2の場合、および3.2W/cm2の場合、W膜の比抵抗は圧力と共に10μΩ・cm付近まで低下する一方、1.6W/cm2の場合は11μΩ・cm程度までしか低下しない。
圧力と共に比抵抗が低下する理由のひとつは、圧力が増大するとArイオンの数も増大し、ウエハ10側に入射するArイオンの数が増大する結果W膜表面にエネルギーが付与され、W粒子の表面拡散が促進されるためと考えられる。別の理由としては、圧力の増大と共に前述した反跳Ar原子がエネルギーを失い、ウエハ10に到達しなくなったものとも推測できる。
【0157】
図32のグラフと併せて考察すると、真空容器2内の圧力の上限は、W膜が低抵抗で、例えば10μΩ・cm付近で成膜できる圧力であれば良く、この場合例えば約200mTorrである。投入電力密度の上限についても同様であり、例えば10μΩ・cm付近で成膜出来れば良いとすると、投入電力密度の上限値は例えば10W/cm2であると推測できる。
【0158】
ここで、W粒子の表面拡散について更に推考する。
非特許文献2には、スパッタリングにおいて入射粒子によって膜表面における表面拡散を起こすための条件が提案されている。これによると、膜表面に入射したエネルギーの総和がWの結合エネルギーの総和よりも大きいとき、W粒子は移動可能である旨の解釈がなされている。すなわち、
Wの結合エネルギーの総和<(J+/Jm)×Vdc…(5)
ここで、J+、Jm、及びVdcは夫々、入射粒子が全てイオンであるとした場合におけるイオンの数、同場合のW原子の数、及び基板の直上に形成されたシースに高周波電源41から加わる直流電圧である。前述したように基板に印加する高周波電力を大きくすると成膜したW膜にダメージを与えるため、Vdcを大きくするよりもJ+を大きくする方が望ましい。W膜のスパッタ閾値は33eVであり、Wの金属結合エネルギーは9eVである。よって(5)より
(J+/Jm)×33eV>9eV…(6)
が成り立つ。
【0159】
もしW膜の成膜速度が300nm/minであるとすると、Jm=3×1016/cm2secであるので、イオン入射量J+は、最低でもJ+=8×1015/cm2secとなる。J+が定まると空間イオン密度も定まる。この密度は、J+に比して104のオーダーで低いので、空間イオン密度のオーダーは最低でも1011/cm2である。また、圧力を増大させると、イオン密度が大きくなるので成膜速度も大きくなる。なお、ターゲット−基板間距離が30mmよりも広い通常のスパッタ装置の条件下では、低圧雰囲気となるので空間イオン密度のオーダーは109/cm2となる。このため通常のスパッタ装置ではイオン密度が小さい分Vdcを増大させる必要があるが、前述したように過剰なエネルギーを有したArイオンがW膜に引き込まれ、成膜されたW膜に欠陥が生じる。Wのスパッタ閾値は33eVであるから、イオンのエネルギーは数十eV程度のオーダーにするべきである。
【0160】
ここで、ターゲット面積当たりの直流電力投入密度が4.5W/cm2である場合、直流電圧を300Vとすると、電子ドリフト部の電流密度は15mA/cm2と算出される。ターゲットの面積はこれより小さいので、ターゲット近傍の電流密度はこの値よりも大きく、従ってターゲット近傍のイオン密度は約1×1012/cm3以上となる。非特許文献3によると、このときのJ+は以下の式で計算できる。
J+=0.61e・ni・uB…(7)
ここで、eは電子1個の電荷、niはイオン密度、uBはボーム速度である。
本実施例ではターゲットと基板間の距離が20mmと近距離であるため、イオン密度は基板近傍とターゲット近傍の密度との間に大きな違いはなく、1011/cm3程度のオーダーと推定できる。よって、従来技術のスパッタリングに比して2桁程度イオン密度が高いことが推測できる。
【0161】
上述してきたように、W膜の比抵抗を低下させるためには、イオン密度を高めることとVdcを低く抑えることが重要である。しかし従来のマグネトロンスパッタ装置では、高速な成膜速度を保ちつつこのような条件を得ることは困難である。よってW膜の比抵抗は高くなる。
具体的に説明すると、従来のマグネトロンスパッタ装置では、ターゲットと基板間の距離が長いので、基板上のイオン密度は109/cm3台と低く、放電も不均一で断続的にしかイオンが生じないので、従って局所的にしかプラズマ化できない箇所も存在するものと思われる。基板上でプラズマ化していない箇所では、スパッタされたWは飛来してはくるが、イオンが存在しないため、飛来したW粒子が基板表面に良好に成膜されない。一方プラズマ化された箇所ではイオンが存在するため、飛来したW粒子は基板表面で良好に成膜される。このため、W粒子の状態が良好な部分と粗悪な部分が積層され、全体としてコンディションの良くない膜が形成される。結果として、形成されたW膜の比抵抗は高くなってしまう。
一方、本発明では、ターゲットと基板間の距離が20mmというナローギャップであり、更に上述した数式(5)
Wの結合エネルギーの総和<(J+/Jm)×Vdc
を常に満たすうえ、全面放電であるからマグネット回転でも高密度で連続的にイオンが照射されるので、基板全体で良好なW粒子の堆積を可能にし、結果として比抵抗の低い膜が成膜される。又成膜速度も400nm/min以上という高速性が維持される。W以外のTa、Ti、Mo、Ru、Hf、Co、Niの成膜についても同様のことがいえる。
【符号の説明】
【0162】
S 半導体ウエハ
2 真空容器
24 真空ポンプ
3 ターゲット電極
31 ターゲット
4 載置部
41 高周波電源部
5 マグネット配列体
52 マグネット群
53 リターン用マグネット
54 内側マグネット群
【特許請求の範囲】
【請求項1】
真空容器内に載置された被処理基板に対向するようにターゲットを配置し、このターゲットの背面側にマグネットを設けたマグネトロンスパッタ装置において、
前記ターゲットに電圧を印加する電源部と、
ベース体にマグネット群を配列したマグネット配列体と、
このマグネット配列体を被処理基板に対して直交する軸の周りに回転させるための回転機構と、を備え、
前記マグネット配列体は、カスプ磁界による電子のドリフトに基づいてプラズマが発生するように、マグネット群を構成する複数のN極及びS極がターゲットに対向する面に沿って互いに間隔をおいて配列され、
前記マグネット群における最外周に位置するマグネットは、電子がカスプ磁界の拘束から解放されてカスプ磁界の外に飛び出すことを阻止するようにライン状に配列され、
スパッタ時における前記ターゲットと被処理基板との距離が30mm以下であることを特徴とするマグネトロンスパッタ装置。
【請求項2】
真空容器内に載置された被処理基板に対向するようにターゲットを配置し、このターゲットの背面側にマグネットを設け、直径300mmの半導体ウエハである被処理基板に対してマグネトロンスパッタ処理を行うマグネトロンスパッタ装置において、
前記ターゲットに電圧を印加する電源部と、
ベース体にマグネット群を配列したマグネット配列体と、
このマグネット配列体を被処理基板に対して直交する軸の周りに回転させるための回転機構と、を備え、
前記マグネット配列体は、カスプ磁界による電子のドリフトに基づいてプラズマが発生するように、マグネット群を構成する複数のN極及びS極がターゲットに対向する面に沿って互いに間隔をおいて配列され、
前記マグネット群における最外周に位置するマグネットは、電子がカスプ磁界の拘束から解放されてカスプ磁界の外に飛び出すことを阻止するようにライン状に配列され、
ターゲットの直径をR(mm)、ターゲットと被処理基板との距離をTS(mm)とすると、
(TS´/R)×100(%)=0.0006151R2−0.5235R+113.4、かつ
TS≦1.1TS´となるように前記距離(TS)が設定されていることを特徴とするマグネトロンスパッタ装置。
【請求項3】
真空容器内に載置された被処理基板に対向するようにターゲットを配置し、このターゲットの背面側にマグネットを設け、直径450mmの半導体ウエハである被処理基板に対してマグネトロンスパッタ処理を行うマグネトロンスパッタ装置において、
ベース体にマグネット群を配列したマグネット配列体と、
このマグネット配列体を被処理基板に対して直交する軸の周りに回転させるための回転機構と、を備え、
前記マグネット配列体は、カスプ磁界による電子のドリフトに基づいてプラズマが発生するように、マグネット群を構成する複数のN極及びS極がターゲットに対向する面に沿って互いに間隔をおいて配列され、
前記マグネット群における最外周に位置するマグネットは、電子がカスプ磁界の拘束から解放されてカスプ磁界の外に飛び出すことを阻止するようにライン状に配列され、
ターゲットの直径をR(mm)、ターゲットと被処理基板との距離をTS(mm)とすると、
(TS´/R)×100(%)=0.0003827R2−0.4597R+139.5、かつ
TS≦1.1TS´となるように前記距離(TS)が設定されていることを特徴とするマグネトロンスパッタ装置。
【請求項4】
前記マグネット配列体は、被処理基板の投影領域全体に亘ってプラズマが発生するように、マグネット群を構成する複数のN極及びS極が配列されていることを特徴とする請求項1ないし3のいずれか一項に記載のマグネトロンスパッタ装置。
【請求項5】
前記マグネット配列体は、主マグネット群と補助マグネット群からなり、前記主マグネット群のN極及びS極が前記ターゲット面の法線方向に配置され、前記補助マグネット群のN極及びS極が前記ターゲットの面と水平方向に配置されており、ターゲット側において補助マグネットの一辺に隣接する主マグネットの磁極と、当該補助マグネットの一辺側の磁極が同極となるように設定されていることを特徴とする請求項1ないし3のいずれか一項に記載のマグネトロンスパッタ装置。
【請求項6】
前記被処理基板におけるターゲットとは反対側に設けられた電極と、
この電極に高周波電力を供給する高周波電源部と、を備えたことを特徴とする請求項1ないし5のいずれか一項に記載のマグネトロンスパッタ装置。
【請求項7】
前記最外周に位置するマグネットをリターン用のマグネットと呼ぶとすると、リターン用のマグネットを除くマグネット群の中で最外周に位置する外側マグネットの少なくとも一つの磁力は、当該外側マグネットよりも内側に位置するマグネットの磁力よりも小さいことを特徴とする請求項1ないし6のいずれか一項に記載のマグネトロンスパッタ装置。
【請求項8】
前記リターン用のマグネットよりも内側に位置するマグネットは、複数のマグネット要素に分割されて構成され、マグネット要素の集合数によってマグネットの磁力が調整できることを特徴とする請求項7記載のマグネトロンスパッタ装置。
【請求項9】
前記リターン用のマグネットよりも内側に位置するマグネット群は、N極に対応するマグネットの強さの合計と、S極に対応するマグネットの強さの合計とが揃っていることを特徴とする請求項7または8のいずれか一項に記載のマグネトロンスパッタ装置。
【請求項10】
前記リターン用のマグネットよりも内側に位置するマグネット群は、マグネットをマトリックス状に配列して構成されていることを特徴とする請求項7ないし9のいずれか一項に記載のマグネトロンスパッタ装置。
【請求項11】
請求項1ないし10のいずれか一つに記載のマグネトロンスパッタ装置を用い、
プロセス圧力を13.3Pa(100mTorr)以上に設定し、ターゲットへの投入電力をターゲットの面積で割った投入電力密度を3W/cm2以上に設定して、被処理基板に対して金属膜を成膜することを特徴とするマグネトロンスパッタ方法。
【請求項1】
真空容器内に載置された被処理基板に対向するようにターゲットを配置し、このターゲットの背面側にマグネットを設けたマグネトロンスパッタ装置において、
前記ターゲットに電圧を印加する電源部と、
ベース体にマグネット群を配列したマグネット配列体と、
このマグネット配列体を被処理基板に対して直交する軸の周りに回転させるための回転機構と、を備え、
前記マグネット配列体は、カスプ磁界による電子のドリフトに基づいてプラズマが発生するように、マグネット群を構成する複数のN極及びS極がターゲットに対向する面に沿って互いに間隔をおいて配列され、
前記マグネット群における最外周に位置するマグネットは、電子がカスプ磁界の拘束から解放されてカスプ磁界の外に飛び出すことを阻止するようにライン状に配列され、
スパッタ時における前記ターゲットと被処理基板との距離が30mm以下であることを特徴とするマグネトロンスパッタ装置。
【請求項2】
真空容器内に載置された被処理基板に対向するようにターゲットを配置し、このターゲットの背面側にマグネットを設け、直径300mmの半導体ウエハである被処理基板に対してマグネトロンスパッタ処理を行うマグネトロンスパッタ装置において、
前記ターゲットに電圧を印加する電源部と、
ベース体にマグネット群を配列したマグネット配列体と、
このマグネット配列体を被処理基板に対して直交する軸の周りに回転させるための回転機構と、を備え、
前記マグネット配列体は、カスプ磁界による電子のドリフトに基づいてプラズマが発生するように、マグネット群を構成する複数のN極及びS極がターゲットに対向する面に沿って互いに間隔をおいて配列され、
前記マグネット群における最外周に位置するマグネットは、電子がカスプ磁界の拘束から解放されてカスプ磁界の外に飛び出すことを阻止するようにライン状に配列され、
ターゲットの直径をR(mm)、ターゲットと被処理基板との距離をTS(mm)とすると、
(TS´/R)×100(%)=0.0006151R2−0.5235R+113.4、かつ
TS≦1.1TS´となるように前記距離(TS)が設定されていることを特徴とするマグネトロンスパッタ装置。
【請求項3】
真空容器内に載置された被処理基板に対向するようにターゲットを配置し、このターゲットの背面側にマグネットを設け、直径450mmの半導体ウエハである被処理基板に対してマグネトロンスパッタ処理を行うマグネトロンスパッタ装置において、
ベース体にマグネット群を配列したマグネット配列体と、
このマグネット配列体を被処理基板に対して直交する軸の周りに回転させるための回転機構と、を備え、
前記マグネット配列体は、カスプ磁界による電子のドリフトに基づいてプラズマが発生するように、マグネット群を構成する複数のN極及びS極がターゲットに対向する面に沿って互いに間隔をおいて配列され、
前記マグネット群における最外周に位置するマグネットは、電子がカスプ磁界の拘束から解放されてカスプ磁界の外に飛び出すことを阻止するようにライン状に配列され、
ターゲットの直径をR(mm)、ターゲットと被処理基板との距離をTS(mm)とすると、
(TS´/R)×100(%)=0.0003827R2−0.4597R+139.5、かつ
TS≦1.1TS´となるように前記距離(TS)が設定されていることを特徴とするマグネトロンスパッタ装置。
【請求項4】
前記マグネット配列体は、被処理基板の投影領域全体に亘ってプラズマが発生するように、マグネット群を構成する複数のN極及びS極が配列されていることを特徴とする請求項1ないし3のいずれか一項に記載のマグネトロンスパッタ装置。
【請求項5】
前記マグネット配列体は、主マグネット群と補助マグネット群からなり、前記主マグネット群のN極及びS極が前記ターゲット面の法線方向に配置され、前記補助マグネット群のN極及びS極が前記ターゲットの面と水平方向に配置されており、ターゲット側において補助マグネットの一辺に隣接する主マグネットの磁極と、当該補助マグネットの一辺側の磁極が同極となるように設定されていることを特徴とする請求項1ないし3のいずれか一項に記載のマグネトロンスパッタ装置。
【請求項6】
前記被処理基板におけるターゲットとは反対側に設けられた電極と、
この電極に高周波電力を供給する高周波電源部と、を備えたことを特徴とする請求項1ないし5のいずれか一項に記載のマグネトロンスパッタ装置。
【請求項7】
前記最外周に位置するマグネットをリターン用のマグネットと呼ぶとすると、リターン用のマグネットを除くマグネット群の中で最外周に位置する外側マグネットの少なくとも一つの磁力は、当該外側マグネットよりも内側に位置するマグネットの磁力よりも小さいことを特徴とする請求項1ないし6のいずれか一項に記載のマグネトロンスパッタ装置。
【請求項8】
前記リターン用のマグネットよりも内側に位置するマグネットは、複数のマグネット要素に分割されて構成され、マグネット要素の集合数によってマグネットの磁力が調整できることを特徴とする請求項7記載のマグネトロンスパッタ装置。
【請求項9】
前記リターン用のマグネットよりも内側に位置するマグネット群は、N極に対応するマグネットの強さの合計と、S極に対応するマグネットの強さの合計とが揃っていることを特徴とする請求項7または8のいずれか一項に記載のマグネトロンスパッタ装置。
【請求項10】
前記リターン用のマグネットよりも内側に位置するマグネット群は、マグネットをマトリックス状に配列して構成されていることを特徴とする請求項7ないし9のいずれか一項に記載のマグネトロンスパッタ装置。
【請求項11】
請求項1ないし10のいずれか一つに記載のマグネトロンスパッタ装置を用い、
プロセス圧力を13.3Pa(100mTorr)以上に設定し、ターゲットへの投入電力をターゲットの面積で割った投入電力密度を3W/cm2以上に設定して、被処理基板に対して金属膜を成膜することを特徴とするマグネトロンスパッタ方法。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【図20】
【図21】
【図22】
【図23】
【図24】
【図25】
【図26】
【図27】
【図28】
【図29】
【図30】
【図31】
【図32】
【図33】
【図34】
【図35】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【図20】
【図21】
【図22】
【図23】
【図24】
【図25】
【図26】
【図27】
【図28】
【図29】
【図30】
【図31】
【図32】
【図33】
【図34】
【図35】
【公開番号】特開2013−82993(P2013−82993A)
【公開日】平成25年5月9日(2013.5.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−172387(P2012−172387)
【出願日】平成24年8月2日(2012.8.2)
【出願人】(000219967)東京エレクトロン株式会社 (5,184)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成25年5月9日(2013.5.9)
【国際特許分類】
【出願日】平成24年8月2日(2012.8.2)
【出願人】(000219967)東京エレクトロン株式会社 (5,184)
【Fターム(参考)】
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