説明

モータの冷却装置

【課題】コイル7からハウジング2への熱伝達性能を向上させるとともに、コイル7からの放電もしくは漏電を抑制もしくは防止することのできるモータの冷却装置を提供する。
【解決手段】外周側に突出した凸部と内周側に窪んだ凹部との少なくともいずれかの部分を有し沿面距離がコイル7とケース2とを絶縁可能とする距離以上となるように形成され、コイル7からケース2に熱を伝達するカバー部材9を更に備え、カバー部材9の外周面とカバー部材におけるコイル側の面とに絶縁皮膜が形成されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、モータを冷却する装置に関し、特にモータに設けられたステータの軸線方向に突出したコイルエンド部を冷却する装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
ハイブリッド車や電気自動車などの駆動系に使用されるモータは、高トルクを出力することのできるものが使用されている。一方、車両に搭載されるモータは出力トルクが大きい反面、発熱量が多くなってしまう。特に、モータのコイルエンド部の発熱量が多くなるので、モータのコイルエンド部を冷却する装置が種々開発されている。
【0003】
また、コイルエンド部は、ステータから軸線方向に突出しているので、コイルエンド部とハウジングとが通電してしまう可能性があり、コイルエンド部とハウジングとが通電しないようにコイルエンド部を絶縁被膜で覆ったり、コイルエンド部からハウジングへ放電しないようにコイルエンド部とハウジングとの距離を確保したりする装置が開発されている。
【0004】
特許文献1には、円筒状に形成された円筒部とその円筒部の軸線方向に突出してコイルエンド部を覆うように形成されたコイルエンドカバー部とを有する樹脂部材でコイルエンド部を覆うことによって、コイルエンド部とハウジングとを絶縁するように構成された装置が記載されている。また、特許文献2に記載された装置は、ロータにコイルが巻回されて構成されたモータであって、そのロータの軸線方向に突出したコイルエンド部の外周側に樹脂を充填することによってコイルエンド部とハウジングとを絶縁するように構成されている。
【0005】
さらに、特許文献3に記載された装置は、ステータの軸線方向に突出したコイルエンド部の内周側に、ステータの端面とハウジングとに当接して配置された環状部材を設け、その環状部材にコイルエンド部を覆うクリップを設けることによって、コイルエンド部の位置を定めてハウジングとコイルエンド部の距離を一定とすることにより、コイルエンド部からハウジングに放電することを抑制もしくは防止するように構成されている。なお、特許文献3に記載された装置は、コイルエンド部の外周側から冷却オイルを滴下あるいは流下してコイルエンド部を冷却するように構成されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平10−126998号公報
【特許文献2】特開2002−171707号公報
【特許文献3】特開2009−225627号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上述したように特許文献1および2に記載された装置は、コイルエンド部を樹脂材料によって被覆することよりコイルエンド部とハウジングとを絶縁するように構成されている。しかしながら、コイルエンド部の冷却効率を向上させるためには、コイルエンド部とハウジングとの間に伝熱性能の良好な伝熱部材を設けて、その伝熱部材を介してコイルエンド部からハウジングに熱を伝達して放熱することが好ましいが、一般的に伝熱性能が良好な材料は導電性であるのでコイルエンド部とハウジングとを絶縁することができない。
【0008】
また、特許文献3に記載された装置のように、コイルエンド部の位置を定めてコイルエンドからハウジングに放電することを抑制もしくは防止する構成では、コイルエンド部とハウジングとには、少なからず隙間が空き、その隙間には空気などの断熱層が流入されるので、コイルエンド部からハウジングへの熱伝達性能が低下してしまう可能性がある。
【0009】
この発明は上記の技術的課題に着目してなされたものであり、コイルからハウジングへの熱伝達性能を向上させるとともに、コイルからの放電もしくは漏電を抑制もしくは防止することのできるモータの冷却装置を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記の目的を達成するために、請求項1の発明は、ケースに固定されたステータコアと該ステータコアの内周側に突出した巻回部に素線が巻かれたコイルとを有するステータと、該ステータの内周側に配置されたロータとを備えたモータの冷却装置において、前記コイルから前記ケースに熱を伝達するカバー部材を更に備え、該カバー部材は、前記コイルと前記ケースとを絶縁可能とする沿面距離以上とする外周側に突出した凸部と内周側に窪んだ凹部との少なくともいずれかの部分を有し、該カバー部材の外周面と前記カバー部材における前記コイル側の面とに絶縁皮膜が形成されていることを特徴とするものである。
【0011】
請求項2の発明は、請求項1の発明において、前記カバー部材に形成された凸部の端面は、該カバー部材の径方向における前記コイルの外周側の端部よりも外周側に突出していることを特徴とするモータの冷却装置である。
【0012】
請求項3の発明は、請求項1または2の発明において、前記カバー部材と前記コイルとの間に冷却オイルが流れる流路が形成されていることを特徴とするモータの冷却装置である。
【発明の効果】
【0013】
請求項1の発明によれば、コイルからケースに熱を伝達するカバー部材が設けられているので、コイルの熱がカバー部材を介してケースに伝達されることによりコイルの放熱性能を向上させることができる。また、そのカバー部材は、外周側に突出した凸部と内周側に窪んだ凹部との少なくともいずれかの部分を形成して沿面距離がコイルとケースとを絶縁可能とする距離以上となるように形成され、そのカバー部材の外周面とカバー部材のコイル側の面とに絶縁皮膜が形成されているので、コイルとカバー部材とを絶縁することができるとともに、コイルからケースへ放電することを抑制もしくは防止することできる。そのため、モータの放熱性能を向上させることができるとともに、コイルからの放電もしくは漏電を抑制もしくは防止することができる。
【0014】
また、請求項2の発明によれば、カバー部材に形成された凸部の端面は、カバー部材の径方向におけるコイルの外周側の端部よりも外周側に突出しているので、コイルとカバー部材との空間距離を長くすることができ、その結果、コイルとカバー部材との軸線方向における距離を短くすることができる。
【0015】
そして、請求項3の発明によれば、カバー部材とコイルとの間に冷却オイルが流れる流路が形成されているので、コイルの熱を冷却オイルを介してカバー部材に伝達することができる。そのため、コイルの冷却性能を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】この発明に係るモータの構成例を説明するための断面図である。
【図2】そのモータにおけるコイルエンド部の拡大図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
つぎにこの発明について具体的に説明する。この発明の対象とすることのできるモータは、通電されることによって発熱するものであり、例えば、産業用機械やハイブリッド車に搭載されたモータ(モータ・ジェネレータ)あるいは車輪毎に設けられたインホイールモータなどの従来知られた種々のモータが挙げられる。図1はインホイールモータ1の断面を示したものであり、図に示すようにモータハウジング2の内部にステータ3とロータ4とによって構成されたモータ5が設けられている。
【0018】
ステータ3は、モータハウジング2と一体に形成されたステータコア6と、そのステータコア6に素線を巻いて形成されたコイル7とで構成されている。具体的には、ステータコア6は、電磁鋼板を軸線方向に積層して構成され、内周側に突出しかつ円周方向に間隔を空けて複数形成された巻回部6aを有し、その巻回部6aにコイル7が巻かれている。
【0019】
また、ステータ6の内周側に配置されたロータ4は、ステータコア6と同様に電磁鋼板を軸線方向に積層して構成されており、出力軸8と一体に形成されている。さらに、ロータ4の外周側には永久磁石が取り付けられている。
【0020】
したがって、ステータコア6に巻かれたコイル7に通電することによって、その電力に応じた電磁力が生じるので、その電磁力とロータ4に取付られた永久磁石の磁力とが引き合いあるいは反発してモータ5のトルクが得られる。
【0021】
一方、インホイールモータ1は、車両が急登坂路を走行している場合など高トルクを要求されるときには、コイル7に通電される電力が増加するので、銅損によってコイル7の発熱量が増加する。特にステータコア6の軸線方向に突出した部分(以下、単にコイルエンド部7aと記す。)の発熱量が増加する。
【0022】
この発明に係るモータの冷却装置は、コイルエンド部7aの放熱性能を向上させるために、コイルエンド部7aを伝熱性能の優れた材料、例えばアルミニウムで形成されたコイルエンドカバー9によってコイルエンド部7aを覆い、そのコイルエンドカバー9を介してハウジング2に熱を伝達して放熱するように構成されている。つまり、コイルエンドカバー9とハウジング2とが直接接触するように構成されている。なお、コイルエンドカバー9からハウジング2への熱伝達量を向上させるために、コイルエンドカバー9とハウジング2との接触面積を大きくすることが好ましい。
【0023】
また、図に示す例では、コイルエンド部7aを覆った樹脂製の被膜(以下、単にモールド10と記す。)の端面と半径方向における内周側の面とに冷却オイルが流れる流路11が形成されている。つまり、モールド10の端面および内周側の面とコイルエンドカバー9とに隙間を形成することにより、その隙間を流路11としている。また、冷却オイルの流速を向上させることによって、モールド10と冷却オイルとの見かけ上の熱抵抗を小さくすることができるので、流路11の端部すなわち図における流路11の両端部を封止するようにOリングなどのシール材12が設けられている。このように構成することによって、図示しないポートから供給された冷却オイルが流路11を流れることによってモールド10およびコイルエンド部7aを冷却することができる。
【0024】
一方、モールド10は、コイルエンド部7aの放熱性能を向上させるために薄い被膜であることが好ましいため、モールド10に過剰な荷重が作用した場合や経時劣化によってモールド10に微細な亀裂が生じる可能性がある。したがって、この発明に係るモータの冷却装置は、コイルエンド部7aからコイルエンドカバー9へ通電すること、すなわちコイルエンド部7aとコイルエンドカバー9とが接触してもしくは冷却オイルや空気を介して通電することを抑制もしくは防止するために、コイルエンドカバー9におけるコイルエンド部7a側の面に溶射やアルマイト処理などによって絶縁皮膜9aを形成して、コイルエンド部7aとコイルエンドカバー9とを絶縁している。したがって、コイルエンド部7aからコイルエンドカバー9への通電を抑制もしくは防止することができる。また、コイルエンドカバー9を樹脂などの絶縁材料で形成した場合より、コイルエンド部7aの放熱性能を向上させることができる。つまり、コイルエンドカバー9の表面に形成された絶縁皮膜9aの厚みが薄いのでコイルエンド部7aからコイルエンドカバー9への熱抵抗の増加を抑制することができ、その結果、コイルエンド部7aの放熱性能を向上させることができる。なお、図2は図1におけるA部の拡大図であって、絶縁皮膜9aが形成されている箇所を太線で示している。
【0025】
さらに、この発明に係るモータの冷却装置は、コイルエンド部7aからハウジング2へ放電することを抑制もしくは防止するために、コイルエンドカバー9の外周面に絶縁皮膜9aを形成し、かつその外周面の沿面距離、すなわちコイルエンド部7aとハウジング2との絶縁皮膜9aの表面に沿った最短距離を放電が生じない距離以上となるように形成されている。図に示す例では、コイルエンドカバー9の外周面のうち、軸線方向におけるコイルエンド部7a側の部分を外周側に突出するように形成し、ケース側の部分を内周側に窪んで形成している。なお、図に示すコイルエンドカバー9およびモールド10の外周面とハウジング2との径方向における隙間は空気層となっている。コイルエンドカバー9の外周面の形状を上記のように形成することによって、コイルエンド部7aとコイルエンドカバー9との沿面距離を長くすることができるので、コイルエンド部7aからコイルエンドカバー9に放電することを抑制もしくは防止することができる。また、コイルエンドカバー9の外周側に突出した部分の端面をコイルエンド部の外周面より外周側に突出するように形成することによって、コイルエンド部7aとハウジング2との空間距離、すなわちコイルエンド部7aとハウジング2との空間を通る最短距離を長くすることができるので、コイルエンド部7aとハウジング2との軸線方向における長さを短くすることができる。
【0026】
また、図に示す例では、コイルエンド部7aから軸線方向に中性点13が突出しているので、その中性点13とコイルエンドカバー9とが接触しないような形状にコイルエンドカバー9が形成されている。つまり、中性点13が配置されている箇所を避けるようにコイルエンドカバー9に凹部を形成している。また、そのコイルエンドカバー9の表面に溶射によって絶縁皮膜9aを形成する場合には、凹部の一方の側面、すなわち図における上面を所定の角度のテーパ面状に形成する。このように凹部を形成することによって、溶射ガンにより吹き付けられた溶射材を凹部の底面全体に付着させることができる。
【0027】
なお、この発明に係るモータの冷却装置は、コイルエンド部7aの放熱性能を向上させることができ、かつコイルエンド部7aとハウジング2とを絶縁することができればよいので、上述したようにコイルエンド部7aがモールド10に覆われて形成されたモータ5でなくてもよい。つまり、コイルエンド部7aのステータコア6a側をモールド10してコイル7とステータコア6aとを固定し、コイルエンド部7aを流路11に突出させて構成されていてもよい。その場合には、モールド10の外周側および内周側とハウジング2との隙間にシール材12を設けて、流路11を形成することができる。さらに、特に流路11を設けずにコイルエンド部7aとコイルエンドカバー9とを接触させて形成されたモータ5であってもよい。
【0028】
また、上述した構成では、コイルエンドカバー9の外周面に外周側に突出した部分(以下、凸部と記す。)と内周側に窪んだ部分(以下、凹部と記す。)とを形成しているが、要は、コイルエンド部7aとハウジング2とが通電しないように沿面距離を長くすることができればよいので、凸部と凹部とのいずれか一方が形成されていればよい。
【符号の説明】
【0029】
2…モータハウジング、 3…ステータ、 4…ロータ、 7…コイル、 9…コイルエンドカバー、 9a…絶縁皮膜。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ケースに固定されたステータコアと該ステータコアの内周側に突出した巻回部に素線が巻かれたコイルとを有するステータと、該ステータの内周側に配置されたロータとを備えたモータの冷却装置において、
前記コイルから前記ケースに熱を伝達するカバー部材を更に備え、
該カバー部材は、前記コイルと前記ケースとを絶縁可能とする沿面距離以上とする外周側に突出した凸部と内周側に窪んだ凹部との少なくともいずれかの部分を有し、
該カバー部材の外周面と前記カバー部材における前記コイル側の面とに絶縁皮膜が形成されていることを特徴とするモータの冷却装置。
【請求項2】
前記カバー部材に形成された凸部の端面は、該カバー部材の径方向における前記コイルの外周側の端部よりも外周側に突出していることを特徴とする請求項1に記載のモータの冷却装置。
【請求項3】
前記カバー部材と前記コイルとの間に冷却オイルが流れる流路が形成されていることを特徴とする請求項1または2に記載のモータの冷却装置。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2012−170299(P2012−170299A)
【公開日】平成24年9月6日(2012.9.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−31230(P2011−31230)
【出願日】平成23年2月16日(2011.2.16)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】