説明

モータ制御装置およびモータ制御方法

【課題】パルス幅変調制御方式によるPWM制御モードと、矩形波制御方式によるワンパルス制御モードとを有するモータ制御装置において、パルス幅変調制御方式と矩形波制御方式とを通じて適切に電流オフセットを抑制できるようにする。
【解決手段】低周波成分抽出部151は、インバータ168がモータMに供給する電流のうち低周波成分を抽出する。また、ゲイン設定部140は、低周波成分抽出部151が抽出した低周波成分に作用させるゲインを、PWM制御モードにおけるゲインが、ワンパルス制御モードにおけるゲインよりも小さくなるように設定する。そして、オフセット補正部165は、低周波成分抽出部151が抽出した低周波成分に、ゲイン設定部140が設定したゲインを作用させて得られるオフセット補正指令値に基づいて、インバータ168がモータMに供給する電流のオフセットを低減させるオフセット補正を行う。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、モータ制御装置およびモータ制御方法に関する。
【背景技術】
【0002】
インバータを具備するモータ制御装置における制御方式の1つに、パルス幅変調(Pulse Width Modulation;PWM)制御方式がある。また、パルス幅変調制御方式ではモータに印加できる電圧が必要電圧に満たない場合に、矩形波制御方式に切り替えてモータ制御を行う方法が知られている。例えば、特許文献1に記載の、交流電動機の制御装置は、矩形波電圧駆動(矩形波制御方式)と、PWM電圧駆動(パルス幅変調制御方式)とを行う。
【0003】
ここで、矩形波制御方式において、モータ軸の回転角に誤差が生じると、インバータからモータに供給する電流の切り替えタイミングにずれが生じ、電流が正側または負側にオフセットが発生し得るという問題がある。かかるオフセットにより、モータの発熱や振動等が発生するおそれがある。
かかる問題に対し、特許文献2では、モータの回転の1周期を等間隔に複数に分割したタイミングで駆動電流値(インバータからモータに供給される電流の値)を1周期分サンプリングし、これらサンプリングした駆動電流値の平均値としてオフセット値を算出して、得られたオフセット値に基づいて駆動信号のデューティ比を補正することで、駆動電流のオフセットを補正することが記載されている。
また、特許文献1では、ローパスフィルタを用いて、相電流(インバータからモータに供給される電流)の直流成分をオフセットとして検出することが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2006−74951号公報
【特許文献2】特開2001−298992号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1や特許文献2には、パルス幅変調制御方式と矩形波制御方式とを通じて適切にオフセットを検出する方法は示されていない。例えば、特許文献1に記載の方法では、モータ低速回転領域において矩形波電圧駆動を行う際に、相電流の周波数が低いことから、相電流自身をオフセットと誤検出してしまうおそれがある。
さらに、特許文献2に記載には、駆動電流値のサンプリングを行うタイミングの検出方法が示されていない。モータ速度が変化する場合、モータの回転の1周期や、当該1周期に基づくサンプリングのタイミングをリアルタイムで検出することは困難と思われる。駆動電流値のサンプリングを行うタイミングにずれが生じると、得られるオフセットに誤差が生じ、オフセット補正を正確に行えなくなってしまう。
【0006】
本発明は、このような事情を考慮してなされたものであり、その目的は、パルス幅変調制御方式と矩形波制御方式とを通じて適切に電流オフセットを抑制することのできるモータ制御装置およびモータ制御方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
この発明は上述した課題を解決するためになされたもので、本発明の一態様によるモータ制御装置は、交流電力をモータに供給するインバータを具備し、前記インバータが前記モータに供給する電力をパルス幅変調制御方式にて制御する第1制御モードと、前記インバータが前記モータに供給する電力を矩形波制御方式にて制御する第2制御モードとを有するモータ制御装置であって、前記インバータが前記モータに供給する電流を測定する電流測定部と、前記電流測定部が測定した電流のうち低周波成分を抽出するローパスフィルタと、前記電流測定部が測定した電流の低周波成分に作用させるゲインを、前記第1制御モードにおける前記ゲインが前記第2制御モードにおける前記ゲインより小さくなるように設定するゲイン設定部と、前記電流測定部が測定した電流の低周波成分に前記ゲインを作用させて得られるオフセット補正指令値に基づいて、前記インバータが前記モータに供給する電流のオフセットを低減させるオフセット補正を行うオフセット補正部と、を具備することを特徴とする。
【0008】
また、本発明の一態様によるモータ制御装置は、上述のモータ制御装置であって、前記ゲイン設定部は、制御モードの切り替わりの際の前記ゲインの急変を防止するローパスフィルタを具備することを特徴とする。
【0009】
また、本発明の一態様によるモータ制御装置は、上述のモータ制御装置であって、前記モータ制御装置は、前記インバータが前記モータに供給する電力を正弦波パルス幅変調制御方式にて制御する第3制御モードと、前記インバータが前記モータに供給する電力を過変調パルス幅変調制御方式にて制御する第4制御モードとを、前記第1制御モードに含んで有し、前記ゲイン設定部は、前記第3制御モードにおける前記ゲインが前記第4制御モードにおける前記ゲインより小さくなるように設定することを特徴とする。
【0010】
また、本発明の一態様によるモータ制御方法は、交流電力をモータに供給するインバータを具備し、前記インバータが前記モータに供給する電力をパルス幅変調制御方式にて制御する第1制御モードと、前記インバータが前記モータに供給する電力を矩形波制御方式にて制御する第2制御モードとを有するモータ制御装置のモータ制御方法であって、前記インバータが前記モータに供給する電流を測定する電流測定ステップと、前記電流測定ステップにて測定した電流のうち低周波成分を抽出する低周波成分抽出ステップと、前記電流測定ステップにて測定した電流の低周波成分に作用させるゲインを、前記第1制御モードにおける前記ゲインが前記第2制御モードにおける前記ゲインより小さくなるように設定するゲイン設定ステップと、前記電流測定ステップにて測定した電流の低周波成分に前記ゲインを作用させて得られるオフセット補正指令値に基づいて、前記インバータが前記モータに供給する電流のオフセットを低減させるオフセット補正を行うオフセット補正ステップと、を具備することを特徴とする。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、パルス幅変調制御方式と矩形波制御方式とを通じて適切に電流オフセットを抑制し得る。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】本発明の一実施形態におけるモータ制御装置の機能構成を示す概略ブロック図である。
【図2】同実施形態において、モータ制御装置100がオフセット補正を行う処理手順を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、図面を参照して、本発明の実施の形態について説明する。
図1は、本発明の一実施形態におけるモータ制御装置の機能構成を示す概略ブロック図である。同図において、モータ制御装置100は、角度検出部111と、速度計算部112と、電流検出器121と、3相/2相変換部122と、モード切替部131と、ゲイン設定部140と、低周波成分抽出部151と、乗算部152と、PWM制御電圧生成部161と、ワンパルス制御電圧生成部162と、信号選択部163と、2相/3相変換部164と、オフセット補正部165と、デューティ計算部166と、電源部167と、インバータ168とを具備する。ゲイン設定部140は、記憶部141と、ゲイン切替部142と、急変防止部143とを具備する。また、モータ制御装置100は、モータMを制御する。
【0014】
モータ制御装置100は、電気自動車に搭載されて、当該電気自動車の駆動用モータMを制御する。ただし、本発明は、電気自動車のモータ制御に限らず様々なモータの制御に適用可能である。例えば、産業車両、ハイブリッド自動車、電車、船舶、飛行機または発電システム等のモータの制御にも本発明を適用可能である。
【0015】
モータMは、3相モータであり、電力変換部155から出力される駆動電流により駆動される。モータMには、角度検出部111が取り付けられている。
角度検出部111は、例えばレゾルバであり、モータMのロータ回転角度θを検出し、得られたロータ回転角度θを速度計算部112と3相/2相変換部122と2相/3相変換部164とに出力する。
速度計算部112は、角度検出部111から出力される回転角度θから、モータMの回転子の角速度ωを算出し、得られた角速度ωをワンパルス制御電圧生成部162とPWM制御電圧生成部161とに出力する。
【0016】
電流検出器121は、例えば電流トランス(Current Transformer)を具備し、インバータ168がモータMに供給する3相の電流Iu、Iv、Iw(の電流値)を検出して、3相/2相変換部122と低周波成分抽出部151とに出力する。
3相/2相変換部122は、電流検出器121から出力される3相の電流値Iu、IvおよびIwを、2相のd軸成分の電流値Idおよびq軸成分の電流値Iq(以下、「検出電流値」と称する)に変換する。3相/2相変換部122は、得られた検出電流値IdおよびIqを、PWM制御電圧生成部161と、ワンパルス制御電圧生成部162とに出力する。ここで、d軸およびq軸はモータ軸に対して設定される座標軸である。d軸は、磁極が発生させる磁束の方向に設定され、q軸はd軸と電気的および磁気的に直交して設定される。d軸成分の電流(d軸電流)は、モータMに磁束を発生させるのに用いられる成分(励磁電流成分)である。また、q軸成分の電流(q軸電流)は、負荷のトルクに対応した成分である。
なお、以下では、指令値や指令信号を、右上に「*」を付した変数にて表す。
【0017】
モード切替部131は、信号選択部163から出力される指令電圧値VdおよびVqに基づいて、モータ制御装置100の制御モード切り替える。
ここで、モータ制御装置100は、制御モードとして、正弦波PWM制御モード(第3制御モード)と、過変調PWM制御モード(第4制御モード)と、ワンパルス制御モード(第2制御モード)とを有する。また、以下では、正弦波PWM制御モードおよび過変調PWM制御モードを、「PWM制御モード」(第1制御モード)と総称する。
【0018】
正弦波PWM制御モードは、インバータ168がモータMに供給する電力を正弦波パルス幅変調制御方式(正弦波PWM制御方式)にて制御するモードである。
正弦波パルス幅変調制御方式は、インバータ168に対する駆動信号として、その基本波成分が正弦波となるデューティ比を有するPWM電圧波形の駆動信号を用いる方式である。この正弦波パルス幅変調制御方式は、騒音・振動の少なさやトルクの安定性の点で、矩形波制御方式や正弦波パルス幅変調制御方式よりも優れているが、モータに供給(印加)可能な電圧は、矩形波制御方式や過変調パルス幅変調制御方式よりも低い。
【0019】
ワンパルス制御モードは、インバータ168がモータMに供給する電力を矩形波制御方式(ワンパルス制御方式)にて制御するモードである。
矩形波制御方式は、インバータ168に対する、モータの回転の1周期分の駆動信号として、ハイレベル期間とローレベル期間との比が1:1の矩形波1パルス分を用いる方式である。矩形波制御方式では、正弦波パルス幅変調制御方式や過変調パルス幅変調制御方式の場合よりも高い電圧をモータに供給可能である。
【0020】
過変調PWM制御モードは、インバータ168がモータMに供給する電力を過変調パルス幅変調制御方式(過変調PWM制御方式)にて制御するモードである。
過変調パルス幅変調制御方式では、インバータ168に対する駆動信号として、その基本波成分が正弦波から歪むデューティ比を有するPWM電圧波形の駆動信号を用いる。これによって、正弦波パルス幅変調制御方式の場合よりも高い電圧をモータに供給可能である。
【0021】
これら各方式の特性に従って、モード切替部131は、モータ制御装置100の制御モードを切り替える。具体的には、モータMへの必要電圧が低い場合、モード切替部131は、正弦波PWM制御モードを選択する。これにより、騒音・振動を抑制し、また、モータMのトルクを安定させ得る。一方、正弦波PWM制御モードではモータMへの必要電圧に足りない場合、モード切替部131は、過変調PWM制御モードを選択する。これにより、ワンパルス制御モードの場合よりも騒音・振動を抑制し、また、モータMのトルクを安定させ得る。さらに、過変調PWM制御モードでもモータMへの必要電圧に足りない場合、モード切替部131は、ワンパルス制御モードを選択する。これにより、騒音・振動やトルクの安定性の点では劣るものの、モータMに対して高い電圧を供給し得る。例えば、モード切替部131は、予め記憶している正弦波PWM制御モードや過変調PWM制御モードでの供給可能電圧と、信号選択部163から出力される指令電圧値VdおよびVqとを比較して制御モードを選択する。
【0022】
なお、モータ制御装置100が、PWM制御モードとして、正弦波PWM制御モードのみを有するようにしてもよい。この場合、モード切替部131は、正弦波PWM制御モードとワンパルス制御モードとのいずれかを選択する。
【0023】
PWM制御電圧生成部161は、トルク指令と、速度計算部112から出力される角速度ωと、3相/2相変換部122から出力される検出電流値IdおよびIqとの入力を受けて、出力電流のPI制御によるd軸電圧Vdaおよびq軸電圧Vqaを出力する。
具体的には、PWM制御電圧生成部161は、まず、トルク指令の値と角速度ωとに対応する電流の指令値として、d軸成分およびq軸成分を持つ2相の電流値である指令電流値を生成する。次に、PWM制御電圧生成部161は、検出電流値IdおよびIqを制御変数として、この検出電流値IdおよびIqが、指令電流値に応じた値になるように、PI制御によるd軸電圧Vdaおよびq軸電圧Vqaを算出し、信号選択部163に出力する。
【0024】
ワンパルス制御電圧生成部162は、トルク指令と、速度計算部112から出力される角速度ωと、3相/2相変換部122から出力される検出電流値IdおよびIqとの入力を受けて、モータトルクのPI制御によるd軸電圧Vdbおよびq軸電圧Vqbを出力する。
具体的には、ワンパルス制御電圧生成部162は、まず、トルク指令の値と、検出電流値IdおよびIqとに基づいて、モータMの出力トルクを推定する。次に、ワンパルス制御電圧生成部162は、推定した出力トルクが、トルク指令に応じた値になるように、PI制御によるd軸電圧Vdbおよびq軸電圧Vqbを算出し、信号選択部163に出力する。
【0025】
信号選択部163は、モード切替部131の選択した制御モードに応じて、正弦波PWM制御モードまたは過変調PWM制御モードの場合は、PWM制御電圧生成部161からのd軸電圧Vdaおよびq軸電圧Vqaを、指令電圧値VdおよびVqとして2相/3相変換部164に出力し、ワンパルス制御モードの場合は、ワンパルス制御電圧生成部162からのd軸電圧Vdbおよびq軸電圧Vqbを、指令電圧値VdおよびVqとして2相/3相変換部164に出力する。
【0026】
2相/3相変換部164は、角度検出部111から出力される回転角度θを用いて、信号選択部163から出力される指令電圧値VdおよびVqを座標変換して、3相の指令電圧Vuo、Vvo、Vwoを算出する。2相/3相変換部164は、算出した3相の指令電圧Vuo、Vvo、Vwoをオフセット補正部165に出力する。
特に、モータ制御装置100の制御モードがワンパルスモードの場合、2相/3相変換部164は、指令電圧Vuo、Vvo、Vwoとして、インバータ168に対する駆動指令を出力する。ここで、角度検出部111の検出誤差により、2相/3相変換部164が出力する駆動指令において、ハイレベル期間とローレベル期間との比が1:1からずれている場合がある。
【0027】
オフセット補正部165は、インバータ168がモータMに供給する電流のオフセットを低減させるオフセット補正を行う。
モータ制御装置100の制御モードが正弦波PWM制御モードまたは過変調PWM制御モードの場合、オフセット補正部165は、2相/3相変換部164から出力される指令電圧Vuoから、乗算部152から出力されるオフセット補正指令値Vumを減算して補正後指令電圧Vuを算出する。同様に、オフセット補正部165は、指令電圧Vvoからオフセット補正指令値Vvmを減算して補正後指令電圧Vuを算出し、また、指令電圧Vwoからオフセット補正指令値Vwmを減算して、補正後指令電圧Vwを算出する。そして、オフセット補正部165は、得られた補正後指令電圧Vu、Vv、Vwをデューティ計算部166に出力する。
【0028】
一方、モータ制御装置100の制御モードがワンパルス制御モードの場合、オフセット補正部165は、乗算部152から出力されるオフセット補正指令値Vum、Vvm、Vwmに基づいて、インバータ168がモータMに供給する電流のオフセットを低減させるオフセット補正を行う。
ここで、後述するように、モータ制御装置100の制御モードがワンパルス制御モードの場合、オフセット補正指令値Vum、Vvm、Vwmは、インバータ168がモータMに供給する電圧のオフセット示す。そこで、オフセット補正部165は、フィードバック制御(例えば積分制御)により、オフセット補正指令値Vum、Vvm、Vwmの示すオフセットが0となるよう補正を行う。オフセットが正の値の場合、オフセット補正部165は、指令電圧のハイレベル期間が短くなるように、あるいは、ローレベル期間が長くなるようにデューティ比を変更して補正後指令電圧とする。一方、オフセットが負の値の場合、オフセット補正部165は、指令電圧のハイレベル期間が長くなるように、あるいは、ローレベル期間が短くなるようにデューティ比を変更して補正後指令電圧とする。
【0029】
デューティ計算部166は、モータ制御装置100の制御モードが正弦波PWM制御モードの場合、基本波成分が正弦波となるデューティ比を有するPWM電圧波形の駆動信号を生成して、インバータ168に出力する。例えば、まず、オフセット補正部165が、補正後指令電圧Vuとして、正弦波の信号を出力する。そして、デューティ計算部166は、補正後指令電圧Vuと三角波状の搬送波とを比較して、補正後指令電圧Vuが搬送波よりも大きいタイミングでは駆動信号をハイレベルとし、補正後指令電圧Vuが搬送波よりも小さいタイミングでは駆動信号をローレベルする。デューティ計算部166は、v相およびw相についても同様にしてPWM電圧波形の駆動信号を生成する。モータ制御装置100の制御モードが過変調PWM制御モードの場合も同様にして、デューティ計算部166は、基本波成分が正弦波から歪むデューティ比を有するPWM電圧波形の駆動信号を生成して、インバータ168に出力する。
【0030】
また、モータ制御装置100の制御モードがワンパルス制御モードの場合、デューティ計算部166は、オフセット補正部165から出力される補正後指令電圧(駆動指令)を、そのままインバータ168に出力する。
【0031】
電源部167は、二次電池等の直流電源であり、インバータ168に電力を供給する。
インバータ168は、例えばIGBT(Insulated Gate Bipolar Transistor)素子などの電力制御素子(パワー素子)を具備して、電源部167から供給される電力を、デューティ計算部166から出力される駆動信号に応じた3相のモータ駆動電力に変換して、モータMに供給する。
【0032】
記憶部141は、正弦波PWM制御モード、過変調PWM制御モード、ワンパルス制御モードの各々について、オフセット補正指令値Vum、Vvm、Vwmを生成するためのゲインの基となる定数(以下では、「ゲイン基定数」と称する)を予め記憶している。
記憶部141の記憶するゲイン基定数は、ワンパルス制御モードのゲイン基定数が最も大きく、次に、過変調PWM制御モードのゲイン基定数が大きく、正弦波PWM制御モードのゲイン基定数が最も小さい。
ここで、ワンパルス制御モードでは、矩形波のデューティ比が1:1から僅かでもずれるとオフセットが発生してしまうため、充分な補正が必要となる。これに対して、過変調PWM制御モードでは、オフセットは発生し難く、補正量は少なくてよい。正弦波PWM制御モードでは、補正量はさらに少なくてよい。
なお、記憶部141が、半導体メモリを具備してゲイン基定数を記憶するようにしてもよいし、あるいは、各ゲイン基定数に応じた抵抗値の電気抵抗を具備するなど、半導体メモリ以外の手段でゲイン基定数を記憶するようしてもよい。
【0033】
ゲイン切替部142は、モータ制御装置100の制御モードに応じたゲイン基定数を、記憶部141から取得して、急変防止部143に出力する。以下では、急変防止部143の出力する値を「フィルタ前ゲイン」と称する。
急変防止部143は、例えば1次のローパスフィルタであり、ゲイン切替部142から出力されるゲイン基定数が切り替わる際の高調波成分を除去して、ゲインとして乗算部152に出力する。これにより、急変防止部143は、モータ制御装置100の制御モードが切り替わる際の、ゲインの急変を防止する。
【0034】
また、以上により、ゲイン設定部140は、電流検出器121が測定した電流から低周波成分抽出部151が抽出する低周波成分に作用させるゲインを、PWM制御モードにおけるゲインがワンパルス制御モードにおけるゲインより小さくなるように設定する。また、ゲイン設定部140は、正弦波PWM制御モードにおけるゲインが過変調PMW制御モードにおけるゲインより小さくなるように設定する。
【0035】
低周波成分抽出部151は、例えば1次のローパスフィルタであり、電流検出器121が測定した電流Iu、Iv、Iwのうち低周波成分Iul、Ivl、Iwlを抽出する。
ここで、モータMの回転速度が速い場合(例えば、ワンパルス制御モードの場合)、インバータ168がモータMに供給する電流の周波数が高い。従って、低周波成分抽出部151は直流成分、すなわちオフセットを抽出し得る。
【0036】
乗算部152は、急変防止部143から出力されるゲインを、低周波成分抽出部151から出力される低周波成分に作用させる。具体的には、乗算部152は、低周波成分抽出部151から出力される低周波成分Iul、Ivl、Iwlの各々に、急変防止部143から出力されるゲインを乗算する。そして、乗算部152は、得られた乗算結果を、三相電圧に対するオフセット補正指令値Vum、Vvm、Vwmとしてオフセット補正部165に出力する。
ただし、乗算部152がゲインを作用させる方法は、ゲインを乗算する方法に限らない。例えば、ゲインの対数を乗算するなど、単純にゲインを乗算する以外の方法で、乗算部152がゲインを作用させるようにしてもよい。
ここで、モータ制御装置100の制御モードがワンパルス制御モードの場合、モータMの回転速度が速いことが考えられる。この場合、上記のように、低周波成分抽出部151が、電流Iu、Iv、Iwのオフセットを抽出する。従って、乗算部152の出力するオフセット補正指令値Vum、Vvm、Vwmは、インバータ168がモータMに供給する電圧のオフセット示す。
【0037】
次に、図2を参照して、モータ制御装置100が行うオフセット補正の処理手順について説明する。
図2は、モータ制御装置100がオフセット補正を行う処理手順を示すフローチャートである。同図の処理において、まず、モータ制御装置100の制御モードに応じて、ゲイン切替部142が、記憶部141からゲイン基定数を取得し、急変防止部143に出力する(ステップS101)。次に、急変防止部143は、ゲイン切替部142から出力される値をローパスフィルタに通して、モータ制御装置100の制御モードが切り替わる際の値の急変を防止したゲインを取得する(ステップS102)。急変防止部143は、得られたゲインを乗算部152に出力させる。
【0038】
一方、電流検出器121は、インバータ168がモータMに供給する電流を測定し、得られた電流値を低周波成分抽出部151に出力する(ステップS111)。次に、低周波成分抽出部151は、電流検出器121が測定した電流の低周波成分を抽出して乗算部152に出力する(ステップS112)。
そして、乗算部152は、低周波成分抽出部151から出力された低周波成分(の電流値)に急変防止部143から出力されたゲインを乗算してオフセット補正指令を算出し、オフセット補正部165に出力する(ステップS121)。そして、オフセット補正部165は、モータ制御装置100の制御モードに応じて、オフセット補正指令に基づいてオフセット補正を行う(ステップS122)。
その後、同図の処理を終了する。
【0039】
以上のように、低周波成分抽出部151は、インバータ168がモータMに供給する電流のうち低周波成分を抽出する。また、ゲイン設定部140は、低周波成分抽出部151が抽出した低周波成分に作用させるゲインを、PWM制御モードにおけるゲインがワンパルス制御モードにおけるゲインより小さくなるように設定する。そして、オフセット補正部165は、低周波成分抽出部151が抽出した低周波成分に、ゲイン設定部140が設定したゲインを作用させて得られるオフセット補正指令値に基づいて、インバータ168がモータM供給する電流のオフセットを低減させるオフセット補正を行う。
これにより、モータ制御装置100は、パルス幅変調制御方式と矩形波制御方式とを通じて適切にオフセットを検出し得る。
【0040】
ここで、ワンパルス制御モードでは、インバータ168がモータMに供給する電力の周波数が高く、低周波成分抽出部151は、当該電力のオフセットを抽出し得る。一方、PWM制御モードでは、インバータ168がモータに供給する電力の周波数が低い。このため、低周波成分抽出部151は、インバータ168がモータMに出力する電流自身をオフセットと誤検出してしまうおそれがある。インバータ168がモータMに出力する電流自身に基づいてオフセット補正部165がオフセット補正を行うと、インバータ168がモータMに出力する電流が弱められてしまい、モータ制御を適切に行えないおそれがある。
【0041】
この場合、低周波成分抽出部151のフィルタの時定数を大きくすれば(すなわち、フィルタが通過させる周波数を低くすれば)、インバータ168がモータMに出力する電流自身をオフセットと誤検出するおそれを低減させ得る。しかし、フィルタの時定数を大きくすることで、電流値の変化に対する応答性が低下し、オフセットを適切に検出するまでに時間を要してしまうおそれがある。
【0042】
そこで、乗算部152は、低周波成分抽出部151が抽出した低周波成分に対して、ワンパルス制御モードの際には大きいゲインを作用させ、PWM制御モードの際には小さいゲインを作用させる。これにより、ワンパルス制御モードにおいては、低周波成分抽出部151の抽出するオフセットに対して充分な補正を行い、かつ、PWM制御モードにおいては、インバータ168がモータMに出力する電流が弱められてモータ制御を適切に行えない事態を回避し得る。
【0043】
また、ゲイン設定部140は、制御モードの切り替わりの際のゲインの急変を防止するローパスフィルタ(急変防止部143)を具備する。これにより、制御モードが切り替わる際にも、モータ制御装置100は、モータMを安定的に制御し得る。
本願発明者が、ゲイン設定部140がローパスフィルタを具備しないモデルを用いてモータ制御装置の動作のシミュレーションを行ったところ、制御モードが切り替わる際に、モータ制御装置100の動作が不安定になった。
そこで、本願発明者は、ゲイン設定部140がローパスフィルタを具備するモデルを用いてモータ制御装置の動作のシミュレーションを行った。かかるモデルでは、制御モードが切り替わる際にもモータ制御装置100の動作が安定し、良好な結果を得られた。
【0044】
また、モータ制御装置100は、正弦波PWM制御モードと、過変調PWM制御モードとを、PWM制御モードに含んで有する。そして、ゲイン設定部140は、正弦波PWM制御モードにおけるゲインが、過変調PWM制御モードにおけるゲインより小さくなるように設定する。
これにより、モータMの回転速度がより遅く、従って、インバータ168がモータMに供給する電流の周波数がより低いと考えられる正弦波PWM制御モードにおいて、インバータ168がモータMに出力する電流が弱められてモータ制御を適切に行えない事態を、より確実に回避し得る。
【0045】
なお、ゲイン設定部140がゲインの基となる値を切り替える方法は、上述したモータ制御装置100の制御モードに基づく方法に限らない。例えば、ゲイン設定部140が、モータMの回転速度(回転角ω)に応じて、ゲインの元となる値を変化させる(従って、ゲインを変化させる)ようにしてもよい。具体的には、ゲイン設定部140は、モータMの回転速度が速いほどゲインを大きくし、モータMの回転速度が遅いほどゲインを小さくする。
これにより、モータ制御装置100は、モータの回転速度が速い場合には、インバータ168がモータMに供給する電流のオフセットを抽出して適切にオフセット補正を行い、また、モータの回転速度が遅い場合には、インバータ168がモータMに出力する電流自身に基づいてオフセット補正部165がオフセット補正を行う影響を抑制し得る。
【0046】
なお、モータ制御装置100が、ワンパルス制御モードにおけるオフセット補正量を大きくし、PWM制御モードにおけるオフセット補正量を小さくする方法は、上述したゲインを作用させる方法に限らない。例えば、モータ制御装置100が、ワンパルス制御モードにおいて低周波成分抽出部151の時定数を比較的小さく設定し、PWM制御モードにおいて低周波成分抽出部151の時定数を比較的大きく設定するようにしてもよい。
これにより、モータ制御装置100は、モータMの回転速度が比較的速いと考えられるワンパルス制御モードでは、インバータ168がモータMに供給する電流の変化に応答して適切にオフセット補正を行い、また、モータの回転速度が比較的遅いと考えられるPWM制御モードでは、インバータ168がモータMに出力する電流自身に基づいてオフセット補正部165がオフセット補正を行う影響を抑制し得る。
【0047】
あるいは、モータ制御装置100が、モータMの回転速度が速い場合に低周波成分抽出部151の時定数を比較的小さく設定し、モータMの回転速度が遅い場合に低周波成分抽出部151の時定数を比較的大きく設定するようにしてもよい。
これにより、モータ制御装置100は、モータMの回転速度が速いが場合には、インバータ168がモータMに供給する電流の変化に応答して適切にオフセット補正を行い、また、モータの回転速度が遅い場合には、インバータ168がモータMに出力する電流自身に基づいてオフセット補正部165がオフセット補正を行う影響を抑制し得る。
【0048】
なお、以上では、ワンパルス制御モードにおいて、オフセット補正指令値で指令電圧を補正して補正後指令電圧とすることでオフセット補正を行う場合について説明したが、本発明におけるオフセット補正は、指令電圧を補正するものに限らない。例えば、特許文献1や特許文献2に示されているような、ワンパルス波形の電圧位相を制御する場合において、オフセット補正指令値で電圧位相を直接補正するようにしてもよい。
【0049】
なお、ゲイン設定部140や、低周波成分抽出部151や、乗算部152の全部または一部の機能を実現するためのプログラムをコンピュータ読み取り可能な記録媒体に記録して、この記録媒体に記録されたプログラムをコンピュータシステムに読み込ませ、実行することにより各部の処理を行ってもよい。なお、ここでいう「コンピュータシステム」とは、OSや周辺機器等のハードウェアを含むものとする。
また、「コンピュータシステム」は、WWWシステムを利用している場合であれば、ホームページ提供環境(あるいは表示環境)も含むものとする。
また、「コンピュータ読み取り可能な記録媒体」とは、フレキシブルディスク、光磁気ディスク、ROM、CD−ROM等の可搬媒体、コンピュータシステムに内蔵されるハードディスク等の記憶装置のことをいう。さらに「コンピュータ読み取り可能な記録媒体」とは、インターネット等のネットワークや電話回線等の通信回線を介してプログラムを送信する場合の通信線のように、短時間の間、動的にプログラムを保持するもの、その場合のサーバやクライアントとなるコンピュータシステム内部の揮発性メモリのように、一定時間プログラムを保持しているものも含むものとする。また上記プログラムは、前述した機能の一部を実現するためのものであっても良く、さらに前述した機能をコンピュータシステムにすでに記録されているプログラムとの組み合わせで実現できるものであってもよい。
【0050】
以上、本発明の実施形態について図面を参照して詳述してきたが、具体的な構成はこの実施形態に限られるものではなく、この発明の要旨を逸脱しない範囲の設計変更等も含まれる。
【符号の説明】
【0051】
100 モータ制御装置
111 角度検出部
112 速度計算部
121 電流検出器
122 3相/2相変換部
131 モード切替部
140 ゲイン設定部
141 記憶部
142 ゲイン切替部
143 急変防止部
151 低周波成分抽出部
152 乗算部
161 PWM制御電圧生成部
162 ワンパルス制御電圧生成部
163 信号選択部
164 2相/3相変換部
165 オフセット補正部
166 デューティ計算部
167 電源部
168 インバータ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
交流電力をモータに供給するインバータを具備し、前記インバータが前記モータに供給する電力をパルス幅変調制御方式にて制御する第1制御モードと、前記インバータが前記モータに供給する電力を矩形波制御方式にて制御する第2制御モードとを有するモータ制御装置であって、
前記インバータが前記モータに供給する電流を測定する電流測定部と、
前記電流測定部が測定した電流のうち低周波成分を抽出するローパスフィルタと、
前記電流測定部が測定した電流の低周波成分に作用させるゲインを、前記第1制御モードにおける前記ゲインが前記第2制御モードにおける前記ゲインより小さくなるように設定するゲイン設定部と、
前記電流測定部が測定した電流の低周波成分に前記ゲインを作用させて得られるオフセット補正指令値に基づいて、前記インバータが前記モータに供給する電流のオフセットを低減させるオフセット補正を行うオフセット補正部と、
を具備することを特徴とするモータ制御装置。
【請求項2】
前記ゲイン設定部は、制御モードの切り替わりの際の前記ゲインの急変を防止するローパスフィルタを具備することを特徴とする請求項1に記載のモータ制御装置。
【請求項3】
前記モータ制御装置は、前記インバータが前記モータに供給する電力を正弦波パルス幅変調制御方式にて制御する第3制御モードと、前記インバータが前記モータに供給する電力を過変調パルス幅変調制御方式にて制御する第4制御モードとを、前記第1制御モードに含んで有し、
前記ゲイン設定部は、前記第3制御モードにおける前記ゲインが前記第4制御モードにおける前記ゲインより小さくなるように設定する
ことを特徴とする請求項1または請求項2に記載のモータ制御装置。
【請求項4】
交流電力をモータに供給するインバータを具備し、前記インバータが前記モータに供給する電力をパルス幅変調制御方式にて制御する第1制御モードと、前記インバータが前記モータに供給する電力を矩形波制御方式にて制御する第2制御モードとを有するモータ制御装置のモータ制御方法であって、
前記インバータが前記モータに供給する電流を測定する電流測定ステップと、
前記電流測定ステップにて測定した電流のうち低周波成分を抽出する低周波成分抽出ステップと、
前記電流測定ステップにて測定した電流の低周波成分に作用させるゲインを、前記第1制御モードにおける前記ゲインが前記第2制御モードにおける前記ゲインより小さくなるように設定するゲイン設定ステップと、
前記電流測定ステップにて測定した電流の低周波成分に前記ゲインを作用させて得られるオフセット補正指令値に基づいて、前記インバータが前記モータに供給する電流のオフセットを低減させるオフセット補正を行うオフセット補正ステップと、
を具備することを特徴とするモータ制御方法。


【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2013−74674(P2013−74674A)
【公開日】平成25年4月22日(2013.4.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−210711(P2011−210711)
【出願日】平成23年9月27日(2011.9.27)
【出願人】(000006208)三菱重工業株式会社 (10,378)
【Fターム(参考)】