説明

リング状成形材料の製造法

【課題】回転体用樹脂成形品の成形において、作業性、歩留り、品質に関して、従来の成形技術の不十分な点を改善する。
【解決手段】回転体用成形品のためのリング状成形材料を下記の(1)から(3)の工程にて製造した。
(1)リング状繊維補強基材12に熱硬化性樹脂ワニスを含浸する。(2)熱硬化性樹脂の硬化が進む温度で加熱乾燥を行ない、樹脂の硬化をBステージ状態まで進める。(3)樹脂の硬化が進まない温度で加熱乾燥を行ない、リング状繊維補強基材に含まれる溶剤を除去する。前記(2)と(3)の工程は、(1)の工程の後にこの順序で実施してもよいし、(3)の工程を実施してから(2)の工程を行なってもよい。このようにして準備したリング状成形材料を加熱圧縮成形してリング状樹脂成形体を製造する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、リング状成形材料の製造法に関する。このリング状成形材料は、樹脂製歯車等の回転体の成形に好適に用いられる。
【背景技術】
【0002】
樹脂製歯車は、歯の噛み合い時の騒音発生を抑えるために金属製歯車と噛み合う相手歯車として用いられ、耐摩耗性と高強度が要求される。
【0003】
従来、樹脂製歯車として、リング状繊維補強基材に樹脂を保持したリング状樹脂成形体に歯を加工したものが提案されている。例えば、特許文献1に開示されるような次の技術である。
図1に示すように、補強繊維を束ねた糸を織った、又は編んだ筒状体1を準備する。この筒状体1を端部から軸方向に巻き上げてリング状繊維補強基材12とする。そして、図2に示すように、リング状繊維補強基材12とその中央に配置する金属製ブッシュ2とを成形金型3に収容する。成形金型3はリング状繊維補強基材12の厚み方向に開閉動作するものであり、成形金型3を閉じる動作によりリング状繊維補強基材12を圧接して径方向に広がったリング状繊維補強基材12を金属ブッシュ2の周囲に圧接してその形状になじませる。次に、閉じた成形金型3内を減圧状態にして液状樹脂を注入し、リング状繊維補強基材12に浸透させた液状樹脂を加熱硬化させる。このようにして、図3に示すように、金属製ブッシュ2をインサートとするリング状樹脂成形体13を成形する。そして樹脂成形体13の外周面に切削加工により歯を形成する。
【0004】
【特許文献1】特開2000−309028号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記技術の成形性は、金型内部を減圧状態にする工程を経るため、成形作業性が良くない。また、液状樹脂をリング状繊維補強基材に含浸させる際に通過させるランナ等にできる成形バリが多く、材料歩留りが低くい。さらに、成形後の樹脂成形体に白化、ボイドなどの不良が発生しやすい。このように従来の技術は、作業性、歩留り、品質に関して改善の余地がある工法といえる。本発明は、作業性、歩留り、品質に関して、従来の成形技術の不十分な点を改善するものである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明に係る製造法は、上記課題を解決するために、下記の工程を行なうこととした。
(1)リング状繊維補強基材に熱硬化性樹脂ワニスを含浸する。
(2)熱硬化性樹脂の硬化が進む温度で加熱乾燥を行ない、樹脂の硬化をBステージ状態まで進める。
(3)樹脂の硬化が進まない温度で加熱乾燥を行ない、リング状繊維補強基材に含まれる溶剤を除去する。
【0007】
上記(2)と(3)の工程は、(1)の工程の後にこの順序で実施してもよいし、(3)の工程を実施してから(2)の工程を行なってもよい。
【0008】
(1)〜(3)の工程を経て準備したリング状成形材料を加熱圧縮成形してリング状樹脂成形体を製造する。
【発明の効果】
【0009】
上記の工程を経ると、リング状繊維補強基材に含浸した熱硬化性樹脂の硬化がBステージまで進み、溶剤も十分に除去されたリング状成形材料を得ることができる。従って、この成形材料を用いることにより、加熱加圧成形による製造が可能になり、金型内部を減圧状態にする工程が不要になり、作業性が向上する。また、液状樹脂をリング状繊維補強基材に含浸させる際に通過させていたランナ等が不要になるため、成形バリを低減でき材料歩留りを高くすることが可能になる。さらに、品質の面でも、成形品にボイドの発生がなく、樹脂の含浸も十分に行なわれるため、白化のない成形品とすることができる。
【0010】
上記(2)と(3)の工程は順序を入れ替えることにより、(3)の溶剤除去の工程に要する時間が異なることになる。
(2)の熱硬化性樹脂のBステージ化を先に行なった場合、Bステージ化と溶剤の除去が一緒に行なわれるため、(3)の溶剤除去の工程を短時間で済ませることができる。
一方、(3)の溶剤の除去を先に行なった場合、熱硬化性樹脂のBステージ化の際に行なっていた溶剤の除去を独立して行なうことになり、また、(2)の工程よりも(3)の工程の乾燥温度が低いため、溶剤除去に長時間を要する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
本発明を実施するに当り、リング状繊維補強基材は、図1を参照して説明したように、筒状体1を端部から軸方向に巻き上げた構成のほかに、種々の構成の基材を選択することができる。例えば、図1に示した筒状体をその軸方向に蛇腹状に折り畳むことによりリング状とした構成、シートを重ね巻きして形成した筒状体をその軸方向に蛇腹状に折り畳むことによりリング状とした構成等である。
【0012】
上記筒状体は、糸を筒状に織って又は編んで構成したものであり、シートも同様に糸を織って又は編んで構成したものである。また、シートは、繊維を集積して構成した不織布やマット、フェルト形態のものであってもよい。筒状体やシートを構成する繊維は、樹脂成形体に強度を付与するものであり、高強度のものが好適である。アラミド繊維、全芳香族ポリエステル繊維、オキサゾリン繊維、炭素繊維、ガラス繊維等を適宜選択する。これらを単独あるいは複合して用いることができる。
【0013】
リング状繊維補強基材に含浸する熱硬化性樹脂は、架橋ポリアミノアミド、エポキシ樹脂、フェノール樹脂等を適宜採用することができる。熱硬化性樹脂ワニスのリング状繊維補強基材への含浸は、リング状繊維補強基材を所定量の熱硬化性樹脂ワニスに浸漬するか、所定量計量した熱硬化性樹脂ワニスをリング状繊維補強基材に注ぎ、浸透させる。
【0014】
熱硬化性樹脂ワニスをリング状繊維補強基材に含浸すると、リング状繊維補強基材は膨潤する。そこで、リング状成形材料を加熱加圧成形して得られる成形品の外径寸法と内径寸法をそれぞれa、bとして、熱硬化性樹脂ワニスを含浸する前のリング状繊維補強基材の外径寸法をaより小さく、内径寸法をbより大きくしておくことにより、リング状成形材料の寸法を、成形時の寸法に適合したものにすることができる。
【実施例】
【0015】
実施例1
(工程1)パラ系アラミド繊維とメタ系アラミド繊維を重量比45/55の割合で混紡した糸を用いて編んだ長尺の筒状体を所定長さに裁断し、これを端部から軸方向に巻き上げてリング状繊維補強基材とする。このリング状繊維補強基材を最終的に硬化反応させて得る成形品の外径より一回り小さく、また内径はインサートの外径より一回り大きいサイズに予備成形を行なう。
(工程2)次に、2,2’−(1,3フェニレン)ビス−2−オキサゾリン、4,4’−ジアミノジフェニルメタン、ビスフェノールA型エポキシ樹脂をモル比1.8/1.0/0.35の配合で混合溶融し、樹脂固形分が55質量%になるようにトルエンとメタノールの混合溶媒にて溶解し、硬化促進剤であるパラトルエンスルホン酸メトキシエチルエーテルを樹脂固形分質量に対して2%混合して樹脂ワニスを調製する。
基材と樹脂の質量比が基材:樹脂=45:55となるように樹脂ワニスを計量し、リング状繊維補強基材に含浸させる。
(工程3)樹脂ワニスを含浸させたリング状繊維補強基材を120℃で25分間加熱乾燥し、熱硬化性樹脂をBステージの状態にする。
(工程4)次いで、60℃で18時間加熱乾燥し、溶剤を除去する。この工程では、熱硬化性樹脂の硬化は殆ど進行しない。
(工程5)このように作製したリング状成形材料を、温度160℃、圧力40MPaで20分間加熱圧縮成形し、回転体用成形品を成形する。
【0016】
実施例2
実施例1において(工程2)までは同様とし、その後60℃で36時間加熱乾燥を行ない、溶剤を除去する。次いで、120℃で20分間加熱乾燥を行ない、熱硬化性樹脂をBステージの状態にする。
このように作製したリング状成形材料を、実施例1の(工程5)と同様にして加熱圧縮成形し、回転体用成形品を成形する。
【0017】
比較例
実施例1において(工程3)まで実施した成形材料を、実施例1の(工程5)に供して同様にして加熱圧縮成形し、回転体用成形品を成形する。
【0018】
従来例
背景技術に記載した従来の技術に準じて回転体用成形品を製造した。
【0019】
上記各例の方法により成形を行なった場合の回転体用成形品の歩留り、ボイドの発生割合、成形時の作業者の実作業時間を表1に示す。
【0020】
【表1】

【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】リング状繊維補強基材を形成する工程を示す斜視図である。
【図2】リング状繊維補強基材を金属製ブッシュと共に成形金型に配置する状況を示す断面説明図である。
【図3】成形したリング状樹脂成形体の断面図である。
【符号の説明】
【0022】
1は筒状体
12はリング状繊維補強基材
13はリング状樹脂成形体
2は金属製ブッシュ
3は成形金型

【特許請求の範囲】
【請求項1】
熱硬化性樹脂ワニスを含浸したリング状繊維補強基材を、樹脂の硬化が進む温度で加熱乾燥して樹脂の硬化をBステージ状態にし、その後、硬化が進まない温度で加熱乾燥をしてリング状繊維補強基材に含まれる溶剤を除去することを特徴とするリング状成形材料の製造法。
【請求項2】
熱硬化性樹脂ワニスを含浸したリング状繊維補強基材を、樹脂の硬化が進まない温度で加熱乾燥してリング状繊維補強基材に含まれる溶剤を除去し、その後、樹脂の硬化が進む温度で加熱して樹脂の硬化をBステージ状態にすることを特徴とするリング状成形材料の製造法。
【請求項3】
請求項1又は2記載のリング状成形材料を加熱加圧成形して得られる成形品の外径寸法と内径寸法をそれぞれa、bとして、熱硬化性樹脂ワニスを含浸する前のリング状繊維補強基材は、その外径寸法をaより小さく、その内径寸法をbより大きくしておくことを特徴とする請求項1又は2記載のリング状成形材料の製造法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2006−95729(P2006−95729A)
【公開日】平成18年4月13日(2006.4.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−281712(P2004−281712)
【出願日】平成16年9月28日(2004.9.28)
【出願人】(000001203)新神戸電機株式会社 (518)
【Fターム(参考)】