説明

リンス工程のない洗浄方法及び洗浄装置

【課題】あらゆるタイプの汚れに対して、HCFC225に匹敵するような洗浄力を示すと共に低毒性で、引火性が低く、オゾン層破壊の恐れが全くない洗浄性に優れる高沸点溶剤を含有する洗浄剤を用いて、被洗浄物表面における汚れの再付着による洗浄性の低下を防止し、かつ、揮発性に優れるHFCやHFEによるリンス工程がなく省スペースを可能とする洗浄方法及び洗浄装置を提供することを課題とする。
【解決手段】蒸発速度の異なる20℃における蒸気圧が1.33×10Pa以上の非塩素系フッ素化合物(a)と20℃における蒸気圧が1.33×10Pa未満の成分(b)とを一定の組成比で併用し、かつ、洗浄時の洗浄条件として、「洗浄槽温度」と「洗浄槽温度と蒸気ゾーン温度との温度差」とを規定することで、洗浄剤を加熱して得られる凝縮液によるリンス工程のない洗浄方法で洗浄する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、機械部品、精密機械部品、光学機械部品等の加工時に使用される加工油類、グリース類、ワックス類や電気電子部品のハンダ付け時に使用されるフラックス類及び液晶等のあらゆる汚れを洗浄するのに好適な、洗浄方法及び洗浄装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
機械部品、精密機械部品、光学機械部品等の加工時には種々の加工油類、例えば、切削油、プレス油、引抜き油、熱処理油、防錆油、潤滑油等、グリース類又はワックス類等が使用されるが、これらの汚れは最終的には除去する必要があり、溶剤による除去が一般的に行われている。
【0003】
また、電子回路の接合方法としてはハンダ付けが最も一般的に行われているが、ハンダ付けすべき金属表面の酸化物の除去清浄化、再酸化防止、ハンダ濡れ性の改良の目的で、ロジンを主成分としたフラックスでハンダ付け面を予め処理することが通常行われている。このフラックス残渣は金属の腐食や絶縁性の低下の原因となるため、ハンダ付け終了後、十分に除去する必要がある。
【0004】
これらの洗浄、除去には、不燃性で毒性が低く、優れた溶解能を示す等、多くの特徴を有することから、1,1,2−トリクロロ−1,2,2−トリフルオロエタン(以下CFC113という)やCFC113とアルコールなどを混合した溶剤で洗浄していたが、オゾン層破壊等の地球環境汚染問題が指摘され、日本では1995年末にその生産が全廃された。このCFC113の代替品として、3,3−ジクロロ−1,1,1,2,2−ペンタフルオロプロパンと1,3−ジクロロ−1,1,2,2,3−ペンタフルオロプロパンの混合物(以下HCFC225という)等のハイドロクロロフルオロカーボンが提案されているが、これらもオゾン層破壊能があるため、日本では2020年にその使用が禁止される予定である。
【0005】
さらに、近年、塩素原子を全く含まないハイドロフルオロカーボン類(以下HFCという)やハイドロフルオロエーテル類(以下HFEという)等のオゾン層破壊能が全くなく、不燃性のフッ素系溶剤が提案されているが、塩素原子を含まないために溶解能が低く、単独では洗浄剤として使用できない。
【0006】
特許文献1、特許文献2等に、HFCやHFE等の非塩素系フッ素化合物と汚れに対する洗浄力の向上を目的とした特定の条件を満たす化合物との混合溶剤が開示されている。これらの発明により上記問題点は解決され、オゾン層破壊能がなく溶解能に優れた非引火性の洗浄剤組成物が得られるものの、洗浄工程の後に揮発性に優れるHFCやHFEでリンスするリンス工程が必要となり、省スペース化する場合の課題となっている。
代替洗浄剤として、ハロゲン系溶剤以外にも炭化水素系溶剤やアルコール系溶剤などを用いた非水系洗浄剤、酸、アルカリ或いは界面活性剤等が配合された水系洗浄剤の開発が進められているが、同様に装置が大型化するなどの課題があり十分な解決には至っていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開平10−36894号公報
【特許文献2】特開平10−192797号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、あらゆるタイプの汚れに対して、HCFC225に匹敵するような洗浄力を示すと共に低毒性で、引火性が低く、オゾン層破壊の恐れが全くない洗浄性に優れる高沸点溶剤を含有する洗浄剤を用いて、被洗浄物表面における汚れの再付着による洗浄性の低下を防止し、かつ、揮発性に優れるHFCやHFEによるリンス工程がなく省スペースを可能とする洗浄方法及び洗浄装置を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者は、前記課題を達成するための洗浄方法及び洗浄装置につき種々の検討を重ねた結果、蒸発速度の異なる20℃における蒸気圧が1.33×10Pa以上の非塩素系フッ素化合物(a)と20℃における蒸気圧が1.33×10Pa未満の成分(b)とを一定の組成比で併用し、かつ、洗浄時の洗浄条件として、「洗浄槽温度」と「洗浄槽温度と蒸気ゾーン温度との温度差」とを規定することで、洗浄剤を加熱して得られる凝縮液によるリンス工程のない洗浄方法で、HCFC225と同等の洗浄性及び乾燥性の得られることを見出した。
【0010】
具体的には20℃における蒸気圧が1.33×10Pa以上である非塩素系フッ素化合物(a)80〜95重量%、20℃における蒸気圧が1.33×10Pa未満の成分(b)5〜20重量%とを含有する洗浄剤により洗浄した後、前記洗浄剤を加熱して得られる蒸気により蒸気洗浄する物品を洗浄する工程において、洗浄槽温度が25〜45℃、洗浄槽温度と蒸気ゾーン温度との温度差が10〜40℃の洗浄条件で洗浄することで、リンス工程がない洗浄方法において、HCFC225と同等の洗浄性が得られるだけでなく、優れた乾燥性の得られることを見出し、本発明を完成するに至った。
本発明の態様は以下に記載する通りである。
【0011】
本発明の第1の態様は、(a)20℃における蒸気圧が1.33×10Pa以上である非塩素系フッ素化合物80〜95重量%、(b)20℃における蒸気圧が1.33×10Pa未満の成分5〜20重量%とを含有する洗浄剤により洗浄槽で洗浄する工程、及び、前記洗浄剤を加熱して得られる蒸気により洗浄する工程を含み、かつ被洗浄物に付着した洗浄剤をリンスする工程を有さない洗浄方法において、前記洗浄槽の温度が25〜45℃、洗浄槽の温度と蒸気により洗浄するゾーンの温度の差が10〜40℃であることを特徴とする洗浄方法である。
【0012】
本発明の第2の態様は、成分(a)が、ハイドロフルオロカーボン(HFC)及び/又はハイドロフルオロエーテル(HFE)を含有することを特徴とする第1の態様に記載の洗浄方法である。
【0013】
本発明の第3の態様は、成分(a)が、2H,2H,4H,4H,4H−ペンタフルオロブタン(HFC365mfc)、2H,3H−パーフルオロペンタン(HFC43−10mee)、メチルパーフルオロブチルエーテル、メチルパーフルオロイソブチルエーテル及びこれらの混合物、エチルパーフルオロブチルエーテル、エチルパーフルオロイソブチルエーテル及びこれらの混合物、1,1,2,2−テトラフルオロ−1−(2,2,2−トリフルオロエトキシ)エタン(HFE347pc−f)及び4H,5H,5H−ヘプタフルオロシクロペンタンから選ばれる一種又は二種以上の組み合わせを含有することを特徴とする第1又は第2の態様に記載の洗浄方法である。
【0014】
本発明の第4の態様は、成分(b)が、グリコールエーテル類、グリコールエーテルアセテート類、エステル類及び炭化水素類からなる群から選ばれる一種以上の化合物を含有することを特徴とする第1〜3のいずれか1つの態様に記載の洗浄方法である。
【0015】
本発明の第5の態様は、洗浄剤により被洗浄物を洗浄するための洗浄槽、前記洗浄槽内における洗浄剤温度を調整する機構、前記洗浄剤を構成する少なくとも一種の成分の蒸気を発生させるための加熱機構を有する加熱槽、前記加熱槽から発生した蒸気で蒸気洗浄するための蒸気ゾーン、発生した蒸気を凝縮して得られた凝縮液から水分を除去するための水分離槽、前記洗浄剤を洗浄槽と加熱槽との間で循環する機構、を有し、被洗浄物に付着した洗浄剤をリンスする為の機構を有さない第1〜4のいずれか1つの態様に記載の洗浄方法に用いられる洗浄装置である。
【発明の効果】
【0016】
本発明は、20℃における蒸気圧が1.33×10Pa以上である非塩素系フッ素化合物(a)80〜95重量%、20℃における蒸気圧が1.33×10Pa未満の成分(b)5〜20重量%とを含有する洗浄剤により洗浄した後、前記洗浄剤を加熱して得られる蒸気により蒸気洗浄する物品を洗浄する工程において、洗浄槽温度を25〜45℃にコントロールし、成分(b)の優れた汚れ溶解性と成分(a)の汚れ成分に対する溶解性が液温上昇により著しく向上する温度効果とを組み合わせることで、20℃における蒸気圧が1.33×10Pa未満の乾燥しにくい成分(b)の添加濃度を抑制したまま、優れた汚れ溶解性を保持することを可能とし、かつ、成分(b)の添加濃度を抑制したことで、洗浄槽温度と蒸気ゾーン温度との温度差を10〜40℃にコントロールすることにより、蒸気ゾーンにおいて被洗浄物表面で凝縮する凝縮液のみによる成分(b)及び洗浄剤中に溶解する汚れ成分を蒸気洗浄することが可能となり、リンス工程がない洗浄方法においてもHCFC225と同等の洗浄性及び優れた乾燥性の得られる洗浄を可能とした。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】本発明の態様(5)に記載の洗浄装置の一例である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
本発明について、以下具体的に説明する。
まず、本明細書において用いる用語について説明する。
本明細書において、「洗浄」とは被洗浄物に付着している汚れを次工程に影響のないレベルまで除去することである。また、「リンス」とは洗浄後、被洗浄物に付着している汚れ成分を含む洗浄剤を汚れ成分の含まれない溶剤に置換することである。蒸気洗浄とは被洗浄物表面にわずかに残留する汚れ成分を、被洗浄物と蒸気との温度差によって被洗浄物表面で凝縮する液体で除去することである。また、「汚れ成分」とは、被洗浄物から除去したい成分を表す。例えば精密部品に付着した加工油、プリント基板に付着したフラックス残渣、液晶セルのギャップ間に残留した液晶等が挙げられる。
【0019】
本発明における洗浄方法は蒸気圧が高い成分(a)と蒸気圧の低い成分(b)とを含有する洗浄剤による洗浄工程とその後工程として、前記洗浄剤を加熱して得られる蒸気の凝縮液による蒸気洗浄工程からなる。成分(a)に求められる性能は、乾燥性を高めるために蒸気圧が高く(20℃における蒸気圧が1.33×10Pa以上)、蒸発消耗量を抑制するために蒸気比重が大きいことである。成分(b)に求められる性能は、蒸気圧が低く(20℃における蒸気圧が1.33×10Pa未満)、成分(a)及び汚れ成分に対する優れた溶解性能を示すことである。
【0020】
本発明に係る洗浄方法に必須の洗浄工程は、被洗浄物に残留する汚れ成分を除去し洗浄する工程で、洗浄槽に貯留する各種洗浄剤による洗浄を主体として、必要に応じて、超音波、揺動、液中噴流などの物理的な力を加える機構などを含む工程である。
【0021】
具体的な洗浄工程としては、洗浄するための洗浄槽、前記洗浄剤槽内における洗浄剤温度を調整する機構、洗浄剤を加熱することにより蒸気を発生させるための加熱機構を有する加熱槽あるいは蒸留槽、発生した蒸気を凝縮して得られる凝縮液から水分を除去するための水分離槽からなる。加熱槽あるいは蒸留槽のヒーターにより加熱されて発生した蒸気は冷却管により凝縮され、凝縮した液は水分離槽で水分を分離した後洗浄槽、加熱槽あるいは蒸留槽の順にオーバーフローする。必要に応じて、加熱槽あるいは蒸留槽中に蓄積する汚れ成分を分離するためのポンプ、フィルター及び比重差を利用した静置槽等のあらゆる機構を設置することができる。
【0022】
本発明の洗浄工程における必須条件は、洗浄槽温度を25〜45℃、好ましくは30〜45℃又は25〜40℃、さらに好ましくは30〜40℃にコントロールすることである。この範囲においてHCFC225に匹敵する優れた洗浄性が得られる。
【0023】
さらに、本発明に係る洗浄方法に必須の蒸気洗浄工程は、洗浄工程に続き、被洗浄物表面にわずかに残留する汚れ成分を、被洗浄物と蒸気との温度差によって被洗浄物表面で凝縮する液体で除去し洗浄する工程で、乾燥性し難い20℃における蒸気圧が1.33×10Pa未満の成分(b)を含む洗浄剤で洗浄する工程において、リンス工程のない洗浄方法を可能とし、洗浄現場における作業効率の大幅な改善が可能となると共に省スペースが可能となる。
【0024】
具体的な蒸気洗浄工程としては、被洗浄物表面に僅かに残留する汚れ成分を被洗浄物と蒸気との温度差によって被洗浄物表面で凝縮する液体で除去する蒸気洗浄するための機構を含む工程である。
【0025】
本発明の蒸気洗浄工程における必須条件は、洗浄槽温度と蒸気ゾーン温度との温度差を10〜40℃、好ましくは15〜40℃又は10〜30℃、さらに好ましくは15〜30℃にコントロールすることである。この範囲において充分な凝縮液量により、高い蒸気洗浄が得られることでリンス工程のない洗浄方法が可能となる。
【0026】
本発明の洗浄方法に使用する洗浄剤に用いる20℃における蒸気圧が1.33×10Pa以上の非塩素系フッ素化合物(a)は、20℃における蒸気圧が1.33×10Pa以上あれば特に種類を問わないが、例えば、下記一般式(1)で特定される環状HFC、下記一般式(2)で特定される鎖状HFC、又は下記一般式(3)で特定されるHFEの、塩素原子を含まない、炭素原子、水素原子、酸素原子、フッ素原子からなる化合物、及びこれらの中から選ばれる2種以上の化合物の組み合わせ等を挙げることができる。
【0027】
2n−m ・・・・・(1)
(式中、4≦n≦6、5≦m≦2n−1の整数を示す)
2x+2−y ・・・・・(2)
(式中、4≦x≦6、5≦y≦12の整数を示す)
2s+1OR ・・・・・(3)
(式中、4≦s≦6、Rは炭素数1〜3のアルキル基)
環状HFCの具体例としては3H,4H,4H−パーフルオロシクロブタン、4H,5H,5H−パーフルオロシクロペンタン(例えばゼオローラH(商品名))、5H,6H,6H−パーフルオロシクロヘキサン等を挙げることができる。鎖状HFCの具体例としては1H,2H−パーフルオロブタン、1H,3H−パーフルオロブタン、2H,3H−パーフルオロブタン、4H,4H−パーフルオロブタン、1H,1H,3H−パーフルオロブタン、1H,1H,4H−パーフルオロブタン、1H,2H,3H−パーフルオロブタン、1H,2H,3H,4H−パーフルオロブタン、2H,2H,4H,4H,4H−パーフルオロブタン(HFC365mfc)、1H,2H−パーフルオロペンタン、1H,4H−パーフルオロペンタン、2H,3H−パーフルオロペンタン(HFC43−10mee)、2H,4H−パーフルオロペンタン、2H,5H−パーフルオロペンタン、1H,2H,3H−パーフルオロペンタン、1H,3H,5H−パーフルオロペンタン、1H,5H,5H−パーフルオロペンタン、2H,2H,4H−パーフルオロペンタン、1H,2H,4H,5H−パーフルオロペンタン、1H,4H,5H,5H,5H−パーフルオロペンタン、1H,2H−パーフルオロヘキサン、2H,3H−パーフルオロヘキサン、2H,4H−パーフルオロヘキサン、2H,5H−パーフルオロヘキサン、3H,4H−パーフルオロヘキサン等を挙げることができる。HFEの具体例としてはメチルパーフルオロブチルエーテル、メチルパーフルオロイソブチルエーテル及びこれらの混合物(HFE7100)、メチルパーフルオロペンチルエーテル、メチルパーフルオロシクロヘキシルエーテル、エチルパーフルオロブチルエーテル、エチルパーフルオロイソブチルエーテル及びこれらの混合物(HFE7200)、エチルパーフルオロペンチルエーテル、及び1,1,2,2−テトラフルオロ−1−(2,2,2−トリフルオロエトキシ)エタン(HFE347pc−f)等を挙げることができる。
【0028】
これら(a)非塩素系フッ素化合物の中から選ばれる1種又は2種以上の化合物を組み合わせて用いることができるが、好ましくは地球温暖化係数の低いHFC又はHFEを挙げることができる。より好ましくは、HFC365mfc、4H,5H,5H−パーフルオロシクロペンタン(例えばゼオローラH(商品名))、メチルパーフルオロブチルエーテルとメチルパーフルオロイソブチルエーテル及びHFE7100、エチルパーフルオロブチルエーテルとエチルパーフルオロイソブチルエーテル及びHFE7200、HFE347pc−fを挙げることができる。さらに好ましくは引火点抑制効果に優れるメチルパーフルオロブチルエーテル、メチルパーフルオロイソブチルエーテル及びHFE7100や洗浄剤として適した汚れ溶解能を有するHFC365mfcを挙げることができる。特に洗浄剤を非引火性とするためには成分(a)である非塩素系フッ素化合物を含有する必要がある。
【0029】
本発明の洗浄剤においては、加工油類、グリース類、ワックス類やフラックス類等のあらゆる汚れに対する洗浄力の向上及びリンス性の向上を目的に20℃における蒸気圧が1.33×10Pa未満の成分から選ばれる化合物(b)の一種、又は二種以上の組み合わせを使用する必要がある。例えば、種々の炭化水素類、アルコール類、ケトン類及びエーテル結合及び/又はエステル結合を有する有機化合物等の、各種汚れに対して良好な洗浄性を有し、且つ20℃における蒸気圧が1.33×10Pa未満の化合物である。成分(b)の蒸気圧が、この範囲にあるときに、本願発明に係る洗浄性に優れた洗浄剤が得られる。好ましくは、20℃において6.66×10Pa以下であり、さらに好ましくは1.33×10Pa以下である。以下、成分(b)を溶剤の種類ごとに例示する。
【0030】
炭化水素類の具体例としてはデカン、ウンデカン、ドデカン、トリデカン、テトラデカン、ペンタデカン、メンタン、ビシクロヘキシル、シクロドデカン、2,2,4,4,6,8,8−ヘプタメチルノナン等があげられ、アルコール類の具体例としてはn−ブタノール、イソブタノール、sec−ブタノール、イソアミルアルコール、n−ヘプタノール、n−オクタノール、n−ノナノール、n−デカノール、n−ウンデカノール、ベンジルアルコール、フルフリルアルコール、エチレングリコール、プロピレングリコール等が挙げられ、ケトン類の具体例としてはメチル−n−アミルケトン、ジイソブチルケトン、ジアセトンアルコール、ホロン、イソホロン、シクロヘキサノン、アセトフェノン等が挙げられる。エーテル結合を有する有機化合物とは、分子構造の中にエーテル結合(C−O−C)を少なくとも1個以上含有する化合物であり、エステル結合を有する有機化合物とは、分子構造の中にエステル結合(−COO−)を少なくとも1個以上含有する化合物である。具体例として、エーテル結合を有する化合物としては、エチレングリコールモノ−n−ヘキシルエーテル、ジエチレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコールモノエチルエーテル、ジエチレングリコールモノ−n−プロピルエーテル、ジエチレングリコールモノ−i−プロピルエーテル、ジエチレングリコールモノ−n−ブチルエーテル、ジエチレングリコールモノ−i−ブチルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノ−n−プロピルエーテル、プロピレングリコールモノ−i−プロピルエーテル、プロピレングリコールモノ−n−ブチルエーテル、プロピレングリコールモノ−i−ブチルエーテル、ジプロピレングリコールモノメチルエーテル、ジプロピレングリコールモノ−n−プロピルエーテル、ジプロピレングリコールモノ−i−プロピルエーテル、ジプロピレングリコールモノ−n−ブチルエーテル、ジプロピレングリコールモノ−i−ブチルエーテル、トリプロピレングリコールモノメチルエーテル、3−メトキシブタノール、3−メチル−3−メトキシブタノール、ジエチレングリコールジメチルエーテル、ジエチレングリコールジエチルエーテル、ジエチレングリコールジ−n−ブチルエーテル、ジプロピレングリコールジメチルエーテル等を挙げることができる。エステル結合を有する化合物としては酢酸−n−ブチル、酢酸イソアミル、酢酸−2−エチルヘキシル、アセト酢酸メチル、アセト酢酸エチル、乳酸メチル、乳酸エチル、乳酸プロピル、乳酸ブチル、γ−ブチルラクトン、コハク酸ジメチル、グルタル酸ジメチル、アジピン酸ジメチル、ジエチレングリコールモノブチルエーテルアセテート、ジプロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート、ジプロピレングリコールモノブチルエーテルアセテート、3−メチル−3−メトキシブチルアセテート等が挙げられる。
洗浄剤における成分(a)の割合は80〜95重量%、好ましくは80〜90重量%であり、成分(b)の割合は5〜20重量%、好ましくは10〜20重量%である。この範囲において、充分な洗浄性、乾燥性及び非引火性が得られる。
【0031】
本発明の洗浄剤には、必要に応じて本願の効果を損ねない範囲で各種助剤、例えば,界面活性剤、安定剤、消泡剤、紫外線吸収剤等を必要に応じて添加しても良い。
【0032】
以下に本発明の洗浄剤に添加できる添加剤の具体例を例示する。
【0033】
界面活性剤としては、アニオン系界面活性剤、カチオン系界面活性剤、ノニオン系界面活性剤及び両性界面活性剤を添加しても良い。アニオン系界面活性剤としては、炭素数が6〜20の脂肪酸、ドデシルベンゼンスルホン酸等のアルカリ金属、アルカノールアミン及びアミン塩等が挙げられる。カチオン系界面活性剤としては、第4級アンモニウム塩等が挙げられる。ノニオン系界面活性剤としては、アルキルフェノール、炭素数が8〜18の直鎖又は分岐の脂肪族アルコールのエチレンオキサイド付加物、ポリエチレンオキサイドポリプロピレンオキサイドのブロックポリマー等が挙げられる。両性界面活性剤としては、ベタイン型、アミノ酸型等が挙げられる。
【0034】
金属の腐食、発錆及び変色を抑制するための安定剤としてはニトロメタン、ニトロエタン等のニトロアルカン類、1,2−ブチレンオキサイド等のエポキシド類、1,4−ジオキサン等のエーテル類、トリエタノールアミン等のアミン類、1,2,3−ベンゾトリアゾール類等が挙げられる。
【0035】
消泡剤としては、自己乳化シリコーン、シリコン、脂肪酸、高級アルコール、ポリプロピレングリコールポリエチレングリコール及びフッ素系界面活性剤等が挙げられる。
【0036】
洗浄工程には洗浄性を向上することを目的とした浸漬、揺動、振動、液中噴流及び超音波等の物理的な方法を組み合わせることにより、効果的な洗浄が可能となる。蒸気洗浄工程では、洗浄剤の蒸気を発生させるための加熱機構を有する加熱槽で発生した蒸気が洗浄装置内で液体や気体に状態変化しながら循環することによって連続的に汚れ成分と分離され、蒸気ゾーンにおいて清浄度の高い凝縮液による蒸気洗浄が可能となる。
【0037】
本発明の洗浄方法は洗浄剤により被洗浄物表面の汚れ成分を除去すると共に、後工程における洗浄剤を加熱して得られる凝縮液による蒸気洗浄により、リンス工程のない優れた洗浄方法と言える。
【0038】
具体的な洗浄方法及び洗浄装置を添付図面によって説明する。
本発明の洗浄装置では、主に洗浄剤に含まれる蒸気圧の高い成分(a)とわずかに含まれる成分(b)が洗浄装置内で液体や気体に状態変化させながら循環することによって、被洗浄物に付着しているわずかに残留している可能性の有る汚れ成分を蒸気洗浄することができる。図1は本発明の態様(5)に記載の洗浄装置の一例である。主な構造として洗浄液を入れる洗浄槽1及び加熱槽2、洗浄剤の蒸気に満たされる蒸気ゾーン3、蒸発した洗浄剤を冷却管4によって凝縮し、凝縮した液と冷却管に付着した水とを静置分離するための水分離槽5,洗浄剤を洗浄槽1と加熱槽2との間で循環するための機構6,7とからなる。実際の洗浄においては被洗浄物を専用のジグやカゴ等に入れて、洗浄装置内を洗浄槽1、蒸気ゾーン3の順に通過させながら洗浄を完了させる。
【0039】
洗浄槽1では、冷却管8により一定温度にコントロールしながら被洗浄物に付着した汚れを超音波9で洗浄除去する。この時、物理的な力としては揺動や洗浄剤の液中噴流等のこれまでの洗浄機に採用されている物理的な力であれば、いかなる方法を使用しても良い。
【0040】
蒸気ゾーン3では、主に本発明の洗浄剤に含まれる蒸気圧の高い成分(a)の蒸気とわずかに含まれる成分(b)の蒸気を冷却管4で凝縮させ水分離槽5に集め冷却管10により凝縮液の液温を下げた後、凝縮液は、水分離槽5に集められた後、配管11から洗浄槽1に入り、オーバーフローして矢印12のように加熱槽2に入り、ヒーター13で加熱され、その組成の一部又は全部が蒸気となって矢印14のように冷却管4で凝縮された後、配管15から水分離槽5に戻る。
【0041】
加熱槽2で発生した蒸気に満たされた蒸気ゾーン3で行う蒸気洗浄は、被洗浄物表面で蒸気が凝縮することによりできた液中に汚れ成分が全く含まれないので、洗浄工程最後の仕上げ洗浄として有効である。
【0042】
洗浄槽1と加熱槽2との間で洗浄剤を循環するための機構6,7は、洗浄剤を加熱槽2から配管7を通って循環ポンプ6で洗浄槽1に送液し、洗浄槽1からオーバーフローして矢印12のように加熱槽2に戻すことによって、洗浄槽1と加熱槽2の洗浄剤組成を常に同一に保ち、洗浄槽1における洗浄剤の組成変動を抑制し、安定した洗浄性を得ることができる。
【実施例】
【0043】
本発明を実施例に基づいて説明する。なお、洗浄方法及び洗浄装置による効果は以下のようにして測定、評価した。
(1)実機洗浄試験
図1に示す洗浄装置の洗浄槽1、蒸留槽2、水分離槽5に洗浄剤を入れ、蒸留槽2の洗浄剤をヒーター13により加熱沸騰させ、金属加工油が付着した被洗浄物を洗浄槽1、蒸気ゾーン3の順に移動して、脱脂洗浄性について、以下の操作及び洗浄条件により測定した。
1)浸漬洗浄条件
洗浄槽1:30秒、液量4.8L、超音波/45kHz、80W
2)蒸気洗浄条件
蒸気ゾーン3:30秒、蒸留槽2(液量4.0L)の洗浄剤を加熱して得られる蒸気により蒸気洗浄する。
【0044】
脱脂洗浄性は、洗浄した部品表面に残留する加工油を油分測定装置(OIL−20、セントラル科学(株)製)で残存油分量を測定する。評価は以下の基準により評価する。
【0045】
◎:10μg/cm未満
○:10μg/cm以上〜20μg/cm未満
×:20μg/cm以上
試験に用いた金属加工油:
KZ216(商品名:カットアーバス、ユシロ化学工業(株)製)
D311(商品名:ダイラスト、大同化学工業(株)製)
YM358(商品名:カットアーバス、ユシロ化学工業(株)製)
[実施例1〜10]
表1に記載の組成で各成分を混合し目的の洗浄剤を得た。洗浄剤を用いて表1に記載の温度条件で上記実機洗浄試験を行ない、結果を表1にまとめた。成分(a)と成分(b)を含む洗浄剤により、洗浄槽温度25〜45℃、洗浄槽温度と蒸気ゾーンとの温度差を10〜40℃の条件で洗浄することで、リンス工程がない洗浄方法及び洗浄装置により優れた脱脂洗浄性が得られた。
[比較例1、2]
表1に記載の洗浄剤及び試験条件で上記実機洗浄試験を行ない、結果を表1にまとめた。成分(b)を全く含まないために十分な脱脂洗浄性が得られなかった。
[比較例3〜7]
表1に記載の洗浄剤及び試験条件で上記実機洗浄試験を行ない、結果を表1にまとめた。洗浄槽の温度と蒸気により洗浄するゾーンの温度の差が10℃未満のため、被洗浄物表面での凝縮液量が少ないために充分な脱脂洗浄性が得られなかった。
【0046】
【表1】

【産業上の利用可能性】
【0047】
本発明の洗浄方法及び洗浄措置は、精密機械部品、光学機械部品等の加工時に使用される種々の加工油類やグリース類やワックス類、電気電子部品のハンダ付け時に使用されるフラックス類、基板製造時に使用されるスクリーンに付着したインキやペースト類及び樹脂吐出装置のミキシング部に付着した樹脂類を洗浄する洗浄分野で好適に利用できる。
【符号の説明】
【0048】
1 洗浄槽
2 加熱槽
3 蒸気ゾーン
4 冷却管
5 水分離槽
6 循環ポンプ
7 洗浄剤用配管
8 冷却管
9 超音波
10 冷却管
11 凝縮液用配管
12 洗浄剤の流れ
13 ヒーター
14 蒸気の流れ
15 凝縮用配管

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(a)20℃における蒸気圧が1.33×10Pa以上である非塩素系フッ素化合物80〜95重量%、(b)20℃における蒸気圧が1.33×10Pa未満の成分5〜20重量%とを含有する洗浄剤により洗浄槽で洗浄する工程、及び、
前記洗浄剤を加熱して得られる蒸気により洗浄する工程を含み、かつ
被洗浄物に付着した洗浄剤をリンスする工程を有さない洗浄方法において、
前記洗浄槽の温度が25〜45℃、洗浄槽の温度と蒸気により洗浄するゾーンの温度の差が10〜40℃であることを特徴とする洗浄方法。
【請求項2】
成分(a)が、ハイドロフルオロカーボン(HFC)及び/又はハイドロフルオロエーテル(HFE)を含有することを特徴とする請求項1に記載の洗浄方法。
【請求項3】
成分(a)が、2H,2H,4H,4H,4H−ペンタフルオロブタン(HFC365mfc)、2H,3H−パーフルオロペンタン(HFC43−10mee)、メチルパーフルオロブチルエーテル、メチルパーフルオロイソブチルエーテル及びこれらの混合物、エチルパーフルオロブチルエーテル、エチルパーフルオロイソブチルエーテル及びこれらの混合物、1,1,2,2−テトラフルオロ−1−(2,2,2−トリフルオロエトキシ)エタン(HFE347pc−f)及び4H,5H,5H−ヘプタフルオロシクロペンタンから選ばれる一種又は二種以上の組み合わせを含有することを特徴とする請求項1又は2に記載の洗浄方法。
【請求項4】
成分(b)が、グリコールエーテル類、グリコールエーテルアセテート類、エステル類及び炭化水素類からなる群から選ばれる一種以上の化合物を含有することを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載の洗浄方法。
【請求項5】
洗浄剤により被洗浄物を洗浄するための洗浄槽、前記洗浄槽内における洗浄剤温度を調整する機構、前記洗浄剤を構成する少なくとも一種の成分の蒸気を発生させるための加熱機構を有する加熱槽、前記加熱槽から発生した蒸気で蒸気洗浄するための蒸気ゾーン、発生した蒸気を凝縮して得られた凝縮液から水分を除去するための水分離槽、前記洗浄剤を洗浄槽と加熱槽との間で循環する機構、を有し、被洗浄物に付着した洗浄剤をリンスする為の機構を有さない請求項1〜4のいずれか1項に記載の洗浄方法に用いられる洗浄装置。

【図1】
image rotate


【公開番号】特開2011−31144(P2011−31144A)
【公開日】平成23年2月17日(2011.2.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−177897(P2009−177897)
【出願日】平成21年7月30日(2009.7.30)
【出願人】(303046314)旭化成ケミカルズ株式会社 (2,513)
【Fターム(参考)】