レーダ装置、及び、車両制御システム
【課題】方位ばらつきが大きい場合であっても、コストの増大を招くことなく、物標の方位を精度良く算出できるレーダ装置を提供する。
【解決手段】互いに間隔が異なる三本以上の素子アンテナ15のうち、任意の二本の素子アンテナ対で受信された反射波の位相差から物標の方位候補を複数求める処理を各素子アンテナ対に対して行なう方位候補演算部と、前記方位候補演算部で算出された単一または複数の方位候補に対応するデジタル・ビーム・フォーミング演算を行なうDBF演算部と、前記DBF演算部で算出されたDBF値に基づいて前記物標の方位を確定して出力する方位演算部として機能するCPU11を備えているレーダ装置10。
【解決手段】互いに間隔が異なる三本以上の素子アンテナ15のうち、任意の二本の素子アンテナ対で受信された反射波の位相差から物標の方位候補を複数求める処理を各素子アンテナ対に対して行なう方位候補演算部と、前記方位候補演算部で算出された単一または複数の方位候補に対応するデジタル・ビーム・フォーミング演算を行なうDBF演算部と、前記DBF演算部で算出されたDBF値に基づいて前記物標の方位を確定して出力する方位演算部として機能するCPU11を備えているレーダ装置10。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、三本以上の素子アンテナのうち、任意の二本の素子アンテナ対で受信された反射波の位相差から物標の方位を検出する位相モノパルス方式のレーダ装置、及び、当該レーダ装置を用いた車両制御システムに関する。
【背景技術】
【0002】
位相モノパルス方式のレーダ装置では、素子アンテナの間隔が受信信号の半波長よりも大きくなると、受信信号の位相差φが±πを超えて、2πで折り返された位相差が観測される位相折り返し(アンビギュイティ)現象が発生する場合がある。
【0003】
位相折り返しが生じるような方位に存在する物標からの反射波を受信すると、物標の方位が一意に決定することができないため、通常は、レーダ装置の検知範囲で位相折り返しが発生しないように、素子アンテナの間隔や電波の波長が選択される。
【0004】
しかし、これでは設計の自由度が大きく制限されてしまうという問題がある。そこで、特許文献1には、位相折り返しに起因する誤検知を防止するために、素子アンテナ間での受信信号の位相差から目標物の方位を検出する信号処理部に、複数の素子アンテナのうち間隔d1で配置された素子アンテナ間での受信信号の位相差から目標物の方位を算出して第1予測方位とし、複数の素子アンテナのうち間隔d1と異なる間隔d2で配置された素子アンテナ間での受信信号の位相差から目標物の方位を算出して第2予測方位とする算出手段と、第1予測方位と第2予測方位とを比較し、両者が一致したときの方位を検出方位として採用する判定手段とを備えた位相モノパルス方式のレーダ装置が提案されている。
【0005】
このようなレーダ装置では、第1予測方位と第2予測方位が厳密に一致する場合は稀であるため、通常、夫々間隔が異なる三本の素子アンテナのうち、任意の二本の素子アンテナ対で受信された反射波の位相差から物標の方位候補を位相折り返しによる方位を含めて複数求め、各素子アンテナ対に対応する方位候補の組合せの中から、方位ばらつきが最小となる組合せの方位候補を抽出し、その平均値を物標の方位として算出するように構成されていた。
【0006】
また特許文献2には、位相折り返しが生じたことを検出することによってマルチターゲットの状態であることを検出することを目的として、三本以上のアンテナと、該三本以上のアンテナのうちの二本のアンテナの組み合わせで受信された反射波の受信位相差から物体の方位を決定する方位決定手段と、該受信位相差で位相折り返しが生じたことを検出することによって、該方位決定手段が決定した方位が複数物体からの反射による異常値であることを検出する方位異常状態検出手段を備えたレーダ装置が提案されている。
【特許文献1】特開2000−230974号公報
【特許文献2】特開2006−47114号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかし、特許文献1に記載されたような従来技術では、方位ばらつきが最小となる組合せの方位候補を平均処理することにより物標の方位を得ていたため、ノイズの影響等により、方位ばらつきが大きくなると正確な方位が算出できない場合があるという問題があった。
【0008】
また、特許文献2には、方位決定手段で決定された方位が方位異常状態検出手段で異常値と判定されるときに、複数のアンテナの受信波からデジタル・ビーム・フォーミング演算により物体の方位を決定する第二の方位決定手段を備える構成が開示されているが、各方位に対して総当りで演算処理を行なうものであり、演算負荷が増大するために、性能の高い高価な演算処理部を備える必要があるという問題があった。
【0009】
本発明の目的は、上述した従来の問題点に鑑み、方位ばらつきが大きい場合であっても、コストの増大を招くことなく、物標の方位を精度良く算出できるレーダ装置を提供する点にある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上述の目的を達成するため、本発明によるレーダ装置の特徴構成は、三本以上の素子アンテナのうち、任意の二本の素子アンテナ対で受信された反射波の位相差から物標の方位候補を複数求める処理を各素子アンテナ対に対して行なう方位候補演算部と、前記方位候補演算部で算出された単一または複数の方位候補に対応するデジタル・ビーム・フォーミング演算を行なうDBF演算部と、前記DBF演算部で算出されたDBF値に基づいて前記物標の方位を確定して出力する方位演算部と、を備えている点にある。
【0011】
方位演算部では、任意の二本の素子アンテナ対で受信された反射波の位相差から物標の方位候補が位相折り返しを含めて複数求められる。DBF演算部では、方位候補演算部で算出された単一または複数の方位候補に対応したデジタル・ビーム・フォーミング演算が実行される。方位演算部では、DBF演算部で算出されたDBF値に基づいて、方位候補演算部で算出された単一または複数の方位候補に所定の演算処理が施され、その結果、物標の方位が確定されて出力される。
【0012】
つまり、DBF演算部では、各方位に対して総当りで演算処理が行なわれるのではなく、単一または複数の方位候補に対してのみDBF演算が実行されるので、演算負荷の増大を招くことがない。方位演算部では、そのようなDBF値に基づいて、適正な物標の方位が確定されるのである。
【発明の効果】
【0013】
以上説明した通り、本発明によれば、方位ばらつきが大きい場合であっても、コストの増大を招くことなく、物標の方位を精度良く算出できるレーダ装置を提供することができるようになった。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
以下、本発明によるレーダ装置、及び、当該レーダ装置を用いた車両制御システムを説明する。
【0015】
図1に示すように、レーダ装置10と、レーダ装置10による物標の検出結果に基づいて車両を制御する制御部であるオートクルーズコントロール(ACC)機能を備えた電子制御装置(以下、「ECU(Electronic Control Unit)」と記す。)20が接続されて、車両制御システムが構築されている。
【0016】
ECU20は、CPU、CPUで実行されるプログラムやデータテーブルが格納されたROM、ワーキングエリアとして使用されるRAM、入出力インタフェース等を備えて構成され、入出力インタフェースを介してレーダ装置10、ステアリングセンサ21、ヨーレートセンサ22、車速センサ23等による検出情報が入力可能に接続されるとともに、ブレーキ24、スロットル25、警報器26等に対して制御信号が出力可能に接続されている。
【0017】
ECU20は、ステアリングセンサ21、ヨーレートセンサ22、車速センサ23等の各センサにより検出された情報に基づいて、所定の走行速度で安定して走行するための各種の演算処理を実行し、その結果に基づいてブレーキ24やスロットル25を制御する。
【0018】
さらに、ECU20は、レーダ装置10により検出された車両前方の障害物である物標の方位、相対距離、相対速度の各情報に基づいて、所定の車間距離を維持するように、或は、追突の危険性を認識すると危険回避のためにブレーキ24やスロットル25を制御する。
【0019】
尚、本構成は車両制御システムの一例であり、レーダ装置10が追突被害軽減機能(Pre-Crash Safety Function)を備えたPCS−ECUに接続される場合には、レーダ装置10により検出された前方車両等の物標の方位、相対距離、相対速度の各情報の何れかまたは組合せが所定の閾値を超えるときに、PCS−ECUが追突の危険性を認識してシートベルトプリテンショナやエアバッグ等を駆動する乗員保護のための車両制御システムが構築される。
【0020】
尚、レーダ装置10がCAN(Controller Area Network)バスを介して複数のECUと接続可能に構成されている場合には、上述のACC−ECUやPCS−ECU等の複数のECUと接続した車両制御システムが構築される。
【0021】
レーダ装置10は、変調器12と、電圧制御発振器(VCO)13と、一本の送信用のアンテナ14で構成される送信部と、アンテナ14から放射された送信波のうち、物標からの反射波を受信する三本の受信用の素子アンテナ15(15a,15b,15c)と、スイッチ回路16(16a,16b,16c)と、ミキサ17と、フィルタ18と、A/D変換器19とで構成される受信部と、送品部及び受信部を制御するCPU11等を備えて構成されている。
【0022】
CPU11には、CPU11で実行されるプログラムやデータテーブルが格納されたROM、ワーキングエリアとして使用されるRAM、入出力インタフェース等が接続され、ROMには位相マップMが格納されている。
【0023】
送信部では、CPU11により制御される変調器12から出力される所定周期の三角波に基づいて電圧制御発振器(VCO)13が駆動され、当該三角波で周波数変調された送信波(FM−CW波)がアンテナ14から放射される。
【0024】
受信部では、三本の素子アンテナ15で受信された反射波が、スイッチ回路16で選択的に切り替えられてミキサ17に入力され、送信信号と受信信号がミキシングされて、送信信号と受信信号の周波数の差信号であるビート信号が得られる。
【0025】
図4(a)に示すように、送信信号(図中、実線で示す)は、周波数が直線的に上昇するupチャープ期間と、下降するdownチャープ期間が繰り返される。反射信号(図中、破線で示す)は、車両と物標の相対速度によって、その周波数が送信波の周波数よりドップラー周波数だけシフトするとともに、車両と物標の相対距離Rに応じて送信波より時間T=2R/c(cは光速)だけ遅延して検出される。
【0026】
ビート信号の周波数は、upチャープ期間にfb1、downチャープ期間にfb2となる。すなわち、遅延時間に基づく周波数差にドップラー周波数が重畳された信号が得られる。なお、f0は中心周波数、fmは周波数変調の繰り返し周波数、Δfは周波数変調の周波数遷移幅であり、図4では、受信信号の周波数が送信信号より高く、相対距離が小さくなる方向、つまり物標の接近時の状態を示している。
【0027】
図1に戻り、ミキサ17で得られたアナログビート信号は、ローパスフィルタ18を経て、A/D変換器19でデジタル信号に変換された後にCPU11に入力される。
【0028】
ROMに格納された制御プログラムを実行するCPU11により具現化される距離・速度演算部により、デジタルビート信号がFFT演算され、図4(b)に示すようなビート信号が得られ、物標の相対速度及び相対距離が算出される。
【0029】
即ち、先ずupチャープ期間のビート周波数fb1及びdownチャープ期間のビート周波数fb2が〔数1〕と〔数2〕に夫々代入され、物標の相対速度が零のときの物標ビート周波数fr及び物標の相対速度に基づくドップラー周波数fdが算出される。
【0030】
次に、物標ビート周波数fr及び物標ドップラー周波数fdが〔数3〕と〔数4〕に夫々代入されて物標までの相対距離Rと物標の相対速度vが算出される。
【数1】
【0031】
【数2】
【0032】
【数3】
【0033】
【数4】
【0034】
一方、物標の方位は、ROMに格納された制御プログラムを実行するCPUにより具現化される方位候補演算部と、DBF演算部と、方位演算部で構成される位相モノパルス処理部で算出される。
【0035】
図2に示すように、素子アンテナ15は互いのアンテナ間隔が異なるように配置され、例えば、送信波の波長をλとするとき素子アンテナ15aと15bの間隔d1が5λ/4に、素子アンテナ15bと15cの間隔d3が6λ/4に設定されている。
【0036】
図2では、二系統のミキサ17a,17b、フィルタ18a,18b、A/D変換器19a,19bを備え、スイッチ回路16により、一対の素子アンテナ15の出力が各系統に供給され、同時にA/D変換されてCPU11に出力される構成を示しているが、図1に示すように、スイッチ回路16により時分割で各アンテナ対の受信信号がA/D変換されるものであってもよい。何れの場合でも、サンプリング定理に基づいて受信信号がサンプリングされる限り、正確な原信号が再生される。
【0037】
素子アンテナ15aと15bに正面から角度θで入射する反射波が検出される場合を例に説明すると、両素子アンテナ15a、15bで受信された反射波の位相差φから、物標の方位角θは下式に基づいて算出される。
【0038】
θ=sin−1(λφ/2πd1)
【0039】
しかし、素子アンテナ15aと15bの間隔d1が送信波の波長より長い値に設定されているため、位相折り返しが発生し、物標の方位角θは次式で表される複数の候補の何れかとなり、一意に定まらなくなる。
【0040】
θ=sin−1{λ(φ+2πk)/2πd1}、(k=0,1,2,・・・)
【0041】
そこで、レーダ装置10には、検出可能な視野角に応じて設定され、位相差φに対応して複数の方位角が予め算出された位相差マップMが設けられている。本実施形態では、上述したようにROMに位相差マップMが格納されている。
【0042】
図3(a)に示すように、位相差マップMは、横軸を方位角θとし、縦軸を位相差φとする二次元マップであり、素子アンテナ15a,15bで検出される位相差FM1に対応するテーブルデータ、素子アンテナ15a,15bで検出される位相差FM2に対応するテーブルデータ、素子アンテナ15b,15cで検出される位相差FM3に対応するテーブルデータが夫々格納されている。
【0043】
図3(b)に示すように、例えば、位相差FM1が−155度であれば、図中に丸印で示す三点の方位候補が得られ、位相差FM2が55度であれば、図中に三角印で示す三点の方位候補が得られ、位相差FM3が110度であれば、図中に四角印で示す三点の方位候補が得られる。尚、図3に示す位相差マップは、検出可能な視野角が±20度に設定されたレーダ装置10に対応する位相差マップであり、正面方向を中心に±90度の範囲で方位が求まるように設定されている。
【0044】
このように、位相差マップMによって、三組の素子アンテナ対に対して夫々三組の方位候補が求められ、合計で27(=33)通りの組合せが得られるが、真の物標に対する方位は一組に限られる。
【0045】
そこで、位相差FM1,FM2,FM3に対応する方位の組合せの中で角度のばらつきが最も小さい組合せを、物標の方位として算出する必要がある。図3(b)の例では、●印(塗りつぶされた丸)、▲印(塗りつぶされた三角)、■印(塗りつぶされた四角)で表した方位が最もばらつきが小さいため、例えば、この三点の方位の平均値を物標の方位角θとして求めることができる。
【0046】
しかし、現実には送信波の物標からの反射位置の相違や、素子アンテナ15で検出された受信信号に重畳するノイズの影響等により、必ずしもばらつきが最小の組合せが物標の真の方位であると保証することができない場合もある。
【0047】
本発明はそのような場合に適切に対処できるように構成された位相モノパルス処理部を備えるものであり、以下に詳述する。
【0048】
方位候補演算部では、三本の素子アンテナのうち、任意の二本の素子アンテナ対で受信された反射波の位相差から物標の方位候補を、位相差マップMに基づいて複数求める処理が各素子アンテナ対に対して行なわれる。
【0049】
DBF演算部では、次式に基づいて、方位候補演算部で算出された単一または複数の方位候補に対応するデジタル・ビーム・フォーミング演算が行なわれる。
【0050】
F(θ)=S1+S2exp{-j・k・d1・sinθ}+S3exp{-j・k・d2・sinθ}
【0051】
但し、S1は素子アンテナ15aの受信信号、S2は素子アンテナ15bの受信信号、S3は素子アンテナ15cの受信信号である。
【0052】
方位演算部では、DBF演算部で算出されたDBF値に基づいて物標の方位が確定されて出力される。
【0053】
つまり、方位候補演算部で求められた単一または複数の方位候補に対して、デジタル・ビーム・フォーミング演算を行なえば、物標の方位が真であればそのDBF値が大きく、物標方位が偽であればそのDBF値が小さくなる点に着目するものである。方位演算部は、DBF値に基づいて方位候補が適正であるか否かを評価して、適正な方位を確定して出力する。
【0054】
このような位相モノパルス処理部は、さらに以下に示す複数の態様で実現することができる。
【0055】
第一の実施形態では、方位候補演算部は、距離・速度演算部でFFT演算された各素子アンテナの受信信号のスペクトラムがピークを示すBIN周波数に対応する位相差から物標の方位候補を複数求め、各素子アンテナ対に対応する方位候補の組合せの中から、ばらつきが最小となる組合せの方位候補の平均値を物標の方位候補として算出し、方位演算部は、DBF演算部で算出されたDBF値が所定の閾値より大きいときに当該方位候補を確定した方位として出力するように構成されている。
【0056】
以下、図10に示すフローチャートに基づいて詳述する。方位候補演算部は、FFT演算された各素子アンテナ対の受信信号から、ピークを示す周波数の位相差を求め、当該位相差に対応する三つの方位候補を位相差マップMから求める(SB1,SB2,SB3)。
【0057】
次に、27通りの各方位候補の組み合わせの中で、ばらつきが最小となる方位候補の組合せを抽出して、その平均値を方位候補として算出する(SB4)。
【0058】
DBF演算部は、ステップSB4で算出された方位候補に対してデジタル・ビーム・フォーミング演算を実行する(SB5)。
【0059】
方位演算部は、DBF値が予め設定された閾値より大きいときに、当該平均値を確定した方位として出力し(SB7)、FFT演算の結果得られたピーク値に対してDBF値が所定の閾値を下回るときには方位を出力せず検出エラー情報を出力する(SB8)。
【0060】
図5の左側に示すように、方位候補が適正であればDBF値が大きく、図5の右側に示すように、方位候補が誤っていればDBF値が小さくなるのである。このときの検出閾値は、ハードウェア回路の特性に依存して決定され、予備実験等により予め設定される値である。
【0061】
第二の実施形態では、方位候補演算部は、FFT演算された各素子アンテナの受信信号のスペクトラムがピークを示すBIN周波数、及び、その前後のBIN周波数に対応する位相差から物標の方位候補を夫々複数求め、各素子アンテナ対に対応する方位候補の組合せの中から、ばらつきが最小となる組合せの方位候補の平均値を物標の方位候補としてBIN周波数毎に夫々算出し、方位演算部は、DBF演算部で算出されたDBF値が最大となるBIN周波数に対応する方位候補を確定した方位として出力するように構成されている。
【0062】
以下、図11に示すフローチャートに基づいて詳述する。方位候補演算部は、図6(a)に示すように、距離・速度演算部でFFT演算された各素子アンテナ対の受信信号のスペクトラムがピークを示すBIN周波数、及び、その前後のBIN周波数に対応する位相差から物標の方位候補を位相差マップMから夫々三つ求める(SC1,SC2,SC3)。
【0063】
例えば、素子アンテナ対15a,15bに対して、ピークBIN周波数と、−1BIN周波数と、+1BIN周波数の夫々に対して、各三つの方位候補を求めるのである。
【0064】
次に、BIN周波数毎に、各素子アンテナ対に対応する三つの方位候補の27通りの組合せの中から、ばらつきが最小となる組合せの方位候補を抽出して、夫々の平均値を物標の方位候補として算出する(SC4)。
【0065】
つまり、ピークBIN周波数と、−1BIN周波数と、+1BIN周波数の夫々に対して方位候補が算出される。
【0066】
DBF演算部は、ステップSC4で算出された各BIN周波数に対応する三つの方位候補に対して夫々デジタル・ビーム・フォーミング演算を実行する(SC5)。
【0067】
方位演算部は、各DBF値の中で最大値を示すDBF値に対応するBIN周波数の方位候補を抽出し(SC6)、当該方位候補を確定した方位として出力する(SC7)。
【0068】
図6(b)に示すように、DBF演算部で算出された+1BIN周波数に対応するDBF値が、ピークBIN周波数及び−1BIN周波数に対応するDBF値よりも大きな場合に、当該+1BIN周波数に対応する方位候補を確定した方位として出力するのである。
【0069】
尚、BINとは、FFT演算の周波数分解能ステップをいい、1BIN=fs/n[Hz]となる。ここに、fsはサンプリング周波数、nはサンプル点数である。
【0070】
第三の実施形態では、方位候補演算部は、FFT演算された各素子アンテナの受信信号のスペクトラムがピークを示すBIN周波数に対応する位相差から物標の方位候補を複数求め、各素子アンテナ対に対応する方位候補の組合せの中から、ばらつきが最小となる組合せの方位候補を物標の方位候補として算出し、方位演算部は、DBF演算部で算出されたDBF値に基づいて設定された重み係数で、方位候補を重み平均した値を確定した方位として出力するように構成されている。
【0071】
以下、図12に示すフローチャートに基づいて詳述する。方位候補演算部は、距離・速度演算部でFFT演算された各素子アンテナ対の受信信号のスペクトラムがピークを示すBIN周波数に対応する位相差から物標の方位候補を位相差マップMから夫々三つ求める(SD1,SD2,SD3)。
【0072】
次に、各素子アンテナ対に対応する方位候補の27通りの組合せの中から、ばらつきが最小となる組合せに含まれる三つの方位候補を物標の方位候補として算出する(SD4)。
【0073】
DBF演算部は、ステップSD4で算出された三つの方位候補に対して夫々デジタル・ビーム・フォーミング演算を実行する(SD5)。
【0074】
方位演算部は、DBF演算部で算出されたDBF値に基づいて、設定された重み係数で、方位候補を重み平均した値を確定した方位として出力する(SD6,SD7)。
【0075】
例えば、図7に示すように、位相差FM1に対応する方位θFM1と、位相差FM2に対応する方位θFM2と、位相差FM3に対応する方位θFM3の夫々に対して、デジタル・ビーム・フォーミング演算を実行した結果、各方位θFM1、θFM2、θFM3に対応するDBF値が求まると、以下の手法によって方位候補を重み平均して確定した方位θを算出する。
【0076】
第一の手法では、先ず、予め設定された閾値より下回る方位θFM1に対する重み係数を零に、閾値以上の方位θFM2,方位θFM3に対する重み係数を1に設定し、次に、方位θFM1,方位θFM2,方位θFM3の夫々に重み係数を掛けた値の加算値を、各重み係数の加算値で除算することによって方位を算出する。この例では、方位θFM2,方位θFM3の相加平均値が確定した方位として算出される。
【0077】
第二の手法では、方位θFM1,方位θFM2,方位θFM3の夫々の重み係数として夫々のDBF値を採用し、次に、次式に従って算出された重み平均値を確定した方位θとして算出する。
【0078】
θ=(重み係数による方位候補の積和値)/(重み加算値)
重み係数による方位候補の積和値=
DBF(θFM1)・θFM1+DBF(θFM2)・θFM2+DBF(θFM3)・θFM3
重み加算値=
DBF(θFM1)+DBF(θFM2)+DBF(θFM3)
【0079】
第四の実施形態では、方位候補演算部は、FFT演算された各素子アンテナの受信信号のスペクトラムがピークを示すBIN周波数に対応する位相差から各素子アンテナ対に対応する物標の方位候補を複数求めて出力し、方位演算部は、各素子アンテナ対に対応する物標の方位候補の中からDBF演算部で算出されたDBF値が最大となる方位候補を抽出し、抽出した各素子アンテナ対に対応する物標の方位候補の平均値を確定した方位として出力するように構成されている。
【0080】
以下、図13に示すフローチャートに基づいて詳述する。方位候補演算部は、距離・速度演算部でFFT演算された各素子アンテナ対の受信信号からピークを示す周波数の位相差を求め、各位相差に対応する三つの方位候補を位相差マップMから夫々求める(SE1,SE2,SE3)。
【0081】
求まった九つの位相差を各素子アンテナ対に対応する物標の方位候補として出力する(SE4)。
【0082】
DBF演算部は、ステップSE4で算出された素子アンテナ対毎に、三つの方位候補に対して夫々デジタル・ビーム・フォーミング演算を実行する(SE5)。
【0083】
方位演算部は、DBF演算部で算出されたDBF値に基づいて、素子アンテナ対毎に最大値を示すDBF値に対応する方位候補を抽出し、抽出された三つの方位候補の平均値を算出して(SE6)、当該平均値を確定した方位として出力する(SE7)。
【0084】
例えば、図8に示すように、位相差FM3に対応する三つの方位候補を夫々DBF演算して、その最大値となる方位候補を特定する。同様の処理を位相差FM1及び位相差FM2に対して実行し、夫々で特定されたDBF値が最大となる方位候補の平均値を算出するのである。
【0085】
さらに、上述した各実施形態を、矛盾しない範囲で適宜組み合わせて、位相モノパルス処理部を構成することも可能である。
【0086】
そして、何れの実施形態でも、DBF演算部及び方位演算部は、物標の方位及び/または相対距離が所定範囲内にあるときに、各演算処理を実行するように設定されていることが好ましい。
【0087】
レーダ装置10で検出可能な視野角の限界付近より外側に物標が位置していると、素子アンテナの受信信号レベルが低下し、また、相対距離が所定距離以上に離れていると、素子アンテナの受信信号レベルが低下する。そのような条件下では、FFT演算で得られるスペクトラムのピークが鈍り、急峻さが失われるため、精度の高いDBF値が得られなくなるためである。
【0088】
例えば、本実施形態では、物標が±20度より内側に位置しているとき、物標が30m以内に位置している場合に、DBF演算部及び方位演算部が機能するように構成され、それ以外の場合には、方位候補演算部により、位相差FM1,FM2,FM3に対応する方位の組合せの中で角度のばらつきが最も小さい組合せの方位候補の平均値を物標の方位角θとして出力するように構成することができる。尚、物標の方位や相対距離は、前回に検出された物標の方位や相対距離を採用することが可能であり、方位演算部で今回検出された物標に対する方位候補の値を採用することも可能である。
【0089】
また、以上説明した位相モノパルス処理部による物標の方位算出処理は、upチャープ期間とdownチャープ期間の夫々で実行される。
【0090】
次に、上述したレーダ装置10の全体動作を、図9に示すフローチャートに基づいて説明する。図9に示すように、送信部から送信波が出力され、受信部で反射波が検出されると、CPU11によりスイッチ回路が制御されて、各素子アンテナ対に対するビート信号がCPU11に入力される。
【0091】
距離・速度演算部では、ビート信号のピークがupチャープ期間とdownチャープ期間の夫々でFFT演算が実行されて、スペクトラムのピークが抽出される(SA1)。
【0092】
抽出されたピークに対応して、上述した位相モノパルス処理部で物標の方位が算出される(SA2)。
【0093】
次に、距離・速度演算部では、upチャープ期間とdownチャープ期間の夫々のビート信号のピークが対応する周波数を特定するペアリング処理が実行される。具体的には、各期間のピークレベルの差が数dBの範囲に納まるピークの周波数fb1,fb2をペアリングする(SA3)。
【0094】
ペアリングされたピークの周波数fb1,fb2に基づいて物標の相対距離及び相対速度が算出される(SA4)。
【0095】
次に、検出された物標の方位、相対距離、相対速度に基づいて、トラッキング処理部により連続性の判定が実行される。連続性の判定とは、前回に検出された物標と今回検出された物標の同一性を判定する処理で、例えば、前回と今回の方位の差が所定角度以内であるときに連続性があると判定される(SA5)。
【0096】
連続性判定で、物標に連続性があると判定されると、方位、相対距離、相対速度の夫々の前回値と今回値が所定の重み係数で重み付け演算されて、物標の現在の方位、相対距離、相対速度の確定値が算出される。
【0097】
尚、トラッキング処理部は、距離・速度演算部等と同様、ROMに格納された制御プログラムを実行するCPU11により具現化される。
【0098】
次に、トラッキング処理部は、検出した物標の情報を外部に出力するか否かを決定するフィルタ処理を実行する(SA6)。
【0099】
フィルタ処理とは、例えば、ステップSA5で、連続性が所定回数確認された物標を抽出するというような処理で、物標の抽出条件は、連続性の判定回数以外に、位相モノパルス処理部で算出された方位に対応する元の方位候補、つまり、各素子アンテナ対で検出された位相差に対応する夫々の方位候補から、物標の横位置ばらつき(レーダ装置に正面方向と直交する方向のばらつき)が所定範囲内に納まっているか否か等、適宜設定される。
【0100】
フィルタ処理で抽出された物標が選択されて、上述のECU20に出力される(SA7)。
【0101】
以上、三本の受信用の素子アンテナ15を備えたレーダ装置について説明したが、受信用の素子アンテナの数は三本に限るものではなく、三本以上の複数本の素子アンテナを備えるものであってもよい。また、各素子アンテナの間隔は、上述した値に限定されるものではない。
【0102】
尚、上述の実施形態は、本発明の一例に過ぎず、本発明の作用効果を奏する範囲において各ブロックの具体的構成等は適宜変更設計できることは言うまでもない。
【図面の簡単な説明】
【0103】
【図1】本発明による車両制御システム及びレーダ装置のブロック構成図
【図2】レーダ装置の要部のブロック構成図
【図3】(a)は位相差マップの説明図、(b)は位相差マップを活用する場合の説明図
【図4】(a)は送信波と反射波の説明図、(b)はビート信号の説明図
【図5】第一の実施形態の位相モノパルス処理部で実行される処理の説明図
【図6】第二の実施形態の位相モノパルス処理部で実行される処理の説明図
【図7】第三の実施形態の位相モノパルス処理部で実行される処理の説明図
【図8】第四の実施形態の位相モノパルス処理部で実行される処理の説明図
【図9】レーダ装置の動作を説明するフローチャート
【図10】第一の実施形態の位相モノパルス処理部の動作を説明するフローチャート
【図11】第二の実施形態の位相モノパルス処理部の動作を説明するフローチャート
【図12】第三の実施形態の位相モノパルス処理部の動作を説明するフローチャート
【図13】第四の実施形態の位相モノパルス処理部の動作を説明するフローチャート
【符号の説明】
【0104】
10:レーダ装置
11:CPU(方位候補演算部、DBF演算部、方位演算部)
12:変調器
13:VCO
14:送信用アンテナ
15:受信用素子アンテナ
16:スイッチ回路
17:ミキサ
18:フィルタ
19:A/D変換器
M:位相差マップ
20:ECU
【技術分野】
【0001】
本発明は、三本以上の素子アンテナのうち、任意の二本の素子アンテナ対で受信された反射波の位相差から物標の方位を検出する位相モノパルス方式のレーダ装置、及び、当該レーダ装置を用いた車両制御システムに関する。
【背景技術】
【0002】
位相モノパルス方式のレーダ装置では、素子アンテナの間隔が受信信号の半波長よりも大きくなると、受信信号の位相差φが±πを超えて、2πで折り返された位相差が観測される位相折り返し(アンビギュイティ)現象が発生する場合がある。
【0003】
位相折り返しが生じるような方位に存在する物標からの反射波を受信すると、物標の方位が一意に決定することができないため、通常は、レーダ装置の検知範囲で位相折り返しが発生しないように、素子アンテナの間隔や電波の波長が選択される。
【0004】
しかし、これでは設計の自由度が大きく制限されてしまうという問題がある。そこで、特許文献1には、位相折り返しに起因する誤検知を防止するために、素子アンテナ間での受信信号の位相差から目標物の方位を検出する信号処理部に、複数の素子アンテナのうち間隔d1で配置された素子アンテナ間での受信信号の位相差から目標物の方位を算出して第1予測方位とし、複数の素子アンテナのうち間隔d1と異なる間隔d2で配置された素子アンテナ間での受信信号の位相差から目標物の方位を算出して第2予測方位とする算出手段と、第1予測方位と第2予測方位とを比較し、両者が一致したときの方位を検出方位として採用する判定手段とを備えた位相モノパルス方式のレーダ装置が提案されている。
【0005】
このようなレーダ装置では、第1予測方位と第2予測方位が厳密に一致する場合は稀であるため、通常、夫々間隔が異なる三本の素子アンテナのうち、任意の二本の素子アンテナ対で受信された反射波の位相差から物標の方位候補を位相折り返しによる方位を含めて複数求め、各素子アンテナ対に対応する方位候補の組合せの中から、方位ばらつきが最小となる組合せの方位候補を抽出し、その平均値を物標の方位として算出するように構成されていた。
【0006】
また特許文献2には、位相折り返しが生じたことを検出することによってマルチターゲットの状態であることを検出することを目的として、三本以上のアンテナと、該三本以上のアンテナのうちの二本のアンテナの組み合わせで受信された反射波の受信位相差から物体の方位を決定する方位決定手段と、該受信位相差で位相折り返しが生じたことを検出することによって、該方位決定手段が決定した方位が複数物体からの反射による異常値であることを検出する方位異常状態検出手段を備えたレーダ装置が提案されている。
【特許文献1】特開2000−230974号公報
【特許文献2】特開2006−47114号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかし、特許文献1に記載されたような従来技術では、方位ばらつきが最小となる組合せの方位候補を平均処理することにより物標の方位を得ていたため、ノイズの影響等により、方位ばらつきが大きくなると正確な方位が算出できない場合があるという問題があった。
【0008】
また、特許文献2には、方位決定手段で決定された方位が方位異常状態検出手段で異常値と判定されるときに、複数のアンテナの受信波からデジタル・ビーム・フォーミング演算により物体の方位を決定する第二の方位決定手段を備える構成が開示されているが、各方位に対して総当りで演算処理を行なうものであり、演算負荷が増大するために、性能の高い高価な演算処理部を備える必要があるという問題があった。
【0009】
本発明の目的は、上述した従来の問題点に鑑み、方位ばらつきが大きい場合であっても、コストの増大を招くことなく、物標の方位を精度良く算出できるレーダ装置を提供する点にある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上述の目的を達成するため、本発明によるレーダ装置の特徴構成は、三本以上の素子アンテナのうち、任意の二本の素子アンテナ対で受信された反射波の位相差から物標の方位候補を複数求める処理を各素子アンテナ対に対して行なう方位候補演算部と、前記方位候補演算部で算出された単一または複数の方位候補に対応するデジタル・ビーム・フォーミング演算を行なうDBF演算部と、前記DBF演算部で算出されたDBF値に基づいて前記物標の方位を確定して出力する方位演算部と、を備えている点にある。
【0011】
方位演算部では、任意の二本の素子アンテナ対で受信された反射波の位相差から物標の方位候補が位相折り返しを含めて複数求められる。DBF演算部では、方位候補演算部で算出された単一または複数の方位候補に対応したデジタル・ビーム・フォーミング演算が実行される。方位演算部では、DBF演算部で算出されたDBF値に基づいて、方位候補演算部で算出された単一または複数の方位候補に所定の演算処理が施され、その結果、物標の方位が確定されて出力される。
【0012】
つまり、DBF演算部では、各方位に対して総当りで演算処理が行なわれるのではなく、単一または複数の方位候補に対してのみDBF演算が実行されるので、演算負荷の増大を招くことがない。方位演算部では、そのようなDBF値に基づいて、適正な物標の方位が確定されるのである。
【発明の効果】
【0013】
以上説明した通り、本発明によれば、方位ばらつきが大きい場合であっても、コストの増大を招くことなく、物標の方位を精度良く算出できるレーダ装置を提供することができるようになった。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
以下、本発明によるレーダ装置、及び、当該レーダ装置を用いた車両制御システムを説明する。
【0015】
図1に示すように、レーダ装置10と、レーダ装置10による物標の検出結果に基づいて車両を制御する制御部であるオートクルーズコントロール(ACC)機能を備えた電子制御装置(以下、「ECU(Electronic Control Unit)」と記す。)20が接続されて、車両制御システムが構築されている。
【0016】
ECU20は、CPU、CPUで実行されるプログラムやデータテーブルが格納されたROM、ワーキングエリアとして使用されるRAM、入出力インタフェース等を備えて構成され、入出力インタフェースを介してレーダ装置10、ステアリングセンサ21、ヨーレートセンサ22、車速センサ23等による検出情報が入力可能に接続されるとともに、ブレーキ24、スロットル25、警報器26等に対して制御信号が出力可能に接続されている。
【0017】
ECU20は、ステアリングセンサ21、ヨーレートセンサ22、車速センサ23等の各センサにより検出された情報に基づいて、所定の走行速度で安定して走行するための各種の演算処理を実行し、その結果に基づいてブレーキ24やスロットル25を制御する。
【0018】
さらに、ECU20は、レーダ装置10により検出された車両前方の障害物である物標の方位、相対距離、相対速度の各情報に基づいて、所定の車間距離を維持するように、或は、追突の危険性を認識すると危険回避のためにブレーキ24やスロットル25を制御する。
【0019】
尚、本構成は車両制御システムの一例であり、レーダ装置10が追突被害軽減機能(Pre-Crash Safety Function)を備えたPCS−ECUに接続される場合には、レーダ装置10により検出された前方車両等の物標の方位、相対距離、相対速度の各情報の何れかまたは組合せが所定の閾値を超えるときに、PCS−ECUが追突の危険性を認識してシートベルトプリテンショナやエアバッグ等を駆動する乗員保護のための車両制御システムが構築される。
【0020】
尚、レーダ装置10がCAN(Controller Area Network)バスを介して複数のECUと接続可能に構成されている場合には、上述のACC−ECUやPCS−ECU等の複数のECUと接続した車両制御システムが構築される。
【0021】
レーダ装置10は、変調器12と、電圧制御発振器(VCO)13と、一本の送信用のアンテナ14で構成される送信部と、アンテナ14から放射された送信波のうち、物標からの反射波を受信する三本の受信用の素子アンテナ15(15a,15b,15c)と、スイッチ回路16(16a,16b,16c)と、ミキサ17と、フィルタ18と、A/D変換器19とで構成される受信部と、送品部及び受信部を制御するCPU11等を備えて構成されている。
【0022】
CPU11には、CPU11で実行されるプログラムやデータテーブルが格納されたROM、ワーキングエリアとして使用されるRAM、入出力インタフェース等が接続され、ROMには位相マップMが格納されている。
【0023】
送信部では、CPU11により制御される変調器12から出力される所定周期の三角波に基づいて電圧制御発振器(VCO)13が駆動され、当該三角波で周波数変調された送信波(FM−CW波)がアンテナ14から放射される。
【0024】
受信部では、三本の素子アンテナ15で受信された反射波が、スイッチ回路16で選択的に切り替えられてミキサ17に入力され、送信信号と受信信号がミキシングされて、送信信号と受信信号の周波数の差信号であるビート信号が得られる。
【0025】
図4(a)に示すように、送信信号(図中、実線で示す)は、周波数が直線的に上昇するupチャープ期間と、下降するdownチャープ期間が繰り返される。反射信号(図中、破線で示す)は、車両と物標の相対速度によって、その周波数が送信波の周波数よりドップラー周波数だけシフトするとともに、車両と物標の相対距離Rに応じて送信波より時間T=2R/c(cは光速)だけ遅延して検出される。
【0026】
ビート信号の周波数は、upチャープ期間にfb1、downチャープ期間にfb2となる。すなわち、遅延時間に基づく周波数差にドップラー周波数が重畳された信号が得られる。なお、f0は中心周波数、fmは周波数変調の繰り返し周波数、Δfは周波数変調の周波数遷移幅であり、図4では、受信信号の周波数が送信信号より高く、相対距離が小さくなる方向、つまり物標の接近時の状態を示している。
【0027】
図1に戻り、ミキサ17で得られたアナログビート信号は、ローパスフィルタ18を経て、A/D変換器19でデジタル信号に変換された後にCPU11に入力される。
【0028】
ROMに格納された制御プログラムを実行するCPU11により具現化される距離・速度演算部により、デジタルビート信号がFFT演算され、図4(b)に示すようなビート信号が得られ、物標の相対速度及び相対距離が算出される。
【0029】
即ち、先ずupチャープ期間のビート周波数fb1及びdownチャープ期間のビート周波数fb2が〔数1〕と〔数2〕に夫々代入され、物標の相対速度が零のときの物標ビート周波数fr及び物標の相対速度に基づくドップラー周波数fdが算出される。
【0030】
次に、物標ビート周波数fr及び物標ドップラー周波数fdが〔数3〕と〔数4〕に夫々代入されて物標までの相対距離Rと物標の相対速度vが算出される。
【数1】
【0031】
【数2】
【0032】
【数3】
【0033】
【数4】
【0034】
一方、物標の方位は、ROMに格納された制御プログラムを実行するCPUにより具現化される方位候補演算部と、DBF演算部と、方位演算部で構成される位相モノパルス処理部で算出される。
【0035】
図2に示すように、素子アンテナ15は互いのアンテナ間隔が異なるように配置され、例えば、送信波の波長をλとするとき素子アンテナ15aと15bの間隔d1が5λ/4に、素子アンテナ15bと15cの間隔d3が6λ/4に設定されている。
【0036】
図2では、二系統のミキサ17a,17b、フィルタ18a,18b、A/D変換器19a,19bを備え、スイッチ回路16により、一対の素子アンテナ15の出力が各系統に供給され、同時にA/D変換されてCPU11に出力される構成を示しているが、図1に示すように、スイッチ回路16により時分割で各アンテナ対の受信信号がA/D変換されるものであってもよい。何れの場合でも、サンプリング定理に基づいて受信信号がサンプリングされる限り、正確な原信号が再生される。
【0037】
素子アンテナ15aと15bに正面から角度θで入射する反射波が検出される場合を例に説明すると、両素子アンテナ15a、15bで受信された反射波の位相差φから、物標の方位角θは下式に基づいて算出される。
【0038】
θ=sin−1(λφ/2πd1)
【0039】
しかし、素子アンテナ15aと15bの間隔d1が送信波の波長より長い値に設定されているため、位相折り返しが発生し、物標の方位角θは次式で表される複数の候補の何れかとなり、一意に定まらなくなる。
【0040】
θ=sin−1{λ(φ+2πk)/2πd1}、(k=0,1,2,・・・)
【0041】
そこで、レーダ装置10には、検出可能な視野角に応じて設定され、位相差φに対応して複数の方位角が予め算出された位相差マップMが設けられている。本実施形態では、上述したようにROMに位相差マップMが格納されている。
【0042】
図3(a)に示すように、位相差マップMは、横軸を方位角θとし、縦軸を位相差φとする二次元マップであり、素子アンテナ15a,15bで検出される位相差FM1に対応するテーブルデータ、素子アンテナ15a,15bで検出される位相差FM2に対応するテーブルデータ、素子アンテナ15b,15cで検出される位相差FM3に対応するテーブルデータが夫々格納されている。
【0043】
図3(b)に示すように、例えば、位相差FM1が−155度であれば、図中に丸印で示す三点の方位候補が得られ、位相差FM2が55度であれば、図中に三角印で示す三点の方位候補が得られ、位相差FM3が110度であれば、図中に四角印で示す三点の方位候補が得られる。尚、図3に示す位相差マップは、検出可能な視野角が±20度に設定されたレーダ装置10に対応する位相差マップであり、正面方向を中心に±90度の範囲で方位が求まるように設定されている。
【0044】
このように、位相差マップMによって、三組の素子アンテナ対に対して夫々三組の方位候補が求められ、合計で27(=33)通りの組合せが得られるが、真の物標に対する方位は一組に限られる。
【0045】
そこで、位相差FM1,FM2,FM3に対応する方位の組合せの中で角度のばらつきが最も小さい組合せを、物標の方位として算出する必要がある。図3(b)の例では、●印(塗りつぶされた丸)、▲印(塗りつぶされた三角)、■印(塗りつぶされた四角)で表した方位が最もばらつきが小さいため、例えば、この三点の方位の平均値を物標の方位角θとして求めることができる。
【0046】
しかし、現実には送信波の物標からの反射位置の相違や、素子アンテナ15で検出された受信信号に重畳するノイズの影響等により、必ずしもばらつきが最小の組合せが物標の真の方位であると保証することができない場合もある。
【0047】
本発明はそのような場合に適切に対処できるように構成された位相モノパルス処理部を備えるものであり、以下に詳述する。
【0048】
方位候補演算部では、三本の素子アンテナのうち、任意の二本の素子アンテナ対で受信された反射波の位相差から物標の方位候補を、位相差マップMに基づいて複数求める処理が各素子アンテナ対に対して行なわれる。
【0049】
DBF演算部では、次式に基づいて、方位候補演算部で算出された単一または複数の方位候補に対応するデジタル・ビーム・フォーミング演算が行なわれる。
【0050】
F(θ)=S1+S2exp{-j・k・d1・sinθ}+S3exp{-j・k・d2・sinθ}
【0051】
但し、S1は素子アンテナ15aの受信信号、S2は素子アンテナ15bの受信信号、S3は素子アンテナ15cの受信信号である。
【0052】
方位演算部では、DBF演算部で算出されたDBF値に基づいて物標の方位が確定されて出力される。
【0053】
つまり、方位候補演算部で求められた単一または複数の方位候補に対して、デジタル・ビーム・フォーミング演算を行なえば、物標の方位が真であればそのDBF値が大きく、物標方位が偽であればそのDBF値が小さくなる点に着目するものである。方位演算部は、DBF値に基づいて方位候補が適正であるか否かを評価して、適正な方位を確定して出力する。
【0054】
このような位相モノパルス処理部は、さらに以下に示す複数の態様で実現することができる。
【0055】
第一の実施形態では、方位候補演算部は、距離・速度演算部でFFT演算された各素子アンテナの受信信号のスペクトラムがピークを示すBIN周波数に対応する位相差から物標の方位候補を複数求め、各素子アンテナ対に対応する方位候補の組合せの中から、ばらつきが最小となる組合せの方位候補の平均値を物標の方位候補として算出し、方位演算部は、DBF演算部で算出されたDBF値が所定の閾値より大きいときに当該方位候補を確定した方位として出力するように構成されている。
【0056】
以下、図10に示すフローチャートに基づいて詳述する。方位候補演算部は、FFT演算された各素子アンテナ対の受信信号から、ピークを示す周波数の位相差を求め、当該位相差に対応する三つの方位候補を位相差マップMから求める(SB1,SB2,SB3)。
【0057】
次に、27通りの各方位候補の組み合わせの中で、ばらつきが最小となる方位候補の組合せを抽出して、その平均値を方位候補として算出する(SB4)。
【0058】
DBF演算部は、ステップSB4で算出された方位候補に対してデジタル・ビーム・フォーミング演算を実行する(SB5)。
【0059】
方位演算部は、DBF値が予め設定された閾値より大きいときに、当該平均値を確定した方位として出力し(SB7)、FFT演算の結果得られたピーク値に対してDBF値が所定の閾値を下回るときには方位を出力せず検出エラー情報を出力する(SB8)。
【0060】
図5の左側に示すように、方位候補が適正であればDBF値が大きく、図5の右側に示すように、方位候補が誤っていればDBF値が小さくなるのである。このときの検出閾値は、ハードウェア回路の特性に依存して決定され、予備実験等により予め設定される値である。
【0061】
第二の実施形態では、方位候補演算部は、FFT演算された各素子アンテナの受信信号のスペクトラムがピークを示すBIN周波数、及び、その前後のBIN周波数に対応する位相差から物標の方位候補を夫々複数求め、各素子アンテナ対に対応する方位候補の組合せの中から、ばらつきが最小となる組合せの方位候補の平均値を物標の方位候補としてBIN周波数毎に夫々算出し、方位演算部は、DBF演算部で算出されたDBF値が最大となるBIN周波数に対応する方位候補を確定した方位として出力するように構成されている。
【0062】
以下、図11に示すフローチャートに基づいて詳述する。方位候補演算部は、図6(a)に示すように、距離・速度演算部でFFT演算された各素子アンテナ対の受信信号のスペクトラムがピークを示すBIN周波数、及び、その前後のBIN周波数に対応する位相差から物標の方位候補を位相差マップMから夫々三つ求める(SC1,SC2,SC3)。
【0063】
例えば、素子アンテナ対15a,15bに対して、ピークBIN周波数と、−1BIN周波数と、+1BIN周波数の夫々に対して、各三つの方位候補を求めるのである。
【0064】
次に、BIN周波数毎に、各素子アンテナ対に対応する三つの方位候補の27通りの組合せの中から、ばらつきが最小となる組合せの方位候補を抽出して、夫々の平均値を物標の方位候補として算出する(SC4)。
【0065】
つまり、ピークBIN周波数と、−1BIN周波数と、+1BIN周波数の夫々に対して方位候補が算出される。
【0066】
DBF演算部は、ステップSC4で算出された各BIN周波数に対応する三つの方位候補に対して夫々デジタル・ビーム・フォーミング演算を実行する(SC5)。
【0067】
方位演算部は、各DBF値の中で最大値を示すDBF値に対応するBIN周波数の方位候補を抽出し(SC6)、当該方位候補を確定した方位として出力する(SC7)。
【0068】
図6(b)に示すように、DBF演算部で算出された+1BIN周波数に対応するDBF値が、ピークBIN周波数及び−1BIN周波数に対応するDBF値よりも大きな場合に、当該+1BIN周波数に対応する方位候補を確定した方位として出力するのである。
【0069】
尚、BINとは、FFT演算の周波数分解能ステップをいい、1BIN=fs/n[Hz]となる。ここに、fsはサンプリング周波数、nはサンプル点数である。
【0070】
第三の実施形態では、方位候補演算部は、FFT演算された各素子アンテナの受信信号のスペクトラムがピークを示すBIN周波数に対応する位相差から物標の方位候補を複数求め、各素子アンテナ対に対応する方位候補の組合せの中から、ばらつきが最小となる組合せの方位候補を物標の方位候補として算出し、方位演算部は、DBF演算部で算出されたDBF値に基づいて設定された重み係数で、方位候補を重み平均した値を確定した方位として出力するように構成されている。
【0071】
以下、図12に示すフローチャートに基づいて詳述する。方位候補演算部は、距離・速度演算部でFFT演算された各素子アンテナ対の受信信号のスペクトラムがピークを示すBIN周波数に対応する位相差から物標の方位候補を位相差マップMから夫々三つ求める(SD1,SD2,SD3)。
【0072】
次に、各素子アンテナ対に対応する方位候補の27通りの組合せの中から、ばらつきが最小となる組合せに含まれる三つの方位候補を物標の方位候補として算出する(SD4)。
【0073】
DBF演算部は、ステップSD4で算出された三つの方位候補に対して夫々デジタル・ビーム・フォーミング演算を実行する(SD5)。
【0074】
方位演算部は、DBF演算部で算出されたDBF値に基づいて、設定された重み係数で、方位候補を重み平均した値を確定した方位として出力する(SD6,SD7)。
【0075】
例えば、図7に示すように、位相差FM1に対応する方位θFM1と、位相差FM2に対応する方位θFM2と、位相差FM3に対応する方位θFM3の夫々に対して、デジタル・ビーム・フォーミング演算を実行した結果、各方位θFM1、θFM2、θFM3に対応するDBF値が求まると、以下の手法によって方位候補を重み平均して確定した方位θを算出する。
【0076】
第一の手法では、先ず、予め設定された閾値より下回る方位θFM1に対する重み係数を零に、閾値以上の方位θFM2,方位θFM3に対する重み係数を1に設定し、次に、方位θFM1,方位θFM2,方位θFM3の夫々に重み係数を掛けた値の加算値を、各重み係数の加算値で除算することによって方位を算出する。この例では、方位θFM2,方位θFM3の相加平均値が確定した方位として算出される。
【0077】
第二の手法では、方位θFM1,方位θFM2,方位θFM3の夫々の重み係数として夫々のDBF値を採用し、次に、次式に従って算出された重み平均値を確定した方位θとして算出する。
【0078】
θ=(重み係数による方位候補の積和値)/(重み加算値)
重み係数による方位候補の積和値=
DBF(θFM1)・θFM1+DBF(θFM2)・θFM2+DBF(θFM3)・θFM3
重み加算値=
DBF(θFM1)+DBF(θFM2)+DBF(θFM3)
【0079】
第四の実施形態では、方位候補演算部は、FFT演算された各素子アンテナの受信信号のスペクトラムがピークを示すBIN周波数に対応する位相差から各素子アンテナ対に対応する物標の方位候補を複数求めて出力し、方位演算部は、各素子アンテナ対に対応する物標の方位候補の中からDBF演算部で算出されたDBF値が最大となる方位候補を抽出し、抽出した各素子アンテナ対に対応する物標の方位候補の平均値を確定した方位として出力するように構成されている。
【0080】
以下、図13に示すフローチャートに基づいて詳述する。方位候補演算部は、距離・速度演算部でFFT演算された各素子アンテナ対の受信信号からピークを示す周波数の位相差を求め、各位相差に対応する三つの方位候補を位相差マップMから夫々求める(SE1,SE2,SE3)。
【0081】
求まった九つの位相差を各素子アンテナ対に対応する物標の方位候補として出力する(SE4)。
【0082】
DBF演算部は、ステップSE4で算出された素子アンテナ対毎に、三つの方位候補に対して夫々デジタル・ビーム・フォーミング演算を実行する(SE5)。
【0083】
方位演算部は、DBF演算部で算出されたDBF値に基づいて、素子アンテナ対毎に最大値を示すDBF値に対応する方位候補を抽出し、抽出された三つの方位候補の平均値を算出して(SE6)、当該平均値を確定した方位として出力する(SE7)。
【0084】
例えば、図8に示すように、位相差FM3に対応する三つの方位候補を夫々DBF演算して、その最大値となる方位候補を特定する。同様の処理を位相差FM1及び位相差FM2に対して実行し、夫々で特定されたDBF値が最大となる方位候補の平均値を算出するのである。
【0085】
さらに、上述した各実施形態を、矛盾しない範囲で適宜組み合わせて、位相モノパルス処理部を構成することも可能である。
【0086】
そして、何れの実施形態でも、DBF演算部及び方位演算部は、物標の方位及び/または相対距離が所定範囲内にあるときに、各演算処理を実行するように設定されていることが好ましい。
【0087】
レーダ装置10で検出可能な視野角の限界付近より外側に物標が位置していると、素子アンテナの受信信号レベルが低下し、また、相対距離が所定距離以上に離れていると、素子アンテナの受信信号レベルが低下する。そのような条件下では、FFT演算で得られるスペクトラムのピークが鈍り、急峻さが失われるため、精度の高いDBF値が得られなくなるためである。
【0088】
例えば、本実施形態では、物標が±20度より内側に位置しているとき、物標が30m以内に位置している場合に、DBF演算部及び方位演算部が機能するように構成され、それ以外の場合には、方位候補演算部により、位相差FM1,FM2,FM3に対応する方位の組合せの中で角度のばらつきが最も小さい組合せの方位候補の平均値を物標の方位角θとして出力するように構成することができる。尚、物標の方位や相対距離は、前回に検出された物標の方位や相対距離を採用することが可能であり、方位演算部で今回検出された物標に対する方位候補の値を採用することも可能である。
【0089】
また、以上説明した位相モノパルス処理部による物標の方位算出処理は、upチャープ期間とdownチャープ期間の夫々で実行される。
【0090】
次に、上述したレーダ装置10の全体動作を、図9に示すフローチャートに基づいて説明する。図9に示すように、送信部から送信波が出力され、受信部で反射波が検出されると、CPU11によりスイッチ回路が制御されて、各素子アンテナ対に対するビート信号がCPU11に入力される。
【0091】
距離・速度演算部では、ビート信号のピークがupチャープ期間とdownチャープ期間の夫々でFFT演算が実行されて、スペクトラムのピークが抽出される(SA1)。
【0092】
抽出されたピークに対応して、上述した位相モノパルス処理部で物標の方位が算出される(SA2)。
【0093】
次に、距離・速度演算部では、upチャープ期間とdownチャープ期間の夫々のビート信号のピークが対応する周波数を特定するペアリング処理が実行される。具体的には、各期間のピークレベルの差が数dBの範囲に納まるピークの周波数fb1,fb2をペアリングする(SA3)。
【0094】
ペアリングされたピークの周波数fb1,fb2に基づいて物標の相対距離及び相対速度が算出される(SA4)。
【0095】
次に、検出された物標の方位、相対距離、相対速度に基づいて、トラッキング処理部により連続性の判定が実行される。連続性の判定とは、前回に検出された物標と今回検出された物標の同一性を判定する処理で、例えば、前回と今回の方位の差が所定角度以内であるときに連続性があると判定される(SA5)。
【0096】
連続性判定で、物標に連続性があると判定されると、方位、相対距離、相対速度の夫々の前回値と今回値が所定の重み係数で重み付け演算されて、物標の現在の方位、相対距離、相対速度の確定値が算出される。
【0097】
尚、トラッキング処理部は、距離・速度演算部等と同様、ROMに格納された制御プログラムを実行するCPU11により具現化される。
【0098】
次に、トラッキング処理部は、検出した物標の情報を外部に出力するか否かを決定するフィルタ処理を実行する(SA6)。
【0099】
フィルタ処理とは、例えば、ステップSA5で、連続性が所定回数確認された物標を抽出するというような処理で、物標の抽出条件は、連続性の判定回数以外に、位相モノパルス処理部で算出された方位に対応する元の方位候補、つまり、各素子アンテナ対で検出された位相差に対応する夫々の方位候補から、物標の横位置ばらつき(レーダ装置に正面方向と直交する方向のばらつき)が所定範囲内に納まっているか否か等、適宜設定される。
【0100】
フィルタ処理で抽出された物標が選択されて、上述のECU20に出力される(SA7)。
【0101】
以上、三本の受信用の素子アンテナ15を備えたレーダ装置について説明したが、受信用の素子アンテナの数は三本に限るものではなく、三本以上の複数本の素子アンテナを備えるものであってもよい。また、各素子アンテナの間隔は、上述した値に限定されるものではない。
【0102】
尚、上述の実施形態は、本発明の一例に過ぎず、本発明の作用効果を奏する範囲において各ブロックの具体的構成等は適宜変更設計できることは言うまでもない。
【図面の簡単な説明】
【0103】
【図1】本発明による車両制御システム及びレーダ装置のブロック構成図
【図2】レーダ装置の要部のブロック構成図
【図3】(a)は位相差マップの説明図、(b)は位相差マップを活用する場合の説明図
【図4】(a)は送信波と反射波の説明図、(b)はビート信号の説明図
【図5】第一の実施形態の位相モノパルス処理部で実行される処理の説明図
【図6】第二の実施形態の位相モノパルス処理部で実行される処理の説明図
【図7】第三の実施形態の位相モノパルス処理部で実行される処理の説明図
【図8】第四の実施形態の位相モノパルス処理部で実行される処理の説明図
【図9】レーダ装置の動作を説明するフローチャート
【図10】第一の実施形態の位相モノパルス処理部の動作を説明するフローチャート
【図11】第二の実施形態の位相モノパルス処理部の動作を説明するフローチャート
【図12】第三の実施形態の位相モノパルス処理部の動作を説明するフローチャート
【図13】第四の実施形態の位相モノパルス処理部の動作を説明するフローチャート
【符号の説明】
【0104】
10:レーダ装置
11:CPU(方位候補演算部、DBF演算部、方位演算部)
12:変調器
13:VCO
14:送信用アンテナ
15:受信用素子アンテナ
16:スイッチ回路
17:ミキサ
18:フィルタ
19:A/D変換器
M:位相差マップ
20:ECU
【特許請求の範囲】
【請求項1】
互いに間隔が異なる三本以上の素子アンテナのうち、任意の二本の素子アンテナ対で受信された反射波の位相差から物標の方位候補を複数求める処理を各素子アンテナ対に対して行なう方位候補演算部と、
前記方位候補演算部で算出された単一または複数の方位候補に対応するデジタル・ビーム・フォーミング演算を行なうDBF演算部と、
前記DBF演算部で算出されたDBF値に基づいて前記物標の方位を確定して出力する方位演算部と、
を備えているレーダ装置。
【請求項2】
前記方位候補演算部は、FFT演算された各素子アンテナの受信信号のスペクトラムがピークを示すBIN周波数に対応する位相差から物標の方位候補を複数求め、各素子アンテナ対に対応する方位候補の組合せの中から、ばらつきが最小となる組合せの方位候補の平均値を前記物標の方位候補として算出し、
前記方位演算部は、前記DBF演算部で算出されたDBF値が所定の閾値より大きいときに当該方位候補を確定した方位として出力する請求項1記載のレーダ装置。
【請求項3】
前記方位候補演算部は、FFT演算された各素子アンテナの受信信号のスペクトラムがピークを示すBIN周波数、及び、その前後のBIN周波数に対応する位相差から物標の方位候補を夫々複数求め、各素子アンテナ対に対応する方位候補の組合せの中から、ばらつきが最小となる組合せの方位候補の平均値を前記物標の方位候補としてBIN周波数毎に夫々算出し、
前記方位演算部は、前記DBF演算部で算出されたDBF値が最大となるBIN周波数に対応する方位候補を確定した方位として出力する請求項1記載のレーダ装置。
【請求項4】
前記方位候補演算部は、FFT演算された各素子アンテナの受信信号のスペクトラムがピークを示すBIN周波数に対応する位相差から物標の方位候補を複数求め、各素子アンテナ対に対応する方位候補の組合せの中から、ばらつきが最小となる組合せの方位候補を前記物標の方位候補として算出し、
前記方位演算部は、前記DBF演算部で算出されたDBF値に基づいて設定された重み係数で、前記方位候補を重み平均した値を確定した方位として出力する請求項1記載のレーダ装置。(閾値以下の重みを0/各DBF値を係数)
【請求項5】
前記方位候補演算部は、FFT演算された各素子アンテナの受信信号のスペクトラムがピークを示すBIN周波数に対応する位相差から各素子アンテナ対に対応する物標の方位候補を複数求めて出力し、
前記方位演算部は、各素子アンテナ対に対応する物標の方位候補の中から前記DBF演算部で算出されたDBF値が最大となる方位候補を抽出し、抽出した各素子アンテナ対に対応する物標の方位候補の平均値を確定した方位として出力する請求項1記載のレーダ装置。
【請求項6】
前記DBF演算部及び方位演算部は、前記物標の方位及び/または相対距離が所定範囲内にあるときに前記演算処理を実行するように設定されている請求項1から5の何れかに記載のレーダ装置。
【請求項7】
請求項1から6の何れかに記載のレーダ装置による物標の検出結果に基づいて車両を制御する制御部を備えている車両制御システム。
【請求項1】
互いに間隔が異なる三本以上の素子アンテナのうち、任意の二本の素子アンテナ対で受信された反射波の位相差から物標の方位候補を複数求める処理を各素子アンテナ対に対して行なう方位候補演算部と、
前記方位候補演算部で算出された単一または複数の方位候補に対応するデジタル・ビーム・フォーミング演算を行なうDBF演算部と、
前記DBF演算部で算出されたDBF値に基づいて前記物標の方位を確定して出力する方位演算部と、
を備えているレーダ装置。
【請求項2】
前記方位候補演算部は、FFT演算された各素子アンテナの受信信号のスペクトラムがピークを示すBIN周波数に対応する位相差から物標の方位候補を複数求め、各素子アンテナ対に対応する方位候補の組合せの中から、ばらつきが最小となる組合せの方位候補の平均値を前記物標の方位候補として算出し、
前記方位演算部は、前記DBF演算部で算出されたDBF値が所定の閾値より大きいときに当該方位候補を確定した方位として出力する請求項1記載のレーダ装置。
【請求項3】
前記方位候補演算部は、FFT演算された各素子アンテナの受信信号のスペクトラムがピークを示すBIN周波数、及び、その前後のBIN周波数に対応する位相差から物標の方位候補を夫々複数求め、各素子アンテナ対に対応する方位候補の組合せの中から、ばらつきが最小となる組合せの方位候補の平均値を前記物標の方位候補としてBIN周波数毎に夫々算出し、
前記方位演算部は、前記DBF演算部で算出されたDBF値が最大となるBIN周波数に対応する方位候補を確定した方位として出力する請求項1記載のレーダ装置。
【請求項4】
前記方位候補演算部は、FFT演算された各素子アンテナの受信信号のスペクトラムがピークを示すBIN周波数に対応する位相差から物標の方位候補を複数求め、各素子アンテナ対に対応する方位候補の組合せの中から、ばらつきが最小となる組合せの方位候補を前記物標の方位候補として算出し、
前記方位演算部は、前記DBF演算部で算出されたDBF値に基づいて設定された重み係数で、前記方位候補を重み平均した値を確定した方位として出力する請求項1記載のレーダ装置。(閾値以下の重みを0/各DBF値を係数)
【請求項5】
前記方位候補演算部は、FFT演算された各素子アンテナの受信信号のスペクトラムがピークを示すBIN周波数に対応する位相差から各素子アンテナ対に対応する物標の方位候補を複数求めて出力し、
前記方位演算部は、各素子アンテナ対に対応する物標の方位候補の中から前記DBF演算部で算出されたDBF値が最大となる方位候補を抽出し、抽出した各素子アンテナ対に対応する物標の方位候補の平均値を確定した方位として出力する請求項1記載のレーダ装置。
【請求項6】
前記DBF演算部及び方位演算部は、前記物標の方位及び/または相対距離が所定範囲内にあるときに前記演算処理を実行するように設定されている請求項1から5の何れかに記載のレーダ装置。
【請求項7】
請求項1から6の何れかに記載のレーダ装置による物標の検出結果に基づいて車両を制御する制御部を備えている車両制御システム。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【公開番号】特開2009−216470(P2009−216470A)
【公開日】平成21年9月24日(2009.9.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−58771(P2008−58771)
【出願日】平成20年3月7日(2008.3.7)
【出願人】(000237592)富士通テン株式会社 (3,383)
【出願人】(000003609)株式会社豊田中央研究所 (4,200)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成21年9月24日(2009.9.24)
【国際特許分類】
【出願日】平成20年3月7日(2008.3.7)
【出願人】(000237592)富士通テン株式会社 (3,383)
【出願人】(000003609)株式会社豊田中央研究所 (4,200)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】
[ Back to top ]