説明

ロータリエンコーダのシャフト支持構造

【課題】 機械的な許容回転数を向上させることができるロータリエンコーダのシャフト支持構造を提供する。
【解決手段】 このロータリエンコーダのシャフト支持構造は、ロータリエンコーダ1のハウジング4に中空のエンコーダシャフト2を転がり軸受3により回転支持したものである。転がり軸受3に封入するグリースは、40℃における基油粘度が50mm2 /s以下のグリースとする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、工作機械や、各種産業機器、電装機器などにおける回転軸の回転を検出するロータリエンコーダのシャフト支持構造に関する。
【背景技術】
【0002】
回転軸の回転検出に用いられるロータリエンコーダとして、回転軸に嵌合する中空のエンコーダシャフトを、転がり軸受を介してエンコーダハウジングに回転自在に支持する貫通シャフトタイプのものが知られている。検出形式としては、光学式が一般的である。
光学式のロータリエンコーダの場合、その許容回転数は、応答周波数に関わる電気的な限界によって決まる。それ以上の回転数で用いると、回転量の制御や測定といった本来の機能が果たせなくなる。しかしながら、しばしば、その許容回転数よりも高速に回転させることが必要な場合がある。
【0003】
ロータリエンコーダの機械的な許容回転数は、内蔵される転がり軸受の発熱によって決まる。転がり軸受が発熱し過ぎると、熱膨張によって回転スリット板の振れが大きくなるなどして、光学系の破損を招く恐れがある。小型のロータリーエンコーダであれば、内蔵される転がり軸受が小さく、高速回転しても発熱はさほど問題にならない。しかし、例えば軸直付けタイプのロータリエンコーダには、内輪内径が30mm以上の転がり軸受が内蔵されるものがある。そのような大型のロータリエンコーダの場合には、機械的な許容回転数が低い。
【0004】
このような貫通シャフトタイプのロータリエンコーダに用いられる転がり軸受として、軸受内に封入されるグリースが飛散してロータリエンコーダの光学系に付着するのを防止する目的で、各種の対策を施した次の各例が提案されている。
・転がり軸受の少なくとも一側部に設けるシールを、軸方向に並べた複数の密封板で構 成する(特許文献1)。
・転がり軸受の転動体を保持する保持器に、保持器の回転により軸受内部に気流を発生 させる複数の羽根を設ける(特許文献2)。
・軸受内に封入するグリースの組成について工夫を施す(特許文献3)。
【特許文献1】特開2006−300161号公報
【特許文献2】特開2006−322594号公報
【特許文献2】特開2004−26941号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、上記した各提案例には、貫通シャフトタイプのロータリエンコーダにおいて、機械的な許容回転数を向上させる対策は開示されておらず、改良の余地がある。
【0006】
この発明の目的は、機械的な許容回転数を向上させることができるロータリエンコーダのシャフト支持構造を提供することである。特に、軸直付けタイプなどの大型ロータリエンコーダにおいても、機械的な許容回転数を向上させることにより、高速回転下で使用可能なロータリエンコーダのシャフト構造を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
この発明のロータリエンコーダのシャフト支持構造では、ロータリエンコーダのハウジングに中空のエンコーダシャフトを転がり軸受により回転支持したシャフト支持構造において、前記転がり軸受に、40℃における基油粘度が50mm2 /s以下のグリースが封入されていることを特徴とする。
このように、転がり軸受に封入するグリースを、基油粘度が40℃で50mm2 /s以下と低いものにすることで、転がり軸受の摩擦トルクを低減できる。これにより、高速回転時の発熱を抑制することができ、ロータリエンコーダの機械的な許容回転数を向上させることができる。
【0008】
この発明において、前記グリースの封入量が空間体積比で20%以下であっても良い。上記空間体積比は、内外輪間のグリースの封入可能な空間の容積に対するグリースの封入量の割合を言う。グリースの封入可能な空間は、一般的には、内外輪間の両側のシール間の空間のうち、転動体および保持器を除いた部分である。
グリースの封入量を20%以下と少なくすると、攪拌抵抗による発熱が抑制されて、高速回転時の発熱抑制効果がさらに高くなり、ロータリエンコーダの機械的な許容回転数をさらに向上させることができる。
【0009】
この発明において、前記転がり軸受の転動体がセラミックス製であっても良い。転動体をセラミックス製とすると、鋼製のもの比べて軽量にできる。転動体を軽量化すれば、転動体に作用する慣性力が小さくなり、転動体が外輪に与える負荷が小さくなるので、摩擦トルクが低減できる。これにより、発熱抑制効果がさらに高くなり、ロータリエンコーダの機械的な許容回転数をさらに向上させることができる。
【0010】
転動体をセラミックス製とする場合、例えば、窒化ケイ素であっても良い。窒化ケイ素は、セラミックス製の転動体の材質として、種々の面で優れた特性を有する。
【0011】
この発明において、前記転がり軸受はシールを有し、そのシールの構造が内輪または外輪のどちらか一方と非接触であっても良い。転がり軸受のシールが接触式であると発熱源となるが、非接触式とすることで、発熱が抑制され、ロータリエンコーダの機械的な許容回転数をさらに向上させることができる。
【0012】
非接触シールにはゴム製と鉄板製とがあるが、ゴム製の方がより密封性が良く、グリースの飛散を抑制する点で効果的である。
【発明の効果】
【0013】
この発明は、ロータリエンコーダのハウジングに中空のエンコーダシャフトを転がり軸受により回転支持したロータリエンコーダのシャフト支持構造において、前記転がり軸受に封入するグリースを、基油粘度が40℃で50mm2 /s以下と低いものとしたため、内蔵される転がり軸受の摩擦トルクを低減でき、ロータリエンコーダの機械的な許容回転数を向上させることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
この発明の第1の実施形態を図1および図2と共に説明する。図1は、この実施形態のシャフト支持構造を適用したロータリエンコーダの断面図を示す。このロータリエンコーダ1は、中空のエンコーダシャフト2を有する貫通シャフトタイプの光学式エンコーダであり、前記エンコーダシャフト2は転がり軸受3を介してエンコーダハウジング4に回転自在に支持される。前記エンコーダシャフト2は、回転検出対象となる工作機械、各種産業機器、電装機器などにおける回転軸等を嵌合させるように、中空とされている。
【0015】
エンコーダハウジング4は、底板部および内筒部を有する断面L字状の環体とされたハウジングフレーム5と、天板部および外筒部を有する断面L字状の筒体とされたカバー6とでなる。カバー6の円筒部6aの一端がハウジングフレーム5の外周に嵌合し、円筒部6aの他端から内径側に向けて前記エンコーダシャフト2の外周近傍までフランジ部6bが延びている。ハウジングフレーム5の内周面とエンコーダシャフト2の外周面との間に、軸方向に並ぶ2列の転がり軸受3が介在する。
エンコーダシャフト2の外周の前記カバー6で覆われる部位には、環状のスリット板取付台7が嵌合しており、このスリット板取付台7の外周に円板状の回転スリット板9がエンコーダシャフト2と同心に取付けられている。回転スリット板9は、その円周方向の一部に、または全周に複数個が並ぶように、スリット9aが設けられている。
【0016】
カバー6で覆われる空間内には、受光素子11等を実装した回路基板10が、前記回転スリット板9と平行に並ぶように配置される。この回路基板10は、軸方向に延びる複数の支柱12を介してハウジングフレーム5に固定されている。受光素子11は、回路基板10の前記回転スリット板9と対向する片面に取付けられ、受光素子11の取付面とは反対側の面に、波形整形回路等を構成する電子部品13が実装されている。また、ハウジングフレーム5には、前記回転スリット板9を介して受光素子11と軸方向に対向する位置に、受光素子11と光軸を合わせて発光素子14が設置されている。発光素子14、回転スリット板9、および受光素子11によって、このロータリエンコーダ1の光学式センサ部8が構成される。これら回転スリット板9、回路基板10、受光素子11、発光素子14は、前記カバー6によって外界と遮断するように覆われる。
【0017】
このロータリエンコーダ1では、エンコーダシャフト2に嵌合するモータ等の回転軸の回転に伴い、エンコーダシャフト2と一体に回転スリット板9が回転し、その回転を光学式センサ部8で検出する。すなわち、光学式センサ部8では、回転する回転スリット板9の各スリット9aが発光素子14と受光素子11の光軸上を通過する毎に、発光素子14からの放射光を受光素子11で受光する。その検出信号を回路基板10に実装した波形整形回路等で処理して、回転スリット板9の回転すなわちエンコーダシャフト2の回転を検出する。
【0018】
図2は、このロータリエンコーダ1に組み込まれる転がり軸受3の部分拡大断面図を示す。この場合の転がり軸受3は深溝玉軸受からなり、内輪21、外輪22、およびこれら内外輪21,22の間に介在した複数の転動体23を備え、内輪21の外形面および外輪22の内径面にそれぞれ転動体23の軌道面21a,22aが形成されている。転動体23は保持器29で保持されている。転動体23はセラミックス製とされ、具体的な材質として窒化ケイ素が用いられている。内外輪21,22は、鋼製である。
【0019】
内輪21と外輪22の間の環状空間の両端部は非接触シール24で密封され、両側の非接触シール24間で上記環状空間にグリース(図示せず)が封入されている。前記非接触シール24はゴム製であり、リング状の芯金25と、この芯金25に固着されたゴム部材26とで構成される。これら非接触シール24は、その外径側端を外輪22の内径面に形成されたシール取付溝27に嵌合させることで、外輪22に取付けられる。非接触シール24の内径側端は、内輪21の外径面に形成されたシール溝28の溝内面に近接し、溝内面との間にシール隙間を構成している。
【0020】
転がり軸受3に封入するグリースには、摩擦トルクを低減するために、基油粘度が低いものが用いられる。具体的には、40℃における基油粘度が50mm2/s以下のグリースが用いられる。封入グリースの40℃における基油粘度は、好ましくは20mm2/s以上である。
また、このグリースの封入量は、軸受内の空間体積比で20%以下とされている。この空間体積比は、内外輪21,22間の上記環状空間における両側の非接触シール24,24間の部分のうち、転動体23および保持器29を除いた空間の容積に対する封入グリース体積の割合である。
【0021】
この構成のロータリエンコーダのシャフト支持構造によると、転がり軸受3に封入するグリースを、基油粘度が40℃で50mm2 /s以下と低いものにしたため、転がり軸受3の摩擦トルクを低減できる。これにより、高速回転時の発熱を抑制することができ、ロータリエンコーダ1の機械的な許容回転数を向上させることができる。グリースの封入量は20%以下と少なくしたため、攪拌抵抗による発熱が抑制され、高速回転時の発熱抑制効果がさらに高くなる。
また、転動体23をセラミックス製としたため、その軽量化により、転動体23に作用する慣性力が小さくなり、転動体23が外輪22に与える負荷が小さくなる。そのため、摩擦トルクが低減でき、これにより、発熱抑制効果がさらに高くなる。これによっても、ロータリエンコーダ1の機械的な許容回転数をさらに向上させることができる。転動体23は、セラミックスのうち窒化ケイ素を用いたため、種々の面で優れた特性を有する。
【0022】
転がり軸受3のシールは、接触式であると発熱源となるが、非接触式としたため、発熱が抑制され、ロータリエンコーダの機械的な許容回転数をさらに向上させることができる。非接触式シール24として、この実施形態のようにゴム製とした場合は、鉄板製よりも密封性が良く、グリースの飛散を抑制する点で効果的である。
【0023】
図3は、図1のロータリエンコーダ1に用いる転がり軸受3の他の例を示す。この例の転がり軸受3Aは、図2の転がり軸受3において、両端部を密封する非接触シール24Aとして鉄板製の非接触シールを用いており、その他の構成は図2の例と同様である。
【0024】
解析結果および試験結果を説明する。まず、転がり軸受の摩擦トルクの計算による解析例を示す。解析対象の転がり軸受は、JIS規格の6814ZZ(内輪21の内径を70mm、鉄板製の非接触シール)であり、図3に示す転がり軸受3Aにおいて、上記寸法としたものである。
この転がり軸受3Aに、100〜500Nのアキシアル荷重を与えて2000rpmで回転させる状況を想定し、アキシャル荷重と摩擦トルクの関係の計算を行なった。また、このときの摩擦トルクに及ぼすグリース粘度と転動体比重の影響を計算した。なお、この計算では、潤滑温度を40℃、接触角を20°と仮定した。また、転動体23と保持器29の摩擦は無視し、潤滑は正常になされていると仮定した。
【0025】
図4に、アキシャル荷重と摩擦トルクの関係の計算を行なった結果をグラフで示す。同図において、(1) はグリース基油の粘度が130mm2 /sで、転動体23の比重が7800kg/m3 の場合(鋼製の転動体相当)の計算結果のグラフを示す。(2) はグリース基油の粘度が22.5mm2 /sで、転動体23の比重が7800kg/m3 (鋼製の転動体相当)の場合を、(3) はグリース基油の粘度が130mm2 /sで、転動体23の比重が3200kg/m3 の場合(窒化ケイ素製の転動体相当)を、(4) はグリース基油の粘度が22.5mm2 /sで、転動体23の比重が3200kg/m3 の場合(窒化ケイ素製の転動体相当)の計算結果のグラフをそれぞれ示す。
【0026】
上記解析に使用した上記各粘度のグリース、および後述の試験に使用したグリースは、商品名で示すと次のものである。
粘度130mm2 /sのグリース:昭和シェル石油 アルバニアグリースS2
粘度22.5mm2 /sのグリース:昭和シェル石油 アルバニアグリースHVQ
粘度46.0mm2 /sのグリース:共同油脂 マルテンプSB−M
【0027】
図4のグラフは、40℃におけるグリース基油粘度が130mm2 /sの場合((1) ,(3) )に比べて、グリース基油粘度が22.5mm2 /sの場合((2),(4) )では摩擦トルクが格段に小さくなることを示している。
さらに、転動体比重が7800kg/m3 (鋼製の転動体相当)に対し、それが3200kg/m3 の場合(窒化ケイ素製の転動体相当)では、摩擦トルクが幾分小さくなることを示している。
【0028】
次に、実際の試験例を説明する。試験対象の転がり軸受は、JIS規格の6814LLB(内輪21の内径を70mm、ゴム製の非接触シール)であり、図2に示す転がり軸受3において、上記寸法としたものである。
この試験対象の軸受を回転させて、回転に伴う温度上昇を調べた。この場合、実施例となる試験対象軸受として、グリースに、40℃における基油粘度が46mm2 /sのグリースを空間体積比で31%封入したものと、16%封入したものの2種類を用意し、従来品の例として、40℃における基油粘度が130mm2 /sのグリースを空間体積比で31%封入したもの1種類を用意した。いずれも起動トルクが0.05Nmとなるように予圧を調整して評価した。
【0029】
その結果、従来品を2000rpmで回転させたところ、定常状態の外輪温度が80℃を超えたのに対して、上記実施例となる2種類の例の場合、3000rpmで回転させても定常状態の外輪温度はさほど高くならず、グリース封入量が31%のもので約48℃、グリース封入量が16%のもので約43℃であった。
【0030】
上記試験結果および解析結果に示すように、封入グリースとして、40℃における基油粘度を50mm2 /s以下とした転がり軸受3,3Aによると、摩擦トルクを低減できて、高速回転時の発熱を抑制することができる。したがって、この転がり軸受3,3Aを用いたロータリエンコーダ1の機械的な許容回転数を向上させることができる。
【0031】
なお、上記転がり軸受3,3Aに封入するグリースは、試験例に用いたものに限らず、基油粘度が50mm2 /s以下と低ければ、どのような種類のグリースを用いても良いが、基油粘度が20mm2 /s以下では離油して飛散しやすくなり、また、油膜が形成されにくくなるため、金属接触が生じる恐れがあるので、好ましくは20mm2/s以上のものを用いる。好ましくは、高速回転しても飛散しない、保油性のある増ちょう剤入りのグリースが良い。粘度が低いグリースを用いていて、より飛散し易くなっているためである。
【図面の簡単な説明】
【0032】
【図1】この発明の一実施形態にかかるシャフト支持構造を適用したロータリエンコーダの断面図である。
【図2】同ロータリエンコーダに組み込まれる転がり軸受の部分拡大断面図である。
【図3】同ロータリエンコーダに組み込まれる他の転がり軸受の例を示す部分拡大断面図である。
【図4】図3の転がり軸受に基づきアキシャル荷重と摩擦トルクの関係の計算を行なった結果を示すグラフである。
【符号の説明】
【0033】
1…ロータリエンコーダ
2…エンコーダシャフト
3…転がり軸受
4…エンコーダハウジング
8…光学式センサ部
21…内輪
22…外輪
23…転動体
24…非接触シール

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ロータリエンコーダのハウジングに中空のエンコーダシャフトを転がり軸受により回転支持した、ロータリエンコーダのシャフト支持構造において、前記転がり軸受は、40℃における基油粘度が50mm2 /s以下のグリースが封入されていることを特徴とするロータリエンコーダのシャフト支持構造。
【請求項2】
請求項1において、前記グリースの封入量が空間体積比で20%以下であるロータリエンコーダのシャフト支持構造。
【請求項3】
請求項1または請求項2において、前記転がり軸受の転動体がセラミックス製であるロータリエンコーダのシャフト支持構造。
【請求項4】
請求項3において、前記転動体の材質が窒化ケイ素であるロータリエンコーダのシャフト支持構造。
【請求項5】
請求項1ないし請求項4のいずれか1項において、前記転がり軸受はシールを有し、このシールが、内輪または外輪のどちらか一方と非接触であるロータリエンコーダのシャフト支持構造。
【請求項6】
請求項5において、前記非接触のシールがゴム製であるロータリエンコーダのシャフト支持構造。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2009−63109(P2009−63109A)
【公開日】平成21年3月26日(2009.3.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−232181(P2007−232181)
【出願日】平成19年9月7日(2007.9.7)
【出願人】(000102692)NTN株式会社 (9,006)
【Fターム(参考)】