説明

ワーク搬送システム

【課題】クリーン環境下で用いられる場合にもシステム全体を効率よく稼働させることが可能なワーク搬送システムを提供する。
【解決手段】ワーク搬送システムA1は、直線状に配列された3つのワーク収納室1(1A〜1C)と、ワーク収納室1に隣接する搬送室2と、搬送室2に対し、ワーク収納室1とは反対側に隣接するワーク処理室3と、ワーク収納室1とワーク処理室3との間でワークWを搬送するための搬送用ロボット4A,4Bと、を備える。搬送室2には空間分離手段6A,6Bが設けられている。搬送用ロボット4A,4Bにより並行して2系統でのワークWの搬送処理を行うことができる。クリーン環境下で使用する場合、一方の搬送用ロボット4が故障しても、搬送室2内を分離することにより、他方の搬送用ロボット4によるクリーン環境下でのワークWの搬送処理を継続しつつ、故障した搬送用ロボット4の交換等を行うことができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、半導体製造等においてウエハ等の薄板状のワークを搬送するためのワーク搬送システムに関し、より詳しくは、ワーク収納室とワーク処理室との間でワーク搬送用ロボットによりワークの搬送を行うように構成されたワーク搬送システムに関する。
【背景技術】
【0002】
半導体製造の分野において、ウエハ等のワークを搬送する際に搬送用のロボットが用いられており、たとえば、ウエハが収納された容器(ワーク収納室)と、プロセスチャンバ(ワーク処理室)との間でワーク搬送用ロボットによりワークの搬送を行うように構成されたワーク搬送システムが知られている。
【0003】
図19に従来のワーク搬送システムの一例を示す。同図に示されたワーク搬送システムBは、2つのワーク収納室91と、搬送室92と、ワーク処理室93と、ワーク搬送用ロボット94とを備えている。ワーク収納室91は、たとえば、複数のワークWを保持したカセットを収容可能に構成されており、直線状に配列される。搬送室92は、複数のワーク収納室91に隣接して設けられており、この搬送室92内に1台のワーク搬送用ロボット94が配置される。ワーク搬送用ロボット94は、たとえば2段のアームおよびワーク保持用のハンドが互いに水平面内で回動自在に連結された水平多関節ロボットにより構成される。ワーク処理室93は、搬送室92に対してワーク収納室91とは反対側に隣接して設けられている。ワーク処理室93においては、加熱処理、加工処理、あるいは検査処理などの処理がワークWに対してなされる。ワーク搬送用ロボット94は、すべてのワーク収納室91およびワーク処理室93に対して、ワークWの搬出入が可能とされている。
【0004】
図19に示されたワーク搬送システムBにおけるワーク搬送処理の一例について説明する。まず、2つ並んだワーク処理室91のうちの一方のワーク収納室91から処理前のワークWを搬出し(図20参照)、当該ワークWをワーク処理室93に搬入する。図21は、ワーク処理室93においてワークWの受け渡しがなされる状態を示す。ワーク処理室93ではワークWに対して適宜処理がなされる。次いで、処理後のワークWをワーク処理室93から搬出し、他方のワーク収納室91に搬入する。このようなワークWの搬送が繰り返される。上記構成のワーク搬送システムBは、クリーン環境下で使用されることが多い。
【0005】
ワーク搬送用ロボット94は、ワーク搬送時の搬送経路が短くなるように、ワーク収納室91およびワーク処理室93の中間に配置されている。すなわち、ワーク搬送用ロボット94は、ワーク処理室93に対しては正対し、ワーク収納室91に対してはこれらの配列方向X1−X2における中央に位置するように配置される。搬送室92は、ワーク搬送用ロボット94との干渉を防止するために、ワーク収納室91とワーク処理室93とが離間する方向Y1−Y2の寸法が比較的に大きくされている。ワーク搬送用ロボット94は、方向Y1−Y2において対向する側壁92a,92bから所定の距離を隔てられ、当該方向Y1−Y2における中央に位置している。なお、ワーク収納室91の数が図19に示された2つの場合、あるいは3つの場合、ワーク搬送用ロボット94は、上記のようにワーク収納室91およびワーク処理室93の中間に配置されるが、ワーク収納室91の数が4つ以上の場合、ワーク搬送用ロボット94は、たとえばワーク収納室91の配列方向X1−X2(搬送室92の長手方向)に沿ってスライド移動可能に設けられる。
【0006】
半導体製造においては、生産効率の改善が要請されている。上記のようなワーク搬送システムBにおいては、ワーク搬送経路が短くなるように、搬送室、ワーク処理室、ワーク収納室、およびワーク搬送用ロボットの配置が工夫されている。ワーク搬送経路が短縮されると、ワークの単位数量あたりの搬送処理に係る時間が短縮され、その結果、生産効率を改善することができる。
【0007】
しかしながら、従来のワーク搬送システムBにおいては、予測が困難な部品故障などに起因してワーク搬送用ロボット94が停止した場合、ワーク搬送システムBの稼働率が低下することになり、生産効率の低下を招いてしまう。また、ワーク搬送用ロボット94が故障した場合、ロボットの交換等の復旧作業が必要となるが、ワーク搬送システムBがクリーン環境下で使用される場合には、ロボット94の復旧作業の際に搬送室92等のクリーン度を一旦低下させ、その後に再びクリーン環境に戻す作業も必要になる。このことは、結果として、ワーク搬送システムBの稼働率低下を助長することになる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2003−188231号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、このような事情のもとで考え出されたものであって、ワーク収納室とワーク処理室との間でワーク搬送用ロボットによりワークの搬送を行うように構成されたワーク搬送システムにおいて、クリーン環境下で用いられる場合にもシステム全体を効率よく稼働させることをその課題としている。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記の課題を解決するため、本発明では、次の技術的手段を採用した。
【0011】
本発明によって提供されるワーク搬送システムは、直線状に配列された3つ以上5つ以下のワーク収納室と、これらワーク収納室に隣接する搬送室と、この搬送室に対し、上記ワーク収納室とは反対側に隣接するワーク処理室と、上記ワーク収納室と上記ワーク処理室との間でワークを搬送するために上記搬送室に配置された2台の第1および第2のワーク搬送用ロボットと、を備え、上記第1および第2のワーク搬送用ロボットは、上記ワーク収納室の配列方向について上記ワーク処理室を挟むように離間し、かつ、上記ワーク収納室の配列方向における中央から一方に偏倚した第1のワーク収納室と、上記ワーク収納室の配列方向における中央から他方に偏倚した第2のワーク収納室とに対応して配置され、上記第1のワーク搬送用ロボットは、上記第1のワーク収納室と、この第1のワーク収納室に対して上記ワーク収納室の配列方向中央側に隣接するワーク収納室と、上記ワーク処理室と、に対してワークの搬送が可能であり、上記第2のワーク搬送用ロボットは、上記第2のワーク収納室と、この第2のワーク収納室に対して上記ワーク収納室の配列方向中央側に隣接するワーク収納室と、上記ワーク処理室と、に対してワークの搬送が可能であり、上記搬送室には、この搬送室内の空間を、上記第1のワーク収納室に対応する第1のロボット周辺領域と、この第1のロボット周辺領域に対して上記ワーク収納室の配列方向中央側に隣接する中央領域とに分離可能な第1の空間分離手段、および上記第2のワーク収納室に対応する第2のロボット周辺領域と上記中央領域とに分離可能な第2の空間分離手段が設けられていることを特徴としている。
【0012】
好ましい実施の形態においては、上記第1および第2のロボット周辺領域には、それぞれ、クリーン環境を形成するためのクリーン環境形成手段が設けられている。
【0013】
好ましい実施の形態においては、上記クリーン環境形成手段は、上記搬送室の上部から当該搬送室内に清浄空気を供給する清浄空気供給部と、上記搬送室の下部を通じて当該搬送室内の気体を外部に排出する排気部と、を備える。
【0014】
好ましい実施の形態においては、上記搬送室は、上記ワーク収納室と上記ワーク処理室とが離間する方向において対向する第1および第2の側壁と、上記ワーク収納室の配列方向において対向する第3および第4の側壁とを有する略直方体形状とされており、上記第1および第2の空間分離手段は、それぞれ、上記第1および第2の側壁に設けられ、上下方向に延びる一対のガイドレールと、上記ガイドレールの上端近傍に設けられた巻取り軸と、上記巻取り軸に巻回されるとともにこの巻取り軸の回転により上記ガイドレールに沿って上下にスライド移動させられる遮蔽部材と、上記巻取り軸を回転駆動させる駆動部と、を備える。
【0015】
好ましい実施の形態においては、上記第1および第2の空間分離手段は、上記ガイドレールと上記遮蔽部材との間を密閉するシール部をさらに備える。
【0016】
好ましい実施の形態においては、上記搬送室の上記第3および第4の側壁には、それぞれ、開閉可能なドアが設けられている。
【0017】
好ましい実施の形態においては、上記各ワーク搬送用ロボットは、上記搬送室に対して固定される固定ベースと、昇降ベースと、この昇降ベースを上記固定ベースに対して昇降させる昇降機構と、一端が上記昇降ベースに対して第1の垂直軸周りに回動可能に支持された第1のアームと、上記第1のアームを上記第1の垂直軸周りに回動させる第1アーム駆動機構と、一端がこの第1のアームの他端に対して第2の垂直軸周りに回動可能に支持された第2のアームと、この第2のアームを上記第2の垂直軸周りに回動させる第2アーム駆動機構と、端部が上記第2のアームの他端に対して第3の垂直軸周りに回動可能に支持されたハンドと、このハンドを上記第3の垂直軸周りに回動させるハンド駆動機構と、を備える。
【0018】
本発明に係るワーク搬送システムによれば、2台のワーク搬送用ロボットを備え、これらワーク搬送用ロボットにより、ワーク収納室とワーク処理室との間で、並行して2系統でのワークの搬送処理を行うことができる。したがって、上記構成のワーク搬送システムによれば、より高いスループットを実現することができ、本システム全体を効率よく稼働させることができる。
【0019】
また、上記構成のワーク搬送システムにおいては、搬送室内の空間を分離する第1および第2の空間分離手段を備える。このため、本システムの稼働中に第1の搬送用ロボットが故障した場合には、第1の空間分離手段を機能させることにより、第1のロボット周辺領域と中央領域とを分離することができる。また、第2の搬送用ロボットが故障した場合には、第2の空間分離手段を機能させることにより、第2のロボット周辺領域と中央領域とを分離することができる。したがって、本システムをクリーン環境下で使用する場合、2台のうち一方のワーク搬送用ロボットが故障しても、これに対応するように搬送室内の空間を分離することにより、他方のワーク搬送用ロボットによるクリーン環境下でのワークの搬送処理を継続しつつ、故障したワーク搬送用ロボットの交換等を行うことができる。このことは、本システム全体を効率よく稼働するのに資する。
【0020】
本発明のその他の特徴および利点は、添付図面を参照して以下に行う詳細な説明によって、より明らかとなろう。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】本発明に係るワーク搬送システムの全体構成を示す平面図である。
【図2】図1に示すワーク搬送システムの縦断面図である。
【図3】ワーク搬送用ロボットの側面図である。
【図4】ワーク搬送用ロボットの制御系の概略構成例を示すブロック図である。
【図5】空間分離手段の部分拡大横断面図である。
【図6】ワーク搬送用ロボットの動作を説明するための平面図である。
【図7】ワーク搬送用ロボットの動作を説明するための平面図である。
【図8】ワーク搬送用ロボットの動作を説明するための平面図である。
【図9】ワーク搬送用ロボットの動作を説明するための平面図である。
【図10】ワーク搬送用ロボットの動作を説明するための平面図である。
【図11】図1に示すワーク搬送システムによるワーク搬送の手順を説明するための平面図である。
【図12】図1に示すワーク搬送システムによるワーク搬送の手順を説明するための平面図である。
【図13】ワーク搬送用ロボットの復旧作業の手順を説明するための平面図である。
【図14】ワーク搬送用ロボットの復旧作業の手順を説明するための平面図である。
【図15】ワーク搬送用ロボットの復旧作業の手順を説明するための縦断面図である。
【図16】ワーク搬送用ロボットの復旧作業の手順を説明するための縦断面図である。
【図17】本発明に係るワーク搬送システムの他の例を示す平面図である。
【図18】本発明に係るワーク搬送システムの他の例を示す平面図である。
【図19】従来のワーク搬送システムの一例を示す平面図である。
【図20】従来のワーク搬送システムの一例を示す平面図である。
【図21】従来のワーク搬送システムの一例を示す平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、本発明の好ましい実施形態につき、図面を参照しつつ具体的に説明する。
【0023】
図1は、本発明に係るワーク搬送システムの一例を示している。本実施形態のワーク搬送システムA1は、3つのワーク収納室1(以下、適宜、ワーク収納室1A,1B,1Cという)と、搬送室2と、ワーク処理室3と、2台の搬送用ロボット4(以下、適宜、搬送用ロボット4A,4Bという)と、これら搬送用ロボット4の動作を制御するコントローラ5(図示略)と、空間分離手段6A,6Bとを備え、たとえばウエハ等の薄板状のワークWの搬送を行うように構成されたものである。本実施形態では、ワーク搬送システムA1は、たとえばクラス1〜クラス100程度のクリーン環境下で使用される。
【0024】
ワーク収納室1は、たとえば複数のワークWを保持したカセットを収納可能に構成されており、一定ピッチで直線状に配列されている。ワーク収納室1の適所には、上記カセットの入れ替え時に使用する開閉式のシャッタ(図示略)が設けられている。また、ワーク収納室1と搬送室2との間には、開閉式のシャッタ(図示略)が設けられている。当該シャッタは、上記カセットの入れ替え時、あるいは搬送用ロボット4によるワークWの搬出入が行われない時には、閉止される。
【0025】
搬送室2は、上記3つのワーク収納室1に隣接して設けられている。搬送室2は、ワーク収納室1とワーク処理室3とが離間する方向Y1−Y2において対向する側壁2a,2bと、ワーク収納室1の配列方向X1−X2において対向する側壁2c,2dとを有し、上記配列方向X1−X2において長手状の略直方体形状とされている。側壁2c,2dには、開閉可能なドア2e,2fが設けられている。
【0026】
図1および図2に表れているように、搬送室2の天井には、3つのファンフィルタユニット20A,20B,20Cが設けられている。ファンフィルタユニット20A,20B,20Cは、清浄空気を搬送室2内に供給するためのものであり、図中右側のファンフィルタユニット20Aは、右側のワーク収納室1Aに対応して位置し、図中中央のファンフィルタユニット20Bは、中央のワーク収納室1Bに対応して位置し、図中左側のファンフィルタユニット20Cは、左側のワーク収納室1Cに対応して位置している。ファンフィルタユニット20A,20B,20Cは、それぞれ、独立して電源のオン−オフ切換および風量調節が可能とされている。
【0027】
搬送室2の床は、多数の貫通孔21aが床面に形成された通気床21(排気部)とされている。通気床21は、搬送室2の床全域に設けられている。また、搬送室2の下方には、ダクト22が設けられており、ファンフィルタユニット20A,20B,20Cから清浄空気が供給されると、搬送室2内ではダウンフローが生じ、搬送室2内の空気は、通気床21およびダクト22を通じて外部に排出される。
【0028】
ワーク処理室3は、加熱処理、加工処理あるいは検査処理などの処理をワークWに対して行うためのものである。ワーク処理室3は、搬送室2に対して、ワーク収納室1とは反対側に隣接して設けられている。ワーク処理室3は、ワーク収納室1の配列方向X1−X2における中央位置に設けられている。なお、ワーク処理室3と搬送室2との間には、必要に応じて開閉式のシャッタ(図示略)が設けられる。
【0029】
搬送用ロボット4は、ワーク収納室1とワーク処理室3との間でワークWの搬送を行うためのものであり、搬送室2内に配置されている。図1および図3に表れているように、搬送用ロボット4は、搬送室2の下部に対して台座を介して固定される固定ベース40と、昇降ベース41と、長手状の下段アーム42および上段アーム43と、ハンド44とを備えている。
【0030】
昇降ベース41は、固定ベース40に対して昇降可能に支持されている。具体的には、たとえば、固定ベース40の内部に図示しない上下方向の直線ガイドレールが設けられ、昇降ベース41に設けられた図示しないスライダが上記ガイドレールに対して上下方向にスライド移動可能に支持されている。また、固定ベース40の内部には図示しないネジ軸が回転自在に支持され、昇降ベース41には、上記ネジ軸に螺合するナットが設けられている。固定ベース40の下部には図示しない昇降用のサーボモータが設けられ、この昇降用モータの出力軸に設けられた出力プーリと、上記ネジ軸に設けられたプーリとの間にベルトが掛け回されている。かかる構成により、上記昇降用モータが駆動すると、上記ネジ軸が回転させられ、当該ネジ軸の回転により、昇降ベース41が昇降させられる。このようにして、昇降ベース41を固定ベース40に対して昇降させる昇降機構が構成される。
【0031】
下段アーム42は、たとえば中空状の略四角柱形状とされており、長手方向が水平となる姿勢で昇降ベース41に支持されている。たとえば、下段アーム42の基端42aには、図示しない垂直下向きの軸部が設けられており、当該軸部が昇降ベース41の上部に形成された孔に嵌挿された状態で垂直軸O1周りに回動可能に支持されている。また、昇降ベース41には図示しない下段アーム駆動用のサーボモータが設けられ、この下段アーム用モータの出力軸に設けられた出力プーリと、下段アーム42の上記軸部に設けられた従動プーリとの間にベルトが掛け回されている。かかる構成により、上記下段アーム用モータが駆動すると、下段アーム42は、垂直軸O1周りに回動させられる。このようにして、下段アーム42を垂直軸O1周りに回動させる下段アーム駆動機構が構成される。なお、本実施形態では、垂直軸O1は、固定ベース40の中心に対して所定の距離L1だけ偏倚した位置に設定される。
【0032】
上段アーム43は、たとえば中空状の略四角柱形状とされており、長手方向が水平となる姿勢で下段アーム42に支持されている。たとえば、上段アーム43の基端43aには、図示しない垂直下向きの軸部が設けられており、当該軸部が下段アーム42の先端上部に形成された孔に嵌挿された状態で垂直軸O2周りに回動可能に支持されている。また、昇降ベース41には図示しない上段アーム駆動用のサーボモータ(上段アーム用モータ)が設けられ、下段アーム42の軸部に対して相対回転可能に上段アーム用中継軸が設けられている。そして、上段アーム用モータの出力軸に設けられた出力プーリと上段アーム用中継軸の下端に設けられた下位中継プーリとの間、および上段アーム用中継軸の上端に設けられた上位中継プーリと上段アーム43の上記軸部に設けられた従動プーリとの間、にそれぞれベルトが掛け回されている。かかる構成により、上段アーム用モータが駆動すると、上段アーム43は、垂直軸O2周りに回動させられる。このようにして、上段アーム43を垂直軸O2周りに回動させる上段アーム駆動機構が構成される。
【0033】
ハンド44は、先端部が二股のフォーク状とされており、中心線が水平となる姿勢で上段アーム43に支持されている。ハンド44には、たとえばウエハなどの所定サイズの円形のワークWを載置保持するための部分円状の凹段部44bが形成されている。たとえば、ハンド44の基端44aには、図示しない垂直下向きの軸部が設けられており、当該軸部が上段アーム43の先端上部に形成された孔に嵌挿された状態で垂直軸O3周りに回動可能に支持されている。また、昇降ベース41には図示しないハンド駆動用のサーボモータ(ハンド用モータ)が設けられ、下段アーム42の軸部に対して相対回転可能に第1中継軸が設けられ、上段アーム43の軸部に対して相対回転可能に第2中継軸が設けられている。そして、ハンド用モータの出力軸に設けられた出力プーリと第1中継軸の下端に設けられた下位第1中継プーリとの間、第1中継軸の上端に設けられた上位第1中継プーリと第2中継軸の下端に設けられた下位第2中継プーリとの間、および第2中継軸の上端に設けられた上位第2中継プーリとハンド44の上記軸部に設けられた従動プーリとの間、にそれぞれベルトが掛け回されている。かかる構成により、ハンド用モータが駆動すると、ハンド44は、垂直軸O3周りに回動させられる。このようにして、ハンド44を垂直軸O3周りに回動させるハンド駆動機構が構成される。
【0034】
昇降ベース41、アーム42,43、およびハンド44の支持構造、ならびに昇降機構、各アーム駆動機構、およびハンド駆動機構については、詳細な図示説明は省略したが、たとえば特開2003−188231号公報記載の構造と同様の構造によって実現することができる。なお、各アーム駆動機構、およびハンド駆動機構の一例として、昇降ベース41にそれぞれの駆動用モータを設け、プーリ、中継軸、およびベルトの連係によりアーム42,43、およびハンド44が回動させられる場合について説明したが、これに代えて、アーム42,43、およびハンド44の軸部に駆動用モータの出力軸を直接つなげてもよい。
【0035】
なお、固定ベース40と昇降ベース41との間、昇降ベース41と下段アーム42との間、下段アーム42と上段アーム43との間、および上段アーム43とハンド44との間には、それぞれ、必要に応じて図示しないシール部材が介装される。これにより、搬送用ロボット4の内部空間は外部に対して気密シールされ、たとえば搬送用ロボット4内部のパーティクルが搬送室2へ拡散することは防止される。
【0036】
図1に表れているように、上記構成の2台の搬送用ロボット4は、ワーク収納室1の配列方向X1−X2についてワーク処理室3を挟むように離間し、かつ左右のワーク収納室1A,1Cに対応する位置に配置され、たとえば上記配列方向X1−X2における中央位置から互いに同じ距離の位置に配置されている。ここで、「同じ距離」とは、設計上において、上記中央位置から図中右側の搬送用ロボット4Aまでの距離と、上記中央位置から図中左側の搬送用ロボット4Bまでの距離とを等しくしておくことを意味する。本実施形態では、搬送用ロボット4A,4Bは、左右のワーク収納室1A,1Cに正対して位置し、かつ搬送室2のうちワーク処理室3に面した側壁2aに近接して位置する。
【0037】
また、詳細な図示説明は省略するが、搬送用ロボット4は、たとえば精密な位置調整が可能な治具を介して搬送室2に固定される。搬送室2に対する搬送用ロボット4の固定については、たとえば、てこの原理を利用するなどのボルト締結以外の手法を採用することができる。
【0038】
固定ベース40の下部側面には、上記各モータに対する給電や制御信号の伝送を行うためのコネクタ(図示略)が設けられている。
【0039】
図4は、搬送用ロボットの制御系の概略構成例を示すブロック図である。図4に示すように、2台の搬送用ロボット4A,4Bは、コントローラ5に接続されている。コントローラ5は、メイン制御部50と、搬送用ロボット4A,4Bにそれぞれ設けられたサーボモータを制御するサーボ制御部51A,51Bとを有している。
【0040】
メイン制御部50には、たとえば、ロボットの制御プログラム等を実行し演算処理を行うCPU、各種プログラムや設定データ等を格納したROM、データ等の一時的な記憶に用いられるRAM等が組み込まれており、これらがバスラインを介して接続されている。また、メイン制御部50には、搬送用ロボット4A,4Bに対するティーチング作業や手動操作(原点調整や手動入力操作)を行うためのティーチペンダント52が接続されている。
【0041】
メイン制御部50には、サーボ制御部51A,51Bが接続されており、サーボ制御部51A,51Bは、搬送用ロボット4A,4Bに接続されている。サーボ制御部51A,51Bは、搬送用ロボット4A,4Bにそれぞれ設けられたサーボモータの駆動制御を行うとともにサーボモータの各軸の位置情報をエンコーダからのフィードバック信号として受ける。また、メイン制御部50は、搬送用ロボット4A,4Bとの電気的接続状態を検出しており、たとえば搬送用ロボット4A,4Bのいずれかとの電気的接続が断たれると、接続異常を検出する。なお、サーボ制御部51A,51Bには電源装置53が接続されており、電源装置53からの駆動電流は、サーボ制御部51A,51Bを介して搬送用ロボット4A,4Bのサーボモータへ供給される。
【0042】
電源装置53とサーボ制御部51A,51Bとの間には、スイッチ装置54が設けられている。スイッチ装置54は、メイン制御部50に接続されている。メイン制御部50は、たとえば、搬送用ロボット4A,4Bのいずれかから、サーボモータの駆動状態について、あらかじめ設定された適正範囲を超えた信号を受けると、当該搬送用ロボットが故障であると判定し、電源装置53から当該搬送用ロボットへの通電を遮断するようにスイッチ装置54を制御する。また、メイン制御部50は、いずれかの搬送用ロボットの故障を検出すると、当該搬送用ロボットとの電気的接続状態の検出を無効にする。このように、本実施形態では、コントローラ5(メイン制御部50)は、2台の搬送用ロボット4A,4Bの駆動を統括的に制御している。
【0043】
上記構成の搬送用ロボット4においては、上記した下段アーム用モータ、上段アーム用モータ、およびハンド用モータをそれぞれ独立して駆動制御することが可能であり、下段アーム42、上段アーム43、およびハンド44を垂直軸O1,O2,O3周りに回動させることができる。したがって、下段アーム42、上段アーム43、およびハンド44のそれぞれの回動を適宜制御することにより、これらが垂直軸O1,O2,O3周りに回動し得る範囲でハンド44を所望の位置に移動させることができる。また、上記した昇降用モータを一方向に回転させることにより、昇降ベース41を上昇させることができ、昇降用モータを他方向に回転させることにより、昇降ベース41を下降させることができる。これにより、ハンド44を所定範囲内で所望の高さに上下移動させることができる。
【0044】
空間分離手段6A,6Aは、搬送室2内の空間を分離するためのものである。図1に表れているように、右側の空間分離手段6Aは、ワーク収納室1の配列方向X1−X2において右側のワーク収納室1Aと中央のワーク収納室1Bとの間に設けられ、左側の空間分離手段6Bは、上記配列方向X1−X2において左側のワーク収納室1Cと中央のワーク収納室1Bとの間に設けられている。
【0045】
図1または図2に表れているように、空間分離手段6A,6Bは、それぞれ、一対のガイドレール60と、巻取り軸61と、ロールカーテン62(遮蔽部材)と、フィン63と、を備えている。一対のガイドレール60は、搬送室2の側壁2a,2bに設けられており、上下方向に沿って延びている。巻取り軸61は、一対のガイドレール60の上端近傍において、上記方向Y1−Y2に沿う回転軸O4周り回転可能に設けられている。巻取り軸61の端部には、図示しない駆動モータ(駆動部)の出力軸が連結されており、当該駆動モータの駆動により巻取り軸61が回転させられる。
【0046】
ロールカーテン62は、端部が巻取り軸61に連結されるとともに巻取り軸61に巻回されている。ロールカーテン62の素材としては、発塵しにくいものが好適であり、またロールカーテン62の表面には、好ましくは、たとえばパーティクルの付着を防止するための帯電防止加工が施される。ロールカーテン62は、巻取り軸61の回転により、ガイドレール60に沿って上下にスライド移動させられる。ロールカーテン62の下部には、重り62aが設けられている。
【0047】
フィン63は、ガイドレール60とロールカーテン62との間を,密閉するためのものであり、図5(a)に表れているように、各ガイドレール60のレール部を挟んで両側に設けられている。各フィン63は、たとえばガイドレール60の全長に略対応する上下方向長さを有しており、ガイドレール60の長手方向に沿う回動軸O5周りに回動可能に支持されている。 フィン63の先端内側面には、たとえばゴム材63aが設けられており、図5(b)に示すように、フィン63が矢印N1方向に回動させられると、ロールカーテン62は、このロールカーテン62を挟んで両側のフィン63により挟持される。また、フィン63の外側面およびガイドレール60の外側面には、たとえばこれらを跨いで覆うゴムシート63bが貼着されている。上記構成のフィン63は、たとえば図示しないフィン用モータにより回動させられる。
【0048】
空間分離手段6A,6Bにおいて、巻取り軸61の回転によりロールカーテン62が繰り出され、フィン63が図5(b)に示すように回動されると、搬送室2内の空間が分離される。このとき、空間分離手段6A,6Bが機能した状態にある。より具体的には、図1および図2を参照すると理解できるように、右側の空間分離手段6Aによれば、右側のワーク収納室1Aに対応する右側の搬送用ロボット4Aの周辺領域(ロボット周辺領域23A)と、このロボット周辺領域23Aに対して上記配列方向X1−X2中央側に隣接する中央領域23Bとに分離される。左側の空間分離手段6Bによれば、左側のワーク収納室1Cに対応する左側の搬送用ロボット4Bの周辺領域(ロボット周辺領域23C)と、上記中央領域23Bとに分離される。なお、本実施形態では、空間を分離するための遮蔽部材としてロールカーテン62を用いる場合を例示したが、これに代えて、たとえばシャッタなどの他の遮蔽部材を用いてもよい。
【0049】
本実施形態においては、2台の搬送用ロボット4A,4Bのうち、図1における右側の搬送用ロボット4Aは、右側と中央の2つのワーク収納室1A,1Bに対してワークWの搬出入を行い、左側の搬送用ロボット4Bは、左側と中央の2つのワーク収納室1C,1Bに対してワークWの搬出入を行う。
【0050】
図6〜図10は、右側の搬送用ロボット4Aについて、ワーク収納室1A,1Bおよびワーク処理室3に対してワークWを搬出入するときの状態変化を示す。図6は、ハンド44がワーク収納室1Aの前に位置する状態である。
【0051】
図7は、ハンド44がワーク収納室1A内に進入して、ワークWの受け渡しを行う状態を示す。ハンド44は、図6に示す状態から図7に示す状態まで、略同じ姿勢を維持したまま略直線状に移動させられる。
【0052】
図8は、ハンド44がワーク処理室3の前に位置する状態である。ハンド44は、図6に示す状態から図8に示す状態まで、平面視において時計回りに約90°回動する姿勢変更をともないつつ移動させられる。
【0053】
図9は、ハンド44がワーク処理室3内に進入して、ワークWの受け渡しを行う状態を示す。ハンド44は、図8に示す状態から図9に示す状態まで、時計回りに90°回動する姿勢変更をともないつつ略直線状に移動させられる。ここで、搬送用ロボット4Aは、ワーク処理室3に正対する位置から配列方向X1−X2に偏倚した位置に配置されている。このため、搬送用ロボット4Aを搬送室2のうちワーク処理室3に面した側壁2aに近接させても、搬送用ロボット4Aと側壁2aとは干渉しない。
【0054】
図10は、ハンド44がワーク収納室1B内に進入して、ワークWの受け渡しを行う状態を示す。ハンド44は、図8に示す状態から図10に示す状態まで、反時計回りに90°回動する姿勢変更をともないつつ略直線状に移動させられる。
【0055】
なお、ワーク収納室1A,1Bおよびワーク処理室3内でのワークWの受け渡しは、昇降ベース41を適宜昇降させ、ハンド44を上下動させることにより行う。
【0056】
本実施形態では、下段アーム42、上段アーム43、およびハンド44がそれぞれ独立して回動可能であるため、 図6〜図10を参照して上述したように、ハンド44に多様な動作を行わせることができる。
【0057】
次に、ワーク搬送システムA1において、2台の搬送用ロボット4A,4BによりワークWを搬送する際の搬送用ロボット4A,4Bの動作手順の一例について、図11および図12を参照して説明する。
【0058】
また、2台の搬送用ロボット4A,4BによりワークWを搬送する際には、搬送室2の内部全体は、ファンフィルタユニット20A,20B,20Cの駆動により、たとえばクラス1〜クラス100程度のクリーン環境に維持される。このとき、空間分離手段6A,6Bにおいて、いずれもロールカーテン62が巻き取られており、ロボット周辺領域23A、中央領域23B、およびロボット周辺領域23Cは、互いに開放されている。したがって、空間分離手段6A,6Bは、機能していない状態にある。
【0059】
図11および図12に示す例では、右側と左側のワーク収納室1A,1Cは、処理前のワークWを収納するためのものであり、ワーク収納室1A,1C内のワークWが1枚ずつワーク処理室3へ搬送される。中央のワーク収納室1Bは、処理済のワークWを収納するためのものであり、ワーク処理室3にて処理されたワークWがワーク収納室1Bへ搬送される。
【0060】
図11(a)では、右側の搬送用ロボット4Aによりワーク処理室3内の処理済みのワークWが受け取られ、左側の搬送用ロボット4Bにより左側のワーク収納室1C内の処理前のワークWが受け取られる。
【0061】
図11(b)では、右側の搬送用ロボット4Aによりワーク処理室3から処理済のワークWが搬出され、左側の搬送用ロボット4Bによりワーク収納室1Cから処理前のワークWが搬出される。
【0062】
図11(c)では、右側の搬送用ロボット4Aにより処理済のワークWが中央のワーク収納室1Bに搬入され、左側の搬送用ロボット4Bにより処理前のワークWがワーク処理室3の前に移動させられる。ここで、搬送用ロボット4A,4Bどうしの衝突を防止するために、これらロボット4A,4Bのアーム42,43ないしハンド44の高さが異ならせられている。このような搬送用ロボット4A,4Bの衝突防止は、図11(d)および図12(h)、(i)に示すときにもなされる。
【0063】
図11(d)では、右側の搬送用ロボット4Aにおいては、中央のワーク収納室1Bからハンド44が退避させられ、左側の搬送用ロボット4BによりワークWがワーク処理室3内に搬入される。
【0064】
図11(e)では、右側の搬送用ロボット4Aにおいては、右側のワーク収納室4Aの前にハンド44が移動させられ、左側の搬送用ロボット4Bにおいては、ワーク処理室3からハンド44が退避させられる。ここで、ワーク処理室3内では、ワークWに対して適宜処理が行われる。
【0065】
詳細な説明は省略するが、図12(f)〜(j)において、図11(a)〜(e)に対して左右が入れ替わった動作が行われる。右側の搬送用ロボット4Aについては、図11(a)〜(e)における左側の搬送用ロボット4Bと同様の動作が行われ、左側の搬送用ロボット4Bについては、図11(a)〜(e)における右側の搬送用ロボット4Aと同様の動作が行われる。
【0066】
そして、2台の搬送用ロボット4A,4Bについて、図11(a)〜(e)および図12(f)〜(j)の動作を繰り返すことにより、右側の搬送用ロボット4Aによるワーク収納室1A,1Bおよびワーク処理室3の間でのワークWの搬送と、左側の搬送用ロボット4Bによるワーク収納室1B,1Cおよびワーク処理室3の間でのワークWの搬送とが、タイミングをずらしつつ並行して行われる。すなわち、搬送用ロボット4A,4Bにより、2系統でのワークWの搬送処理が並行して行われる。
【0067】
なお、本実施形態では、左右のワーク収納室1A,1Cに処理前のワークWを収納し、中央のワーク収納室1Bに処理済のワークWを収納するようにワーク収納室1A,1B,1Cを割り当てたが、ワーク収納室1A,1B,1Cの割り当ては、これに限定されない。また、搬送用ロボット4A,4Bの具体的な動作手順についても、図11(a)〜(e)および図12(f)〜(j)を参照して上述したものに限定されない。
【0068】
次に、いずれかの搬送用ロボット4A,4Bが故障した場合において、当該故障したロボット4A,4Bの交換等の復旧作業の一例について説明する。図13〜図16を参照して、右側の搬送用ロボット4Aが故障した場合の作業手順について説明する。
【0069】
まず、搬送用ロボット4Aが部品故障などにより適正に動作しなくなると、当該故障した搬送用ロボット4Aへの通電が遮断され、当該ロボット4Aが停止する。次いで、ティーチペンダント52を用いた手動操作により、図13に表れているように、搬送用ロボット4Aのハンド44がワーク収納室1Aの前に位置する状態とする。
【0070】
次に、右側の空間分離手段6Aを機能させる。すなわち、図5(b)に示すように、ロールカーテン62を繰り出し、フィン63を回動させてロールカーテン62に密着した状態とする。これにより、搬送用ロボット4Aの周辺領域23Aと、中央領域23Bとが分離される(図14参照)。
【0071】
次に、図15に表れているように、右側のファンフィルタユニット20Aを停止させる。そして、搬送室2の側壁2cに設けられたドア2eを通じてロボット周辺領域23Aに作業者が入り、搬送用ロボット4Aの交換等の作業を行う。ここで、ロボット周辺領域23Aにおいては、無数のパーティクルが侵入し、クリーン度が著しく低下する。なお、搬送用ロボット4Aを交換する際には、当該ロボット4Aの電気的接続状態の検出が無効とされるので、他方の搬送用ロボット4Bの運転を継続することができる。
【0072】
一方、中央領域23Bおよびロボット周辺領域23Cは、空間分離手段6Aによりロボット周辺領域23Aと分離されており、ファンフィルタユニット20B,20Cにより清浄空気が供給され続けているので、クリーン環境が維持される。なお、このとき、ファンフィルタユニット20B,20Cにより清浄空気が供給され続けている中央領域23Bおよびロボット周辺領域23Cの内圧は、ファンフィルタユニット20Aによる清浄空気の供給が停止したロボット周辺領域23Aの内圧よりも十分に高い。したがって、ロボット周辺領域23Aから中央領域23B側へのパーティクルの侵入は確実に防止され、かかる点においても、中央領域23Bおよびロボット周辺領域23Cのクリーン環境が適切に維持される。
【0073】
搬送用ロボット4Aの交換等の作業が終了すると、ロボット周辺領域23Aを清掃し、ファンフィルタユニット20Aを稼動させる。このとき、図16に表れているように、ファンフィルタユニット20Aの運転再開後しばらくの間は、当該ファンフィルタユニット20Aの風量をファンフィルタユニット20B,20Cの風量よりも小さくする。ファンフィルタユニット20Aの運転再開後しばらくの間、ロボット周辺領域23Aはクリーン度が低く、中央領域23Bおよびロボット周辺領域23Cに比べて多数のパーティクルが存在するところ、ファンフィルタユニット20B,20Cの風量の大小関係より、中央領域23Bおよびロボット周辺領域23Cの内圧は、ロボット周辺領域23Aの内圧よりも高くなっており、ロボット周辺領域23Aから中央領域23B側へのパーティクルの侵入は防止される。
【0074】
次いで、ロボット周辺領域23Aのクリーン度が十分に高められると、ファンフィルタユニット20Aの風量をファンフィルタユニット20B,20Cの風量と同程度まで増加させるとともに、空間分離手段6Aのロールカーテン62を巻取り、当該空間分離手段6Aが機能しない状態にする。そして、継続運転している左側の搬送用ロボット4Bとの干渉を防止しつつ、右側の搬送用ロボット4Aを稼動させる。
【0075】
このようなことから理解できるように、右側の搬送用ロボット4Aの交換等を行っている最中においても、左側の搬送用ロボット4Bにより、クリーン環境下でワーク搬送を継続することができる。また、搬送用ロボット4Aの交換等の後には、クリーン環境を維持したまま、2台の搬送用ロボット4A,4Bによるワーク搬送を継続することができる。
【0076】
左側の搬送用ロボット4Bが故障等により停止した場合にも、上記と同様のことがいえる。すなわち、左側の空間分離手段6Bを機能させることにより、搬送用ロボット4Bの交換等の最中においても、右側の搬送用ロボット4Aは、クリーン環境下でワーク搬送を継続することが可能である。左側の搬送用ロボット4Bの復旧後には、クリーン環境を維持したまま、2台の搬送用ロボット4A,4Bによるワーク搬送を継続することができる。
【0077】
上記構成のワーク搬送システムA1においては、2台の搬送用ロボット4A,4Bを備え、これら搬送用ロボット4A,4Bにより、ワーク収納室1A,1B,1Cと、ワーク処理室3との間で、並行して2系統でのワークWの搬送処理を行うことができる。したがって、本実施形態のワーク搬送システムA1によれば、より高いスループットを実現することができ、本システム全体を効率よく稼働させることができる。
【0078】
2台の搬送用ロボット4A,4Bは、ワーク収納室1の配列方向X1−X2における中央位置から同じ距離の位置に配置されている。このため、搬送用ロボット4A,4Bについて左右対称の動作をさせることが可能であり、搬送用ロボット4A,4Bの制御が比較的に容易である。
【0079】
搬送用ロボット4A,4Bは、ワーク処理室3に正対する位置から配列方向X1−X2に偏倚した位置に配置されている。このため、搬送室2の側壁2aに対する搬送用ロボット4A,4Bの干渉を防止しつつ、当該ロボット4A,4Bを側壁2aに近接させることができる。したがって、ワーク収納室91とワーク処理室93とが離間する方向Y1−Y2(図1参照)の寸法を小さくすることができ、フットプリント(ワーク搬送システムA1の占有床面積)の低減を図ることができる。
【0080】
また、本実施形態のようにクリーン環境下でワークWの搬送を行う場合には、フットプリントの低減により、クリーン環境を維持すべき室内空間を小さくすることができるので、クリーン環境の維持にかかるコストの削減にも資する。さらに、クリーン環境形成手段としてのファンフィルタユニット20A,20B,20Cと通気床21を搬送室2の上部と下部に配置した構成によれば、フットプリントの低減に寄与する。
【0081】
ワーク搬送システムA1においては、2台の搬送用ロボット4(4A,4B)により2系統のワーク搬送が行われるところ、仮に1台の搬送用ロボット4が部品故障などにより適正に動作しなくなった場合、当該故障した搬送用ロボット4への通電が遮断されるため、当該故障した搬送用ロボット4が暴走して制御不能に陥ることはない。したがって、2台のうち一方の搬送用ロボット4が故障しても、他方の搬送用ロボット4によりワークWの搬送処理を継続することができる。このことは、本システム全体を効率よく稼働するのに資する。
【0082】
さらに、ワーク搬送システムA1においては、上述したように、本システムの稼働中に右側の搬送用ロボット4Aが故障した場合には、空間分離手段6Aを機能させることにより、ロボット周辺領域23Aと中央領域23Bとを分離することができる。また、左側の搬送用ロボット4Bが故障した場合には、空間分離手段6Bを機能させることにより、ロボット周辺領域23Cと中央領域23Bとを分離することができる。したがって、本システムA1をクリーン環境下で使用する場合、2台のうち一方の搬送用ロボット4が故障しても、これに対応するように搬送室2内の空間を分離することにより、他方の搬送用ロボット4によるクリーン環境下でのワークWの搬送処理を継続しつつ、故障した搬送用ロボット4の交換等を行うことができる。このことは、本システム全体を効率よく稼働するのに資する。
【0083】
本実施形態では、空間分離手段6A,6Bは、ガイドレール60に沿って上下スライド可能なロールカーテン62が巻取り軸61に巻回された構成であるため、当該空間分離手段6A,6Bの占有スペースを小さくすることができる。また、空間分離手段6A,6Bは、ガイドレール60とロールカーテン62との間を密閉するフィン63(ゴム材63aおよびゴムシート63bを含む)を備えている。このため、ロールカーテン62による比較的簡単な空間分離手法を採用しつつ、各空間分離手段6A,6Bを機能させた場合には、クリーン環境下にある空間のクリーン度を適切に維持することができる。
【0084】
以上、本発明の実施形態を説明したが、本発明の技術的範囲は上記した実施形態に限定されるものではない。本発明に係るワーク搬送システムの各部の具体的な構成は、発明の思想から逸脱しない範囲内で種々な変更が可能である。
【0085】
上記実施形態においては、3つのワーク収納室を具備する場合を例に挙げたが、ワーク収納室の数はこれに限定されず、たとえば4つまたは5つのワーク収納室を具備するワーク搬送システムにも本発明は適用可能である。
【0086】
図17は、4つのワーク収納室1を具備するワーク搬送システムを示す。図17に示されたワーク搬送システムA2において、2台の搬送用ロボット4A,4Bは、左右両端のワーク収納室1A,1Dに正対して配置される。右側の搬送用ロボット4Aは、ワーク収納室1Aと、これに隣接するワーク収納室1Bと、ワーク処理室3との間でワークWを搬送し、左側の搬送用ロボット4Bは、ワーク収納室1Dと、これに隣接するワーク収納室1Cと、ワーク処理室3との間でワークWを搬送する。右側の空間分離手段6Aは、ワーク収納室1の配列方向X1−X2においてワーク収納室1A,1Bの間に設けられ、左側の空間分離手段6Bは、上記配列方向X1−X2においてワーク収納室1C,1Dの間に設けられている。
【0087】
図18は、5つのワーク収納室1を具備するワーク搬送システムを示す。図18に示されたワーク搬送システムA3において、右側の搬送用ロボット4Aは、右から2番目(右寄り)のワーク収納室1Bに正対する位置に配置され、左側の搬送用ロボット4Bは、左から2番目(左寄り)のワーク収納室1Dに正対する位置に配置される。右側の搬送用ロボット4Aは、ワーク収納室1A,1Bおよび中央のワーク収納室1Cとワーク処理室3との間でワークWを搬送し、左側の搬送用ロボット4Bは、ワーク収納室1D,1Eおよび中央のワーク収納室1Cとワーク処理室3との間でワークWを搬送する。右側の空間分離手段6Aは、ワーク収納室1の配列方向X1−X2においてワーク収納室1B,1Cの間に設けられ、左側の空間分離手段6Bは、上記配列方向X1−X2においてワーク収納室1C,1Dの間に設けられている。
【0088】
ワーク搬送システムA2,A3においては、ワーク収納室1の数量、および各搬送用ロボット4A,4Bによりアクセス可能なワーク収納室1の関係が、上記実施形態のワーク搬送システムA1と異なっているが、その他の構成についてはワーク搬送システムA1と同様である。したがって、これらワーク搬送システムA2,A3においても、ワーク搬送システムA1に関して上述したのと同様の利点を享受することができる。
【符号の説明】
【0089】
A1,A2,A3 ワーク搬送システム
O1 垂直軸(第1の垂直軸)
O2 垂直軸(第2の垂直軸)
O3 垂直軸(第3の垂直軸)
1,1A,1B,1C,1D,1E ワーク収納室
2 搬送室
3 ワーク処理室
4 搬送用ロボット(ワーク搬送用ロボット)
4A 搬送用ロボット(第1のワーク搬送用ロボット)
4B 搬送用ロボット(第2のワーク搬送用ロボット)
5 コントローラ
6A 空間分離手段(第1の空間分離手段)
6B 空間分離手段(第2の空間分離手段)
2a,2b,2c,2d 側壁
2e,2f ドア
20A,20B,20C ファンフィルタユニット(清浄空気供給部)
21 通気床(排気部)
23A ロボット周辺領域(第1のロボット周辺領域)
23B 中央領域
23C ロボット周辺領域(第2のロボット周辺領域)
40 固定ベース
41 昇降ベース
42 下段アーム(第1のアーム)
43 上段アーム(第2のアーム)
44 ハンド
50 メイン制御部
51A,51B サーボ制御部
52 ティーチペンダント
53 電源装置
54 スイッチ装置
60 ガイドレール
61 巻取り軸
62 ロールカーテン(遮蔽部材)
63 フィン(シール部)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
直線状に配列された3つ以上5つ以下のワーク収納室と、これらワーク収納室に隣接する搬送室と、この搬送室に対し、上記ワーク収納室とは反対側に隣接するワーク処理室と、上記ワーク収納室と上記ワーク処理室との間でワークを搬送するために上記搬送室に配置された2台の第1および第2のワーク搬送用ロボットと、を備え、
上記第1および第2のワーク搬送用ロボットは、上記ワーク収納室の配列方向について上記ワーク処理室を挟むように離間し、かつ、上記ワーク収納室の配列方向における中央から一方に偏倚した第1のワーク収納室と、上記ワーク収納室の配列方向における中央から他方に偏倚した第2のワーク収納室とに対応して配置され、
上記第1のワーク搬送用ロボットは、上記第1のワーク収納室と、この第1のワーク収納室に対して上記ワーク収納室の配列方向中央側に隣接するワーク収納室と、上記ワーク処理室と、に対してワークの搬送が可能であり、
上記第2のワーク搬送用ロボットは、上記第2のワーク収納室と、この第2のワーク収納室に対して上記ワーク収納室の配列方向中央側に隣接するワーク収納室と、上記ワーク処理室と、に対してワークの搬送が可能であり、
上記搬送室には、この搬送室内の空間を、上記第1のワーク収納室に対応する第1のロボット周辺領域と、この第1のロボット周辺領域に対して上記ワーク収納室の配列方向中央側に隣接する中央領域とに分離可能な第1の空間分離手段、および上記第2のワーク収納室に対応する第2のロボット周辺領域と上記中央領域とに分離可能な第2の空間分離手段が設けられていることを特徴とする、ワーク搬送システム。
【請求項2】
上記第1および第2のロボット周辺領域には、それぞれ、クリーン環境を形成するためのクリーン環境形成手段が設けられている、請求項1に記載のワーク搬送システム。
【請求項3】
上記クリーン環境形成手段は、上記搬送室の上部から当該搬送室内に清浄空気を供給する清浄空気供給部と、上記搬送室の下部を通じて当該搬送室内の気体を外部に排出する排気部と、を備える、請求項2に記載のワーク搬送システム。
【請求項4】
上記搬送室は、上記ワーク収納室と上記ワーク処理室とが離間する方向において対向する第1および第2の側壁と、上記ワーク収納室の配列方向において対向する第3および第4の側壁とを有する略直方体形状とされており、
上記第1および第2の空間分離手段は、それぞれ、上記第1および第2の側壁に設けられ、上下方向に延びる一対のガイドレールと、上記ガイドレールの上端近傍に設けられた巻取り軸と、上記巻取り軸に巻回されるとともにこの巻取り軸の回転により上記ガイドレールに沿って上下にスライド移動させられる遮蔽部材と、上記巻取り軸を回転駆動させる駆動部と、を備える、請求項1ないし3のいずれかに記載のワーク搬送システム。
【請求項5】
上記第1および第2の空間分離手段は、上記ガイドレールと上記遮蔽部材との間を密閉するシール部をさらに備える、請求項4に記載のワーク搬送システム。
【請求項6】
上記搬送室の上記第3および第4の側壁には、それぞれ、開閉可能なドアが設けられている、請求項4または5に記載のワーク搬送システム。
【請求項7】
上記各ワーク搬送用ロボットは、上記搬送室に対して固定される固定ベースと、昇降ベースと、この昇降ベースを上記固定ベースに対して昇降させる昇降機構と、一端が上記昇降ベースに対して第1の垂直軸周りに回動可能に支持された第1のアームと、上記第1のアームを上記第1の垂直軸周りに回動させる第1アーム駆動機構と、一端がこの第1のアームの他端に対して第2の垂直軸周りに回動可能に支持された第2のアームと、この第2のアームを上記第2の垂直軸周りに回動させる第2アーム駆動機構と、端部が上記第2のアームの他端に対して第3の垂直軸周りに回動可能に支持されたハンドと、このハンドを上記第3の垂直軸周りに回動させるハンド駆動機構と、を備える、請求項1ないし6のいずれかに記載のワーク搬送システム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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【図21】
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【公開番号】特開2011−233745(P2011−233745A)
【公開日】平成23年11月17日(2011.11.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−103357(P2010−103357)
【出願日】平成22年4月28日(2010.4.28)
【出願人】(000000262)株式会社ダイヘン (990)
【Fターム(参考)】