説明

不揮発性メモリ

【課題】 簡単なメモリ構成を有し、製造コストが安い、不揮発性メモリを提供する。
【解決手段】 十字状パターンを有するホール素子3上に絶縁膜2を介して形成された磁性薄膜1からなる不揮発性メモリにおいて、磁性薄膜1を容易軸が前記十字状パターンの電圧出力方向に沿い、かつ前記十字状パターン上に形成し、磁性薄膜1は、矩形状の一軸異方性を有し、少なくともCoとSmとを含有するアモルファス合金からなる不揮発性メモリである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、磁性体を磁化させることで情報を記録保持し、ホール効果を利用して記録された情報を再生する不揮発性メモリに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、特にコンピュータにおける情報の記憶・読み出しが可能な半導体メモリとして、SRAM(Static Random Access Memory)やDRAM(Dynamic Random Access Memory)が広く普及している。これらは、半導体集積回路内のコンデンサに蓄積される電荷により情報の記録保持を行うものであり、電源供給の停止によって記録されていた情報が失われる揮発性のメモリである。
【0003】
一方、近年、デジタルカメラ、ビデオムービー、携帯電話などの普及にともない、小型で持ち運び可能な大容量の不揮発性固体メモリの需要が急速に高まっている。固体メモリは、ハードディスクや光ディスクのような機械的な駆動を必要としないので、上記のようなモバイル用のメモリとして有用である。現在、実用化されているこれらリムーバブルの固体メモリは全て、誘電体の電荷の有無を情報として記憶し、読み出している。
しかし、この方式のメモリにおいては、情報の消去・書き込みに長い時間を要する、書き込み・読み出しの可能な繰り返し回数が小さい、といった問題があり、将来の情報書き込み・読み出しの高速化に対して必ずしも十分な特性を有していない。
【0004】
次世代の不揮発性固体メモリの候補としては、強誘電体メモリ(FeRAM:Ferroelectric RAM)、相変化抵抗型メモリ(PRAM:Phase change RAM 又は、OUM:Ovonic Unified Memoryともいう)、抵抗型メモリ(RRAM:Resisitance RAM)などが提案されているが、さらに、上記要求を全て満たすものとして、磁性体に磁界を加えると電気抵抗が変化する現象(磁気抵抗効果)を利用した高速かつ繰り返し性の高い不揮発性メモリ(MRAM:Magnetoresistive RAM)が、提案され、各所で精力的に研究開発が進んでいる。
【0005】
また、上記要求を満足するもう1つの不揮発性固体メモリの候補として、磁性体を磁化させることで情報を記録保持し、ホール効果を利用して記録された情報を再生する磁気メモリ(以下、HRAM:Hall effect RAMともいう)があり、HRAMに対する情報の書き込み/読み出しを行うための駆動方法も提案されている。
ホール効果による読み出し信号変化は、MRAMで利用される磁気抵抗効果の抵抗変化率よりも大きくできる可能性があり、MRAMよりも優れたメモリとして期待される。
HRAMには、磁性体の異常ホール効果を利用するものと、磁性体とホール素子を組合わせたハイブリッド型とがあるが、異常ホール効果を示す磁性体の種類は限定されるのに対し、ハイブリッド型では材料の組合わせに対する自由度が大きい。
【0006】
ハイブリッド型HRAMとして、メモリセルが備えるMOSトランジスタのソースまたはドレインを2つの領域に分割し、該2つの領域に接続される2本のデータ線、及び該2本のデータ線を情報の書き込み時に短絡させるためのスイッチをそれぞれ設け、情報の書き込み時にMOSトランジスタのチャネル領域に流れる書き込み電流により、記録する情報に応じた方向に磁性体を磁化させ、情報の読み出し時に2本のデータ線に流れる読み出し電流をそれぞれ検出し、その2本のデータ線に流れる読み出し電流の大小関係から前記磁性体に記録された情報を再生する、というものが提案されている(例えば、特許文献1参照)。
【特許文献1】特開2002−170937号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
ところで、従来のHRAMにおいては、磁性体に信号を書き込むときに磁界を発生させるための書き込み線が個別に必要であり、メモリの構造が複雑であるという問題があった。
メモリの構造が複雑になると、製造コストが高くなるばかりでなく、製造不良が発生する割合も高くなり、歩留りを低下させるという問題がある。
更に、特許文献1に示されるメモリは、ドレインが2つの領域に分割されている必要があり、構造をより複雑化させているという問題がある
【0008】
そこで本発明は、不揮発性メモリにおいて、情報の読み出し時に、磁性体から発生する磁界が効率良くホール素子の感磁部に達し、大きな読み出し信号を得ることができる、簡単なメモリ構成を有し、製造コストが安い、安定に磁性体に情報を記録し検出できる不揮発性メモリを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記目的を達成するための手段として、第1の発明は、十字状パターンを有するホール素子上に絶縁膜を介して形成された磁性薄膜からなる不揮発性メモリにおいて、前記磁性薄膜を容易軸が前記十字状パターンの電圧出力方向に沿い、かつ前記十字状パターン上に形成したことを特徴とする不揮発性メモリを提供する。
第2の発明として、前記磁性薄膜は、矩形状の一軸異方性を有し、少なくともCoとSmとを含有するアモルファス合金からなることを特徴とする請求項1記載の不揮発性メモリを提供する。
【発明の効果】
【0010】
本発明の不揮発性メモリは、前記磁性薄膜を容易軸が前記十字状パターンの電圧出力方向に沿い、かつ前記十字状パターン上に形成したので、情報の読み出し時に磁性体から発生する磁界が効率良くホール素子の感磁部に達し大きな読み出し信号を得ることができる、簡単なメモリ構成を有し、製造コストが安い、安定に磁性体に情報を記録し検出できる。
また、本発明の不揮発性メモリは、前記磁性薄膜は、矩形状の一軸異方性を有し、少なくともCoとSmとを含有するアモルファス合金からなるので、より小さい書込み電流で所定の方向に磁化することにより情報の書き込みが出来る。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
以下、本発明の実施の形態につき、図面を参照して説明する。
図1は、本発明に係る不揮発性メモリの基本構成図である。
図2は、本発明に係る不揮発性メモリに信号を書き込む場合を説明するための模式図である。
図3は、本発明に係る不揮発性メモリから信号を読み出す場合を説明するための模式図である。
【0012】
図1に示すように、本発明に係る不揮発性メモリ(以下、単にメモリともいう)10は、基本構成として、ホール素子3とホール素子3上に絶縁体2を介して配置した磁性体薄膜(以下、単に磁性体、磁性薄膜ともいう)1より構成される。磁性体1の配置としては、ホール素子3の感磁部であるホール素子3の略中央部にその一端がくるようにされている。なお、ホール素子は十字型形状の4端子構造を有するものであるが、図では通電部の形状のみを示してあるので、磁性体1がはみ出して見えているが、実際はホール素子3のホール電圧検出端子上に渡って配置されているものである。以下の図2、図3でも同様である。
【0013】
絶縁体2により、ホール素子3と磁性体1を電気的に絶縁してある。
ホール素子3としては、ホール効果を示すあらゆる半導体を適用可能である。適用される半導体としては、P型、N型のいずれでも良いが、一般的には、N型が、キャリア移動度が大きく、大きなホール効果が得られるので好ましい。中でも、大きなホール効果が得られるものとして、GaAs、InSb、GaP、InP、InAs、InGaPといった化合物半導体が有効である。
【0014】
磁性体1としては、自発磁化を発しかつ残留磁化を有するものであって、ホール素子3上の配置としては、磁性体1の一方の磁極から発生する磁界がホール素子3の感磁部に位置する構成にすると好ましい。
磁性体1の材質としては、Fe、Co、Ni及びこれらの合金、更にはこれらと非磁性金属との合金が用いられる。特に、本発明に係る不揮発性メモリに用いる磁性体1として好適なのは、一軸異方性を有し、その磁化容易軸がホール素子3に印加する電流の方向に対してほぼ直角の方向に向いたものである。
【0015】
このような特性を有する磁性体として、少なくとも磁性遷移金属(Fe、Co、Ni)と軽希土類(La、Ce、Pr、Nd、Pm、Sm、Eu)とを含有するアモルファス合金が好ましい。これは、遷移金属と希土類とから成るアモルファス合金が大きな一軸異方性を有し、かつ、遷移金属原子と軽希土類原子が有する磁気モーメントが同じ方向にあることから、大きな磁束密度が得られるため、大きな読み出し信号が得られるので好ましい。中でも、CoとSmとを含有したアモルファス合金が更に好ましい。
絶縁体2としては、ホール素子3と磁性体1とを電気的に絶縁できるものであれば良く、例えば、SiO2、SiNx、Al23等が用いられる。
【0016】
次に、図2を参照して、不揮発性メモリ10に信号(情報)を書き込む方法について説明する。図2の(A)は、信号(情報)“1”を、図2の(B)は、信号(情報)“0”を書き込む場合をそれぞれ示す。ここで、磁性体1の磁化が図示紙面に向かって右向きの場合が“1”、左向きの場合が“0”に対応するものとする。
【0017】
図2の(A)に示すように、磁性体1に情報“1”を書き込む場合には、ホール素子3に、紙面に垂直で、手前から奥に向かって強さIwの電流6waを流す。これによってホール素子3の周辺には、時計回りの磁界5aが発生する。このとき磁性体1には、右向きの磁界が印加されるので、磁性体1は右向きに磁化され、この磁化4aにより、情報“1”が記録されたことになる。
【0018】
一方、図2の(B)に示すように、磁性体1に情報“0”を書き込む場合には、ホール素子3に、紙面に垂直で、奥から手前に向かって強さIwの電流6wbを流す。これによってホール素子3の周辺には、反時計回りの磁界5bが発生する。このとき磁性体1には、左向きの磁界が印加されるので、磁性体1は左向きに磁化され、この磁化4bにより、情報“0”が記録されたことになる。
【0019】
なお、書き込み時において、磁性体1に印加される磁界は、磁性体1の全領域にわたって磁性体1の保磁力Hcよりも大きくなるように、電流6wa、6wbの強さIwを定めるのが好ましい。ただし、磁性体1が少なくともCoとSmとを含有したアモルファス合金のように、長手方向に一軸異方性が強く、かつ交換結合力の強いものである場合は、磁性体1に印加する磁界は必ずしも磁性体1の全領域にわたって保磁力Hcよりも大きい必要はなく、磁性体1の半分以上の領域でHcより大きくなれば、磁性体1を所望の方向に磁化することが可能である。
【0020】
次に、メモリ10の磁性体1に記録された情報“1”、“0”を読み出す方法について、図3を参照して説明する。図3の(A)は情報“1”を、図3の(B)は情報“0”を読み出す場合をそれぞれ示す。
ここで、ホール素子3はN型の半導体であるとし、紙面に垂直に、手前から奥に向かって強さIrである電流6rを流す。なお、
【0021】
図3の(A)に示すように、磁化4aに対応して信号“1”が書き込まれた磁性体1からは、ホール素子3の中央の感磁部には図示上から下に向かって磁界8aが発生している。するとホール効果によってホール素子3の電極9Cと電極9Dとの間で電位差が発生し、右側の電極9Dが高電圧、左側の電極9Cが低電圧となり、これを差動アンプ7によって検出することによって差動アンプ7より+Vが読み出され、これにより信号“1”が検出読み出される。
【0022】
図3の(B)に示すように、磁化4bに対応して信号“0”が書き込まれた磁性体1からは、ホール素子3の中央の感磁部には図示下から上に向かって磁界8bが発生している。するとホール効果によってホール素子3の電極9Cと電極9Dとの間で電位差が発生し、右側の電極9Dが低電圧、左側の電極9Cが高電圧となり、これを差動アンプ7によって検出することによって差動アンプより−Vが読み出され、これにより信号“0”が検出読み出される。
【0023】
上述の信号読み出し過程において、電流6rの方向を上記とは逆に、紙面に垂直方向で紙面の奥から手前に向かうように設定することもできる。この場合は、ホール素子3に発生する電極間の電位差も上記と逆になる。
また、電流6rの強さIrが大きいほど、ホール効果が大きくなるので、読み出し信号が大きく取れて都合が良いが、磁性体1の磁化4a、4bが反転しない程度に小さな値に設定する必要がある。ただし磁性体1が少なくともCoとSmとを含有したアモルファス合金のように、長手方向に一軸異方性が強く、かつ交換結合力の強いものである場合は、磁性体1の半分以上の領域が保持力Hcより大きくならない範囲で電流の強さIrを大きく設定することができる。
【0024】
次に、不揮発性メモリについて有限要素法による磁界解析を行った結果について説明する。
最初に、信号読み出し時を想定した解析を行った。
図4は、本発明に係る不揮発性メモリから信号を読み出す場合における磁界解析のための磁性体モデルを示す図である。
同図に示すように、磁性体のモデルとして、長さ1μm、厚さ0.1μmの磁性体1Aを用いる。ここで、x方向は長さを示し、y方向は厚さを示す。磁性体1Aは、x=1μmからx=2μm、y=0μmからy=0.1μmの領域を占めている。
【0025】
この磁性体1Aから発生する磁界のy方向成分Hyを、磁性体1Aからy方向に−0.05μm離れたところのx=0μmからx=3μmの範囲(図4の点線で示した線上)に対して解析した。解析は、磁性体1Aの残留磁化方向が、面内方向(x方向)と垂直方向(y方向)のそれぞれの場合に対して行った。磁性体1Aの磁気特性は、保磁力Hc=100Oe、残留磁束密度Br=1Tとした。
【0026】
なお、垂直磁化に対しては、Hc=100Oe、Br=0.25Tの場合も検討した。これは以下の理由による。垂直磁化の場合、Brが大きいほど磁性体1A内部に発生する反磁界が垂直方向に対して強くなって垂直方向に磁化容易軸を持ちにくくなる。このため、垂直方向に磁化容易軸を持つものは、重希土類と遷移金属とから成るアモルファス合金に代表されるフェリ磁性体などに限られ、実際に期待できる垂直磁化のBrは0.25T程度であるからである。
【0027】
図5は、本発明に係る不揮発性メモリから信号を読み出す場合における磁界解析結果を示すグラフ図である。
同図に示すように、磁性体1Aが面内磁化の場合、磁性体のエッジ付近(x=2μm)で、大きなHyが得られる。これに対し、磁性体1Aが垂直磁化の場合には、Br=1Tであっても面内磁化ほどのHyが得られない。更に、より現実的なBr=0.25Tの場合には更にHyは小さくなる。
図4に示した点線の部分にホール素子の表面を設定した場合、ホール効果は垂直方向の磁界Hyに比例して大きくなるので、磁性体1Aの残留磁化方向は、垂直方向よりも面内方向の方が有利であることが分かる。
【0028】
次に、信号書き込み時を想定した解析を行った。
図6は、本発明に係る不揮発性メモリに信号を書き込む場合における磁界解析のためのホール素子モデルである。
同図に示すように、ホール素子のモデルとして、幅1μm、厚さ0.5μmのホール素子3Aを用いる(電流を流す部分の大きさである。)。ここで、x方向は幅を示し、y方向は厚さを示す。ホール素子3Aはx=0.5μmからx=1.5μm、y=0μmからy=−0.5μmの領域を占めている。
【0029】
このホール素子3Aに、紙面に垂直方向に、手前から奥に向う方向に100mAの電流を流したとき、ホール素子3Aからy方向に0.05μm離れたところのx=0μmからx=1μmの範囲(図6の点線で示した線上)における、x方向の磁界Hxおよびy方向の磁界Hyを解析した。
【0030】
図7は、本発明に係る不揮発性メモリに信号を書き込む場合における磁界解析結果を示すグラフ図である。
同図に示すように、xの全領域でHxは60Oe以上になっている。これは、図6に示す点線位置に磁性体を配置した場合、保持力Hcが60Oe以下であれば、磁性体をxの正の方向に磁化させることができ、図2の(A)における信号“1”の書き込みを出来ることを意味する。
信号“0”を書き込む場合は、図6に示すホール素子に流す電流の方向を、紙面に垂直な方向で奥から手前にするだけで良く、他は同様である。
【0031】
更に、磁性体の交換結合が強く、保持力Hcの磁界で一斉に磁化反転する性質を有する磁性体であれば、磁性体の半分以上の領域で保持力Hc以上の磁界が印加されれば信号が書き込める。図7の例では、半分以上の領域(x=0.49μmからx=1.0μmの領域)でHxは250Oe以上になっているので、保持力Hcは250Oe以下であれば良い。
【0032】
磁性体に信号を書き込むための磁界の強さはホール素子に流す電流の大きさに比例するので、磁性体の特性と位置に応じて、書き込みのための電流値を設定すれば良い。
一方、読み出しを行う場合のホール素子に流す電流値は、磁性体に印加される磁界が保持力以下になるように設定する。このとき、磁性体の交換結合が強く、保持力Hcの磁界で一斉に磁化反転する性質の磁性体であれば、磁性体の半分以上の領域で保持力Hc以下の磁界であれば、破壊読み出しになることはないので、電流値のマージンが大きくとれる。
【0033】
次に、磁性体について説明する。
本発明に係る最良の磁性体としては、少なくともCoとSmとを含有したアモルファス合金を用いるのが好ましいとの所見を得た。
図8は、CoSm膜の面内容易軸方向のM−Hカーブである。
図9は、CoSm膜の3方向のM−Hカーブである。
図8及び図9に示されるCoSm薄膜はマグネトロンスパッタ法で所定の基板上に作製されたものである。そのサイズは、縦10mm、横10mm、厚さ0.1μmである。成膜時には、約50Oeの磁界が基板に印加され、磁化容易軸はその磁界方向に付与される。
【0034】
図8は、膜面内方向の磁化容易軸方向に磁界を印加した場合である。同図より、保持力Hc=120Oe、残留磁化Mr=8m emu/cm2×0.1μm=800emu/cm3である。Br[T]=(4π/104)×Mr[emu/cm3]であるので、Br=(4π/104)×800=1.0Tである。
同図から分かるように、このCoSm薄膜は、Hcの磁界のところで一斉に磁化反転が起きており、S*は0.9以上あり、ほぼ1に近い。また、角型比(飽和磁化Msと残留磁化Mrとの比Mr/Ms)も0.9以上でほぼ1に近い。Hcの値は小さ過ぎると記録安定性が悪く、大き過ぎると大きな書き込み電流が必要になるので、100Oeから200Oeの範囲が好ましい。
【0035】
図9は、図8に示した膜面内方向の磁化容易軸方向に加えて、膜面内方向の磁化困難軸方向および膜面垂直方向の3方向に対して、H軸を10kOeまで広げて測定したものである。
同図より明らかに、膜面内方向の磁化容易軸方向に対して極めて強い異方性を有している。異方性磁界Hkは困難軸方向のM−Hカーブが飽和する磁界と定義することができるので、面内方向に対してはHk=4kOe、垂直方向も含めた3次元的な意味でのHkは約40kOe(垂直方向のカーブにおいて、10kOeでのMが約Ms/4であるので)に達する。
【0036】
Co−Sm薄膜にこのような一軸異方性を付与する方法としては、上記のように成膜時に基板に磁界を印加する方法以外に、成膜後、磁化が飽和する磁界を印加しながら結晶化温度以下で熱処理を行う方法もある。
ここで用いられるCo−Smは、広く永久磁石材料として用いられる結晶質とは異なり、アモルファスであることがX線回折によって確かめられている。つまり、本Co−Sm薄膜に付与される一軸異方性は、Co原子とSm原子との原子配列による誘導磁気異方性と強い交換結合に寄与するものである。
【実施例1】
【0037】
図10は、本発明の不揮発性メモリの第1実施例を示す構成図である。
図11は、第1実施例の不揮発性メモリを用いた不揮発性メモリアレイの構成図である。
図10に示すように、第1実施例の不揮発性メモリ20は、基板(図示しない)上に形成された4端子構造を有するホール素子13と各端子13A、13B、13C、13D上に形成された電極19A、19B、19C、19Dと、ホール素子13の中央の感磁部に一端を接して配置されるホール素子13上に順次形成された所定形状の絶縁体12と磁性体11とから構成される。
【0038】
ここで、絶縁体例えばガラス基板上に、例えばInSbからなるホール素子13が形成されている。ホール素子13は、図のように十字型になっており、端子13A、13B、13C、13Dが形成されている。あるいは、SI(Semi−insulated)GaAs基板上に、十字型にn−GaAsをエピタキシャル成長させてホール素子13とする。
ホール素子13の端子13A、13B、13C、13Dの幅は1μmとし、厚さは0.5μmとする。長さは、特別限定しないが、電極19A〜19Dが形成できれば良い。
【0039】
ホール素子13上に、SiO2からなる絶縁体12とCo−Smからなる磁性体11を順次積層する。磁性体11とホール素子13との位置関係は、図6で示したとおりとし、磁性体の一端がホール素子13の中央の感磁部の略中央に位置しており、磁性体11のサイズは、長さ1μm、厚さ0.1μm、幅はホール素子13上からみ出さない大きさにする。
絶縁体12は磁性体11より一回り大きくして、磁性体11とホール素子13を絶縁できるようにしておく。
【0040】
磁性体11を構成するCo−Smは図8、図9で示した磁気特性を有し、磁化容易軸14は図10に図示する左右方向(矢印の方向:端子13Cと端子13Dを結ぶ方向)に設定する。
ホール素子13の各端子13A、13B、13C、13D上にはAl合金からなる電極19A、19B、19C、19Dがそれぞれ形成されている。
【0041】
磁性体11に信号を書き込む場合は、電極19Aと電極19Bとの間に、図示しない電源により、所定の電流を流し、この電流による磁界によって磁性体11の磁化を左右のいずれかの方向に向ける。電流を流す方向は、前述した書き込みの原理に従って、書き込む信号に応じて、磁性体11の磁化を左右のどちらの方向に向けるかで定める。
【0042】
流す電流値Iwは、50mA以上とする。その理由について説明する。図7において、Iw=100mAのとき、磁性体が配置されるxの領域(図でx=0〜1μmの領域)の半分以上の領域(x=0.5〜1.0μmの領域)でHxは250Oe以上になっている。IwとHxとは比例するので、Iw=50mAのときにはxの半分以上の領域で、Hxは250×(50/100)=125Oe以上となる。ここで、磁性体11がCo−Smアモルファス合金であって、Hcが120Oeであるので、xの半分以上の領域で、Hxが120Oe以上となっているので、Iw=50mAで磁性体11の磁化を反転させることができ、磁性体11に信号が書き込めるからである。
【0043】
次に、書き込まれた信号を読み出すためには、前述した読み出しの原理に従って、50mAより小さな電流Ir、例えば5mAを、図示しない電源により、電極19Aと電極19B2との間に流し、電極19Cと電極19Dとの間に接続した電圧計15により、印加された電圧を読み出し信号として検出する。電流値Irを、xの半分以上の領域でHxがHcを超えない値に選ぶことによって、読み出し時に磁性体11の磁化が反転することはない。
【0044】
次に、図11に、不揮発性メモリ20をアレイ化した場合の例を示す。
同図においては、不揮発性メモリ20を3行3列にマトリクス状に配置した例を示してある。なお、不揮発性メモリ20の配置数は任意に選べるものである。
配置する不揮発性メモリを、この行列に対応して、記号M11、M12、M13、M21、M22、M23、M31、M32、M33と表してある。これに対応する各ホール素子をH11〜H33とし、各磁性体をJ11〜J33と表示してある。
各不揮発性メモリM11〜M33には、これを選択するための電界効果型トランジスタ(FET)T11〜T33が接続されている。
FETT11〜T33の各ドレインDは、各ホール素子H11〜H33の図示下方の端子に接続されている。
【0045】
B1〜B4は電流駆動線である。
R1〜R4は読出し線である。
W1〜W3はメモリ選択線である。
以下、説明の簡単のために1つの不揮発性メモリM11の動作について説明する。他のメモリについても同様であるのでその説明を省略する。
【0046】
電流駆動線B1が、メモリM11を構成するホール素子H11の図示上方の端子に接続している。電流駆動線B2はFETT11のソースSに接続している。
読出し線R1が、ホール素子H11の図示左方の端子に接続している。読出し線R2はホール素子の図示右方の端子に接続している。
メモリ選択線W1はFETT11のゲートGに接続している。
【0047】
ここで、メモリM11に信号を書き込む場合、メモリ選択線W1を通してFETT11のゲートGに電圧を印加して、FETT11をオンにし、電流駆動線B1と電流駆動線B2との間に電圧を印加して、ホール素子H11の上方の端子と下方の端子間に、書き込み電流Iwを流す。これにより、ホール素子H11の左方と右方の端子間の方向に磁化容易軸を有して配置されている磁性体J11を所定の方向に磁化させる。書き込み電流Iwの方向は電流駆動線B1及び電流駆動線B2に印加する電圧の大小で制御し、書き込み電流のIwの大きさは、メモリ選択線W1に印加する電圧、つまりFETT11のゲート電圧で制御する。
【0048】
次に、メモリ11に書き込まれた信号を読み出す場合は、メモリ選択線W1に電圧を印加してFETT11をオンにし、電流駆動線B1と電流駆動線B2との間に電圧を印加してホール素子H11の上方の端子と下方の端子間に、読出し電流Irを流す。ホール素子の左方の端子に接続する読出し線R1と、右方の端子に接続する読み出し線R2間で発生するホール電圧を読み出し信号として検出する。このときメモリ選択線W1に印加する電圧値は、書き込み時に印加する電圧よりも小さく設定して、磁性体J11の磁化が反転しないようにする。
以上、メモリアレイを構成するのにメモリとFETを別々に設けて配置構成した例を説明した。
【実施例2】
【0049】
図12は、本発明の不揮発性メモリの第2実施例を示す構成図である。
図13は、第2実施例の不揮発性メモリを用いた不揮発性メモリアレイの構成図である。
本第2実施例の不揮発性メモリにおいては、ホール素子部にFET構造を設け、より高密度化を図った。
図12の(A)は、不揮発性メモリ30の上面図であり、図12の(B)は、図12の(A)中のX−Y断面図である。
【0050】
図12の(A)及び(B)に示すように、不揮発性メモリ30は、4端子構造のホール素子兼FET23と、その上に順次形成された絶縁体22と磁性体21とから構成される。
ホール素子23の端子23C、端子23D上には、これと電気的に接続する電極29A、電極29Bがそれぞれ形成されている。
【0051】
磁性体21は、その一端をホール素子兼FET23の中央の感磁部の中央に接して配置されており、端子23Cと端子23Dとを結ぶ方向に磁化容易軸24を有している。N型ホール素子兼FET23の端子28Aと端子28Bを結ぶ方向にFETが形成されている。ホール素子兼FET23の中央の感磁部のN型領域(ゲートになる)上には、所定形状のゲート酸化膜26GS、ゲート電極26GDが順次形成されている。端子23A側には、P型領域であるソース26Sが形成されており、端子23B側には、P型領域のドレイン26Dが形成されている。このように、ホール素子兼FET23中に、ソース26S、ゲート、ドレイン26Dから構成されるFETが形成されている。
【0052】
上述したCo−Smからなる磁性体21は、ゲート電極26GD上にまたがって、絶縁体22を介して配置されている。
ドレイン26Dには端子28Dが接続され、ゲート電極26GDには端子28Gが接続され、ソース26Sには端子28Sが接続され、それぞれ図示しない接続線と接続している。
【0053】
磁性体21に信号を書き込む場合は、ゲート電極26GDに所定電圧を印加して、FETをオンにし、ソース26Sとドレイン26D間に、所定の書き込み電流Iwを流す。書き込み電流Iwの大きさは、ゲート電極26GDに印加する電圧により、制御し、その方向は、ソース26Sとドレイン26Dに印加する電圧で制御する。この記録電流Iwによる磁界によって磁性体21の磁化を左右のいずれかの方向に向ける。電流を流す方向は、前述した書き込みの原理に従って、書き込む信号に応じて、磁性体11の磁化を左右のどちらの方向に向けるかで定める。
【0054】
次に、書き込まれた信号を読み出すためには、前述した読み出しの原理に従って、電流Irを、ゲート電極26GDに所定電圧を印加してFETをオンにして、ソース26Sとドレイン26D間に流し、電極29Aと電極29Bとの間に接続した電圧計25により、電極間の電圧を読み出し信号として検出する。
書き込み電流Iw、読出し電流Irの大きさは、それぞれ上述の第1実施例と同様にする。
【0055】
次に、図13に、不揮発性メモリ30をアレイ化した場合の例を示す。
同図においては、不揮発性メモリ30を3行3列にマトリクス状に配置した例を示す不揮発性メモリアレイ300を示してある。ここでは、配置する不揮発性メモリを、この行列に対応して、記号m11〜m33のように表してある。これに対応する各磁性体をj11〜j33と表示してある。なお、不揮発性メモリ30の配置数は任意に選べるものである
各不揮発性メモリm11〜m33には、FETが形成してある。ソースをs、ドレインをd、ゲートをgと表示してある。
【0056】
b1〜b4は電流駆動線である。
r1〜r4は読出し線である。
w1〜w3はメモリ選択線である。
以下、説明の簡単のために1つの不揮発性メモリm11の動作について説明する。他のメモリについても同様であるのでその説明を省略する。
【0057】
電流駆動線b1が、メモリm11を構成するFETのソースsに接続している。電流駆動線b2はFETのドレインdに接続している。
読出し線r1が、メモリm11の図示左方の端子に接続している。読出し線r2は図示右方の端子に接続している。
メモリ選択線w1はFETのゲートgに接続している。
【0058】
ここで、メモリm11に信号を書き込む場合、メモリ選択線w1を通してゲートgに電圧を印加して、FETをオンにし、電流駆動線b1と電流駆動線b2との間に電圧を印加して、ソースsとドレインd間に、書き込み電流Iwを流す。これにより、左方と右方の端子間の方向に磁化容易軸を有して配置されている磁性体j11を所定の方向に磁化させる。書き込み電流Iwの方向は電流駆動線b1及び電流駆動線b2に印加する電圧の大小で制御し、書き込み電流Iwの大きさは、メモリ選択線w1に印加する電圧、つまりゲート電圧で制御する。
【0059】
次に、メモリm11に書き込まれた信号を読み出す場合は、メモリ選択線w1に電圧を印加してFETをオンにし、電流駆動線b1と電流駆動線b2との間に電圧を印加してソースsとドレインd間に、読出し電流Irを流す。メモリm11の左方の端子に接続する読出し線r1と、右方の端子に接続する読み出し線r2間で発生するホール電圧を読み出し信号として検出する。このときメモリ選択線w1に印加する電圧値は、書き込み時に印加する電圧よりも小さく設定して、磁性体j11の磁化が反転しないようにする。
以上、メモリアレイを構成するのにメモリのホール素子にFETを組み込んで配置構成した例を説明した。
これによれば、第1実施例で説明したメモリよりサイズを小さくすることができ、大容量のメモリとして有効である。
【0060】
以上説明したように、本発明の不揮発性メモリは、ホール素子と磁性体とが積層されて構成されており、磁性体の残留磁化の方向をメモリ情報に対応させ、磁性体の磁化が反転しうる電流を所定の方向にホール素子に流して磁性体の磁化を所定の方向に向けることによって情報の書き込みを行い、磁性体の磁化が反転しない電流をホール素子に流し、磁性体から発生する磁界によって生じるホール電圧を検出することで情報の読み出しを行う構成としたので、メモリ構成が簡単になり、製造コストが安く、製造不良の発生頻度も低くなり、歩留りを向上することが出来る。
【0061】
また、メモリを構成する磁性体が一軸異方性を有し、磁化容易軸がホール素子に印加する電流に対してほぼ直角の方向に配置され、磁性体の一方の磁極から発生する磁界がホール素子の感磁部に位置する構成としたので、情報の読み出し時に、磁性体から発生する磁界が効率良くホール素子の感磁部に達し、大きな読み出し信号を得ることができる。
また、磁性体を、少なくともCoとSmとを含有したアモルファス合金としたので、上記特性を有するとともに、磁性体内部で交換結合力が強いので、設定できる書き込み電流のマージンを大きくすることが出来る。
【図面の簡単な説明】
【0062】
【図1】本発明に係る不揮発性メモリの基本構成図である。
【図2】本発明に係る不揮発性メモリに信号を書き込む場合を説明するための模式図である。
【図3】本発明に係る不揮発性メモリから信号を読み出す場合を説明するための模式図である。
【図4】本発明に係る不揮発性メモリから信号を読み出す場合における磁界解析のための磁性体モデルを示す図である。
【図5】本発明に係る不揮発性メモリから信号を読み出す場合における磁界解析結果を示すグラフ図である。
【図6】本発明に係る不揮発性メモリに信号を書き込む場合における磁界解析のためのホール素子モデルである。
【図7】本発明に係る不揮発性メモリに信号を書き込む場合における磁界解析結果を示すグラフ図である。
【図8】CoSm膜の面内容易軸方向のM−Hカーブである。
【図9】CoSm膜の3方向のM−Hカーブである。
【図10】本発明の不揮発性メモリの第1実施例を示す構成図である。
【図11】第1実施例の不揮発性メモリを用いた不揮発性メモリアレイの構成図である。
【図12】本発明の不揮発性メモリの第2実施例を示す構成図である。
【図13】第2実施例の不揮発性メモリを用いた不揮発性メモリアレイの構成図である。
【符号の説明】
【0063】
1、1A…磁性体薄膜(磁性体)、2…絶縁体、3、3A…ホール素子、4a、4b…磁化、5a5b…磁界、6r、6wa、6wb…電流、7…差動アンプ、8a、8b…磁界、9C、9D…電極、10…不揮発性メモリ、11…磁性体薄膜(磁性体)、12…絶縁体、13…ホール素子、14…容易軸方向、15…電圧計、19A、19B、19C、19D…電極、20…不揮発性メモリ、21…磁性体薄膜(磁性体)、22…絶縁体、23…ホール素子兼FET、23A、23B、23C、23D…端子、24…容易軸方向、25…電圧計、26…FET、26D…ドレイン、26G…ゲート、26S…ソース、26GD…ゲート電極、26GS…ゲート酸化膜、27…基板、28A、28B、28D、28G、28S…端子、29A、29B…電極、30…不揮発性メモリ、200、300…不揮発性メモリアレイ。


【特許請求の範囲】
【請求項1】
十字状パターンを有するホール素子上に絶縁膜を介して形成された磁性薄膜からなる不揮発性メモリにおいて、
前記磁性薄膜を容易軸が前記十字状パターンの電圧出力方向に沿い、かつ前記十字状パターン上に形成したことを特徴とする不揮発性メモリ。
【請求項2】
前記磁性薄膜は、矩形状の一軸異方性を有し、少なくともCoとSmとを含有するアモルファス合金からなることを特徴とする請求項1記載の不揮発性メモリ。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【公開番号】特開2006−173541(P2006−173541A)
【公開日】平成18年6月29日(2006.6.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−367900(P2004−367900)
【出願日】平成16年12月20日(2004.12.20)
【出願人】(000004329)日本ビクター株式会社 (3,896)
【Fターム(参考)】