説明

中〜高炭素鋼線材の連続加工熱処理ライン

【課題】 3方ロールの圧延機や4方ロールの圧延機で製造している中〜高炭素鋼線材よりも、さらなる高強度・高靭性の中〜高炭素鋼線材を製造することができる中〜高炭素鋼線材の加工熱処理ラインを提供すること
【解決手段】 中〜高炭素鋼線材の連続加工熱処理ラインにおいて、素線鋼材を圧延温度に加熱する第1の加熱装置の下流にトータル減面率50%以上を可能とする2方ロール圧延機群および圧延直後5秒以内に冷却を開始する圧延直後冷却装置、鋼材全断面をMf点温度以下に冷却する焼入れ冷却ジャケット、焼き戻し温度に加熱する第2の加熱装置、インデント加工用ロールダイスもしくは寸法調整のためのスキンパスロールダイスと、焼き戻し冷却ジャケットとを順に設置したことを特徴とする中〜高炭素鋼線材の連続加工熱処理ライン。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、PC鋼棒、ばね鋼材、高炭素鋼線材(ワイヤロープ、タイヤコード)等に使用される中〜高炭素鋼線材を製造するための連続加工熱処理ラインに関するもので、特に、強度、靭性に優れた中〜高炭素鋼線材を製造するための加工熱処理ラインに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、PC鋼棒、ばね鋼材、高炭素鋼線材等の中〜高炭素鋼線材には、耐遅れ破壊特性の優れた高強度鋼線材が要求され、この要求を満たすために種々の技術が提案されている。
【0003】
例えば、引張強度145kgf/mm2以上を有し、耐遅れ破壊特性に優れるPC鋼棒の製造方法として、鋼の熱間圧延において、圧延温度Tfが700℃≦Tf≦850℃を満たす条件で、30%以上の圧下率を与えた後水焼入れし、さらに焼戻しを行うに際して、焼戻しを350℃以上500℃以下で行うことにより、旧オーステナイト粒の長さと幅の比であるアスペクト比が2以上とする方法(例えば、特許文献1参照)や、平均粒径が5μm以下のフェライトとマルテンサイトあるいは焼戻マルテンサイトを主体の組織とし、フェライトの平均面積率が20〜40%であることを特徴とする高強度PC鋼棒について、Ac3温度以上まで急速加熱を行い、減面率20%以上の加工を短時間で行いAr3以下Ar1以上の温度から焼入れして製造する方法(例えば、特許文献2参照)等が提案されている。
【0004】
そして、これら中〜高炭素鋼線材の連続加工熱処理ラインによる製造では、素材鋼材を高周波誘導加熱装置により加熱し、ロール圧延機により圧延した後に、焼入れ冷却ジャケットによる急冷焼入れ(加工焼入れ)し、高周波誘導加熱装置により所定温度に焼き戻すことによって製造されている。このような中〜高炭素鋼線材の加工熱処理ラインでは、3方ロールの圧延機や4方ロールの圧延機を加工熱処理ラインに配置しているのが通常である(例えば、特許文献2の図2、特許文献3の図1参照)。3方ロールの圧延機や4方ロールの圧延機では、寸法精度(例えば高い真円度)の良好なものが得られるという利点があることから、中〜高炭素鋼線材の加工熱処理ラインでは3方ロールの圧延機や4方ロールの圧延機が一般的に用いられている。
【0005】
ところが、このような3方ロールの圧延機や4方ロールの圧延機で製造している中〜高炭素鋼線材よりも、さらなる高強度・高靭性の中〜高炭素鋼線材を得ることが望まれる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平7−300652号公報
【特許文献2】特開2001−294980号公報
【特許文献3】特開2003−27138号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
そこで、本発明は、3方ロールの圧延機や4方ロールの圧延機で製造している中〜高炭素鋼線材よりも、さらなる高強度・高靭性の中〜高炭素鋼線材を製造することができる中〜高炭素鋼線材の加工熱処理ラインを提供することを課題とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、中〜高炭素鋼線材の強度、靭性を向上させることについて鋭意研究し、その結果、2方ロールの圧延機を用いて熱間で素材鋼材を圧延すると、3方ロールの圧延機や4方ロールの圧延機で圧延したよりも、圧延線材の全断面に亘って組織を微細化でき、高強度、高靭性の中〜高炭素鋼線材が得られることを見出して、本発明を完成した。
【0009】
本発明の要旨は、次の通りである。
【0010】
(1)中〜高炭素鋼線材の連続加工熱処理ラインにおいて、素線鋼材を圧延温度に加熱する第1の加熱装置の下流にトータル減面率50%以上を可能とする2方ロール圧延機群および圧延直後5秒以内に冷却を開始する圧延直後冷却装置とを設置したことを特徴とする中〜高炭素鋼線材の連続加工熱処理ライン。
【0011】
(2) 前記2方ロール圧延機群および前記圧延直後冷却装置の下流に、焼入れ冷却ジャケット、焼き戻し温度に加熱する第2の加熱装置、インデント加工用ロールダイスもしくは寸法調整のためのスキンパスロールダイス、焼き戻し冷却ジャケットとを順次設置したことを特徴とする前記(1)に記載の中〜高炭素鋼線材の連続加工熱処理ライン。
【0012】
(3) 前記2方ロール圧延機群と前記圧延直後冷却装置、および前記インデント加工用ロールダイスもしくは寸法調整のためのスキンパスロールダイスとを加工熱処理ラインヘ挿入および搬出可能としたことを特徴とする前記(2)に記載の中〜高炭素鋼線材の連続加工熱処理ライン。
【0013】
(4) 前記第1または第2の加熱装置が、高周波誘導加熱または直接通電加熱による加熱装置であることを特徴とする前記(1)〜(3)のいずれかに記載の中〜高炭素鋼線材の連続加工熱処理ライン。
【発明の効果】
【0014】
本発明の中〜高炭素鋼線材の加工熱処理ラインによれば、従来の3方ロールの圧延機や4方ロールの圧延機で製造している中〜高炭素鋼線材よりも、さらなる高強度・高靭性の中〜高炭素鋼線材を得ることができる。また、加工熱処理ラインに設置した2方ロール圧延機群と前記圧延直後冷却装置、およびインデント加工用ロールダイスもしくは寸法調整のためのスキンパスロールダイスとの線材の加工を行う加工装置をラインヘ挿入および搬出可能としたので、一般的な線材の連続熱処理を行なうことができ、本発明の中〜高炭素鋼線材の連続加工熱処理ライン一つで、一般的な線材と中〜高炭素鋼線材とを適宜造り分けすることが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】2方ロール圧延方式での圧延ロール及び被圧延材の正面図であり、パスライン出側方向から見た図である。
【図2】4方ロール方式の圧延機をスタンドのパスライン出側方向から見た断面図である。
【図3】線材の断面の圧延組織を示す図で、(a)は3方方ロールによる圧延組織、(b)は2方ロールによる圧延組織を示す図である。
【図4】3方ロールと2方ロール圧延方式の違いによる線材の引張強さ(TS)と絞り(Ra)との関係を示す図である。
【図5】図5は、加熱温度を変えて圧延し、圧延直後水冷を開始した水冷開始時間(s)と平均γ粒度(Nγ)との関係を示す図である。
【図6】加熱温度と圧延直後急冷がγ粒アスペクト比に与える影響を示す図である。
【図7】加熱温度と圧延直後急冷がγ粒度に与える影響を示す図である。
【図8】粗粒鋼(γアスペクト比1.6)と細粒鋼(γアスペクト比2.2)の鋼線材について、引張強度(MPa)と疲労破壊強度(MPa)との関係を示す図である。
【図9】本発明の中〜高炭素鋼線材の加工熱処理ラインを示す図である。
【図10】本発明の中〜高炭素鋼線材の加工熱処理ラインの変形例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
一般に、線材のロール圧延法には、2方ロール方式、3方ロール方式や4方ロール方式がある。
【0017】
図1は、2方ロール方式での圧延ロール及び被圧延材の正面図であり、パスライン出側方向から見た図である。図2は、4方ロール方式の圧延機をスタンドのパスライン出側方向から見た断面図である。
【0018】
2方ロール方式の圧延機では、図1に示すように、被圧延材1はロール2及び3により上下方向から挟みつけられて圧延される。2方ロール方式は圧延パスにおける噛み出しが少ないので、1パスの減面率を大きくできる利点があるが、製品寸法に十分な精度が得られないという問題がある。
【0019】
このような2方ロール方式の圧延機と比べて3方ロールや4方ロール方式の圧延機では、図2の3方ロール方式の圧延機の例に示すように、被圧延材1を3方向のロール4〜6により圧延するため、被圧延材1への圧下成分が、矢印に示すように被圧延材のパスラインに直交する断面内で求心的に均一に作用するために、高い寸法精度が得られるという特徴がある。
【0020】
中〜高炭素鋼線材の加工熱処理ラインでは、圧延後に焼入れ、焼き戻しを行なって最終形状の製品とするため、製品寸法に十分な精度が得られる3方又は4方ロール方式の圧延機を線材の加工熱処理ラインに配置して圧延を行うのが通常である。
【0021】
本発明者らは、3方又は4方ロール方式の圧延機を線材の加工熱処理ラインに配置して圧延を行った中〜高炭素鋼線材よりも、さらに高強度、高靭性の中〜高炭素鋼線材(棒、線等を含む)を得ることについて鋭意研究し、2方ロール方式の圧延機による圧延では、3方又は4方ロール圧延機に比較して、大圧下が可能で、線材の全断面に亘って組織を微細化できることに着目して研究を進めた。
【0022】
図3は、圧延線材の断面の圧延組織を示す図で、(a)は3方ロールによる圧延組織、(b)は2方ロールによる圧延組織を示す図である。
【0023】
3方ロールによる圧延線材7の断面の圧延組織は、3方ロール圧延機では圧下成分が、被圧延材のパスラインに直交する断面内で求心的に均一に作用するため、図3(a)に示すように、主として表層部の3ヶ所に断面U字状の模様部分の範囲で加工歪が生じて組織が微細化され、微細化組織領域8が得られる。これに対して、2方ロールによる圧延線材7の断面の圧延組織は、2方ロールの圧延機では圧下成分が大きいので、図3(b)に示すように、断面形状が四角形状の模様部分の範囲で加工歪が生じて組織が微細化され、全断面に亘って広い範囲で組織が微細化された微細化組織領域8が得られる。
【0024】
したがって、2方ロール圧延機による圧延では、3方又は4方ロール圧延機による圧延よりも、圧延線材の断面組織を広範囲領域で微細化できることがわかる。特に、線径が太くなるほど2方ロール圧延機による方が圧延線材の断面組織の微細化領域が多くなる。
【0025】
そこで、本発明では、通常の圧延速度、例えば250〜300mm/sで2方ロールによる圧延を行なって、組織を線材の全断面積に亘って微細化し、圧延後可能な限り早く冷却を開始(5秒以内、好ましくは1秒以内)し、圧延直後冷却することで、微細化した組織が再結晶して粗大化することを防止して、高強度、高靭性の中〜高炭素鋼線材を得るようにした。また、製品の寸法制度が要求される場合には、焼き戻し処理時に加熱を行なうので、この加熱を利用してインデント加工や寸法精度の調整の加工を行うことで、2方ロール圧延の寸法精度に係わる欠点を補うように工夫した。なお、冷却方法としては、ミスト冷却やスプレー水冷却等の公知の冷却方法を適用することができる。
【0026】
このように2方ロール圧延機による圧延加工と圧延直後急冷を行なうことにより、線材組織を微細で細長い圧延組織のままの組織とすることによって、3方又は4方ロール圧延機で製造した線材よりも、さらに高強度、高靭性の中〜高炭素鋼線材が得られることを知見して本発明を完成した。
【0027】
なお、本発明でいう中〜高炭素鋼線材とは、C:0.3〜1.1質量%含有する炭素鋼線材であって、PC鋼棒、ばね鋼材、高炭素鋼線材(ワイヤロープ、タイヤコード)等に用いられる線材を意味する。
【0028】
以下本発明で知見した試験結果を説明する。
【0029】
図4は、3方ロールと2方ロール圧延方式の違いによる線材の引張強さ(TS)と絞り(Ra)との関係を示す図である。
【0030】
即ち、質量%で、C:0.72%、Si:0.18%、Mn:0.7%、残部Fe及び不可避不純物とから成る化学成分のJIS SWRH 72Bに相当するワイヤロープ用素材鋼材(5.5mmφ)を供試材して用い、2方ロール又は3方ロール圧延方式により、圧延入側温度が850℃で3.5mmφの線材に圧延速度250mm/sで圧延(減面率:59%)し、5秒以内の直後冷却を開始し、焼入れジャケットにより焼入れしてマルテンサイト組織にした。この焼入れ線材の引張強度は約3000MPaであった。次いで、焼き戻し温度が350〜500℃の範囲内の種々の温度で焼き戻しを施して、焼き戻しマルテンサイト組織とした線材の引張強さ(TS)と絞り(Ra)との関係を示したものである。図4に示すように、2方ロール圧延した場合と3方ロール圧延した場合を比較すると、低強度域(TS:1900MPa以下)での両者の差は小さいが、高強度域(TS:1900超〜2500MPa)では、2方ロール圧延した方が3方ロール圧延した場合よりも、引張強度(TS)が矢印で示すように大幅に改善され、また、絞り(Ra)も大幅に改善されていた。例えば、絞り(Ra)50%を目標とする線材を得る場合に、3方ロール圧延では引張強度(TS)が約2200MPaの線材となるが、2方ロール圧延では引張強度(TS)が約2400MPaの線材を得ることができ、2方ロール圧延すると、高い引張強度で高い延性の圧延線材が得られることとなる。
【0031】
図5は、加熱温度を変えて圧延し、圧延直後水冷を開始した水冷開始時間(s)と平均γ粒度(Nγ)との関係を示す図で、いずれの加熱温度であっても水冷開始時間が長いと平均γ粒度が大きくなり、微細組織が得られなくなる。したがって、冷却条件が同じ条件で冷却した場合に、線材の強度を高めるためには、冷却開始時間を少なくとも5秒以内とすることが好ましく、そして、冷却開始時間は短時間であるほど好ましいことがわかる。従来の圧延後に冷却ジャケットで冷却する設備では、圧延機と冷却ジャケットとの間隔が離れているため、冷却開始時間を5秒以内とする事はできず、平均γ粒度が大きくなり微細組織が得られていなかった。
【0032】
図6は、加熱温度と圧延直後急冷がγ粒アスペクト比に与える影響を示す図で、0.7%Mn鋼の圧延直後の通常急冷(圧延後5秒を超えて急冷開始)と直後急冷(圧延後0.07秒で急冷開始)を行った場合の加熱温度とγ粒アスペクト比との関係を示し、図7は、加熱温度と圧延直後急冷がγ粒度に与える影響を示す図で、0.7%Mn鋼の通常急冷と0.7%Mn鋼の直後急冷(圧延後0.07秒で急冷開始)を行った場合の加熱温度とγ粒度番号(No.)との関係を示している。
【0033】
この図6、図7に示すように、2方ロール圧延後に、直後急冷(圧延後0.07秒で急冷開始)を施すと、通常急冷(圧延後5秒を超えて急冷開始)した場合に比較して、未再結晶域圧延時のγ粒の伸長化(γ粒アスペクト比2.0以上となる)およびγ粒度の微細化を達成することができることがわかる。
【0034】
図8は、粗粒鋼(γアスペクト比1.6)と細粒鋼(γアスペクト比2.2)の鋼線材について、引張強度(MPa)と疲労破壊強度(MPa)との関係を示す図である。粗粒鋼と細粒鋼との線材を比較すると、細粒鋼の線材の方が引張強度は高く、疲労破壊強度も高いことが分かる。つまり、細粒鋼の線材としアスペクト比2.0以上とすることで、引張強度と疲労破壊強度を向上させることができる。
【0035】
これらの上述の試験結果から、2方ロールによる圧延を行なうと、γ粒アスペクト比が2以上で、組織を線材の全断面積に亘って微細化でき、圧延後に可能な限り早く(5秒以内、好ましくは1秒以内)冷却することで、微細化した組織が再結晶して粗大化することを防止でき、その結果、中〜高炭素鋼線材の強度、靭性を向上させることができることがわかった。したがって、本発明では圧延直後冷却の開始を5秒以内とした。なお、その開始時間の下限は設備の配置等の制約によって自ずと決定される。
【0036】
これらの試験結果に基づいて、本発明では、中〜高炭素鋼線材の加工熱処理ラインに2方ロール圧延機群および圧延直後冷却装置を直列的に配置し、従来の加工熱処理ラインで得られる中〜高炭素鋼線材よりも、さらに強度、靭性を改善した強度、靭性に優れた中〜高炭素鋼線材を製造できるようにした。
【0037】
本発明の中〜高炭素鋼線材の加工熱処理ラインを例示する図9に基づいて本発明を具体的に説明する。
【0038】
本発明の中〜高炭素鋼線材の連続加工熱処理ラインは、素材鋼材9を導入するピンチロ−ル10、高周波誘導加熱または直接通電加熱による第1の加熱装置11、2方ロ−ル圧延機群12、圧延直後冷却装置13、焼入れ冷却ジャケット14、第2の加熱装置15、インデント加工用ロールダイスもしくは寸法調整のためのスキンパスロールダイス16、焼戻し冷却ジャケット17、および、加工熱処理された中〜高炭素鋼線材を送り出すピンチロ−ル18を中〜高炭素鋼線材の連続加工熱処理ラインとして順次配列されている。
【0039】
なお、2方ロール圧延方式による寸法精度や表面形状の欠点を補うために、表面形状や寸法精度が必要とされる場合には、圧延線材の表面に節やリブを形成して異形にするインデント加工用ロールダイスもしくは寸法調整を施すようにするためのスキンパスロールダイスを配置するが、必要とされない場合には、インデント加工用ロールダイスもしくは寸法調整のためのスキンパスロールダイスを配置する必要は無い。
【0040】
本発明の中〜高炭素鋼線材の連続加工熱処理ラインでは、素材鋼材9を導入するピンチロ−ル10の下流に素材鋼材を圧延温度に短時間で加熱することができる高周波誘導加熱または直接通電による第1の加熱装置11が配置され素材鋼材を圧延機入り側温度700〜850℃の範囲の所定の温度に急速加熱し、加熱装置の下流に配置された2スタンドの2方ロ−ルのタンデム圧延機12により所定断面形状にトータル減面率50%以上で熱間圧延する。この第1の加熱装置11は、鋼線材を焼入れするために必要な加熱をも兼ねている。なお、2スタンドの2方ロ−ルのタンデム圧延機群を例示したが、必要に応じて2スタンド以上の複数スタンドである2方ロ−ルの圧延機群としてもよい。なお、2スタンドの2方ロ−ルの圧延機の場合は、圧延方向が90度異なる圧延機とすることが好ましい。
【0041】
これらの2方ロ−ル圧延機群12により圧延速度250〜300mmの圧延速度でトータル減面率50%以上の所定の減面率で熱間圧延された鋼線材は、圧延機の直後に配置されている圧延直後冷却装置13により圧延直後5秒以内に冷却を開始し、かつ、圧延直後冷却装置13の下流に配置されている焼入れ冷却ジャケット14にて鋼材全断面をマルテンサイト変態が終了するMf点温度以下に冷却してマテンサイト組織に焼入れする。その後、短時間で加熱することができる高周波誘導加熱または直接通電加熱等の第2の加熱装置15で350〜500℃の所定の焼戻し温度に加熱し、必要に応じてインデント加工用ロールダイスもしくは寸法調整のためのスキンパスロールダイス16により加工されて、焼戻し冷却ジャケット17により200℃以下に冷却されて焼戻される。こうして加工、焼入れ、焼戻しされた中〜高炭素鋼線材はピンチロ−ル18により送り出される。
【0042】
本発明で、圧延機入り側温度を700〜850℃とするのは、圧延温度が850℃を超えると圧延時の再結晶が顕著になり、アスペクト比が2以上の微細マルテンサイト組織を得ることが困難である。一方、圧延温度が700℃未満では所定のアスペクト比の組織を得るに十分な圧下率を確保できない。従って圧延温度を700℃以上850℃とした。
【0043】
また、本発明で2方ロール圧延機群によるトータル減面率50%以上とするのは、圧延時に素材鋼材に加工歪を導入し、オ−ステナイトの細粒化とフェライトの変態を促進するためであって、トータル減面率で50%以上が必要であり、好ましくは60%以上である。トータル減面率の上限は特に規制されるものではないが、上限は90%とすることが好ましい。トータル減面率が90%を超えると内部にクラックが生じることがあるからである。
【0044】
そして、圧延直後5秒以内、好ましくは1秒以内に圧延直後冷却装置により冷却を開始し、かつ焼入れ冷却ジャケットにより線材全断面をマルテンサイト変態が終了するMf点温度以下に冷却して焼入れする。圧延直後冷却装置は、圧延機出側に近接して配置することで、圧延直後冷却の開始(5秒以内、好ましくは1秒以内)をすることができる。このため、焼入れ冷却ジャケットよりも小型の圧延直後冷却装置を圧延機出側と焼入れ冷却ジャケットとの間に設けることが好ましい。これら冷却装置での冷却手段としては、噴霧ノズルからミストを噴霧することや水流ノズルから水流を噴出させて冷却する等の公知の冷却手段を用いることができる。なお、従来の加工熱処理ラインでは、設備配置上の問題等で、焼入れ冷却ジャケットは圧延機出側に近接して設けられておらず、圧延直後冷却の開始は5秒を超えていた。
【0045】
本発明のように、高温に加熱される時間が短い短時間処理を行うことにより、旧オーステナイトの粒成長の抑制、さらには導入したひずみの回復が抑制され、アスペクト比が2以上で、粒径5μm以下の微細なマルテンサイトからなる組織を得ることができ、高い引張り強さを持った中〜高炭素鋼線材とすることができる。
【0046】
焼入れ後、高周波誘導加熱または直接通電加熱等の加熱装置で350〜500℃の所定の焼戻し温度に加熱し、必要に応じてインデント加工もしくは寸法調整のために加工を行った後、焼き戻しを行い焼戻マルテンサイト組織或いは焼戻マルテンサイトと焼入れマルテンサイト組織とする。焼戻し加熱速度は粒界への炭化物の析出による粒界脆化を抑制するために本発明では急速加熱とし、高周波誘導加熱または直接通電加熱が適している。焼き戻し加熱温度が350℃未満の温度では粒界脆化が顕著になり、遅れ破壊特性が悪化する。また、500℃を超える温度では強度が低下し、また安定して微細な粒界炭化物を得ることが困難なため、加熱温度域を350℃以上500℃以下とすることが好ましい。さらに、焼き戻し温度に加熱することで、インデント加工もしくは寸法調整のための加熱をも兼用させて実施できるという利点がある。
【0047】
これらの温度制御は、第1加熱装置の出側温度:T1、圧延直後冷却装置出側温度:T2、焼入れ冷却ジャケット出側温度:T3、第2の加熱装置2出側温度:T4、焼戻し冷却ジャケット出側温度:T5の夫々について所定の温度を得るため、2方ロール圧延機群の入側通材速度V1、第1の加熱装置および第2の加熱装置の入力熱量、並びに圧延直後水冷装置、焼入冷却ジャケットの水量(CT1)19、焼戻し冷却ジャケットの水量(CT2)20を制御することで実施することができる。
【0048】
すなわち、第1の加熱装置の出側温度T1制御は、線材サイズと2方ロール圧延機群による減面量により圧延加工発熱量が変化するため、2方ロール圧延機群の圧延前温度を第1の加熱装置の電流により制御する。圧延直後冷却装置出側温度T2制御は、第1加熱装置の出側温度T1温度、線材サイズと2方ロール圧延機群による減面量による圧延加工発熱量、および線材通材速度により変化するため、圧延直後冷却装置水量を制御する。
【0049】
焼入れ冷却ジャケット出側温度T3制御は、圧延直後冷却装置出側温度T2温度、線材サイズと線材通材速度により変化するため、焼入れ冷却ジャケットの水量を制御する。第2の加熱装置2出側温度T4制御は、焼入れ冷却ジャケット出側温度T3温度、線材サイズと線材通材速度により変化するため、加熱装置2の電流により制御する。焼戻し冷却ジャケット出側温度T5制御は、第2の加熱装置2出側温度T4温度、線材サイズとインデント加工もしくは寸法調整のためのスキンパスロールによる加工発熱量にて変化するため、焼戻し冷却ジャケット水量を制御する。
【0050】
これらの温度制御は各々独立制御すると共に、線材加工熱処理ライントータルとして、総合的に行うものである。
【0051】
そして、本発明の連続加工熱処理ラインで得られた中〜高炭素鋼線材は、引張強度1900MPaを超える高強度、高靭性のものであって、従来得られている中〜高炭素鋼線材よりも優れているものであった。
【0052】
図10は、本発明の中〜高炭素鋼線材の加工熱処理ラインの変形例を示す図である。
【0053】
図10に示す本発明の中〜高炭素鋼線材の加工熱処理ラインは、図7に示す加工熱処理ラインの変形例であって、「2方ロール圧延機群12と圧延直後冷却装置13」および「インデント加工用ロールダイスもしくは寸法調整のためのスキンパスロールダイス16」を加工熱処理ラインから矢印で示すように出し入れ可能としたものである。
【0054】
「2方ロール圧延機群12と圧延直後冷却装置13」および「インデント加工用ロールダイスもしくは寸法調整のためのスキンパスロールダイス16」を加工熱処理ラインから出し入れ可能とすることで、両者をライン外に出した場合は、一般的な線材の熱処理が可能となる。即ち、線材の加工熱処理ライン上に配置された圧延温度に加熱する高周波誘導加熱または直接通電加熱等の加熱装置および焼き戻し温度に加熱する高周波誘導加熱または直接通電加熱等の加熱装置で線材を加熱でき、そして、焼入れ冷却装置および焼戻し冷却装置で冷却が可能となるので、これらの加熱装置と冷却装置とを組み合わせることで、一般的な線材の連続熱処理を行なうことができる。
【0055】
また、インデント加工もしくは寸法調整が不要の場合には、後者の「インデント加工用ロールダイスもしくは寸法調整のためのスキンパスロールダイス16」をライン外に出せばよい。さらに、両者がライン内にある場合には、図9で述べたように線材の加工熱処理を行うことができる。
【0056】
したがって、本発明の線材の加工熱処理ラインの変形例によれば、線材の加工熱処理ライン一つで、一般的な線材と中〜高炭素鋼線材とを適宜造り分けすることが可能となる。
【0057】
以上、本発明の実施の形態を説明したが、本発明は、上記した形態に限定されるものではなく、要旨を逸脱しない条件の変更等は全て本発明の範囲に含まれる。
【符号の説明】
【0058】
1 被圧延材
2、3、4、5、6、 ロール
7 圧延線材
8 微細化組織領域
9 素材鋼材
10 ピンチロール
11 第1の加熱装置
12 2方ロール圧延機群
13 圧延直後冷却装置
14 焼入れ冷却ジャケット
15 第2の加熱装置
16 インデント加工用ロールダイスもしくは寸法調整のためのスキンパスロールダイス
17 焼き戻し冷却ジャケット
18 ピンチロール
19 水量(CT1)
20 水量(CT2)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
中〜高炭素鋼線材の連続加工熱処理ラインにおいて、素線鋼材を圧延温度に加熱する第1の加熱装置の下流にトータル減面率50%以上を可能とする2方ロール圧延機群および圧延直後5秒以内に冷却を開始する圧延直後冷却装置とを設置したことを特徴とする中〜高炭素鋼線材の連続加工熱処理ライン。
【請求項2】
前記2方ロール圧延機群および前記圧延直後冷却装置の下流に、鋼材全断面をMf点温度以下に冷却する焼入れ冷却ジャケット、焼き戻し温度に加熱する第2の加熱装置、インデント加工用ロールダイスもしくは寸法調整のためのスキンパスロールダイス、焼き戻し冷却ジャケットとを順次設置したことを特徴とする請求項1記載の中〜高炭素鋼線材の連続加工熱処理ライン。
【請求項3】
前記2方ロール圧延機群と前記圧延直後冷却装置、および前記インデント加工用ロールダイスもしくは寸法調整のためのスキンパスロールダイスとを熱処理ラインヘ挿入および搬出可能としたことを特徴とする請求項2記載の中〜高炭素鋼線材の連続加工熱処理ライン。
【請求項4】
前記第1または第2の加熱装置が、高周波誘導加熱または直接通電加熱による加熱装置であることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の中〜高炭素鋼線材の連続加工熱処理ライン。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2011−11245(P2011−11245A)
【公開日】平成23年1月20日(2011.1.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−158937(P2009−158937)
【出願日】平成21年7月3日(2009.7.3)
【出願人】(000006655)新日本製鐵株式会社 (6,474)
【Fターム(参考)】