説明

交流モータの駆動装置、及びこれを備えている駆動制御装置

【課題】交流モータで発生する逆起電力による影響を抑える。
【解決手段】制御装置20からの電流指令値と電流検知器17で検知された電流値との偏差に応じた電流指令値を出力するフィードバック制御部13と、制御装置20からモータ30の逆起電力に相当する電流値を示す電流補正指令を受け付け、フィードバック制御部13から出力された電流指令値に電流補正指令値を加算し、加算により得られた電流指令値を出力する部14,15と、この部14,15から出力された電流指令値に応じた駆動電流をモータ30に供給するモータドライバ回路16と、を備えている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電流指令に応じた駆動電流を交流モータに供給する交流モータの駆動装置、及びこれを備えている駆動制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
交流モータの駆動装置としては、例えば、以下の特許文献1に開示されているものがある。
【0003】
この特許文献1に開示されている駆動装置では、3相リニアモータのU相、V相、W相に供給する駆動電流の電流値をそれぞれ検知し、各相の検知電流値に基づいて、各相に供給する電力の指令電流値を変更している。すなわち、この駆動装置は、3相リニアモータのU相、V相、W相に供給する電流値をフィードバック制御して、電流指令値に対する実際の電流値の誤差分を少なくしている。
【0004】
【特許文献1】特開2005−304121号 公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
近年、リニアモータは、省電力化のために、推力定数が大きくなってきている。リニアモータでは、推力定数が大きくなると、これに応じて逆起電力定数も大きくなり、駆動装置とリニアモータとをつなぐ電力供給線に流れる逆起電力が大きくなる。また、近年では、リニアモータの可動子を高速移動させる傾向が高く、この場合も、電力供給線に流れる逆起電力が大きくなる。
【0006】
しかしながら、以上のように逆起電力が大きくなると、前述の特許文献1に記載の技術のように、電流フィードバック制御のみでは、モータ可動子の位置や速度を正確に制御することができないという問題点がある。
【0007】
本発明は、このような従来技術の問題点に着目し、モータ可動子の位置や速度をより正確に制御することができるモータの駆動装置及びこれを備えている駆動制御装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
前記問題点を解決するための発明に係る交流モータの駆動装置は、
電流指令に応じた駆動電流を交流モータに供給する交流モータの駆動装置において、
前記交流モータに供給される駆動電流の電流値を検知する電流検知器と、前記電流指令が示す電流値と前記電流検知器で検知された電流値との偏差に応じた電流値を示す新たな電流指令を出力する電流フィードバック制御手段と、前記交流モータの逆起電力に相当する電流値を示す電流補正指令を受け付け、前記電流フィードバック制御手段から出力された前記電流指令が示す電流値に、該電流補正指令が示す電流値を加算し、加算により得られた電流値を示す電流指令を出力する電流補正指令加算手段と、前記電流補正指令加算手段から出力された前記電流指令が示す電流値に応じた駆動電流を前記交流モータに供給するモータ駆動回路と、を備えていることを特徴とする。
【0009】
また、前記問題点を解決するための交流モータの駆動制御装置は、
以上の駆動装置と、該駆動装置の前記電流フィードバック制御手段に前記電流指令を出力する制御装置と、を備え、
前記制御装置は、
前記電流フィードバック制御手段に出力する前記電流指令を生成する電流指令生成手段と、前記交流モータの固定子に対する可動子の相対位置と前記逆起電力との予め定めた関係を用いて、該可動子の相対位置を検知する位置センサからの位置情報に応じた逆起電力を求め、該逆起電力に相当する電流値を示す前記電流補正指令を生成する電流補正指令生成手段と、を有することを特徴とする。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、制御装置から出力される電流指令値に、交流モータで発生する逆起電力に相当する電流値が加えられるので、モータ可動子の位置や速度をより正確に制御することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
以下、本発明に係る交流モータの駆動制御装置の実施形態について、図面を用いて説明する。
【0012】
本実施形態の駆動制御装置が駆動制御する交流モータは、図1に示すように、三相リニアモータ30である。この三相リニアモータ30は、可動子又は固定子を成す負荷コイルと、固定子又は可動子を成す永久磁石(図示されていない)と、固定子に対する可動子の相対位置を検知する位置センサ32と、を有している。負荷コイルとしては、U相コイル31uと、V相コイル31vと、W相コイル31wとがある。各相コイル31u,31v,31wの駆動側と反対側の端子は、相互に結線されて、電源回路40のアースに接続されている。
【0013】
以上の三相リニアモータ30を駆動制御する駆動制御装置は、三相リニアモータ30の各相に供給する駆動電流の電流値を示す電流指令、及びこの電流指令が示す電流値を補正する電流補正指令を出力する制御装置20と、電源回路40からの電力を各相毎の電流指令等に応じた駆動電流に調整して三相リニアモータ30の各相に供給する駆動装置10と、を備えている。
【0014】
制御装置20は、機能的には、前述の電流指令を生成する電流指令生成部21と、前述の電流補正指令を生成する電流補正指令生成部22と、を有している。電流補正指令生成部22は、三相リニアモータ30の固定子に対する可動子の相対位置と、三相リニアモータ30で発生する逆起電力との関係を示す式を保持しており、この式に位置センサ32で検知され可動子の相対位置を代入して、三相リニアモータ30で発生している逆起電力を求め、この逆起電力相当の電流値を示す電流補正指令を生成する。
【0015】
この制御装置20は、ハードウェア的には、コンピュータであり、各種演算処理を実行するCPUと、CPUが実行するプログラムやデータ等が予め格納されているROMと、CPUのワークエリア等になるRAMと、キーボード等の入力装置と、駆動装置10や三相リニアモータ30との間で信号の受送信を行うインタフェースと、を備えている。この制御装置20の前述の各機能部21,22は、いずれも、CPUがROM等に格納されているプログラムを実行することで機能する。
【0016】
駆動装置10は、三相リニアモータ30のU相コイル31uに電流を供給するU相駆動部11uと、V相コイル31vに電流を供給するV相駆動部11vと、W相コイル31wに電流を供給するW相駆動部11wと、制御装置20からの各種指令を示すディジタル信号をアナログ信号に変換するD/Aコンバータ12と、を有している。
【0017】
各相の駆動部11u,11v,11wは、いずれも、三相交流モータ30の対応相に供給される駆動電流の電流値を検知する電流検知器17と、この電流検知器17からの出力を増幅するアンプ18と、D/Aコンバータ12でアナログ信号に変換された制御装置20からの電流指令値と前記アンプ18からの出力との偏差に応じた電流値を示す新たな電流指令を出力する電流フィードバック制御部13と、D/Aコンバータ12でアナログ信号に変換された制御装置20からの電流補正指令を受け付ける補正指令入力部14と、電流フィードバック制御部13からの電流指令値に、補正指令入力部14からの電流補正指令が示す電流値を加算して、新たな電流指令を出力する電流補正指令加算部15と、この電流補正指令加算部15から出力された電流指令値に応じた駆動電流を三相リニアモータ30の対応相に供給するモータ駆動回路16と、を有している。
【0018】
電流フィードバック制御部13は、アンプU1と、D/Aコンバータ12からの電流指令が入力すると共に、アンプU1の入力端に直列接続されている抵抗R1と、アンプU1に並列接続されている抵抗R2と、この抵抗R2に直列接続されているコンデンサC1と、アンプU1に並列接続されているコンデンサC2と、電流検知器17で検知された電流値が入力すると共に、抵抗R1とアンプU1の入力端との間に接続されている抵抗R3と、を有している。なお、この電流フィードバック制御部13は、比例積分回路であり、D/Aコンバータ12からの電流指令が示す電流値と電流値増幅用アンプ18からの出力との偏差に比例させ、さらに、この偏差の時間積分に比例させて、新たな電流指令値を出力する。
【0019】
補正指令入力部14は、アンプU2と、D/Aコンバータ12からの電流補正指令が入力すると共に、アンプU2の入力端に直列接続されている抵抗R4と、アンプU2に並列接続されている抵抗R5と、を有している。
【0020】
電流補正指令加算部15は、アンプU3と、電流フィードバック制御部13から電流指令が入力すると共に、アンプU3の入力端に直列接続されている抵抗R6と、アンプU3に並列接続されている抵抗R7と、補正指令入力部14からの電流補正指令が入力すると共に、抵抗R6とアンプU3の入力端との間に接続されている抵抗R8と、を有している。
【0021】
モータドライバ回路16は、電流補正指令加算部15から電流指令が入力するPWMPWM(Pulse Width Modulation)制御回路(図示されていない)と、電源回路40からの電力をPWM制御回路(図示されていない)からの出力に応じた電流値の駆動電流に変えて、対応相にこの駆動電流を供給する出力段回路と、を有している。なお、ここでは、電流値制御のために、効率が高く低発熱のPWM制御回路を用いているが、この替わりに、リニア制御回路等、他の制御回路を用いてもよい。
【0022】
次に、本実施形態の駆動制御装置の作用について説明する。
【0023】
仮に、駆動装置10の補正指令入力部14及び電流補正指令加算部15が無く、制御装置20からモータ可動子が所定の速度にするための電流指令が出力されたとする。この場合、制御装置20からの電流指令が示す電流値と電流値増幅アンプ18からの出力との偏差に応じた電流値を示す電流指令がモータドライバ回路16に入力する。モータドライバ回路16は、この電流指令に応じた駆動電流を三相リニアモータ30の対応相へ出力する。一方、三相リニアモータ30の対応相では、逆起電力が発生し、この逆起電力が駆動装置10側へ流れる。このため、モータドライバ回路16と三相リニアモータ30の対応相との間には、電流指令に応じた交流電力(駆動電流)と逆起電力との合成電力が流れることになる。この結果、対応相には、制御装置20からの電流指令値と異なる電流値の電流が流れ、しかも、この電流の位相も目的の位相と異なることになる。
【0024】
このように、三相リニアモータ30の対応相には、制御装置20からの電流指令値と異なる電流値の電流が流れるため、電流フィードバック制御部13では、制御装置20からの電流指令値と対応相に流れる電流値との偏差に基づき、新たな電流指令を出力する。モータドライバ回路16は、この新たな電流指令に応じた駆動電流を三相リニアモータ30の対応相へ出力する。この結果、三相リニアモータ30の可動子は、最終的に、目的とする所定の速度になる。
【0025】
一方、本実施形態では、つまり、補正指令入力部14及び電流補正指令加算部15を有する駆動制御装置では、制御装置20は、モータ可動子が所定の速度にするための電流指令を出力すると共に、この電流指令を出力した際に発生する逆起電力に対応する電流値を示す電流補正指令も出力する。
【0026】
ここで、制御装置20の補正電流指令生成部42による電流補正指令の生成方法について説明する。
【0027】
リニアモータの場合、このリニアモータで発生する逆起電力によって発生する電圧Eは、モータ可動子の位置s、速度v、加速度αに依存する。また、リニアモータに電力を供給しない状態で、何らかの手段でリニアモータの可動子を移動させたときに、リニアモータで発生する電圧を計測すれば、この移動状態での逆起電力による電圧を計測することができる。
【0028】
このため、リニアモータに電力を供給しない状態で、何らかの手段でリニアモータの可動子を移動させ、このリニアモータで発生する電圧を計測し、この計測値とそのときのモータ可動子の位置s、速度v、加速度αとから、これらのパラメータと逆起電力によって発生する電圧Eとの関係を示す関数fを導き出すことができる。なお、この関数fを理論的に導き出すことも可能であるが、理論的に関数fを導き出した場合、この関数fを用いて求められる逆起電力による電圧には、実際のリニアモータで発生する逆起電力による電圧との誤差が比較的大きくなることが多いので、以上のように、逆起電力による電圧を計測し、この計測値を用いて、関数fを導き出すことが好ましい。
【0029】
関数fが定まれば、モータ可動子の位置s、速度v、加速度αをリニアモータ30に設けられているセンサから取得することで、これらのデータの取得時における逆起電力による電圧を算出することができる。
【0030】
ところで、本実施形態のリニアモータ30は、ステージの駆動に用いられるものである。このステージは、モータ可動子の位置に応じて、このモータ可動子の速度及び加速度が予め定められている。そこで、本実施形態では、モータ可動子の位置に応じて、予め定められている速度及び加速度で、モータ可動子を何らかの手段で移動させ、このときにリニアモータ30で発生する電圧を計測し、この計測値とそのときのモータ可動子の位置sとから、逆起電力による電圧Eとモータ可動子の位置sとの関係を示すgを導き出している。
【0031】
補正電流指令生成部42は、この関数gを保持しており、リニアモータ30に設けられている位置センサ32で検知された可動子の位置を、この関数gに代入して、このときの逆起電力を求める。補正電流指令生成部42は、次に、この逆起電力に対応する電流値を求めて、この電流値を示す電流補正指令を出力する。なお、ここでは、関数gを保持しておき、この関数gを用いて、可動子の位置に対応する逆起電力による電圧を求めているが、可動子の各種位置毎の逆起電力による電圧を示すマップを保持しておき、このマップを用いて、可動子の位置に対応する逆起電力による電圧を求めるようにしてもよい。
【0032】
次に、補正指令入力部14及び電流補正指令加算部15を有する駆動装置10の動作について説明する。
【0033】
駆動装置10の電流フィードバック制御部13は、補正指令入力部14及び電流補正指令加算部15が無い前述の場合と同様に、制御装置20からの電流指令値と対応相に流れる電流値との偏差に基づき、新たな電流指令を出力する。この新たな電流指令値には、制御装置20の補正電流指令生成部22から、補正指令入力部14を介して入力した補正電流指令が示す電流値、つまり逆起電力相当の電流値が、電流補正指令加算部15で加算され、この加算電流値を示す電流指令が出力される。モータドライバ回路16は、この電流補正指令加算部15からの電流指令に応じた駆動電流を三相リニアモータ30の対応相へ出力する。この際、対応相へ供給される電流は、制御装置20からの電流指令値に対応する電流値の駆動電流に、この駆動電流を供給したときに発生する逆起電力の電流(但し、駆動電流とは逆向きの流れ)を加えた電力である。このため、三相リニアモータ30に供給される実際の駆動電流の電流値は、制御装置20からの電流指令値に対して、逆起電力による誤差を最小限に抑えた値となる。
【図面の簡単な説明】
【0034】
【図1】本発明に係る一実施形態としての三相リニアモータ、及びその駆動制御装置の構成図である。
【符号の説明】
【0035】
10:駆動装置、11u:U相駆動部、11v:V相駆動部、11W:W相駆動部、12:D/Aコンバータ、13:電流フィードバック制御部、14:補正指令入力部、15:電流補正指令加算部、16:モータドライバ回路、17:電流検知器、20:制御装置、21:電流指令生成部、22:電流補正指令生成部、30:三相リニアモータ、31u:U相コイル、31v:V相コイル、31W:W相コイル、32:位置センサ、40:電源回路

【特許請求の範囲】
【請求項1】
電流指令に応じた駆動電流を交流モータに供給する交流モータの駆動装置において、
前記交流モータに供給される駆動電流の電流値を検知する電流検知器と、
前記電流指令が示す電流値と前記電流検知器で検知された電流値との偏差に応じた電流値を示す新たな電流指令を出力する電流フィードバック制御手段と、
前記交流モータの逆起電力に相当する電流値を示す電流補正指令を受け付け、前記電流フィードバック制御手段から出力された前記電流指令が示す電流値に、該電流補正指令が示す電流値を加算し、加算により得られた電流値を示す電流指令を出力する電流補正指令加算手段と、
前記電流補正指令加算手段から出力された前記電流指令が示す電流値に応じた駆動電流を前記交流モータに供給するモータ駆動回路と、
を備えていることを特徴とする交流モータの駆動装置。
【請求項2】
請求項1に記載の駆動装置と、該駆動装置の前記電流フィードバック制御手段に前記電流指令を出力する制御装置と、を備え、
前記制御装置は、
前記電流フィードバック制御手段に出力する前記電流指令を生成する電流指令生成手段と、
前記交流モータの固定子に対する可動子の相対位置と前記逆起電力との予め定めた関係を用いて、該可動子の相対位置を検知する位置センサからの位置情報に応じた逆起電力を求め、該逆起電力に相当する電流値を示す前記電流補正指令を生成する電流補正指令生成手段と、
を有することを特徴とする交流モータの駆動制御装置。

【図1】
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【公開番号】特開2010−110145(P2010−110145A)
【公開日】平成22年5月13日(2010.5.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−280744(P2008−280744)
【出願日】平成20年10月31日(2008.10.31)
【出願人】(000004112)株式会社ニコン (12,601)
【Fターム(参考)】