説明

位置制御装置

【課題】速度制御系をマイナーループに、位置制御をメジャーループに持つ位置制御では、高応答にするための調整が困難となっている。
【解決手段】位置制御部にフィードフォワード部を設ける。位置制御部に入力されるステップ状の角度指令θrefと制御対象物の角度検出θdetから比の伝達関数を次式で求める。
θdet/θref={KIω(FFθ+KPθ)}/{Jdys3+(KPω+Ddy)
2+KIωs+(KIω*KPθ)}
フィードフォワード部のパラメータFFθを、上式の分子多項式の零点=分母多項式の定数項としてKIω(FFθ+KPθ)=KIω*KPθからFFθ=0
として求める。
(ただし、KPθは位置制御部の比例パラメータ、KPω,KIωは速度制御部の比例及び積分パラメータ、Jdyはモータ慣性、Ddyは回転損失s)

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、位置制御装置に係り、特に電流制御、速度制御をマイナーループに持ち、位置制御をメジャーループとした電動機の2自由度制御系による位置制御に関するものである。
【背景技術】
【0002】
図3は位置制御装置の概略構成図を示したもので、1は位置制御部、2は速度制御部、3は電流制御部、4は被制御物である回転体機械特性を示したものである。速度制御部2は、位置制御装置に入力される角度指令θrefと角度検出値θdetの偏差信号に基つき角速度指令ωrefを演算する。算出された角速度指令ωrefは、減算部6において角速度検出ωdetとの差信号が求められ、速度制御部2に入力されてトルク電流指令Tdyが演出される。このトルク電流指令Tdyにより電流制御部3を介して被制御物である機械特性部4を制御し、その時における機械特性部4の角速度検出値ωdetは減算部6へフィードバックされて角速度指令ωrefとの差演算が実行される。また、機械特性部4の角度検出値θdetは減算部5へフィードバックされて角度指令θrefとの差演算が実行される。
なお、上記のような位置制御を行うものとしては、特許文献1などが公知となっている。この特許文献1には、機械系の共振・半共振周波数等のパラメータがわからなくても機械系の振動を抑制するために振動抑制補償器を設け、演算により求めた速度指令と速度検出信号との偏差分を振動抑制補償器に入力して速度指令補償信号を生成し、この補償信号と速度指令基本信号との和を速度信号とすることが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2002−325473
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
図3で示すように、電動機による位置制御では速度制御系をマイナーループに持ち、位置制御をメジャーループに持つ構成となっている。マイナーループの速度制御では、P(比例)I(積分)制御にて速度を制御している。また、メジャーループの位置制御ではP(比例)制御にて位置を制御している。従来、この両者の調整は、速度制御系の調整後に位置制御の調整を行う等の手法をとっている。
近年では、加振等の目的により安定で高応答な周波数特性のものが要望されているが、しかし、従来でのフィードバック系制御では、高応答にするための調整が困難になっている。
【0005】
そこで、本発明が目的とするとこは、高応答な指令値応答の位置制御を可能とした位置制御装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の第1は、角度指令値と角度検出値による偏差信号を位置制御部に入力して角速度指令を算出し、この角速度指令値と角速度検出値との偏差信号を速度制御部に入力してトルク電流指令値を算出し、このトルク電流指令値を基に電流制御部を介して制御対象物を制御するものにおいて、
前記位置制御部にフィードフォワード部を設け、前記制御対象物の角速度検出をωdet、角度検出をθdet、モータ慣性をJdy、回転損失をDdyとしたとき、前記位置制御部に入力されるステップ状の角度指令θrefと制御対象物の角度検出θdetから比の伝達関数を次式で求め、
θdet/θref={KIω(FFθ+KPθ)}/{Jdys3+(KPω+Ddy)
2+KIωs+(KIω*KPθ)} …(1)‘
(ただし、KPθは位置制御部の比例パラメータ、KPω,KIωは速度制御部の比例及び積分パラメータ、sはラプラス演算子)
前記フィードフォワード部のパラメータFFθを、上式の分子多項式の零点=分母多項式の定数項として
KIω(FFθ+KPθ)=KIω*KPθ
から
FFθ=0
として求めることを特徴としたものである。
本発明の第2は、前記位置制御部に入力される角度指令をランプ指令とし、前記フィードフォワード部のパラメータFFθを、前記(1)‘式の分子多項式の零点=分母多項式の定数項+1次として
KIω(FFθ+KPθ)=(KIω*KPθ)+KIωs
から
FFθ=s/G(s)
(ただし、G(s)は相対次数1次以上の任意の伝達関数)
として求めることを特徴としたものである。
本発明の第3は、前記位置制御部に入力される角度指令を加速度指令とし、前記フィードフォワード部のパラメータFFθを、前記(1)‘式の分子多項式の零点=分母多項式の定数項+1次+2次として
KIω(FFθ+KPθ)=(KIω*KPθ)+KIωs+(KPω+Ddy)s2
から
FFθ={(Ddy+KPω)s2+KIωs}/{KIω*G(s)}
(ただし、G(s)は相対次数2次以上の任意の伝達関数)
として求めることを特徴としたものである。
【発明の効果】
【0007】
以上のとおり、本発明によれば、フィードフォワード部FFθを設け、且つモータ慣性Jdy、回転損失Ddy、および周波数応答設定wcを設定することで、一意に位置制御部と速度制御部のKPθ、KPω、KIω、及びFFθパラメータの設定が可能となり、ステップ状入力指令による定常偏差の無い高応答な速度制御の実現が可能となるものである。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【図1】本発明の実施例を示す位置制御装置の構成図。
【図2】本発明を説明するための位置制御装置の構成図。
【図3】従来の位置制御装置の構成図。
【発明を実施するための形態】
【0009】
本願発明は、位置制御装置において、位置制御部にフィードフォワード部FFθを設け、被制御機器の機械特性の伝達関数であるモータ慣性Jdy、回転損失Ddy、および周波数応答設定wcを設定することで、一意に位置制御部と速度制御部のKPθ、KPω、KIω、及びFFθパラメータの設定が可能としたものである。
これにより、入力指令(角度指令)がステップ状、ランプ状、及び加速度指令の何れの場合でも定常偏差のない位置制御を可能としたものである。
以下、図に基づいて本発明の実施例を詳述する。
【実施例1】
【0010】
図1は、本発明の実施例を示す位置制御装置の概略構成図を示したものである。
10は位置制御部で、比例要素KPθにフィードフォワードFFθを付加したものである。20は速度制御部で、加減算部7において求められた角速度指令ωref[rad/s]とフィードフォワード指令との和信号から角度検出ωdet[rad/s]を差引いた偏差信号が積分要素KIω/sに入力され、角度検出ωdetが比例要素KPωに入力される。減算部8では両者の差演算を実行してトルク電流指令Tdyを生成し、電流制御部3を介して回転体である機械特性4を制御する。
ここで、Jdyはモータ慣性[kgm2]、Ddyは回転損失[Nms/rad]、θrefは角度指令[rad]、θdetは角度検出値[rad]、sはラプラス演算子である。
【0011】
図1で示す実施例の説明に先立って、図2に示す位置制御をP制御、速度制御をI−P制御とした場合について説明する。
電流制御部は、位置制御及び速度制御の周波数帯域に影響を与えない高応答特性とすれば次式のようにすればよい。
ωref=KPθ*(θref−θdet) …(1)
ωdet=θdet*s …(2)
Tdy={(KIω/s)*(ωref−ωdet)}−(KPω*ωdet) …(3)
{(Jdy*s)+Ddy}ωdet=Tdy …(4)
上記(1)〜(4)式からθdet/θrefについて解くことにより
θdet/θref=(KIω*KPθ)/{Jdys3+(KPω+Ddy)s2+KIωs+(KIω*KPθ)} …(5)
となる。
(5)式の分母多項式は3次式であり、定数項KIω*KPθで分母多項式を割って定数項を1とした式の1次から3次の係数は、KPθ、KPω、KIωに関して独立になっている。したがって、(5)式の分母多項式が1+c1*s+c2*s2+c3*s3になるように係数比較を行うと
KPθ=1/c1 …(6)
KPω=(c2*Jdy/c3)−Ddy …(7)
KIω=c1*Jdy/c3 …(8)
となるようパラメータKPθ、KPω、KIωを決定すればよい。例えば、全ての極がダンピング係数1となる二項計数型(s+1)3=1+3*s+3*s2+1*s3を求め、sをs/wsで置き換え、その係数をc1,c2,c3とすると、二項計数型では、c1=3/wc、c2=3/wc2、c3=1/wc3となる。このc1〜c3に対して、(6)〜(8)式で示される位置制御部1及び速度制御部20のパラメータKPθ、KPω、KIωを決定する。
【0012】
図1で示す実施例では、上記を前提とした位置制御部にフィードフォワードFFθを付加して速度制御部10を構成したものである。
フィードフォワードFFθを付加した場合は、
ωref={KPθ*(θref−θdet)}+(FFθ*θref) …(9)
ωdet=θdet*s …(10)
Tdy={(KIω/s)*(ωref−ωdet)}−(KPω*ωdet) …(11)
{(Jdy*s)+Ddy}ωdet=Tdy …(12)
上記(9)〜(12)式からθdet/θrefについて解くことにより
θdet/θref={KIω(FFθ+KPθ)}/{Jdys3+(KPω+Ddy)s2+KIωs+(KIω*KPθ)} …(13)
となる。
次に、位置制御部10への角速指令θrefがステップ状の指令である場合、このステップ指令の定常偏差が生じないよう分子多項式の零点を配置する。
そのため(13)式より、分子多項式の零点=分母多項式の定数項とすれば、
KIω(FFθ+KPθ)=KIω*KPθ …(14)
となり、
FFθ=0 …(15)
になる。FFθ=0となることは、2自由度制御を付加しない状態と等価になる。
したがって、この実施例によれば、フィードフォワード部FFθを設け、且つモータ慣性Jdy、回転損失Ddy、および周波数応答設定wcを設定することで、一意に位置制御部と速度制御部のKPθ、KPω、KIω、及びFFθパラメータの設定が可能となり、ステップ状入力指令による定常偏差の無い高応答な位置制御の実現が可能となるものである。
【実施例2】
【0013】
この実施例は、位置制御部10に入力される角度指令θrefがランプ指令の例である。この場合も実施例1と同様に予め位置制御をP制御とし、速度制御をI−P制御にて設計して2自由度制御を付加したものである。
ランプ指令の定常偏差が生じないように分子多項式の零点を配置する。
(13)式より、分子多項式の零点=分母多項式の定数項+1次とすれば、
KIω(FFθ+KPθ)=(KIω*KPθ)+KIωs …(16)
となり、
FFθ=s …(17)
になり、ここで
FFθ=s/G(s) …(18)
とすることでランプ指令の定常偏差の無い位置制御が可能になる
ただし、G(s)は相対次数1次以上の任意の伝達関数とする。
【0014】
したがって、この実施例によれば、角度指令θrefがランプ指令の場合でも、
実施例1と同様に、フィードフォワード部FFθを設け、且つモータ慣性Jdy、回転損失Ddy、および周波数応答設定wcを設定することで、一意に位置制御部と速度制御部のKPθ、KPω、KIω、及びFFθパラメータの設定が可能となり、ランプ指令による定常偏差の無い高応答な位置制御の実現が可能となるものである。
【実施例3】
【0015】
この実施例は、位置制御部10への入力が加速度指令において、その定常偏差が発生しないようにして高応答な速度制御の実現を可能としたものである。入力指令が加速度指令の場合においても、図1で示す実施例1と同様な方法で設計し、加速度指令の定常偏差が生じないように分子多項式の零点を配置する。
(13)式より、分子多項式の零点=分母多項式の定数項+1次+2次とすれば、
KIω(FFθ+KPθ)=(KIω*KPθ)+KIωs+(KPω+Ddy)s2 …(19)
となり、
FFθ={(Ddy+KPω)s2+KIωs}/KIω …(20)
になる。ここで
FFθ={(Ddy+KPω)s2+KIωs}/{KIω*G(s)}…(21)
とすることにより、加速度指令の定常偏差の無い位置制御が可能になる。
たたし、G(s)は相対次数2次以上の任意の伝達関数とする。
したがって、この実施例によれば、フィードフォワード部FFθを設け、且つモータ慣性Jdy、回転損失Ddy、および周波数応答設定wcを設定することで、定常偏差の無い位置制御部と速度制御部のKPθ、KPω、KIωパラメータ及びFFθパラメータの設定が可能となり、加速度指令による定常偏差の無い高応答な位置制御の実現が可能となるものである。
【符号の説明】
【0016】
1、10… 位置制御部
2、20… 速度制御部
3… 電流制御部
4… 機械特性部
5、6、8… 減算部
7… 加減算部


【特許請求の範囲】
【請求項1】
角度指令値と角度検出値による偏差信号を位置制御部に入力して角速度指令を算出し、この角速度指令値と角速度検出値との偏差信号を速度制御部に入力してトルク電流指令値を算出し、このトルク電流指令値を基に電流制御部を介して制御対象物を制御するものにおいて、
前記位置制御部にフィードフォワード部を設け、前記制御対象物の角速度検出をωdet、角度検出をθdet、モータ慣性をJdy、回転損失をDdyとしたとき、前記位置制御部に入力されるステップ状の角度指令θrefと制御対象物の角度検出θdetから比の伝達関数を次式で求め、
θdet/θref={KIω(FFθ+KPθ)}/{Jdys3+(KPω+Ddy)
2+KIωs+(KIω*KPθ)} …(1)‘
(ただし、KPθは位置制御部の比例パラメータ、KPω,KIωは速度制御部の比例及び積分パラメータ、sはラプラス演算子)
前記フィードフォワード部のパラメータFFθを、上式の分子多項式の零点=分母多項式の定数項として
KIω(FFθ+KPθ)=KIω*KPθ
から
FFθ=0
として求めることを特徴とした位置制御装置。
【請求項2】
前記位置制御部に入力される角度指令をランプ指令とし、前記フィードフォワード部のパラメータFFθを、前記(1)‘式の分子多項式の零点=分母多項式の定数項+1次として
KIω(FFθ+KPθ)=(KIω*KPθ)+KIωs
から
FFθ=s/G(s)
(ただし、G(s)は相対次数1次以上の任意の伝達関数)
として求めることを特徴とした請求項1記載の位置制御装置。
【請求項3】
前記位置制御部に入力される角度指令を加速度指令とし、前記フィードフォワード部のパラメータFFθを、前記(1)‘式の分子多項式の零点=分母多項式の定数項+1次+2次として
KIω(FFθ+KPθ)=(KIω*KPθ)+KIωs+(KPω+Ddy)s2
から
FFθ={(Ddy+KPω)s2+KIωs}/{KIω*G(s)}
(たたし、G(s)は相対次数2次以上の任意の伝達関数)
として求めることを特徴とした請求項1記載の位置制御装置。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2011−152006(P2011−152006A)
【公開日】平成23年8月4日(2011.8.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−12672(P2010−12672)
【出願日】平成22年1月25日(2010.1.25)
【出願人】(000006105)株式会社明電舎 (1,739)
【Fターム(参考)】