説明

位置検出装置および位置検出プログラム

【課題】車両に搭載されたセンサの時系列に変化するセンサ誤差から生じる自車位置の誤差を考慮した上で、精度の高いマップマッチング処理を行う位置検出装置および位置検出プログラムを提供する。
【解決手段】位置検出装置1は、GPS受信機21、角速度センサ22および車速センサ23を含む検知部20からの情報に基づき自車位置および誤差分散を計算し、その計算した自車位置、誤差分散、および地図情報DB600に記憶された地図データを用いて、自車位置周辺の道路データについてマップマッチング処理を行う。そして、位置検出装置1は、マップマッチング処理を行った各道路データのマップマッチング候補点のうち、最も尤度の高い候補点を地図上の自車位置に選定することを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、位置検出装置および位置検出プログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
移動体、特に自動車に用いられるナビゲーション装置は、GPS(Global Positioning System:全地球測位システム)やビーコン等の電波航法や、自動車本体および車載端末に備えられたジャイロや車速パルス等の慣性航法を用いて検出した自車位置を、ハードディスクドライブ等の記憶媒体に記憶した地図データに重ねて表示する。また、ナビゲーション装置は、検出した地図上の自車位置から、運転者の設定した目的地まで、地図データを用いて経路を探索し、運転者を目的地へ誘導する。
【0003】
しかし、検出した自車位置には誤差が含まれる。この誤差は、搭載したセンサによるものである。例えば、GPSのマルチパスによる誤差、車速パルスを使用した場合の車輪の滑りによる誤差、ジャイロの累積誤差等がある。そこで、検出した自車位置を道路から離れて表示させないように、自車位置を道路上の位置へ移動させる補正技術(マップマッチング技術)がある。
【0004】
また、地図の道路データにも誤差が含まれる。これには、地図データ作成時の誤差や、曲線の道路形状を複数の線分で近似して表現した誤差がある。このような誤差を含んだ地図の道路データにおいても、運転者を経路誘導するために、道路上に自車位置を決定しなければならない。
【0005】
そのため、自車位置周辺の道路データを取得し、GPS、車速センサ、距離センサから求めた車両の走行軌跡と道路形状との類似度を算出し、類似度が大きい道路上の位置にマップマッチングを行う車両位置検出装置が開示されている(例えば、特許文献1参照)。この類似度は、道路部分の道路方位、車両の現在位置および進行方位に基づいて演算される。
【0006】
また、自動車の挙動情報を検出する自律センサの検出情報を累積して、移動体の慣性測位位置を検出し、時刻tの慣性測位位置の誤差に関する分散(以下、「誤差分散」という)、自律センサのセンサ誤差分散および計算誤差を、移動体のモデルに基づく更新式に適用して、時刻t+1の誤差分散を漸近的に算出することにより、慣性航法による測位の誤差を評価する技術が開示されている(例えば、特許文献2参照)。この技術では、ナビゲーション装置の地図データベースに格納されている交差点ノードの位置座標が、誤差分散から生成される信頼性誤差楕円に含まれているかを判定し、含まれている場合は、運転者に注意を促し警告を与えている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開平9−152343号公報
【特許文献2】特開2008−20365号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、特許文献1に記載された技術では、センサから得たデータを用いて自車位置や方位に関する情報を算出しているが、時系列的に変化するセンサ誤差を考慮しておらず、マップマッチングの精度に限界がある。
【0009】
また、特許文献2に記載された技術では、慣性航法技術を用いて自車位置とその誤差分散を逐次更新しているが、GPS等の電波航法技術を用いていない。また、ナビゲーション装置に記憶された地図データベースの交差点ノードと、誤差分散の関係にのみに注目しており、地図データベースを用いた道路データへのマップマッチングを考慮していない。
【0010】
センサから取得した誤差を含むデータを用いて算出された自車位置を、誤差を含む地図データにマップマッチングする場合、従来の技術では、算出された自車位置から地図データの道路リンクへ垂線の足を下ろし、垂線の足と自車位置のユークリッド距離を計算し、最小距離の垂線の足をマップマッチングした自車位置としていた。しかしこの技術では、算出された自車位置の誤差を考慮していないため、マップマッチングした自車位置が、道路上の実際の自車位置から、大きくずれてしまう場合がある。
【0011】
このような背景に鑑みて本発明がなされたのであり、本発明は、電波航法技術および慣性航法技術を利用したセンサの時系列に変化するセンサ誤差から生じる自車位置の誤差を考慮して、精度の高いマップマッチング処理を行う位置検出装置および位置検出プログラムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
前記課題を解決するため、本発明の位置検出装置および位置検出プログラムは、GPS受信機、角速度センサおよび車速センサを含む検知部からの情報に基づき自車位置および誤差分散を計算し、その計算した自車位置、誤差分散、および地図情報データベース(DB:Data Base)に記憶された地図データを用いて、自車位置周辺の道路データについてマップマッチング処理を行う。そして、マップマッチング処理を行った各道路データのマップマッチング候補点のうち、最も尤度の高い候補点を地図上の自車位置に選定することを特徴とする。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、電波航法技術および慣性航法技術を利用したセンサの時系列に変化するセンサ誤差から生じる自車位置の誤差を考慮して、精度の高いマップマッチング処理を行うことができる位置検出装置および位置検出プログラムを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】本実施形態に係る位置検出装置の構成例を示す機能ブロック図である。
【図2】本実施形態に係る地図情報DBのデータ構成を示す図である。
【図3】本実施形態に係る位置検出装置の全体の動作手順を示すフローチャートである。
【図4】本実施形態に係る自車位置計算部が行う自車位置計算処理の動作手順を示すフローチャートである。
【図5】本実施形態に係る自車位置計算部が行う自車位置計算処理を説明するためのダイナミクスモデルを示す図である。
【図6】本実施形態に係るマップマッチング制御部が行うマップマッチング処理の動作手順を示すフローチャートである。
【図7】本実施形態に係る地図データ取得部が行う道路データ取得処理の動作手順を示すフローチャートである。
【図8】本実施形態に係る自車位置と誤差楕円の長軸、短軸の関係を示す図である。
【図9】本実施形態に係る地図データ取得部が行うメッシュ探索処理の動作手順を示すフローチャートである。
【図10】マップマッチング候補計算部が行う尤度算出処理の実施形態1を説明するための図である。
【図11】マップマッチング候補計算部が行う尤度算出処理の実施形態2を、誤差楕円を用いて説明するための図である。
【図12】尤度算出処理の実施形態2において、マップマッチング候補計算部が行う誤差楕円を用いた動作手順を示すフローチャートである。
【図13】マップマッチング候補計算部が行う尤度算出処理の実施形態3を、誤差楕円を用いて説明するための図である。
【図14】尤度算出処理の実施形態3において、マップマッチング候補計算部が行う誤差楕円を用いた動作手順を示すフローチャートである。
【図15】マップマッチング候補計算部が行う尤度算出処理の実施形態4を、誤差楕円を用いて説明するための図である。
【図16】尤度算出処理の実施形態4において、マップマッチング候補計算部が行う誤差楕円を用いた動作手順を示すフローチャートである。
【図17】マップマッチング候補計算部が行う尤度算出処理の実施形態4の変形例を、誤差楕円を用いて説明するための図である。
【図18】本実施形態に係る自車位置情報のデータ構成を示す図である。
【図19】本実施形態に係る表示制御部が道路上の自車位置を表示部に表示させた一例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
次に、本発明を実施するための形態(「実施形態」という)について、適宜図面を参照しながら詳細に説明する。
【0016】
図1は、本実施形態に係る位置検出装置1の構成例を示す機能ブロック図である。
図1に示すように、本実施形態に係る位置検出装置1は、制御部10と、検知部20と、表示部30と、入出力部40と、通信部50と、補助記憶部60と、メモリ部70とを備えて構成される。
【0017】
検知部20は、自車位置を計算するために必要なセンサ等の検知手段からなり、検知した情報を制御部10へ受け渡す。また、検知部20は、GPS受信機21と、角速度センサ22と、車速センサ23とを含んで構成される。
【0018】
GPS受信機21は、GPS衛星からの電波に基づき自車位置を検出するための電波を受信する。GPS受信機21が受信した4つ以上のGPS衛星からの電波により、GPS衛星までの距離を算出し、自車とのその距離が交差する点を、自車位置として測位できる。
【0019】
角速度センサ22は、ジャイロセンサ等からなり、慣性を利用して回転角速度を検出する。慣性を利用する方法として、コリオリ力を使ったものがある。ジャイロセンサは、回転角速度に比例した電圧等を出力するセンサである。
【0020】
車速センサ23は、車両のタイヤの回転に伴って発生するパルス信号を出力するセンサからなる。車速センサ23から検出したパルス数は、パルス係数を掛けることで、車両の速度に変換できる。ただし、タイヤの空気圧、タイヤのスリップ等により速度に誤差を生じる場合がある。
【0021】
制御部10は、検知部20を介して自車位置に関連する情報を集め、その情報を用いて自車位置を計算し、地図データの道路リンク上に自車位置が設定されるようにマップマッチング処理を実行する。また、制御部10は、自車位置計算部(位置算出部)110と、マップマッチング制御部120と、表示制御部130とを含んで構成される。
なお、この制御部10の機能は、例えば位置検出装置1の補助記憶部60に格納されたプログラムをCPU(Central Processing Unit)がメモリ部70に展開し実行することで実現される。
【0022】
自車位置計算部(位置算出部)110は、電波航法であるGPS受信機21が受信する電波から得られる位置情報と、慣性航法であるジャイロセンサ等からなる角速度センサ22から得られる角速度および車速センサ23から得られる車両の速度を用いて、自車位置(移動体の絶対位置)とその誤差分散を計算する。この計算処理には、公知の技術であるカルマンフィルタを利用する。カルマンフィルタは、時間に基づく予測と更新を繰り返すことで、2乗誤差を最小にするシステム状態量を推定するものである。
【0023】
マップマッチング制御部120は、自車位置計算部110により計算された時刻tにおける自車位置とその誤差共分散行列とを用いて、後記する補助記憶部60内の地図情報DB600から、自車位置周辺の道路データを取得し、自車位置と道路データの位置関係から、最も確からしい道路リンク上の自車位置を決定し、メモリ部70内に自車位置情報700として記憶する。
また、マップマッチング制御部120は、地図データ取得部(読出部)121と、マップマッチング候補計算部122と、最尤選定部123とを備えている。
【0024】
地図データ取得部(読出部)121は、自車位置計算部110が計算した自車位置とその誤差共分散行列から、道路データを取得する地図範囲(メッシュ)を決定し、補助記憶部60に記憶された地図情報DB600から、該当する道路データを取得する。
【0025】
マップマッチング候補計算部122は、自車位置とその誤差共分散行列から、対象となる道路データについてマップマッチング処理を行い、その道路データについてのマップマッチング候補点を決定し、その尤度を計算する。本実施形態において、尤度とは、マップマッチング処理により設定する道路上の自車位置の確からしさを表す指標であり、例えば確率、距離等で表される。
【0026】
最尤選定部123は、マップマッチング候補計算部122により決定された各道路データについてのマップマッチング候補点の尤度を全て比較して、最大尤度となる道路リンクを選定する。そして、最尤選定部123は、マップマッチングした道路上の自車位置を決定し、決定した自車位置に関する情報と最大尤度となる道路リンクのリンク情報をメモリ部70の自車位置情報700に記憶する。
【0027】
表示制御部130は、メモリ部70内の自車位置情報700に記憶された道路上の自車位置と、地図情報DB600に記憶された地図データとを用いて、表示部30に自車位置を表示する。
【0028】
次に、表示部30は、液晶ディスプレイ等で構成され、表示制御部130の制御のもと、道路状況あるいは誘導案内等を表示する。また、入出力部40を介して外部からの指示を受け付けるための画面を表示する。
【0029】
入出力部40は、例えば、リモコン、あるいはタッチパネル等を含んで構成され、外部から位置検出装置1への指示を受け付ける。また、制御部10の制御のもと、位置検出装置1の各種処理に応じて、音声案内等を図示されていないスピーカを通じて出力する。
【0030】
通信部50は、不図示の通信回線を通じて、センタから交通情報等の情報を取得する。
【0031】
補助記憶部60は、ハードディスク、フラッシュメモリ等の記憶手段からなり、地図情報DB600を含んで構成される。
地図情報DB600には、ノード(交差点、交差点から所定間隔毎に区切った点等)およびリンク(ノードとノードとを接続する道路)に関する情報が記憶される。
【0032】
図2は、本実施形態に係る地図情報DB600のデータ構成を示す図である。
図2(a)は、地図情報DB600に格納されている道路データの構成を示している。
地図情報DB600は道路データの集まりとして構成され、道路データはノードからノードまでのリンク単位で構成される。各道路データは、道路を特定するリンクID、その道路リンクの存在するメッシュID、道路リンクの始端(始点)のノードIDとその緯度・経度情報、道路リンクの終端(終点)のノードIDとその緯度・経度情報、対象となる道路リンクに接続する数を示す接続道路リンク数、他の道路リンクと接続するノードのノードIDを示す接続ノードIDとその接続ノードに接続する道路リンクのリンクID、および対象となる道路リンクの詳細情報を含んで構成される。
【0033】
ここで、メッシュとは、地図を緯度・経度に基づいて網の目状に区画したものである。2次メッシュとは緯度差5分、経度差7分30秒で一辺の長さが約10kmのメッシュデータである。また3次メッシュは2次メッシュを緯度方向および経度方向に10等分してできる区域であり、緯度差30秒、経度差45秒で、一辺の長さが約1kmである。メッシュIDにより、メッシュを特定することができる。
【0034】
図2(b)は、図2(a)の道路リンクの詳細情報のデータ構成を示す。
詳細情報は、道路リンク長、道路種別、車線数、一方通行の有無、リンクの角度、規制速度、道路リンクを構成する補間点の数および各補間点の緯度・経度の位置情報を含んで構成される。道路リンク長とは、道路リンクの始点から終点までの長さである。道路種別とは、道路のクラスを表し、例えば、高速道は「1」、都市内高速道は「2」、国道・県道は「3」、市道は「4」、それ以外は「5」として設定される。車線数は、その道路に存在する車線数を表す。一方通行の有無は、例えば、一方通行の場合は「1」、両側通行が可能な場合は「0」と設定される。リンクの角度は、リンクの始点から終点までの角度を表す。補間点とは、始点から終点までの線分で表現される道路リンクの形状を詳細に設定するためのものであり、緯度・経度の情報で構成される。
【0035】
図2(c)はメッシュ管理テーブルを示している。このメッシュ管理テーブルは、メッシュIDおよびそのメッシュの頂点の座標、左下、左上、右下、右上のそれぞれの座標(緯度・経度)が記憶されている。
【0036】
図1に戻り、メモリ部70は、RAM(Random Access Memory)等の一次記憶装置からなり、メモリ部70上には、マップマッチング制御部120の処理により設定される自車位置情報700が記憶される。この自車位置情報700の具体的な構成例は後記する図18において説明する。
【0037】
次に、図1および図2を参照しつつ、図3〜図19に沿って、本実施形態に係る位置検出装置の処理の流れについて説明する。
図3は、本実施形態に係る位置検出装置1の全体の動作手順を示すフローチャートである。
【0038】
まず、位置検出装置1の自車位置計算部110は、検知部20から取得した情報をもとに、自車位置を検出する自車位置計算処理を行う(ステップS301)。この自車位置計算処理により、電波航法であるGPS受信機21から取得する情報と、慣性航法である角速度センサ22および車速センサ23から取得する情報とを用いて、自車位置計算部110が、自車位置とその誤差分散を計算する。なお、この自車位置計算処理については、後記する図4において詳細に説明する。
【0039】
次に、自車位置計算部110が計算した自車位置とその誤差共分散行列に基づいて、マップマッチング制御部120が、マップマッチング処理を行い、最大尤度となる道路リンクを選択し、道路上の自車位置を決定する(ステップS302)。なお、このマップマッチング処理については、後記する図6において詳細に説明する。
【0040】
そして、表示制御部130が、マップマッチング制御部120によるマップマッチング処理により得られた自車位置情報700をもとに、表示部30に自車位置表示処理を行う(ステップS303)。
以下、それぞれの処理について具体的に説明する。
【0041】
まず、図3のステップS301における、自車位置計算部110が行う自車位置計算処理について説明する。
図4は、本実施形態に係る自車位置計算部110が行う自車位置計算処理の動作手順を示すフローチャートである。また、図5は、本実施形態に係る自車位置計算部110が行う自車位置計算処理を説明するためのダイナミクスモデルを示す図である。
【0042】
自車位置計算部110は、カルマンフィルタを用いて、自車位置と誤差共分散行列を求めるため、まず予測値の算出を行う(ステップS401)。
【0043】
ここでは、図5に示すように、時刻tにおいて、自車の経度および緯度方向の位置をx(t)、y(t)、車両の回転角をθ(t)、車両の進行方向の速度をv(t)、回転角速度をw(t)である状態量とし、Δtを更新時間、そして、

を時刻tの予測値とすると、予測値の算出は以下の(式1)で示される。
【0044】
【数1】

【0045】
(式1)は非線形であるので、テイラー展開し、線形化すると(式2)のようになる。
【0046】
【数2】

【0047】
このとき予測値の誤差分散

は、(式3)から求めることができる。
【0048】
【数3】

【0049】
(式3)の第1式の行列の右上の添え字Tは、転置行列であることを示す。また、誤差分散の初期値Σ(0)は対角成分のみで構成される行列とする。
【0050】
次に、自車位置計算部110は、時刻tの観測値を用いた更新を算出する(ステップS402)。
GPS受信機21から得られた時刻tにおける測定値である自車位置の経度および緯度をxg(t)、yg(t)、車両の進行方向の並進速度をvg(t)、方位をθg(t)、角速度センサ22で検出される角速度をwj(t)、車速センサ23で検出される車両の進行方向の並進速度をvp(t)とし、観測ベクトルをY(t)とする。このとき観測に基づく更新処理は(式4)のようになる。
【0051】
【数4】

【0052】
ここで、Q(t)は各観測ベクトルに対応した観測誤差の標準偏差である。
【0053】
以上の(式1)〜(式4)を用いて、カルマンフィルタを設定する(ステップS403)。時刻tにおけるカルマンゲインをK(t)とすると(式5)のようになる。
【0054】
【数5】

【0055】
ここで、Iは単位行列である。
【0056】
このような予測、更新処理により、状態ベクトルX(t)とその誤差分散行列Σ(t)を算出できる。マップマッチング制御部120へ渡す情報は、次の(式6)のように自車の絶対位置Xc(t)のx(t)、y(t)および、誤差共分散行列Σc(t)に含まれるx(t)の分散σxx(t)、Y(t)の分散σyy(t)、x(t)とy(t)の共分散σxy(t)である。この自車の絶対位置Xc(t)と誤差共分散行列Σc(t)は、カルマンフィルタで算出した時刻tにおける状態ベクトルX(t)とその誤差分散行列Σ(t)から、位置x(t)、y(t)に関する成分を抽出したものである。
【0057】
【数6】

【0058】
この計算処理により、自車位置計算部110は、時刻tにおける自車の絶対位置Xc(t)とその誤差共分散行列Σc(t)を取得ことができる(ステップS404)。
【0059】
次に、図3のステップS302における、マップマッチング制御部120によるマップマッチング処理について説明する。
図6は、本実施形態に係るマップマッチング制御部120が行うマップマッチング処理の動作手順を示すフローチャートである。
マップマッチング処理は、自車位置計算部110が計算した、時刻tにおける自車位置(自車の絶対位置)とその誤差共分散行列を用いて、最も確からしい道路リンク上の自車位置を決定する処理である。
【0060】
まず、マップマッチング制御部120内の地図データ取得部121は、自車位置計算部110が計算した自車位置とその誤差共分散行列から、道路データを取得する地図範囲を決定し、補助記憶部60内の地図情報DB600から、自車位置周辺の道路データを取得する(ステップS601)。なお、この道路データ取得処理については、後記する図7において詳細に説明する。
【0061】
次に、マップマッチング制御部120内のマップマッチング候補計算部122は、ステップS601で取得した道路データのうちの一つを選択し、自車位置とその誤差共分散行列の情報から、対象となる道路データの尤度を算出する(ステップS602)。
なお、この尤度算出処理については、後記する尤度算出処理の実施形態1〜4において詳細に説明する。
【0062】
続いて、マップマッチング候補計算部122は、取得した道路データの全ての尤度算出処理を終えたか否かを判断する(ステップS603)。ここで、まだ尤度算出処理を終えていない道路データがあれば(ステップS603→No)、ステップS602に戻って処理を続ける。一方、マップマッチング候補計算部122は、全ての道路データについての尤度算出処理を終えていれば(ステップS603→Yes)、次のステップS604へ進む。
【0063】
ステップS604において、マップマッチング制御部120内の最尤選定部123は、マップマッチング候補計算部122が、ステップS602で算出した道路データの全ての尤度を比較して、最大尤度となる道路リンクを選定し、道路上の自車位置を決定する(ステップS604)。そして、自車位置に関する情報と最大尤度となる道路リンクの情報をメモリ部70内の自車位置情報700に記憶する(後記する図18参照)。
【0064】
このようにすることで、位置検出装置1は、マップマッチング制御部120によるマップマッチング処理により、道路リンク上で最も尤度の高い地点を、道路上の自車位置に選定することができる。
【0065】
(道路データ取得処理)
次に、図6のステップS601における、マップマッチング制御部120内の地図データ取得部121が行う道路データ取得処理について図7を参照して説明する。
図7は、本実施形態に係る地図データ取得部121が行う道路データ取得処理の動作手順を示すフローチャートである。
【0066】
まず、地図データ取得部121は、自車位置計算部110が計算した、自車位置とその誤差共分散行列から自車位置の存在確率を算出する(ステップS701)。
【0067】
具体的には、地図データ取得部121は次の処理を行う。
始めに、誤差共分散行列Σc(t)から、誤差楕円の長軸、短軸を求める。これは、誤差共分散行列の固有値問題を解き、最大の固有値が得られるベクトルを長軸のベクトル、それ以外を短軸のベクトルとすることから求める。このとき軸に対応する固有値が軸方向の誤差分散に相当する。この固有値問題は(式7)を解くことにより得られる。
【0068】
【数7】

【0069】
図8は、本実施形態に係る自車位置と誤差楕円の長軸、短軸の関係を示す図である。
ここで、長軸のベクトルをX1(t)、短軸のベクトルをX2(t)、長軸のベクトルの固有値をλ1、短軸のベクトルの固有値をλ2とする。自車位置計算部110においてカルマンフィルタを使用したため、自車位置の存在確率は、自車の絶対位置Xc(t)を中心とした2次元の正規分布になる。よって、正規分布の中心からの距離に応じて、自車位置の存在確率が決定できる。例えば中心からの距離が、標準偏差×1の場合、存在確率はおよそ68.3%、標準偏差×3の場合、99.7%となる。
【0070】
次に、地図データ取得部121は、自車位置の存在確率が閾値以上のメッシュを探索する(ステップS702)。この処理は、自車位置と道路リンクの位置関係から尤度を計算する際に、対象となる道路リンクのデータ数を減らしておくために行う処理である。自車位置の誤差が大きくなるにつれて、誤差楕円は大きくなる。このステップS702の処理では、誤差楕円の大きさに応じて、探索するメッシュの範囲を決定し、効率的な道路リンクの候補探索が可能になる。なお、このステップS702の処理の詳細は、図9において後記する。
【0071】
次に、地図データ取得部121は、ステップS702にて探索したメッシュのメッシュIDをキーにして、補助記憶部60内の地図情報DB600に記憶されているメッシュ単位の道路データを取得する(ステップS703)。
【0072】
このように、対象となるメッシュの範囲を限定した上で、地図データを取得することで、図6のステップS602における尤度算出処理の計算負荷を減らすことができる。
【0073】
次に、図7のステップS702における、地図データ取得部121が行うメッシュ探索処理について、図9を参照して説明する。
図9は、本実施形態に係る地図データ取得部121が行うメッシュ探索処理の動作手順を示すフローチャートである。
【0074】
図9に示すように、まず、地図データ取得部121は、探索する誤差楕円の長軸方向および短軸方向の距離を設定する(ステップS901)。
この距離は例えば、予め設定しておいた確率の閾値から求めることができる。この長軸および短軸方向は、平均値が自車位置Xc(t)、
標準偏差が長軸の場合は、

短軸の場合は、

の正規分布となる。
【0075】
このため存在確率の閾値を99.7%とした場合、探索距離は、自車位置Xc(t)を中心として、
長軸方向は、

短軸方向は、

となる。
【0076】
次に、地図データ取得部121は、補助記憶部60の地図情報DB600に記憶された図2(c)に示すメッシュ管理テーブルのうち、一つのメッシュIDを選択し、そのメッシュIDの頂点の位置座標と、自車の絶対位置Xc(t)との距離を求める。メッシュの頂点は、左下、左上、右下、右上があり、それぞれの座標点との距離を算出し、地図データ取得部121は、その中から最小の距離を採用する(ステップS902)。
【0077】
次に、地図データ取得部121は、算出したメッシュの距離がステップS901において設定した距離以下かどうかを判定する(ステップS903)。ここで、設定した距離より長い場合(ステップS903→No)、ステップS902へ戻り、次のメッシュIDを選択し処理を続ける。一方、設定した距離以下の場合(ステップS903→Yes)、地図データ取得部121は、該当するメッシュIDを対象メッシュリストへ加える(ステップS904)。この対象メッシュリストは、該当するメッシュIDをメモリ部70上で記憶するものである。
【0078】
そして、地図データ取得部121は、メッシュ管理テーブルの全てのメッシュを処理したか否かを判断する(ステップS905)。ここで、まだ処理していないメッシュがある場合には(ステップS905→No)、ステップS902へ戻り処理を続ける。一方、全てのメッシュを処理した場合には(ステップS905→Yes)、地図データ取得部121によるメッシュ探索処理を終える。
【0079】
このようにすることで、地図データ取得部121は、誤差楕円に重なるメッシュを取得することができる。
【0080】
(尤度算出処理)
次に、図6のステップ602におけるマップマッチング候補計算部122による尤度算出処理について説明する。
【0081】
(尤度算出処理の実施形態1)
マップマッチング制御部120のマップマッチング候補計算部122は、始めに自車位置を道路リンク上へ射影する。この射影の方法は、例えば自車位置から道路リンクへ垂線を下ろし、垂線と道路リンクとの交点を道路上の自車位置とする方法である。
【0082】
図10は、マップマッチング候補計算部122が行う尤度算出処理の実施形態1を説明するための図である。
図10に示すように、道路リンクの始点の座標をXs(sx、sy)、終点の座標をXe(ex、ey)とし、道路リンクの方位をα、道路リンクと自車位置の角度をβ、道路上の自車位置を表す位置ベクトルをXl(t)とする。そして、道路上の自車位置は以下の(式8)で求めることができる。
【0083】
【数8】

【0084】
この(式8)の演算記号「×」はベクトルの外積を、Lは自車の絶対位置から道路リンク上の自車位置までの距離を、kはリンク長に対する道路リンクの始点から道路リンク上の自車位置までの長さの比を表している。また、垂線が存在しない場合は、道路リンクの始点と終点とで距離の近い方を道路上の自車位置として採用する。
【0085】
このとき、自車の絶対位置Xc(t)から道路リンク上の自車位置Xl(t)までの距離と、誤差共分散行列Σc(t)とから、マハラノビス距離D(t)を以下の(式9)のように計算できる。
【0086】
【数9】

【0087】
マハラノビス距離は、自車における推定した絶対位置のばらつきを考慮した距離であり、自車の絶対位置と道路リンク上の自車位置の距離が大きいほど、また誤差分散が小さいほど、マハラノビス距離は小さくなる。このため、対象となる道路リンクの尤度は、マハラノビス距離の逆数をとる。
【0088】
また尤度は、(式10)のような確率M(t)で表すこともできる。
【0089】
【数10】

【0090】
この(式10)は2変数の正規分布の確率密度関数である。
【0091】
このようにして、マハラノビス距離に基づく尤度と、確率M(t)に基づく尤度を算出することができる。
【0092】
(尤度算出処理の実施形態2)
次に、図6のステップ602におけるマップマッチング候補計算部122による尤度算出処理の実施形態2について説明する。
本実施形態2に係る尤度算出処理は、自車の絶対位置から、誤差楕円の長軸または短軸と道路リンクとの交点までのマハラノビス距離を求め、そのマハラノビス距離が最も短い点を、道路上の自車位置として決定し、その尤度を道路上の自車位置の尤度とする。
【0093】
図11は、マップマッチング候補計算部122が行う尤度算出処理の実施形態2を、誤差楕円を用いて説明するための図である。
図11に示すように、道路リンクと誤差楕円の長軸または短軸の交点を、道路上の自車位置の座標Xl(t)とする。また、長軸、短軸と道路リンクとの交点が存在しない場合は、道路リンクの始点または終点で距離の近い方を道路上の自車位置として採用する。
【0094】
尤度算出処理の本実施形態2においては、マップマッチング候補計算部122は、以下の(式11)の外積の式から係数kを求めることで、道路上の自車位置の座標Xl(t)を算出できる。
【0095】
【数11】

【0096】
図12は、尤度算出処理の実施形態2において、マップマッチング候補計算部122が行う誤差楕円を用いた動作手順を示すフローチャートである。
【0097】
まず、マップマッチング候補計算部122は、誤差楕円の長軸と道路リンクの始点、終点の座標から以下の(式12)を用いて、係数k1を算出する(ステップS1201)。
【0098】
【数12】

【0099】
次に、マップマッチング候補計算部122は、誤差楕円の短軸と道路リンクの始点、終点の座標から以下の(式13)を用いて、係数k2を算出する(ステップS1202)。
【0100】
【数13】

【0101】
続いて、マップマッチング候補計算部122は、算出した係数k1、k2を用いて、k1が0以上1以下で、かつk2が0以上1以下か否かを判定する(ステップS1203)。係数k1、k2とも0以上1以下の場合(この場合は、道路リンクが誤差楕円の長軸と短軸の両方において交点を有することを意味する)(ステップS1203→Yes)、ステップS1204へ進む。
【0102】
ステップS1204において、マップマッチング候補計算部122は、自車の絶対位置Xc(t)と誤差楕円の長軸上の候補点Xl(t)、自車の絶対位置Xc(t)と短軸上の候補点Xl(t)とから、それぞれマハラノビス距離を求め、マハラノビス距離が最小となる方をマップマッチング候補点とする(ステップS1204)。
【0103】
一方、ステップS1203において、係数k1、k2とも0以上1以下でない場合(ステップS1203→No)、ステップS1205へ進み、マップマッチング候補計算部122は、係数k1が0以上1以下か否かを判定する(ステップS1205)。
係数k1が0以上1以下の場合(ステップS1205→Yes)、マップマッチング候補計算部122は、長軸との交点となる道路上の自車位置をマップマッチング候補点とする(ステップS1206)。
【0104】
一方、係数k1が0以上1以下でない場合(ステップS1205→No)、マップマッチング候補計算部122は、係数k2が0以上1以下か否かを判定する(ステップS1207)。
係数k2が0以上1以下の場合(ステップS1207→Yes)、マップマッチング候補計算部122は、短軸との交点となる道路上の自車位置をマップマッチング候補点とする(ステップS1208)。
一方、係数k2が0以上1以下でない場合(ステップS1207→No)、誤差楕円の長軸と短軸との交点が存在しないため、マップマッチング候補計算部122は、自車の絶対位置Xc(t)と道路リンクの始点、終点のマハラノビス距離を求め、最小となる方の道路上の自車位置をマップマッチング候補点とする(ステップS1209)。
【0105】
このようにすることで、マップマッチング候補計算部122は、各道路リンクについて、マハラノビス距離が最小となるマップマッチング候補点を決定し、そのマハラノビス距離に基づく尤度を設定することができる。
【0106】
(尤度算出処理の実施形態3)
次に、図6のステップS602におけるマップマッチング候補計算部122による尤度算出処理の実施形態3について説明する。
本実施形態3に係る尤度算出処理は、道路リンクが誤差楕円内に存在するか否かを判定し、誤差楕円内に存在する場合は、その誤差楕円内に存在する道路リンクにおいて、最も確率の高い点を、道路上の自車位置として決定し、その尤度を道路上の自車位置の尤度とする。
【0107】
図13は、マップマッチング候補計算部122が行う尤度算出処理の実施形態3を、誤差楕円を用いて説明するための図である。
この尤度算出処理においては、始めに誤差楕円と対象となる道路リンクの交点を求める。ここでの誤差楕円の長軸、短軸の長さはそれぞれの標準偏差の3倍とし、存在確率は99.7%となる。
【0108】
図13(a)は、誤差楕円と道路リンクとの交点が2つ存在する場合を示している。ここで、道路リンクの始点側の交点の座標をPs(t)、終点側の交点の座標をPe(t)とする。
図13(b)は、道路リンクのノードの一方が誤差楕円に含まれる場合を示している。始点側が誤差楕円に含まれる場合は、始点側の交点の座標Ps(t)はXs(t)と同じになる。また、終点側が含まれる場合も同様である。
図13(c)は、誤差楕円と直線が接する場合である。このとき最も存在確率の高い点は接点になるため、この接点が道路上の自車位置となる。
【0109】
この交点の座標を求めた後に、マップマッチング候補計算部122は、Ps(t)からPe(t)までの点を道路リンクに沿って進めて、以下の(式14)のように、最大の存在確率になる交点を決定する。
【0110】
【数14】

【0111】
ここで、Pk(t)は、Ps(t)を始点、Pe(t)を終点とする線分上に存在する候補点である。係数kを0から1まで例えば0.1刻みで更新することで、11個の候補点を得られる。全ての係数kについてMk(t、k)が最大となる係数k_maxを選ぶことで、道路上の自車位置Xl(t)を決定できる。
【0112】
図14は、尤度算出処理の実施形態3において、マップマッチング候補計算部122が行う誤差楕円を用いた動作手順を示すフローチャートである。
【0113】
まず、マップマッチング候補計算部122は、誤差楕円と道路リンクの交点を求める(ステップS1401)。
次に、マップマッチング候補計算部122は、(式14)の係数kを0に設定する(ステップS1402)。
続いて、マップマッチング候補計算部122は、係数kに所定の数値ε(<1)を加え、(式14)から候補点の座標を求める(ステップS1403)。
そして、マップマッチング候補計算部122は、自車の絶対位置Xc(t)と候補点とのマハラノビス距離を算出する(ステップS1404)。
次に、マップマッチング候補計算部122は、係数kが1を超えたかどうかを判定する(ステップS1405)。そして、係数kが1を超えていない場合(ステップS1405→No)、ステップS1403へ戻り処理を続ける。一方、係数kが1を超えた場合(ステップS1405→Yes)、次のステップS1406へ進む。
【0114】
そして、ステップS1406において、マップマッチング候補計算部122は、ステップS1401〜S1405において求めた各候補点で、マハラノビス距離が最小となる候補点をマップマッチング候補点とする (ステップS1406)。
このようにすることで、マップマッチング候補計算部122は、マハラノビス距離が最小となるマップマッチング候補点を決定し、そのマハラノビス距離に基づく尤度を設定することができる。
【0115】
(尤度算出処理の実施形態4)
次に、図6のステップS602におけるマップマッチング候補計算部122による尤度算出処理の実施形態4について説明する。
本実施形態4に係る尤度算出処理は、道路リンクの車線情報や、道路種別の情報から、道路リンクの幅Xwを求め、道路リンクとその幅Xwと自車の絶対位置の情報とから道路上の自車位置を決定する。この道路リンク幅Xwは、例えば、道路車線別の1車線あたりの道路幅をあらかじめ定義しておくことで、道路リンクの車線情報から得られる車線数との積で求めることができる。
【0116】
図15は、マップマッチング候補計算部122が行う尤度算出処理の実施形態4を、誤差楕円を用いて説明するための図である。
図15(a)は、自車の絶対位置Xc(t)から道路リンクへの垂線の足を下ろした点を道路上の自車位置Xl(t)とし、道路リンク幅Xwのときのマップマッチング処理を示している。
図15(b)に示すように、自車の絶対位置を中心として、道路リンクへの垂線方向にXc_x軸を、道路リンクと並行にXc_y軸をとる。誤差楕円は自車の絶対位置Xc(t)を中心に正規分布をとる。Xc(t)から垂線の足までの距離はLとする。リンクの分布関数は(式15)のように定義する。
【0117】
【数15】

【0118】
ここで、Pは、全ての道路リンクの分布関数について、一定値をとる。このとき、自車の絶対位置の分布関数と道路リンクの分布関数との交わる体積または面積を尤度とする。
【0119】
図16は、尤度算出処理の実施形態4において、マップマッチング候補計算部122が行う誤差楕円を用いた動作手順を示すフローチャートである。
【0120】
まず、マップマッチング候補計算部122は、地図情報DB600に記憶された地図データから対象となる道路リンクの幅Xwを求める(ステップS1601)。
次に、マップマッチング候補計算部122は、ステップS1601で求めた道路リンクの幅Xwから道路リンクの分布関数を求める(ステップS1602)。
続いて、マップマッチング候補計算部122は、自車の絶対位置Xc(t)から道路リンクへ垂線の足を下ろした点である道路上の自車位置Xl(t)を求める(ステップS1603)。
そして、マップマッチング候補計算部122は、誤差楕円と道路リンクの分布関数の重複する面積を求めて、その面積を尤度とする(ステップS1604)。
この面積は、誤差楕円の正規分布と道路リンクの分布関数との交点を求めることで、算出することができる。
【0121】
(尤度算出処理の実施形態4の変形例)
また、地図情報に誤差が含まれる場合、図17に示すように、道路の分布関数の誤差を考慮したものにしてもよい。図17は、マップマッチング候補計算部122が行う尤度算出処理の実施形態4の変形例を、誤差楕円を用いて説明するための図である。
【0122】
図17(a)は、自車の絶対位置Xc(t)から道路リンクへの垂線の足を降ろし道路上の自車位置Xl(t)とし、道路リンク幅Xwとしたときのマップマッチング処理を示している。
図17(b)に示すように、自車の絶対位置を中心として、道路リンクへの垂線方向にXc_x軸を、道路リンクと並行にXc_y軸をとる。誤差楕円は自車の絶対位置Xc(t)を中心に正規分布をとる。このとき道路リンクの分布関数は(式16)のようになる。
【0123】
【数16】

【0124】
マップマッチング候補計算部122は、図16の尤度算出処理の動作手順と同様の処理を行って、自車の絶対位置の分布関数と道路リンクの分布関数の重複する面積を求め、その面積を尤度とする。
なお、(式16)の他に、道路リンクの分布関数は、道路リンクを中心とした正規分布でもよい。また、候補となる道路上の自車位置を、長軸、短軸と道路リンクとの交点とする場合も、(式11)を用いることで同様に算出できる。
【0125】
(最尤選定処理)
図6に戻り、ステップS604において、最尤選定部123は、ステップS602で各道路リンクにおいて算出した尤度を全て比較し、最大尤度となる道路リンクのマップマッチング候補点を、道路上の自車位置と選定する。そして、道路上の自車位置に関する情報と最大尤度となる道路リンクの情報をメモリ部70の自車位置情報700に記憶する。
【0126】
図18は、本実施形態に係る自車位置情報700のデータ構成を示す図である。
この自車位置情報700は、マップマッチング制御部120により算出された道路上の自車位置の情報を記憶する。
【0127】
図18に示すように、自車位置情報700は、マップマッチング処理前に自車位置計算部110が算出した自車位置(自車の絶対位置)の緯度、経度、誤差楕円の長軸方向の標準偏差、短軸方向の標準偏差、長軸の絶対座標からの角度と、マップマッチング制御部120により算出された道路リンクのメッシュID、リンクID、その始点、終点の座標、リンク長、リンクの始点から道路上の自車位置までの距離、その尤度が格納される。
そして、経路誘導、交通情報の取得、周辺施設の検索等において必要な道路上の自車位置に関する情報は、この自車位置情報700の情報が利用される。
【0128】
図3に戻り、マップマッチング制御部120がステップS302のマップマッチング処理を終えると、表示制御部130は、メモリ部70上に記憶された自車位置情報700を用いて道路上の自車位置を取得し、補助記憶部60に記憶された地図情報DB600と併せて、表示部30に自車位置をカーマーク等で表示する(ステップS303)。
【0129】
図19は、本実施形態に係る表示制御部130が道路上の自車位置を表示部に表示させた一例を示す図である。図19に示すように、表示制御部130は、自車位置情報700に格納された道路リンクIDと、その道路リンクの始点からの距離により、道路上にカーマーク(△)を表示する。また、そのカーマークを中心に、誤差楕円を表示することができる。
【0130】
このようにすることで、本実施形態に係る位置検出装置および位置検出プログラムは、GPS受信機21、角速度センサ22および車速センサ23を含む検知部20からの情報に基づき自車位置および誤差分散を計算し、その計算した自車位置、誤差分散、および地図情報DB600に記憶された地図データを用いて、自車位置周辺の道路データについてマップマッチング処理を行う。そして、マップマッチング処理を行った各道路データのマップマッチング候補点のうち、最も尤度の高い候補点を地図上の自車位置に選定し、表示部30に表示させることができる。このことにより、センサ誤差から生じる自車位置の誤差を考慮した上で、より精度の高いマップマッチング処理を行うことができる。
【符号の説明】
【0131】
1 位置検出装置
10 制御部
20 検知部
21 GPS受信機
22 角速度センサ
23 車速センサ
30 表示部
40 入出力部
50 通信部
60 補助記憶部
70 メモリ部
110 自車位置計算部(位置算出部)
120 マップマッチング制御部
121 地図データ取得部(読出部)
122 マップマッチング候補計算部
123 最尤選定部
130 表示制御部
600 地図情報DB
700 自車位置情報

【特許請求の範囲】
【請求項1】
道路情報を含む地図情報を記憶する記憶部と、
移動体の現在位置を算出するための情報を検知する検知部と、
前記検知部で検知された情報から移動体の位置および前記検知部で検知された情報から移動体の誤差に関わる分散を算出する位置算出部と、
前記位置算出部で算出された移動体の位置に関わる道路の道路情報を前記記憶部から読み出す読出部と、
前記位置算出部によって算出された移動体の位置および前記位置算出部によって算出された移動体の誤差に関わる分散と、前記読出部によって読み出された道路情報と、から道路上に移動体が存在する存在確率を算出する存在確率算出部と、
前記存在確率算出部で算出された存在確率のうち、最も存在確率が高い位置を選択する選択部と、
前記選択部で選択した位置を移動体の位置とするマップマッチング処理部と、
を備えることを特徴とした位置検出装置。
【請求項2】
道路情報を含む地図情報を記憶する記憶部と、
移動体の現在位置を算出するための情報を検知する検知部と、
前記検知部で検知された情報から移動体の位置および前記検知部で検知された情報から移動体の誤差に関わる分散を算出する位置算出部と、
前記位置算出部で算出された移動体の位置に関わる道路の道路情報を前記記憶部から読み出す読出部と、
移動体の位置を中心とした楕円状の誤差分散を算出する誤差分散算出部と、
前記誤差分散算出部で算出された楕円状の誤算分散について、少なくとも長軸または短軸を算出する軸算出部と、
前記読出部によって読み出された道路情報と、少なくとも前記軸算出部で算出された長軸または短軸と、の交点を算出する交点算出部と、
前記交点算出部で算出された交点と、移動体の位置と、から存在確率を算出する交点存在確率算出部と、
前記交点存在確率算出部で算出された存在確率のうち、最も存在確率が高い位置を選択する選択部と、
前記選択部で選択した位置を移動体の位置とするマップマッチング処理部と、
を備えることを特徴とした位置検出装置。
【請求項3】
道路情報を含む地図情報を記憶する記憶部と、
移動体の現在位置を算出するための情報を検知する検知部と、
前記検知部で検知された情報から移動体の位置および前記検知部で検知された情報から移動体の誤差に関わる分散を算出する位置算出部と、
前記位置算出部で算出された移動体の位置に関わる道路の道路情報を前記記憶部から読み出す読出部と、
移動体の位置を中心とした誤差に関わる分散を算出する誤差分散算出部と、
前記読出部で読み出された道路情報から道路分布関数を算出する道路分布関数算出部と、
前記誤算分散算出部で算出された誤差に関わる分散と、前記道路分布関数算出部で算出された道路分布関数と、が重複している部分を抽出する重複部分抽出部と、
前記重複部分抽出部で抽出された重複部分に基づいて、移動体の位置を決める移動体マッチング処理部と、
を備えることを特徴とした位置検出装置。
【請求項4】
移動体の位置を決定する位置検出装置のコンピュータで実行される位置検出プログラムであって、
前記コンピュータに、
道路情報を含む地図情報を記憶するステップと、
移動体の現在位置を算出するための情報を検知するステップと、
前記検知された情報から移動体の位置および前記検知された情報から移動体の誤差に関わる分散を算出するステップと、
前記算出された移動体の位置に関わる道路の道路情報を前記記憶された地図情報から読み出すステップと、
前記算出された移動体の位置および前記算出された移動体の誤差に関わる分散と、前記読み出された道路情報と、から道路上に移動体が存在する存在確率を算出するステップと、
前記算出された存在確率のうち、最も存在確率が高い位置を選択するステップと、
前記選択した位置を移動体の位置とするステップと、
を実行させることを特徴とする位置検出プログラム。
【請求項5】
移動体の位置を決定する位置検出装置のコンピュータで実行される位置検出プログラムであって、
前記コンピュータに、
道路情報を含む地図情報を記憶するステップと、
移動体の現在位置を算出するための情報を検知するステップと、
前記検知された情報から移動体の位置および前記検知された情報から移動体の誤差に関わる分散を算出するステップと、
前記算出された移動体の位置に関わる道路の道路情報を前記記憶された地図情報から読み出すステップと、
移動体の位置を中心とした楕円状の誤差分散を算出するステップと、
前記算出された楕円状の誤算分散について、少なくとも長軸または短軸を算出するステップと、
前記読み出された道路情報と、少なくとも前記算出された長軸または短軸と、の交点を算出するステップと、
前記算出された交点と、移動体の位置と、から存在確率を算出するステップと、
前記算出された存在確率のうち、最も存在確率が高い位置を選択するステップと、
前記選択した位置を移動体の位置とするステップと、
を実行させることを特徴とする位置検出プログラム。
【請求項6】
移動体の位置を決定する位置検出装置のコンピュータで実行される位置検出プログラムであって、
前記コンピュータに、
道路情報を含む地図情報を記憶するステップと、
移動体の現在位置を算出するための情報を検知するステップと、
前記検知された情報から移動体の位置および前記検知された情報から移動体の誤差に関わる分散を算出するステップと、
前記算出された移動体の位置に関わる道路の道路情報を前記記憶された地図情報から読み出すステップと、
移動体の位置を中心とした誤差に関わる分散を算出するステップと、
前記読み出された道路情報から道路分布関数を算出するステップと、
前記算出された誤差に関わる分散と、前記算出された道路分布関数と、が重複している部分を抽出するステップと、
前記抽出された重複部分に基づいて、移動体の位置を決めるステップと、
を実行させることを特徴とする位置検出プログラム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【公開番号】特開2011−2324(P2011−2324A)
【公開日】平成23年1月6日(2011.1.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−145212(P2009−145212)
【出願日】平成21年6月18日(2009.6.18)
【出願人】(000001487)クラリオン株式会社 (1,722)
【Fターム(参考)】