説明

作業機のエンジン制御装置

【課題】エンジンの作動を停止させたのち、車体が急発進したりエンストを起す等の不利のない状態でエンジンを始動させることが可能となる作業機のエンジン制御装置を提供する。
【解決手段】キースイッチ以外の他の操作具の操作に基づいてエンジンの作動を停止させるエンジン自動停止処理、及び、エンジンの作動を停止させたのちにエンジンを始動させるエンジン自動始動処理を実行する制御手段Hが備えられ、制御手段Hが、他の操作具によるエンジン停止用操作が開始され且つ設定時間以上継続して行われたことが検出されると、エンジン自動停止処理を実行するように構成され、エンジン自動停止処理を実行したのちにおいて、走行停止操作検出手段STにて機体走行停止操作が行われたことが検出されると、エンジン自動始動処理を実行する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、キースイッチがオン操作されている状態において、前記キースイッチ以外の他の操作具の操作に基づいてエンジンの作動を停止させるエンジン自動停止処理、及び、そのエンジン自動停止処理にて前記エンジンの作動を停止させたのちに前記エンジンを始動させるエンジン自動始動処理を実行する制御手段が備えられている作業機のエンジン制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
上記作業機の一例としての乗用型田植機において、従来では、特許文献1に記載されているように、キースイッチ以外の他の操作具としての走行用の変速操作具が走行停止状態をもたらすエンジン停止位置に操作されると、エンジン自動停止処理を実行し、そのエンジン自動停止処理にてエンジンの作動を停止させたのちに、キースイッチがオン位置に操作されている状態で変速操作具がエンジン停止位置から外れると、エンジン自動始動処理を実行するように構成されたものがあった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2006−94753号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記従来構成では、エンジン自動停止処理が実行されてエンジンの作動が停止したのちに、キースイッチがオン位置に操作されている状態で変速操作具がエンジン停止位置から外れると、制御手段がエンジン自動始動処理を実行するように構成されているから、次のような不利があった。
【0005】
すなわち、エンジン自動停止処理が実行されてエンジンの作動が停止しているのは、例えば、圃場内で作業を行っている途中であり、エンジンを停止して植付け苗を補給する作業等を行なったのち、エンジンを始動させて圃場内で作業を再開させることになるが、そのとき、運転者がエンジンを始動させたのち、すぐに作業を開始させようとして、変速操作具をエンジン停止位置から前進用中立位置を介してすぐに前進走行位置に切り換え操作することがある。
【0006】
しかし、上記従来構成では、変速操作具がエンジン停止位置から外れると、制御手段がエンジン自動始動処理を実行することによりエンジンが始動するが、エンジンの始動処理を開始してからエンジンが始動するまでの間には少し時間がかかるので、運転者の操作の仕方によっては、エンジンが始動するときに走行変速装置が前進走行状態に切り換わっていることが考えられる。そうすると、エンジンが始動されるに伴って車体が急発進したりエンストを起すおそれがある。
【0007】
本発明の目的は、エンジンの作動を停止させたのち、車体が急発進したりエンストを起す等の不利のない状態でエンジンを始動させることが可能となる作業機のエンジン制御装置を提供する点にある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明に係る作業機のエンジン制御装置は、キースイッチがオン操作されている状態において、前記キースイッチ以外の他の操作具の操作に基づいてエンジンの作動を停止させるエンジン自動停止処理、及び、そのエンジン自動停止処理にて前記エンジンの作動を停止させたのちに前記エンジンを始動させるエンジン自動始動処理を実行する制御手段が備えられているものであって、その第1特徴構成は、前記他の操作具のエンジン停止用操作が行われたことを検出するエンジン停止用操作検出手段と、機体の走行を停止させるための機体走行停止操作が行われたことを検出する走行停止操作検出手段とが備えられ、前記制御手段が、前記エンジン停止用操作検出手段の検出情報に基づいて、前記他の操作具によるエンジン停止用操作が開始され且つ設定時間以上継続して行われたことが検出されると、前記エンジン自動停止処理を実行するように構成され、前記エンジン自動停止処理を実行したのちにおいて、前記走行停止操作検出手段にて前記機体走行停止操作が行われたことが検出されると、前記エンジン自動始動処理を実行するように構成されている点にある。
【0009】
第1特徴構成によれば、他の操作具によるエンジン停止用操作が開始され且つ設定時間以上継続して行われると、制御手段がエンジン自動停止処理を実行してエンジンが停止するので、誤操作によって、他の操作具にてエンジン停止用操作が設定時間より短い時間だけ行われても、運転者の意思に反してエンジンが不測に停止することはない。
【0010】
そして、運転者の意思に基づいて他の操作具によるエンジン停止用操作が設定時間以上継続して行われてエンジンを停止したのちにおいて、走行停止操作検出手段にて機体走行停止操作が行われたことが検出されると、制御手段がエンジン自動始動処理を実行してエンジンを始動することになる。ちなみに、機体走行停止操作というのは、機体の走行を停止させるための操作であり、例えば、ブレーキの入り操作や主クラッチの切り操作等の種々の操作がある。
【0011】
このようにエンジン自動停止処理の実行によりエンジンが停止したのちにエンジンを始動させるときには、機体停止操作を行う必要があり、エンジンと走行装置とが動力伝達状態であるときにエンジンが始動することがあっても、機体停止操作を行うことによって、エンジンの始動に伴って車体が急発進したりエンストを起すおそれが少ないものとなる。
【0012】
従って、第1特徴構成によれば、エンジンの作動を停止させたのち、車体が急発進したりエンストを起す等の不利のない状態でエンジンを始動させることが可能となる作業機のエンジン制御装置を提供できるに至った。
【0013】
本発明の第2特徴構成は、第1特徴構成に加えて、前記他の操作具が機体の走行を停止させる走行停止操作具にて構成され、前記エンジン停止用操作検出手段が、前記エンジン停止用操作として、前記走行停止操作具にて機体の走行を停止させる操作が行われたことを検出するように構成されている点にある。
【0014】
第2特徴構成によれば、走行停止操作具が操作され且つその操作が設定時間以上継続して行われると、制御手段がエンジン自動停止処理を実行してエンジンが停止することになる。このように走行停止操作具の操作に基づいてエンジンを停止させるようにしたので、例えば、機体が走行を継続している状態でエンジンを不測に停止させる等の不利がない。
【0015】
ちなみに、走行停止操作具は、作業走行中であっても、例えば走行速度を低下させたり一時的に走行を停止させるために操作されることがあるが、このような一時的な操作と区別するためには、前記設定時間として長めの時間を設定することになる。
【0016】
本発明の第3特徴構成は、第1特徴構成に加えて、前記他の操作具が前記キースイッチ以外のエンジン停止専用の停止用操作具にて構成され、前記エンジン停止用操作検出手段が、前記エンジン停止用操作として、前記停止用操作具が操作されたことを検出するように構成されている点にある。
【0017】
第3特徴構成によれば、エンジン停止専用の停止用操作具が操作され且つその操作が設定時間以上継続して行われると、制御手段がエンジン自動停止処理を実行してエンジンが停止することになる。この停止用操作具はエンジンを停止させるための専用の操作具であるから、運転者は、エンジンを停止させることを意識した状態で操作することになり、他の操作を兼用する操作具に比べて操作誤りの少ない状態でエンジンを停止させることが可能となる。
【0018】
本発明の第4特徴構成は、第1特徴構成に加えて、前記他の操作具が複数の操作位置に操作自在な走行用の変速操作具にて構成されるとともに、前記複数の操作位置のいずれかにエンジン停止用の所定操作位置が設定され、前記エンジン停止用操作検出手段が、前記エンジン停止用操作として、前記変速操作具が前記所定操作位置に操作されたことを検出するように構成されている点にある。
【0019】
第4特徴構成によれば、走行用の変速操作具が所定操作位置に操作され且つその操作が設定時間以上継続して行われると、制御手段がエンジン自動停止処理を実行してエンジンが停止することになる。このように、機体の操縦を行うときに常に操作される走行用の変速操作具を所定操作位置に操作することにより、エンジンを停止させることができるので、運転者は操作の煩わしさの少ない状態でエンジンを停止させることができる。
【0020】
本発明の第5特徴構成は、第4特徴構成に加えて、前記変速操作具が、走行停止用の操作位置及び走行変速用の操作位置を有する変速操作用の通常操作経路から外れた位置に前記所定操作位置が設定され、前記変速操作具による前記所定操作位置から前記通常操作経路への移動用経路が屈曲形成されている点にある。
【0021】
第5特徴構成によれば、変速操作用の通常操作経路から外れた位置に所定操作位置が設定されており、変速操作具がこの所定操作位置に操作されてエンジンが停止することになるが、その後、エンジン自動始動処理が行われて、エンジンが始動する際に、運転者は、機体走行を開始するために、変速操作具を所定操作位置から通常操作経路に戻すことになる。そのとき、所定操作位置から通常操作経路への移動用経路が屈曲形成されていることから、運転者が変速操作具を所定操作位置から通常操作経路へ戻す操作に少し時間がかかることになる。
【0022】
その結果、エンジンの始動処理を開始してからエンジンが始動するまでの間には少し時間がかかるが、エンジンの始動処理と併行して変速操作具を所定操作位置から通常操作経路へ戻す操作を行うような場合であっても、変速操作具を所定操作位置から通常操作経路へ戻す操作に少し時間がかかることから、変速操作具が通常操作経路に戻り、走行変速用の操作位置に操作されるまでの間に時間を稼ぐことができ、停止状態から機体を発進するときに、エンジンが始動されるに伴って車体が急発進したりエンストを起すおそれが少ないものになるとともに、スムーズに所望の車速を得ることができる。
【0023】
本発明の第6特徴構成は、第1特徴構成〜第5特徴構成のいずれかに加えて、前記エンジン自動始動処理における前記機体走行停止操作が、ブレーキを制動状態に操作するブレーキ操作具、及び、主クラッチを切り操作するクラッチ操作具の少なくともいずれか1つの操作であり、前記ブレーキ操作具及び前記クラッチ操作具のうちの少なくともいずれか1つが操作されると、走行用変速装置が強制的に中立状態に復帰操作されるように、前記ブレーキ操作具及び前記クラッチ操作具のうちの少なくともいずれか1つと、走行用の変速操作具又は前記走行用変速装置とが連動連係されている点にある。
【0024】
第6特徴構成によれば、エンジン自動停止処理の実行によりエンジンが停止している状態で、運転者が、ブレーキ操作具を操作すると、ブレーキが制動状態になり機体の走行を停止させることになり、しかも、それに合せて、走行用変速装置が強制的に中立状態に復帰操作される。又、エンジン自動停止処理の実行によりエンジンが停止している状態で、運転者が、主クラッチ操作具を操作すると、主クラッチが切り操作されてエンジンと走行装置との間の動力伝達状態が遮断されて機体の走行を停止させることになり、しかも、それに合せて、走行用変速装置が強制的に中立状態に復帰操作される。
【0025】
このように、ブレーキ操作具及びクラッチ操作具の少なくともいずれか一方が操作されると、機体の走行を停止させるだけでなく、走行用変速装置が中立状態になるので、例えば、ブレーキ操作具の操作が停止されて、ブレーキが非制動状態になったり、クラッチ操作具の操作が停止されて、エンジンと走行装置との間での動力伝達状態が復帰しても、走行状態に切り換わることがなく、走行停止状態がそのまま維持されることになる。
【0026】
その結果、クラッチ操作具及びブレーキ操作具のうちの少なくともいずれか1つが操作されるに伴ってエンジンが始動した場合に、車体が急発進したりエンストを起すことを的確に回避できるものとなる。
【0027】
本発明の第7特徴構成は、第1特徴構成〜第6特徴構成のいずれかに加えて、機体に装備された作業装置による作業を実行する作業状態であるか、前記作業装置による作業を実行しない非作業状態であるかを検出する作業状態検出手段が備えられ、前記制御手段が、前記作業状態検出手段にて前記非作業状態であることが検出されると、前記エンジン自動停止処理及び前記エンジン自動始動処理を実行しないように構成されている点にある。
【0028】
第7特徴構成によれば、作業装置による作業を実行しない非作業状態であるときは、他の操作具によるエンジン停止用操作が設定時間以上継続して行われることがあっても、エンジンは停止しない。
【0029】
非作業状態であるときは、例えば、圃場内での作業が終了して圃場の外に移動するために走行したり、あるいは、路上を走行している場合等があるが、このような非作業状態においては、エンジンを停止させないようにして、移動走行を阻害する等の不利を回避できる。
【0030】
本発明の第8特徴構成は、第7特徴構成に加えて、機体操縦部に備えられたステアリングハンドルが、運転座席に着座している運転者が操作自在な操縦姿勢と、上方に退避移動して乗降用空間を確保する退避姿勢とにわたり姿勢切り換え自在に構成され、前記作業状態検出手段が、前記ステアリングハンドルが前記操縦姿勢にあれば作業状態であり、前記ステアリングハンドルが前記退避姿勢にあれば非作業状態であると検出するように構成されている点にある。
【0031】
ステアリングハンドルが退避姿勢であれば、運転者が一時的に機体から離れているか又はこれから離れようとしているような場合であるが、ステアリングハンドルを退避姿勢に切り換えたのちに、他の操作具によるエンジン停止用操作にてエンジン自動停止処理が行われると、運転者が故障と勘違いするおそれがある。
【0032】
これに対して、第8特徴構成によれば、ステアリングハンドルが退避姿勢であれば、作業状態検出手段が非作業状態であると検出するので、他の操作具によるエンジン停止用操作が設定時間以上継続して行われることがあっても、エンジンは停止しないので、運転者が故障と勘違いする等の不利を回避できるものとなる。
【図面の簡単な説明】
【0033】
【図1】乗用型田植機の全体側面図である。
【図2】乗用型田植機の全体平面図である。
【図3】動力系統図である。
【図4】主変速装置の操作構造を示す側面図である。
【図5】主変速装置の操作構造を示す正面図である。
【図6】変速操作用のガイド板の平面図である。
【図7】主変速レバーとブレーキ操作との連係状態を示す側面図である。
【図8】主変速レバーとブレーキ操作との連係状態を示す側面図である。
【図9】主変速レバーとブレーキ操作との連係状態を示す側面図である。
【図10】制御ブロック図である。
【図11】電源供給状態を示す図である。
【図12】情報表示部の表示内容を示す図である。
【図13】ステアリングハンドルの姿勢変化状態を示す側面図である。
【図14】制御動作のフローチャートである。
【図15】制御動作のフローチャートである。
【図16】畦越え状態の乗用型田植機の全体側面図である。
【図17】操作アームの操作状態を示す図である。
【図18】制御動作のフローチャートである。
【図19】変速操作用のガイド板の平面図である。
【図20】変速操作用のガイド板の平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0034】
〔第1実施形態〕
以下、本発明に係る作業機のエンジン制御装置の第1実施形態を作業機の一例としての乗用型田植機に適用した場合について図面に基づいて説明する。
【0035】
図1,2に示すように、本発明の実施形態に係る乗用型田植機は、左右一対の操向操作及び駆動自在な前輪1、及び左右一対の駆動自在な後輪2が装備された走行機体3を備え、この走行機体3の後部に作業装置としての苗植付装置4がアクチュエータとしての油圧シリンダ5にて駆動昇降自在にリンク機構6を介して連結され、走行機体3の車体後部に施肥装置7を備えて構成されている。
【0036】
走行機体3における機体フレーム8の前部には、前輪1を軸支したミッションケース9が連結固定されるとともに、機体フレーム8の後部には、後輪2を軸支した後部伝動ケース10がローリング自在に支持されている。また、ミッションケース9から前方に延出された前フレーム11にエンジン12が横向きに搭載されてボンネット13で覆われているとともに、エンジン12の後方に位置する機体操縦部には、前輪1を操向操作するためのステアリングハンドル14、運転座席15、運転部ステップ16などが備えられ、また、機体前部の左右には、予備苗を複数段に載置収容する予備苗のせ台17が設けられている。
【0037】
苗植付装置4は、6条分の苗を載置して設定ストロークで往復横移動される苗のせ台21、苗のせ台21の下端から1株分ずつ苗を切り出して圃場に植付けてゆく6組の回転式の植付機構22、植付け箇所を整地する3個の接地フロート23等を備えて構成されている。
【0038】
施肥装置7は、運転座席15と苗植付装置4との間において走行機体3上に搭載されており、粉粒状の肥料を貯留する肥料ホッパー24、この肥料ホッパー24内の肥料を設定量ずつ繰り出す繰出し機構25、繰り出された肥料を供給ホース26を介して各接地フロート23に備えた作溝器27に風力搬送する電動ブロア28等を備えており、作溝器27によって田面Gに形成した溝に肥料を送り込んで埋設してゆくよう構成されている。
【0039】
図1及び図3に示すように、ミッションケース9の側面には、エンジン12にベルト連動された静油圧式の無段変速装置(HST)からなる主変速装置41が連結され、その出力がミッションケース9に入力されて作業系と走行系とに分岐される。分岐された作業系の動力は、ワンウエイクラッチ42によってその正転動力のみが取出され、手動操作にて6段のギヤ変速が可能な株間変速機構43および植付クラッチ(図示せず)を経て作業用動力取出し軸(PTO軸)45(図1参照)から取出され、苗植付装置4に伝達されるようになっている。
【0040】
分岐された走行系動力は、ギヤ式の副変速装置47によって高低2段に変速された後、前輪系と後輪系に再度分岐され、前輪系の動力はデフロック可能な差動装置48を介して左右の前輪1に伝達されるとともに、後輪系の動力は伝動軸49を介して後部伝動ケース10に伝達され、多板式のサイドクラッチ50を介して左右の後輪2に伝達される。又、後部伝動ケース10には機体停止用の多板式のブレーキ51が装備されており、このブレーキ51は、運転部ステップ16の右側足元に配備された足踏み操作式のブレーキ操作具52に機械的に連動連結されている。
【0041】
又、図7〜図10に示すように、ブレーキ操作具52が踏み込み操作されたことを検出する走行停止操作検出手段STとしてのブレーキセンサS1が備えられている。このブレーキセンサS1は、ブレーキ操作具52が踏み込み操作されていなければオフ状態となり、ブレーキ操作具52が踏み込み操作されるとオン状態に切り換わるように構成されている。
【0042】
次に、主変速装置41の変速操作構造について説明する。
主変速装置41は、ステアリングハンドル14の左脇に配備された変速操作具としての主変速レバー53(キースイッチ以外の他の操作具Dの一例)で変速操作されるよう構成されている。
すなわち、図4,5に示すように、ステアリングハンドル14を支持するように立設されたハンドルポスト55には支持ブラケット56が固着され、この支持ブラケット56の左側端部には、支軸57を介してデテント板58が横向き支点a周りに前後揺動可能に支持され、このデテント板58に主変速レバー53が前後向き支点b周りに左右揺動可能に支持されている。ハンドルポスト55を立設支持する支持枠59に、横向き支点c周りに回動可能に中継回動部材60が支持されており、この中継回動部材60とデテント板58とが連係ロッド61を介して連係され、さらに、この中継回動部材60と、主変速装置41の変速操作軸62に連結された変速アーム63とが操作ロッド64を介して連係されている。
【0043】
支持ブラケット56にはガイド板65が固着されており、このガイド板65に形成された段違い状の案内溝66に係合する基端側案内部53aが主変速レバー53の基端部に一体的に設けられている。
すなわち、図5,7に示すように、主変速レバー53の基部に、棒体を略L字形に折り曲げて形成された基端側案内部53aが一体的に固定される状態で設けられている。この基端側案内部53aがデテント板58にて前後向き支点bの周りで回動自在に支持されており、案内溝66を上下に貫通しており、案内溝66と基端側案内部53aとの係合案内作用によって主変速レバー53を所定の段違い操作経路に沿って前後に揺動すべく案内するように構成されている。
【0044】
図6に示すように、段違い操作経路の段違い部位が主変速装置41の中立位置Nに相当し、中立位置Nは前進側中立位置Nfと後進側中立位置Nrとがあり、前進側中立位置Nfの前方に前進変速操作経路Fが形成され、且つ、後進側中立位置Nrの後方に後進変速操作経路Rが形成されている。前進側中立位置Nfと後進側中立位置Nrとが走行停止用の操作位置に相当し、前進変速操作経路Fと後進変速操作経路Rとが走行変速用の操作位置に相当しており、これらにより変速操作用の通常操作経路が構成される。
【0045】
図4に示すように、デテント板58の外周に並列形成した9つの凹部67に、片持ちバネレバー68の遊端に支持したデテントローラ69を弾性係入させることで、主変速レバー53を前進5段(F1〜F5)、中立位置N、および、後進3段(R1〜R3)の各変速位置に保持することができるようになっている。
【0046】
図6に示すように、ガイド板65に形成される案内溝66における前進側中立位置Nfの横外側には、走行停止状態をもたらすエンジン停止位置Qが設定されるとともに、主変速レバー53の基端側案内部53aがエンジン停止位置Qに操作されたことを検知するエンジン停止用操作検出手段ETとしての停止位置検出センサS2が装備されている。
【0047】
そして、主変速レバー53の横方向への操作の中心となる前後向き支点bには、ネジリバネ70が装備されており、主変速レバー53が前進側中立位置Nfに向けて移動付勢されるように構成されている。
又、案内溝66における前進側中立位置Nfとエンジン停止位置Qとの間には、バネ板からなる弾性抵抗部材79が設けられ、前進側中立位置Nfからエンジン停止位置Qへの移動に適度の抵抗が付与されるように構成されている。
【0048】
弾性抵抗部材79による抵抗力を、主変速レバー53がネジリバネ70によってエンジン停止位置Qに向けて操作される付勢力よりも大きく設定しておくことで、主変速レバー53が前進側中立位置Nfに位置する状態で手を離しても直ちにエンジン停止位置Qに移行することはなく、意識的に弾性抵抗部材79を乗り越える操作を行ってエンジン停止位置Qに移行させることになる。
【0049】
主変速レバー53をエンジン停止位置Qに操作すると停止位置検出センサS2がオン状態になり、主変速レバー53がエンジン停止位置Qから離れると、停止位置検出センサS2がオフ状態になるように構成されている。
【0050】
次に、図7〜図9を参照しながら、主変速レバー53とブレーキ操作具52との連係構造について説明する。
主変速レバー53が前進変速操作経路Fに操作されている前進走行状態、あるいは、後進変速操作経路Rに操作されている後進走行状態において、機体停止用のブレーキ操作具52が踏み込み操作されると、主変速レバー53が中立位置Nにまで強制的に復帰操作されるように、主変速レバー53とブレーキ操作具52とが連動連係されている。
【0051】
説明を加えると、中継回動部材60の機体後方側箇所に、支点e周りに前後揺動可能に牽制作動部材81が配備されている。この牽制作動部材81にはアジャストボルト81bによって支点f周りに位置微調節可能な牽制金具81aが備えられており、牽制作動部材81の前縁部が、前記中継回動部材60の支点cより上方箇所に設けた第1接当ピン82に後方から対向するよう構成されるとともに、牽制金具81aの前縁部が、中継回動部材60の支点cより下方箇所に設けた第2接当ピン83に後方から対向するよう配備されている。
【0052】
他方、ブレーキ操作具52を連結したペダル支軸84の他端部には牽制操作アーム85が固着され、この牽制操作アーム85の遊端に回動自在に枢支したボス部材86に、前記牽制作動部材81の下端から後方に向けて延出された押し引きロッド87の後端部が挿通連結されている。ここで、押し引きロッド87は、ボス部材86に対して一定範囲でのみ前後にスライド自在に挿通支持されるとともに、予め初期圧縮変形して押し引きロッド87に外嵌装着した圧縮コイルバネ88によって押し引きロッド87はボス部材86に対して前方スライド限界にスライド付勢されている。
【0053】
図7は、ブレーキ操作具52が踏み込み操作されないで主変速レバー53が前進の最高速である前進5速F5にある状態を示し、また、図8は、ブレーキ操作具52が踏み込み操作されないで主変速レバー53が後進の最高速である後進3速R3にある状態を示している。
【0054】
主変速レバー53が前進変速操作経路Fにある状態(図7の状態)でブレーキ操作具52が踏み込み操作されると、牽制操作アーム85が図中反時計方向に回動されることで押し引きロッド87が前方(図では左方)に突き出され、牽制作動部材81は支点e周りに時計方向に揺動操作される。これによって、図9に示すように、牽制作動部材81は第1接当ピン82を前方に接当押圧し、中継回動部材60は支点c周り反時計方向に強制回動され、主変速レバー53が中立位置N側に向けて戻される。
【0055】
また、主変速レバー53が後進変速操作経路Rにある状態(図8の状態)でブレーキ操作具52を踏み込み操作するときには、牽制作動部材81の牽制金具81aが第2接当ピン83を前方に接当押圧し、中継回動部材60は支点c周り時計方向に強制回動され、主変速レバー53が中立位置N側に向けて戻される。
【0056】
主変速レバー53が中立位置Nに到ると(図9の状態)、第1接当ピン82および第2接当ピン83が共に牽制作動部材81に接当することで、牽制作動部材81及び中継回動部材60は、主変速レバー53が中立位置Nとなる一定姿勢に保持される。
なお、牽制作動部材81の牽制金具81aを位置調節することで、第1接当ピン82および第2接当ピン83を共に牽制作動部材81に接当させて中継回動部材60を正確に中立復帰させることができる。
【0057】
ここで、圧縮コイルバネ88によって与えられた初期圧縮力は、主変速レバー53を強制移動させるのに必要な操作力より大きく設定されており、主変速レバー53が中立位置Nに到るまでは、圧縮コイルバネ88は操作反力で圧縮変形されることはない。そして、主変速レバー53が中立位置Nに到った後、更にブレーキ操作具52が踏み込み操作されると、前方に移動不能となった押し引きロッド87に対して牽制操作アーム85が圧縮コイルバネ88を更に圧縮変形させながら図中反時計方向に回動されることで十分なブレーキ操作ストロ−クが確保される。
【0058】
副変速装置47は、植付け作業用の植付け変速状態と路上走行用変速状態の2段階の切り換え自在に構成されるとともに、この副変速装置47は運転座席15の左脇に配備された副変速レバー54で操作されるように構成されている。つまり、副変速レバー54が、植付け変速用操作位置と、路上走行用操作位置とに切り換え自在に設けられ、その切り換え操作に基づいて副変速装置47の変速状態が切り換わる構成となっている。そして、圃場での植付け作業中は、副変速装置47は植付け変速状態に維持されることになる。
【0059】
副変速レバー54が植付け変速用操作位置と路上走行用操作位置のいずれにあるかを検出する副変速センサS3(作業状態検出手段Jの一例)が設けられ、この副変速センサS3は、副変速レバー54が路上走行用操作位置(非作業状態)にあればオン状態となり、植付け変速状態(作業状態)にあればオフ状態となるように構成されている。
【0060】
図10に示すように、油圧シリンダ5に作動油を給排操作する制御弁32が備えられており、制御弁32により油圧シリンダ5に作動油が供給されると、油圧シリンダ5が収縮作動して苗植付装置4が上昇し、制御弁32により油圧シリンダ5から作動油が排出されると、油圧シリンダ5が伸長作動して苗植付装置4が下降するように構成されている。
【0061】
又、走行機体3に対するリンク機構6の昇降角度を検出するポテンショメータからなるリンク角センサS4が備えられて、リンク角センサS4の検出値が制御手段としての制御装置Hに入力されており、走行機体3に対するリンク機構6の角度を検出することにより、走行機体3に対する苗植付装置4の高さを検出することができるようになっている。
【0062】
運転座席15の前方に位置する操作パネル35の中央部には、液晶表示パネルを用いた情報表示部36が備えられている。詳述はしないが、情報表示部36には、例えば、苗のせ台21上に苗残量が少なくなったことやバッテリーVの電圧が低下していること等を表示したり、その他の種々の情報が表示される。
【0063】
図12に示すように、情報表示部36には、累計稼動時間(アワーメータ)及びエンジン回転数を表示する4桁の数値表示部37が備えられている。そして、この数値表示部37は、アワーメータやエンジン回転数を表示するだけではなく、アルファベット及び*印等を表示することができるようになっており、後述するエンジン自動発停制御についての表示としても利用するようになっている。ちなみに、図12(a)は数値表示部37の全てのセグメントが点灯している全点灯状態を示し、図12(b)はエンジン回転数の表示例を示している。図12(c),(d),(e)は、後述するようなエンジン制御における表示例を示している。
【0064】
機体操縦部に備えられたステアリングハンドル14が、図13に示すように、運転座席15に着座している運転者が操作自在な操縦姿勢(図14の仮想線で示す状態)と、上方に退避移動して乗降用空間を確保する退避姿勢(図14の実線で示す状態)とにわたり姿勢切り換え自在に構成されている。詳述はしないが、ステアリング操作軸14aを途中部にて折れ曲がり自在に構成し、ステアリングハンドル14及びハンドルポスト14bとが一体的に操縦姿勢と退避姿勢とにわたり横軸芯P1周りで揺動自在に設けられ、図示しない位置保持機構により夫々の位置で位置保持自在に設けられている。
【0065】
そして、ステアリングハンドル14が操縦姿勢であるか退避姿勢であるかを検出するハンドル姿勢検出センサS5(作業状態検出手段Jの一例)が設けられている。このハンドル姿勢検出センサS5は、ステアリングハンドル14が操縦姿勢であればオン状態となり、ステアリングハンドル14が退避姿勢であればオフ状態となるように構成されている。
【0066】
図10に示すように、ブレーキセンサS1、停止位置検出センサS2、副変速センサS3、リンク角センサS4、ハンドル姿勢検出センサS5の検出値が制御装置Hに入力されており、これ以外にも、エンジン12の回転数を検出するエンジン始動状態検出手段としてのエンジン回転数センサS6が備えられ、このエンジン回転数センサS6の情報も制御装置Hに入力されるように構成されている。尚、これ以外にもバッテリーVの電圧を検出する電圧検出手段(図示せず)が備えられる。
【0067】
図11は、制御装置Hやその他の電装品への電源供給状態を示しており、この図に示すように、制御装置Hは、キーKにて操作されるキースイッチ90が電源入り位置(ON)に操作されると、バッテリーVの電源が投入されて起動される。
又、キースイッチ90が電源切り位置(OFF)に操作されても、直ちに電源の供給が停止されるのではなく、自己保持回路91によって電源供給が継続されるようになっており、キースイッチ90が電源切り位置(OFF)に操作されたときにおける各部の動作状態を図示しない不揮発性メモリに書き込み記憶させたのちに、自己保持回路91を遮断して電源供給を停止するように構成されている。また、キースイッチ90が始動位置(ST)に操作されたときには、バッテリーVとエンジン始動用モータ93との間の電源供給路に介装されたスターター起動用のリレー92をオン状態に切り換えてエンジン始動用モータ93を作動させてエンジン12を始動させることになる。
尚、図示はしていないが、エンジン12に対する燃料供給量を変更調節自在な調速装置が備えられ、主変速レバー53の操作状態に対応して速度が大になるほど燃料供給量を増加させるように調速装置を連動操作する連動操作機構が備えられている。
【0068】
又、バッテリーVから制御装置Hを含む全ての電装品に対して電力を供給する主電源線95には、電力供給を断続自在な断続回路96が介装されており、この断続回路96は、制御装置Hからの指令によって電力供給状態と遮断状態とに切り換えることができるように構成され、又、キースイッチ90が始動位置(ST)に操作されたときに電力が供給されて作動する駆動回路97によっても電力供給状態と遮断状態とに切り換えることができるように構成されている。
【0069】
そして、制御装置Hは、キースイッチ90が電源入り位置(ON)に維持されている場合であっても、エンジン停止条件が成立するとエンジン12の作動を停止させ、その後、エンジン始動条件が成立するとエンジンを始動させるエンジン制御を実行するように構成されている。
【0070】
エンジン制御は、圃場において苗植付け作業を行なっている場合に、例えば、苗植付け作業にて消費された植付け苗を補給する苗補給作業等を行うときに、エンジン12を一時的に停止させることにより、燃料の無駄な消費を抑制したり、騒音の低減を図ることが可能となるようにしたものである。又、苗補給作業等が終了すると、エンジン12を始動させて苗植付け作業を行うことができる。
【0071】
前記エンジン停止条件は、停止位置検出センサS2が設定時間(例えば数秒)継続してオン操作されるという条件が設定されている。設定時間の継続操作を条件とするのは、誤操作により短時間だけオン操作されることによりエンジン12を停止させないようにしたものである。
ちなみに、エンジン12を停止させるための構成としては、エンジン12に供給する燃料供給を遮断する燃料遮断弁74を遮断状態に切り換える構成である。尚、エンジン12を停止させるための構成として、エンジン12が点火プラグを備えるものであれば、点火プラグに対する通電を遮断する構成とするものでもよい。
【0072】
次に、図14,15のフローチャートに基づいて、制御装置Hによるエンジン制御について説明する。
ハンドル姿勢検出センサS5のオン状態が検出されてステアリングハンドル14が操縦姿勢であると検出され、且つ、副変速センサS3のオン状態が検出されて副変速装置47が植付け変速状態であることが検出されると、ステップ3以降の処理を実行するが、ハンドル姿勢検出センサS5のオフ状態が検出されるか、又は、副変速センサS3のオフ状態が検出されると、以降の処理は実行しない(ステップ1,2)。
【0073】
ステップ3以降の処理を実行するときは、主変速レバー53がエンジン停止位置Qに操作されて、停止位置検出センサS2がオン状態になり、その状態が設定時間(数秒間)以上継続すると(ステップ3,4)、情報表示部36の表示内容をエンジン停止処理を実行することを表示するための表示に変更する(ステップ5)。
【0074】
前記情報表示部36の表示内容としては、例えば、図12(c)に示すように、数値表示部37を利用して「*ECO」という表示を行い、さらに、ボンネット13の前部中央に設けられているセンターマスコット94の先端に設けてある表示ランプ(図示せず)を点滅表示させるように構成されている。
【0075】
次に、リンク角センサS4の検出情報に基づいて、油圧シリンダ5を収縮作動させるように制御弁32を制御して、苗植付装置4を設定昇降位置の一例としての最大上昇位置にまで上昇させる(ステップ6,7)。苗植付装置4が最大上昇位置にまで上昇すると、エンジン12を停止させるエンジン停止処理を実行する(ステップ8)。具体的には、燃料遮断弁74を遮断状態に切り換えてエンジン12に対する燃料供給を停止することによりエンジン12の作動を停止させる。
【0076】
尚、主変速レバー53がエンジン停止位置Qに操作されてエンジン12が停止したのちに、運転者が主変速レバー53から手を離しても、弾性抵抗部材79による抵抗力により主変速レバー53はエンジン停止位置Qに維持される。
【0077】
制御装置Hは、エンジン停止処理を実行する場合、それまで実行していた苗植付け作業における各部の動作状態(苗植付装置4の種々の作業条件等)について図示しない不揮発性メモリに記憶しておき、エンジン12を始動させて作業を再開するときに、記憶していた動作状態と同じ状態で作業を行うようにしている。
【0078】
エンジン停止処理を実行してから設定時間が経過しても、後述するようなエンジン始動条件が成立しないときは(ステップ9,10)、バッテリーVの放電を防ぐために電源供給を遮断するようになっている(ステップ11)。具体的には、断続回路96に電力遮断状態への切り換えを指令して断続回路96を遮断させ、すべての電装品への電力供給を遮断させる。
【0079】
ちなみに、このように電力遮断状態に切り換えられたのち、エンジン12を始動させるためには、運転者がキースイッチ90を始動位置(ST)に操作することで対応できる。つまり、キースイッチ90が始動位置(ST)に操作されると、駆動回路97が作動して断続回路96を電力供給状態に切り換えるので、制御装置Hやその他の電装品にも電力が供給され、エンジン12の始動も行われることになる。
【0080】
エンジン停止処理によってエンジン12を停止している場合に、ブレーキ操作具52が新たに踏み込み操作されることにより、ブレーキセンサS1がオフ状態からオン状態に切り換わったことが検出されると(ステップ10)、エンジン12を始動させる処理を実行することを情報表示部36にて表示する(ステップ12)とともに、エンジン始動用モータ93の回転作動を開始させてエンジン12を始動させるエンジン始動処理を開始する(ステップ13)。
このときの情報表示部36の表示内容としては、例えば、図12(d)に示すように、数値表示部37を利用して「N―ST」という表示を行うように構成されている。
【0081】
その後、エンジン回転数センサS4の検出情報に基づいて、検出されるエンジン回転数が設定回転数以上になってエンジン12が始動したことが検出されると、エンジン始動用モータ93の回転作動(エンジン始動処理)を停止させ、情報表示部36による表示をエンジン回転数表示に切り換えて(ステップ14,15,16)、処理を終了する。
【0082】
尚、運転者がブレーキ操作具52を踏み操作している状態で、主変速レバー53をエンジン停止位置Qに操作してエンジン12を停止させたような場合には、ブレーキセンサS1はオン状態に維持されているが、そのときは、オフ状態からオン状態への切り換わりではないので、ステップ9における切り換えの判別は行われず、エンジン12が始動することはない。又、エンジン12が停止したのちに、運転者が一旦、ブレーキ操作具52の踏み込み操作を解除してブレーキセンサS1をオフ状態に切り換えたのちに、再度、ブレーキ操作具52を踏み込み操作すると、ブレーキセンサS1のオフ状態からオン状態への切り換わりが検出されてエンジン12が始動することになる。
【0083】
エンジン始動用モータ93の回転作動を開始してから始動用設定時間(例えば、数秒間)が経過してもエンジン12の始動が検出されないときは、エンジン12が始動していなくてもエンジン始動用モータ93の回転作動(エンジン始動処理)を停止させる(ステップ17,18)。このことにより、エンジン始動用モータ93により電力が無駄に消費されることを回避するようにしている。
【0084】
そして、エンジン始動用モータ93の回転作動を停止してから待機用設定時間が経過すると、再度、エンジン始動用モータ93の回転作動を開始し(ステップ19,20)、エンジン12が始動すると、ステップ14に移行して処理が終了するが、エンジン12の始動が検出されなければ、再度、エンジン始動用モータ93の回転作動を開始することになる。このようにして電力の無駄な消費を抑制しながらも的確にエンジン12を始動させることができるようにしている。
【0085】
但し、エンジン始動用モータ93の回転作動が設定回数以上行われてもエンジン12が始動しないときは、例えば、図12(e)に示すように、情報表示部36における数値表示部37を利用して「*EEE」という表示を行い、エラー状態であることを表示して、処理を終了する(ステップ20,21)。このとき情報表示部36の表示は点滅させることにより異常であることを運転者が認識し易いようにしている。
【0086】
〔第2実施形態〕
以下、本発明に係る作業機のエンジン制御装置の第2実施形態について図面に基づいて説明する。
この実施形態では、運転座席15から運転者が離れた状態で、エンジン12を始動させたり、停止させたりすることができるように構成されているが、このようなエンジン制御に係る構成以外の構成は第1実施形態と同様であるから、同じ構成については説明は省略し、異なる構成について説明する。
【0087】
図16に示すように、運転座席15に運転者が着座しているとオン状態となり、運転者が着座していなければオフ状態となる作業状態検出手段Jとしての着座センサS7が備えられ、走行機体3の機体前部には、図16に示すように、畦越え走行するときに機体前方外方側から機体を操作するための他の操作具Dとしての操作アーム100が設けられている。
【0088】
この操作アーム100は、その先端部の握り部を握って走行機体3の前部の押し下げ操作を可能にして、畦越え作業時における走行機体3の前部の浮き上がりを防止する握り操作具として機能するものである。
【0089】
そして、操作アーム100は、図17に示すように、機体側に揺動する格納位置C1と、機体前方側に位置する作業姿勢C4とにわたり基端側の横向き軸芯周りで揺動操作自在で、且つ、図示しない摩擦保持機構により任意の位置で位置保持自在に設けられている。そして、この操作アーム100の揺動操作位置を検出するポテンショメータ型のアーム位置検出センサS8が設けられている。
【0090】
第1実施形態と同様なブレーキ操作具52が踏み込み操作された状態で弾性変位によりロック作用するロック保持具(図示せず)が設けられ、ブレーキ操作具52から足を離しても制動状態を維持することができるように構成されている。又、例えばソレノイド等のアクチュエータにてロック保持具による係止状態を解除操作自在なロック解除装置101が備えられている。
【0091】
着座センサS7及びアーム位置検出センサS8の検出情報が制御装置Hに入力されており、制御装置Hは、第1実施形態と同様なエンジン始動用モータ93及び燃料遮断弁74を制御するとともに、ロック解除装置101を制御するように構成されている。
【0092】
次に、図18のフローチャートに基づいて制御装置Hによる畦越え時エンジン制御について説明する。
着座センサS7がオフ状態となり運転座席15に運転者が着座していない状態が検出されると(ステップ31)、アーム位置検出センサS8にて検出される操作アーム100の位置が、図17に示すように格納位置C1と作業位置C4との間の中間に設定された第1操作位置C2と格納位置C1との間における格納側領域W1に位置しているときは、そのときエンジン12が作動していればエンジン12の作動を停止させる(ステップ32,33,34)。
【0093】
操作アーム100が、第1操作位置C2よりも作業位置C4側の作業側領域W2にまで倒し操作されると、そのときエンジン12が停止していれば、エンジン12を始動させる(ステップ35,36)。又、操作アーム100が、第1操作位置C2と作業位置C4との間の中間に設定された第2操作位置C3を越えて倒し操作されると、ロック解除装置101を作動させて係止保持具によるブレーキ操作具52の係止保持を解除して制動状態を解除する(ステップ37,38)。尚、機体前方外方から変速操作自在な変速操作レバー(図示せず)を操作することで畦越え用の低速状態に変速操作可能に構成されている。
【0094】
つまり、運転者が運転座席15から離れて操作アーム100を格納位置C1から作業位置C4に操作すると、エンジン12が始動されるとともに制動状態が解除されるので、エンジン停止処理を実行した後であっても、機体外部から操作することでエンジン12を始動させて畦越え走行を行うことができる。
【0095】
又、運転者が運転座席15に着座しているときは、着座センサS7がオン状態となり、上記したような畦越え時エンジン制御は行われないので、この状態では、操作アーム100がどの位置に操作されても、その操作に伴ってエンジン12が停止したり始動することはない。
【0096】
〔別実施形態〕
(1)上記第1実施形態では、案内溝66における前進側中立位置Nfの横外側にエンジン停止位置Qが設定される構成としたが、図19に示すように、案内溝66における後進側中立位置Nrの横外側にエンジン停止位置Qが設定される構成としてもよい。又、この場合、主変速レバー53を中立位置Nにおいて後進側中立位置Nrに向けて移動付勢する構成としてもよい。
【0097】
又、図20に示すように、主変速レバー53によるエンジン停止位置Qから変速操作用の通常操作経路への移動用経路Zが屈曲形成されるものでもよい。つまり、移動用経路Zが平面視で略コ字形に屈曲する状態で設けられるものであり、主変速レバー53をエンジン停止位置Qから前進変速操作経路F又は後進変速操作経路Rに移動させる操作に少し時間がかかる構成である。
【0098】
例えば、エンジン自動停止処理が実行されてエンジン12が停止しているときに、ブレーキ操作具52が新たに踏み込み操作されることにより、ブレーキセンサS1がオフ状態からオン状態に切り換わったことが検出されて、エンジン始動処理が実行されるような場合に、運転者が機体を走行させようとして、エンジン始動処理と併行して変速操作具53をエンジン停止位置Qから前進変速操作経路F又は後進変速操作経路Rに移動させる操作を行うことがある。
【0099】
そのような場合であっても、変速操作具53をエンジン停止位置Qから前進変速操作経路F又は後進変速操作経路Rに移動させる操作に少し時間がかかるので、主変速装置41が走行駆動状態になるまでの間に時間を稼ぐことができ、停止状態から機体を発進するときに、エンジン12が始動されるに伴って車体が急発進したりエンストを起すおそれが少ないものになるとともに、スムーズに所望の車速を得ることができる。
【0100】
(2)上記第1実施形態では、ブレーキ操作具52が操作されると、主変速レバー53が中立位置Nに強制的に復帰するように連動連係する構成とし、ブレーキ操作具52が踏み込み操作されると、変速操作具53がエンジン停止位置Qに位置しているか否かにかかわらず、エンジン12を始動させる構成としたが、このような構成に代えて、エンジン12から主変速装置41への伝動途中に主クラッチ(図示せず)と、この主クラッチを入切操作するクラッチ操作具(図示せず)とを備える構成とし、ブレーキ操作具52がブレーキ入り状態(制動状態)に操作されるか、あるいは、クラッチ操作具が主クラッチを切り状態に切り換える操作が行われると、エンジン12を始動させる構成としてもよい。
【0101】
又、エンジン始動処理を実行するときは、変速操作具53がエンジン停止位置Qに位置していないことを条件とするものでもよい。つまり、エンジン12が作動停止している状態で、停止位置検出センサS2がオフ状態であって、且つ、ブレーキセンサS1のオフ状態からオン状態への切り換わりが検出されると、エンジン12を始動するように制御する構成としてもよい。
【0102】
(3)上記第2実施形態では、ロック解除装置101がブレーキ操作具52が踏み込み操作された状態でロック作用するロック保持具による係止状態を解除操作自在な構成であり、操作アーム100が第2操作位置C3を越えて倒し操作されると、ロック解除装置101を作動させる構成としたが、このような構成に代えて、次の(3−1)、(3−2)に記載の構成としてもよい。
【0103】
(3−1)エンジン12から主変速装置41への伝動途中に主クラッチ(図示せず)と、この主クラッチを入切操作するクラッチ操作具(図示せず)とを備える構成とし、クラッチ操作具が踏み込み操作され主クラッチが切り操作された状態で弾性変位によりロック作用するロック保持具(図示せず)が設けられ、クラッチ操作具から足を離しても主クラッチ切り状態を維持することができるように構成され、例えばソレノイド等のアクチュエータにてロック保持具による係止状態を解除操作自在なロック解除装置が備えられて、操作アーム100が第2操作位置C3を越えて倒し操作されると、ロック解除装置を作動させて主クラッチを入り状態に切り換える構成としてもよい。
【0104】
(3−2)主変速レバー53を中立位置Nに操作されている状態で弾性変位によりロック作用するロック保持具(図示せず)が設けられ、例えばソレノイド等のアクチュエータにてロック保持具による係止状態を解除操作自在なロック解除装置が備えられて、操作アーム100が第2操作位置C3を越えて倒し操作されると、ロック解除装置を作動させて主変速レバー53を前進変速操作経路Fや後進変速操作経路Rに操作可能な状態に切り換える構成としてもよい。
【0105】
(4)上記各実施形態では、キースイッチ90以外の他の操作具Dとして主変速レバー53や機体前部の操作アーム100を用いるようにしたが、このような構成に代えて、次の(4−1)〜(4−3)に記載の構成としてもよい。
【0106】
(4−1)キースイッチ90以外の他の操作具Dとして、例えば、押しボタンスイッチ等からなるエンジン停止専用の停止用操作具(図示せず)を備えて、エンジン停止用操作検出手段ETとして、停止用操作具が操作されたことを検出する検出センサ(図示せず)を備え、停止用操作具が設定時間以上継続して操作されると、例えば主変速レバー53がいずれの操作位置に操作されていてもエンジン12を停止させる構成としてもよい。又、上記検出センサは、搭乗運転部の操作パネル35に設ける構成だけでなく、主変速レバー53等の各種の操作レバーの握り部に設ける構成としてもよい。
【0107】
(4−2)ブレーキ操作具52が、キースイッチ90以外の他の操作具Dとして機能するものでもよい。つまり、エンジン12が作動している状態で、ブレーキ操作具52を新たに操作してブレーキセンサS1がオンとなり、そのオン状態が長めに設定された設定時間(例えば、数秒〜数十秒間)継続すると、例えば、主変速レバー53がいずれの操作位置に操作されていてもエンジン12を停止させる構成としてもよい。すなわち、ブレーキセンサS1がエンジン停止用操作検出手段STとして機能する構成である。
【0108】
(4−3)エンジン12から主変速装置41への伝動途中に主クラッチ(図示せず)と、この主クラッチを入切操作するクラッチ操作具(図示せず)とを備える構成とし、エンジン停止用操作検出手段として、クラッチ操作具による主クラッチ切り操作が行われたことを検出する検出センサ(図示せず)を備え、クラッチ操作具による主クラッチ切り操作が設定時間以上継続して操作されると、主変速レバー53がいずれの操作位置に操作されていてもエンジン12を停止させる構成としてもよい。
【0109】
(5)上記実施形態では、作業状態検出手段Jとして、ハンドル姿勢検出センサS5と副変速センサS4とが備えられる構成としたが、作業状態検出手段Jとしては、植付クラッチの入り切りを指令するクラッチ操作具の入り切り操作を検出するもの、苗植付装置4の対機体高さが非作業位置(最大上昇位置)にあるか否かを検出するもの、苗植付装置4に備えられた走行指標作成用のマーカー(図示せず)が格納姿勢に維持された状態であるか否かを検出するもの、あるいは、着座センサS7等を用いてもよい。
【0110】
(6)上記実施形態では、作業機として乗用型田植機を例示したが、本発明は乗用型の直播機や他の作業機にも適用できる。
【産業上の利用可能性】
【0111】
本発明は、乗用型田植機や乗用型直播機等の作業機であって、キースイッチ以外の他の操作具の操作に基づいてエンジンの作動を停止させるように構成されている作業機に適用できる。
【符号の説明】
【0112】
4 作業装置
14 ステアリングハンドル
15 運転座席
41 走行用変速装置
12 エンジン
51 ブレーキ
52 走行停止操作具(ブレーキ操作具)
53 変速操作具
90 キースイッチ
ES エンジン停止位置
D 他の操作具
ET エンジン停止用操作検出手段
H 制御手段
R,F 走行変速用の操作位置
J 作業状態検出手段
N 走行停止用の操作位置
ST 走行停止操作検出手段
Q 所定操作位置
Z 移動用経路

【特許請求の範囲】
【請求項1】
キースイッチがオン操作されている状態において、前記キースイッチ以外の他の操作具の操作に基づいてエンジンの作動を停止させるエンジン自動停止処理、及び、そのエンジン自動停止処理にて前記エンジンの作動を停止させたのちに前記エンジンを始動させるエンジン自動始動処理を実行する制御手段が備えられている作業機のエンジン制御装置であって、
前記他の操作具のエンジン停止用操作が行われたことを検出するエンジン停止用操作検出手段と、機体の走行を停止させるための機体走行停止操作が行われたことを検出する走行停止操作検出手段とが備えられ、
前記制御手段が、
前記エンジン停止用操作検出手段の検出情報に基づいて、前記他の操作具によるエンジン停止用操作が開始され且つ設定時間以上継続して行われたことが検出されると、前記エンジン自動停止処理を実行するように構成され、
前記エンジン自動停止処理を実行したのちにおいて、前記走行停止操作検出手段にて前記機体走行停止操作が行われたことが検出されると、前記エンジン自動始動処理を実行するように構成されている作業機のエンジン制御装置。
【請求項2】
前記他の操作具が機体の走行を停止させる走行停止操作具にて構成され、
前記エンジン停止用操作検出手段が、前記エンジン停止用操作として、前記走行停止操作具にて機体の走行を停止させる操作が行われたことを検出するように構成されている請求項1記載の作業機のエンジン制御装置。
【請求項3】
前記他の操作具が前記キースイッチ以外のエンジン停止専用の停止用操作具にて構成され、
前記エンジン停止用操作検出手段が、前記エンジン停止用操作として、前記停止用操作具が操作されたことを検出するように構成されている請求項1記載の作業機のエンジン制御装置。
【請求項4】
前記他の操作具が複数の操作位置に操作自在な走行用の変速操作具にて構成されるとともに、前記複数の操作位置のいずれかにエンジン停止用の所定操作位置が設定され、
前記エンジン停止用操作検出手段が、前記エンジン停止用操作として、前記変速操作具が前記所定操作位置に操作されたことを検出するように構成されている請求項1記載の作業機のエンジン制御装置。
【請求項5】
前記変速操作具が、走行停止用の操作位置及び走行変速用の操作位置を有する変速操作用の通常操作経路から外れた位置に前記所定操作位置が設定され、
前記変速操作具による前記所定操作位置から前記通常操作経路への移動用経路が屈曲形成されている請求項4記載の作業機のエンジン制御装置。
【請求項6】
前記エンジン自動始動処理における前記機体走行停止操作が、ブレーキを制動状態に操作するブレーキ操作具、及び、主クラッチを切り操作するクラッチ操作具の少なくともいずれか1つの操作であり、
前記ブレーキ操作具及び前記クラッチ操作具のうちの少なくともいずれか1つが操作されると、走行用変速装置が強制的に中立状態に復帰操作されるように、前記ブレーキ操作具及び前記クラッチ操作具のうちの少なくともいずれか1つと、走行用の変速操作具又は前記走行用変速装置とが連動連係されている請求項1〜5のいずれか1項に記載の作業機のエンジン制御装置。
【請求項7】
機体に装備された作業装置による作業を実行する作業状態であるか、前記作業装置による作業を実行しない非作業状態であるかを検出する作業状態検出手段が備えられ、
前記制御手段が、前記作業状態検出手段にて前記非作業状態であることが検出されると、前記エンジン自動停止処理及び前記エンジン自動始動処理を実行しないように構成されている請求項1〜6のいずれか1項に記載の作業機のエンジン制御装置。
【請求項8】
機体操縦部に備えられたステアリングハンドルが、運転座席に着座している運転者が操作自在な操縦姿勢と、上方に退避移動して乗降用空間を確保する退避姿勢とにわたり姿勢切り換え自在に構成され、
前記作業状態検出手段が、前記ステアリングハンドルが前記操縦姿勢にあれば作業状態であり、前記ステアリングハンドルが前記退避姿勢にあれば非作業状態であると検出するように構成されている請求項7記載の作業機のエンジン制御装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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【公開番号】特開2012−237201(P2012−237201A)
【公開日】平成24年12月6日(2012.12.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−105341(P2011−105341)
【出願日】平成23年5月10日(2011.5.10)
【出願人】(000001052)株式会社クボタ (4,415)
【Fターム(参考)】