保持装置、基板処理装置、基板の温度管理方法、電子放出素子ディスプレイの生産方法及び有機ELディスプレイの生産方法
【課題】 インライン方式でも使用することができ、更に、熱伝導ガスを用いずに比較的小さい押し付け力、例えば、基板の自重程度の押し付け力で基板と基台間の接触熱抵抗を下げること。
【解決手段】 基板保持装置は、基台と、基台の第一の面に載置される粘着性のある熱伝導シートと、熱伝導シートのプラズマに晒される部分を覆うフィルムと、熱伝導シートの基台と反対側の面に配置された基板を熱伝導シートに押し付ける機構と有する。
【解決手段】 基板保持装置は、基台と、基台の第一の面に載置される粘着性のある熱伝導シートと、熱伝導シートのプラズマに晒される部分を覆うフィルムと、熱伝導シートの基台と反対側の面に配置された基板を熱伝導シートに押し付ける機構と有する。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、保持装置、基板処理装置、基板の温度管理方法、電子放出素子の生産方法及び有機ELディスプレイの生産方法に関する。
【背景技術】
【0002】
表示用基板を製造する基板処理装置、例えば、有機電界発光素子(有機EL:ELは、Electroluminescenceの略であり、以降本明細書では、有機電界発光素子を「有機EL」と略す)を代表とするフラットパネルディスプレイ用の基板処理装置は、基板(ガラス基板)上に所望のパターンを所望の精度で形成することにより、表示素子としての機能を付与する。基板処理装置におけるパターンの形成方法としては、例えば、真空蒸着法、スパッタリング法、フォトリソグラフィ法、スクリーン印刷法などが用いられ、基板にパターンが形成される。フラットディスプレイに対してより高精細な表示能力が要求されることに伴い、より高精細なパターン形成精度が基板処理装置に対して求められている。
【0003】
真空蒸着法はスパッタリング法と並び、他手法と比較して高精度なパターン精度を低価格かつ高い信頼性で実現できる手法として知られている(特許文献1)。特に、有機EL表示装置の製造においては、フォトリソグラフィに代表されるウェットプロセスによる素子への水分ダメージの極めて少ないドライプロセスとして真空蒸着法が注目されている。
【0004】
真空蒸着法によるパターン形成(成膜)においては、形成すべきパターンに対応した開口を有するマスクを被成膜対象物である基板に密着させた状態でマスク越しに材料を成膜工程(蒸着工程)で成膜(蒸着)することにより、基板上に所望のパターンが形成される。真空蒸着法によるパターン形成では、マスクと基板との密着精度が、表示素子としての機能を実現するためのパターンの仕上がり精度に依存する。そのため、不要な部分に膜を付着させないために、マスクが基板に対して正確に位置合わせされ、且つマスクが基板に密着固定されている必要がある。
【0005】
微細パターンをマスク上に形成するためには、マスクの厚さを薄くする必要がある。また、被成膜対象物に対する密着性やマスクとしてのパターン精度を確保するために、マスクには、撓みやシワなどが発生しないことが求められる。特許文献2では、厚さ500μm以下の金属製マスクに対して張力をかけながら、金属製マスクの外周をマスク枠に固定(溶接)する技術が開示されている。
【0006】
張力がかけられた金属製マスクは、外周でマスク枠と溶接により接合された構造であるため、金属製マスクの内部には張力が作用し、マスク枠には金属製マスクの張力に対する反力が作用する。金属製マスクには張力が働くため、張力により撓みやシワが補正され、金属製マスクの平坦性が確保される。
【0007】
マスクに張力をかける他の目的として、成膜中のマスクへの入熱によるマスクの熱膨張を抑制することが挙げられる。例えば蒸着源からの輻射熱によって、マスクの温度が上昇し、結果としてマスクが熱膨張するが、その熱膨張量よりも大きい弾性変形を、予めマスクに与えておけば、マスクの温度上昇による熱膨張の影響を排除することがでできる。
【0008】
また、被成膜対象物である基板と、マスクとを保持する保持装置、及び保持装置を有する基板処理装置では、マスクと基板の相対的な位置ずれを低減させるため、成膜工程における基板の温度上昇を抑制させる必要がある。成膜は高真空中で行われるため、基板が基台と接触する面の接触熱抵抗が高くなり、蒸着源からの輻射熱により基板の温度が上昇して、基板の熱膨張によりマスクと基板の相対的な位置ずれが大きくなってしまうという課題が生じる。
【0009】
上述の課題に対して、基板が基台と接触する面の隙間に、ヘリウムガスなどの熱伝導ガスを導入することで、基板が基台と接触する面の接触熱抵抗を低減させる方法や、基板が基台と接触する面の隙間に軟金属箔やエラストマーなどの弾性部材を挿んで、接触面積を増加させて、接触熱抵抗を低減させる方法が知られている(例えば、特許文献3)。
【0010】
特許文献1乃至3の方式の中では、基板が基台と接触する面の隙間に熱伝導ガスを導入する方式が、もっとも接触熱抵抗を小さくすることができるが、この方式では、導入した熱伝導ガスが基板と基台の接触面から漏れ出てくるのを回収するための差動排気機構が必要になる。この差動排気機構は、基板が基台と接触する面の隙間の熱伝導ガス圧を一定にして、かつ、蒸着室の高真空圧力を保持させるために、装置の構成が複雑になり、装置コストが増大するという問題がある。
【0011】
さらには、基板処理装置が稼働するタクトタイムを短くするために、インライン方式(基板通過成膜方式)で基板処理装置を使用する場合には、基板を基台ごと、移動経路に沿って移動させる必要があるが、熱伝導ガスの供給配管や差動排気配管を基台に接続したまま移動させることが困難なため、基板通過成膜方式では、基板が基台と接触する面の隙間に熱伝導ガスを導入する方式を採用することはできない。
【0012】
一方、基板が基台と接触する面の隙間に軟金属箔やエラストマーなどの弾性材料を挿んで、接触面積を増加させて、接触熱抵抗を低減させる方法では、配管や配線を基台に接続したまま移動させる必要がないので、基板通過成膜方式でも採用できるが、接触熱抵抗を小さくするには、弾性部材を介して基板を基台に強い力で押し付ける必要がある。
【0013】
基板を基台に押し付ける力としては、基板を挟んだ状態で、マスクを磁気吸引力で基台側に引き込むことが一般的に用いられている。マスクは厚さが500μm程度の磁性体の金属膜であり、磁気吸引力は基板が基台から落下しない程度の押し付け力しかないのが一般的であり、接触熱抵抗を小さくするのには、押し付け力が不十分である。
【0014】
比較的小さい押し付け力、例えば、基板の自重程度の押し付け力で基板と基台間の接触熱抵抗を下げる方法として、軟金属箔、エラストマーなどの弾性部材の代わりに粘着性を有する熱伝導シートを挟む方法が考えられる。
【0015】
粘着性を有する熱伝導シートは、電子部品などの発熱部品の冷却効率をあげるために、発熱部品とヒートシンクの間に挟んだ状態で用いられるもので、大気圧中の使用用途では広く一般的に用いられている。粘着性を有する熱伝導シートに要求される能力としては、柔軟で粘着性を持ち、発熱部品とヒートシンクの密着性能を高めることが挙げられる。
【0016】
そのため、粘着性を有する熱伝導シートは、一般的に、ゴムに軟化剤として低蒸気圧のオイルが含有している。例えば、ゴム材料と軟化剤の組み合わせとしては、シリコンゴムと、シリコンオイルと、を組み合わせたものがある。シロキサン汚染を考慮するなら、アクリル系ゴム、エチレンプロピレン系ゴム(EPDM系ゴム)、ウレタン系ゴム、ポリオレフィン系ゴムの各種ゴム材にパラフィンオイル、ナフテンオイル、ポリオレフィンオイル、アロマオイルのいずれかを組み合わせものが一般的である。なお、シロキサンは電気接点障害を起こしやすいので、半導体プロセスでは使用しないことが望ましい。
【0017】
また、蒸着プロセスなどの高度の真空中では、オイル成分が揮発するため、そのままでは使用できないというい問題がある。
【0018】
特許文献4には、高度の真空中で熱伝導シートを使用する方法として、例えば、熱伝導シートの代わりに、オイル成分を含むペースト状の材料を袋につめたシートを形成して、袋で囲うことでオイル成分が揮発するのを防止する方法が提案されている(特許文献4)。
【特許文献1】特公平6-51905号公報
【特許文献2】特許3539125号公報
【特許文献3】特開2003−213413号公報
【特許文献4】特開平7−76774号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0019】
特許文献4により提案されている方法によれば、オイル成分が揮発するのを防止することが可能であるが、シート全面にわたって袋で囲われているので、粘着性がなく、また、シート表面の袋にしわがよることにより、袋と基板及び基台の接触熱抵抗は大きくなってしまい、成膜時の輻射熱による基板温度上昇を低減できないという問題がる。
【課題を解決するための手段】
【0020】
本発明は、上記の従来技術に鑑みてなされたものであり、インライン方式(基板通過成膜方式)でも使用することができ、更に、熱伝導ガスを用いずに比較的小さい押し付け力、例えば、基板の自重程度の押し付け力で基板と基台間の接触熱抵抗を下げることが可能な技術の提供を目的とする。
【0021】
上記の目的を達成する本発明にかかる保持装置は、
基台と、
前記基台の第一の面に載置される粘着性のある熱伝導シートと、
前記熱伝導シートの真空に晒される部分を囲うフィルムと、
前記熱伝導シートの前記基台と反対側の面に配置された基板を前記熱伝導シートに押し付ける手段と、を有することを特徴とする。
【0022】
あるいは、上記の目的を達成する本発明にかかる基板処理装置は、上記の保持装置を備えることを特徴とする。
【発明の効果】
【0023】
本発明によれば、インライン方式(基板通過成膜方式)でも使用することができ、更に、熱伝導ガスを用いずに比較的小さい押し付け力、例えば、基板の自重程度の押し付け力で基板と基台間の接触熱抵抗を下げることが可能になる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0024】
以下、図面を参照して、本発明の好適な実施形態を例示的に詳しく説明する。ただし、この実施の形態に記載されている構成要素はあくまで例示であり、本発明の技術的範囲は、特許請求の範囲によって確定されるのであって、以下の個別の実施形態によって限定されるわけではない。
【0025】
以下、図1A、図1Bを参照して、本発明の実施形態にかかるマスク保持装置(以下、単に「保持装置」ともいう)、保持装置を有する基板処理装置の構成及び動作を説明する。
【0026】
図1Aは、保持装置の概略的な構成を示す図である。101はマスク枠200aを基台400に固定するためのマスク枠固定用の永電磁石である。中心部永電磁石102X及び周辺部永電磁石102Yは、磁性体により構成されるマスク膜状平面200bを基台400側に磁気吸着して基板300を挟み基板300を固定するための固定用永電磁石である。マスク枠固定用の永電磁石101、中心部永電磁石102X及び周辺部永電磁石102Yの具体的な構成及び動作に関しては、図6、図7を参照して後に説明する。
【0027】
200はマスク枠200aとマスク膜状平面200bとを有するマスク、300は被処理対象物(基板)、132は温調媒体を流すための管路、133は温調媒体の温度制御と供給を行う温調装置(熱媒体置換用ポンプ)である。151aは中心部永電磁石102Xに電流を供給する駆動用電源(電流供給部)、151bは周辺部永電磁石102Yに電流を供給する駆動用電源(電流供給部)、151cはマスク枠固定用の永電磁石101に電流を供給する駆動用電源(電流供給部)である。152a乃至152cは配線、153a乃至153cはスイッチ、120は基台側接点、121は電源側接点、500は保持装置、400は保持装置500の基台、1201は熱媒体用空間である。403はフィルム付熱伝導シートである。フィルム付熱伝導シート403の具体的な構成に関しては、図1B、図1Dを参照して説明する。
【0028】
マスク200を被処理対象物300(基板)に位置合わせした後、マスク枠固定用の永電磁石101に供給する電流を制御して永電磁石101に磁気吸着力を発生させる。マスク枠200aが永電磁石101により生成された磁気吸着力により基台400に磁気吸着されると、マスク枠200aは基台400に保持(固定)される。
【0029】
次に、中心部永電磁石102X及び周辺部永電磁石102Yに供給する電流を制御して、マスク膜状平面200bを磁気吸着して被処理対象物300を挟み、被処理対象物300を基台400に保持(固定)する。
【0030】
成膜工程(蒸着工程)では、マスク200を保持装置の基台に保持(固定)した状態から天地反転した状態にして、成膜(蒸着)処理が行われる。
【0031】
図1Bは、フィルム付熱伝導シート403の構成を例示的に説明する断面図である。フィルム付熱伝導シート403は、粘着性のある熱伝導シート403aと、薄いフィルム状の部材であるフィルム403bとを有する。粘着性のある熱伝導シート403aの外周部と、熱伝導シート403aのシート面(表面側及び裏面側を含む)の端部とは、フィルム403bにより覆われている。図1Dは、フィルム付熱伝導シート403において、フィルム403bにより覆われる領域を例示的に説明する図である。熱伝導シート403aの外周部は、403b−1で示される領域に対応する。熱伝導シート403aのシート面(表面側及び裏面側を含む)の端部は、403b−2で示される領域に対応する。403b−1と403b−2を含む熱伝導シート403の真空に晒される部分は、フィルム状の部材により覆われている。
【0032】
熱伝導シート403aの外周部と熱伝導シート403aのシート面の端部は、基板300に膜を形成するための真空処理室において、真空状態に曝される領域である。フィルム403bで熱伝導シート403aの外周部と、熱伝導シート403aのシート面の端部が覆われる領域は、被処理対象物300に対して、成膜処理が施される(成膜領域)外であることが望ましく、例えば、被処理対象物300(基板)の外周端から10mm〜30mmの領域を、熱伝導シート403aのシート面の端部403b−2の領域に対応させることが望ましい。
【0033】
薄いフィルム403bとしては、例えば、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリエステル、または、テトラフルオロエチレンとエチレン共重合体(ETFE)が好適である。フィルム付熱伝導シート403は、接着剤、若しくは、両面テープなどの固定部材により被処理対象物300と基台400との間に挟まれるように保持されている。図1Bにおいて、フィルム付熱伝導シート403は、接着剤403cにより基台400に固定された状態を例示している。
【0034】
マスク200は、高剛性のマスク枠200aおよび薄いマスク膜状平面200b(マスクパターンが形成されているパターン形成部)より構成されている。マスク200は金属の磁性材料製であり、本実施形態では、例えば、鉄系等の磁性材料を使用する。特に、蒸着時における輻射入熱による熱膨張を小さくするために、インバー材などの低熱膨張材料の使用が好適である。磁性材料からなるマスク膜状平面200bには、エッチングなどの方法により、所望のパターンに対応している微小な開口が形成されている。
【0035】
図1Cは、マスク200を例示的に示す平面図である。この例では、マスク200は、36面取りのマスクである。マスク200は、被処理対象物300の被処理面に対して薄膜パターンを形成するための微細な開口が設けられているマスク膜状平面200bと、マスク枠200aとを有している。マスク枠200aで囲まれた個々の矩形領域が一面(例えば、1つの表示デバイス)に相当する。
【0036】
パターン領域であるマスク膜状平面200b(マスクパターン部)の厚みが厚いと、被成膜面がマスク200の影となり、微細な開口の周辺部の膜厚が薄くなるという問題が生じるため、マスク膜状平面200bの厚みは、マスク枠200aよりも薄くできており、例えば、厚さは50μm以下とすることもある。マスク膜状平面200b(マスクパターン部)を薄くすることによって、微細な開口に斜め方向から入射する成膜粒子をも基板に到達させることができる。マスク膜状平面200b(マスクパターン部)は、事前に張力を加えた状態で、マスク枠200aに包囲されるようにマスク枠200aに溶接などの方法により固定されうる。マスク枠200aには、マスク膜状平面200b(マスクパターン部)に加えた張力に対する反力により発生する変形を許容値内に収めるための剛性が与えられる。
【0037】
(永電磁石の説明)
図6及び図7は、被処理対象物300(例えばガラス基板)とマスク200とを保持する保持装置(固定機構)が有する永電磁石700の構成を例示する図である。ここで、永電磁石とは、外部からの電気的制御により、永電磁石の外部に永久磁石の磁場が漏れる状態と外部に漏れない状態とを制御して、保持する対象物を磁気吸着する吸着状態と、保持する対象物を磁気吸着しない非吸着の状態と、を実現することができるものをいう。従って、図6、図7に示した構成に限ることなく、上記の機能が実現可能な構成であれば、本明細書で言及される永電磁石に含まれる。
【0038】
図6、図7を参照して、保持装置が有する永電磁石700の動作を説明する。図6、図7において、700aは磁性体、700bは極性固定磁石、700cは極性可変磁石、700dはコイル、700fはコイル700dに電流を印加するための配線(不図示)を収納するための空間である。Lは、極性固定磁石700bからの磁力線を示しており、図中のN及びSは磁極を示している。
【0039】
図6は、磁性体からなるマスクを磁気吸着する吸着状態を示している。まず、コイル700dに所定時間通電(約0.5秒間通電)する。これにより、極性可変磁石700cの極性を反転させて、極性固定磁石700bと極性可変磁石700cとを同極化させる。これにより、磁場(磁力線L)が永電磁石の外部に多く漏れ、磁性体700aが磁性体からなるマスクを磁気吸着する吸着状態となる。
【0040】
図7は、磁性体からなるマスクを磁気吸着しない非吸着(脱磁)状態を示している。まず、コイル700dに所定時間通電(約0.5秒間通電)する。ここで、所定時間通電される電流は、図6で説明した極性可変磁石700cの極性を反転させるため、図6で通電された電流と逆の極性の電流である。これにより、極性可変磁石700cの極性を反転させて、極性固定磁石700bと極性可変磁石700cとが引き合う状態にさせる。これにより、極性固定磁石700bからの磁場(磁力線L)が保持装置の有する永電磁石700の外部に漏れない状態になり、磁性体700aと磁性体からなるマスクとの非吸着状態が生じる。
【0041】
図6に示す磁性体からなるマスク200を磁気吸着する吸着状態から、マスク200および被処理対象物300の保持を解除する際は、再び第1接点120と第2接点121とを接続し、その状態で、電流供給部151(151a、151b、151c)から第1接点120および第2接点121を介して永電磁石101、102X、102Yのコイル700dに対して、保持装置の永電磁石の状態を非吸着状態に設定するための電流を供給すればよい。
【0042】
次に、被処理対象物300およびマスク200の吸着および脱着手順に関して図1Aを用いて説明する。保持装置の基台400が予め定められた停止位置に停止した状態で、永電磁石101、中心部永電磁石102X及び周辺部永電磁石102Yに所定の電流を供給する電流供給部151(151a、151b、151c)と接続可能になる。
【0043】
保持装置の基台400が予め定められた停止位置に停止した状態で、基台側の接点120(第1接点)と電源側接点121(第2接点)とが接続される。ここで、第1接点120と第2接点121との接続は、不図示の操作機構によって行うことが可能である。第1接点120と第2接点121の構造としては、例えば、高電流用嵌合ピンや高電流用のプローブを用いることが可能である。また、第1接点120と第2接点121の構造は、特定のものには限定されず、例えば、雄型のコネクタを雌型のコネクタに圧入するタイプのものでもよいし、一方を他方に押し付けるタイプのものでもよいし、他のタイプのものでもよい。
【0044】
第1接点120と第2接点121とが接続された状態で、まず、スイッチ153cがONされ、配線152cと電流供給部(駆動用電源151c)とは導通状態になる。電流供給部(駆動用電源151c)から第1接点120および第2接点121を介して永電磁石101を吸着状態に設定するための電流が供給される。マスク枠200aは基台400側に磁気吸着され、基台400に密着固定される。
【0045】
次に、スイッチ153aがONされ、配線152aと電流供給部(駆動用電源151a)とが導通状態になる。電流供給部(駆動用電源151a)から第1接点120および第2接点121を介して中心部永電磁石102Xを吸着状態に設定するための電流が供給される。中心部永電磁石102Xによる磁気吸着によりマスク膜状平面200bの中央部の吸着が行われ、マスク膜状平面200bの中央部が磁気吸着力により弾性変形して、被処理対象物300の中央部と密着固定される。マスク膜状平面200bの中央部を被処理対象物300の中央部に接触(第1接触)させることで、マスク膜状平面の面全体を吸着する場合に発生するマスク200のシワや位置ズレを起こすことなく良好な密着性を確保することが可能となる。
【0046】
次に、スイッチ153bがONされ、配線152bと電流供給部(駆動用電源151b)とが導通状態になる。電流供給部(駆動用電源151b)から第1接点120および第2接点121を介して周辺部永電磁石102Yに対して、吸着状態に設定するための電流が供給される。周辺部永電磁石102Yよる磁気吸着によりマスク膜状平面200bの周辺部の吸着が行われ、マスク膜状平面200bの周辺部が磁気吸着力により弾性変形して、マスク膜状平面の周辺部が被処理対象物300の周辺部と密着固定され、マスク膜状平面200bの全体が被処理対象物300と完全に密着固定される。
【0047】
以上の動作ステップにより、マスク200が永電磁石101、中心部永電磁石102X及び周辺部永電磁石102Yによって磁気吸着され、マスク200および被処理対象物300が保持装置の基台400の保持面上に保持(固定)される。以後、保持装置の基台400の状態を非吸着状態に設定するための電流が電流供給部151(151a、151b、151c)から第1接点120および第2接点121を介して永電磁石101、中心部永電磁石102X及び周辺部永電磁石102Yに対して供給されない限り、磁気吸着の状態が維持される。このため、被処理対象物300が密着固定された状態で、基台400が真空処理装置内を移動した場合でも位置ずれを起こすことなく密着固定状態を維持でき、その結果高精細のパターンでの成膜が可能となる。
【0048】
なお、被処理対象物300およびマスク200の吸着は、窒素ガス等の不活性ガス雰囲気中で、基板処理装置の真空雰囲気(真空状態)ではない処理室又は大気圧力下即ち該真空処理室の外部で行う。そうすることで、フィルム付熱伝導シート403のうち、フィルム403bで覆われていない部分からの低蒸気圧のオイル成分の揮発を抑止できる。
【0049】
このようにして、マスク200と被処理対象物300とを密着させて、かつ、被処理対象物300をフィルム付熱伝導シート403を介して基台400と密着させることにより、成膜時においてマスク200および被処理対象物300が受ける輻射熱はフィルム付熱伝導シート403を介して基台400に流入(伝導)しやすくなり、成膜時の被処理対象物300の温度上昇を抑制し、被処理対象物300を冷却することができる。
【0050】
なお、マスク200及び被処理対象物300から基台400に流入(伝導)した熱は、基台400に蓄熱される。ここで、実際に被処理対象物300と基台400との間の接触熱抵抗を実験で求めたところ、被処理対象物300の厚さが1.8mmのガラス板の場合、被処理対象物300の自重程度の押し付け力では、フィルム付熱伝導シート403を介在させない場合、被処理対象物300と基台400との間の接触熱抵抗は1280〔K/(W/cm2)〕以上であり、被処理対象物300が受ける輻射熱は基台400にほとんど流入せず、被処理対象物300だけが温度上昇した。
【0051】
次にフィルム付熱伝導シート403を被処理対象物300と基台400との間に介在させた場合、被処理対象物300と基台400との接触熱抵抗は、フィルムが無い領域(基板の成膜領域)において16〔K/(W/cm2)〕程度である。また、フィルムがある領域(被処理対象物の成膜領域外)では、250〔K/(W/cm2)〕程度であった。
【0052】
この実験結果から、被処理対象物300の成膜領域、つまり被処理対象物が成膜時に輻射熱を受ける領域は、熱伝導シートをフィルムで囲わずに粘着性がある状態で使用することで、被処理対象物300と基台400との接触熱抵抗を、フィルムありの場合の250〔K/(W/cm2)〕に対して16〔K/(W/cm2)〕まで下げることが可能となり、成膜時の被処理対象物の温度上昇を抑制し、被処理対象物300を冷却することができた。
【0053】
また、被処理対象物300の成膜領域外(熱伝導シートの外周部と熱伝導シート面の端部に対応する)では、粘着性を有する熱伝導シート403aをフィルム403bで覆うことにより、熱伝導シート403aが真空雰囲気に晒されないようにすることができ、熱伝導シート403aに含有されているオイル成分の揮発を抑止することができた。
【0054】
マスク200および被処理対象物300の保持を解除する際は、再び第1接点120と第2接点121とを接続し、その状態で、電流供給部151(151a、151b、151c)から第1接点120および第2接点121を介して永電磁石101、102X、102Yのコイル700dに対して、保持装置の永電磁石の状態を非吸着状態に設定するための電流を供給すればよい。
【0055】
この脱離の場合も、窒素ガス等の不活性ガス雰囲気中で、基板処理装置の真空雰囲気ではない部屋又は大気圧力下即ち該真空処理室の外部で、マスク200および被処理対象物300の保持を解除することで、フィルム付熱伝導シート403のうちフィルム403bで覆われていない部分からの低蒸気圧のオイル成分の揮発を抑止することができる。
【0056】
基板300への膜の形成の際に保持装置の基台400は、例えば、蒸着源等の材料供給部34からの輻射熱等により加熱され得る。或いは、保持装置の基台には加熱やその後の熱放出により不均一な温度分布が形成され得る。そこで、図2に示すように、保持装置の基台400の支持体に温度調整用の温調媒体が流通可能な熱媒体空間1021を設けることが好ましい。保持装置の基台の移動に伴って温度調整用の管路が移動することを避けるために、保持装置500の基台400から、温調媒体の供給用及び回収用の管路を延ばす。そして、その先端にはジョイント130a及び130bを取り付ける。一方、媒体置換用ポンプ133から熱媒体空間1021に温調媒体を供給するための管路132a(サプライ側)と、熱媒体空間1021から温調媒体を回収するための管路132b(リターン側)を設ける。そして、その先端にジョイント131a及び131bを取り付ける。基台400が所定の位置に来たときに、130a及び131a並びに130b及び131bを接続する。そして、接続後に熱媒体置換用ポンプ133から温調媒体を供給する。そして、基台400を移動させるときは、130a及び131a並びに130b及び131bの接続を解き、基台400が配管132a及び132bから接続が解除されて状態で移動する。また、図2の変形例として、熱媒体空間1021のそれぞれに温調媒体を循環させるための管路を接続して、保持装置の温度を調節するようにしてもよい。
【0057】
温調装置(熱媒体置換用ポンプ133)は、温度制御された温調媒体を管路132a、132bのジョイント131a、131bを保持装置側のジョイント130a、130bに接続して、管路132a、132bおよび保持装置500の基台400に設けられている熱媒体空間1021によって構成される循環経路を通して温調媒体を循環させる。ジョイント131a、131bとジョイント130a、130bとの接続は、不図示の操作機構によってなされうる。
【0058】
温調装置(熱媒体置換用ポンプ133)は、温調媒体を目標温度に制御する温度制御部800を有する。温度制御部800は、例えば、温調器(例えば、冷却器及び加熱器の少なくともいずれか一方を含む)、温度センサ、目標温度と温度センサによる測定値との偏差に基づいて操作量を演算して温調器を制御するPID補償器等を含み得る。ここで、温度センサは、温調装置(熱媒体置換用ポンプ133)のほか、例えば、保持装置の基台側にも配置されて、保持装置側に配置された温度センサによる温度測定値が不図示の無線通信デバイスによって温調装置(熱媒体置換用ポンプ133)の温度制御部800に提供されてもよい。保持装置側の温度センサや無線通信デバイスは、バッテリーによって駆動されうる。保持装置側で温度を測定し、それを温調装置(熱媒体置換用ポンプ133)の温度制御部800にフィードバックすることにより、保持装置の温度を高い精度で制御することができる。
【0059】
温調装置(熱媒体置換用ポンプ133)は、保持装置を目標温度まで冷却するように構成されてもよいし、目標温度まで加熱するように構成されてもよい、温度の不均一な分布を低減するように構成されてもよい。
【0060】
温調装置(熱媒体置換用ポンプ133)による保持装置の温度調整が終了すると、保持装置側のジョイント130a、130bから温調装置(熱媒体置換用ポンプ133)側のジョイント131a、131bが切り離されて、保持装置が搬送されうる。温調装置(熱媒体置換用ポンプ133)は、例えば、図3で説明する搬入室31および搬出室33のうちすくなくともいずれかにおいて温度を調整するように構成される。
【0061】
(基板処理装置の説明)
図3は、本発明の好適な実施形態の基板処理装置の概略構成を示す図である。まず、基板300の搬入及び搬出について説明する。基板処理装置30は、バルブ401a、401b、401cを介して真空ポンプ等の真空排気ユニット402a、402b、402cに連通している。
【0062】
基板300を搬入し、位置決めし、固定(保持装置の基台400によって保持)する工程は、搬入室(第1処理室)31で行われる。基板300は、不図示の基板搬送系によって、搬入室31に搬送される。搬送された基板300は、不図示の基板の載せ換え機構により、保持装置の基台400の保持面上に載置される。また、マスク200は、不図示のマスク搬送系により、基板300を覆うように保持装置の基台400上に搬送される。
【0063】
このようにして搬送された基板300とマスク200は、搬入室31内において、保持装置の基台400側の接点(第1接点)120および電流供給部151側の接点(第2接点)121とを接続して永電磁石のコイルが通電されることにより、保持装置の基台400に磁気吸着される。これにより、基板300に膜を形成する準備が完了する。
【0064】
保持装置の基台400側の接点(第1接点)120と電流供給部151側の接点(第2接点)121との接続が解除された後に、搬入室31の内部に配置された回転機構により、成膜室(第2処理室)32内での成膜のために、基板300およびマスク200を保持した保持装置の基台400の天地が反転される。成膜室32では、例えば、蒸着、スパッタリング、化学気相成長等の方法により基板300に膜が形成されうる。
【0065】
その後、基板300およびマスク200を保持した保持装置の基台400は、搬送系900により、成膜室(第2処理室)32へ搬送され、成膜室32において、蒸着等により基板300に膜が形成される。膜の形成は、蒸着源等の材料供給部34から原料を基板300に供給することによってなされうる。
【0066】
膜の形成が完了すると、基板300およびマスク200を保持した保持装置の基台400は、搬送系910により搬出室(第3処理室)33に搬送される。
【0067】
その後、搬出室33の内部に配置された回転機構により、基板300およびマスク200を保持した保持装置の基台400の天地が反転される。次いで、搬出室33内において、保持装置の基台400側の接点(第1接点)120および電流供給部151側の接点(第2接点)121と、を接続して永電磁石のコイルが通電されることにより、保持装置による磁気吸着が解除される。その後、不図示の基板の載せ換え機構によって、保持装置の基台400からマスク200および基板300が分離されて、それぞれの搬送系に渡される。基板300は、次工程の装置に搬送される。
【0068】
なお、搬入室31、成膜室32および搬出室33が1つの空間を構成してもよい。上記のように、保持装置の基台400は、マスク200および基板300を保持した状態で搬送されたり、回転等の操作を受けたりしうる。したがって、マスク200および基板300が保持装置の基台400によって保持されていることを保証することは重要である。また、保持装置の基台400にマスク200および基板300が保持されている状態でそれらを保持装置の基台400から取り去ろうとすると、マスク200および基板300に過度なストレスが加わりうる。
【0069】
そこで、基板処理装置30は、保持装置の基台400の状態を検知する検知部185を備えることが好ましい。検知部185は、例えば、永電磁石101から出る磁界を検知する磁気センサ140と、磁気センサ140を支持する磁気センサ支持部材141と、を有する。磁気センサ140によって保持装置の基台400の状態が第1状態(吸着状態)であるか第2状態(非吸着状態)であるかを検知するように構成されうる。磁気センサ140は、磁気センサ支持部材により支持されている。例えば、磁気センサ140は、マスク200の近傍に配置されており、永電磁石101の外部に磁場がもれていないことを検知すると、マスク200は非吸着状態であることが確認される。一方、磁気センサ140は、永電磁石101の外部に磁場がもれていることを検知すると、マスク200は吸着状態であることが確認される。吸着状態であることが確認された後、被処理対象物300および保持装置の基台400を反転させて、マスク200を基台400から脱離させることにより、マスク200が吸着されていない状態で、基板300と保持装置の基台とを反転させることにより、マスク200及び被処理対象物300が保持装置の基台400から落下することを防止することができる。本実施形態では、磁気センサ140による検出は、搬出室(第3処理室)33で行われる例を示しているが、この例に限定されず、搬入室(第1処理室)31において、磁気センサ140を用いて、マスク200の吸着状態、または非吸着状態を検出して、マスク200が吸着されていない状態で、基板300と保持装置の基台とを反転させることにより、マスク200及び被処理対象物300が保持装置の基台400から落下することを防止することができる。
【0070】
ガラス基板は、フラットパネルディスプレイ用の基板として広く使用されており、こうした用途では従来、静電チャックなどの機器を基台上に設置することで、固定機能を確保していた。本発明によれば、静電チャックを使用することなく、同等の固定機能を実現でき、装置コスト低減が実現出来る。
【0071】
さらには、熱伝導ガスを用いないので、熱伝導ガスの供給配管が不要になり、容易に搬送可能にできるので、インライン方式(基板通過成膜方式)においても用いることが可能で、装置タクトを短縮できるので成膜コストをより安価にすることができる。本発明の実施形態にかかる保持装置は、成膜処理として真空蒸着法を用いてパターンを形成する処理装置への適用に限定されず、スパッタリング法や化学的気相反応法(Chemical Vapor Deposition)などを用いてパターンを形成する処理装置にも使用することができる。
【0072】
本実施形態に拠れば、インライン方式(基板通過成膜方式)でも使用することができ、更に、熱伝導ガスを用いずに比較的小さい押し付け力、例えば、基板の自重程度の押し付け力で基板と基台間の接触熱抵抗を下げることが可能になる。
【0073】
また、真空処理室において、基板に膜を形成するための成膜処理で加熱された基板の温度を管理する基板の温度管理方法は、以下の工程を有する。載置工程では、真空処理室の外部の処理室または大気圧環境即ち該真空処理室の外部で、保持装置が有する基台の保持面に、フィルム付熱伝導シート403を載置する。押し付け工程では、真空処理室の外部の処理室または大気圧環境即ち該真空処理室の外部で、保持面に沿って基台の内部に配置されている永電磁石で、マスクを磁気吸着させて、熱伝導シートの上に載置されている基板を熱伝導シートに押し付ける。管理工程では、真空処理室における成膜処理により加熱された基板の輻射熱を、熱伝導シート403を介して基台に伝導させて、基板の温度を管理する。ここで、熱伝導シート403の真空に晒される部分は、フィルムにより覆われている。
【0074】
(電子放出素子ディスプレイの製造方法)
先に説明した保持装置を使用して、電子放出素子ディスプレイを生産する実施形態を説明する。図4は、本発明に係わる真空処理装置として構成されうる基板処理装置30を生産に適用する画像表示装置の一つである電子放出素子ディスプレイの斜視図である。ここで、基板処理装置30は、先に説明した保持装置を備えている。
【0075】
1001は電子源基板、1002は行配線、1003は列配線、1004は電子放出素子、1007は第一のゲッタ、1010は第二のゲッタ、1011は補強板、1012は枠、1013はガラス基板、1014は蛍光膜、1015はメタルパック、Dox 1〜D0x mは列選択端子、Doy 1〜D0y nは行選択端子を表す。尚、1013、1014、1015はフェースプレートを構成する。
【0076】
本表示装置は、行配線1002及び列配線1003が平面的に交差する所に、電子放出素子1004が配置されている。そして、選択された行配線1002及び列配線1003に所定の電圧を印加するとその平面的に交差する部位に位置する電子放出素子1004から電子が放出され、電子は正の高電圧が印加されているフェースプレートに向かって加速される。電子はメタルパック1015に衝突しそれに接する蛍光膜1014を励起し、発光する。
【0077】
ここで、フェースプレート、枠1012及びガラス基板1013で囲まれた空間は真空に維持される。そして、その空間を画像表示装置の耐用期間に亘って真空状態に維持するために、内部にゲッタ材が配されている。ゲッタ材には、蒸発型ゲッタと非蒸発型ゲッタがあり、適宜使い分けられている。蒸発ゲッタとしては、Ba,Li,Al,Hf,Nb,Ta,Th,Mo,Vなどの金属単体、あるいはこれらの金属の合金が知られている。一方、非蒸発ゲッタとしては、Zr、Tiなどの金属単体、あるいはこれらの合金が知られている。いずれも金属で、電導体である。
【0078】
図4の例においては、第一のゲッタ1007は列配線1003上に形成されている。第一のゲッタ1007の形成方法は、列配線1003以下の部位が作成された電子源基板1001を、成膜装置のホルダー上に載置する。そして、列配線1003の形状を有するメタルマスクを、位置合わせをして電子源基板1001上に位置させる。その後、真空蒸着法、スパッタリング法又は化学気相成長法等により第一のゲッタ1007を成膜する。厚さは2μm程度である。
【0079】
この第一のゲッタの作成においては、最終的に電子放出素子1004となる導電体膜が既に形成されているので、前述の第一のゲッタ1007が導電膜と電気的に導通しないようい作製することが肝要である。その際許容される位置合わせ誤差は、±3μm程度である。
【0080】
一方、画像表示装置は今後益々大型且つ高精細になってゆき、その結果許容される位置合わせ誤差は益々小さくなってゆくと考えられる。
【0081】
従って、本発明のような大型で重量のあるマスクを精度良く位置合わせが出来る真空処理装置を使用した生産方法は、電子放出素子ディスプレイの製造の用途に特に適している。
【0082】
(有機ELディスプレイの製造方法)
先に説明した保持装置を使用して、有機ELディスプレイを生産する実施形態を説明する。図5Aおよび図5Bは、図3に示す基板処理装置30を生産工程の一部において使用して生産する画像表示装置の1つである有機ELディスプレイの構成および製造方法を例示する図である。ここで、基板処理装置30は、先に説明した保持装置を備えている。
【0083】
501はガラス基板、502はアノード、503は素子分離層、504aはホール注入層、504bはホール輸送層、505は発光層、506は電子輸送層、507は電子注入層、508はカソードである。なお、図5Bでは、ホール注入層504aおよびホール輸送層504bの積層構造が504として示されている。
【0084】
アノード電極502とカソード電極508との間に電圧が印加されると、アノード電極502によりホールがホール注入層504aに注入される。一方、カソード電極508より電子が電子注入層507に注入される。注入されたホールはホール注入層504aおよびホール輸送層504bを移動し、注入された電子は電子注入層507及び電子輸送層506を移動して発光層505に達する。発光層505に達したホールと電子は再結合して発光する。
【0085】
発光層505の材料を適宜選択することにより、光の三原色である赤(R)、緑(G)及び青(B)の光を発光させることが可能で、その結果、フルカラーの画像表示装置を実現できることができる。
【0086】
次に、図5Aに示す構造の製造方法を図5Bを参照しながら説明する。図5Bには、R、G、Bを発光する部位よりなる一ピクセルが示されている。図5Bは、有機ELディスプレイの発光部の一般的な製造方法を示す工程図である。まず、前工程で、TFT(Thin Film Transitor)および配線部が形成され、その後、平坦化のための成膜処理がなされたガラス基板等の基板501上に反射率の高い導電膜が形成される。その導電膜を所定の形状にパターニングされることによりアノード電極502が形成される。次に、アノード電極502上の赤、緑、青を発光する部位を囲むようにして絶縁性の高い材料からなる素子分離膜503が形成される。これにより、隣接する発光する部分R、G、Bの間は素子分離膜503により仕切られる。
【0087】
次いで、アノード電極502上にホール注入層504aおよびホール輸送層504bからなる層504、発光層505、電子輸送層506、電子注入層507が蒸着法により順次に形成される。電子注入層507上に透明性導電膜からなるカソード電極508を積層することで、基板501上に有機ELディスプレイの発光部が形成される。
【0088】
最後に、基板上の上記発光部が透湿性の低い材料からなる図示しない封止層で覆われる。
【0089】
ここで、R、G、Bの各発光層105を蒸着法で作製する際には、図5B(c)に例示するように基板がマスク510で覆われる。図5B(c)においては、Rの発光部を形成するときのマスク510が示されている。したがって、GおよびBの発光部は、マスク510で覆われており、GおよびBの部位に赤Rの発光材料が混入しないようにしている。このような発光層の形成工程は、GおよびBの発光層の形成についても実施される。ここで、例えば、対角5.2インチで320×240ピクセルのフルカラー有機ELディスプレイの場合、ピクセルピッチは0.33mm(330μm)であり、サブピクセルピッチは0.11mm(110μm)である。このような場合、マスクのアライメント精度として、数ミクロン以下の精度が要求される。また、ホール輸送層504b、発光層505、電子輸送層506および電子注入層507の形成は、各有機材料の混入を防止するために互いに異なるチャンバーで行われ、且つそれぞれの専用のマスクが使用される。したがって、それらの成膜プロセスでもマスクを所定の位置に高精度にアライメントする必要がある。
【0090】
よって、マスクアライメントが高い精度で迅速に行えることは、有機ELディスプレイの生産性及び歩留まりの向上を図る上で重要である。
【0091】
また、今後益々大型の表示画面のディスプレイに対する常用が高まると考えられ、その際には重い大型のマスクを高い精度で迅速にアライメントすることに対する要求が益々大きくなることが予想される。
【0092】
上記の保持装置および基板処理装置は、大型で重いマスクを精度良く且つ迅速にアライメントする必要がある有機ELディスプレイの製造の用途に特に適している。
【図面の簡単な説明】
【0093】
【図1A】本発明の好適な実施形態の保持装置の構成を示す図である。
【図1B】フィルム付熱伝導シートの構成を例示する図である。
【図1C】マスクを例示的に示す平面図である。
【図1D】フィルム付熱伝導シートにおいて、フィルムにより覆われる領域を例示的に説明する図である。
【図2】基台の温度制御を説明する図である。
【図3】本発明の好適な実施形態の基板処理装置の概略構成を示す図である。
【図4】基板処理装置を生産に適用する画像表示装置の一つである電子放出素子ディスプレイの斜視図である。
【図5A】図3に示す基板処理装置を製造工程の一部において使用して生産する画像表示装置の1つである有機ELディスプレイの構成を例示する図である。
【図5B】図3に示す基板処理装置を製造工程の一部において使用して生産する画像表示装置の1つである有機ELディスプレイの製造方法を例示する図である。
【図6】被成膜対象物とマスクとを保持する保持装置が有する永電磁石の構成を例示する図である(吸着状態)。
【図7】被成膜対象物とマスクとを保持する保持装置が有する永電磁石の構成を例示する図である(非吸着状態)。
【符号の説明】
【0094】
30 基板処理装置
101 永電磁石
102X 中心部永電磁石
102Y 周辺部永電磁石
200 マスク
200a マスク枠
200b マスク膜状平面
400 基台
500 保持装置
【技術分野】
【0001】
本発明は、保持装置、基板処理装置、基板の温度管理方法、電子放出素子の生産方法及び有機ELディスプレイの生産方法に関する。
【背景技術】
【0002】
表示用基板を製造する基板処理装置、例えば、有機電界発光素子(有機EL:ELは、Electroluminescenceの略であり、以降本明細書では、有機電界発光素子を「有機EL」と略す)を代表とするフラットパネルディスプレイ用の基板処理装置は、基板(ガラス基板)上に所望のパターンを所望の精度で形成することにより、表示素子としての機能を付与する。基板処理装置におけるパターンの形成方法としては、例えば、真空蒸着法、スパッタリング法、フォトリソグラフィ法、スクリーン印刷法などが用いられ、基板にパターンが形成される。フラットディスプレイに対してより高精細な表示能力が要求されることに伴い、より高精細なパターン形成精度が基板処理装置に対して求められている。
【0003】
真空蒸着法はスパッタリング法と並び、他手法と比較して高精度なパターン精度を低価格かつ高い信頼性で実現できる手法として知られている(特許文献1)。特に、有機EL表示装置の製造においては、フォトリソグラフィに代表されるウェットプロセスによる素子への水分ダメージの極めて少ないドライプロセスとして真空蒸着法が注目されている。
【0004】
真空蒸着法によるパターン形成(成膜)においては、形成すべきパターンに対応した開口を有するマスクを被成膜対象物である基板に密着させた状態でマスク越しに材料を成膜工程(蒸着工程)で成膜(蒸着)することにより、基板上に所望のパターンが形成される。真空蒸着法によるパターン形成では、マスクと基板との密着精度が、表示素子としての機能を実現するためのパターンの仕上がり精度に依存する。そのため、不要な部分に膜を付着させないために、マスクが基板に対して正確に位置合わせされ、且つマスクが基板に密着固定されている必要がある。
【0005】
微細パターンをマスク上に形成するためには、マスクの厚さを薄くする必要がある。また、被成膜対象物に対する密着性やマスクとしてのパターン精度を確保するために、マスクには、撓みやシワなどが発生しないことが求められる。特許文献2では、厚さ500μm以下の金属製マスクに対して張力をかけながら、金属製マスクの外周をマスク枠に固定(溶接)する技術が開示されている。
【0006】
張力がかけられた金属製マスクは、外周でマスク枠と溶接により接合された構造であるため、金属製マスクの内部には張力が作用し、マスク枠には金属製マスクの張力に対する反力が作用する。金属製マスクには張力が働くため、張力により撓みやシワが補正され、金属製マスクの平坦性が確保される。
【0007】
マスクに張力をかける他の目的として、成膜中のマスクへの入熱によるマスクの熱膨張を抑制することが挙げられる。例えば蒸着源からの輻射熱によって、マスクの温度が上昇し、結果としてマスクが熱膨張するが、その熱膨張量よりも大きい弾性変形を、予めマスクに与えておけば、マスクの温度上昇による熱膨張の影響を排除することがでできる。
【0008】
また、被成膜対象物である基板と、マスクとを保持する保持装置、及び保持装置を有する基板処理装置では、マスクと基板の相対的な位置ずれを低減させるため、成膜工程における基板の温度上昇を抑制させる必要がある。成膜は高真空中で行われるため、基板が基台と接触する面の接触熱抵抗が高くなり、蒸着源からの輻射熱により基板の温度が上昇して、基板の熱膨張によりマスクと基板の相対的な位置ずれが大きくなってしまうという課題が生じる。
【0009】
上述の課題に対して、基板が基台と接触する面の隙間に、ヘリウムガスなどの熱伝導ガスを導入することで、基板が基台と接触する面の接触熱抵抗を低減させる方法や、基板が基台と接触する面の隙間に軟金属箔やエラストマーなどの弾性部材を挿んで、接触面積を増加させて、接触熱抵抗を低減させる方法が知られている(例えば、特許文献3)。
【0010】
特許文献1乃至3の方式の中では、基板が基台と接触する面の隙間に熱伝導ガスを導入する方式が、もっとも接触熱抵抗を小さくすることができるが、この方式では、導入した熱伝導ガスが基板と基台の接触面から漏れ出てくるのを回収するための差動排気機構が必要になる。この差動排気機構は、基板が基台と接触する面の隙間の熱伝導ガス圧を一定にして、かつ、蒸着室の高真空圧力を保持させるために、装置の構成が複雑になり、装置コストが増大するという問題がある。
【0011】
さらには、基板処理装置が稼働するタクトタイムを短くするために、インライン方式(基板通過成膜方式)で基板処理装置を使用する場合には、基板を基台ごと、移動経路に沿って移動させる必要があるが、熱伝導ガスの供給配管や差動排気配管を基台に接続したまま移動させることが困難なため、基板通過成膜方式では、基板が基台と接触する面の隙間に熱伝導ガスを導入する方式を採用することはできない。
【0012】
一方、基板が基台と接触する面の隙間に軟金属箔やエラストマーなどの弾性材料を挿んで、接触面積を増加させて、接触熱抵抗を低減させる方法では、配管や配線を基台に接続したまま移動させる必要がないので、基板通過成膜方式でも採用できるが、接触熱抵抗を小さくするには、弾性部材を介して基板を基台に強い力で押し付ける必要がある。
【0013】
基板を基台に押し付ける力としては、基板を挟んだ状態で、マスクを磁気吸引力で基台側に引き込むことが一般的に用いられている。マスクは厚さが500μm程度の磁性体の金属膜であり、磁気吸引力は基板が基台から落下しない程度の押し付け力しかないのが一般的であり、接触熱抵抗を小さくするのには、押し付け力が不十分である。
【0014】
比較的小さい押し付け力、例えば、基板の自重程度の押し付け力で基板と基台間の接触熱抵抗を下げる方法として、軟金属箔、エラストマーなどの弾性部材の代わりに粘着性を有する熱伝導シートを挟む方法が考えられる。
【0015】
粘着性を有する熱伝導シートは、電子部品などの発熱部品の冷却効率をあげるために、発熱部品とヒートシンクの間に挟んだ状態で用いられるもので、大気圧中の使用用途では広く一般的に用いられている。粘着性を有する熱伝導シートに要求される能力としては、柔軟で粘着性を持ち、発熱部品とヒートシンクの密着性能を高めることが挙げられる。
【0016】
そのため、粘着性を有する熱伝導シートは、一般的に、ゴムに軟化剤として低蒸気圧のオイルが含有している。例えば、ゴム材料と軟化剤の組み合わせとしては、シリコンゴムと、シリコンオイルと、を組み合わせたものがある。シロキサン汚染を考慮するなら、アクリル系ゴム、エチレンプロピレン系ゴム(EPDM系ゴム)、ウレタン系ゴム、ポリオレフィン系ゴムの各種ゴム材にパラフィンオイル、ナフテンオイル、ポリオレフィンオイル、アロマオイルのいずれかを組み合わせものが一般的である。なお、シロキサンは電気接点障害を起こしやすいので、半導体プロセスでは使用しないことが望ましい。
【0017】
また、蒸着プロセスなどの高度の真空中では、オイル成分が揮発するため、そのままでは使用できないというい問題がある。
【0018】
特許文献4には、高度の真空中で熱伝導シートを使用する方法として、例えば、熱伝導シートの代わりに、オイル成分を含むペースト状の材料を袋につめたシートを形成して、袋で囲うことでオイル成分が揮発するのを防止する方法が提案されている(特許文献4)。
【特許文献1】特公平6-51905号公報
【特許文献2】特許3539125号公報
【特許文献3】特開2003−213413号公報
【特許文献4】特開平7−76774号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0019】
特許文献4により提案されている方法によれば、オイル成分が揮発するのを防止することが可能であるが、シート全面にわたって袋で囲われているので、粘着性がなく、また、シート表面の袋にしわがよることにより、袋と基板及び基台の接触熱抵抗は大きくなってしまい、成膜時の輻射熱による基板温度上昇を低減できないという問題がる。
【課題を解決するための手段】
【0020】
本発明は、上記の従来技術に鑑みてなされたものであり、インライン方式(基板通過成膜方式)でも使用することができ、更に、熱伝導ガスを用いずに比較的小さい押し付け力、例えば、基板の自重程度の押し付け力で基板と基台間の接触熱抵抗を下げることが可能な技術の提供を目的とする。
【0021】
上記の目的を達成する本発明にかかる保持装置は、
基台と、
前記基台の第一の面に載置される粘着性のある熱伝導シートと、
前記熱伝導シートの真空に晒される部分を囲うフィルムと、
前記熱伝導シートの前記基台と反対側の面に配置された基板を前記熱伝導シートに押し付ける手段と、を有することを特徴とする。
【0022】
あるいは、上記の目的を達成する本発明にかかる基板処理装置は、上記の保持装置を備えることを特徴とする。
【発明の効果】
【0023】
本発明によれば、インライン方式(基板通過成膜方式)でも使用することができ、更に、熱伝導ガスを用いずに比較的小さい押し付け力、例えば、基板の自重程度の押し付け力で基板と基台間の接触熱抵抗を下げることが可能になる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0024】
以下、図面を参照して、本発明の好適な実施形態を例示的に詳しく説明する。ただし、この実施の形態に記載されている構成要素はあくまで例示であり、本発明の技術的範囲は、特許請求の範囲によって確定されるのであって、以下の個別の実施形態によって限定されるわけではない。
【0025】
以下、図1A、図1Bを参照して、本発明の実施形態にかかるマスク保持装置(以下、単に「保持装置」ともいう)、保持装置を有する基板処理装置の構成及び動作を説明する。
【0026】
図1Aは、保持装置の概略的な構成を示す図である。101はマスク枠200aを基台400に固定するためのマスク枠固定用の永電磁石である。中心部永電磁石102X及び周辺部永電磁石102Yは、磁性体により構成されるマスク膜状平面200bを基台400側に磁気吸着して基板300を挟み基板300を固定するための固定用永電磁石である。マスク枠固定用の永電磁石101、中心部永電磁石102X及び周辺部永電磁石102Yの具体的な構成及び動作に関しては、図6、図7を参照して後に説明する。
【0027】
200はマスク枠200aとマスク膜状平面200bとを有するマスク、300は被処理対象物(基板)、132は温調媒体を流すための管路、133は温調媒体の温度制御と供給を行う温調装置(熱媒体置換用ポンプ)である。151aは中心部永電磁石102Xに電流を供給する駆動用電源(電流供給部)、151bは周辺部永電磁石102Yに電流を供給する駆動用電源(電流供給部)、151cはマスク枠固定用の永電磁石101に電流を供給する駆動用電源(電流供給部)である。152a乃至152cは配線、153a乃至153cはスイッチ、120は基台側接点、121は電源側接点、500は保持装置、400は保持装置500の基台、1201は熱媒体用空間である。403はフィルム付熱伝導シートである。フィルム付熱伝導シート403の具体的な構成に関しては、図1B、図1Dを参照して説明する。
【0028】
マスク200を被処理対象物300(基板)に位置合わせした後、マスク枠固定用の永電磁石101に供給する電流を制御して永電磁石101に磁気吸着力を発生させる。マスク枠200aが永電磁石101により生成された磁気吸着力により基台400に磁気吸着されると、マスク枠200aは基台400に保持(固定)される。
【0029】
次に、中心部永電磁石102X及び周辺部永電磁石102Yに供給する電流を制御して、マスク膜状平面200bを磁気吸着して被処理対象物300を挟み、被処理対象物300を基台400に保持(固定)する。
【0030】
成膜工程(蒸着工程)では、マスク200を保持装置の基台に保持(固定)した状態から天地反転した状態にして、成膜(蒸着)処理が行われる。
【0031】
図1Bは、フィルム付熱伝導シート403の構成を例示的に説明する断面図である。フィルム付熱伝導シート403は、粘着性のある熱伝導シート403aと、薄いフィルム状の部材であるフィルム403bとを有する。粘着性のある熱伝導シート403aの外周部と、熱伝導シート403aのシート面(表面側及び裏面側を含む)の端部とは、フィルム403bにより覆われている。図1Dは、フィルム付熱伝導シート403において、フィルム403bにより覆われる領域を例示的に説明する図である。熱伝導シート403aの外周部は、403b−1で示される領域に対応する。熱伝導シート403aのシート面(表面側及び裏面側を含む)の端部は、403b−2で示される領域に対応する。403b−1と403b−2を含む熱伝導シート403の真空に晒される部分は、フィルム状の部材により覆われている。
【0032】
熱伝導シート403aの外周部と熱伝導シート403aのシート面の端部は、基板300に膜を形成するための真空処理室において、真空状態に曝される領域である。フィルム403bで熱伝導シート403aの外周部と、熱伝導シート403aのシート面の端部が覆われる領域は、被処理対象物300に対して、成膜処理が施される(成膜領域)外であることが望ましく、例えば、被処理対象物300(基板)の外周端から10mm〜30mmの領域を、熱伝導シート403aのシート面の端部403b−2の領域に対応させることが望ましい。
【0033】
薄いフィルム403bとしては、例えば、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリエステル、または、テトラフルオロエチレンとエチレン共重合体(ETFE)が好適である。フィルム付熱伝導シート403は、接着剤、若しくは、両面テープなどの固定部材により被処理対象物300と基台400との間に挟まれるように保持されている。図1Bにおいて、フィルム付熱伝導シート403は、接着剤403cにより基台400に固定された状態を例示している。
【0034】
マスク200は、高剛性のマスク枠200aおよび薄いマスク膜状平面200b(マスクパターンが形成されているパターン形成部)より構成されている。マスク200は金属の磁性材料製であり、本実施形態では、例えば、鉄系等の磁性材料を使用する。特に、蒸着時における輻射入熱による熱膨張を小さくするために、インバー材などの低熱膨張材料の使用が好適である。磁性材料からなるマスク膜状平面200bには、エッチングなどの方法により、所望のパターンに対応している微小な開口が形成されている。
【0035】
図1Cは、マスク200を例示的に示す平面図である。この例では、マスク200は、36面取りのマスクである。マスク200は、被処理対象物300の被処理面に対して薄膜パターンを形成するための微細な開口が設けられているマスク膜状平面200bと、マスク枠200aとを有している。マスク枠200aで囲まれた個々の矩形領域が一面(例えば、1つの表示デバイス)に相当する。
【0036】
パターン領域であるマスク膜状平面200b(マスクパターン部)の厚みが厚いと、被成膜面がマスク200の影となり、微細な開口の周辺部の膜厚が薄くなるという問題が生じるため、マスク膜状平面200bの厚みは、マスク枠200aよりも薄くできており、例えば、厚さは50μm以下とすることもある。マスク膜状平面200b(マスクパターン部)を薄くすることによって、微細な開口に斜め方向から入射する成膜粒子をも基板に到達させることができる。マスク膜状平面200b(マスクパターン部)は、事前に張力を加えた状態で、マスク枠200aに包囲されるようにマスク枠200aに溶接などの方法により固定されうる。マスク枠200aには、マスク膜状平面200b(マスクパターン部)に加えた張力に対する反力により発生する変形を許容値内に収めるための剛性が与えられる。
【0037】
(永電磁石の説明)
図6及び図7は、被処理対象物300(例えばガラス基板)とマスク200とを保持する保持装置(固定機構)が有する永電磁石700の構成を例示する図である。ここで、永電磁石とは、外部からの電気的制御により、永電磁石の外部に永久磁石の磁場が漏れる状態と外部に漏れない状態とを制御して、保持する対象物を磁気吸着する吸着状態と、保持する対象物を磁気吸着しない非吸着の状態と、を実現することができるものをいう。従って、図6、図7に示した構成に限ることなく、上記の機能が実現可能な構成であれば、本明細書で言及される永電磁石に含まれる。
【0038】
図6、図7を参照して、保持装置が有する永電磁石700の動作を説明する。図6、図7において、700aは磁性体、700bは極性固定磁石、700cは極性可変磁石、700dはコイル、700fはコイル700dに電流を印加するための配線(不図示)を収納するための空間である。Lは、極性固定磁石700bからの磁力線を示しており、図中のN及びSは磁極を示している。
【0039】
図6は、磁性体からなるマスクを磁気吸着する吸着状態を示している。まず、コイル700dに所定時間通電(約0.5秒間通電)する。これにより、極性可変磁石700cの極性を反転させて、極性固定磁石700bと極性可変磁石700cとを同極化させる。これにより、磁場(磁力線L)が永電磁石の外部に多く漏れ、磁性体700aが磁性体からなるマスクを磁気吸着する吸着状態となる。
【0040】
図7は、磁性体からなるマスクを磁気吸着しない非吸着(脱磁)状態を示している。まず、コイル700dに所定時間通電(約0.5秒間通電)する。ここで、所定時間通電される電流は、図6で説明した極性可変磁石700cの極性を反転させるため、図6で通電された電流と逆の極性の電流である。これにより、極性可変磁石700cの極性を反転させて、極性固定磁石700bと極性可変磁石700cとが引き合う状態にさせる。これにより、極性固定磁石700bからの磁場(磁力線L)が保持装置の有する永電磁石700の外部に漏れない状態になり、磁性体700aと磁性体からなるマスクとの非吸着状態が生じる。
【0041】
図6に示す磁性体からなるマスク200を磁気吸着する吸着状態から、マスク200および被処理対象物300の保持を解除する際は、再び第1接点120と第2接点121とを接続し、その状態で、電流供給部151(151a、151b、151c)から第1接点120および第2接点121を介して永電磁石101、102X、102Yのコイル700dに対して、保持装置の永電磁石の状態を非吸着状態に設定するための電流を供給すればよい。
【0042】
次に、被処理対象物300およびマスク200の吸着および脱着手順に関して図1Aを用いて説明する。保持装置の基台400が予め定められた停止位置に停止した状態で、永電磁石101、中心部永電磁石102X及び周辺部永電磁石102Yに所定の電流を供給する電流供給部151(151a、151b、151c)と接続可能になる。
【0043】
保持装置の基台400が予め定められた停止位置に停止した状態で、基台側の接点120(第1接点)と電源側接点121(第2接点)とが接続される。ここで、第1接点120と第2接点121との接続は、不図示の操作機構によって行うことが可能である。第1接点120と第2接点121の構造としては、例えば、高電流用嵌合ピンや高電流用のプローブを用いることが可能である。また、第1接点120と第2接点121の構造は、特定のものには限定されず、例えば、雄型のコネクタを雌型のコネクタに圧入するタイプのものでもよいし、一方を他方に押し付けるタイプのものでもよいし、他のタイプのものでもよい。
【0044】
第1接点120と第2接点121とが接続された状態で、まず、スイッチ153cがONされ、配線152cと電流供給部(駆動用電源151c)とは導通状態になる。電流供給部(駆動用電源151c)から第1接点120および第2接点121を介して永電磁石101を吸着状態に設定するための電流が供給される。マスク枠200aは基台400側に磁気吸着され、基台400に密着固定される。
【0045】
次に、スイッチ153aがONされ、配線152aと電流供給部(駆動用電源151a)とが導通状態になる。電流供給部(駆動用電源151a)から第1接点120および第2接点121を介して中心部永電磁石102Xを吸着状態に設定するための電流が供給される。中心部永電磁石102Xによる磁気吸着によりマスク膜状平面200bの中央部の吸着が行われ、マスク膜状平面200bの中央部が磁気吸着力により弾性変形して、被処理対象物300の中央部と密着固定される。マスク膜状平面200bの中央部を被処理対象物300の中央部に接触(第1接触)させることで、マスク膜状平面の面全体を吸着する場合に発生するマスク200のシワや位置ズレを起こすことなく良好な密着性を確保することが可能となる。
【0046】
次に、スイッチ153bがONされ、配線152bと電流供給部(駆動用電源151b)とが導通状態になる。電流供給部(駆動用電源151b)から第1接点120および第2接点121を介して周辺部永電磁石102Yに対して、吸着状態に設定するための電流が供給される。周辺部永電磁石102Yよる磁気吸着によりマスク膜状平面200bの周辺部の吸着が行われ、マスク膜状平面200bの周辺部が磁気吸着力により弾性変形して、マスク膜状平面の周辺部が被処理対象物300の周辺部と密着固定され、マスク膜状平面200bの全体が被処理対象物300と完全に密着固定される。
【0047】
以上の動作ステップにより、マスク200が永電磁石101、中心部永電磁石102X及び周辺部永電磁石102Yによって磁気吸着され、マスク200および被処理対象物300が保持装置の基台400の保持面上に保持(固定)される。以後、保持装置の基台400の状態を非吸着状態に設定するための電流が電流供給部151(151a、151b、151c)から第1接点120および第2接点121を介して永電磁石101、中心部永電磁石102X及び周辺部永電磁石102Yに対して供給されない限り、磁気吸着の状態が維持される。このため、被処理対象物300が密着固定された状態で、基台400が真空処理装置内を移動した場合でも位置ずれを起こすことなく密着固定状態を維持でき、その結果高精細のパターンでの成膜が可能となる。
【0048】
なお、被処理対象物300およびマスク200の吸着は、窒素ガス等の不活性ガス雰囲気中で、基板処理装置の真空雰囲気(真空状態)ではない処理室又は大気圧力下即ち該真空処理室の外部で行う。そうすることで、フィルム付熱伝導シート403のうち、フィルム403bで覆われていない部分からの低蒸気圧のオイル成分の揮発を抑止できる。
【0049】
このようにして、マスク200と被処理対象物300とを密着させて、かつ、被処理対象物300をフィルム付熱伝導シート403を介して基台400と密着させることにより、成膜時においてマスク200および被処理対象物300が受ける輻射熱はフィルム付熱伝導シート403を介して基台400に流入(伝導)しやすくなり、成膜時の被処理対象物300の温度上昇を抑制し、被処理対象物300を冷却することができる。
【0050】
なお、マスク200及び被処理対象物300から基台400に流入(伝導)した熱は、基台400に蓄熱される。ここで、実際に被処理対象物300と基台400との間の接触熱抵抗を実験で求めたところ、被処理対象物300の厚さが1.8mmのガラス板の場合、被処理対象物300の自重程度の押し付け力では、フィルム付熱伝導シート403を介在させない場合、被処理対象物300と基台400との間の接触熱抵抗は1280〔K/(W/cm2)〕以上であり、被処理対象物300が受ける輻射熱は基台400にほとんど流入せず、被処理対象物300だけが温度上昇した。
【0051】
次にフィルム付熱伝導シート403を被処理対象物300と基台400との間に介在させた場合、被処理対象物300と基台400との接触熱抵抗は、フィルムが無い領域(基板の成膜領域)において16〔K/(W/cm2)〕程度である。また、フィルムがある領域(被処理対象物の成膜領域外)では、250〔K/(W/cm2)〕程度であった。
【0052】
この実験結果から、被処理対象物300の成膜領域、つまり被処理対象物が成膜時に輻射熱を受ける領域は、熱伝導シートをフィルムで囲わずに粘着性がある状態で使用することで、被処理対象物300と基台400との接触熱抵抗を、フィルムありの場合の250〔K/(W/cm2)〕に対して16〔K/(W/cm2)〕まで下げることが可能となり、成膜時の被処理対象物の温度上昇を抑制し、被処理対象物300を冷却することができた。
【0053】
また、被処理対象物300の成膜領域外(熱伝導シートの外周部と熱伝導シート面の端部に対応する)では、粘着性を有する熱伝導シート403aをフィルム403bで覆うことにより、熱伝導シート403aが真空雰囲気に晒されないようにすることができ、熱伝導シート403aに含有されているオイル成分の揮発を抑止することができた。
【0054】
マスク200および被処理対象物300の保持を解除する際は、再び第1接点120と第2接点121とを接続し、その状態で、電流供給部151(151a、151b、151c)から第1接点120および第2接点121を介して永電磁石101、102X、102Yのコイル700dに対して、保持装置の永電磁石の状態を非吸着状態に設定するための電流を供給すればよい。
【0055】
この脱離の場合も、窒素ガス等の不活性ガス雰囲気中で、基板処理装置の真空雰囲気ではない部屋又は大気圧力下即ち該真空処理室の外部で、マスク200および被処理対象物300の保持を解除することで、フィルム付熱伝導シート403のうちフィルム403bで覆われていない部分からの低蒸気圧のオイル成分の揮発を抑止することができる。
【0056】
基板300への膜の形成の際に保持装置の基台400は、例えば、蒸着源等の材料供給部34からの輻射熱等により加熱され得る。或いは、保持装置の基台には加熱やその後の熱放出により不均一な温度分布が形成され得る。そこで、図2に示すように、保持装置の基台400の支持体に温度調整用の温調媒体が流通可能な熱媒体空間1021を設けることが好ましい。保持装置の基台の移動に伴って温度調整用の管路が移動することを避けるために、保持装置500の基台400から、温調媒体の供給用及び回収用の管路を延ばす。そして、その先端にはジョイント130a及び130bを取り付ける。一方、媒体置換用ポンプ133から熱媒体空間1021に温調媒体を供給するための管路132a(サプライ側)と、熱媒体空間1021から温調媒体を回収するための管路132b(リターン側)を設ける。そして、その先端にジョイント131a及び131bを取り付ける。基台400が所定の位置に来たときに、130a及び131a並びに130b及び131bを接続する。そして、接続後に熱媒体置換用ポンプ133から温調媒体を供給する。そして、基台400を移動させるときは、130a及び131a並びに130b及び131bの接続を解き、基台400が配管132a及び132bから接続が解除されて状態で移動する。また、図2の変形例として、熱媒体空間1021のそれぞれに温調媒体を循環させるための管路を接続して、保持装置の温度を調節するようにしてもよい。
【0057】
温調装置(熱媒体置換用ポンプ133)は、温度制御された温調媒体を管路132a、132bのジョイント131a、131bを保持装置側のジョイント130a、130bに接続して、管路132a、132bおよび保持装置500の基台400に設けられている熱媒体空間1021によって構成される循環経路を通して温調媒体を循環させる。ジョイント131a、131bとジョイント130a、130bとの接続は、不図示の操作機構によってなされうる。
【0058】
温調装置(熱媒体置換用ポンプ133)は、温調媒体を目標温度に制御する温度制御部800を有する。温度制御部800は、例えば、温調器(例えば、冷却器及び加熱器の少なくともいずれか一方を含む)、温度センサ、目標温度と温度センサによる測定値との偏差に基づいて操作量を演算して温調器を制御するPID補償器等を含み得る。ここで、温度センサは、温調装置(熱媒体置換用ポンプ133)のほか、例えば、保持装置の基台側にも配置されて、保持装置側に配置された温度センサによる温度測定値が不図示の無線通信デバイスによって温調装置(熱媒体置換用ポンプ133)の温度制御部800に提供されてもよい。保持装置側の温度センサや無線通信デバイスは、バッテリーによって駆動されうる。保持装置側で温度を測定し、それを温調装置(熱媒体置換用ポンプ133)の温度制御部800にフィードバックすることにより、保持装置の温度を高い精度で制御することができる。
【0059】
温調装置(熱媒体置換用ポンプ133)は、保持装置を目標温度まで冷却するように構成されてもよいし、目標温度まで加熱するように構成されてもよい、温度の不均一な分布を低減するように構成されてもよい。
【0060】
温調装置(熱媒体置換用ポンプ133)による保持装置の温度調整が終了すると、保持装置側のジョイント130a、130bから温調装置(熱媒体置換用ポンプ133)側のジョイント131a、131bが切り離されて、保持装置が搬送されうる。温調装置(熱媒体置換用ポンプ133)は、例えば、図3で説明する搬入室31および搬出室33のうちすくなくともいずれかにおいて温度を調整するように構成される。
【0061】
(基板処理装置の説明)
図3は、本発明の好適な実施形態の基板処理装置の概略構成を示す図である。まず、基板300の搬入及び搬出について説明する。基板処理装置30は、バルブ401a、401b、401cを介して真空ポンプ等の真空排気ユニット402a、402b、402cに連通している。
【0062】
基板300を搬入し、位置決めし、固定(保持装置の基台400によって保持)する工程は、搬入室(第1処理室)31で行われる。基板300は、不図示の基板搬送系によって、搬入室31に搬送される。搬送された基板300は、不図示の基板の載せ換え機構により、保持装置の基台400の保持面上に載置される。また、マスク200は、不図示のマスク搬送系により、基板300を覆うように保持装置の基台400上に搬送される。
【0063】
このようにして搬送された基板300とマスク200は、搬入室31内において、保持装置の基台400側の接点(第1接点)120および電流供給部151側の接点(第2接点)121とを接続して永電磁石のコイルが通電されることにより、保持装置の基台400に磁気吸着される。これにより、基板300に膜を形成する準備が完了する。
【0064】
保持装置の基台400側の接点(第1接点)120と電流供給部151側の接点(第2接点)121との接続が解除された後に、搬入室31の内部に配置された回転機構により、成膜室(第2処理室)32内での成膜のために、基板300およびマスク200を保持した保持装置の基台400の天地が反転される。成膜室32では、例えば、蒸着、スパッタリング、化学気相成長等の方法により基板300に膜が形成されうる。
【0065】
その後、基板300およびマスク200を保持した保持装置の基台400は、搬送系900により、成膜室(第2処理室)32へ搬送され、成膜室32において、蒸着等により基板300に膜が形成される。膜の形成は、蒸着源等の材料供給部34から原料を基板300に供給することによってなされうる。
【0066】
膜の形成が完了すると、基板300およびマスク200を保持した保持装置の基台400は、搬送系910により搬出室(第3処理室)33に搬送される。
【0067】
その後、搬出室33の内部に配置された回転機構により、基板300およびマスク200を保持した保持装置の基台400の天地が反転される。次いで、搬出室33内において、保持装置の基台400側の接点(第1接点)120および電流供給部151側の接点(第2接点)121と、を接続して永電磁石のコイルが通電されることにより、保持装置による磁気吸着が解除される。その後、不図示の基板の載せ換え機構によって、保持装置の基台400からマスク200および基板300が分離されて、それぞれの搬送系に渡される。基板300は、次工程の装置に搬送される。
【0068】
なお、搬入室31、成膜室32および搬出室33が1つの空間を構成してもよい。上記のように、保持装置の基台400は、マスク200および基板300を保持した状態で搬送されたり、回転等の操作を受けたりしうる。したがって、マスク200および基板300が保持装置の基台400によって保持されていることを保証することは重要である。また、保持装置の基台400にマスク200および基板300が保持されている状態でそれらを保持装置の基台400から取り去ろうとすると、マスク200および基板300に過度なストレスが加わりうる。
【0069】
そこで、基板処理装置30は、保持装置の基台400の状態を検知する検知部185を備えることが好ましい。検知部185は、例えば、永電磁石101から出る磁界を検知する磁気センサ140と、磁気センサ140を支持する磁気センサ支持部材141と、を有する。磁気センサ140によって保持装置の基台400の状態が第1状態(吸着状態)であるか第2状態(非吸着状態)であるかを検知するように構成されうる。磁気センサ140は、磁気センサ支持部材により支持されている。例えば、磁気センサ140は、マスク200の近傍に配置されており、永電磁石101の外部に磁場がもれていないことを検知すると、マスク200は非吸着状態であることが確認される。一方、磁気センサ140は、永電磁石101の外部に磁場がもれていることを検知すると、マスク200は吸着状態であることが確認される。吸着状態であることが確認された後、被処理対象物300および保持装置の基台400を反転させて、マスク200を基台400から脱離させることにより、マスク200が吸着されていない状態で、基板300と保持装置の基台とを反転させることにより、マスク200及び被処理対象物300が保持装置の基台400から落下することを防止することができる。本実施形態では、磁気センサ140による検出は、搬出室(第3処理室)33で行われる例を示しているが、この例に限定されず、搬入室(第1処理室)31において、磁気センサ140を用いて、マスク200の吸着状態、または非吸着状態を検出して、マスク200が吸着されていない状態で、基板300と保持装置の基台とを反転させることにより、マスク200及び被処理対象物300が保持装置の基台400から落下することを防止することができる。
【0070】
ガラス基板は、フラットパネルディスプレイ用の基板として広く使用されており、こうした用途では従来、静電チャックなどの機器を基台上に設置することで、固定機能を確保していた。本発明によれば、静電チャックを使用することなく、同等の固定機能を実現でき、装置コスト低減が実現出来る。
【0071】
さらには、熱伝導ガスを用いないので、熱伝導ガスの供給配管が不要になり、容易に搬送可能にできるので、インライン方式(基板通過成膜方式)においても用いることが可能で、装置タクトを短縮できるので成膜コストをより安価にすることができる。本発明の実施形態にかかる保持装置は、成膜処理として真空蒸着法を用いてパターンを形成する処理装置への適用に限定されず、スパッタリング法や化学的気相反応法(Chemical Vapor Deposition)などを用いてパターンを形成する処理装置にも使用することができる。
【0072】
本実施形態に拠れば、インライン方式(基板通過成膜方式)でも使用することができ、更に、熱伝導ガスを用いずに比較的小さい押し付け力、例えば、基板の自重程度の押し付け力で基板と基台間の接触熱抵抗を下げることが可能になる。
【0073】
また、真空処理室において、基板に膜を形成するための成膜処理で加熱された基板の温度を管理する基板の温度管理方法は、以下の工程を有する。載置工程では、真空処理室の外部の処理室または大気圧環境即ち該真空処理室の外部で、保持装置が有する基台の保持面に、フィルム付熱伝導シート403を載置する。押し付け工程では、真空処理室の外部の処理室または大気圧環境即ち該真空処理室の外部で、保持面に沿って基台の内部に配置されている永電磁石で、マスクを磁気吸着させて、熱伝導シートの上に載置されている基板を熱伝導シートに押し付ける。管理工程では、真空処理室における成膜処理により加熱された基板の輻射熱を、熱伝導シート403を介して基台に伝導させて、基板の温度を管理する。ここで、熱伝導シート403の真空に晒される部分は、フィルムにより覆われている。
【0074】
(電子放出素子ディスプレイの製造方法)
先に説明した保持装置を使用して、電子放出素子ディスプレイを生産する実施形態を説明する。図4は、本発明に係わる真空処理装置として構成されうる基板処理装置30を生産に適用する画像表示装置の一つである電子放出素子ディスプレイの斜視図である。ここで、基板処理装置30は、先に説明した保持装置を備えている。
【0075】
1001は電子源基板、1002は行配線、1003は列配線、1004は電子放出素子、1007は第一のゲッタ、1010は第二のゲッタ、1011は補強板、1012は枠、1013はガラス基板、1014は蛍光膜、1015はメタルパック、Dox 1〜D0x mは列選択端子、Doy 1〜D0y nは行選択端子を表す。尚、1013、1014、1015はフェースプレートを構成する。
【0076】
本表示装置は、行配線1002及び列配線1003が平面的に交差する所に、電子放出素子1004が配置されている。そして、選択された行配線1002及び列配線1003に所定の電圧を印加するとその平面的に交差する部位に位置する電子放出素子1004から電子が放出され、電子は正の高電圧が印加されているフェースプレートに向かって加速される。電子はメタルパック1015に衝突しそれに接する蛍光膜1014を励起し、発光する。
【0077】
ここで、フェースプレート、枠1012及びガラス基板1013で囲まれた空間は真空に維持される。そして、その空間を画像表示装置の耐用期間に亘って真空状態に維持するために、内部にゲッタ材が配されている。ゲッタ材には、蒸発型ゲッタと非蒸発型ゲッタがあり、適宜使い分けられている。蒸発ゲッタとしては、Ba,Li,Al,Hf,Nb,Ta,Th,Mo,Vなどの金属単体、あるいはこれらの金属の合金が知られている。一方、非蒸発ゲッタとしては、Zr、Tiなどの金属単体、あるいはこれらの合金が知られている。いずれも金属で、電導体である。
【0078】
図4の例においては、第一のゲッタ1007は列配線1003上に形成されている。第一のゲッタ1007の形成方法は、列配線1003以下の部位が作成された電子源基板1001を、成膜装置のホルダー上に載置する。そして、列配線1003の形状を有するメタルマスクを、位置合わせをして電子源基板1001上に位置させる。その後、真空蒸着法、スパッタリング法又は化学気相成長法等により第一のゲッタ1007を成膜する。厚さは2μm程度である。
【0079】
この第一のゲッタの作成においては、最終的に電子放出素子1004となる導電体膜が既に形成されているので、前述の第一のゲッタ1007が導電膜と電気的に導通しないようい作製することが肝要である。その際許容される位置合わせ誤差は、±3μm程度である。
【0080】
一方、画像表示装置は今後益々大型且つ高精細になってゆき、その結果許容される位置合わせ誤差は益々小さくなってゆくと考えられる。
【0081】
従って、本発明のような大型で重量のあるマスクを精度良く位置合わせが出来る真空処理装置を使用した生産方法は、電子放出素子ディスプレイの製造の用途に特に適している。
【0082】
(有機ELディスプレイの製造方法)
先に説明した保持装置を使用して、有機ELディスプレイを生産する実施形態を説明する。図5Aおよび図5Bは、図3に示す基板処理装置30を生産工程の一部において使用して生産する画像表示装置の1つである有機ELディスプレイの構成および製造方法を例示する図である。ここで、基板処理装置30は、先に説明した保持装置を備えている。
【0083】
501はガラス基板、502はアノード、503は素子分離層、504aはホール注入層、504bはホール輸送層、505は発光層、506は電子輸送層、507は電子注入層、508はカソードである。なお、図5Bでは、ホール注入層504aおよびホール輸送層504bの積層構造が504として示されている。
【0084】
アノード電極502とカソード電極508との間に電圧が印加されると、アノード電極502によりホールがホール注入層504aに注入される。一方、カソード電極508より電子が電子注入層507に注入される。注入されたホールはホール注入層504aおよびホール輸送層504bを移動し、注入された電子は電子注入層507及び電子輸送層506を移動して発光層505に達する。発光層505に達したホールと電子は再結合して発光する。
【0085】
発光層505の材料を適宜選択することにより、光の三原色である赤(R)、緑(G)及び青(B)の光を発光させることが可能で、その結果、フルカラーの画像表示装置を実現できることができる。
【0086】
次に、図5Aに示す構造の製造方法を図5Bを参照しながら説明する。図5Bには、R、G、Bを発光する部位よりなる一ピクセルが示されている。図5Bは、有機ELディスプレイの発光部の一般的な製造方法を示す工程図である。まず、前工程で、TFT(Thin Film Transitor)および配線部が形成され、その後、平坦化のための成膜処理がなされたガラス基板等の基板501上に反射率の高い導電膜が形成される。その導電膜を所定の形状にパターニングされることによりアノード電極502が形成される。次に、アノード電極502上の赤、緑、青を発光する部位を囲むようにして絶縁性の高い材料からなる素子分離膜503が形成される。これにより、隣接する発光する部分R、G、Bの間は素子分離膜503により仕切られる。
【0087】
次いで、アノード電極502上にホール注入層504aおよびホール輸送層504bからなる層504、発光層505、電子輸送層506、電子注入層507が蒸着法により順次に形成される。電子注入層507上に透明性導電膜からなるカソード電極508を積層することで、基板501上に有機ELディスプレイの発光部が形成される。
【0088】
最後に、基板上の上記発光部が透湿性の低い材料からなる図示しない封止層で覆われる。
【0089】
ここで、R、G、Bの各発光層105を蒸着法で作製する際には、図5B(c)に例示するように基板がマスク510で覆われる。図5B(c)においては、Rの発光部を形成するときのマスク510が示されている。したがって、GおよびBの発光部は、マスク510で覆われており、GおよびBの部位に赤Rの発光材料が混入しないようにしている。このような発光層の形成工程は、GおよびBの発光層の形成についても実施される。ここで、例えば、対角5.2インチで320×240ピクセルのフルカラー有機ELディスプレイの場合、ピクセルピッチは0.33mm(330μm)であり、サブピクセルピッチは0.11mm(110μm)である。このような場合、マスクのアライメント精度として、数ミクロン以下の精度が要求される。また、ホール輸送層504b、発光層505、電子輸送層506および電子注入層507の形成は、各有機材料の混入を防止するために互いに異なるチャンバーで行われ、且つそれぞれの専用のマスクが使用される。したがって、それらの成膜プロセスでもマスクを所定の位置に高精度にアライメントする必要がある。
【0090】
よって、マスクアライメントが高い精度で迅速に行えることは、有機ELディスプレイの生産性及び歩留まりの向上を図る上で重要である。
【0091】
また、今後益々大型の表示画面のディスプレイに対する常用が高まると考えられ、その際には重い大型のマスクを高い精度で迅速にアライメントすることに対する要求が益々大きくなることが予想される。
【0092】
上記の保持装置および基板処理装置は、大型で重いマスクを精度良く且つ迅速にアライメントする必要がある有機ELディスプレイの製造の用途に特に適している。
【図面の簡単な説明】
【0093】
【図1A】本発明の好適な実施形態の保持装置の構成を示す図である。
【図1B】フィルム付熱伝導シートの構成を例示する図である。
【図1C】マスクを例示的に示す平面図である。
【図1D】フィルム付熱伝導シートにおいて、フィルムにより覆われる領域を例示的に説明する図である。
【図2】基台の温度制御を説明する図である。
【図3】本発明の好適な実施形態の基板処理装置の概略構成を示す図である。
【図4】基板処理装置を生産に適用する画像表示装置の一つである電子放出素子ディスプレイの斜視図である。
【図5A】図3に示す基板処理装置を製造工程の一部において使用して生産する画像表示装置の1つである有機ELディスプレイの構成を例示する図である。
【図5B】図3に示す基板処理装置を製造工程の一部において使用して生産する画像表示装置の1つである有機ELディスプレイの製造方法を例示する図である。
【図6】被成膜対象物とマスクとを保持する保持装置が有する永電磁石の構成を例示する図である(吸着状態)。
【図7】被成膜対象物とマスクとを保持する保持装置が有する永電磁石の構成を例示する図である(非吸着状態)。
【符号の説明】
【0094】
30 基板処理装置
101 永電磁石
102X 中心部永電磁石
102Y 周辺部永電磁石
200 マスク
200a マスク枠
200b マスク膜状平面
400 基台
500 保持装置
【特許請求の範囲】
【請求項1】
基台と、
前記基台の第一の面に載置される粘着性のある熱伝導シートと、
前記熱伝導シートの真空に晒される部分を囲うフィルムと、
前記熱伝導シートの前記基台と反対側の面に配置された基板を前記熱伝導シートに押し付ける手段と、
を有することを特徴とする保持装置。
【請求項2】
前記熱伝導シートは、シリコンゴムとシリコンオイルとを含有することを特徴とする請求項1に記載の保持装置。
【請求項3】
前記熱伝導シートは、アクリル系ゴム、エチレンプロピレン系ゴム、ウレタン系ゴム及びポリオレフィン系ゴムのうちのいずれかのゴム材に、パラフィンオイル、ナフテンオイル及びポリオレフィンオイルのうちのいずれかを組み合わせたものであることを特徴とする請求項1に記載の保持装置。
【請求項4】
前記フィルムは、ポリエチレンテレフタレート、ポリエステル、テトラフルオロエチレン及びエチレン共重合体のうち少なくともいずれかを含むことを特徴とする請求項1に記載の保持装置。
【請求項5】
前記熱伝導シートの外周部と前記熱伝導シート面の端部は、前記基板に膜を形成するための真空処理室において、前記真空に晒される部分であることを特徴とする請求項1に記載の保持装置。
【請求項6】
基板を処理する基板処理装置であって、
請求項1乃至5のいずれか1項に記載の保持装置を備えることを特徴とする基板処理装置。
【請求項7】
真空処理室において、基板に膜を形成するための成膜処理で加熱された前記基板を、前記基板及び前記基板の上に配置されるマスクを保持する保持装置を用いて基板の温度を管理する基板の温度管理方法であって、
前記真空処理室の外部で、前記保持装置が有する基台の保持面に、熱伝導シートを載置する載置工程と、
前記真空処理室の外部で、前記保持面に沿って前記基台の内部に配置されている永電磁石に、前記マスクを磁気吸着させて、前記熱伝導シートの上に載置されている前記基板を前記熱伝導シートに押し付ける押し付け工程と、
前記真空処理室で前記基板の温度を管理する管理工程と、を有し、
前記熱伝導シートの真空に晒される部分は、フィルムにより覆われていることを特徴とする基板の温度管理方法。
【請求項8】
請求項1乃至5のいずれか1項に記載の保持装置を使用して、電子放出素子ディスプレイを生産することを特徴とする電子放出素子ディスプレイの生産方法。
【請求項9】
請求項1乃至5のいずれか1項に記載の保持装置を使用して、有機ELディスプレイを生産することを特徴とする有機ELディスプレイの生産方法。
【請求項1】
基台と、
前記基台の第一の面に載置される粘着性のある熱伝導シートと、
前記熱伝導シートの真空に晒される部分を囲うフィルムと、
前記熱伝導シートの前記基台と反対側の面に配置された基板を前記熱伝導シートに押し付ける手段と、
を有することを特徴とする保持装置。
【請求項2】
前記熱伝導シートは、シリコンゴムとシリコンオイルとを含有することを特徴とする請求項1に記載の保持装置。
【請求項3】
前記熱伝導シートは、アクリル系ゴム、エチレンプロピレン系ゴム、ウレタン系ゴム及びポリオレフィン系ゴムのうちのいずれかのゴム材に、パラフィンオイル、ナフテンオイル及びポリオレフィンオイルのうちのいずれかを組み合わせたものであることを特徴とする請求項1に記載の保持装置。
【請求項4】
前記フィルムは、ポリエチレンテレフタレート、ポリエステル、テトラフルオロエチレン及びエチレン共重合体のうち少なくともいずれかを含むことを特徴とする請求項1に記載の保持装置。
【請求項5】
前記熱伝導シートの外周部と前記熱伝導シート面の端部は、前記基板に膜を形成するための真空処理室において、前記真空に晒される部分であることを特徴とする請求項1に記載の保持装置。
【請求項6】
基板を処理する基板処理装置であって、
請求項1乃至5のいずれか1項に記載の保持装置を備えることを特徴とする基板処理装置。
【請求項7】
真空処理室において、基板に膜を形成するための成膜処理で加熱された前記基板を、前記基板及び前記基板の上に配置されるマスクを保持する保持装置を用いて基板の温度を管理する基板の温度管理方法であって、
前記真空処理室の外部で、前記保持装置が有する基台の保持面に、熱伝導シートを載置する載置工程と、
前記真空処理室の外部で、前記保持面に沿って前記基台の内部に配置されている永電磁石に、前記マスクを磁気吸着させて、前記熱伝導シートの上に載置されている前記基板を前記熱伝導シートに押し付ける押し付け工程と、
前記真空処理室で前記基板の温度を管理する管理工程と、を有し、
前記熱伝導シートの真空に晒される部分は、フィルムにより覆われていることを特徴とする基板の温度管理方法。
【請求項8】
請求項1乃至5のいずれか1項に記載の保持装置を使用して、電子放出素子ディスプレイを生産することを特徴とする電子放出素子ディスプレイの生産方法。
【請求項9】
請求項1乃至5のいずれか1項に記載の保持装置を使用して、有機ELディスプレイを生産することを特徴とする有機ELディスプレイの生産方法。
【図1A】
【図1B】
【図1C】
【図1D】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5A】
【図5B】
【図6】
【図7】
【図1B】
【図1C】
【図1D】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5A】
【図5B】
【図6】
【図7】
【公開番号】特開2010−84206(P2010−84206A)
【公開日】平成22年4月15日(2010.4.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−255180(P2008−255180)
【出願日】平成20年9月30日(2008.9.30)
【出願人】(000227294)キヤノンアネルバ株式会社 (564)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成22年4月15日(2010.4.15)
【国際特許分類】
【出願日】平成20年9月30日(2008.9.30)
【出願人】(000227294)キヤノンアネルバ株式会社 (564)
【Fターム(参考)】
[ Back to top ]