説明

信号分離装置

【課題】
光VICS用投受光素子やDSRC用アンテナを含んだヘッドユニットと車載器本体を同軸ケーブルにて接続し、この同軸ケーブル上を伝送するDSRC送受信号に光VICS送受信号を重畳して伝送する場合、ヘッドユニット或いは車載器本体の基板内にて重畳された信号を分離する。
【解決手段】
光VICS用信号が通るラインはDSRC用信号が通るラインから分岐させて、この分岐点からDSRCの周波数における位相が90度となる電気長の位置まではその特性インピーダンスを均一とし、この分岐点からDSRCの周波数において位相が90度となる電気長の位置で容量接地する。基板のパターン上にDSRCの信号周波数帯の定在波を発生させて、光VICS回路ブロックへのライン分岐の影響を最小限に抑えることが出来る。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は光あるいは電波を伝送メディアとして情報を伝達する情報端末装置に係り、特に光VICS情報と各種DSRCサービスを利用するための複合車載器、或いは光通信と電波通信により道路交通情報を受信するための複合車載器に関する。
【背景技術】
【0002】
近年の道路交通の発展は交通事故の増加,渋滞の慢性化,環境の悪化,エネルギー消費の増大といった諸問題を引き起こしており、これらに対する総合的な対応として高度道路交通システム(ITS)に期待が集まっている。特にカーナビゲーションシステムやVICS(道路交通情報通信システム)受信機は日常的なツールとして既に定着しつつあり、更に現在はDSRC(狭域通信システム)の実用化に向けた準備が進められている。
【0003】
ここでVICS(登録商標)とはFM多重放送や道路上の発信機から受信した交通情報を図形・文字で表示するシステムであり、VICSセンターで編集・処理された渋滞や交通規制などの道路交通情報をリアルタイムに送信し、カーナビゲーションシステムに用意されている地図の上に重ね書きして表示することが出来るもので、複数の情報メディア
(光ビーコン,電波ビーコン,FM多重放送)により実現される。
【0004】
次にDSRCとはETC(自動料金支払いシステム)に代表される無線通信方式であり、そのサービスとしては駐車場での利用状態の把握や、物流における配送トラックの管理,ガソリンスタンドやファーストフードのドライブスルーなどが想定されており、5.8GHzの周波数帯により実現される。
【0005】
車室内にてこれらのVICSやDSRCのサービスを利用する場合、各情報メディア毎にアンテナ等の送受信手段が必要となり、例えば光VICSの投受光部,電波VICS受信アンテナ,DSRCの送受信アンテナを車両のダッシュボード付近に配置する必要がある。更にはこれらのサービスを提供するための車載器本体を送受信手段と別の位置に配置する場合は、運転席付近の配線の引き回しが乱雑となりがちで、見栄えも悪くなる上、取り付けの工数も増大し、使い勝手も悪くなってしまう。
【0006】
上記問題を解決するためには、前述の各情報メディア毎のアンテナ及び各種車載器をそれぞれ一つの筐体に収め、アンテナを1筐体に収めたヘッドユニットと各種車載器を1筐体に収めた車載器本体の間は1本のケーブルにて接続し、このケーブルに各種信号を重畳して伝送する方法が考えられる。例えば特開平10−274535号公報ではGPS用アンテナとFM放送用アンテナを一つの筐体に収め、受信したGPS受信信号とFM放送受信信号を重畳してケーブルに載せて本体へ伝送する方法が示されている。この場合、本体側では重畳されたGPS受信信号とFM放送受信信号を分離する手段が必要となる。しかし重畳されたGPS受信信号とFM放送受信信号を分離する為には車載器本体側の基板内に回路部品を追加する必要があり、それによるコストアップは避けられない。
【0007】
【特許文献1】特開平10−274535号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
光VICS情報と各種DSRCサービス(或いは電波VICS)を利用するための複合車載器を車室内に設置する場合、少なくとも光VICS情報を送受信するための投受光部と各種DSRCサービスを利用するための送受信アンテナは、ダッシュボードやフロントガラス付近に設置する必要がある。その製品形態としては、例えば光VICS用投受光部やDSRC用送受信アンテナを1筐体に収めたヘッドユニットと、VICS通信制御や
DSRC通信制御を行う回路などを含んだ車載器本体に分離させた2ピース構成が考えられる。この様に車載器がヘッドユニットと車載器本体に分離している場合、ユーザの使い勝手を考慮に入れると、ヘッドユニットと車載器本体を接続するケーブル本数は出来る限り少ないことが望ましい。
【0009】
例えば光VICSとDSRCの車載器を利用する場合は、ヘッドユニットと車載器本体の間で、少なくとも電源の他、光VICS送受信号,DSRC送受信号などの信号を相互に伝送する必要があり、従来、これらの各種信号は重畳しない限りケーブル本数を減らす事が出来ないという問題があった。
【0010】
本発明は同軸ケーブルに重畳された光VICS信号とDSRC信号、或いは光VICS信号と電波VICS信号をコストアップすること無く信号分離することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明は光または電波VICS情報と各種DSRCサービスを利用する複合車載器において、その車載器本体とヘッドユニットは同軸ケーブルで接続し、この同軸ケーブル上に少なくとも光VICS送受信号やDSRC送受信号を重畳して車載器本体とヘッドユニットの間を相互に伝送する場合に、重畳された光VICS送受信号とDSRC送受信号の信号分離を実現するものである。
【0012】
光VICS用信号が通るラインはDSRC用信号が通るラインから分岐させて、且つ少なくともこの分岐点からDSRCの周波数(5.8GHz )で位相90度分の電気長の位置まではその特性インピーダンスを均一とし、且つその分岐点からDSRCの周波数
(5.8GHz )における位相90度分の電気長の位置で容量接地して、基板に形成するパターン上に5.8GHz 帯の定在波を意図的に発生させて、分岐点を定在波の腹部分に位置させる。
【0013】
これにより、DSRC送受信号伝送用ラインにおいて、光VICS回路ブロックへのライン分岐の影響は最小限に抑えることが可能となるため、DSRC送受信号は光VICS回路ブロックの方向へ向かうこと無く、すなわちDSRC送受信号と光VICS送受信号の信号分離が実現される。
【0014】
また、光VICS送受信号に関しては、DSRC送受信号伝送用ライン上に、光VICSの周波数(受信信号は1.024Mbps、送信信号は64kbps )において高インピーダンスとなる様なコンデンサを、直列に設けることによって、光VICS送受信号がDSRC回路ブロックの方向へ向かうことを防止する。このコンデンサはDSRCの通信においては影響を最小限に抑える為に、DSRCの信号周波数(5.8GHz )においては低インピーダンスとなる値とする。
【0015】
また光VICS通信において、投光時には投光素子を駆動する為に1Aを超える瞬時電流を流す必要があり、光VICS回路ブロックへのラインはその導体損の影響を考慮してパターン幅を太く設定する。
【発明の効果】
【0016】
本発明によればヘッドユニット部分と車載器本体部分は必要最小限のケーブル本数にて接続することが可能で、同軸ケーブル1本で両者を接続することができ、車両搭載後の見栄えも良く、ユーザの使い勝手にも優れる。
【0017】
更には信号を分離する手段は基板上に形成するパターンを主とした必要最小限の部品構成にて実現できる上に、ヘッドユニット部分と車載器本体部分を接続するケーブル本数を必要最小限に抑えることが出来るため、コストを大幅に削減することが可能となる。更に、前述の通り、光VICS,DSRC共に電気的性能を劣化させることなく重畳した信号を分離出来るので、両者の通信の信頼性も向上させる事が出来る。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
本発明の実施例を、図面を用いて説明する。尚、本実施例は無線を情報メディアとして通信を行うDSRCと、光を情報メディアとして通信を行う光VICSの複合車載器に関するものである。また、本発明は電波VICSと光VICSの複合車載器にも適用可能である。この場合、電波VICSとDSRCは無線周波数が異なるが本発明の考え方を適用出来る。
【0019】
本発明は光VICS情報と各種DSRCサービス(或いは電波VICS)を利用するための複合車載器において、その車載器本体部分とヘッドユニット部分は同軸ケーブルで接続されていて、この同軸ケーブル上に少なくとも光VICS送受信号やDSRC送受信号を重畳して車載器本体部分とヘッドユニット部分の間を相互に伝送する場合に、車載器本体部分やヘッドユニット部分の基板内にて余分な回路部品を追加することなく、重畳された光VICS送受信号とDSRC送受信号の信号分離を実現するものである。
【0020】
ここで、DSRCで使用される周波数(5.8GHz )は基板上で分布定数として扱われる周波数であるが、一般に分布定数として扱う高周波回路の場合、基板内にて高周波信号を伝送するためのパターンラインはその特性インピーダンスが均一に保たれていることが必須条件であり、例えばDSRC送受信号伝送用のラインは、その前後の回路の入出力インピーダンス(一般的には50Ω)に合わせることで高周波信号の反射を抑えなくてはならない。従って本ラインを光VICS回路ブロックへ分岐させると、通常はその特性インピーダンスが乱れることによりDSRC送受信号の伝送効率が劣化して、その結果として信号の伝送損失を招く。しかし本発明に従えばこの伝送損失を最小限に抑えることが可能となる。
【0021】
本発明はDSRCの周波数(5.8GHz )が基板上で分布定数として扱える周波数帯であり、且つ光VICSの周波数(受信信号は1.024Mbps、送信信号は64kbps )が集中定数として扱える周波数帯であることに着目して信号分離を実現する。具体的には光VICS用信号が通るラインはDSRC用信号が通るラインから分岐させて、少なくともこの分岐点からDSRCの周波数(5.8GHz )で位相90度の電気長の位置まではその特性インピーダンスを均一とし、且つその分岐点からDSRCの周波数(5.8GHz)で位相90度の電気長の位置で容量接地する。これにより基板のパターン上に5.8GHz帯の定在波を意図的に発生させて、上記分岐点に該定在波の腹部分を来させる。
【0022】
以上の方法により、DSRC送受信号伝送用ラインにおいて、光VICS回路ブロックへのライン分岐の影響は最小限に抑えることが可能となるため、DSRC送受信号は光
VICS回路ブロックの方向へ向かうこと無く、DSRC送受信号と光VICS送受信号の信号分離が実現される。
【0023】
尚、光VICS送受信号に関しては前述の通り集中定数で扱える周波数帯であるため、DSRC送受信号伝送用ライン上に、光VICSの周波数(受信信号は1.024Mbps、送信信号は64kbps)において高インピーダンスとなる様なコンデンサを、直列に設けることによって、光VICS送受信号がDSRC回路ブロックの方向へ向かうことを防止することが出来る。しかしこのコンデンサはDSRCの通信においては影響を最小限に抑える為に、DSRCの信号周波数(5.8GHz )においては低インピーダンスとなる様な定数である必要があり、上記2つの条件を満足出来る容量として例えば10pF程度で良い。
【0024】
また光VICS通信において、投光時には投光素子を駆動する為に1Aを超える瞬時電流を流す必要があり、上記光VICS回路ブロックへのラインはその導体損の影響を考慮してパターン幅を太く設定することが望ましい。例えばパターン銅箔厚が35μmの場合は1mm程度あれば、瞬時電流の影響を最小限に抑えられることが出来る。
【0025】
本発明に従えば本要求も満足することが可能であり、すなわちDSRCの電気的性能のみならず光VICSの電気的性能をも劣化させることなく目的を達成することが可能となる。
【0026】
図4は本発明の対象となるDSRCと光VICSの複合車載器を車内に設置した例を示す。本例においてヘッドユニット(2a)はダッシュボード(4d)上に設置されているが、DSRCと光VICSの通信に差し支え無ければ設置位置はダッシュボード(4d)上に限らず、例えばフロントガラスに貼り付けて設置したり、或いはダッシュボード(4d)に内蔵としても良い。一方、車載器本体(4c)の設置位置に制約は無く、ヘッドユニット(2a)と車載器本体(4c)は同軸ケーブル(2c)にて接続されているので、車載器本体(4c)は同軸ケーブル(2c)の届く範囲内で設置すれば良く、必ずしもユーザから見える位置である必要は無い。但し、ICカード等の抜き差しが必要であればその部分の設置位置は考慮が必要である。
【0027】
車載器本体(4c)はカーナビゲーションシステム用インタフェース(4g)を有していれば、ヘッドユニット(2a)から受信した内容をカーナビゲーションシステム(4e)に表示することが出来るが、車載器本体(4c)がカーナビゲーションシステム(4e)に内蔵されていても同目的を達成出来る。尚、本例は同軸ケーブル(2c)にDSRC無線通信用信号と光VICS通信用信号を重畳することを前提とするが、必要に応じて直流電源も重畳させることにより車載器本体(4c)からヘッドユニット(2a)へ電源を供給することも可能である。
【0028】
図5はDSRCと光VICSの複合車載器のシステムブロック図を示している。車載器本体(5e)と路側機(本図では省略)との通信はヘッドユニット(2a)を介して行われる。車載器本体(5e)とヘッドユニット(2a)は、それぞれに設けられた同軸コネクタ(5b,2d)で同軸ケーブル(2c)により接続されている。ヘッドユニット
(2a)は、車載器本体(4c)で処理される電気信号を規定の情報メディアに変換して送受信するための手段で構成される。具体的には、DSRCに関しては、電気信号と電波を変換する為のDSRC用送受信アンテナ回路ブロック(5g)、光VICSに関しては電気信号と光を変換する為の光VICS用投受光回路ブロック(5h)を中心に構成される。
【0029】
車載器本体(5e)は主にDSRC用送受信処理部(2k),光VICS用送受信処理部(2m),制御処理部(5n),ICカードインタフェース(5o),カーナビゲーションシステム用インタフェース(カーナビインタフェース)(5p)から構成される。車載器本体(5e)内のDSRC用送受信処理部(2k)は、主にDSRC送信回路とDSRC受信回路に分かれており、DSRC送信回路では車載器本体(4c)内の制御処理部
(5n)より受け取ったDSRCベースバンド送信信号を規定の周波数(5.8GHz帯)で変調し、同軸ケーブル(2c)を通じてヘッドユニット(2a)へ渡す。一方、DSRC受信回路ではヘッドユニット(2a)から同軸ケーブル(2c)を通じて受け取った受信信号(5.8GHz 帯)を、車載器本体(4c)内にてDSRCベースバンド受信信号に復調し制御処理部(5n)に渡す。
【0030】
光VICS用送受信処理部(2m)は、主に光VICS送信回路と光VICS受信回路に分かれており、光VICS送信回路では車載器本体(4c)内の制御処理部(5n)より受け取った光VICS送信信号(64kbps)のレベル変換やインピーダンス変換を行い、同軸ケーブル(2c)を通じてヘッドユニット(2a)へ渡す。一方、光VICS受信回路では、ヘッドユニット(2a)から同軸ケーブル(2c)を通じて受け取った光VICS受信信号(1.024Mbps )を車載器本体(4c)内で波形整形やレベル変換を行い、制御処理部(5n)に渡す。
【0031】
車載器本体(4c)内のICカードインタフェース(5o)では、車載器本体(4c)が有するICカード読み書き装置に挿入されたICカードの読み書きを行う。その際、必要に応じて暗号化/復号化を行ってICカードの読み書きを行う。
【0032】
車載器本体(4c)内のカーナビゲーションシステム用インタフェース(カーナビインタフェース)(5p)は、車載器本体(4c)をカーナビゲーションシステム(4e)と接続する為のインタフェースで、路側機から受信したデータをカーナビゲーションシステム(4e)に表示したり、或いはユーザがカーナビゲーションシステム(4e)を通じて路側機に送信すべき内容がある場合に、そのインタフェースとして使用される。
【0033】
ヘッドユニット(2a)内の信号分離ブロック(5i)及び車載器本体(4c)内の信号分離ブロック(5j)は、DSRC送受信信号(5.8GHz 帯)と光VICS送受信信号(受信信号は1.024Mbps、送信信号は64kbps)を分離するためのブロックで、本発明の対象箇所である。例えば光VICSの送信時は、車載器本体(4c)内の信号分離ブロック(5j)で、光VICS送信信号(64kbps)がDSRC送受信信号(5.8GHz帯)に重畳され、同軸ケーブル(2c)を通じてヘッドユニット(2a)に供給される。そして本発明に従えば、ヘッドユニット(2a)内の信号分離ブロック(5i)では、光VICS送信信号(64kbps)がDSRC用送受信アンテナ回路ブロック(5g)に行かずに、光VICS用投受光回路ブロック(5h)に行く様に信号を分離することが出来る。
【0034】
また別の例としてDSRC受信の際には、ヘッドユニット(2a)内のDSRC用送受信アンテナ回路ブロック(5g)より受信したDSRC受信信号(5.8GHz 帯)は、ヘッドユニット(2a)内の信号分離ブロック(5i)で光VICS送受信号(受信信号は1.024Mbps、送信信号は64kbps )に重畳され、同軸ケーブル(2c)を通じて車載器本体(4c)に供給される。そして本発明に従えば、車載器本体(4c)内の信号分離ブロック(5j)では、DSRC受信信号(5.8GHz 帯)は光VICS用送受信処理部(2m)へは行かず、DSRC用送受信号処理部(2k)に行く様に信号を分離することが出来る。
【0035】
尚、車載器本体(4c)内の信号分離ブロック(5j)とヘッドユニット(2a)内の信号分離ブロック(5i)の基本構成は同じであり、具体的には図2の様な構成例が考えられる(後述)。ここで、信号分離ブロック(5i,5j)では上記DSRC送受信信号と光VICS送受信信号の2信号の分離だけで無く合成も行うが、分離時の場合と信号の方向が逆になるだけであり、図面上はその記載を省略している。
【0036】
図2は本発明に係る車載器本体(2b)内の信号分離ブロック(5j)の構成を示しており、以下に信号が分離される仕組みを説明する。尚、本例はヘッドユニット(2a)内DSRC用送受信アンテナ回路ブロック(本図では記載省略)の入出力インピーダンスと、車載器本体(2b)内DSRC用送受信処理回路ブロックの入出力インピーダンスと、同軸ケーブル(2c)の特性インピーダンスが、いずれも高周波回路で一般的な50Ωに一致している場合を想定している。
【0037】
まずヘッドユニット(2a)からDSRC受信信号(5.8GHz 帯)を受信した場合に、車載器本体(2b)内にて該信号が光VICS用送受信処理部(2m)へは向かわず、DSRC用送受信処理部(2k)に向かう原理を説明する。ヘッドユニット(2a)から同軸ケーブル(2c)を通じて車載器本体(2b)に入力されたDSRC受信信号
(5.8GHz 帯)は、車載器本体(2b)内にて特性インピーダンス50Ωのマイクロストリップライン(MSL1)(1a)を通る。ここでマイクロストリップラインとは高周波信号を伝送することを目的として基板上に形成したパターン線路を指すが、特性インピーダンスが管理出来て目的が達成出来さえすれば本パターン線路はマイクロストリップラインに限らない。次にMSL2(1b)もマイクロストリップラインにて構成するが、本ラインには光VICS送信時に投光素子を駆動するための大電流が流れるため、瞬時電流に対する導体損を減らす目的でパターン幅を太くすることが望まく、本例では特性インピーダンス20Ωとしている。
【0038】
MSL2(1b)及びコンデンサ1(C1、以下同様)(2h)にてDSRC用無線通信信号のインピーダンスマッチングを取るためには、MSL2(1b)上で発生するDSRC受信信号(5.8GHz 帯)の定在波の腹部分が信号ラインの分岐点(2j)に来れば良く、そのパターン長をDSRC受信信号(5.8GHz 帯)の基板上での電気長が位相
90度の長さとすれば良い。尚、この様に定在波を発生する為には、C1(2h)がDSRC用無線通信信号の周波数(5.8GHz 帯)において十分にインピーダンスが低いことが必要である。またC1(2h)が光VICS通信に影響を与えない為には、光VICS通信の周波数(受信信号は1.024Mbps、送信信号は64kbps )に対してC1(2h)のインピーダンスが高くなるようにする必要があり、例えば10pF程度とすれば、定在波の発生と光VICS通信への影響を抑えるという2つの目的を達成出来る。
【0039】
以上の様にMSL2(1b)上に定在波を発生させることで、DSRCの通信の際に、その信号損失は最小限に抑えられ、光VICS回路の影響を無視することが出来る。ここでDSRC用無線通信信号の周波数(5.8GHz 帯)においては、車載器本体(2b)の入出力インピーダンスは、MSL1(1a),MSL2(1b),DSRC用送受信処理部(2k)によって決まるので、本例において車載器本体(2b)の入出力インピーダンスは50Ωに定まることになる。以上の様にDSRC受信信号(5.8GHz 帯)が光VICS用送受信処理部(2m)に行くこと無く、DSRC用送受信処理部(2k)に行く様に信号分離が実現される。
【0040】
尚、C2(1f)は光VICS用信号がDSRC用送受信処理部(2k)に行かない様に設けてあり、C1(2h)と同様にDSRC用無線通信信号の周波数(5.8GHz帯)に対して十分にインピーダンスが低く、光VICS通信用信号の周波数(受信信号は
1.024Mbps 、送信信号は64kbps)に対してはインピーダンスが高いことが必要で、例えば10pF程度で良い。また前述の通り、MSL1(1a)は特性インピーダンス
50Ωで形成する必要があるが、光VICS送信時に投光素子を駆動するための大電流が流れることがあるため、瞬時電流に対する導体損を減らす為には出来る限り短いことが望ましい。
【0041】
図3は、図2とは別の方法でDSRC用無線通信信号と光VICS用通信信号の信号分離を実現する方法を示しており、以下に信号が分離される仕組みを説明する。尚、図2と異なるのはDSRC用無線通信信号のインピーダンスマッチングを取る方法であり、図2に示す方法ではMSL2(1b)上で発生する定在波の腹部分が信号ラインの分岐点
(2j)に来る様に、そのパターン長を基板上での電気長が位相90度に相当する長さになるよう設定することでインピーダンスマッチングを実現する方法を示した。一方、図3に示す例ではMSL2(1b),MSL4(3m),C1(2h),C3(3j)によりインピーダンスマッチングを実現する方法を示している。具体的にはMSL2(1b),MSL4(3m)が持つ誘導成分(或いは容量成分)とC1(2h),C3(3j)が持つ容量成分を利用してDSRC用無線通信信号のインピーダンスマッチングを実現する。また前述の通り、MSL2(1b),MSL4(3m)には光VICS送信時に投光素子を駆動するための大電流が流れるため、図2に示した例と同様に本パターンは太くするのが望ましい。
【0042】
図1は、図2及び図3に示した例において信号分離を実現するにあたり、車載器本体の基板パターン構成例を示しており、ヘッドユニット(本図では記載省略)から同軸ケーブル(本図では記載省略)を通じて接続された車載器本体の基板内で、DSRC用無線通信信号から光VICS通信用信号を分離することを目的とする。その原理は前述の通り、
MSL2(1b)とC1,C3によりDSRC用無線通信信号の定在波を意図的に発生させ、その定在波の腹部分が信号ラインの分岐点(2j)に来る様に、そのパターン長を、DSRCの無線周波数(5.8GHz )の基板上での電気長が位相90度の長さとなるように設定することでDSRC用無線通信信号のインピーダンスマッチングを取るというものある。
【0043】
ここで本例においてはMSL2(1b)のライン長(光VICS通信用信号が分岐する点からC1及びC3までの距離)を、DSRCの無線周波数(5.8GHz )の基板上での電気長が位相90度分の長さに設定した例を示しているが、例えば1.0mm×0.5mmサイズのチップコンデンサ1個では本位置でDSRC用無線通信信号に対するインピーダンスを十分に下げるには不十分であり、図1に示した基板に実装されたコンデンサC1と
C3(1g)の様にコンデンサを複数設けることにより、この位置でDSRC用無線通信信号に対するインピーダンスを少しでも下げることを目的としている。
【0044】
また図1に示す例においては、GNDパターン(1d,1e)と導体パターンの間に、C1,C3以外にもインピーダンスマッチング用のコンデンサを複数設けられる様に基板上にコンデンサ実装用ランド(1h)のパターンを設けているが、これによりコンデンサの容量及び実装箇所の選択の自由度が広がり、基板製作後に部品変更によるインピーダンスマッチングのチューニングが可能となり、開発期間を大幅に短縮することが可能となる。例えば基板製作後の実機評価を行いながら微調整にて最適位置を探す事が可能になる。尚、図1に示す例でも図2,図3の場合と同様にMSL1(1a)及びMSL3(1c)は特性インピーダンス50Ωのマイクロストリップラインとし、MSL2(1b)は光
VICS送信時に投光素子を駆動するための大電流が流れることを考慮に入れた幅広のパターン幅を想定している。
【0045】
以上に示した方法により、車載器本体基板内、及びヘッドユニット基板内にてDSRC用無線通信信号と光VICS用通信信号の信号分離を行うことが可能となる。
【0046】
本発明は、光VICS情報と各種DSRCサービスを利用するための複合車載器の、特に光VICSの投受光部やDSRCの送受信アンテナを1筐体に含むヘッドユニットと、VICS通信制御やDSRC通信制御を行う回路などを含んだ車載器本体とに分離された構成において、その接続手段が同軸ケーブルであり、この同軸ケーブルに少なくともDSRC送受信号と光VICS用送受信号を重畳してヘッドユニットと車載器本体の間を伝送する場合、ヘッドユニット内や車載器本体内の基板にてこれらの信号を分離する方法に利用出来る。
【0047】
本発明は電波VICSと光VICSの複合車載器にも適用可能である。この場合、電波VICSとDSRCは無線周波数が異なるが本発明の考え方を適用出来る。
【産業上の利用可能性】
【0048】
本発明は光、或いは電波を伝送メディアとして画像,動画,音声,文字等の情報を伝達する情報端末装置に係り、光VICS情報と各種DSRCサービスを利用するための複合車載器、または電波VICSと光VICSの複合車載器に利用できる。
【図面の簡単な説明】
【0049】
【図1】基板パターン構成例を示す図である。
【図2】回路ブロック構成例を示す図である。
【図3】回路ブロック構成例を示す図である。
【図4】路車間通信の概略図である。
【図5】光VICSとDSRCのサービスを利用するための複合車載器のシステムブロック図である。
【符号の説明】
【0050】
1a マイクロストリップライン(MSL1)
1b マイクロストリップライン(MSL2)
1c マイクロストリップライン(MSL3)
1d,1e GNDパターン
1f コンデンサ(C2)
1g 基板に実装されたコンデンサ
1h コンデンサ実装用ランド(未実装)
2a ヘッドユニット
2b 車載器本体
2c 同軸ケーブル
2d,5b 同軸コネクタ
2h,3j コンデンサ
2j 信号ラインの分岐点
2k DSRC用送受信処理部
2m 光VICS用送受信処理部
3m マイクロストリップライン(MSL4)
4a 路側機
4d ダッシュボード
4e カーナビゲーションシステム
4g カーナビゲーションシステム用インタフェース
5g DSRC用送受信アンテナ回路ブロック
5h 光VICS用投受光回路ブロック
5i,5j 信号分離ブロック
5n 制御処理部
5o ICカードインタフェース
5p カーナビインタフェース

【特許請求の範囲】
【請求項1】
無線通信用信号に重畳して伝送される光通信用信号を分離する信号分離装置において、
基板上の光通信用信号が通るラインは、前記無線通信用信号が通るラインから分岐していて、少なくとも該分岐点から前記無線通信用信号の周波数における位相90度の電気長の位置までの特性インピーダンスが均一で、当該分岐点から前記無線通信用信号の周波数における位相90度の電気長の位置で容量接地してあることを特徴とする信号分離装置。
【請求項2】
請求項1に記載の信号分離装置において、
前記基板には、前記容量接地の位置の前後にコンデンサが実装可能なパターンを設けたことを特徴とする信号分離装置。
【請求項3】
請求項1に記載の信号分離装置において、
前記容量接地の位置周辺に複数のコンデンサを配置することを特徴とする信号分離装置。
【請求項4】
請求項1に記載の信号分離装置において、
前記光通信用信号が通るラインは、前記無線通信用信号が通るラインよりも太いパターン幅を有することを特徴とする信号分離装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2008−205981(P2008−205981A)
【公開日】平成20年9月4日(2008.9.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−41576(P2007−41576)
【出願日】平成19年2月22日(2007.2.22)
【出願人】(000005108)株式会社日立製作所 (27,607)
【Fターム(参考)】