説明

光学フィルム、その製造方法、光学フィルムを用いた偏光板、及び偏光板を用いた液晶表示装置

【課題】 液晶表示素子すなわち偏光板の保護フィルムとして用いられる光学フィルムについて、フィルムの全幅にわたってムラがなく、リタデーション値が実質的にゼロであり、かつ優れた平面性をもつ光学フィルム、及びその製造方法、並びに安定した位相差値を確保できる光学フィルムを用いた偏光板を提供する。広範囲にわたり高コントラスト比を有する見やすい表示を実現可能な画像表示装置、特にIPSモードで動作する液晶表示装置を提供する。
【解決手段】 溶液流延製膜法による光学フィルムの製造方法は、ウェブの残留溶媒量が80〜120重量%で第1延伸工程を開始し、ウェブの残留溶媒量が10〜60重量%で第2延伸工程を開始することにより、フィルムの面内方向リタデーション(Ro)値が0以上5以下であり、かつフィルムの厚み方向リタデーション(Rt)値が−10以上10以下である光学フィルムを製造する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、液晶表示装置(LCD)に用いられる偏光板用保護フィルム、位相差フィルム、視野角拡大フィルム、プラズマディスプレイに用いられる反射防止フィルムなどの各種機能フィルム等にも利用することができる光学フィルム、その製造方法、光学フィルムを用いた偏光板、及び偏光板を用いた液晶表示装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、液晶表示装置(LCD)の薄型軽量化、大型画面化、高精細化の開発が進んでいる。それに伴って、偏光板用の保護フィルムもますます薄膜化、広幅化、高品質化の要求が強くなり、液晶表示装置の高画質化に伴って光学フィルム品質の要求レベルも厳しくなってきている。
【0003】
偏光板用保護フィルムには、一般的にセルロースエステル系樹脂フィルムが広く使用されているが、最近の大画面化に伴って、フィルム幅が広く、長い巻長のフィルム原反が要望されている。
【0004】
一方、表示要素として広く用いられている液晶表示装置は、液晶層を挟持する一対の基板からなる液晶セルと、当該液晶セルの両側に直交状態に配置される一対の偏光板等から構成され、IPS(In−Plane Switching)、TN(Twisted Nematic)、VA(Vertically Aligned)のような様々な表示モードが提案されている。IPSモードの場合、液晶分子は主に基板に対して平行な面内で回転するので、斜めから見た場合の電界印加時と非印加時における複屈折率の度合の相違が小さく、視野角が広がることが知られている。
【0005】
IPSモードは、水平方向にホモジニアスな配向をした液晶分子と、透過軸が画面正面に対して上下と左右の方向を指して直交するように配置した2枚の偏光板を用いており、上下左右の方向から画面を斜めに見るときには、十分なコントラストが得られる。これに対して、方位角45度の方向から画面を斜めに見るときには、2枚の偏光板の透過軸のなす角が90度からずれるように見える位置関係にあることから、透過光が複屈折を生じ、光が漏れるために十分な黒が得られず、コントラストが低下してしまう。すなわち、一般的に用いられているセルロースエステル系樹脂フィルムを保護フィルムとして用いた偏光板では、フィルムの有する複屈折性により視野角が狭くなるという問題があった。
【0006】
従来、セルロースエステル系樹脂フィルムの製造方法においては、所望のリタデーションを発現させるために、製膜されたフィルムを、フィルム搬送方向と同一方向すなわち機械方向(MD方向)あるいは搬送方向と直交する方向すなわち幅手方向(TD方向)に延伸することが行なわれている。
【0007】
支持体より剥離後のフィルムを延伸する方法として、つぎの先行特許文献に記載のものが知られている。
【特許文献1】特開2003−170492号公報 特許文献1には、延伸工程開始時の残留溶媒量、温度、延伸倍率を調整することで、光学フィルムの均一性を向上させる技術が開示されている。
【特許文献2】特開2005−134608号公報 特許文献2には、延伸倍率とフィルムの搬送張力を調整することで、光学フィルムの耐久性を向上させる技術が開示されている。
【特許文献3】特開2005−105140号公報 特許文献3には、特定の添加剤を用いることにより、低光学異方性の高分子フィルムを得る技術が開示されている。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、特許文献1及び特許文献2に開示された技術は、いずれも面内および厚み方向に一定のリタデーション値をもつ光学フィルムについての技術であり、面内および厚み方向のリタデーション値がゼロに近い光学フィルムについては、何ら述べられておらず、延伸工程を2つもち、各延伸工程における残留溶媒量を調整する技術については、何ら述べられていない。また、特許文献3には、特定の添加剤を用いることで、面内および厚み方向のリタデーション値がゼロに近い光学フィルムの脆性を向上させる技術について述べらているが、延伸工程を2つもち、各延伸工程における残留溶媒量を調整する技術、及びこれより生じる技術的な効果については、何ら述べられていない。
【0009】
本発明の目的は、上記の従来技術の問題を解決し、液晶表示素子すなわち偏光板の保護フィルムとして用いられる光学フィルムについて、フィルムの全幅にわたってムラがなく、リタデーション値が実質的にゼロであり、かつ優れた平面性をもつ光学フィルム、及びそのを製造方法を提供しようとすることにある。
【0010】
また、本発明の目的は、画像表示装置に適用した場合に、広範囲に渡り高いコントラスト比を有する見やすい表示を実現可能な光学フィルムであって、高温度下や高湿度下においても剥離することが無く、安定した位相差値を確保できる光学フィルム、及び偏光板を提供することにある。
【0011】
さらに、本発明の目的は、特に、本発明の偏光板を用いた広範囲にわたり高コントラスト比を有する見やすい表示を実現可能な画像表示装置、特にIPS(In-Plan Switching)モードで動作する液晶表示装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記の目的を達成するために、請求項1の発明は、溶液流延製膜法により金属製回転ドラムまたは金属製回転エンドレスベルト(支持体)上にドープ(樹脂溶液)を流延し、剥離後、連続する樹脂フィルム(ウェブ)の左右両端を把持して幅手方向に張力を付与しながら樹脂フィルムを搬送して延伸を行う延伸装置を用いて延伸し、延伸フィルムを巻き取る、光学フィルムの製造方法であって、ウェブの残留溶媒量が80〜120重量%で第1延伸工程を開始し、ウェブの残留溶媒量が10〜60重量%で第2延伸工程を開始することにより、フィルムの面内方向リタデーション(Ro)値が0以上5以下であり、かつフィルムの厚み方向リタデーション(Rt)値が−10以上10以下である光学フィルムを製造することを特徴としている。
【0013】
また、請求項2の発明は、請求項1に記載の光学フィルムの製造方法であって、ドープ(樹脂溶液)が、セルロースエステル系樹脂と厚み方向リタデーション(Rt)を低減する添加剤とを含有するものであり、厚み方向リタデーション(Rt)を低減する添加剤が、負の固有複屈折率を有する添加剤であることを特徴としている。
【0014】
請求項3の発明は、請求項1または2に記載の光学フィルムの製造方法であって、第1延伸工程が、ウェブを幅手方向に1.03倍から1.3倍延伸する工程であり、第2延伸工程が、ウェブを幅手方向に1.03倍から1.1倍延伸する工程であることを特徴としている。
【0015】
請求項4の発明は、請求項1に〜3のうちのいずれか一項に記載の光学フィルムの製造方法であって、第1延伸工程の温度が50℃以上100℃以下であり、第2延伸工程の温度が120℃以上160℃以下であることを特徴としている。
【0016】
請求項5の発明は、請求項1〜4のうちのいずれか一項に記載の光学フィルムの製造方法であって、第2延伸工程の後の乾燥工程開始時の残留溶媒量が2〜8重量%であることを特徴としている。
【0017】
請求項6の発明は、請求項1〜5のうちのいずれか一項に記載の光学フィルムの製造方法であって、第2延伸工程の後の乾燥工程における搬送張力が、30N/m以上120N/m以下であることを特徴としている。
【0018】
請求項7の発明は、請求項1〜6のうちのいずれか一項に記載の光学フィルムの製造方法であって、第2延伸工程の後の乾燥工程におけるフィルム温度が、100℃以上160℃以下であることを特徴としている。
【0019】
請求項8の発明は、請求項1〜7のうちのいずれか一項に記載の光学フィルムの製造方法であって、セルロースエステル系樹脂が、セルロースアセテートであることを特徴としている。
【0020】
請求項9の発明は、請求項1〜8のうちのいずれか一項に記載の光学フィルムの製造方法であって、ドープ組成物が、セルロースエステル系樹脂と、厚み方向リタデーション(Rt)を低減する添加剤と、有機溶媒とを含有するものであり、ドープ組成物を、表面温度が−50℃以上−10℃以下の支持体上に流延し、自己支持性を有するゲル膜を形成した後、剥離ローラにより支持体から剥離した連続する樹脂フィルム(ウェブ)を処理することを特徴としている。
【0021】
請求項10の発明は、請求項1に〜9のうちのいずれか一項記載の光学フィルムの製造方法であって、ドープ組成物が、非塩素系有機溶剤と、セルロースエステル系樹脂と、リタデーション低減添加剤とを混合し、得られた混合物を−100〜−10℃で冷却処理し、冷却処理後の混合物を0〜120℃で処理して作製されたものであり、該ドープ組成物を支持体上に流延し、剥離ローラにより支持体から剥離した連続する樹脂フィルム(ウェブ)を処理することを特徴としている。
【0022】
請求項11の光学フィルムの発明は、請求項1〜10のうちのいずれか一項に記載の光学フィルムの製造方法で製造されたことを特徴としている。
【0023】
請求項12の偏光板の発明は、偏光膜およびその両側に配置された透明保護層からなる偏光板であって、両透明保護層のうちの少なくとも1つに、請求項11に記載の光学フィルムが用いられていることを特徴としている。
【0024】
請求項13の発明は、棒状の液晶分子が一対のガラス基板に挟持された液晶セルと、液晶セルを挾むように配置された偏光膜及びその両側に配置された透明保護層からなる2枚の偏光板を持つ液晶表示装置であって、2枚の偏光板のうちの1枚の偏光板が、フィルムの面内方向リタデーション(Ro)値が150以上300以下でありかつフィルムの厚み方向リタデーション(Rt)値が−20以上20以下である光学フィルムを具備するものであり、もう1枚の偏光板が、請求項11に記載の光学フィルムを具備するものであることを特徴としている。
【発明の効果】
【0025】
本発明による光学フィルムの製造方法によれば、光学フィルムを製造するにあたり、延伸工程を2つもち、各延伸工程における残留溶媒量を調整することにより、フィルム全幅にわたってムラのないリタデーション値が実質的にゼロである光学フィルムを製造することができて、偏光板用保護フィルムに適した複屈折率の小さいかつ平面性に優れた光学フィルムを得ることができ、画像表示装置に適用した場合に広範囲に渡り高いコントラスト比を有する見やすい表示を実現可能な光学フィルムを得ることができ、しかも高温度下や高湿度下においても剥離することが無く、安定した位相差値を確保できる光学フィルムを得ることができるという効果を奏する。
【0026】
また、本発明によれば、特に、上記の本発明の光学フィルムを用いた広範囲にわたり高コントラスト比を有する見やすい表示を実現可能な画像表示装置、特にIPSモードで動作する液晶表示装置を提供することができるという効果を奏する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0027】
つぎに、本発明の実施の形態を説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0028】
本発明の光学フィルムの製造方法においては、フィルム材料として、種々の樹脂を用いることができるが、中でもセルロースエステル系樹脂が好ましい。
【0029】
セルロースエステル系樹脂は、セルロース由来の水酸基がアシル基などで置換されたセルロースエステル系樹脂である。例えば、セルロースアセテート、セルローストリアセテート、セルロースアセテートプロピオネート、セルロースアセテートブチレート、セルロースアセテートプロピオネートブチレートなどのセルロースアシレートや、脂肪族ポリエステルグラフト側鎖を有するセルロースアセテートなどが挙げられる。中でも、セルロースアセテート、セルロースアセテートプロピオネート、脂肪族ポリエステルグラフト側鎖を有するセルロースアセテートが好ましい。本発明の効果を阻害しない範囲であれば、その他の置換基が含まれていてもよい。
【0030】
セルローストリアセテートの例としては、アセチル基の置換度が1.4以上3.0以下であることが好ましい。置換度をこの範囲にすることで、良好な成形性が得られ、かつ所望の面内方向リタデーション(Ro)、及び厚み方向リタデーション(Rt)を得ることができるのである。アセチル基の置換度が、この範囲より低いと、位相差フィルムとしての耐湿熱性、特に湿熱下での寸法安定性に劣る場合があり、置換度が大きすぎると、必要なリタデーション特性が発現しなくなる場合がある。
【0031】
本発明に用いられるセルロースエステル系樹脂の原料のセルロースとしては、特に限定はないが、綿花リンター、木材パルプ、ケナフなどを挙げることができる。また、それらから得られたセルロースエステル系樹脂は、それぞれ任意の割合で混合使用することができる。
【0032】
本発明において、セルロースエステル系樹脂の数平均分子量は、60000〜300000の範囲が、得られるフィルムの機械的強度が強く好ましい。さらに70000〜200000が好ましい。
【0033】
本発明において、セルロースエステル系樹脂には、種々の添加剤を配合することができる。
【0034】
本発明による光学フィルムの製造方法では、セルロースエステル系樹脂と厚み方向リタデーション(Rt)を低減する添加剤とを含有するドープ組成物を用いるものである。
【0035】
本発明において、光学フィルムの厚み方向リタデーション(Rt)を低減することが、IPSモードの液晶表示装置の視野角拡大の意味において重要であるが、本発明において、このような厚み方向リタデーション(Rt)を低減する添加剤としては、下記のものが挙げられる。
【0036】
一般に、セルロースエステル系樹脂フィルムよりなる光学フィルムのリタデーションは、セルロースエステル系樹脂由来のリタデーションと、添加剤由来のリタデーションの和として現れる。従って、セルロースエステル系樹脂のリタデーションを低減させるための添加剤とは、セルロースエステル系樹脂の配向を乱し、かつ自身が配向しにくいおよび/または分極率異方性が小さい添加剤が厚み方向リタデーション(Rt)を効果的に低下させる化合物である。従って、セルロースエステル系樹脂の配向を乱すための添加剤としては、芳香族系化合物より、脂肪族系化合物が好ましい。
【0037】
ここで、具体的なリタデーション低減剤として、例えば、つぎの一般式(1)または(2)で表わされるポリエステルが挙げられる。
【0038】
一般式(1) B−(G−A−)mG−B
一般式(2) B−(G−A−)nG−B
上記式中、Bはモノカルボン酸成分を表わし、Bはモノアルコール成分を表わし、Gは2価のアルコール成分を表わし、Aは2塩基酸成分を表わし、これらによって合成されたことを表わす。B、B、G、およびAは、いずれも芳香環を含まないことが特徴である。m、nは、繰り返し数を表わす。
【0039】
で表わされるモノカルボン酸成分としては、特に制限はなく、公知の脂肪族モノカルボン酸、脂環族モノカルボン酸等を用いることができる。
【0040】
好ましいモノカルボン酸の例としては、以下のようなものを挙げることができるが、本発明はこれに限定されるものではない。
【0041】
肪族モノカルボン酸としては、炭素数1〜32の直鎖または側鎖を持った脂肪酸を好ましく用いることができる。炭素数1〜20であることがさらに好ましく、炭素数1〜12であることが特に好ましい。酢酸を含有させると、セルロースエステル系樹脂との相溶性が増すため好ましく、酢酸と他のモノカルボン酸を混合して用いることも好ましい。
【0042】
好ましいモノカルボン酸としては、蟻酸、酢酸、プロピオン酸、酪酸、吉草酸、カプロン酸、エナント酸、カプリル酸、ペラルゴン酸、カプリン酸、2−エチル−ヘキサンカルボン酸、ウンデシル酸、ラウリン酸、トリデシル酸、ミリスチン酸、ペンタデシル酸、パルミチン酸、ヘプタデシル酸、ステアリン酸、ノナデカン酸、アラキン酸、ベヘン酸、リグノセリン酸、セロチン酸、ヘプタコサン酸、モンタン酸、メリシン酸、ラクセル酸等の飽和脂肪酸、ウンデシン酸、オレイン酸、ソルビン酸、リノール酸、リノレン酸、アラキドン酸等の不飽和脂肪酸等を挙げることができる。
【0043】
で表わされるモノアルコール成分としては、、特に制限はなく、公知のアルコール類を用いることができる。例えば炭素数1〜32の直鎖または側鎖を持った脂肪族飽和アルコールまたは脂肪族不飽和アルコールを好ましく用いることができる。炭素数1〜20であることがさらに好ましく、炭素数1〜12であることが特に好ましい。
【0044】
Gで表わされる2価のアルコール成分としては、以下のようなものを挙げることができるが、本発明はこれに限定されるものではない。例えばエチレングリコール、1,2−プロピレングリコール、1,3−プロピレングリコール、1,2−ブチレングリコール、1,3−ブチレングリコール、1,4−ブチレングリコール、1,5−ペンタンジオール、1,6−ヘキサンジオール、1,5−ペンチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、テトラエチレングリコール等を挙げることができるが、これらのうち、エチレングリコール、1,2−プロピレングリコール、1,3−プロピレングリコール、1,2−ブチレングリコール、1,3−ブチレングリコール、1,4−ブチレングリコール、1,6−ヘキサンジオール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコールが好ましく、さらに、1,3−プロピレングリコール、、1,4−ブチレングリコール、1,6−ヘキサンジオール、ジエチレングリコールが好ましく用いられる。
【0045】
Aで表わされる2塩基酸(ジカルボン酸)成分としては、脂肪族2塩基酸、脂環式2塩基酸が好ましく、例えば脂肪族2塩基酸としては、マロン酸、コハク酸、グルタル酸、アジピン酸、ピメリン酸、スベリン酸、アゼライン酸、セバシン酸、ウンデカンジカルボン酸、ドデカンジカルボン酸等、特に、脂肪族カルボン酸としては、炭素数4〜12を有するもの、これらから選ばれる少なくとも1つのものを使用する。つまり、2種以上の2塩基酸を組み合わせて使用してよい。
【0046】
上記の一般式(1)または(2)における繰り返し数m、nは、1以上で170以下が好ましい。
【0047】
ポリエステルの重量平均分子量は、20000以下が好ましく、10000以下であることがさらに好ましい。特に重量平均分子量が500〜10000のポリエステルは、セルロースエステル系樹脂との相溶性が良好で、製膜において蒸発も揮発も起こらない。
【0048】
ポリエステルの重縮合は常法によって行なわれる。例えば上記2塩基酸とグリコールの直接反応、上記の2塩基酸またはこれらのアルキルエステル類、例えば2塩基酸のメチルエステルとグリコール類とのポリエステル化反応またはエステル交換反応により熱溶融縮合法か、あるいはこれらの酸の酸クロライドとグリコールとの脱ハロゲン化水素反応の何れかの方法により用意に合成し得るが、重量平均分子量がさほど大きくないポリエステルは直接反応によるのが、好ましい。低分子量側に分布が高くあるポリエステルは、セルロースエステル系樹脂との相溶性が非常によく、フィルム形成後、透湿度も小さく、しかも透明性に富んだセルロースエステル系樹脂フィルムを得ることができる。
【0049】
分子量の調節方法は、特に制限がなく、従来の方法を使用できる。例えば、重合条件にもよるが、1価の酸または1価のアルコールで分子末端を封鎖する方法により、これらの1価のものの添加する量によりコントロールできる。この場合、1価の酸がポリマーの安定性から好ましい。例えば、酢酸、プロピオン酸、酪酸等を挙げることができるが、重縮合反応中には系外に溜去せず、停止して、このような1価の酸を反応系外に除去するときに溜去しやすいものが選ばれる。これらを混合使用しても良い。また、直接反応の場合には、反応中に溜去してくる水の量により反応を停止するタイミングを計ることよっても重量平均分子量を調節できる。その他、仕込むグリコールまたは2塩基酸のモル数を偏らせることよってもできるし、反応温度をコントロールしても調節できる。
【0050】
上記一般式(1)または(2)で表わされるポリエステルは、セルロースエステル系樹脂に対し、1〜40重量%含有するとが好ましい。特に5〜15重量%含有するとが好ましい。
【0051】
本発明において、厚み方向リタデーション(Rt)を低減する添加剤としては、さらに下記のものが挙げられる。
【0052】
本発明の光学フィルムの製造に使用するドープは、主に、セルロースエステル系樹脂、リタデーション(Rt)を低減する添加剤としてのポリマー(エチレン性不飽和モノマーを重合して得られるポリマー、アクリル系ポリマー)、及び有機溶媒を含有する。
【0053】
本発明において、厚み方向リタデーション(Rt)を低減する添加剤としてのポリマーを合成するには、通常の重合では分子量のコントロールが難しく、分子量をあまり大きくしない方法でできるだけ分子量を揃えることのできる方法を用いることが望ましい。かかる重合方法としては、クメンペルオキシドやt−ブチルヒドロペルオキシドのような過酸化物重合開始剤を使用する方法、重合開始剤を通常の重合より多量に使用する方法、重合開始剤の他にメルカプト化合物や四塩化炭素等の連鎖移動剤を使用する方法、重合開始剤の他にベンゾキノンやジニトロベンゼンのような重合停止剤を使用する方法、さらに特開2000−128911号公報または特開2000−344823号公報にあるような一つのチオール基と2級の水酸基とを有する化合物、あるいは、該化合物と有機金属化合物を併用した重合触媒を用いて塊状重合する方法等を挙げることができ、何れも本発明において好ましく用いられるが、特に、該公報に記載の方法が好ましい。
【0054】
本発明において、有用な厚み方向リタデーション(Rt)を低減する添加剤としてのポリマーを構成するモノマー単位としてのモノマーを下記に挙げるがこれに限定されない。
【0055】
エチレン性不飽和モノマーを重合して得られる厚み方向リタデーション(Rt)を低減する添加剤としてのポリマーを構成するエチレン性不飽和モノマー単位としては、まず、ビニルエステルとして、例えば、酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル、酪酸ビニル、吉草酸ビニル、ピバリン酸ビニル、カプロン酸ビニル、カプリン酸ビニル、ラウリン酸ビニル、ミリスチン酸ビニル、パルミチン酸ビニル、ステアリン酸ビニル、シクロヘキサンカルボン酸ビニル、オクチル酸ビニル、メタクリル酸ビニル、クロトン酸ビニル、ソルビン酸ビニル、安息香酸ビニル、桂皮酸ビニル等が挙げられる。
【0056】
つぎに、アクリル酸エステルとして、例えば、アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸プロピル(i−、n−)、アクリル酸ブチル(n−、i−、s−、t−)、アクリル酸ペンチル(n−、i−、s−)、アクリル酸ヘキシル(n−、i−)、アクリル酸ヘプチル(n−、i−)、アクリル酸オクチル(n−、i−)、アクリル酸ノニル(n−、i−)、アクリル酸ミリスチル(n−、i−)、アクリル酸シクロヘキシル、アクリル酸(2−エチルヘキシル)、アクリル酸ベンジル、アクリル酸フェネチル、アクリル酸(ε−カプロラクトン)、アクリル酸(2−ヒドロキシエチル)、アクリル酸(2−ヒドロキシプロピル)、アクリル酸(3−ヒドロキシプロピル)、アクリル酸(4−ヒドロキシブチル)、アクリル酸(2−ヒドロキシブチル)、アクリル酸−p−ヒドロキシメチルフェニル、アクリル酸−p−(2−ヒドロキシエチル)フェニル等;メタクリル酸エステルとして、上記アクリル酸エステルをメタクリル酸エステルに変えたものが挙げられる。
【0057】
さらに、不飽和酸として、例えば、アクリル酸、メタクリル酸、無水マレイン酸、クロトン酸、イタコン酸等を挙げることができる。
【0058】
上記モノマーで構成されるポリマーはコポリマーでもホモポリマーでもよく、ビニルエステルのホモポリマー、ビニルエステルのコポリマー、ビニルエステルとアクリル酸またはメタクリル酸エステルとのコポリマーが好ましい。
【0059】
本発明において、アクリル系ポリマーという(単にアクリル系ポリマーという)のは、芳香環あるいはシクロヘキシル基を有するモノマー単位を有しないアクリル酸またはメタクリル酸アルキルエステルのホモポリマーまたはコポリマーを指す。
【0060】
芳香環及びシクロヘキシル基を有さないアクリル酸エステルモノマーとしては、例えば、アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸プロピル(i−、n−)、アクリル酸ブチル(n−、i−、s−、t−)、アクリル酸ペンチル(n−、i−、s−)、アクリル酸ヘキシル(n−、i−)、アクリル酸ヘプチル(n−、i−)、アクリル酸オクチル(n−、i−)、アクリル酸ノニル(n−、i−)、アクリル酸ミリスチル(n−、i−)、アクリル酸(2−エチルヘキシル)、アクリル酸(ε−カプロラクトン)、アクリル酸(2−ヒドロキシエチル)、アクリル酸(2−ヒドロキシプロピル)、アクリル酸(3−ヒドロキシプロピル)、アクリル酸(4−ヒドロキシブチル)、アクリル酸(2−ヒドロキシブチル)、アクリル酸(2−メトキシエチル)、アクリル酸(2−エトキシエチル)等、または上記アクリル酸エステルをメタクリル酸エステルに変えたものを挙げることができる。
【0061】
アクリル系ポリマーは、上記モノマーのホモポリマーまたはコポリマーであるが、アクリル酸メチルエステルモノマー単位が30重量%以上を有していることが好ましく、また、メタクリル酸メチルエステルモノマー単位が40重量%以上有することが好ましい。特にアクリル酸メチルまたはメタクリル酸メチルのホモポリマーが好ましい。
【0062】
上述のエチレン性不飽和モノマーを重合して得られるポリマー、アクリル系ポリマーは、いずれもセルロースエステル系樹脂との相溶性に優れ、蒸発や揮発もなく生産性に優れ、偏光板用保護フィルムとしての保留性がよく、透湿度が小さく、寸法安定性に優れている。
【0063】
本発明において、水酸基を有するアクリル酸またはメタクリル酸エステルモノマーの場合はホモポリマーではなく、コポリマーの構成単位である。この場合、好ましくは、水酸基を有するアクリル酸またはメタクリル酸エステルモノマー単位がアクリル系ポリマー中2〜20重量%含有することが好ましい。
【0064】
本発明の光学フィルムの製造方法においては、ドープ組成物が、セルロースエステル系樹脂と、厚み方向リタデーション(Rt)を低減する添加剤としての重量平均分子量500以上3000以下のアクリル系ポリマーとを含有することが好ましい。
【0065】
また、本発明の光学フィルムの製造方法においては、ドープ組成物が、セルロースエステル系樹脂と、厚み方向リタデーション(Rt)を低減する添加剤としての重量平均分子量5000以上30000以下のアクリル系ポリマーとを含有するが好ましい。
【0066】
本発明において、厚み方向リタデーション(Rt)を低減する添加剤としてのポリマーの重量平均分子量が500以上3000以下、あるいはまたポリマーの重量平均分子量が5000以上30000以下のものであれば、セルロースエステル系樹脂との相溶性が良好で、製膜中において蒸発も揮発も起こらない。また、製膜後のセルロースエステル系樹脂フィルムの透明性が優れ、透湿度も極めて低く、偏光板用保護フィルムとして優れた性能を示す。
【0067】
本発明において、厚み方向リタデーション(Rt)を低減する添加剤として、側鎖に水酸基を有するポリマーも好ましく用いることができる。水酸基を有するモノマー単位としては、前記したモノマーと同様であるが、アクリル酸またはメタクリル酸エステルが好ましく、例えば、アクリル酸(2−ヒドロキシエチル)、アクリル酸(2−ヒドロキシプロピル)、アクリル酸(3−ヒドロキシプロピル)、アクリル酸(4−ヒドロキシブチル)、アクリル酸(2−ヒドロキシブチル)、アクリル酸−p−ヒドロキシメチルフェニル、アクリル酸−p−(2−ヒドロキシエチル)フェニル、またはこれらアクリル酸をメタクリル酸に置き換えたものを挙げることができ、好ましくは、アクリル酸−2−ヒドロキシエチル及びメタクリル酸−2−ヒドロキシエチルである。ポリマー中に水酸基を有するアクリル酸エステルまたはメタクリル酸エステルモノマー単位はポリマー中2〜20重量%含有することが好ましく、より好ましくは2〜10重量%である。
【0068】
前記のようなポリマーが上記の水酸基を有するモノマー単位を2〜20重量%含有したものは、勿論、セルロースエステル系樹脂との相溶性、保留性、寸法安定性が優れ、透湿度が小さいばかりでなく、偏光板用保護フィルムとしての偏光子との接着性に特に優れ、偏光板の耐久性が向上する効果を有している。
【0069】
また、本発明においては、上記ポリマーの主鎖の少なくとも一方の末端に水酸基を有することが好ましい。主鎖末端に水酸基を有するようにする方法は、特に主鎖の末端に水酸基を有するようにする方法であれば限定ないが、アゾビス(2−ヒドロキシエチルブチレート)のような水酸基を有するラジカル重合開始剤を使用する方法、2−メルカプトエタノールのような水酸基を有する連鎖移動剤を使用する方法、水酸基を有する重合停止剤を使用する方法、リビングイオン重合により水酸基を末端に有するようにする方法、特開2000−128911号公報または特開2000−344823号公報にあるような一つのチオール基と2級の水酸基とを有する化合物、あるいは、該化合物と有機金属化合物を併用した重合触媒を用いて塊状重合する方法等により得ることができ、特に該公報に記載の方法が好ましい。この公報記載に関連する方法で作られたポリマーは、綜研化学社製のアクトフロー・シリーズとして市販されており、好ましく用いることができる。
【0070】
上記の末端に水酸基を有するポリマー及び/または側鎖に水酸基を有するポリマーは、本発明において、セルロースエステル系樹脂に対するポリマーの相溶性、透明性を著しく向上する効果を有する。
【0071】
本発明において、有用な厚み方向リタデーション(Rt)を低減する添加剤としては、上記のほかにも、例えば特開2000−63560号公報記載のジグリセリン系多価アルコールと脂肪酸とのエステル化合物、特開2001−247717号公報記載のヘキソースの糖アルコールのエステルまたはエーテル化合物、特開2004−315613号公報記載のリン酸トリ脂肪族アルコールエステル化合物、特開2005−41911号公報記載の一般式(1)で表わされる化合物、特開2004−315605号公報記載のリン酸エステル化合物、特開2005−105139号公報記載のスチレンオリゴマー、および特開2005−105140号公報記載のスチレン系モノマーの重合体が挙げられる。
【0072】
さらに、本発明において有用な厚み方向リタデーション(Rt)を低減する添加剤としては、特開2005−154764号公報の明細書中の段落番号[0031]〜[0100]に記載の化合物が挙げられる。
【0073】
また、本発明に用いられる添加剤としては、セルロースアシレートとの相溶性が高く可塑化効果のあるものが好ましい。例えば特開2005−138375号公報の明細書中の段落番号[0011]〜[034]に記載の低分子化合物も好ましく用いることができる。
【0074】
また、本発明において、厚み方向リタデーション(Rt)を低減する添加剤は、以下の方法によっても見出すことができる。
【0075】
セルロースエステル系樹脂を塩化メチレンに溶解したドープ処方をガラス板上に製膜し、120℃/15minで乾燥して膜厚80μmのセルロースエステル系樹脂フィルムを作成する。このセルロースエステル系樹脂フィルムの厚み方向のリターデーションを測定して、これをRt1とする。
【0076】
つぎに、セルロースエステル系樹脂に、上記ポリマー添加剤を10重量%添加し、塩化メチレンで溶解して、ドープ処方を作成する。このドープ処方を、上記と同様にして、膜厚80μmのセルロースエステル系樹脂フィルムを作成する。このセルロースエステル系樹脂フィルムの厚み方向のリターデーションを測定して、これをRt2とする。
【0077】
そして、上記の2つのセルロースエステル系樹脂フィルムの厚み方向のリターデーションの関係が
Rt2<Rt1
であれば、セルロースエステル系樹脂に添加したポリマー添加剤は、厚み方向リタデーション(Rt)を低減する添加剤であると言える。
【0078】
本発明において、セルロースエステル系樹脂の厚み方向リタデーション(Rt)は、−10nm〜+10nm、好ましくは−5nm〜+5nmである。ここで、セルロースエステル系樹脂の厚み方向リタデーション(Rt)が−10nmより小さい場合、あるいはまた+10nmより大きい場合のいずれの場合にも、視野角が狭くなり、本発明の効果が現れない。
【0079】
また、本発明において、セルロースエステル系樹脂の面内方向リタデーション(Ro)は、0nm〜+5nm、好ましくは0nm〜+2nmである。特に好ましくは0nm程度である。ここで、面内方向リタデーション(Ro)が+5nmより大きい場合のいずれの場合にも、視野角が狭くなり、本発明の効果が現れない。
【0080】
本発明の方法において、セルロースエステルの溶解に用いる溶剤は、単独でも併用でもよいが、良溶剤と貧溶剤を混合して使用することが、生産効率を上げる点で好ましく、良溶剤が多いほど、セルロースエステルの溶解性および微小な不溶解物によるフィルム異物を少なくする点で好ましい。良溶剤と貧溶剤の混合比率の好ましい範囲は、良溶剤が70〜98重量%であり、貧溶剤が30〜2重量%である。
【0081】
ここで、本発明に用いられる良溶剤、貧溶剤とは、使用するセルロースエステルを単独で溶解するものを良溶剤、単独で膨潤するか、または溶解しないものを貧溶剤と定義している。
【0082】
本発明に用いられる良溶剤としては、特に限定されないが、例えばセルローストリアセテートの場合は、メチレンクロライド等の有機ハロゲン化合物やジオキソラン類、セルロースアセテートプロピオネートの場合はメチレンクロライド、アセトン、酢酸メチルなどが挙げられる。また、貧溶剤としては、特に限定されないが、例えば、メタノール、エタノール、i−プロピルアルコール、n−ブタノール、シクロヘキサン、アセトン、シクロヘキサノン等が好ましく用いられる。
【0083】
ところで、近年、メチレンクロライドのような塩素系炭化水素溶剤は、地球環境保護の観点から、その使用が制限される方向にあり、メチレンクロライドのような塩素系炭化水素溶剤の使用を避けたいという要望が高まっている。
【0084】
本発明の方法においては、セルロースエステル系樹脂の溶剤として、非塩素系有機溶剤を用いるのが、好ましい。
【0085】
ここで、非塩素系有機溶剤としては、例えば、アセトン、酢酸メチル(MA)、シクロヘキサノン、ギ酸エチル、1,3−ジオキソラン、2,2,2−トリフルオロエタノール、2,2,3,3−テトラフルオロ−1−プロパノール、1,3−ジフルオロ−2−プロパノール、1,1,1,3,3,3−ヘキサフルオロ−2−メチル−2−プロパノール、1,1,1,3,3,3−ヘキサフルオロ−2−プロパノール、2,2,3,3,3−ペンタフルオロ−1−プロパノール等が挙げられる。これらの溶剤は一種だけ用いてもよいし、二種以上を併用してもよい。
【0086】
非塩素系有機溶剤としては、これらの中でも酢酸メチル、アセトンが最も好ましい。酢酸メチル、アセトンは、溶解性がよく、透明性に優れたフィルムを得ることができる。
【0087】
本発明において、セルロースエステル系樹脂を非塩素系有機溶剤に溶解しセルロースエステル系樹脂溶液を作製する際、セルロースエステル系樹脂に対する非塩素系有機溶剤の配合重量比が2以上5以下である。セルロースエステル系樹脂に対する非塩素系有機溶剤の配合重量比は、2.5以上4.5以下であることが好ましく、3以上4以下であることが望ましい。
【0088】
本発明において、セルロースエステル系樹脂の溶液には、溶解性の向上、粘度調整、乾燥速度の調整、溶液を流延した際のゲル化の促進等の目的で、炭素数が1〜6の低級アルコールを含有させてもよい。これら低級アルコールとしては、例えば、例えば、メタノール、エタノール、1−プロパノール、イソプロピルアルコール、1−ブタノール、イソブチルアルコール、2−ブタノール、t−ブチルアルコール、シクロヘキサノールなどが挙げられる。中でもメタノール、エタノール、1−ブタノールが好ましい。これら低級アルコールは、全有機溶剤に対して2重量%以上、20重量%以下含有させるのが好ましい。炭素数が1から6の低級アルコールを含有させたセルロースエステル溶液は、流延キャステイングの際、残溶剤を多く含んだ状態でも膜の強度が強く、流延キャステイングに用いる支持体であるベルトやドラム上から剥ぎ取るのが容易となる。
【0089】
本発明では、湿熱下での寸法安定性向上のために、いわゆる可塑剤を配合することが好ましい。可塑剤に湿熱下での寸法安定性改良効果があることは、これまで知られていなかった。可塑剤としては、従来公知のセルロースエステル系樹脂用の可塑剤が好ましく使用できる。特に相溶性に優れたものが好ましく、例えばリン酸エステルやカルボン酸エステルが好ましい。リン酸エステルとしては、例えばトリフェニルホスフェイト、トリクレジルホスフェート、フェニルジフェニルホスフェート等を挙げることができる。カルボン酸エステルとしては、フタル酸エステル及びクエン酸エステル等、フタル酸エステルとしては、例えばジメチルフタレート、ジエチルフタレート、ジオクチルフタレート及びジエチルヘキシルフタレート等、またクエン酸エステルとしてはクエン酸アセチルトリエチル及びクエン酸アセチルトリブチルを挙げることができる。またその他、オレイン酸ブチル、リシノール酸メチルアセチル、セバチン酸ジブチル、トリアセチン、等も挙げられる。アルキルフタリルアルキルグリコレートもこの目的で好ましく用いられる。アルキルフタリルアルキルグリコレートのアルキルは炭素原子数1〜8のアルキル基である。アルキルフタリルアルキルグリコレートとしてはメチルフタリルメチルグリコレート、エチルフタリルエチルグリコレート、プロピルフタリルプロピルグリコレート、ブチルフタリルブチルグリコレート、オクチルフタリルオクチルグリコレート、メチルフタリルエチルグリコレート、エチルフタリルメチルグリコレート、エチルフタリルプロピルグリコレート、プロピルフタリルエチルグリコレート、メチルフタリルプロピルグリコレート、メチルフタリルブチルグリコレート、エチルフタリルブチルグリコレート、ブチルフタリルメチルグリコレート、ブチルフタリルエチルグリコレート、プロピルフタリルブチルグリコレート、ブチルフタリルプロピルグリコレート、メチルフタリルオクチルグリコレート、エチルフタリルオクチルグリコレート、オクチルフタリルメチルグリコレート、オクチルフタリルエチルグリコレート等を挙げることができ、メチルフタリルメチルグリコレート、エチルフタリルエチルグリコレート、プロピルフタリルプロピルグリコレート、ブチルフタリルブチルグリコレート、オクチルフタリルオクチルグリコレートが好ましく、特にエチルフタリルエチルグリコレートが好ましく用いられる。分子量の大きい可塑剤は、押し出し成形の際の揮発が抑制でき好ましい。これらの例としては、ポリエチレンアジペート、ポリブチレンアジペート、ポリエチレンサクシネート、ポリブチレンサクシネートなどのグリコールと二塩基酸とからなる脂肪族ポリエステル類、ポリ乳酸、ポリグリコール酸などのオキシカルボン酸からなる脂肪族ポリエステル類、ポリカプロラクトン、ポリプロピオラクトン、ポリバレロラクトンなどのラクトンからなる脂肪族ポリエステル類、ポリビニルピロリドンなどのビニルポリマー類などが挙げられる。上記可塑剤は、これらを単独もしくは併用して使用することができる。
【0090】
上述した可塑剤の含有量は、セルロースエステル系樹脂に対して1〜30重量%含有させることが好ましい。可塑剤をこの範囲含有させることで、セルロースエステル系樹脂フィルムの湿熱下での寸法安定性を向上することができる。
【0091】
本発明において、使用し得る紫外線吸収剤としては、例えば、オキシベンゾフェノン系化合物、ベンゾトリアゾール系化合物、サリチル酸エステル系化合物、ベンゾフェノン系化合物、シアノアクリレート系化合物、ニッケル錯塩系化合物等を挙げることができるが、着色の少ないベンゾトリアゾール系化合物が好ましい。また、特開平10−182621号公報、特開平8−337574号公報記載の紫外線吸収剤、特開平6−148430号公報記載の高分子紫外線吸収剤も好ましく用いられる。紫外線吸収剤としては、偏光子や液晶の劣化防止の観点から、波長370nm以下の紫外線の吸収能に優れており、かつ、液晶表示性の観点から、波長400nm以上の可視光の吸収が少ないものが好ましい。
【0092】
本発明に有用な紫外線吸収剤の具体例として、2−(2′−ヒドロキシ−5′−メチルフェニル)ベンゾトリアゾール、2−(2′−ヒドロキシ−3′,5′−ジ−tert−ブチルフェニル)ベンゾトリアゾール、2−(2′−ヒドロキシ−3′−tert−ブチル−5′−メチルフェニル)ベンゾトリアゾール、2−(2′−ヒドロキシ−3′,5′−ジ−tert−ブチルフェニル)−5−クロロベンゾトリアゾール、2−(2′−ヒドロキシ−3′−(3″,4″,5″,6″−テトラヒドロフタルイミドメチル)−5′−メチルフェニル)ベンゾトリアゾール、2,2−メチレンビス(4−(1,1,3,3−テトラメチルブチル)−6−(2H−ベンゾトリアゾール−2−イル)フェノール)、2−(2′−ヒドロキシ−3′−tert−ブチル−5′−メチルフェニル)−5−クロロベンゾトリアゾール、2−(2H−ベンゾトリアゾール−2−イル)−6−(直鎖及び側鎖ドデシル)−4−メチルフェノール、オクチル−3−〔3−tert−ブチル−4−ヒドロキシ−5−(クロロ−2H−ベンゾトリアゾール−2−イル)フェニル〕プロピオネートと2−エチルヘキシル−3−〔3−tert−ブチル−4−ヒドロキシ−5−(5−クロロ−2H−ベンゾトリアゾール−2−イル)フェニル〕プロピオネートの混合物等を挙げることができるが、これらに限定されない。また、市販品として、チヌビン(TINUVIN)109、チヌビン(TINUVIN)171、チヌビン(TINUVIN)326(何れもチバ・スペシャリティ・ケミカルズ社製)を好ましく使用できる。
【0093】
ベンゾフェノン系化合物の具体例として、2,4−ジヒドロキシベンゾフェノン、2,2′−ジヒドロキシ−4−メトキシベンゾフェノン、2−ヒドロキシ−4−メトキシ−5−スルホベンゾフェノン、ビス(2−メトキシ−4−ヒドロキシ−5−ベンゾイルフェニルメタン)等を挙げることができるが、これらに限定されない。
【0094】
これらの紫外線吸収剤の配合量は、セルロースエステル系樹脂に対して、0.01〜10重量%の範囲が好ましく、さらに0.1〜5重量%が好ましい。使用量が少なすぎると、紫外線吸収効果が不十分の場合があり、多すぎると、フィルムの透明性が劣化する場合がある。紫外線吸収剤は熱安定性の高いものが好ましい。
【0095】
セルロースエステル系樹脂のアセチル基の置換度が低いと、耐熱性が低下する場合がある。この場合、酸化防止剤を配合することが有効である。
【0096】
酸化防止剤としては、ヒンダードフェノール系の化合物が好ましく用いられ、2,6−ジ−t−ブチル−p−クレゾール、ペンタエリスリチル−テトラキス〔3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート〕、トリエチレングリコール−ビス〔3−(3−t−ブチル−5−メチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート〕、1,6−ヘキサンジオール−ビス〔3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート〕、2,4−ビス−(n−オクチルチオ)−6−(4−ヒドロキシ−3,5−ジ−t−ブチルアニリノ)−1,3,5−トリアジン、2,2−チオ−ジエチレンビス〔3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート〕、オクタデシル−3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート、N,N′−ヘキサメチレンビス(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシ−ヒドロシンナマミド)、1,3,5−トリメチル−2,4,6−トリス(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシベンジル)ベンゼン、トリス−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシベンジル)−イソシアヌレイト等が挙げられる。特に2,6−ジ−t−ブチル−p−クレゾール、ペンタエリスリチル−テトラキス〔3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート〕、トリエチレングリコール−ビス〔3−(3−t−ブチル−5−メチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート〕が好ましい。また例えば、N,N′−ビス〔3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオニル〕ヒドラジン等のヒドラジン系の金属不活性剤やトリス(2,4−ジ−t−ブチルフェニル)フォスファイト等のリン系加工安定剤を併用してもよい。
【0097】
本発明におけるセルロース誘導体には、滑り性を付与するために、マット剤等の微粒子を添加するのが好ましい。微粒子としては、無機化合物の微粒子または有機化合物の微粒子が挙げられる。
【0098】
無機化合物の微粒子の例としては、二酸化ケイ素、二酸化チタン、酸化アルミニウム、酸化ジルコニウム、酸化錫等の微粒子が挙げられる。この中では、ケイ素原子を含有する化合物の微粒子であることが好ましく、特に二酸化ケイ素微粒子が好ましい。二酸化ケイ素微粒子としては、例えばアエロジル株式会社製のAEROSIL 200、200V、300、R972、R972V、R974、R202、R812,R805、OX50、TT600などが挙げられる。
【0099】
有機化合物の微粒子の例としては、アクリル樹脂、シリコーン樹脂、フッ素化合物樹脂、ウレタン樹脂等の微粒子が挙げられる。
【0100】
微粒子の1次粒径は、特に限定されないが、最終的にフィルム中での平均粒径は、0.05〜5.0μm程度が好ましい。さらに好ましくは、0.1〜1.0μmである。
【0101】
微粒子の平均粒径は、セルロースエステル系樹脂フィルムを電子顕微鏡や光学顕微鏡で観察した際に、フィルムの観察場所における、粒子の長軸方向の長さの平均値を指す。フィルム中で観察される粒子であれば、1次粒子であっても、1次粒子が凝集した2次粒子であってもよいが、通常観察される多くは2次粒子である。
【0102】
測定方法の一例としては、1つのフィルムにつき、ランダムに10箇所の垂直断面写真を撮影し、各断面写真について、長軸長さが、0.05〜5μmの範囲にある100μm中の粒子個数をカウントする。このときカウントした粒子の長軸長さの平均値を求め、10箇所の平均値を平均した値を平均粒径とする。
【0103】
微粒子の場合は、1次粒径、溶媒に分散した後の粒径、フィルムに添加されたの粒径が変化する場合が多く、重要なのは、最終的にフィルム中で微粒子がセルロースエステル系樹脂と複合し凝集して形成される粒径をコントロールすることである。
【0104】
上記微粒子の平均粒径が、5μmを超えた場合は、ヘイズの劣化等が見られたり、異物として巻状態での故障を発生する原因にもなる。また、微粒子の平均粒径が、0.05μm未満の場合は、フィルムに滑り性を付与するのが難しくなる。
【0105】
上記の微粒子は、セルロースエステル系樹脂に対して、0.04〜0.5重量%添加して使用される。好ましくは、0.05〜0.3重量%、さらに好ましくは0.05〜0.25重量%添加して使用される。微粒子の添加量が0.04重量%以下では、フィルム表面粗さが平滑になりすぎて、摩擦係数の上昇によりブロッキングを発生する。微粒子の添加量が0.5重量%を超えると、フィルム表面の摩擦係数が下がりすぎて、巻き取り時に巻きズレが発生したり、フィルムの透明度が低く、ヘイズが高くなるため、液晶表示装置用フィルムとしての価値を持たなくなるので、上記の範囲が必須である。
【0106】
微粒子の分散は、微粒子と溶剤を混合した組成物を高圧分散装置で処理することが好ましい。本発明で用いる高圧分散装置は、微粒子と溶媒を混合した組成物を、細管中に高速通過させることで、高剪断や高圧状態など特殊な条件を作りだす装置である。
【0107】
高圧分散装置で処理することにより、例えば、管径1〜2000μmの細管中で装置内部の最大圧力条件が980N/cm以上であることが好ましい。さらに好ましくは、装置内部の最大圧力条件が1960N/cm以上である。またその際、最高到達速度が100m/sec以上に達するもの、伝熱速度が100kcal/hr以上に達するものが、好ましい。
【0108】
上記のような高圧分散装置としては、例えばMicrofluidics Corporation社製の超高圧ホモジナイザー(商品名マイクロフルイダイザー)あるいはナノマイザー社製ナノマイザーが挙げられ、他にもマントンゴーリン型高圧分散装置、例えばイズミフードマシナリ製ホモゲナイザーなどが挙げられる。
【0109】
本発明による光学フィルムの製造方法は、溶液流延製膜法により金属製回転ドラムまたは金属製回転エンドレスベルト(支持体)上にドープ(樹脂溶液)を流延し、剥離後、連続する樹脂フィルム(ウェブ)の左右両端を把持して幅手方向に張力を付与しながら樹脂フィルムを搬送して延伸を行う延伸装置を用いて延伸し、延伸フィルムを巻き取るものである。
【0110】
本発明の光学フィルムの製造方法において、ドープ(樹脂溶液)が、セルロースエステル系樹脂と厚み方向リタデーション(Rt)を低減する添加剤とを含有するものであり、厚み方向リタデーション(Rt)を低減する添加剤が、負の固有複屈折率を有する添加剤であることが好ましい。
【0111】
また、本発明の光学フィルムの製造方法においては、セルロースエステル系樹脂が、セルロースアセテートであることが好ましい。
【0112】
本発明の光学フィルムの製造方法を溶液流延製膜法にて実施する場合、図示は省略したが、セルロースエステルフィルムの原料溶液であるドープを、流延ダイによって無限に移送する無端の金属ベルトあるいは回転する金属ドラムの流延用支持体上に流延する。流延によって支持体上に形成されたドープ膜すなわちウェブは支持体上を約一周したところで、剥離ロールによって剥離する。剥離されたウェブ(フィルム)を、ついでテンターよりなる延伸装置に導入する。
【0113】
流延工程は、例えばドープを加圧型定量ギヤポンプを通して加圧ダイに送液し、流延位置において、支持体上に加圧ダイからドープを流延する工程である。流延用支持体の表面は鏡面となっている。
【0114】
その他の流延方法としては、流延されたドープ膜をブレードで膜厚を調節するドクターブレード法、あるいは逆回転するロールで調節するリバースロールコーターによる方法等があるが、口金部分のスリット形状を調製でき、膜厚を均一にしやすい加圧ダイが好ましい。加圧ダイには、コートハンガーダイやTダイ等があるが、いずれも好ましく用いられる。
【0115】
また、本発明によるセルロースエステル系樹脂フィルムの製造方法において、溶液流延製膜方法でセルロースエステル系樹脂フィルムを製膜するにあたり、フィルムの樹脂材料としてセルロースアシレート樹脂を使用するのが、好ましい。
【0116】
膜厚の調節には、所望の厚さになるように、ドープ濃度、ポンプの送液量、ダイの口金のスリット間隙、ダイの押し出し圧力、流延用支持体の速度等をコントロールするのがよい。
【0117】
また、膜厚を均一にする手段として、膜厚検出手段を用いて、プログラムされたフィードバック情報を上記各装置にフィードバックさせて調節するのが、好ましい。
【0118】
本発明の光学フィルムの製造方法においては、ドープ組成物が、非塩素系有機溶剤と、セルロースエステル系樹脂と、リタデーション低減添加剤とを混合し、得られた混合物を−100〜−10℃で冷却処理し、冷却処理後の混合物を0〜120℃で処理して作製されたものであり、該ドープ組成物を支持体上に流延し、剥離ローラにより支持体から剥離した連続する樹脂フィルム(ウェブ)を処理することが好ましい。
【0119】
ここで、混合物の冷却温度は、溶媒の凝固点以上の温度であればよく、溶解性の点と扱い易い温度ということから−100〜−10℃の温度範囲が好ましい。この冷却混合物を0〜120℃の温度に加温すると、セルロースエステル系樹脂が溶媒中に溶解して、均一な溶液が得られる。なお、溶解を速めるために、冷却、加温の操作を繰り返してもよい。溶解が十分であるかどうかは、目視により溶液の概観を観察することで判断することができる。冷却溶解方法においては、冷却時の結露による水分の混入を避けるため、密閉容器を用いることが好ましい。また、冷却操作において、冷却時に加圧し、加温時に減圧すると、さらに溶解時間を短縮することができる。加圧及び減圧を実施するためには、耐圧性容器を用いることが好ましい。
【0120】
本発明の光学フィルムの製造方法においては、ドープ組成物が、セルロースエステル系樹脂と、厚み方向リタデーション(Rt)を低減する添加剤と、有機溶媒とを含有するものであり、ドープ組成物を、表面温度が−50℃以上−10℃以下の支持体上に流延し、自己支持性を有するゲル膜を形成した後、剥離ローラにより支持体から剥離した連続する樹脂フィルム(ウェブ)を処理することが好ましい。
【0121】
この場合、例えば回転ドラム及びその回転軸の内部に冷却用媒体(冷媒)の流路を設けるのが好ましく、その流路に不凍性熱媒体である冷媒が供給されることにより、回転ドラム及びその回転軸が冷却される。なお、本発明において回転ドラムの表面温度が−10℃以下とすることが好ましく、より好ましくは−30℃以下、最も好ましくは−50℃まで冷却することである。
【0122】
ここで、冷媒としては、例えばグリコール系冷媒,フッ素系冷媒,アルコール系冷媒などが用いられる。
【0123】
溶媒蒸発工程では、ウェブ(ドープ膜)を流延用支持体上で加熱し溶媒を蒸発させる工程である。溶媒を蒸発させるには、ウェブ側から風を吹かせる方法及び/または支持体の裏面から液体により伝熱させる方法、輻射熱により表裏から伝熱する方法等があるが、裏面液体伝熱の方法が乾燥効率が好ましい。またそれらを組み合わせる方法も好ましい。流延後の支持体上のウェブを温度20〜100℃の雰囲気下、支持体上で乾燥させることが好ましい。温度20〜100℃の雰囲気下に維持するには、この温度の温風をウェブ上面に当てるか、赤外線等の手段により加熱することが好ましい。
【0124】
剥離工程では、支持体上で溶媒が蒸発したウェブを、剥離位置で支持体から剥離する工程である。剥離されたウェブは次工程に送られる。剥離する時点でのウェブの残留溶媒量(下記式)があまり大き過ぎると、剥離し難かったり、逆に支持体上で充分に乾燥させてから剥離すると、途中でウェブの一部が剥がれたりする。
【0125】
支持体上の剥離位置における温度は、好ましくは10〜40℃であり、さらに好ましくは11〜30℃である。剥離位置におけるウェブの残留溶媒量は、60〜125重量%が好ましい。
【0126】
ここで、残留溶媒量は、下記の式で表わせる。
【0127】
残留溶媒量(重量%)={(M−N)/N}×100
式中、Mはウェブの任意時点での重量、Nは重量Mのものを110℃で3時間乾燥させたときの重量である。
【0128】
上記のように剥離時の残留溶媒量を調整するには、流延後の流延用支持体の表面温度を制御し、ウェブからの有機溶媒の蒸発を効率的に行なえるように、流延用支持体上の剥離位置における温度を上記の温度範囲に設定することが、好ましい。支持体温度を制御するには、伝熱効率のよい伝熱方法を使用するのがよく、例えば、液体による裏面伝熱方法が、好ましい。
【0129】
ウェブ(フィルム)の乾燥工程では、一般に、剥離後のウェブの両端部をピン(針)でさすことにより、ピンテンターで坦持して搬送しながら乾燥させるピンテンター方式、および剥離後のウェブの両端部をクリップで把持することにより坦持して搬送しながら乾燥させるクリップテンター方式などが知られている。
【0130】
テンター延伸装置は、例えばハウジングの左右両側部に、前後スプロケットに巻き掛けられた無端チェンよりなる左右一対の回転駆動装置(輪状のチェーン)が設けられ、これらの回転駆動装置に多数のピンまたはクリップが1列状態に具備されている。
【0131】
ここで、ピンまたはクリップは、多数のものがおのおの連結されて、最終的に輪状のチェーンになり、それが案内レール上を(乗り物のモノレールのように)走行するものである。そして、これらのチェーンは一部に圧力をかけて弛まないように「張って」おり、レールはチェーンの長さにならって変化するような構造になっている。
【0132】
このチェーンに圧力をかけて張る設備をテンショナーと称し、左右でチェーンの張り状態を変えて、輪状チェーンの全体の長さを変更するものである。
【0133】
そして、テンターのピンまたはクリップによってフィルムの左右両側縁部が坦持され、この状態でテンターの入口へと導入される。テンター内において、フィルムは、これの左右両側縁部がテンター左右両側のピンまたはクリップにより坦持されて延伸させられ、一緒に搬送されると同時に、乾燥される。
【0134】
本発明の光学フィルムの製造方法の特徴は、上記の光学フィルムの製造方法において、ウェブの残留溶媒量が80〜120重量%で第1延伸工程を開始し、ウェブの残留溶媒量が10〜60重量%で第2延伸工程を開始することにより、フィルムの面内方向リタデーション(Ro)値が0以上5以下であり、かつフィルムの厚み方向リタデーション(Rt)値が−10以上10以下である光学フィルムを製造することにある。
【0135】
なおここで、本発明の光学フィルムの製造方法において、ウェブの第1延伸工程をピンテンター方式で実施し、ウェブの第2延伸工程をクリップテンター方式で実施するのが、好ましい。
【0136】
本発明において、フィルムのリタデーション値は自動複屈折率計KOBRA−21ADH(王子計測機器株式会社製)を用いて、590nmの波長において、三次元屈折率測定を行ない、得られた屈折率Nx、Ny、Nzから算出することができる。
【0137】
Ro=(Nx−Ny)×d
Rt=((Nx+Ny)/2−Nz)×d
(式中、Nx、Ny、Nzはそれぞれ屈折率楕円体の主軸x、y、z方向の屈折率を表わし、かつ、Nx、Nyはフィルム面内方向の屈折率を、Nzはフィルムの厚み方向の屈折率を表わす。また、Nx≧Nyであり、dはフィルムの厚み(nm)を表わす。)
本発明において、セルロースエステル系樹脂フィルムは、遅相軸方向と製膜方向とのなす角度θ(ラジアン)と面内方向のリタデーション値(Ro)が下記の関係にあり、特に偏光板用保護フィルム等のセルロースエステル系樹脂フィルムとして好ましく用いられる。
【0138】
P≦1−sin(2θ)sin(πRo/λ)
ここで、Pは0.9999以下である。
【0139】
θはフィルム面内の遅相軸方向と製膜方向(フィルムの直尺方向)とのなす角度(°ラジアン)、λは上記Nx、Ny、Nz、θを求める三次元屈折率測定の際の光の波長590nm、πは円周率である。
【0140】

また、本発明の光学フィルムの製造方法においては、第1延伸工程が、ウェブを幅手方向に1.03倍から1.3倍延伸する工程であり、第2延伸工程が、ウェブを幅手方向に1.03倍から1.1倍延伸する工程であることが好ましい。
【0141】
本発明の光学フィルムの製造方法においては、第1延伸工程の温度が50℃以上100℃以下であり、第2延伸工程の温度が120℃以上160℃以下であることが好ましい。
【0142】
本発明の光学フィルムの製造方法においては、第2延伸工程の後の乾燥工程開始時の残留溶媒量が2〜8重量%であることが好ましい。
【0143】
本発明の光学フィルムの製造方法においては、第2延伸工程の後の乾燥工程における搬送張力が、30N/m以上120N/m以下であることが好ましい。
【0144】
本発明の光学フィルムの製造方法においては、第2延伸工程の後の乾燥工程におけるフィルム温度が、100℃以上160℃以下であることが好ましい。
【0145】
延伸後、フィルムは乾燥装置内に送り込まれ、乾燥装置のハウジング内に千鳥状に配置されたすべての搬送ロールを経由して搬送され、その搬送中に乾燥風吹き込み口から吹き込まれる乾燥風により乾燥させられることにより、セルロースエステルフィルムが得られ、このフィルムが巻取ロールに巻き取られる。
【0146】
なお、フィルムの搬送速度は、通常、2〜200m/分、好ましくは10〜100m/分である。
【0147】
本発明による位相差フィルムは、上記の本発明による方法で製造した光学フィルムよりなるものであるから、フィルムの略全域にわたって配向角が幅手方向(TD方向)に均一でかつ優れた位相差補償性能と視野角拡大機能を有している。
【0148】
また、本発明による光学フィルムは、上記の本発明による方法で製造したものでありかつ樹脂フィルムがセルロースエステルフィルムよりなるものであるから、やはりフィルムの略全域にわたって配向角が幅手方向(TD方向)に均一でかつ優れた位相差補償性能と視野角拡大機能を有している。
【0149】
フィルム乾燥工程では、一般にロール懸垂方式か、上記のようなピンテンター方式でフィルムを搬送しながら乾燥する方式が採られる。フィルムを乾燥させる手段は特に制限なく、一般的に熱風、赤外線、加熱ロール、マイクロ波等で行なう。簡便さの点で熱風で行なうのが好ましい。あまり急激な乾燥はでき上がりのフィルムの平面性を損ねやすい。高温による乾燥は残留溶媒が8重量%以下くらいから行なうのがよい。全体を通し、乾燥温度は概ね40〜250℃で行なわれる。特に40〜160℃で乾燥させることが好ましい。
【0150】
乾燥工程における搬送張力も可能な範囲で低めに維持することが、リタデーション値(Ro)が低く維持できるために好ましく、190N/m以下であることが好ましい。さらに170N/m以下であることが好ましく、さらに140N/m以下であることが好ましく、100〜130N/mであることが特に好ましい。特に、フィルム中の残留溶媒量が少なくとも5重量%以下となるまで、上記搬送張力以下に維持することが効果的である。
【0151】
溶液流延製膜方法を通しての流延直後から乾燥までの工程において、乾燥装置内の雰囲気を、空気とするのもよいが、窒素ガスや炭酸ガス、アルゴン等の不活性ガス雰囲気で行なってもよい。
【0152】
ただ、乾燥雰囲気中の蒸発溶媒の爆発限界の危険性は常に考慮されなければならないことは勿論のことである。
【0153】
巻き取り工程では、ウェブ中の残留溶媒量が2重量%以下となってからセルロースエステル系樹脂フィルムとして巻き取る工程であり、残留溶媒量を0.4重量%以下にすることにより寸法安定性の良好なフィルムを得ることができる。
【0154】
巻き取り方法は、一般に使用されているものを用いればよく、定トルク法、定テンション法、テーパーテンション法、内部応力一定のプログラムテンションコントロール法等があり、それらを使いわければよい。
【0155】
つぎに、本発明による偏光板は、偏光膜およびその両側に配置された透明保護層からなる偏光板であって、両透明保護層のうちの少なくとも1つに、上記の本発明の光学フィルムが用いられていることが好ましい。
【0156】
本発明の光学フィルムからなる偏光板用保護フィルムを用いることにより、薄膜化とともに、耐久性及び寸法安定性、光学的等方性に優れた偏光板を提供することができる。
【0157】
ここで、偏光フィルムは、従来から使用されている、例えば、ポリビニルアルコールフィルムの如きの延伸配向可能なフィルムを、沃素のような二色性染料で処理して縦延伸したものである。偏光フィルム自身では、十分な強度、耐久性がないので、一般的にはその両面に保護フィルムとしての異方性のないセルローストリアセテートフィルムを接着して偏光板としている。
【0158】
上記において、偏光板は、上記偏光板に、本発明の位相差フィルムを貼り合わせて作製してもよいし、また本発明の位相差フィルムを保護フィルムも兼ねて、直接偏光フィルムと貼り合わせて作製してもよい。貼り合わせる方法は、特に限定はないが、水溶性ポリマーの水溶液からなる接着剤により行なうことができる。この水溶性ポリマー接着剤は完全鹸化型のポリビニルアルコール水溶液が好ましく用いられる。さらに、若干前述したが、長手方向に延伸し、二色性染料処理した長尺の偏光フィルムと長尺の本発明の位相差フィルムとを貼り合わせることによって長尺の偏光板を得ることができる。偏光板はその片面または両面に感圧性接着剤層(例えば、アクリル系感圧性接着剤層など)を介して剥離性シートを積層した貼着型のもの(剥離性シートを剥すことにより、液晶セルなどに容易に貼着することができる)としてもよい。
【0159】
本発明による液晶表示装置は、棒状の液晶分子が一対のガラス基板に挟持された液晶セルと、液晶セルを挾むように配置された偏光膜及びその両側に配置された透明保護層からなる2枚の偏光板を持つ液晶表示装置であって、2枚の偏光板のうちの1枚の偏光板が、フィルムの面内方向リタデーション(Ro)値が150以上300以下でありかつフィルムの厚み方向リタデーション(Rt)値が−20以上20以下である光学フィルムを具備するものであり、もう1枚の偏光板が、請求項11に記載の光学フィルムを具備するものである。
【0160】
本発明の液晶表示装置によれば、広範囲にわたり高コントラスト比を有する見やすい表示が実現可能であり、特にIPSモードで動作する液晶表示装置を提供するものであり、本発明の液晶表示装置は、長期間に亘って安定した表示性能を維持することができるものである。
【実施例】
【0161】
以下、実施例により本発明をさらに具体的に説明するが、本発明は、これらに限定されるものではない。
【0162】
実施例1
本発明の方法により、溶液流延製膜法によるセルローストリアセテート樹脂よりなる光学フィルムを製造した。
【0163】
(ドープの調製)
セルロースアセテートのドープを、以下のように調製した。
【0164】
セルローストリアセテート 100重量部
メチレンクロライド 300重量部
エチルフタリルエチルグリコート 2重量部
アクリル系樹脂よりなるリタデーション低下添加剤 10重量部
エタノール 40重量部
チヌビン326(チバ・スペシャルティ・ケミカルズ社製) 1重量部
AEROSIL 972V(日本アエロジル社製) 0.1重量部
なお、アクリル系樹脂よりなるリタデーション低下添加剤は、つぎのようにして製造したものである。
【0165】
メチルアクリレート 10重量部
2−ヒドロキシエチルアクリレート 1重量部
アゾビスイソブチロニトリル(AIBN) 2重量部
トルエン 30重量部
上記の材料を、順次密閉容器中に投入し、容器内の温度を20℃から80℃まで昇温した後、温度を80℃に保ったままで3時間攪拌を行なって、セルローストリアセテートを完全に溶解した。その後、攪拌を停止し、液温を43℃まで下げた。このドープを濾紙(安積濾紙株式会社製、安積濾紙No.244)を使用して濾過し、ドープを得た。
【0166】
上記のように調製したドープを、30℃に保温した流延ダイを通して、ステンレス鋼製エンドレスベルトよりなる30℃の支持体に流延してウエブ(ドープ膜)を形成し、そして最終的に、ウエブ中の残留溶媒量が110重量%になるまで支持体上で乾燥させた後、剥離ロールによりウエブを支持体から剥離した。
【0167】
ついで、ウエブを、120℃の乾燥風にて乾燥させて、残留溶媒量が100重量%で、第1延伸工程に導入した。第1延伸工程では、ウエブ両端をウエブ把持装置により把持して幅手方向(TD方向)に1.2倍の延伸を行なった。
【0168】
ついで、残留溶媒量が50重量%で、第2延伸工程に導入した。第2延伸工程では、幅手方向(TD方向)に1.05倍の延伸を行なった。
【0169】
さらに、ウエブを、乾燥工程で80N/mにて搬送しつつ、110℃の乾燥風にて乾燥させ、巻き取り機により巻き取り、最終的に膜厚40μmのセルローストリアセテートフィルムを作製した。
【0170】
下記の表1に、第1延伸工程での延伸率(倍)と延伸開始時の残留溶媒量(重量%)、及び第2延伸工程での延伸率(倍)と延伸開始時の残留溶媒量(重量%)を示した。
【0171】
実施例2〜6
上記実施例1の場合と同様に、膜厚40μmのセルローストリアセテートフィルムを製造するが、第1延伸工程での延伸率(倍)と延伸開始時の残留溶媒量(重量%)、及び第2延伸工程での延伸率(倍)と延伸開始時の残留溶媒量(重量%)の条件を、下記の表1に示すように変更して、本発明の方法を実施した。
【0172】
比較例1〜7
つぎに、比較のために、上記実施例1の場合と同様に、膜厚40μmのセルローストリアセテートフィルムを製造するが、下記の表1に示すように、第1延伸工程での延伸率(倍)と延伸開始時の残留溶媒量(重量%)、及び第2延伸工程での延伸率(倍)と延伸開始時の残留溶媒量(重量%)のいずれかを、本発明の範囲外のものとして、セルローストリアセテートフィルムを製造した。
【0173】
こうして、実施例1〜6、及び比較例1〜7で作製したセルローストリアセテートフィルムについて、リタデーションの評価を行なうとともに、フィルムの平面性の評価を、それぞれつぎのようにして行ない、得られた結果を、下記の表1に示した。
【0174】
(リタデーションの評価)
実施例1〜6、及び比較例1〜7で作製したセルローストリアセテートフィルムを200mm角に切り出し、自動複屈折計KOBRA−21−ADH(王子計測機器社製)を用いて温度23℃、湿度55%RHの環境下で、5mmピッチで、波長が590nmにおける屈折率Nx、Ny、Nzを求め、下記の式に従って、フィルム面内方向のリタデーション(Ro)、及び厚み方向のリタデーション(Rt)を算出した。
【0175】
Ro=(Nx+Ny)×d
Rt=((Nx+Ny)/2−Nz)×d
ここで、Nxはフィルム面内における遅送軸方向の屈折率、Nyはフィルム面内における進送軸方向の屈折率、dはフィルムの厚み(nm)をそれぞれ表す。
【0176】
(フィルムの平面性の評価)
フィルムの平面性は、実施例1〜6、及び比較例1〜7で作製したセルローストリアセテートフィルムを目視により観察し、下記の4段階で平面性を評価した。
【0177】
A:フィルムに、ムラは認められなかった
B:フィルムに、わずかなムラが認められる
C:フィルムに、ムラが認められる
D:フィルムに、大きなムラが認められる
得られた結果を、下記の表1にまとめて示した。
【表1】

【0178】
上記表1の結果から明らかなように、本発明の実施例1〜6で作製したセルローストリアセテートフィルムは、いずれもフィルム面内方向のリタデーション(Ro)値、及び厚み方向のリタデーション(Rt)値が低いものであった。また、セルローストリアセテートフィルムの平面性は、良好なものであった。
【0179】
このように、本発明の実施例によるセルローストリアセテートフィルムの製造方法によれば、光学フィルムを製造するにあたり、延伸工程を2つもち、各延伸工程における残留溶媒量を調整することにより、フィルム全幅にわたってムラのないリタデーション値が実質的にゼロである光学フィルムを製造することができて、偏光板用保護フィルムに適した複屈折率の小さいかつ平面性に優れた光学フィルムを得ることができた。
【0180】
これに対し、比較例1〜7では、セルローストリアセテートフィルムの所望のリタデーション値が得られず、フィルムの平面性も劣るものであった。なお、比較例1と比較例2では、第2延伸工程を行なわなかった。また、比較例7では、セルローストリアセテートフィルムの作製ができなかった。
【0181】
実施例7
上記実施例1の場合と同様に、膜厚40μmのセルローストリアセテートフィルムを製造するが、下記の表2に示すように、実施例1に対し、第2延伸工程後の乾燥工程の温度、張力を変更して、セルローストリアセテートフィルムの製造を行なった。
【0182】
比較例8〜10
つぎに、比較のために、上記実施例1の場合と同様に、膜厚40μmのセルローストリアセテートフィルムを製造するが、下記の表2に示すように、実施例1に対し、第2延伸工程後の乾燥工程の温度、張力を、本発明の範囲外であるように、変更して、セルローストリアセテートフィルムの製造を行なった。
【0183】
こうして、実施例1と7、及び比較例8〜10で作製したセルローストリアセテートフィルムについて、上記実施例1の場合と同様に、リタデーションの評価を行なうとともに、フィルムの平面性の評価を行ない、得られた結果を、下記の表2に示した。
【表2】

【0184】
上記表1の結果から明らかなように、本発明の実施例1と7で作製したセルローストリアセテートフィルムは、いずれもフィルム面内方向のリタデーション(Ro)値、及び厚み方向のリタデーション(Rt)値が低いものであった。また、セルローストリアセテートフィルムの平面性は、良好なものであった。
【0185】
これに対し、比較例8〜10では、セルローストリアセテートフィルムの所望のリタデーション値が得られず、フィルムの平面性も劣るものであった。
【0186】
なお、比較例8では、フィルムをウエブで得ることが出来なかった。また比較例9では、均一なセルローストリアセテートフィルムが得られず、フィルムの平面性の評価ができなかった。
【0187】
実施例8
本発明の方法により、溶液流延製膜法によるセルロースアセテート樹脂よりなる光学フィルムを製造した。
【0188】
(ドープの調整)
セルロースアセテートのドープを、以下のように調製した。
【0189】
セルロースアセテート 100重量部
メチレンクロライド 300重量部
メタノール 40重量部
ブタノール 20重量部
エチルフタリルエチルグリコート 2重量部
下記式(1)で示される低分子化合物添加剤 10重量部
チヌビン326(チバ・スペシャルティ・ケミカルズ社製) 1重量部
AEROSIL 972V(日本アエロジル社製) 0.1重量部
【化1】

【0190】
上記の材料を、順次密閉容器中に投入し、容器内の温度を25℃で3時間攪拌を行ない、その後−75℃で3分間冷却した後、昇温し50℃で2時間攪拌して、セルロースアセテートを完全に溶解した。このドープを濾紙(安積濾紙株式会社製、安積濾紙No.244)を使用して濾過し、ドープを得た。このドープを−5℃に設定した直径3mのドラム支持体上に流延した。流延したフィルムは、ウエブ中の残留溶媒量が110重量%で剥離した。
【0191】
続いて、第1延伸工程では、ウェブを残留溶媒量100重量%で、ウエブ両端部をピンテンター方式により担持して搬送しながら幅手方向(TD方向)に1.2倍の延伸を行なった。
【0192】
ついで、ウェブ(フィルム)を第2延伸工程に導入した。第2延伸工程では、残留溶媒量が50重量%で、ウエブ両端部をクリップテンター方式により担持して搬送しながら1.05倍の延伸を行なった。こうして得られたウエブを130℃の乾燥風で100(N/m)の張力で搬送しながら乾燥を行なった。
【0193】
こうして、得られたセルロースアセテートフィルムについて、上記実施例1の場合と同様に、リタデーションの評価を行なうとともに、フィルムの平面性の評価を行なっ面内方向リタデーション(Ro)=0、厚み方向リタデーション(Rt)=−3であった。また、得られたセルロースアセテートフィルムの平面性の評価ランクは、「A」であった。
【0194】
つぎに、この実施例8で作製したセルロースアセテートフィルムを、液晶側に用いて、偏光板1を作製した。一方、面内方向リタデーション(Ro)=250、厚み方向リタデーション(Rt)=5nmの光学フィルムを液晶セル側にもつ偏光板2を作製した。さらに、これらの偏光板1、偏光板2を、IPSモードの液晶の両側に貼り付けて液晶パネルを作製した。
【0195】
そして、この液晶パネルを、パネル正面鉛直方向から45度の角度で、中心に対し360度視点を動かして画像を観察したところ、視点の動きに対して映像の変化が少なかった。
【0196】
これに対し、上記比較例1で得られたセルローストリアセテートフィルムを用いて偏光板1を作製し、この偏光板1を用いて、上記の場合と同様に液晶パネルを作製したところ、得れられた液晶パネルでは、上記視点の動きに対して映像の変化が大きく、一部は映像の反転が見られた。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
溶液流延製膜法により金属製回転ドラムまたは金属製回転エンドレスベルト(以下、支持体という)上にドープ(樹脂溶液)を流延し、剥離後、連続する樹脂フィルム(ウェブ)の左右両端を把持して幅手方向に張力を付与しながら樹脂フィルムを搬送して延伸を行う延伸装置を用いて延伸し、延伸フィルムを巻き取る、光学フィルムの製造方法であって、ウェブの残留溶媒量が80〜120重量%で第1延伸工程を開始し、ウェブの残留溶媒量が10〜60重量%で第2延伸工程を開始することにより、フィルムの面内方向リタデーション(Ro)値が0以上5以下であり、かつフィルムの厚み方向リタデーション(Rt)値が−10以上10以下である光学フィルムを製造することを特徴とする、光学フィルムの製造方法。
【請求項2】
ドープ(樹脂溶液)が、セルロースエステル系樹脂と厚み方向リタデーション(Rt)を低減する添加剤とを含有するものであり、厚み方向リタデーション(Rt)を低減する添加剤が、負の固有複屈折率を有する添加剤であることを特徴とする、請求項1に記載の光学フィルムの製造方法。
【請求項3】
第1延伸工程が、ウェブを幅手方向に1.03倍から1.3倍延伸する工程であり、第2延伸工程が、ウェブを幅手方向に1.03倍から1.1倍延伸する工程であることを特徴とする、請求項1または2に記載の光学フィルムの製造方法。
【請求項4】
第1延伸工程の温度が50℃以上100℃以下であり、第2延伸工程の温度が120℃以上160℃以下であることを特徴とする、請求項1〜3のうちのいずれか一項に記載の光学フィルムの製造方法。
【請求項5】
第2延伸工程の後の乾燥工程開始時の残留溶媒量が2〜8重量%であることを特徴とする、請求項1〜4のうちのいずれか一項に記載の光学フィルムの製造方法。
【請求項6】
第2延伸工程の後の乾燥工程における搬送張力が、30N/m以上120N/m以下であることを特徴とする請求項1〜5のうちのいずれか一項に記載の光学フィルムの製造方法。
【請求項7】
第2延伸工程の後の乾燥工程におけるフィルム温度が、100℃以上160℃以下であることを特徴とする、請求項1〜6のうちのいずれか一項に記載の光学フィルム製造方法。
【請求項8】
セルロースエステル系樹脂が、セルロースアセテートであることを特徴とする、請求項1〜7のうちのいずれか一項に記載の光学フィルム製造方法。
【請求項9】
ドープ組成物が、セルロースエステル系樹脂と、厚み方向リタデーション(Rt)を低減する添加剤と、有機溶媒とを含有するものであり、ドープ組成物を、表面温度が−50℃以上−10℃以下の支持体上に流延し、自己支持性を有するゲル膜を形成した後、剥離ローラにより支持体から剥離した連続する樹脂フィルム(ウェブ)を処理することを特徴とする、請求項1〜8のうちのいずれか一項に記載の光学フィルム製造方法。
【請求項10】
ドープ組成物が、非塩素系有機溶剤と、セルロースエステル系樹脂と、リタデーション低減添加剤とを混合し、得られた混合物を−100〜−10℃で冷却処理し、冷却処理後の混合物を0〜120℃で処理して作製されたものであり、該ドープ組成物を支持体上に流延し、剥離ローラにより支持体から剥離した連続する樹脂フィルム(ウェブ)を処理することを特徴とする、請求項1〜9のうちのいずれか一項に記載の光学フィルム製造方法。
【請求項11】
請求項1〜10のうちのいずれか一項に記載の光学フィルムの製造方法で製造されたことを特徴とする、光学フィルム。
【請求項12】
偏光膜およびその両側に配置された透明保護層からなる偏光板であって、両透明保護層のうちの少なくとも1つに、請求項11に記載の光学フィルムが用いられていることを特徴とする、偏光板。
【請求項13】
棒状の液晶分子が一対のガラス基板に挟持された液晶セルと、液晶セルを挾むように配置された偏光膜及びその両側に配置された透明保護層からなる2枚の偏光板を持つ液晶表示装置であって、2枚の偏光板のうちの1枚の偏光板が、フィルムの面内方向リタデーション(Ro)値が150以上300以下でありかつフィルムの厚み方向リタデーション(Rt)値が−20以上20以下である光学フィルムを具備するものであり、もう1枚の偏光板が、請求項11に記載の光学フィルムを具備するものであることを特徴とする、液晶表示装置。

【公開番号】特開2007−65184(P2007−65184A)
【公開日】平成19年3月15日(2007.3.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−249699(P2005−249699)
【出願日】平成17年8月30日(2005.8.30)
【出願人】(303000408)コニカミノルタオプト株式会社 (3,255)
【Fターム(参考)】