説明

光学体およびその製造方法、窓材、ならびに光学体の貼り合わせ方法

【課題】光を上空に効率良く戻すことができる光学体を提供する。
【解決手段】光学体は、帯状の形状を有するとともに、光が入射する入射面を有する光学層と、光学層内に形成された、コーナーキューブ形状を有する反射層とを備える。反射層は、入射角(θ、φ)で入射面に入射した光を指向反射し、コーナーキューブの稜線の方向が、帯状の光学層の長手方向と略平行である光学体である。(但し、θ:入射面に対する垂線l1と、入射面に入射する入射光または入射面から出射される反射光とのなす角、φ:コーナーキューブの稜線と、入射光または反射光を入射面に射影した成分とのなす角)

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光学体およびその製造方法、それを備える窓材、ならびに光学体の貼り合わせ方法に関する。詳しくは、入射光を指向反射する光学体に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、高層ビル、住居などの建築用ガラスや車窓ガラスに、太陽光の一部を反射させる機能を付与するケースが増加している。これは地球温暖化防止を目的とした省エネルギー対策のひとつであり、太陽から注がれる光エネルギーが窓から屋内に入り、屋内温度が上昇することによりかかる冷房設備の負荷を軽減することを目的としている。
【0003】
上記機能を付与する技術としては、近赤外領域に高い反射率を有する層を窓ガラスに設ける技術や、赤外光のみならず可視光も同時に遮蔽する層を窓ガラスに設ける技術が提案されている。
【0004】
前者の技術としては、反射層として光学多層膜、金属含有層、透明導電性層などを用いる技術が既に数多く開示されている(例えば特許文献1参照)。また、後者の技術としては、金属の半透過層を製膜したものが知られている(例えば特許文献1〜3参照)。しかしながら、このような反射層や半透過層は平面上の窓ガラスに設けられるため、入射した太陽光を正反射させることしかできない。このため、上空から照射されて正反射された光は、屋外の別な建物や地面に到達し、吸収されて熱に変わり周囲の気温を上昇させる。これにより、このような反射層が窓全体に貼られたビルの周辺では、局所的な温度上昇が起こり、都市部ではヒートアイランドが増長されたり、反射光の照射面のみ芝生が生長しないなどの問題が生じている。
【0005】
また、近年では、高層構造ビルや住居などの外壁材に、太陽光を反射させる機能を付与することも検討されているが、この場合にも上記と同様に、反射機能を付与した建物周囲の温度の上昇を招くこととなる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】国際公開第05/087680号パンフレット
【特許文献2】特開昭57−59748号公報
【特許文献3】特開昭57−59749号公報
【特許文献4】特開2005−343113号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
したがって、本発明の目的は、光を上空に効率良く戻すことができる光学体およびその製造方法、それを備える窓材、ならびに光学体の貼り合わせ方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、従来技術が有する上述の課題を解決すべく、鋭意検討を行った。その結果、反射層をコーナーキューブ形状とし、この反射層が入射角(θ、φ)で入射面に入射した光を指向反射する光学体を発明するに至った。
(但し、θ:入射面に対する垂線l1と、入射面に入射する入射光または入射面から出射される反射光とのなす角、φ:コーナーキューブ形状の稜線と、入射光または反射光を入射面に射影した成分とのなす角)
【0009】
しかし、光学体を窓材に貼り合わせる方向によっては、光の入射角度(θ、φ)がθ>0°のとき、下方反射(φ+90°〜φ+270°)の割合が増加してしまうことがある。すなわち、光学体の貼り合わせの方向によっては、光学体の反射機能を有効に発現させることができない。
【0010】
そこで、本発明者らは、光学体の反射機能を有効に発現可能な方向に、容易に貼り合わせることができる光学体について鋭意検討を重ねた。その結果、光学体を帯状または矩形状の形状とし、その長手方向とコーナーキューブ形状の稜線の方向とを略平行とし、この光学体の長手方向が建築物の高さ方向と略平行となるように光学体を窓材などの被着体に貼り合わせることを見出すに至った。
本発明は以上の検討に基づいて案出されたものである。
【0011】
したがって、第1の発明は、
帯状または矩形状を有するとともに、光が入射する入射面を有する光学層と、
光学層内に形成された、コーナーキューブ形状を有する反射層と
を備え、
反射層は、入射角(θ、φ)で入射面に入射した光を指向反射し、
コーナーキューブ形状の稜線の方向が、帯状または矩形状の光学層の長手方向と略平行である光学体である。
(但し、θ:入射面に対する垂線l1と、入射面に入射する入射光または入射面から出射される反射光とのなす角、φ:コーナーキューブ形状の稜線と、入射光または反射光を入射面に射影した成分とのなす角)
【0012】
第2の発明は、
帯状または矩形状を有するとともに、光が入射する入射面を有する光学層と、
光学層の入射面上に形成された、コーナーキューブ形状を有する反射層と
を備え、
反射層は、入射角(θ、φ)で入射面に入射した光を指向反射し、
コーナーキューブの稜線の方向が、帯状または矩形状の光学層の長手方向と略平行である光学体である。
(但し、θ:入射面に対する垂線l1と、入射面に入射する入射光または入射面から出射される反射光とのなす角、φ:コーナーキューブ形状の稜線と、入射光または反射光を入射面に射影した成分とのなす角)
【0013】
第3の発明は、
矩形状を有する光学体の長手方向と、建築物の高さ方向とが略平行となるように、光学体を建築物の窓材に貼り合わせる工程を備え、
光学体が、
光が入射する入射面を有する光学層と、
光学層内に形成された、コーナーキューブ形状を有する反射層と
を備え、
反射層は、入射角(θ、φ)で入射面に入射した光を指向反射し、
コーナーキューブ形状の稜線の方向が、矩形状の光学層の長手方向と略平行である光学体の貼り合わせ方法である。
(但し、θ:入射面に対する垂線l1と、入射面に入射する入射光または入射面から出射される反射光とのなす角、φ:コーナーキューブ形状の稜線と、入射光または反射光を入射面に射影した成分とのなす角)
【0014】
第4の発明は、
コーナーキューブ形状を有する複数の構造体が形成された凹凸面を有する第1の光学層を形成する工程と、
第1の光学層の凹凸面上に反射層を形成する工程と、
反射層上に第2の光学層を形成する工程と
を備え、
第1の光学層、および第2の光学層は、帯状または矩形状を有するとともに、光が入射する入射面を有する光学層を形成し、
反射層は、入射角(θ、φ)で入射面に入射した光を指向反射し、
コーナーキューブ形状の稜線の方向が、帯状または矩形状の光学層の長手方向と略平行である光学体の製造方法である。
(但し、θ:入射面に対する垂線l1と、入射面に入射する入射光または入射面から出射される反射光とのなす角、φ:コーナーキューブ形状の稜線と、入射光または反射光を入射面に射影した成分とのなす角)
【0015】
本発明では、入射角(θ、φ)で入射面に入射した光を正反射(−θ、φ+180°)以外の方向に指向反射する。したがって、正反射以外のある特定の方向への反射光強度が正反射光強度より強く、指向性を持たない拡散反射強度よりも十分に強くできる。
【0016】
本発明では、帯状または矩形状の光学体の長手方向と、光学体のコーナーキューブ形状の稜線の方向とが略平行の関係にある。したがって、建築物の高さ方向と、帯状または矩形状の光学体の長手方向とが略平行の関係となるように、帯状または矩形状の光学体を建築物の窓材に貼り合わせるだけで、光学体の反射機能を有効に発現させることができる。
【発明の効果】
【0017】
以上説明したように、本発明によれば、光学体の反射機能を有効に発現可能な方向に、光学体を容易に建築物に貼り合わせることができる。したがって、光を上空に効率良く戻すことができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】図1は、本発明の第1の実施形態に係る指向反射体の概観を示す斜視図である。
【図2】図2Aは、本発明の第1の実施形態に係る指向反射体の一構成例を示す断面図である。図2Bは、本発明の第1の実施形態に係る指向反射体を被着体に貼り合わせた例を示す断面図である。
【図3】図3は、指向反射体1に対して入射する入射光と、指向反射体1により反射された反射光との関係を示す斜視図である。
【図4】図4Aは、第1の光学層の凹凸面の形状の一例を示す平面図である。図4Bは、図4Aに示した第1の光学層のB−B線に沿った断面図である。
【図5】図5は、図4Aに示した第1の光学層の凹凸面の一部を拡大して示す拡大平面図である。
【図6】図6A、図6Bは、指向反射体の機能の一例を説明するための断面図である。
【図7】図7Aは、ロール状原盤の概観を示す斜視図である。図7Bは、図7Aに示した領域Rを拡大して示す拡大平面図である。
【図8】図8は、ロール状原盤を作製するための加工装置の一構成例を示す斜視図である。
【図9】図9Aは、被加工体の概観を示す斜視図である。図9Bは、図9Aに示した被加工体の展開図である。
【図10】図10は、V字状溝の加工方向を示す概略図である。
【図11】図11A〜図11Cは、本発明の第1の実施形態に係る被加工体の加工方法の一例について説明するための工程図である。
【図12】図12は、第1の光学層を成形するための成形装置の一構成例を示す概略図である。
【図13】図13は、本発明の第1の実施形態に係る指向反射体を製造するための製造装置の一構成例を示す概略図である。
【図14】図14A〜図14Cは、本発明の第1の実施形態に係る指向反射体の製造方法の一例について説明するための工程図である。
【図15】図15A〜図15Cは、本発明の第1の実施形態に係る指向反射体の製造方法の一例について説明するための工程図である。
【図16】図16A〜図16Cは、本発明の第1の実施形態に係る指向反射体の製造方法の一例について説明するための工程図である。
【図17】図17A、図17Bは、本発明の第1の実施形態に係る指向反射体の貼り合わせ方法の一例を説明するための略線図である。
【図18】図18A、図18Bは、貼り合わせ方向による指向反射体1の反射機能の相違を説明するための略線図である。
【図19】図19Aは、本発明の第1の実施形態の第1の変形例を示す断面図である。図19Bは、本発明の第1の実施形態の第2の変形例を示す断面図である。
【図20】図20Aは、第1の光学層の凹凸面の形状の一例を示す平面図である。図20Bは、図20Aに示した第1の光学層のB−B線に沿った断面図である。
【図21】図21は、図20Aに示した第1の光学層の凹凸面の一部を拡大して示す拡大平面図である。
【図22】図22Aは、被加工体の概観を示す斜視図である。図22Bは、図22Aに示した被加工体の展開図である。
【図23】図23A、図23Bは、本発明の第2の実施形態に係る指向反射体の貼り合わせ方法の一例を説明するための略線図である。
【図24】図24Aは、本発明の第2の実施形態に係る指向反射体の第1の構成例を示す断面図である。図24Bは、本発明の第2の実施形態に係る指向反射体の第2の構成例を示す断面図である。図24Cは、本発明の第2の実施形態に係る指向反射体の第3の構成例を示す断面図である。
【図25】図25は、本発明の第3の実施形態に係る指向反射体の一構成例を示す断面図である。
【図26】図26は、本発明の第5の実施形態に係る指向反射体の一構成例を示す断面図である。
【図27】図27Aは、本発明の第6の実施形態に係る指向反射体の一構成例を示す断面図である。図27Bは、本発明の第6の実施形態に係る指向反射体を被着体に貼り合わせた例を示す断面図である。
【図28】図28は、本発明の第7の実施形態に係るブラインド装置の一構成例を示す斜視図である。
【図29】図29Aは、スラットの第1の構成例を示す断面図である。図29Bは、スラットの第2の構成例を示す断面図である。図29Cは、スラット群を閉じた状態において外光が入射する入射面側から見たスラットの平面図である。
【図30】図30Aは、本発明の第8の実施形態に係るロールスクリーン装置の一構成例を示す斜視図である。図30Bは、スクリーン302の一構成例を示す断面図である。
【図31】図31Aは、本発明の第9の実施形態に係る建具の一構成例を示す斜視図である。図31Bは、光学体の一構成例を示す断面図である。
【図32】図32は、本発明の第5の実施形態に係る加工装置の一構成例を示す概略図である。
【図33】図33は、試験例1のシミュレーション条件を説明するための略線図である。
【図34】図34は、試験例1のシミュレーションにより求められた上方反射率を示すグラフである。
【図35】図35は、試験例2のシミュレーション条件を説明するための略線図である。
【図36】図36は、試験例2〜4のシミュレーションにより求められた上方反射率を示すグラフである。
【図37】図37は、上方反射率の測定系の一構成例を示す略線図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
本発明の実施形態について図面を参照しながら以下の順序で説明する。
1.第1の実施形態(帯状または矩形状を有する指向反射体の例)
2.第2の実施形態(指向反射体の短手方向とコーナーキューブパターンの稜線方向とをほぼ平行に設定した例)
3.第3の実施形態(指向反射体に光散乱体を備えた例)
4.第4の実施形態(窓材の表面に反射層を直接形成した指向反射体の例)
5.第5の実施形態(指向反射体の露出面上に自己洗浄効果層を備えた例)
6.第6の実施形態(反射層を露出させた例)
7.第7の実施形態(ブラインド装置に指向反射体を適用した例)
8.第8の実施形態(ロールスクリーン装置に指向反射体を適用した例)
9.第9の実施形態(建具に指向反射体を適用した例)
10.第10の実施形態(2つのバイトを用いて溝を形成する例)
【0020】
<1.第1の実施の形態>
[指向反射体の構成]
図1は、本発明の第1の実施形態に係る指向反射体の概観を示す斜視図である。図2Aは、本発明の第1の実施形態に係る指向反射体の一構成例を示す断面図である。図2Bは、本発明の第1の実施形態に係る指向反射体を被着体に貼り合わせた例を示す断面図である。図1に示すように、指向反射体1は、帯状の形状を有し、例えばロール状に巻回されて、いわゆる原反とされる。以下では、帯状の指向反射体1の長手方向(長さ方向)を長手方向DLと称する。
【0021】
図2Aに示すように、この指向反射体1は、帯状の形状を有する光学層2と、この光学層内に形成された、コーナーキューブ形状などを有する反射層3とを備える。光学層2は、凹凸面を有する第1の光学層4と、凹凸面を有する第2の光学層5とを備える。第1の光学層4と第2の光学層5との凹凸面が、例えば、反射層3を介して密着されている。指向反射体1は、太陽光などの光が入射する入射面S1と、この入射面S1より入射した光のうち、指向反射体1を透過した光が出射される出射面S2とを有する。指向反射体1は、内壁部材、外壁部材、窓材、壁材などに適用して好適なものである。また、指向反射体1は、ブラインド装置のスラット(日射遮蔽部材)、およびロールスクリーン装置のスクリーン(日射遮蔽部材)として用いても好適なものである。さらに、指向反射体1は、障子などの建具(内装部材または外装部材)の採光部に設けられる光学体として用いても好適なものである。
【0022】
指向反射体1が、必要に応じて貼り合わせ層6をさらに備えるようにしてもよい。この貼り合わせ層6は、指向反射体1の入射面S1および出射面S2のうち、窓材10に貼り合わされる面に形成される。この貼り合わせ層6を介して、指向反射体1は被着体である窓材10の屋内側または屋外側に貼り合わされる。貼り合わせ層6としては、例えば、接着剤を主成分とする接着層(例えば、UV硬化型樹脂、2液混合型樹脂)、または粘着剤を主成分とする粘着層(例えば、感圧粘着材(PSA:Pressure Sensitive Adhesive))を用いることができる。貼り合わせ層6が粘着層である場合、貼り合わせ層6上に形成された剥離層7をさらに備えることが好ましい。このような構成にすることで、剥離層7を剥離するだけで、図2Bに示すように、貼り合わせ層6を介して窓材10などの被着体に対して指向反射体1を容易に貼り合わせることができるからである。
【0023】
指向反射体1が、指向反射体1と貼り合わせ層6との密着性を向上する観点から、指向反射体1と貼り合わせ層6との間に、プライマー層(図示せず)をさらに備えるようにしてもよい。また、同様に指向反射体1と貼り合わせ層6との密着性を向上する観点から、指向反射体1の貼り合わせ層6が形成される入射面S1または出射面S2に対して、公知の物理的前処理を施すことが好ましい。公知の物理的前処理としては、例えば、プラズマ処理、コロナ処理などが挙げられる。
【0024】
指向反射体1が、窓材10などの被着体に貼り合わされる入射面S1または出射面S2上、またはその面と反射層3との間に、バリア層(図示せず)をさらに備えるようにしてもよい。このようにバリア層を備えることで、入射面S1または出射面S2から反射層3への水分の拡散を低減し、反射層3に含まれる金属などの劣化を抑制することができる。したがって、指向反射体1の耐久性を向上することができる。
【0025】
指向反射体1は、表面に耐擦傷性などを付与する観点から、ハードコート層8をさらに備えるようにしてもよい。このハードコート層8は、指向反射体1の入射面S1および出射面S2のうち、窓材10などの被着体に貼り合わされる面とは反対側の面に形成することが好ましい。指向反射体1の入射面S1に、防汚性などを付与する観点から、撥水性または親水性を有する層をさらに備えてもよい。このような機能を有する層は、例えば、光学層2上に直接備える、またはハードコート層8などの各種機能層上に備えるようにしてもよい。
【0026】
指向反射体1は、指向反射体1を窓材10などの被着体に容易に貼り合わせ可能にする観点からすると、可撓性を有することが好ましい。指向反射体1は、可撓性を有する光学フィルムであることが好ましい。これにより、帯状の指向反射体1をロール状に巻回して原反とすることができ、搬送性や取り扱い性などが向上するからである。ここで、フィルムにはシートが含まれるものとする。なお、指向反射体1の形状は、フィルム状に限定されるものではなく、プレート状、ブロック状などとしてもよい。
【0027】
指向反射体1は、透明性を有している。透明性としては、後述する透過像鮮明度の範囲を有するものであることが好ましい。第1の光学層4と第2の光学層5との屈折率差が、好ましくは0.010以下、より好ましくは0.008以下、さらに好ましくは0.005以下である。屈折率差が0.010を超えると、透過像がぼけて見える傾向がある。0.008を超え0.010以下の範囲であると、外の明るさにも依存するが日常生活には問題がない。0.005を超え0.008以下の範囲であると、光源のように非常に明るい物体のみ回折パターンが気になるが、外の景色を鮮明に見ることができる。0.005以下であれば、回折パターンは殆ど気にならない。第1の光学層4および第2の光学層5のうち、窓材10などと貼り合わせる側となる光学層は、粘着剤を主成分としてもよい。このような構成とすることで、粘着材を主成分とする第1の光学層4、または第2の光学層5により指向反射体1を窓材10などに貼り合わせることができる。なお、このような構成にする場合、粘着剤の屈折率差が上記範囲内であることが好ましい。
【0028】
第1の光学層4と第2の光学層5とは、屈折率などの光学特性が同じであることが好ましい。より具体的には、第1の光学層4と第2の光学層5とが、可視領域において透明性を有する同一材料、例えば同一樹脂材料からなることが好ましい。第1の光学層4と第2の光学層5とを同一材料により構成することで、両者の屈折率が等しくなるので、可視光の透明性を向上することができる。ただし、同一材料を出発源としても、製膜工程における硬化条件などにより最終的に生成する層の屈折率が異なることがあるので、注意が必要である。これに対して、第1の光学層4と第2の光学層5とを異なる材料により構成すると、両者の屈折率が異なるので、反射層3を境界として光が屈折し、透過像がぼやける傾向がある。特に、遠くの電灯など点光源に近い物を観察すると回折パターンが顕著に観察される傾向がある。
【0029】
第1の光学層4と第2の光学層5は、可視領域において透明性を有することが好ましい。ここで、透明性の定義には2種類の意味があり、光の吸収がないことと、光の散乱がないことである。一般的に透明と言った場合に前者だけを指すことがあるが、第1の実施形態に係る指向反射体1では両者を備えることが好ましい。現在利用されている再帰反射体は、道路標識や夜間作業者の衣服など、その表示反射光を視認することを目的としているため、例えば散乱性を有していても、下地反射体と密着していれば、その反射光を視認することができる。例えば、画像表示装置の前面に、防眩性の付与を目的として散乱性を有するアンチグレア処理をしても、画像は視認できるのと同一の原理である。しかしながら、第1の実施形態に係る指向反射体1は、指向反射する特定の波長以外の光を透過する点に特徴を有しており、この透過波長を主に透過する透過体に接着し、その透過光を観察するため、光の散乱がないことが好ましい。但し、その用途によっては、第2の光学層5に意図的に散乱性を持たせることも可能である。
【0030】
指向反射体1は、好ましくは、透過した特定波長以外の光に対して主に透過性を有する剛体、例えば、窓材10に粘着剤などを介して貼り合わせて使用される。窓材10としては、高層ビルや住宅などの建築用窓材、車両用の窓材などが挙げられる。建築用窓材に指向反射体1を適用する場合、特に東〜南〜西向きの間のいずれかの向き(例えば南東〜南西向き)に配置された窓材10に指向反射体1を適用することが好ましい。このような位置の窓材10に適用することで、より効果的に熱線を反射することができるからである。指向反射体1は、単層の窓ガラスのみならず、複層ガラスなどの特殊なガラスにも用いることができる。また、窓材10は、ガラスからなるものに限定されるものではなく、透明性を有する高分子材料からなるものを用いてもよい。光学層2が、可視領域において透明性を有することが好ましい。このように透明性を有することで、指向反射体1を窓ガラスなどの窓材10に貼り合せた場合、可視光を透過し、太陽光による採光を確保することができるからである。また、貼り合わせる面としてはガラスの内面のみならず、外面にも使用することができる。
【0031】
また、指向反射体1は他の熱線カットフィルムと併用して用いることができ、例えば空気と光学層2との界面に光吸収塗膜を設けることもできる。また、指向反射体1は、ハードコート層、紫外線カット層、表面反射防止層などとも併用して用いることができる。これらの機能層を併用する場合、これらの機能層を指向反射体1と空気との間の界面に設けることが好ましい。ただし、紫外線カット層については、指向反射体1よりも太陽側に配置する必要があるため、特に室内外の窓ガラス面に内貼り用として用いる場合には、該窓ガラス面と指向反射体1の間に紫外線カット層を設けることが望ましい。この場合、窓ガラス面と指向反射体1の間の貼り合わせ層中に、紫外線吸収剤を練りこんでおいてもよい。
【0032】
また、指向反射体1の用途に応じて、指向反射体1に対して着色を施し、意匠性を付与するようにしてもよい。このように意匠性を付与する場合、透明性を損なわない範囲で第1の光学層4および第2の光学層5の少なくとも一方が、可視領域における特定の波長帯の光を主として吸収する構成とすることが好ましい。
【0033】
図3は、指向反射体1に対して入射する入射光と、指向反射体1により反射された反射光との関係を示す斜視図である。指向反射体1は、光Lが入射する入射面S1を有する。反射層3が波長選択反射層である場合、指向反射体1は、入射角(θ、φ)で入射面S1に入射した光Lのうち、特定波長帯の光L1を選択的に正反射(−θ、φ+180°)以外の方向に指向反射するのに対して、特定波長帯以外の光L2を透過することが好ましい。また、指向反射体1は、上記特定波長帯以外の光に対して透明性を有する。透明性としては、後述する透過像鮮明度の範囲を有するものであることが好ましい。反射層3が半透過層である場合、入射角(θ、φ)で入射面S1に入射した光Lのうち一部の光L1を正反射(−θ、φ+180°)以外の方向に指向反射するのに対して、残りの光L2を透過することが好ましい。但し、θ:入射面S1に対する垂線l1と、入射光Lまたは反射光L1とのなす角である。φ:入射面S1内の特定の直線l2と、入射光Lまたは反射光L1を入射面S1に射影した成分とのなす角である。ここで、入射面内の特定の直線l2とは、入射角(θ、φ)を固定し、指向反射体1の入射面S1に対する垂線l1を軸として指向反射体1を回転したときに、φ方向への反射強度が最大になる軸である。但し、反射強度が最大となる軸(方向)が複数ある場合、そのうちの1つを直線l2として選択するものとする。なお、垂線l1を基準にして時計回りに回転した角度θを「+θ」とし、反時計回りに回転した角度θを「−θ」とする。直線l2を基準にして時計回りに回転した角度φを「+φ」とし、反時計回りに回転した角度φを「−φ」とする。反射層3が半透過層である場合、指向反射する光が、主に波長帯域400nm以上2100nm以下の光であることが好ましい。
【0034】
入射面内の特定の直線l2の方向が、帯状の形状を有する指向反射体1の長手方向と略平行の関係にある。ここで、略平行とは、入射面内の特定の直線l2と指向反射体1の長手方向とのなす角が±10°以下であることをいい、なす角が0°の完全な平行も含まれる。
【0035】
選択的に指向反射する特定の波長帯の光、および透過させる特定の光は、指向反射体1の用途により異なる。例えば、窓材10に対して指向反射体1を適用する場合、選択的に指向反射する特定の波長帯の光は近赤外光であり、透過させる特定の波長帯の光は可視光であることが好ましい。具体的には、選択的に指向反射する特定の波長帯の光が、主に波長帯域780nm〜2100nmの近赤外線であることが好ましい。近赤外線を反射することで、指向反射体1をガラス窓などの窓材10に貼り合わせた場合に、建物内の温度上昇を抑制することができる。したがって、冷房付加を軽減し、省エネルギー化を図ることができる。ここで、指向反射とは、正反射以外のある特定の方向への反射を有し、かつ、指向性を持たない拡散反射強度よりも十分に強いことを意味する。ここで、反射するとは、特定の波長帯域、例えば近赤外域における反射率が好ましくは30%以上、より好ましくは50%以上、更に好ましくは80%以上であることを示す。透過するとは、特定の波長帯域、例えば可視光域における透過率が好ましくは30%以上、より好ましくは50%以上、更に好ましくは70%以上であることを示す。
【0036】
指向反射する方向φoが−90°以上、90°以下であることが好ましい。指向反射体1を窓材10に貼った場合、上空から入射する光のうち、特定波長帯の光を上空方向に戻すことができるからである。周辺に高い建築物がない場合にはこの範囲の指向反射体1が有用である。また、指向反射する方向が(θ、−φ)近傍であることが好ましい。近傍とは、好ましく(θ、−φ)から5度以内、より好ましくは3度以内であり、さらに好ましくは2度以内の範囲内のずれのことをいう。この範囲にすることで、指向反射体1を窓材10に貼った場合、同程度の高さが立ち並ぶ建物の上空から入射する光のうち、特定波長帯の光を他の建物の上空に効率良く戻すことができるからである。このような指向反射を実現するためには、例えば球面や双曲面の一部や三角錐、四角錘、円錐などの3次元構造体を用いることが好ましい。(θ、φ)方向(−90°<φ<90°)から入射した光は、その形状に基づいて(θo、φo)方向(0°<θo<90°、−90°<φo<90°)に反射させることができる。
【0037】
特定波長体の光の指向反射が、再帰反射近傍方向、すなわち、入射角(θ、φ)で入射面S1に入射した光に対する、特定波長体の光の反射方向が、(θ、φ)近傍であることが好ましい。指向反射体1を窓材10に貼った場合、上空から入射する光のうち、特定波長帯の光を上空に戻すことができるからである。ここで近傍とは5度以内が好ましく、より好ましくは3度以内であり、さらに好ましくは2度以内である。この範囲にすることで、指向反射体1を窓材10に貼った場合、上空から入射する光のうち、特定波長帯の光を上空に効率良く戻すことができるからである。また、赤外線センサーや赤外線撮像のように、赤外光照射部と受光部が隣接している場合は、再帰反射方向は入射方向と等しくなければならないが、本発明のように特定の方向からセンシングする必要がない場合は、厳密に同一方向とする必要はない。
【0038】
反射層3が波長選択反射層である場合、透過性を持つ波長帯に対する透過像鮮明度に関し、0.5mmの光学くしを用いたときの値が、好ましくは50以上、より好ましくは60以上、さらに好ましくは75以上である。透過像鮮明度の値が50未満であると、透過像がぼけて見える傾向がある。50以上60未満であると、外の明るさにも依存するが日常生活には問題がない。60以上75未満であると、光源のように非常に明るい物体のみ回折パターンが気になるが、外の景色を鮮明に見ることができる。75以上であれば、回折パターンは殆ど気にならない。更に0.125mm、0.5mm、1.0mm、2.0mmの光学くしを用いて測定した透過像鮮明度の値の合計値が、好ましくは230以上、より好ましくは270以上、さらに好ましくは350以上である。透過像鮮明度の合計値が230未満であると、透過像がぼけて見える傾向がある。230以上270未満であると、外の明るさにも依存するが日常生活には問題がない。270以上350未満であると、光源のように非常に明るい物体のみ回折パターンが気になるが、外の景色を鮮明に見ることができる。350以上であれば、回折パターンは殆ど気にならない。ここで、透過像鮮明度の値は、スガ試験機製ICM−1Tを用いて、JIS K7105に準じて測定したものである。ただし、透過させたい波長がD65光源波長と異なる場合は、透過したい波長のフィルターを用いて校正した後に測定することが好ましい。
【0039】
反射層3が半透過層である場合、D65光源に対する透過像鮮明度に関し、0.5mmの光学くしを用いたときの値が、好ましくは30以上、より好ましくは50以上、さらに好ましくは75以上である。透過像鮮明度の値が30未満であると、透過像がぼけて見える傾向がある。30以上50未満であると、外の明るさにも依存するが日常生活には問題がない。50以上75未満であると、光源のように非常に明るい物体のみ回折パターンが気になるが、外の景色を鮮明に見ることができる。75以上であれば、回折パターンは殆ど気にならない。更に0.125mm、0.5mm、1.0mm、2.0mmの光学くしを用いて測定した透過像鮮明度の値の合計値が、好ましくは170以上、より好ましくは230以上、さらに好ましくは350以上である。透過像鮮明度の合計値が170未満であると、透過像がぼけて見える傾向がある。170以上230未満であると、外の明るさにも依存するが日常生活には問題がない。230以上350未満であると、光源のように非常に明るい物体のみ回折パターンが気になるが、外の景色を鮮明に見ることができる。350以上であれば、回折パターンは殆ど気にならない。ここで、透過像鮮明度の値は、スガ試験機製ICM−1Tを用いて、JIS K7105に準じて測定したものである。
【0040】
透過性を持つ波長帯に対するヘイズが、好ましくは6%以下、より好ましくは4%以下、さらに好ましくは2%以下である。ヘイズが6%を超えると、透過光が散乱され、曇って見えるためである。ここで、ヘイズは、村上色彩製HM−150を用いて、JIS K7136で規定される測定方法により測定したものである。ただし、透過させたい波長がD65光源波長と異なる場合は、透過したい波長のフィルターを用いて校正した後に測定することが好ましい。指向反射体1の入射面S1、好ましくは入射面S1および出射面S2は、透過像鮮明度を低下させない程度の平滑性を有する。具体的には、入射面S1および出射面S2の算術平均粗さRaは、好ましくは0.08μm以下、より好ましくは0.06μm以下、さらに好ましくは0.04μm以下である。なお、上記算術平均粗さRaは、入射面の表面粗さを測定し、2次元断面曲線から粗さ曲線を取得し、粗さパラメータとして算出したものである。なお、測定条件はJIS B0601:2001に準拠している。以下に測定装置および測定条件を示す。
測定装置:全自動微細形状測定機 サーフコーダーET4000A(株式会社小坂研究所)
λc=0.8mm、評価長さ4mm、カットオフ×5倍
データサンプリング間隔0.5μm
【0041】
指向反射体1の透過色はなるべくニュートラルに近く、色付きがあるとしても涼しい印象を与える青、青緑、緑色などの薄い色調が好ましい。このような色調を得る観点からすると、入射面S1から入射し、光学層2および反射層3を透過し、出射面S2から出射される透過光および反射光の色度座標x、yは、例えばD65光源の照射に対しては、好ましくは0.20<x<0.35かつ0.20<y<0.40、より好ましくは、0.25<x<0.32かつ0.25<y<0.37、更に好ましくは0.30<x<0.32かつ0.30<y<0.35の範囲を満たすのが望ましい。更に、色調が赤みを帯びないためには、好ましくはy>x−0.02、より好ましくはy>xの関係を満たすのが望ましい。また、反射色調が入射角度によって変化すると、例えばビルの窓に適用された場合に、場所によって色調が異なったり、歩くと色が変化して見えるため好ましくない。このような色調の変化を抑制する観点からすると、5°以上60°以下の入射角度θで入射面S1または出射面S2から入射し、光学層2および反射層3により反射された正反射光の色座標xの差の絶対値、および色座標yの差の絶対値が、指向反射体1の両主面のいずれにおいても、好ましくは0.05以下、より好ましくは0.03以下、さらに好ましくは0.01以下である。このような反射光に対する色座標x、yに関する数値範囲の限定は、入射面S1、および出射面S2の両方の面において満たされることが望ましい。
【0042】
正反射近傍での色変化を抑制するためには、好ましくは5°以下、更に好ましくは10°以下の傾斜角を有する平面が含まれない事が望ましい。また、反射層3が樹脂で覆われている場合、入射光が空気から樹脂に入射する際に屈折するため、より広い入射角の範囲で正反射光近傍での色調変化を抑制する事が出来る。その他、正反射以外への反射色が問題になる場合は、問題となる方向に指向反射がいかないよう、光学フィルム1を配置する事が好ましい。
【0043】
以下、指向反射体1を構成する第1の光学層4、第2の光学層5、および反射層3について順次説明する。
【0044】
(第1の光学層)
第1の光学層4は、例えば、反射層3を支持するための支持体である。また、第1の光学層4は、透過像鮮明度や全光線透過率を向上するとともに、反射層3を保護するためのものでもある。第1の光学層4は、指向反射体1に可撓性を付与する観点から、フィルム状を有することが好ましいが、特にこの形状に限定されるものではない。第1の光学層4の両主面のうち、一方の面は平滑面であり、他方の面は凹凸面であることが好ましい。
【0045】
第1の光学層4の凹凸面は、例えば、2次元配列された複数の構造体4cにより形成されている。構造体4cのピッチPは、好ましくは5μm以上5mm以下、より好ましくは5μm以上250μm未満、さらに好ましくは20μm以上200μm以下である。構造体4cのピッチが5μm未満であると、構造体4cの形状を所望のものとすることが難しい上、波長選択反射層の波長選択特性は一般的には急峻にすることが困難であるため、透過波長の一部を反射することがある。このような反射が起こると回折が生じて高次の反射まで視認されるため、透明性が悪く感じられる傾向がある。一方、構造体4cのピッチが5mmを超えると、指向反射に必要な構造体4cの形状を考慮した場合、必要な膜厚が厚くなりフレキシブル性が失われ、窓材10などの剛体に貼りあわせることが困難になる。また、構造体11aのピッチを250μm未満にすることにより、さらにフレキシブル性が増し、ロール・ツー・ロールでの製造が容易となり、バッチ生産が不要となる。窓などの建材に指向反射体1を適用するためには、数m程度の長さが必要であり、バッチ生産よりもロール・ツー・ロールでの製造が適している。さらに、ピッチを20μm以上200μm以下とした場合には、より生産性が向上する。
【0046】
また、第1の光学層4の表面に形成される構造体4cの形状は1種類に限定されるものではなく、複数種類の形状の構造体4cを第1の光学層4の表面に形成するようにしてもよい。複数種類の形状の構造体4cを表面に設ける場合、複数種類の形状の構造体4cからなる所定のパターンが周期的に繰り返されるようにしてもよい。また、所望とする特性によっては、複数種類の構造体4cがランダム(非周期的)に形成されるようにしてもよい。
【0047】
図4Aは、第1の光学層の凹凸面の形状の一例を示す平面図である。図4Bは、図4Aに示した第1の光学層のB−B線に沿った断面図である。第1の光学層4の凹凸面は、例えば、コーナーキューブ形状を有する凹部である構造体4cを、隣り合う構造体4cの傾斜面が対向するように、2次元配列することにより形成されている。2次元配列は、最稠密充填状態での2次元配列であることが好ましい。構造体4cの充填率を高め、指向反射体1の指向反射効果を向上することができるからである。
【0048】
図5は、図4Aに示した第1の光学層の凹凸面の一部を拡大して示す拡大平面図である。凹部である構造体4cは、三角形状を有する底面71と、三角形状を有する3つの傾斜面72とを有するコーナーキューブ形状の構造体(以下、コーナーキューブ形状の構造体をコーナーキューブと適宜称する。)である。隣り合う構造体4cの傾斜面によって、稜線部73a、73b、73cが形成されている。これらの稜線部73a、73b、73cは、第1の光学層4の凹凸面内において3つの方向(以下稜線方向という。)a、b、cに向かって形成されている。3つの稜線方向a、b、cのうち、1つの稜線方向cは、帯状の指向反射体1の長手方向DL、すなわち、指向反射体1の入射面内における特定の直線l2の方向と略平行の関係にある。
【0049】
ここで、コーナーキューブ形状には、正確なコーナーキューブ形状以外に、略コーナーキューブ形状も含まれる。略コーナーキューブ形状とは、光軸が傾いたコーナーキューブ、傾斜面が湾曲したコーナーキューブ、コーナー角度が90°からずれたコーナーキューブ、3方向の溝セットが6回対称からずれたコーナーキューブ、特定の2方向の溝が他の1方向の溝よりも深いコーナーキューブ、特定の1方向の溝が他の2方向の溝よりも深いコーナーキューブ、3方向の溝の交点が完全には一致していないコーナーキューブ、頂部に曲率を持つコーナーキューブなどの形状である。傾斜面が湾曲したコーナーキューブとしては、例えば、コーナーキューブを構成する3つの面のすべてが湾曲した曲面であるコーナーキューブ、コーナーキューブを構成する3つの面のうちの1つの面または2つの面が湾曲した曲面であり、残りの面が平面であるコーナーキューブが挙げられる。湾曲した曲面の形状としては、例えば放物面、双曲面、球面、楕円面など曲面、自由曲面などが挙げられる。また、曲面は、凹状および凸状のいずれであってもよく、1つのコーナーキューブに凹状、および凸状の両方の曲面が存在してもよい。
【0050】
第1の光学層4は、例えば、2層構造を有している。具体的には、第1の光学層4は、第1の基材4aと、第1の基材4aと反射層3との間に形成され、反射層3と密着する凹凸面を有する第2の樹脂層4bとを備える。なお、第1の光学層4の構成は、2層構造に限定されるものではなく、単層構造、または3層以上の構造とすることも可能である。
【0051】
(基材)
第1の基材4aは、例えば、透明性を有している。基材4aの形状としては、指向反射体1に可撓性を付与する観点から、フィルム状を有することが好ましいが、特にこの形状に限定されるものではない。第1の基材4aの材料としては、例えば、公知の高分子材料を用いることができる。公知の高分子材料としては、例えば、トリアセチルセルロース(TAC)、ポリエステル(TPEE)、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリイミド(PI)、ポリアミド(PA)、アラミド、ポリエチレン(PE)、ポリアクリレート、ポリエーテルスルフォン、ポリスルフォン、ポリプロピレン(PP)、ジアセチルセルロース、ポリ塩化ビニル、アクリル樹脂(PMMA)、ポリカーボネート(PC)、エポキシ樹脂、尿素樹脂、ウレタン樹脂、メラミン樹脂などが挙げられるが、特にこれらの材料に限定されるものではない。第1の基材4a、および第2の基材5aの厚さは、生産性の観点から38〜100μmであることが好ましいが、この範囲に特に限定されるものではない。第1の基材4aは、エネルギー線透過性を有することが好ましい。これにより、第1の基材4aと反射層3との間に介在させたエネルギー線硬化型樹脂に対して、第1の基材4a側からエネルギー線を照射し、エネルギー線硬化型樹脂を硬化させることができるからである。
【0052】
(樹脂層)
第1の樹脂層4bは、例えば、透明性を有する。第1の樹脂層4bは、例えば、樹脂組成物を硬化することにより得られる。樹脂組成物としては、製造の容易性の観点からすると、光または電子線などにより硬化するエネルギー線硬化型樹脂、または熱により硬化する熱硬化型樹脂を用いることが好ましい。エネルギー線硬化型樹脂としては、光により硬化する感光性樹脂組成物が好ましく、紫外線により硬化する紫外線硬化型樹脂組成物が最も好ましい。樹脂組成物は、第1の樹脂層4bと反射層3との密着性を向上する観点から、リン酸を含有する化合物、コハク酸を含有する化合物、ブチロラクトンを含有する化合物をさらに含有することが好ましい。リン酸を含有する化合物としては、例えばリン酸を含有する(メタ)アクリレート、好ましくはリン酸を官能基に有する(メタ)アクリルモノマーまたはオリゴマーを用いることができる。コハク酸を含有する化合物としては、例えば、コハク酸を含有する(メタ)アクリレート、好ましくはコハク酸を官能基に有する(メタ)アクリルモノマーまたはオリゴマーを用いることができる。ブチロラクトンを含有する化合物としては、例えば、ブチロラクトンを含有する(メタ)アクリレート、好ましくはブチロラクトンを官能基に有する(メタ)アクリルモノマーまたはオリゴマーを用いることができる。
【0053】
紫外線硬化型樹脂組成物は、例えば、(メタ)アクリレートと、光重合開始剤とを含有している。また、紫外線硬化型樹脂組成物が、必要に応じて、光安定剤、難燃剤、レベリング剤および酸化防止剤などをさらに含有するようにしてもよい。
【0054】
アクリレートとしては、2個以上の(メタ)アクリロイル基を有するモノマーおよび/またはオリゴマーを用いることが好ましい。このモノマーおよび/またはオリゴマーとしては、例えば、ウレタン(メタ)アクリレート、エポキシ(メタ)アクリレート、ポリエステル(メタ)アクリレート、ポリオール(メタ)アクリレート、ポリエーテル(メタ)アクリレート、メラミン(メタ)アクリレートなどを用いることができる。ここで、(メタ)アクリロイル基とは、アクリロイル基およびメタアクリロイル基のいずれかを意味するものである。ここで、オリゴマーとは、分子量500以上60000以下の分子をいう。
【0055】
光重合開始剤としては、公知の材料から適宜選択したものを使用できる。公知の材料としては、例えば、ベンゾフェノン誘導体、アセトフェノン誘導体、アントラキノン誘導体などを単独で、または併用して用いることができる。重合開始剤の配合量は、固形分中0.1質量%以上10質量%以下であることが好ましい。0.1質量%未満であると、光硬化性が低下し、実質的に工業生産に適さない。一方、10質量%を超えると、照射光量が小さい場合に、塗膜に臭気が残る傾向にある。ここで、固形分とは、硬化後の第1の樹脂層4bを構成する全ての成分をいう。具体的には例えば、アクリレート、および光重合開始剤などを固形分という。
【0056】
用いられる樹脂としては、誘電体形成時のプロセス温度でも変形が無く、クラックが発生しないようなものが好ましい。ガラス転移温度が低いと設置後、高温時に変形してしまったり、誘電体形成時に樹脂形状が変化してしまうため好ましくなく、ガラス転移温度が高いとクラックや界面剥がれが生じやすく好ましくない。具体的にはガラス転移温度が60度以上、150度以下が好ましく、80度以上、130度以下がより好ましい。
【0057】
樹脂はエネルギー線照射や熱などによって構造を転写できるものが好ましく、ビニル系樹脂、エポキシ系樹脂、熱可塑性樹脂など上述の屈折率の要求を満たすものであればどのような種類の樹脂を使用しても良い。
【0058】
硬化収縮を低減するために、オリゴマーを添加してもよい。硬化剤としてポリイソシアネートなどを含んでもよい。また、第1の樹脂層4b、および第2の樹脂層5bとの密着性を考慮して水酸基やカルボキシル基、カルボン酸、リン酸基を有するような単量体、多価アルコール類、シラン、アルミ、チタンなどのカップリング剤や各種キレート剤などを添加しても良い。
【0059】
なお、上述したポリマーなどの含有量は、反射層3に含まれる誘電体層、または金属層などの性質に応じて任意に調整することができる。
【0060】
(第2の光学層)
第2の光学層5は、反射層3が形成された第1の光学層4の凹凸面を包埋することにより、透過像鮮明度や全光線透過率を向上させるとともに、反射層3を保護するためのものである。第2の光学層5は、指向反射体1に可撓性を付与する観点から、フィルム状を有することが好ましいが、特にこの形状に限定されるものではない。第2の光学層5の両主面のうち、一方の面は平滑面であり、他方の面は凹凸面であることが好ましい。第1の光学層4の凹凸面と第2の光学層5の凹凸面とは、互いに凹凸を反転した関係にある。
【0061】
第2の光学層5の凹凸面は、例えば、2次元配列された複数の構造体5cにより形成されている。構造体5cは、例えば、凹状の構造体である。第2の光学層5における凹状の構造体5cの形状は、第1の光学層4における凸状の構造体4cの形状を反転して凹状としたものである。
【0062】
第2の光学層5は、例えば、2層構造を有している。具体的には、第2の光学層5は、第2の基材5aと、第2の基材5aと反射層3との間に形成され、反射層3と密着する凹凸面を有する第2の樹脂層5bとを備える。なお、第2の光学層5の構成は、2層構造に限定されるものではなく、単層構造、または3層以上の構造とすることも可能である。
【0063】
第2の基材5a、および第2の樹脂層5bの材料としてはそれぞれ、第1の基材5a、および第2の樹脂層5bと同様のものを用いることができる。
【0064】
第1の基材4a、および第2の基材5aはそれぞれ、第1の樹脂層4b、および第2の樹脂層5bより水蒸気透過率が低いことが好ましい。例えば、第1の樹脂層4bをウレタンアクリレートのようなエネルギー線硬化型樹脂で形成する場合には、第1の基材4aを第1の樹脂層4bより水蒸気透過率が低く、かつ、エネルギー線透過性を有するポリエチレンテレフタレート(PET)などの樹脂により形成することが好ましい。これにより、入射面S1または出射面S2から反射層3への水分の拡散を低減し、反射層3に含まれる金属などの劣化を抑制することができる。したがって、指向反射体1の耐久性を向上することができる。なお、厚み75μmのPETの水蒸気透過率は、10g/m2/day(40℃、90%RH)程度である。
【0065】
第1の樹脂層4bおよび第2の樹脂層5bの少なくとも一方が、極性の高い官能基を含み、その含有量が第1の樹脂層4bと第2の樹脂層5bとで異なることが好ましい。第1の樹脂層4bと第2の樹脂層5bとの両方が、リン酸を含有する化合物を含み、第1の樹脂層4bと第2の樹脂層5bとにおける上記リン酸の含有量が異なることが好ましい。リン酸の含有量は、第1の樹脂層4bと第2の樹脂層5bとにおいて、好ましくは2倍以上、より好ましくは5倍以上、さらに好ましくは10倍以上異なることが好ましい。
【0066】
第1の光学層4、および第2の光学層5の少なくとも一方が、リン酸化合物を含む場合、反射層3は、リン酸化合物を含む第1の光学層4または第2の光学層5と接する面に、酸化物もしくは窒化物、酸窒化物を含むことが好ましい。反射層3は、リン酸化合物を含む第1の光学層4または第2の光学層5と接する面に、酸化亜鉛(ZnO)または酸化ニオブを含む層を有することが特に好ましい。これらの光学層と波長選択反射層などの反射層3との密着性が向上するためである。また、反射層3がAg等の金属を含む場合に、腐食防止効果が高いからである。また、この反射層は、Al、Gaなどのドーパントを含有していても良い。金属酸化物層をスパッタ法等で形成する場合に、膜質や平滑性が向上するからである。
【0067】
第1の樹脂層4b、および第2の樹脂層5bの少なくとも一方が、指向反射体1や窓材10などに意匠性を付与する観点からすると、可視領域における特定の波長帯の光を吸収する特性を有することが好ましい。樹脂中に分散させる顔料は、有機系顔料および無機系顔料のいずれであってもよいが、特に顔料自体の耐候性が高い無機系顔料とすることが好ましい。具体的には、ジルコングレー(Co、NiドープZrSiO4)、プラセオジムイエロー(PrドープZrSiO4)、クロムチタンイエロー(Cr、SbドープTiO2またはCr、WドープTiO2)、クロムグリーン(Cr23など)、ピーコック((CoZn)O(AlCr)23)、ビクトリアグリーン((Al、Cr)23)、紺青(CoO・Al23・SiO2)、バナジウムジルコニウム青(VドープZrSiO4)、クロム錫ピンク(CrドープCaO・SnO2・SiO2)、陶試紅(MnドープAl23)、サーモンピンク(FeドープZrSiO4)などの無機顔料、アゾ系顔料やフタロシアニン系顔料などの有機顔料が挙げられる。
【0068】
(反射層)
反射層は、例えば、入射角(θ、φ)で入射面に入射した光のうち、特定波長帯の光を指向反射するのに対して、特定波長帯以外の光を透過する波長選択反射層、入射角(θ、φ)で入射面に入射した光を指向反射する反射層、または散乱が少なく反対側を視認できる透明性を有する半透過層である。波長選択反射層は、例えば、積層膜、透明導電層、または機能層である。また、積層膜、透明導電層、および機能層を2以上組み合わせて波長選択層としてもよい。反射層3の平均層厚は、好ましくは20μm、より好ましくは5μm以下、さらに好ましくは1μm以下である。反射層3の平均層厚が20μmを超えると、透過光が屈折する光路が長くなり、透過像が歪んで見える傾向がある。反射層の形成方法としては、例えば、スパッタ法、蒸着法、ディップコーティング法、ダイコーティング法などを用いることができる。
【0069】
以下、積層膜、透明導電層、機能層、および半透過層について順次説明する。
(積層膜)
積層膜は、例えば、屈折率の異なる低屈折率層および高屈折率層を交互に積層してなる積層膜である。または、積層膜は、例えば、赤外領域において反射率の高い金属層と、可視領域において屈折率が高く反射防止層として機能する高屈折率層とを交互に積層してなる積層膜である。高屈折率層としては、光学透明層、または透明導電層を用いることができる。
【0070】
赤外領域において反射率の高い金属層は、例えば、Au、Ag、Cu、Al、Ni、Cr、Ti、Pd、Co、Si、Ta、W、Mo、Geなどの単体、またはこれらの単体を2種以上含む合金を主成分とする。そして、実用性の面を考慮すると、これらのうちのAg系、Cu系、Al系、Si系またはGe系の材料が好ましい。また、金属層の材料として合金を用いる場合には、金属層は、AlCu、AlTi、AlCr、AlCo、AlNdCu、AlMgSi、AgPdCu、AgPdTi、AgCuTi、AgPdCa、AgPdMg、AgPdFe、AgまたはSiBなどを主成分とすることが好ましい。また、金属層の腐食を抑えるために、金属層に対してTi、Ndなどの材料を添加することが好ましい。特に、金属層の材料としてAgを用いる場合には、上記材料を添加することが好ましい。
【0071】
光学透明層は、可視領域において屈折率が高く反射防止層として機能する光学透明層である。光学透明層は、例えば酸化ニオブ、酸化タンタル、酸化チタンなどの高誘電体を主成分とする。透明導電層は、例えば、ZnO系酸化物、インジウムドープ酸化錫などの主成分とする。なお、ZnO系酸化物としては、例えば、酸化亜鉛(ZnO)、ガリウム(Ga)およびアルミニウム(Al)をドープした酸化亜鉛(GAZO)、Alをドープした酸化亜鉛(AZO)、およびガリウム(Ga)をドープした酸化亜鉛(GZO)からなる群より選ばれる少なくとも1種を用いることができる。
【0072】
また、積層膜に含まれる高屈折率層の屈折率は、1.7以上2.6以下の範囲内であることが好ましい。より好ましくは1.8以上2.6以下、更に好ましくは1.9以上2.6以下である。これにより、クラックが発生しない程度の薄い膜で可視光領域での反射防止が実現できるからである。ここで、屈折率は、波長550nmにおけるものである。高屈折率層は、例えば、金属の酸化物を主成分とする層である。金属の酸化物としては、層の応力を緩和し、クラックの発生を抑制する観点からすると、酸化亜鉛以外の金属酸化物を用いることが好ましい場合もある。特に、酸化ニオブ(例えば、五酸化ニオブ)、酸化タンタル(例えば、五酸化タンタル)、および酸化チタンからなる群より選ばれる少なくとも1種を用いることが好ましい。高屈折率層の膜厚は、好ましくは10nm以上120nm以下、より好ましくは10nm以上100nm以下、さらに好ましくは10nm以上80nm以下である。膜厚が10nm未満であると、可視光が反射しやすくなる傾向がある。一方、膜厚が120を超えると、透過率の低下やクラックが発生しやすくなる傾向がある。
【0073】
なお、積層膜は、無機材料からなる薄膜に限定されるものではなく、高分子材料からなる薄膜や高分子中に微粒子などを分散した層を積層して構成してもよい。また、これら光学透明層製膜時の下層金属の酸化劣化を防ぐ目的で、製膜する光学透明層の界面に数nm程度のTiなどの薄いバッファー層を設けてもよい。ここで、バッファー層とは、上層製膜時に、自らが酸化することで下層である金属層などの酸化を抑制するための層である。
【0074】
(透明導電層)
透明導電層は、可視領域において透明性を有する導電性材料を主成分とする透明導電層である。透明導電層は、例えば、酸化錫、酸化亜鉛、カーボンナノチューブ含有体、インジウムドープ酸化錫、インジウムドープ酸化亜鉛、アンチモンドープ酸化錫などの透明導電物質を主成分とする。もしくはこれらのナノ粒子や金属などの導電性を持つ材料のナノ粒子、ナノロッド、ナノワイヤーを樹脂中に高濃度に分散させた層を用いても良い。
(機能層)
【0075】
機能層は、外部刺激により反射性能などが可逆的に変化するクロミック材料を主成分とする。クロミック材料は、例えば、熱、光、侵入分子などの外部刺激により構造を可逆的に変化させる材料である。クロミック材料としては、例えば、フォトクロミック材料、サーモクロミック材料、ガスクロミック材料、エレクトロクロミック材料を用いることができる。
【0076】
フォトクロミック材料とは、光の作用により構造を可逆的に変化させる材料である。フォトクロミック材料は、例えば紫外線などの光照射により、反射率や色などの様々な物性を可逆的に変化させることができる。フォトクロミック材料としては、例えばCr、Fe、NiなどをドープしたTiO2、WO3、MoO3、Nb25などの遷移金属酸化物を用いることができる。また、これらの層と屈折率の異なる層を積層することで波長選択性を向上させることもできる。
【0077】
サーモクロミック材料とは、熱の作用により構造を可逆的に変化させる材料である。フォトクロミック材料は、加熱により、反射率や色などの様々な物性を可逆的に変化させることができる。サーモクロミック材料としては、例えばVO2などを用いることができる。また、転移温度や転移カーブを制御する目的で、W、Mo、Fなどの元素を添加することもできる。また、VO2などのサーモクロミック材料を主成分とする薄膜を、TiO2やITOなどの高屈折率体を主成分とする反射防止層で挟んだ積層構造としてもよい。
【0078】
または、コレステリック液晶などのフォトニックラティスを用いることもできる。コレステリック液晶は層間隔に応じた波長の光を選択的に反射することができ、この層間隔は温度によって変化するため、加熱により、反射率や色などの物性を可逆的に変化させることができる。この時、層間隔の異なるいくつかのコレステリック液晶層を用いて反射帯域を広げることも可能である。
【0079】
エレクトロクロミック材料とは、電気により、反射率や色などの様々な物性を可逆的に変化させることができる材料である。エレクトロクロミック材料としては、例えば、電圧の印加により構造を可逆的に変化させる材料を用いることができる。より具体的には、エレクトロクロミック材料としては、例えば、プロトンなどのドープまたは脱ドープにより、反射特性が変わる反射型調光材料を用いることができる。反射型調光材料とは、具体的には、外部刺激により、光学的な性質を透明な状態と、鏡の状態、および/またはその中間状態に制御することができる材料である。このような反射型調光材料としては、例えば、マグネシウムおよびニッケルの合金材料、マグネシウムおよびチタンの合金材料を主成分とする合金材料、WO3やマイクロカプセル中に選択反射性を有する針状結晶を閉じ込めた材料などを用いることができる。
【0080】
具体的な機能層の構成としては、例えば、第2の光学層上に、上記合金層、Pdなどを含む触媒層、薄いAlなどのバッファー層、Ta25などの電解質層、プロトンを含むWO3などのイオン貯蔵層、透明導電層が積層された構成を用いることができる。または、第2の光学層上に透明導電層、電解質層、WO3などのエレクトロクロミック層、透明導電層が積層された構成を用いることができる。これらの構成では、透明導電層と対向電極の間に電圧を印加することにより、電解質層に含まれるプロトンが合金層にドープまたは脱ドープされる。これにより、合金層の透過率が変化する。また、波長選択性を高めるために、エレクトロクロミック材料をTiO2やITOなどの高屈折率体と積層することが望ましい。また、その他の構成として、第2の光学層上に透明導電層、マイクロカプセルを分散した光学透明層、透明電極が積層された構成を用いることができる。この構成では、両透明電極間に電圧を印加することにより、マイクロカプセル中の針状結晶が配向した透過状態にしたり、電圧を除くことで針状結晶が四方八方を向き、波長選択反射状態にすることができる。
【0081】
(半透過層)
半透過層は、半透過性の反射層である。半透過性の反射層としては、例えば、半導体性物質を含む薄い金属層、金属窒化層などが挙げられ、反射防止、色調調整、化学的濡れ性向上、または環境劣化に対する信頼性向上などの観点からすると、上記反射層を酸化層、窒化層、または酸窒化層などと積層した積層構造とすることが好ましい。
【0082】
可視領域および赤外領域において反射率の高い金属層として、例えばAu、Ag、Cu、Al、Ni、Cr、Ti、Pd、Co、Si、Ta、W、Mo、Geなどの単体、またはこれらの単体を2種以上含む合金を主成分とする材料が挙げられる。そして、実用性の面を考慮すると、これらのうちのAg系、Cu系、Al系、Si系またはGe系の材料が好ましい。また、金属層の腐食を抑えるために、金属層に対してTi、Ndなどの材料を添加することが好ましい。また金属窒化層としては、例えば、TiN、CrN、WNなどが挙げられる。
【0083】
半透過層の膜厚は、例えば、2nm以上40nm以下の範囲とすることが可能であるが、可視領域および近赤外領域において半透過性を有する膜厚であればよく、これに限定されるものではない。ここで、半透過性とは、波長500nm以上1000nm以下における透過率が5%以上70%以下、好ましくは10%以上60%以下、更に好ましくは15%以上55%以下であることを示す。また、半透過層とは、波長500nm以上1000nm以下における透過率が5%以上70%以下、好ましくは10%以上60%以下、更に好ましくは15%以上55%以下である反射層を示す。
【0084】
[指向反射体の機能]
図6Aおよび図6Bは、指向反射体の機能の一例を説明するための断面図である。図6Aに示すように、この指向反射体1に入射した太陽光のうち近赤外線L1の一部は、入射した方向と同程度の上空方向に指向反射するのに対して、可視光L2は指向反射体1を透過する。
【0085】
また、図6Bに示すように、指向反射体1に入射し、反射層3の反射層面で反射された光は、入射角度に応じた割合で、上空反射する成分LAと、上空反射しない成分LBとに分離する。そして、上空反射しない成分LBは、第2の光学層4と空気との界面で全反射した後、最終的に入射方向とは異なる方向に反射する。
【0086】
上空反射しない成分LBの割合が多くなると、入射光が上空反射する割合が減少する。上空反射の割合を向上するためには、反射層3の形状、すなわち、第1の光学層4の構造体4cの形状を工夫することが有効である。
【0087】
[ロール状原盤の構成]
図7Aは、ロール状原盤の概観を示す斜視図である。図7Bは、図7Aに示した領域Rを拡大して示す拡大平面図である。ロール状原盤43は円柱面を有し、その円柱面には凹凸面が形成されている。この凹凸面をフィルムなどに転写することにより、第1の光学層4の凹凸面が成形される。ロール状原盤43の凹凸面は、コーナーキューブ形状を有する凸部である構造体43aを多数配列することにより形成されている。ロール状原盤43の構造体43aの形状は、第1の光学層4の構造体4cの凹形状を反転して凸形状としたものである。
【0088】
凸部である構造体43cは、三角形状を有する底面81と、三角形状を有する3つの傾斜面82とを有するコーナーキューブ形状の構造体である。隣り合う構造体43aの傾斜面によって、溝部83a、83b、83cが形成されている。これらの溝部83a、83b、83cは、ロール状原盤43の円柱面内において3つの方向(以下溝方向と適宜称する。)a、b、cに向かって形成されている。3つの溝方向a、b、cのうち、1つの溝方向cは、ロール状原盤43のラジアル方向DRと略平行の関係にある。このロール状原盤43により第1の光学層4の凹凸面を成形することにより、図5に示すように、帯状の指向反射体1の長手方向DLと略平行な方向に稜線73cを形成することができる。
【0089】
[加工装置]
図8は、ロール状原盤を作製するための加工装置の一構成例を示す斜視図である。図8に示すように、この加工装置は、ベース部91と、支持体92と、第1のスライド部93と、第2のスライド部94とを備える。ベース部91上に、支持体92、および第1のスライド部93が設けられている。第1のスライド部93上に第2のスライド部94が設けられている。
【0090】
支持体92は、被加工体100の一端部を支持し、支持した被加工体100の中心軸を回転軸(C軸)として回転駆動可能に構成されている。被加工体100は、円柱状の形状を有し、その円柱面に多数のコーナーキューブ(コーナーキューブ再帰反射素子ともいう。)が形成される。多数のコーナーキューブが形成される被加工体100の材料としては、例えば、無酸素銅、アルミニウム、真鍮、Ni−Pメッキ膜などが挙げられる。また、被加工体100の材料としては、合成樹脂材料を使用することも可能であり、合成樹脂材料としては、例えば、ポリカーボネート系樹脂、アクリル系樹脂などを挙げることができる。
【0091】
ベース部91には、第1のスライド部93を案内(ガイド)するための第1のレール部91Rが形成されている。第1のレール部91Rは、直線状を有し、支持体92に支持された円柱状の被加工体100のC軸と平行に形成されている。直線状の第1のレール部91R上には、この第1のレール部91Rの延在方向と平行にZ軸(スライド軸)が設定されている。すなわち、第1のレール部91R上に設定されたZ軸と、円柱状の被加工体100に設定されたC軸とは平行の関係にある。第1のスライド部93は、第1のレール部91Rにより案内されて、ベース部91上をZ軸方向に、すなわち円柱状の被加工体100の回転軸(C軸)と平行な方向に移動可能に構成されている。
【0092】
第1のスライド部93上には、第2のスライド部94を案内(ガイド)するための直線状の第2のレール部93Rが第1のレール部91Rに直交するように形成されている。直線状の第2のレール部93R上には、この第2のレール部93Rの延在方向と平行にX軸(スライド軸)が設定されている。すなわち、第1のレール部91R上に設定されたZ軸と、第2のレール部93R上に設定されたX軸、および円柱状の被加工体100のC軸とが直交する関係にある。第2のスライド部94が、第2のレール部93Rに案内されて、ベース部91上をX軸方向に、すなわち被加工体100に対して近接離間する方向に移動可能に構成されている。
【0093】
第2のスライド部94は、切削工具であるバイト96を支持するためのバイト支持体95を有する。バイト支持体95は、バイト96を被加工体表面に押し当てる角度を調整可能に構成されている。バイト96の材料としては、例えば、単結晶ダイヤモンド、多結晶ダイヤモンド、各種のバイト(切削工具)用合金を用いることができ、その中でも単結晶ダイヤモンドが特に好ましい。単結晶ダイヤモンドはバイトの耐摩耗性や形状精度の点で優れており、所望のV字状溝の角度を精度良く保つことができるからである。
【0094】
(被加工体)
図9Aは、被加工体の概観を示す斜視図である。図9Bは、図9Aに示した被加工体の展開図である。図9Aに示すように、被加工体100は、直径dの円柱形状を有し、その円柱面のうち切削加工領域Rに多数のV字状溝83a、83b、83cを形成することにより、コーナーキューブパターンが形成される。切削加工領域Rの幅は、Z軸移動量Dzに対応している。ここで、Z軸移動量Dzは、切削加工の際に、第1のスライド部93をZ軸方向に移動させる量、すなわちバイト96をZ軸方向に移動させる量である。C軸移動量θは、切削加工を施しながら、第1のスライド部93をZ軸移動量Dzの距離移動させる間に、被加工体100を回転させる角度である。なお、図9Aでは、被加工体100のうちの切削加工領域Rのみを示しているが、端部には被加工体100を支持するための支持領域(図示省略)などが設定されている。
【0095】
図9Bに示すように、被加工体100の展開図は、縦(πd)×横(Z軸移動量)の矩形状を有する。被加工体100の回転軸(C軸)に対する、被加工体表面のV字状溝83a、83bの角度α、角度−αは、以下の式(1a)、(1b)により表される。
α=Tan-1(π・d・θ/Dz) ・・・(1a)
−α=−Tan-1(π・d・θ/Dz) ・・・(1b)
(但し、d:被加工体100の直径、Dz:切削加工の際に、第1のスライド部93をZ軸方向に移動させる量、θ:切削加工を施しながら、第1のスライド部93をZ軸移動量Dz移動させる間に、被加工体100を回転させる角度)
【0096】
角度αが0°<α<90°の範囲内のときに形成される曲面の、同一のV字状溝底辺を共有する平面との偏差γは、以下の式(2)により表される。
γ=p・tanα/(π・d) ・・・(2)
(但し、p:複数のV字状溝のピッチ距離)
【0097】
図10は、V字状溝の加工方向を示す概略図である。図10に示すように、被加工体表面には、異なる3方向、すなわちa方向、b方向、およびc方向に向かうV字状溝83a、83b、および83cが形成される。具体的には例えば、被加工体表面には、角度αの方向に向かうV字状溝83aと、角度−αの方向に向かうV字状溝83bと、角度βの方向に向かうV字状溝83cとが形成されている。ここで、被加工体100の回転軸(C軸)を基準軸として時計周りに回転した角度αを「+α」とし、それとは反対に反時計周りに回転した角度αを「−α」とする。角度αが0°<α<90°の範囲内であり、角度−αが−90°<−α<0°の範囲内であり、角度βが90°であることが好ましい。
【0098】
被加工体表面に形成される各V字状溝の角度(α、−α、β)は、角度(30°、−30°、90°)であることが好ましい。ここで、V字状溝83a、83b、83cの角度(α、−α、β)は、上述したように、被加工体100の回転軸(C軸)に対するV字状溝83a、83b、83cの角度である。V字状溝83aの角度αが0°<α<90°の範囲内にあり、V字状溝83bの角度−αが−90°<−α<0°の範囲内にあるとき、V字状溝83a、83bは被加工体表面に螺旋状に形成されるとともに、それらの側面は曲面となる。
【0099】
a方向、b方向、およびc方向の3方向に向かうV字状溝群(a1、a2、a3・・・、b1、b2、b3・・・、およびc1、c2、c3・・・)により、コーナーキューブパターンが形成される。コーナーキューブパターンは、2次元配列された多数のコーナーキューブから構成されている。1つのコーナーキューブを構成する3面の反射側面のうち2面が曲面で形成され、残り1面が平面であることが好ましい。例えば、a方向、b方向に向かうV字状溝群(a1、a2、a3・・・、b1、b2、b3・・・)により形成されるコーナーキューブの面C1〜C4が曲面状となる。また、c方向に向かうV字状溝群(c1、c2、c3・・・)により形成されるコーナーキューブの面P1、P2が平面状となる。すなわち、隣接するコーナーキューブの対向する2つの面は、互いに曲面状または平面状となる。
【0100】
[被加工体の加工方法]
次に、図11A〜図11Cを参照して、本発明の第1の実施形態に係る被加工体の加工方法の一例について説明する。この第1の実施形態に係る被加工体の加工方法では、コーナーキューブを構成する3面のうち2面を、所定の開き角度を持ったバイト96により曲面状に加工し、残りの1面を所定の開き角度を持ったバイト96で平面状に加工する。
【0101】
まず、第1のスライド部93を駆動し、被加工体100の切削加工領域Rの一端にバイト96の先端位置を合わせる。次に、第2のスライド部94を駆動し、バイト96を切削加工領域Rの一端に一定の力で押し当てるとともに、被加工体100を例えば反時計周りに回転させることにより、角度α(例えば角度30°)の方向に向かうV字状溝83aの加工を開始する。次に、被加工体100の回転を保持するとともに、第1のスライド部93を駆動してバイト96をZ軸方向に移動させる。この際、被加工体100の回転軸(C軸)に対してV字状溝83aが角度α(例えば角度30°)をなすように、被加工体100の回転速度と第1のスライド部93の移動速度とを同期させる。これにより、バイト96が被加工体表面に所定の軌跡を描いて、角度αの方向に向かうV字状溝83aが形成される。次に、バイト96が切削加工領域Rの他端まで到達したら、第2のスライド部94を駆動し、被加工体表面からバイト96を離間させてV字状溝83aの加工を停止する。
【0102】
次に、第1のスライド部93を駆動し、被加工体100の切削加工領域Rの一端にバイト96を戻すとともに、前回加工したV字状溝83aの位置からラジアル方向に所定ピッチずれた位置にバイトの先端位置を合わせる。次に、前回V字状溝83aを加工したのと同様にして、V字状溝83aを加工する。上述した加工を繰り返すことにより、図11Aに示すように、角度αの方向に向かう多数のV字状溝83aを平行に被加工体表面に形成する。
【0103】
次に、被加工体100を逆回転(例えば、反時計回りに回転)させる以外は、角度αの方向に向かうV字状溝83aを形成したのと同様にして切削加工を繰り返す。これにより、角度−αの方向(例えば角度−30°方向)に向かう多数のV字状溝83bが平行に被加工体表面に形成される。以上により、図11Bに示すように、角度α、および角度−αの2方向に向かう多数のV字状溝83a、83bが形成される。
【0104】
次に、上述のようにして形成された2方向に向かうV字状溝83a、83bの交点を、切削加工時にバイト96が通るように、第1のスライド部93を駆動し、バイト96の先端の位置を調整する。次に、第2のスライド部94を駆動し、バイト96を切削加工領域Rの一端に一定の力で押し当てるとともに、被加工体100を回転させることにより、V字状溝83cの加工を開始する。次に、被加工体100の回転を保持するとともに、第1のスライド部93をZ軸上の同一位置に保持する。これにより、角度β(角度90°)の方向(すなわちラジアル方向)に向かうV字状溝83cが被加工体表面に形成される。上述した切削加工を、切削加工領域Rの一端から他端までX軸方向に所定ピッチでバイト96の先端を移動させながら繰り返す。これにより、図11Cに示すように、角度βの方向に向かう多数のV字状溝83cが平行に被加工体表面に形成される。
以上により、目的とするロール状原盤43が得られる。
【0105】
[第1の光学層の成形装置]
図12は、第1の光学層を成形するための成形装置の一構成例を示す概略図である。図12に示すように、成形装置は、押出機41、Tダイ42、ロール状原盤43、厚さ調整ロール44および巻き取りロール45を備える。
【0106】
押出機41は、図示を省略したホッパーから供給された樹脂材料を溶融し、Tダイ42に供給する。Tダイ42は一の字状の開口を有するダイスであり、押出機41から供給された樹脂材料を、成形しようとするフィルム幅まで広げて吐出する。ロール状原盤43は、Tダイ42から吐出されるフィルムに凹凸形状を転写する。厚さ調整ロール44は、Tダイ42から吐出されるフィルムの厚さを調整する。巻き取りロール45は、成形された帯状の第1の光学層4を巻き取る。
【0107】
[指向反射体の製造装置]
図13は、本発明の第1の実施形態に係る指向反射体を製造するための製造装置の一構成例を示す概略図である。図13に示すように、この製造装置は、基材供給ロール51、光学層供給ロール52、巻き取りロール53、ラミネートロール54、55、ガイドロール56〜60、塗布装置61、および照射装置62を備える。
【0108】
基材供給ロール51および光学層供給ロール52はそれぞれ、帯状の基材5aおよび帯状の反射層付き光学層9がロール状に巻かれ、ガイドロール56、57などにより基材5aおよび反射層付き光学層9を連続的に送出できるように配置されている。図中の矢印は、基材5aおよび反射層付き光学層9が搬送される方向を示す。反射層付き光学層9は、反射層3が形成された第2の光学層5である。
【0109】
巻き取りロール53は、この製造装置により作製された帯状の指向反射体1を巻き取りできるように配置されている。ラミネートロール54、55は、光学層供給ロール52から送出された反射層付き光学層9と、基材供給ロール51から送出された基材5aとをニップできるように配置されている。ガイドロール56〜60は、帯状の反射層付き光学層9、帯状の基材5a、および帯状の指向反射体1を搬送できるように、この製造装置内の搬送路に配置されている。ラミネートロール54、55およびガイドロール56〜60の材質は特に限定されるものではなく、所望とするロール特性に応じてステンレスなどの金属、ゴム、シリコーンなどを適宜選択して用いることができる。
【0110】
塗布装置61は、例えば、コーターなどの塗布手段を備える装置を用いることができる。コーターとしては、例えば、塗布する樹脂組成物の物性などを考慮して、グラビア、ワイヤバー、およびダイなどのコーターを適宜使用することができる。照射装置62は、例えば、電子線、紫外線、可視光線、またはガンマ線などの電離線を照射する照射装置である。
【0111】
[指向反射体の製造方法]
以下、図12〜図16を参照して、本発明の第1の実施形態に係る指向反射体の製造方法の一例について説明する。なお、以下に示す製造プロセスの一部または全部は、生産性を考慮して、ロール・ツー・ロールにより行われることが好ましい。但し、金型の作製工程は除くものとする。
【0112】
まず、図14Aに示すように、例えばバイト加工またはレーザー加工などにより、構造体4cの反転形状を有する原盤21を形成する。原盤21としては、ロール状原盤43を用いることが好ましい。ロール・ツー・ロールにより連続的に帯状の第1の光学層4を成形することができるからである。次に、図14Bに示すように、例えば溶融押し出し法または転写法などを用いて、上記原盤21の凹凸形状をフィルム状の樹脂材料に転写する。転写法としては、型にエネルギー線硬化型樹脂を流し込み、エネルギー線を照射して硬化させる方法、または樹脂に熱や圧力を加え、形状を転写する方法などが挙げられる。これにより、図14Cに示すように、一主面に構造体4cを有する第1の光学層4が形成される。
【0113】
ここで、図12に示す成形装置を用いて、樹脂に熱や圧力を加え、形状を転写する方法について具体的に説明する。まず、樹脂材料を押出機41により溶融してTダイ42に順次供給し、Tダイ42からフィルムを連続的に吐出させる。次に、Tダイ42から吐出されたフィルムをロール状原盤43と厚さ調整ロール44とによりニップする。これにより、ロール状原盤43の凹凸形状がフィルムに転写される。
【0114】
次に、図15Aに示すように、第1の光学層4の凹凸面上に反射層3を形成する。これにより、反射層付き光学層9が作製される。反射層3の形成方法としては、例えば、物理的気相成長法および化学的気相成長法の少なくとも一方を用いることができ、スパッタリング法を用いることが好ましい。次に、図15Bに示すように、必要に応じて、反射層3に対してアニール処理31を施す。
【0115】
次に、図15Cに示すように、未硬化状態の樹脂22を反射層3上に塗布する。樹脂22としては、例えば、エネルギー線硬化型樹脂、または熱硬化型樹脂などを用いることができる。また、樹脂22が、架橋剤をさらに含んでいることが好ましい。室温での貯蔵弾性率を大きく変化させることなく、樹脂を耐熱化することができるからである。エネルギー線硬化型樹脂としては、紫外線硬化樹脂が好ましい。次に、図16Aのように、樹脂22上に基材5aを被せることにより、積層体を形成する。次に、図16Bに示すように、例えばエネルギー線32または加熱32により樹脂22を硬化させるとともに、必要に応じて、積層体に対して圧力33を加える。エネルギー線としては、例えば、電子線、紫外線、可視光線、ガンマ線、電子線などを用いることができ、生産設備の観点から、紫外線が好ましい。積算照射量は、樹脂の硬化特性、樹脂や基材の黄変抑制などを考慮して適宜選択することが好ましい。以上により、図16Cに示すように、反射層上に第2の光学層5が形成され、帯状の指向反射体1が得られる。
【0116】
ここで、図13に示す製造装置を用いて、第2の光学層の形成方法について具体的に説明する。まず、基材供給ロール51から基材5aを送出し、送出された基材5aは、ガイドロール56を経て塗布装置61の下を通過する。次に、塗布装置61の下を通過する基材5a上に、塗布装置61により電離線硬化樹脂を塗布する。次に、電離線硬化樹脂が塗布された基材5aをラミネートロールに向けて搬送する。一方、光学層供給ロール52から反射層付き光学層9を送出し、ガイドロール57を経てラミネートロール54、55に向けて搬送する。
【0117】
次に、基材5aと反射層付き光学層9との間に気泡が入らないように、搬入された基材5aと反射層付き光学層9とをラミネートロール54、55により挟み合わせ、基材5aに対して反射層付き光学層9をラミネートする。次に、反射層付き光学層9によりラミネートされた基材5aを、ラミネートロール55の外周面に沿わせながら搬送するとともに、照射装置62により基材5a側から電離線硬化樹脂に電離線を照射し、電離線硬化樹脂を硬化させる。これにより、基材5aと反射層付き光学層9とが電離線硬化樹脂を介して貼り合わされ、目的とする長尺の指向反射体1が作製される。次に、作製された帯状の指向反射体1をロール58、59、60を介して巻き取りロール53に搬送し、指向反射体1を巻き取りロール53により巻き取る。これにより、帯状の指向反射体1が巻回された原反が得られる。
【0118】
[指向反射体の貼り合わせ方法]
図17A、図17Bは、本発明の第1の実施形態に係る指向反射体の貼り合わせ方法の一例を説明するための略線図である。ビルディングなどの近年の高層建築物に設けられた窓材10は、横幅に比べて縦幅の方が大きい矩形状のものが一般的である。したがって、以下では、このような形状を有する窓材10に対して指向反射体1を貼り合わせる例について説明する。
【0119】
まず、ロール状に巻回された指向反射体(いわゆる原反)1から、帯状の指向反射体1を巻き出し、貼り合わせる窓材10の形状に合わせて適宜裁断し、矩形状の指向反射体1を得る。この矩形状の指向反射体1は、図17Aに示すように、対向する1組みの長辺Laと、対向する1組みの短辺Lbとを有する。矩形状の指向反射体1の長辺Laと、指向反射体1の入射面内におけるコーナーキューブの稜線lcとが略平行となっている。すなわち、矩形状の指向反射体1の長手方向DLと、指向反射体1の入射面内におけるコーナーキューブの稜線lcの方向とが略平行となっている。
【0120】
次に、裁断した指向反射体1の一方の短辺Lbを、矩形状の窓材10の上端に位置する短辺10aに位置合わせする。次に、矩形状の指向反射体1を貼り合わせ層6などを介して窓材10の上端から下端に向かって順次貼り合わせる。これにより、指向反射体1の他方の短辺Lbが、矩形状の窓材10の他端に位置する短辺10bに位置合わせされる。次に、必要に応じて、窓材10に貼り合わされた指向反射体1の表面を押圧などして、窓材10と指向反射体1との間に混入した気泡を脱気する。以上により、指向反射体1の入射面内におけるコーナーキューブの稜線lcと、高層建築物などの建築物の高さ方向DHとが略平行となるように、矩形状の指向反射体1が窓材10に貼り合わされる。
【0121】
[指向反射体の貼り合わせ方向]
図18A、図18Bは、貼り合わせ方向による指向反射体1の反射機能の相違を説明するための略線図である。
【0122】
図18Aでは、指向反射体1の入射面内におけるコーナーキューブの稜線lcと、建築物の高さ方向DHとが略平行となるように、指向反射体1を窓材10に貼り合わさせた建築物200の例が示されている。すなわち、上述の指向反射体の貼り合わせ方法により、指向反射体1を窓材10に対して貼り合わせた例が示されている。このように指向反射体1を窓材10に貼り合わせた場合には、指向反射体1の反射機能を有効に発現させることができる。したがって、上方向から窓材10に入射した光の多くを、上方向に反射することができる。すなわち、窓材10の上方反射率を向上させることができる。
【0123】
図18Bでは、指向反射体1の入射面内におけるコーナーキューブの稜線lcと、建築物の高さ方向DHとが30°の角度をなすように、指向反射体1を窓材10に貼り合わせた建築物300の例が示されている。このように指向反射体1を窓材10に貼り合わせた場合には、指向反射体1の反射機能を有効に発現させることができなくなる。したがって、上方向から窓材10に入射した光が、下方向に反射される割合が増加してしまう。すなわち、窓材10の上方反射率が低下してしまう。
【0124】
上述したように、本発明の第1の実施形態によれば、指向反射体1の入射面内におけるコーナーキューブの稜線lcの方向を、帯状または矩形状の指向反射体1の長手方向DLと略平行としている。したがって、帯状の指向反射体1、またはそれから切り出された矩形状の指向反射体1の長手方向DLと、建築物の高さ方向DHとがほぼ平行となるように、指向反射体1を建築物の窓材10に貼り合わせることで、指向反射体1の反射機能を有効に発現させることができる。したがって、指向反射体1が適用された窓材10の上方反射率を向上することができる。
【0125】
原盤としてロール状原盤を用いた場合には、ロール・ツー・ロールにより指向反射体1を連続的に作製することができる。したがって、窓材などのように大きなサイズの被着体に適用可能な指向反射体1を作製することができる。これに対して、バッチ毎に溶融成形するなどの方法では、窓材などのように大きなサイズの被着体に適用可能な指向反射体1を作製することは困難である。
【0126】
バイト加工またはレーザー加工などにより、ロール状原盤の円柱面にシームレスに凹凸形状を形成することが好ましい。このようなロール状原盤を用いて、ロール・ツー・ロールにより指向反射体1を連続的に作製した場合には、第1の光学層4または第2の光学層5上に凹凸形状をシームレスに成形することができる。したがって、窓材などのような大きなサイズの被着体に適用可能な指向反射体1を作製することができる。これに対して、平板状のコーナーキューブ原盤をロールに巻き付けてロール状原盤を作製した場合には、第1の光学層4または第2の光学層5上の凹凸形状に繋ぎ目が生じてしまう。したがって、窓材などのような大きなサイズの被着体に適用可能な指向反射体1を作製することは困難となる。
【0127】
第1の実施形態に係る加工方法により被加工体100を加工し、ロール状原盤43を形成した場合には、1つのコーナーキューブを形成する3面の反射側面のうち2面が曲面となり、残りの1面が平面となる。このようなコーナーキューブが形成されたロール状原盤43を用いて再帰反射体1を作製すると、光線の入射角特性に優れた再帰反射体1が得られる。また、継ぎ目の無い帯状の再帰反射体1を得ることができる。
【0128】
<変形例>
以下、上記実施形態の変形例について説明する。
【0129】
[第1の変形例]
図19Aは、本発明の第1の実施形態の第1の変形例を示す断面図である。図19Aに示すように、この第1の変形例に係る指向反射体1は、凹凸形状の入射面S1を有している。この入射面S1の凹凸形状と、第1の光学層4の凹凸形状とは、例えば、両者の凹凸形状が対応するように形成されており、凸部の頂部と凹部の最下部との位置が一致している。入射面S1の凹凸形状は、第1の光学層4の凹凸形状よりもなだらかであることが好ましい。
【0130】
[第2の変形例]
図19Bは、本発明の第1の実施形態の第2の変形例を示す断面図である。図19Bに示すように、この第2の変形例に係る指向反射体1では、反射層3が形成された第1の光学層4の凹凸面のうちの凸形状頂部の位置が、第1の光学層4の入射面S1とほぼ同一の高さとなるように形成されている。
【0131】
<第2の実施形態>
[指向反射体の構成]
図20Aは、第1の光学層の凹凸面の形状の一例を示す平面図である。図20Bは、図20Aに示した第1の光学層のB−B線に沿った断面図である。図21は、図20Aに示した第1の光学層の凹凸面の一部を拡大して示す拡大平面図である。第2実施形態に係る指向反射体1は、第1の光学層4の凹凸面内において3つの稜線方向a、b、cのうち、1つの稜線方向cが、帯状の指向反射体1の短手方向(幅方向)DWと略平行の関係にある点において、第1の実施形態に係る指向反射体1とは異なっている。なお、帯状の指向反射体1の短手方向DWと長手方向DLとは互いに直行する関係にある。
【0132】
入射面内のコーナーキューブの稜線lcの方向が、帯状の形状を有する指向反射体1の短手方向DWと略平行の関係にある。ここで、略平行とは、入射面内のコーナーキューブの稜線lcと指向反射体1の長手方向とのなす角が±10°以下であることをいい、なす角が0°の完全な平行も含まれる。指向反射体1の入射面内におけるコーナーキューブの稜線lcの方向は、第1の光学層4の凹凸面内において3つの稜線方向a、b、cのうち、1つの稜線方向cと略平行の関係にある。
【0133】
(被加工体)
図22Aは、被加工体の概観を示す斜視図である。図22Bは、図22Aに示した被加工体の展開図である。図22A、図22Bに示すように、被加工体表面には、角度αの方向に向かうV字状溝83aと、角度−αの方向に向かうV字状溝83bと、角度βの方向に向かうV字状溝83cとが形成されている。角度αが0°<α<90°の範囲内であり、角度−αが−90°<−α<0°の範囲内であり、角度βが0°であることが好ましい。被加工体表面に形成される各V字状溝83a、83b、83cの角度(α、−α、β)は、角度(60°、−60°、0°)であることが好ましい。
【0134】
[被加工体の加工方法]
まず、第1の実施形態と同様にして、角度α(例えば角度60°)、および角度−α(例えば角度−60°)の2方向に向かう多数のV字状溝83a、83bを被加工体表面に形成する。次に、被加工体100の切削加工領域Rの一端にバイト96を戻すとともに、角度α、角度−αの方向に向かうV字状溝83a、83bの交点をβ方向に向かうV字状溝83cが通るようにバイト96の先端位置を調整する。次に、第2のスライド部94を駆動し、バイト96を切削加工領域Rの一端に一定の力で押し当て、切削加工領域Rの他端に向けてバイト96を移動させる。これにより、角度β(角度0°)の方向に向かうV字状溝83cが被加工体表面に形成される。上述した切削加工を、被加工体100のラジアル方向に所定ピッチでバイト96の先端を移動させながら繰り返す。これにより、角度βの方向に向かう多数のV字状溝83cが被加工体表面に形成される。
以上により、目的とするロール状原盤43が得られる。
【0135】
[指向反射体の貼り合わせ方法]
図23A、図23Bは、本発明の第2の実施形態に係る指向反射体の貼り合わせ方法の一例を説明するための略線図である。
【0136】
まず、ロール状に巻回された指向反射体(いわゆる原反)1から、帯状の指向反射体1を巻き出し、貼り合わせる窓材10の形状に合わせて適宜裁断し、矩形状の指向反射体1を得る。この矩形状の指向反射体1は、図23Aに示すように、対向する1組みの長辺Laと、対向する1組みの短辺Lbとを有する。矩形状の指向反射体1の短辺Lbと、指向反射体1の入射面内におけるコーナーキューブの稜線lcとが略平行となっている。すなわち、矩形状の指向反射体1の短手方向DWと、指向反射体1の入射面内におけるコーナーキューブの稜線lcの方向とが略平行となっている。
【0137】
次に、裁断した指向反射体1の一方の長辺Laを、矩形状の窓材10の上端に位置する短辺10aに位置合わせする。次に、矩形状の指向反射体1を貼り合わせ層6などを介して窓材10の上端から下端に向かって順次貼り合わせる。次に、必要に応じて、窓材10に貼り合わされた指向反射体1の表面を押圧などして、窓材10と指向反射体1との間に混入した気泡を脱気する。次に、上述のようにして窓材10に貼り合わされた指向反射体1に隣接して指向反射体1を貼り合わせる作業を繰り返す。以上により、指向反射体1の入射面内におけるコーナーキューブの稜線lcと、高層建築物などの建築物の高さ方向DHとが略平行となるように、矩形状の指向反射体1が窓材10に貼り合わされる。
【0138】
<3.第3の実施形態>
第3の実施形態は、特定波長の光を指向反射するのに対して、特定波長以外の光を散乱させる点において、第1の実施形態とは異なっている。指向反射体1は、入射光を散乱する光散乱体を備えている。この散乱体は、例えば、光学層2の表面、光学層2の内部、および反射層3と光学層2との間のうち、少なくとも1箇所に設けられている。光散乱体は、好ましくは、反射層3と第1の光学層4との間、第1の光学層4の内部、および第1の光学層4の表面のうちの少なくとも一箇所に設けられている。指向反射体1を窓材などの支持体に貼り合わせる場合、室内側および室外側のどちらにも適用可能である。指向反射体1を室外側に対して貼り合わせる場合、反射層3と窓材などの支持体との間にのみ、特定波長以外の光を散乱させる光散乱体を設けることが好ましい。指向反射体1を窓材などの支持体に貼り合わせる場合、反射層3と入射面との間に光散乱体が存在すると、指向反射特性が失われてしまうからである。また、室内側に指向反射体1を貼り合せる場合には、その貼り合わせ面とは反対側の出射面と、反射層3との間に光散乱体を設けることが好ましい。
【0139】
図24Aは、本発明の第3の実施形態に係る指向反射体の第1の構成例を示す断面図である。図24Aに示すように、第1の光学層4は、樹脂と微粒子11とを含んでいる。微粒子11は、第1の光学層4の主構成材料である樹脂とは異なる屈折率を有している。微粒子11としては、例えば、例えば有機微粒子および無機微粒子の少なくとも1種を用いることができる。また、微粒子11としては、中空微粒子を用いてもよい。微粒子11としては、例えば、シリカ、アルミナなどの無機微粒子、スチレン、アクリル、やそれらの共重合体などの有機微粒子が挙げられるが、シリカ微粒子が特に好ましい。
【0140】
図24Bは、本発明の第3の実施形態に係る指向反射体の第2の構成例を示す断面図である。図24Bに示すように、指向反射体1は、第1の光学層4の表面に光拡散層12をさらに備えている。光拡散層12は、例えば、樹脂と微粒子とを含んでいる。微粒子としては、第1の例と同様のものを用いることができる。
【0141】
図24Cは、本発明の第3の実施形態に係る指向反射体の第3の構成例を示す断面図である。図24Cに示すように、指向反射体1は、反射層3と第1の光学層4との間に光拡散層12をさらに備えている。光拡散層12は、例えば、樹脂と微粒子とを含んでいる。微粒子としては、第1の例と同様のものを用いることができる。
【0142】
第3の実施形態によれば、赤外線などの特定波長帯の光を指向反射し、可視光などの特定波長対以外の光を散乱させることができる。したがって、指向反射体1を曇らせて、指向反射体1に対して意匠性を付与することができる。
【0143】
<4.第4の実施形態>
図25は、本発明の第4の実施形態に係る指向反射体の一構成例を示す断面図である。第4の実施形態において、第1の実施形態と同一の箇所には同一の符号を付して説明を省略する。第4の実施形態は、窓材101上に反射層3を直接形成している点において、第1の実施形態とは異なっている。
【0144】
窓材101は、対向する1組みの長辺と、対向する1組みの短辺とを有する矩形状である。窓材101の長辺と建築物の高さ方向とが略平行となるように、窓材101は建築物の壁面などに設けられている。指向反射体1の入射面内におけるコーナーキューブの稜線lcの方向と、矩形状の窓材101の長手方向とが略平行の関係にある。
【0145】
窓材101は、その一主面に複数の構造体102を有する。この複数の構造体102が形成された一主面上に、反射層3、光学層103が順次積層されている。構造体102の形状としては、第1の実施形態における構造体4cと同様の形状を用いることができる。光学層103は、透過像鮮明度や全光線透過率を向上するとともに、反射層3を保護するためのものでもある。光学層103は、例えば、熱可塑性樹脂、または電離線硬化樹脂を主成分とする樹脂を硬化してなるものである。
【0146】
第4の実施形態に係る指向反射体1では、第1の実施形態と同様の効果を得ることができる。
【0147】
<5.第5の実施形態>
図26は、本発明の第5の実施形態に係る指向反射体の一構成例を示す断面図である。第5の実施形態は、指向反射体1の入射面S1および出射面S2のうち、被着体に貼り合わされる面とは反対側の露出面上に、洗浄効果を発現する自己洗浄効果層110をさらに備えている点において、第1の実施形態とは異なっている。自己洗浄効果層110は、例えば、光触媒を含んでいる。光触媒としては、例えば、TiO2を用いることができる。
【0148】
上述したように、指向反射体1は入射光を半透過する点に特徴を有している。指向反射体1を屋外や汚れの多い部屋などで使用する際には、表面に付着した汚れにより光が散乱され透過性および反射性が失われてしまうため、表面が常に光学的に透明であることが好ましい。そのため、表面が撥水性や親水性などに優れ、表面が自動的に洗浄効果を発現することが好ましい。
【0149】
第5の実施形態によれば、指向反射体1が自己洗浄効果層を備えているので、撥水性や親水性などを入射面に付与することができる。したがって、入射面に対する汚れなどの付着を抑制し、指向反射特性の低減を抑制できる。
【0150】
<6.第6の実施形態>
図27Aは、本発明の第6の実施形態に係る指向反射体の一構成例を示す断面図である。第6の実施形態において、第1の実施形態と同一の箇所には同一の符号を付して説明を省略する。図27Aに示すように、第6の実施形態に係る指向反射体1は、光学層2aの凹凸面が樹脂材料などにより包埋されてはおらず、光学層2aの凹凸面上に形成された反射層3が露出している点において、第1の実施形態とは異なっている。指向反射体1は、太陽光などの光が入射する凹凸形状の入射面S1と、この入射面S1より入射した光のうち、指向反射体1を透過した光が出射される出射面S2とを有する。
【0151】
指向反射体1が、必要に応じて、光学層2aの出射面S2に基材2bをさらに備えるようにしてもよい。また、指向反射体1が、必要に応じて、光学層2aの出入射面S2上、または基材2b上に、貼り合わせ層6、および剥離層7を備えるようにしてもよい。光学層2a、基材2bとしては、上述の第1の実施形態における第1の光学層4、基材4aと同様のものを用いることができる。
【0152】
図27Bは、本発明の第6の実施形態に係る指向反射体を被着体に貼り合わせた例を示す断面図である。図27Bに示すように、指向反射体1の入射面S2が、例えば、貼り合わせ層6を介して被着体10cに対して貼り合わされる。被着体10cとしては、窓材、ブラインド、ロールスクリーン、プリーツスクリーンなどが好ましい。
【0153】
第6の実施形態によれば、反射層3が形成された光学層2aの凹凸面を入射面S1としているので、入射する光の一部は入射面S1により散乱されるのに対して、散乱されなかった光の一部が指向反射体1を透過する。したがって、入射光により光の明るさを感じることはできるが、不透明であるという指向反射体1を得ることができる。このような特性を有するため指向反射体1は、プライバシーが要求される内装部材、外装部材、および日射遮蔽部材など、より具体的には窓材、ブラインド、ロールスクリーン、およびプリーツスクリーンなどに適用して好適である。
【0154】
<7.第7の実施形態>
上述の第1の実施形態では、本発明を窓材などに適用する場合を例として説明したが、本発明はこの例に限定されるものではなく、窓材以外の内装部材や外装部材などに適用することが可能である。また、本発明は壁や屋根などのように固定された不動の内装部材および外装部材のみならず、季節や時間変動などに起因する太陽光の光量変化に応じて、太陽光の透過量および/または反射量を内装部材または外装部材を動かして調整し、屋内などの空間に取り入れ可能な装置にも適用可能である。第7の実施形態では、このような装置の一例として、複数の日射遮蔽部材からなる日射遮蔽部材群の角度を変更することにより、日射遮蔽部材群による入射光線の遮蔽量を調整可能な日射遮蔽装置(ブラインド装置)について説明する。
【0155】
図28は、本発明の第7の実施形態に係るブラインド装置の一構成例を示す斜視図である。図28に示すように、日射遮蔽装置であるブラインド装置は、ヘッドボックス203と、複数のスラット(羽)202aからなるスラット群(日射遮蔽部材群)202と、ボトムレール204とを備える。ヘッドボックス203は、複数のスラット202aからなるスラット群202の上方に設けられている。ヘッドボックス203からラダーコード206、および昇降コード205が下方に向かって延びており、これらのコードの下端にボトムレール204が吊り下げられている。日射遮蔽部材であるスラット202aは、例えば、細長い矩形状を有し、ヘッドボックス203から下方に延びるラダーコード206により所定間隔で吊り下げ支持されている。また、ヘッドボックス203には、複数のスラット202aからなるスラット群202の角度を調整するためのロッドなどの操作手段(図示省略)が設けられている。
【0156】
ヘッドボックス203は、ロッドなどの操作手段の操作により応じて、複数のスラット202aからなるスラット群202を回転駆動することにより、室内などの空間に取り込まれる光量を調整する駆動手段である。また、ヘッドボックス203は、昇降操作コード207などの操作手段の適宜操作に応じて、スラット群202を昇降する駆動手段(昇降手段)としての機能も有している。
【0157】
図29Aは、スラットの第1の構成例を示す断面図である。図29Aに示すように、スラット202は、基材211と、指向反射体1とを備える。指向反射体1は、基材211の両主面のうち、スラット群202を閉じた状態において外光が入射する入射面側(例えば窓材に対向する面側)に設けることが好ましい。指向反射体1と基材211とは、例えば、貼り合わせ層により貼り合される。
【0158】
基材211の形状としては、例えば、シート状、フィルム状、および板状などを挙げることができる。基材211の材料としては、ガラス、樹脂材料、紙材、および布材などを用いることができ、可視光を室内などの所定の空間に取り込むことを考慮すると、透明性を有する樹脂材料を用いることが好ましい。ガラス、樹脂材料、紙材、および布材としては、従来ロールスクリーンとして公知のものを用いることができる。指向反射体1としては、上述の第1〜第6実施形態に係る指向反射体1のうちの1種、または2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0159】
図29Bは、スラットの第2の構成例を示す断面図である。図29Bに示すように、第2の構成例は、指向反射体1をスラット202aとして用いるものである。指向反射体1は、ラダーコード206により支持可能であるとともに、支持した状態において形状を維持できる程度の剛性を有していることが好ましい。
【0160】
図29Cは、スラット群を閉じた状態において外光が入射する入射面側から見たスラットの平面図である。図29Cに示すように、スラット202aの短手方向DWとコーナーキューブの稜線方向cとが略一致することが好ましい。これは、上方への反射効率を向上させるためである。
【0161】
<8.第8の実施形態>
第8の実施形態では、日射遮蔽部材を巻き取る、または巻き出すことで、日射遮蔽部材による入射光線の遮蔽量を調整可能な日射遮蔽装置の一例であるロールスクリーン装置について説明する。
【0162】
図30Aは、本発明の第8の実施形態に係るロールスクリーン装置の一構成例を示す斜視図である。図30Aに示すように、日射遮蔽装置であるロールスクリーン装置301は、スクリーン302と、ヘッドボックス303と、芯材304とを備える。ヘッドボックス303は、チェーン305などの操作部を操作することにより、スクリーン302を昇降可能に構成されている。ヘッドボックス303は、その内部にスクリーンを巻き取り、および巻き出すための巻軸を有し、この巻軸に対してスクリーン302の一端が結合されている。また、スクリーン302の他端には芯材304が結合されている。スクリーン302は可撓性を有し、その形状は特に限定されるものではなく、ロールスクリーン装置301を適用する窓材などの形状に応じて選択することが好ましく、例えば矩形状に選ばれる。
【0163】
図30Aに示すように、スクリーン302の巻き出しまたは巻き取り方向DRとコーナーキューブの稜線方向cとが略一致することが好ましい。これは、上方への反射効率を向上させるためである。
【0164】
図30Bは、スクリーン302の一構成例を示す断面図である。図30Bに示すように、スクリーン302は、基材311と、指向反射体1とを備え、可撓性を有していることが好ましい。指向反射体1は、基材211の両主面のうち、外光を入射させる入射面側(窓材に対向する面側)に設けることが好ましい。指向反射体1と基材311とは、例えば、貼り合わせ層により貼り合される。なお、スクリーン302の構成はこの例に限定されるものではなく、指向反射体1をスクリーン302として用いるようにしてもよい。
【0165】
基材311の形状としては、例えば、例えば、シート状、フィルム状、および板状などを挙げることができる。基材311としては、ガラス、樹脂材料、紙材、および布材などを用いることができ、可視光を室内などの所定の空間に取り込むことを考慮すると、透明性を有する樹脂材料を用いることが好ましい。ガラス、樹脂材料、紙材、および布材としては、従来ロールスクリーンとして公知のものを用いることができる。指向反射体1としては、上述の第1〜第6の実施形態に係る指向反射体1のうちの1種、または2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0166】
<9.第9の実施形態>
第9の実施形態では、指向反射性能を有する光学体に採光部を備える建具(内装部材または外装部材)に対して本発明を適用した例について説明する。
【0167】
図31Aは、本発明の第9の実施形態に係る建具の一構成例を示す斜視図である。図31Aに示すように、建具401は、その採光部404に光学体402を備える構成を有している。具体的には、建具401は、光学体402と、光学体402の周縁部に設けられる枠材403とを備える。光学体402は枠材403により固定され、必要に応じて枠材403を分解して光学体402を取り外すことが可能である。建具401としては、例えば障子を挙げることができるが、本発明はこの例に限定されるものではなく、採光部を有する種々の建具に適用可能である。
【0168】
図31Aに示すように、光学体402の高さ方向DHとコーナーキューブの稜線方向cとが略一致することが好ましい。これは、上方への反射効率を向上させるためである。
【0169】
図31Bは、光学体の一構成例を示す断面図である。図31Bに示すように、光学体402は、基材411と、指向反射体1とを備える。指向反射体1は、基材411の両主面のうち、外光を入射させる入射面側(窓材に対向する面側)に設けられる。指向反射体1と基材411とは、貼り合わせ層などにより貼り合される。なお、障子402の構成はこの例に限定されるものではなく、指向反射体1を光学体402として用いるようにしてもよい。
【0170】
基材411は、例えば、可撓性を有するシート、フィルム、または基板である。基材411としては、ガラス、樹脂材料、紙材、および布材などを用いることができ、可視光を室内などの所定の空欄に取り込むことを考慮すると、透明性を有する樹脂材料を用いることが好ましい。ガラス、樹脂材料、紙材、および布材としては、従来建具の光学体として公知のものを用いることができる。指向反射体1としては、上述の第1〜第6の実施形態に係る指向反射体1のうちの1種、または2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0171】
<10.第10の実施形態>
[加工装置]
図32は、本発明の第10の実施形態に係る加工装置の一構成例を示す概略図である。図32に示すように、第10の実施形態に係る加工装置は、バイト支持体95が2つのバイト96a、およびバイト96bを支持可能に構成されている点において、第1の実施形態に係る加工装置と異なっている。バイト96aは、角度αの方向に向かうV字状溝を形成するためのものであり、バイト96bは、角度−αの方向に向かうV字状溝を形成するためのものである。また、バイト96a、およびバイト96bのいずれも、被加工体表面に押し当てたときの角度を適宜することで、角度βの方向に向かうV字状溝を形成することも可能である。
【0172】
[被加工体の加工方法]
以下、上述の構成を有する加工装置を用いた被加工体の加工方法の一例について説明する。まず、2つのバイト96a、およびバイト96bのうち、バイト96aを用いる以外は、第1の実施形態と同様にして、被加工体100の切削加工領域Rの一端から、角度α(例えば角度30°)の方向に向かうV字状溝を形成する。この際、被加工体100を、例えば反時計回りの方向に回転駆動させる。
【0173】
次に、第2のスライド部94を駆動し、バイト96bを切削加工領域Rの他端に一定の力で押し当てるとともに、被加工体100を回転することにより、V字状溝の加工を開始する。この際、被加工体100をα方向のV字状溝を形成したときと同一の方向、例えば反時計回りの方向に回転駆動させる。次に、被加工体100の回転を保持するとともに、第1のスライド部93を駆動し、バイト96をZ軸方向に移動させる。この際、被加工体100の回転軸(C軸)に対してV字状溝が角度−α(例えば角度−30°)をなすように、被加工体100の回転速度と第1のスライド部93の移動速度とを同期させる。これにより、バイト96が被加工体表面に所定の軌跡を描いて、角度−αの方向に向かうV字状溝が形成される。次に、バイト96が切削加工領域Rの一端まで到達したら、第2のスライド部94を駆動し、被加工体表面からバイト96を離間させてV字状溝の加工を停止する。
【0174】
次に、切削加工領域Rの両端において被加工体100のラジアル方向に所定ピッチでバイト96の先端を移動させながら、上述した角度α、および角度−αに向かうV字状溝の切削加工を繰り返す。これにより、角度α、角度−αの方向に向かう多数のV字状溝が被加工体表面に形成される。
【0175】
次に、バイト96a、およびバイト96bのいずれかのバイトの位置を調整し、被加工体表面に押し当て、上述の第1の実施形態と同様にして、β方向のV字状溝を繰り返し形成する。
以上により、目的とするロール状原盤43が得られる。
【0176】
第10の実施形態に係る加工方法では、バイト96を往復させながら、角度α、および角度−αの方向に向かう2方向のV字状溝を形成することができるので、被加工体の加工効率を向上させることができる。
【実施例】
【0177】
以下、試験例によりこの発明を具体的に説明するが、この発明はこれらの試験例のみに限定されるものではない。
【0178】
(試験例1)
図33は、試験例1のシミュレーション条件を説明するための略線図である。
ORA(Optical Research Associates)社製照明設計解析ソフトウェアLight Toolsを用いて、以下のシミュレーション行い、上方反射率を求めた。
【0179】
まず、コーナーキューブパターンが最稠密充填された指向反射面SCCPを設定した。
以下に、指向反射面SCCPの設定条件を示す。
コーナーキューブのピッチ:100μm
コーナーキューブの頂角の角度:90°
【0180】
次に、光源Pとして仮想太陽光源(色温度6500K)を設定し、入射角(θ、φ)=(0°、0°)の方向から光を指向反射面SCCPに入射させ、入射角(θ、φ)=(0°、0°)〜(70°、0°)の範囲内でθを10°ずつ上げていった。
【0181】
なお、上方反射率は以下の式(1)により定義される。
上方反射率Rup=[(上方向の反射光パワーの総計)/(入射光パワーの総計)]×100 ・・・(1)
但し、入射光のパワー=(上方向の反射光のパワー)+(下方向の反射光のパワー)
上方向:反射角(θ、φ)=(θ、270°)〜(θ、90°)
下方向:反射角(θ、φ)=(θ、90°)〜(θ、270°)
但し、φ=90°、270°の方向は、上方向に含むものとする。入射角θは、0°≦θ≦90°の範囲である。
【0182】
図34は、上述のシミュレーションにより求められた上方反射率を示すグラフである。図34のグラフにおいて、横軸は、光の入射角度のθ、縦軸は上方反射率である。
【0183】
図34から、入射角度の増加に伴って、上方反射率が以下のように変化する傾向があることがわかる。まず、入射角θ=0°の場合、すなわち、指向反射面SCCPに対して垂直に光が入射した場合、上方反射率は約80%である。次に、入射角度を上げていき、入射角θ=20°に到達すると、上方反射率は100%となる。そして、入射角θ=20°以上の場合は、常に上方反射率は100%に維持される。
【0184】
(試験例2)
図35は、試験例2のシミュレーション条件を説明するための略線図である。
ORA(Optical Research Associates)社製照明設計解析ソフトウェアLight Toolsを用いて、以下のシミュレーション行い、上方反射率を求めた。
【0185】
まず、コーナーキューブが最稠密充填された指向反射面SCCPを設定した。
以下に、指向反射面SCCPの設定条件を示す。
コーナーキューブのピッチ:100μm
コーナーキューブの頂角の角度:90°
【0186】
次に、光源Pとして仮想太陽光源(色温度6500K)を設定し、入射角(θ、φ)=(30°、0°)の方向から光を指向反射面に入射させるとともに、指向反射面を時計回りに回転させて、上方反射率を求めた。ここで、指向反射面の回転は、その垂線nを回転軸として行った。なお、上方反射率は、上述の試験例1と同様に、式(1)により定義される。
【0187】
(試験例3)
入射角(θ、φ)=(45°、0°)に設定する以外は試験例2とすべて同様にして、上方反射率を求めた。
【0188】
(試験例4)
入射角(θ、φ)=(60°、0°)に設定する以外は試験例2とすべて同様にして、上方反射率を求めた。
【0189】
図36は、上述のシミュレーションにより求められた上方反射率を示すグラフである。
図36から、指向反射体1の回転に伴って、上方反射率が以下のように変化する傾向があることがわかる。
まず、回転角度αが0度であり、指向反射面SCCPの溝方向が入射角(θ、φ)のφ方向と平行となっている場合、入射角度のθが30度、45度、60度のいずれの場合についても、上方反射率は100%である。これは、上方向から入射した光は、いずれの入射角度θにおいても上方光に戻っていることを示している。
【0190】
次に、指向反射体1を時計回り方向に回転させていくと、回転角度の増加に従い、上方反射率は徐々に低下していく。そして、回転角度が30度に到達すると、指向反射面SCCPの溝方向は入射角(θ、φ)のφ方向と垂直となり、反射率がほぼ最低値となる。具体的には、上方反射率は、入射角度θ=45度においては約7%程度、入射角度θ=60度においては約20%程度に低下する。これは、入射角度θ=45度においては入射光のうち約93%程度が上方へ指向反射したが、約7%程度の光は指向反射せず、下方へ反射してしまっていることを示している。また、入射角度60度においては、入射光のうち約80%程度が上方へ指向反射したが、約20%程度の光は指向反射せず、下方へ反射してしまっていることを示している。
【0191】
そして、引き続き、指向反射面SCCPを回転させると、上方反射率は徐々に上昇していく。そして、回転角度が60度に到達すると、指向反射面SCCPの溝方向が入射角(θ、φ)のφ方向と再び平行になり、入射角度θが30度、45度、60度のいずれについても再び上方反射率は100%となる。さらに、指向反射面SCCPを回転させると、上方反射率は、上述の回転角度が0〜60度と同様の傾向を周期的に繰り返す。
【0192】
以上により、指向反射面SCCPの溝方向と光の入射角度(θ、φ)のφ方向とが略平行となる場合、指向反射面SCCPの反射機能を有効に発現させることができることがわかる。
【0193】
(実施例1)
まず、以下の構成を有するロール状の被加工体を準備した。
切削加工領域R:1000mm
直径d:250mm
外周:π×250mm=785.398mm
【0194】
次に、準備した被加工体を、図8に示した加工装置に取り付けた。次に、先端の開き角度70°32’のバイトを切削加工領域Rの一端に位置合わせした後、被加工体の回転速度とバイトの移動速度を同期させて、被加工体のC軸に対して角度30°の方向に向かうV字状溝を形成した。この角度30°の方向のV字状溝を形成する工程を、ロール状の被加工体のラジアル方向にバイトの先端を100μmのピッチでずらしながら繰り返した。
【0195】
次に、被加工体100を逆回転させる以外は角度30°の方向に向かうV字状溝を形成したのと同様にして、角度−30°方向に向かう多数のV字状溝を被加工体表面に形成した。これにより、角度30°、および角度−30°の2方向に向かう多数のV字状溝が被加工体表面に形成された。
【0196】
次に、バイトの位置を調整した後、バイト96を切削加工領域Rの一端に一定の力で押し当てるとともに、被加工体100を回転することにより、V字状溝の加工を開始した。次に、被加工体100の回転を保持するとともに、第1のスライド部93をZ軸上の同一位置に保持した。これにより、被加工体のC軸に対して角度90°の方向(ラジアル方向)に向かうV字状溝がバイトにより被加工体表面に形成されるとともに、2方向に向かうV字状溝の交点をバイトが通過した。この角度90°の方向に向かうV字状溝の切削加工を、切削加工領域Rの一端から他端まで、所定ピッチでバイト96の先端を移動させながら繰り返すことにより、角度βの方向に向かう多数のV字状溝を被加工体表面に形成した。これにより、被加工体表面にコーナーキューブパターンが形成された。
以上により、目的とするロール状原盤が得られた。
【0197】
次に、上述のようにして作製したロール状原盤のコーナーキューブパターンを、溶融押し出し成形されたPETシートに転写した。これにより、コーナーキューブパターンが一主面に形成された第1の光学層が得られた。
【0198】
次に、コーナーキューブパターンが成形された成形面に対し、五酸化二ニオブ層および銀層の交互多層膜を真空スパッタ法により製膜した。次に、交互多層膜上にアクリル系の紫外線硬化型樹脂組成物を塗布し、気泡を押し出した後に、PETフィルムを載置してUV光を照射することで紫外線硬化型樹脂組成物を硬化して、交互多層膜上に第2の光学層を形成した。これにより、目的とする光学フィルムが得られた。
【0199】
(上方反射率の評価)
上方反射率は以下の式(1)により定義される。
上方反射率Rup=[(上方向の反射光パワーの総計)/(入射光パワーの総計)]×100 ・・・(1)
但し、入射光のパワー=(上方向の反射光のパワー)+(下方向の反射光のパワー)
上方向:反射角(θ、φ)=(θ、270°)〜(θ、90°)
下方向:反射角(θ、φ)=(θ、90°)〜(θ、270°)
但し、φ=90°、270°の方向は、上方向に含むものとする。入射角θは、0°≦θ≦90°の範囲である。
上記測定方法としては、図37に示すように、平行度0.5°以下にコリメートされたハロゲン光源501を用い、ハーフミラー502で反射した光を入射光とし、サンプル503に照射し、分光器504により検出を行うことができる。サンプル503は入射光に対し垂直に配置し、サンプル面内で360°回転(φm)しながら、分光器504を0〜90°(θm)の範囲で走査することにより上方向の反射光パワー、及び下方向の反射光パワーを得ることができる。
【0200】
以上、この発明の実施形態および実施例について具体的に説明したが、この発明は、上述の実施形態に限定されるものではなく、この発明の技術的思想に基づく各種の変形が可能である。
【0201】
例えば、上述の実施形態および実施例において挙げた構成、形状、材料および数値などはあくまでも例に過ぎず、必要に応じてこれと異なる構成、形状、材料および数値などを用いてもよい。
【0202】
また、上述の実施形態の各構成は、本発明の主旨を逸脱しない限り、互いに組み合わせることが可能である。
【0203】
また、上述の実施形態では、ブランインド装置、およびロールスクリーン装置の駆動方式が手動式である場合を例として説明したが、ブランインド装置、およびロールスクリーン装置の駆動方式を電動式としてもよい。
【0204】
また、上述の実施形態では、光学フィルムを窓材などの被着体に貼り合わせる構成を例として説明したが、窓材などの被着体を光学フィルムの第1の光学層、または第2の光学層自体とする構成を採用するようにしてもよい。これにより、窓材などの光学体に予め指向反射の機能を付与することができる。
【0205】
上述の実施形態では、本発明を窓材、建具、ブラインド装置のスラット、およびロールスクリーン装置のスクリーンなどの内装部材または外装部材に適用した場合を例として説明したが、本発明はこの例に限定されるものではなく、上記以外の内装部材および外装部材にも適用可能である。
【0206】
本発明に係る光学体が適用される内装部材または外装部材としては、例えば、光学体自体により構成された内装部材または外装部材、指向反射体が貼り合わされた透明基材などにより構成された内装部材または外装部材などが挙げられる。このような内装部材または外装部材を室内の窓付近に設置することで、例えば、赤外線だけを屋外に指向反射し、可視光線を室内に取り入れることができる。したがって、内装部材または外装部材を設置した場合にも、室内照明の必要性が低減される。また、内装部材または外装部材による室内側への散乱反射も殆どないため、周囲の温度上昇も抑えることができる。また、視認性制御や強度向上など必要な目的に応じ、透明基材以外の貼り合わせ部材に適用することも可能である。
【0207】
また、上述の実施形態では、ブラインド装置、およびロールスクリーン装置に対して本発明を適用した例について説明したが、本発明はこの例に限定されるものではなく、室内または屋内に設置される種々の日射遮蔽装置に適用可能である。
【0208】
また、上述の実施形態では、日射遮蔽部材を巻き取る、または巻き出すことで、日射遮蔽部材による入射光線の遮蔽量を調整可能な日射遮蔽装置(例えばロールスクリーン装置)に本発明を適用した例について説明したが、本発明はこの例に限定されるものではない。例えば、日射遮蔽部材を折り畳むことで、日射遮蔽部材による入射光線の遮蔽量を調整可能な日射遮蔽装置に対しても本発明は適用可能である。このような日射遮蔽装置としては、例えば、日射遮蔽部材であるスクリーンを蛇腹状に折り畳むことで、入射光線の遮蔽量を調整するプリーツスクリーン装置を挙げることができる。
【0209】
また、上述の実施形態では、本発明を横型ブラインド装置(ベネシアンブラインド装置)に対して適用した例について説明したが、縦型ブラインド装置(バーチカルブラインド装置)に対しても適用可能である。
【符号の説明】
【0210】
1 指向反射体
2 光学層
3 反射層
4 第1の光学層
4a 第1の基材
4b 第1の樹脂層
4c 構造体
5 第2の光学層
5a 第2の基材
5b 第2の樹脂層
5c 構造体
6 貼り合わせ層
7 剥離層
8 ハードコート層
10 窓材
11 微粒子
12 光拡散層
S1 入射面
S2 出射面

【特許請求の範囲】
【請求項1】
帯状または矩形状を有するとともに、光が入射する入射面を有する光学層と、
上記光学層内に形成された、コーナーキューブ形状を有する反射層と
を備え、
上記反射層は、入射角(θ、φ)で上記入射面に入射した光を指向反射し、
上記コーナーキューブ形状の稜線の方向が、上記帯状または矩形状の光学層の長手方向と略平行である光学体。
(但し、θ:上記入射面に対する垂線l1と、上記入射面に入射する入射光または上記入射面から出射される反射光とのなす角、φ:上記コーナーキューブ形状の稜線と、上記入射光または上記反射光を上記入射面に射影した成分とのなす角)
【請求項2】
帯状または矩形状を有するとともに、光が入射する入射面を有する光学層と、
上記光学層の入射面上に形成された、コーナーキューブ形状を有する反射層と
を備え、
上記反射層は、入射角(θ、φ)で上記入射面に入射した光を指向反射し、
上記コーナーキューブの稜線の方向が、上記帯状または矩形状の光学層の長手方向と略平行である光学体。
(但し、θ:上記入射面に対する垂線l1と、上記入射面に入射する入射光または上記入射面から出射される反射光とのなす角、φ:上記コーナーキューブ形状の稜線と、上記入射光または上記反射光を上記入射面に射影した成分とのなす角)
【請求項3】
上記コーナーキューブ形状の稜線の方向が建築物の高さ方向と略平行となるように、上記コーナーキューブ形状が形成されている請求項1または2記載の光学体。
【請求項4】
上記反射層は、入射角(θ、φ)で上記入射面に入射した光のうち、特定波長帯の光を指向反射するのに対して、上記特定波長帯以外の光を透過する波長選択反射層である請求項1または2記載の光学体。
【請求項5】
上記指向反射する光が、主に波長帯域780nm〜2100nmの近赤外線である請求項1または2記載の光学体。
【請求項6】
上記波長選択反射層が、可視光領域において透明性を有する導電性材料を主成分とする透明導電層、または外部刺激により反射性能が可逆的に変化するクロミック材料を主成分とする機能層である請求項5記載の光学体。
【請求項7】
上記透過する波長の光に対する、JIS K−7105に準拠して測定した0.5mmの光学くしの透過写像鮮明度が、50以上である請求項5記載の光学体。
【請求項8】
上記透過する波長の光に対する、JIS K−7105に準拠して測定した0.125、0.5、1.0、2.0mmの光学くしの透過写像鮮明度の合計値が、230以上である請求項5記載の光学体。
【請求項9】
上記コーナーキューブ形状は、最稠密充填状態で2次元配列されている請求項1または2記載の光学体。
【請求項10】
上記光学層、および上記反射層は、可撓性を有し、ロール状に巻回可能に構成されている請求項1または2記載の光学体。
【請求項11】
5°以上60°以下の入射角度で上記光学層の両面のいずれか一方から入射し、上記光学層および上記反射層により反射された正反射光の色座標x、yの差の絶対値が、上記両面のいずれにおいても、0.05以下である請求項1または2記載の光学体。
【請求項12】
請求項1〜11のいずれか1項に記載の光学体を備える窓材。
【請求項13】
帯状または矩形状を有する光学体の長手方向と、建築物の高さ方向とが略平行となるように、上記光学体を上記建築物の窓材に貼り合わせる工程を備え、
上記光学体が、
光が入射する入射面を有する光学層と、
上記光学層内に形成された、コーナーキューブ形状を有する反射層と
を備え、
上記反射層は、入射角(θ、φ)で上記入射面に入射した光を指向反射し、
上記コーナーキューブ形状の稜線の方向が、上記帯状または矩形状の光学層の長手方向と略平行である光学体の貼り合わせ方法。
(但し、θ:上記入射面に対する垂線l1と、上記入射面に入射する入射光または上記入射面から出射される反射光とのなす角、φ:上記コーナーキューブ形状の稜線と、上記入射光または上記反射光を上記入射面に射影した成分とのなす角)
【請求項14】
コーナーキューブ形状を有する複数の構造体が形成された凹凸面を有する第1の光学層を形成する工程と、
上記第1の光学層の凹凸面上に反射層を形成する工程と、
上記反射層上に第2の光学層を形成する工程と
を備え、
上記第1の光学層、および上記第2の光学層は、帯状または矩形状の形状を有するとともに、光が入射する入射面を有する光学層を形成し、
上記反射層は、入射角(θ、φ)で上記入射面に入射した光を指向反射し、
上記コーナーキューブ形状の稜線の方向が、上記帯状または矩形状の光学層の長手方向と略平行である光学体の製造方法。
(但し、θ:上記入射面に対する垂線l1と、上記入射面に入射する入射光または上記入射面から出射される反射光とのなす角、φ:上記コーナーキューブ形状の稜線と、上記入射光または上記反射光を上記入射面に射影した成分とのなす角)
【請求項15】
上記第1の光学層の形成工程では、ロール状原盤の凹凸形状を樹脂に転写することにより、凹凸面を有する帯状または矩形状の第1の光学層を形成する請求項14記載の光学体の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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【図21】
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【図22】
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【図23】
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【図24】
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【図25】
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【図26】
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【図27】
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【図28】
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【図29】
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【図30】
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【図31】
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【図32】
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【図33】
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【図34】
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【図35】
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【図37】
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【図36】
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【公開番号】特開2011−180449(P2011−180449A)
【公開日】平成23年9月15日(2011.9.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−45779(P2010−45779)
【出願日】平成22年3月2日(2010.3.2)
【出願人】(000002185)ソニー株式会社 (34,172)
【Fターム(参考)】