説明

光学式3次元測定機の検査マスタ用基準部材

【課題】 光学式3次元測定機の精度検査や測定誤差の校正を接触式の3次元測定機と同様な方法で容易に行うことができる、検査マスタ用基準部材を提供する。
【解決手段】 光学式3次元測定機の精度検査に使用する検査マスタ7に取り付けて使用する基準部材10であって、この基準部材10は、3次元測定機から照射される測定光を反射する球面状の被測定面を有しており、前記被測定面に測定光を乱反射させるための複数の線状溝Mを当該被測定面の頂点で互いに交差するように形成してある。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光学式の3次元測定機の精度検査や測定誤差の校正を行うための検査マスタに取り付けて用いる基準部材に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、自動車用のエンジンや変速機のケース類のような機械部品類の寸法測定には、測定テーブル(ベッド)上にセッティングした被測定物に対してプローブ(測定子)の先端を接触させて測定を行うようにした3次元測定機が用いられている。
【0003】
このような3次元測定機は、測定精度を維持するために、高精度に仕上げられた基準となる検査マスタを用いて、定期的に精度の検査や測定誤差の校正が行われている。(特許文献1、2参照)
【特許文献1】特開2002−330428号公報
【特許文献2】特開2002−195820号公報
【0004】
これらの検査マスタは、3次元測定機のプローブが接触するための高精度に仕上げられた基準測定面を有する複数の基準部材を備えており、3次元測定機による異なる基準部材の基準測定面間の距離等の実測データを検査マスタの基準値と比較することにより、3次元測定機の精度を評価している。
【0005】
前述したような、被測定物にプローブの先端を接触させて測定する接触式の3次元測定機は、被測定面がプローブとの接触で、傷つく恐れがあったり、あるいは、簡単に変形を生じる素材で製作された被測定物の寸法測定には不向きであり、このような被測定物の場合には、寸法測定を非接触で行うことのできる光学式の3次元測定機が用いられている。
【0006】
光学式の3次元測定機は、被測定物に接触するプローブを備えておらず、代わりにレーザ光等の測定光を被測定面に照射し、その反射光を検出器で捉えて被測定面と検出器間の距離を測定する構造を備えている。(特許文献3参照)
【特許文献3】特表2004−504586号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
前述したような、光学式の3次元測定機においては、接触式の3次元測定機に用いられている従来の検査マスタでは、基準測定面に光学的に距離を測定するための指標が設けられていないため、光学式3次元測定機の精度検査や校正を、接触式の3次元測定機と同様には行うことができなかった。
【0008】
そこで、本発明は、前述したような問題を解決し、光学式3次元測定機の精度検査や測定誤差の校正を接触式の3次元測定機と同様な方法で容易に行うことができる、検査マスタ用基準部材を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
前記目的を達成するため、本発明の光学式3次元測定機の検査マスタ用基準部材は、3次元測定機から照射された測定光を反射する球面状の被測定面を有し、前記被測定面に前記測定光を乱反射させるための複数の線状溝を当該被測定面の頂点で互いに交差するように形成したものである。また、本発明においては、前記線状溝は被測定面の頂点を交点とする十字溝であることが望ましい。
【発明の効果】
【0010】
請求項1に記載された発明に係る光学式3次元測定機の検査マスタ用基準部材によれば、光学式3次元測定機の精度検査を行う場合に、球面状の被測定面の頂点で互いに交差するように複数の線状溝を形成してあるため、3次元測定機から被測定面に向けて照射された測定光が、線状溝で乱反射されるため、線状溝の画像を3次元測定機が備えたCCDカメラ等の光検出器によって明瞭に捉えることができ、被測定面の頂点である線状溝の交点の位置を高精度で測定することができる。
【0011】
また、請求項2に記載された発明に係る光学式3次元測定機の検査マスタ用基準部材によれば、被測定面に形成された線状溝が、被測定面の頂点を交点とする十字溝であるため、線状溝の形成が容易であるとともに、被測定面の頂点の位置を高精度且つ容易に測定することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
図1は、本発明の検査マスタ用基準部材を有する検査マスタを光学式3次元測定機(以下、単に3次元測定機という。)にセットした状態を示す斜視図である。
3次元測定機1は、被測定物を載置する測定テーブル2を有し、この測定テーブル2の両側に、同図に示すように、水平面内のX方向にスライド自在に支持された門型の可動フレーム3と、前記可動フレーム3にスライド自在に支持されて、水平面内でX方向と直角なY方向にスライド自在なヘッド部4と、前記ヘッド部4に対し上下方向、すなわちZ方向に上下動自在に支持された昇降筒5とを備えている。
【0013】
昇降筒5の内部には、図示していないが、被測定物に向けて測定光としてのレーザ光を照射するレーザ光源と、被測定物から反射されてきたレーザ光を受光するCCDカメラが内蔵されており、昇降筒5は、可動フレーム3、ヘッド部4、及び、昇降筒5をそれぞれ、X、Y、Z方向へ移動させることによって3次元で位置決めできるようになっている。
【0014】
3次元測定機1によって、エンジンブロック等のワークの仕上げ面の寸法測定等を行う通常の使用状態においては、測定テーブル2上にワークを載置して、昇降筒5の下端から照射されるレーザ光をワークの被測定面に当て、反射光をCCDカメラで捉えて3次元方向に位置を測定する。
【0015】
同図においては、測定テーブル3上には治具パレット6が取り付けられており、この治具パレット上に3次元測定機1の精度検査を行うための検査マスタ7が搭載されている。
【0016】
図2は、検査マスタ7の構造を示す斜視図であって、本実施形態においては、検査マスタ7は熱膨張が小さく寸法安定性に優れた石英ガラスを素材としてブロック状に一体に製作されたマスタ本体8と、このマスタ本体8にホルダ9を介して固定されている複数の球状の基準部材10から構成されている。
【0017】
マスタ本体8は、上面8Aが平坦に仕上げられ、側面は、円筒面の一部を4箇所平坦に削り落とした形状に仕上げられている。側面に形成された4箇所の平坦面8Bは全て同一形状であって、上面8Aとそれぞれ直角で且つ、円周方向に隣接するものどうし互いに直角に仕上げられている。
【0018】
基準部材10は、球形に形成されていて、マスタ本体8の上面8Aの中心から所定の半径の円周上に4個、側面のそれぞれの平坦面8Bの中央部に1個ずつ、合計8個が取り付けられている。
【0019】
図3は、マスタ本体8の上面8Aに取り付けられている基準部材10の取付構造を示す部分断面図であって、マスタ本体8は中空に形成されていて、その上面8Aと内側の中空部分との間は一様な肉厚で形成され、基準部材10の取付位置に対応させて、ホルダ9を挿入固定するための貫通孔8Cが形成されている。
【0020】
一方、ホルダ9は、本実施形態においては、熱膨張係数の小さい不変鋼によって形成されていて、貫通孔8Cに挿入される円筒部9Aと、上面8Aに当接する鍔部9Bを有しているとともに、その中心部には、貫通孔9Cが形成されていて、この貫通孔9Cの鍔部9B側端部の周縁は、基準部材10の球面に適合した凹曲面で構成される取付座面9Dとなっている。
【0021】
マスタ本体8の貫通孔8Cの内周面とホルダ9の円筒部9Aの外周面との間、マスタ本体8の上面8Aとホルダ9の鍔部9Bの下面との間、ならびに、ホルダ9の取付座面9Dと基準部材10の外周面との間はそれぞれ接着剤(市販の瞬間接着剤等)によって互いに固定されている。
【0022】
基準部材10は、セラミックスを素材とした高精度の球体に仕上げられていて、図4に示すように2本の短く微細な線状溝を該球体の頂点で互いに直交させて、十字溝Mを形成してある。なお、各線状溝は、球体の頂点を通過する大円の一部を構成する線分として、3本以上の線状溝を頂点で交差させるようにしてもよい。
【0023】
なお、基準部材10の素材は、熱膨張係数が小さく、温度変化に対して高い形状精度を保持できる素材、例えば、石英、水晶等で作成してもよい。また、基準部材10は、完全な球体でなく、線状溝が頂点で交差するように形成された半球体状に形成してもよく、この場合には、さらに、ホルダ9と一体的に不変鋼等で製作してもよい。
【0024】
マスタ本体8の側方の平坦面8Bに設けられている4つの基準部材10も、上面8Aに設けられているものと同様に、すなわち、前述した図3に示す取付構造によってマスタ本体8に取り付けられている。マスタ本体8に取り付けられている8つの基準部材10に設けられている十字溝Mは、全て基準部材10の球面の頂点近傍に形成されている。
【0025】
基準部材10に形成した十字溝Mに向けて、3次元測定機1の昇降筒5の下面から測定光としてのレーザ光Lを照射すると、該レーザ光Lは十字溝Mで乱反射してこの部分が十字状に輝いて反射光として昇降筒5に内蔵されたCCDカメラにその像が鮮明に捉えられるので、基準部材10の頂点と昇降筒5との相対的な位置関係を高精度で測定することができる。
【0026】
3次元測定機1の精度検査や測定誤差の校正を行う場合には、図1に示すように、3次元測定機1の測定テーブル2上に検査マスタ7を搭載した治具パレット6を固定し、可動フレーム3及びヘッド部4を水平面内でX、Y方向にそれぞれ移動させるとともに、昇降筒5をZ方向に移動して、マスタ本体8の上面8Aならびに側面の4カ所の平坦面8Bにそれぞれ取り付けられている8つの基準部材10の十字溝Mの交点の座標値をそれぞれ3次元測定機1によって測定し、例えば、検査マスタ7に設けられた2つの基準部材10のそれぞれの十字溝Mの交点間の距離を3次元測定機1によって実測して検査マスタ7に既定されている基準値と比較し、実測値と基準値との測定誤差に基づいて3次元測定機1の精度を評価することができ、また、前記測定誤差に基づいて3次元測定機1の校正を行うことができる。
【産業上の利用可能性】
【0027】
本発明の光学式3次元測定機の検査マスタ用基準部材は、レーザ光等の測定光を被測定物に照射し、その反射光によって、被測定物の各部寸法測定を行う光学式3次元測定機の技術分野において、光学式3次元測定機の精度検査や測定誤差の校正を行う場合に利用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【図1】本発明の検査マスタ用基準部材を有する検査マスタを光学式3次元測定機にセッティングした状態を示す斜視図である。
【図2】本発明の検査マスタ用基準部材の1実施形態を示す、検査マスタの斜視図である。
【図3】本発明の検査マスタ用基準部材の1実施形態を示す、マスタ本体上面への基準部材の取付構造を示す部分断面図である。
【図4】本発明の検査マスタ用基準部材の1実施形態を示す、基準部材の平面図である。
【符号の説明】
【0029】
1 3次元測定機
2 測定テーブル
3 可動フレーム
4 ヘッド部
5 昇降筒
6 治具パレット
7 検査マスタ
8 マスタ本体
8A 上面
8B 平坦面
8C 貫通孔
9 ホルダ
9A 円筒部
9B 鍔部
9C 貫通孔
9D 取付座面
10 基準部材
M 十字溝(線状溝)
L レーザ光(測定光)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
光学式3次元測定機の精度検査に使用する検査マスタ用基準部材であって、3次元測定機から照射された測定光を反射する球面状の被測定面を有し、前記被測定面に測定光を乱反射させるための複数の線状溝を当該被測定面の頂点で互いに交差するように形成したことを特徴とする光学式3次元測定機の検査マスタ用基準部材。
【請求項2】
線状溝が被測定面の頂点を交点とする十字溝であることを特徴とする請求項1記載の光学式3次元測定機の検査マスタ用基準部材。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2006−266972(P2006−266972A)
【公開日】平成18年10月5日(2006.10.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−87735(P2005−87735)
【出願日】平成17年3月25日(2005.3.25)
【出願人】(597113871)株式会社浅沼技研 (8)
【Fターム(参考)】