説明

光記録媒体およびその製造方法ならびにスパッタリングターゲット

【課題】 アーカイバル特性と高速でのオーバーライト特性とを両立することができるようにする。
【解決手段】 第1の基板11上に、記録再生光の入射方向から順に、上層誘電体層12、界面層13、記録層14、下層誘電体層15、反射層16が順次積層されて、その上に保護層17を介して第2の基板18が設けられる。記録層14がSnxInyGazSbw(但し、3≦x≦7、0≦y≦7、6.8≦w/z≦8.8)により構成される。x、yが3≦x≦7、0≦y≦7の範囲から外れると、高速で情報信号の記録を繰り返した場合にオーバーライト特性が低下してしまう。w/zが6.8未満であると、高速で情報信号の記録を繰り返した場合にオーバーライト特性が低下してしまう。反対にw/zが8.8を越えると記録マークの形成が困難になる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、非晶相と結晶相間の間の相変化により情報信号の記録および消去が行われる光記録媒体およびその製造方法ならびにその製造に用いられるスパッタリングターゲットに関するものである。
【背景技術】
【0002】
情報記録の高密度化、大容量化が進む中で、光記録媒体は有望視されている。光記録媒体はその用途に応じて再生専用型、追記型、書き換え型の3種類に大別できるが、その中でも、書き換え型の光記録媒体は、記録済の情報を消去して書き換えることができるので最も期待されている。このような書き換え型の光記録媒体のうち、代表的なものとして相変化型の光記録媒体がある。
【0003】
図7は、相変化型の光記録媒体の構成を示す。図7に示すように、この相変化型の光記録媒体110は、一般に、ポリカーボネートからなる第1の基板111上に、上層誘電体層112、相変化材料からなる記録層113、下層誘電体層114、反射層115を順次積層し、さらにその上に保護層(接着層)116を介して第2の基板117が貼り合わされてなるものである。このような構成の相変化型の光記録媒体110においては、第1の基板111の側から記録層113に照射されたレーザ光のパルス出力とパルス幅に対応させて、その照射部の相状態を、例えば結晶状態と非結晶状態との間で可逆的に移行または相転移させて情報の記録または消去を行う。
【0004】
従来、記録層の材料としてはカルコゲン系の材料が多く用いられている。カルコゲン系の材料としては、例えば、SbTe系、GeTe系材料をベースにして、保存耐久性の向上、結晶化速度の調整、変調度の向上等の目的で、Ge,Ag,Inなどの添加元素を加えたものが用いられている。かかる合金材料としては、例えば、GeSbTe系、InSbTe系、GeSnTe系、AgInSbTe系材料などがある。
【0005】
近年、情報量の増大に伴い、高速でオーバーライト(繰り返し記録)可能な相変化型の光記録媒体の開発が望まれている。この要望に応えるためには、更なる非晶質マークの高速結晶化が可能な相変化記録材料を記録層に用いることが必要となる。そこで、記録層の材料組成を調整することにより、結晶化速度を速くする研究が盛んになされている。
【0006】
例えば、Sb70Te30共晶点組成をベースとした材料では、非晶質マークを高速結晶化させるために、Sb/Te比率を上げることが提案されている(例えば、特許文献1参照)。このようにSb/Te比率を制御すると共に、必要に応じて添加元素量を調整することで、高速でのオーバーライトが可能となり、例えばDVD(Digital Versatile Disc)では4倍速程度までのオーバーライトが可能となる。
【0007】
また、近年では、GaSb系材料も広く用いられており、その中でもGa12Sb88共晶組成を基本とした材料は結晶化速度が大きく高速記録に好適であるため、広く用いられている(例えば、特許文献2参照)。
【0008】
【特許文献1】特開2001−344808号公報
【特許文献2】特開2005−22407号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、上述の記録層の材料では、さらに高速でのオーバーライトを実現しようとすると、アーカイバル特性(保存安定性)とオーバーライト特性との両立が困難となってしまうという問題が生じてしまう。特に、近年広く普及しつつあるDVDにおいて、4倍速を越えて、更に8倍速(28m/s)でのオーバーライトを実現しようとすると、アーカイバル特性とオーバーライト特性との両立を実現することは極めて困難となる。
【0010】
このような困難性の理由は、例えばSb70Te30共晶点組成をベースとした材料では以下にある。すなわち、さらに高速でのオーバーライトを実現するために、Sb/Te比率をさらに上げていくと非晶質マークの保存安定性が低下してしまう。そこで、これを補うために添加元素を加えて非晶質マークの保存安定性を向上させると、今度は過剰の添加元素により信号特性が劣化してしまう。
【0011】
また、上述の記録層の材料では、高速になるにつれて繰り返し記録2回目(DOW1)でのジッター値の悪化が顕著となることも問題とされている。本発明者の知見によれば、このDOW1でのジッター値上昇を抑えるためには、使用する材料に応じた初期化条件の制御が必要となる。
【0012】
したがって、この発明の目的は、アーカイバル特性と高速でのオーバーライト特性とを両立することができる光記録媒体およびその製造方法ならびにその製造に用いられるスパッタリングターゲットを提供することにある。
【0013】
また、この発明の目的は、繰り返し記録2回目(DOW1)でのジッター値の悪化を抑制することができる光記録媒体およびその製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0014】
上述の課題を解決するために、第1の発明は、基板上に、少なくとも上層誘電体層、記録層、下層誘電体層、反射層が順次積層されて構成された光記録媒体において、
記録層が下記一般式で表される材料からなることを特徴とする光記録媒体である。
SnxInyGazSbw
(但し、式中、3≦x≦7、0≦y≦7、6.8≦w/z≦8.8である。)
【0015】
第2の発明は、基板上に、少なくとも上層誘電体層、記録層、下層誘電体層、反射層を順次積層する光記録媒体の製造方法において、
記録層を下記一般式で表される材料により形成することを特徴とする光記録媒体の製造方法である。
SnxInyGazSbw
(但し、式中、3≦x≦7、0≦y≦7、6.8≦w/z≦8.8である。)
【0016】
第3の発明は、光記録媒体の記録層を形成するためのスパッタリングターゲットにおいて、
スパッタリングターゲットが、下記一般式で表される材料からなることを特徴とするスパッタリングターゲットである。
SnxInyGazSbw
(但し、式中、3≦x≦7、0≦y≦7、6.8≦w/z≦8.8である。)
【0017】
第1および第2の発明では、記録層の膜厚を10nm以上18nm以下にすることが好ましい。
【0018】
第1および第2の発明では、記録層と上層誘電体層との間に、タンタルの酸化物からなる界面層をさらに設けることが好ましい。
【0019】
第1および第2の発明では、界面層の膜厚を1nm以上7nm以下にすることが好ましい。
【0020】
第1および第2の発明では、下層誘電体層を、第1の下層誘電体と、第1の下層誘電体を構成する材料と反射層を構成する材料とが反応することを防止する第2の下層誘電体とから構成し、第1の下層誘電体層を硫化亜鉛と酸化シリコンとの混合体から構成し、第2の下層誘電体層を窒化シリコンから構成することが好ましい。
【0021】
第1および第2の発明では、未記録状態における反射率Rbと、繰り返し記録2回後のスペース部の反射率Raとの差ΔR=|Rb−Ra|が3%以内となるように、記録層を初期化することが好ましい。
【0022】
第1、第2および第3の発明では、x、yが3≦x≦7、0≦y≦7の範囲から外れると、高速で情報信号の記録を繰り返した場合にオーバーライト特性が低下してしまう。w/zが6.8未満であると、高速で情報信号の記録を繰り返した場合にオーバーライト特性が低下してしまう。反対にw/zが8.8を越えると記録マークの形成が困難になる。
【発明の効果】
【0023】
以上説明したように、この発明によれば、記録層をSnxInyGazSbw(但し、3≦x≦7、0≦y≦7、6.8≦w/z≦8.8)により構成するので、アーカイバル特性と高速でのオーバーライト特性との両立を実現することができる。
【0024】
また、未記録状態における反射率Rbと繰り返し記録2回後のスペース部の反射率Raの差ΔR=|Rb−Ra|が3%以内となるように記録層を初期化するので、繰り返し記録2回目(DOW1)でのジッター値の悪化を抑制することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0025】
以下、この発明の実施形態について図面を参照しながら説明する。なお、以下の実施形態の全図においては、同一または対応する部分には同一の符号を付す。
【0026】
光記録媒体の構成
図1は、この発明の第1の実施形態による光記録媒体の一構成例を示す断面図である。図1に示すように、この光記録媒体10は、第1の基板11の一主面上に、上層誘電体層12、界面層13、相変化記録層である記録層14、下層誘電体層15、反射層16が順次積層され、さらにその上に保護層(接着層)17を介して第2の基板18が貼り合わされてなる。また、下層誘電体層15は、記録層14上に、第1の下層誘電体層15a、バリア層である第2の下層誘電体層15bが順次積層されてなる。
【0027】
この光記録媒体10では、第1の基板11の側から記録層14にレーザ光を照射することにより、情報信号の記録および再生が行われる。例えば、650nm〜665nmの波長を有するレーザ光を、0.64〜0.66の開口数を有する対物レンズ1により集光し、第1の基板11の側から記録層14に照射することにより、情報信号の記録および再生が行われる。
【0028】
以下、この第1の実施形態による光記録媒体10を構成する第1の基板11、第2の基板18、上層誘電体層12、下層誘電体層15、界面層13、記録層14、反射層16、保護層17について順次説明する。
【0029】
(基板)
第1の基板11および第2の基板18は、中央にセンターホール(図示せず)が形成された円環形状を有し、第1の基板11、第2の基板18の厚さは、例えば0.6mmに選ばれる。また、第1の基板11の記録層14が形成される側の面には、ランドとグルーブ(溝)と称する凹凸パターンが設けられている。例えば、このグルーブを案内として光学スポットを光記録媒体10上の任意の位置へと移動できる。この凹凸パターンの形状としては、スパイラル状、同心円状、ピット列等、各種の形状を用いることができる。
【0030】
第1の基板11および第2の基板18の材料としては、ポリカーボネート系樹脂、ポリオレフィン系樹脂、アクリル系樹脂等のプラスチック材料がコスト等の点で優れているが、ガラスを用いることもできる。また、第1の基板11および第2の基板18の作製方法としては、例えば、射出成型法(インジェクション法)または紫外線硬化樹脂を使うフォトポリマー(2P法)を用いることができる。これ以外にも所望の形状と光学的に十分な基板表面の平滑性が得られる方法であれば用いることができる。
【0031】
(誘電体層)
上層誘電体層12および第1の下層誘電体層15aに用いる材料としては、記録再生用レーザ光の波長に対して吸収能のないものが望ましく、具体的には消衰係数kの値が0.3以下である材料が好ましい。かかる材料としては、例えばZnS−SiO2混合体(特にモル比約4:1)を挙げることができる。ただし、ZnS−SiO2混合体以外にも従来から光記録媒体の誘電体層の材料として用いられている公知のものを用いることも可能である。
【0032】
例えば、Al、Si、Ta、Ti、Zr、Nb、Mg、B、Zn、Pb、Ca、La、Ge等の金属および半金属等の元素の窒化物、酸化物、炭化物、フッ化物、硫化物、窒酸化物、窒炭化物、酸炭化物等からなる材料およびこれらを主成分とする材料を用いることができる。具体的には、AlNx(0.5≦x≦1)、特にAlN、Al23-x(0≦x≦1)、特にAl23、Si34-x(0≦x≦1)、特にSi34、SiOx(1≦x≦2)、特にSiO2、SiO、MgO、Y23、MgAl24、TiOx(1≦x≦2)、特にTiO2、BaTiO3、SrTiO3、Ta25-x(0≦x≦1)、特にTa25、GeOx(1≦x≦2)、SiC、ZnS、PbS、Ge−N、Ge−N−O、Si−N−O、CaF2、LaF、MgF2、NaF、ThF4等を挙げることができる。これらの材料単体またはこれらの材料を主成分とする材料を用いることができるのみならず、これらの材料の混合物、例えばAlN−SiO2を用いることも可能である。
【0033】
上層誘電体層12の膜厚は、好ましくは50〜250nmに選ばれ、例えば80nm程度に選ばれる。第1の誘電体層15aの膜厚は、好ましくは3〜20nmに選ばれ、例えば10nm程度に選ばれる。
【0034】
第1の下層誘電体層15bに用いる材料としては、第1の下層誘電体15aを構成する材料と反射層16を構成する材料とが反応することを防止できる材料を使用する。例えば、第1の誘電体層15aがZnS−SiO2混合体からなり、反射層16がAg合金からなる場合には、両層が接触すると銀(Ag)と硫黄(S)が反応し腐食が発生するため、これを防止するために第1の下層誘電体層15aと反射層16との間に、耐食性に優れ且つ硫黄を含有しない材料からなる第2の下層誘電体15bを設けるようにする。かかる材料としては、例えばSiNが選ばれる。
【0035】
第2の誘電体層15bの膜厚は、好ましくは5〜20nmに選ばれ、例えば10nm程度に選ばれる。
【0036】
(界面層)
界面層13の材料としては、Taの酸化物、例えばTa25を用いることができる。界面層13を設けることによりオーバーライト特性を向上できる。
【0037】
界面層13の膜厚は、好ましくは1〜7nmに選ばれる。1nm未満の厚さであると、均一な膜を形成することがことが困難であり、7nm以上を越える厚さであると変調度の低下を招き記録特性が悪化する。
【0038】
(記録層)
記録層14を形成する材料としては、レーザ光の照射を受けて可逆的な状態変化を生じる材料、すなわち相変化材料を用いることができる。かかる相変化材料としては、アモルファス状態と結晶状態との可逆的相変化を生じるものが好ましく、例えば、カルコゲン化合物あるいは単体のカルコゲン等を用いることができる。具体的には、GaSb共晶系材料をベースに添加元素としてSn、Inを加えたものを用いることができ、より具体的には、下記一般式で表される材料を用いることができる。
SnxInyGazSbw
(但し、式中、3≦x≦7、0≦y≦7、6.8≦w/z≦8.8である。)
【0039】
GaSb材料にSnを添加することにより結晶化速度が向上し、高速オーバーライト時のジッター値が低減する。Snの添加量は、好ましくは3原子%以上7原子%以下に選ばれる。Snの添加量が3原子%未満であると結晶化しにくくなり、十分なオーバーライト特性が得られない。逆にSnの添加量が7原子%を越えると信号特性が悪化する。
【0040】
GaSb材料にInを添加することにより記録時に形成されたアモルファスマークが余熱により再結晶化するのを抑制し、結果として信号振幅(変調度)が向上する。Inの添加量は、好ましくは0原子%以上7原子%以下に選ばれる。7原子%を越えるとオーバーライト特性を悪化させる。
【0041】
Sb/Ga比率は、好ましくは6.8以上8.8以下に選ばれる。GaSbを母体とした材料は、従来のSb70Te30共晶点組成を基本とした材料に比べて結晶化速度が速く結晶化温度が高い。Ga量が多すぎてSb/Ga比率が6.8未満であると、結晶化温度が高くなり、初期化や再結晶化が困難となる。逆にSb量が多すぎてSb/Ga比率が8.8を越えると結晶化速度が速くなりすぎるため非晶質マークの形成が困難になる。
【0042】
記録層14の膜厚は、好ましくは10〜18nmに選ばれる。10nm未満であると光吸収能が低下し、記録層14としての機能を失う。18nmを越えると繰り返し記録耐久性が悪化する。
【0043】
(反射層)
熱拡散層である反射層16は金属あるいは半金属よりなる。反射層16の材料は、例えば、反射機能および熱伝導を考慮して選ぶことが好ましく、例えば、記録再生用レーザ光の波長に対して反射能を有し、熱伝導率が0.0004[J/(cm・K・s)]〜4.5[J/(cm・K・s)]なる値を有する金属元素、半金族元素およびそれらの化合物あるいは混合物である。
【0044】
具体的に例示するならば、Al、Ag、Au、Ni、Cr、Ti、Pd、Co、Si、Ta、W、Mo、Ge等の単体、またはこれらを主成分とする合金を挙げることができる。これらのうち、特にAl系、Ag系、Au系、Si系、Ge系の材料が実用性の面から好ましい。合金としては、例えばAl−Ti、Al−Cr、Al−Cu、Al−Mg−Si、Ag−Pd−Cu、Ag−PdTi、Si−B等が挙げられる。
【0045】
これらの材料のうちから、光学特性および熱特性を考慮して設定することが好ましい。例えば、単波長領域においても高反射率を有する点を考慮すると、Al系またはAg系材料を用いることが好ましい。一般には反射層16の膜厚を光が透過しない程度の厚さ、例えば50nm以上に設定すると、反射率を高くすることができ、且つ、熱を逃げやすくできる。
【0046】
また、反射層16は単層の構造に限られず、例えば金属または半金属よりなる層(反射層)を2層積層した積層構造とすることも可能であり、さらに、2層以上の多層構造とすることも可能である。これにより光学設計をし易くなり、且つ、熱特性とのバランスも取り易くなる。
【0047】
反射層16の膜厚は、好ましくは50〜250nmに選ばれ、例えば140nm程度に選ばれる。
【0048】
(保護層)
保護層17は、上層誘電体層12、界面層13、記録層14、下層誘電体層15、反射層16が順次積層された第1の基板11と、第2の基板18とを貼り合わせるための接着層である。この保護層17は、例えば紫外線硬化型樹脂等を硬化してなる。
【0049】
光記録媒体の製造方法
次に、この発明の第1の実施形態による光記録媒体の製造方法について説明する。
まず、この第1の実施形態による光記録媒体10の製造に用いられるスパッタリング装置について説明する。このスパッタリング装置は、基板自転可能な枚葉式の静止対向型スパッタリング装置である。
【0050】
図2に、光記録媒体10を製造するために用いられるスパッタリング装置の概略構成を示す。図2に示すように、このスパッタリング装置20は、成層室となる真空チャンバ21、この真空チャンバ21内の真空状態を制御する真空制御部22、プラズマ放電用DC高圧電源23、このプラズマ放電用DC高圧電源23と電源ライン24を通じて接続されているスパッタリングカソード部25、このスパッタリングカソード部25と所定の距離を持って対向配置されているパレット26、およびArなどの不活性ガスや反応ガスといったスパッタガスを真空チャンバ21内に供給するためのスパッタガス供給部27を有して構成されている。
【0051】
スパッタリングカソード部25は、負電極として機能するターゲット28、このターゲット28を固着するように構成されたバッキングプレート29および、このバッキングプレート29のターゲット28が固着される面とは反対側の面に設けられた磁石系30を備える。
【0052】
また、正電極として機能するパレット26と、負電極として機能するターゲット28とから、一対の電極が構成されている。パレット26上には、スパッタリングカソード部25と対向するように、被成層体である基板11がディスクベース33を間にはさんで取り付けられる。この際、内周マスク31および外周マスク32とにより、基板11の内周部および外周部が覆われる。
【0053】
また、パレット26のディスクベース33が取り付けられる面とは反対側の面に、パレット26を基板11の面内方向に回転させ、これによって基板11を自転させるための基板自転駆動部34がパレット26と連動可能に設けられている。
【0054】
以上のようにして、この第1の実施形態における光記録媒体10の製造に用いられるスパッタリング装置20が構成されている。
【0055】
なお、以下の製造プロセスにおいて、各層の成層にそれぞれ用いられるスパッタリン装置は同一の構成を有するため、上述したDCスパッタリング装置20と同様の符号を用いる。
【0056】
(1)誘電体層の形成工程
まず、第1の基板11を、例えばZnS−SiO2混合体からなるターゲット28が設置された第1のスパッタリング装置20に搬入し、パレット26に固定する。次に、真空チャンバ21内を所定の圧力になるまで真空引きする。その後、真空チャンバ21内に、例えばArガスなどの不活性ガスを導入し、スパッタリングを行うことにより、例えばZnS−SiO2混合体からなる上層誘電体層12を第1の基板11上に形成する。
このスパッタリングプロセスにおける成膜条件の一例を以下に示す。
真空到達度:1.0×10-5Pa
雰囲気:1.0〜3.0×100Pa
投入電力:1〜3kWh
【0057】
(2)界面層の形成工程
次に、第1の基板11を、例えばTaからなるターゲット28が設置された第2のスパッタリング装置20に搬入し、パレット26に固定する。次に、真空チャンバ21内を所定の圧力になるまで真空引きする。その後、例えばArガスなどの不活性ガスおよび酸素(O2)を真空チャンバ21内に導入し、スパッタリングを行うことにより、例えばTa25からなる界面層13を上層誘電体層12上に形成する。
このスパッタリングプロセスにおける成膜条件の一例を以下に示す。
真空到達度:1.0×10-5Pa
雰囲気:1.0〜3.0×100Pa
投入電力:1〜3kWh
酸素ガス量:30sccm
【0058】
(3)記録層の形成工程
次に、第1の基板11を、例えば下記の一般式で表される合金からなるターゲット28が設置された第3のスパッタリング装置20に搬入し、パレット26に固定する。
SnxInyGazSbw
(但し、式中、3≦x≦7、0≦y≦7、6.8≦w/z≦8.8である。)
【0059】
次に、真空チャンバ21内を所定の圧力になるまで真空引きする。その後、例えばArガスなどの不活性ガスを真空チャンバ21内に導入し、スパッタリングを行うことにより、例えばSnxInyGazSbw(但し、式中、3≦x≦7、0≦y≦7、6.8≦w/z≦8.8である。)からなる記録層14を界面層13上に形成する。
このスパッタリングプロセスにおける成膜条件の一例を以下に示す。
真空到達度:1.0×10-5Pa
雰囲気:1.0〜3.0×100Pa
投入電力:1〜3kWh
【0060】
なお、ターゲット28は、例えば以下のようにして作製される。Ga、SbおよびSnをArガス雰囲気中にて溶解して合金溶湯を作製する。次に、この合金溶湯にInを添加した後、鋳造して合金インゴットを作製する。そして、この合金インゴットをAr雰囲気中にて粉砕して合金粉末を作製する。その後、この合金粉末を真空ホットプレスすることによりホットプレス体を作製し、このホットプレス体を超硬バイトにより円盤状に加工する。以上により、目的とするターゲット28が得られる。
【0061】
(4)第1の誘電体層の形成工程
次に、第1の基板11を、例えばZnS−SiO2混合体からなるターゲット28が設置された第4のスパッタリング装置20に搬入し、パレット26に固定する。次に、真空チャンバ21内を所定の圧力になるまで真空引きする。その後、例えばArガスなどの不活性ガスを真空チャンバ21内に導入し、スパッタリングを行うことにより、例えばZnS−SiO2混合体からなる第1の下層誘電体層15aを記録層14上に形成する。
このスパッタリングプロセスにおける成膜条件の一例を以下に示す。
真空到達度:1.0×10-5Pa
雰囲気:1.0〜3.0×100Pa
投入電力:1〜3kWh
【0062】
(5)第2の誘電体層の形成工程
次に、第1の基板11を、例えばSiからなるターゲットが設置された第5のスパッタリング装置に搬入し、パレット26に固定する。そして、真空チャンバ21内を所定の圧力になるまで真空引きする。次に、例えばArガスおよび窒素を真空チャンバ21内に導入し、スパッタリングを行うことにより、例えばSiNからなる第2の下層誘電体層15bを第1の下層誘電体層15a上に形成する。
このスパッタリングプロセスにおける成膜条件の一例を以下に示す。
真空到達度:1.0×10-5Pa
雰囲気:1.0〜3.0×100Pa
投入電力:1〜3kWh
窒素ガス量:30sccm
【0063】
(6)反射層の形成工程
次に、第1の基板11を、例えばAgM(M:添加物)からなるターゲット28が設置された第6のスパッタリング装置20に対して搬入し、パレット26に固定する。次に、真空チャンバ21内を所定の圧力になるまで真空引きする。次に、例えばArガスを真空チャンバ21内に導入し、スパッタリングを行うことにより、例えばAg系合金からなる反射層16を第2の誘電体層15b上に形成する。
このスパッタリングプロセスにおける成膜条件の一例を以下に示す。
真空到達度:1.0×10-5Pa
雰囲気:1.0〜3.0×100Pa
投入電力:1〜3kWh
【0064】
(7)貼り合わせ工程
次に、第1の基板11をスパッタリング装置から搬出し、例えばスピンコータの所定位置に載置してスピンコートにより、反射層16上に紫外線硬化樹脂を塗布する。その後、第1の基板11の紫外線硬化樹脂が塗布された面に、第2の基板18を載置する。そして、紫外線硬化樹脂の厚さを適宜調節して、例えば第2の基板18の側に紫外線を照射する。これにより、紫外線硬化樹脂が硬化して第1の基板11と第2の基板18とが貼り合わされ、保護層17が形成される。以上の工程により、目的とする第1の実施形態による光記録媒体10を得ることができる。
【0065】
(8)初期化工程
次に、上述のようにして得られた光記録媒体10に対して、以下のような初期化処理を行う。
【0066】
図3は、初期化処理に用いられる初期化処理装置の一構成例を示す模式図である。図3に示すように、この初期化装置は、高出力、大口径のレーザヘッド2と、光記録媒体10を回転させるためのスピンドルモータ5と、レーザヘッド2を光記録媒体10の径方向に移動させるためのキャリッジ(図示せず)とを備える。レーザヘッド2は、半導体レーザ3と、この半導体レーザ3から出射されるレーザ光を調整して光記録媒体10上に適切なスポットを形成するための光学レンズ4a,4bとを備える。半導体レーザとしては、例えばArレーザを使用できる。
【0067】
上述の構成を有する初期化処理装置を用いて、光記録媒体10の全面にレーザ光を照射して記録層14を結晶化させる。例えば、光記録媒体10を一定の線速度で回転させながら、第1の基板11側の面に対して出力パワー約4Wの大口径レーザからレーザ光を出射して約50〜300x1μmのレーザスポット光束を形成するとともに、このレーザスポット光束を半径方向に送り速度、約20〜250μm/feedの条件で移動させる、
【0068】
これにより、レーザ光は、光記録媒体10の円周方向および半径方向のいずれの領域にも照射される。また、線速度および出力パワーPwは、初期化装置の能力ならびに光記録媒体10の膜構造および信号特性から最適値が選ばれる。また、送り速度は、レーザスポット径と処理時間との関係から最適な速度が選ばれる。
【0069】
これらの初期化条件によって記録層14の結晶状態は変化し、反射率、繰り返し記録特性、特に2回記録時(DOW1)のジッター値が変化する。反射率は低いパワー密度で初期化した場合には、比較的低い反射率となりやすく、高いパワー密度で初期化した場合には、比較的高い反射率となりやすい。また、初期化直後の反射率が異なる場合でも繰り返し記録すると次第に反射率はある値に近づいていく。初期化直後の反射率が低い反射率レベルにある場合は、未記録部と記録部のスペース部(結晶部)との反射率差が大きくなり、初期化直後の反射率が高い反射率レベルにある場合は、未記録部と記録部のスペース部の反射率差は小さくなる。DOW1でのジッター上昇を抑えるための記録層の初期結晶状態は、記録層の材料によって異なり、比較的低い反射率にした方がよい材料もあれば、比較的高い反射率にした方がよい材料もある。上述したSnxInyGazSbw(但し、式中、3≦x≦7、0≦y≦7、6.8≦w/z≦8.8である。)を記録層14の材料として用いた相変化型の光記録媒体では、比較的高い反射率にした方がDOW1でのジッター上昇を抑えることができる。具体的には、未記録状態における反射率Rbと繰り返し記録2回後のスペース部の反射率Raの差ΔR=|Rb−Ra|が3%以内となるように初期化することによりDOW1でのジッター上昇を抑えることができる。
【0070】
この発明の第1の実施形態によれば以下の効果を得ることができる。
第1の基板11上に、記録再生光の入射方向から順に、上層誘電体層12、界面層13、記録層14、下層誘電体層15、反射層16が順次積層されて、その上に保護層17を介して第2の基板18が設けられ、記録層14がSnxInyGazSbw(但し、3≦x≦7、0≦y≦7、6.8≦w/z≦8.8)により構成されるので、高速記録と保存安定性とを両立させることができる。例えば、記録マークの保存安定性に優れ、且つ、少なくともDVDの8倍速(28m/s)でのオーバーライトが可能な光記録媒体を提供することができる。
【0071】
また、未記録状態における反射率Rbと繰り返し記録2回後のスペース部の反射率Raの差ΔR=|Rb−Ra|を3%以内にすることにより、例えば、記録マークの保存安定性に優れ、少なくともDVDの8倍速(28m/s)でのオーバーライトが可能であり、DOW1でのジッター上昇も少ない光記録媒体の提供ができる。
【0072】
次に、この発明の第2の実施形態について説明する。
上述の第1の実施形態では、下層誘電体層のみを2層の誘電体層から構成する場合について説明したが、この第2の実施形態では、上層誘電体層を2層の誘電体層から構成する場合について説明する。なお、上述の第1の実施形態と同一または対応する部分には、同一の符号を付す。
【0073】
図4は、この発明の第2の実施形態による光記録媒体の一構成例を示す断面図である。上層誘電体層12は、第2の上層誘電体層12b、第1の上層誘電体層12aを第1の基板11上に順次積層してなる。第1の上層誘電体層12aの材料としては、第1の下層誘電体層15aと同様のものを用いることができる。第2の上層誘電体層12bの材料としては、第2の下層誘電体層15bと同様のものを用いることができる。これ以外のことについては上述の第1の実施形態と同様であるので説明を省略する。
【0074】
次に、この発明の第3の実施形態について説明する。
上述の第1の実施形態では、2枚の基板を貼り合わせてなる貼り合わせ型の光記録媒体に対してこの発明を適用した場合を例として説明したが、この第3の実施形態では、1枚の基板のみを有し、この基板とは反対の側からレーザ光を照射して情報信号の記録および再生が行われる光記録媒体に対してこの発明を提供した例について説明する。なお、上述の第1の実施形態と対応する部分には、同一の符号を付す。
【0075】
図5は、この発明の第3の実施形態による光記録媒体の一構成例を示す断面図である。図5に示すように、この光記録媒体10は、基板11上に、反射層16、下層誘電体層15、記録層14、上層誘電体層12、光透過層41が順次積層された構成を有する。光透過層41は、情報信号を記録または再生するためのレーザ光を透過可能に構成されている。光透過層41は、例えば、平面円環形状を有する光透過性シート(フィルム)と、この光透過性シートを基板11に対して貼り合わせるための接着層とから構成される。接着層は、例えば紫外線硬化樹脂あるいは感圧性粘着剤(PSA:Pressure Sensitive Adhesive)からなる。光透過層41の厚さは、例えば100μmに選ばれる。また、基板11の厚さは、例えば1.1mmに選ばれる。
【0076】
この光記録媒体10では、光透過層41の側からレーザ光を記録層14に照射することにより、情報信号の記録および再生が行われる。例えば、400nm以上410nm以下の範囲の波長を有するレーザ光を、0.84以上0.86以下の範囲の開口数を有する対物レンズ1により集光し、光透過層41の側から記録層14に照射することにより、情報信号の記録および再生が行われる。これ以外のことについては上述の第1の実施形態と同様であるので説明を省略する。
【0077】
次に、この発明の第4の実施形態について説明する。
上述の第1の実施形態では、2枚の基板を貼り合わせなる貼り合わせ型の光記録媒体に対してこの発明を適用した場合を例として説明したが、この第4の実施形態では、1枚の基板のみを有し、この基板側からレーザ光を照射して情報信号の記録および再生が行われる光記録媒体に対してこの発明を適用した例について説明する。なお、上述の第1の実施形態と対応する部分には、同一の符号を付す。
【0078】
図6は、この発明の第4の実施形態による光記録媒体の一構成例を示す断面図である。図6に示すように、この光記録媒体10は、基板11上に、上層誘電体層12、記録層14、下層誘電体層15、反射層16、保護層42が順次積層された構成を有する。保護層42は、基板11上に積層された積層膜を保護するためのものであり、例えば、紫外線硬化樹脂をスピンコート法により均一に塗布した後、硬化することにより形成される。
【0079】
この光記録媒体では、基板11の側からレーザ光を記録層14に照射することにより、情報信号の記録および/または再生が行われる。例えば、775nm〜795nmの波長を有するレーザ光を、0.44〜0.46の開口数を有する対物レンズ1により集光し、基板11の側から記録層14に照射することにより、情報信号の記録および再生が行われる。これ以外のことについては上述の第1の実施形態と同様であるので説明を省略する。
【実施例】
【0080】
以下、実施例により本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例のみに限定されるものではない。
【0081】
表1に、実施例1〜6および比較例1〜6における記録層材料の組成比を示す。表2に、実施例7〜12および比較例7〜9における界面層および記録層の膜厚を示す。
【表1】

【表2】

【0082】
以下、表1および表2の参照しながら、実施例および比較例について説明する。
<実施例1〜6>
まず、射出成形によりポリカーボネートからなる第1の基板を成形した。なお、その一主面にはスタンパによりランドおよびグルーブなどを転写した。この第1の基板の直径φを120mmとし、厚さを0.6mmとした。また、グルーブをウォブル(蛇行)させてアドレス情報を付加した。
【0083】
次に、スパッタリング法により、上層誘電体層としてZnS−SiO2膜を第1の基板11上に80nm成膜した。次に、スパッタリング法により、界面層としてTa25膜をZnS−SiO2膜上に3nm成膜した。次に、スパッタリング法により、記録層としてSnxInyGazSbw膜をTa25膜上に16nm成膜した。なお、記録層であるSnxInyGazSbw膜の組成比は、表1の実施例1〜6の組成比となるように調整した。
【0084】
次に、スパッタリング法により、下層誘電体層としてZnS−SiO2膜をSnxInyGazSbw膜上に10nm成膜した。次に、スパッタリング法により、第2の下層誘電体層としてSiN膜をZnS−SiO2膜上に10nm成膜した。次に、スパッタリング法により、反射層としてAg合金膜をSiN膜上に140nm成膜した。なお、第1の基板上に積層された各層の厚さは、成膜時間と膜厚との関係により予め作成された検量線に基づいて適宜成膜時間を調整することにより設定した。
【0085】
次に、第1の基板の成膜面側に形成されたAg合金膜上に、スピンコータにより第1の基板の中心から約15mm〜60mm(最外周)の範囲に紫外線硬化樹脂を塗布した後、第2の基板を、紫外線硬化樹脂を介して第1の基板上に重ね合わせた。この状態で、第2の基板側から紫外線ランプ(UVランプ)にて約1秒間照射して硬化させて、第1の基板と第2の基板とを貼り合わせた。なお、第2の基板は、予め射出成形により成形されたものであり、その材料、厚さおよび直径は第1の基板と同様にした。以上の工程により、目的とする光記録媒体が得られた。
【0086】
<比較例1〜4>
記録層であるSnxInyGazSbw膜の組成を表1の比較例1〜4の組成比とする以外のことは、実施例1と全て同様にして光記録媒体を作製した。
【0087】
<比較例5,6>
記録層であるSnxInyGazSbw膜の組成を表1の比較例5,6の組成とする以外のことは、実施例1と全て同様にして光記録媒体を作製した。
【0088】
<実施例7〜12>
界面層であるTa25膜および記録層であるSnxInyGazSbw膜の膜厚を表1の実施例7〜12の膜厚構成とする以外のことは、実施例1と全て同様にして光記録媒体を作製した。
【0089】
<比較例7〜9>
界面層であるTa25膜および記録層であるSnxInyGazSbw膜の膜厚を表1の比較例7〜9の膜厚構成とする以外のことは、実施例1と全て同様にして光記録媒体を作製した。
【0090】
次に、上述のようにして得られた実施例1〜12、比較例1〜9の光記録媒体に対して、以下の条件で初期化処理を行って全面を結晶化させた。なお、初期化処理には、初期化処理装置(パルステック社製、商品名:ODI−1000)を用いた。
レーザスポット形状:約70x1μm
送り量:30μm/回転
線速度:10m/s
レーザパワー:700mW
【0091】
オーバーライト特性
上述のようにして初期化が行われた実施例1〜12、比較例1〜9の光記録媒体のオーバーライト特性を評価した。なお、オーバーライト特性の評価には、パルステック工業株式会社製光ディスク評価装置DDU1000を用いた。
【0092】
オーバーライト特性の評価は以下のようにして行った。まず、線速度28m/s(8x)によりランダムな情報信号を3トラックに対して1回、10回、100回、1000回記録し、それぞれの記録回数において2トラック目(真ん中)のトラックのジッターを測定した。なお、記録波形はDVD+RW8xの規格(book)に準拠したライトストラテジーを用いてそれぞれの光記録媒体で最適となるように調整した。
【0093】
アーカイバル特性
上述のようにして初期化が行われた実施例1〜6、比較例1〜6の光記録媒体のアーカイバル特性(保存寿命特性)を評価した。アーカイバル特性の評価は以下に示す加速試験によって行った。すなわち、あらかじめ光記録媒体に対してランダムな情報信号の記録をしておき、80℃に加熱されたオーブンに400時間放置後、ジッター値の上昇量を測定した。
【0094】
表1および表2に、オーバーライト特性およびアーカイバル特性の評価結果を示す。なお、表1および表2において、評価結果を示す「◎」、「○」、「×」は以下の判断基準によるものである。
(オーバーライト特性)
◎:ジッター値9%以下、○:ジッター値9%より大きく12%以下、×:ジッター値12%より大きい
ここで、9%以下は規格書の基準に準拠した値であり、12%以下は一般的な記録再生装置にて再生が可能とされる値であり、本発明者が実験により得た知見に基づくものである。
(アーカイバル特性)
○:上昇量1%以下、×:上昇量1%より大きい
【0095】
表1の評価結果
表1の評価結果から以下のことが分かる。
実施例1〜6では、情報信号を8倍速で1000回記録した場合にもジッター値を12%以下に抑えることができ、且つ、加速試験後のジッター値上昇量を1%以下に抑えることができる。
【0096】
これに対して、比較例1〜4では、加速試験後のジッター値上昇量を1%以下に抑えることができるが、情報信号を8倍速で1000回記録した場合にはジッター値が12%を越えてしまう。また、比較例5では、情報信号を8倍速で1000回記録した場合にはジッター値を12%以下に抑えることができるが、加速試験後のジッター値上昇量が1%を越えてしまう。また、比較例6では、加速試験後のジッター値上昇量を1%以下に抑えることができるが、情報信号を8倍速で1000回記録した場合にはジッター値が12%を越えてしまう。
【0097】
以上により、記録層をSnxInyGazSbwにより構成し、その組成比を3≦x≦7、0≦y≦7、6.8≦w/z≦8.8の範囲に規定することにより、8倍速、記録回数1000回においても優れたオーバーライト特性を実現することができ、且つ、優れたアーカイバル特性を実現することができることが分かる。
【0098】
表2の評価結果
表2の評価結果から以下のことが分かる。
まず、記録層の厚さを一定にして、界面層であるTa25膜の厚さのみを変えた実施例7〜10、比較例7の評価結果に着目すると以下のことが分かる。実施例7〜10では、情報信号を8倍速で1000回記録した場合にもジッター値を12%以下に抑えることができる。特に、実施例8〜9では、情報信号を8倍速で100回記録した場合にもジッター値を9%以下に抑えることができる。これに対して、比較例7では、情報信号を8倍速で10回記録した場合にジッター値が12%を越えてしまう。
【0099】
以上により、界面層の厚さを0〜7nmの範囲にすることで、8倍速、記録回数1000回においても優れたオーバーライト特性を実現することができることが分かる。また、界面層の厚さを1〜5nmの範囲にすることで、8倍速、記録回数100回までにおいては、極めて優れたオーバーライト特性を実現することができることが分かる。
【0100】
次に、Ta25膜の厚さを一定にして、記録層の厚さのみを変えた実施例11〜12、比較例8〜9の評価結果に着目すると以下のことが分かる。実施例11〜12では、情報信号を8倍速で1000回記録した場合にもジッター値を12%以下に抑えることができる。これに対して、比較例8〜9では、情報信号を8倍速で1000回記録した場合にジッター値が12%を越えてしまう。
【0101】
以上により、記録層の厚さを10〜18μmの範囲にすることで、8倍速、記録回数1000回においても優れたオーバーライト特性を実現することができることが分かる。
【0102】
DOW1におけるジッター特性
次に、DOW1におけるジッター特性を評価した。表3は、光記録媒体の初期化処理の条件を示す。
【0103】
【表3】

【0104】
上述の実施例1の光記録媒体を11枚用意し、それぞれを表3に示す条件1〜11に示すレーザスポット形状、送り量、線速度およびレーザパワーにより初期化した後、初期化後の反射率Rbを測定した。
【0105】
そして、線速度28m/s(8x)によりランダムな情報信号を3トラックに対して2回記録した後、スペース部の反射率Raおよびジッター値を測定した。なお、記録波形は、上述のオーバーライト特性の評価と同様のものを用いた。また、反射率の測定には、DVDT±R/RW106(Expert Magnetics社製)を用いた。その後、初期化後の反射率Rbと繰り返し記録2回後のスペース部の反射率Raの差ΔR=|Rb−Ra|を算出した。
【0106】
表4に、反射率Ra、Rbの測定結果、ΔRの算出結果およびジッター値の測定結果を示す。なお、表4において、評価結果を示す「◎」、「○」、「×」は以下の判断基準によるものである。
◎:ジッター値9%以下、○:ジッター値9%より大きく12%以下、×:ジッター値12%より大きい
ここで、9%以下は規格書の基準に準拠した値であり、12%以下は一般的な記録再生装置にて再生が可能とされる値であり、本発明者が実験により得た知見に基づくものである。
【0107】
【表4】

【0108】
表4の評価結果
表4の評価結果から以下のことが分かる。
条件1〜7では、ΔRが3以下であり、DOW1でのジッター値が12%以下に抑えられていることが分かる。特に、条件2〜3では、ΔRが0.1以下であり、DOW1でのジッター値が9%以下であることが分かる。これに対して、条件8〜11では、ΔRが3より大きく、DOW1でのジッター値が12%を越えていることが分かる。
【0109】
以上により、ΔR=|Rb−Ra|を3以下にすることにより、1回目のオーバーライト(DOW1)時におけるジッター値を12%以下に抑えることができることができ、ΔR=|Rb−Ra|を0.1以下にすることにより、1回目のオーバーライト(DOW1)時におけるジッター値を9%以下に抑えることができることが分かる。
【0110】
以上、この発明の第1〜第4の実施形態について具体的に説明したが、この発明は、上述の第1〜第4の実施形態に限定されるものではなく、この発明の技術的思想に基づく各種の変形が可能である。
【0111】
例えば、上述の第1〜第4の実施形態において挙げた数値はあくまでも例に過ぎず、必要に応じてこれと異なる数値を用いてもよい。
【0112】
また、第3〜第4の実施形態において、記録層と上層誘電体層との間に界面層をさらに設けるようにしてもよい。
【図面の簡単な説明】
【0113】
【図1】この発明の第1の実施形態による光記録媒体の一構成例を示す断面図である。
【図2】この発明の第1の実施形態による光記録媒体を製造するために用いられるスパッタリング装置の概略構成を示す模式図である
【図3】初期化処理に用いられる初期化処理装置の一構成例を示す模式図である
【図4】この発明の第2の実施形態による光記録媒体の一構成例を示す断面図である。
【図5】この発明の第3の実施形態による光記録媒体の一構成例を示す断面図である。
【図6】この発明の第4の実施形態による光記録媒体の一構成例を示す断面図である。
【図7】従来の相変化型の光記録媒体の構成を示す断面図である。
【符号の説明】
【0114】
10 光記録媒体
11 第1の基板
12 上層誘電体層
13 界面層
14 記録層
15 下層誘電体層
16 反射層
17 保護層
18 第2の基板

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板上に、少なくとも上層誘電体層、記録層、下層誘電体層、反射層が順次積層されて構成された光記録媒体において、
上記記録層が下記一般式で表される材料からなることを特徴とする光記録媒体。
SnxInyGazSbw
(但し、式中、3≦x≦7、0≦y≦7、6.8≦w/z≦8.8である。)
【請求項2】
上記記録層の膜厚が10nm以上18nm以下であることを特徴とする請求項1記載の光記録媒体。
【請求項3】
上記記録層と上層誘電体層との間に、タンタルの酸化物からなる界面層がさらに設けられていることを特徴とする請求項1記載の光記録媒体。
【請求項4】
上記界面層の膜厚が1nm以上7nm以下であることを特徴とする請求項3記載の光記録媒体。
【請求項5】
上記下層誘電体層が、
第1の下層誘電体と、
上記第1の下層誘電体を構成する材料と上記反射層を構成する材料とが反応することを防止する第2の下層誘電体と
から構成され、
上記第1の下層誘電体層が硫化亜鉛と酸化シリコンとの混合体からなり、
上記第2の下層誘電体層が窒化シリコンからなる
ことを特徴とする請求項1記載の光記録媒体。
【請求項6】
未記録状態における反射率Rbと、繰り返し記録2回後のスペース部の反射率Raとの差ΔR=|Rb−Ra|が3%以内となるように、上記記録層が初期化されていることを特徴とする請求項1記載の光記録媒体。
【請求項7】
基板上に、少なくとも上層誘電体層、記録層、下層誘電体層、反射層を順次積層する光記録媒体の製造方法において、
上記記録層を下記一般式で表される材料により形成することを特徴とする光記録媒体の製造方法。
SnxInyGazSbw
(但し、式中、3≦x≦7、0≦y≦7、6.8≦w/z≦8.8である。)
【請求項8】
光記録媒体の記録層を形成するためのスパッタリングターゲットにおいて、
上記スパッタリングターゲットが、下記一般式で表される材料からなることを特徴とするスパッタリングターゲット。
SnxInyGazSbw
(但し、式中、3≦x≦7、0≦y≦7、6.8≦w/z≦8.8である。)

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2006−351142(P2006−351142A)
【公開日】平成18年12月28日(2006.12.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−178872(P2005−178872)
【出願日】平成17年6月20日(2005.6.20)
【出願人】(000002185)ソニー株式会社 (34,172)
【Fターム(参考)】