説明

内燃機関の制御装置

【課題】この発明は、内燃機関の制御装置に関し、排気通路にPMフィルタを備えるストイキバーンエンジンにおいて、PMフィルタの過昇温の発生を良好に回避することができ、これにより、PMフィルタに捕集された粒子状物質PMの連続的な再生処理を弊害なしに継続させ易くすることを目的とする。
【解決手段】理論空燃比となるように行う制御を空燃比の基本制御としてストイキバーン運転を行う内燃機関10を備える。内燃機関10の排気通路12に、排気ガス中に含まれる粒子状物質PMを捕集するためのパティキュレートフィルタ(PMフィルタ)18を備える。PMフィルタ18が過昇温すると判定された場合には、減速時の燃料カットを禁止する。また、PMフィルタ18が過昇温すると判定された場合には、上記燃料カットの禁止に先立って、PMフィルタ18の雰囲気が理論空燃比よりも弱リーンな雰囲気となるように、排気ガスの空燃比を制御する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、内燃機関の制御装置に係り、特に、内燃機関の排気通路に粒子状物質PMを捕集するためのパティキュレートフィルタを備える内燃機関を制御するうえで好適な内燃機関の制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、例えば特許文献1には、排気通路に粒子状物質PMを捕集するためのパティキュレートフィルタ(以下、「PMフィルタ」)を備えるディーゼルエンジンの排気浄化システムが開示されている。この従来のシステムでは、PMフィルタの再生処理中に燃料供給の停止(燃料カット)を行う減速運転状態になった場合には、PMフィルタが過昇温しないと判定された場合にのみ、吸気絞り弁の開度を減少させるとともにEGR弁の開度を増加させるようにしている。
【0003】
上記従来のシステムは、上述した制御を行うことによって、PMフィルタの再生処理中にディーゼルエンジンの運転状態が減速運転状態になった場合に、PMフィルタの温度低下を抑制するとともに、PMフィルタが過昇温することを抑制している。これにより、上記従来のシステムは、PMフィルタの再生処理を良好に継続させることを図っている。
【0004】
【特許文献1】特開2005−201210号公報
【特許文献2】特開平8−326524号公報
【特許文献3】特開2003−129835号公報
【特許文献4】実開昭64−3017号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上述した従来の制御は、ディーゼルエンジンのようなリーンバーン運転を行う内燃機関を想定したPMフィルタへの流入ガスの温度制御であり、理論空燃比となるように行う空燃比の制御を基本制御とする内燃機関、つまり、ガソリンエンジンのようなストイキバーン運転を行う内燃機関を想定したものではない。
【0006】
この発明は、上述のような課題を解決するためになされたもので、排気通路にPMフィルタを備えるストイキバーンエンジンにおいて、PMフィルタの過昇温の発生を良好に回避することができ、これにより、PMフィルタに捕集された粒子状物質PMの連続的な再生処理を弊害なしに継続させ易くすることのできる内燃機関の制御装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
第1の発明は、排気ガス中に含まれる粒子状物質を捕集するパティキュレートフィルタを排気通路に備え、理論空燃比となるように行う制御を空燃比の基本制御としてストイキバーン運転を行う内燃機関の制御装置であって、
前記パティキュレートフィルタが過昇温するか否かを判定するフィルタOT判定手段と、
前記パティキュレートフィルタが過昇温すると判定された場合に、前記パティキュレートフィルタの雰囲気が理論空燃比よりもリーンな雰囲気となるように制御する制御手段と、
を備えることを特徴とする。
【0008】
また、第2の発明は、第1の発明において、前記制御手段は、前記パティキュレートフィルタの雰囲気のリーン度合いに基づいて、前記パティキュレートフィルタに捕集された粒子状物質の燃焼速度を制御することを特徴とする。
【0009】
また、第3の発明は、排気ガス中に含まれる粒子状物質を捕集するパティキュレートフィルタを排気通路に備え、理論空燃比となるように行う制御を空燃比の基本制御としてストイキバーン運転を行う内燃機関の制御装置であって、
内燃機関の減速時に燃料カットを実施する燃料カット制御手段と、
前記燃料カットを実行することによって前記パティキュレートフィルタが過昇温するか否かを判定するフィルタOT判定手段と、
前記パティキュレートフィルタが過昇温すると判定された場合に、減速時に燃料カットを実行するのを禁止する燃料カット禁止手段と、
を備えることを特徴とする。
【0010】
また、第4の発明は、第3の発明において、前記内燃機関の制御装置は、内燃機関から排出される排気ガスの空燃比を制御する空燃比制御手段を更に備え、
前記空燃比制御手段は、前記フィルタOT判定手段によって前記パティキュレートフィルタが過昇温すると判定された場合に、前記燃料カット禁止手段による減速時の燃料カットの禁止に先立ち、前記パティキュレートフィルタの雰囲気が理論空燃比よりも弱リーンな雰囲気となるように、排気ガスの空燃比を弱リーン制御することを特徴とする。
【0011】
また、第5の発明は、第4の発明において、前記空燃比制御手段は、前記弱リーン制御を開始した後は、前記フィルタOT判定手段によって前記パティキュレートフィルタが過昇温しないと判定されるようになるまでの間、前記弱リーン制御の実行を継続することを特徴とする。
【0012】
また、第6の発明は、第3の発明において、前記フィルタOT判定手段は、前記パティキュレートフィルタに対して想定される過昇温の度合いを判別するOT度合判別手段を含み、
前記内燃機関の制御装置は、
前記パティキュレートフィルタの雰囲気が理論空燃比よりも弱リーンな雰囲気となるように、排気ガスの空燃比を弱リーン制御する空燃比制御手段と、
前記フィルタOT判定手段によって前記パティキュレートフィルタの過昇温の度合いが比較的高いと判断された場合には、前記燃料カット禁止手段による減速時の燃料カットの禁止を選択し、前記フィルタOT判定手段によって前記パティキュレートフィルタの過昇温の度合いが比較的低いと判断された場合には、前記空燃比制御手段による前記弱リーン制御の実行を選択するフィルタOT回避制御選択手段と、
を更に備えることを特徴とする。
【0013】
また、第7の発明は、第4乃至第6の何れかの発明において、前記内燃機関の制御装置は、
排気通路に配置され、排気ガスを浄化可能な触媒と、
前記触媒よりも上流側の排気通路に配置され、筒内から排出される排気ガスの空燃比に関する情報を取得する上流側空燃比センサと、
前記触媒よりも下流側の排気通路に配置され、前記触媒の下流に排出される排気ガスの空燃比に関する情報を取得する下流側空燃比センサとを更に備え、
前記パティキュレートフィルタは、前記下流側空燃比センサよりも上流側の排気通路に配置されており、
前記空燃比制御手段は、前記弱リーン制御の実行時には、前記下流側空燃比センサの出力に基づいて、前記パティキュレートフィルタの雰囲気を弱リーンな雰囲気に制御することを特徴とする。
【発明の効果】
【0014】
第1の発明によれば、パティキュレートフィルタの過昇温が懸念されると判断された場合に、当該フィルタの雰囲気がリーン雰囲気となるように制御される。ストイキバーン運転を行う内燃機関では、ディーゼルエンジンなどのリーンバーンエンジンに対して、パティキュレートフィルタの雰囲気が高温となり易い。このため、ストイキバーン運転を行う内燃機関では、当該フィルタの雰囲気をリーン雰囲気とすることにより、当該フィルタに堆積された粒子状物質PMを燃焼除去することができる。本発明によれば、基本的にストイキバーン運転を行う内燃機関を備えるシステムにおいて、パティキュレートフィルタへの粒子状物質PMの堆積量を当該フィルタの過昇温の心配のない適正なレベルに維持させることができるようになる。これにより、パティキュレートフィルタの過昇温(およびそれに伴う当該フィルタの溶損)の発生を良好に回避することができるので、当該フィルタに捕集された粒子状物質PMの連続的な再生処理を弊害なく継続させ易くすることが可能となる。
【0015】
粒子状物質PMが捕集されたパティキュレートフィルタに供給される酸素量が増えるにつれ、粒子状物質PMの燃焼速度(当該フィルタの再生速度)が速くなり、その結果、粒子状物質PMの燃焼温度が高くなる。第2の発明によれば、パティキュレートフィルタの雰囲気のリーン度合いに基づいて粒子状物質PMの燃焼速度を制御することにより、捕集された粒子状物質PMの燃焼温度が異常高温とならない範囲内で、粒子状物質PMを燃焼除去することが可能となる。
【0016】
第3の発明によれば、粒子状物質PMが十分に堆積された高温のパティキュレートフィルタへの酸素の供給量が急増するのを抑制することができる。このため、ストイキバーン運転を行う内燃機関において、燃料カットの実行に伴いパティキュレートフィルタが異常高温となるのを避けることができ、当該フィルタの溶損を好適に防止することができる。
【0017】
第4の発明によれば、パティキュレートフィルタの過昇温が懸念されると判断された場合には、燃料カットの禁止に先立って弱リーン制御が実行される。つまり、本発明によれば、パティキュレートフィルタの過昇温が懸念され始める早期の段階において、弱リーン制御によって粒子状物質PMが速やかに燃焼除去されるようになる。このため、本発明によれば、パティキュレートフィルタの過昇温(およびそれに伴う当該フィルタの溶損)の防止と、燃料カットの実行時間の確保による燃費向上とを好適に両立させることができる。また、このように、パティキュレートフィルタの過昇温(およびそれに伴う当該フィルタの溶損)の発生を良好に回避することができることにより、基本的にストイキバーン運転を行う内燃機関を備えるシステムにおいて、当該フィルタに捕集された粒子状物質PMの連続的な再生処理を弊害なく継続させ易くすることが可能となる。
【0018】
第5の発明によれば、燃料カットの実行に伴う異常高温による溶損の発生が懸念される程度にまでパティキュレートフィルタへの粒子状物質PMの堆積が進行するのを回避することができる。
【0019】
第6の発明によれば、パティキュレートフィルタに対して想定される過昇温の度合いに応じて、燃料カットの禁止および弱リーン制御の実行の何れか一方が選択される。このため、本発明によれば、パティキュレートフィルタの過昇温(およびそれに伴う当該フィルタの溶損)の防止と、燃料カットの実行時間の確保による燃費向上とを好適に両立させることができる。また、このように、パティキュレートフィルタの過昇温(およびそれに伴う当該フィルタの溶損)の発生を良好に回避することができることにより、基本的にストイキバーン運転を行う内燃機関を備えるシステムにおいて、当該フィルタに捕集された粒子状物質PMの連続的な再生処理を弊害なく継続させ易くすることが可能となる。
【0020】
第7の発明によれば、触媒の下流に排出される排気ガスの空燃比に関する情報を取得するべく当該触媒よりも下流側の排気通路に配置された下流側空燃比センサを利用して、パティキュレートフィルタを通過する排気ガスの酸素濃度を正確に制御することができるようになる。これにより、NOx浄化能の悪化を最小限に留めつつ、上記弱リーン制御を精度良く行えるようになる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0021】
実施の形態1.
[システム構成の説明]
図1は、本発明の実施の形態1における内燃機関システムを説明するための概略図である。図1に示すシステムは、内燃機関10を備えている。内燃機関10は、理論空燃比(ストイキ)となるように行う空燃比の制御を基本制御として燃焼を行うストイキバーンエンジンであり、ここでは、内燃機関10は、そのようなストイキバーン運転を行う内燃機関の一例として、ガソリンエンジンであるものとする。
【0022】
内燃機関10には、排気通路12が備えられている。排気通路12には、筒内から排出される排気ガスの空燃比を検出するためのメインリニアA/Fセンサ(以下、単に「A/Fセンサ」と略する)14が配置されている。A/Fセンサ14は、排気ガスの空燃比に対してほぼリニアな出力を発するセンサである。
【0023】
A/Fセンサ14よりも下流側の排気通路12には、排気ガス中に含まれる三元成分((NOx、HC、CO)を浄化可能な上流側三元触媒16が配置されている。上流側三元触媒16よりも下流側の排気通路12には、排気ガス中に含まれる粒子状物質PMを捕集して除去可能なパティキュレートフィルタ(以下、「PMフィルタ」と称する)18が配置されている。
【0024】
PMフィルタ18よりも下流側の排気通路12には、その位置の空燃比がリッチであるかリーンであるかに応じた信号を発するサブO2センサ20が配置されている。更に、サブO2センサ20よりも下流側の排気通路12には、排気ガス中に含まれる上記三元成分を浄化可能な下流側三元触媒22が配置されている。尚、上流側三元触媒16の上流側に配置される空燃比センサは、上記のメインリニアA/Fセンサ14でなくても、サブO2センサ20と同様の構成の酸素センサであってもよい。
【0025】
図1に示すシステムは、ECU(Electronic Control Unit)24を備えている。ECU24には、上述したA/Fセンサ14やサブO2センサ20とともに内燃機関10を制御するための各種情報(エンジン冷却水温度、吸入空気量、エンジン回転数、スロットル開度、アクセル開度など)を計測するための各種センサ(図示省略)が接続されている。また、ECU24には、スロットルバルブ、燃料噴射弁、点火プラグ等の各種アクチュエータ(図示省略)が接続されている。
【0026】
(空燃比のフィードバック制御)
本実施形態の内燃機関10は、上述したように、理論空燃比となるように行う空燃比の制御を基本制御としてストイキバーン運転を行う内燃機関である。より具体的には、本実施形態では、A/Fセンサ14およびサブO2センサ20の出力を利用した以下のような空燃比のフィードバック制御を実行することによって、空燃比を理論空燃比近傍の値に制御するようにしている。すなわち、本実施形態のシステムでは、上流側のA/Fセンサ14の出力に基づいてメインのフィードバック制御が実行される。そして、下流側のサブO2センサ20の出力に基づいてサブのフィードバック制御が実行される。メインフィードバック制御では、上流側三元触媒16に流入する排気ガスの空燃比が制御目標空燃比と一致するように燃料噴射量の制御が行われる。また、サブフィードバック制御では、上流側三元触媒16の下流に流出してくる排気ガスの空燃比が理論空燃比となるように、メインフィードバック制御の内容が修正される。
【0027】
(PMフィルタによるPMの捕集と再生処理)
図1に示すPMフィルタ18によれば、排気ガス中に含まれるPMを捕集して、大気中に放出されるのを抑制することができる。このようなPMフィルタ18を備えるシステムでは、PMを継続的に捕集し続けるためには、捕集されたPMを除去してPMフィルタ18の捕集能力を再生するための再生処理が必要となる。そのようなPMの再生処理としては、PMフィルタ18を高温かつリーンな雰囲気下に置くことによって捕集されたPMを燃焼除去する処理が考えられる。より具体的には、ストイキバーンエンジンを備える本実施形態のシステムにおいては、そのようなPMフィルタ18の定常的な再生処理として、PMフィルタ18に対して外部から酸素を供給する構成を備えるなどしてPMフィルタ18を連続的に再生する連続再生処理を行うようにしている。
【0028】
[実施の形態1の特徴部分]
(PMフィルタの再生に伴うストイキバーンエンジン特有の課題)
ところで、本実施形態の内燃機関10のように、空燃比が理論空燃比となるように制御された状態で燃焼を行うストイキバーンエンジンでは、ディーゼルエンジンなどの希薄燃焼運転を行うリーンバーンエンジンに比して、燃焼温度が高くなる傾向にある。その結果、ストイキバーンエンジンでは、リーンバーンエンジンに比して、PMフィルタ18の雰囲気温度が高い状態になり易くなる。その一方で、ストイキバーンエンジンの場合は、PMフィルタ18の雰囲気が基本的にストイキ雰囲気となるので、リーンバーンエンジンに比して、PMフィルタ18の雰囲気に十分な量の酸素を確保しにくくなる。
【0029】
そのようなストイキバーンエンジンにおいて、内燃機関10の運転中に減速要求が出されることによって燃料カットが実行されることになると、ストイキ雰囲気下にあったPMフィルタ18の雰囲気における酸素濃度が急激に上昇することになる。この際、PMフィルタ18が高温状態であった場合には、PMフィルタ18に急激に大量の酸素が供給されることによって、PMフィルタ18に堆積されていたPMが一気に燃焼することとなる。
【0030】
PMの燃焼が行われる際、燃料であるPMへの酸素の投入量が増えるにつれ、当該酸化反応の反応速度(つまり、PMの燃焼速度)が高くなる。PMの燃焼に伴うPMフィルタ18の温度上昇度合いは、PMフィルタ18へのPMの堆積量がより多い場合ほど、また、上記反応速度(PMの燃焼速度)がより高い場合ほど、大きくなる。
【0031】
従って、PMフィルタ18へのPM堆積量が多くなっており、かつ、PMフィルタ18の温度が高くなっている状況下において、減速要求が出されて燃料カットが実行されることになると、PMフィルタ18が急激に昇温してしまう。その結果、PMフィルタ18がその上限温度を越えて過昇温した場合には、PMフィルタ18が溶損してしまうことが懸念される。
【0032】
(実施の形態1の特徴的な制御の概要)
そこで、本実施形態では、PMフィルタ18へのPM堆積量が比較的多くなり、かつ、PMフィルタ18の温度が比較的高温であることで、PMフィルタ18の過昇温が懸念される第1段階にあると判断できる場合には、PMフィルタ18の雰囲気が理論空燃比よりも若干リーンな弱リーンとなるように、排気ガスの空燃比を弱リーン制御するようにした。そして、この弱リーン制御時には、堆積されたPMの燃焼によってPMフィルタ18がそのフィルタ上限温度を越えて異常高温とならないようにすべく、サブO2センサ20の出力を利用したPMフィルタ18の雰囲気のリーン度合いの調整によって、PMの燃焼速度(つまり、PMの再生速度)を制御するようにした。
【0033】
更に、本実施形態では、PMフィルタ18へのPM堆積量が十分に多くなっており、かつ、PMフィルタ18の温度が十分に高くなっていることで、減速時に燃料カットが実行された場合にはPMフィルタ18が上記フィルタ上限温度を越えて異常高温となる第2段階にあると判断できる場合には、減速時に燃料カットの実行を禁止するようにした。
【0034】
(実施の形態1における具体的な処理)
図2は、上記の機能を実現するために、ECU24が実行するルーチンを表したフローチャートである。
図2に示すルーチンでは、先ず、内燃機関10がストイキバーン運転を行うための空燃比(A/F)の上記フィードバック制御の実施中であるか否かが判別される(ステップ100)。
【0035】
その結果、当該フィードバック制御の実施中であると判定された場合には、PMフィルタ18へのPMの堆積量spmが所定値spm1以上であるか否かが判別される(ステップ102)。当該所定値spm1は、PMフィルタ18へのPMの堆積量spmが、減速時に燃料カットが実行された場合に当該PMフィルタ18が上記フィルタ上限温度を越えて異常高温となることが懸念される程度の堆積量であるか否かを判断するための閾値である。
【0036】
また、本ステップ102において、PMの堆積量spmは、内燃機関10の運転履歴(冷却水温度、空燃比、吸入空気量)、PMフィルタ18の温度、および、PMフィルタ18の雰囲気の酸素濃度履歴に基づいて判断される。尚、PMフィルタ18の温度は、内燃機関10の運転条件(エンジン回転数や負荷率)に基づいて推定することができ、また、PMフィルタ18の雰囲気における酸素濃度履歴は、PMフィルタ18の下流側に配置されているサブO2センサ20の出力に基づいて取得することができる。
【0037】
上記ステップ102において、フィルタ堆積PM量spm>所定値spm1であると判定された場合には、次いで、PMフィルタ18の温度tempfltが所定値tempflt1以上であるか否かが判別される(ステップ104)。当該所定値tempflt1は、PMフィルタ18の温度tempfltが減速時に燃料カットが実行された場合にPMフィルタ18の溶損が生じさせる程度の温度であるか否かを判断するための閾値である。
【0038】
上記ステップ104において、フィルタ温度tempflt>所定値tempflt1であると判定された場合、つまり、上記ステップ102および104の判定が共に成立していることで、PMフィルタ18が現在置かれている状態で燃料カットが実行された場合にPMフィルタ18の溶損が懸念されると判断できる場合(上記第2段階にある場合)には、減速時に燃料カット(F/C)の実行を禁止するF/C禁止制御が開始される(ステップ106)。
【0039】
一方、上記ステップ102または104の判定が不成立である場合には、上記F/C禁止制御が終了される(ステップ108)。つまり、通常の燃料カット制御の実行が許可された状態とされる。この場合には、次いで、PMフィルタ18へのPMの堆積量spmが所定値spm2以上であるか否かが判別される(ステップ110)。当該所定値spm2は、PMフィルタ18が過昇温することなく良好な再生処理が継続できるか否かを判断するための閾値である。また、当該所定値spm2は、上記所定値spm1よりも小さな値に設定されている。
【0040】
上記ステップ110において、フィルタ堆積PM量spm>所定値spm2であると判定された場合には、次いで、PMフィルタ18の温度tempfltが所定値tempflt2以上であるか否かが判別される(ステップ112)。当該所定値tempflt2は、PMフィルタ18が過昇温することなく良好な再生処理が継続できるか否かを判断するための閾値である。また、当該所定値tempflt2は、上記所定値tempflt1よりも小さな値に設定されている。
【0041】
上記ステップ112において、フィルタ温度tempflt>所定値tempflt2であると判定された場合、つまり、上記ステップ110および112の判定が共に成立していることで、PMフィルタ18が現在置かれている状態で多量の酸素が不用意にPMフィルタ18に供給された場合にPMフィルタ18が過昇温することが懸念されると判断できる場合(上記第1段階にある場合)には、F/C禁止制御の実施に先立って、先ず、PMフィルタ18の雰囲気が理論空燃比よりも弱リーンな空燃比となるようにするための弱リーン制御が実行される(ステップ114)。
【0042】
本ステップ114における弱リーン制御では、サブO2センサ20の出力を利用して、PMフィルタ18の雰囲気のリーン度合いを制御することによって、PMの燃焼速度(PMフィルタの再生速度)が制御される。既述したように、PMフィルタ18に供給される酸素量が増えるにつれ、PMの燃焼速度が速くなり、その結果、PMの燃焼温度が高くなる。このため、本ステップ114では、弱リーン制御によるPMフィルタ18への酸素の供給によってPMフィルタ18の過昇温が生じない範囲内で、現在のフィルタ堆積PM量spmおよびフィルタ温度tempfltの状態に応じて、PMフィルタ18の雰囲気のリーン度合いが調整される。
【0043】
また、上記のような弱リーン制御におけるリーン度合いの調整は、PMフィルタ18の上流側に配置されたA/Fセンサ14の制御目標空燃比をリーン化することによって行うものであってもよく、或いは、PMフィルタ18の下流側に配置されたサブO2センサ20の制御目標空燃比をリーン化することによって行うものであってもよい。
【0044】
一方、上記ステップ110または112の判定が不成立である場合には、上記弱リーン制御が終了される(ステップ116)。つまり、空燃比の制御が、理論空燃比を目標とする通常の空燃比のフィードバック制御に戻される。
【0045】
以上説明した図2に示すルーチンによれば、PMフィルタ18へのPM堆積量spmが所定値spm1を越えて十分に多くなっており、かつ、PMフィルタ18の温度tempfltが所定値tempflt1を越えて十分に高くなっていることで、減速時に燃料カットが実行された場合にはPMフィルタ18が上記フィルタ上限温度を越えて異常高温となる第2段階にあると判断できる場合には、減速時に燃料カットの実行が禁止される。このような制御によれば、燃料カットの禁止により、PMが十分に堆積された高温のPMフィルタ18への酸素の供給量が急増するのを抑制することができる。このため、PMフィルタ18が異常高温となるのを避けることができ、PMフィルタ18の溶損を好適に防止することができる。
【0046】
また、上記図2に示すルーチンによれば、PMフィルタ18へのPM堆積量spmが所定値spm2(<spm1)を越えて比較的多くなり、かつ、PMフィルタ18の温度tempfltが所定値tempflt2(<tempflt1)を越えて比較的高温であることで、PMフィルタ18の過昇温が懸念される第1段階にあると判断できる場合には、燃料カットの禁止に先立って、PMフィルタ18の雰囲気がリーン雰囲気となるように上記弱リーン制御が実行される。言い換えれば、上記ルーチンによれば、PMフィルタ18に対して想定される過昇温の度合いに応じて、減速時の燃料カットの禁止制御および弱リーン制御の何れか一方が選択されるようになる。また、上記ルーチンによれば、PMフィルタ18の過昇温回避のために行われる弱リーン制御は、一旦開始されると、上記ステップ110においてPMフィルタ18が過昇温しないと判定されるようになるまで継続して実行される。
【0047】
このような弱リーン制御によれば、PMフィルタ18の過昇温が懸念される程度にまでPMが堆積された時点で、PMフィルタ18へのPM堆積量spmおよびPMフィルタ18の温度tempfltに応じて、酸素供給量(リーン度合い)の調整によるPMの燃焼速度(PMの再生速度)の制御が実行される。これにより、PMフィルタ18に堆積されたPMの燃焼温度が異常高温とならない範囲内でPMの燃焼除去を実行することができ、PMフィルタ18の過昇温が懸念されない適正なレベルにまで速やかにフィルタ堆積PM量spmを減らすことができる。このため、燃料カットの実行に伴う異常高温による溶損の発生が懸念される程度にまでPMフィルタ18へのPMの堆積が進行するのを回避することができる。
【0048】
また、このような弱リーン制御によれば、減速時に燃料カットが実行されることになっても、PMフィルタ18の温度tempfltがその上限温度を越えないようにフィルタ堆積PM量spmを適正な量に減らしていくことができるようになる。このため、減速時の燃料カットの禁止を極力避けることができる。つまり、PMフィルタ18の過昇温の防止と、燃料カットの実行時間の確保による燃費向上とを好適に両立させることができる。
【0049】
以上のように、本実施形態では、PMフィルタ18の過昇温が懸念される上記第1段階に達した時点で、PMフィルタ18の雰囲気がリーン雰囲気となるように上記弱リーン制御が実行される。このため、基本的にストイキバーン運転を行う内燃機関10を備えるシステムにおいて、フィルタ堆積PM量spmを過昇温の心配のない適正なレベルに維持させることによってPMフィルタ18の過昇温(およびそれに伴うPMフィルタ18の溶損)の発生を良好に回避することができるので、PMフィルタ18に捕集されたPMの連続的な再生処理を弊害なく継続させ易くすることが可能となる。
【0050】
また、上記ルーチンの処理によれば、フィルタ堆積PM量spmが燃料カットの実行を禁止すべき所定値spm1を越えている場合であっても、PMフィルタ18の温度tempfltが所定値tempflt1から所定値tempflt2の間にある場合には、フィルタ堆積PM量spmに応じた弱リーン制御によって、堆積されたPMが燃焼除去される。
【0051】
また、このような弱リーン制御を行うと、結果的に上流側三元触媒16へもリーンなガスが供給されることになる。このため、弱リーン制御が長く継続されると、NOx浄化能の悪化を招くおそれがある。しかしながら、本実施形態の弱リーン制御では、サブO2センサ20の出力を利用して、PMフィルタ18の雰囲気が弱リーン雰囲気となるように制御される。このような制御によれば、上流側三元触媒16のための上記サブフィードバック制御用に備えられたセンサを使って、PMフィルタ18を通過する排気ガスの酸素濃度を正確に制御することができるようになる。これにより、NOx浄化能の悪化を最小限に留めつつ、上記弱リーン制御を精度良く行えるようになる。
【0052】
尚、上述した実施の形態1においては、ECU24が、上記ステップ102および104、または上記ステップ110および112の処理を実行することにより前記第1または第3の発明における「フィルタOT判定手段」が、上記ステップ114の処理を実行することにより前記第1の発明における「制御手段」が、それぞれ実現されている。
また、ECU24が、内燃機関10の減速時に所定の成立条件に基づいて燃料カットの実施を制御することにより前記第3の発明における「燃料カット制御手段」が、上記ステップ106の処理を実行することにより前記第3の発明における「燃料カット禁止手段」が、それぞれ実現されている。
また、ECU24が上記ステップ114および116の処理を実行することにより前記第4または第6の発明における「空燃比制御手段」が実現されている。
また、ECU24が上記ステップ102、104、110、および112の処理を実行することにより前記第6の発明における「OT度合判別手段」が、上記図2に示す一連の処理を実行することにより前記第6の発明における「フィルタOT回避制御選択手段」が、それぞれ実現されている。
また、上流側三元触媒16、メインリニアA/Fセンサ14、および、サブO2センサ20が、前記第7の発明における「触媒」、「上流側空燃比センサ」、および、「下流側空燃比センサ」に、それぞれ相当している。
【図面の簡単な説明】
【0053】
【図1】本発明の実施の形態1における内燃機関システムを説明するための概略図である。
【図2】本発明の実施の形態1において実行されるルーチンのフローチャートである。
【符号の説明】
【0054】
10 内燃機関
12 排気通路
14 メインリニアA/Fセンサ
16 上流側三元触媒
18 パティキュレートフィルタ(PMフィルタ)
20 サブO2センサ
22 下流側三元触媒
24 ECU(Electronic Control Unit)
spm パティキュレートフィルタへの粒子状物質PMの堆積量
tempflt パティキュレートフィルタの温度

【特許請求の範囲】
【請求項1】
排気ガス中に含まれる粒子状物質を捕集するパティキュレートフィルタを排気通路に備え、理論空燃比となるように行う制御を空燃比の基本制御としてストイキバーン運転を行う内燃機関の制御装置であって、
前記パティキュレートフィルタが過昇温するか否かを判定するフィルタOT判定手段と、
前記パティキュレートフィルタが過昇温すると判定された場合に、前記パティキュレートフィルタの雰囲気が理論空燃比よりもリーンな雰囲気となるように制御する制御手段と、
を備えることを特徴とする内燃機関の制御装置。
【請求項2】
前記制御手段は、前記パティキュレートフィルタの雰囲気のリーン度合いに基づいて、前記パティキュレートフィルタに捕集された粒子状物質の燃焼速度を制御することを特徴とする請求項1記載の内燃機関の制御装置。
【請求項3】
排気ガス中に含まれる粒子状物質を捕集するパティキュレートフィルタを排気通路に備え、理論空燃比となるように行う制御を空燃比の基本制御としてストイキバーン運転を行う内燃機関の制御装置であって、
内燃機関の減速時に燃料カットを実施する燃料カット制御手段と、
前記燃料カットを実行することによって前記パティキュレートフィルタが過昇温するか否かを判定するフィルタOT判定手段と、
前記パティキュレートフィルタが過昇温すると判定された場合に、減速時に燃料カットを実行するのを禁止する燃料カット禁止手段と、
を備えることを特徴とする内燃機関の制御装置。
【請求項4】
前記内燃機関の制御装置は、内燃機関から排出される排気ガスの空燃比を制御する空燃比制御手段を更に備え、
前記空燃比制御手段は、前記フィルタOT判定手段によって前記パティキュレートフィルタが過昇温すると判定された場合に、前記燃料カット禁止手段による減速時の燃料カットの禁止に先立ち、前記パティキュレートフィルタの雰囲気が理論空燃比よりも弱リーンな雰囲気となるように、排気ガスの空燃比を弱リーン制御することを特徴とする請求項3記載の内燃機関の制御装置。
【請求項5】
前記空燃比制御手段は、前記弱リーン制御を開始した後は、前記フィルタOT判定手段によって前記パティキュレートフィルタが過昇温しないと判定されるようになるまでの間、前記弱リーン制御の実行を継続することを特徴とする請求項4記載の内燃機関の制御装置。
【請求項6】
前記フィルタOT判定手段は、前記パティキュレートフィルタに対して想定される過昇温の度合いを判別するOT度合判別手段を含み、
前記内燃機関の制御装置は、
前記パティキュレートフィルタの雰囲気が理論空燃比よりも弱リーンな雰囲気となるように、排気ガスの空燃比を弱リーン制御する空燃比制御手段と、
前記フィルタOT判定手段によって前記パティキュレートフィルタの過昇温の度合いが比較的高いと判断された場合には、前記燃料カット禁止手段による減速時の燃料カットの禁止を選択し、前記フィルタOT判定手段によって前記パティキュレートフィルタの過昇温の度合いが比較的低いと判断された場合には、前記空燃比制御手段による前記弱リーン制御の実行を選択するフィルタOT回避制御選択手段と、
を更に備えることを特徴とする請求項3記載の内燃機関の制御装置。
【請求項7】
前記内燃機関の制御装置は、
排気通路に配置され、排気ガスを浄化可能な触媒と、
前記触媒よりも上流側の排気通路に配置され、筒内から排出される排気ガスの空燃比に関する情報を取得する上流側空燃比センサと、
前記触媒よりも下流側の排気通路に配置され、前記触媒の下流に排出される排気ガスの空燃比に関する情報を取得する下流側空燃比センサとを更に備え、
前記パティキュレートフィルタは、前記下流側空燃比センサよりも上流側の排気通路に配置されており、
前記空燃比制御手段は、前記弱リーン制御の実行時には、前記下流側空燃比センサの出力に基づいて、前記パティキュレートフィルタの雰囲気を弱リーンな雰囲気に制御することを特徴とする請求項4乃至6の何れか1項記載の内燃機関の制御装置。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2009−74426(P2009−74426A)
【公開日】平成21年4月9日(2009.4.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−243624(P2007−243624)
【出願日】平成19年9月20日(2007.9.20)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】