説明

内燃機関の制御装置

【課題】 燃費や排ガス特性を良好に維持しながら、アイドル運転状態などへの移行後におけるフィルタの過昇温を防止でき、それにより、フィルタの劣化および破損を確実に防止することができる内燃機関の制御装置を提供する。
【解決手段】 この制御装置1では、内燃機関3が通常運転状態からアイドル運転状態などに移行した後のフィルタ14の過昇温を防止するために、通常運転状態において、算出されたパティキュレート堆積量QPMおよび検出されたフィルタの温度TDPFに応じて、内燃機関3の出力をあらかじめ制限する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、内燃機関、特にディーゼルエンジンから排出された排ガス中のパティキュレートを捕捉するフィルタを有する内燃機関の制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来のこの種の内燃機関の制御装置として、例えば特許文献1に開示されたものが知られている。この内燃機関は、排気管に設けられ、排ガス中のパティキュレート(以下「PM」という)を捕捉するDPF(ディーゼル・パティキュレート・フィルタ)と、排ガスの一部を吸気管に還流させる、EGR制御弁を有するEGR装置と、排気管のDPFよりも下流側に設けられ、排ガスの流量を調整する排気絞り弁などを備えている。
【0003】
この制御装置では、内燃機関が高負荷運転状態からアイドル運転状態または無負荷運転状態に切り換えられた後、DPFの温度が所定温度よりも低い場合、またはDPFのパティキュレート堆積量(以下「PM堆積量」という)が所定量よりも小さい場合には、EGR制御弁を開弁するとともに、排気絞り弁を閉弁する。これにより、排気絞り弁を介してDPFに流入する排ガスの流量および排ガス中の酸素量が低減されることによって、DPF内におけるPMの燃焼が抑制され、DPFの過昇温が防止される。
【0004】
一方、DPFの温度が所定温度以上で、かつDPFのPM堆積量が所定量以上の場合には、EGR制御弁を閉弁するとともに、排気絞り弁を開弁する。これにより、排ガスが、EGR通路を還流することなく、すべて排気絞り弁を通過することによって、DPFに流入する排ガスの流量が十分に確保される。その結果、DPFから排ガスによって持ち去られる熱量が多くなることによって、DPFの過昇温が防止される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特許395960号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、上述した従来の内燃機関の制御装置では、長時間の高負荷運転により、DPF温度が所定温度を大幅に上回っているような場合には、EGR制御弁および排気絞り弁の制御により、排ガス中の酸素量の低減または排ガス流量の確保を図ったとしても、それらには限界があり、DPFの過昇温を確実に防止することができない。このようなDPFの過昇温を防止するために、例えばDPFのPM堆積量を制限した場合には、燃料のポスト噴射などによるDPFの再生動作を頻繁に行うことが必要になり、燃費の悪化やオイルダイリュージョンを招く。また、EGR制御弁を閉弁した場合には、排ガス中のNOxなどの有害物質の排出量が増加し、排ガス特性の悪化を招く。
【0007】
本発明は、以上のような課題を解決するためになされたものであり、燃費や排ガス特性を良好に維持しながら、アイドル運転状態または無負荷運転状態への移行後におけるフィルタの過昇温を防止でき、それにより、フィルタの劣化および破損を確実に防止することができる内燃機関の制御装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
この目的を達成するために、請求項1に係る発明は、内燃機関3から排出された排ガス中のパティキュレートを捕捉するフィルタ(実施形態における(以下、本項において同じ)DPF14)を有する内燃機関の制御装置であって、内燃機関3の運転状態を判定する運転状態判定手段(ECU2、ステップ1)と、フィルタに堆積したパティキュレートの堆積量を、パティキュレート堆積量QPMとして算出するパティキュレート堆積量算出手段(ECU2、ステップ2)と、フィルタの温度TDPFを検出するフィルタ温度検出手段(DPF温度センサ22)と、判定された内燃機関3の運転状態が通常運転状態からアイドル運転状態または無負荷運転状態に移行した後のフィルタの過昇温を防止するために、通常運転状態において、算出されたパティキュレート堆積量QPMおよび検出されたフィルタの温度TDPFに応じて、内燃機関3の出力をあらかじめ制限する出力制限手段(ECU2、インジェクタ6、EGR制御弁12b、ステップ6)と、を備えることを特徴とする。
【0009】
この内燃機関の制御装置によれば、内燃機関から排出された排ガス中のPM(パティキュレート)をフィルタが捕捉することにより、排ガスが浄化される。また、フィルタに堆積したPM堆積量を算出するとともに、通常運転状態において、このフィルタのPM堆積量と検出されたフィルタの温度に応じて、内燃機関の出力が制限される。
【0010】
後述するように、内燃機関が通常運転状態からアイドル運転状態または無負荷運転状態(以下「アイドル運転状態など」という)に移行した後に、フィルタが昇温されることにより到達する最高到達温度は、アイドル運転状態などへの移行時におけるフィルタのPM堆積量およびフィルタの温度によって変化し、PM堆積量が大きいほど、またフィルタの温度が高いほど、より高くなるという特性がある。このような特性に基づき、本発明によれば、通常運転状態において、フィルタのPM堆積量および温度に応じて内燃機関の出力をあらかじめ制限するので、その後のアイドル運転状態などにおけるフィルタの過昇温を防止でき、それにより、フィルタの劣化および破損を確実に防止することができる。
【0011】
また、このようにアイドル運転状態などにおけるフィルタの過昇温が防止される結果、同じ目的のために従来行われていた、フィルタのPM堆積量の制限およびEGR制御弁の閉弁は不要になるため、燃費や排ガス特性を良好に維持することができる。
【0012】
請求項2に係る発明は、請求項1に記載の内燃機関の制御装置において、パティキュレート堆積量算出手段は、フィルタの上流側と下流側との間の排ガスの圧力の損失DPを検出する圧力損失検出手段(差圧センサ23)と、検出された圧力損失DPに基づいて、パティキュレート堆積量を第1堆積量QPM1として算出する第1堆積量算出手段(ECU2、ステップ10)と、フィルタに流入するパティキュレートの流入量QPMINを算出するパティキュレート流入量算出手段(ECU2、ステップ11)と、フィルタから流出するパティキュレートの流出量QPMOUTを算出するパティキュレート流出量算出手段(ECU2、ステップ12)と、算出されたパティキュレート流入量QPMINと算出されたパティキュレート流出量QPMOUTとの差ΔQPM2に基づいて、パティキュレート堆積量を第2堆積量QPM2として算出する第2堆積量算出手段(ECU2、ステップ13,14)と、を有し、算出された第1堆積量QPM1および第2堆積量QPM2のうちのより大きなものを、パティキュレート堆積量QPMとして算出する(ステップ15〜17)ことを特徴とする。
【0013】
この構成によれば、検出されたフィルタの上流側と下流側との間の排ガスの圧力損失に基づくフィルタのPM堆積量を、第1堆積量として算出する。また、フィルタに流入するPM流入量と、フィルタから流出するPM流出量をそれぞれ算出するとともに、両者の差に基づくPM堆積量を第2堆積量として算出する。そして、算出されたこれらの第1および第2堆積量のうちのより大きなものを、フィルタのPM堆積量として算出する。
【0014】
以上のようにして算出される第1および第2堆積量を比較すると、排ガスの圧力損失に基づく第1堆積量は、フィルタにおけるPMの実際の堆積状態を直接的に反映するため、一般により高い精度で算出される一方で、例えば排気系の破損などが生じた場合には、圧力損失がPMの実際の堆積状態を良好に反映しなくなるため、算出精度が低下する。また、前述したように、アイドル運転状態などにおけるフィルタの最高到達温度は、移行時のPM堆積量が大きいほど高くなる。以上から、本発明によれば、互いに異なる手法で算出された第1および第2堆積量のうちのより大きい方、すなわち、フィルタの過昇温を防止する上でより安全側のものを、PM堆積量として採用するので、フィルタの過昇温をより確実に防止することができる。
【0015】
請求項3に係る発明は、請求項1または2に記載の内燃機関の制御装置において、出力制限手段は、パティキュレート堆積量QPMに基づいて、内燃機関3がアイドル運転状態または無負荷運転状態に移行した後にフィルタの温度TDPFがフィルタの所定の耐熱限界温度TDPFLMTを超えないような上限温度TLMTを設定する上限温度設定手段(ECU2、ステップ4)を有し、通常運転状態において、フィルタの温度TDPFが設定された上限温度TLMTを超えないように、内燃機関3の出力を制限する(ステップ6)ことを特徴とする。
【0016】
この構成によれば、PM堆積量に基づいて、フィルタの上限温度を設定するとともに、通常運転状態において、フィルタの温度が設定された上限温度を超えないように、内燃機関の出力を制限する。これにより、内燃機関がアイドル運転状態などに移行した後に、フィルタの温度がフィルタの所定の耐熱限界温度を超えることがなくなるので、フィルタの劣化および破損をさらに確実に防止することができる。
【0017】
請求項4に係る発明は、請求項2または3のいずれかに記載の内燃機関の制御装置において、フィルタの壁の厚さTFは0.254mm以下であることを特徴とする。
【0018】
一般に、フィルタに捕捉されたPMは、フィルタの壁の表面および内部に堆積する。この場合、PMがフィルタの壁の表面にのみ堆積した状態では、排ガスの圧力損失は、壁の厚さにかかわらずほぼ一定である。これに対し、PMがフィルタの壁の表面および内部に堆積した状態では、図10に示すように、圧力損失のばらつきΔDPは、フィルタの壁の厚さTFが大きいほど、より大きくなり、特に壁の厚さTFが0.254mm(=10mil)よりも大きくなると、増大することが確認された。本発明によれば、フィルタの壁の厚さが0.254mm以下であるので、ばらつきの小さい状態で検出された排ガスの圧力損失に基づいて第1堆積量を算出でき、それにより、第1堆積量の算出精度、ひいてはフィルタのPM堆積量の算出精度を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】本発明を適用した内燃機関の構成を概略的に示す図である。
【図2】制御装置の構成を概略的に示すブロック図である。
【図3】DPFの構成を示す斜視図である。
【図4】セグメントの構成を概略的に示す断面図である。
【図5】内燃機関の出力制限処理を示すフローチャートである。
【図6】上限温度を設定するためのマップである。
【図7】図6において設定された上限温度を説明するためのマップである。
【図8】パティキュレート堆積量の算出処理を示すフローチャートである。
【図9】実施形態による制御結果を比較例とともに示す図である。
【図10】フィルタの壁の厚さと圧力損失のばらつきとの関係を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、図面を参照しながら、本発明の好ましい実施形態を説明する。図1に示すように、本発明の制御装置1を適用した内燃機関(以下「エンジン」という)3は、車両(図示せず)に搭載された、例えば4気筒(1つのみ図示)のディーゼルエンジンである。
【0021】
エンジン3は、気筒ごとにピストン3aとシリンダヘッド3bを備えており、これらのピストン3aとシリンダヘッド3bによって燃焼室3cが形成されている。シリンダヘッド3bには、吸気管4および排気管5がそれぞれ接続されるとともに、燃焼室3cに臨むように燃料噴射弁(以下「インジェクタ」という)6が取り付けられている。
【0022】
インジェクタ6は、燃焼室3cの天壁の中央に配置されており、コモンレールを介して高圧ポンプ(いずれも図示せず)に接続されている。高圧ポンプは、後述するECU2による制御によって、燃料タンク(図示せず)の燃料を、高圧に昇圧した後、コモンレールを介してインジェクタ6に送り、インジェクタ6はこの燃料を燃焼室3cに噴射する。インジェクタ6の燃料噴射の時間(以下「燃料噴射量」という)QINJおよびタイミングは、ECU2からの駆動信号によって制御される(図2参照)。
【0023】
また、エンジン3のクランク軸3dには、マグネットロータ20aおよびMREピックアップ20bから成る、クランク角センサ20が設けられている。クランク角センサ20は、クランク軸3dの回転に伴い、パルス信号であるCRK信号およびTDC信号をECU2に出力する(図2参照)。
【0024】
CRK信号は、所定のクランク角(例えば30゜)ごとに出力される。ECU2は、このCRK信号に基づき、エンジン3の回転数(以下「エンジン回転数」という)NEを算出する。TDC信号は、各気筒においてピストン3aが吸気行程開始時のTDC(上死点)付近の所定クランク角度位置にあることを表す信号であり、4気筒タイプの本例では、クランク角180゜ごとに出力される。
【0025】
また、エンジン3には、EGR管12aおよびEGR制御弁12bを有するEGR装置12が設けられている。EGR管12aは、吸気管4と排気管5をつなぐように接続されている。このEGR管12aを介して、エンジン3の排ガスの一部が吸気管4に還流し、それにより、エンジン3の燃焼室3c内の燃焼温度が低下することで、排ガス中のNOxが減少する。
【0026】
EGR制御弁12bは、EGR管12aに取り付けられており、リニア電磁弁で構成され、そのバルブリフト量がECU2からの駆動信号に応じてリニアに変化する。ECU2は、EGR制御弁12bのバルブリフト量を制御することにより、EGR管12aを介して吸気管4に還流する排ガスの量であるEGR量を制御する(図2参照)。
【0027】
また、吸気管4のEGR管12aよりも上流側には、エアフローセンサ21が設けられている。このエアフローセンサ21は、吸入空気量GAIRを検出し、その検出信号をECU2に出力する(図2参照)。
【0028】
また、排気管5には、上流側から順に、触媒装置13およびDPF(ディーゼル・パティキュレート・フィルタ)14が設けられている。この触媒装置13は、NOx触媒と酸化触媒(いずれも図示せず)を組み合わせたものである。このNOx触媒は、エンジン3に供給される混合気の空燃比がリーンのときに、排ガス中のNOxを吸着し、排ガスを浄化するとともに、空燃比がリッチのときに、吸着したNOxを還元するという特性を有する。また、上記の酸化触媒は、排ガス中のHCおよびCOを酸化し、排ガスを浄化する。
【0029】
DPF14は、排ガス中のPMを捕捉し、排ガスを浄化するものである。図3に示すように、DPF14は、ケース15と、このケース15に取り付けられた複数のセグメント16を備えている。ケース15は、排気管5の長さ方向に延びる円筒状の本体部15aと、この本体部15a部の内側に設けられた格子状の仕切壁15bを有している。この仕切壁15bで仕切られた各空間には、本体部15aとほぼ同じ長さの角柱状のセグメント16がはめ込まれ、取り付けられている。
【0030】
各セグメント16は、PMを捕捉するためのフィルタ壁16aを有している(図4参照)。このフィルタ壁16aは、例えばコージェライトなどの多孔質セラミックで構成され、その厚さTFは、例えば0.254mm(10mil)である。また、フィルタ壁16aは、格子状に配置されるとともに、同図に示すように、セグメント16の長さ方向に連続的に延びていて、このフィルタ壁16aで仕切られた各空間に、排ガスが流れる排ガス通路16bが形成されている。
【0031】
また、各排ガス通路16bの上流側および下流側の端部には、それらを塞ぐように目封じ16cが設けられている。これらの目封じ16cは、複数の排ガス通路16bに対し、上流側端部および下流側端部のいずれにおいても、千鳥状に配置されており(図3参照)、また、図4に示すように、各排ガス通路16bの上流側端部および下流側端部の一方にのみ設けられている。具体的には、目封じ16cは、各排ガス通路16bにおいて、上流側端部に設けられている場合には、下流側端部には設けられておらず、逆に、上流側端部に設けられていない場合には、下流側端部に設けられている。
【0032】
以上の構成のDPF14によれば、図4に示すように、排ガスは、DPF14の目封じ16cが設けられていない上流側端部から排ガス通路16bに流入する。その排ガス通路16bの下流側端部には目封じ16cが設けられているため、その後、排ガスは、フィルタ壁16aの細孔を通って隣りの排ガス通路16bに流入した後、目封じ16cが設けられていない下流側端部から排気管5に流出する。以上のように排ガスがフィルタ壁16aを通過する際に、排ガス中のPMがフィルタ壁16aの表面および内部に捕捉され、それにより、排ガスが浄化される。
【0033】
図1に示すように、DPF14には、DPF温度センサ22が設けられている。このDPF温度センサ22は、DPF14の温度(以下「DPF温度」という)TDPFを検出し、その検出信号をECU2に出力する(図2参照)。
【0034】
また、排気管5には、触媒装置13とDPF14の間とDPF14の下流側に接続された圧力導入路5aが設けられており、この圧力導入通路5aには差圧センサ23が設けられている。差圧センサ23は、排気管5内のDPF14よりも上流側と下流側との間の排ガスの圧力の差(以下「差圧」という)DPを検出し、その検出信号をECU2に出力する(図2参照)。DPF14に堆積したPMの堆積量(以下「PM堆積量」という)が大きいほど、DPF14の通気抵抗が増大することによって、差圧DPがより大きくなるので、差圧DPはPM堆積量を良好に反映する。
【0035】
ECU2は、本実施形態において、運転状態判定手段、パティキュレート堆積量算出手段、出力制限手段、第1堆積量算出手段、パティキュレート流入量算出手段、パティキュレート流出量算出手段、第2堆積量算出手段および上限温度設定手段を構成するものであり、CPU、RAM、ROM、および入出力インターフェース(いずれも図示せず)などから成るマイクロコンピュータで構成されている。前述した各種のセンサ20〜23からの検出信号は、入力インターフェースでA/D変換や整形がなされた後、CPUに入力される。CPUは、入力されたこれらの検出信号に応じ、ROMに記憶された制御プログラムなどに従って、以下に述べるような、エンジン3の制御を実行する。
【0036】
図5は、エンジン3の出力制限処理を示すフローチャートである。本処理は、エンジン3がアイドル運転状態以外の通常運転状態(以下「通常運転状態」という)からアイドル運転状態に移行した後のDPF14の過昇温を防止するために、DPF温度TDPFおよびDPF14のPM堆積量QPMに応じて、エンジン3の出力を制限するものであり、所定時間ごとに実行される。
【0037】
まず、ステップ1(「S1」と図示。以下同じ)では、通常運転フラグF_OPNNが「1」であるか否かを判別する。この通常運転フラグF_OPNNは、エンジン3が通常運転状態のときに「1」にセットされるものである。このステップ1の答がNOで、エンジン3がアイドル運転状態のときには、本処理を終了する。このステップ1の答がYESで、エンジン3が通常運転状態のときには、PM堆積量QPMを算出する(ステップ2)。その算出方法については後述する。
【0038】
次に、ステップ2で算出されたPM堆積量QPMに応じ、図6に示すマップを検索することによって、通常運転状態におけるDPF14の上限温度TLMTを設定する(ステップ3)。このマップでは、上限温度TLMTは、PM堆積量QPMが大きいほど、より低い値に設定されている。このマップは、以下のようにして設定されたものである。
【0039】
図7は、エンジン3の通常運転状態からアイドル運転状態への移行時におけるDPF温度(以下「移行時温度」という)TDPFTRTと、その移行後のアイドル運転状態においてDPF14が昇温され、到達する最高温度(以下「最高到達温度」という)TMAXとの関係を、2つのPM堆積量QPMAおよびQPMB(QPMA<QPMB)について示したものである。同図に示すように、移行時温度TDPFTRTが同じ場合、最高到達温度TMAXは、PM堆積量QPMが大きいほど、より高い値になっている。これは、PM堆積量QPMが大きいほど、移行後のアイドル運転状態において燃焼するPM量が大きくなり、それに応じてDPF14に発生する熱量が大きくなるためである。
【0040】
また、PM堆積量QPMが一定の場合、最高到達温度TMAXは、移行時温度TDPFTRTが高くなるにつれて、リニアに上昇する。これは、移行時温度TDPFTRTが高いほど、初期温度が高いとともに、PMの燃焼が促進され、それによりDPF14に発生する熱量が大きくなるためである。
【0041】
また、図7中のTDPFLMTはDPF14の耐熱限界温度を示しており、上述した関係から、移行時温度TDPFTRTがこの耐熱限界温度TDPFLMTに対応する温度を超えないようにすることによって、最高到達温度TMAXを、DPF14の耐熱限界温度TDPFLMTを超えないように制御することが可能になる。このような観点から、図6のマップは、耐熱限界温度TDPFLMTに対応する移行時温度TDPFTRTを、様々なPM堆積量QPMに対して実験によって求め、上限温度TLMTとして表したものである。
【0042】
図5に戻り、前記ステップ3に続くステップ4では、上限温度TLMTと所定温度ΔT(例えば20〜30℃)との差(TLMT−ΔT)を、基準温度TREFとして算出する。次に、検出されたDPF温度TDPFが、基準温度TREFよりも高いか否かを判別する(ステップ5)。このステップの答がNOで、TDPF≦TREFのときには、本処理を終了する。一方、ステップ5の答がYESで、TDPF>TREFのときには、エンジン3の出力を制限し(ステップ6)、その後、本処理を終了する。
【0043】
ここで、このエンジン3の出力の制限は、例えば、エンジン3の運転状態に応じて設定された燃料噴射量QINJを減少させるとともに、EGR制御弁12bのバルブリフト量を増大させ、EGR量を増加させることにより、吸入空気量GAIRを減少させることによって行われる。それにより、エンジン3から排出される熱量が減少することによって、DPF14に発生する熱量が減少する。その結果、DPF温度TDPFの温度の上昇が抑制され、DPF温度TDPFが上限温度TLMTを超えないように制限される。
【0044】
図8は、図5のステップ2で実行されるPM堆積量QPMの算出サブルーチンを示す。まず、ステップ10において、第1堆積量QPM1を算出する。具体的には、第1堆積量QPM1は、差圧センサ23により検出された差圧DPと、燃料噴射量QINJおよび吸入空気量GAIRから算出された排ガス流量とに応じ、所定のマップ(図示せず)を検索することによって算出される。
【0045】
次に、DPF14に流入するPMの流入量(以下「PM流入量」という)QPMINを算出する(ステップ11)。このPM流入量QPMINは、エンジン3におけるPMの発生量に相当し、具体的には、エンジン回転数NEおよび燃料噴射量QINJに応じ、所定のマップ(図示せず)を検索することによって算出される。
【0046】
次に、DPF14から流出するPMの流出量(以下「PM流出量」という)QPMOUTを算出する(ステップ12)。このPM流出量QPMOUTは、DPF14におけるPMの再生量に相当し、具体的には、エンジン回転数NE、燃料噴射量QINJおよびDPF温度TDPFに応じ、所定のマップ(図示せず)を検索することによって算出される。
【0047】
次に、PM流入量QPMINとPM流出量QPMOUTとの差(QPMIN−QPMOUT)を、堆積量差分ΔQPM2として算出する(ステップ13)。次のステップ14では、前回の第2堆積量QPM2に堆積量差分ΔQPM2を加算した値(QPM2+ΔQPM2)を、今回の第2堆積量QPM2として算出する。
【0048】
次に、ステップ10で算出された第1堆積量QPM1が、第2堆積量QPM2よりも大きいか否かを判別する(ステップ15)。この答がYESで、QPM1>QPM2のときには、第1堆積量QPM1をPM堆積量QPMとして設定し(ステップ16)、本処理を終了する。一方、上記ステップ15の答がNOで、QPM1≦QPM2のときには、第2堆積量QPM2をPM堆積量QPMとして設定し(ステップ17)、本処理を終了する。以上のように、このPM堆積量QPMの算出処理では、排ガスの差圧DPなどに基づいて第1堆積量QPM1を算出し、PM流入量QPMINおよびPM流出量QPMOUTなどに基づいて第2堆積量QPM2を算出するとともに、これらの第1および第2堆積量QPM1,QPM2のうち、より大きいものがPM堆積量QPMとして算出される。
【0049】
図9は、本実施形態による制御によって得られたアイドル運転状態への移行後におけるDPF14の最高到達温度TMAXを比較例とともに示したものである。この実施形態は、通常運転状態において、上限温度TLMTを600℃として出力制限処理を行った後、DPF14に所定量のPMが堆積した状態で、アイドル運転状態(EGR併用、アイドル回転数=820RPM)に移行させたものである。これに対し、比較例は、通常運転状態において、この出力制限処理を行わず、DPF14が640℃の状態から、アイドル運転状態に移行したものであり、他の条件は互いに同じである。
【0050】
その結果、実施形態では、アイドル運転状態への移行後において、DPF温度TDPFが上限温度TLMTからわずかに上昇しているだけで、最高到達温度TMAXは、DPF14の耐熱限界温度TDPFLMT(例えば850〜900℃)を下回っている。これに対し、比較例では、DPF温度TDPFが移行時の温度から大きく上昇し、最高到達温度TMAXが耐熱限界温度TDPFLMTを大きく超えている。以上から、実施形態の出力制限処理により、最高到達温度TMAXを、DPF14の耐熱限界温度TDPFLMTを超えないように制御できることが確認された。なお、例示した上記の耐熱限界温度TDPFLMTは、DPF14の実際の耐熱限界温度よりも低く設定されている。これは、DPF14の上流側に設けられた触媒装置13の耐熱限界温度が、触媒装置13の材料などによって変化するものの、この例ではDPF14の実際の耐熱限界温度よりも低いためである。このため、上記のDPF14の耐熱限界温度TDPFLMTは、触媒装置13の劣化防止の観点から、触媒装置13の耐熱限界温度に合わせたより低い値に設定されている。
【0051】
以上のように、本実施形態の制御装置1によれば、通常運転状態においてDPF14のPM堆積量QPMおよびDPF温度TDPFに応じてエンジン3の出力をあらかじめ制限するので、その後のアイドル運転状態におけるDPF14の過昇温を防止でき、それにより、DPF14の劣化および破損を確実に防止することができる。また、このようにアイドル運転状態におけるDPF14の過昇温が防止される結果、同じ目的のために従来行われていた、PM堆積量QPMの制限およびEGR制御弁の閉弁は不要になるため、燃費や排ガス特性を良好に維持することができる。
【0052】
また、前述したようにして互いに異なる手法で算出された第1および第2堆積量QPM1,QPM2のうちのより大きいもの、すなわち、DPF14の過昇温を防止する上でより安全側のものを、PM堆積量QPMとして採用するので、DPF14の過昇温をより確実に防止することができる。
【0053】
また、通常運転状態において、PM堆積量QPMに基づいて、DPF14の上限温度TLMTを設定するとともに、DPF温度TDPFが上限温度TLMTを超えないように、エンジン3の出力を制限する。これにより、エンジン3が通常運転状態からアイドル運転状態に移行した後に、DPF温度TDPFがDPF14の所定の耐熱限界温度TDPFLMTを超えることがなくなるので、DPF14の劣化および破損をさらに確実に防止することができる。
【0054】
また、DPF14のフィルタ壁16aの厚さTFが0.254mm(10mil)であるので、ばらつきの小さい状態で検出された排ガスの差圧DPに基づいて第1堆積量QPM1を算出でき、それにより、第1堆積量QPM1の算出精度、ひいてはDPF14のPM堆積量QPMの算出精度を向上させることができる。
【0055】
なお、本発明は、上述した実施形態に限定されることなく、種々の態様で実施することができる。例えば、本実施形態は、DPF14の過昇温を防止するための制御を、通常運転状態からアイドル運転状態への移行後を対象として行っているが、通常運転状態から無負荷運転状態への移行後を対象としてもよい。
【0056】
また、実施形態では、出力の制限を、燃料噴射量QINJの減少とEGR量の増加による吸入空気量GAIRの減少とによって、行っているが、例えば、点火時期を遅角側に制御することによって行ってもよい。また、実施形態では、DPF温度TDPFをDPF温度センサ22によって検出しているが、例えば、DPF14の上流側および下流側の排ガス温度を検出し、その検出結果から推測してもよい。
【0057】
さらに、本実施形態は、本発明を車両用の内燃機関に適用した例であるが、これに限定されることなく、他の産業用機械、例えば、クランク軸を鉛直方向に配置した船外機などのような船舶推進機用の内燃機関にも適用可能である。その他、細部の構成を、本発明の趣旨の範囲内で適宜、変更することが可能である。
【符号の説明】
【0058】
1 制御装置
2 ECU(運転状態判定手段、パティキュレート堆積量算出手段、出力制 限手段、第1堆積量算出手段、パティキュレート流入量算出手 段、パティキュレート流出量算出手段、第2堆積量算出手段、 上限温度設定手段)
3 内燃機関
14 DPF(フィルタ)
16a フィルタ壁(フィルタの壁)
22 DPF温度センサ(フィルタ温度検出手段)
23 差圧センサ(圧力損失検出手段)
QPM PM堆積量(パティキュレート堆積量)
TDPF DPF温度(フィルタ温度)
DP 差圧(圧力損失)
QPM1 第1堆積量
QPMIN PM流入量
QPMOUT PM流出量
ΔQPM2 堆積量差分(パティキュレート流入量とパティキュレート流出量との 差)
QPM2 第2堆積量
TDPFLMT 耐熱限界温度
TLMT 上限温度

【特許請求の範囲】
【請求項1】
内燃機関から排出された排ガス中のパティキュレートを捕捉するフィルタを有する内燃機関の制御装置であって、
前記内燃機関の運転状態を判定する運転状態判定手段と、
前記フィルタに堆積したパティキュレートの堆積量を、パティキュレート堆積量として算出するパティキュレート堆積量算出手段と、
前記フィルタの温度を検出するフィルタ温度検出手段と、
前記判定された前記内燃機関の運転状態が通常運転状態からアイドル運転状態または無負荷運転状態に移行した後の前記フィルタの過昇温を防止するために、前記通常運転状態において、前記算出された前記パティキュレート堆積量および前記検出されたフィルタの温度に応じて、前記内燃機関の出力をあらかじめ制限する出力制限手段と、
を備えることを特徴とする内燃機関の制御装置。
【請求項2】
前記パティキュレート堆積量算出手段は、
前記フィルタの上流側と下流側との間の排ガスの圧力の損失を検出する圧力損失検出手段と、
当該検出された圧力損失に基づいて、前記パティキュレート堆積量を第1堆積量として算出する第1堆積量算出手段と、
前記フィルタに流入するパティキュレートの流入量を算出するパティキュレート流入量算出手段と、
前記フィルタから流出するパティキュレートの流出量を算出するパティキュレート流出量算出手段と、
前記算出されたパティキュレート流入量と前記算出されたパティキュレート流出量との差に基づいて、前記パティキュレート堆積量を第2堆積量として算出する第2堆積量算出手段と、を有し、
前記算出された第1堆積量および第2堆積量のうちのより大きなものを、前記パティキュレート堆積量として算出することを特徴とする請求項1に記載の内燃機関の制御装置。
【請求項3】
前記出力制限手段は、
前記パティキュレート堆積量に基づいて、前記内燃機関が前記アイドル運転状態または前記無負荷運転状態に移行した後に前記フィルタの温度が当該フィルタの所定の耐熱限界温度を超えないような上限温度を設定する上限温度設定手段を有し、
前記通常運転状態において、前記フィルタの温度が前記設定された上限温度を超えないように、前記内燃機関の出力を制限することを特徴とする請求項1または2に記載の内燃機関の制御装置。
【請求項4】
前記フィルタの壁の厚さは0.254mm以下であることを特徴とする請求項2または3に記載の内燃機関の制御装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2010−242639(P2010−242639A)
【公開日】平成22年10月28日(2010.10.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−92937(P2009−92937)
【出願日】平成21年4月7日(2009.4.7)
【出願人】(000005326)本田技研工業株式会社 (23,863)
【Fターム(参考)】