説明

内燃機関の制御装置

【課題】信頼性を確保しつつ過渡運転時におけるNOx排出量を効果的に低減することができる内燃機関の制御装置を提供する。
【解決手段】エンジンシステム1は、コンプレッサ出口における吸入空気の温度を検出する吸気温センサ42と、EGR通路16を通じて吸気側に流入する外部EGR量を制御するEGRバルブ162と、吸気弁22および排気弁23の開閉弁タイミングを変更して排ガスの一部を燃焼室に流入または残留させることで内部EGR量を制御する電動VVT機構26および油圧VVT機構27と、を備え、インジェクタ17の燃料噴射量を増大させるときの吸入空気の温度に基づいて外部EGR量と内部EGR量との比率を調節する。すなわち、吸入空気の温度がより高いほど、現に要求されるEGR量のうち外部EGR量が占める比率をより小さくしつつ、内部EGR量が占める比率をより大きくするよう調節する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、内燃機関の制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
内燃機関(特にディーゼル機関)において、燃焼室から排出される窒素酸化物(NOx)の量を低減するために、排ガスの一部を燃焼室に導入する排ガス還流(Exhaust Gas Recirculation:EGR)を行う技術が知られている。EGRを行う手法としては、内燃機関の排気通路と吸気通路とを連結するEGR通路を設けて、排気通路を流通する排ガスの一部を吸気通路に流入させる手法(以下、外部EGRという)が広く知られている。
【0003】
また、EGRを行う手法としては、外部EGRのほかに、前サイクルの既燃ガスを利用する手法(以下、内部EGRという)がある。内部EGRとしては、内燃機関の吸気弁と排気弁とのバルブオーバーラップ期間を変更したり、吸気行程に排気弁を開いたりすることで、前サイクルの既燃ガス(排ガス)の一部を燃焼室に流入または残留させる手法が知られている。
【0004】
これら外部EGRと内部EGRとを併用する内燃機関の技術としては、所定の運転領域では比較的多量のEGRを実行して予混合燃焼を実行させ、所定の運転領域外では少量のEGRを実行して通常燃焼を実行させるものであって、予混合燃焼を実行させる場合に外部EGRと内部EGRの両方を実行してEGR率を制御し、通常燃焼を実行させる場合には外部EGRのみを実行する技術が特許文献1に開示されている。
【0005】
また、内燃機関の回転数、トルク、吸気温度、冷却水温に応じて与える4次元EGRマップに基づいて外部EGR量と内部EGR量を制御することで、EGR制御中のノッキングを抑制する技術が特許文献2に開示されている。
【0006】
そして、その他本発明と関連性があると考えられる技術が特許文献3に開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2005−291002号公報
【特許文献2】特開2003−328839号公報
【特許文献3】特開2007−138904号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
一般的に、外部EGRのほうが内部EGRよりも燃焼室の温度が低下するためにNOx排出量の低減効果が大きく、そのため外部EGRを優先的に実行することが望ましい。ここで、外部EGRを実行すると、吸気側に還流される排ガスによって吸入空気の温度が上昇するが、吸入空気の温度が過度に上昇すると内燃機関(ターボ、配管等)の信頼性が低下してしまう。そのため、排ガスがより高温になる高負荷運転時には、外部EGR量を吸入空気の温度が過度に上昇しない量(以下、外部EGRの限界量という)に設定し、不足するEGR量を内部EGRによって補うように制御することが要求される。
【0009】
一方、内燃機関の加速時などの過渡運転時には、燃料噴射量の増大に応じて排ガスの温度が徐々に上昇し、それに応じて外部EGRの限界量も変化する。このような過渡運転時における外部EGRの限界量の変化を考慮したEGR制御は今だ提案されていない。
【0010】
本発明は、かかる点に鑑みてなされたものであり、信頼性を確保しつつ過渡運転時におけるNOx排出量を効果的に低減することができる内燃機関の制御装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記目的を達成するために、本発明の内燃機関の制御装置は、内燃機関の燃料噴射弁の燃料噴射量を制御する燃料噴射量制御手段と、前記内燃機関の吸入空気の温度を検出または推定する吸気温度検出手段と、前記内燃機関の排気側と吸気側とを連通する排ガス還流通路を通じて前記吸気側に流入する排ガスの還流量を制御する第1排ガス還流量制御手段と、前記内燃機関の吸気弁および排気弁の開閉弁タイミングを変更して排ガスの一部を燃焼室に流入または残留させることで前記燃焼室への排ガスの還流量を制御する第2排ガス還流量制御手段と、前記燃料噴射量制御手段が燃料噴射量を増大させるときの前記吸気温度検出手段の検出結果に基づいて、前記第1排ガス還流量制御手段の制御に基づく排ガスの還流量と前記第2排ガス還流量制御手段の制御に基づく排ガスの還流量との比率を調節する比率調節手段と、を備え、前記比率調節手段が、前記吸気温度検出手段が検出または推定した吸入空気の温度がより高いほど前記第1排ガス還流量制御手段の制御に基づく排ガスの還流量をより少なくしつつ、前記第2排ガス還流量制御手段の制御に基づく排ガスの還流量をより多くするよう比率を調節することを特徴とする。
【0012】
上記の構成により、内燃機関の燃料噴射量が増大するときの吸入空気の温度に基づいて、第1排ガス還流量制御手段の制御に基づく排ガスの還流量(外部EGR量)と第2排ガス還流量制御手段の制御に基づく排ガスの還流量(内部EGR量)の比率を適切に調節することができる。すなわち、燃料噴射量が増大するときの吸入空気の温度がより低いときは内部EGR量の比率をより小さくしつつ外部EGR量の比率をより大きく調節することでNOx排出量の低減効果を高めることができる。そして、吸入空気の温度がより高いときには内部EGR量の比率をより大きく調節することで内燃機関の信頼性を確保することができる。よって、NOx排出量の低減効果を高めつつ吸入空気の温度が過度に上昇することを抑制することができることから、信頼性を確保しつつ過渡運転時におけるNOx排出量を効果的に低減することができる。
【発明の効果】
【0013】
本発明の内燃機関の制御装置によれば、信頼性を確保しつつ過渡運転時におけるNOx排出量を効果的に低減することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】実施例のエンジンシステムの一構成例を示した図である。
【図2】実施例のエンジンの一気筒の構成例を示した断面図である。
【図3】実施例における外部EGR量と内部EGR量の比率の調節例を示している。
【図4】コンプレッサ出口温度に基づく外部EGR量と内部EGR量の比率の調節例を示している。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明を実施するための形態を図面と共に詳細に説明する。
【実施例】
【0016】
本発明の実施例について図面を参照しつつ説明する。図1は、本発明の内燃機関の制御装置を搭載したエンジンシステム1の一構成例を示した図である。なお、図1にはエンジンの一部の構成のみを示している。
【0017】
図1に示すエンジンシステム1は、動力源であるエンジン100を備えており、エンジン100の運転動作を総括的に制御するエンジンECU(Electronic Control Unit)10を備えている。また、エンジンシステム1は、エンジン100の排気側と吸気側とを連通するEGR通路16と、EGR通路16を通じて還流される外部EGR量を調節するEGRバルブ162とを備えている。そして、エンジンシステム1は、エンジン100の吸気弁22および排気弁23のバルブタイミングを変更する電動VVT機構26および油圧VVT機構27を備えている。更に、エンジンシステム1は、エンジン100のエアクリーナ20に吸入空気の温度を検出する吸気温センサ42を備えている。
【0018】
図2は、実施例のエンジン100の一気筒の構成例を示した断面図である。エンジン100は、車両に搭載される4気筒ディーゼルエンジンであって、各気筒は燃焼室を構成するピストンを備えている。各燃焼室のピストンは、エンジン100のシリンダに摺動自在に嵌合されており、それぞれコネクティングロッドを介して出力軸部材であるクランクシャフト21に連結されている。
【0019】
エンジンECU10は、エアフロメータ46からの吸入空気量、クランク角センサ41からのピストンの位置等の情報に基づき、燃料の噴射量および噴射タイミングを決定しインジェクタ17に信号を送る。インジェクタ17は、エンジンECU10の信号に従って、指示された燃料噴射量および噴射タイミングで燃焼室内に燃料を噴射する。インジェクタ17より噴射された燃料は、燃焼室内で霧化し、吸気弁の開弁に伴って燃焼室内へ流入する吸入空気と混合気を形成する。そして、混合気は、ピストンの上昇運動により燃焼室内で圧縮されて着火することで燃焼し、燃焼室内を膨張させてピストンを下降させる。この下降運動がコネクティングロッドを介してクランクシャフト21の軸回転に変更されることにより、エンジン100は動力を得る。この場合、エンジン100は、4気筒に限定されず、多気筒ディーゼルエンジンを適用することができる。また、本実施例では、エンジン100を軽油を燃料とするディーゼルエンジンとしているが、それに限定されない。
なお、エンジン100は、本発明の内燃機関の一構成例である。
【0020】
クランクシャフト21の軸の近傍には、クランク角センサ41が設けられている。クランク角センサ41は、クランクシャフト21軸の回転角度を検出するように構成されており、検出結果をエンジンECU10に送信する。それにより、エンジンECU10は、運転時のクランクシャフト21軸の回転数や回転角速度など、クランク角に関する情報を取得する。そして、エンジンECU10は、取得したクランクシャフト21軸の回転数や回転角速度に基づきエンジン回転数やエンジントルクを算出してエンジン100の出力を認識する。
【0021】
各燃焼室には複数の吸気弁、排気弁が設けられている。図2には吸気弁、排気弁をそれぞれ1つずつ示している。燃焼室の各吸気ポートには、それぞれ吸気弁22が配置されており、吸気弁22を開閉駆動させるための吸気カムシャフト24が配置されている。更に、燃焼室の各排気ポートには、それぞれ排気弁23が配置されており、排気弁23を開閉駆動させるための排気カムシャフト25が配置されている。
【0022】
吸気弁22および排気弁23はクランクシャフト21の回転が連結機構(例えばタイミングベルト、タイミングチェーンなど)により伝達された吸気カムシャフト24および排気カムシャフト25の回転により開閉され、吸気ポートおよび排気ポートと燃焼室とを連通・遮断する。なお、吸気弁22、および排気弁23の位相は、クランク角を基準にして表される。
【0023】
吸気カムシャフト24は可変動弁機構(以下、VVT機構という)である電動VVT機構26を有している。この電動VVT機構26はエンジンECU10の指示により電動モータで吸気カムシャフト24を回転させる。それにより吸気カムシャフト24のクランクシャフト21に対する回転位相が変更されることから、吸気弁22のバルブタイミングが変更される。この場合、吸気カムシャフト24の回転位相は、吸気カム角センサ48にて検出され、エンジンECU10へと出力される。それにより、エンジンECU10は、吸気カムシャフト24の位相を取得することができるとともに、吸気弁22の位相を取得することができる。また、吸気カムシャフト24の位相は、クランク角を基準にして表される。更に、電動VVT機構26は、エンジンECU10の指示により電動モータを調節することで吸気弁22および排気弁23のバルブオーバーラップ期間を調節したり、エンジン100の排気行程に吸気弁22を開弁させたりすることができる。
なお、電動VVT機構26は、本発明の第2排ガス還流量制御手段の一構成例である。
【0024】
排気カムシャフト25は油圧VVT機構27を有している。この油圧VVT機構27はエンジンECU10の指示によりオイルコントロールバルブ(以下、OCVという)で排気カムシャフト25を回転させる。それにより排気カムシャフト25のクランクシャフト21に対する回転位相が変更されることから、排気弁23のバルブタイミングが変更される。この場合、排気カムシャフト25の回転位相は、排気カム角センサ49にて検出され、エンジンECU10へと出力される。それにより、エンジンECU10は、排気カムシャフト25の位相を取得することができるとともに、排気弁23の位相を取得することができる。また、排気カムシャフト25の位相は、クランク角を基準にして表される。更に、油圧VVT機構27は、エンジンECU10の指示によりOCVを調節することで吸気弁22および排気弁23のバルブオーバーラップ期間を調節したり、エンジン100の吸気行程に排気弁23を開弁させたりすることができる。本実施例の油圧VVT機構27は油圧駆動式であるが、吸気カムシャフト24と同様の電動式であってもよい。
なお、油圧VVT機構27は、本発明の第2排ガス還流量制御手段の一構成例である。
【0025】
図1に戻り、エンジン100は、インジェクタ17、コモンレール18、低圧燃料ポンプ、高圧燃料ポンプ等より構成されるコモンレール式燃料噴射システムを備えている。燃料タンクより低圧燃料ポンプにより吸引された燃料は、高圧燃料ポンプにてコモンレール18へ高圧で吐出し蓄圧される。
【0026】
コモンレール18は、インジェクタ17に供給する高圧燃料を蓄圧する容器である。高圧燃料ポンプから圧送された燃料は、コモンレール18内で噴射に必要な圧力まで蓄圧され、高圧配管を通じて各燃焼室のインジェクタ17に供給される。また、コモンレール18にはレール圧センサおよび減圧弁が設けられている。エンジンECU10は、レール圧センサから出力されたコモンレール18内部の燃圧が規定値を超えた場合に、減圧弁を開放するように指示する。そして、減圧弁より燃料を排出することで、コモンレール圧が常に規定値以下になるよう調整する。減圧弁より排出された燃料は、リリーフ配管を通って燃料タンクへと戻される。
【0027】
各燃焼室には、それぞれインジェクタ17が装着されている。コモンレール18より高圧配管を通じて供給された燃料は、エンジンECU10の指示によりインジェクタ17にてエンジン気筒内の燃焼室に噴射供給される。エンジンECU10は、エアフロメータ46からの吸入空気量、およびクランク角センサ41からのピストンの位置の情報等に基づき、燃料噴射量と噴射タイミングを決定しインジェクタ17に信号を送る。インジェクタ17はエンジンECU10の信号に従って、指示された燃料噴射量・噴射タイミングにて燃焼室内へ燃料を高圧噴射する。インジェクタ17のリーク燃料は、リリーフ配管を通じて燃料タンクへと戻される。この場合、インジェクタ17は、エンジン100の仕様に応じて燃焼室の任意の位置に装着することができる。
なお、インジェクタ17は、本発明の燃料噴射弁の一構成例である。
【0028】
エンジン100の各燃焼室には、それぞれの燃焼室と連通する吸気マニホルド11が接続されている。吸気マニホルド11は、吸気通路12によってエアフロメータ46、ディーゼルスロットル19、インタークーラ、ターボチャージャ14のコンプレッサを介してエアクリーナ20に連結されており、エンジン100の外部から取り込まれた吸入空気を各燃焼室内へ導入する。
【0029】
ディーゼルスロットル19にはスロットルポジションセンサ47が設けられている。エアフロメータ46およびスロットルポジションセンサ47は、それぞれ吸気通路12を通過する吸入空気量、およびディーゼルスロットル19の弁開度を検出し、検出結果をエンジンECU10に送信する。エンジンECU10は、送信された検出結果に基づいて吸気マニホルド11へ導入される吸入空気量を認識し、ディーゼルスロットル19の弁開度を調節することでエンジン100の運転に必要な吸入空気を燃焼室へ導入する。
ディーゼルスロットル19は、ステップモータを用いたスロットルバイワイヤ方式を適用することが好ましいが、ディーゼルスロットル19の弁開度を任意に変更可能なその他の機構を適用してもよい。
【0030】
更に、エンジン100の各燃焼室には、それぞれの燃焼室と連通する排気マニホルド13が接続されている。排気マニホルド13は、排気通路15によってターボチャージャ14の排気タービンを介して排気浄化装置30に連結されており、燃焼後の排ガスをエンジン100の外部へと排出させる。
【0031】
ターボチャージャ14は、排ガスの運動エネルギを利用して排気タービンを回転させ、エアクリーナ20を通過した吸入空気を圧縮してインタークーラへと送り込む。圧縮された吸入空気は、インタークーラで冷却された後に吸気マニホルド11へと導入される。
ターボチャージャ14は、可変ノズル式ターボチャージャ(Variable Nozzle Turbo,以下、VNTと略記する)であって、排気タービン側に可変ノズルベーン機構141が設けられている。この可変ノズルベーン機構141の開度を調整することにより、タービンインペラ翼への排ガスの流入角度を制御して、吸気マニホルド11へ導入する吸入空気の過給圧を調節する。例えば、可変ノズルベーン機構141の開度をより小さくすると、より多くの排ガスがタービンインペラ翼に流入するために排ガスのエネルギ利用率が高くなって過給効率が向上する。また、可変ノズルベーン機構141の開度をより大きくすると、タービンインペラ翼に流入する排ガス量がより少なくなるために排ガスのエネルギ利用率が低くなって過給効率が低下する。この場合、ターボチャージャ14はVNTに限られず、ウェイストゲートによって過給圧の調節(排ガスのエネルギ利用率の制御)を行う構成であってもよい。
【0032】
排気浄化装置30は、エンジン100の排ガスを浄化するものであって、排ガス中のNOx、HCおよびCOを浄化する浄化触媒31と、煤などの粒子状物質(PM)を捕集するDPF32とを有している。この場合、排気浄化装置30は、パティキュレートフィルタにNOx吸蔵還元触媒を組み合わせたDPNR(Diesel Particlate NOx Reduction system)を適用してもよい。
【0033】
EGR通路16は、一端部が排気浄化装置30下流側の排気通路15に連結し、他端部がターボチャージャ14のコンプレッサ上流側の吸気通路12と連結している。EGR通路16へと流入した排ガスは、EGRクーラ161にて冷却された後にEGRバルブ162で流量を調節されつつ吸気通路12へ進み、吸入空気とともに燃焼室内へ導入される。EGRバルブ162は、エンジンECU10の指令に従ってバルブ開度を調節することで、吸気通路12への排ガスの還流量を適切な量へと調節する。これらEGR通路16、EGRクーラ161およびEGRバルブ162は、排気通路15を流通する排ガスの一部を吸気通路12に還流供給するための外部EGRとして機能する。
なお、EGR通路16は本発明の排ガス還流通路の一構成例である。また、EGRバルブ162は、本発明の第1排ガス還流量制御手段の一構成例である。
【0034】
吸気温センサ42は、吸気通路12のエアクリーナ20に設けられており、吸気通路12を通じて吸気マニホルド11に向かう吸入空気の温度を検出し、結果をエンジンECU10に送信する。エンジンECU10は、吸気温センサ42の検出結果と、インジェクタ17の燃焼噴射量および経過時間とに基づいてターボチャージャ14のコンプレッサ出口における吸入空気の温度(コンプレッサ出口温度)を推定する。この場合、吸気温センサ42の設置する位置はエアクリーナ20に限られない。例えば、ターボチャージャ14のコンプレッサ下流側の吸気通路12に設けることで、コンプレッサ出口温度を直接検出する構成であってもよい。
なお、吸気温センサ42は、本発明の吸気温度検出手段の一構成例である。
【0035】
エンジンECU10は、演算処理を行うCPU(Central Processing Unit)と、プログラム等を記憶するROM(Read Only Memory)と、データ等を記憶するRAM(Random Access Memory)やNVRAM(Non Volatile RAM)と、を備えるコンピュータである。エンジンECU10は、エンジン100の各部に備えられた複数のセンサの検出結果を読み込み、それら検出結果に基づいてインジェクタ17の燃料噴射量など、エンジン100の運転動作を統合的に制御する。
なお、エンジンECU10は、本発明の燃料噴射量制御手段の一構成例である。
【0036】
本実施例のエンジンECU10は、各種センサの検出結果から認識したエンジン100の運転状態に応じた適切な排ガス還流(EGR)率を設定する。そして、エンジンECU10は、設定したEGR率に応じてEGRバルブ162開度を調節し、エンジン100の吸気側に排ガスを導入する制御(外部EGR)を実行する。加えて、エンジンECU10は、電動VVT機構26および油圧VVT機構27を調節し、エンジン100の燃焼室に排ガスを導入する制御(内部EGR)を実行する。
【0037】
本実施例のエンジンECU10が実行する内部EGRの制御について簡潔に説明する。エンジンECU10は、電動VVT機構26および油圧VVT機構27に指令して、吸気弁22および排気弁23のバルブオーバーラップ期間を変更することで内部EGRを実行する。具体的には、エンジンECU10は、エンジン100の内部EGRの実行要求があると判断すると、吸気弁22の開弁タイミングを進角させる(吸気弁22の早開き)、すなわちバルブオーバーラップ期間を長くすることで吸気側に排ガスの一部を流出させる。排気行程で吸気側に流出した排ガスは、排気行程につづく吸気行程で吸入空気と共に燃焼室に導入される。このように、電動VVT機構26および油圧VVT機構27を調節して吸気弁22および排気弁23のバルブオーバーラップ期間を変更することによって、燃焼室に内部EGRを導入することができる。
【0038】
この場合、エンジンECU10は、排気弁23の閉弁タイミングを進角させる(排気弁23の早閉じ)、すなわち負のバルブオーバーラップ期間として燃焼室に既燃ガス(排ガス)の一部を閉じ込めることで内部EGRを実行してもよい。また、エンジンECU10は、電動VVT機構26に指令して吸気弁22を吸気行程における開弁動作のほかに排気行程で開弁させて(吸気弁22の2回開弁)、吸気側に排ガスの一部を流出させることで内部EGRを実行してもよい。そして、エンジンECU10は、油圧VVT機構27に指令して排気弁23を排気行程における開弁動作のほかに吸気行程で開弁させて(排気弁23の2回開弁)、排気側に流出した排ガスの一部を燃焼室に導入することで内部EGRを実行してもよい。
【0039】
更に、本実施例のエンジンECU10は、エンジン100の過渡運転時に、吸気温センサ42の検出結果に基づいて外部EGR量と内部EGR量との比率を調節する制御を実行する。以下に、エンジンECU10が実行するEGRの比率調節制御について説明する。
【0040】
図3は、実施例における外部EGR量と内部EGR量の比率の調節例を示している。まず、エンジンECU10は、ドライバからのエンジン100の加速要求があるか否か、すなわち、インジェクタ17の燃料噴射量を増大させる必要があるか否かを判断する。エンジン100の加速要求は、例えばアクセル操作情報から判断することができる。インジェクタ17の燃料噴射量を増大させる必要があると判断すると、エンジンECU10は、EGRバルブ162に弁開度を小さくするよう指令し、EGR通路16を通じて還流させる排ガス量(外部EGR量)を減少させる。加えて、エンジンECU10は、電動VVT機構26および油圧VVT機構27にバルブオーバーラップ期間を長くするよう指令し、吸気側に流出する排ガス量(内部EGR量)を増大させる。すなわち、エンジンECU10は、エンジン100が現に要求しているEGR量のうち外部EGR量が占める比率を小さくしつつ、内部EGR量が占める比率を大きくするよう調節する。
【0041】
つづいて、エンジンECU10は、過渡運転中の吸気温センサ42の検出結果、インジェクタ17の燃焼噴射量および経過時間から推定したコンプレッサ出口温度に基づいて、外部EGR量が占める比率および内部EGR量が占める比率を調節する。図4は、コンプレッサ出口温度に基づく外部EGR量と内部EGR量の比率の調節例を示している。エンジンECU10は、推定したコンプレッサ出口温度がより高いほどEGRバルブ162に弁開度をより小さくするよう指令し、EGR通路16を通じて還流させる排ガス量(外部EGR量)をより減少させる。加えて、エンジンECU10は、電動VVT機構26および油圧VVT機構27にバルブオーバーラップ期間をより長くするよう指令し、吸気側に流出する排ガス量(内部EGR量)をより増大させる。すなわち、エンジンECU10は、推定したコンプレッサ出口温度がより高いほど、エンジン100が現に要求しているEGR量のうち外部EGR量が占める比率をより小さくしつつ、内部EGR量が占める比率をより大きくするよう調節する。
【0042】
エンジン100の排ガスの一部は、排気マニホルド13、ターボチャージャ14の排気タービン側、EGR通路16、ターボチャージャ14のコンプレッサ側(以下、排気管等という)を通じて吸気通路12に外部EGRとして導入される。ここで、エンジン100の定常運転中、または過渡運転の初期には排気管等が比較的低温であるために、外部EGRが排気管等を通過する間に冷却されて温度が大きく低下する。そのため、外部EGRを吸気側に大量に導入してもコンプレッサ出口温度(すなわち吸入空気の温度)が上昇し難くなる(図3下段参照)。そこで、本実施例のエンジンシステム1は、エンジン100の加速運転の初期(コンプレッサ出口温度が比較的低温のとき)には内部EGR量の比率を小さくしつつ、NOx排出量の低減効果の高い外部EGR量の比率を大きくするよう調節する。これによって、より効果的にエンジン100のNOxの排出量を低減することができる(図4参照)。
【0043】
一方、エンジン100の過渡運転の中期から後期にかけては排気管等の温度が徐々に上昇するために、外部EGRが排気管等を通過する間の熱損失が少なくなる。そのため、外部EGRを吸気側に大量に導入すると吸入空気の温度が上昇し易くなる(図3下段参照)。そこで、本実施例のエンジンシステム1は、エンジン100の加速運転の中期から後期(コンプレッサ出口温度が上昇する間)は、外部EGR量を吸入空気の温度が過度に上昇しない(所定温度を超えない)程度の量に調節しつつ、内部EGR量を多くするよう比率を調節する。これによって、NOx排出量の低減効果を高めつつ吸入空気の温度が過度に上昇することを抑制することができる(図4参照)。
この場合、外部EGR量と内部EGR量との比率は、吸入空気の温度に応じて連続的に調節することが望ましい。また、コンプレッサ出口温度がより高いほど外部EGR量をより減少させる(図3参照)。
【0044】
エンジンECU10は、エンジン100のコンプレッサ出口温度が変化する間は上記の制御を繰り返し、コンプレッサ出口温度が所定の温度に安定すると制御の処理を終了する。
なお、エンジンECU10は、本発明の比率調節手段の一構成例である。
【0045】
このように、本実施例のエンジンシステム1は、インジェクタ17の燃料噴射量を増大させるときの吸気温センサ42の検出結果に基づいて外部EGR量と内部EGR量との比率を調節することで、エンジン100の信頼性を確保しつつ過渡運転時におけるNOx排出量を効果的に低減することができる。
【0046】
この場合、本実施例のEGR比率の調節制御をターボチャージャ14の過給圧制御と組み合わせて実行してもよい。例えば、エンジン100の過渡運転の初期には可変ノズルベーン機構141の開度をより小さくして過給圧を上昇させる。そして、過給圧の上昇に伴ってスモーク排出量が減少したぶんエンジン100のEGR率を増大させることで、過渡運転におけるNOx排出量をより効果的に低減することができる。
【0047】
以上のように、本実施例のエンジンシステムは、コンプレッサ出口における吸入空気の温度を検出する吸気温センサと、EGR通路を通じて吸気側に流入する外部EGR量を制御するEGRバルブと、吸気弁および排気弁の開閉弁タイミングを変更して排ガスの一部を燃焼室に流入または残留させることで内部EGR量を制御する電動VVT機構および油圧VVT機構と、を備え、インジェクタの燃料噴射量を増大させるときの吸入空気の温度に基づいて外部EGR量と内部EGR量との比率を調節する。すなわち、吸入空気の温度がより高いほど外部EGR量をより少なくしつつ、内部EGR量をより多くするよう比率を調節することで、NOx排出量の低減効果を高めつつ吸入空気の温度が過度に上昇することを抑制することができる。
【0048】
上記実施例は本発明を実施するための一例にすぎない。よって本発明はこれらに限定されるものではなく、特許請求の範囲に記載された本発明の要旨の範囲内において、種々の変形・変更が可能である。
【符号の説明】
【0049】
1 エンジンシステム
10 エンジンECU(燃料噴射量制御手段,比率調節手段)
11 吸気マニホルド
13 排気マニホルド
14 ターボチャージャ
16 EGR通路(排ガス還流通路)
17 インジェクタ(燃料噴射弁)
22 吸気弁
23 排気弁
26 電動VVT機構(第2排ガス還流量制御手段)
27 油圧VVT機構(第2排ガス還流量制御手段)
42 吸気温センサ(吸気温度検出手段)
100 エンジン(内燃機関)
141 可変ノズルベーン機構
162 EGRバルブ(第1排ガス還流量制御手段)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
内燃機関の燃料噴射弁の燃料噴射量を制御する燃料噴射量制御手段と、
前記内燃機関の吸入空気の温度を検出または推定する吸気温度検出手段と、
前記内燃機関の排気側と吸気側とを連通する排ガス還流通路を通じて前記吸気側に流入する排ガスの還流量を制御する第1排ガス還流量制御手段と、
前記内燃機関の吸気弁および排気弁の開閉弁タイミングを変更して排ガスの一部を燃焼室に流入または残留させることで前記燃焼室への排ガスの還流量を制御する第2排ガス還流量制御手段と、
前記燃料噴射量制御手段が燃料噴射量を増大させるときの前記吸気温度検出手段の検出結果に基づいて、前記第1排ガス還流量制御手段の制御に基づく排ガスの還流量と前記第2排ガス還流量制御手段の制御に基づく排ガスの還流量との比率を調節する比率調節手段と、を備え、
前記比率調節手段は、前記吸気温度検出手段が検出または推定した吸入空気の温度がより高いほど前記第1排ガス還流量制御手段の制御に基づく排ガスの還流量をより少なくしつつ、前記第2排ガス還流量制御手段の制御に基づく排ガスの還流量をより多くするよう比率を調節することを特徴とする内燃機関の制御装置。



【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2012−246797(P2012−246797A)
【公開日】平成24年12月13日(2012.12.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−117382(P2011−117382)
【出願日】平成23年5月25日(2011.5.25)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】