説明

内燃機関の制御装置

【課題】より初期燃焼を促進して低速トルクと燃費の向上を図れる内燃機関の制御装置を提供する。
【解決手段】1つの気筒に2つの吸気ポート14P1、14P2を備え、これら2つの吸気ポートの上流側の吸気通路4に吸入空気量を調整する吸気絞り弁13を配置し、第1の吸気ポートに燃料を噴射する第1の燃料噴射弁15A、15Bと、第2の吸気ポートに燃料を噴射する第2の燃料噴射弁15C、15Dを備え、第1の燃料噴射弁または第2の燃料噴射弁の何れか一方は、気筒の上部に配置された点火プラグ35に噴霧中心線Z1が指向するように配置され、内燃機関1が低回転高負荷の場合、点火プラグ35に噴霧中心線が指向した燃料噴射弁から燃料を噴射するように、当該燃料噴射弁を制御手段27で制御する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、1つの気筒に複数の吸気ポートを備え、これら複数の吸気ポート内に燃料噴射弁から燃料を噴射する内燃機関の制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
1つ気筒に繋がる複数の吸気ポートを備えた内燃機関において、全ての運転領域で混合気の均質化を促進するとともに、制御及び構成を簡単化するため、各吸気ポートにそれぞれ個別な燃料噴射弁から燃料を噴射するものが、特許文献1で提案されている。
この特許文献1では、第1及び第2の吸気ポートの上流側の吸気通路に配置され、吸入空気量を調整する吸気絞り弁と、第1の吸気ポートに燃料を噴射する第1の燃料噴射弁と、第2の吸気ポートに燃料を噴射する第2の燃料噴射弁を備え、吸気絞り弁の開度が所定開度又はその付近の開度以下のときに第1の燃料噴射弁から燃料を噴射し、吸気絞り弁の開度が所定開度又はその付近の開度よりも大きいときに第1の燃料噴射弁と第2の燃料噴射弁の両方から燃料を噴射するように各燃料噴射弁を燃料噴射制御手段で制御している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2008−111342号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明者らは、1気筒あたり複数の吸気ポートを備えた構成において、一方の吸気ポートへ燃料を噴射する片側噴射を行うことで、筒内で燃料を不均一にすることを検討した。これは、機関回転数が低回転で高負荷域において筒内燃料の不均一化を図ることで、初期燃焼を促進して低速トルクと燃費の向上を図るためである。しかし、単に片側噴射しただけでは、自ずと限界があることから、より初期燃焼を促進して低速トルクと燃費の向上を目指すことが要望されている。
引用文献1では、吸気絞り弁の開度が所定開度又はその付近の開度以下のときに第1の燃料噴射弁から燃料を噴射しているので、片側噴射は行っているが、これは全ての運転領域で混合気の均質化を促進するためのものであり、不均一化するものではない。仮に片側噴射を行った場合でも、効率的に初期燃焼を促進して低速トルクと燃費の向上を図る点については、開示されていないので、その達成は難しい。
本発明は、より初期燃焼を促進して低速トルクと燃費の向上を図れる内燃機関の制御装置を提供することを、その目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明は、1つの気筒に2つの吸気ポートを備え、これら2つの吸気ポートの上流側の吸気通路に吸入空気量を調整する吸気絞り弁を配置し、第1の吸気ポートに燃料を噴射する第1の燃料噴射弁と、第2の吸気ポートに燃料を噴射する第2の燃料噴射弁とを備えた内燃機関の制御装置において、第1の燃料噴射弁または第2の燃料噴射弁の何れか一方を、気筒の上部に配置された点火プラグに噴霧中心線が指向するように配置し、内燃機関が低回転高負荷の場合、点火プラグに噴霧中心線が指向した燃料噴射弁から燃料を噴射するように、燃料噴射弁を制御する制御手段を有することを特徴としている。
このため、内燃機関が低回転高負荷である場合、点火プラグに噴霧中心線が指向した燃料噴射弁から燃料を噴射する片側噴射が行われるため、単なる片側噴射よりも不均一状態において点火プラグによる着火性を高められる。
【0006】
本発明に係る内燃機関の制御装置において、噴霧中心線が点火プラグに指向する燃料噴射弁の噴射方向を変更する変更手段を有することを特徴としている。
本発明に係る内燃機関の制御装置において、内燃機関の運転領域が低回転高負荷で無い場合、変更手段を作動して噴霧中心線が点火プラグに指向する燃料噴射弁の噴射方向を、吸気ポート内の吸入空気の流れ方向とほぼ平行となるポート中心線に向かって変位させることを特徴としている。
【0007】
本発明に係る内燃機関の制御装置において、少なくとも第1の燃料噴射弁または第2の燃料噴射弁の何れか一方は複数あり、複数ある側の燃料噴射弁の少なくとも1つの燃料噴射弁は、その噴霧中心線が吸気ポート内の吸入空気の流れ方向とほぼ平行となるポート中心線に指向するように配置され、ポート中心線に指向した燃料噴射弁とは異なる燃料噴射弁は、点火プラグに噴霧中心線が指向するように配置されていることを特徴としている。
本発明に係る内燃機関の制御装置において、少なくとも第1の燃料噴射弁または第2の燃料噴射弁の何れか一方は複数あり、複数ある側の燃料噴射弁の少なくとも1つの燃料噴射弁を、点火プラグにその噴霧中心線が指向するように配置したことを特徴としている。
本発明に係る内燃機関の制御装置において、複数ある側の燃料噴射弁は、互いの燃料噴霧が吸気ポート内で衝突するように配置されていることを特徴としている。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、第1の燃料噴射弁または第2の燃料噴射弁の何れか一方を気筒の上部に配置された点火プラグに噴霧中心線が指向するように配置し、内燃機関が低回転高負荷である場合、点火プラグに噴霧中心線が指向した燃料噴射弁から燃料を噴射するように、燃料噴射弁を制御手段で制御するので、内燃機関が低回転高負荷である場合、点火プラグに噴霧中心線が指向した燃料噴射弁から燃料を噴射する片側噴射が行われるため、単なる片側噴射よりもより不均一状態において点火プラグによる着火性を高めることができ、より片側噴射の効果である初期燃焼を促進して低速トルクと燃費の向上を図ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】本発明に係る内燃機関の制御装置の全体構成を示す図である。
【図2】1気筒に備えられた複数の吸気ポートにそれぞれ複数の燃料噴射弁が配置された吸気系の構成を示す拡大図である。
【図3】本発明における複数の燃料噴射弁の噴射領域を示す図である。
【図4】制御手段による燃料噴射弁の噴射モードの切替え制御の一形態を示すフローチャートである。
【図5】第1片側噴射モード時の燃料噴射状態を示す拡大図である。
【図6】第2片側噴射モード時の燃料噴射状態を示す拡大図である。
【図7】両側噴射モード時の燃料噴射状態を示す拡大図である。
【図8】1気筒に備えられた複数の吸気ポートにそれぞれ燃料噴射弁が配置された吸気系の別な構成を示す拡大図である。
【図9】図8に示す構成で用いる制御系の構成を示すブロック図である。
【図10】図8に示す制御手段による燃料噴射弁の噴射モードの切替え制御の一形態を示すフローチャートである。
【図11】図8に示す構成における第1片側噴射モード時の燃料噴射状態を示す拡大図である。
【図12】図8に示す構成における第2片側噴射モード時の燃料噴射状態を示す拡大図である。
【図13】図8に示す構成における両側噴射モード時の燃料噴射状態を示す拡大図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明の実施形態について図面を用いて説明する。
図1に示す本発明に係る制御装置100は、符号1で示す内燃機関に適用している。内燃機関1は、排気系に過給機を備えた過給機付きのDOHC式の4気筒エンジン(以下「エンジン1」と記す)である。このエンジン1は、その燃焼室2に通じる吸気通路3および排気通路4を有している。吸気通路3は、吸気ポート14Pを介して燃焼室2と連通し、排気通路4は排気ポート16Pを介して燃焼室2と連通している。吸気ポート14Pは吸気弁5によって、排気ポート16Pは排気弁6によってそれぞれ開閉される。
【0011】
吸気通路3には、上流側からエアクリーナ7、過給機9のコンプレッサ11、インタークーラ12、吸気絞り弁となるスロットル弁13、吸気多岐管14、電磁式の燃料噴射弁(以下「インジェクタ」と記す)15が設けられている。排気通路4には、その上流側から排気多岐管16、排気管17、過給機9のタービン18、排ガス浄化用の触媒コンバータ(三元触媒)19および図示しないマフラ(消音器)が設けられている。
【0012】
エンジン1は吸気管噴射型のエンジン1として構成されており、その動弁機構としてはDOHC式が採用されている。シリンダヘッド101上の吸気カム軸21及び排気カム軸22の前端にはタイミングプーリ23,24が取付けられている。これらタイミングプーリ23,24はタイミングベルト25を介してクランク軸26に連結されている。カム軸21,22は、クランク軸26の回転に伴ってタイミングプーリ23,24と共に回転駆動され、これらカム軸により吸気弁5及び排気弁6が開閉駆動される。
【0013】
エンジン1の燃焼室2上部の中央には、点火プラグ35がシリンダヘッド101に取付けられて配置されている。燃焼室2内の混合気は点火プラグ35により点火される。燃焼した後の排ガスは、排気弁6の開弁時にピストン10の上昇に伴って排気ポート16Pから排気多岐管16を介して排気管17に流下し、触媒コンバータ(三元触媒)19で有害成分を浄化され、及び図示しないマフラで消音されて大気側へ排出される。
【0014】
エンジン1は直列4気筒エンジンであり、点火プラグ35は各気筒に1つ設けられている(ここでは1つのみ示した)。各点火プラグ35はそれぞれイグナイタ36を介して点火ドライバ37に接続されていて、後述の制御手段となる電子制御ユニット(以下「ECU」)27からの点火信号を受けたイグナイタ36の作用により各点火プラグ35に順次点火用2次電圧が供給されることで混合気の着火を行っている。
【0015】
エンジン1は、気筒数だけ吸気多岐管14を分岐して備え、その先端が吸気ポート14pに接続されているとともに、インジェクタ15を備えている(ここでは1つのみ示した)。各インジェクタ15は燃料噴射ドライバ151に接続され、いわゆるマルチポイント燃料噴射方式の多気筒エンジンを成している。燃料噴射ドライバ151は、ECU27から信号が入力されると、その信号に応じて各インジェクタ15を作動する。スロットル弁13はワイヤケーブルを介して図示しないアクセルペダルに連結されており、これによりアクセルペダルの踏込み量θaに応じて開度が変わるようになっている。踏込み量θaは負荷情報であり、アクセル開度センサ31によって検出される。エンジン1にはエンジン回転数Neを検出するエンジン回転数センサ38が設けられていて、検出した情報を後述のECU27に入力している。
【0016】
このような構成により、エンジン1は、スロットル弁13の開度に応じて、吸入された空気が吸気多岐管14でインジェクタ15から噴射される燃料と適宜の空燃比となるように混合され、燃焼室2内で適宜のタイミングで点火プラグ35によって点火されて燃焼され、エンジントルクを発生させる。
【0017】
過給機9は吸気通路3と排気通路4との間に配され、タービン18とコンプレッサ11の不図示の各インペラーがケーシングに枢支された回転軸28の両端にそれぞれ一体的に連結され、排気エネルギーをタービン18で回収し、その回転力で吸気通路3のコンプレッサ11を駆動して吸気を過給し、これにより燃焼室2での体積効率を上昇させ、出力向上を図る、所謂ターボチャージャである。ケーシングの外側部にはウエストゲートバルブ29が装着され、これによりタービン18の上流の排ガスを、タービン18を迂回して下流側に流下させるバイパス路brを開閉するようにしている。ウエストゲートバルブ29は図示しない電磁アクチュエータを介してECU27により開閉操作される。
【0018】
過給機9のコンプレッサ11の下流側には、過給機9による過給での圧力上昇に伴って温度が上昇した吸入空気の温度を下げる空冷式のインタークーラ12が配されており、これによって吸入空気の温度を下げ、吸気の体積効率を向上させている。
【0019】
本形態では、各気筒に対する吸気ポート14Pの構成は同一であるので、図2を用いて1気筒を例に説明する。本形態にかかる吸気ポート14Pは、第1の吸気ポート14P1と第2の吸気ポート14P2の2つに分岐されている。これら2つの吸気ポートのうち、第1の吸気ポート14P1には、第1の燃料噴射弁となる複数のインジェクタ15A,15Bから燃料が噴射され、第2の吸気ポート14P2には、第2の燃料噴射弁となる複数のインジェクタ15C,15Dから燃料が噴射される。
【0020】
第1の燃料噴射弁の一方のインジェクタ15Aは、点火プラグ35に噴霧中心線Z1が指向するように配置され、インジェクタ15Aと異なるもう一方のインジェクタ15Bは、その噴霧中心線Z1が吸気ポート14P1内の吸入空気の流れ方向とほぼ平行となるポート中心線Z2と平行に指向するように配置されている。
【0021】
第2の燃料噴射弁の一方のインジェクタ15Cは、その噴霧中心線Z1が吸気ポート14P2内の吸入空気の流れ方向とほぼ平行となるポート中心線Z2と平行に指向するように配置され、インジェクタ15Cと異なるもう一方のインジェクタ15Dは、点火プラグ35に噴霧中心線Z1が指向するように配置されている。また、インジェクタ15Aとインジェクタ15B、及びインジェクタ15Cとインジェクタ15Dは、互いの燃料噴霧が吸気ポート14P1、14P2内でそれぞれ衝突するように配置されている。
【0022】
ECU27は、周知のコンピュータで構成されている。このECU27は、アクセル開度センサ31よりアクセルペダルの踏込量θaの信号が、エンジン回転数センサ38よりエンジン回転数Neの信号がそれぞれ入力され、更に、図には示されていない種々のセンサやアクチュエータ等よりその他の信号が入力される。これら各種の入力信号に基づいてECU27は制御演算を行い、点火プラグ35の作動と過給機9のウエストゲートバルブ29の開閉制御を行うとともにインジェクタ15の作動制御を行う。本発明の特徴は、インジェクタ15の制御にあり、点火プラグ35の作動とウエストゲートバルブ29の制御内容は周知の内容であるので、ここでは説明を省略する。
【0023】
インジェクタ15の制御は、主に燃料の噴射量制御と、複数のインジェクタ15のうち、どのインジェクタから燃料噴射を行うかという噴射モード切替制御を含んでいる。噴射量制御は、エンジン回転数Neと負荷情報となるアクセル開度θaとから適正な噴射量が決められた図示しない噴射量マップに基づいて行われるもので、1気筒辺りの噴射総量が定められている。
【0024】
噴射モード制御は、4つのインジェクタ15A〜15Dの内、第1の吸気ポート14P1側に配置されたインジェクタ15Aから燃料噴射を行う第1片側噴射モード、インジェクタ15A,15Bから燃料噴射を行う第2片側噴射モード、インジェクタ15A,15Bと第2の吸気ポート14P2側に配置されたインジェクタ15C,15Dとから燃料噴射を行う両側噴射モードを備えている。
【0025】
ECU27には、これら噴射モードを切替えるための図3に示す噴射モードマップM1が記憶されている。噴射モードマップM1は、エンジン回転数Neとアクセル開度θa(負荷情報)から予め設定されたもので、領域A〜Cに区分されている。ECU27は、第1片側噴射モードでは領域Aを、第2片側噴射モードでは領域Bを、両側噴射モードでは領域Cをそれぞれ選択する。
【0026】
ECU27は、領域Aではインジェクタ15Aを単独で領域Aで必要な燃料噴射量となるように、領域Bではインジェクタ15A、15Bの双方で、領域Bで必要な燃料噴射量となるように、領域Cではインジェクタ15A〜15Dの全てで、領域Cで必要な燃料噴射量となるように、燃料噴射ドライバ151を介して各インジェクタ1の作動を制御する。
【0027】
このような構成の制御装置100による噴射モード切替制御の内容を図4に示すフローチャートに沿って説明する。なお、本形態では、既にエンジン1は始動しているものとする。
【0028】
図4に示す噴射モード切替制御において、ECU27は、ステップST1において、エンジン回転数Neと踏込量θaを読込み、ステップST2において、エンジン回転数Neと負荷情報θaから噴射モードの判定を行う。ここでエンジン回転数Neと負荷情報θaが領域Aの場合には、ステップST3に進み第1片側噴射モードを選択し、ステップST4においてインジェクタ15Aのみを作動して燃料を点火プラグ35に向かって噴射する。ステップST2において、領域Aでない場合には、ステップST5に進んでエンジン回転数Neと負荷情報θaが領域Bの判定を行う。領域Bの場合には、ステップST6に進み第2片側噴射モードを選択し、ステップST7においてインジェクタ15A,15Bを作動して燃料を噴射して吸気ポート14P1内で燃料噴霧を衝突させる。
【0029】
ステップST5において、領域Bでない場合には領域Cと判定し、ステップST8に進み両側噴射モードを選択し、ステップST9おいてインジェクタ15A〜15Bを作動して燃料を噴射して吸気ポート14P1内と吸気ポート14P2内でそれぞれ燃料噴霧を衝突させる。
【0030】
このように、エンジン1の運転領域が低回転高負荷である領域Aの場合、図5に示すように、点火プラグ35に噴霧中心線Z1が指向したインジェクタ15Aから燃料を噴射する第1片側噴射を行うことで、吸気ポート14P1からは、空気と燃料の混合気が燃焼室2内に吸気され、吸気ポート14P2からは空気だけが燃焼室2内に吸気される。このとき、吸気ポート14P1から噴射された燃料は点火プラグ35に、その噴霧中心が指向されて噴射されるので、燃焼室2内においては、燃料濃度が濃い噴霧領域が点火プラグ35の近傍に形成される。このため、燃焼室2内においては、混合気の状態が不均一状態となるが、単なる片側噴射よりも、燃料濃度が濃い噴霧領域が点火プラグ35の周囲に形成されるため、点火プラグ35による初期着火性を高めることができ、片側噴射の効果である、初期燃焼を促進して低速トルクと燃費の向上をより図ることができる。
【0031】
エンジン1の運転領域が、領域Aよりもエンジン回転数が高い領域Bの場合には、図6に示すように第1の吸気ポート14P1側に設置されたインジェクタ15A,15Bから燃料噴射が行われる第2の片側噴射が実行されるので、噴射された燃料が吸気ポート14P1内で衝突する。このため、吸気ポート14P1には、インジェクタ15A単独で噴射したときよりも多い燃料が流れるため、デポジット洗浄効果が期待される。
【0032】
エンジン1の運転領域が、領域Bよりも高回転域となる領域Cの場合には、図7に示すように第1の吸気ポート14P1側と第2の吸気ポート14P2側に設置されたインジェクタ15A〜15Dの全てから燃料噴射が行われる両側噴射が実行されるので、最小燃料量を小さくすることができ、単位時間当たりの噴射期間の短縮を図れるとともに、過給時の吹き抜け回避とHC低減を図ることができる。また、燃料の噴射量が多くなることで吸気の冷却効果を期待することもできる。
【0033】
本形態では、片側噴射モードの場合、第1の吸気ポート14P1側に配置したインジェクタ15A,15Bを用いて燃料噴射を行ったが、エンジン1の運転領域が領域Aの場合には、第2の吸気ポート14P2側に配置したインジェクタ15Dを用いて第1の片側噴射を行い、領域Bの場合にはインジェクタ15C,15Dの双方から燃料を噴射して第2の片側噴射を実行しても良い。すなわち、第1の燃料噴射弁による片側噴射ではなく、第2の燃料噴射弁による片側噴射であっても良い。
【0034】
図8は、本発明の別な形態を示す。この形態では、各吸気ポート14P1,14P2に対して、それぞれ1つのインジェクタ15A,15Dを配置し、吸気ポート14P1にはインジェクタ15Aから燃料噴射を行い、吸気ポート14P2にはインジェクタ15Dから燃料噴射を行う構成としている。インジェクタ15Aとインジェクタ15Dは、その噴霧中心線Z1が、点火プラグ35に指向する噴射方向と、吸気ポート内の吸入空気の流れ方向とほぼ平行となるポート中心線Z2に向かって変位可能に吸気ポート14Pに台座支持部50,51でそれぞれ装着されている。台座支持部50,51の中央には、駆動ギア53,54がそれぞれ形成されていて、駆動ギア53,54が回転することで、台座支持部50,51と一体にインジェクタ15A、15Dが回転方向に移動するように構成されている。
【0035】
吸気ポート14Pには、インジェクタ15A及びインジェクタ15Dをそれぞれ点火プラグ35に指向する方向とポート中心線Z2に向かう方向に変位する変位手段となるアクチュエータが、図示しないブラケットを介して装着されている。本形態において、アクチュエータは、駆動ギア53,54に噛合う出力ギア57,58を正逆両方向に回転駆動する駆動モータ55,56で構成している。アクチュエータとしては、駆動モータ55,56に限定されるものではなく、ソレノイドなどのアクチュエータを用いてインジェクタ15A及びインジェクタ15Dの向きを変更するようにしても良い。
【0036】
本形態において、制御手段となるECU27Aは、図9に示すように、周知のコンピュータで構成されている。このECU27Aは、アクセル開度センサ31よりアクセルペダルの踏込量θaの信号が、エンジン回転数センサ38よりエンジン回転数Neの信号がそれぞれ入力され、更に、図には示されていない種々のセンサやアクチュエータ等よりその他の信号が入力されるとともに、アクチュエータ55,56が接続されている。これら各種の入力信号に基づいてECU27は制御演算を行い、点火プラグ35の作動と過給機9のウエストゲートバルブ29の開閉制御を行うとともにインジェクタ15A,15Dの作動制御を行う。本発明の特徴は、インジェクタ15A,15Dの制御にあり、点火プラグ35の作動とウエストゲートバルブ29の制御内容は周知の内容であるので、ここでは説明を省略する。
【0037】
インジェクタ15A,15Dの制御は、主に燃料の噴射量制御と、複数のインジェクタ15のうち、どのインジェクタから燃料噴射を行うかという噴射モード切替制御を含んでいる。噴射量制御は、エンジン回転数Neと負荷情報となるアクセル開度θaとから適正な噴射量が決められた図示しない噴射量マップに基づいて行われるもので、1気筒辺りの噴射総量が定められている。
【0038】
噴射モード制御は、2つのインジェクタ15A,15Dの内、第1の吸気ポート14P1側に配置された第1の燃料噴射弁となるインジェクタ15Aから燃料噴射を行う片側噴射モードと、インジェクタ15Aと第2の吸気ポート14P2側に配置された第2の燃料噴射弁となるインジェクタ15Dとから燃料噴射を行う両側噴射モードを備えている。片側噴射モードでは、点火プラグ35にインジェクタ15Aの噴霧中心線Z1を指向させて燃料噴射を行う第1片側噴射モードと、点火プラグ35に指向するインジェクタ15Aの噴射方向を、吸気ポート14P1内の吸入空気の流れ方向とほぼ平行となるポート中心線Z2に向かって変位させて燃料噴射を行う第2片側噴射モードを備えている。
【0039】
ECU27Aには、これら噴射モードを切替えるための図3に示す噴射モードマップM1が記憶されている。噴射モードマップM1は、エンジン回転数Neとアクセル開度θa(負荷情報)から予め設定されたもので、領域A〜Cに区分されている。ECU27Aは、第1片側噴射モードでは領域Aを、第2片側噴射モードでは領域Bを、両側噴射モードでは領域Cをそれぞれ選択する。
【0040】
ECU27Aは、領域Aではインジェクタ15Aの噴霧中心線Z1が点火プラグ35に指向するようにアクチュエータ55を駆動し、領域Bではインジェクタ15Aの噴霧中心線Z1がポート中心線Z2側に指向するようにアクチュエータ55を駆動し、領域Cではインジェクタ15A、15Dの各噴霧中心線Z1がポート中心線Z2側に指向するようにアクチュエータ55、56を駆動するとともに、指向した位置において各領域において必要な燃料噴射量となるように、燃料噴射ドライバ151を介して各インジェクタの作動を制御する。
【0041】
このような構成の噴射モード切替制御の内容を図10に示すフローチャートに沿って説明する。なお、本形態では、既にエンジン1は始動しているものとする。
【0042】
図10に示す噴射モード切替制御において、ECU27Aは、ステップST11において、エンジン回転数Neと踏込量θaを読込み、ステップST12において、エンジン回転数Neと負荷情報θaから噴射モードの判定を行う。ここでエンジン回転数Neと負荷情報θaが領域Aの場合には、ステップST13に進み第1片側噴射モードを選択してステップST14に進む。ステップST14では、駆動モータ55を駆動してインジェクタ15Aの向きを噴霧中心線Zが点火プラグ35側に移動し、ステップST15においてインジェクタ15Aを作動して燃料を点火プラグ35に向かって噴射する。
【0043】
ステップST12において、領域Aでない場合には、ステップST16に進んでエンジン回転数Neと負荷情報θaが領域Bの判定を行う。領域Bの場合には、ステップST17に進み第2片側噴射モードを選択してステップST18に進む。ステップST18では、駆動モータ55を駆動してインジェクタ15Aの向きを噴霧中心線Zがポート中心線Z2側に移動し、ステップST19においてインジェクタ15Aを作動して燃料を、ポート中心線Z2よりで噴射する。
【0044】
ステップST16において、領域Bでない場合には領域Cと判定し、ステップST20に進み両側噴射モードを選択してステップST21に進む。ステップST21では、駆動モータ55、56を駆動してインジェクタ15A,15Bの向きを噴霧中心線Zがポート中心線Z2側に移動し、ステップST22においてインジェクタ15A、15Bを作動して燃料を、各吸気ポート14P1、14P2のポート中心線Z2よりで噴射する。
【0045】
このように、エンジン1の運転領域が低回転高負荷である領域Aの場合、図11に示すように、点火プラグ35に噴霧中心線Z1が指向したインジェクタ15Aから燃料を噴射する第1片側噴射を行うことで、吸気ポート14P1からは、空気と燃料の混合気が燃焼室2内に吸気され、吸気ポート14P2からは空気だけが燃焼室2内に吸気される。このとき、吸気ポート14P1から噴射された燃料は点火プラグ35に、その噴霧中心が指向されて噴射されるので、燃焼室2内においては、燃料濃度が濃い噴霧領域が点火プラグ35の近傍に形成される。このため、燃焼室2内においては、混合気の状態が不均一状態となるが、単なる片側噴射よりも、燃料濃度が濃い噴霧領域が点火プラグ35の周囲に形成されるため、点火プラグ35による初期着火性を高めることができ、片側噴射の効果である、初期燃焼を促進して低速トルクと燃費の向上をより図ることができる。
【0046】
エンジン1の運転領域が、領域Aよりもエンジン回転数が高い領域Bの場合には、図12に示すようにインジェクタ15Aからポート中心線Z2よりで燃料噴射が行われるので、吸気ポート14P1内では、第1の片側噴射モードの場合よりも空気と燃料の混合が促進された状態で燃焼室2に吸気される。このため、領域Bにおける燃焼効率が向上して低回転時のため、初期燃焼を促進して低速トルクと燃費の向上をより図ることができる。
【0047】
エンジン1の運転領域が、領域Bよりも高回転域となる領域Cの場合には、図13に示すように第1の吸気ポート14P1側と第2の吸気ポート14P2側に設置されたインジェクタ15Aとインジェクタ15Dからポート中心線Z2よりで燃料噴射が行われる。このため、片側噴射モードの場合よりも空気と燃料の混合が促進された混合気が大量に燃焼室2に吸気されるので、単位時間当たりの噴射期間の短縮を図れるとともに、過給時の吹き抜け回避とHC低減を図ることができる。また、燃料の噴射量が多くなることで吸気の冷却効果を期待することもできる。
【0048】
本形態では、片側噴射モードの場合、第1の吸気ポート14P1側に配置したインジェクタ15Aを用いて燃料噴射を行ったが、エンジン1の運転領域が領域Aの場合には、第2の吸気ポート14P2側に配置したインジェクタ15Dを用いて第1の片側噴射を行ってもよい。
【符号の説明】
【0049】
1 内燃機関
4 吸気通路
13 吸気絞り弁
14P1,14P2 吸気ポート
15A,15B 第1の燃料噴射弁
15C,15D 第2の燃料噴射弁
27,27A 制御手段
35 点火プラグ
55,56 変更手段
100 制御装置
Z1 噴霧中心線
Z2 吸気ポートの中心

【特許請求の範囲】
【請求項1】
1つの気筒に2つの吸気ポートを備え、これら2つの吸気ポートの上流側の吸気通路に吸入空気量を調整する吸気絞り弁を配置し、第1の吸気ポートに燃料を噴射する第1の燃料噴射弁と、第2の吸気ポートに燃料を噴射する第2の燃料噴射弁とを備えた内燃機関の制御装置において、
前記第1の燃料噴射弁または第2の燃料噴射弁の何れか一方は、前記気筒の上部に配置された点火プラグに噴霧中心線が指向するように配置され、
前記内燃機関が低回転高負荷の場合、前記点火プラグに噴霧中心線が指向した燃料噴射弁から燃料を噴射するように、燃料噴射弁を制御する制御手段を有することを特徴とする内燃機関の制御装置。
【請求項2】
請求項1記載の内燃機関の制御装置において、
噴霧中心線が点火プラグに指向する燃料噴射弁の噴射方向を変更する変更手段を有することを特徴とする内燃機関の制御装置。
【請求項3】
請求項2記載の内燃機関の制御装置において、
前記内燃機関の運転領域が低回転高負荷で無い場合、前記変更手段を作動して噴霧中心線が点火プラグに指向する燃料噴射弁の噴射方向が、前記吸気ポート内の吸入空気の流れ方向とほぼ平行となるポート中心線に向かって変位させることを特徴とする内燃機関の制御装置。
【請求項4】
請求項1記載の内燃機関の制御装置において、
少なくとも前記第1の燃料噴射弁または第2の燃料噴射弁の何れか一方は複数あり、
複数ある側の燃料噴射弁の少なくとも1つの燃料噴射弁は、その噴霧中心線が前記吸気ポート内の吸入空気の流れ方向とほぼ平行となるポート中心線に指向するように配置され、前記ポート中心線に指向した燃料噴射弁とは異なる燃料噴射弁は、前記点火プラグに噴霧中心線が指向するように配置されていることを特徴とする内燃機関の制御装置。
【請求項5】
請求項1記載の内燃機関の制御装置において、
少なくとも前記第1の燃料噴射弁または第2の燃料噴射弁の何れか一方は複数あり、
複数ある側の燃料噴射弁の少なくとも1つの燃料噴射弁を、前記点火プラグにその噴霧中心線が指向するように配置したことを特徴とする内燃機関の制御装置。
【請求項6】
請求項5記載の内燃機関の制御装置において、
前記複数ある側の燃料噴射弁は、互いの燃料噴霧が前記吸気ポート内で衝突するように配置されていることを特徴とする内燃機関の制御装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【公開番号】特開2012−97667(P2012−97667A)
【公開日】平成24年5月24日(2012.5.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−246531(P2010−246531)
【出願日】平成22年11月2日(2010.11.2)
【出願人】(000006286)三菱自動車工業株式会社 (2,892)
【Fターム(参考)】