説明

内燃機関の制御装置

【課題】過給機から吸気通路内へのオイル漏れを好適に抑えることのできる内燃機関の制御装置を提供する。
【解決手段】内燃機関の吸気通路内には上流側から順に過給機のコンプレッサインペラとスロットルバルブとが配設される。内燃機関には過給機のハウジング内にオイルを供給するオイル供給装置が取り付けられる。ハウジング内にはコンプレッサインペラの回転軸が回転可能に支持され、回転軸およびハウジングの内面の間隙には同間隙を介した吸気通路へのオイル漏れをシールするシール部材が配設される。スロットル下流圧力PA1が第1判定圧力J1より低く、且つスロットル上流圧力PA2が第2判定圧力J2より低い場合に(S11:YES、且つS12:YES)、そうでない場合と比較して(S11:NO、またはS12:NO)、オイル供給装置によって過給機のハウジング内に供給されるオイルの圧力を低くする(S14)。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、過給機が搭載された内燃機関の制御装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
内燃機関の吸入空気量を増加させるために過給機を搭載することが多用されている。過給機としては、内燃機関の吸気通路内に回転可能に設けられたコンプレッサインペラを備えたものが知られている。こうした過給機では、そのハウジング内に軸受部が形成されるとともに、同軸受部によってコンプレッサインペラの回転軸が回転可能に支持されている。ハウジング内には、コンプレッサインペラの回転軸と軸受部との間の潤滑に用いられるオイルが供給されている。また、ハウジングの内面とコンプレッサインペラの回転軸との間隙には、同間隙を介したハウジングの内部から吸気通路へのオイル漏れを抑えるためのシール部材が取り付けられている。
【0003】
内燃機関の吸気通路内の圧力は、同内燃機関の運転状態や過給機の作動状態等に応じて変化する。また、内燃機関の吸気通路にスロットルバルブが設けられている場合には、同内燃機関の減速運転に際してスロットルバルブの開度が小さくなったときに吸気通路内の圧力が一時的にごく低くなることがある。このとき吸気通路内の圧力と過給機のハウジング内の圧力との差が大きくなるため、その圧力差に起因してハウジング内のオイルが吸気通路内に吸い出されて漏れるおそれがある。こうしたオイルの漏れはオイル消費量の増加を招くために好ましくない。
【0004】
そこで従来、特許文献1に記載の装置のように、前記シール部材の吸気通路側の部分、詳しくは同部分に連通するコンプレッサインペラの背面部分の圧力(インペラ背面圧)が低くなったときに、同背面部分に大気圧を導入することが提案されている。こうした装置によれば、比較的高い大気圧の導入によってインペラ背面圧が高くなって上記圧力差が小さく抑えられるために、シール部材の配設部分におけるオイル漏れが抑えられる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平6−33896号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、特許文献1に記載の装置では、インペラ背面圧とハウジング内圧との差を抑えるためにシール部材の吸気通路側の部分に大気圧を導入する場合に、大気圧の導入が開始されてから実際にインペラ背面圧が上昇するまでの間に時間遅れが生じることが避けられない。そのため、実際にインペラ背面圧が低くなったことを条件に大気圧の導入を開始したとしても、上記圧力差を適正に抑えることは難しく、その圧力差に起因する過給機のハウジング内から吸気通路内へのオイル漏れを適正に抑えることも困難であると云える。
【0007】
本発明は、そうした実情に鑑みてなされたものであり、その目的は、過給機から吸気通路内へのオイル漏れを好適に抑えることのできる内燃機関の制御装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
以下、上記目的を達成するための手段及びその作用効果について説明する。
各請求項に記載の装置は、吸気通路内に配設された過給機のコンプレッサインペラと、吸気通路におけるコンプレッサインペラより吸気流れ方向下流側に配設されたスロットルバルブと、過給機のハウジング内にオイルを供給するオイル供給装置とを備えた内燃機関に適用される。過給機は、コンプレッサインペラの回転軸がハウジング内において回転可能に支持されるとともに、該回転軸とハウジングの内面との間隙に同間隙を介した吸気通路へのオイル漏れをシールするシール部材が配設される。
【0009】
こうした装置では、機関回転速度の減速などに際してスロットルバルブの開度(スロットル開度)が急速に小さくなると、吸気通路におけるスロットルバルブより吸気流れ方向下流側の部分の圧力(スロットル下流圧力)が一時的に低くなる。この状態でスロットル開度が急速に大きくなると、低圧のスロットル下流圧力がスロットルバルブより吸気流れ方向上流側の部分に導入されてしまうために、このとき吸気通路におけるコンプレッサインペラ周辺の圧力が低下する。これにより、コンプレッサインペラの背面部分の圧力(インペラ背面圧)、詳しくは同背面部分に連通される上記シール部材の吸気通路側の部分の圧力と過給機のハウジング内の圧力との差が大きくなるために、この圧力差に起因してハウジング内のオイルが吸気通路内に吸い出されて漏れるおそれがある。
【0010】
上記装置では、スロットル下流圧力がごく低くなるとともにスロットル上流圧力(吸気通路におけるコンプレッサインペラとスロットルバルブとの間の部分の圧力)がある程度低くなると、インペラ背面圧の過度の低下を招く可能性が高くなる。詳しくは、そうした状態でスロットル開度が急速に大きくなると、スロットルバルブ上流側へのスロットル下流圧力の導入によってスロットル上流圧力が低下してインペラ背面圧が過度に低くなるおそれがある。
【0011】
この点、請求項1または3に記載の装置によれば、スロットル下流圧力が第1判定圧力より低く、且つスロットル上流圧力が第2判定圧力より低いことをもって、直後においてインペラ背面圧の過度の低下を招く可能性が高いと判断することができる。そして、この判断をもとに、このとき過給機から吸気通路内へのオイル漏れを招く可能性があること、ひいてはシール部材によるシール性能が低下する可能性があることを適正に判定することができる。これにより、過給機から吸気通路内へのオイル漏れを招く可能性がある状態になることを予測してこれに備えることができる。そのため、過給機から吸気通路へのオイル漏れを抑えるための処理を実際にオイル漏れが生じる可能性のある期間に合わせて適正なタイミングで実行することが可能になり、同処理を通じてオイル漏れを好適に抑えることができる。
【0012】
具体的には、請求項1に記載の装置では、スロットル下流圧力が第1判定圧力より低く、且つスロットル上流圧力が第2判定圧力より低い場合に、そうでない場合(すなわち、スロットル下流圧力が第1判定圧力以上である場合、あるいはスロットル上流圧力が第2判定圧力以上である場合)と比較して、オイル供給装置によってハウジング内に供給されるオイルの圧力が低圧に設定される。
【0013】
これにより、単位時間当たりにハウジング内に供給されるオイルの量が少なくすることができるため、このときインペラ背面圧と過給機のハウジングの内圧との差が大きくなった場合であっても、その圧力差に起因してハウジング内から吸気通路に漏れるオイルの量を少なく抑えることができる。しかも、機関回転速度の減速状態から加速状態への切り換えに際してインペラ背面圧が過度に低くなる時間は短く、このときコンプレッサインペラの回転速度が低いためにその回転軸の潤滑のために必要なオイルの量が少ない。そのため、このときオイル供給装置によってハウジング内に供給されるオイルの量を少なくしても、コンプレッサインペラの回転軸についての潤滑性能の不要な低下を招く可能性は低い。したがって上記装置によれば、過給機のハウジング内から吸気通路内へのオイル漏れを好適に抑えることができるようになる。
【0014】
また請求項3に記載の装置では、スロットル下流圧力が第1判定圧力より低く、且つスロットル上流圧力が第2判定圧力より低い場合に、そうでない場合と比較して、スロットルバルブの開弁速度が低速に設定される。ここでスロットル下流圧力がごく低い状態でスロットル開度が大きくなることによってスロットル上流圧力が低下する場合、スロットル開度の増大速度が高いときほど、スロットル上流圧力の低下度合いが大きくなる。こうしたことから請求項3に記載の装置によれば、スロットルバルブの開弁速度を低速に設定することにより、スロットル上流圧力、ひいてはインペラ背面圧の低下の度合いを小さく抑えることができるため、インペラ背面圧と過給機のハウジングの内圧との差に起因するハウジング内から吸気通路へのオイル漏れを好適に抑えることができる。
【0015】
なお、スロットルバルブの開弁速度を低下させるといった構成は、請求項4によるように、スロットルバルブの開弁速度の上限値を設定することによって実現することができる。
【0016】
上述したようにスロットル下流圧力が第1判定圧力より低く、且つスロットル上流圧力が第2判定圧力より低いことをもって、直後にスロットル開度が急速に大きくなった場合においてインペラ背面圧の過度の低下を招く可能性があることを適正に判定することができる。
【0017】
請求項2に記載の装置によれば、スロットル下流圧力が第1判定圧力より低く、且つスロットル上流圧力が第2判定圧力より低いことに加えて、スロットルバルブの開弁速度が判定速度より高いこと、すなわち実際にスロットル開度が急速に大きくなったことをもって、シール部材によるシール性能が低下する可能性があると判断することができる。そのため、直後においてインペラ背面圧の過度の低下を招く可能性が高いことを精度良く判断することができ、その判断をもとにシール部材によるシール性能が低下する可能性があることを精度良く判定することができる。
【0018】
そして、請求項2に記載の装置では、スロットル下流圧力が第1判定圧力より低く、且つスロットル上流圧力が第2判定圧力より低く、且つスロットルバルブの開弁速度が判定速度より高い場合に、そうでない場合(すなわち、スロットル下流圧力が第1判定圧力以上である場合、あるいはスロットル上流圧力が第2判定圧力以上である場合、あるいはスロットルバルブの開弁速度が判定速度以下である場合)と比較して、オイル供給装置によってハウジング内に供給されるオイルの圧力が低圧に設定される。これにより、単位時間当たりにハウジング内に供給されるオイルの量が少なくすることができるため、このときのインペラ背面圧と過給機のハウジングの内圧との差に起因してハウジング内から吸気通路に漏れるオイルの量を少なく抑えることができる。したがって上記装置によれば、過給機のハウジング内から吸気通路内へのオイル漏れを好適に抑えることができるようになる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】本発明を具体化した第1の実施形態が適用される内燃機関の概略構成を示す略図。
【図2】過給機のコンプレッサおよびその周辺部分の断面構造を示す断面図。
【図3】第1の実施形態にかかる漏れ抑制処理の実行手順を示すフローチャート。
【図4】同漏れ抑制処理の実行態様の一例を示すタイミングチャート。
【図5】第2の実施形態にかかる漏れ抑制処理の実行手順を示すフローチャート。
【図6】同漏れ抑制処理の実行態様の一例を示すタイミングチャート。
【図7】第3の実施形態にかかる漏れ抑制処理の実行手順を示すフローチャート。
【図8】同漏れ抑制処理の実行態様の一例を示すタイミングチャート。
【発明を実施するための形態】
【0020】
(第1の実施形態)
以下、本発明を具体化した第1の実施形態にかかる内燃機関の制御装置について説明する。
【0021】
図1に示すように、内燃機関10の吸気通路11には、同吸気通路11の通路断面積を変更するためのスロットル機構12が取り付けられている。スロットル機構12は、吸気通路11内に配設されたスロットルバルブ13と同スロットルバルブ13に連結されたスロットルモータ14とを備えている。本実施形態の装置では、内燃機関10の運転状態に基づくスロットルモータ14の作動制御(スロットル制御)を通じて、スロットルバルブ13の開度(スロットル開度TA)が機関運転状態に応じたかたちで調節される。
【0022】
本実施形態の装置は、同装置の各部にオイルを供給するためのオイル供給装置20を備えている。オイル供給装置20は、内燃機関10に取り付けられてオイルを備蓄するオイルパン21と内燃機関10の出力軸に駆動連結された機関駆動式のオイルポンプ22とを備えている。内燃機関10が運転されると、オイルポンプ22が作動してオイルパン21内のオイルがオイル供給通路23を通じて装置各部に圧送される。オイル供給装置20は、オイル供給通路23内のオイルをリリーフしてオイルパン21に戻すためのリリーフ通路24とリリーフ弁25とを備えている。このリリーフ弁25としては、オイル供給通路23内のオイルがリリーフされるようになる圧力(リリーフ圧)を変更可能な電磁駆動式のものが採用されている。
【0023】
内燃機関10には、その吸気通路11におけるスロットル機構12より吸気流れ方向上流側(以下、単に上流側)の部分に配設されたコンプレッサ31と排気通路15に配設されたタービン32とを備える、いわゆる排気駆動式の過給機30が取り付けられている。
【0024】
本実施形態の装置には、内燃機関10の運転にかかる各種制御を実行する電子制御装置40が設けられている。この電子制御装置40は、各種センサの出力信号を取り込むとともにそれら出力信号をもとに各種の演算処理を実行し、その演算結果に基づいてスロットル機構12の作動制御やリリーフ弁25の作動制御などの各種制御を実行する。
【0025】
各種センサとしては、例えばスロットルバルブ13の開度(スロットル開度TA)を検出するためのスロットルセンサ41や、内燃機関10の吸気通路11におけるスロットルバルブ13より吸気流れ方向下流側(以下、単に下流側)の圧力(スロットル下流圧力PA1)を検出するための圧力センサ42が設けられている。また、内燃機関10の吸気通路11におけるスロットルバルブ13より上流側部分(詳しくは、吸気通路11におけるコンプレッサインペラ31Aとスロットルバルブ13との間の部分)の圧力(スロットル上流圧力PA2)を検出するための圧力センサ43なども設けられている。
【0026】
上記過給機30は、前記コンプレッサ31とタービン32とが連結部33を介して一体に形成されている。コンプレッサ31の内部(詳しくは、吸気通路11の一部を構成する部分)にはコンプレッサインペラ31Aが配設されており、タービン32の内部(詳しくは、排気通路15の一部を構成する部分)にはタービンホイール32Aが配設されている。それらコンプレッサインペラ31Aおよびタービンホイール32Aは共に回転軸34と一体に形成されている。
【0027】
図2に示すように、過給機30のハウジング35の内部にはラジアル軸受36とスラスト軸受37とが形成されている。そして、過給機30の回転軸34がそれらラジアル軸受36およびスラスト軸受37によって回転可能に支持される構造になっている。
【0028】
過給機30では、オイル供給装置20によってオイル供給通路23(図1参照)を通じてラジアル軸受36やスラスト軸受37に潤滑用のオイルが供給されるようになっている。過給機30のハウジング35内部はドレン通路26(図1)を介して内燃機関10のクランクケースに連通されており、このドレン通路26を通じて潤滑に用いられた後のオイルがクランクケースの内部、ひいてはオイルパン21に戻されるようになっている。
【0029】
過給機30における前記回転軸34およびハウジング35の内面35A(図2)の間隙にはシール部材38が取り付けられている。このシール部材38により、上記間隙を介したハウジング35の内部(詳しくは、図2中に「AR1」で示す部分であり、ラジアル軸受36やスラスト軸受37が形成された部分)から吸気通路11内部(詳しくは、図2中に「AR2」で示す部分)へのオイル漏れがシールされる。
【0030】
本実施形態の装置では、内燃機関10の吸気通路11内の圧力と過給機30のハウジング35内の圧力との差に起因するハウジング35内から吸気通路11へのオイルの漏れを抑えるための処理(漏れ抑制処理)が以下のように実行される。
【0031】
図3は上記漏れ抑制処理の実行手順を示している。なお同図のフローチャートに示される一連の処理は、所定周期毎の割り込み処理として、電子制御装置40により実行される。
【0032】
図3に示すように、この処理では先ず、以下の[第1条件]〜[第3条件]の全てが満たされるか否かが判断される(ステップS11〜ステップS13)。
[第1条件]スロットル下流圧力PA1が第1判定圧力J1より低いこと(ステップS11)。
[第2条件]スロットル上流圧力PA2が第2判定圧力J2より低いこと(ステップS12)。
[第3条件]スロットル開度TAの増大速度が判定速度JVより高いこと(ステップS13)。
【0033】
[第1条件]〜[第3条件]の全てが満たされる場合には(ステップS11〜ステップS13の全てが「YES」)、シール部材38によるシール性能が低下する可能性があると判定される。すなわち、このとき内燃機関10の吸気通路11内の圧力と過給機30のハウジング35内の圧力との差に起因するハウジング35内から吸気通路11へのオイルの漏れが生じる可能性が高いと判断される。なお本実施形態では、第1判定圧力J1、第2判定圧力J2、および判定速度JVとして、シール部材38によるシール性能が低下する可能性があることを的確に判定することの可能な一定の値が各種の実験やシミュレーションの結果をもとに予め求められて電子制御装置40に記憶されている。
【0034】
一方、[第1条件]〜[第3条件]の一つでも満たされない場合には(ステップS11〜ステップS13のいずれかが「NO」)、シール部材38によるシール性能が低下する可能性があるとの判定がなされない。すなわち、このとき上記圧力差に起因するハウジング35内から吸気通路11へのオイルの漏れが生じる可能性がごく低いと判断される。
【0035】
ここで、機関回転速度の減速などに際してスロットル開度TAが急速に小さくなると、スロットル下流圧力PA1が一時的に低くなる。この状態でスロットル開度TAが急速に大きくなると、低圧のスロットル下流圧力PA1がスロットルバルブ13より上流側の部分に導入されてしまうために、このとき吸気通路11におけるコンプレッサインペラ31A周辺の圧力が低下する。これにより、コンプレッサインペラ31Aの背面部分(図2中に「AR2」で示す部分)の圧力(インペラ背面圧)、詳しくは同背面部分に連通されるシール部材38の吸気通路11側の部分の圧力と過給機30のハウジング35内(図2中に「AR1」で示す部分)の圧力との差が大きくなる。そのため、この圧力差に起因してハウジング35内のオイルが吸気通路11内に吸い出されて漏れるおそれがある。
【0036】
こうした装置では、スロットル下流圧力PA1がごく低くなるとともにスロットル上流圧力PA2がある程度低くなると、インペラ背面圧の過度の低下を招く可能性が高くなる。詳しくは、そうした状態でスロットル開度TAが急速に大きくなると、スロットルバルブ13上流側へのスロットル下流圧力PA1の導入によってスロットル上流圧力PA2が低下してインペラ背面圧が過度に低くなるおそれがある。
【0037】
したがって本実施形態の装置によれば、スロットル下流圧力PA1が第1判定圧力J1より低いことを判定する[第1条件]とスロットル上流圧力PA2が第2判定圧力J2より低いことを判定する[第2条件]とが共に満たされることをもって、直後においてインペラ背面圧の過度の低下を招く可能性が高いことを適正に判断することができる。
【0038】
なお、スロットル上流圧力PA2が十分に高いときには、低圧のスロットル下流圧力PA1がスロットルバルブ13より上流側に流入した場合であっても、スロットル上流圧力PA2やインペラ背面圧の過度の低下を招く可能性は低い。[第1条件]および[第2条件]のうちの[第1条件]のみを設定すると、そうした場合に、インペラ背面圧の過度の低下を招く可能性が高いと誤って判定するおそれがある。また、スロットル下流圧力PA1がさほど低くなっていないときには、スロットル下流圧力PA1がスロットルバルブ13より上流側に流入した場合におけるスロットル上流圧力PA2の低下度合いが小さいために、同スロットル上流圧力PA2やインペラ背面圧の過度の低下を招く可能性は低い。[第1条件]および[第2条件]のうちの[第2条件]のみを設定すると、そうした場合に、インペラ背面圧の過度の低下を招く可能性が高いと誤って判定するおそれがある。この点、本実施形態によれば、[第1条件]および[第2条件]が共に満たされることをもって、直後においてインペラ背面圧の過度の低下を招く可能性が高いことを適正に判断することができる。
【0039】
しかも、それら[第1条件]と[第2条件]とが共に満たされることに加えて、スロットルバルブ13の開弁速度が判定速度JVより高いことを判定する[第3条件]が満たされること、すなわち実際にスロットル開度TAが急速に大きくなったことをもって、インペラ背面圧の過度の低下を招く可能性が高いことを精度良く判断することができる。
【0040】
そして、この判断をもとに、このとき過給機30のハウジング35内から内燃機関10の吸気通路11内へのオイル漏れを招く可能性があること、ひいてはシール部材38によるシール性能が低下する可能性があることを適正に判定することができる。これにより、過給機30から吸気通路11内へのオイル漏れを招く可能性がある状態になることを予測してこれに備えることができるため、オイル漏れを抑えるための処理を実際にオイル漏れが生じる可能性のある期間に合わせて適正なタイミングで実行することが可能になり、同処理を通じてオイル漏れを好適に抑えることができる。
【0041】
具体的には、[第1条件]〜[第3条件]の全てが満たされる場合に(ステップS11〜ステップS13の全てで「YES」)、シール部材38によるシール性能が低下する可能性があると判定されて、ハウジング35の内部から吸気通路11へのオイル漏れを抑制するための処理が実行される(ステップS14)。この処理では、具体的には、リリーフ圧が予め定められた所定圧力PLになるようにリリーフ弁25の作動が制御される。なお本実施形態では、各種の実験やシミュレーションの結果をもとに、リリーフ弁25からのリリーフが行われない場合におけるオイル圧力の設定範囲下限より低い圧力であって、ハウジング35内から吸気通路11へのオイル漏れを少量に抑えつつラジアル軸受36やスラスト軸受37における最低限の潤滑性能が得られるオイル圧力が予め求められる。そして、同圧力が所定圧力PLとして電子制御装置40に記憶されている。
【0042】
このように本実施形態の装置では、[第1条件]〜[第3条件]の全てが満たされた場合に、そうでない場合(すなわち[第1条件]〜[第3条件]のいずれか一つでも満たされない場合)と比較して、オイル供給通路23を介して過給機30のハウジング35内(詳しくは、ラジアル軸受36やスラスト軸受37)に供給されるオイルの圧力が低くなる。
【0043】
一方、[第1条件]〜[第3条件]の一つでも満たされない場合には(ステップS11〜ステップS13のいずれかが「NO」)、上述したハウジング35内から吸気通路11へのオイルの漏れを抑制するための処理は実行されない。具体的には、低圧領域においてリリーフ弁25によるリリーフが行われなくなるように、同リリーフ弁25の作動制御を通じてリリーフ圧が高い圧力に設定される(ステップS15)。この場合には、基本的に、機関回転速度に応じた量のオイルがオイル供給通路23を介して内燃機関10の各部や過給機30に供給されるようになる。
【0044】
以下、漏れ抑制処理を実行することによる作用について図4を参照しつつ説明する。
図4は漏れ抑制処理の実行態様の一例を示すタイミングチャートである。
図4に示す例では、時刻t11において、機関回転速度の減速に際してスロットル開度TAが小さくなると、その後においてスロットル下流圧力PA1が低下するようになる。また、機関回転速度やコンプレッサインペラ31Aの回転軸34の回転速度の低下に伴ってスロットル上流圧力PA2やインペラ背面圧も低下するようになる。ちなみに、このときスロットル下流圧力PA1がスロットル上流圧力PA2よりごく低い状態になる。そして、スロットル下流圧力PA1が低下して第1判定圧力J1を下回ると[第1条件]が満たされ(時刻t12)、さらにはスロットル上流圧力PA2が低下して第2判定圧力J2を下回ると[第2条件]満たされる(時刻t13)。
【0045】
そして、こうした状態で、時刻t14において、機関回転速度を加速するべくスロットル開度TAが急速に大きくなると、低圧のスロットル下流圧力PA1がスロットルバルブ13より上流側に流入するため、スロットル上流圧力PA2、ひいてはインペラ背面圧が急低下するようになる。本例では、時刻t14において、スロットル開度TAの増大によって[第3条件]が満たされるために、[第1条件]〜[第3条件]の全てが満たされてシール部材38によるシール性能が低下する可能性があると判定される。
【0046】
そして、[第1条件]〜[第3条件]の全てが満たされる期間にわたり(時刻t14〜t15)、ハウジング35の内部から吸気通路11へのオイル漏れを抑制するべく、リリーフ圧が所定圧力PLになるようにリリーフ弁25の作動が制御される。これにより、過給機30のハウジング35内に供給されるオイルの圧力が低下するようになる。
【0047】
このように本実施形態の装置では、シール部材38によるシール性能が低下する可能性があると判定されたときに(図中に実線で示す)、そうでないときと比較して(図中に一点鎖線で示す)、オイル供給通路23を介して過給機30のハウジング35内に供給されるオイルの圧力が低くなる。これにより、ハウジング35内のシール部材38に隣接する部分に対する単位時間当たりのオイル供給量を少なくすることができるため、このときインペラ背面圧とハウジング35の内圧との差が大きくなった場合であっても、その圧力差に起因してハウジング35内から吸気通路11に漏れるオイルの量を少なく抑えることができる。
【0048】
しかも、機関回転速度の減速状態から加速状態への切り換えに際してインペラ背面圧が過度に低くなる時間は短く、このときコンプレッサインペラ31Aの回転速度が低いためにその回転軸34の潤滑のために必要なオイルの量が少ない。そのため、このときオイル供給装置20によってハウジング35内に供給されるオイルの量を少なくしても、コンプレッサインペラ31Aの回転軸34についての潤滑性能の不要な低下を招く可能性は低い。
【0049】
したがって本実施形態によれば、過給機30のハウジング35内から吸気通路11内へのオイル漏れを好適に抑えることができるようになる。
そして、その後におけるスロットル下流圧力PA1の上昇や、スロットル上流圧力PA2の上昇、スロットル開度TAの増大速度の減少によって[第1条件]〜[第3条件]のいずれかが満たされなくなると(時刻t15)、ハウジング35の内部から吸気通路11へのオイル漏れを抑制するための処理の実行が停止される。具体的には、低圧領域においてリリーフ弁25によるリリーフが行われなくなるように、同リリーフ弁25の作動制御を通じてリリーフ圧が高い圧力に設定される。これにより、その後においては機関回転速度に応じた量のオイルがオイル供給通路23を介して内燃機関10の各部や過給機30に供給されるようになる。
【0050】
以上説明したように、本実施形態によれば以下に記載する効果が得られるようになる。
(1)スロットル下流圧力PA1が第1判定圧力J1より低く、且つスロットル上流圧力PA2が第2判定圧力J2より低く、且つスロットルバルブ13の開弁速度が判定速度JVより高い場合に、そうでない場合と比較して、オイル供給通路23を介して過給機30のハウジング35内に供給されるオイルの圧力を低くするようにした。そのため、過給機30のハウジング35内から吸気通路11内へのオイル漏れを好適に抑えることができるようになる。
【0051】
(第2の実施形態)
以下、本発明を具体化した第2の実施形態にかかる内燃機関の制御装置について、第1の実施形態との相違点を中心に説明する。
【0052】
なお以下では、第1の実施形態と同様の構成については同一の符号を付し、同構成についての詳細な説明は省略する。本実施形態と第1の実施形態とは漏れ抑制処理の実行手順が異なる。以下、本実施形態にかかる漏れ抑制処理について具体的に説明する。
【0053】
図5に本実施形態にかかる漏れ抑制処理の実行手順を示す。なお、同図のフローチャートに示される一連の処理は、所定周期毎の割り込み処理として、電子制御装置40により実行される。
【0054】
図5に示すように、この処理では先ず、前記[第1条件]および[第2条件]が共に満たされるか否かが判断される(ステップS11、ステップS12)。
[第1条件]および[第2条件]が共に満たされる場合には(ステップS11:YES、且つステップS12:YES)、シール部材38によるシール性能が低下する可能性があると判断される。すなわち、このとき内燃機関10の吸気通路11内の圧力と過給機30のハウジング35内の圧力との差に起因するハウジング35内から吸気通路11へのオイルの漏れが生じる可能性が高いと判断される。
【0055】
本実施形態の装置によれば、スロットル下流圧力PA1が第1判定圧力J1より低いことを判定する[第1条件]とスロットル上流圧力PA2が第2判定圧力J2より低いことを判定する[第2条件]とが共に満たされることをもって、直後においてインペラ背面圧の過度の低下を招く可能性が高いことを適正に判断することができる。これにより、過給機30から吸気通路11内へのオイル漏れを招く可能性がある状態になることを予測してこれに備えることができるため、オイル漏れを抑えるための処理を実際にオイル漏れが生じる可能性のある期間に合わせて適正なタイミングで実行することが可能になり、同処理を通じてオイル漏れを好適に抑えることができる。
【0056】
具体的には、[第1条件]および[第2条件]が共に満たされる場合に(ステップS11:YES、且つステップS12:YES)、シール部材38によるシール性能が低下する可能性があると判断されて、リリーフ圧が予め定められた所定圧力PLになるようにリリーフ弁25の作動が制御される(ステップS14)。
【0057】
一方、[第1条件]および[第2条件]のいずれかが満たされない場合には(ステップS11:NO、またはステップS12:NO)、シール部材38によるシール性能が低下する可能性があるとの判定がなされない。そして、このとき低圧領域においてリリーフ弁25によるリリーフが行われなくなるように、同リリーフ弁25の作動制御を通じてリリーフ圧が高い圧力に設定される(ステップS15)。
【0058】
以下、漏れ抑制処理を実行することによる作用について図6を参照しつつ説明する。
図6は漏れ抑制処理の実行態様の一例を示すタイミングチャートである。
図6に示す例では、時刻t21において、機関回転速度の減速に際してスロットル開度TAが小さくなると、その後においてスロットル下流圧力PA1が低下するようになる。また、機関回転速度やコンプレッサインペラ31Aの回転軸34の回転速度の低下に伴ってスロットル上流圧力PA2やインペラ背面圧も低下するようになる。
【0059】
本例では、そうしたスロットル下流圧力PA1およびスロットル上流圧力PA2の低下に伴い、時刻t22において、[第1条件]および[第2条件]が満たされてシール部材38によるシール性能が低下する可能性があると判定される。そして、[第1条件]および[第2条件]が共に満たされる期間にわたり(時刻t22〜t24)、ハウジング35の内部から吸気通路11へのオイル漏れを抑制するべく、リリーフ圧が予め定められた所定圧力PLになるようにリリーフ弁25の作動が制御される。これにより、過給機30のハウジング35内に供給されるオイルの圧力が低下するようになる。
【0060】
このように本実施形態の装置では、シール部材38によるシール性能が低下する可能性があると判定されたときに(図中に実線で示す)、そうでないときと比較して(図中に一点鎖線で示す)、オイル供給通路23を介して過給機30のハウジング35内に供給されるオイルの圧力が低くなる。これにより、直後においてインペラ背面圧とハウジング35の内圧との差が大きくなることに備えて、過給機30のハウジング35内のシール部材38に隣接する部分に対する単位時間当たりのオイル供給量を予め少量に抑えておくことができる。
【0061】
本例では、その後の時刻t23において、機関回転速度を加速させるべくスロットル開度TAが急速に大きくなってスロットル上流圧力PA2やインペラ背面圧が低下して、インペラ背面圧とハウジング35の内圧との差が大きくなる。とはいえ、過給機30のハウジング35内のシール部材38に隣接する部分に対する単位時間当たりのオイル供給量が予め少量に抑えられているために、上記圧力差に起因してハウジング35内から吸気通路11に漏れるオイルの量が少なく抑えられる。
【0062】
そして、その後におけるスロットル下流圧力PA1の上昇や、スロットル上流圧力PA2の上昇によって[第1条件]や[第2条件]が満たされなくなると(時刻t24)、ハウジング35の内部から吸気通路11へのオイル漏れを抑制するための処理の実行が停止される。
【0063】
以上説明したように、本実施形態によれば、以下の(2)に記載した効果が得られるようになる。
(2)スロットル下流圧力PA1が第1判定圧力J1より低く、且つスロットル上流圧力PA2が第2判定圧力J2より低い場合に、そうでない場合と比較して、オイル供給通路23を介して過給機30のハウジング35内に供給されるオイルの圧力を低くするようにした。そのため、過給機30のハウジング35内から吸気通路11内へのオイル漏れを好適に抑えることができるようになる。
【0064】
(第3の実施形態)
以下、本発明を具体化した第3の実施形態にかかる内燃機関の制御装置について、第1の実施形態および第2の実施形態との相違点を中心に説明する。
【0065】
なお以下では、第1の実施形態や第2の実施形態と同様の構成については同一の符号を付し、同構成についての詳細な説明は省略する。第1の実施形態や第2実施形態と本実施形態とは漏れ抑制処理の実行手順が異なる。以下、本実施形態にかかる漏れ抑制処理について具体的に説明する。
【0066】
図7に本実施形態にかかる漏れ抑制処理の実行手順を示す。なお、同図のフローチャートに示される一連の処理は、所定周期毎の割り込み処理として、電子制御装置40により実行される。
【0067】
図7に示すように、この処理では先ず、前記[第1条件]および[第2条件]が共に満たされるか否かが判断される(ステップS11、ステップS12)。
それら[第1条件]および[第2条件]が共に満たされる場合には(ステップS11:YES、且つステップS12:YES)、シール部材38によるシール性能が低下する可能性があると判断される。すなわち、このとき内燃機関10の吸気通路11内の圧力と過給機30のハウジング35内の圧力との差に起因するハウジング35内から吸気通路11へのオイルの漏れが生じる可能性が高いと判断される。
【0068】
そして、この場合には、ハウジング35の内部から吸気通路11へのオイル漏れを抑制するべく、スロットルバルブ13の開弁速度の上限速度VLが設定される(ステップS23)。なお上限速度VLとしては、各種の実験やシミュレーションの結果などをもとに、スロットル下流圧力PA1が低下した場合であってもインペラ背面圧の過度の低下を的確に抑えることの可能な一定の速度が求められて設定されている。
【0069】
ここで、スロットル下流圧力PA1がごく低い状態でスロットル開度TAが大きくなることによってスロットル上流圧力PA2が低下する場合、スロットル開度TAの増大速度が高いときほど、スロットル上流圧力PA2の低下度合いが大きくなる。
【0070】
この点、本処理では、[第1条件]および[第2条件]が共に満たされた場合に、そうでない場合(すなわち[第1条件]および[第2条件]の一方でも満たされない場合)と比較して、スロットルバルブ13の開弁速度の上限値を設定することによって同スロットルバルブ13の開弁速度が低い速度に制限される。これにより、スロットル上流圧力PA2、ひいてはインペラ背面圧の低下の度合いを小さく抑えることができるため、インペラ背面圧と過給機30のハウジング35の内圧との差に起因する同ハウジング35内から吸気通路11へのオイル漏れを好適に抑えることができる。
【0071】
一方、[第1条件]および[第2条件]のいずれかが満たされない場合には(ステップS11:NO、またはステップS12:NO)、シール部材38によるシール性能が低下する可能性があるとの判定がなされない。そして、このときスロットルバルブ13の開弁速度の上限速度VLによる制限が行われない(ステップS24)。
【0072】
以下、漏れ抑制処理を実行することによる作用について図8を参照しつつ説明する。
図8は本実施形態の漏れ抑制処理の実行態様の一例を示すタイミングチャートである。
図8に示す例では、時刻t31において、機関回転速度の減速に際してスロットル開度TAが小さくなると、その後においてスロットル下流圧力PA1が低下するようになる。また、機関回転速度やコンプレッサインペラ31Aの回転軸34の回転速度の低下に伴ってスロットル上流圧力PA2やインペラ背面圧も低下するようになる。
【0073】
本例では、そうしたスロットル下流圧力PA1およびスロットル上流圧力PA2の低下に伴い、時刻t32において、[第1条件]および[第2条件]が満たされてシール部材38によるシール性能が低下する可能性があると判定される。そして、[第1条件]および[第2条件]が共に満たされる期間にわたり(時刻t32〜t34)、上限速度VLによるスロットルバルブ13の開弁速度の制限が実行される。
【0074】
本例では、時刻t33において、シール部材38によるシール性能が低下する可能性があると判定されないと仮定した場合であればスロットル開度TAの増大速度が上限速度VLを上回るようになる態様(図8中に一点鎖線で示す態様)で、内燃機関10の運転状態が変化する。
【0075】
このとき本実施形態の装置では、[第1条件]および[第2条件]が共に満たされているために、図8に実線で示すように、スロットル開度TAの増大速度が上限速度VLで制限されて、低圧のスロットル下流圧力PA1がスロットルバルブ13より上流側の部分に導入される速度が低く抑えられる。これにより、スロットル下流圧力PA1の上昇速度が遅くなるとともにスロットル上流圧力PA2やインペラ背面圧の低下速度が遅くなるため、スロットル上流圧力PA2やインペラ背面圧が急速に低下することなく緩やかに低下するようになる。そして、その後におけるスロットル開度TAの増大や機関回転速度の上昇に伴って吸入空気量が徐々に増加するようになるため、スロットル上流圧力PA2やインペラ背面圧の低下の度合いが小さく抑えられるようになる。
【0076】
本実施形態の装置によれば、このようにしてインペラ背面圧と過給機30のハウジング35の内圧との差を小さく抑えることができるため、その圧力差に起因する同ハウジング35内から吸気通路11へのオイル漏れを好適に抑えることができる。
【0077】
そして、その後におけるスロットル下流圧力PA1の上昇や、スロットル上流圧力PA2の上昇によって[第1条件]や[第2条件]が満たされなくなると(時刻t34)、スロットルバルブ13の開弁速度の上限速度VLによる制限が解除される。
【0078】
以上説明したように、本実施形態によれば、以下の(3)に記載の効果が得られるようになる。
(3)スロットル下流圧力PA1が第1判定圧力J1より低く、且つスロットル上流圧力PA2が第2判定圧力J2より低い場合に、そうでない場合と比較して、スロットルバルブ13の開弁速度の上限値を設定することによって同スロットルバルブ13の開弁速度を低くするようにした。そのため、過給機30のハウジング35内から吸気通路11内へのオイル漏れを好適に抑えることができるようになる。
【0079】
(他の実施形態)
なお、上記各実施形態は、以下のように変更して実施してもよい。
・各実施形態における[第1条件]での判定に用いるスロットル下流圧力や[第2条件]での判定に用いるスロットル上流圧力として、圧力センサによって検出した値を用いることに代えて、内燃機関の運転状態に基づき推定した値を用いるようにしてもよい。スロットル下流圧力やスロットル上流圧力の推定に用いるパラメータとしては、例えばアクセル操作量やスロットル開度TA、吸入空気量、機関回転速度、並びに過給機30の回転軸34の回転速度などを挙げることができる。
【0080】
・各実施形態における[第1条件]として、圧力センサ42により検出されるスロットル下流圧力PA1が第1判定圧力J1より低くなっていることといった条件を設定することに代えて、スロットル開度TAが所定開度より小さい状況が所定時間にわたり継続されたことといった条件を設定するようにしてもよい。要は、内燃機関10の吸気通路11におけるスロットルバルブ13より下流側の部分の圧力が第1判定圧力J1より低くなっていることを判定可能な条件であればよい。
【0081】
・第1の実施形態において、オイル漏れを抑えるための処理(図3のステップS14の処理)を実行する期間を、[第1条件]〜[第3条件]の全てが満たされてから予め定めた所定時間が経過するまでの期間としてもよい。所定時間としては、機関回転速度の減速状態から加速状態への切り換えに伴ってインペラ背面圧の過度の低下を招くおそれのある期間が適正に含まれるようになる一定の時間を各種の実験やシミュレーションの結果をもとに予め求めて設定すればよい。
【0082】
・第2の実施形態におけるオイル漏れを抑えるための処理(図5のステップS14の処理)の実行期間や第3の実施形態におけるオイル漏れを抑えるための処理(図7のステップS23の処理)を実行する期間を、[第1条件]および[第2条件]が共に満たされてから予め定めた所定時間が経過するまでの期間としてもよい。所定時間としては、機関回転速度の減速状態から加速状態への切り換えに伴ってインペラ背面圧の過度の低下を招くおそれのある期間が適正に含まれるようになる一定の時間を各種の実験やシミュレーションの結果をもとに予め求めて設定すればよい。
【0083】
・第1の実施形態や第2の実施形態において、オイル漏れを抑えるための処理として、ハウジング35に供給されるオイル圧力を低下させるべくリリーフ弁25のリリーフ圧を一定の圧力(所定圧力PL)に設定することに限らず、リリーフ圧を可変設定するようにしてもよい。
【0084】
こうした装置においてリリーフ圧の設定に用いる設定パラメータとしては、過給機30から吸気通路11へのオイル漏れ量を変化させる値であれば採用することができ、例えばオイル温度や、ハウジング35の内圧、コンプレッサインペラ31Aの回転速度、スロットル開度TAの増大速度などを採用することができる。オイル温度が高いときほどオイルの粘度が低いためにオイル漏れ量が多くなり易い。そのためオイル温度を設定パラメータとして採用する場合には、オイル温度が高いときほどリリーフ弁25のリリーフ圧を低い圧力に設定すればよい。また、過給機30のハウジング35の内圧(あるいは、ハウジング35に連通されたクランクケースの内圧)が高いときほど、インペラ背面圧の低下時における同インペラ背面圧とハウジング35内圧との差が大きくなるため、オイル漏れ量が多くなり易い。そのためハウジング35内圧やクランクケース内圧を設定パラメータとして採用する場合には、その内圧が高いときほどリリーフ弁25のリリーフ圧を低い圧力に設定すればよい。さらには、コンプレッサインペラ31Aの回転速度が高いときほど、ブローバイガスが多くなるためにクランクケース内圧やハウジング35の内圧が高くなり易く、オイル漏れ量が多くなり易い。そのためコンプレッサインペラ31Aの回転速度を設定パラメータとして採用する場合には、コンプレッサインペラ31Aの回転速度が高いときほどリリーフ弁25のリリーフ圧を低い圧力に設定すればよい。またスロットル開度TAの増大速度が高いときほどインペラ背面圧が低くなり易いためにオイル漏れ量が多くなり易い。そのため設定パラメータとしてスロットル開度TAの増大速度を採用する場合には、同増大速度が高いときほどリリーフ弁25のリリーフ圧を低い圧力に設定すればよい。
【0085】
こうした構成によれば、オイル漏れ量が多くなり易い状況であるときほどリリーフ弁25のリリーフ圧を低い圧力に設定することができる。そのため、オイル漏れ量が多くなり易いときにはリリーフ圧を低くしてオイル漏れを適正に抑える一方、オイル漏れ量がさほど多くならないときにはリリーフ圧を高くして潤滑性能の不要な低下を抑えるといったように、リリーフ圧を状況に応じて適正に設定することができる。
【0086】
・第3の実施形態において、オイル漏れを抑えるための処理として、スロットル開度TAの増大速度の上限値を一定の速度(上限速度VL)に設定することに限らず、同上限値を可変設定するようにしてもよい。
【0087】
こうした装置において上限値の設定に用いる設定パラメータとしては、過給機30から吸気通路11へのオイル漏れ量を変化させる値であれば採用することができ、例えばオイル温度や、オイル圧力、ハウジング35の内圧、コンプレッサインペラ31Aの回転速度などを採用することができる。具体的には、オイル温度が高いときほど上限値を低い速度に設定したり、過給機30のハウジング35の内圧(あるいは、ハウジング35に連通されたクランクケースの内圧)が高いときほど上限値を低い速度に設定したり、コンプレッサインペラ31Aの回転速度が高いときほど上限値を低い速度に設定したりすればよい。また、オイル圧力が高いときほど、ハウジング35内への単位時間あたりのオイル供給量が多くなるために、オイル漏れ量が多くなり易い。そのためオイル圧力を設定パラメータとして採用する場合には、オイル圧力が高いときほど上限値を低い速度に設定すればよい。
【0088】
上記構成によれば、オイル漏れ量が多くなり易い状況であるときほどスロットル開度TAの増大速度についての上限値を低い速度に設定することができる。そのため、オイル漏れ量が多くなり易いときにはスロットル開度TAの増大速度の制限度合いを大きくしてオイル漏れを適正に抑制する一方、オイル漏れ量がさほど多くならないときにはスロットル開度TAの増大速度の制限度合いを小さくして加速性能の不要な低下を抑えるといったように、上記増大速度の制限を状況に応じて適正に行うことができる。
【0089】
・第1の実施形態や第2の実施形態において、吐出量可変型のオイルポンプ(例えば電動式のオイルポンプや斜板式のオイルポンプ)を採用するとともに同ポンプの吐出量を減少させることにより、過給機30のハウジング35内に供給されるオイルの圧力を低下させるようにしてもよい。その他、ハウジング35を迂回してオイル供給通路23とドレン通路26とを連通するバイパス通路、同バイパス通路を通じたオイル供給通路23およびドレン通路26の連通と同連通の遮断とを切り換えるバイパス弁を設けるとともに、同バイパス弁を開弁することによってハウジング35内に供給されるオイルの圧力を低下させるようにしてもよい。
【0090】
・第3の実施形態において、スロットル開度TAの増大速度を上限速度VLによって制限することに代えて、スロットル開度TAの増大速度を所定速度だけ低下させるようにしてもよい。こうした構成は、例えば[構成1]〜[構成3]に記載する構成によって実現することができる。[構成1]スロットル制御においてスロットル開度TAについての制御目標値を算出するための演算マップ(あるいは演算式)を、小さい開度が算出される演算マップ(あるいは演算式)に切り換える。[構成2]スロットル制御においてスロットルモータ14の作動量についての制御目標値を算出するための演算マップ(あるいは演算式)を、スロットルモータ14の駆動力が小さくなる値が算出される演算マップ(あるいは演算式)に切り換える。[構成3]スロットル開度TAのフィードバック制御が実行される装置においてそのフィードバックゲインを小さい値に変更する。
【0091】
・本発明は、排気駆動式の過給機が搭載された内燃機関に限らず、機関出力軸にコンプレッサインペラの回転軸が駆動連結される機関駆動式の過給機や、電動モータによってコンプレッサインペラの回転軸が駆動される電動式の過給機にも適用することができる。要は、コンプレッサインペラが回転可能な状態で吸気通路内に配設されるタイプの過給機を備えた内燃機関であれば、本発明を適用することができる。
【符号の説明】
【0092】
10…内燃機関、11…吸気通路、12…スロットル機構、13…スロットルバルブ、14…スロットルモータ、15…排気通路、20…オイル供給装置、21…オイルパン、22…オイルポンプ、23…オイル供給通路、24…リリーフ通路、25…リリーフ弁、26…ドレン通路、30…過給機、31…コンプレッサ、31A…コンプレッサインペラ、32…タービン、32A…タービンホイール、33…連結部、34…回転軸、35…ハウジング、35A…内面、36…ラジアル軸受、37…スラスト軸受、38…シール部材、40…電子制御装置、41…スロットルセンサ、42,43…圧力センサ。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
吸気通路内に配設された過給機のコンプレッサインペラと、前記吸気通路における前記コンプレッサインペラより吸気流れ方向下流側に配設されたスロットルバルブと、前記過給機のハウジング内にオイルを供給するオイル供給装置とを備えた内燃機関の制御装置であって、
前記過給機は、前記コンプレッサインペラの回転軸が前記ハウジング内において回転可能に支持されてなるとともに、前記回転軸および前記ハウジングの内面の間隙に同間隙を介した前記吸気通路へのオイル漏れをシールするシール部材が配設されてなり、
前記吸気通路における前記スロットルバルブより吸気流れ方向下流側の部分の圧力が第1判定圧力より低く、且つ前記吸気通路における前記コンプレッサインペラと前記スロットルバルブとの間の部分の圧力が第2判定圧力より低い場合に、そうでない場合と比較して、前記オイル供給装置によって前記ハウジング内に供給されるオイルの圧力を低くする
ことを特徴とする内燃機関の制御装置。
【請求項2】
吸気通路内に配設された過給機のコンプレッサインペラと、前記吸気通路における前記コンプレッサインペラより吸気流れ方向下流側に配設されたスロットルバルブと、前記過給機のハウジング内にオイルを供給するオイル供給装置とを備えた内燃機関の制御装置であって、
前記過給機は、前記コンプレッサインペラの回転軸が前記ハウジング内において回転可能に支持されてなるとともに、前記回転軸および前記ハウジングの内面の間隙に同間隙を介した前記吸気通路へのオイル漏れをシールするシール部材が配設されてなり、
前記吸気通路における前記スロットルバルブより吸気流れ方向下流側の部分の圧力が第1判定圧力より低く、且つ前記吸気通路における前記コンプレッサインペラと前記スロットルバルブとの間の部分の圧力が第2判定圧力より低く、且つ前記スロットルバルブの開弁速度が判定速度より高い場合に、そうでない場合と比較して、前記オイル供給装置によって前記ハウジング内に供給されるオイルの圧力を低くする
ことを特徴とする内燃機関の制御装置。
【請求項3】
吸気通路内に配設された過給機のコンプレッサインペラと、前記吸気通路における前記コンプレッサインペラより吸気流れ方向下流側に配設されたスロットルバルブと、前記過給機のハウジング内にオイルを供給するオイル供給装置とを備えた内燃機関の制御装置であって、
前記過給機は、前記コンプレッサインペラの回転軸が前記ハウジング内において回転可能に支持されてなるとともに、前記回転軸および前記ハウジングの内面の間隙に同間隙を介した前記吸気通路へのオイル漏れをシールするシール部材が配設されてなり、
前記吸気通路における前記スロットルバルブより吸気流れ方向下流側の部分の圧力が第1判定圧力より低く、且つ前記吸気通路における前記コンプレッサインペラと前記スロットルバルブとの間の部分の圧力が第2判定圧力より低い場合に、そうでない場合と比較して、前記スロットルバルブの開弁速度を低下させる
ことを特徴とする内燃機関の制御装置。
【請求項4】
請求項3に記載の内燃機関の制御装置において、
当該装置は、前記スロットルバルブの開弁速度の上限値を設定することによって同開弁速度を低下させるものである
ことを特徴とする内燃機関の制御装置。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate


【公開番号】特開2013−57273(P2013−57273A)
【公開日】平成25年3月28日(2013.3.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−195315(P2011−195315)
【出願日】平成23年9月7日(2011.9.7)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】