説明

内燃機関の排気浄化装置

【課題】添加弁の周囲でのデポジットの生成を防止することにより添加弁の信頼性を維持することができる内燃機関の排気浄化装置を提供する。
【解決手段】排気浄化ユニット7の上流側に燃料添加弁5が設けられた排気浄化装置に対し、この燃料添加弁5の上流側にヒータ付き酸化触媒6を配設する。検出または推定された排気ガス温度が所定温度を超えている場合にはヒータ付き酸化触媒6による加熱動作を非実行とする。排気ガス温度が所定温度以下である場合にはヒータ付き酸化触媒6の加熱動作を実行して排気ガス温度を高める。これにより排気ガス中のギ酸が分解され、燃料添加弁5の周囲でのデポジットの生成が防止される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自動車用ディーゼルエンジン等の内燃機関に適用される排気浄化装置に係る。特に、本発明は、排気系に添加剤を供給する添加弁の信頼性を維持するための対策に関する。
【背景技術】
【0002】
自動車等に搭載されるディーゼルエンジン(以下、単に「エンジン」という場合もある)を駆動した際に排出される排気ガス中には、そのまま大気中に排出することが好ましくない物質が含まれている。特に、カーボンを主成分とする粒子状物質(以下、PM(Paticulate Matter)という)は大気汚染の原因になる。
【0003】
上記PMが大気中に排出されることを阻止する装置として、ディーゼルエンジンの排気通路に配設されるパティキュレートフィルタ(以下、単に「フィルタ」と呼ぶ)が知られている。つまり、排気通路を通過する排気ガス中に含まれるPMをこのフィルタによって捕集することで排気ガスの浄化を図っている。
【0004】
このフィルタとしては、例えばDPF(Diesel Particulate Filter)や、DPNR(Diesel Particulate−NOx Reduction system)触媒が知られている。
【0005】
ところで、この種のフィルタを用いてPMの捕集を行う場合、捕集したPMの堆積量が増大するとフィルタの詰まりが生じてしまう。このフィルタの詰まりが生じた状況では、フィルタを通過する排気ガスの圧力損失が著しく増大し、それに伴うエンジンの排気背圧増大によってエンジン出力の低下や燃料消費率の悪化を招いてしまうことになる。
【0006】
このような課題を解消するため、従来より、フィルタに捕集されたPMの捕集量(堆積量)がある程度の量に達した際には、排気温度を上昇させる等の手法によりフィルタ温度を高温化することで、堆積しているPMを酸化(燃焼)させて除去するフィルタ再生動作を行うようにしている(例えば下記の特許文献1を参照)。
【0007】
このフィルタ再生動作の具体例としては、排気系に燃料添加弁を設けて燃料(添加剤)を供給するものが挙げられる。このような排気系への燃料供給により、排気系での燃料の燃焼により、フィルタに堆積したPMを酸化(燃焼)させることができる。
【0008】
また、排気ガス中に含まれる大気汚染物質としては上記PMの他にNOxも挙げられる。このNOxに対しては、例えばNOx吸蔵還元触媒によって吸蔵することで大気中への放出を防止している。
【0009】
このNOx吸蔵還元触媒は、排気空燃比(A/F)がリーンである場合、つまり周囲の雰囲気が高酸素濃度状態である場合には排気ガス中のNOxを吸蔵する。一方、排気空燃比がリッチになった場合、詳しくは、周囲の雰囲気が低酸素濃度状態となり、かつ、排気ガス中に炭化水素(HC)や一酸化炭素(CO)などの未燃燃料成分を含む状態になった場合に、NOx吸蔵還元触媒は、吸蔵しているNOxを放出および還元する。
【0010】
このNOx吸蔵還元触媒のNOx吸蔵能力が低下した場合にはNOxを還元させてNOx吸蔵還元触媒を回復させる必要がある。この場合にも上記燃料添加弁からの燃料(添加剤)供給が行われる。つまり、NOx吸蔵還元触媒の周囲雰囲気を高温化や還元雰囲気にすることで、NOx吸蔵還元触媒に吸蔵されたNOxを還元して放出する。
【0011】
尚、特許文献1には、添加剤噴射路内での澱みの発生により、この添加剤噴射路内に溜まった燃料が排気ガス中の煤を取り込むことでデポジットが生成されることを防止するために、添加剤噴射路と排気管部との合流部分に排気ガスを流入させ、添加剤噴射路内での澱みを解消してデポジットの堆積を防止する技術が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0012】
【特許文献1】特開2009−156073号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
ところで、燃料添加弁の周囲でのデポジット生成要因としては、排気ガス中及び燃料中のギ酸(HCOOH)が挙げられる。つまり、燃料中に含まれるPIBSI(ポリイソブテニルコハク酸イミド)系の清浄剤と、排気ガス中や燃料中に含まれるギ酸とによってデポジットが生成され、このデポジットが燃料添加弁の周囲や燃料噴射孔に堆積してしまうことがある。このような状況では、堆積したデポジットが、燃料添加弁からの燃料噴射動作に悪影響を及ぼす可能性がある。
【0014】
このようなギ酸の存在に起因するデポジットの生成は、燃料添加弁の周囲に排気ガスを流入させるといった上記特許文献1の構成では解消することができない。そればかりか、この特許文献1の構成は、燃料添加弁の周囲に排気ガスを積極的に供給するものであることから上記ギ酸の存在に起因するデポジットの生成を助長してしまう可能性のあるものであった。
【0015】
本発明は、かかる点に鑑みてなされたものであり、その目的とするところは、添加弁の周囲でのデポジットの生成を防止することにより添加弁の信頼性を維持することができる内燃機関の排気浄化装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0016】
上記の目的を達成するための手段として本発明は、排気系に設けられ、排気成分の吸蔵または捕集により排気の浄化を行なう排気浄化ユニットと、この排気浄化ユニットに吸蔵または捕集された排気成分の除去動作の開始条件が成立した際、この排気浄化ユニットよりも上流側の排気経路に添加剤を供給する添加弁とを備えた内燃機関の排気浄化装置を前提とする。この内燃機関の排気浄化装置に対し、上記排気経路における上記添加弁の上流側に配設されたヒータ付き酸化触媒と、上記排気経路を流れる排気ガスの温度を検出または推定する排気ガス温度認識手段と、上記排気ガス温度認識手段によって検出または推定された排気ガスの温度に応じて上記ヒータ付き酸化触媒における加熱動作を制御するヒータ制御手段とを備えさせている。
【0017】
より具体的に、上記排気経路を流れる排気ガスの温度がギ酸の分解が可能な所定値を超えている場合には上記ヒータ付き酸化触媒における加熱動作を非実行とし、この排気ガスの温度が上記所定値以下である場合に上記ヒータ付き酸化触媒における加熱動作を実行するように上記ヒータ制御手段を構成している。
【0018】
これらの特定事項により、排気ガス温度認識手段によって検出または推定された排気ガスの温度が所定値を超えている場合には、排気ガス温度が十分に高く、排気ガス中に含まれているギ酸は分解され(HCOOH→H2+CO2)、添加弁の周辺にはデポジットの生成要因であるギ酸は存在していないと推定することができる。このため、この場合にはヒータ付き酸化触媒における加熱動作を非実行とする。
【0019】
一方、排気ガス温度が上記所定値以下である場合には、排気ガス温度が比較的低く、排気ガス中に含まれているギ酸は分解され難く、添加弁の周辺に向けてギ酸が流れ込む可能性があると推定することができる。このため、この場合にはヒータ付き酸化触媒における加熱動作を実行し、排気ガス中に含まれているギ酸を分解する。これにより、添加弁の周辺にギ酸が流れ込むことがなくなり、このギ酸の存在に起因するデポジットの生成が防止されることになる。
【0020】
上記排気ガス温度認識手段として具体的には、上記排気経路に取り付けられた排気温センサ、または、内燃機関回転数及び内燃機関負荷から排気ガス温度を推定する構成としている。
【0021】
また、上記ヒータ付き酸化触媒として具体的には、ギ酸分解触媒、または、電気ヒータが取り付けられたパンチングメタルにより構成している。
【発明の効果】
【0022】
本発明では、添加弁の上流側に配設されたヒータ付き酸化触媒における加熱動作を、排気ガス温度に応じて制御するようにしている。このため、排気ガス温度が比較的低い状況であっても、ヒータ付き酸化触媒における加熱動作により、排気ガス中に含まれているギ酸を分解することが可能となり、ギ酸の存在に起因するデポジットの生成を防止することができて添加弁の信頼性を維持することができる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】実施形態に係るディーゼルエンジン及びその制御系統の概略構成図である。
【図2】ECU等の制御系の構成を示すブロック図である。
【図3】PM発生量pmeを求めるマップを示す図である。
【図4】PM燃焼量pmcを求めるマップを示す図である。
【図5】酸化触媒加熱制御の手順を示すフローチャート図である。
【図6】排気ガス温度を求めるマップを示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下、本発明の実施の形態を図面に基づいて説明する。本実施形態は、自動車に搭載されたコモンレール式筒内直噴型多気筒(例えば直列4気筒)ディーゼルエンジンに本発明を適用した場合について説明する。
【0025】
尚、本発明は、ディーゼルエンジンに限らず、ガソリンエンジンに対しても適用可能である。また、後述する燃料添加弁5(図1参照)の下流側に配設される排気浄化ユニット7としては、PMを捕集するDPFに限らず、NOx吸蔵還元触媒や、PM捕集機能とNOx吸蔵機能とを兼ね備えた触媒(例えば上記DPNR)を適用することもできる。以下の説明では、排気浄化ユニット7がDPFである場合を例に挙げて説明する。
【0026】
−エンジンの構成−
先ず、本実施形態に係るディーゼルエンジン(以下、単にエンジンという)の概略構成を、図1を参照して説明する。
【0027】
本実施形態に係るディーゼルエンジン1(以下、「エンジン1」という)は、シリンダ11とピストン12との間で形成される各気筒の燃焼室13に、その燃焼室13内での燃焼に供される燃料を噴射するインジェクタ(燃料噴射弁)2がそれぞれ配置されている。各気筒のインジェクタ2は図示しないコモンレールに接続されている。このコモンレールには、図示しないサプライポンプによって燃料タンクから汲み上げられた燃料が貯留され、この燃料が各インジェクタ2に分配されるようになっている。インジェクタ2は、所定電圧が印加されたときに開弁して、燃焼室13内に燃料を噴射供給する電磁駆動式の開閉弁である。インジェクタ2の開閉動作(燃料噴射量・噴射時期の調整動作)はECU(Electronic Control Unit)100によってデューティ制御される。
【0028】
また、上記サプライポンプは、燃料タンクから汲み上げた燃料の一部を、添加燃料通路51を介して燃料添加弁5に供給する。この燃料添加弁5は、排気管3に設けられており、この排気管3を流れる排気ガスに対して所定量及び所定タイミングで燃料添加を必要に応じて実行するようになっている。この燃料添加弁5からの燃料添加動作については後述する。
【0029】
エンジン1には上記排気管3及び吸気管4が接続されており、吸気管4は吸気バルブ14の開放動作によって燃焼室13に連通可能となっている。また、排気管3は排気バルブ15の開放動作によって燃焼室13に連通可能となっている。
【0030】
排気管3には、排気ガス中に含まれるHC(炭化水素)及びCO(一酸化炭素)を酸化して浄化する酸化触媒6とPM(粒子状物質)を捕集する排気浄化ユニットであるDPF7とが順に配置され、燃焼室13での燃焼により生じた排気ガスが酸化触媒6及びDPF7に送り込まれる。上述した如く、この排気浄化ユニット7としては、NOx吸蔵還元触媒やDPNRであってもよい。
【0031】
上記酸化触媒6は、ヒータ付き酸化触媒として構成されている。具体的には、電気ヒータが取り付けられたパンチングメタルにより構成されており、この電気ヒータにはヒータ制御用電源61が接続されている。このヒータ制御用電源61にはヒータ制御装置(ヒータ制御手段)62が接続されており、このヒータ制御装置62からのヒータON信号によってヒータ制御用電源61が作動されて電気ヒータに通電されることにより、電気ヒータが発熱し、ヒータ付き酸化触媒6が加熱(例えば150℃程度まで加熱)される構成となっている。この値はこれに限定されるものではなく、後述するように、排気ガス中や燃料中に含まれているギ酸の分解を可能とする温度(例えば100℃)を超える範囲内において任意に設定可能である。
【0032】
また、このヒータ付き酸化触媒6の構成としては、上述したものに限らず、電気ヒータを構成する金属箔をハニカム状に形成してその表面に酸化触媒を担持させた構成や、公知のギ酸分解触媒としてもよい。このギ酸分解触媒としては、例えば特開2010−83730号公報や特開2009−78200号公報に開示されているものが利用可能である。
【0033】
上記排気管3における上記ヒータ付き酸化触媒6の上流側(排気ガス流れの上流側)には排気温センサ37(排気ガス温度認識手段)が配置されており、この排気温センサ37の出力信号によりヒータ付き酸化触媒6に流入する排気ガスの温度を検出することが可能となっている。この排気温センサ37の出力信号はECU100に入力される。
【0034】
尚、本実施形態に係るエンジン1には、図示しないターボチャージャやEGR装置なども備えられている。これらの構成は周知であるため、ここでの説明は省略する。
【0035】
−ECU−
ECU100は、図2に示すように、CPU(Central Processing Unit)101、ROM(Read Only Memory)102、RAM(Random Access Memory)103及びバックアップRAM104などを備えている。
【0036】
ROM102には、各種制御プログラムや、それら制御プログラムを実行する際に参照されるマップ等が記憶されている。CPU101は、ROM102に記憶された各種制御プログラムやマップに基づいて演算処理を実行する。また、RAM103はCPU101での演算結果や各センサから入力されたデータ等を一時的に記憶するメモリであり、バックアップRAM104はエンジン1の停止時にその保存すべきデータ等を記憶する不揮発性のメモリである。
【0037】
これらCPU101、ROM102、RAM103、及び、バックアップRAM104はバス107を介して互いに接続されるとともに、入力インターフェース105及び出力インターフェース106と接続されている。
【0038】
入力インターフェース105には、エンジン1の出力軸であるクランクシャフトの回転数を検出するエンジン回転数センサ31、エンジン水温(冷却水温)を検出する水温センサ32、吸入空気量を検出するエアフローメータ33、吸入空気の温度を検出する吸気温センサ34、吸入空気の圧力を検出する吸気圧センサ35、排気ガスの空燃比を検出するA/Fセンサ36、上記排気温センサ37、上記コモンレール内の高圧燃料の圧力を検出するレール圧センサ38、吸気管4内に配設されたスロットルバルブの開度を検出するスロットル開度センサ39、アクセルペダル42(図1参照)の開度を検出するアクセル開度センサ3A、及び、車速センサ3Bなどが接続されており、これらの各センサからの信号がECU100に入力される。
【0039】
出力インターフェース106には、上記インジェクタ2、上記サプライポンプ8、スロットルバルブを駆動するスロットルモータ41、上記ヒータ制御装置62、上記燃料添加弁5などが接続されている。
【0040】
ECU100は、上記した各種センサの出力信号に基づいて、エンジン1のスロットルバルブの開度制御、及び、燃料噴射量・噴射時期制御(インジェクタ2の開閉制御)などを含むエンジン1の各種制御を実行する。さらに、ECU100は、上記燃料添加弁5を制御することによる下記のDPF再生制御を実行する。
【0041】
−DPF再生制御−
<PM堆積量推定>
ECU100は、エンジン1の運転状態に基づいてDPF7におけるPM(排気成分)堆積量を推定する。このPM堆積量の推定動作としては、エンジン運転状態に基づく推定動作が挙げられる。また、DPF7の前後差圧に基づいてPM堆積量を推定するようにしてもよい。
【0042】
エンジン運転状態に基づくPM堆積量の推定動作としては、PM発生量pme及びPM燃焼量pmcを用いて推定PM堆積量PMsが算出される。
【0043】
PM発生量pmeは、単位時間当たり(例えば推定処理の1制御周期の間)にエンジン1の全燃焼室13から排出されるPMの量であって、エンジン回転数センサ31の出力信号から得られるエンジン回転数NE及びインジェクタ2からの燃料噴射量Qv(指令値)に基づいて図3のマップを参照して求められる。
【0044】
PM燃焼量pmcは、単位時間当たり(例えば推定処理の1制御周期の間)にDPF7に堆積されているPMが酸化燃焼される量であって、排気温センサ37の出力信号(または、DPF7の直上流側に排気温センサを設けておき、その排気温センサからの出力信号)から得られる排気ガス温度Theg及びエアフローメータ33の出力信号から得られる吸入空気量Gaに基づいて図4のマップ(PMの酸化速度マップ)を参照して求められる。
【0045】
そして、これらPM発生量pme及びPM燃焼量pmcを用いて推定PM堆積量PMsを、演算式[PMs←PMs(前回値)+pme−pmc]に基づいて逐次算出(積算)していく。
【0046】
図3に示すマップは、エンジン回転数NE及び燃料噴射量Qvをパラメータとし、PM発生量pmeを実験・計算等によって求めた値をマップ化したものであって、ECU100のROM102内に記憶されている。なお、図3のマップにおいて、エンジン回転数NE及び燃料噴射量Qvがマップ上の各ポイント間の値になるときには、補間処理にてPM発生量pmeを算出する。
【0047】
図4に示すマップは、排気ガス温度Theg及び吸入空気量Gaをパラメータとし、PM燃焼量pmcを実験・計算等によって求めた値をマップ化したものであって、ECU100のROM102内に記憶されている。なお、図4のマップにおいて、排気ガス温度Theg及び吸入空気量Gaがマップ上の各ポイント間の値になるときには、補間処理にてPM燃焼量pmcを算出する。
【0048】
尚、DPF7の前後差圧に基づくPM堆積量推定動作としては、DPF7前後の差圧ΔPを圧力センサ等を利用して検出し、このDPF7前後の差圧ΔPが所定値に達したことで、DPF再生が必要となるPM堆積量に達したと判定するものである。つまり、DPF7前後の差圧ΔPとPM堆積量との関係を実験や計算等によって求めてマップ化しておき、このマップを利用してDPF7前後の差圧ΔPからPM堆積量を推定するものである。
【0049】
<フィルタ再生(DPF再生)動作>
上述したPM堆積量の推定動作によってPM堆積量が所定量(再生開始判定量)に達した場合(排気成分除去動作の開始条件が成立した場合)、ECU100は、フィルタ再生動作(排気成分除去動作)の開始時期であると判断する。
【0050】
このフィルタ再生動作では、上記燃料添加弁5から間欠的に(所定のインターバルを存して)燃料添加動作が行われる。この燃料添加動作によって燃料添加弁5から供給された燃料は、排気管3内において燃焼し、これによって、DPF7に堆積したPMが燃焼・除去され、DPF7のPM堆積量が減少していく。
【0051】
また、フィルタ再生動作としては、上記燃料添加弁5からの燃料添加と並行して上記インジェクタ2からのポスト噴射を実施するものとしてもよい。
【0052】
−酸化触媒加熱制御動作−
次に、本実施形態の特徴とする動作である酸化触媒加熱制御について説明する。
【0053】
この種のエンジン1では、燃料中に含まれるPIBSI系の清浄剤と、排気ガス中や燃料中に含まれるギ酸とによってデポジットが生成され、このデポジットが燃料添加弁5の周囲や燃料噴射孔に堆積してしまうことがある。このような状況では、堆積したデポジットが、燃料添加弁5からの燃料噴射動作に悪影響を及ぼす可能性がある。
【0054】
そこで、本実施形態では、後述する酸化触媒加熱制御によって上記デポジットの生成を防止するようにしている。具体的に、上記デポジット生成要因であるギ酸(HCOOH)は、高温環境下にあっては分解される(HCOOH→H2+CO2)。つまり、排気ガス温度が比較的高い状況ではギ酸は分解されるため、燃料添加弁5の周囲にデポジットが堆積してしまうことはない。ところが、排気ガス温度が比較的低い状況ではギ酸は分解され難く、燃料添加弁5の周囲にデポジットが堆積してしまう可能性がある。
【0055】
本実施形態では、このように排気ガス温度が比較的低く、ギ酸が分解され難い状況においてのみ上記ヒータ付き酸化触媒6の加熱動作を行い、通過する排気ガスの温度を上昇させることでギ酸の分解を促進させるようにしている。
【0056】
以下、この酸化触媒加熱制御の手順を図5のフローチャートに沿って説明する。尚、以下の説明では、排気ガス温度をエンジンの運転状態から推定する場合について説明するが、上記排気温センサ37からの出力信号によって排気ガス温度を検出するようにしてもよい。また、このフローチャートに示される処理は、エンジン1の運転開始後、上記ECU100により所定の周期で繰り返し実行される。
【0057】
先ず、ステップST1において、エンジン回転数及びアクセルペダル開度が検出される。具体的には、上記エンジン回転数センサ31からの検出信号に基づいてエンジン回転数を算出し、上記アクセル開度センサ3Aからの検出信号によりアクセルペダル開度(エンジン負荷)が検出される。
【0058】
その後、ステップST2に移り、上記ステップST1において検出されたエンジン回転数及びアクセルペダル開度よりインジェクタ2からの燃料噴射量が算出される。具体的には、上記ROM102に記憶された燃料噴射量マップに従って燃料噴射量が求められる。この燃料噴射量マップは実験やシミュレーション等によって予め作成されたものである。
【0059】
その後、ステップST3では、排気管3を流れる排気ガスの温度を推定する。この排気ガス温度の推定動作として具体的には、図6に示すマップを利用して行われる。このマップは、インジェクタ2からの燃料噴射量Qvとエンジン回転数NEをパラメータとして排気ガス温度を推定するものである。つまり、上記ステップST2において算出された燃料噴射量Qvと、上記ステップST1において検出されたエンジン回転数NEとを上記マップに当て嵌めることにより、排気ガス温度が推定される(排気ガス温度認識手段による排気ガス温度の推定動作)。
【0060】
このようにして排気ガス温度を推定した後、ステップST4に移り、推定した排気ガス温度は120℃を超えているか否かを判定する。この判定は、排気ガス温度が、この排気ガス中に含まれているギ酸を分解可能な温度に達しているか否かを判定するものである。例えばエンジン負荷が高いことで排気ガス温度が120℃を超えており、排気ガス温度が十分に高い場合には、排気ガス中に含まれているギ酸は分解され(HCOOH→H2+CO2)、燃料添加弁5の周辺にはギ酸は存在していないと推定することができる。一方、エンジン負荷が低いことで排気ガス温度が120℃未満であり、排気ガス温度が比較的低い場合には、排気ガス中に含まれているギ酸は分解され難く、燃料添加弁5の周辺に向けてギ酸が流れ込む可能性があると推定することができる。
【0061】
そして、排気ガス温度が120℃以下であってステップST4でNO判定された場合にはステップST5に移り、上記ヒータ制御装置62によってヒータ制御用電源61を作動させる。つまり、ヒータからの発熱によるヒータ付き酸化触媒6の加熱動作を実行する。これにより、ヒータ付き酸化触媒6を通過する排気ガスは、ヒータからの熱を受け、温度上昇することになる。そして、この排気ガスが120℃にまで上昇すると、排気ガス中に含まれているギ酸が分解されることになり、燃料添加弁5の周辺にギ酸が流れ込むことがなくなる。
【0062】
このようにしてヒータ付き酸化触媒6の加熱動作が実行されると、ステップST6において、上記RAM103に予め設けられたヒータ作動フラグが「1」にセットされてリターンされる。このヒータ作動フラグは、上記ヒータ付き酸化触媒6の加熱動作が実行されている場合に「1」にセットされ、この加熱動作が停止されることで「0」にリセットされるフラグである。
【0063】
上述したヒータ付き酸化触媒6の加熱動作は、排気ガス温度が120℃を超えるまで、つまり、ギ酸の分解が十分に行われる温度に達するまで継続される。
【0064】
排気ガス温度が120℃を超えて、ステップST4でYES判定されると、ステップST7に移り、上記ヒータ作動フラグが「1」にセットされているか否かを判定する。ヒータ付き酸化触媒6の加熱動作の実行中であり、ヒータ作動フラグが「1」にセットされている場合には、ステップST7でYES判定され、ヒータ付き酸化触媒6の加熱動作を停止し、ステップST9でヒータ作動フラグを「0」にリセットする。
【0065】
一方、既にヒータ付き酸化触媒6の加熱動作が停止されており、ヒータ作動フラグが「0」にリセットされている場合には、ステップST7でNO判定され、そのままリターンされる。この場合、再び排気ガス温度が120℃以下となってステップST4でNO判定されるまで、ヒータ付き酸化触媒6の加熱動作の停止状態が維持されることになる。つまり、排気ガス温度が120℃以下になると、再びヒータ制御用電源61を作動させて、ヒータ付き酸化触媒6の加熱動作を実行する。このような動作を繰り返すことにより、継続的にギ酸の分解が可能になる。
【0066】
以上説明したように、本実施形態では、排気ガス温度が所定値(本実施形態の場合は120℃)以下である場合には、排気ガス温度が比較的低く、排気ガス中に含まれているギ酸は分解され難く、燃料添加弁5の周辺に向けてギ酸が流れ込む可能性があると推定して、ヒータ付き酸化触媒6の加熱動作を実行し、排気ガス中に含まれているギ酸を分解する。これにより、燃料添加弁5の周辺にギ酸が流れ込むことがなくなり、このギ酸の存在に起因するデポジットの生成が防止されることになって、燃料添加弁5の燃料添加動作の信頼性を長期間に亘って維持することが可能になる。また、排気ガス温度が所定値を超えている場合には、排気ガス温度が比較的高く、排気ガス中に含まれているギ酸は分解され、燃料添加弁5の周辺に向けてギ酸が流れ込む可能性は少ないと推定して、ヒータ付き酸化触媒6の加熱動作を非実行とする。これにより、無駄な加熱動作を回避することができる。
【0067】
−他の実施形態−
上記実施形態では、排気浄化ユニットをDPF7とした場合について説明したが、上述した如く、この排気浄化ユニットをNOx吸蔵還元触媒とすることもできる。このNOx吸蔵還元触媒におけるNOx還元動作としては、エンジン運転状態などに基づいて推定されるNOx吸蔵量が所定の限界値に達したときに、上記燃料添加弁5からの燃料添加を実施してNOx吸蔵還元触媒の上流側から燃料を添加することにより、排気ガスの空燃比(A/F)を制御する。これにより、NOx吸蔵還元触媒の周囲雰囲気を高温化や還元雰囲気にすることで、吸蔵されたNOxを還元して放出する。尚、上記NOx吸蔵量の推定手法としては、エンジン回転数とインジェクタ2からの燃料噴射量とに応じたNOx吸蔵量を予め実験等により求めてマップ化しておき、このマップにより求められるNOx吸蔵量を積算するという方法が挙げられる。
【産業上の利用可能性】
【0068】
本発明は、自動車に搭載されるコモンレール式筒内直噴型多気筒ディーゼルエンジンにおいて、排気系に備えられた燃料添加弁の周囲でのデポジットの堆積を抑制する制御に適用可能である。
【符号の説明】
【0069】
1 エンジン(内燃機関)
3 排気管(排気経路)
5 燃料添加弁(添加弁)
6 ヒータ付き酸化触媒
61 ヒータ制御用電源
62 ヒータ制御装置(ヒータ制御手段)
7 DPF(排気浄化ユニット)
31 エンジン回転数センサ
37 排気温センサ(排気ガス温度認識手段)
3A アクセル開度センサ
100 ECU

【特許請求の範囲】
【請求項1】
排気系に設けられ、排気成分の吸蔵または捕集により排気の浄化を行なう排気浄化ユニットと、この排気浄化ユニットに吸蔵または捕集された排気成分の除去動作の開始条件が成立した際、この排気浄化ユニットよりも上流側の排気経路に添加剤を供給する添加弁とを備えた内燃機関の排気浄化装置において、
上記排気経路における上記添加弁の上流側に配設されたヒータ付き酸化触媒と、
上記排気経路を流れる排気ガスの温度を検出または推定する排気ガス温度認識手段と、
上記排気ガス温度認識手段によって検出または推定された排気ガスの温度に応じて上記ヒータ付き酸化触媒における加熱動作を制御するヒータ制御手段とを備えていることを特徴とする内燃機関の排気浄化装置。
【請求項2】
請求項1記載の内燃機関の排気浄化装置において、
上記ヒータ制御手段は、上記排気経路を流れる排気ガスの温度がギ酸の分解が可能な所定値を超えている場合には上記ヒータ付き酸化触媒における加熱動作を非実行とし、この排気ガスの温度が上記所定値以下である場合に上記ヒータ付き酸化触媒における加熱動作を実行するよう構成されていることを特徴とする内燃機関の排気浄化装置。
【請求項3】
請求項1または2記載の内燃機関の排気浄化装置において、
上記排気ガス温度認識手段は、上記排気経路に取り付けられた排気温センサ、または、内燃機関回転数及び内燃機関負荷から排気ガス温度を推定する構成とされていることを特徴とする内燃機関の排気浄化装置。
【請求項4】
請求項1、2または3記載の内燃機関の排気浄化装置において、
上記ヒータ付き酸化触媒は、ギ酸分解触媒、または、電気ヒータが取り付けられたパンチングメタルにより構成されていることを特徴とする内燃機関の排気浄化装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2011−241783(P2011−241783A)
【公開日】平成23年12月1日(2011.12.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−116219(P2010−116219)
【出願日】平成22年5月20日(2010.5.20)
【出願人】(000004695)株式会社日本自動車部品総合研究所 (1,981)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】