説明

内燃機関の燃料供給制御装置

【課題】燃料増量制御後に燃料カットを実施した際に、排気浄化触媒の還元剤及び排気中の酸素が反応することにより触媒温度が上昇した場合であっても、触媒温度が過熱温度を超えることがないから、排気浄化触媒の過熱による熱劣化を抑制する。
【解決手段】電気制御装置のCPUは、燃料カット条件が成立した場合、触媒温度センサにより検出された触媒温度Tcが、燃料カット禁止判定ルーチンにおいて算出された閾値温度Tcat1以上であれば、燃料カットを禁止する。一方、CPUは、燃料カット条件が成立した場合、触媒温度が閾値温度より低ければ、燃料カットを実施する。閾値温度は、機関が減速状態へと移行した時点の直前の燃料増量制御において使用された燃料増量率Kotp(排気浄化触媒に供給された還元剤の量)に基づいて決定される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、内燃機関の燃料供給制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、高負荷領域での出力増加等の目的で「通常時の燃料噴射量よりも燃料噴射量を増量して運転する」燃料増量運転を実施する内燃機関が知られている。更に、特許文献1に開示されているように、上記燃料増量運転が終了された後に車両が減速状態になった際、排気通路に配置された排気浄化触媒からの「硫化水素(H2S)の発生に起因する」触媒排気臭の発生を抑制するために、燃料の供給を停止する燃料カットを実施する内燃機関の燃料供給制御装置が公知である。
【0003】
上記した特許文献1に記載の装置は、上記燃料増量運転が終了された後に車両が減速状態になった際、硫化水素の発生を抑制するために、一定期間上記燃料カットを実施する。しかしながら、上述したように、燃料増量運転は高負荷領域での出力増加等の目的で実施されることから、燃料増量運転が終了された時点では、排気浄化触媒の温度が高温になっている。そして、その後、燃料カットが実施されると、上記排気浄化触媒に過剰な酸素を含んだ排気が流入し、排気浄化触媒に保持されている還元剤と反応することになる。このため、燃料増量運転が終了された後に燃料カットが実施されると、排気浄化触媒が過熱により劣化する虞がある。そこで、特許文献1に記載の内燃機関の制御装置では、燃料増量運転が終了された後に車両が減速状態になった際、上記排気浄化触媒が過熱により劣化することを抑制する劣化抑制制御として、燃料カットを禁止する燃料カット禁止制御の実施の要否を判定している。
【0004】
ここで、上記劣化抑制制御(燃料カット禁止制御)の実施の要否は、車両が減速状態になった際、燃料カットが実施される条件が満たされたときに、上記排気浄化触媒の温度(以下、単に触媒温度と称呼する。)に基づいて判定される。詳細には、上記燃料カットが実施される条件が満たされた時点での触媒温度が予め定められた基準温度を超えていない場合に、同燃料カットが実施されるようになっている。
【0005】
しかしながら、燃料カット実施期間において、触媒温度は、排気浄化触媒に保持されている還元剤と排気中の酸素とが反応する際の反応熱により、上昇する。従って、燃料カット実施開始当初において、触媒温度が上記基準温度を超えていなかった場合であっても、燃料カット開始からの時間の経過とともに、触媒温度が上記基準温度を超えてしまう虞があった。そして、この基準温度は、排気浄化触媒の過熱による劣化を招く虞のない上限の温度(過熱温度)に設定されている。従って、燃料カット中に触媒温度が上記過熱温度を超えてしまう場合があり、排気浄化触媒が過熱により劣化する虞があった。一方、上記基準温度を低めの温度に設定すると、触媒の劣化を招く可能性は低減するが、燃料カットが実施される機会が減少するため、機関を搭載した車両の減速感が不足する機会が増大する、或いは、燃料消費量が多くなるという問題がある。
【0006】
本発明は、上記した問題点を鑑みてなされたものであり、その目的の一つは、内燃機関の運転状態が所定の燃料カット条件を満足する減速状態になった場合に、燃料カットを「排気浄化触媒の過熱による劣化を招かない範囲」にて適切に実施することが可能な内燃機関の燃料供給制御装置を提供することである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2005−163747号公報
【発明の概要】
【0008】
本発明に係る内燃機関の制御装置は、
内燃機関の排気通路に配置されるとともに酸化能力を有する排気浄化触媒と、
前記機関に供給される混合気の空燃比が理論空燃比よりもリッチな空燃比であるリッチ空燃比となるように同機関に燃料を供給する燃料増量制御、及び、前記機関に供給される混合気の空燃比が前記リッチ空燃比以外の空燃比となるように同機関に燃料を供給する通常空燃比制御、の何れかの制御を(同機関の運転状態に応じて選択的に)実行する燃料供給手段と、
前記機関の運転状態が所定の燃料カット条件を満足する減速状態にある場合に前記機関への燃料の供給を停止する燃料カット手段と、
を備えた内燃機関の燃料供給制御装置であって、
前記機関の運転状態が前記燃料カット条件を満足する減速状態となった場合、前記排気浄化触媒の温度が前記燃料供給手段による前記燃料増量制御中に同排気浄化触媒に供給された還元剤の量に基づいて定められる閾値温度以上であるとき前記燃料カット手段の動作を禁止する燃料カット禁止手段、
を備えたことを特徴とする。
【0009】
本発明に係る内燃機関の燃料供給制御装置によれば、機関の運転状態が燃料カット条件を満足する減速状態になった場合、上記排気浄化触媒の温度が、「それ以前に実行された燃料増量制御中に同排気浄化触媒に供給された還元剤(HC等の未燃燃料)の量」に基づいて定められる閾値温度以上であるとき、燃料カット手段による燃料カットの実施が禁止される。
【0010】
燃料カットが実施された際の触媒温度の上昇量は、燃料カットが実施される際に触媒に残存している還元剤の量(従って、燃料増量制御中に触媒に供給された還元剤の量)に依存して変化する。従って、上記構成によれば、燃料カットが実施されることにより触媒温度が「触媒の過熱による劣化を招く虞のある温度(過熱温度)」に到達することがないように、燃料カットを実施するか否かを決める「閾値温度」が適切に決定され得る。
【0011】
この結果、本装置によれば、燃料カットが実施されている最中に、触媒温度が過熱温度を超えることを防止することができるため、排気浄化触媒が過熱により劣化することを抑制することができる。
【0012】
前記燃料カット禁止手段は、
前記閾値温度を、前記燃料供給手段による前記燃料増量制御中に前記排気浄化触媒に供給された還元剤の量が多いほど低く設定するように構成されていてもよい。
【0013】
燃料カットが実施された際の触媒温度の上昇量は、燃料カットが実施される際に触媒に残存している還元剤の量(従って、燃料増量制御中に触媒に供給された酸化成分を還元するのに必要な量に対して過剰な還元剤の量)が多いほど大きくなる。それ故、上記還元剤の量が多いほど燃料カットを実施するか否かを決める「閾値温度」を低くすることにより、燃料カットの実施中に触媒温度が上記過熱温度を超えないようにすることができる。
【0014】
更に、
前記燃料カット禁止手段は、
前記閾値温度を、前記燃料供給手段による前記燃料増量制御が終了された直後から前記燃料カット条件を満足する減速状態になるまでの期間が長いほど高く設定するように構成されていてもよい。
【0015】
上記機関の燃料増量制御が実行されてから所定期間が経過したときに同機関の運転状態が上記減速状態となる場合、その所定期間においては上記通常空燃比制御(例えば、機関に供給される混合気の空燃比の平均が、理論空燃比等の上記リッチ空燃比以外の空燃比となる運転)が実行される。上記通常空燃比制御が実施された場合、酸素を含んだ排気が排気浄化触媒に流入することから、燃料増量制御中に排気浄化触媒に供給されて保持されている還元剤は、同排気浄化触媒に流入する排気中の酸素との反応(燃焼)により消費される。従って、上記燃料増量制御が実施された後から上記減速状態になるまでの期間(即ち、上記通常空燃比制御が実施される期間)が長いほど、排気浄化触媒に保持されている還元剤の量は少なくなるから、その後、燃料カットが実施されたとしても排気浄化触媒の温度上昇量は少ない。それ故、上記構成のように前記閾値温度を設定すれば、排気浄化触媒の劣化を招くことなく燃料カットを実施する機会を増大することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】本発明の各実施形態に係る内燃機関の燃料供給制御装置の概略構成図である。
【図2】本発明の各実施形態における、図1に示した電気制御装置のCPUが実行する燃料噴射制御ルーチンを示したフローチャートである。
【図3】本発明の各実施形態における、図1に示した電気制御装置のCPUが実行する燃料増量率算出ルーチンを示したフローチャートである。
【図4】本発明の各実施形態における、図1に示した電気制御装置のCPUが実行する燃料カット条件判定ルーチンを示したフローチャートである。
【図5】本発明の各実施形態における、図1に示した電気制御装置のCPUが実行する燃料カット禁止判定ルーチンを示したフローチャートである。
【図6】本発明の本発明の第2実施形態の作動を説明するためのタイムチャートである。
【図7】本発明の第2実施形態における、図1に示した電気制御装置のCPUが実行する燃料カット禁止判定ルーチンの一部を示したフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明に係る各実施形態について図面を参照しながら説明する。
【0018】
(第1実施形態)
図1は本発明の実施形態に係る内燃機関の燃料供給制御装置の構成を示す図である。内燃機関10はガソリンを燃料とする4気筒の火花点火式内燃機関である。機関10は、図示しない車両の駆動源としてその車両に搭載されている。機関10は、吸気系統20、機関本体部30、排気系統40及び制御系統50から構成されている。
【0019】
吸気系統20は、吸気管21と、吸気管21に接続されたインテークマニフォールド22と、を備えている。吸気管21には、機関10に供給される空気の流れの上流側から下流側に向う順に、エアクリーナ23及びスロットル弁24が配設されている。スロットル弁アクチュエータ24aは後述する電気制御装置51からの指示信号に応答して、スロットル弁24の開度を変更するようになっている。
【0020】
機関本体部30は、インテークマニフォールド22に接続された吸気ポート、吸気ポートを開閉する吸気バルブ、排気ポート及び排気ポートを開閉する排気バルブ(何れも図示省略)と、燃料噴射弁31と、を備えている。機関本体部30には、シリンダヘッド下面、シリンダ壁面及びピストンの上面等によって燃焼室32が形成されている。燃料噴射弁31は後述する電気制御装置51からの指示信号(燃料噴射信号)に応答して開弁し、吸気ポートを通じて燃焼室32内に燃料を噴射供給するようになっている。
【0021】
排気系統40は、図示しない排気ポートに接続されたエキゾーストマニフォールド41と、エキゾーストマニフォールド41に接続された排気管42と、を備えている。排気管42には排気浄化触媒43が配設されている。
【0022】
排気浄化触媒43は周知の酸素吸蔵機能を有する三元触媒である。即ち、排気浄化触媒43は、酸素及び還元剤(例えば、炭化水素HC)を吸蔵して保持することができ、酸化能力及び還元能力を有する。排気浄化触媒43は、排気中に一酸化炭素COや炭化水素HC等の未燃成分が存在する場合、吸蔵している酸素を用いてその未燃成分を酸化して浄化する。一方、排気浄化触媒43は、排気中にNOx等の酸化成分が存在する場合は、保持された還元剤を用いてその酸化成分を還元することにより浄化する。なお、排気浄化触媒43は、還元剤を吸蔵して保持できる酸化触媒であってもよい。また、排気管42には、排気浄化触媒43の下流側に下流側触媒が設けられていてもよい。
【0023】
制御系統50は、CPU、ROM、RAM及びバックアップRAM等を含むマイクロコンピュータを主体とする電気制御装置51を備え、内燃機関10の運転に係る様々な制御を行うようになっている。
【0024】
電気制御装置51は、エアフローセンサ52、スロットル弁開度センサ53、機関回転速度センサ54、空燃比センサ55、触媒温度センサ56、酸素濃度センサ57及びアクセル開度センサ58等の各種センサに接続され、それらのセンサにより検出された取得値を入力するようになっている。
【0025】
エアフローセンサ52は、吸気管21を通して燃焼室32に吸入される空気の量、即ち、吸入空気量Gaを検出する。
スロットル弁開度センサ53は、スロットル弁24の開度TAを検出する。
機関回転速度センサ54は、機関10の回転速度NEを検出する。
空燃比センサ55は、排気浄化触媒43に流入する排気の空燃比AFを検出する。
触媒温度センサ56は、排気浄化触媒43の触媒温度Tcを検出する。
酸素濃度センサ57は、排気浄化触媒43から流出する排気中に酸素が含まれているとき低電圧VLを出力し、その排気中に酸素が含まれていないとき高電圧VHを出力する。
アクセル開度センサ58は、アクセルペダルAPの開度ACを検出する。
【0026】
電気制御装置51は、各種センサの検出値を入力することにより、機関10の運転状態に応じた制御を行う。例えば、電気制御装置51は、アクセル開度センサ58によって検出されたアクセルペダルAPの開度ACが大きくなるほどスロットル弁24の開度が大きくなるように、スロットル弁アクチュエータ24aに指示信号を出力する。
【0027】
次に、上記のように構成された内燃機関の燃料供給制御装置の作動について説明する。
【0028】
第1実施形態の電気制御装置51が有するCPU(以下、単に「CPU」と称呼する。)は、図2に示した燃料噴射制御ルーチンを、内燃機関が運転されている間、任意の気筒のクランク角が吸気上死点前の所定クランク角度(例えば、吸気上死点前90度クランク角)に一致する毎に繰り返し実行するようになっている。このクランク角が吸気上死点前の所定クランク角度に一致した気筒は、以下「燃料噴射気筒」とも称呼される。
【0029】
CPUは、この燃料噴射制御ルーチンの実行をステップS200から開始してステップS210へと進み、その時点でのエアフローセンサ52から入力された吸入空気量Ga及び機関回転速度センサ54から入力された機関回転速度NEに基づいて、筒内吸入空気量Mcを算出する。筒内吸入空気量Mcは、燃料噴射気筒に吸入される空気量である。
【0030】
次に、CPUはステップS220へと進み、筒内吸入空気量Mcを理論空燃比(例えば、14.7)にて除すことにより、1サイクルあたりに1つの気筒に噴射する基本燃料噴射量Fbを算出する。
【0031】
基本燃料噴射量Fbが算出された後、CPUはステップS230へと進み、基本燃料噴射量Fbに対して、燃料増量率Kotp及びフィードバック補正係数KAFを乗じることにより補正後燃料噴射量Fiを算出する。なお、燃料増量率Kotpは、後述するルーチンにより別途算出されている。また、フィードバック補正係数KAFは、燃料増量率Kotpが1.0であり且つ後述する燃料カットフラグXFCの値が「0」であるとき、機関10に供給される混合気の空燃比の平均が理論空燃比に一致するように、空燃比センサ55及び酸素濃度センサ57からの信号に基づいて周知の手法に従って算出される。更に、フィードバック補正係数KAFは、燃料増量率Kotpが1.0以外の値であるとき、1.0に設定される。
【0032】
次に、CPUはステップS240へと進み、燃料カットフラグXFCの値が「1」であるか否かを判定する。燃料カットフラグXFCは燃料の噴射を停止させる(燃料カットを実行する)か否かを表すフラグである。即ち、燃料カットフラグXFCの値が「1」に設定されているときは、燃料の噴射が停止させられる。一方、燃料カットフラグXFCの値が「0」に設定されているときは、燃料の噴射が実行させられる。燃料カットフラグXFCの値は後述するルーチンにより設定される。なお、燃料カットフラグXFCの値は図示しないイグニッション・キーをオフからオンに変更したときに実行されるイニシャルルーチンにおいて、「0」に設定されるようになっている。
【0033】
CPUは、燃料カットフラグXFCの値が「1」であるとき、ステップS240からステップS250へと進み、補正後燃料噴射量Fiを0にセットし、その後ステップS260へと進む。一方、CPUは、燃料カットフラグXFCの値が「0」であるとき、ステップS240からステップS260へと直接進む。CPUは、ステップS260において、現在算出されている補正後燃料噴射量Fiの燃料が燃料噴射気筒に噴射されるように、その燃料噴射気筒の燃料噴射弁31に指示信号を送出する。
【0034】
以上により、燃料カットフラグXFCが「0」であるときにはステップS230にて求められた補正後燃料噴射量Fiの燃料が機関10に供給され、燃料カットフラグXFCが「1」であるときには燃料の供給が停止される。即ち、燃料カットが実行される。
【0035】
次に、上述した燃料噴射制御ルーチンのステップS230において使用される燃料増量率Kotpを算出する燃料増量率算出ルーチンについて図3を参照しながら説明する。CPUは、所定時間毎に本ルーチンを実行する。なお、燃料増量率Kotpは、前述したイニシャルルーチンにより1.0に設定されるようになっている。
【0036】
以下、現時点が機関10の始動直後であると仮定して説明を開始する。
【0037】
CPUは、所定のタイミングになると、この燃料増量率Kotp算出ルーチンの実行をステップS300から開始してステップS310へと進み、現時点での燃料増量率Kotpの値が1.0であるか否かを判定する。前記仮定によれば、現時点は機関10の始動直後であるので、燃料増量率Kotpの値はイニシャルルーチンにより1.0に設定されている。従って、CPUはステップS310にて「Yes」と判定してステップS320へと進む。
【0038】
CPUはステップS320において、触媒温度センサ56により検出されている排気浄化触媒43の触媒温度Tcが基準触媒温度T0th以上であるかを判定する。この基準触媒温度T0thは、触媒温度Tcが基準触媒温度T0th以上であるとき、燃料増量制御を行うことにより触媒温度を下げる必要がある温度に設定されている。即ち、CPUはステップS320にて、触媒過熱を回避するための燃料増量制御を行う必要があるか否かを判定する。
【0039】
前記仮定によれば、現時点は機関10の始動直後であるので、触媒温度Tcは基準触媒温度T0thに達していないため、CPUはステップS320にて「No」と判定してステップS330へと進み、燃料増量率Kotpの値を1.0に設定(維持)した後、本ルーチンを一旦終了する。この結果、図2のステップS230にて算出される補正後燃料噴射量Fiは、機関に供給される混合気の空燃比を理論空燃比に維持する値に設定され、所謂「通常空燃比制御」が実行される。
【0040】
次に、機関10が運転を開始した後に高負荷運転を継続した結果、排気浄化触媒43が機関本体部30から排出される高温の排気に曝されることにより、触媒温度Tcが基準触媒温度T0th以上となったと仮定して説明する。
【0041】
この場合、CPUは、図3に示したルーチンをステップS300から開始してステップS310へと進んだとき、そのステップS310にて「Yes」と判定してステップS320に進み、そのステップS320にて「Yes」と判定してステップS340へと進む。
【0042】
CPUは、ステップS340において、そのブロック内に示すように、触媒温度Tcと基準触媒温度T0thの偏差(Tc−T0th)に基づいて燃料増量率Kotpの値を算出して設定する。燃料増量率Kotpの値は、上記偏差(Tc−T0th)が大きくなるほど、1.0以上の範囲において次第に増大するように決定される。即ち、上記偏差(Tc−T0th)が「0」でない場合、燃料増量率Kotp>1.0であるように設定される。このように、燃料増量率Kotpが1.0よりも大きい値に設定されると、図2のステップS230にて算出される補正後燃料噴射量Fiは、機関に供給される混合気の空燃比を理論空燃比よりもリッチ側の空燃比(リッチ空燃比)に制御する値となる。即ち、燃料増量制御が実行される。その後、CPUは、本ルーチンを一旦終了する。なお、CPUは、燃料増量率Kotpを1.0よりも大きい所定値に設定すると、次に、燃料増量率Kotpを1.0よりも大きい別の所定値に設定するまで、その値をRAMに保持(記憶)するようになっている。
【0043】
この時点以降において、CPUが再び本ルーチンをステップS300から開始すると、CPUはステップS310へと進む。このとき、現在の燃料増量率Kotpの値は1.0よりも大きいので、CPUはステップS310にて「No」と判定してステップS350へと進む。
【0044】
CPUは、ステップS350において、燃料増量制御開始後から一定時間(燃料増量制御実行時間)が経過したか否かを判定する。今、機関10は燃料増量制御を開始した直後であるから、燃料増量制御開始後から一定時間は経過していないため、CPUはこのステップS350にて「No」と判定して、現在設定されている燃料増量率Kotpの値を維持したまま本ルーチンを一旦終了する。従って、CPUは、燃料増量制御開始後から一定時間が経過するまでは、現在設定されている燃料増量率Kotpの値を用いて燃料増量制御を実行する。
【0045】
燃料増量制御開始後から一定時間が経過した直後に、CPUが本ルーチンを実行すると、CPUはステップS310に続くステップS350において「Yes」と判定し、ステップS330へと進んで燃料増量率Kotpの値を1.0に設定した後、本ルーチンを終了する。これに伴い、燃料増量制御の実行が中止される。
【0046】
以上に説明したように、触媒温度Tcが基準触媒温度T0thよりも大きくなると、一定時間だけ燃料増量率Kotpが1.0よりも大きい値に設定され、燃料増量制御が実行される。
【0047】
次に、上述した図2の燃料噴射制御ルーチンのステップS240にて参照される燃料カットフラグXFCの値を設定する各ルーチンについて説明する。燃料カットフラグXFCの値は、CPUが図4に示された燃料カット条件判定ルーチン及び図5に示された燃料カット禁止判定ルーチンを実行することにより設定される。燃料カット条件判定ルーチン及び燃料カット禁止判定ルーチンは連続して実行されるものであり、所定時間毎に、燃料カット条件判定ルーチン、燃料カット禁止判定ルーチンの順番で実行される。
【0048】
以下、これらのルーチンによるCPUの作動について、先ず、現時点が機関10の始動直後であると仮定して説明する。なお、燃料カットフラグXFCの値及び後述する燃料カット準備フラグXFCKの値は、前述したイニシャルルーチンにより「0」に設定されるようになっている。
【0049】
CPUは、所定のタイミングにて「燃料カット条件判定ルーチン」をステップS400から開始すると、ステップS410へと進み、燃料カットフラグXFCの値が「0」であるか否かを判定する。前記仮定によれば、現時点は機関10の始動直後であるので、燃料カットフラグXFCの値は「0」に設定されている。従って、CPUはステップS410にて「Yes」と判定してステップS420へと進む。
【0050】
CPUは、ステップS420において、機関回転速度センサ54により検出された機関10の回転速度NEが所定の回転速度(燃料カット開始回転速度)αを超えており、且つ、スロットル弁開度センサ53により検出されたスロットル弁開度TAが所定のスロットル弁開度β(例えば、「0」、即ち、スロットル弁全閉開度)以下であるか否かを判定する。換言すると、CPUは、ステップS420にて、機関10の運転状態が燃料カット条件を満足する減速状態となったか否かを判定する。前記仮定によれば、現時点は機関10の始動直後であるので、回転速度NEは所定の回転数αを超えるほどに高くなっていないため、CPUはステップS420にて「No」と判定して本ルーチンを一旦終了する。
【0051】
CPUは、燃料カット条件判定ルーチンに続いて、図5の燃料カット禁止判定ルーチンを実行する。CPUは、この燃料カット禁止判定ルーチンの実行をステップS500から開始してステップS510へと進み、燃料カット準備フラグXFCKの値が「1」であるか否かを判定する。前記仮定によれば、燃料カット準備フラグXFCKの値はイニシャルルーチンにより「0」に設定されたままであるので、CPUは、ステップS510にて「No」と判定して本ルーチンを一旦終了する。以上の処理は、図4のステップS420の判定が「Yes」と判定されるまで繰り返し実行される。
【0052】
次に、機関10が継続して運転されることにより、触媒温度Tcが基準触媒温度T0th以上となって燃料増量率Kotpが1.0よりも大きい値に設定され(即ち、燃料増量制御が実行され)、その後、機関回転速度NEが所定の回転速度αを超えた状態において、スロットル弁開度TAが所定のスロットル弁開度β以下に変更されたと仮定する。
【0053】
この場合、CPUは、燃料カット条件判定ルーチンの実行をステップS400から開始すると、ステップS410にて「Yes」と判定してステップS420へと進む。
【0054】
前記仮定によれば、機関回転速度NEは所定の回転速度αを超えた状態であり、且つ、スロットル弁開度TAは所定のスロットル弁開度β以下である。従って、CPUはステップS420にて「Yes」と判定してステップS430へと進み、燃料カット準備フラグXFCKの値を「1」に設定した後、本ルーチンを一旦終了する。なお、燃料カット準備フラグXFCKは、その値が「1」であるとき燃料カットを実施するための初期判定条件(燃料カット開始条件)が成立していることを表し、その値が「0」であるとき初期判定条件が成立していないことを表す。
【0055】
次いで、CPUは、図5の燃料カット禁止判定ルーチンをステップS500から開始すると、ステップS510にて燃料カット準備フラグXFCKの値が「1」であるので、そのステップS510にて「Yes」と判定してステップS520へと進む。
【0056】
CPUは、ステップS520にて、「直前の燃料増量率Kotp」の値を取得する。「直前の燃料増量率Kotpとは、現時点から最も近いタイミングにて実行された燃料増量制御中の燃料増量率Kotpのことである。前述したように、この値はRAMに保持されている。なお、現時点から最も近いタイミングにて実行された燃料増量制御を、以下、「前回の燃料増量制御」とも称呼する。
【0057】
次に、CPUは、ステップS530に進み、機関10が前回の燃料増量制御を終了した時点からの経過時間(増量終了後経過時間)taを取得した後、ステップS540へと進む。
【0058】
CPUは、ステップS540にて、触媒温度センサ56により検出される触媒温度Tcを取得した後、ステップS550へと進む。
【0059】
CPUは、ステップS550にて、基準閾値温度Tcat1sを算出する。基準閾値温度Tcat1sは、電気制御装置51のROMに予め保持された「基準閾値温度Tcat1sと燃料増量率Kotpとの関係」を表すマップ(図5のステップS550に隣接したブロック内に示されたグラフを参照。)に、ステップS520にて取得された燃料増量率Kotpを適用することにより算出される。このマップによれば、燃料増量率Kotpが大きいほど基準閾値温度Tcat1sが小さくなるように求められる。なお、上記グラフ中の値Aは、燃料増量率Kotpが1.0のときにおける閾値温度である。換言すると、値Aは、燃料増量制御が今回の機関10の始動後において一度も実行されていない場合、又は、前回の燃料増量制御から充分に長い時間に亘って通常空燃比制御が実行された場合、における閾値温度である。
【0060】
次に、CPUはステップS560に進み、ステップS530にて取得された経過時間ta及びステップS550にて取得された基準閾値温度Tcat1sを下記の(1)式に代入することにより、閾値温度Tcat1を算出する。この(1)式において「tb」は、予め実験等により求められて定められた燃料増量制御終了直後からの一定時間を表す値であって、燃料増量制御により排気浄化触媒43に供給された還元剤が燃料増量制御後の通常空燃比制御によって全て消費されるまでの時間である。なお、上記時間taは、時間tbを超えることがないように制限される。
【数1】

【0061】
この(1)式によれば、増量終了後経過時間taが長くなるにつれて(時間tbに近づくにつれて)、閾値温度Tcat1は「ステップS550にて求められた基準閾値温度Tcat1s」から値Aに次第に近づく(徐々に増大する)。
【0062】
CPUはステップS560にて、閾値温度Tcat1を算出した後、ステップS570へと進み、ステップS540にて取得された触媒温度Tcが上記算出した閾値温度Tcat1より小さいか否かを判定する。
【0063】
ここで触媒温度Tcが閾値温度Tcat1より低い場合、燃料カットを実行しても触媒温度が過度に高い温度にならない(触媒が劣化しない)と判断することができる。そこで、触媒温度Tcが閾値温度Tcat1より低い場合、CPUはステップS560にて「Yes」と判定してステップS580へと進み、燃料カットフラグXFCの値を「1」に設定する。その後、CPUは、ステップS590へと進み、燃料カット準備フラグXFCKを「0」に設定した後、本ルーチンを一旦終了する。この結果、CPUは燃料カットを実施する(図2のステップS240及びステップS250を参照。)。
【0064】
一方、ステップS570の判定時点において、触媒温度Tcが閾値温度Tcat1以上であった場合、CPUはそのステップS560にて「No」と判定してステップS590へと直接進み、燃料カット準備フラグXFCKを「0」に設定した後、本ルーチンを一旦終了する。この結果、機関10の運転状態が燃料カット条件を含む減速状態となって燃料カット準備フラグXFCKの値が「1」に設定された場合であっても、燃料カットフラグXFCの値は「1」へと変更されない。即ち、燃料カットの実行が禁止される。
【0065】
ところで、図5のステップS580にて燃料カットフラグXFCが「1」に設定された場合、この時点以降にCPUが再び図4の燃料カット条件判定ルーチンをステップS400から開始すると、CPUはステップS410にて「No」と判定してステップS440へと進む。
【0066】
CPUは、ステップS440にて、機関回転速度センサ54により検出された回転速度NEが復帰回転速度(α―α1)以下になったか、又は、スロットル弁開度センサ53により検出されたスロットル弁開度TAが所定のスロットル弁開度βを超えたか否かを判定する。即ち、CPUはステップS440にて、燃料カット終了条件が成立したか否かを判定する。
【0067】
CPUは、このステップS440にて「No」と判定した場合、そのまま本ルーチンを終了する。この場合、燃料カットフラグXFCの値は「1」に維持され、燃料カット制御が継続する。
【0068】
燃料カットフラグXFCが「1」に設定されている間(燃料カット制御が実行されている間)、CPUはステップS430に進むことはない。従って、燃料カット準備フラグXFCKは「0」に設定されたままである。そのため、CPUが、図5の燃料カット禁止判定ルーチンを実行するとき、CPUはステップS510にて「No」と判定して直ちにそのルーチンを終了する。
【0069】
一方、CPUが、図4のステップS440にて「Yes」と判定した場合、CPUはステップS450へと進み、燃料カットフラグXFCの値を「0」に設定した後、本ルーチンを終了する。従って、この場合、燃料カット制御が終了する。また、これにより、CPUは図4のステップS410からステップS420へと進むようになるので、再びそのステップS420にて燃料カット開始条件が成立しているか否かを監視するようになる。
【0070】
なお、図5のステップS570にて「No」と判定された場合、燃料カットフラグXFCの値は「0」に維持されるとともに、燃料カット準備フラグXFCKの値は「0」に設定される。これにより、CPUは図4のステップS410及びステップS420の処理を実行する。従って、燃料カット開始条件が成立し続けていると、燃料カットフラグの値はステップS410にて再び「1」に設定されるので図5のステップS510からステップS570の処理が実行される。
【0071】
このように、CPUは、上述した燃料噴射制御ルーチンにおいて、上述した燃料増量率算出ルーチン、燃料カット条件判定ルーチン及び燃料カット禁止判定ルーチンを実行することにより算出された燃料増量率Kotp及び設定された燃料カットフラグXFCの値を使用することにより、燃料噴射制御を実施する。詳細には、CPUは、燃料カットフラグXFCの値が「1」に設定されているときは、燃料カットを実施する一方、燃料カットフラグXFCの値が「0」に設定されているときは、燃料カットを実施せずに、燃料増量率Kotpに設定されている値に応じて、通常空燃比制御又は燃料増量制御を実施する。
【0072】
(第2実施形態)
以下、本発明に係る内燃機関の燃料供給制御装置の第2実施形態について図面を参照しながら説明する。
【0073】
第1実施形態においては、燃料カット開始条件が成立したとき、触媒温度Tcが閾値温度Tcat1よりも高ければ燃料カットの実行を禁止していた。しかしながら、燃料カット開始条件が成立し且つその時点の触媒温度Tcが閾値温度Tcat1よりも高い場合に燃料カットを実行した場合であっても、機関10及び/又は機関10を搭載した車両の運転状態によっては触媒温度が過熱温度に至らない場合もあり得る。
【0074】
より具体的に説明すると、触媒温度Tcは例えば図6のタイムチャートに示したように変化する場合がある。図6に示した例においては、時刻t1以前において燃料増量制御が実行されており、時刻t1にて燃料カット開始条件(上述したステップS420に示した条件)が成立して燃料カットを実行した場合の触媒温度Tcの変化を示している。破線の曲線C1は機関10を搭載した車両の速度(車速)が所定車速以上である場合の触媒温度Tcを示し、実線の曲線C2は車速が所定車速未満である場合の触媒温度Tcを示す。
【0075】
この例においては、時刻t1における触媒温度Tcは閾値温度Tcat1よりも高い。ここで、燃料カットが時刻t1以降において実行された場合、触媒温度Tcは上昇する。しかしながら、曲線C1に示したように、車速が所定車速以上である場合、排気浄化触媒43は走行風によって効率よく冷却されるので、触媒温度Tcは過熱温度に到達しない。これに対し、曲線C2に示したように、車速が所定車速未満である場合、排気浄化触媒43は走行風によって効率よく冷却されないので、触媒温度Tcは過熱温度に到達してしまう。
【0076】
そこで、第2実施形態に係る燃料供給制御装置は、閾値温度Tcat1と、その閾値温度Tcat1よりも高く設定される別の閾値温度Tcat2とを用いて、燃料カットを実行するか否かを決定する。これにより、無駄な燃料カットの禁止が回避される。なお、以下において、閾値温度Tcat1を「第1閾値温度Tcat1」と称呼し、閾値温度Tcat2を「第2閾値温度Tcat2」と称呼する。
【0077】
本発明に係る第2実施形態は、図5に示された第1実施形態における燃料カット禁止判定ルーチンに代え、図5のフローチャートの「A」から「B」で示される間を図7に示された各ステップに置換したルーチンを実行する点のみにおいて、第1実施形態と相違している。従って、以下、CPUは、燃料カット禁止判定ルーチンの実行を開始した後、ステップS560までの処理を完了した時点であるとして説明する。
【0078】
CPUは、ステップS570において、触媒温度センサ56によって検出された触媒温度TcがステップS560にて算出された第1閾値温度Tcat1より低いか否かを判定する。触媒温度Tcが第1閾値温度Tcat1より低い場合、CPUは、ステップS570にて「Yes」と判定してステップS580へと進む。その後、CPUは、ステップS580にて、燃料カットフラグXFCの値を「1」に設定してステップS590へと進み、燃料カット準備フラグの値を「0」に設定した後、本ルーチンを一旦終了する。従って、この場合、燃料カットが実行される。
【0079】
一方、触媒温度Tcが第1閾値温度Tcat1以上であった場合、CPUは、ステップS570にて「No」と判定してステップS710へと進み、第2基準閾値温度Tcat2sを算出する。第2基準閾値温度Tcat2sは、電気制御装置51のROMに予め保持された「基準閾値温度Tcat2sと燃料増量率Kotpとの関係」を表すマップ(図7のステップS710に隣接したブロック内に示されたグラフを参照。)に、図5のステップS520にて取得された燃料増量率Kotpを適用することにより算出される。
【0080】
この第2基準閾値温度Tcat2sは、第1基準閾値温度Tcat1sよりも高い温度である。更に、第2基準閾値温度Tcat2sは、触媒温度Tcが第2基準閾値温度Tcat2s未満であれば、機関10及び/又は車両の運転状態によっては、燃料カットを実行しても触媒温度Tcがその燃料カット中に過熱温度を超えることがない可能性がある温度である。第2基準閾値温度Tcat2sは、燃料増量率Kotpに対して、第1基準閾値温度Tcat1sと同一の傾向を示すように設定される。なお、上記グラフ中の値Bは、燃料増量率Kotpが1.0のときにおける第2閾値温度である。換言すると、値Bは、燃料増量制御が今回の機関10の始動後において一度も実行されていない場合、又は、前回の燃料増量制御から充分に長い時間に亘って通常空燃比制御が実行された場合、における第2閾値温度である。
【0081】
次に、CPUは、ステップS720へと進み、第2閾値温度Tcat2sを上記(1)式と同様の以下の(2)式より算出する。
【数2】

【0082】
次にCPUは、ステップS730へと進み、触媒温度TcがステップS710にて取得された第2閾値温度Tcat2より低いか否かを判定する。触媒温度Tcが第2閾値温度Tcat2以上であった場合、CPUは、ステップS730にて「No」と判定してステップS590へと進み、燃料カット準備フラグXFCKの値を「0」に設定した後、本ルーチンを終了する。よって、この場合、燃料カットは禁止される。一方、触媒温度Tcが第2閾値温度Tcat2より低い場合、CPUは、ステップS730にて「Yes」と判定してステップS740へと進む。
【0083】
CPUは、ステップS740において、図示しない「機関10が搭載された車両の速度を検出する車速センサ」からの信号に基づいて、車速が基準車速以上であるか否か(即ち、高車速運転であるか否か)を判定する。
【0084】
車両が高車速にて運転されていれば、排気浄化触媒43は走行風により効率よく冷却される。そこで、車速が基準車速以上であれば、CPUは、ステップS740にて、「Yes」と判定しステップS580へと進む。そして、CPUはステップS580にて燃料カットフラグXFCの値を「1」に設定した後、ステップS590へと進み燃料カット準備フラグXFCKの値を「0」に設定して本ルーチンを終了する。一方、CPUは、ステップS740にて、「No」と判定した場合、直接ステップS590へと進み、燃料カット準備フラグXFCKの値を「0」に設定して本ルーチンを終了する。
【0085】
以上により、第2実施形態においては、触媒温度Tcが第1閾値温度Tcat1以上であって且つ第2閾値温度Tcat2未満であるとき、高車速運転であれば燃料カットが実施される。更に、触媒温度Tcが第1閾値温度Tcat1以上であって且つ第2閾値温度Tcat2未満であるときに高車速運転でない場合、及び、触媒温度Tcが第2閾値温度Tcat2以上である場合、燃料カットが禁止される。これにより、無駄な燃料カットの禁止が回避される。
【0086】
なお、ステップ740において用いられる条件は、「排気浄化触媒43が効率よく冷却される状態にあるか否かを判定する他の条件(例えば、車両の変速機のシフト位置が高速段にあること等)」であってもよい。
【0087】
以上のように、本発明による各実施形態に係る内燃機関の燃料供給制御装置は、
内燃機関の排気通路(42)に配置されるとともに酸化能力を有する排気浄化触媒(43)と、
前記機関に供給される混合気の空燃比が理論空燃比よりもリッチな空燃比であるリッチ空燃比となるように同機関に燃料を供給する燃料増量制御、及び、前記機関に供給される混合気の空燃比が前記リッチ空燃比以外の空燃比となるように同機関に燃料を供給する通常空燃比制御、の何れかの制御を(同機関の運転状態に応じて選択的に)実行する燃料供給手段(図2及び図3のルーチン)と、
前記機関の運転状態が所定の燃料カット条件を満足する減速状態にある場合に前記機関への燃料の供給を停止する燃料カット手段(図4のルーチン及び図2のステップS240及びステップs250)と、
を備えた内燃機関の燃料供給制御装置であって、
前記機関の運転状態が前記燃料カット条件を満足する減速状態となった場合(図4のステップS420において「Yes」と判定された場合)、前記排気浄化触媒の温度(Tc)が前記燃料供給手段による前記燃料増量制御中に同排気浄化触媒に供給された還元剤の量(例えば、燃料増量率Kotpに比例する量)に基づいて定められる閾値温度(Tcat1)以上であるとき前記燃料カット手段の動作を禁止する燃料カット禁止手段(図5のルーチン)、を備える。
【0088】
即ち、本燃料供給制御装置によれば、機関の運転状態が燃料カット条件を満足する減速状態になった場合(即ち、燃料カットフラグ準備XFCKの値が「1」に設定された場合)、上記排気浄化触媒の触媒温度Tcが、「それ以前に実行された燃料増量制御中に同排気浄化触媒に供給された還元剤(HC等の未燃燃料)の量(燃料増量率Kotpに基づいて供給された過剰な還元剤の量)」に基づいて定められる閾値温度(Tcat1)以上であるとき、燃料カット手段による燃料カットの実施が禁止される。
【0089】
この結果、本装置によれば、燃料カットが実施されている最中に、触媒温度が過熱温度を超えることを防止することができるため、排気浄化触媒が過熱により劣化することを抑制することができる。更に、本装置によれば、燃料カットを実施することにより触媒温度が過熱温度を超えない場合には、燃料カットが実施されるので、燃料消費量を少なくすることができる。
【0090】
本発明に係る各実施形態において、触媒温度Tcは触媒温度センサ54により検出されていたが、排気浄化触媒43の上流側もしくは下流側の排気管42内に排気温度センサを備えることにより、排気浄化触媒43に流入、又は、排気浄化触媒43から流出する排気の温度を検出することにより、触媒温度Tcを推定してもよい。
【0091】
更に、上記各実施形態においては、燃料増量制御は、触媒温度Tcが基準触媒温度T0th以上であった場合に算出した燃料増量率Kotpに基づいて、一定時間行われていた。従って、この場合、「排気浄化触媒43へと供給される還元剤の量」は燃料増量率Kotpに応じてのみ変化するため、上記各実施形態にて示したように、燃料増量率Kotpに基づいて基準閾値温度Tcat1sを決定すればよい。
【0092】
加えて、燃料増量制御は、燃料増量率Kotp及び燃料増量制御期間の少なくとも一方を可変にすることによって実行されてもよい。その場合、燃料増量率Kotpは、例えば、機関10の負荷及び機関回転速度等に基づいて変更される値(負荷が大きくなるほど大きくなり、且つ、回転速度が高いほど大きくなる値)であってもよい。
【0093】
このような場合、「燃料増量制御が行われている期間に排気浄化触媒43へと供給される還元剤の量」は、燃料増量率Kotpと燃料増量制御期間とから算出することができる。例えば、この燃料増量制御が行われている期間に排気浄化触媒43へと供給される還元剤の量は、燃料増量期間中の各時点における燃料増量率Kotpに基づいて単位時間あたりの燃料増量量を算出し、これを燃料増量期間に亘って積算することにより算出することができる。
【0094】
一方、燃料増量率Kotpが一定であり、且つ、燃料増量制御を行う期間を可変にするように燃料増量制御を実行する形態においては、「燃料増量制御が行われた期間を表す値(燃料増量期間の積算時間)」と「その燃料増量制御中の燃料増量率Kotpと」の値とを乗じることにより「燃料増量制御が実行された期間に排気浄化触媒43へと供給された還元剤の積算量」を算出し、その算出した積算量に基づいて基準閾値温度Tcat1s等を決定すればよい。
【0095】
その他、燃料増量制御後に機関10の運転状態が減速状態へと移行するまでの期間に、燃料増量制御と通常空燃比制御とが比較的短時間のうちに複数回繰り返されることが想定されるような場合、各「燃料増量制御及び通常空燃比制御」が実行された期間において排気浄化触媒43へと供給された還元剤(供給及び消費の結果、排気浄化触媒43に残存する還元剤)の積算量を算出し、その算出した積算量に基づいて基準閾値温度Tcat1s等を決定すればよい。なお、その際算出された排気浄化触媒43へと供給された還元剤の積算量が、排気浄化触媒43が保持できる還元剤の量(限界保持量)を超えている場合、排気浄化触媒43には限界保持量分だけの還元剤の量が保持されていると判断して、限界保持量に基づいて基準閾値温度Tcat1s等を決定すればよい。
【符号の説明】
【0096】
10…内燃機関、21…吸気管、24…スロットル弁、33…燃料噴射弁、42…排気管、43…排気浄化触媒、51…電気制御装置、53…スロットル弁開度センサ、54…機関回転速度センサ、56…触媒温度センサ。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
内燃機関の排気通路に配置されるとともに酸化能力を有する排気浄化触媒と、
前記機関に供給される混合気の空燃比が理論空燃比よりもリッチな空燃比であるリッチ空燃比となるように同機関に燃料を供給する燃料増量制御、及び、前記機関に供給される混合気の空燃比が前記リッチ空燃比以外の空燃比となるように同機関に燃料を供給する通常空燃比制御、の何れかの制御を実行する燃料供給手段と、
前記機関の運転状態が所定の燃料カット条件を満足する減速状態にある場合に前記機関への燃料の供給を停止する燃料カット手段と、
を備えた内燃機関の燃料供給制御装置であって、
前記機関の運転状態が前記燃料カット条件を満足する減速状態となった場合、前記排気浄化触媒の温度が前記燃料供給手段による前記燃料増量制御中に同排気浄化触媒に供給された還元剤の量に基づいて定められる閾値温度以上であるとき前記燃料カット手段の動作を禁止する燃料カット禁止手段、
を備えたことを特徴とする燃料供給制御装置。
【請求項2】
請求項1に記載の内燃機関の燃料供給制御装置において、
前記燃料カット禁止手段は、
前記閾値温度を、前記燃料供給手段による前記燃料増量制御中に前記排気浄化触媒に供給された還元剤の量が多いほど低く設定するように構成されたことを特徴とする燃料供給制御装置。
【請求項3】
請求項1又は請求項2に記載の内燃機関の燃料供給制御装置において、
前記燃料カット禁止手段は、
前記閾値温度を、前記燃料供給手段による前記燃料増量制御が終了された直後から前記燃料カット条件を満足する減速状態になるまでの期間が長いほど高く設定するように構成されたことを特徴とする燃料供給制御装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2011−69339(P2011−69339A)
【公開日】平成23年4月7日(2011.4.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−223326(P2009−223326)
【出願日】平成21年9月28日(2009.9.28)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】