説明

内燃機関

【課題】 内燃機関のピストンの背室の容積変化に伴うポンピングロスを簡単な構造で低減する。
【解決手段】 内燃機関のシリンダ24に摺動自在に嵌合するピストン25の背部に密閉された背室29Aを区画し、二次バランサー装置16のバランサーウエイト収納室17aおよびバランサーウエイト18cで構成された負圧ポンプPAで背室29Aの内部の空気およびオイルをオイルパン15の内部に排出するので、背室29Aの圧力上昇を抑制して内燃機関のポンピングロスを低減することができる。しかも負圧ポンプPAはクランクシャフト20に接続されて駆動されるので、負圧ポンプPAが背室29Aの空気およびオイルを吸引するタイミングを自動的にピストン25の下降に対して同期させることができ、前記タイミングを制御する制御装置を不要にして構造を簡素化することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、シリンダに摺動自在に嵌合するピストンをコネクティングロッドを介してクランクシャフトに接続した内燃機関に関する。
【背景技術】
【0002】
内燃機関の吸気通路とクランクケースとを、第1の電磁ソレノイドバルブを有する第1の通気管と、空気室と、第2の電磁ソレノイドバルブを有する第2の通気管とで接続し、クランクケースの内圧を検出する圧力検出手段からの信号と、クランクシャフトの回転数を検出する回転数検出手段からの信号とに基づいて、制御手段が第1、第2の電磁ソレノイドバルブを開閉制御し、クランクケースの内圧が増加するタイミングに同期してクランクケースの内部の空気を吸気通路に吸い出すことで、内燃機関のポンピングロスを低減するものが、下記特許文献1により公知である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平5−60000号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで上記従来のものは、クランクシャフトの回転数が変化してクランクケースの内圧が増減するタイミングが変化すると、それに応じて第1、第2の電磁ソレノイドバルブの開閉タイミングを制御する必要があるため、圧力検出手段や回転数検出手段のようなセンサと、それらセンサからの信号に基づいて第1、第2の電磁ソレノイドバルブを開閉制御する制御手段とが必要になり、構造および部品点数が増加してコストアップの要因となる問題がある。
【0005】
本発明は前述の事情に鑑みてなされたもので、内燃機関のピストンの背室の容積変化に伴うポンピングロスを簡単な構造で低減することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するために、請求項1に記載された発明によれば、シリンダに摺動自在に嵌合するピストンをコネクティングロッドを介してクランクシャフトに接続した内燃機関において、前記ピストンの背部に密閉された背室を区画し、前記クランクシャフトに接続されて駆動される負圧ポンプで、前記ピストンの昇降と同期して前記背室の内部の空気およびオイルをオイルパンの内部に排出することを特徴とする内燃機関が提案される。
【0007】
また請求項2に記載された発明によれば、請求項1の構成に加えて、前記内燃機関は多気筒内燃機関であり、前記負圧ポンプは、位相が同一あるいは位相が相互に接近する複数のピストンの背室の内部の空気およびオイルを前記オイルパンの内部に排出することを特徴とする内燃機関が提案される。
【0008】
また請求項3に記載された発明によれば、請求項1または請求項2の構成に加えて、前記負圧ポンプは、バランサーハウジングの内部に区画されたバランサーウエイト室と、前記バランサーウエイト室の内部で偏心回転するバランサーウエイトとで構成されることを特徴とする内燃機関が提案される。
【0009】
また請求項4に記載された発明によれば、請求項1〜請求項3の何れか1項の構成に加えて、前記負圧ポンプは、前記背室の容積縮小時に該背室の内部の空気およびオイルをオイルパンの内部に排出することを特徴とする内燃機関が提案される。
【0010】
また請求項5に記載された発明によれば、請求項1〜請求項4の何れか1項の構成に加えて、前記オイルパンは連通孔が形成された仕切壁により仕切られた第1オイル室および第2オイル室を備え、オイルポンプの吸い込み口は前記第1オイル室に配置され、前記負圧ポンプは前記背室の内部の空気およびオイルを前記第2オイル室に排出することを特徴とする内燃機関が提案される。
【0011】
尚、実施の形態のストレーナ35は本発明のオイルポンプの吸い込み口に対応する。
【発明の効果】
【0012】
請求項1の構成によれば、内燃機関のシリンダに摺動自在に嵌合するピストンの背部に密閉された背室を区画し、ピストンの昇降と同期して負圧ポンプで背室の内部の空気およびオイルをオイルパンの内部に排出するので、背室の圧力上昇を抑制して内燃機関のポンピングロスを低減することができる。しかも負圧ポンプはクランクシャフトに接続されて駆動されるので、負圧ポンプが背室の空気およびオイルを吸引するタイミングを自動的にピストンの下降に対して同期させることができ、前記タイミングを制御する制御装置を不要にして構造を簡素化することができる。
【0013】
また請求項2の構成によれば、内燃機関は多気筒内燃機関であり、負圧ポンプは位相が同一あるいは位相が相互に接近する複数のピストンの背室の内部の空気およびオイルをオイルパンの内部に排出するので、負圧ポンプの個数を最小限に抑えて更なる構造の簡素化を図ることができる。
【0014】
また請求項3の構成によれば、バランサーハウジングの内部に区画されたバランサーウエイト室と、バランサーウエイト室の内部で偏心回転するバランサーウエイトとで構成されるバランサー装置を負圧ポンプとして利用するので、特別の負圧ポンプを付加する必要がなくなって更なる構造の簡素化を図ることができる。
【0015】
また請求項4の構成によれば、負圧ポンプはピストンの背室の容積縮小時に該背室の内部の空気およびオイルをオイルパンの内部に排出するので、背室の圧力上昇を抑制して内燃機関のポンピングロスを更に効果的に低減することができる。
【0016】
また請求項5の構成によれば、連通孔が形成された仕切壁によりオイルパンの内部を第1オイル室および第2オイル室に仕切り、オイルポンプの吸い込み口を第1オイル室に配置し、負圧ポンプはピストンの背室の内部の空気およびオイルを第2オイル室に排出するので、空気およびオイルは第2オイル室で気液分離されてオイルだけが仕切壁の連通孔を通過して第2オイル室に戻されるので、第2オイル室に吸い込み口を臨ませたオイルポンプが空気を噛み込むのを未然に防止することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】内燃機関の正面図。
【図2】図1の2−2線断面図。
【図3】図2の3−3線断面図。
【図4】図2の4−4線断面図。
【図5】図3の5−5線断面図。
【図6】図3の6−6線断面図。
【図7】図5の7−7線断面図。
【図8】ピストンの位相に対する負圧ポンプの吸入・吐出タイミングを示す図。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、図1〜図8に基づいて本発明の実施の形態を説明する。
【0019】
図1に示すように、車両用の直列4気筒内燃機関Eの外郭は、上方から下方にヘッドカバー11、シリンダヘッド12、シリンダブロック13、ロアブロック14およびオイルパン15を結合して構成されており、シリンダ軸線は鉛直方向に対して図中左側に傾斜している。ロアブロック14の下面に固定されてオイルパン15の内部に収納された二次バランサー装置16は、バランサーハウジング17に支持された駆動バランサーシャフト18および従動バランサーシャフト19を備えており、シリンダブロック13およびロアブロック14間に支持されたクランクシャフト20の軸端に設けたスプロケット21と駆動バランサーシャフト18の軸端に設けたスプロケット22とが無端チェーン23で接続される。
【0020】
図2〜図7に示すように、シリンダブロック13に設けた4個のシリンダ24…に摺動自在に嵌合する4個のピストン25…は、クランクシャフト20の4個のピン20a…にそれぞれコネクティングロッド26…を介して接続される。シリンダブロック13の下面にボルト27…(図4参照)で結合されたロアブロック14の内部には5個のベアリングキャップ部14a…が一体に形成されており、シリンダブロック13と5個のベアリングキャップ部14a…との間にクランクシャフト20の5個のジャーナル20b…が回転自在に支持される。クランクシャフト軸線方向の外側に位置する2個のピストン25,25の位相と、クランクシャフト軸線方向の内側に位置する2個のピストン25,25の位相とは180°ずれている。従って、外側に位置する2個のピストン25,25が上死点にあるとき、内側に位置する2個のピストン25,25は下死点にある(図2参照)。
【0021】
ロアブロック14の下面開口部に閉塞するように底板28を締結することで、4個のピストン25…の背部(燃焼室と反対側)にそれぞれ第1〜第4背室29A,29B,29C,29Dが相互に独立して区画される。二次バランサー装置16のバランサーハウジング17を底板28の下面に当接させ、底板28を貫通するボルト30…と、バランサーハウジング17および底板28を貫通するボルト30…とをロアブロック14に螺合することで、ロアブロック14に底板28およびバランサーハウジング17が締結される。
【0022】
二次バランサー装置16の駆動バランサーシャフト18には、その一端側から他端側に向けて前記スプロケット22、駆動ギヤ18b、第1ジャーナル18a、第1バランサーウエイト18c、第2ジャーナル18dおよび第2バランサーウエイト18eが設けられており、第1、第2ジャーナル18a,18dがバランサーハウジング17に回転自在に支持される。また二次バランサー装置16の従動バランサーシャフト19には、その一端側から他端側に向けて従動ギヤ19b、第3ジャーナル19a、第3バランサーウエイト19c、第4ジャーナル19dおよび第4バランサーウエイト19eが設けられており、第3、第4ジャーナル19a,19dがバランサーハウジング17に回転自在に支持される。
【0023】
バランサーハウジング17の一端部に結合されたポンプハウジング31の内部に突出する従動バランサーシャフト19の一端にオイルポンプ32(図6参照)が設けられる。オイルポンプ32はトロコイドポンプから構成されるもので、従動バランサーシャフト19に固定されたインナーロータ33と、ポンプハウジング31に回転自在に支持されてインナーロータ33に噛み合うアウターロータ34とを備える。バランサーハウジング17の下面にはオイルパン15に貯留したオイルの油面下に位置するストレーナ35が設けられており、ストレーナ35はオイルポンプ32の吸入ポート32aに接続され、オイルポンプ32の吐出ポート32bは図示せぬオイル通路を介してシリンダブロック13のメインギャラリ13a(図3および図4参照)に接続される。
【0024】
バランサーハウジング17の内部には、駆動バランサーシャフト18の扇形の第1バランサーウエイト18cおよび第2バランサーウエイト18eをそれぞれ収納する円形断面の第1、第2バランサーウエイト室17a,17bが形成されるとともに、従動バランサーシャフト19の扇形の第3バランサーウエイト19cおよび第4バランサーウエイト19eをそれぞれ収納する円形断面の第3、第4バランサーウエイト室17c,17dが形成される。第1、第2バランサーウエイト室17a,17bの中心は駆動バランサーシャフト18の軸線に対して下方に偏心しており、かつ第3、第4バランサーウエイト室17c,17dの中心は従動バランサーシャフト19の軸線に対して下方に偏心している。
【0025】
第1バランサーウエイト18cおよび第1バランサーウエイト室17aは第1負圧ポンプPAを構成し、第2バランサーウエイト18eおよび第2バランサーウエイト室17bは第2負圧ポンプPBを構成する。バランサーハウジング17に開口する第1、第2負圧ポンプPA,PBの吸入ポート36,36は、底板28に形成した吸入通路28a,28bを介して、同一位相で昇降するクランクシャフト軸線方向内側の2個のピストン25,25の第1、第2背室29A,29Bにそれぞれ連通する。
【0026】
また第3バランサーウエイト19cおよび第3バランサーウエイト室17cは第3負圧ポンプPCを構成し、第4バランサーウエイト19eおよび第4バランサーウエイト室17dは第4負圧ポンプPDを構成する。バランサーハウジング17に開口する第3、第4負圧ポンプPC,PDの吸入ポート36,36は、底板28に形成した吸入通路28c,28dを介して、同一位相で昇降するクランクシャフト軸線方向外側の2個のピストン25,25の第3、第4背室29C,29Dにそれぞれ連通する。
【0027】
底板28の上面において各吸入通路28a〜28dが第1〜第4背室29A〜29Dに開口する部分にオイル溜28e…が形成されており、各オイル溜28e…の一側(傾斜する底板28の低い側)にバッフルプレート28f…が設けられる。
【0028】
オイルパン15の内部は、その底部から立ち上がる仕切壁15aにより第1、第2オイル室37,38(図3および図4参照)に仕切られており、大容量の第1オイル室37に二次バランサー装置16が収納され、小容量の第2オイル室38にブローバイガス通路39が連通する。仕切壁15aの下部には、第1、第2オイル室37,38を相互に連通させるスリット状の連通孔15bが形成される。
【0029】
バランサーハウジング17に開口する第1、第2負圧ポンプPA,PBの吐出ポート40,40に接続された吐出通路41,41は、仕切壁15aを貫通して第2オイル室38に開口する。同様に、バランサーハウジング17に開口する第3、第4負圧ポンプPC,PDの吐出ポート40,40に接続された吐出通路41,41は、仕切壁15aを貫通して第2オイル室38に開口する。
【0030】
クランクシャフト20の両端部には一対のオイルシール46,46が当接しており、これらのオイルシール46,46によりクランクケースの内部が大気から隔絶される。
【0031】
図1に示すように、内燃機関Eのシリンダヘッド12の内部はブリーザチューブ42を介して吸気通路43に接続される。またロアブロック14にはPCVバルブ44が設けられており、PCVバルブ44で流量を制御されたブローバイガスがブローバイガスチューブ45を介して吸気通路43に戻される。
【0032】
次に、上記構成を備えた本発明の実施の形態の作用について説明する。
【0033】
内燃機関Eの運転によりクランクシャフト20の回転がスプロケット21、無端チェーン23およびスプロケット22を介して駆動バランサーシャフト18に伝達され、駆動バランサーシャフト18の回転は駆動ギヤ18bおよび従動ギヤ19bを介して従動バランサーシャフト19に伝達される。このとき、クランクシャフト20のスプロケット21の歯数は駆動バランサーシャフト18のスプロケット22の歯数の2倍に設定され、かつ駆動ギヤ18bの歯数は従動ギヤ19bの歯数に等しく設定されているため、駆動バランサーシャフト18および従動バランサーシャフト19はクランクシャフト20の回転数の2倍の回転数で相互に逆方向に回転し(図3参照)、駆動バランサーシャフト18および従動バランサーシャフト19に設けた第1〜第4バランサーウエイト18c,18e;19c,19eによりエンジンEの二次振動が低減される。
【0034】
さて、内燃機関Eの吸入行程および膨張行程でピストン25…が下降するとき、第1〜第4背室29A〜29Dの容積が縮小して圧力が増加すると、ピストン25…の下降が阻害されてポンピングロスが発生し、内燃機関Eの燃費を悪化させる問題がある。そこで本実施の形態では、ピストン25…が下降するときに第1〜第4背室29A〜29Dの内部の空気およびオイルをオイルパン15に排出することで、第1〜第4背室29A〜29Dの圧力を低下させてピストン25…の下降を容易にし、ポンピングロスを低減して内燃機関Eの燃費を向上させるようになっている。
【0035】
図8に示すように、ピストン25…はクランクシャフト20の1回転につき1回往復動し、クランクシャフト軸線方向内側の2個のピストン25,25の位相と、クランクシャフト軸線方向外側の2個のピストン25,25の位相とは、180°ずれている。実線で示すクランクシャフト軸線方向内側の2個のピストン25,25について考えると、該ピストン25,25が上死点から下死点に下降するときに、その第1,第2背室29A,29Bの空気およびオイルを第1,第2負圧ポンプPA,PBで吸引すれば良い。そのために、ピストンが上死点から下死点に下降するタイミングに合わせて、第1、第2負圧ポンプPA,PBの吸入ポート36,36が開いて第1、第2背室29A,29Bの空気およびオイルをオイルパン15に排出するようになっている。
【0036】
尚、駆動バランサーシャフト18はクランクシャフト20の1回転につき2回転するため、ピストン25,25が下死点から上死点に上昇するときも、第1、第2負圧ポンプPA,PBの吸入ポート36,36が開いて第1、第2背室29A,29Bの空気およびオイルをオイルパン15に排出してしまい、ピストン25,25が上昇するときに第1、第2背室29A,29Bが負圧になってポンピングロスが増加してしまうが、そのポンピングロスの増加量は、ピストン25,25が下降するときのポンピングロスの減少量を打ち消すほどは大きくなく、全体としてポンピングロスを減少させることができる。
【0037】
また第1、第2負圧ポンプPA,PBの作動により第1,第2背室29A,29Bの圧力は脈動するが、その平均の圧力は第1、第2負圧ポンプPA,PBが作動しない場合に比べて低くなる。そして第1、第2負圧ポンプPA,PBが作動して第1,第2背室29A,29Bの圧力が大気圧よりも低くなることによっても、ポンピングロスを減少させることができる。
【0038】
クランクシャフト軸線方向外側の2個のピストン25,25の第3、第4背室29C,29Dを減圧する第3、第4負圧ポンプPC,PDの作用も、上述した第1、第2負圧ポンプPA,PBの作用と同じである。
【0039】
第1〜第4背室29A〜29Dの空気およびオイルを第1〜第4負圧ポンプPA〜PDで吸引するとき、吸入通路28a〜28dが第1〜第4背室29A〜29Dに開口する部分にオイル溜28e…が形成されており、かつオイル溜28e…の低い側にバッフルプレート28f…が設けられているので、第1〜第4背室29A〜29Dのオイルをオイル溜28e…に捕集して第1〜第4負圧ポンプPA〜PDで効果的に吸引することができ、これにより空気よりもオイルを優先的にオイルパン15に戻して内燃機関Eの潤滑性能を確保することができる。またバッフルプレート28f…は、オイル溜28e…にオイルを効果的に捕集する以外に、回転するクランクシャフト20によってオイル溜28e…のオイルが攪拌されるのを防止する機能も果たしている。
【0040】
第1〜第4負圧ポンプPA〜PDにより、第1〜第4背室29A〜29Dから吸入された空気およびオイルの混合物は、吐出ポート40…および吐出通路41…を経てオイルパン15の第2オイル室38に排出され、そこで空気およびオイルを分離する気液分離が行われる。分離された空気はブローバイガスと共にブローバイガス通路39、PCVバルブ44およびブローバイガスチューブ45を経て吸気通路43に戻される。また分離されたオイルは仕切壁15aの連通孔15bを通過して第1オイル室37に戻されるが、第1オイル室37のオイルは気液分離により気泡を含まない状態にあるため、そのオイルをストレーナ35を介して吸入したオイルポンプ32がエア噛みを起こすことが確実に防止される。
【0041】
しかも第1〜第4負圧ポンプPA〜PDは、第1〜第4背室29A〜29Dの内部空間を負圧にするだけでオイルパン15内部空間(バランサーハウジング17の内部空間を除く)を負圧にすることはないため、クランクシャフト20の両端部をシールする一対のオイルシール46,46の内外に大きな圧力差が発生することが防止される。これによりオイルシール46,46のリップが捲れて耐久性が低下するのを回避することができる。
【0042】
このとき、第1〜第4負圧ポンプPA〜PDはオイルをバランサーハウジング17の内部から第2オイル室38に排出するスカベンジポンプの機能を発揮し、オイルポンプ32はオイルパン15のオイルを被潤滑部に供給するフィードポンプの機能を発揮することで、セミドライサンプ式の潤滑系を構成してクランクケース内におけるオイルの攪拌抵抗を低減し、燃費の向上に貢献することができる。
【0043】
以上のように、内燃機関Eのピストン25…の下降に伴って第1〜第4背室29A〜29Dの容積が縮小して圧力が増加するとき、その第1〜第4背室29A〜29Dの空気およびオイルを第1〜第4負圧ポンプPA〜PDで排出して圧力を減少させるので、ピストン25…の昇降に伴うポンピングロスを低減して内燃機関Eの燃費向上に寄与することができる。また第1〜第4負圧ポンプPA〜PDはクランクシャフト20に連動する駆動バランサーシャフト18および従動バランサーシャフト19により駆動されるので、第1〜第4負圧ポンプPA〜PDが第1〜第4背室29A〜29Dの空気およびオイルを吸引するタイミングをピストン25…の昇降に対して自動的に同期させることができ、前記タイミングを制御する制御装置を不要にして構造を簡素化することができる。しかもバランサーハウジング17の内部に区画された第1〜第4バランサーウエイト室17a〜17dと、第1〜第4バランサーウエイト室17a〜17dの内部で偏心回転する第1〜第4バランサーウエイト18c,18e;19c,19eとを備えた二次バランサー装置16を第1〜第4負圧ポンプPA〜PDとして利用するので、特別の第1〜第4負圧ポンプPA〜PDを付加する必要がなくなって更なる構造の簡素化が可能になる。
【0044】
また連通孔15bが形成された仕切壁15aによりオイルパン15の内部を第1オイル室37および第2オイル室38に仕切り、オイルポンプ32の吸い込み口であるストレーナ35を第1オイル室37に配置し、第1〜第4負圧ポンプPA〜PDはピストン25…の第1〜第4背室29A〜29Dの内部の空気およびオイルを第2オイル室38に排出するので、空気およびオイルの混合物は第2オイル室38で気液分離されてオイルだけが仕切壁15aの連通孔15bを通過して第1オイル室37に戻され、第1オイル室37にストレーナ35を臨ませたオイルポンプ32が空気を噛み込むのを未然に防止することができる。
【0045】
以上、本発明の実施の形態を説明したが、本発明はその要旨を逸脱しない範囲で種々の設計変更を行うことが可能である。
【0046】
例えば、実施の形態では直列4気筒内燃機関Eを例示したが、本発明は任意の気筒数の任意の形式の内燃機関に対して適用することができる。単気筒内燃機関の場合には、1個のピストンが下降するときに、その背室を負圧ポンプで減圧すれば良い。またV型内燃機関の場合には、二つのバンクの対向する2個のシリンダのピストンの位相が接近していることから、それら2個のピストンの背室を共通の負圧ポンプで減圧すれば良い。
【0047】
また実施の形態では二次バランサー装置16の第1〜第4バランサーウエイト18c,18e;19c,19eを負圧ポンプPA〜PDに利用しているが、クランクシャフト20により駆動される任意の構造の負圧ポンプを使用することができる。この場合、第1〜第4背室29A〜29Dの容積が縮小するときに吸入行程が対応するように、その負圧ポンプの吸入量が脈動することが望ましい。
【0048】
またバランサーシャフトがクランクシャフトと同速度で回転する一次バランサー装置を備えた内燃機関では、そのバランサーウエイトを負圧ポンプに利用すれば、ピストンが下降するタイミングに合わせて正確に背室を減圧することができるので、ポンピングロスの低減効果が一層高められる。
【0049】
また圧力変動のタイミングが一致するクランクシャフト軸線方向内側の第1、第2背室29A,29Bを共通の負圧ポンプに接続し、圧力変動のタイミングが一致するクランクシャフト軸線方向外側の第3、第4背室29C,29Dを共通の負圧ポンプに接続しても良く、このようにすれば負圧ポンプの個数を削減することができる。
【符号の説明】
【0050】
15 オイルパン
15a 仕切壁
15b 連通孔
17 バランサーハウジング
17a〜17d バランサーウエイト室
18c,18e バランサーウエイト
19c,19e バランサーウエイト
20 クランクシャフト
24 シリンダ
25 ピストン
26 コネクティングロッド
29A〜29D 背室
32 オイルポンプ
35 ストレーナ(オイルポンプの吸い込み口)
37 第1オイル室
38 第2オイル室
PA〜PD 負圧ポンプ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
シリンダ(24)に摺動自在に嵌合するピストン(25)をコネクティングロッド(26)を介してクランクシャフト(20)に接続した内燃機関において、
前記ピストン(25)の背部に密閉された背室(29A〜29D)を区画し、前記クランクシャフト(20)に接続されて駆動される負圧ポンプ(PA〜PD)で、前記ピストン(25)の昇降と同期して前記背室(29A〜29D)の内部の空気およびオイルをオイルパン(15)の内部に排出することを特徴とする内燃機関。
【請求項2】
前記内燃機関(E)は多気筒内燃機関であり、前記負圧ポンプ(PA〜PD)は、位相が同一あるいは位相が相互に接近する複数のピストン(25)の背室(29A〜29D)の内部の空気およびオイルを前記オイルパン(15)の内部に排出することを特徴とする、請求項1に記載の内燃機関。
【請求項3】
前記負圧ポンプ(PA〜PD)は、バランサーハウジング(17)の内部に区画されたバランサーウエイト室(17a〜17d)と、前記バランサーウエイト室(17a〜17d)の内部で偏心回転するバランサーウエイト(18c,18e;19c,19e)とで構成されることを特徴とする、請求項1または請求項2に記載の内燃機関。
【請求項4】
前記負圧ポンプ(PA〜PD)は、前記背室(29A〜29D)の容積縮小時に該背室(29A〜29D)の内部の空気およびオイルをオイルパン(15)の内部に排出することを特徴とする、請求項1〜請求項3の何れか1項に記載の内燃機関。
【請求項5】
前記オイルパン(15)は連通孔(15b)が形成された仕切壁(15a)により仕切られた第1オイル室(37)および第2オイル室(38)を備え、オイルポンプ(32)の吸い込み口(35)は前記第1オイル室(37)に配置され、前記負圧ポンプ(PA〜PD)は前記背室(29A〜29D)の内部の空気およびオイルを前記第2オイル室(38)に排出することを特徴とする、請求項1〜請求項4の何れか1項に記載の内燃機関。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2011−226290(P2011−226290A)
【公開日】平成23年11月10日(2011.11.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−93784(P2010−93784)
【出願日】平成22年4月15日(2010.4.15)
【出願人】(000005326)本田技研工業株式会社 (23,863)
【Fターム(参考)】