説明

円形フランジの歪量測定方法及び円形フランジの歪量測定装置

【課題】円形フランジに機器、部材等を取り付けることなく円形フランジの歪量を測定するための円形フランジの歪量測定方法及び円形フランジの歪量測定装置を提供する。
【解決手段】歪を測定しようとする円形フランジ11の前方に配置されて、特定位置Pから軸心17に対して一定角度θで旋回し円錐面状にスキャンするレーザー光を発して円形フランジ11の測定面12に照射し、測定面12からの反射レーザー光を受光して、特定位置Pから測定面12までの距離を測定するレーザー測定機13と、レーザー測定機13を載せて所定方向にレーザー測定機13の軸心17を向ける位置決め手段15と、レーザー測定機13から取得した特定位置Pから測定面12までの距離の値にcosθを乗算し距離データを得て、距離データから測定面12が完全平面と仮定した基準データを算出し、距離データから基準データを引いて、円形フランジ11の歪量を算出する演算部19とを有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、圧力容器、配管類等の円形フランジの歪量を測定する方法とその歪量を測定するための歪量測定装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、各種プラントでは、高圧流体処理設備にある2つのフランジを接合してなる締結部からの流体の漏洩を回避することが、プラントの安全操業上の重要課題となっている。漏洩発生の要因の一つにフランジの歪が挙げられる。接合される2つのフランジの接合面が平坦でなく変形している場合で、その歪量(変形量)が所定の値を超えているときには、流体の漏洩が生じ得る。
そこで、流体の漏洩を回避するため、フランジに対して定期的な歪量の測定が行われ、その具体例が、例えば特許文献1、2に記載されている。
【0003】
特許文献1、2は、構成に多少の違いがあるものの、共に、円形フランジに固定した取付台に、円周に沿って配置されたフランジ面の歪量を測定するためのセンサが固定された回転アームを回転可能に取り付ける装置が用いられている。
回転アームは、回転動作によりセンサがフランジ面に対して平行な平面上でフランジ面に沿って円を描くように移動するよう、取付台に取り付けられており、フランジの径の長さに合わせて回転アームの長さを調整することで、フランジ面の歪を計測可能な位置にセンサを配置することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平9−119805号公報
【特許文献2】特開平10−160455号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、取付台や、回転アーム等の円形フランジに取り付けられる部材は、大部分が金属から形成されているため重く、回転アームの回転軸の位置や回転アームのフランジ面に対する角度等を調整しつつ、回転アーム等が取り付けられた取付台を円形フランジへ固定する作業には、多大な労力が必要であった。
また、フランジ面の径が大きく、アームを長くする場合には、アームにたわみが発生してフランジ面の歪量の測定精度を所定値以上に保てないという問題があり、国際機関が定める歪許容値の0.3mm以下の精度を保てない場合があった。
本発明は、かかる事情に鑑みてなされるもので、円形フランジに機器、部材等を取り付けることなく円形フランジの歪量を測定するための円形フランジの歪量測定方法及び円形フランジの歪量測定装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
前記目的に沿う本発明に係る円形フランジの歪量測定方法は、特定位置から軸心(旋回軸)に対して一定角度θで旋回しながら発せられるレーザー光を、歪を測定しようとする円形フランジの測定面に照射して、その反射レーザー光を受光し、前記特定位置から前記円形フランジまでの距離にcosθを乗算した距離データを得て、該距離データから前記測定面が完全平面と仮定した基準データを算出し、前記距離データから前記基準データを引いて、前記円形フランジの歪量を測定する。
【0007】
前記目的に沿う本発明に係る円形フランジの歪量測定装置は、歪を測定しようとする円形フランジの前方に配置されて、特定位置から軸心に対して一定角度θで旋回し円錐面状にスキャンするレーザー光を発して前記円形フランジの測定面に照射し、該測定面からの反射レーザー光を受光して、前記特定位置から前記測定面までの距離を測定するレーザー測定機と、前記レーザー測定機を載せて所定方向に前記レーザー測定機の軸心を向ける位置決め手段と、前記レーザー測定機から取得した前記特定位置から前記測定面までの距離の値にcosθを乗算し距離データを得て、該距離データから前記測定面が完全平面と仮定した基準データを算出し、前記距離データから前記基準データを引いて、前記円形フランジの歪量を算出する演算部とを有する。
【0008】
本発明に係る円形フランジの歪量測定装置において、前記レーザー測定機は、前記レーザー光を出力する光波出力部及び前記反射レーザー光を受光する光波入力部を備えたレーザー光送受信ユニットと、前記レーザー光が通過する経路を前記軸心に対して一定角度で屈曲させ、かつ前記一定角度で屈曲した経路を旋回させるスキャニングユニットとを有するのが好ましい。
【0009】
本発明に係る円形フランジの歪量測定装置において、前記レーザー光送受信ユニットには、前記スキャニングユニットを前記軸心を基準に回転させるサーボモータが設けられ、前記演算部は、該サーボモータからの出力値を基に前記スキャニングユニットの回転角度を検知するのが好ましい。
【0010】
本発明に係る円形フランジの歪量測定装置において、前記θは0度を超え60度以下の範囲にあって、前記レーザー測定機の軸心は前記円形フランジの軸心に合わせて又は該円形フランジの軸心に略一致させて配置されるのが好ましい。
【0011】
本発明に係る円形フランジの歪量測定装置において、前記測定面の歪量の測定は、円周角360度に対して0度を超え0.3度以下のピッチで行われるのが好ましい。
【0012】
本発明に係る円形フランジの歪量測定装置において、前記演算部は、前記測定面の複数箇所について算出された前記距離データを回帰分析して求めた正弦曲線を前記基準データとするのが好ましい。
【発明の効果】
【0013】
本発明に係る円形フランジの歪量測定方法は、特定位置から軸心(旋回軸)に対して一定角度θで旋回しながら発せられるレーザー光を、円形フランジの測定面に照射して、その反射レーザー光を受光し、特定位置から円形フランジまでの距離にcosθを乗算した距離データを得て、距離データから測定面が完全平面と仮定した基準データを算出し、距離データから基準データを引いて、円形フランジの歪量を測定するので、円形フランジから離れた位置から円形フランジの歪量を測定することができる。
これによって、レーザー光を発するレーザー発光部(センサ)を、円形フランジの測定面と平行な平面上で円形フランジに沿って円を描くように移動させるような従来の方法を用いる必要がなく、測定面のある平面に対してレーザー発光部を平行に移動させるために、フランジ面に取り付け固定される部位を有さない機器を使用することが可能である。
【0014】
また、従来の歪量測定方法では、最初に測定面に複数の基準点(例えば測定面の特定箇所を0度位置、0度位置から時計回りに90度ごとの位置を90度位置、180度位置、270度位置として、0度位置、90度位置、180度位置、270度位置の4箇所)を設け、その基準点が配置される仮想平面を基準にして測定面の円周角360度の各箇所についての歪量を測定していたが、これは基準点に歪が存在していないことを前提としていた。しかし、基準点の設けられた位置に歪が存在していたか否かは不明であり、この仮想平面を基準に測定した歪量は正確性を欠いていた。
これに対し、本発明に係る円形フランジの歪量測定方法は、特定位置から円形フランジまでの距離を得て、その距離値から歪量を計測するための基準となる完全平面を算出するので、測定面の360度の各箇所を相対的に比較して歪量を計測する基準となるのに最適な完全平面を求めることができ、正確な歪量の計測が可能である。
【0015】
本発明に係る円形フランジの歪量測定装置は、特定位置から軸心に対して一定角度θで旋回し円錐面状にスキャンするレーザー光を発して円形フランジの測定面に照射し、測定面からの反射レーザー光を受光して、特定位置から測定面までの距離を測定するレーザー測定機と、特定位置から測定面までの距離の値にcosθを乗算し距離データを得て、距離データから測定面が完全平面と仮定した基準データを算出し、距離データから基準データを引いて、円形フランジの歪量を算出する演算部とを有するので、円形フランジから離れた位置から円形フランジの歪量を測定することができる。
これによって、円形フランジの歪量測定装置は、レーザー測定機のレーザー光を発するレーザー発光部を、円形フランジの測定面と平行な平面上で円形フランジに沿って円を描くように移動させるような従来の装置の構成を備える必要がなく、フランジ面に取り付け固定される部位を備えなくてもよい。従って、フランジ面の歪量を算出する準備段階において、フランジ面への部材の取り付け作業を行うことを要せず、準備段階の作業の省力化を図ることができる。
【0016】
本発明に係る円形フランジの歪量測定装置において、レーザー測定機が、一定角度で屈曲したレーザー光の経路を旋回させるスキャニングユニットを有する場合、レーザー光は、円周に配置されたフランジ面に沿って360度の移動を確実に行うことができる。
【0017】
本発明に係る円形フランジの歪量測定装置において、レーザー光送受信ユニットに、スキャニングユニットを軸心を基準に回転させるサーボモータが設けられ、演算部が、サーボモータからの出力値を基にスキャニングユニットの回転角度を検知する場合、演算部が検知しているフランジ面の歪量の計測箇所と実際の計測箇所の差異が大きくなるのを抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】本発明の一実施の形態に係る円形フランジの歪量測定装置の側面図である。
【図2】同円形フランジの歪量測定装置のレーザー測定機の説明図である。
【図3】レーザー測定機によるフランジ面の歪量の計測を示す説明図である。
【図4】(A)、(B)は、それぞれフランジ面について算出された距離データDの値を示すグラフ及びフランジ面の歪量を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0019】
続いて、添付した図面を参照しつつ、本発明を具体化した実施の形態につき説明し、本発明の理解に供する。
図1、図2に示すように、本発明の一実施の形態に係る円形フランジの歪量測定装置10は、歪を測定しようとする円形フランジ11のフランジ面12(測定面)にレーザー光を照射し、フランジ面12からの反射レーザー光を受光して、特定位置Pからフランジ面12までの距離を測定し、その測定した距離データを基にフランジ面12の歪量を算出する装置である。以下詳細に説明する。
【0020】
図1に示すように、円形フランジの歪量測定装置10は、円形フランジ11の前方に配置され、フランジ面12にレーザー光を照射し、フランジ面12からの反射レーザー光を受光して、レーザー光の経路上にある特定位置Pからフランジ面12までの距離を測定するレーザー測定機13を有している。
また、円形フランジの歪量測定装置10には、レーザー測定機13を載せてレーザー測定機13の位置及び向きを調整する位置決め架台15(位置決め手段の一例)と、レーザー測定機13からシリアルデータとして取得したレーザー測定機13の測定値をパラレル変換する信号処理ユニット14が設けられている。
【0021】
そして、信号処理ユニット14には、レーザー測定機13が測定した特定位置Pからフランジ面12の距離値のデジタルデータを基にして、円形フランジ11の歪量を算出する情報処理端末19(演算部の一例)が信号接続されている。
情報処理端末19は、例えば、ディスプレイを有するパーソナルコンピュータであり、フランジ面12の歪量等のデータをディスプレイに表示することができる。
なお、フランジ面の歪計測では、一般的に精度の高い歪量の計測(例えば±0.05mmの精度の計測)が求められ、円形フランジの歪量測定装置10は、本実施の形態において、±0.05mmの高い精度でフランジ面の歪量を計測できるように設計されている。
【0022】
レーザー測定機13の位置及び向きを調整する位置決め架台15は、図1に示すように、複数の高さ調整部材21によって支持される水平プレート22と、水平プレート22の上部に配置され、図示しない操作盤からの操作によって、水平プレート22に対する向き及び位置が変えられる位置調整台23を有している。
水平プレート22は、ねじ状の高さ調整部材21を回転することによって、高さ位置の変更がなされる。
位置調整台23は、垂直軸を基準に回動可能で水平プレート22に対する水平方向の向きを変えることができると共に、水平プレート22に対する高さ調整ができる。位置調整台23の高さ調整は、高さ調整部材21による水平プレート22の高さ調整よりも高い精度で行うことができる。従って、レーザー測定機13の高さは、高さ調整部材21で大まかな調整が行われ、位置調整台23によって微調整が行われる。
【0023】
位置調整台23には、レーザー光送受信ユニット16を水平軸を基準に回動可能に支持する支持部材24が固定されている。支持部材24に回動可能に支持されているレーザー光送受信ユニット16は、水平軸を基準に回動し、所定の角度位置で固定することができる。
この構成によって、位置決め架台15は、所定方向にレーザー測定機13の軸心17を向けることができる。
なお、本実施の形態では、位置決め架台15によってレーザー測定機13の位置及び向きを調整しているが、その他の位置決め手段を用いてレーザー測定機13の位置及び向きを調整して、軸心17の位置及び向きの変更を行ってもよい。
【0024】
レーザー測定機13は、図2に示すように、フランジ面12の歪量を計測する際に作動されるサーボモータ25を備えている。
サーボモータ25は、レーザー光送受信ユニット16に設けられ、情報処理端末19から信号処理ユニット14を介して出力される信号によって駆動し、動力伝達ベルト26を介してスキャニングユニット18に駆動力を与え、レーザー測定機13の軸心17を基準にスキャニングユニット18を回転する。
情報処理端末19は、信号処理ユニット14を介してサーボモータ25からのフィードバック信号を取得し、スキャニングユニット18の回転角度を検知する。
【0025】
レーザー光送受信ユニット16には、レーザー光を出力する光波出力部27と、反射レーザー光を受光する光波入力部28が搭載されている。レーザー光送受信ユニット16に内蔵されたプリズム29及びハーフミラー30は、光波出力部27から出力されたレーザー光を反射して、レーザー光の進行方向を変え、レーザー光を所定の経路に沿って進行させる。レーザー光は、プリズム29とハーフミラー30によって進行方向が変えられた後、軸心17に沿った方向で進み、レーザー光送受信ユニット16からスキャニングユニット18内に進入する。
【0026】
スキャニングユニット18には、スキャニングユニット18内に進入したレーザー光を反射して、レーザー光の進行方向を変えるプリズム31〜34が搭載されている。レーザー光は、プリズム31〜34で進行方向が順次変えられた後に、スキャニングユニット18の表面に配置されたパネル35を透過して、スキャニングユニット18の外部に出る。パネル35は、レーザー光が透過可能なように透光素材によって形成されている。
なお、パネル35はスキャニングユニット18から脱着可能となっていてもよく、フランジ面12の歪を測定する際には、スキャニングユニット18から取り外しておくこともできる。
【0027】
プリズム31〜33が向きを固定されているのに対し、プリズム34の向きは、情報処理端末19から信号処理ユニット14を介して送られる信号によって変更可能であり、パネル35を透過したレーザー光の、軸心17に対する角度は、0度以上60度以下の範囲で変更される。プリズム34は、レーザー光が通過する経路を軸心17に対して屈曲させることができ、その屈曲角度を0度を超え60度以下の角度で変更することが可能である。
【0028】
レーザー光の経路上にある特定位置Pは、レーザー光がプリズム34で反射される位置にあり、レーザー光送受信ユニット16の軸心17上に位置している。その特定位置Pのスキャニングユニット18における位置は、プリズム34の向き変更及びスキャニングユニット18の回転がなされても不変であり、円形フランジ11に対するレーザー光送受信ユニット16の位置及び向きが変更されない限り、レーザー光は、円形フランジ11に対して位置が変わらない特定位置Pから発せされることになる。
【0029】
フランジ面12の歪量の測定が行われる際、スキャニングユニット18は、特定位置Pから発せられるレーザー光(以下、「照射レーザー光」ともいう)が軸心17に対して非平行な状態で、サーボモータ25の作動により軸心17を基準に回転し、軸心17に対して一定角度θで屈曲された特定位置Pから発せられるレーザー光の経路を旋回させる。
また、フランジ面12の歪量が測定されるとき、レーザー測定機13の軸心17がフランジ面12の軸心36(図3参照)に合わせて、又は、フランジ面12の軸心36に略一致させて配置されるので、スキャニングユニット18が360度回転されると、照射レーザー光が円周に配置されたフランジ面12に沿って移動することになり、フランジ面12の円周角360度に対してフランジ面12の歪量を計測することが可能となる。
【0030】
なお、スキャニングユニット18の回転速度は、情報処理端末19からの入力操作により、1〜60rpmの範囲で変更可能であり、計測条件に合わせて回転速度を変えることができる。
また、パネル35から照射されるレーザー光はフォーカス制御が可能であり、フランジ面12とパネル35の距離に応じて最適なフォーカス設定がなされる。
【0031】
照射レーザー光は、フランジ面12に当たって反射され、その反射レーザー光は、照射レーザー光と同一の経路を経てパネル35を透過してスキャニングユニット18内に帰ってくる。スキャニングユニット18内に帰ってきた反射レーザー光は、プリズム34、33、32、31で順次進行方向を変えられた後、軸心17上を進みレーザー光送受信ユニット16内に進入し、ハーフミラー30を透過して光波入力部28に到達する。
光波入力部28は、受光した反射レーザー光の位相を基にして特定位置Pからフランジ面12までの距離Lを計測する。
【0032】
信号処理ユニット14は、スキャニングユニット18が360度の回転を行うにあたり、予め設定された角度Φの回転を行うごとに、光波入力部28から距離Lの値をシリアルデータとして取得し、この値をパラレルデータに変換して情報処理端末19に送る。情報処理端末19は、信号処理ユニット14からの取得した距離Lの値にcosθの値を乗算した距離データDを算出する(D=L・cosθ)。
そして、情報処理端末19は、距離データDを基にして、フランジ面12の歪量を計測する。
従って、レーザー測定機13によるフランジ面12の歪量の測定は、フランジ面12の円周角360度に対して角度Φのピッチで行われることになる。
Φは、0度を超え0.3度以下の範囲の角度で、情報処理端末19からの入力操作によって予め設定することができる。本実施の形態では、Φに0.1度が設定されており、スキャニングユニット18が360度回転することにより、フランジ面12上に設けられた3600個の箇所に対してフランジ面12の歪量が算出される。
【0033】
フランジ面12の歪量が計測される際、レーザー測定機13の軸心17はフランジ面12の軸心36に合わせて、又は、フランジ面12の軸心36に略一致させて配置されるが、このような配置は、例えば以下の手順により行うことができる。
まず、目視でレーザー測定機13と円形フランジ11の位置を確認しながら、位置決め架台15に載せられたレーザー測定機13を円形フランジ11の正面に配置する。次に、照射レーザー光の軸心17に対する角度を0度にして、照射レーザー光を軸心17と一致させた状態で照射レーザー光が円形フランジ11の中央領域に一致するようにレーザー測定機13の位置決めをし、レーザー測定機13の軸心17とフランジ面12の軸心36のおおまかな位置合わせを行う。このレーザー測定機13の位置決めは、位置決め架台15を操作することによって行うことができる。
【0034】
レーザー測定機13の軸心17とフランジ面12の軸心36のおおまかな位置合わせを行った後、照射レーザー光がフランジ面12に当たるように照射レーザー光の軸心17に対する角度を調整し、その角度を固定する。
そして、レーザー測定機13の軸心17を基準にスキャニングユニット18を回転させ、照射レーザー光のフランジ面12に当たる箇所が、フランジ面12に沿って360度移動するか否かを視認する。照射レーザー光のフランジ面12に当たる箇所が、フランジ面12に沿って360度移動しない場合には、位置決め架台15を操作して、レーザー測定機13の位置及び向きを微調整し、照射レーザー光がフランジ面12に沿って360度移動するようにする。
【0035】
そして、照射レーザー光がフランジ面12に沿って360度移動するように、フランジ面12に対してレーザー測定機13の位置及び向きが固定された状態のとき、レーザー測定機13の軸心17はフランジ面12の軸心36に合わせて、又は、フランジ面12の軸心36に略一致させて配置されていることになる。
【0036】
ここで、レーザー測定機の軸心と円形フランジの軸心が一致している場合には、フランジ面がレーザー測定機の軸心に対して垂直な向きにあることになり、フランジ面が歪のない完全平面であると仮定すると、フランジ面上の異なる複数の角度位置に対して計測されるフランジ面と特定位置の距離は全て同じ値となる。
これに対し、図3に示すように、フランジ面がレーザー測定機の軸心に対して傾いている場合、フランジ面と特定位置の距離は、フランジ面の角度位置によって異なる値となる。
一方、フランジ面がレーザー測定機の軸心に対して厳密な意味において傾きを全く有さないようにレーザー測定機の位置決めを行うのは、技術的に極めて困難である。
【0037】
従って、フランジ面の歪量を正確に測定するには、レーザー測定機の軸心に対するフランジ面の傾きを考慮することを要する。しかしながら、フランジ面の歪量の測定精度が低い場合には、レーザー測定機の軸心に対するフランジ面の傾きが多少あったとしても、その傾きは、フランジ面の歪量を計測するにあたって無視可能な要素となる。そのため、フランジ面の歪量の算出をする際に、レーザー測定機の軸心に対するフランジ面の傾きを無視するか否かは、円形フランジに対するレーザー測定機の位置決め精度と、フランジ面の歪量の計測に求められる精度の関係によって決められる。
【0038】
本実施の形態では、±0.05mmの精度でフランジ面12の歪量が計測されるため、レーザー測定機13の軸心17に対するフランジ面12の傾きを無視可能な精度で、円形フランジ11に対するレーザー測定機13の位置決めを行うのには、大掛かりな設備等が必要となり、費用面の観点等から現実的ではない。
従って、円形フランジの歪量測定装置10では、レーザー測定機13の軸心17に対するフランジ面の傾きを考慮した演算によって、フランジ面の歪量を計測している。
【0039】
具体的には、情報処理端末19が、距離データDの値からフランジ面12が完全平面と仮定した基準データを算出し、距離データDから基準データを差し引いてフランジ面12の歪量を測定するが、この基準データの算出の際に、レーザー測定機13の軸心17に対するフランジ面12の傾きを考慮した演算を行っている。
なお、実際に位置決め架台15の操作によってレーザー測定機13の位置決めを行ったところ、フランジ面12に対するレーザー測定機13の軸心17の向き調整の精度は±1度程度であり、これはレーザー測定機13の軸心17に対するフランジ面12の傾きを無視可能な精度ではなかった。
【0040】
以下に、本発明の一実施の形態に係る円形フランジの歪量測定方法において、フランジ面12の歪量を算出する具体的な手順について記載する。
フランジ面12の歪量を算出する前準備として、円形フランジの歪量測定装置10は、台車等によって運ばれ、レーザー測定機13が円形フランジ11まで距離を有する位置で、フランジ面12の正面位置となる場所に配置される。
次に、スキャニングユニット18を軸心17を基準に回転させたときに、照射レーザー光が、フランジ面12に沿って360度移動するようにレーザー測定機13の位置及び向きの調整とプリズム34の角度調整を行うと共に、照射レーザー光のフォーカス制御を行う。
【0041】
そして、フランジ面12の垂直方向と軸心17のなす角度がγ度以内になるようレーザー測定機13の向きが調節される。このγの値は、円形フランジ11の径の大きさや、フランジ面12と特定位置Pの距離等により定められ、本実施の形態ではγは0度より大きく3度以下の角度で、例えば2度である。
レーザー測定機13の向き調節は、フランジ面12とレーザー測定機13の距離を算出することによって行われる。以下にその向き調整について詳細に説明する。
軸心17を基準にスキャニングユニット18を回転させることにより、フランジ面12上の角度Φのピッチにある各測定箇所において、フランジ面12と特定位置Pの距離が測定される。このフランジ面12と特定位置Pの距離を、フランジ面12上の測定箇所の角度位置に対応させると図4(A)のように略正弦曲線になる。これは、軸心17がフランジ面12に垂直な方向に対して傾いているためであり、仮に傾きがなければ、フランジ面12と特定位置Pの距離をフランジ面12上の各測定箇所と対応させたものは略直線となる。略正弦曲線、略直線のように”略”と記載しているのは、フランジ面12には歪があり、厳密な意味において正弦曲線や直線にはならないためである。
【0042】
フランジ面12上の測定位置においてフランジ面12と特定位置Pの距離の最大値と最小値の差は、フランジ面12の垂直方向と軸心17のなす角度が大きくなるに従って大きくなる。
よって、情報処理端末19のディスプレイで、フランジ面12と特定位置Pの距離の最大値と最小値を視認しながら、レーザー測定機13の向きを調整することにより、フランジ面12の垂直方向に対する軸心17の角度がγ度以内にすることができる。
【0043】
ここで、フランジ面12の垂直方向に対する軸心17の角度がγ度以内にされるのは、フランジ面12の垂直方向に対する軸心17の角度が大きく(例えば、10度以上)、特定位置Pからフランジ面12までの距離をフランジ面12上の各測定箇所に対応させたものが、正弦曲線から遠ざかった曲線になるのを防ぐために行われる。これは、円形フランジの歪量測定装置10が、特定位置Pからフランジ面12までの距離をフランジ面12上の各測定箇所に対応させたものが、略正弦曲線であることを前提にしてフランジ面12の歪量を計測するためである。
【0044】
そして、スキャニングユニット18を軸心17を基準に回転することにより、照射レーザー光がフランジ面12に沿って360度移動し、かつ、フランジ面12の垂直方向と軸心17のなす角度がγ度以内になるようレーザー測定機13の位置及び向きを調整することによって、フランジ面12の歪量計測のための前準備が完了する。
前準備完了後、情報処理端末19からフランジ面12の歪量の算出を開始するための操作がなされると、スキャニングユニット18は軸心17を基準に360度回転する。このスキャニングユニット18の回転により、特定位置Pから発せられるレーザー光は、軸心17に対して一定角度θで旋回され(即ち、円錐面状にスキャンされ)フランジ面12に照射される。
なお、フランジ面12の歪量を計測する際、照射レーザー光の軸心17に対する角度は0度を超え60度以下の範囲の一定角度θで固定されている(0度<θ≦60度)。
また、フランジ面12上の複数の測定箇所におけるレーザー測定機13とフランジ面12の距離の平均値をHとして、図4(A)に記載のFはF=H×cosθの値である。
【0045】
信号処理ユニット14は、サーボモータ25からの出力値を基にスキャニングユニット18の回転角度を検知し、スキャニングユニット18が0.1度回転するごとに、特定位置Pからフランジ面12までの距離Lの値(例えば、図3に示すL1、L2)をレーザー測定機13から取得し、この取得した値をパラレル変換して情報処理端末19に出力する。
情報処理端末19は信号処理ユニット14から取得した複数のLの値に対してcosθをそれぞれ乗算して複数の距離データDを得る(例えば、L1及びL2からD1及びD2をそれぞれ得る)。なお、情報処理端末19が得た各Dの値は、フランジ面12の円周角360度に対して0.1度のピッチでフランジ面12上に3600個設けられた複数の計測箇所にそれぞれ対応している。
情報処理端末19により算出された距離データDを、フランジ面12上の各計測箇所に対応させると、図4(A)に示すように略正弦曲線を得ることができる。
【0046】
情報処理端末19は、3600個の距離データDを回帰分析して正弦曲線を求め、この正弦曲線を基準データとし、フランジ面12上の各計測箇所について、距離データDから基準データを差し引いて、フランジ面12の歪量を算出する。
本実施の形態では、回帰分析の際に最小二乗法を用いている。
算出されたフランジ面12の歪量は、図4(B)に示すように、前方(レーザー測定機13が配置されている方向)に突出するように歪んだ部分がプラスの値で表され、後方に窪むように歪んだ部分がマイナスの値で表される。図4(B)に示されているフランジ面12の120度位置〜130度位置で検出された窪んだ部分、及び135度位置付近の窪んだ部分はそれぞれ、フランジ面12の歪量が計測されているのを確かめるためにフランジ面12に付けた疵である。
【0047】
情報処理端末19は、信号処理ユニット14から得た距離Lの値を基に算出したフランジ面12の歪量を、情報処理端末19のハードディスク等へ保存可能であり、また、情報処理端末19のディスプレイには、フランジ面12の歪量等を表示することができる。
【0048】
以上、本発明の実施の形態を説明したが、本発明は、上記した形態に限定されるものでなく、要旨を逸脱しない条件の変更等は全て本発明の適用範囲である。
【符号の説明】
【0049】
10:円形フランジの歪量測定装置、11:円形フランジ、12:フランジ面、13:レーザー測定機、14:信号処理ユニット、15:位置決め架台、16:レーザー光送受信ユニット、17:軸心、18:スキャニングユニット、19:情報処理端末、21:高さ調整部材、22:水平プレート、23:位置調整台、24:支持部材、25:サーボモータ、26:動力伝達ベルト、27:光波出力部、28:光波入力部、29:プリズム、30:ハーフミラー、31〜34:プリズム、35:パネル、36:軸心

【特許請求の範囲】
【請求項1】
特定位置から軸心に対して一定角度θで旋回しながら発せられるレーザー光を、歪を測定しようとする円形フランジの測定面に照射して、その反射レーザー光を受光し、前記特定位置から前記円形フランジまでの距離にcosθを乗算した距離データを得て、該距離データから前記測定面が完全平面と仮定した基準データを算出し、前記距離データから前記基準データを引いて、前記円形フランジの歪量を測定することを特徴とする円形フランジの歪量測定方法。
【請求項2】
歪を測定しようとする円形フランジの前方に配置されて、特定位置から軸心に対して一定角度θで旋回し円錐面状にスキャンするレーザー光を発して前記円形フランジの測定面に照射し、該測定面からの反射レーザー光を受光して、前記特定位置から前記測定面までの距離を測定するレーザー測定機と、前記レーザー測定機を載せて所定方向に前記レーザー測定機の軸心を向ける位置決め手段と、前記レーザー測定機から取得した前記特定位置から前記測定面までの距離の値にcosθを乗算し距離データを得て、該距離データから前記測定面が完全平面と仮定した基準データを算出し、前記距離データから前記基準データを引いて、前記円形フランジの歪量を算出する演算部とを有することを特徴とする円形フランジの歪量測定装置。
【請求項3】
請求項2記載の円形フランジの歪量測定装置において、前記レーザー測定機は、前記レーザー光を出力する光波出力部及び前記反射レーザー光を受光する光波入力部を備えたレーザー光送受信ユニットと、前記レーザー光が通過する経路を前記軸心に対して一定角度で屈曲させ、かつ前記一定角度で屈曲した経路を旋回させるスキャニングユニットとを有することを特徴とする円形フランジの歪量測定装置。
【請求項4】
請求項3記載の円形フランジの歪量測定装置において、前記レーザー光送受信ユニットには、前記スキャニングユニットを前記軸心を基準に回転させるサーボモータが設けられ、前記演算部は、該サーボモータからの出力値を基に前記スキャニングユニットの回転角度を検知することを特徴とする円形フランジの歪量測定装置。
【請求項5】
請求項2〜4のいずれか1記載の円形フランジの歪量測定装置において、前記θは0度を超え60度以下の範囲にあって、前記レーザー測定機の軸心は前記円形フランジの軸心に合わせて又は該円形フランジの軸心に略一致させて配置されることを特徴とする円形フランジの歪量測定装置。
【請求項6】
請求項2〜5のいずれか1記載の円形フランジの歪量測定装置において、前記測定面の歪量の測定は、円周角360度に対して0度を超え0.3度以下のピッチで行われることを特徴とする円形フランジの歪量測定装置。
【請求項7】
請求項2〜6のいずれか1記載の円形フランジの歪量測定装置において、前記演算部は、前記測定面の複数箇所について算出された前記距離データを回帰分析して求めた正弦曲線を前記基準データとすることを特徴とする円形フランジの歪量測定装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2012−63267(P2012−63267A)
【公開日】平成24年3月29日(2012.3.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−208264(P2010−208264)
【出願日】平成22年9月16日(2010.9.16)
【出願人】(000178011)山九株式会社 (48)
【Fターム(参考)】