説明

再生プラスチック成形材料の製造方法

【課題】水性塗料の使用済み塗料缶から、汎用性の再生プラスチック成形材料を実用製造することができる新規な再生プラスチック成形材料の製造方法を提供すること。
【解決手段】使用済みの水性塗料のプラスチック缶(廃棄プラスチック缶)から再生プラスチック成形材料を製造する方法。廃棄プラスチック缶を、ロータリーカッター型の粉砕機17を用いて水供給下にて粉砕後、該粉砕混合物を、塗料をプラスチック粉砕物から、沈降分離槽30で沈降分離させて、上方の浮遊プラスチック粉砕物を、脱水機36で脱水回収して再生プラスチック成形材料とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水系塗料用プラスチック缶から再生プラスチック成形材料を製造する新規な方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、水系塗料の塗料缶は、ブリキ缶等のスチール缶が主流であった。ブリキ缶は錫めっき品であるため、錫汚染に考慮する必要があり、かつ、錆が発生し、さらには、重量的にも問題があった。また、使用済み缶は、搬送する際、嵩張るという問題点があった。
【0003】
このため、塗料缶の一部が蓋付き・取っ手付きプラスチック缶に代用されつつある。
当該プラスチック缶を再利用するためには、綺麗に内側を洗浄する必要があり、非常に工数が嵩んだ。このため、プラスチック缶を破砕して、再利用することが考えられる。
【0004】
しかし、使用済みプラスチック缶には、相当量の塗料が付着しているため、粉砕後、付着塗料を除去しない状態では、一般の成形用プラスチック材料としては、殆ど利用できないとされていた。
【0005】
ちなみに、特許文献1の段落0004・0005には、ポリプロピレン製の塗装バンパーの例であるが、下記概要の記載がある。
【0006】
バンパーを直径数mm程度に粉砕し、不純物を除去、洗浄を行った後、溶融押出の際に安定剤を添加するとともに、ろ過することによって塗膜を除去し、押し出された樹脂をペレット化する方法が提案されている。しかし、上記方法によるペレット材(再生プラスチック成形材料)は、一般にバージンに対して、約5%以下の割合でしか混合できないという問題点がある。
【0007】
このため、付着塗料をプラスチックから除去する必要があるが、本発明者らは、水性塗料の塗料缶を、汎用性の再生プラスチック成形材料とする方法は寡聞にして知らない。
【0008】
なお、前記特許文献1には、前記問題点を解決するために、下記構成の塗装ポリプロピレン系樹脂製バンパーの再生方法が提案されている(特許請求の範囲等参照)。
【0009】
「塗装ポリプロピレン系樹脂製バンパーを0.1〜10mmの大きさに粉砕し、粉砕物を界面活性剤溶液中で攪拌した後静置し、しかる後浮遊部分を回収し、乾燥することを特徴とする塗装ポリプロピレン系樹脂製バンパーの再生方法。」
【特許文献1】特開平5−155810号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明は、上記に鑑みて、上記特許文献等に記載されていない、使用済みの水性塗料のプラスチック缶から、汎用性の再生プラスチック成形材料を実用製造することができる新規な再生プラスチック成形材料の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明は、上記課題を下記構成により解決するものである。
【0012】
使用済みの水性塗料のプラスチック缶(以下「廃棄プラスチック缶」という。)から再生プラスチック成形材料を製造する方法であって、
前記廃棄プラスチック缶を水供給下にて粉砕後、該粉砕混合物を、塗料をプラスチックから沈降分離させて再生プラスチック材料を製造することを特徴とする。
【0013】
従来、水性塗料は、本来的に水溶性乃至水分散系(エマルション)であるため水を用いた比重分離は不可能視されていた。しかし、本発明者らが、使用済み水性塗料のプラスチック缶(プラスチック缶の内部に水性塗料が付着している。)は、水供給下にて(散水しながら)粉砕することにより、モミ洗い的に水性塗料がプラスチック粉砕物から剥離し、さらに、該水分散系の粉砕混合物は、塗料を沈降分離(水性塗料の塗膜成分が沈降する。)ができることを知見して、本発明に想到した。水性塗料とプラスチック缶を良好(効率的)に分離できるため、本発明の再生プラスチック材料は、もとの水性塗料プラスチック缶の成形材料としては勿論、他の成形品の成形材料としても使用可能なことが期待できる。
【0014】
上記構成において、前記廃棄プラスチック缶が、本体とともに蓋及び取っ手を含む全体が同一プラスチック材料からなるものを使用することが望ましい。
【0015】
本発明の方法を、破棄プラスチック缶を本体とともに蓋及び取っ手を含む全体を同一プラスチック材料で成形したものに適用すれば、廃棄プラスチック缶から取っ手を除去する手間、缶本体と蓋体とを分別する手間が不要となり、再生プラスチック成形材料の製造効率(生産性)がさらに向上する。
【0016】
上記各構成において、前記プラスチック材料がPE(ポリエチレン)又はPP(ポリプロピレン)であることが望ましい。
【0017】
プラスチック材料をPE(通常、高密度・中密度PE)又はPPとすることにより、他のPET等の極性プラスチックに比して、粉砕時の塗料の剥離性(水性塗料が極性材料からなりPEやPPは非極性材料)が良好で、さらには、水を用いた比重差(PE:0.92〜0.96)による沈降分離効率も良好となる。
【0018】
上記各構成において、前記廃棄プラスチック缶の粉砕を、固定刃と、回転刃と、回転刃の先端が摺動する粉砕物排出スクリーンとを備えたロータリーカッター型粉砕機を用いて行なうことが望ましい。
【0019】
上記構成において、通常、前記スクリーンの目開きが6〜30mmのロータリーカッター型粉砕機を用い、回転刃の回転数100〜200min-1で、前記廃棄プラスチック缶の粉砕を行なう。
【0020】
上記各構成で製造した再生プラスチック成形材料は、各種成形品の成形用材料とすることができるが、当該再生プラスチック成形材料を用いて、水性塗料プラスチック缶を射出成形することが望ましい。
【0021】
同一成形品に使用するため、プラスチック成形材料の再調製(例えば他の薬剤の添加)が不要となる。
【0022】
上記構成において、バージンプラスチック材料100質量部に対して再生プラスチック成形材料を1〜30質量部混合することが望ましい。
【0023】
バージンプラスチック材料に対して再生プラスチック成形材料を、所定比率内で混合することにより、再度、繰り返し、再生プラスチック成形材料の原料とすることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0024】
以下、本発明の各構成(発明特定事項)について、詳細に説明をする。なお、以下の説明で配合単位「部」、「%」及び配合比は、特に断らない限り質量単位とする。
【0025】
本発明は、使用済みの水性塗料のプラスチック缶(以下「廃棄プラスチック缶」という。)から再生プラスチック成形材料を製造する方法に係る。図1に本体12とともに、蓋14及び取っ手16もオールプラスチックとした水性塗料用プラスチック缶を示す。
【0026】
ここで、水性塗料とは、熱可塑性合成樹脂系のエマルションタイプないしサスペンションタイプを挙げることができる。より具体的には、アクリルエマルション系やアクリルアミド系を挙げることができ、粉砕効率やプラスチック基材からの水存在下での粉砕時における剥離性の見地からは、相対的に伸び(JIS A 6909:「建築仕上塗材」における伸試験
)が小さいものが望ましい。例えば、塗膜破断伸び:1〜30%、望ましくは1〜10%とする。但し、塗料の種類によっては、伸びが大きくても、剥離可能であれば。本発明は適用可能である。
【0027】
そして、水性塗料の平均的な付着量は、例えば、蓋付き・取っ手全てPE製とした、18LのPE缶の場合、規格総重量810g(本体:605g+蓋:180g+取っ手:15g)について、約80〜100gであることを確認している。
【0028】
プラスチック缶の成形材料は、ポリエステル(PET)等の極性プラスチックでもよいが、通常、ポリエチレン(PE)やポリプロピレン(PP)等のポリオレフィン系樹脂とする。これらは、軽量(比重が1以下)であり、また、極性塗料塊と剥離が容易であり、さらには、水存在下での沈降分離が容易なためである。これらのうちでPEが、最も極性が低いため望ましい。
【0029】
そして、上記廃棄プラスチック缶の粉砕は、特に、水供給下(シャワーリング乃至垂れ流し)で粉砕できれば、特に限定されず、ロータリーカッタータイプ等を使用可能である。
【0030】
ロータリーカッタータイプの粉砕機17の一例を図2に示す(「化学工学協会編「化学工学便覧 改定四版」(昭53−10−25)丸善、p1293、図17・36参照)その構成は、下記の如くである。
【0031】
円形の粉砕バレル18に回転刃(回転ナイフ)20が、その先端が粉砕バレル18の内壁を摺動するように取り付けられるとともに、粉砕バレル18の斜め上側半分(図例では45°傾斜)が砕料投入口(ホッパー)22とされるとともに、斜め下側半分がスクリーン(篩い網)24とされている。そして、該スクリーン24の両側に固定刃(固定ナイフ)26、26が取り付けられている。
【0032】
プラスチックの粉砕は、主として回転刃20と固定刃26との間に発生する剪断力により行われる。砕料投入口22から投入されたプラスチック片は、スクリーンを通過して排出される。このとき、水を供給しながら行なう。水の供給(散水ノズル28により行う。)は、塗料のプラスチック材からの剥離、及び、粉砕バレル内の粉砕エネルギーの昇温によるプラスチックの軟化による破砕能低化を防止するためである。
【0033】
なお、砕料(廃棄プラスチック缶)は、砕料投入口22へそのまま投入可能な大きさであれば、そのまま投入する。そうでない場合は、30cm前後の大きさに粗砕(一次破砕)して砕料投入口へ投入する。
【0034】
こうして、スクリーン24を通過した粉砕プラスチック/塗料/水混合物(原料)は、
図3に示す如く、沈降分離槽30の供給部に連続的に落下(流下)供給させる。この原料(水分散体)の沈降分離槽30への供給は、粉砕バレル18の砕製物出口32から、沈降分離槽30への原料供給シュート33を介して行う。直接落下させてもよいが、その場合は、沈降分離槽30の液面が撹乱されて沈降分離効率が低化するおそれがある。
【0035】
また、供給原料(水分散体)は、静置して塗料等を粉砕プラスチックから沈降分離させてもよい。しかし、本実施形態では、下記のような、沈降分離槽及び脱水機36を用いて粉砕プラスチックの分離回収操作をすることが望ましい。
【0036】
沈降分離槽30は、供給側30aから排出側(溢流部)30bとを備え、供給側から排出側への流れに沿って複数の散水ノズル34が配設されている。そして、該沈降分離槽30の溢流部30bと脱水機36との間には、穴明きシュート38が配されている。なお、沈降分離槽30の流れ方向長さは、5〜30mとする。
【0037】
そして、沈降分離槽30へ連続供給される原料は、上方からの散水を受けながら沈降分離槽30を溢流部30aへ水流れにより移動する。当該移動中に、粉砕プラスチックに残存付着している塗料・ごみ等が散水(シャワー力)により除去されて、溢流部30bから穴明きシュート38を介して脱水機(図例では遠心型)36へ供給される。沈降分離した塗料(泥状物)は、底部の排泥口30cから排泥される。また、沈降分離槽30及び脱水機38からの排水は、ポンプにより粉砕機17の散水ノズル28に戻して、供給水として循環使用する。
【0038】
なお、本実施形態では,脱水機36の脱水カゴ37への被脱水物の供給は、真空吸引ダクト35A、35Bを用いた真空吸引による空気輸送であるが、上方から落下供給させてもよい。
【0039】
こうして回収した粉砕プラスチックは、大きさが、20mmアンダーから6mmアンダーであり、再生プラスチック材料としてそのまま使用可能である。適宜、リペレット化してもよい。
【0040】
通常、バージン成形材料に、1〜30%、望ましくは、5〜15%の範囲で混合して射出成形材料とする。この範囲の混入率とした場合、20回程度まで、再生使用可能となる。
【実施例】
【0041】
本発明の効果を確認するために行った実施例について説明をする。
【0042】
なお、使用した塗料缶は、前述の規格総重量810gの高密度PE製のものを使用した。
【0043】
そして、使用済み塗料缶10缶の合計重量は、8900gであった。
【0044】
水性塗料(「ナチュラルトーン」菊水化学社製)の使用済み蓋付き塗料缶10缶(合計8900g)を、下記条件に従って、粉砕後、得られた粉砕プラスチック/塗量混合水系分散体を、沈降分離槽に供給して、シャワー水を供給しながら30秒から1分の範囲で通過させて、塗料を沈降分離させ、溢流排出後、脱水してプラスチック粉砕物(7700g)を回収した。
【0045】
この結果から、プラスチック粉砕物の合計量は、略、未使用使用済み塗料缶10缶の合計量(付着塗料を殆ど剥離分離できたことを確認した。
【0046】
使用粉砕機:ロータリーカッター式「V−420」
回転刃回転数:500min-1
破砕時間:5min
投入水量:20L
そして、こうして調製した再生PE成形材料をバージンPE成形材料100部に対して10部となるように混合して、同規格の水性塗料用プラスチック缶(ペイル缶)を射出成形した。
【0047】
射出成形条件は、190〜220℃×150MPa、サイクル時間:30秒とした。
【0048】
バージンPEと変わらない外観・強度のPE塗料缶が得られた。
【図面の簡単な説明】
【0049】
【図1】水性塗料用のプラスチック缶の一例を示す分解斜視図である。
【図2】本発明の再生プラスチック成形材料の製造方法に使用するプラント図の一例を示すモデル図である。
【図3】ロータリーカッター型粉砕機の拡大モデル断面図である。
【符号の説明】
【0050】
12 廃棄プラスチック缶本体
14 プラスチック缶蓋体
16 プラスチック缶取っ手
17 ロータリーカッター(粉砕機)
30 沈降分離槽
36 脱水機

【特許請求の範囲】
【請求項1】
使用済みの水性塗料のプラスチック缶(以下「廃棄プラスチック缶」という。)から再生プラスチック材料を製造する方法であって、
前記廃棄プラスチック缶を、水供給下にて粉砕後、該粉砕混合物を、塗料をプラスチックから沈降分離させて再生プラスチック材料を製造することを特徴とする再生プラスチック成形材料の製造方法。
【請求項2】
前記廃棄プラスチック缶が、本体とともに蓋及び取っ手を含む全体が同一プラスチック材料からなることを特徴とする請求項1記載の再生プラスチック成形材料の製造方法。
【請求項3】
前記プラスチック材料がPE(ポリエチレン)又はPP(ポリプロピレン)であることを特徴とする請求項1又は2記載の再生プラスチック成形材料の製造方法。
【請求項4】
前記廃棄プラスチック缶の粉砕を、固定刃と、回転刃と、該回転刃の先端が摺動する粉砕物排出スクリーンとを備えたロータリーカッター型粉砕機を用いて行うことを特徴とする請求項1、2又は3記載の再生プラスチック成形材料の製造方法。
【請求項5】
前記スクリーンの目開きが6〜30mmのロータリーカッター型粉砕機を用い、回転刃の回転数30〜2000min-1で、前記廃棄プラスチック缶の粉砕を行うことを特徴とする請求項4記載の再生プラスチック成形材料の製造方法。
【請求項6】
請求項1〜5で製造した再生プラスチック成形材料を用いて水性塗料プラスチック缶を射出成形することを特徴とする水性塗料プラスチック缶の成形方法。
【請求項7】
バージンプラスチック材料100質量部に対して前記再生プラスチック成形材料を1〜30質量部混合して射出成形することを特徴とする請求項6記載の水性塗料プラスチック缶の成形方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2008−88295(P2008−88295A)
【公開日】平成20年4月17日(2008.4.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−270681(P2006−270681)
【出願日】平成18年10月2日(2006.10.2)
【出願人】(000159032)菊水化学工業株式会社 (121)
【出願人】(591006944)三甲株式会社 (380)
【Fターム(参考)】