説明

冷凍サイクル、可変容量圧縮機および吐出弁

【課題】低温環境下および高温環境下のいずれにおいても冷凍サイクルの安定性および安全性を確保する。
【解決手段】圧縮機においては、最小容量運転移行時に圧力Pdhと圧力Pdlとの差圧(Pdh−Pdl)が開弁差圧ΔP1よりも小さくなると、吐出弁7の第1の弁部が閉弁し、吐出冷媒の漏洩および逆流を防止する。一方、このように第1の弁部が閉弁した状態において圧力Pdlが圧力Pdhよりも高くなった場合、その差圧(Pdl−Pdh)が開弁差圧ΔP2よりも大きくなると第2の弁部が開弁し、吐出冷媒の逆流を低流量に規制しつつも許容する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、空調装置に好適な冷凍サイクル、その冷凍サイクルを構成する可変容量圧縮機、およびその可変容量圧縮機の吐出冷媒の流れを制御する吐出弁に関する。
【背景技術】
【0002】
自動車用空調装置は、一般に、その冷凍サイクルを流れる冷媒を圧縮して高温・高圧のガス冷媒にして吐出する圧縮機、そのガス冷媒を凝縮する凝縮器、凝縮された液冷媒を断熱膨張させることで低温・低圧の冷媒にする膨張装置、その冷媒を蒸発させることにより車室内空気との熱交換を行う蒸発器等を備えている。蒸発器で蒸発された冷媒は、再び圧縮機へと戻され、冷凍サイクルを循環する。
【0003】
この圧縮機としては、エンジンの回転数によらず一定の冷房能力が維持されるように、冷媒の吐出容量を可変できる可変容量圧縮機(単に「圧縮機」ともいう)が用いられている。この圧縮機は、エンジンによって回転駆動される回転軸に取り付けられた揺動板に圧縮用のピストンが連結され、揺動板の角度を変化させてピストンのストロークを変えることにより冷媒の吐出量を調整する。揺動板の角度は、密閉されたクランク室内に吐出冷媒の一部を導入し、ピストンの両面にかかる圧力の釣り合いを変化させることで連続的に変えられる。このクランク室内の圧力(以下「クランク圧力」という)Pcは、圧縮機の吐出室とクランク室との間、またはクランク室と吸入室との間に設けられた可変容量圧縮機用制御弁(単に「制御弁」ともいう)により制御される。
【0004】
ところで、このような圧縮機は、エンジンの大きな負荷になり得る。このため、例えば車両の急加速時や登坂走行時など、エンジンの動力を車両の推進力に振り向けたい高負荷時には、その圧縮機の負荷トルクを低減する必要がある。従来においては、この負荷トルクを一時的にカットできるように、回転軸の一端にエンジンの駆動力を伝達または遮断する電磁クラッチが設けられた圧縮機も採用されていた。しかし、低コスト化等の理由から近年では電磁クラッチを用いずにエンジンと回転軸とを直結したいわゆるクラッチレス式の圧縮機が主流になりつつある。
【0005】
このクラッチレス式の圧縮機には、例えば吐出室からクランク室へ通じる通路を開閉制御する弁部と、その弁部を閉じ方向に作用させるような電磁力を発生させるソレノイドとを備えた外部制御方式の制御弁が用いられる。この制御弁では、ソレノイドへの通電を遮断すると弁部が全開状態となり、クランク室内の圧力(「クランク圧力」という)Pcを上昇させることができる。その結果、揺動板が回転軸に対してほぼ直角になり、圧縮機を最小容量運転に移行させることができる。つまり、エンジンと回転軸とが直結されていても、実質的に吐出容量をゼロに近づけることができ、それにより負荷トルクを最小化することができる。
【0006】
このような制御弁としては、例えば圧縮機の吸入圧力Psに基づいて弁開度を調整して容量制御を行ういわゆるPs感知弁や、吐出圧力Pdと吸入圧力Psとの差圧(Pd−Ps)に基づいて容量制御を行ういわゆるPd−Ps弁などが採用される。Ps感知弁は、蒸発器出口側の冷媒温度に比例する吸入圧力Psを制御するため、過剰冷房による蒸発器の凍結を防止する等の観点からは好ましい。しかし、熱負荷により変化する吸入圧力Psに基づく制御であるため、吐出容量を直接的に制御するのは難しい。一方、Pd−Ps弁は、吐出圧力Pd自体の大きさに基づいた容量制御を行うため、熱負荷によらず吐出容量を連続的に制御することができるという利点がある。ただし、差圧(Pd−Ps)の制御に伴って吸入圧力Psが下がると、過剰冷房となることもあり得るため、通常は蒸発器の出口温度がフィードバックされて吸入圧力Psが下がり過ぎないような制御が行われる。
【0007】
ところで、このような制御弁により圧縮機が最小容量運転に移行しても、揺動板に若干の傾きがあるため、通常はその吐出容量を完全にゼロにすることはできない。このため、特に冬場などの低温環境下においてはその僅かな冷媒の流れによって蒸発器が凍結する可能性もあり得る。また、ソレノイドへの通電を遮断した際に吐出圧力Pdが急激に低下すると、一時的にその圧縮機出口の圧力Pdlが吐出室出口の圧力Pdhよりも高くなり、吐出冷媒が吐出室へ逆流する可能性もある。
【0008】
これに対し、例えば吐出室と凝縮器との間の冷媒通路に逆止弁を設けた空調装置も提案されている(例えば特許文献1参照)。このような空調装置によれば、クラッチ付き圧縮機を採用した場合にはその電磁クラッチのオフによる圧縮機の停止時、クラッチレス式圧縮機を採用した場合にはその最小容量運転移行時において逆止弁が閉弁する。それにより、圧縮機から凝縮器への冷媒の流出や吐出室への冷媒の逆流を防止することができる。
【特許文献1】特開2001−153042号公報〔段落[0081]等〕
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、このような逆止弁の閉弁により吐出室と凝縮器との間の冷媒の流通が完全に遮断されると、逆に問題が生じる場合もある。すなわち、このように逆止弁が閉じられると圧縮機側で冷媒の内部循環が行われることもあり、吸入圧力Psが速やかに上昇する。その結果、この吸入圧力Psを感知した膨張装置の弁が閉じられ、逆止弁と膨張装置との間の凝縮器を含む高圧領域に液冷媒が閉じこめられる場合がある。このとき、仮に膨張装置の弁部の閉止性能が十分でないと、その弁部の隙間から冷媒が高速で流れ出して異音を発生させる可能性がある。また、このような状態で車両が高温環境下に置かれると、凝縮器の温度上昇とともに冷媒の飽和圧力が上昇する。その結果、高圧領域の内圧が過度に高くなってその配管や継ぎ手部等から外部への冷媒漏れが発生する可能性もある。地球温暖化防止等の観点からこれについては極力防止しなければならない。
【0010】
本発明はこのような問題に鑑みてなされたものであり、低温環境下および高温環境下のいずれにおいても冷凍サイクルの安定性および安全性を確保することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記課題を解決するために、本発明のある態様の冷凍サイクルは、空調装置を構成する冷凍サイクルにおいて、吸入室から吸入された冷媒を圧縮して吐出室から吐出する可変容量圧縮機と、可変容量圧縮機から吐出された冷媒を冷却する外部熱交換器と、外部熱交換器から送出された冷媒を減圧する膨張装置と、膨張装置にて減圧された冷媒を蒸発させるとともに可変容量圧縮機に向けて送出する蒸発器と、可変容量圧縮機の吐出室からクランク室に導入する冷媒流量を調整して、可変容量圧縮機の吐出容量を変化させる制御弁と、可変容量圧縮機の吐出室と外部熱交換器との間の冷媒通路に設けられ、その吐出室側の圧力である一次圧と、その外部熱交換器側の圧力である二次圧との差圧が第1の差圧よりも小さくなったときに閉弁して吐出冷媒の順方向の流れを遮断する第1の弁部と、第1の弁部の閉弁時において二次圧と一次圧との差圧が第2の差圧よりも大きくなったときに開弁して吐出冷媒の逆流を許容する第2の弁部とを含む弁装置と、を備える。
【0012】
この態様によると、一次圧が二次圧よりも高いとき、例えば可変容量圧縮機の通常の制御状態においては第1の弁部が開弁状態を保持し、冷凍サイクルにおける順方向の冷媒の流れを確保する。そして、可変容量圧縮機の停止時または最小容量運転移行時にその一次圧と二次圧との差圧が第1の差圧よりも小さくなると第1の弁部が閉弁し、吐出冷媒の漏洩を防止するとともにその逆流を防止する。これにより、低温環境下における蒸発器の凍結等が防止される。また、クランク圧力の急上昇を抑制することもできる。一方、このように第1の弁部が閉弁した状態において逆に二次圧が一次圧よりも高くなった場合、その二次圧と一次圧との差圧が第2の差圧よりも大きくなると第2の弁部が開弁し、吐出冷媒の逆流を一時的に許容する。このため、吐出室と膨張装置との間の高圧領域の圧力上昇が抑制され、高温環境下において冷媒が外部に漏洩することも防止される。その結果、低温環境下および高温環境下のいずれにおいても冷凍サイクルの安定性および安全性を確保することができる。
【0013】
本発明の別の態様は、空調装置の冷凍サイクルを構成し、蒸発器側から吸入室に導入された冷媒を圧縮して吐出室から外部熱交換器側へ吐出する可変容量圧縮機である。この可変容量圧縮機は、可変容量圧縮機の吐出室からクランク室に導入する冷媒流量を調整して吐出容量を変化させる制御弁と、吐出室の出口と当該可変容量圧縮機の出口とをつなぐ冷媒通路に設けられ、その吐出室側の圧力である一次圧と、その外部熱交換器側の圧力である二次圧との差圧が第1の差圧よりも小さくなったときに閉弁して吐出冷媒の順方向の流れを遮断する第1の弁部と、第1の弁部の閉弁時において二次圧と一次圧との差圧が第2の差圧よりも大きくなったときに開弁して吐出冷媒の逆流を許容する第2の弁部とを含む弁装置と、を備える。
【0014】
このような弁装置が組み込まれた可変容量圧縮機を適用することにより、低温環境下および高温環境下のいずれにおいても冷凍サイクルの安定性および安全性を確保できる。
【0015】
本発明のさらに別の態様は、冷凍サイクルの蒸発器側から吸入室に導入された冷媒を圧縮して吐出室から外部熱交換器側へ吐出する可変容量圧縮機による吐出冷媒の流れを制御する吐出弁である。この吐出弁は、吐出室と外部熱交換器との間の冷媒通路に配設されたボディと、ボディに一体に設けられた第1弁座と、第1弁座に外部熱交換器側から接離して第1の弁部を開閉するとともに、その吐出室側の圧力である一次圧とその外部熱交換器側の圧力である二次圧との差圧が第1の差圧よりも小さくなったときに閉弁して吐出冷媒の順方向の流れを遮断する第1弁体と、第1弁体に形成された連通孔の開口部に設けられた第2弁座と、第2弁座に吐出室側から接離して第2の弁部を開閉するとともに、第1の弁部の閉弁時において二次圧と一次圧との差圧が第2の差圧よりも大きくなったときに開弁して吐出冷媒の逆流を許容する第2弁体と、を備える。
【0016】
この吐出弁は、可変容量圧縮機に組み込まれてその一部を構成してもよいし、可変容量圧縮機とは別体に構成され、その吐出室と外部熱交換器との間に配設されてもよい。このような吐出弁が組み込まれた可変容量圧縮機を適用することにより、低温環境下および高温環境下のいずれにおいても冷凍サイクルの安定性および安全性を確保できる。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、低温環境下および高温環境下のいずれにおいても冷凍サイクルの安定性および安全性を確保することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
以下、本発明の実施の形態を、図面を参照して詳細に説明する。なお、以下の説明においては、便宜上、図示の状態を基準に各構造の位置関係を上下と表現することがある。
【0019】
図1は、実施の形態に係る冷凍サイクルを表すシステム構成図である。
この冷凍サイクルは、車両用空調装置を構成し、冷凍サイクルを循環する冷媒を圧縮する可変容量圧縮機(単に「圧縮機」という)1、圧縮された冷媒を凝縮して冷却する凝縮器2(「外部熱交換器」に該当する)、凝縮された冷媒を断熱膨張させる膨張装置3、および膨張された冷媒を蒸発させる蒸発器4を備えている。
【0020】
圧縮機1は、蒸発器4側から吸入室51に導入された冷媒ガスをシリンダ52に導入して圧縮し、吐出室53から凝縮器2側へ高温・高圧の冷媒を吐出する。この吐出冷媒の一部は可変容量圧縮機用制御弁(単に「制御弁」という)5を介してクランク室54内に導入され、圧縮機1の容量制御に供される。制御弁5は、ソレノイド駆動の電磁弁として構成され、制御部6により駆動回路50を介して通電制御される。クランク室54と吸入室51とを連通する冷媒通路55にはオリフィス56が設けられており、クランク室54内の圧力を減圧して吸入室51側へ導出可能になっている。また、圧縮機1の吐出室53と凝縮器2との間の冷媒通路には、後に詳述する吐出弁7が設けられている。
【0021】
図2は、圧縮機の構成を表す断面図である。
圧縮機1は、そのハウジングとして、複数のシリンダ52が形成されたシリンダブロック101と、その前端側に接合されたフロントハウジング102と、後端側にバルブプレート103を介して接合されたリアハウジング104とを備えている。シリンダブロック101とフロントハウジング102とにより囲まれた内部空間によりクランク室54が形成されている。
【0022】
クランク室54には、その中心を貫通するように回転軸106が配置されている。この回転軸106は、シリンダブロック101に設けられた軸受107と、フロントハウジング102に設けられた軸受108とによって回転自在に支持されている。回転軸106にはラグプレート109が固定されており、そのラグプレート109に突設された支持アーム110等を介して揺動板111が支持されている。揺動板111は、回転軸106の軸線に対して傾動可能となっており、複数のシリンダ52に摺動自在に配置されたピストン112にシュー114を介して連結されている。回転軸106は、その前端部分がフロントハウジング102を貫通して外部に延出しており、その先端部分にはブラケット117が螺着されている。また、回転軸106とフロントハウジング102との前端部分の隙間を外側からシールするように、リップシール115が設けられている。
【0023】
フロントハウジング102の前端部分には、エンジンからの駆動力を伝達するプーリ118が軸受119を介して回転自在に支持されている。このプーリ118は、エンジンの駆動力をブラケット117を介して回転軸106に伝達する。
【0024】
リアハウジング104の内部には、吸入室51、吐出室53、制御弁5および吐出弁7が配設されている。吸入室51は、バルブプレート103に設けられた吸入用リリーフ弁121を介してシリンダ52に連通するとともに蒸発器4にも連通している。吐出室53は、バルブプレート103に設けられた吐出用リリーフ弁122を介してシリンダ52に連通するとともに凝縮器2にも連通している。制御弁5は、吐出室53とクランク室54との間を連通する冷媒通路に配置されている。吐出弁7は、吐出室53と圧縮機1の出口とをつなぐ冷媒通路に配置されている。
【0025】
圧縮機1の揺動板111は、その角度がクランク室54内でその揺動板111を付勢するスプリング125、126の荷重や、揺動板111につながるピストン112の両面にかかる圧力による荷重等がバランスした位置に保持される。この圧縮機1の揺動板111の角度は、クランク室54内に吐出冷媒の一部を導入してクランク圧力Pcを変化させ、ピストン112の両面にかかる圧力の釣り合いを変化させることによって連続的に変えられる。この揺動板111の角度の変化によってピストン112のストロークを変えることにより、冷媒の吐出容量を調整するようにしている。このクランク室54内の圧力は、制御弁5により制御される。
【0026】
制御弁5は、圧縮機1の吐出圧力Pdと吸入圧力Psとの差圧に基づいて自律的に弁部を開閉し、その差圧(Pd−Ps)が制御目標値である設定差圧に近づくように吐出室53からクランク室54に導入する冷媒流量を調整する。これにより、圧縮機1の吐出容量が変化する。制御弁5は、ソレノイド駆動の電磁制御弁として構成され、制御部6により駆動回路50を動作させることにより通電制御される。本実施の形態では、制御部6が駆動回路50に所定のデューティ比に設定されたパルス信号を出力し、駆動回路50からそのデューティ比に対応した電流パルスを出力させてソレノイドを駆動するデューティ制御を行う。
【0027】
図1に戻り、制御部6は、各種演算処理を実行するCPU、各種制御プログラムを格納するROM、データ格納やプログラム実行のためのワークエリアとして利用されるRAM、入出力インターフェース等を備える。制御部6は、指定したデューティ比のパルス信号を出力するPWM出力部を有するが、その構成自体には公知のものが採用されるため、詳細な説明を省略する。制御部6は、エンジン回転数、車室内外の温度、蒸発器4の吹き出し空気温度等、各種センサにて検出された所定の外部情報に基づいて上記設定差圧を決定し、その設定差圧が保持されるソレノイド力が得られるように制御弁5への通電制御を行う。また、車両の加速時や登坂走行時などのエンジンの高負荷状態において圧縮機1の負荷トルク低減を目的とする加速カット要求があると、制御部6は、その通電を遮断または所定の下限値に抑制して、可変容量圧縮機を最小容量運転に移行させたりする。
【0028】
膨張装置3は、いわゆる温度式膨張弁として構成されており、蒸発器4の出口側の冷媒温度をフィードバックしてその弁開度を調整し、熱負荷に応じた液冷媒を蒸発器4へ供給する。蒸発器4を通過した冷媒は圧縮機1に戻され、再び圧縮される。
【0029】
吐出弁7は、その前後差圧に応じて圧縮機1の吐出冷媒の流れを順方向および逆方向の双方向に段階的に許容しうる差圧弁として構成されており、その順方向の流れを制御するための第1の弁部と、逆方向の流れを制御するための第2の弁部とを有する。なお、圧縮機1の通常の容量制御時には第1の弁部がその開弁状態を保持するため、冷媒の順方向の流れが阻害されることはない。吐出弁7の構成および機能の詳細については後述する。
【0030】
図3は、制御弁の構成を示す断面図である。
制御弁5は、圧縮機1の吐出圧力Pdと吸入圧力Psとの差圧(Pd−Ps)を設定差圧に保つように、吐出室53からクランク室54に導入する冷媒流量を制御するいわゆるPd−Ps差圧弁として構成されている。
【0031】
この制御弁5は、吐出冷媒の一部をクランク室54へ導入するための冷媒通路を開閉する弁本体8と、弁本体8の弁部の開度を調整してクランク室54へ導入する冷媒流量を制御するソレノイド9とを一体に組み付けて構成される。
【0032】
弁本体8は、プレス成形により得られたボディ10の内部に弁機構を備えている。ボディ10の上部には、圧縮機1の吐出室53に連通して吐出圧力Pd(正確には吐出室53の出口の圧力Pdh)を受けるポート11が設けられている。ポート11は、ボディ10の側部に設けられたポート13と内部で連通している。ポート13は、圧縮機1のクランク室54に連通し、そのクランク室54に制御されたクランク圧力Pcを導出する。
【0033】
ボディ10の上部においてポート11とポート13とを連通する冷媒通路には、円筒状の弁座形成部材14が圧入されており、その内部通路により弁孔15が形成されている。弁座形成部材14のクランク室54側の端面により弁座16が形成されている。弁座16にクランク室54側から対向して、長尺状の作動ロッド17の一端部からなる弁体18が接離自在に配置されている。
【0034】
ボディ10の中央部には、円筒状のガイド部材19が圧入され、その内部通路によりガイド孔20が形成されている。作動ロッド17は、このガイド孔20に摺動可能に軸支されている。弁体18は、弁孔15の下流側でクランク室54に連通する圧力室21に配置され、その先端面の外周縁が弁座16に着脱することにより弁孔15を開閉する。作動ロッド17の下端部とガイド部材19の下端面との間には、作動ロッド17をソレノイド9側、つまり開弁方向に付勢するスプリング41が介装されている。
【0035】
ボディ10の側部のポート13から下方に離間した位置には、吸入室51に連通して吸入圧力Psを受けるポート22が形成されている。ボディ10とソレノイド9とにより囲まれたこのポート22と連通する内部空間は、吸入圧力Psが導入される圧力室23を形成する。吸入圧力Psは、ソレノイド9の内部にも導入される。
【0036】
また、ボディ10の上端開口部にはストレーナ25が嵌着され、外部からポート11への異物の流入を防止している。さらに、ボディ10の側部にも、ポート13を外部から覆うようにストレーナ26が装着されている。
【0037】
一方、ソレノイド9は、ヨークとしても機能する段付円筒状のケース31と、ケース31内に配設されたコア32と、コア32と軸線方向に対向配置されたプランジャ33と、外部からの供給電流により磁気回路を生成する電磁コイル34とを備えている。ケース31は、その上端部が縮径してボディ10の下端部に圧入されている。コア32は、その上端部がケース31の縮径部に圧入されている。
【0038】
コア32には、その中央を軸線方向に貫通する挿通孔35が設けられており、ソレノイド力を弁体18へ伝達するためのシャフト27を挿通している。コア32の上端開口部にはリング状の軸受部材28が圧入されており、シャフト27の上端部を摺動可能に支持している。この軸受部材28には連通孔29が設けられており、この連通孔29を介して圧力室23内の吸入圧力Psがソレノイド9の内部に導入される。
【0039】
コア32には、また、下端が閉じた有底スリーブ36が外挿されている。有底スリーブ36内においては、プランジャ33がコア32の下方で軸線方向に進退可能に配置されている。有底スリーブ36は、その下端部が縮管されており、その縮管部にリング状の軸受部材37が圧入されている。この軸受部材37は、シャフト27の下端部を摺動可能に軸支している。この軸受部材37には連通孔38が設けられており、この連通孔38を介して吸入圧力Psが縮管部の内部にまで導入される。一方、プランジャ33は、段付円筒状をなし、その上部がシャフト27の下半部に圧入されている。プランジャ33とコア32との間には、プランジャ33をコア32から離間させる方向に付勢するスプリング42が介装されている。
【0040】
ケース31の下端開口部には、ソレノイド9の内部を下方から封止するように取っ手39が設けられている。取っ手39は、電磁コイル34につながる端子の一端を露出させるコネクタ部としても機能する。
【0041】
以上の構成において、作動ロッド17の径は弁孔15の内径よりもやや大きいものの、ほぼ同じ大きさを有するため、開弁時においては圧力室21に導入されたクランク圧力Pcがほぼキャンセルされる。このため、弁体18には、ほぼ弁孔15の大きさの受圧面積に対して吐出圧力Pdと吸入圧力Psとの差圧(Pd−Ps)が実質的に作用する。弁体18は、差圧(Pd−Ps)がソレノイド9に供給された制御電流にて設定された設定差圧に保持されるように動作する。
【0042】
次に、制御弁の基本的動作について説明する。
図3に示した制御弁5において、ソレノイド9が非通電のときには、スプリング41およびスプリング42による開弁方向のばね荷重により弁体18が弁座16から離間して弁部が全開状態に保持される。このとき、圧縮機1の吐出室53からポート11に導入された吐出圧力Pdの高圧冷媒は、全開状態の弁部を通過し、ポート13からクランク室54へと流れることになる。したがって、クランク圧力Pcが上昇するため、圧縮機1は吐出容量が最小となる最小容量運転を行うことになる。
【0043】
一方、自動車用空調装置の起動時または冷房負荷が最大のときには、ソレノイド9に供給される電流値は最大になり、プランジャ33は、コア32に最大の吸引力で吸引される。このとき、弁体18を含む作動ロッド17、シャフト27およびプランジャ33が、一体になって閉弁方向に動作し、弁体18が弁座16に着座する。この閉弁動作によってクランク圧力Pcが吸入圧力Psと略同一となるため、圧縮機1は吐出容量が最大となる最大容量運転を行うことになる。
【0044】
ここで、容量制御時においてソレノイド9に供給される電流値が所定値に設定されているときには、弁体18を含む作動ロッド17、シャフト27およびプランジャ33が一体動作する。このとき、弁体18は、作動ロッド17を開弁方向に付勢するスプリング41のばね荷重と、プランジャ33を開弁方向に付勢するスプリング42のばね荷重と、プランジャ33を閉弁方向に付勢しているソレノイド9の荷重と、弁体18が開弁方向に受圧する吐出圧力Pdによる力と、弁体18が閉弁方向に受圧する吸入圧力Psによる力とがバランスした弁リフト位置にて停止する。
【0045】
このバランスが取れた状態で、エンジンの回転数とともに圧縮機1の回転数が上がって吐出容量が増えると、差圧(Pd−Ps)が大きくなって弁体18に開弁方向の力が作用し、弁体18は、さらにリフトして吐出室53からクランク室54へ流す冷媒の流量を増やす。これにより、クランク圧力Pcが上昇し、圧縮機1は、その吐出容量を減少させる方向に動作し、差圧(Pd−Ps)が設定差圧になるように制御される。エンジンの回転数が低下した場合には、その逆の動作が行われ、差圧(Pd−Ps)が設定差圧になるように制御される。
【0046】
図4は、吐出弁の構成を示す断面図である。
吐出弁7は、筒状のボディ60内に第1の弁部を開閉する第1弁体61と第2の弁部を開閉する第2弁体62とをそれぞれ摺動可能に配置して構成されている。ボディ60は、段付円筒状の第1ボディ63と有底円筒状の第2ボディ64とを、互いの開口部を突き合わせるように軸線方向に連設して構成されている。第1ボディ63は、第2ボディ64側に外径が縮径されており、その縮径部65に第2ボディ64の開口部が外挿されて外方から加締められることにより両ボディが接合されている。縮径部65の開口端縁にはボス部66が突設されており、そのボス部66の先端面により弁座67(「第1弁座」に該当する)が構成されている。第2ボディ64の側部には内外を連通する複数の連通孔69が形成され、底部中央にも内外を連通する冷媒漏洩通路70が形成されている。冷媒漏洩通路70は、連通孔69と比較して相当小さい断面を有し、積極的に冷媒を流通させるものではない。第1弁体61と第2ボディ64とに囲まれた背圧室93がいわゆるダンパ室となっており、冷媒漏洩通路70の流動抵抗により徐々に冷媒を背圧室93に導入出させることで、第1弁体61および第2弁体62の安定した挙動を実現できるように構成されている。第1ボディ63の外周部に設けられた溝には、シール用のOリング95が嵌合されている。
【0047】
第1弁体61は、第2ボディ64の内壁に沿って軸線方向に摺動する有底円筒状の本体71を有し、その本体71の底部周縁部が弁座67に着脱して第1の弁部を開閉する。本体71の底部中央には連通孔72が設けられ、その第1ボディ63側の開口端縁にはボス部73が突設されている。そのボス部73の先端面により弁座75(「第2弁座」に該当する)が構成されている。第1弁体61の底部と第2ボディ64の底部との間には、第1弁体61を閉弁方向に付勢するスプリング91(「第1の付勢部材」として機能する)が介装されている。
【0048】
第2弁体62は、第1弁体61の連通孔72に挿通されて軸線方向に摺動可能に支持された円柱状の本体81を有する。本体81の一端側には半径方向外向きにやや延出したフランジ部82(「弁体部」に該当する)が設けられている。このフランジ部82が弁座75に対向配置され、その弁座75に着脱して第2の弁部を開閉する。第2弁体62の摺動面には、フランジ部82を起点に軸線方向に延びる溝部83(「凹部」に該当する)が形成されている。この溝部83は、連通孔72の軸線方向の長さよりも所定量長く形成されている。図示の例では、溝部83が一つ設けられているが、第2弁体62の周方向に所定の間隔をあけて複数設けられていてもよい。第2の弁部が開弁すると、溝部83と連通孔72との間隙からなる冷媒通路が開放され、第1弁体61の内外を連通させる。その結果、背圧室93側の冷媒の一部が第2の弁部を介して吐出室53側に逆流可能となる。ただし、溝部83の断面積が軸線方向に沿ってほぼ一定に構成されているため、第2の弁部を通過する冷媒の流量は規制される。上述のように溝部83の軸線方向の長さに制限があるため、後述する逆方向の前後差圧(Pdl−Pdh)が大きくなって第2弁体62が弁座75から大きく離間すると、逆に冷媒通路のフランジ部82と反対側が徐々に閉じられ、その断面は小さくなる。このような構成により、逆流する冷媒の最大流量が規制されている。本体81のフランジ部82と反対側の端部には止輪85が固定されており、その止輪85と本体71の底部との間には、第2弁体62を開弁方向に付勢するスプリング92(「第2の付勢部材」として機能する)が介装されている。
【0049】
図2にも示すように、吐出弁7のボディ60は、Oリング95およびワッシャ96を介してリアハウジング104に固定される。その結果、吐出弁7の各弁部は、吐出室53の出口と圧縮機1の出口とをつなぐ冷媒通路に配置される。吐出室53の出口から第1ボディ63に導入された圧力Pdh(「一次圧」に該当する)は、第1の弁部を通過することにより圧力Pdl(「二次圧」に該当する)となって圧縮機1の出口から吐出される。
【0050】
次に、吐出弁の動作について説明する。図5および図6は、吐出弁の動作を表す説明図である。図5は第1の弁部が開弁したときの状態を表し、図6は第2の弁部が開弁したときの状態を表している。
【0051】
吐出弁7の第1弁体61は、その順方向の前後差圧(Pdh−Pdl)が所定の開弁差圧ΔP1(例えば0.03Mpa:「第1の差圧」に該当する)以上になったときに、図5に示すように自律的に開弁し、吐出室53の吐出冷媒を凝縮器側へ導出する。言い換えれば、前後差圧(Pdh−Pdl)が開弁差圧ΔP1よりも小さくなったときには、スプリング91による閉弁方向の付勢力が第1弁体61が受ける差圧(Pdh−Pdl)による開弁方向の荷重に打ち勝ち、第1弁体61が閉弁して吐出冷媒の順方向の流れを遮断する。なお、圧縮機1の通常の容量制御状態においては、差圧(Pdh−Pdl)が開弁差圧ΔP1よりも大きくなるため、第1の弁部の開弁状態が保持される。
【0052】
一方、圧縮機1の最小容量運転移行時においては冷媒の吐出容量が急激に減少するため、差圧(Pdh−Pdl)が開弁差圧ΔP1を下回り、図4に示したように第1弁体61が閉弁方向に動作して吐出冷媒の順方向の流れを遮断する。このとき、圧縮機1における冷媒の内部循環により圧力Pdhがさらに低下して一時的に圧力Pdlよりも低くなる。このとき発生する逆方向の前後差圧(Pdl−Pdh)が所定の開弁差圧ΔP2(例えば0.01Mpa:「第2の差圧」に該当する)以上になると、図6に示すように第2弁体62がスプリング92の付勢力に抗して自律的に開弁し、吐出冷媒の逆流を許容する。ただし、上述のように溝部83の断面積が所定値以下に設定されているため、逆流する吐出冷媒の流量が規制される。差圧(Pdl−Pdh)がさらに大きくなると、溝部83のフランジ部82と反対側の流路断面が小さくなるように変化するため、逆流する吐出冷媒の最大流量は制限されることになる。
【0053】
図7は、吐出弁7の各弁部の弁開度特性を表す図である。同図(A)は、第1の弁部の開度とその前後差圧との関係を表す図である。同図において、横軸が順方向の差圧(Pdh−Pdl)を表し、縦軸が第1の弁部の開度を表している。同図(B)は、第2の弁部の開度とその前後差圧との関係を表す図である。同図において、横軸が逆方向の差圧(Pdl−Pdh)を表し、縦軸が第2の弁部の開度を表している。なお、各図の横軸および縦軸のスケールは同じに設定されている。
【0054】
同図(A)に示すように、第1の弁部は、差圧(Pdh−Pdl)が開弁差圧ΔP1よりも大きくなったときに開弁し、冷凍サイクルの順方向の冷媒の流れを許容する。一方、同図(B)に示すように、第2の弁部は、差圧(Pdl−Pdh)がΔP2(本実施の形態ではΔP2<ΔP1)よりも大きくなったときに開弁し、冷凍サイクルの逆方向の冷媒の流れを許容する。本実施の形態では図示のように、第2の弁部の全開時の最大開度が第1の弁部のそれよりも相当小さくなるように設定されている。
【0055】
次に、本実施の形態に係る制御弁および吐出弁による容量制御の概要およびその作用について説明する。例えば、車両用空調装置の作動中に車両が登坂走行に移行したり、急加速が要求されたりすると、エンジンの負荷を車両の推進力に優先的に振り向けるために、図示しないエンジン制御装置から加速カット要求がなされる。制御部6は、この加速カット要求を受けとると、圧縮機1を最小容量運転に移行させるために、ソレノイド9への供給電流を一時的に遮断する。そして、加速カット要求が解除されると、制御電流を再び元に戻す戻し制御を行う。
【0056】
図8および図9は、制御弁および吐出弁による制御の例を表す図である。図8は、加速カット制御等に伴って圧縮機1が容量制御状態から最小容量運転へ移行されたときの様子を表している。(A)は、制御弁5のソレノイド9に供給される制御電流の変化を表している。(B)は、各冷媒圧力の変化を表している。図中実線が吐出室53の圧力Pdh、破線が圧縮機1の出口の圧力Pdl、一点鎖線がクランク圧力Pc、二点鎖線が吸入圧力Psをそれぞれ表している。また、太線が本実施の形態における各圧力を表し、細線が比較例として吐出弁7において第2の弁部を設けない場合の各圧力を表している。(C)は、各弁の弁部の開度を表している。実線が吐出弁7の第1の弁部の開口面積を表し、破線が制御弁5の弁部の開口面積を表し、一点鎖線が膨張装置3の弁部の開口面積を表している。(D)は、吐出弁7の第2の弁部の開口面積を表している。各図の横軸は、時間の経過を表している。
【0057】
図示のように、差圧(Pd−Ps)が設定差圧になるように制御される容量制御状態において時間t1にて加速カット要求がなされると、同図(A)に示すように制御電流が一時的に遮断される。その結果、同図(C)に示すように制御弁5の弁部が全開状態となり、吐出冷媒のクランク室54への流入が促進されるため、同図(B)に示すように圧力Pdhが速やかに低下する。その結果、差圧(Pdh−Pdl)が開弁差圧ΔP1よりも小さくなり、第1弁体61が速やかに弁座67に着座して第1の弁部を閉弁させる。この第1の弁部が閉弁するまでの間、クランク室54への冷媒導入量が増加するため、クランク圧力Pcは急上昇する。また、圧縮機1における内部循環により吸入圧力Psも上昇し、その結果、膨張装置3の感圧部がこれを感知して閉弁状態に移行する。
【0058】
このとき、吐出弁7によって吐出冷媒の流れが遮断されるため圧力Pdlも徐々に低下するが、圧縮機1の内部循環があるため圧力Pdhがそれよりも低下する。そして、時刻t2において差圧(Pdl−Pdh)が開弁差圧ΔP2よりも大きくなると、同図(D)に示すように第2弁体62が弁座75から離間して第2の弁部を開弁させる。その結果、第2の弁部を介して吐出冷媒の逆流が一時的に許容され、圧力Pdlの低下を促進する。この結果、同図(B)に示されるように、吐出弁7がない場合に比べて圧力Pdlが速やかに低下する。その結果、同図(C)に示される膨張装置3の閉弁状態への移行時の圧力Pdlを低くして、その弁部の異音の発生を抑制することができる。その後、差圧(Pdl−Pdh)が徐々に小さくなると、第2の弁部も徐々に閉弁状態へ戻る。なお、本実施の形態では第2の弁部を設けたことにより吐出冷媒の逆流を一時的に許容したため、第2の弁部を設けない場合よりもクランク圧力Pcが大きく上昇する。しかし、その第2の弁部により逆流する冷媒流量が規制されているため、その上昇は吐出弁7そのものを設けない場合よりも相当小さく抑えられ、クランク室54の内部構造体には実質的に悪影響がない。
【0059】
図9は、圧縮機1が最小容量運転状態から容量制御状態へ戻るときの様子を表している。同図は、時系列的に図8に示した制御状態に続くものである。(A)は、制御弁5のソレノイド9に供給される制御電流の変化を表している。(B)は、各冷媒圧力の変化を表している。図中実線が吐出室53の圧力Pdh、破線が圧縮機1の出口の圧力Pdl、一点鎖線がクランク圧力Pc、二点鎖線が吸入圧力Psをそれぞれ表している。なお、本図においては図8のような比較例は示されていない。(C)は、各弁の弁部の開度を表している。実線が吐出弁7の第1の弁部の開口面積を表し、一点鎖線が制御弁5の弁部の開口面積を表している。(D)は、吐出弁7の第2の弁部の開口面積を表している。各図の横軸は、時間の経過を表している。
【0060】
加速カット要求が解除されるなどして最小容量運転状態から容量制御状態へ移行する際には、圧縮機1の負荷トルクを安定に上昇させるために、ソレノイド9への供給電流を緩やかに立ち上げるソフトスタートが行われる。同図(A)に示すように、時刻t5からt8にかけて供給電流を設定差圧に対応した電流値となるまで徐々に立ち上げている。この電流の供給により、同図(C)に示すように、制御弁5の弁部の開度が全開状態から徐々に制御状態の開度へと変化していく。その結果、同図(B)に示すように、時刻t6において圧力Pdhが上昇し始め、クランク圧力Pcおよび吸入圧力Psは徐々に低下していく。さらに、時刻t7において差圧(Pdh−Pdl)が開弁差圧ΔP1より大きくなると、同図(C)に示すように第1の弁部が開弁する。圧力Pdhが圧力Pdlよりも高くなるため、同図(D)に示すように、第2の弁部は閉弁状態を維持する。このようにして、差圧(Pd−Ps)が設定差圧に徐々に近づいていく。
【0061】
以上に説明したように、本実施の形態の圧縮機1においては、最小容量運転移行時に圧力Pdhと圧力Pdlとの差圧(Pdh−Pdl)が開弁差圧ΔP1よりも小さくなると、吐出弁7の第1の弁部が閉弁し、吐出冷媒の漏洩および逆流を防止する。これにより、低温環境下における蒸発器4の凍結等が防止される。また、吐出冷媒の逆流によりクランク圧力が急上昇して圧縮機の内部構造体に悪影響を与えることもない。一方、このように第1の弁部が閉弁した状態において圧力Pdlが圧力Pdhよりも高くなった場合、その差圧(Pdl−Pdh)が開弁差圧ΔP2よりも大きくなると第2の弁部が開弁し、吐出冷媒の逆流を規制しつつも許容する。このため、吐出室53と膨張装置3との間の高圧領域の圧力上昇が抑制され、高温環境下において冷媒が外部に漏洩することも防止される。その結果、低温環境下および高温環境下のいずれにおいても冷凍サイクルの安定性および安全性を確保することができる。
【0062】
以上、本発明の好適な実施の形態について説明したが、本発明はその特定の実施の形態に限定されるものではなく、本発明の技術思想の範囲内で種々の変形が可能であることはいうまでもない。
【0063】
図10は、変形例に係る吐出弁の構成を示す断面図である。なお、本変形例の吐出弁は、第2弁体の構成が異なる点、第2弁体に対して付勢部材としてのスプリングを設けていない点を除けば図4に示した吐出弁7とほぼ同様の構成を有する。このため、吐出弁7と同様の構成部分については同一の符号を付してその説明を省略する。
【0064】
吐出弁207の第2弁体262は、第1の弁部の弁座75に着脱して第2の弁部を開閉する円板状の本体281(「弁体部」を構成する)と、その本体281の第1弁体61との対向面から連通孔72を貫通するように延設された一対の脚部282とを含んで構成されている。各脚部282の先端部には半径方向外向きに突出した爪部283が設けられている。この爪部283が連通孔72の開口端部に係止されることにより、第2弁体262の開弁方向への変位が規制される。脚部282と連通孔72との間に所定のクリアランスが設定される一方、このように第2弁体262の変位が規制されることで、第2の弁部を通過する冷媒の流量が規制される。一対の脚部282の間にはスリット状の間隙が設けられており、両脚部が内方に撓めるようになっている。このため、第2弁体262を第1弁体61に組み付ける際には、両脚部の爪部283を内方に撓めた状態で連通孔72に挿通させる。爪部283が連通孔72を貫通すると、両脚部の爪部283が元の状態に復帰するため、第2弁体262が第1弁体61に引っかかる状態で組み付けられる。
【0065】
吐出弁207においては、第2弁体262を開弁方向に付勢するスプリングが設けられておらず、第2弁体262は、その前後差圧のみによって開閉動作するように構成されている。すなわち、順方向の差圧(Pdh−Pdl)が上述した開弁差圧ΔP1(例えば0.03Mpa)より小さくなると第1弁体61が閉弁し、逆方向の差圧(Pdl−Pdh)がゼロより大きくなると(つまり正の値になると)、第2弁体262が開弁する。このように第2弁体262に対する付勢部材を省略した構成により、吐出弁としての構成の簡素化および低コスト化を実現することができる。
【0066】
上記実施の形態では、吐出弁を、各弁部が所定の開弁差圧以上となったときに自律的に開弁する機械式の差圧弁とした例を示したが、ソレノイド駆動の電磁弁として構成してもよい。その場合には、その開弁差圧を適宜設定変更することができ、より幅広い制御を行うことができる。
【0067】
上記実施の形態では、膨張装置3としていわゆる温度式膨張弁を採用した例を示したが、例えば固定オリフィスを有するオリフィスチューブを採用することもできる。
【0068】
上記各実施の形態の圧縮機1は、冷媒として代替フロン(HFC−134a)など使用する冷凍サイクルに好適に適用されるが、本発明の圧縮機は、二酸化炭素のように作動圧力が高い冷媒を用いる冷凍サイクルに適用することも可能である。その場合には、冷凍サイクルにおいて凝縮器に代わってガスクーラなどの外部熱交換器が配置される。
【0069】
上記実施の形態では、圧縮機1の容量制御を行う制御弁をいわゆるPd−Ps差圧弁として構成した例を示したが、制御弁の種類はこれに限られない。例えば、吐出圧力Pdとクランク圧力Pcとの差圧が設定差圧に近づくように吐出容量を制御するいわゆるPd−Pc差圧弁として構成してもよい。または、吸入圧力Psが設定圧力に近づくように吐出容量を制御するいわゆるPs感知弁、あるいはクランク圧力Pcが設定圧力に近づくように吐出容量を制御するいわゆるPc感知弁として構成してもよい。
【図面の簡単な説明】
【0070】
【図1】実施の形態に係る冷凍サイクルを表すシステム構成図である。
【図2】圧縮機の構成を表す断面図である。
【図3】制御弁の構成を示す断面図である。
【図4】吐出弁の構成を示す断面図である。
【図5】吐出弁の動作を表す説明図である。
【図6】吐出弁の動作を表す説明図である。
【図7】吐出弁の各弁部の弁開度特性を表す図である。
【図8】制御弁および吐出弁による制御の例を表す図である。
【図9】制御弁および吐出弁による制御の例を表す図である。
【図10】変形例に係る吐出弁の構成を示す断面図である。
【符号の説明】
【0071】
1 圧縮機、 2 凝縮器、 3 膨張装置、 4 蒸発器、 5 制御弁、 6 制御部、 7 吐出弁、 8 弁本体、 9 ソレノイド、 10 ボディ、 16 弁座、 18 弁体、 51 吸入室、 52 シリンダ、 53 吐出室、 54 クランク室、 56 オリフィス、 60 ボディ、 61 第1弁体、 62 第2弁体、 63 第1ボディ、 64 第2ボディ、 67 弁座、 69 連通孔、 70 冷媒漏洩通路、 71 本体、 72 連通孔、 75 弁座、 81 本体、 82 フランジ部、 83 溝部、 93 背圧室、 95 Oリング、 111 揺動板、 112 ピストン、 121 吸入用リリーフ弁、 122 吐出用リリーフ弁、 207 吐出弁、 262 第2弁体、 281 本体、 282 脚部、 283 爪部。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
空調装置を構成する冷凍サイクルにおいて、
吸入室から吸入された冷媒を圧縮して吐出室から吐出する可変容量圧縮機と、
前記可変容量圧縮機から吐出された冷媒を冷却する外部熱交換器と、
前記外部熱交換器から送出された冷媒を減圧する膨張装置と、
前記膨張装置にて減圧された冷媒を蒸発させるとともに前記可変容量圧縮機に向けて送出する蒸発器と、
前記可変容量圧縮機の前記吐出室からクランク室に導入する冷媒流量を調整して、前記可変容量圧縮機の吐出容量を変化させる制御弁と、
前記可変容量圧縮機の吐出室と前記外部熱交換器との間の冷媒通路に設けられ、その吐出室側の圧力である一次圧と、その外部熱交換器側の圧力である二次圧との差圧が第1の差圧よりも小さくなったときに閉弁して吐出冷媒の順方向の流れを遮断する第1の弁部と、前記第1の弁部の閉弁時において前記二次圧と前記一次圧との差圧が第2の差圧よりも大きくなったときに開弁して吐出冷媒の逆流を許容する第2の弁部とを含む弁装置と、
を備えたことを特徴とする冷凍サイクル。
【請求項2】
前記弁装置は、前記冷媒通路に配設されたボディに一体に設けられた第1弁座と、その第1弁座に前記外部熱交換器側から接離して前記第1の弁部を開閉する第1弁体と、前記第1弁体に形成された連通孔の開口部に設けられた第2弁座と、その第2弁座に前記吐出室側から接離して前記第2の弁部を開閉する第2弁体とを含む吐出弁として構成されていることを特徴とする請求項1に記載の冷凍サイクル。
【請求項3】
前記第2の弁部の開弁時において逆流する吐出冷媒の流量を規制する流量規制手段をさらに備えたことを特徴とする請求項1に記載の冷凍サイクル。
【請求項4】
空調装置の冷凍サイクルを構成し、蒸発器側から吸入室に導入された冷媒を圧縮して吐出室から外部熱交換器側へ吐出する可変容量圧縮機において、
当該可変容量圧縮機の吐出室からクランク室に導入する冷媒流量を調整して吐出容量を変化させる制御弁と、
前記吐出室と当該可変容量圧縮機の出口とをつなぐ冷媒通路に設けられ、その吐出室側の圧力である一次圧と、その外部熱交換器側の圧力である二次圧との差圧が第1の差圧よりも小さくなったときに閉弁して吐出冷媒の順方向の流れを遮断する第1の弁部と、前記第1の弁部の閉弁時において前記二次圧と前記一次圧との差圧が第2の差圧よりも大きくなったときに開弁して吐出冷媒の逆流を許容する第2の弁部とを含む弁装置と、
を備えたことを特徴とする可変容量圧縮機。
【請求項5】
冷凍サイクルの蒸発器側から吸入室に導入された冷媒を圧縮して吐出室から外部熱交換器側へ吐出する可変容量圧縮機による吐出冷媒の流れを制御する吐出弁であって、
前記吐出室と前記外部熱交換器との間の冷媒通路に配設されたボディと、
前記ボディに一体に設けられた第1弁座と、
前記第1弁座に前記外部熱交換器側から接離して第1の弁部を開閉するとともに、その吐出室側の圧力である一次圧とその外部熱交換器側の圧力である二次圧との差圧が第1の差圧よりも小さくなったときに閉弁して吐出冷媒の順方向の流れを遮断する第1弁体と、
前記第1弁体に形成された連通孔の開口部に設けられた第2弁座と、
前記第2弁座に前記吐出室側から接離して第2の弁部を開閉するとともに、前記第1の弁部の閉弁時において前記二次圧と前記一次圧との差圧が第2の差圧よりも大きくなったときに開弁して吐出冷媒の逆流を許容する第2弁体と、
を備えたことを特徴とする吐出弁。
【請求項6】
前記第1弁体が、有底筒状の本体と、その本体の底部中央に設けられた連通孔とを有し、その底部周縁部にて前記第1弁座に着脱して前記第1の弁部を開閉する一方、前記連通孔の前記吐出室側の開口端部により前記第2弁座が構成され、
前記第2弁体は、前記連通孔に挿通されて軸線方向に動作可能に支持された柱状の本体と、その本体の前記吐出室側に設けられて前記第2弁座に対向配置された弁体部とを有し、その弁体部が前記第2弁座に着脱して前記第2の弁部を開閉するように構成されていることを特徴とする請求項5に記載の吐出弁。
【請求項7】
前記第2弁体が前記連通孔において前記第1弁体に摺動可能に支持され、
前記第1弁体と前記第2弁体との少なくとも一方の摺動面に形成された凹部により、前記吐出冷媒の逆流を許容する冷媒通路が構成され、
前記凹部の断面積を所定値以下に設定することにより前記吐出冷媒の流量を規制する流量規制手段が構成されていることを特徴とする請求項6に記載の吐出弁。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2009−103336(P2009−103336A)
【公開日】平成21年5月14日(2009.5.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−273516(P2007−273516)
【出願日】平成19年10月22日(2007.10.22)
【出願人】(000133652)株式会社テージーケー (280)
【Fターム(参考)】