説明

出力回路を備えた発振回路

【課題】電源電圧を低電圧化した場合においても、発振回路の最終出力波形のデューティー比を50%に調整し易く、且つ、種々の外乱要因によってもデューティー比の変動を少なく抑えることが可能な発振回路を提供する。
【解決手段】振動子、増幅回路及び出力回路を含む発振回路であって、前記増幅回路の入力端子に接続される側の前記振動子の端子と、前記出力回路の入力端子とが接続され、振動子の前記端子と、増幅回路の前記入力端子とが容量を介して接続され、さらに、振動子の前記端子側に、所定の電位をバイアスするためのバイアス回路が接続されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、振動子、増幅回路及び出力回路を含む発振回路(集積回路によって構成される場合を含む。)における、最終出力波形のデューティー比を50%に調整し易くし、且つ、デューティー比の変動を少なく抑えることが可能な発振回路に関する。
【背景技術】
【0002】
発振回路は、電子機器類の信号源として欠かすことの出来ないものとして広く用いられている。発振回路としては、振動子、増幅回路及び出力回路を含むものが一般に用いられている。一方、振動子として水晶などの圧電素子を使用する発振回路の出力波形は、そのデューティー比が50%であることが望まれる。発振回路を構成する増幅回路をCMOSで作成する場合、一般に、図4に示すようなセルフバイアスされたインバータアンプで構成される一段インバータ発振回路が適用される場合が多い。また、この場合、増幅回路から後段の出力回路への信号伝達は、増幅回路の出力側を後段の出力回路の入力側に接続して行うことが一般的である。この時、前記インバータアンプのPMOS及びNMOS強度比を適切に設定することで、概ねデューティー比が50%の出力を得ることが可能である。
【0003】
ここで、前記増幅回路を動作させる電源として外部電源をそのまま接続する代わりに、発振回路の内部で降圧した電源、例えばレギュレータなどで降圧し、外部電源電圧より低く抑えられた内部電圧を用いて動作させることがある。このような構成とする目的は、以下の通りである。
(1)外部電源の変動による発振特性への影響を少なくする。
(2)振動子である圧電素子に対する励振電流を低く抑える。
【0004】
さらに、近年では、外部電源電圧が低下傾向にあり、発振回路の内部電圧も非常に低くなってきている。通常のインバータアンプは、PMOS及びNMOSトランジスタの閾値電圧の絶対値の合計よりも大きな動作電源電圧が必要である。例えば、PMOSの閾値が−0.6V、NMOSの閾値が+0.6Vの場合、電源電圧1.2V+α(αは数百mV程度)以上が動作条件となる。ここで、外部電源電圧が1.8V程度になると、内部電圧として実現できるのは1.2V前後の値となり、前記インバータアンプは使えなくなる。
【0005】
これに対し、特許文献1に記載の水晶発振回路の例では、インバータアンプの入力側でPMOSとNMOSを直流的に切断し、定電流源のミラーリングで決まるバイアス値で直流的にバイアスする方法が提案されている。
【0006】
この他、図5に示すような、定電流回路からの定電流に制御されたPMOSを負荷とするNMOSソース接地アンプの構成とする例も見られる。なお、図5に示す例の方が構造は単純である。
【0007】
しかし、上記特許文献1に記載の水晶発振回路やPMOSを定電流源としてだけ用いて、NMOSソース接地アンプの構成とする例では、通常のインバータアンプ構造と比較して増幅回路の出力波形が歪み易いという問題がある。特に後者のNMOSソース接地アンプではこの問題が顕著となる。このため、出力波形のデューティー比を50%に調整することが困難となる。
【0008】
このような問題に対して、増幅回路の入力側は圧電素子のフィルタ効果により、波形の歪みが抑えられ正弦波に近くなっているので、後段の出力回路の入力側を増幅回路の入力側端子に接続する例がある。
【特許文献1】特開2005−244546号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかし、上記後段の出力回路の入力側を増幅回路の入力側端子に接続する例において、電源電圧がさらに下がった場合に以下のような問題がある。つまり、増幅回路の入力側の電位が適切に制御できず、波形の歪みが避けられないという問題である。例えば、後段の出力回路に接続する端子の直流バイアス値がGND側或いは電源電圧側の何れか一方に偏っていた場合に、波形がバスタブ状に歪み、上下対称とはならず、そのため、そこからの出力は、デューティー比が50%から大きくずれたものとなる。この結果、やはり出力波形のデューティー比を50%に調整することが困難となる。
【0010】
そこで本発明は、電源電圧を低電圧化した場合においても、発振回路の最終出力波形のデューティー比を50%に調整し易く、且つ、種々の外乱要因によってもデューティー比の変動を少なく抑えることが可能な発振回路を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記目的を達成するために、本発明に係る発振回路は、以下のような特徴を有する。
[1]振動子、増幅回路及び出力回路を含む発振回路であって、
前記増幅回路の入力端子に接続される側の前記振動子の端子と、前記出力回路の入力端子とが接続され、振動子の前記端子と、増幅回路の前記入力端子とが容量を介して接続され、さらに、振動子の前記端子側に、所定の電位をバイアスするためのバイアス回路が接続されていることを特徴とする。
[2]上記[1]において、バイアス回路による所定の電位が、前記出力回路を動作させるための電源電圧の2分の1程度であることを特徴とする。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、電源電圧を低電圧化した場合においても、発振回路の最終出力波形のデューティー比を50%に調整し易く、且つ、種々の外乱要因によってもデューティー比の変動を少なく抑えることが可能な発振回路が提供される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
以下、本発明を実施するための最良の形態の一例を説明する。
【0014】
図1に、本発明に係る発振回路の一実施形態における回路構成の概念図を示す。図1に示すように本発明に係る発振回路10は、振動子11、増幅回路12及び出力回路13を含み、前記増幅回路12の入力端子12aに接続される側の前記振動子11の端子11aと前記出力回路13の入力端子13aとが接続され、振動子11の前記端子11aと、増幅回路12の前記入力端子12aとが容量14を介して接続され、さらに、振動子11の前記端子11a側に、所定の電位(直流電圧)をバイアスするためのバイアス回路15が接続されている。
【0015】
このように、本実施形態においては、
(イ)振動子11の端子11aと増幅回路12の入力端子12aとを容量14を介して接続することで直流的に切断し、さらに、振動子11の端子11aと出力回路13の入力端子13aとを接続するようにしている。これにより、出力回路13に入力される信号に対して、増幅回路12内部での直流バイアスの影響を与えない構成としている。
【0016】
(ロ)また、出力回路13の入力端子13aを振動子11の端子11aと接続することで、振動子11のフィルタ効果によって、正弦波に近い波形に整形された信号を出力回路13に入力する構成としている。これにより、出力回路13からの出力波形のデューティー比を50%に調整することが容易となる。
【0017】
(ハ)さらに、振動子11の端子11a側にバイアス回路15を接続することで、振動子11から出力回路13に入力される信号に対して所定の電位(直流電圧)をバイアス可能に構成されている。振動子11から出力回路13に入力される信号に対して適切な直流電圧をバイアスすることで、出力回路13から出力される交流波形が歪むことを効果的に防止することが可能となる。
【0018】
ここで、前記バイアス回路15によりバイアスされる直流電圧の値としては、適用される発振回路の構成等により、外乱に対するマージンが最大となるように適切な値に設定することが好ましい。なお、通常は、外部から供給される電源電圧の2分の1程度とすることが適当である。ここで、前記出力回路13を動作させるための電源電圧が、前記外部から供給される電源電圧である場合に、前記バイアス回路15からのバイアス値を電源電圧の2分の1程度とすることにより、出力回路13に入力される交流波形の振幅が大きい場合であっても、振幅の高電圧側または低電圧側での波形の歪みを、高いマージンで防止することが可能となる。なお、上記の「バイアス値を電源電圧の2分の1程度とする」とは、電源電圧の45%から55%の範囲に設定することをいう。この範囲であれば、種々の外乱要因により、多少の電圧変動があった場合においても、出力回路13からの出力波形のデューティー比を50%に調整し易く、且つ、出力される波形のデューティー比の変動を少なく抑えることが可能となるためである。
【0019】
ここで、前記振動子11としては、電圧を印加することで固有振動を起こすもの、例えば、水晶やセラミックスなどの圧電素子を用いることができる。しかし、これらの固体振動子に限定されるものではなく、固有振動を起こすものであればどのようなものでも用いることができ、例えば、回路的に振動を起こさせるようなLC共振器等を用いてもよい。但し、水晶振動子は、発振周波数の精度が非常に高いため、最も好ましい材料である。
【0020】
前記容量14は、発振周波数において増幅回路12の入力容量と同程度か、それ以下であるようにする必要がある。例えば、増幅回路12の入力容量が10pF程度であれば、容量14は数pF〜数十pF程度の範囲で選択するのが好ましい。なお、この場合、発振回路の外部からの外部電源電圧(Vdd1)は、1.8〜5.0V程度に、また、発振回路の内部で、外部電源から降圧される等により得られた降圧電源電圧(Vdd2)は、振動子の励振レベルを抑えるため、1.2V程度とすることが好ましい。
【0021】
図2及び図3に、図1に示した回路構成の概念図を実現させるための具体的な回路構成の一例を示す。以下、図2及び図3を用いてより具体的に説明する。なお、図2及び図3における振動子11としては、圧電素子である水晶を用いた場合について記載する。
【0022】
図2及び図3に示す例では、前記増幅回路12が、発振アンプ121と定電流回路122とで構成される場合を示している。ここで、前記発振アンプ121及び定電流回路122は、発振回路の内部で生成された降圧電源(Vdd2)の下で動作し、その他の回路である出力回路13及びバイアス回路15は、Vdd2よりも高い電圧の外部電源(Vdd1)の下で動作する。
【0023】
前記発振アンプ121は低電圧下でも動作可能なように、定電流回路122からの定電流に制御されたPMOSを負荷とするNMOSソース接地アンプの構成になっている。ここで、前記発振アンプ121の出力側のnode−1では出力波形が歪んでおり、そのデューティー比は50%から大きくずれている。
【0024】
また、前記発振アンプ121への入力は帰還抵抗RFを介したセルフバイアスとなっており、その電位は、[NMOSの閾値電圧+α]の直流バイアス値となっている。前記αの値は、PMOSを通して流れ込む定電流の電流量と、NMOSの駆動能力に依存して決まるが、通常は数百mV程度となる。前記発振アンプ121の入力側は、交流的には振動子11として用いられる水晶振動子を通って出力から帰還される電圧で動作している。従って、入力側の波形は水晶振動子のフィルタ効果によって、正弦波に近いものとなる。しかし、発振アンプ121の入力側電位である直流バイアス値は、発振アンプ121を構成する前記NMOSの駆動能力とPMOSを通して流れ込む定電流の電流値に依存した低い電圧に固定されており、交流的振幅が大きくなってくるとその出力波形はGND側がバスタブ状に潰れて、いびつな波形となってくる。
【0025】
図2及び図3に示す回路では、発振アンプ121の入力側に接続された水晶振動子の端子11aと、発振アンプ121の入力との間に、容量14を挟むことによって直流的に切断している。その上で、バイアス回路15を使って、水晶振動子の端子11a側の電位を任意の直流バイアス値に設定できるようになっている。前記直流バイアス値は、前記発振アンプ121の入力側電位の直流バイアス値よりも高く設定することができるので、水晶振動子の端子11a側での交流波形の歪みを大幅に軽減することが可能となる。
【0026】
なお、容量14が設置されていない場合は、端子11aと発振アンプ121の入力とが直流的に切断されず、11a端子のバイアス値は発振アンプ121のゲートバイアスで決定される或る電圧となり、自由に設定することができない。このため、電源電位又はGND電位に偏った電圧となる(通常はGND電位に近くなる。)。例えば、GND側にESD保護素子としてダイオードが設置されている場合、ダイオードによって電圧がクランプされてしまうため、交流的にはGND電位以下にすることが出来ない。このため、交流波の振幅が大きくなると、波形の下側が潰れて、上下に歪んだ波形となってしまう。そこで、容量14を設置し、かつ、11a端子のバイアス値を交流波形の振幅の半分以上に設定することにより、この波形の歪みを改善することができる。
【0027】
また、図2及び図3に示す回路では、上述したように出力回路13及びバイアス回路15は、発振アンプ121を動作させる降圧電源電圧(Vdd2)よりも高い外部電源電圧(Vdd1)で動作している。そこで、前記バイアス回路15の直流電圧値をVdd1の2分の1程度に設定することで、出力回路13からの出力波形のデューティー比はほぼ50%となり、さらに、交流振幅増大時の波形歪みも少ないので、種々の外乱要因による変動も極めて少なくなる。
【0028】
ここで、上述の図2及び図3においては、2つ目の実施例では、前記発振アンプ121の入力側と水晶振動子の端子11aとを直流的に切り離す容量14の配置位置を変更している。前記容量14の配置位置は、後段の出力回路13と接続する水晶振動子の端子11aが発振アンプ121入力の直流バイアス値と直流的に切断されていれば、この容量14は何処に置いてもよい。
【0029】
以上、図2及び図3を用いて具体的に説明したが、本発明はこれらに限定されるものではない。上記増幅回路12は、発振アンプ121と定電流回路122とで構成される場合に限られず、入力信号の増幅機能を有するもの、例えば、オペアンプを使った増幅回路等により構成されるものを用いることができる。
【0030】
また、前記出力回路13に関しても、図2及び図3に示した場合に限られず、どのような構成の出力回路でも、制限なく用いることができる。例えば、図2及び図3に示す回路では、後段の前記出力回路13は、水晶振動子の端子11aに直流結合される場合を示しているが、例えば、コンデンサを介した交流結合とすることも可能である。
【0031】
また、前記バイアス回路15に関しても、図2及び図3に示した場合に限られない。このバイアス回路15は、外部から供給される電源電圧Vdd1とGND間の任意の直流電圧値を安定して供給できるものであれば、どのような構成のものでも用いることができる。
【図面の簡単な説明】
【0032】
【図1】本発明に係る発振回路の一実施形態における回路構成の概念図である。
【図2】図1に示した回路構成の概念図を実現させるための具体的な回路構成の一例を示す図である。
【図3】図1に示した回路構成の概念図を実現させるための具体的な回路構成の他の一例を示す図である。
【図4】従来技術に係る、セルフバイアスされたインバータアンプで構成される一段インバータ発振回路が適用された発振回路の一例を示す図である。
【図5】従来技術に係る、定電流回路からの定電流に制御されたPMOSを負荷とするNMOSソース接地アンプが適用された発振回路の一例を示す図である。
【符号の説明】
【0033】
10 発振回路
11 振動子
12 増幅回路
121 発振アンプ
122 定電流回路
13 出力回路
14 容量
15 バイアス回路

【特許請求の範囲】
【請求項1】
振動子、増幅回路及び出力回路を含む発振回路であって、
前記増幅回路の入力端子に接続される側の前記振動子の端子と、前記出力回路の入力端子とが接続され、振動子の前記端子と、増幅回路の前記入力端子とが容量を介して接続され、さらに、振動子の前記端子側に、所定の電位をバイアスするためのバイアス回路が接続されていることを特徴とする発振回路。
【請求項2】
バイアス回路による所定の電位が、前記出力回路を動作させるための電源電圧の2分の1程度であることを特徴とする請求項1に記載の発振回路。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2008−35302(P2008−35302A)
【公開日】平成20年2月14日(2008.2.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−207351(P2006−207351)
【出願日】平成18年7月31日(2006.7.31)
【出願人】(501285133)川崎マイクロエレクトロニクス株式会社 (449)
【Fターム(参考)】