分光偏光計測方法
【課題】 チャネルド分光偏光計測法が有する様々な特徴を継承しつつ、移相子のリタデーションが温度変化その他の要因により変動することによって生じる分光偏光状態を示すパラメータの計測誤差を効果的に低減すること。
【解決手段】 チャネルドスペクトルP(σ)中に含まれる各振動成分から方程式を解くことにより、基準位相関数φ1(σ)、φ2(σ)が求められることに着目し、分光ストークスパラメータS0(σ),S1(σ),S2(σ),S3(σ)の測定と同時に、基準位相関数φ1(σ)とφ2(σ)を較正するようにした。
【解決手段】 チャネルドスペクトルP(σ)中に含まれる各振動成分から方程式を解くことにより、基準位相関数φ1(σ)、φ2(σ)が求められることに着目し、分光ストークスパラメータS0(σ),S1(σ),S2(σ),S3(σ)の測定と同時に、基準位相関数φ1(σ)とφ2(σ)を較正するようにした。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、計測対象となる光の分光偏光状態をチャネルドスペクトルを利用して計測するようにした分光偏光計測方法及び装置に関する。
【背景技術】
【0002】
光は、「横波」の性質を有する。互いに直交する3軸(x,y,z)を前提として、光の進行方向をz軸方向とすると、光の振動方向はxy平面に沿った方向となる。xy平面内における光の振動方向には偏りが存在する。この光の偏りは「偏光」と称される。この明細書においては、以下に、光の偏り方を「偏光状態」と称する。この偏光状態は、一般に、光の波長(色)によって異なる。
【0003】
測定対象に対して、ある偏光状態の光を入射させ、透過光や反射光等の出射光を取得すると、測定対象が光に対する異方性を有すると、入射光と出射光との間で偏光状態の変化が観察される。この偏光状態の変化から、測定対象の異方性に関する情報を取得することを「偏光計測」と称する。なお、このような異方性の原因としては、分子構造の異方性、応力(圧力)の存在、局所電場や磁場の存在等が挙げられる。
【0004】
入射光と出射光との間における偏光状態の変化を、各波長毎に求め、それらから測定対象の異方性に関する情報を取得することを特に「分光偏光計測」と称する。この分光偏光計測によれば、単一波長(単色)による計測の場合に比べて、格段に多くの情報を取得できる利点がある。この分光偏光計測においては、出射光(ときには、入射光)の偏光状態を計る装置、すなわち分光偏光計がキーデバイスとなる。
【0005】
分光偏光計測の応用分野としては、分光エリプソメトリ分野、医療分野、光通信分野等が知られている。例えば、分光エリプソメトリ分野においては、薄膜の膜厚や複素屈折率を非破壊かつ非接触で計測できることから、光エレクトロニクス機器、半導体の検査、研究等への応用がなされている。医療分野においては、幾種かの細胞が偏光特性を有することから、緑内障やガン細胞の早期発見への試みがなされている。光通信分野においては、波長分割多重による大容量通信を目的として光ファイバ等の通信機器の偏波分散の高精度評価等への試みがなされている。
【0006】
ところで、z軸方向へ進行する光が存在するとして、そのx軸方向の振動成分とy軸方向の振動成分との間に完全な相関がある(同期がとれている)状態における偏光には、直線偏光と楕円偏光と円偏光との3種類が存在する。このとき、楕円偏光の状態を表すためのパラメータとしては、楕円率角ε、方位角θ、位相差Δ、振幅比角Ψが存在する。
【0007】
また、光の偏光度、楕円率角、方位角等をより効率的に表すためのパラメータとしては、ストークスパラメータ(Stokes Parameter)が使用される。このストークスパラメータは、以下定義を有する4つのパラメータにより構成される。
S0 : 全強度
S1 : 方位0°、90°直線偏光成分強度の差
S2 : 方位±45°直線偏光成分強度の差
S3 : 左右円偏光成分強度の差
【0008】
互いに直交する3軸をS1,S2,S3とする三次元空間において原点を中心とする半径S0の球を想定すると、任意の光の偏光状態は、この三次元空間上の1点として表され、偏光度は次式で表される。
偏光度 = (原点から点(S1,S2,S3)までの距離)/S0
= (S12+S22+S32)1/2/S0
【0009】
このことから、完全偏光(偏光度=1)ならば、偏光状態を表す1点は半径S0の球上に存在することが理解されるであろう。また、楕円率角と方位角は、上記三次元空間上における偏光状態を表す1点の緯度と経度のそれぞれの半分に相当する。このように、ストークスパラメータであるS1,S2,S3及びS0の4つを求めることができれば、偏光状態に関する全ての情報を表現することができるのである。
【0010】
従来の最も一般的な分光偏光計測法としては、回転移相子法と偏光変調法とが知られている。
【0011】
回転移相子法では、分光器へ至る計測対象光の経路に、移相子と検光子とが順に介在される。ここで、移相子とは、互いに方位が直交する関係にある2つの主軸(速軸と遅軸)を有すると共に、その通過前後において、2つの主軸間の位相差が変化するように構成された光学素子である。また、検光子とは、1つの主軸を有すると共に、この主軸の方位に相当する1つの直線偏光成分だけを透過させるように構成された光学素子である。
【0012】
この回転移相子法において、4つのストークスパラメータの波長分布を独立して求めるためには、移相子それ自体を物理的に回転させて、最低4通りの方位のそれぞれについてのスペクトル測定を行う必要がある。すなわち、入射光のストークスパラメータは、波長の関数S0(λ),S1(λ),S2(λ),S3(λ)として表される。
【0013】
偏光変調法では、分光器へ至る計測対象光の経路に、位相差を電気的に制御可能な2つの移相子(第1移相子と第2移相子)と1つの検光子とが順に介在される。そのような移相子としては、電気光学変調器、液晶、光弾性変調器等が使用される。第1移相子の主軸と第2移相子の主軸との間には例えば45°の方位差が設定されている。
【0014】
この偏光変調法においても、4つのストークスパラメータの波長分布を独立して求めるためには、第1移相子及び第2移相子の位相差を電気的制御により所定角度範囲で振動させて、複数のスペクトルを取得する必要がある。
【0015】
しかし、回転移相子法と偏光変調法とに代表される従来一般の分光偏光計測法にあっては、次のような問題点が指摘されている。
【0016】
(1)第1の問題点
機械的若しくは能動的な偏光制御素子が必要であるために、[1]振動や発熱等の問題が避けられないこと、[2]機械素子等に容積が必要で小型化にも限界があること、[3]電力を消費する駆動装置が必要不可欠であること、[4]メンテナンスが必要で煩雑であること、等の問題点がある。
【0017】
(2)第2の問題点
偏光変調(制御)素子の条件を変えながら、複数のスペクトルを繰り返し測定しなければならないため、[1]測定時間が比較的に長くかかること、[2]測定中は測定対象を安定させておかねばならないこと、等の問題点がある。
【0018】
このような従来一般の分光偏光計測法の問題点を解決するために、本発明者等は先に、「チャネルド分光偏光計測法」を新たに開発した(非特許文献1参照)。
【0019】
チャネルド分光偏光計測法を説明するための実験系の構成図が図20に示されている。図から明らかなように、キセノンランプ1から出射された白色光を、偏光子2とバビネ・ソレイユ補償子3に透過させると、周波数νに依存した偏光状態を持つ光波が得られる。この光波のストークスパラメータのスペクトル分布S0(ν)、S1(ν)、S2(ν)、及びS3(ν)は、図中波線で囲まれた測定系4で求められる。
【0020】
被測定光は、先ず、厚さ(d1,d2)の異なる2つの移相子R1,R2及び検光子Aを順に透過したのち、分光器5に入射される。ここで、移相子R2の遅軸は移相子R1の遅軸に対して45°傾けられており、一方、検光子Aの透過軸は移相子R1の遅軸と平行とされる。
【0021】
2つの移相子R1,R2のそれぞれにおいて、直交偏光成分間に生ずる位相差は周波数に依存する。このため、光スペクトルアナライザとして機能する分光器5からは、図21に示されるような3つのキャリア成分を含むチャネルドスペクトルが得られる。各々のキャリア成分の振幅と位相は、被測定光のストークスパラメータのスペクトル分布により変調されている。したがって、フーリエ変換を利用した信号処理をコンピュータ6にて施せば、各ストークスパラメータを求めることができる。
【0022】
実験の結果の一例が図22に示されている。これは、移相子R1の遅軸に対して、バビネ・ソレイユ補償子3を30°傾けた場合に得られるものである。3本の実線は、それぞれ規格化されたストークスパラメータのスペクトル分布S1(ν)/S0(ν)、S2(ν)/S0(ν)、及びS3(ν)/S0(ν)を示している。偏光状態が周波数に依存して変化することが理解されるであろう。
【0023】
このようにチャネルド分光偏光計測法によれば、分光光量の特性を周波数分析(あるいは、波数解析)すれば、各分光ストークスパラメータを求めることができる。尤も、周波数分析に先立って、2つの移相子R1,R2のそれぞれについて、リタデーションをあらかじめ求めておくことが必要である。ここで、リタデーションとは、速軸成分と遅軸成分との間に生ずる位相差のことである。
【0024】
その他、従来のチャネルド分光偏光計測法については、いくつかの他の文献にも記載されている(例えば、特許文献1等参照)。
【0025】
上述のチャネルド分光偏光計測法によれば、[1]回転移相子等の機械的な可動素子が不要であること、[2]電気光学的変調器等の能動的な素子が不要であること、[3]1枚のスペクトルから4つのストークスパラメータが一度に求まり、いわゆるスナップショットな測定ができること、[4]構成が簡単であり、小型化に適すること、等の利点が得られる。
【特許文献1】米国特許第6490043号明細書
【非特許文献1】加藤貴之、岡和彦、田中哲、大塚喜弘、「周波数領域干渉法に基づく偏光のスペクトル分布測定」、第34回応用物理学会北海道支部学術講演会講演予稿集(応用物理学会北海道支部、札幌、1998)、p.41
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0026】
しかしながら、上述のチャネルド分光偏光計測法にあっては、次のような理由により、計測誤差が比較的に大きいと言う問題点が指摘されている。
【0027】
(1)移相子R1,R2のリタデーションの変動(ゆらぎ)
移相子のリタデーションは温度変化や圧力変化に起因して敏感に変動する結果、図23に示されるように、チャネルドスペクトルの位相は温度変化や圧力変化に起因して変動する。その結果、図24に示されるように、チャネルドスペクトルから得られるストークスパラメータの計測値は、温度変化や圧力変化により誤差を生ずる。
【0028】
(2)分光器の波長軸の変動(ゆらぎ)
モータで回折格子を回転させるような普通のタイプの分光器にあっては、モータのバックラッシュ等を原因として、測定のたびに、サンプルする波長が少しずつ(ランダムに)ずれることとなる。そして、分光器がサンプルする波長がずれると、図25に示されるように、移相子のリタデーションが変動した場合と等価な状態が出現することとなり、結果として、チャネルドスペクトルから得られるストークスパラメータの計測値に誤差を生ずる。
【0029】
ところで、例えばエリプソメトリにおいて、エリプソメトリックパラメータの波数分布に求められる精度は誤差0.1°程度以下とされており、これを移相子リタデーションの安定化により実現しようとすれば、移相子の温度変動を0.5℃以下に抑えなければならない。
【0030】
しかし、そのためには、温度安定化のために加熱器や冷却器等のサイズの大きな温度補償装置が必要となり、折角のチャネルド分光偏光計測法の利点(小型化、能動素子を含まない等)が失われてしまう。そのため、移相子リタデーションの安定化により、計測誤差を低減することは事実上困難である。
【0031】
また、分光器のバックラッシュを十分満足のいく値にまで低減するためには、極めて高い加工精度乃至組立精度を必要とするため、分光器の高価格化が招来される。そのため、分光器波長軸の安定化により計測誤差を低減することも事実上困難である。
【0032】
この発明は、従来のチャネルド分光偏光計測法の問題点に着目してなされたものであり、その目的とするところは、回転移相子等の機械的な可動素子が不要であること、電気光学的変調器等の能動的な素子が不要であること、1枚のスペクトルから4つのストークスパラメータが一度に求まり、いわゆるスナップショットな測定ができること、構成が簡単であり、小型化に適すること、等の利点を保持しつつ、より一層高精度な計測を可能とするチャネルド分光偏光計測方法及び装置を提供することにある。
【0033】
この発明のさらに他の目的並びに作用効果については、明細書の以下の記述を参照することにより、当業者であれば容易に理解されるであろう。
【課題を解決するための手段】
【0034】
(1)この発明の分光偏光計測方法は、偏光分光装置を用意するステップと、分光光量を求めるステップと、演算ステップとを含んでいる。
【0035】
偏光分光装置を用意するステップにおいて用意される偏光分光装置は、被測定光が順に透過する第1の移相子、第2の移相子及び検光子と、前記検光子を透過した光の分光光量を求める手段とを備え、第2の移相子は、その主軸の方向と第1の移相子の主軸の方向とが不一致となるように配置され、検光子は、その透過軸の方向と第2の移相子の主軸の方向とが不一致となるように配置されたものである。
【0036】
分光光量を求めるステップでは、偏光分光装置に被測定光を入射させて分光光量を求める。
【0037】
演算ステップでは、求められた分光光量を用いて、測定系の位相属性関数の組を求めるとともに被測定光の偏光状態の波数分布を示すパラメータを求める。ここで、位相属性関数の組は、偏光分光装置の特性によって規定される関数の組であって、第1の移相子のリタデーションである第1の基準位相関数(φ1(σ))に少なくとも依存する関数及び第2の移相子のリタデーションである第2の基準位相関数(φ2(σ))に少なくとも依存する関数を含み、それ自身のみで又は偏光分光装置の特性によって規定される他の関数を加えることにより、被測定光の偏光状態の波数分布を示すパラメータを求めるのに十分な関数の組となるものである。
【0038】
本明細書において上記偏光分光装置によって求められた「分光光量」はチャネルドスペクトルともよばれる。
【0039】
「分光光量を求める手段」としては、分光器が用いられる場合がある。あるいは、光源を用意して、この光源から出た光が試料に照射されて被測定光となる場合には、「分光光量を求める手段」としては波長が走査される光源と受光器との組み合わせを用いてもよい。この場合の受光器は受光量を検出できるものであればよく、受光量の検出タイミングが光の波長と対応付けられる。
【0040】
「偏光状態の波数分布を示すパラメータを求める」には、4つの分光ストークスパラメータ、すなわち、全強度を表すS0(σ)、方位0°及び90°の各直線偏光成分強度の差を表すS1(σ)、方位±45°の各直線偏光成分強度の差を表すS2(σ)並びに右回り及び左回りの各円偏光成分強度の差を表すS3(σ)のすべて又は一部を求めることを含む。実際にすべての分光ストークスパラメータを求めるかどうかは実施者の選択にゆだねられるが、本発明は、原理的にはすべての分光ストークスパラメータを求めることができるものである。
【0041】
また、「偏光状態の波数分布を示すパラメータを求める」には、分光ストークスパラメータと等価なパラメータを求める場合を含む。例えば、光強度、偏光度、楕円率角及び方位角のパラメータの組、又は、光強度、偏光度、位相差及び振幅比角のパラメータの組は、分光ストークスパラメータと等価である。本発明は、原理的にはこれらのパラメータのすべてを求めることができるものであるが、実施者の選択により一部のパラメータを求める場合も含む。
【0042】
「偏光分光装置の特性によって規定される他の関数」としては、基準振幅関数、基準位相関数の較正用基準値、第1の基準位相関数と第2の基準位相関数との間の関係を示すデータ、第1の基準位相関数の変化量と第2の基準位相関数の変化量との間の関係を示すデータなどが該当しうる。
【0043】
本発明の分光偏光計測方法によれば、チャネルド分光偏光計測法が有する、偏光制御のための機械的可動部や電気的光学変調器のような能動的素子を必要とせず、1回のスペクトル取得により原理的に被測定光のすべての偏光状態の波数分布を示すパラメータ(偏光状態パラメータの波長分布)を求めることができるという特徴を継承しつつ、移相子のリタデーションが温度変化その他の要因により変動することによって生じる偏光状態の波数分布を示すパラメータの計測誤差を効果的に低減することができる。
【0044】
(2)前記検光子は、その透過軸の方向が第2の移相子の速軸の方向に対して45°となるように配置されたものとしてもよい。
【0045】
(3)この発明の分光偏光計測方法の一つの実施形態では、位相属性関数の組は、第1の基準位相関数及び第2の基準位相関数である。この実施形態の演算ステップにおいては、第1の基準位相関数と第2の基準位相関数との間の関係を示すデータが利用可能とされている。
【0046】
この実施形態における演算ステップは、求められた分光光量を用いて、波数に対して非周期振動性の第1の分光光量成分及び波数に対して第2の基準位相関数に依存し第1の基準位相関数に依存しない周波数で振動する第3の分光光量成分を求め、かつ、波数に対して第1の基準位相関数と第2の基準位相関数との差に依存する周波数で振動する第2の分光光量成分、波数に対して第1の基準位相関数と第2の基準位相関数との和に依存する周波数で振動する第4の分光光量成分及び波数に対して第1の基準位相関数に依存し第2の基準位相関数に依存しない周波数で振動する第5の分光光量成分のうち少なくとも1つを求め、第1の基準位相関数と第2の基準位相関数との間の関係を示すデータ及び求めた各分光光量成分を用いて、第1の基準位相関数及び第2の基準位相関数を求めるとともに偏光状態の波数分布を示すパラメータを求めるものである。
【0047】
ここで、「第1の基準位相関数と第2の基準位相関数との間の関係を示すデータ」は、両基準位相関数の間の各波長毎の比のような、第1の基準位相関数及び第2の基準位相関数の一方が与えられれば他方を求めることができるようなデータである。
【0048】
「基準位相関数を求める」には、これと等価なパラメータを求める場合を含む。特に、基準位相関数の情報を含む複素関数を求めることは、基準位相関数と等価なパラメータを求めることに該当する。
【0049】
検光子の透過軸の方向が第2の移相子の速軸の方向に対して45°となるように配置された場合には、第5の分光光量成分は現れなくなるので、演算ステップにおける第2、第4及び第5の分光光量成分のうち少なくとも1つを求める部分では、第2及び第4の分光光量成分のうち少なくとも1つを求めればよい。このようにすると演算が簡単になる利点がある。他方、検光子の透過軸の方向と第2の移相子の速軸の方向との間の角度を45°に限定しない場合は、光学系の組み立て誤差に対する制限が緩やかになるので光学系の製造が容易になる利点がある。
【0050】
(4)この発明の分光偏光計測方法の他の実施形態では、位相属性関数の組は、第1の基準位相関数の較正用基準値からの第1の基準位相関数の変化量(Δφ1(σ))並びに第2の基準位相関数の較正用基準値からの第2の基準位相関数の変化量(Δφ2(σ))である。この実施形態の演算ステップにおいては、第1の基準位相関数の較正用基準値(φ1(i)(σ))及び第2の基準位相関数の較正用基準値(φ2(i)(σ))、並びに第1の基準位相関数の変化量と第2の基準位相関数の変化量との間の関係を示すデータが利用可能とされている。
【0051】
この実施形態における演算ステップは、求められた分光光量を用いて、波数に対して非周期振動性の第1の分光光量成分及び波数に対して第2の基準位相関数に依存し第1の基準位相関数に依存しない周波数で振動する第3の分光光量成分を求め、かつ、波数に対して第1の基準位相関数と第2の基準位相関数との差に依存する周波数で振動する第2の分光光量成分、波数に対して第1の基準位相関数と第2の基準位相関数との和に依存する周波数で振動する第4の分光光量成分及び波数に対して第1の基準位相関数に依存し第2の基準位相関数に依存しない周波数で振動する第5の分光光量成分のうち少なくとも1つを求め、第1の基準位相関数の較正用基準値、第2の基準位相関数の較正用基準値、第1の基準位相関数の変化量と第2の基準位相関数の変化量との間の関係を示すデータ及び求めた各分光光量成分を用いて、第1の基準位相関数の変化量及び第2の基準位相関数の変化量を求めるとともに偏光状態の波数分布を示すパラメータを求めるものである。
【0052】
ここで、第1及び第2の基準位相関数の「較正用基準値」は、基準位相関数の実測した初期値であってもよいし、実測に基づかずに適当に設定された値でもよい。ただし、両較正用基準値の間の関係は、第1の基準位相関数の変化量と第2の基準位相関数の変化量との間の関係と整合した関係であることが好ましい。
【0053】
「基準位相関数の変化量」は、「基準位相関数」と「基準位相関数の較正用基準値」との差として定義される。したがって、「基準位相関数の較正用基準値」が実際の初期値と一致しない場合には、「基準位相関数の変化量」は基準位相関数の実際の変化量を意味しない。
【0054】
「第1の基準位相関数の変化量と第2の基準位相関数の変化量との間の関係を示すデータ」は、両変化量の間の各波長毎の比のような、第1の基準位相関数の変化量及び第2の基準位相関数の変化量の一方が与えられれば他方を求めることができるようなデータである。
【0055】
「基準位相関数の変化量を求める」には、これと等価なパラメータを求める場合を含む。特に、基準位相関数の変化量の情報を含む複素関数を求めることは、基準位相関数の変化量と等価なパラメータを求めることに該当する。
【0056】
検光子の透過軸の方向が第2の移相子の速軸の方向に対して45°となるように配置された場合には、第5の分光光量成分は現れなくなることについては、前述の場合と同様である。
【0057】
この実施形態との比較のため、まず上記(3)の実施形態のように基準位相関数の変化量を用いずに基準位相関数を用いて演算を進める場合について考える。演算式における見かけはともかくとして、原理的には被測定光の偏光状態とは独立に確定可能な第2の基準位相関数がまず確定され、次いで第2の基準位相関数を用いて第1の基準位相関数が確定されることになる。このとき、求められた第2の基準位相関数には、2πの整数倍の不定性が付随する。このこと自体は偏光状態の波数分布を示すパラメータの算出誤差に影響しないが、第2の基準位相関数から第1の基準位相関数を求める際に行うアンラッピング処理が第1の基準位相関数の算出誤差の要因となることによって、偏光状態の波数分布を示すパラメータの算出誤差が生じることがある。アンラッピング処理とは、第2の基準位相関数の値が波数変化に対して2πの範囲を超えて連続的に変化していくように第2の基準位相関数の値を決定する処理である。第2の基準位相関数の変化量を用いない場合は、第1の基準位相関数は、アンラッピング処理後の第2の基準位相関数に「第1及び第2の基準位相関数の間の関係を示すデータ」を適用して求められる。波数のサンプリング間隔と比較して第2の基準位相関数の値が2π変化するときの波数間隔が十分大きくないときや、第2の基準位相関数の計測値にノイズがのっているときには、アンラッピング処理後の第2の基準位相関数の算出を2πを単位として誤る可能性があり、そのように2πを単位とする誤差を含んだ第2の基準位相関数から第1の基準位相関数を求めると、第1の基準位相関数に含まれる誤差は一般に2πを単位とするものではなくなるため、偏光状態の波数分布を示すパラメータを算出する場合の大きな誤差となる。これに対して、この(4)の実施形態の場合には、第2の基準位相関数の変化量の波数に対する変化が緩やかであることから、第2の基準位相関数の変化量についてのアンラッピング処理が不要又は少ない頻度ですむため、アンラッピング処理に起因して第1の基準位相関数の変化量に誤差が生じる可能性をなくすこと又はきわめて低減することができる。
【0058】
(5)上記(4)の実施形態において、さらに、偏光分光装置に偏光状態の波数分布を示す各パラメータが既知である較正用の光を入射させて較正用の分光光量を求め、較正用の光の偏光状態の波数分布を示す各パラメータ及び求めた較正用の分光光量を用いて第1の基準位相関数の較正用基準値(φ1(i)(σ))及び第2の基準位相関数の較正用基準値(φ2(i)(σ))を求めるステップを備え、それによりこれらの較正用基準値が利用可能とされるようにしてもよい。
【0059】
(6)また、上記(4)の実施形態において、さらに、偏光分光装置に偏光状態の波数分布を示す各パラメータが既知である較正用の光を入射させて較正用の分光光量を求め、較正用の光の偏光状態の波数分布を示す各パラメータ及び求めた較正用の分光光量を用いて、第1の基準位相関数の較正用基準値(φ1(i)(σ))、第2の基準位相関数の較正用基準値(φ2(i)(σ))及び第1の基準位相関数の変化量と第2の基準位相関数の変化量との間の関係を示すデータを求めるステップを備え、それによりこれらの値が利用可能とされるようにしてもよい。
【0060】
(7)上記(3)の実施形態において、さらに、偏光分光装置に偏光状態の波数分布を示す各パラメータが既知である較正用の光を入射させて較正用の分光光量を求め、較正用の光の偏光状態の波数分布を示す各パラメータ及び求めた較正用の分光光量を用いて第1の基準位相関数と第2の基準位相関数との間の関係を示すデータを求めるステップを備え、それにより第1の基準位相関数と第2の基準位相関数との間の関係を示すデータが利用可能とされるようにしてもよい。
【0061】
(8)上記(5)及び(6)の実施形態において、較正用の光として直線偏光を用いることができる。
【0062】
(9)また、上記(7)の実施形態においても、較正用の光として直線偏光を用いることができる。
【0063】
(10)この発明の分光偏光計測方法の他の実施形態では、演算ステップにおいて、分光光量の波数分布に関する情報を含む第1のベクトルが、行列と、被測定光の偏光状態の波数分布に関する情報及び位相属性関数の組に関する情報を含む第2のベクトルとの積によって表される関係が成り立つような前記行列の一般化逆行列の各要素の値が利用可能とされている。
【0064】
この実施形態における演算ステップは、求められた分光光量を用いて第1のベクトルの各要素の値を特定し、前記一般化逆行列と第1のベクトルとの積演算により第2のベクトルの各要素の値を求め、 第2のベクトルに含まれる要素の値を用いて位相属性関数の組を求めるとともに被測定光の偏光状態の波数分布を示すパラメータを求めるものである。
【0065】
(11)上記(10)の実施形態を前提とした他の実施形態では、位相属性関数の組は、第1の基準位相関数の較正用基準値からの第1の基準位相関数の変化量(Δφ1(σ))並びに第2の基準位相関数の較正用基準値からの第2の基準位相関数の変化量(Δφ2(σ))である。この実施形態の演算ステップにおいては、第1の基準位相関数の変化量と第2の基準位相関数の変化量との間の関係を示すデータが利用可能とされている。さらに、第1の基準位相関数の較正用基準値(φ1(i)(σ))及び第2の基準位相関数の較正用基準値(φ2(i)(σ))から求められた前記行列の一般化逆行列が利用可能とされている。
【0066】
この実施形態における演算ステップは、求められた分光光量を用いて第1のベクトルの各要素の値を特定し、前記一般化逆行列と第1のベクトルとの積演算により第2のベクトルの各要素の値を求め、第2のベクトルに含まれる要素の値及び第1の基準位相関数の変化量と第2の基準位相関数の変化量との間の関係を示すデータを用いて、第1の基準位相関数の変化量及び第2の基準位相関数の変化量を求めるとともに偏光状態の波数分布を示すパラメータを求めるものである。
【0067】
(12)この発明の分光偏光計測装置は、偏光分光装置と演算装置とを備えている。
【0068】
偏光分光装置は、被測定光が順に透過する第1の移相子、第2の移相子及び検光子と、前記検光子を透過した光の分光光量を求める手段とを備えている。ここで、第2の移相子は、その主軸の方向と第1の移相子の主軸の方向とが不一致となるように配置されている。検光子は、その透過軸の方向と第2の移相子の主軸の方向とが不一致となるように配置されている。
【0069】
演算装置は、偏光分光装置に被測定光を入射させて求められた分光光量を用いて、測定系の位相属性関数の組を求めるとともに被測定光の偏光状態の波数分布を示すパラメータを求める。ここで、位相属性関数の組は、偏光分光装置の特性によって規定される関数の組であって、第1の移相子のリタデーションである第1の基準位相関数(φ1(σ))に少なくとも依存する関数及び第2の移相子のリタデーションである第2の基準位相関数(φ2(σ))に少なくとも依存する関数を含み、それ自身のみで又は偏光分光装置の特性によって規定される他の関数を加えることにより、被測定光の偏光状態の波数分布を示すパラメータを求めるのに十分な関数の組となるものである。
【0070】
(13)前記検光子は、その透過軸の方向が第2の移相子の速軸の方向に対して45°となるように配置されたものとしてもよい。
【0071】
(14)この発明の分光偏光計測装置の一つの実施形態では、位相属性関数の組は、第1の基準位相関数及び第2の基準位相関数である。この実施形態の演算装置においては、第1の基準位相関数と第2の基準位相関数との間の関係を示すデータが利用可能とされている。
【0072】
この実施形態における演算装置は、偏光分光装置に被測定光を入射させて求められた分光光量を用いて、波数に対して非周期振動性の第1の分光光量成分及び波数に対して第2の基準位相関数に依存し第1の基準位相関数に依存しない周波数で振動する第3の分光光量成分を求め、かつ、波数に対して第1の基準位相関数と第2の基準位相関数との差に依存する周波数で振動する第2の分光光量成分、波数に対して第1の基準位相関数と第2の基準位相関数との和に依存する周波数で振動する第4の分光光量成分及び波数に対して第1の基準位相関数に依存し第2の基準位相関数に依存しない周波数で振動する第5の分光光量成分のうち少なくとも1つを求め、第1の基準位相関数と第2の基準位相関数との間の関係を示すデータ及び求めた各分光光量成分を用いて、第1の基準位相関数及び第2の基準位相関数を求めるとともに偏光状態の波数分布を示すパラメータを求めるものである。
【0073】
(15)この発明の分光偏光計測装置の他の実施形態では、位相属性関数の組は、第1の基準位相関数の較正用基準値からの第1の基準位相関数の変化量(Δφ1(σ))並びに第2の基準位相関数の較正用基準値からの第2の基準位相関数の変化量(Δφ2(σ))である。この実施形態の演算装置においては、第1の基準位相関数の較正用基準値(φ1(i)(σ))及び第2の基準位相関数の較正用基準値(φ2(i)(σ))、並びに第1の基準位相関数の変化量と第2の基準位相関数の変化量との間の関係を示すデータが利用可能とされている。
【0074】
この実施形態における演算装置は、偏光分光装置に被測定光を入射させて求められた分光光量を用いて、波数に対して非周期振動性の第1の分光光量成分及び波数に対して第2の基準位相関数に依存し第1の基準位相関数に依存しない周波数で振動する第3の分光光量成分を求め、かつ、波数に対して第1の基準位相関数と第2の基準位相関数との差に依存する周波数で振動する第2の分光光量成分、波数に対して第1の基準位相関数と第2の基準位相関数との和に依存する周波数で振動する第4の分光光量成分及び波数に対して第1の基準位相関数に依存し第2の基準位相関数に依存しない周波数で振動する第5の分光光量成分のうち少なくとも1つを求め、第1の基準位相関数の較正用基準値、第2の基準位相関数の較正用基準値、第1の基準位相関数の変化量と第2の基準位相関数の変化量との間の関係を示すデータ及び求めた各分光光量成分を用いて、第1の基準位相関数の変化量及び第2の基準位相関数の変化量を求めるとともに偏光状態の波数分布を示すパラメータを求めるものである。
【0075】
(16)この発明の分光偏光計測装置の他の実施形態では、演算装置において、分光光量の波数分布に関する情報を含む第1のベクトルが、行列と、被測定光の偏光状態の波数分布に関する情報及び位相属性関数の組に関する情報を含む第2のベクトルとの積によって表される関係が成り立つような前記行列の一般化逆行列の各要素の値が利用可能とされている。
【0076】
この実施形態における演算装置は、偏光分光装置に被測定光を入射させて求められた分光光量を用いて第1のベクトルの各要素の値を特定し、前記一般化逆行列と第1のベクトルとの積演算により第2のベクトルの各要素の値を求め、 第2のベクトルに含まれる要素の値を用いて位相属性関数の組を求めるとともに被測定光の偏光状態の波数分布を示すパラメータを求めるものである。
【0077】
(17)上記(16)の実施形態を前提とした他の実施形態では、位相属性関数の組は、第1の基準位相関数の較正用基準値からの第1の基準位相関数の変化量(Δφ1(σ))並びに第2の基準位相関数の較正用基準値からの第2の基準位相関数の変化量(Δφ2(σ))である。この実施形態の演算装置においては、第1の基準位相関数の変化量と第2の基準位相関数の変化量との間の関係を示すデータが利用可能とされている。さらに、第1の基準位相関数の較正用基準値(φ1(i)(σ))及び第2の基準位相関数の較正用基準値(φ2(i)(σ))から求められた前記行列の一般化逆行列が利用可能とされている。
【0078】
この実施形態における演算装置は、偏光分光装置に被測定光を入射させて求められた分光光量を用いて第1のベクトルの各要素の値を特定し、前記一般化逆行列と第1のベクトルとの積演算により第2のベクトルの各要素の値を求め、第2のベクトルに含まれる要素の値及び第1の基準位相関数の変化量と第2の基準位相関数の変化量との間の関係を示すデータを用いて、第1の基準位相関数の変化量及び第2の基準位相関数の変化量を求めるとともに偏光状態の波数分布を示すパラメータを求めるものである。
【発明の効果】
【0079】
本発明によれば、チャネルド分光偏光計測法が有する、偏光制御のための機械的可動部や電気的光学変調器のような能動的素子を必要とせず、1回のスペクトル取得により原理的に被測定光のすべての偏光状態の波数分布を示すパラメータ(偏光状態パラメータの波長分布)を求めることができるという特徴を継承しつつ、移相子のリタデーションが温度変化その他の要因により変動することによって生じる偏光状態の波数分布を示すパラメータの計測誤差を効果的に低減することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0080】
以下に、本発明の好適な実施の一形態を添付図面(図1〜図10)を参照しながら詳細に説明する。
【0081】
第1章 本発明の前提となるチャネルド分光偏光計測法について
1.1 チャネルド分光偏光計測法の原理
チャネルド分光偏光計測法に使用されるチャネルド分光偏光計の基本構成が図1に示されている。この分光偏光計は、2つの厚い移相子R1とR2、検光子A、および分光器5によって構成されている。ここで移相子R1とR2の速軸(fast axis)は互いに45°傾けられており、一方検光子Aの透過軸(transmission axis)は移相子R1の速軸(fast axis)と一致している。
【0082】
なお、これらの3つの素子の間の交差角は、必ずしも45°でなくとも良い。他の交差角でも、多少効率が悪くはなるが、測定は可能となる。要は、隣り合う素子の主軸が重ならなければよい。この点については後に詳述する。重要なのは、各素子は固定であり、従来法のように回転させたりあるいは変調させたりする必要が無い点にある。
【0083】
広いスペクトルを持つ被測定光(偏光状態が測られる光)は、図の左から偏光計に入射される。この被測定光の偏光状態(State of Polarization,SOP)のスペクトル分布は、分光ストークスパラメータS0(σ),S1(σ),S2(σ),およびS3(σ)で表すことができる。ここでσは、波長λの逆数で定義される「波数」である。また、この分光ストークスパラメータを決めるための座標軸x,yは、移相子R1の速軸と遅軸に一致させて取るものとする。
【0084】
偏光計に入射した被測定光は、移相子R1,R2,検光子Aを順に透過し、分光器5に入射する。この分光器5から得られるスペクトルより、後述する所定の手順を使うと、波数σに依存したストークスパラメータが求められるのである。
【0085】
分光ストークスパラメータを求める手順について説明する前に、その準備として、移相子R1とR2の特性を定式化しておく。移相子とは、互いに直交する直線偏光成分間の位相差を、素子透過前後で変化させる性質の素子である。この位相差の変化量をリタデーションと呼ぶ。
【0086】
複屈折媒質で作られた移相子Rj(j=1,2)のリタデーションは、波数σに対して次式のように変化する。
φj(σ)=2πdjB(σ)σ=2πLjσ+Φj(σ) (1.1)
ただし
【数1】
ここで、djはRjの厚さであり、B(σ)はその複屈折である。また、σ0は被測定光の中心波数を示す。
【0087】
今、B(σ)の分散(波数に対する変化率)がそれほど大きくないとすると、式(1.1)からわかるように、φ(σ)は波数σに対してほぼ線形に増加することとなる。この性質が、後に述べる手順で分光ストークスパラメータ復調の基礎となる。
【0088】
1.2 分光器で取得されるチャネルドスペクトル
図1に示される「チャネルド分光偏光計」において、分光器5で取得されるスペクトル(分光光量)は次式により表わされる。
【数2】
ただし、
S23(σ)=S2(σ)+iS3(σ) (1.4)
となる。ここで、m0(σ),m−(σ),m2(σ),m+(σ)は、分光器が細かい振動成分に十分追随できないことによる振幅減衰率を示す。この式の性質を理解するために、式(1.1)を代入すると、
【数3】
ただし、
L−=L2−L1, (1.6a)
L+=L2+L1, (1.6b)
Φ−(σ)=Φ2(σ)−Φ1(σ) (1.6c)
Φ+(σ)=Φ2(σ)+Φ1(σ) (1.6d)
となっていることがわかる。
【0089】
式(1.5)からわかるように、分光器から得られるスペクトルP(σ)には、4つの成分が含まれている。このうちの一つは、波数σに対して緩やかに変動する成分であり、残りの3つは、波数σに対して振動する疑似正弦的な成分となっている。これらを模式的に示したのが、図2である。
【0090】
ここで、3つの振動成分の各々の中心周期は、1/L−,1/L2,1/L+となっている。この図のように、波数(波長)に対して周期的に細かく振動する成分を含むスペクトルのことをチャネルドスペクトル(Channeled Spectrum)と呼ぶ。
【0091】
ここで注意すべきは、この4つの成分が、それぞれ、S0(σ)、S1(σ)もしくはS23(σ)のいずれかの情報をもっている点である。各々の成分を分離することができると、ひとつのスペクトルP(σ)から全ての分光ストークスパラメータS0(σ),S1(σ),S2(σ),S3(σ)を決定する事ができることとなる。
【0092】
1.3 素子間の交差角が45°以外の場合
次に、素子間の交差角が45°以外の場合に、分光器5で取得されるスペクトルについて説明する。
【0093】
ここで補足として、光学系中の各素子間の交差角が45°以外となった場合に得られるスペクトルについても説明しておく。
【0094】
今、図1の光学系において、移相子R1とR2の速軸(fast axis)の間のなす角をθRR、移相子R2の速軸と検光子Aの透過軸がなす角をθRAとする。これまでは、θRR=45°,θRA=−45°に限って計算してきたが、ここがより一般的な角度になった場合について示す。
【0095】
得られるチャネルドスペクトルP(σ)は、
【数4】
となる。これらを模式的に示したのが図3である。
【0096】
この式を、先の式(1.3)の時のスペクトル、すなわちθRR=45°,θRA=−45°に限定した時のスペクトルと比較すると、単なる係数の定数倍の違いの他に、下記の違いがあることがわかる。なお、この違う部分は、式(1.7)中に下線で示した。
【0097】
・波数σに対して緩やかに変動する成分が、S0(σ)のみならずS1(σ)にも依存するようになる。
【0098】
・位相φ1(σ)によって疑似正弦的に振動する成分、すなわち中心周期1/L1で振動する成分が加わる。なお、この成分も(φ2(σ)−φ1(σ)およびφ2(σ)+φ1(σ)に従って振動する2つの成分と同様に、)S23(σ)の情報を持っている。すなわち、この項は、S23を含む他の2項と同様に扱えることを意味している。
【0099】
ここで、上記の2つの成分が現れないための条件について考えてみる。
【0100】
前者の項は「θRR≠±45°とθRA≠±−45°の両方が成り立つとき」に限って現れる。一方後者の項は、「θRA≠±45°となるとき、(θRRが±45°と一致しているか否かには無関係に)」現れる。これから、下記の事実が言える。
【0101】
移相子R2の速軸と検光子Aの透過軸が45°で交差しているとき(すなわちθRA=±45°のとき)には、チャネルドスペクトルは、各項の係数の定数倍の違いを除き、式(1.3)で与えられる。このとき、移相子R1とR2の速軸(fast axis)の間のなす角θRRが±45°に一致するか否かは無関係である。
【0102】
さらに、これを言い換えると、チャネルドスペクトルが、式(1.3)の形を取るためには、移相子R2の速軸と検光子Aの透過軸が±45°で交差していることが条件となる。一方、移相子R1とR2の速軸(fast axis)の間のなす角が±45°に一致するか否かは無関係である。
【0103】
1.4 分光ストークスパラメータ復調の手順
分光ストークスパラメータを復調するための具体的な手順について、図4を参照しつつ、以下説明する。大まかな流れは、次の通りになる。
Step1:スペクトルP(σ)から、各項を分離する。
Step2:各々の成分の振幅と位相を求める。
(あるいは、同値な量、例えば複素表示した際の実部と虚部を求める。)
Step3:各振動成分の振幅と位相に含まれる
【数5】
を除いて、分光ストークスパラメータS0(σ),S1(σ),S2(σ),S3(σ)を得る。(これらの基準関数は、被測定光によらず、偏光計のパラメータのみに依存するものである。)
【0104】
各ステップについて、以下説明する。
【0105】
[Step1]
前節で述べたように、スペクトルP(σ)には4つの成分が含まれている。各々を信号処理により取り出す作業をする。この作業で利用するのは、各々の成分が異なる周期(周波数)で振動していることである。通信工学や信号解析などの分野で広く用いられている様々な周波数フィルタリングの技法(のどれか一つ)を用いれば、各々を分離することができる。
【数6】
【0106】
成分[1]は、波数に対して非周期振動性の分光光量成分である。成分[2]は、波数に対して第1の基準位相関数φ1(σ)と第2の基準位相関数φ2(σ)との差に依存する周波数で振動する分光光量成分である。成分[3]は、波数に対して第2の基準位相関数φ2(σ)に依存し第1の基準位相関数φ1(σ)に依存しない周波数で振動する分光光量成分である。成分[4]は、波数に対して第1の基準位相関数φ1(σ)と第2の基準位相関数φ2(σ)との和に依存する周波数で振動する分光光量成分である。移相子R2の速軸の方向と検光子Aの透過軸の方向とのなす角が45°でない場合には、波数に対して第1の基準移相関数φ1(σ)に依存し第2の基準位相関数φ2(σ)に依存しない周波数で振動する分光光量成分[5]が現れる。
【0107】
[Step2]
Step1で分離された各成分それぞれについて、図5に示されるように、その「振幅と位相の組」ないし「複素表示」を求める。この作業にも、Step1同様、通信工学や信号解析などの分野で一般的な様々な復調法を利用して容易に実現できる。例えば、
振幅復調:整流検波法、包絡線検波法など
位相復調:周波数弁別器法、ゼロクロス法など
複素表示の復調:フーリエ変換法(後述)、同期検波法など
が挙げられる。
【0108】
ここで、振動成分の「振幅」、「位相」、「複素表示」について、その定義と基本的な性質を下記にまとめておく。式(1.8a)〜(1.8d)を見ればわかるように、分離された各成分は、成分[1]以外は皆
a(σ)cosδ(σ) (1.9)
の形を取っている。このa(σ)とδ(σ)それぞれを、その振動成分の「振幅」および「位相」と呼ぶ。なお、ここで成分[1]についても、位相がδ0(σ)=0である(すなわちcosδ0(σ)=1である)と見なせば、この成分についても振幅を定義することができる。
【0109】
また、この振幅・位相と
【数7】
なる関係があるF(σ)を、複素表示と呼ぶ。このF(σ)の実部は振動成分の振幅を半分にしたものであり、虚部は実部と位相が90度ずれたものである。なお、成分[1]においては、δ(σ)=0、すなわち虚部がないため、1/2倍はしない。
【0110】
ここで注意すべきは、「振幅と位相の組」ないし「複素表示」のいずれか一方のみが復調できれば、他方は下記関係式を用いて直ちに計算できることにある。
【数8】
【0111】
すなわち、一方のみを復調すれば、他方も必要に応じてすぐに計算できることになる。
【0112】
各成分の「振幅」と「位相」を復調すると、その結果は
【数9】
となる。
【0113】
一方、各成分の「複素表示」を復調すると、その結果は
【数10】
となる。ここで、*は、複素共役を表す。なお、以下の都合上、これらの複素表示の式を下記のように書き直しておく。
【数11】
である。
【0114】
[Step3]
最後に、先のStep2で求めた「振幅」と「位相」、もしくは「複素表示」から、波数σの関数としての分光ストークスパラメータS0(σ),S1(σ),S2(σ),S3(σ)を決定する。
【0115】
Step2で得られた「振幅」と「位相」には、求める分光ストークスパラメータの他に、
【数12】
が含まれている。
【0116】
前者は振幅に、後者は位相に含まれている。これらは、各々の振動成分の振幅と位相から分光ストークスパラメータを決定する際の基準を与える。そこで以下各々を、「基準振幅関数(reference amplitude function)」ならびに「基準位相関数(reference phase function)」と呼ぶことにする。これらのパラメータは、被測定光に依存しないため、各々を除算ないし減算することによって、
・S0(σ)は、「成分[1]」から
・S2(σ)とS3(σ)は、「成分[2]」もしくは「成分[4]」(いずれか一方)から
・S1(σ)は「成分[3]」から
が、それぞれ決定できることとなる。
【0117】
一方、「複素表示」の場合には、偏光計自体の特性のみで決まるパラメータ(関数)は、式(1.16a)〜(1.16d)で定義されるK0(σ),K−(σ),K2(σ),K+(σ)となる。これらは、いわば「基準複素関数」と呼ぶべきものとなる。
【0118】
式(1.15a)〜(1.15d)からわかるように、上記基準複素関数が求まっていれば、Step2で復調された各振動成分の複素表示を除算することによって、
・S0(σ)は、「成分[1]」から
・S2(σ)とS3(σ)は、「成分[2]」もしくは「成分[4]」(いずれか一方)から
・S1(σ)は「成分[3]」から
が、それぞれ決定できることとなる。
【0119】
移相子R2と検光子Aのなす角が45°でない場合には、現れる第5の項を、「成分[2]」と「成分[4]」の代わりに使うことができる。すなわち、上記の2行目は
・S2(σ)とS3(σ)は、「成分[2]」、「成分[4]」、「成分[5]」のうちの一つから
と書き換えられることとなる。
【0120】
次に、分光ストークスパラメータ復調のための信号処理法の一つとして、「フーリエ変換法」を図6を参照しつつ説明する。この方法を用いると、Step1とStep2を一度に効率良く行え、各振動成分の複素表示全てが直ちに求められることとなる。
【0121】
この方法では、チャネルド分光偏光計内の分光器で測定されたスペクトルP(σ)をまず逆フーリエ変換する。得られるのは、分光器入射光の相関関数
【数13】
である。この相関関数C(h)は、図6の右上部に示されるように、各振動成分の周期の逆数0,±L−,±L2,±L+を中心とする7つの成分を含むこととなる。
【0122】
ここで、これらの周期の逆数を適当に選べば、C(h)に含まれる各成分を、h軸上で互いに分離することができる。このうちh=0,L−,L2,L+を中心とする4つの成分を取り出して、各々をフーリエ変換すると、
【数14】
となる。
【0123】
この式を見ればわかるように、上記の操作で求められるものは、前述のStep2で求めるべき、成分[1]〜[4]の複素表示そのものになっている。すなわち、上記の操作で、Step1とStep2が一度に実現されるのである。この結果に、後はStep3の操作を施せば、分光ストークスパラメータの全てが一度に求められることとなる。
【0124】
1.5 事前較正:基準振幅関数、基準位相関数、基準複素関数の「測定前の」較正
前節で述べたように、チャネルドスペクトルから偏光状態(分光ストークスパラメータ)を決定する際には、Step3において、偏光計自体の特性のみで決まるパラメータ、すなわち、
「基準振幅関数」m0(σ),m−(σ),m2(σ),m+(σ)
および「基準位相関数」φ2(σ),φ1(σ)
あるいは
「基準複素関数」K0(σ),K−(σ),K2(σ),K+(σ)
を予め決定しておく必要がある。前者(「基準振幅関数」及び「基準位相関数」)と後者(「基準複素関数」)は、それぞれ、各振動成分の「振幅・位相」あるいは「複素表示」から分光ストークスパラメータを求める場合に必要となる。これらは、被測定光によらない関数であるので、すくなくとも測定前に較正をしておくことが望ましい。
【0125】
本節では、これらの基準関数を「測定の前に、すなわち事前に」較正する手順を説明する。すなわち、図7に示されるように、偏光測定(ステップ711〜714)に先立ち、事前較正(ステップ701〜705)を行わねばならない。代表的な考え方に、
・『方法1』:光学系に用いる各素子の特性から、基準位相関数や基準振幅関数を較正する方法
・『方法2』:既知の偏光状態を持つ光を用いて、基準位相関数や基準振幅関数を較正する方法
の2通りがある。
【0126】
1.5.1 『方法1』
光学系に用いる各素子の特性から、基準位相関数や基準振幅関数を較正する方法
基準位相関数や基準振幅関数は、チャネルド分光偏光計に用いる素子によって基本的にその特性が決まる。従って、個々の素子の光学特性を実験もしくは計算などで調べて、それらを積み重ねてパラメータの較正が行える。
【0127】
1.5.2 『方法2』
既知の偏光状態を持つ光を用いて、基準位相関数や基準振幅関数を較正する方法
基準位相関数や基準振幅関数は、「チャネルド分光偏光計」の特性だけで決まる量であり、「被測定光の偏光状態」にはよらない。そこで、「偏光状態が既知の光(測定結果が分かっているもの)」を偏光計に入力し、その結果を用いて、基準位相関数や基準振幅関数を逆算することができる。
【0128】
なお、「チャネルド分光偏光計」にはその利点として、
・「偏光状態が既知の光」としては、「一種類だけ」でもOKである。
・その「一種類」の光には、「直線偏光」が使える。
がある。
【0129】
一般に、分光ストークスパラメータを求める現用の偏光計では、較正をする際に、最低でも4つの異なる偏光状態の光を用意せねばならず、さらに、そのうちの少なくとも一つは直線偏光以外でなければならなかった。これに対し、チャネルド分光偏光計では、一種類の既知偏光、それも直線偏光で良いのである。なぜ直線偏光が都合がよいかというと、他の偏光状態とは異なり、高消光比の結晶型偏光子を用いれば純度の高い光が容易に作り出せるからである。
【0130】
以下、その較正の手順を示す。なお、本節最初に述べたように、
・各振動成分の「振幅と位相」から偏光状態を求める場合には「基準振幅関数」と「基準位相関数」が、
・各振動成分の「複素表示」から偏光状態を求める場合には「基準複素関数」が、
それぞれ必要となる。
【0131】
以下それぞれの場合に分けて較正手順を述べる。それらは本質的には同一であり、単なる計算方法の違いであるが、便宜上並記しておく。
【0132】
A.基準振幅関数と基準位相関数を別々に求める較正手順
この較正では、まず初めに、「何らかの既知の偏光状態を持った光」を用意し、それをチャネルド分光偏光計に入射する。その既知の光の分光ストークスパラメータをS0(0)(σ),S1(0)(σ),S2(0)(σ),およびS3(0)(σ)とする。この光について、先に示した復調手段を施すと、Step2で求められた振幅と位相は、式(1.13a)〜(1.13d)より
【数15】
ただし、
S23(0)(σ)=S2(0)(σ)+iS3(0)(σ), (1.21)
となる。なお、これは、S0(σ)〜S3(σ)をS0(0)(σ)〜S3(0)(σ)に置き換えただけである。
【0133】
各振動成分の振幅と位相は、分光ストークスパラメータと基準振幅関数並びに基準位相関数だけで決まっている。ここで、「既知の偏光状態の光を入れた場合」には、分光ストークスパラメータが既知であるため、復調された振幅と位相から、残る基準振幅関数m0(σ),m−(σ),m2(σ),m+(σ)と基準位相関数φ1(σ),φ2(σ)が決定できることになる。具体的には、
【数16】
で与えられる。一度これらの基準関数が決まれば(較正できれば)、今度は、未知の偏光状態の光の分光ストークスパラメータが決められることとなる。
【0134】
なお、上記を見ると、既知の偏光状態の光の条件としては、S0(0)(σ),S1(0)(σ),S23(0)(σ)の全てが0でないことのみであることがわかる。特に、最後のS23(0)(σ)については、S2(0)(σ)とS3(0)(σ)のどちらか一方が0であっても他方が0でなければ良いことを意味している。ここで、S3(0)(σ)=0とは、直線偏光を意味する。すなわち、直線偏光だけでも較正ができることを意味している。具体的には、既知の光に方位θの直線偏光を用いた場合には、
S0(0)(σ)=I(0)(σ) (1.23a)
S1(0)(σ)=I(0)(σ)cos2θ (1.23b)
S2(0)(σ)=I(0)(σ)sin2θ (1.23c)
S3(0)(σ)=0 (1.23d)
となる。ここでI(0)(σ)は入射光のスペクトルである。この場合には、上記式(1.22a)〜(1.22g)は
【数17】
となる。
【0135】
これより、方位θと光源のスペクトルI(0)(σ)さえ事前にわかっていれば、基準振幅関数や基準位相関数が求められることがわかる。さらに、I(0)(σ)が不明であっても、方位θのみが既知であるならば、一部の(重要な)偏光パラメータを求める用途には十分である。
【0136】
B.両者を一緒に(基準複素関数として捕らえて)一度に求める較正手順
上記に述べた方法は、各振動成分の「振幅」と「位相」を分離して計算する方法であった。しかし、場合によっては、各振動成分の「複素表示」として計算する方が都合が(効率が)良い場合もある。一例としては、先に図6に示したフーリエ変換法のように、直接「複素表示」(式(1.15a)〜式(1.15d))が求まる場合が挙げられる。この様な場合には、いちいち「振幅」や「位相」に分離しないで、「複素表示」のまま較正を行ってしまうのが効率良い。
【0137】
以下に、その場合の計算式を示す。なお、注意すべきは、物理的な本質は全く一緒であることにある。単に計算が複素数を使って効率が良いというだけである。
【0138】
前節と同様に、チャネルド分光偏光計に、既知の分光ストークスパラメータS0(0)(σ),S1(0)(σ),S2(0)(σ),S3(0)(σ)を持った光が入射する場合を考える。この場合に求められる、各振動成分の複素表示は、それぞれ(式(1.15a)〜式(1.15d))より、
F0(0)(σ)=K0(σ)S0(0)(σ) (1.25a)
F−(0)(σ)=K−(σ)S23(0)(σ) (1.25b)
F2(0)(σ)=K2(σ)S1(0)(σ) (1.25c)
F+(0)(σ)=K+(σ)S23(0)*(σ) (1.25d)
となる。
【0139】
ここで、上式に含まれる複素関数K0(σ),K−(σ),K2(σ),K+(σ)は、式(1.16a)〜(1.16d)よりわかるように、基準振幅関数と基準位相関数のみから決まる量(基準複素関数)であり、被測定光によらない。従って、これらは、
【数18】
として逆算することができる。
【0140】
振幅と位相を分離して計算した場合と同様に、一度上記の基準複素関数が決まれば(較正できれば)、今度は、未知の偏光状態の光の分光ストークスパラメータが決められることとなる。
【0141】
なお、参考までに、方位θの直線偏光を用いた場合の上記を記しておく。
【数19】
【0142】
第2章 チャネルド分光偏光計の問題点
1.4節のStep3に述べたように、測定されたチャネルドスペクトルP(σ)から分光ストークスパラメータS0(σ),S1(σ),S2(σ),S3(σ)を復調するためには、
【数20】
をあらかじめ求めておく(較正しておく)必要がある(図7参照)。
【0143】
ところが、基準位相関数φ1(σ)とφ2(σ)は、様々な理由により変動するという性質がある。これらが変動すると、分光ストークスパラメータの測定値に大きな誤差が生じるという問題が生ずる。
【0144】
2.1 基準位相関数の変動を引き起こす原因
2.1.1 温度変化
基準位相関数φ1(σ)とφ2(σ)は分光偏光計中の移相子R1とR2によって決まる量(リタデーション)である。このリタデーションは温度に対して敏感に変化するという性質を持つ。そのため、温度変化によりチャネルドスペクトルの位相がずれる(図23参照)。その結果、温度上昇により、測定値がずれて、誤差を生ずる(図24参照)。また、圧力変化に対しても同様の変化が起きる。
【0145】
2.1.2 分光器の波長軸の変動
分光器がサンプルする波長がずれると、基準位相関数のゆらぎと「等価な」問題が生ずる。測定中にサンプルする波長がずれるとスペクトルが横ずれしたのと同様の効果になる。これは等価的な位相のずれとなる(図25参照)。特に、普通の分光器(モータで回折格子をまわすタイプ)では、モータのバックラッシュ等が理由で、測定の度にサンプルする波長が少しずつ(ランダムに)ずれてしまう。
【0146】
2.1.3 容易に考えつく解決策
各振動成分の基準位相関数が変動しないように、ゆらぎの原因を安定化させることが考えられるが、これはなかなか容易なことではない。例えば、温度変動についてみると、分光エリプソメトリで、エリプソメトリックパラメータの波数分布に求められる精度は0.1°程度以下とされ、そのためには、温度変動を0.5℃以下程度に抑えなければいけない。これには、温度安定化に大きな装置が必要となり、チャネルド分光偏光計の様々な利点(小型化、能動素子を含まない、など)が失われる。
【0147】
第3章 本発明の実施形態の構成について
チャネルドスペクトル中に含まれる各振動成分の基準位相関数φ1(σ)とφ2(σ)(被測定光によらない、偏光計のパラメータのみに依存する)が、様々な要因で変動し、それが誤差の大きな要因となる。この点に鑑み、本実施形態では、測定中に(測定と並行して)、各振動成分の基準位相関数φ1(σ)とφ2(σ)を較正できる機能をチャネルド分光偏光計にもたせるようにしている(図8〜図10参照)。
【0148】
3.1 「測定中」に較正する方法(その1)
1.5節で述べた較正方法は、「測定の事前に」較正する方法であった。それに対して、以下の節では、「測定中に」較正できる方法を示す。これらが「発明の主要部」についての実施形態になる。
【0149】
3.1.1 基本的な考え方
いま、測定中に(偏光状態が未知の光がチャネルド分光偏光計に入っている場合に、)第1章のStep2で求められた振幅と位相を再掲すると、下記のようになる。
【数21】
【0150】
ここで、4つの分光ストークスパラメータを求めるのに必要なのは、実は
・成分[1]の[振幅]→S0(σ)
・成分[2]と成分[4]の一方の[振幅]と[位相]→S2(σ)とS3(σ)
・成分[3]の[振幅]→S1(σ)
のみであることがわかる。残る
・成分[3]の[位相]
・成分[2]と成分[4]の中で残った方の[振幅]と[位相]
は、分光ストークスパラメータの復調には使われていないことがわかる。
【0151】
本発明者らは、この残る成分も活用すると、実は、4つの分光ストークスパラメータのみならず、「基準位相関数(φ1(σ)とφ2(σ)など)」が一度に求められることを見いだした。この方法では、特に既知の偏光状態の光を入力しなくても、測定の真っ最中に較正も同時にできる、ことを意味している。
【0152】
3.1.2 準備
この「測定中の計測法」を使うには、下記の前準備が必要となる。
・基準振幅関数m0(σ),m−(σ),m2(σ),m+(σ)については、事前較正をしておく(図7参照)。
【0153】
以下の方法は、基準位相関数のみしか有効でないため、基準振幅関数に関しては、1.5節に述べたいずれかの方法でおこなうこととする。なお、基準振幅関数の測定中のゆらぎの大きさは、一般にかなり小さく、多くの場合無視できる。すなわち、基準位相関数とは異なり、基準振幅関数を測定中に再較正する必要性は、一般的には、ほとんどない。
【0154】
・基準位相関数については、事前較正は必ずしも必要はない。ただし、φ1(σ)とφ2(σ)の比は求めておかねばならない。より一般的にいうと、φ1(σ)とφ2(σ)の一方から他方を求めることができるような、φ1(σ)とφ2(σ)との間の関係を示すデータを求めて利用可能にしておく必要がある。
例1:移相子R1とR2が同じ媒質で作られている場合には、両者の厚さの比からφ1(σ)とφ2(σ)の比が決まる。
例2:基準位相関数も事前較正すれば、両者の比が決まる。
(測定中に、両者の比は変わらないと見なしてよい。)
【0155】
尚、移相子R1とR2の比が測定中に変わる場合(たとえば両者の温度が異なる場合)などには、以下に述べる方法は使えないことに注意されたい。
【0156】
3.1.3 実際の較正方法
以下に、この考えに基づき、実際に較正する方法について説明する。
【0157】
A.振動成分[3]より基準位相関数φ2(σ)を求める方法
振動成分[3]のみに注目してその振幅と位相を再掲すると、
【数22】
となっている。ここで注目すべきは、この成分の位相δ2(σ)は、基準位相関数のうちの一つφ2(σ)(そのもの)となっている。すなわち、成分[3]の位相δ2(σ)が測定されれば、基準位相関数の一方φ2(σ)が次式によって直ちに決められていることを意味している。
φ2(σ)=δ2(σ) (3.3)
【0158】
この関係式は、被測定光の偏光状態によらず常に成り立つため、どのような被測定光によるチャネルドスペクトルからでも、測定値から直ちに基準位相関数の一方が求められることを意味している。これは、測定中に完全に並行して行える較正の方法であり、「既知偏光を利用した」場合(1.5節)のような「測定の事前で行う、もしくは測定を中断して行う」必要性は全くない。ただし、この際に、成分[3]が十分なSN比で観測されているという条件を満たしている必要はあることを注意しておく(後述のC参照)。
【0159】
なお、1.4節「分光ストークスパラメータ復調の手順」のStep2において、「振幅・位相の組」の代わりに「複素表示」を求めた場合には、上記を書き換えた以下に説明する計算方法を利用すれば良い。
【0160】
式(1.12b)より、δ2(σ)は成分[3]の複素表示F2(σ)と
δ2(σ)=arg[F2(σ)] (3.4)
なる関係を有している。従って、基準位相関数φ2(σ)は、成分[3]の複素表示から
φ2(σ)=arg[F2(σ)] (3.5)
とすれば求められることができる。なお、複素表示の時に必要なのは、基準位相関数φ2(σ)ではなく、基準複素関数K2(σ)になる。両者の間には式(1.16c)の関係があるから、φ2(σ)が決まればK2(σ)も求められることとなる(詳しくは、後述のFにて述べる)。
【0161】
B.複数の振動成分([2]と[4]の組など)より、基準位相関数φ2(σ)を求める方法
振動成分[2]と[4]各々の成分の位相を再掲すると、
成分[2]の位相:
δ−(σ)=φ2(σ)−φ1(σ)+arg{S23(σ)} (3.6a)
成分[4]の位相:
δ+(σ)=φ2(σ)+φ1(σ)−arg{S23(σ)}+π (3.6b)
となる。この両者の位相を加えると、φ1(σ)とarg{S23(σ)}がうち消され、φ2(σ)に依存する項のみが残る。これより、
【数23】
が成立することがわかる。
【0162】
この式の右辺は、振動成分[2]と[4]の位相の平均を取れば、基準位相関数の一つφ2(σ)が求められることを意味している。この関係式も、方法A同様、被測定光の偏光状態によらず常に成り立つため、どのような被測定光によるチャネルドスペクトルからでも、測定値から直ちに基準位相関数の一方が求められることを意味している。
【0163】
すなわち、方法Aの時と同様に、「測定中に完全に並行して行える較正の方法」であり、「既知偏光を利用した」場合(1.5節)のような「測定の事前で行う、もしくは測定を中断して行う」必要性は全くない。ただし、この方法では、こんどは成分[2]と[4]の両方が十分なSN比で観測されているという条件を満たしている必要があることを注意しておく(後述のC参照)。
【0164】
ここで、方法Aの時と同様に、1.4節のStep2において、「振幅と位相の組」の代わりに「複素表示」を求めた場合での計算式についてもふれておく。
【0165】
式(1.12b)より、δ−(σ),δ+(σ)は成分[2]と[4]の複素表示F−(σ),F+(σ)と
δ−(σ)=arg[F−(σ)] (3.8a)
δ+(σ)=arg[F+(σ)] (3.8b)
なる関係を有している。
【0166】
従って、基準位相関数φ2(σ)は、両成分の複素表示から
【数24】
として求めることができる。あるいは、上式を簡単な複素関数の公式で書き換えた
【数25】
を利用しても良い。
【0167】
図1の光学系(チャネルド分光偏光計)において、移相子R2と検光子Aのなす角が45°以外の場合には、図3などで述べた様に、得られるスペクトルにもう一つ異なる周期を持った成分が含まれる。
【0168】
式(1.7)を見ればわかるように、この成分の位相は「δ1(σ)=φ1(σ)−arg{S23(σ)}」となり、上記振動成分[2]や[4]とよく似た位相項となっている。このため、[2]や[4]とこれを組み合わせても(あるいは、一方と入れ替えても)同様のφ2(σ)の較正ができることとなる。
【0169】
C.AとBの組み合わせ
以上までに述べた2つの方法(方法Aと方法B)は、いずれも測定中に完全に並行して基準位相関数の一方φ2(σ)の較正ができる方法である。ただし、2つの方法では、用いられている振動成分が異なっている。ここで注意すべきは、方法Aで利用される振動成分[3]の振幅はS1(σ)に比例し、一方、方法Bで利用される振動成分[2]と[4]の両方の振幅は
【数26】
に比例していることである。
【0170】
被測定光の偏光状態は未知であるため、分光ストークスパラメータが各成分の位相測定に常に十分な大きさがあるという保証はない。たとえば、S1(σ)が小さい光が被測定光に来た場合には、その成分の位相を使うAの方法でφ2(σ)を求めると誤差が大きくなってしまうこととなる。この問題を解決するには、AとBの方法を適応的に組み合わせることが望ましい。具体的には、両者の結果を選択する、あるいは重み付け平均することなどにより、φ2(σ)のより確からしい値を求めることができるようになる。
【0171】
なお、S1(σ)とS23(σ)の「両方が」非常に小さくなるような被測定光は、事実上、存在しない。なぜなら、両方が小さいときとは、完全偏光成分の光強度
【数27】
が小さい場合、すなわち限りなく無偏光に近い状態である。このような場合には、偏光状態を求めること自体に意味が無くなる。従って、上記のAとBを組み合わせると、どのような偏光状態の被測定光に対しても、測定と並行したφ2(σ)の較正ができることとなる。
【0172】
D.AとBの組み合わせ(その2)
AとBを効率よく組み合わせるための考え方の一つを下記に示す。これは、特別な場合分けなどをせずに、直接的に計算できる方法である。なお、この部分(方法D)では、振動成分[2]〜[4]の複素表示F−(σ),F2(σ),F+(σ)の3者を用いて計算を行う。各振動成分の「振幅と位相の組」から計算する際には、これらを式(1.11)を使って一旦「複素表示」に直してから以下の計算手順に従えばよい。
【0173】
この方法を説明するための準備として、まず下記2式を導出し、その性質を述べる。式(3.5)を変形すると、
2φ2(σ)=arg[F22(σ)] (3.11)
が得られる。一方、式(3.10)の両辺を2倍すれば
2φ2(σ)=arg[−F−(σ)F+(σ)] (3.12)
が得られる。この両式を見比べれば、各々の右辺の大括弧の中の複素関数は、同じ偏角2φ2(σ)を持つことがわかる。さらに、各々の式で、大カッコの中に入ってる複素関数の絶対値を調べると、
【数28】
となることがわかる。この式が意味することは、(成分[3]から来る)前者の絶対値はS12(σ)に比例し、一方、(成分[2]と[4]によって決まる)後者の絶対値はS22(σ)+S32(σ)に比例することである。先に述べたように、この両者が同時に小さくなることはない。これより、上記の2つの複素関数に対して「同じ偏角を持つ適当な重み関数α(σ)とβ(σ)」をそれぞれ乗算して加えた
【数29】
では、2つの項の和の絶対値が小さくなることは(事実上)ない事がわかる。S12(σ)とS22(σ)+S32(σ)のいずれか一方が小さくなると、それに伴って上記2項のうちの一方も小さくなるが、必ず他方は残るのである。結果として被測定光の偏光状態が変化しても、この式の絶対値は極端に小さくなることは無い。また、この式の偏角は、常に2φ2(σ)+argα(σ)に等しい。これらの性質を利用すれば、次式に従えばS/Nが落ちることなく、φ2(σ)が求められることがわかる。
【数30】
【0174】
具体的なα(σ)とβ(σ)の選び方を下記に2通り示す。
[D−1] α(σ)=β(σ)=1
【0175】
重み関数の最も簡単な選び方は、両者を同じ定数(1)にしてしまうことである。この場合には、基準位相関数φ2(σ)を求めるための式は、
【数31】
となる。
【0176】
【数32】
もう一つの例は、事前較正された基準振幅関数を用いて、上式のようにα(σ)とβ(σ)を選ぶ方法である。このとき、復調された振動成分の複素表示から基準位相関数φ2(σ)を導出する式は
【数33】
となる。この形にすると、
【数34】
【0177】
特に、完全偏光の時にこれは、(偏光状態によらず)常に被測定光の光強度の自乗S02(σ)に一致する。つまり、被測定光に十分な光強度さえあれば、式(3.17)を使えば常にφ2(σ)は安定して求められることとなる。
【0178】
E.φ1(σ)の計算
φ1(σ)については、φ2(σ)と同様の揺らぎをしていると考えられるため、φ2(σ)の測定値から比例計算(例えば厚さの比を使う)で求めることができる。
【0179】
F.基準複素関数の計算
1.4節「分光ストークスパラメータ復調の手順」のStep2での復調において、(「振幅と位相の組」ではなく)「複素表示」を求めた場合には、最終的に分光ストークスパラメータを求めるためのStep3の作業の際に必要となるのは、基準位相関数φ1(σ),φ2(σ)ではなく、基準複素関数K0(σ),K−(σ),K2(σ),K+(σ)になる。しかし、これらも、上記Eまでの手順で基準位相関数φ1(σ),φ2(σ)が求まっていれば、式(1.16a)〜(1.16d)の関係を利用して直ちに求められる。
【0180】
本節で述べた分光偏光計測方法は、以下のようにまとめることができる。いずれの場合も、φ1(σ)とφ2(σ)との間の関係を示すデータが利用可能とされていることが前提である。
【0181】
本節の分光偏光計測方法は、チャネルド分光偏光計の光学系(偏光分光装置)に被測定光を入射させて求められた分光光量を用いて、分光光量の成分[1]及び成分[3]を求め、かつ、成分[2]、成分[4]及び成分[5]のうち少なくとも1つを求め、φ1(σ)とφ2(σ)との間の関係を示すデータ及び求めた各分光光量成分を用いて、φ1(σ)及びφ2(σ)を求めるとともに偏光状態の波数分布を示すパラメータを求めるものである。
【0182】
より具体的には、本節の方法Aの分光偏光計測方法は、偏光分光装置に被測定光を入射させて求められた分光光量を用いて、分光光量の成分[1]及び成分[3]を求め、かつ、成分[2]、成分[4]及び成分[5]のうち少なくとも1つを求め、求めた成分[3]からφ2(σ)を求め、φ1(σ)とφ2(σ)との間の関係を示すデータ並びに求めたφ2(σ)からφ1(σ)を求め、求めた各分光光量成分、φ1(σ)及びφ2(σ)を用いて偏光状態の波数分布を示すパラメータを求めるものである。方法Aは、被測定光の分光ストークスパラメータS1(σ)が0又は0に近い値でない場合に好適な実施形態である。
【0183】
本節の方法Bの分光偏光計測方法は、偏光分光装置に被測定光を入射させて求められた分光光量を用いて、分光光量の成分[1]及び成分[3]を求め、かつ、成分[2]、成分[4]及び成分[5]のうち少なくとも2つを求め、成分[2]、成分[4]及び成分[5]のうち求めた少なくとも2つの成分からφ2(σ)を求め、φ1(σ)とφ2(σ)との間の関係を示すデータ並びに求めたφ2(σ)からφ1(σ)を求め、求めた各分光光量成分、φ1(σ)及びφ2(σ)を用いて偏光状態の波数分布を示すパラメータを求めるものである。方法Bは、被測定光の分光ストークスパラメータS2(σ)及びS3(σ)の両方が0又は0に近い値である場合以外の場合に好適な実施形態である。
【0184】
本節の方法C及びDの分光偏光計測方法は、偏光分光装置に被測定光を入射させて求められた分光光量を用いて、分光光量の成分[1]及び成分[3]を求め、かつ、成分[2]、成分[4]及び成分[5]のうち少なくとも2つを求め、求めた成分[3]からφ2(σ)を求める第1の手順と、成分[2]、成分[4]及び成分[5]のうち求めた少なくとも2つの成分からφ2(σ)を求める第2の手順とのいずれかを選択してφ2(σ)を求め、又は第1の手順と第2の手順とを組み合わせてφ2(σ)を求め、φ1(σ)とφ2(σ)との間の関係を示すデータ並びに求めたφ2(σ)からφ1(σ)を求め、求めた各分光光量成分、φ1(σ)及びφ2(σ)を用いて偏光状態の波数分布を示すパラメータを求めるものである。方法C及びDは、第1の手順と第2の手順とを適切に選択し、又は適切に組み合わせることにより、被測定光の分光ストークスパラメータS1(σ)、S2(σ)及びS3(σ)のすべてが同時に0又は0に近い値とさえならなければ計測が可能な実施形態である。
【0185】
本節の分光偏光計測方法において、検光子Aの透過軸の方向が第2の移相子R2の速軸の方向に対して45°となるように配置された場合には分光光量の成分[5]は現れなくなるので、成分[2]、成分[4]及び成分[5]のうち少なくとも1つ又は2つを求める部分では、成分[2]及び成分[4]のうち少なくとも1つ又は2つを求めればよい。
【0186】
3.2 「測定中」に基準位相関数を較正する方法(その2)
3.2.1 基本的な考え方
前節3.1で述べたのと同じ考え方で、基準位相関数の「変動分のみ」を求めることもできる。以下、便宜上「事前較正」、「初期値」という用語を用いるが、較正の時期は被測定光の測定よりも時間的に前であることは必要ではない。したがって、基準位相関数の初期値は、より一般的には基準位相関数の較正用基準値として把握される。また、基準位相関数の較正用基準値として、実測値ではない適当な値を使用することもできる。
【0187】
先の(前節3.1での)方法では、事前較正では「基準振幅関数」を求めており、「基準位相関数」については、特に求める必要はなかった。ところが、3.2節からわかるように、両者はほぼ同時に較正することができる。そこで、「事前較正で基準位相関数の初期値」を求めておき、測定中はその変化分だけを追うようにすることもできる。
【0188】
その場合のメリットとしては、
・分光器や信号処理系などの特性などによってつくかもしれない若干の付加的な位相ずれの部分が、取り除ける。
・面倒な位相アンラッピングが不要となる。
・位相の変動量自体が小さいため、計算のダイナミックレンジを小さくできる。また、この結果として、多くの場合、計算誤差を相対的に小さくできる。
などがある。
【0189】
従って、「基準位相関数の変動分のみを求めること」は、意味がある。
【0190】
説明を補足すれば、図10に示されるように、φ2よりφ1を計算するについては、2つの手法では誤差要因が異なる。すなわち、図10(a)に示されるように、φ2(σ)からφ1(σ)を求めるについては、アンラッピングを行うことが必要となる。このアンラッピングは、誤差の大きな要因となる。特に、周期がサンプリングに比較して高周波のときやノイズの乗っているとき等においては、誤ったアンラッピングを行うことがある。アンラッピングを誤ると誤差は2πの整数倍となり、誤った位相を算出することになる。また、この誤差は広い波数領域に影響を及ぼす。この差異は、本質的には、偏角を求めるarg演算子(或いはarctan演算子)の解に2πの整数倍の不定性があること、に起因している。これに対して、図10(b)に示されるように、Δφ2(σ)からΔφ1(σ)を求めるについては、基準位相関数の初期値からの変化量Δφ2(σ)は小さいため、アンラッピングを行う必要がない。そのため、計算誤差を相対的に小さくできる。
【0191】
3.2.2 準備
この「測定中の計測法」を使うには、「基準振幅関数」と「基準位相関数」の両者とも事前較正しておくことが前提となる。なお、位相に関しては、変動分−誤差分−を後に補正できるため、それほど精度良く求めておく必要はない。
【0192】
3.2.3 実際の較正方法
較正方法の基本的な考え方は、3.1節と全く同じである。従って、3.1.3節で述べたA〜Eの全てに対応する計算方法が存在する。そこで以下では、考え方は違いのみ示し、計算式の列挙を中心に述べることとなる。
【0193】
初めに、記号をいくつか定義しておく。事前較正によって求まる基準位相関数をφ1(i)(σ),φ2(i)(σ)とすることとする。それに対応する基準複素関数は、式(1.16a)〜(1.16d)より
【数35】
となる。さて、測定中に基準位相関数が
φ1(σ)=φ1(i)(σ)+Δφ1(σ) (3.20a)
φ2(σ)=φ2(i)(σ)+Δφ2(σ) (3.20b)
へと変化したとする。以下、この基準位相関数の変化量Δφ1(σ),Δφ2(σ)、あるいは、それに相当する基準複素関数の変化を求める方法について説明する。
【0194】
A.振動成分[3]より基準位相関数φ2(σ)を求める方法
前節の方法Aで述べたように、成分[3]の位相は
δ2(σ)=φ2(σ)=φ2(i)(σ)+Δφ2(σ) (3.21)
となる。そこで、φ2(σ)の変化量は
Δφ2(σ)=δ2(σ)−φ2(i)(σ) (3.22)
として求められる。すなわち、成分[3]の位相δ2(σ)が測定されれば、基準位相関数の一方の変化量Δφ2(σ)が直ちに決められることを意味している。
【0195】
なお、Step2において、「振幅と位相の組」ではなく、「複素表示」を求めた場合には、
【数36】
とすれば求められる。
【0196】
B.複数の振動成分([2]と[4]の組など)より、基準位相関数φ2(σ)を求める方法
振動成分[2]と[4]各々の成分の位相から求める方法では、φ2(σ)の変化量を求める式は
【数37】
となる。
【0197】
「振幅と位相の組」ではなく、「複素表示」を使う場合においては、
【数38】
として求めることができる。あるいは、上式を簡単な複素関数の公式で書き換えて
【数39】
を利用しても良い。なお、3.1.3節最後に注記したのと同様に、もう一つの項を利用する場合においても、上記と同じ考え方が利用できる。
【0198】
C.AとBの組み合わせ
前節で述べた場合と同様に、基準位相関数の「変化分」のみを求める場合でも、方法AとBの適応的な組み合わせは効果的である。なお、内容は前節と全く同じなので省略する。
【0199】
D.AとBの組み合わせ(その2)
変化分のみを求める場合の計算式として望ましいものの一つは、
【数40】
である。このとき、arg[α(σ)]=arg[β(σ)]=2φ2(σ)であるため、
【数41】
特に、完全偏光の時にこれは、(偏光状態によらず)常に被測定光の光強度の自乗S02(σ)になる。つまり、被測定光に十分な光強度さえあれば、上式によって常にΔφ2(σ)は安定して求められることとなる。
【0200】
E.Δφ1(σ)の計算
Δφ1(σ)については、Δφ2(σ)と同様の揺らぎをしていると考えられる。そこで、例えば厚さの比を使って求められたφ1(σ)とφ2(σ)の比をΔφ1(σ)とΔφ2(σ)の比として利用することができる。より一般的にいうと、Δφ1(σ)とΔφ2(σ)の一方から他方を求めることができるような、Δφ1(σ)とΔφ2(σ)との間の関係を示すデータを求めて利用可能にしておく必要がある。Δφ1(σ)とΔφ2(σ)の比を用いて、Δφ1(σ)はΔφ2(σ)の測定値から比例計算で求めることができる。
【0201】
F.基準複素関数の計算
各振動成分をStep2で復調する際に「振幅と位相の組」ではなく、「複素表示」を求めた場合に、最終的に分光ストークスパラメータを求める(Step3の作業)の際に必要となるのは、基準位相関数φ1(σ),φ2(σ)ではなく、基準複素関数K0(σ),K−(σ),K2(σ),K+(σ)になる。
【0202】
上記Eまでの手順で基準位相関数の変化量Δφ1(σ),Δφ2(σ)が求まっていれば、これらは、
【数42】
として、直ちに求められる。
【0203】
本節で述べた分光偏光計測方法は、以下のようにまとめることができる。いずれの場合も、第1の基準位相関数の較正用基準値φ1(i)(σ)及び第2の基準位相関数の較正用基準値φ2(i)(σ)並びにΔφ1(σ)とΔφ2(σ)との間の関係を示すデータが利用可能とされていることが前提である。
【0204】
本節の分光偏光計測方法は、偏光分光装置に被測定光を入射させて求められた分光光量を用いて、分光光量の成分[1]及び成分[3]を求め、かつ、成分[2]、成分[4]及び成分[5]のうち少なくとも1つを求め、φ1(i)(σ)、φ2(i)(σ)、Δφ1(σ)とΔφ2(σ)との間の関係を示すデータ及び求めた各分光光量成分を用いて、Δφ1(σ)及びΔφ2(σ)を求めるとともに偏光状態の波数分布を示すパラメータを求めるものである。
【0205】
より具体的には、本節の方法Aの分光偏光計測方法は、偏光分光装置に被測定光を入射させて求められた分光光量を用いて、分光光量の成分[1]及び成分[3]を求め、かつ、成分[2]、成分[4]及び成分[5]のうち少なくとも1つを求め、求めた成分[3]を用いてΔφ2(σ)を求め、求めたΔφ2(σ)を用いてΔφ1(σ)を求め、求めた各分光光量成分、Δφ1(σ)及びΔφ2(σ)を用いて偏光状態の波数分布を示すパラメータを求めるものである。
【0206】
本節の方法Bの分光偏光計測方法は、偏光分光装置に被測定光を入射させて求められた分光光量を用いて、分光光量の成分[1]及び成分[3]を求め、かつ、成分[2]、成分[4]及び成分[5]のうち少なくとも2つを求め、成分[2]、成分[4]及び成分[5]のうち求めた少なくとも2つの成分を用いてΔφ2(σ)を求め、求めたΔφ2(σ)を用いてΔφ1(σ)を求め、求めた各分光光量成分、Δφ1(σ)及びΔφ2(σ)を用いて偏光状態の波数分布を示すパラメータを求めるものである。
【0207】
本節の方法C及びDの分光偏光計測方法は、偏光分光装置に被測定光を入射させて求められた分光光量を用いて、分光光量の成分[1]及び成分[3]を求め、かつ、成分[2]、成分[4]及び成分[5]のうち少なくとも2つを求め、求めた成分[3]を用いてΔφ2(σ)を求める第1の手順と、成分[2]、成分[4]及び成分[5]のうち求めた少なくとも2つの成分を用いてΔφ2(σ)を求める第2の手順とのいずれかを選択してΔφ2(σ)を求め、又は第1の手順と第2の手順とを組み合わせてΔφ2(σ)を求め、求めたΔφ2(σ)を用いてΔφ1(σ)を求め、求めた各分光光量成分、Δφ1(σ)及びΔφ2(σ)を用いて偏光状態の波数分布を示すパラメータを求めるものである。
【0208】
本節の分光偏光計測方法において、検光子Aの透過軸の方向が第2の移相子R2の速軸の方向に対して45°となるように配置された場合には分光光量の成分[5]は現れなくなるので、成分[2]、成分[4]及び成分[5]のうち少なくとも1つ又は2つを求める部分では、成分[2]及び成分[4]のうち少なくとも1つ又は2つを求めればよい。
【0209】
第4章 測定中較正が可能であることの一般的な証明
前章で説明した様に、チャネルドスペクトル偏光計測法では、「測定中に(測定と並行して)」基準位相関数、もしくはその変化量を較正(あるいは補正)することができる。ただし前章の説明では、周波数フィルタリングを使った信号処理法を利用すること、すなわちチャネルドスペクトルから異なる周期で振動する擬似正弦的な成分を分離することをその前提としていた。ところがこの周波数フィルタリングは、「測定中の較正」の実現において、実は必須なステップではない。発明者らは、ほかの復調法、すなわちほかの信号処理法においても、測定中の基準位相関数の較正が可能であることを見いだした。
【0210】
このことを示すために、まず本章では、チャネルドスペクトル偏光計測法において、なぜ測定中の較正が可能であるかを、「具体的な信号処理法の手順」を限定せずに説明する。さらに次の章で、「周波数フィルタリングを利用しない、測定中の較正法」の具体的な例として、「一般化逆行列を利用する方法」を示す。
【0211】
4.1 チャネルドスペクトルと基準位相関数φ1(σ),φ2(σ)の関係
まず始めに、チャネルドスペクトルと基準位相関数の関係を、干渉の考え方を使って説明する。図26の下方において、平行に走る上下2本の線は、それぞれ、互いに直交する直線偏光成分の経路を表す。ただし、移相子R1とR2の中での各々の直線偏光の方向は、それぞれの素子の主軸の方向に沿って取るものとする。移相子R1に左から入った光は、x,y各偏光成分Ex(σ),Ey(σ)に分かれて、それぞれR1の速軸(fast軸)と遅軸(slow軸)に沿って伝搬する。ここで、Ex(σ),Ey(σ)は、σを中心とし、分光器の分解能Δσ幅の波数範囲に入っている電場成分である。R1を射出した2つの直線偏光成分は、R2入射前に主軸方位が45°回転され、この際に偏光成分の一部が交換される。この光は、R2の速軸(fast軸)と遅軸(slow軸)に沿う成分に再配分され、R2を透過する。R2を射出した2つの成分は、検光子Aにおいて重ね合わされ、分光器に入射する。この図の経路をたどるとすぐにわかるように、入射端から分光器までには、下記に示す計4本の経路が存在する。
Ex(σ)→R1速軸→R2速軸→分光器
Ex(σ)→R1速軸→R2遅軸→分光器
Ey(σ)→R1遅軸→R2速軸→分光器
Ey(σ)→R1遅軸→R2遅軸→分光器
【0212】
分光器では、この4つの成分が重ね合わされ、互いに干渉する。干渉項の位相は、これらの4成分間から取り出した任意の2成分間の位相差から決まる。その可能な組を全て列挙すると、
0
φ2(σ)
{φ1(σ)−δ(σ)}
φ2(σ)−{φ1(σ)−δ(σ)}
φ2(σ)+{φ1(σ)−δ(σ)}
となる。ただし、δ(σ)は、被測定光のx,y偏光成分間の位相差、すなわち
δ(σ)=arg[Ey(σ)]−arg[Ex(σ)]=arg[S23(σ)] (4.1)
である。発生されるチャネルドスペクトルには、結果として上記5通りの位相差に対応した振動成分が含まれることとなる。(ただし、1.2節で述べたように、R2とAの交差角が45°となっている場合には、{φ1(σ)−δ(σ)}に依存する項はうち消されるので、チャネルドスペクトルの中には生じない。)ここで、チャネルドスペクトルの中に現れる位相差の組み合わせにおいて、φ1(σ)とφ2(σ)の出現の仕方を調べてみる。φ1(σ)は常に、被測定光のx,y偏光成分間の位相差δ(σ)=arg[S23(σ)]との差、すなわち、{φ1(σ)−δ(σ)}として現れている。一方φ2(σ)は、単独、ないしは{φ1(σ)−δ(σ)}との和および差として現れる。この事実より、下記が分かる。
【0213】
φ1(σ)に関しては、被測定光の偏光状態が未知の場合には、チャネルドスペクトルのみから直接その値を求めることはできない。なぜなら、求めることが可能なのは、{φ1(σ)−δ(σ)}としてのみであり、被測定光のx,y偏光成分間の位相差δ(σ)が未知の場合にはφ1(σ)を特定することはできないからである。
【0214】
一方、φ2(σ)に関しては、φ1(σ)の様な制約はない。φ2(σ)は、単独で含まれる項がある。あるいは、{φ1(σ)−δ(σ)}との和と差の両方があるので、それらの平均を取っても良い。すなわち、チャネルドスペクトルの中に含まれるφ2(σ)は、被測定光の偏光状態、特に、x,y偏光成分間の位相差δ(σ)がいかなる値を取っていても、常に確定させることができる。これはすなわち、φ2(σ)については、測定と並行した較正ができることを意味している。
【0215】
なお、一旦φ2(σ)が求まれば、φ1(σ)も間接的に求められる場合が多い。なぜなら、φ2(σ)とφ1(σ)は、同様の外乱が加わっている場合が多く、かつ、両者の関係が事前にわかっている場合も多いからである。具体的な両者の関係とは、たとえば、3.1.2節に書かれた、両者の比などである。すなわち、φ2(σ)が一度チャネルドスペクトルから確定されてしまえば、事前にわかっている両者の関係より、φ1(σ)も確定できることになるのである。
【0216】
上記で得られた基本原理をまとめると、下記のようになる。
.適当な信号処理を施せば、チャネルドスペクトルからφ2(σ)を、被測定光の偏光状態に無関係に、すなわち被測定光の偏光状態に関する先見情報を用いることなく復調できる。
.φ2(σ)とφ1(σ)の関係を利用すれば、間接的にではあるが、φ1(σ)も被測定光の偏光状態によらずに復調できる。
【0217】
なお、ここで注意すべきは、方程式の立て方によっては、見かけ上は必ずしも、φ2(σ)がφ1(σ)より先に求まるとは限らないことである。φ2(σ)とφ1(σ)の関係が事前に与えられており、かつそれも含めて方程式が立てられている場合には、(少なくとも数式の表現上では、)両者が同時、あるいはφ1(σ)がφ2(σ)より先に求まる様な表記となることもあり得る。
【0218】
4.2 測定系の位相属性関数
前節では、基準位相関数φ2(σ)が、被測定光の偏光状態によらずに求められることを示した。ここでこの原理は、φ2(σ)そのものを直接求めねばならないことを意味しているのではない。たとえば、初期値φ2(i)(σ)がわかっているときに、それからの変化量Δφ2(σ)を求めることも同様に含まれる。あるいは、基準位相関数φ2(σ)などを含む量、たとえばK2(σ),cosφ2(σ),cosΔφ2(σ)なども、測定中に求めることができる。さらに、φ2(σ)とφ1(σ)の関係が事前にわかっているのであれば、φ1(σ)やその変化量などを含む式、たとえば、K−(σ),K+(σ),cos[φ2(σ)−φ1(σ)],cos[Δφ2(σ)−Δφ1(σ)]なども全て測定中に較正でき、これらを使って分光ストークスパラメータ、あるいはそれに類する偏光パラメータを同時に測定することができる。
【0219】
以下、この様に、基準位相関数φ2(σ)やφ1(σ)、あるいは、それらの基準値からの変化量と、直接ないし間接的に関係づけられていて、さらにチャネルド分光偏光計測系のパラメータのみで決まる関数のことを、その測定系の位相属性関数と呼ぶこととする。チャネルドスペクトルから被測定光の偏光状態の波数分布を復調する際には、位相属性関数のいくつかが必要であるが、そのほかに基準振幅関数のような基準位相関数には依存しない関数が必要な場合もある。チャネルド分光偏光計測系のパラメータのみで決まり、偏光状態の波数分布を復調するのに十分な関数の組のことを総称して測定系の属性関数の組と呼ぶこととする。この言葉を使うと本発明は、「偏光状態の波数分布を復調するのに十分な属性関数の組のうちの位相属性関数の組を、偏光測定と並行して較正する方法を提供している」と言える。
【0220】
さて、これまでの議論を踏まえると、測定系の位相属性関数をチャネルドスペクトルから求めるのに、「陽な」周波数フィルタリング処理は必ずしも必須でないことがわかる。たしかに、信号処理においては、チャネルドスペクトルに含まれるいくつかの成分を分離する作業がかならず含まれるが、その分離は「必ずしも擬似正弦的な成分の周期」を基準にして行う必要はない。必要なのは、φ2(σ)ないしその変化量に関連した量を抽出できるのに十分な分離をすれば良いだけなのである。
【0221】
第5章 一般化逆行列を利用した、測定中較正法
本章では、周波数フィルタリングを使わない、すなわち、チャネルドスペクトルからの擬似正弦的な振動成分の分離を行わない、位相属性関数の測定中較正ならびに分光ストークスパラメータの復調法の具体例の一つとして、一般化逆行列を用いる方法を示す。
【0222】
5.1 行列表示
いま、何らかの事前較正によって求まる基準位相関数を、φ1(i)(σ)およびφ2(i)(σ)とする。測定中に基準位相関数が
φ1(σ)=φ1(i)(σ)+Δφ1(σ) (5.1a)
φ2(σ)=φ2(i)(σ)+Δφ2(σ) (5.1b)
へと変化したとする。以下、この基準位相関数の変化量Δφ1(σ),Δφ2(σ)、あるいは、それに相当する基準複素関数の変化を求める方法について説明する。上式を式(1.3)に代入すると、
【数43】
が得られる。ただし、
【数44】
である。
【0223】
ところで、実際の測定では、ディジタル化された測定値を用いるため、波数軸は離散化される。その離散化点数をN、離散化された波数をσl(l=1...N)とする。すると、式(5.3)は、
【数45】
と書き表すことができる。この式の意味するところは、チャネルドスペクトルP(σl)が、分光ストークスパラメータと基準位相関数の変化量を含む変数群p0(σl),pc(σl),ps(σl),qss(σl),qcc(σl),qsc(σl),qcs(σl)の線形和となっていることである。従って、これは、行列の形で書くことができる。その書き方の例として、下記を挙げておく。
P=RQ (5.6)
ただし、列ベクトルP(N行)、Q(7N行) の要素は、(l=1...N)において、
Pl=P(σl) (5.7a)
Q(7l−6)=p0(σl) (5.7b)
Q(7l−5)=pc(σl) (5.7c)
Q(7l−4)=ps(σl) (5.7d)
Q(7l−3)=qss(σl) (5.7e)
Q(7l−2)=qcc(σl) (5.7f)
Q(7l−1)=qsc(σl) (5.7g)
Q(7l)=qcs(σl) (5.7h)
となり、一方行列R(N行7N列)の要素は、(l=1...N)において
Rl(7l−6)=1 (5.8a)
Rl(7l−5)=cos[φ2(i)(σl)] (5.8b)
Rl(7l−4)=sin[φ2(i)(σl)] (5.8c)
Rl(7l−3)=sin[φ2(i)(σl)]sin[φ1(i)(σl)] (5.8d)
Rl(7l−2)=cos[φ2(i)(σl)]cos[φ1(i)(σl)] (5.8e)
Rl(7l−1)=sin[φ2(i)(σl)]cos[φ1(i)(σl)] (5.8f)
Rl(7l)=cos[φ2(i)(σl)]sin[φ1(i)(σl)] (5.8g)
のみ値を持ち、残りの要素は0である。なお、この選び方では、全ての要素が実数となっていることを注意しておく。
【0224】
チャネルド分光偏光計の特性を行列で表示する仕方には、ここに挙げた以外にも無数に存在し得る。下記の条件を満たしているものであれば、どのような表現でも良い。
条件1 左辺の列ベクトル(上記の例ではP)は、チャネルドスペクトルの波数分布に関する情報を列挙したものであること。
条件2 右辺の列ベクトル(上記の例ではQ)は、被測定光の分光ストークスパラメータ、ならびに測定系の位相属性関数などを含む情報を列挙したものであること。
条件3 右辺の行列(上記の例ではR)は、左辺と右辺の列ベクトルの関係を完全に関係づける線形和となっており、かつその全ての要素は、復調前に確定していること。(仮の較正値などを使っていても良い。)なお、上記の例では、一つのPの要素に関連づけられたQの要素は、他のPの要素には関係しないこととなっているが、これは必須ではない。むしろ、光学系の構成や理論式の近似の取り方などによっては、こうならない場合、すなわち、ある一つの波数でのチャネルドスペクトルが、他の(その回りの)波数の分光ストークスパラメータなどと関係を持つ場合もあり得る。
【0225】
5.2 一般化逆行列による逆変換
上記の議論からわかるように、式(5.6)は、線形連立方程式をあらわしている。なぜなら、左辺の列ベクトルPは、チャネルドスペクトルの測定で決まり、一方右辺の行列Rは、測定前に確定しているからである。この線形連立方程式を解けば、右辺の列ベクトルQ(未知)を決めることができる。ただし、一般に、Pの要素の数に比べて、Qの要素はかなり多い。(上記の例では7倍である。)このため、行列Rは、逆行列を持たない。
【0226】
このような場合に行列で書かれた線形連立方程式を解く方法として、一般化逆行列を使う方法がある。次の4つの条件を満たす様な行列XをRの一般化逆行列と言い、R+で表す。
RXR=R (5.9a)
XRX=X (5.9b)
(RX)*=RX (5.9c)
(XR)*=XR (5.9d)
ただし、行列に付けられた上付き添え字*は、共役転置行列を表す。なお、このようなXはどのようなRに対しても必ず存在し、しかもRに対し一意に定まる。なお、具体的にRからR+を算出する数値計算の方法は、種々の方法が提案されている。(参考文献:戸川隼人、「マトリクスの数値計算」、オーム社、1971年、page46)
【0227】
そして、この一般化逆行列R+ を使うと、式(5.6)の右辺に含まれる列ベクトルQの未知の各要素を、下式により決定することができる。
Q=R+P (5.10)
これはすなわち、分光ストークスパラメータと基準位相関数の変化量を含む変数群p0(σl),pc(σl),ps(σl),qss(σl),qcc(σl),qsc(σl),qcs(σl)(ただし、l=1...N)が求められることを意味する。
【0228】
なお、前節の最後に書いたような、別の行列表記を用いた場合であっても、該当する一般化逆行列を用いれば、「被測定光の分光ストークスパラメータ、ならびに測定系の位相属性関数などを含む情報を列挙したもの」が確定できる。
【0229】
この一般化逆行列で求められる各要素は、チャネルドスペクトル中に含まれる擬似正弦的に振動する各成分と1 対1対応している訳ではない。たとえば、上記導出過程から明らかなように、qss(σl),qcc(σl),qsc(σl),qcs(σl)の各々は、φ2(σ)−φ1(σ)とφ2(σ)+φ1(σ)に関係する2つの擬似正弦成分の両方に関連している。
【0230】
すなわち、この一般化逆行列の計算による要素の分離は、フーリエ変換法などで行われる周波数フィルタリングによる擬似正弦的な周期成分の分離とは、1体1での対応はしていない。
【0231】
5.3 位相属性関数の復調
次に、列ベクトルQの要素から、位相属性関数を求める。
前章に一般論として述べたように、
・チャネルドスペクトルの中に含まれている情報から、φ2(σ)(あるいはそれによって決まる関数)が被測定光の偏光状態とは無関係に求められる。
・φ2(σ)とφ1(σ)の関係(先見情報)を使えば、φ2(σ)のみならずφ1(σ)が、さらには両者に関連する関数が、被測定光の偏光状態とは無関係に求められる。
従って、一般化逆行列を使って得られた列ベクトルQの要素に、さらに方程式を立てて解けば、φ2(σ)とφ1(σ)、ないしそれと等価な関数、すなわち位相属性関数を求めることができる。さらに、その結果を連立して解くと、被測定光の偏光状態が決定できる。
【0232】
さて、列ベクトルQの各要素が、式(5.7b)〜(5.7h)で与えられる場合の、具体的な計算式の例を下記に挙げる。結果のみの表示となるが、極力、第3章に説明した方法に対応させて示す。
【0233】
A. S1(σ)≠0の場合に有効な、Δφ2(σ)を求める方法
列ベクトルQのうち、pc(σ)とps(σ)は、
【数46】
として計算することができる。ここで、上式の逆正接中の分母、分子は、ともに被測定光のS1(σ)に比例している。従って、S1(σ)が0で無い限り、上式でΔφ2(σ)が求められる。
【0234】
B. S2(σ)≠0またはS3(σ)≠0の少なくともいずれか一方が成立している場合に有効な、Δφ2(σ)を求める方法
列ベクトルQの成分のうち、上記A.で使わなかったものからも、
【数47】
があることがわかる。上式の逆正接の中の分母、分子は、ともに、被測定光のS22(σ)+S32(σ)に比例している。従って、S2(σ)とS3(σ)の両方が同時に0にならない限り、上式でΔφ2(σ)が求められる。
【0235】
C. AとBの組み合わせ
3章で述べた場合(周波数フィルタリングを用いる場合)と同様に、方法AとBの適応的な組み合わせは効果的である。なお、処理は前と全く同じなので省略する。
【0236】
D. S1,S2,S3の全てが同時に0にならない限り有効な、Δφ2(σ)を求める方法
列ベクトルQに含まれる要素の、さらに別の組み合わせより、
【数48】
が導き出される。上式の逆正接の中の分母、分子は、ともに、m22(σ)S12(σ)+m−(σ)m+(σ)[S22(σ)+S32(σ)]に比例している。従って、被測定光のS1(σ),S2(σ),S3(σ)の全てが同時に0にならない限り、上式でΔφ2(σ)が求められる。
【0237】
なお、S1(σ)=S2(σ)=S3(σ)=0というのは、被測定光が無偏光の場合であり、この場合は位相属性関数の較正自体が不要である。なぜなら、偏光度(すなわち0)のみが意味のある情報となるからである。
【0238】
E. Δφ1(σ)の計算
Δφ1(σ)については、Δφ2(σ)と同様の揺らぎをしていると考えられるため、Δφ2(σ)の測定値から比例計算(例えば、厚さの比を使う)で求めることができる。
【0239】
F. 分光ストークスパラメータの復調
得られた、Δφ2(σ)とΔφ1(σ)を使って、p0(σ),pc(σ),ps(σ),qss(σ),qcc(σ),qsc(σ),qcs(σ)より被測定光の分光ストークスパラメータS0(σ),S1(σ),S2(σ),S3(σ)を決定する。たとえば下記の関係式を使えばよい。
【数49】
【実施例1】
【0240】
以下に、本発明の好適な実施例を図11〜図19を参照しつつ、詳細に説明する。分光偏光計測装置の一実施例の構成図が図11に示されている。同図に示されるように、この装置は、投光側ユニット200と受光側ユニット300とを備えている。なお、400は試料である。
【0241】
投光側ユニット200は、電源201と、電源201から給電されて点灯する光源202と、光源202の出射方向前面側に配置されたピンホール板203と、ピンホール板203のピンホール通過光を平行光化するコリメートレンズ204と、コリメートレンズ204の前面側にあって通過光を開閉するシャッタ205と、シャッタ通過光が入射される偏光子206とを含んでいる。
【0242】
偏光子206を通過後の光は投光側ユニット200から出射されて、試料400へと照射される。試料400を透過又は試料400で反射された光は、受光側ユニット300へと入射される。
【0243】
受光側ユニット300内における入射光路上には、第1の移相子301と、第2の移相子302と、検光子303と、分光器304とが順に介在されている。ここで、第1の移相子301は、被測定光(入射光)が第1の移相子301の速軸及び遅軸に垂直に入射するように配置されている。第2の移相子302は、第1の移相子301を出射した被測定光が第2の移相子302の速軸及び遅軸に垂直に入射し、かつ、第2の移相子302の速軸の方向と第1の移相子の速軸の方向とが45°となるように配置されている。検光子303は、その透過軸の方向と第2の移相子302の主軸の方向とが45°となるように配置されている。
【0244】
分光器304内には、被測定光を分光する回折格子304aと、回折格子304aにて分光された光がその受光面に入射されるCCD304bと、CCD304bの受光出力をデジタル信号に変換するA/D変換器304cとを含んでいる。A/D変換器304cから得られるデジタル受光出力信号は、分光器304から取り出され、これがパソコン(PC)等のコンピュータ305にて処理される。
【0245】
周知の通り、コンピュータ305(演算装置)は、マイクロプロセッサ等で構成される演算処理部305aと、ROM,RAM,HDD等で構成されるメモリ部305bと、ディスプレイ,プリンタ,各種データ出力装置,通信装置等で構成される測定結果出力部305cとを含んでいる。
【0246】
次に、事前較正手順のフローチャートが図12に示されている。同図に示されるように、事前較正手順として、先ず、ステップ1201では、装置(この場合、受光側ユニット300)に対して、分光ストークスパラメータが既知の光を入射させる。なお、分光ストークスパラメータが既知の光を発生させるには、例えば、装置図中の偏光子206を回転して所望の方位に合わせればよい。
【0247】
次に、ステップ1202では、分光器にて透過光の分光光量を計測する。このとき、不要な光、例えば迷光の影響を低減させるのにはシャッタ205を活用することができる。具体的には、シャッタ開と閉それぞれの状態で測定されたスペクトルの差をとれば、不要光分のスペクトルは相殺される。
【0248】
次に、ステップ1203では、透過光の分光光量を分光器よりコンピュータ305に転送して演算処理部305aにおける演算に供する。
【0249】
次に、ステップ1204では、演算処理部305aの作用により、基準位相関数と基準振幅関数とが算出される。
【0250】
次に、ステップ1205では、算出した基準位相関数と基準振幅関数がメモリ部305bに保存され、これにより事前較正手順が完了する。
【0251】
次に、測定手順のフローチャートが図13に示されている。同図に示されるように、測定手順として、先ず、ステップ1301においては、装置に被測定光を入射させる。このとき、試料400での透過や反射に伴う偏光変化を調べることが計測の目的である場合には、先ず、試料400に既知の偏光状態を持つ光を照射し、次に試料400を透過乃至反射した光を当該装置(受光側ユニット300:偏光計)に入射させればよい。
【0252】
次に、ステップ1302では、分光器304にて透過光の分光光量を計測する。このとき、不要な光、例えば迷光の影響を低減させるのにはシャッタ205を活用することができる。具体的には、シャッタ開と閉それぞれの状態で測定されたスペクトルの差をとれば、不要光分のスペクトルは相殺される。
【0253】
次に、ステップ1303では、透過光の分光光量を分光器304よりコンピュータ305へと転送して、演算処理部305aにおける処理に供する。
【0254】
次に、ステップ1304では、コンピュータ305において、演算処理部305aはメモリ部305bより基準位相関数と基準振幅関数とを取得する。
【0255】
次に、ステップ1305では、コンピュータ305において、演算処理部305aは測定した分光光量、及び基準位相関数・基準振幅関数を用いて、基準位相関数の変化量(Δφ2及びΔφ1)を算出する。
【0256】
次に、ステップ1306では、コンピュータ305において、演算処理部305aは測定した分光光量及び基準位相関数・基準振幅関数の変化量を用いて、被測定光の分光ストークスパラメータを算出する。
【0257】
次に、ステップ1307では、コンピュータ305において、演算処理部305aは被測定光の分光ストークスパラメータを出力する。このとき、測定結果出力部305cとしては、メモリ、ハードディスク、他の処理部(楕円率角、方位角算出部等)などを挙げることができる。
【0258】
以上説明したように、この実施例の分光偏光計測装置においては、図11に示されるシステム構成において、図12に示される事前較正手順並びに図13に示される測定手順を経ることにより、被測定光に関するストークスパラメータを算出するものである。
【0259】
次に、具体的な実験結果例を図14〜図19を参照しつつ説明する。この実験においては、第1の移相子301及び第2の移相子302の温度を上昇させながら偏光測定を行い、実施例装置における温度補償性能を確認した。
【0260】
実験結果例(I.事前較正)が図14に示されている。同図に示されるように、事前較正においては、先ず、図中中央上部に描かれた較正光のチャネルドスペクトルを取得し、これをフーリエ変換法(図6参照)により、各成分[1]〜[4]に分離することで、基準複素関数が求められる。図14において、K0(i)(σ)、K−(i)(σ)、K2(i)(σ)、及びK+(i)(σ)は事前較正にて求められた基準複素関数である。
【0261】
実験結果例(II.基準位相関数の変化量計算)が図15〜図17に示されている。基準位相関数の変化量を求めるためには、先ず、図15に示されるように、被測定光(方位22.5度直線偏光)のチャネルドスペクトルをフーリエ変換法により各成分([1]〜[4])に分離すると共に、成分[2],[3],[4]のそれぞれを基準複素関数K−(i)(σ)、K2(i)(σ)、及びK+(i)(σ)で除算する。図16において、F−(σ)/K−(i)(σ)、F2(σ)/K2(i)(σ)、F+(σ)/K+(i)(σ)は除算結果(振動成分)である。
【0262】
次いで、図16に示されるように、各振動成分を利用することにより、図17に示されるように、方法A、方法B、及び方法Dにより、Δφ2(σ)が求められる。すなわち、方法Aにおいては、振動成分[3]を使用することにより、方法Bにおいては、振動成分[2]及び[4]を使用することにより、方法Dにおいては、振動成分[2][3]及び[4]を使用することにより、それぞれΔφ2(σ)が求められる。
【0263】
なお、Δφ1(σ)は、Δφ2(σ)から先見情報を使用して容易に比例計算で求めることができる。そして、変動後の基準複素関数K0(σ)、K−(σ)、K2(σ)、及びK+(σ)もこれから直ちに計算により求めることができる。
【0264】
実験結果例(III.分光ストークスパラメータの復調)が図18に示されている。図から明らかなように、被測定光(方位22.5度直線偏光)のチャネルドスペクトルをフーリエ変換法により各成分[1]〜[4]に分離する共に、これと並行して求められた基準複素関数K0(σ)、K−(σ)、K2(σ)、及びK+(σ)を適宜に適用することにより、分光ストークスパラメータS0(σ)、S1(σ)、S2(σ)、及びS3(σ)が求められる。
【0265】
変調状態の復調結果が図19に示されている。この例では、Δφ1(σ)とΔφ2(σ)の補正を行う前後の楕円率角が示されている。被測定光は、方位22.5度直線偏光であるため、理想的には波数によらず0となる筈である。図から明らかなように、補正前にあっては、移相子の温度上昇に伴い、測定結果が図中矢印で示すように変化しているのに対して、補正後にあっては、移相子の温度が上昇しても、測定結果は0付近に分布していることが理解される。このことから、本発明の分光偏光計測装置にあっては、温度変動に拘わらず、安定した計測結果が得られることがわかる。
【図面の簡単な説明】
【0266】
【図1】本発明の前提となるチャネルド分光偏光計測法の原理説明図である。
【図2】分光器から得られるチャネルドスペクトルとその4つの成分との関係を示す説明図(その1)である。
【図3】分光器から得られるチャネルドスペクトルとその5つの成分との関係を示す説明図(その2)である。
【図4】分光ストークスパラメータ復調の手順(信号処理の流れ)を示す説明図である。
【図5】Step 2の一つの例を示す説明図である。
【図6】フーリエ変換法の説明図である。
【図7】事前較正と偏光測定のフローチャートである。
【図8】測定中の、較正の信号の流れを示す説明図である。
【図9】「測定中の較正」及び「分光ストークスパラメータの測定」をあわせた信号の流れを示す説明図である。
【図10】測定中に基準位相関数を較正する方法(その1,2)の比較説明図である。
【図11】分光偏光計測装置の一実施例の構成図である。
【図12】事前較正手順を示すフローチャートである。
【図13】測定手順を示すフローチャートである。
【図14】実験結果例(I.事前較正)を示す図である。
【図15】実験結果例(II.基準位相関数の変化量を計算)(その1)を示す図である。
【図16】実験結果例(II.基準位相関数の変化量を計算)(その2)を示す図である。
【図17】実験結果例(II.基準位相関数の変化量を計算)(その3)を示す図である。
【図18】実験結果例(III.分光ストークスパラメータの復調)を示す図である。
【図19】偏光状態の復調結果を示す図である。
【図20】本発明者等が先に提案したチャネルド分光偏光計測法の実験系の構成図である。
【図21】同実験系におけるチャネルドスペクトルを示すグラフである。
【図22】同実験系における規格化されたストークスパラメータを示すグラフである。
【図23】チャネルドスペクトルの温度変化による位相ずれを説明するためのグラフである。
【図24】温度変化によるストークスパラメータの変動を説明するためのグラフである。
【図25】分光器の波動軸変動による位相ずれを説明するためのグラフである。
【図26】チャネルドスペクトルと基準位相関数の関係を説明するための図である。
【符号の説明】
【0267】
1 キセノンランプ
2 偏光子
3 バビネ・ソレイユ補償子
4 測定系
5 分光器
6 コンピュータ
R1 移相子
R2 移相子
A 検光子
200 投光側ユニット
201 電源
202 光源
203 ピンホール板
204 コリメートレンズ
205 シャッタ
206 偏光子
300 受光側ユニット
301 第1移相子
302 第2移相子
303 検光子
304 分光器
304a 回折格子
304b CCD
304c A/D変換器
305 コンピュータ
305a 演算処理部
305b メモリ部
305c 測定結果出力部
400 試料
【技術分野】
【0001】
この発明は、計測対象となる光の分光偏光状態をチャネルドスペクトルを利用して計測するようにした分光偏光計測方法及び装置に関する。
【背景技術】
【0002】
光は、「横波」の性質を有する。互いに直交する3軸(x,y,z)を前提として、光の進行方向をz軸方向とすると、光の振動方向はxy平面に沿った方向となる。xy平面内における光の振動方向には偏りが存在する。この光の偏りは「偏光」と称される。この明細書においては、以下に、光の偏り方を「偏光状態」と称する。この偏光状態は、一般に、光の波長(色)によって異なる。
【0003】
測定対象に対して、ある偏光状態の光を入射させ、透過光や反射光等の出射光を取得すると、測定対象が光に対する異方性を有すると、入射光と出射光との間で偏光状態の変化が観察される。この偏光状態の変化から、測定対象の異方性に関する情報を取得することを「偏光計測」と称する。なお、このような異方性の原因としては、分子構造の異方性、応力(圧力)の存在、局所電場や磁場の存在等が挙げられる。
【0004】
入射光と出射光との間における偏光状態の変化を、各波長毎に求め、それらから測定対象の異方性に関する情報を取得することを特に「分光偏光計測」と称する。この分光偏光計測によれば、単一波長(単色)による計測の場合に比べて、格段に多くの情報を取得できる利点がある。この分光偏光計測においては、出射光(ときには、入射光)の偏光状態を計る装置、すなわち分光偏光計がキーデバイスとなる。
【0005】
分光偏光計測の応用分野としては、分光エリプソメトリ分野、医療分野、光通信分野等が知られている。例えば、分光エリプソメトリ分野においては、薄膜の膜厚や複素屈折率を非破壊かつ非接触で計測できることから、光エレクトロニクス機器、半導体の検査、研究等への応用がなされている。医療分野においては、幾種かの細胞が偏光特性を有することから、緑内障やガン細胞の早期発見への試みがなされている。光通信分野においては、波長分割多重による大容量通信を目的として光ファイバ等の通信機器の偏波分散の高精度評価等への試みがなされている。
【0006】
ところで、z軸方向へ進行する光が存在するとして、そのx軸方向の振動成分とy軸方向の振動成分との間に完全な相関がある(同期がとれている)状態における偏光には、直線偏光と楕円偏光と円偏光との3種類が存在する。このとき、楕円偏光の状態を表すためのパラメータとしては、楕円率角ε、方位角θ、位相差Δ、振幅比角Ψが存在する。
【0007】
また、光の偏光度、楕円率角、方位角等をより効率的に表すためのパラメータとしては、ストークスパラメータ(Stokes Parameter)が使用される。このストークスパラメータは、以下定義を有する4つのパラメータにより構成される。
S0 : 全強度
S1 : 方位0°、90°直線偏光成分強度の差
S2 : 方位±45°直線偏光成分強度の差
S3 : 左右円偏光成分強度の差
【0008】
互いに直交する3軸をS1,S2,S3とする三次元空間において原点を中心とする半径S0の球を想定すると、任意の光の偏光状態は、この三次元空間上の1点として表され、偏光度は次式で表される。
偏光度 = (原点から点(S1,S2,S3)までの距離)/S0
= (S12+S22+S32)1/2/S0
【0009】
このことから、完全偏光(偏光度=1)ならば、偏光状態を表す1点は半径S0の球上に存在することが理解されるであろう。また、楕円率角と方位角は、上記三次元空間上における偏光状態を表す1点の緯度と経度のそれぞれの半分に相当する。このように、ストークスパラメータであるS1,S2,S3及びS0の4つを求めることができれば、偏光状態に関する全ての情報を表現することができるのである。
【0010】
従来の最も一般的な分光偏光計測法としては、回転移相子法と偏光変調法とが知られている。
【0011】
回転移相子法では、分光器へ至る計測対象光の経路に、移相子と検光子とが順に介在される。ここで、移相子とは、互いに方位が直交する関係にある2つの主軸(速軸と遅軸)を有すると共に、その通過前後において、2つの主軸間の位相差が変化するように構成された光学素子である。また、検光子とは、1つの主軸を有すると共に、この主軸の方位に相当する1つの直線偏光成分だけを透過させるように構成された光学素子である。
【0012】
この回転移相子法において、4つのストークスパラメータの波長分布を独立して求めるためには、移相子それ自体を物理的に回転させて、最低4通りの方位のそれぞれについてのスペクトル測定を行う必要がある。すなわち、入射光のストークスパラメータは、波長の関数S0(λ),S1(λ),S2(λ),S3(λ)として表される。
【0013】
偏光変調法では、分光器へ至る計測対象光の経路に、位相差を電気的に制御可能な2つの移相子(第1移相子と第2移相子)と1つの検光子とが順に介在される。そのような移相子としては、電気光学変調器、液晶、光弾性変調器等が使用される。第1移相子の主軸と第2移相子の主軸との間には例えば45°の方位差が設定されている。
【0014】
この偏光変調法においても、4つのストークスパラメータの波長分布を独立して求めるためには、第1移相子及び第2移相子の位相差を電気的制御により所定角度範囲で振動させて、複数のスペクトルを取得する必要がある。
【0015】
しかし、回転移相子法と偏光変調法とに代表される従来一般の分光偏光計測法にあっては、次のような問題点が指摘されている。
【0016】
(1)第1の問題点
機械的若しくは能動的な偏光制御素子が必要であるために、[1]振動や発熱等の問題が避けられないこと、[2]機械素子等に容積が必要で小型化にも限界があること、[3]電力を消費する駆動装置が必要不可欠であること、[4]メンテナンスが必要で煩雑であること、等の問題点がある。
【0017】
(2)第2の問題点
偏光変調(制御)素子の条件を変えながら、複数のスペクトルを繰り返し測定しなければならないため、[1]測定時間が比較的に長くかかること、[2]測定中は測定対象を安定させておかねばならないこと、等の問題点がある。
【0018】
このような従来一般の分光偏光計測法の問題点を解決するために、本発明者等は先に、「チャネルド分光偏光計測法」を新たに開発した(非特許文献1参照)。
【0019】
チャネルド分光偏光計測法を説明するための実験系の構成図が図20に示されている。図から明らかなように、キセノンランプ1から出射された白色光を、偏光子2とバビネ・ソレイユ補償子3に透過させると、周波数νに依存した偏光状態を持つ光波が得られる。この光波のストークスパラメータのスペクトル分布S0(ν)、S1(ν)、S2(ν)、及びS3(ν)は、図中波線で囲まれた測定系4で求められる。
【0020】
被測定光は、先ず、厚さ(d1,d2)の異なる2つの移相子R1,R2及び検光子Aを順に透過したのち、分光器5に入射される。ここで、移相子R2の遅軸は移相子R1の遅軸に対して45°傾けられており、一方、検光子Aの透過軸は移相子R1の遅軸と平行とされる。
【0021】
2つの移相子R1,R2のそれぞれにおいて、直交偏光成分間に生ずる位相差は周波数に依存する。このため、光スペクトルアナライザとして機能する分光器5からは、図21に示されるような3つのキャリア成分を含むチャネルドスペクトルが得られる。各々のキャリア成分の振幅と位相は、被測定光のストークスパラメータのスペクトル分布により変調されている。したがって、フーリエ変換を利用した信号処理をコンピュータ6にて施せば、各ストークスパラメータを求めることができる。
【0022】
実験の結果の一例が図22に示されている。これは、移相子R1の遅軸に対して、バビネ・ソレイユ補償子3を30°傾けた場合に得られるものである。3本の実線は、それぞれ規格化されたストークスパラメータのスペクトル分布S1(ν)/S0(ν)、S2(ν)/S0(ν)、及びS3(ν)/S0(ν)を示している。偏光状態が周波数に依存して変化することが理解されるであろう。
【0023】
このようにチャネルド分光偏光計測法によれば、分光光量の特性を周波数分析(あるいは、波数解析)すれば、各分光ストークスパラメータを求めることができる。尤も、周波数分析に先立って、2つの移相子R1,R2のそれぞれについて、リタデーションをあらかじめ求めておくことが必要である。ここで、リタデーションとは、速軸成分と遅軸成分との間に生ずる位相差のことである。
【0024】
その他、従来のチャネルド分光偏光計測法については、いくつかの他の文献にも記載されている(例えば、特許文献1等参照)。
【0025】
上述のチャネルド分光偏光計測法によれば、[1]回転移相子等の機械的な可動素子が不要であること、[2]電気光学的変調器等の能動的な素子が不要であること、[3]1枚のスペクトルから4つのストークスパラメータが一度に求まり、いわゆるスナップショットな測定ができること、[4]構成が簡単であり、小型化に適すること、等の利点が得られる。
【特許文献1】米国特許第6490043号明細書
【非特許文献1】加藤貴之、岡和彦、田中哲、大塚喜弘、「周波数領域干渉法に基づく偏光のスペクトル分布測定」、第34回応用物理学会北海道支部学術講演会講演予稿集(応用物理学会北海道支部、札幌、1998)、p.41
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0026】
しかしながら、上述のチャネルド分光偏光計測法にあっては、次のような理由により、計測誤差が比較的に大きいと言う問題点が指摘されている。
【0027】
(1)移相子R1,R2のリタデーションの変動(ゆらぎ)
移相子のリタデーションは温度変化や圧力変化に起因して敏感に変動する結果、図23に示されるように、チャネルドスペクトルの位相は温度変化や圧力変化に起因して変動する。その結果、図24に示されるように、チャネルドスペクトルから得られるストークスパラメータの計測値は、温度変化や圧力変化により誤差を生ずる。
【0028】
(2)分光器の波長軸の変動(ゆらぎ)
モータで回折格子を回転させるような普通のタイプの分光器にあっては、モータのバックラッシュ等を原因として、測定のたびに、サンプルする波長が少しずつ(ランダムに)ずれることとなる。そして、分光器がサンプルする波長がずれると、図25に示されるように、移相子のリタデーションが変動した場合と等価な状態が出現することとなり、結果として、チャネルドスペクトルから得られるストークスパラメータの計測値に誤差を生ずる。
【0029】
ところで、例えばエリプソメトリにおいて、エリプソメトリックパラメータの波数分布に求められる精度は誤差0.1°程度以下とされており、これを移相子リタデーションの安定化により実現しようとすれば、移相子の温度変動を0.5℃以下に抑えなければならない。
【0030】
しかし、そのためには、温度安定化のために加熱器や冷却器等のサイズの大きな温度補償装置が必要となり、折角のチャネルド分光偏光計測法の利点(小型化、能動素子を含まない等)が失われてしまう。そのため、移相子リタデーションの安定化により、計測誤差を低減することは事実上困難である。
【0031】
また、分光器のバックラッシュを十分満足のいく値にまで低減するためには、極めて高い加工精度乃至組立精度を必要とするため、分光器の高価格化が招来される。そのため、分光器波長軸の安定化により計測誤差を低減することも事実上困難である。
【0032】
この発明は、従来のチャネルド分光偏光計測法の問題点に着目してなされたものであり、その目的とするところは、回転移相子等の機械的な可動素子が不要であること、電気光学的変調器等の能動的な素子が不要であること、1枚のスペクトルから4つのストークスパラメータが一度に求まり、いわゆるスナップショットな測定ができること、構成が簡単であり、小型化に適すること、等の利点を保持しつつ、より一層高精度な計測を可能とするチャネルド分光偏光計測方法及び装置を提供することにある。
【0033】
この発明のさらに他の目的並びに作用効果については、明細書の以下の記述を参照することにより、当業者であれば容易に理解されるであろう。
【課題を解決するための手段】
【0034】
(1)この発明の分光偏光計測方法は、偏光分光装置を用意するステップと、分光光量を求めるステップと、演算ステップとを含んでいる。
【0035】
偏光分光装置を用意するステップにおいて用意される偏光分光装置は、被測定光が順に透過する第1の移相子、第2の移相子及び検光子と、前記検光子を透過した光の分光光量を求める手段とを備え、第2の移相子は、その主軸の方向と第1の移相子の主軸の方向とが不一致となるように配置され、検光子は、その透過軸の方向と第2の移相子の主軸の方向とが不一致となるように配置されたものである。
【0036】
分光光量を求めるステップでは、偏光分光装置に被測定光を入射させて分光光量を求める。
【0037】
演算ステップでは、求められた分光光量を用いて、測定系の位相属性関数の組を求めるとともに被測定光の偏光状態の波数分布を示すパラメータを求める。ここで、位相属性関数の組は、偏光分光装置の特性によって規定される関数の組であって、第1の移相子のリタデーションである第1の基準位相関数(φ1(σ))に少なくとも依存する関数及び第2の移相子のリタデーションである第2の基準位相関数(φ2(σ))に少なくとも依存する関数を含み、それ自身のみで又は偏光分光装置の特性によって規定される他の関数を加えることにより、被測定光の偏光状態の波数分布を示すパラメータを求めるのに十分な関数の組となるものである。
【0038】
本明細書において上記偏光分光装置によって求められた「分光光量」はチャネルドスペクトルともよばれる。
【0039】
「分光光量を求める手段」としては、分光器が用いられる場合がある。あるいは、光源を用意して、この光源から出た光が試料に照射されて被測定光となる場合には、「分光光量を求める手段」としては波長が走査される光源と受光器との組み合わせを用いてもよい。この場合の受光器は受光量を検出できるものであればよく、受光量の検出タイミングが光の波長と対応付けられる。
【0040】
「偏光状態の波数分布を示すパラメータを求める」には、4つの分光ストークスパラメータ、すなわち、全強度を表すS0(σ)、方位0°及び90°の各直線偏光成分強度の差を表すS1(σ)、方位±45°の各直線偏光成分強度の差を表すS2(σ)並びに右回り及び左回りの各円偏光成分強度の差を表すS3(σ)のすべて又は一部を求めることを含む。実際にすべての分光ストークスパラメータを求めるかどうかは実施者の選択にゆだねられるが、本発明は、原理的にはすべての分光ストークスパラメータを求めることができるものである。
【0041】
また、「偏光状態の波数分布を示すパラメータを求める」には、分光ストークスパラメータと等価なパラメータを求める場合を含む。例えば、光強度、偏光度、楕円率角及び方位角のパラメータの組、又は、光強度、偏光度、位相差及び振幅比角のパラメータの組は、分光ストークスパラメータと等価である。本発明は、原理的にはこれらのパラメータのすべてを求めることができるものであるが、実施者の選択により一部のパラメータを求める場合も含む。
【0042】
「偏光分光装置の特性によって規定される他の関数」としては、基準振幅関数、基準位相関数の較正用基準値、第1の基準位相関数と第2の基準位相関数との間の関係を示すデータ、第1の基準位相関数の変化量と第2の基準位相関数の変化量との間の関係を示すデータなどが該当しうる。
【0043】
本発明の分光偏光計測方法によれば、チャネルド分光偏光計測法が有する、偏光制御のための機械的可動部や電気的光学変調器のような能動的素子を必要とせず、1回のスペクトル取得により原理的に被測定光のすべての偏光状態の波数分布を示すパラメータ(偏光状態パラメータの波長分布)を求めることができるという特徴を継承しつつ、移相子のリタデーションが温度変化その他の要因により変動することによって生じる偏光状態の波数分布を示すパラメータの計測誤差を効果的に低減することができる。
【0044】
(2)前記検光子は、その透過軸の方向が第2の移相子の速軸の方向に対して45°となるように配置されたものとしてもよい。
【0045】
(3)この発明の分光偏光計測方法の一つの実施形態では、位相属性関数の組は、第1の基準位相関数及び第2の基準位相関数である。この実施形態の演算ステップにおいては、第1の基準位相関数と第2の基準位相関数との間の関係を示すデータが利用可能とされている。
【0046】
この実施形態における演算ステップは、求められた分光光量を用いて、波数に対して非周期振動性の第1の分光光量成分及び波数に対して第2の基準位相関数に依存し第1の基準位相関数に依存しない周波数で振動する第3の分光光量成分を求め、かつ、波数に対して第1の基準位相関数と第2の基準位相関数との差に依存する周波数で振動する第2の分光光量成分、波数に対して第1の基準位相関数と第2の基準位相関数との和に依存する周波数で振動する第4の分光光量成分及び波数に対して第1の基準位相関数に依存し第2の基準位相関数に依存しない周波数で振動する第5の分光光量成分のうち少なくとも1つを求め、第1の基準位相関数と第2の基準位相関数との間の関係を示すデータ及び求めた各分光光量成分を用いて、第1の基準位相関数及び第2の基準位相関数を求めるとともに偏光状態の波数分布を示すパラメータを求めるものである。
【0047】
ここで、「第1の基準位相関数と第2の基準位相関数との間の関係を示すデータ」は、両基準位相関数の間の各波長毎の比のような、第1の基準位相関数及び第2の基準位相関数の一方が与えられれば他方を求めることができるようなデータである。
【0048】
「基準位相関数を求める」には、これと等価なパラメータを求める場合を含む。特に、基準位相関数の情報を含む複素関数を求めることは、基準位相関数と等価なパラメータを求めることに該当する。
【0049】
検光子の透過軸の方向が第2の移相子の速軸の方向に対して45°となるように配置された場合には、第5の分光光量成分は現れなくなるので、演算ステップにおける第2、第4及び第5の分光光量成分のうち少なくとも1つを求める部分では、第2及び第4の分光光量成分のうち少なくとも1つを求めればよい。このようにすると演算が簡単になる利点がある。他方、検光子の透過軸の方向と第2の移相子の速軸の方向との間の角度を45°に限定しない場合は、光学系の組み立て誤差に対する制限が緩やかになるので光学系の製造が容易になる利点がある。
【0050】
(4)この発明の分光偏光計測方法の他の実施形態では、位相属性関数の組は、第1の基準位相関数の較正用基準値からの第1の基準位相関数の変化量(Δφ1(σ))並びに第2の基準位相関数の較正用基準値からの第2の基準位相関数の変化量(Δφ2(σ))である。この実施形態の演算ステップにおいては、第1の基準位相関数の較正用基準値(φ1(i)(σ))及び第2の基準位相関数の較正用基準値(φ2(i)(σ))、並びに第1の基準位相関数の変化量と第2の基準位相関数の変化量との間の関係を示すデータが利用可能とされている。
【0051】
この実施形態における演算ステップは、求められた分光光量を用いて、波数に対して非周期振動性の第1の分光光量成分及び波数に対して第2の基準位相関数に依存し第1の基準位相関数に依存しない周波数で振動する第3の分光光量成分を求め、かつ、波数に対して第1の基準位相関数と第2の基準位相関数との差に依存する周波数で振動する第2の分光光量成分、波数に対して第1の基準位相関数と第2の基準位相関数との和に依存する周波数で振動する第4の分光光量成分及び波数に対して第1の基準位相関数に依存し第2の基準位相関数に依存しない周波数で振動する第5の分光光量成分のうち少なくとも1つを求め、第1の基準位相関数の較正用基準値、第2の基準位相関数の較正用基準値、第1の基準位相関数の変化量と第2の基準位相関数の変化量との間の関係を示すデータ及び求めた各分光光量成分を用いて、第1の基準位相関数の変化量及び第2の基準位相関数の変化量を求めるとともに偏光状態の波数分布を示すパラメータを求めるものである。
【0052】
ここで、第1及び第2の基準位相関数の「較正用基準値」は、基準位相関数の実測した初期値であってもよいし、実測に基づかずに適当に設定された値でもよい。ただし、両較正用基準値の間の関係は、第1の基準位相関数の変化量と第2の基準位相関数の変化量との間の関係と整合した関係であることが好ましい。
【0053】
「基準位相関数の変化量」は、「基準位相関数」と「基準位相関数の較正用基準値」との差として定義される。したがって、「基準位相関数の較正用基準値」が実際の初期値と一致しない場合には、「基準位相関数の変化量」は基準位相関数の実際の変化量を意味しない。
【0054】
「第1の基準位相関数の変化量と第2の基準位相関数の変化量との間の関係を示すデータ」は、両変化量の間の各波長毎の比のような、第1の基準位相関数の変化量及び第2の基準位相関数の変化量の一方が与えられれば他方を求めることができるようなデータである。
【0055】
「基準位相関数の変化量を求める」には、これと等価なパラメータを求める場合を含む。特に、基準位相関数の変化量の情報を含む複素関数を求めることは、基準位相関数の変化量と等価なパラメータを求めることに該当する。
【0056】
検光子の透過軸の方向が第2の移相子の速軸の方向に対して45°となるように配置された場合には、第5の分光光量成分は現れなくなることについては、前述の場合と同様である。
【0057】
この実施形態との比較のため、まず上記(3)の実施形態のように基準位相関数の変化量を用いずに基準位相関数を用いて演算を進める場合について考える。演算式における見かけはともかくとして、原理的には被測定光の偏光状態とは独立に確定可能な第2の基準位相関数がまず確定され、次いで第2の基準位相関数を用いて第1の基準位相関数が確定されることになる。このとき、求められた第2の基準位相関数には、2πの整数倍の不定性が付随する。このこと自体は偏光状態の波数分布を示すパラメータの算出誤差に影響しないが、第2の基準位相関数から第1の基準位相関数を求める際に行うアンラッピング処理が第1の基準位相関数の算出誤差の要因となることによって、偏光状態の波数分布を示すパラメータの算出誤差が生じることがある。アンラッピング処理とは、第2の基準位相関数の値が波数変化に対して2πの範囲を超えて連続的に変化していくように第2の基準位相関数の値を決定する処理である。第2の基準位相関数の変化量を用いない場合は、第1の基準位相関数は、アンラッピング処理後の第2の基準位相関数に「第1及び第2の基準位相関数の間の関係を示すデータ」を適用して求められる。波数のサンプリング間隔と比較して第2の基準位相関数の値が2π変化するときの波数間隔が十分大きくないときや、第2の基準位相関数の計測値にノイズがのっているときには、アンラッピング処理後の第2の基準位相関数の算出を2πを単位として誤る可能性があり、そのように2πを単位とする誤差を含んだ第2の基準位相関数から第1の基準位相関数を求めると、第1の基準位相関数に含まれる誤差は一般に2πを単位とするものではなくなるため、偏光状態の波数分布を示すパラメータを算出する場合の大きな誤差となる。これに対して、この(4)の実施形態の場合には、第2の基準位相関数の変化量の波数に対する変化が緩やかであることから、第2の基準位相関数の変化量についてのアンラッピング処理が不要又は少ない頻度ですむため、アンラッピング処理に起因して第1の基準位相関数の変化量に誤差が生じる可能性をなくすこと又はきわめて低減することができる。
【0058】
(5)上記(4)の実施形態において、さらに、偏光分光装置に偏光状態の波数分布を示す各パラメータが既知である較正用の光を入射させて較正用の分光光量を求め、較正用の光の偏光状態の波数分布を示す各パラメータ及び求めた較正用の分光光量を用いて第1の基準位相関数の較正用基準値(φ1(i)(σ))及び第2の基準位相関数の較正用基準値(φ2(i)(σ))を求めるステップを備え、それによりこれらの較正用基準値が利用可能とされるようにしてもよい。
【0059】
(6)また、上記(4)の実施形態において、さらに、偏光分光装置に偏光状態の波数分布を示す各パラメータが既知である較正用の光を入射させて較正用の分光光量を求め、較正用の光の偏光状態の波数分布を示す各パラメータ及び求めた較正用の分光光量を用いて、第1の基準位相関数の較正用基準値(φ1(i)(σ))、第2の基準位相関数の較正用基準値(φ2(i)(σ))及び第1の基準位相関数の変化量と第2の基準位相関数の変化量との間の関係を示すデータを求めるステップを備え、それによりこれらの値が利用可能とされるようにしてもよい。
【0060】
(7)上記(3)の実施形態において、さらに、偏光分光装置に偏光状態の波数分布を示す各パラメータが既知である較正用の光を入射させて較正用の分光光量を求め、較正用の光の偏光状態の波数分布を示す各パラメータ及び求めた較正用の分光光量を用いて第1の基準位相関数と第2の基準位相関数との間の関係を示すデータを求めるステップを備え、それにより第1の基準位相関数と第2の基準位相関数との間の関係を示すデータが利用可能とされるようにしてもよい。
【0061】
(8)上記(5)及び(6)の実施形態において、較正用の光として直線偏光を用いることができる。
【0062】
(9)また、上記(7)の実施形態においても、較正用の光として直線偏光を用いることができる。
【0063】
(10)この発明の分光偏光計測方法の他の実施形態では、演算ステップにおいて、分光光量の波数分布に関する情報を含む第1のベクトルが、行列と、被測定光の偏光状態の波数分布に関する情報及び位相属性関数の組に関する情報を含む第2のベクトルとの積によって表される関係が成り立つような前記行列の一般化逆行列の各要素の値が利用可能とされている。
【0064】
この実施形態における演算ステップは、求められた分光光量を用いて第1のベクトルの各要素の値を特定し、前記一般化逆行列と第1のベクトルとの積演算により第2のベクトルの各要素の値を求め、 第2のベクトルに含まれる要素の値を用いて位相属性関数の組を求めるとともに被測定光の偏光状態の波数分布を示すパラメータを求めるものである。
【0065】
(11)上記(10)の実施形態を前提とした他の実施形態では、位相属性関数の組は、第1の基準位相関数の較正用基準値からの第1の基準位相関数の変化量(Δφ1(σ))並びに第2の基準位相関数の較正用基準値からの第2の基準位相関数の変化量(Δφ2(σ))である。この実施形態の演算ステップにおいては、第1の基準位相関数の変化量と第2の基準位相関数の変化量との間の関係を示すデータが利用可能とされている。さらに、第1の基準位相関数の較正用基準値(φ1(i)(σ))及び第2の基準位相関数の較正用基準値(φ2(i)(σ))から求められた前記行列の一般化逆行列が利用可能とされている。
【0066】
この実施形態における演算ステップは、求められた分光光量を用いて第1のベクトルの各要素の値を特定し、前記一般化逆行列と第1のベクトルとの積演算により第2のベクトルの各要素の値を求め、第2のベクトルに含まれる要素の値及び第1の基準位相関数の変化量と第2の基準位相関数の変化量との間の関係を示すデータを用いて、第1の基準位相関数の変化量及び第2の基準位相関数の変化量を求めるとともに偏光状態の波数分布を示すパラメータを求めるものである。
【0067】
(12)この発明の分光偏光計測装置は、偏光分光装置と演算装置とを備えている。
【0068】
偏光分光装置は、被測定光が順に透過する第1の移相子、第2の移相子及び検光子と、前記検光子を透過した光の分光光量を求める手段とを備えている。ここで、第2の移相子は、その主軸の方向と第1の移相子の主軸の方向とが不一致となるように配置されている。検光子は、その透過軸の方向と第2の移相子の主軸の方向とが不一致となるように配置されている。
【0069】
演算装置は、偏光分光装置に被測定光を入射させて求められた分光光量を用いて、測定系の位相属性関数の組を求めるとともに被測定光の偏光状態の波数分布を示すパラメータを求める。ここで、位相属性関数の組は、偏光分光装置の特性によって規定される関数の組であって、第1の移相子のリタデーションである第1の基準位相関数(φ1(σ))に少なくとも依存する関数及び第2の移相子のリタデーションである第2の基準位相関数(φ2(σ))に少なくとも依存する関数を含み、それ自身のみで又は偏光分光装置の特性によって規定される他の関数を加えることにより、被測定光の偏光状態の波数分布を示すパラメータを求めるのに十分な関数の組となるものである。
【0070】
(13)前記検光子は、その透過軸の方向が第2の移相子の速軸の方向に対して45°となるように配置されたものとしてもよい。
【0071】
(14)この発明の分光偏光計測装置の一つの実施形態では、位相属性関数の組は、第1の基準位相関数及び第2の基準位相関数である。この実施形態の演算装置においては、第1の基準位相関数と第2の基準位相関数との間の関係を示すデータが利用可能とされている。
【0072】
この実施形態における演算装置は、偏光分光装置に被測定光を入射させて求められた分光光量を用いて、波数に対して非周期振動性の第1の分光光量成分及び波数に対して第2の基準位相関数に依存し第1の基準位相関数に依存しない周波数で振動する第3の分光光量成分を求め、かつ、波数に対して第1の基準位相関数と第2の基準位相関数との差に依存する周波数で振動する第2の分光光量成分、波数に対して第1の基準位相関数と第2の基準位相関数との和に依存する周波数で振動する第4の分光光量成分及び波数に対して第1の基準位相関数に依存し第2の基準位相関数に依存しない周波数で振動する第5の分光光量成分のうち少なくとも1つを求め、第1の基準位相関数と第2の基準位相関数との間の関係を示すデータ及び求めた各分光光量成分を用いて、第1の基準位相関数及び第2の基準位相関数を求めるとともに偏光状態の波数分布を示すパラメータを求めるものである。
【0073】
(15)この発明の分光偏光計測装置の他の実施形態では、位相属性関数の組は、第1の基準位相関数の較正用基準値からの第1の基準位相関数の変化量(Δφ1(σ))並びに第2の基準位相関数の較正用基準値からの第2の基準位相関数の変化量(Δφ2(σ))である。この実施形態の演算装置においては、第1の基準位相関数の較正用基準値(φ1(i)(σ))及び第2の基準位相関数の較正用基準値(φ2(i)(σ))、並びに第1の基準位相関数の変化量と第2の基準位相関数の変化量との間の関係を示すデータが利用可能とされている。
【0074】
この実施形態における演算装置は、偏光分光装置に被測定光を入射させて求められた分光光量を用いて、波数に対して非周期振動性の第1の分光光量成分及び波数に対して第2の基準位相関数に依存し第1の基準位相関数に依存しない周波数で振動する第3の分光光量成分を求め、かつ、波数に対して第1の基準位相関数と第2の基準位相関数との差に依存する周波数で振動する第2の分光光量成分、波数に対して第1の基準位相関数と第2の基準位相関数との和に依存する周波数で振動する第4の分光光量成分及び波数に対して第1の基準位相関数に依存し第2の基準位相関数に依存しない周波数で振動する第5の分光光量成分のうち少なくとも1つを求め、第1の基準位相関数の較正用基準値、第2の基準位相関数の較正用基準値、第1の基準位相関数の変化量と第2の基準位相関数の変化量との間の関係を示すデータ及び求めた各分光光量成分を用いて、第1の基準位相関数の変化量及び第2の基準位相関数の変化量を求めるとともに偏光状態の波数分布を示すパラメータを求めるものである。
【0075】
(16)この発明の分光偏光計測装置の他の実施形態では、演算装置において、分光光量の波数分布に関する情報を含む第1のベクトルが、行列と、被測定光の偏光状態の波数分布に関する情報及び位相属性関数の組に関する情報を含む第2のベクトルとの積によって表される関係が成り立つような前記行列の一般化逆行列の各要素の値が利用可能とされている。
【0076】
この実施形態における演算装置は、偏光分光装置に被測定光を入射させて求められた分光光量を用いて第1のベクトルの各要素の値を特定し、前記一般化逆行列と第1のベクトルとの積演算により第2のベクトルの各要素の値を求め、 第2のベクトルに含まれる要素の値を用いて位相属性関数の組を求めるとともに被測定光の偏光状態の波数分布を示すパラメータを求めるものである。
【0077】
(17)上記(16)の実施形態を前提とした他の実施形態では、位相属性関数の組は、第1の基準位相関数の較正用基準値からの第1の基準位相関数の変化量(Δφ1(σ))並びに第2の基準位相関数の較正用基準値からの第2の基準位相関数の変化量(Δφ2(σ))である。この実施形態の演算装置においては、第1の基準位相関数の変化量と第2の基準位相関数の変化量との間の関係を示すデータが利用可能とされている。さらに、第1の基準位相関数の較正用基準値(φ1(i)(σ))及び第2の基準位相関数の較正用基準値(φ2(i)(σ))から求められた前記行列の一般化逆行列が利用可能とされている。
【0078】
この実施形態における演算装置は、偏光分光装置に被測定光を入射させて求められた分光光量を用いて第1のベクトルの各要素の値を特定し、前記一般化逆行列と第1のベクトルとの積演算により第2のベクトルの各要素の値を求め、第2のベクトルに含まれる要素の値及び第1の基準位相関数の変化量と第2の基準位相関数の変化量との間の関係を示すデータを用いて、第1の基準位相関数の変化量及び第2の基準位相関数の変化量を求めるとともに偏光状態の波数分布を示すパラメータを求めるものである。
【発明の効果】
【0079】
本発明によれば、チャネルド分光偏光計測法が有する、偏光制御のための機械的可動部や電気的光学変調器のような能動的素子を必要とせず、1回のスペクトル取得により原理的に被測定光のすべての偏光状態の波数分布を示すパラメータ(偏光状態パラメータの波長分布)を求めることができるという特徴を継承しつつ、移相子のリタデーションが温度変化その他の要因により変動することによって生じる偏光状態の波数分布を示すパラメータの計測誤差を効果的に低減することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0080】
以下に、本発明の好適な実施の一形態を添付図面(図1〜図10)を参照しながら詳細に説明する。
【0081】
第1章 本発明の前提となるチャネルド分光偏光計測法について
1.1 チャネルド分光偏光計測法の原理
チャネルド分光偏光計測法に使用されるチャネルド分光偏光計の基本構成が図1に示されている。この分光偏光計は、2つの厚い移相子R1とR2、検光子A、および分光器5によって構成されている。ここで移相子R1とR2の速軸(fast axis)は互いに45°傾けられており、一方検光子Aの透過軸(transmission axis)は移相子R1の速軸(fast axis)と一致している。
【0082】
なお、これらの3つの素子の間の交差角は、必ずしも45°でなくとも良い。他の交差角でも、多少効率が悪くはなるが、測定は可能となる。要は、隣り合う素子の主軸が重ならなければよい。この点については後に詳述する。重要なのは、各素子は固定であり、従来法のように回転させたりあるいは変調させたりする必要が無い点にある。
【0083】
広いスペクトルを持つ被測定光(偏光状態が測られる光)は、図の左から偏光計に入射される。この被測定光の偏光状態(State of Polarization,SOP)のスペクトル分布は、分光ストークスパラメータS0(σ),S1(σ),S2(σ),およびS3(σ)で表すことができる。ここでσは、波長λの逆数で定義される「波数」である。また、この分光ストークスパラメータを決めるための座標軸x,yは、移相子R1の速軸と遅軸に一致させて取るものとする。
【0084】
偏光計に入射した被測定光は、移相子R1,R2,検光子Aを順に透過し、分光器5に入射する。この分光器5から得られるスペクトルより、後述する所定の手順を使うと、波数σに依存したストークスパラメータが求められるのである。
【0085】
分光ストークスパラメータを求める手順について説明する前に、その準備として、移相子R1とR2の特性を定式化しておく。移相子とは、互いに直交する直線偏光成分間の位相差を、素子透過前後で変化させる性質の素子である。この位相差の変化量をリタデーションと呼ぶ。
【0086】
複屈折媒質で作られた移相子Rj(j=1,2)のリタデーションは、波数σに対して次式のように変化する。
φj(σ)=2πdjB(σ)σ=2πLjσ+Φj(σ) (1.1)
ただし
【数1】
ここで、djはRjの厚さであり、B(σ)はその複屈折である。また、σ0は被測定光の中心波数を示す。
【0087】
今、B(σ)の分散(波数に対する変化率)がそれほど大きくないとすると、式(1.1)からわかるように、φ(σ)は波数σに対してほぼ線形に増加することとなる。この性質が、後に述べる手順で分光ストークスパラメータ復調の基礎となる。
【0088】
1.2 分光器で取得されるチャネルドスペクトル
図1に示される「チャネルド分光偏光計」において、分光器5で取得されるスペクトル(分光光量)は次式により表わされる。
【数2】
ただし、
S23(σ)=S2(σ)+iS3(σ) (1.4)
となる。ここで、m0(σ),m−(σ),m2(σ),m+(σ)は、分光器が細かい振動成分に十分追随できないことによる振幅減衰率を示す。この式の性質を理解するために、式(1.1)を代入すると、
【数3】
ただし、
L−=L2−L1, (1.6a)
L+=L2+L1, (1.6b)
Φ−(σ)=Φ2(σ)−Φ1(σ) (1.6c)
Φ+(σ)=Φ2(σ)+Φ1(σ) (1.6d)
となっていることがわかる。
【0089】
式(1.5)からわかるように、分光器から得られるスペクトルP(σ)には、4つの成分が含まれている。このうちの一つは、波数σに対して緩やかに変動する成分であり、残りの3つは、波数σに対して振動する疑似正弦的な成分となっている。これらを模式的に示したのが、図2である。
【0090】
ここで、3つの振動成分の各々の中心周期は、1/L−,1/L2,1/L+となっている。この図のように、波数(波長)に対して周期的に細かく振動する成分を含むスペクトルのことをチャネルドスペクトル(Channeled Spectrum)と呼ぶ。
【0091】
ここで注意すべきは、この4つの成分が、それぞれ、S0(σ)、S1(σ)もしくはS23(σ)のいずれかの情報をもっている点である。各々の成分を分離することができると、ひとつのスペクトルP(σ)から全ての分光ストークスパラメータS0(σ),S1(σ),S2(σ),S3(σ)を決定する事ができることとなる。
【0092】
1.3 素子間の交差角が45°以外の場合
次に、素子間の交差角が45°以外の場合に、分光器5で取得されるスペクトルについて説明する。
【0093】
ここで補足として、光学系中の各素子間の交差角が45°以外となった場合に得られるスペクトルについても説明しておく。
【0094】
今、図1の光学系において、移相子R1とR2の速軸(fast axis)の間のなす角をθRR、移相子R2の速軸と検光子Aの透過軸がなす角をθRAとする。これまでは、θRR=45°,θRA=−45°に限って計算してきたが、ここがより一般的な角度になった場合について示す。
【0095】
得られるチャネルドスペクトルP(σ)は、
【数4】
となる。これらを模式的に示したのが図3である。
【0096】
この式を、先の式(1.3)の時のスペクトル、すなわちθRR=45°,θRA=−45°に限定した時のスペクトルと比較すると、単なる係数の定数倍の違いの他に、下記の違いがあることがわかる。なお、この違う部分は、式(1.7)中に下線で示した。
【0097】
・波数σに対して緩やかに変動する成分が、S0(σ)のみならずS1(σ)にも依存するようになる。
【0098】
・位相φ1(σ)によって疑似正弦的に振動する成分、すなわち中心周期1/L1で振動する成分が加わる。なお、この成分も(φ2(σ)−φ1(σ)およびφ2(σ)+φ1(σ)に従って振動する2つの成分と同様に、)S23(σ)の情報を持っている。すなわち、この項は、S23を含む他の2項と同様に扱えることを意味している。
【0099】
ここで、上記の2つの成分が現れないための条件について考えてみる。
【0100】
前者の項は「θRR≠±45°とθRA≠±−45°の両方が成り立つとき」に限って現れる。一方後者の項は、「θRA≠±45°となるとき、(θRRが±45°と一致しているか否かには無関係に)」現れる。これから、下記の事実が言える。
【0101】
移相子R2の速軸と検光子Aの透過軸が45°で交差しているとき(すなわちθRA=±45°のとき)には、チャネルドスペクトルは、各項の係数の定数倍の違いを除き、式(1.3)で与えられる。このとき、移相子R1とR2の速軸(fast axis)の間のなす角θRRが±45°に一致するか否かは無関係である。
【0102】
さらに、これを言い換えると、チャネルドスペクトルが、式(1.3)の形を取るためには、移相子R2の速軸と検光子Aの透過軸が±45°で交差していることが条件となる。一方、移相子R1とR2の速軸(fast axis)の間のなす角が±45°に一致するか否かは無関係である。
【0103】
1.4 分光ストークスパラメータ復調の手順
分光ストークスパラメータを復調するための具体的な手順について、図4を参照しつつ、以下説明する。大まかな流れは、次の通りになる。
Step1:スペクトルP(σ)から、各項を分離する。
Step2:各々の成分の振幅と位相を求める。
(あるいは、同値な量、例えば複素表示した際の実部と虚部を求める。)
Step3:各振動成分の振幅と位相に含まれる
【数5】
を除いて、分光ストークスパラメータS0(σ),S1(σ),S2(σ),S3(σ)を得る。(これらの基準関数は、被測定光によらず、偏光計のパラメータのみに依存するものである。)
【0104】
各ステップについて、以下説明する。
【0105】
[Step1]
前節で述べたように、スペクトルP(σ)には4つの成分が含まれている。各々を信号処理により取り出す作業をする。この作業で利用するのは、各々の成分が異なる周期(周波数)で振動していることである。通信工学や信号解析などの分野で広く用いられている様々な周波数フィルタリングの技法(のどれか一つ)を用いれば、各々を分離することができる。
【数6】
【0106】
成分[1]は、波数に対して非周期振動性の分光光量成分である。成分[2]は、波数に対して第1の基準位相関数φ1(σ)と第2の基準位相関数φ2(σ)との差に依存する周波数で振動する分光光量成分である。成分[3]は、波数に対して第2の基準位相関数φ2(σ)に依存し第1の基準位相関数φ1(σ)に依存しない周波数で振動する分光光量成分である。成分[4]は、波数に対して第1の基準位相関数φ1(σ)と第2の基準位相関数φ2(σ)との和に依存する周波数で振動する分光光量成分である。移相子R2の速軸の方向と検光子Aの透過軸の方向とのなす角が45°でない場合には、波数に対して第1の基準移相関数φ1(σ)に依存し第2の基準位相関数φ2(σ)に依存しない周波数で振動する分光光量成分[5]が現れる。
【0107】
[Step2]
Step1で分離された各成分それぞれについて、図5に示されるように、その「振幅と位相の組」ないし「複素表示」を求める。この作業にも、Step1同様、通信工学や信号解析などの分野で一般的な様々な復調法を利用して容易に実現できる。例えば、
振幅復調:整流検波法、包絡線検波法など
位相復調:周波数弁別器法、ゼロクロス法など
複素表示の復調:フーリエ変換法(後述)、同期検波法など
が挙げられる。
【0108】
ここで、振動成分の「振幅」、「位相」、「複素表示」について、その定義と基本的な性質を下記にまとめておく。式(1.8a)〜(1.8d)を見ればわかるように、分離された各成分は、成分[1]以外は皆
a(σ)cosδ(σ) (1.9)
の形を取っている。このa(σ)とδ(σ)それぞれを、その振動成分の「振幅」および「位相」と呼ぶ。なお、ここで成分[1]についても、位相がδ0(σ)=0である(すなわちcosδ0(σ)=1である)と見なせば、この成分についても振幅を定義することができる。
【0109】
また、この振幅・位相と
【数7】
なる関係があるF(σ)を、複素表示と呼ぶ。このF(σ)の実部は振動成分の振幅を半分にしたものであり、虚部は実部と位相が90度ずれたものである。なお、成分[1]においては、δ(σ)=0、すなわち虚部がないため、1/2倍はしない。
【0110】
ここで注意すべきは、「振幅と位相の組」ないし「複素表示」のいずれか一方のみが復調できれば、他方は下記関係式を用いて直ちに計算できることにある。
【数8】
【0111】
すなわち、一方のみを復調すれば、他方も必要に応じてすぐに計算できることになる。
【0112】
各成分の「振幅」と「位相」を復調すると、その結果は
【数9】
となる。
【0113】
一方、各成分の「複素表示」を復調すると、その結果は
【数10】
となる。ここで、*は、複素共役を表す。なお、以下の都合上、これらの複素表示の式を下記のように書き直しておく。
【数11】
である。
【0114】
[Step3]
最後に、先のStep2で求めた「振幅」と「位相」、もしくは「複素表示」から、波数σの関数としての分光ストークスパラメータS0(σ),S1(σ),S2(σ),S3(σ)を決定する。
【0115】
Step2で得られた「振幅」と「位相」には、求める分光ストークスパラメータの他に、
【数12】
が含まれている。
【0116】
前者は振幅に、後者は位相に含まれている。これらは、各々の振動成分の振幅と位相から分光ストークスパラメータを決定する際の基準を与える。そこで以下各々を、「基準振幅関数(reference amplitude function)」ならびに「基準位相関数(reference phase function)」と呼ぶことにする。これらのパラメータは、被測定光に依存しないため、各々を除算ないし減算することによって、
・S0(σ)は、「成分[1]」から
・S2(σ)とS3(σ)は、「成分[2]」もしくは「成分[4]」(いずれか一方)から
・S1(σ)は「成分[3]」から
が、それぞれ決定できることとなる。
【0117】
一方、「複素表示」の場合には、偏光計自体の特性のみで決まるパラメータ(関数)は、式(1.16a)〜(1.16d)で定義されるK0(σ),K−(σ),K2(σ),K+(σ)となる。これらは、いわば「基準複素関数」と呼ぶべきものとなる。
【0118】
式(1.15a)〜(1.15d)からわかるように、上記基準複素関数が求まっていれば、Step2で復調された各振動成分の複素表示を除算することによって、
・S0(σ)は、「成分[1]」から
・S2(σ)とS3(σ)は、「成分[2]」もしくは「成分[4]」(いずれか一方)から
・S1(σ)は「成分[3]」から
が、それぞれ決定できることとなる。
【0119】
移相子R2と検光子Aのなす角が45°でない場合には、現れる第5の項を、「成分[2]」と「成分[4]」の代わりに使うことができる。すなわち、上記の2行目は
・S2(σ)とS3(σ)は、「成分[2]」、「成分[4]」、「成分[5]」のうちの一つから
と書き換えられることとなる。
【0120】
次に、分光ストークスパラメータ復調のための信号処理法の一つとして、「フーリエ変換法」を図6を参照しつつ説明する。この方法を用いると、Step1とStep2を一度に効率良く行え、各振動成分の複素表示全てが直ちに求められることとなる。
【0121】
この方法では、チャネルド分光偏光計内の分光器で測定されたスペクトルP(σ)をまず逆フーリエ変換する。得られるのは、分光器入射光の相関関数
【数13】
である。この相関関数C(h)は、図6の右上部に示されるように、各振動成分の周期の逆数0,±L−,±L2,±L+を中心とする7つの成分を含むこととなる。
【0122】
ここで、これらの周期の逆数を適当に選べば、C(h)に含まれる各成分を、h軸上で互いに分離することができる。このうちh=0,L−,L2,L+を中心とする4つの成分を取り出して、各々をフーリエ変換すると、
【数14】
となる。
【0123】
この式を見ればわかるように、上記の操作で求められるものは、前述のStep2で求めるべき、成分[1]〜[4]の複素表示そのものになっている。すなわち、上記の操作で、Step1とStep2が一度に実現されるのである。この結果に、後はStep3の操作を施せば、分光ストークスパラメータの全てが一度に求められることとなる。
【0124】
1.5 事前較正:基準振幅関数、基準位相関数、基準複素関数の「測定前の」較正
前節で述べたように、チャネルドスペクトルから偏光状態(分光ストークスパラメータ)を決定する際には、Step3において、偏光計自体の特性のみで決まるパラメータ、すなわち、
「基準振幅関数」m0(σ),m−(σ),m2(σ),m+(σ)
および「基準位相関数」φ2(σ),φ1(σ)
あるいは
「基準複素関数」K0(σ),K−(σ),K2(σ),K+(σ)
を予め決定しておく必要がある。前者(「基準振幅関数」及び「基準位相関数」)と後者(「基準複素関数」)は、それぞれ、各振動成分の「振幅・位相」あるいは「複素表示」から分光ストークスパラメータを求める場合に必要となる。これらは、被測定光によらない関数であるので、すくなくとも測定前に較正をしておくことが望ましい。
【0125】
本節では、これらの基準関数を「測定の前に、すなわち事前に」較正する手順を説明する。すなわち、図7に示されるように、偏光測定(ステップ711〜714)に先立ち、事前較正(ステップ701〜705)を行わねばならない。代表的な考え方に、
・『方法1』:光学系に用いる各素子の特性から、基準位相関数や基準振幅関数を較正する方法
・『方法2』:既知の偏光状態を持つ光を用いて、基準位相関数や基準振幅関数を較正する方法
の2通りがある。
【0126】
1.5.1 『方法1』
光学系に用いる各素子の特性から、基準位相関数や基準振幅関数を較正する方法
基準位相関数や基準振幅関数は、チャネルド分光偏光計に用いる素子によって基本的にその特性が決まる。従って、個々の素子の光学特性を実験もしくは計算などで調べて、それらを積み重ねてパラメータの較正が行える。
【0127】
1.5.2 『方法2』
既知の偏光状態を持つ光を用いて、基準位相関数や基準振幅関数を較正する方法
基準位相関数や基準振幅関数は、「チャネルド分光偏光計」の特性だけで決まる量であり、「被測定光の偏光状態」にはよらない。そこで、「偏光状態が既知の光(測定結果が分かっているもの)」を偏光計に入力し、その結果を用いて、基準位相関数や基準振幅関数を逆算することができる。
【0128】
なお、「チャネルド分光偏光計」にはその利点として、
・「偏光状態が既知の光」としては、「一種類だけ」でもOKである。
・その「一種類」の光には、「直線偏光」が使える。
がある。
【0129】
一般に、分光ストークスパラメータを求める現用の偏光計では、較正をする際に、最低でも4つの異なる偏光状態の光を用意せねばならず、さらに、そのうちの少なくとも一つは直線偏光以外でなければならなかった。これに対し、チャネルド分光偏光計では、一種類の既知偏光、それも直線偏光で良いのである。なぜ直線偏光が都合がよいかというと、他の偏光状態とは異なり、高消光比の結晶型偏光子を用いれば純度の高い光が容易に作り出せるからである。
【0130】
以下、その較正の手順を示す。なお、本節最初に述べたように、
・各振動成分の「振幅と位相」から偏光状態を求める場合には「基準振幅関数」と「基準位相関数」が、
・各振動成分の「複素表示」から偏光状態を求める場合には「基準複素関数」が、
それぞれ必要となる。
【0131】
以下それぞれの場合に分けて較正手順を述べる。それらは本質的には同一であり、単なる計算方法の違いであるが、便宜上並記しておく。
【0132】
A.基準振幅関数と基準位相関数を別々に求める較正手順
この較正では、まず初めに、「何らかの既知の偏光状態を持った光」を用意し、それをチャネルド分光偏光計に入射する。その既知の光の分光ストークスパラメータをS0(0)(σ),S1(0)(σ),S2(0)(σ),およびS3(0)(σ)とする。この光について、先に示した復調手段を施すと、Step2で求められた振幅と位相は、式(1.13a)〜(1.13d)より
【数15】
ただし、
S23(0)(σ)=S2(0)(σ)+iS3(0)(σ), (1.21)
となる。なお、これは、S0(σ)〜S3(σ)をS0(0)(σ)〜S3(0)(σ)に置き換えただけである。
【0133】
各振動成分の振幅と位相は、分光ストークスパラメータと基準振幅関数並びに基準位相関数だけで決まっている。ここで、「既知の偏光状態の光を入れた場合」には、分光ストークスパラメータが既知であるため、復調された振幅と位相から、残る基準振幅関数m0(σ),m−(σ),m2(σ),m+(σ)と基準位相関数φ1(σ),φ2(σ)が決定できることになる。具体的には、
【数16】
で与えられる。一度これらの基準関数が決まれば(較正できれば)、今度は、未知の偏光状態の光の分光ストークスパラメータが決められることとなる。
【0134】
なお、上記を見ると、既知の偏光状態の光の条件としては、S0(0)(σ),S1(0)(σ),S23(0)(σ)の全てが0でないことのみであることがわかる。特に、最後のS23(0)(σ)については、S2(0)(σ)とS3(0)(σ)のどちらか一方が0であっても他方が0でなければ良いことを意味している。ここで、S3(0)(σ)=0とは、直線偏光を意味する。すなわち、直線偏光だけでも較正ができることを意味している。具体的には、既知の光に方位θの直線偏光を用いた場合には、
S0(0)(σ)=I(0)(σ) (1.23a)
S1(0)(σ)=I(0)(σ)cos2θ (1.23b)
S2(0)(σ)=I(0)(σ)sin2θ (1.23c)
S3(0)(σ)=0 (1.23d)
となる。ここでI(0)(σ)は入射光のスペクトルである。この場合には、上記式(1.22a)〜(1.22g)は
【数17】
となる。
【0135】
これより、方位θと光源のスペクトルI(0)(σ)さえ事前にわかっていれば、基準振幅関数や基準位相関数が求められることがわかる。さらに、I(0)(σ)が不明であっても、方位θのみが既知であるならば、一部の(重要な)偏光パラメータを求める用途には十分である。
【0136】
B.両者を一緒に(基準複素関数として捕らえて)一度に求める較正手順
上記に述べた方法は、各振動成分の「振幅」と「位相」を分離して計算する方法であった。しかし、場合によっては、各振動成分の「複素表示」として計算する方が都合が(効率が)良い場合もある。一例としては、先に図6に示したフーリエ変換法のように、直接「複素表示」(式(1.15a)〜式(1.15d))が求まる場合が挙げられる。この様な場合には、いちいち「振幅」や「位相」に分離しないで、「複素表示」のまま較正を行ってしまうのが効率良い。
【0137】
以下に、その場合の計算式を示す。なお、注意すべきは、物理的な本質は全く一緒であることにある。単に計算が複素数を使って効率が良いというだけである。
【0138】
前節と同様に、チャネルド分光偏光計に、既知の分光ストークスパラメータS0(0)(σ),S1(0)(σ),S2(0)(σ),S3(0)(σ)を持った光が入射する場合を考える。この場合に求められる、各振動成分の複素表示は、それぞれ(式(1.15a)〜式(1.15d))より、
F0(0)(σ)=K0(σ)S0(0)(σ) (1.25a)
F−(0)(σ)=K−(σ)S23(0)(σ) (1.25b)
F2(0)(σ)=K2(σ)S1(0)(σ) (1.25c)
F+(0)(σ)=K+(σ)S23(0)*(σ) (1.25d)
となる。
【0139】
ここで、上式に含まれる複素関数K0(σ),K−(σ),K2(σ),K+(σ)は、式(1.16a)〜(1.16d)よりわかるように、基準振幅関数と基準位相関数のみから決まる量(基準複素関数)であり、被測定光によらない。従って、これらは、
【数18】
として逆算することができる。
【0140】
振幅と位相を分離して計算した場合と同様に、一度上記の基準複素関数が決まれば(較正できれば)、今度は、未知の偏光状態の光の分光ストークスパラメータが決められることとなる。
【0141】
なお、参考までに、方位θの直線偏光を用いた場合の上記を記しておく。
【数19】
【0142】
第2章 チャネルド分光偏光計の問題点
1.4節のStep3に述べたように、測定されたチャネルドスペクトルP(σ)から分光ストークスパラメータS0(σ),S1(σ),S2(σ),S3(σ)を復調するためには、
【数20】
をあらかじめ求めておく(較正しておく)必要がある(図7参照)。
【0143】
ところが、基準位相関数φ1(σ)とφ2(σ)は、様々な理由により変動するという性質がある。これらが変動すると、分光ストークスパラメータの測定値に大きな誤差が生じるという問題が生ずる。
【0144】
2.1 基準位相関数の変動を引き起こす原因
2.1.1 温度変化
基準位相関数φ1(σ)とφ2(σ)は分光偏光計中の移相子R1とR2によって決まる量(リタデーション)である。このリタデーションは温度に対して敏感に変化するという性質を持つ。そのため、温度変化によりチャネルドスペクトルの位相がずれる(図23参照)。その結果、温度上昇により、測定値がずれて、誤差を生ずる(図24参照)。また、圧力変化に対しても同様の変化が起きる。
【0145】
2.1.2 分光器の波長軸の変動
分光器がサンプルする波長がずれると、基準位相関数のゆらぎと「等価な」問題が生ずる。測定中にサンプルする波長がずれるとスペクトルが横ずれしたのと同様の効果になる。これは等価的な位相のずれとなる(図25参照)。特に、普通の分光器(モータで回折格子をまわすタイプ)では、モータのバックラッシュ等が理由で、測定の度にサンプルする波長が少しずつ(ランダムに)ずれてしまう。
【0146】
2.1.3 容易に考えつく解決策
各振動成分の基準位相関数が変動しないように、ゆらぎの原因を安定化させることが考えられるが、これはなかなか容易なことではない。例えば、温度変動についてみると、分光エリプソメトリで、エリプソメトリックパラメータの波数分布に求められる精度は0.1°程度以下とされ、そのためには、温度変動を0.5℃以下程度に抑えなければいけない。これには、温度安定化に大きな装置が必要となり、チャネルド分光偏光計の様々な利点(小型化、能動素子を含まない、など)が失われる。
【0147】
第3章 本発明の実施形態の構成について
チャネルドスペクトル中に含まれる各振動成分の基準位相関数φ1(σ)とφ2(σ)(被測定光によらない、偏光計のパラメータのみに依存する)が、様々な要因で変動し、それが誤差の大きな要因となる。この点に鑑み、本実施形態では、測定中に(測定と並行して)、各振動成分の基準位相関数φ1(σ)とφ2(σ)を較正できる機能をチャネルド分光偏光計にもたせるようにしている(図8〜図10参照)。
【0148】
3.1 「測定中」に較正する方法(その1)
1.5節で述べた較正方法は、「測定の事前に」較正する方法であった。それに対して、以下の節では、「測定中に」較正できる方法を示す。これらが「発明の主要部」についての実施形態になる。
【0149】
3.1.1 基本的な考え方
いま、測定中に(偏光状態が未知の光がチャネルド分光偏光計に入っている場合に、)第1章のStep2で求められた振幅と位相を再掲すると、下記のようになる。
【数21】
【0150】
ここで、4つの分光ストークスパラメータを求めるのに必要なのは、実は
・成分[1]の[振幅]→S0(σ)
・成分[2]と成分[4]の一方の[振幅]と[位相]→S2(σ)とS3(σ)
・成分[3]の[振幅]→S1(σ)
のみであることがわかる。残る
・成分[3]の[位相]
・成分[2]と成分[4]の中で残った方の[振幅]と[位相]
は、分光ストークスパラメータの復調には使われていないことがわかる。
【0151】
本発明者らは、この残る成分も活用すると、実は、4つの分光ストークスパラメータのみならず、「基準位相関数(φ1(σ)とφ2(σ)など)」が一度に求められることを見いだした。この方法では、特に既知の偏光状態の光を入力しなくても、測定の真っ最中に較正も同時にできる、ことを意味している。
【0152】
3.1.2 準備
この「測定中の計測法」を使うには、下記の前準備が必要となる。
・基準振幅関数m0(σ),m−(σ),m2(σ),m+(σ)については、事前較正をしておく(図7参照)。
【0153】
以下の方法は、基準位相関数のみしか有効でないため、基準振幅関数に関しては、1.5節に述べたいずれかの方法でおこなうこととする。なお、基準振幅関数の測定中のゆらぎの大きさは、一般にかなり小さく、多くの場合無視できる。すなわち、基準位相関数とは異なり、基準振幅関数を測定中に再較正する必要性は、一般的には、ほとんどない。
【0154】
・基準位相関数については、事前較正は必ずしも必要はない。ただし、φ1(σ)とφ2(σ)の比は求めておかねばならない。より一般的にいうと、φ1(σ)とφ2(σ)の一方から他方を求めることができるような、φ1(σ)とφ2(σ)との間の関係を示すデータを求めて利用可能にしておく必要がある。
例1:移相子R1とR2が同じ媒質で作られている場合には、両者の厚さの比からφ1(σ)とφ2(σ)の比が決まる。
例2:基準位相関数も事前較正すれば、両者の比が決まる。
(測定中に、両者の比は変わらないと見なしてよい。)
【0155】
尚、移相子R1とR2の比が測定中に変わる場合(たとえば両者の温度が異なる場合)などには、以下に述べる方法は使えないことに注意されたい。
【0156】
3.1.3 実際の較正方法
以下に、この考えに基づき、実際に較正する方法について説明する。
【0157】
A.振動成分[3]より基準位相関数φ2(σ)を求める方法
振動成分[3]のみに注目してその振幅と位相を再掲すると、
【数22】
となっている。ここで注目すべきは、この成分の位相δ2(σ)は、基準位相関数のうちの一つφ2(σ)(そのもの)となっている。すなわち、成分[3]の位相δ2(σ)が測定されれば、基準位相関数の一方φ2(σ)が次式によって直ちに決められていることを意味している。
φ2(σ)=δ2(σ) (3.3)
【0158】
この関係式は、被測定光の偏光状態によらず常に成り立つため、どのような被測定光によるチャネルドスペクトルからでも、測定値から直ちに基準位相関数の一方が求められることを意味している。これは、測定中に完全に並行して行える較正の方法であり、「既知偏光を利用した」場合(1.5節)のような「測定の事前で行う、もしくは測定を中断して行う」必要性は全くない。ただし、この際に、成分[3]が十分なSN比で観測されているという条件を満たしている必要はあることを注意しておく(後述のC参照)。
【0159】
なお、1.4節「分光ストークスパラメータ復調の手順」のStep2において、「振幅・位相の組」の代わりに「複素表示」を求めた場合には、上記を書き換えた以下に説明する計算方法を利用すれば良い。
【0160】
式(1.12b)より、δ2(σ)は成分[3]の複素表示F2(σ)と
δ2(σ)=arg[F2(σ)] (3.4)
なる関係を有している。従って、基準位相関数φ2(σ)は、成分[3]の複素表示から
φ2(σ)=arg[F2(σ)] (3.5)
とすれば求められることができる。なお、複素表示の時に必要なのは、基準位相関数φ2(σ)ではなく、基準複素関数K2(σ)になる。両者の間には式(1.16c)の関係があるから、φ2(σ)が決まればK2(σ)も求められることとなる(詳しくは、後述のFにて述べる)。
【0161】
B.複数の振動成分([2]と[4]の組など)より、基準位相関数φ2(σ)を求める方法
振動成分[2]と[4]各々の成分の位相を再掲すると、
成分[2]の位相:
δ−(σ)=φ2(σ)−φ1(σ)+arg{S23(σ)} (3.6a)
成分[4]の位相:
δ+(σ)=φ2(σ)+φ1(σ)−arg{S23(σ)}+π (3.6b)
となる。この両者の位相を加えると、φ1(σ)とarg{S23(σ)}がうち消され、φ2(σ)に依存する項のみが残る。これより、
【数23】
が成立することがわかる。
【0162】
この式の右辺は、振動成分[2]と[4]の位相の平均を取れば、基準位相関数の一つφ2(σ)が求められることを意味している。この関係式も、方法A同様、被測定光の偏光状態によらず常に成り立つため、どのような被測定光によるチャネルドスペクトルからでも、測定値から直ちに基準位相関数の一方が求められることを意味している。
【0163】
すなわち、方法Aの時と同様に、「測定中に完全に並行して行える較正の方法」であり、「既知偏光を利用した」場合(1.5節)のような「測定の事前で行う、もしくは測定を中断して行う」必要性は全くない。ただし、この方法では、こんどは成分[2]と[4]の両方が十分なSN比で観測されているという条件を満たしている必要があることを注意しておく(後述のC参照)。
【0164】
ここで、方法Aの時と同様に、1.4節のStep2において、「振幅と位相の組」の代わりに「複素表示」を求めた場合での計算式についてもふれておく。
【0165】
式(1.12b)より、δ−(σ),δ+(σ)は成分[2]と[4]の複素表示F−(σ),F+(σ)と
δ−(σ)=arg[F−(σ)] (3.8a)
δ+(σ)=arg[F+(σ)] (3.8b)
なる関係を有している。
【0166】
従って、基準位相関数φ2(σ)は、両成分の複素表示から
【数24】
として求めることができる。あるいは、上式を簡単な複素関数の公式で書き換えた
【数25】
を利用しても良い。
【0167】
図1の光学系(チャネルド分光偏光計)において、移相子R2と検光子Aのなす角が45°以外の場合には、図3などで述べた様に、得られるスペクトルにもう一つ異なる周期を持った成分が含まれる。
【0168】
式(1.7)を見ればわかるように、この成分の位相は「δ1(σ)=φ1(σ)−arg{S23(σ)}」となり、上記振動成分[2]や[4]とよく似た位相項となっている。このため、[2]や[4]とこれを組み合わせても(あるいは、一方と入れ替えても)同様のφ2(σ)の較正ができることとなる。
【0169】
C.AとBの組み合わせ
以上までに述べた2つの方法(方法Aと方法B)は、いずれも測定中に完全に並行して基準位相関数の一方φ2(σ)の較正ができる方法である。ただし、2つの方法では、用いられている振動成分が異なっている。ここで注意すべきは、方法Aで利用される振動成分[3]の振幅はS1(σ)に比例し、一方、方法Bで利用される振動成分[2]と[4]の両方の振幅は
【数26】
に比例していることである。
【0170】
被測定光の偏光状態は未知であるため、分光ストークスパラメータが各成分の位相測定に常に十分な大きさがあるという保証はない。たとえば、S1(σ)が小さい光が被測定光に来た場合には、その成分の位相を使うAの方法でφ2(σ)を求めると誤差が大きくなってしまうこととなる。この問題を解決するには、AとBの方法を適応的に組み合わせることが望ましい。具体的には、両者の結果を選択する、あるいは重み付け平均することなどにより、φ2(σ)のより確からしい値を求めることができるようになる。
【0171】
なお、S1(σ)とS23(σ)の「両方が」非常に小さくなるような被測定光は、事実上、存在しない。なぜなら、両方が小さいときとは、完全偏光成分の光強度
【数27】
が小さい場合、すなわち限りなく無偏光に近い状態である。このような場合には、偏光状態を求めること自体に意味が無くなる。従って、上記のAとBを組み合わせると、どのような偏光状態の被測定光に対しても、測定と並行したφ2(σ)の較正ができることとなる。
【0172】
D.AとBの組み合わせ(その2)
AとBを効率よく組み合わせるための考え方の一つを下記に示す。これは、特別な場合分けなどをせずに、直接的に計算できる方法である。なお、この部分(方法D)では、振動成分[2]〜[4]の複素表示F−(σ),F2(σ),F+(σ)の3者を用いて計算を行う。各振動成分の「振幅と位相の組」から計算する際には、これらを式(1.11)を使って一旦「複素表示」に直してから以下の計算手順に従えばよい。
【0173】
この方法を説明するための準備として、まず下記2式を導出し、その性質を述べる。式(3.5)を変形すると、
2φ2(σ)=arg[F22(σ)] (3.11)
が得られる。一方、式(3.10)の両辺を2倍すれば
2φ2(σ)=arg[−F−(σ)F+(σ)] (3.12)
が得られる。この両式を見比べれば、各々の右辺の大括弧の中の複素関数は、同じ偏角2φ2(σ)を持つことがわかる。さらに、各々の式で、大カッコの中に入ってる複素関数の絶対値を調べると、
【数28】
となることがわかる。この式が意味することは、(成分[3]から来る)前者の絶対値はS12(σ)に比例し、一方、(成分[2]と[4]によって決まる)後者の絶対値はS22(σ)+S32(σ)に比例することである。先に述べたように、この両者が同時に小さくなることはない。これより、上記の2つの複素関数に対して「同じ偏角を持つ適当な重み関数α(σ)とβ(σ)」をそれぞれ乗算して加えた
【数29】
では、2つの項の和の絶対値が小さくなることは(事実上)ない事がわかる。S12(σ)とS22(σ)+S32(σ)のいずれか一方が小さくなると、それに伴って上記2項のうちの一方も小さくなるが、必ず他方は残るのである。結果として被測定光の偏光状態が変化しても、この式の絶対値は極端に小さくなることは無い。また、この式の偏角は、常に2φ2(σ)+argα(σ)に等しい。これらの性質を利用すれば、次式に従えばS/Nが落ちることなく、φ2(σ)が求められることがわかる。
【数30】
【0174】
具体的なα(σ)とβ(σ)の選び方を下記に2通り示す。
[D−1] α(σ)=β(σ)=1
【0175】
重み関数の最も簡単な選び方は、両者を同じ定数(1)にしてしまうことである。この場合には、基準位相関数φ2(σ)を求めるための式は、
【数31】
となる。
【0176】
【数32】
もう一つの例は、事前較正された基準振幅関数を用いて、上式のようにα(σ)とβ(σ)を選ぶ方法である。このとき、復調された振動成分の複素表示から基準位相関数φ2(σ)を導出する式は
【数33】
となる。この形にすると、
【数34】
【0177】
特に、完全偏光の時にこれは、(偏光状態によらず)常に被測定光の光強度の自乗S02(σ)に一致する。つまり、被測定光に十分な光強度さえあれば、式(3.17)を使えば常にφ2(σ)は安定して求められることとなる。
【0178】
E.φ1(σ)の計算
φ1(σ)については、φ2(σ)と同様の揺らぎをしていると考えられるため、φ2(σ)の測定値から比例計算(例えば厚さの比を使う)で求めることができる。
【0179】
F.基準複素関数の計算
1.4節「分光ストークスパラメータ復調の手順」のStep2での復調において、(「振幅と位相の組」ではなく)「複素表示」を求めた場合には、最終的に分光ストークスパラメータを求めるためのStep3の作業の際に必要となるのは、基準位相関数φ1(σ),φ2(σ)ではなく、基準複素関数K0(σ),K−(σ),K2(σ),K+(σ)になる。しかし、これらも、上記Eまでの手順で基準位相関数φ1(σ),φ2(σ)が求まっていれば、式(1.16a)〜(1.16d)の関係を利用して直ちに求められる。
【0180】
本節で述べた分光偏光計測方法は、以下のようにまとめることができる。いずれの場合も、φ1(σ)とφ2(σ)との間の関係を示すデータが利用可能とされていることが前提である。
【0181】
本節の分光偏光計測方法は、チャネルド分光偏光計の光学系(偏光分光装置)に被測定光を入射させて求められた分光光量を用いて、分光光量の成分[1]及び成分[3]を求め、かつ、成分[2]、成分[4]及び成分[5]のうち少なくとも1つを求め、φ1(σ)とφ2(σ)との間の関係を示すデータ及び求めた各分光光量成分を用いて、φ1(σ)及びφ2(σ)を求めるとともに偏光状態の波数分布を示すパラメータを求めるものである。
【0182】
より具体的には、本節の方法Aの分光偏光計測方法は、偏光分光装置に被測定光を入射させて求められた分光光量を用いて、分光光量の成分[1]及び成分[3]を求め、かつ、成分[2]、成分[4]及び成分[5]のうち少なくとも1つを求め、求めた成分[3]からφ2(σ)を求め、φ1(σ)とφ2(σ)との間の関係を示すデータ並びに求めたφ2(σ)からφ1(σ)を求め、求めた各分光光量成分、φ1(σ)及びφ2(σ)を用いて偏光状態の波数分布を示すパラメータを求めるものである。方法Aは、被測定光の分光ストークスパラメータS1(σ)が0又は0に近い値でない場合に好適な実施形態である。
【0183】
本節の方法Bの分光偏光計測方法は、偏光分光装置に被測定光を入射させて求められた分光光量を用いて、分光光量の成分[1]及び成分[3]を求め、かつ、成分[2]、成分[4]及び成分[5]のうち少なくとも2つを求め、成分[2]、成分[4]及び成分[5]のうち求めた少なくとも2つの成分からφ2(σ)を求め、φ1(σ)とφ2(σ)との間の関係を示すデータ並びに求めたφ2(σ)からφ1(σ)を求め、求めた各分光光量成分、φ1(σ)及びφ2(σ)を用いて偏光状態の波数分布を示すパラメータを求めるものである。方法Bは、被測定光の分光ストークスパラメータS2(σ)及びS3(σ)の両方が0又は0に近い値である場合以外の場合に好適な実施形態である。
【0184】
本節の方法C及びDの分光偏光計測方法は、偏光分光装置に被測定光を入射させて求められた分光光量を用いて、分光光量の成分[1]及び成分[3]を求め、かつ、成分[2]、成分[4]及び成分[5]のうち少なくとも2つを求め、求めた成分[3]からφ2(σ)を求める第1の手順と、成分[2]、成分[4]及び成分[5]のうち求めた少なくとも2つの成分からφ2(σ)を求める第2の手順とのいずれかを選択してφ2(σ)を求め、又は第1の手順と第2の手順とを組み合わせてφ2(σ)を求め、φ1(σ)とφ2(σ)との間の関係を示すデータ並びに求めたφ2(σ)からφ1(σ)を求め、求めた各分光光量成分、φ1(σ)及びφ2(σ)を用いて偏光状態の波数分布を示すパラメータを求めるものである。方法C及びDは、第1の手順と第2の手順とを適切に選択し、又は適切に組み合わせることにより、被測定光の分光ストークスパラメータS1(σ)、S2(σ)及びS3(σ)のすべてが同時に0又は0に近い値とさえならなければ計測が可能な実施形態である。
【0185】
本節の分光偏光計測方法において、検光子Aの透過軸の方向が第2の移相子R2の速軸の方向に対して45°となるように配置された場合には分光光量の成分[5]は現れなくなるので、成分[2]、成分[4]及び成分[5]のうち少なくとも1つ又は2つを求める部分では、成分[2]及び成分[4]のうち少なくとも1つ又は2つを求めればよい。
【0186】
3.2 「測定中」に基準位相関数を較正する方法(その2)
3.2.1 基本的な考え方
前節3.1で述べたのと同じ考え方で、基準位相関数の「変動分のみ」を求めることもできる。以下、便宜上「事前較正」、「初期値」という用語を用いるが、較正の時期は被測定光の測定よりも時間的に前であることは必要ではない。したがって、基準位相関数の初期値は、より一般的には基準位相関数の較正用基準値として把握される。また、基準位相関数の較正用基準値として、実測値ではない適当な値を使用することもできる。
【0187】
先の(前節3.1での)方法では、事前較正では「基準振幅関数」を求めており、「基準位相関数」については、特に求める必要はなかった。ところが、3.2節からわかるように、両者はほぼ同時に較正することができる。そこで、「事前較正で基準位相関数の初期値」を求めておき、測定中はその変化分だけを追うようにすることもできる。
【0188】
その場合のメリットとしては、
・分光器や信号処理系などの特性などによってつくかもしれない若干の付加的な位相ずれの部分が、取り除ける。
・面倒な位相アンラッピングが不要となる。
・位相の変動量自体が小さいため、計算のダイナミックレンジを小さくできる。また、この結果として、多くの場合、計算誤差を相対的に小さくできる。
などがある。
【0189】
従って、「基準位相関数の変動分のみを求めること」は、意味がある。
【0190】
説明を補足すれば、図10に示されるように、φ2よりφ1を計算するについては、2つの手法では誤差要因が異なる。すなわち、図10(a)に示されるように、φ2(σ)からφ1(σ)を求めるについては、アンラッピングを行うことが必要となる。このアンラッピングは、誤差の大きな要因となる。特に、周期がサンプリングに比較して高周波のときやノイズの乗っているとき等においては、誤ったアンラッピングを行うことがある。アンラッピングを誤ると誤差は2πの整数倍となり、誤った位相を算出することになる。また、この誤差は広い波数領域に影響を及ぼす。この差異は、本質的には、偏角を求めるarg演算子(或いはarctan演算子)の解に2πの整数倍の不定性があること、に起因している。これに対して、図10(b)に示されるように、Δφ2(σ)からΔφ1(σ)を求めるについては、基準位相関数の初期値からの変化量Δφ2(σ)は小さいため、アンラッピングを行う必要がない。そのため、計算誤差を相対的に小さくできる。
【0191】
3.2.2 準備
この「測定中の計測法」を使うには、「基準振幅関数」と「基準位相関数」の両者とも事前較正しておくことが前提となる。なお、位相に関しては、変動分−誤差分−を後に補正できるため、それほど精度良く求めておく必要はない。
【0192】
3.2.3 実際の較正方法
較正方法の基本的な考え方は、3.1節と全く同じである。従って、3.1.3節で述べたA〜Eの全てに対応する計算方法が存在する。そこで以下では、考え方は違いのみ示し、計算式の列挙を中心に述べることとなる。
【0193】
初めに、記号をいくつか定義しておく。事前較正によって求まる基準位相関数をφ1(i)(σ),φ2(i)(σ)とすることとする。それに対応する基準複素関数は、式(1.16a)〜(1.16d)より
【数35】
となる。さて、測定中に基準位相関数が
φ1(σ)=φ1(i)(σ)+Δφ1(σ) (3.20a)
φ2(σ)=φ2(i)(σ)+Δφ2(σ) (3.20b)
へと変化したとする。以下、この基準位相関数の変化量Δφ1(σ),Δφ2(σ)、あるいは、それに相当する基準複素関数の変化を求める方法について説明する。
【0194】
A.振動成分[3]より基準位相関数φ2(σ)を求める方法
前節の方法Aで述べたように、成分[3]の位相は
δ2(σ)=φ2(σ)=φ2(i)(σ)+Δφ2(σ) (3.21)
となる。そこで、φ2(σ)の変化量は
Δφ2(σ)=δ2(σ)−φ2(i)(σ) (3.22)
として求められる。すなわち、成分[3]の位相δ2(σ)が測定されれば、基準位相関数の一方の変化量Δφ2(σ)が直ちに決められることを意味している。
【0195】
なお、Step2において、「振幅と位相の組」ではなく、「複素表示」を求めた場合には、
【数36】
とすれば求められる。
【0196】
B.複数の振動成分([2]と[4]の組など)より、基準位相関数φ2(σ)を求める方法
振動成分[2]と[4]各々の成分の位相から求める方法では、φ2(σ)の変化量を求める式は
【数37】
となる。
【0197】
「振幅と位相の組」ではなく、「複素表示」を使う場合においては、
【数38】
として求めることができる。あるいは、上式を簡単な複素関数の公式で書き換えて
【数39】
を利用しても良い。なお、3.1.3節最後に注記したのと同様に、もう一つの項を利用する場合においても、上記と同じ考え方が利用できる。
【0198】
C.AとBの組み合わせ
前節で述べた場合と同様に、基準位相関数の「変化分」のみを求める場合でも、方法AとBの適応的な組み合わせは効果的である。なお、内容は前節と全く同じなので省略する。
【0199】
D.AとBの組み合わせ(その2)
変化分のみを求める場合の計算式として望ましいものの一つは、
【数40】
である。このとき、arg[α(σ)]=arg[β(σ)]=2φ2(σ)であるため、
【数41】
特に、完全偏光の時にこれは、(偏光状態によらず)常に被測定光の光強度の自乗S02(σ)になる。つまり、被測定光に十分な光強度さえあれば、上式によって常にΔφ2(σ)は安定して求められることとなる。
【0200】
E.Δφ1(σ)の計算
Δφ1(σ)については、Δφ2(σ)と同様の揺らぎをしていると考えられる。そこで、例えば厚さの比を使って求められたφ1(σ)とφ2(σ)の比をΔφ1(σ)とΔφ2(σ)の比として利用することができる。より一般的にいうと、Δφ1(σ)とΔφ2(σ)の一方から他方を求めることができるような、Δφ1(σ)とΔφ2(σ)との間の関係を示すデータを求めて利用可能にしておく必要がある。Δφ1(σ)とΔφ2(σ)の比を用いて、Δφ1(σ)はΔφ2(σ)の測定値から比例計算で求めることができる。
【0201】
F.基準複素関数の計算
各振動成分をStep2で復調する際に「振幅と位相の組」ではなく、「複素表示」を求めた場合に、最終的に分光ストークスパラメータを求める(Step3の作業)の際に必要となるのは、基準位相関数φ1(σ),φ2(σ)ではなく、基準複素関数K0(σ),K−(σ),K2(σ),K+(σ)になる。
【0202】
上記Eまでの手順で基準位相関数の変化量Δφ1(σ),Δφ2(σ)が求まっていれば、これらは、
【数42】
として、直ちに求められる。
【0203】
本節で述べた分光偏光計測方法は、以下のようにまとめることができる。いずれの場合も、第1の基準位相関数の較正用基準値φ1(i)(σ)及び第2の基準位相関数の較正用基準値φ2(i)(σ)並びにΔφ1(σ)とΔφ2(σ)との間の関係を示すデータが利用可能とされていることが前提である。
【0204】
本節の分光偏光計測方法は、偏光分光装置に被測定光を入射させて求められた分光光量を用いて、分光光量の成分[1]及び成分[3]を求め、かつ、成分[2]、成分[4]及び成分[5]のうち少なくとも1つを求め、φ1(i)(σ)、φ2(i)(σ)、Δφ1(σ)とΔφ2(σ)との間の関係を示すデータ及び求めた各分光光量成分を用いて、Δφ1(σ)及びΔφ2(σ)を求めるとともに偏光状態の波数分布を示すパラメータを求めるものである。
【0205】
より具体的には、本節の方法Aの分光偏光計測方法は、偏光分光装置に被測定光を入射させて求められた分光光量を用いて、分光光量の成分[1]及び成分[3]を求め、かつ、成分[2]、成分[4]及び成分[5]のうち少なくとも1つを求め、求めた成分[3]を用いてΔφ2(σ)を求め、求めたΔφ2(σ)を用いてΔφ1(σ)を求め、求めた各分光光量成分、Δφ1(σ)及びΔφ2(σ)を用いて偏光状態の波数分布を示すパラメータを求めるものである。
【0206】
本節の方法Bの分光偏光計測方法は、偏光分光装置に被測定光を入射させて求められた分光光量を用いて、分光光量の成分[1]及び成分[3]を求め、かつ、成分[2]、成分[4]及び成分[5]のうち少なくとも2つを求め、成分[2]、成分[4]及び成分[5]のうち求めた少なくとも2つの成分を用いてΔφ2(σ)を求め、求めたΔφ2(σ)を用いてΔφ1(σ)を求め、求めた各分光光量成分、Δφ1(σ)及びΔφ2(σ)を用いて偏光状態の波数分布を示すパラメータを求めるものである。
【0207】
本節の方法C及びDの分光偏光計測方法は、偏光分光装置に被測定光を入射させて求められた分光光量を用いて、分光光量の成分[1]及び成分[3]を求め、かつ、成分[2]、成分[4]及び成分[5]のうち少なくとも2つを求め、求めた成分[3]を用いてΔφ2(σ)を求める第1の手順と、成分[2]、成分[4]及び成分[5]のうち求めた少なくとも2つの成分を用いてΔφ2(σ)を求める第2の手順とのいずれかを選択してΔφ2(σ)を求め、又は第1の手順と第2の手順とを組み合わせてΔφ2(σ)を求め、求めたΔφ2(σ)を用いてΔφ1(σ)を求め、求めた各分光光量成分、Δφ1(σ)及びΔφ2(σ)を用いて偏光状態の波数分布を示すパラメータを求めるものである。
【0208】
本節の分光偏光計測方法において、検光子Aの透過軸の方向が第2の移相子R2の速軸の方向に対して45°となるように配置された場合には分光光量の成分[5]は現れなくなるので、成分[2]、成分[4]及び成分[5]のうち少なくとも1つ又は2つを求める部分では、成分[2]及び成分[4]のうち少なくとも1つ又は2つを求めればよい。
【0209】
第4章 測定中較正が可能であることの一般的な証明
前章で説明した様に、チャネルドスペクトル偏光計測法では、「測定中に(測定と並行して)」基準位相関数、もしくはその変化量を較正(あるいは補正)することができる。ただし前章の説明では、周波数フィルタリングを使った信号処理法を利用すること、すなわちチャネルドスペクトルから異なる周期で振動する擬似正弦的な成分を分離することをその前提としていた。ところがこの周波数フィルタリングは、「測定中の較正」の実現において、実は必須なステップではない。発明者らは、ほかの復調法、すなわちほかの信号処理法においても、測定中の基準位相関数の較正が可能であることを見いだした。
【0210】
このことを示すために、まず本章では、チャネルドスペクトル偏光計測法において、なぜ測定中の較正が可能であるかを、「具体的な信号処理法の手順」を限定せずに説明する。さらに次の章で、「周波数フィルタリングを利用しない、測定中の較正法」の具体的な例として、「一般化逆行列を利用する方法」を示す。
【0211】
4.1 チャネルドスペクトルと基準位相関数φ1(σ),φ2(σ)の関係
まず始めに、チャネルドスペクトルと基準位相関数の関係を、干渉の考え方を使って説明する。図26の下方において、平行に走る上下2本の線は、それぞれ、互いに直交する直線偏光成分の経路を表す。ただし、移相子R1とR2の中での各々の直線偏光の方向は、それぞれの素子の主軸の方向に沿って取るものとする。移相子R1に左から入った光は、x,y各偏光成分Ex(σ),Ey(σ)に分かれて、それぞれR1の速軸(fast軸)と遅軸(slow軸)に沿って伝搬する。ここで、Ex(σ),Ey(σ)は、σを中心とし、分光器の分解能Δσ幅の波数範囲に入っている電場成分である。R1を射出した2つの直線偏光成分は、R2入射前に主軸方位が45°回転され、この際に偏光成分の一部が交換される。この光は、R2の速軸(fast軸)と遅軸(slow軸)に沿う成分に再配分され、R2を透過する。R2を射出した2つの成分は、検光子Aにおいて重ね合わされ、分光器に入射する。この図の経路をたどるとすぐにわかるように、入射端から分光器までには、下記に示す計4本の経路が存在する。
Ex(σ)→R1速軸→R2速軸→分光器
Ex(σ)→R1速軸→R2遅軸→分光器
Ey(σ)→R1遅軸→R2速軸→分光器
Ey(σ)→R1遅軸→R2遅軸→分光器
【0212】
分光器では、この4つの成分が重ね合わされ、互いに干渉する。干渉項の位相は、これらの4成分間から取り出した任意の2成分間の位相差から決まる。その可能な組を全て列挙すると、
0
φ2(σ)
{φ1(σ)−δ(σ)}
φ2(σ)−{φ1(σ)−δ(σ)}
φ2(σ)+{φ1(σ)−δ(σ)}
となる。ただし、δ(σ)は、被測定光のx,y偏光成分間の位相差、すなわち
δ(σ)=arg[Ey(σ)]−arg[Ex(σ)]=arg[S23(σ)] (4.1)
である。発生されるチャネルドスペクトルには、結果として上記5通りの位相差に対応した振動成分が含まれることとなる。(ただし、1.2節で述べたように、R2とAの交差角が45°となっている場合には、{φ1(σ)−δ(σ)}に依存する項はうち消されるので、チャネルドスペクトルの中には生じない。)ここで、チャネルドスペクトルの中に現れる位相差の組み合わせにおいて、φ1(σ)とφ2(σ)の出現の仕方を調べてみる。φ1(σ)は常に、被測定光のx,y偏光成分間の位相差δ(σ)=arg[S23(σ)]との差、すなわち、{φ1(σ)−δ(σ)}として現れている。一方φ2(σ)は、単独、ないしは{φ1(σ)−δ(σ)}との和および差として現れる。この事実より、下記が分かる。
【0213】
φ1(σ)に関しては、被測定光の偏光状態が未知の場合には、チャネルドスペクトルのみから直接その値を求めることはできない。なぜなら、求めることが可能なのは、{φ1(σ)−δ(σ)}としてのみであり、被測定光のx,y偏光成分間の位相差δ(σ)が未知の場合にはφ1(σ)を特定することはできないからである。
【0214】
一方、φ2(σ)に関しては、φ1(σ)の様な制約はない。φ2(σ)は、単独で含まれる項がある。あるいは、{φ1(σ)−δ(σ)}との和と差の両方があるので、それらの平均を取っても良い。すなわち、チャネルドスペクトルの中に含まれるφ2(σ)は、被測定光の偏光状態、特に、x,y偏光成分間の位相差δ(σ)がいかなる値を取っていても、常に確定させることができる。これはすなわち、φ2(σ)については、測定と並行した較正ができることを意味している。
【0215】
なお、一旦φ2(σ)が求まれば、φ1(σ)も間接的に求められる場合が多い。なぜなら、φ2(σ)とφ1(σ)は、同様の外乱が加わっている場合が多く、かつ、両者の関係が事前にわかっている場合も多いからである。具体的な両者の関係とは、たとえば、3.1.2節に書かれた、両者の比などである。すなわち、φ2(σ)が一度チャネルドスペクトルから確定されてしまえば、事前にわかっている両者の関係より、φ1(σ)も確定できることになるのである。
【0216】
上記で得られた基本原理をまとめると、下記のようになる。
.適当な信号処理を施せば、チャネルドスペクトルからφ2(σ)を、被測定光の偏光状態に無関係に、すなわち被測定光の偏光状態に関する先見情報を用いることなく復調できる。
.φ2(σ)とφ1(σ)の関係を利用すれば、間接的にではあるが、φ1(σ)も被測定光の偏光状態によらずに復調できる。
【0217】
なお、ここで注意すべきは、方程式の立て方によっては、見かけ上は必ずしも、φ2(σ)がφ1(σ)より先に求まるとは限らないことである。φ2(σ)とφ1(σ)の関係が事前に与えられており、かつそれも含めて方程式が立てられている場合には、(少なくとも数式の表現上では、)両者が同時、あるいはφ1(σ)がφ2(σ)より先に求まる様な表記となることもあり得る。
【0218】
4.2 測定系の位相属性関数
前節では、基準位相関数φ2(σ)が、被測定光の偏光状態によらずに求められることを示した。ここでこの原理は、φ2(σ)そのものを直接求めねばならないことを意味しているのではない。たとえば、初期値φ2(i)(σ)がわかっているときに、それからの変化量Δφ2(σ)を求めることも同様に含まれる。あるいは、基準位相関数φ2(σ)などを含む量、たとえばK2(σ),cosφ2(σ),cosΔφ2(σ)なども、測定中に求めることができる。さらに、φ2(σ)とφ1(σ)の関係が事前にわかっているのであれば、φ1(σ)やその変化量などを含む式、たとえば、K−(σ),K+(σ),cos[φ2(σ)−φ1(σ)],cos[Δφ2(σ)−Δφ1(σ)]なども全て測定中に較正でき、これらを使って分光ストークスパラメータ、あるいはそれに類する偏光パラメータを同時に測定することができる。
【0219】
以下、この様に、基準位相関数φ2(σ)やφ1(σ)、あるいは、それらの基準値からの変化量と、直接ないし間接的に関係づけられていて、さらにチャネルド分光偏光計測系のパラメータのみで決まる関数のことを、その測定系の位相属性関数と呼ぶこととする。チャネルドスペクトルから被測定光の偏光状態の波数分布を復調する際には、位相属性関数のいくつかが必要であるが、そのほかに基準振幅関数のような基準位相関数には依存しない関数が必要な場合もある。チャネルド分光偏光計測系のパラメータのみで決まり、偏光状態の波数分布を復調するのに十分な関数の組のことを総称して測定系の属性関数の組と呼ぶこととする。この言葉を使うと本発明は、「偏光状態の波数分布を復調するのに十分な属性関数の組のうちの位相属性関数の組を、偏光測定と並行して較正する方法を提供している」と言える。
【0220】
さて、これまでの議論を踏まえると、測定系の位相属性関数をチャネルドスペクトルから求めるのに、「陽な」周波数フィルタリング処理は必ずしも必須でないことがわかる。たしかに、信号処理においては、チャネルドスペクトルに含まれるいくつかの成分を分離する作業がかならず含まれるが、その分離は「必ずしも擬似正弦的な成分の周期」を基準にして行う必要はない。必要なのは、φ2(σ)ないしその変化量に関連した量を抽出できるのに十分な分離をすれば良いだけなのである。
【0221】
第5章 一般化逆行列を利用した、測定中較正法
本章では、周波数フィルタリングを使わない、すなわち、チャネルドスペクトルからの擬似正弦的な振動成分の分離を行わない、位相属性関数の測定中較正ならびに分光ストークスパラメータの復調法の具体例の一つとして、一般化逆行列を用いる方法を示す。
【0222】
5.1 行列表示
いま、何らかの事前較正によって求まる基準位相関数を、φ1(i)(σ)およびφ2(i)(σ)とする。測定中に基準位相関数が
φ1(σ)=φ1(i)(σ)+Δφ1(σ) (5.1a)
φ2(σ)=φ2(i)(σ)+Δφ2(σ) (5.1b)
へと変化したとする。以下、この基準位相関数の変化量Δφ1(σ),Δφ2(σ)、あるいは、それに相当する基準複素関数の変化を求める方法について説明する。上式を式(1.3)に代入すると、
【数43】
が得られる。ただし、
【数44】
である。
【0223】
ところで、実際の測定では、ディジタル化された測定値を用いるため、波数軸は離散化される。その離散化点数をN、離散化された波数をσl(l=1...N)とする。すると、式(5.3)は、
【数45】
と書き表すことができる。この式の意味するところは、チャネルドスペクトルP(σl)が、分光ストークスパラメータと基準位相関数の変化量を含む変数群p0(σl),pc(σl),ps(σl),qss(σl),qcc(σl),qsc(σl),qcs(σl)の線形和となっていることである。従って、これは、行列の形で書くことができる。その書き方の例として、下記を挙げておく。
P=RQ (5.6)
ただし、列ベクトルP(N行)、Q(7N行) の要素は、(l=1...N)において、
Pl=P(σl) (5.7a)
Q(7l−6)=p0(σl) (5.7b)
Q(7l−5)=pc(σl) (5.7c)
Q(7l−4)=ps(σl) (5.7d)
Q(7l−3)=qss(σl) (5.7e)
Q(7l−2)=qcc(σl) (5.7f)
Q(7l−1)=qsc(σl) (5.7g)
Q(7l)=qcs(σl) (5.7h)
となり、一方行列R(N行7N列)の要素は、(l=1...N)において
Rl(7l−6)=1 (5.8a)
Rl(7l−5)=cos[φ2(i)(σl)] (5.8b)
Rl(7l−4)=sin[φ2(i)(σl)] (5.8c)
Rl(7l−3)=sin[φ2(i)(σl)]sin[φ1(i)(σl)] (5.8d)
Rl(7l−2)=cos[φ2(i)(σl)]cos[φ1(i)(σl)] (5.8e)
Rl(7l−1)=sin[φ2(i)(σl)]cos[φ1(i)(σl)] (5.8f)
Rl(7l)=cos[φ2(i)(σl)]sin[φ1(i)(σl)] (5.8g)
のみ値を持ち、残りの要素は0である。なお、この選び方では、全ての要素が実数となっていることを注意しておく。
【0224】
チャネルド分光偏光計の特性を行列で表示する仕方には、ここに挙げた以外にも無数に存在し得る。下記の条件を満たしているものであれば、どのような表現でも良い。
条件1 左辺の列ベクトル(上記の例ではP)は、チャネルドスペクトルの波数分布に関する情報を列挙したものであること。
条件2 右辺の列ベクトル(上記の例ではQ)は、被測定光の分光ストークスパラメータ、ならびに測定系の位相属性関数などを含む情報を列挙したものであること。
条件3 右辺の行列(上記の例ではR)は、左辺と右辺の列ベクトルの関係を完全に関係づける線形和となっており、かつその全ての要素は、復調前に確定していること。(仮の較正値などを使っていても良い。)なお、上記の例では、一つのPの要素に関連づけられたQの要素は、他のPの要素には関係しないこととなっているが、これは必須ではない。むしろ、光学系の構成や理論式の近似の取り方などによっては、こうならない場合、すなわち、ある一つの波数でのチャネルドスペクトルが、他の(その回りの)波数の分光ストークスパラメータなどと関係を持つ場合もあり得る。
【0225】
5.2 一般化逆行列による逆変換
上記の議論からわかるように、式(5.6)は、線形連立方程式をあらわしている。なぜなら、左辺の列ベクトルPは、チャネルドスペクトルの測定で決まり、一方右辺の行列Rは、測定前に確定しているからである。この線形連立方程式を解けば、右辺の列ベクトルQ(未知)を決めることができる。ただし、一般に、Pの要素の数に比べて、Qの要素はかなり多い。(上記の例では7倍である。)このため、行列Rは、逆行列を持たない。
【0226】
このような場合に行列で書かれた線形連立方程式を解く方法として、一般化逆行列を使う方法がある。次の4つの条件を満たす様な行列XをRの一般化逆行列と言い、R+で表す。
RXR=R (5.9a)
XRX=X (5.9b)
(RX)*=RX (5.9c)
(XR)*=XR (5.9d)
ただし、行列に付けられた上付き添え字*は、共役転置行列を表す。なお、このようなXはどのようなRに対しても必ず存在し、しかもRに対し一意に定まる。なお、具体的にRからR+を算出する数値計算の方法は、種々の方法が提案されている。(参考文献:戸川隼人、「マトリクスの数値計算」、オーム社、1971年、page46)
【0227】
そして、この一般化逆行列R+ を使うと、式(5.6)の右辺に含まれる列ベクトルQの未知の各要素を、下式により決定することができる。
Q=R+P (5.10)
これはすなわち、分光ストークスパラメータと基準位相関数の変化量を含む変数群p0(σl),pc(σl),ps(σl),qss(σl),qcc(σl),qsc(σl),qcs(σl)(ただし、l=1...N)が求められることを意味する。
【0228】
なお、前節の最後に書いたような、別の行列表記を用いた場合であっても、該当する一般化逆行列を用いれば、「被測定光の分光ストークスパラメータ、ならびに測定系の位相属性関数などを含む情報を列挙したもの」が確定できる。
【0229】
この一般化逆行列で求められる各要素は、チャネルドスペクトル中に含まれる擬似正弦的に振動する各成分と1 対1対応している訳ではない。たとえば、上記導出過程から明らかなように、qss(σl),qcc(σl),qsc(σl),qcs(σl)の各々は、φ2(σ)−φ1(σ)とφ2(σ)+φ1(σ)に関係する2つの擬似正弦成分の両方に関連している。
【0230】
すなわち、この一般化逆行列の計算による要素の分離は、フーリエ変換法などで行われる周波数フィルタリングによる擬似正弦的な周期成分の分離とは、1体1での対応はしていない。
【0231】
5.3 位相属性関数の復調
次に、列ベクトルQの要素から、位相属性関数を求める。
前章に一般論として述べたように、
・チャネルドスペクトルの中に含まれている情報から、φ2(σ)(あるいはそれによって決まる関数)が被測定光の偏光状態とは無関係に求められる。
・φ2(σ)とφ1(σ)の関係(先見情報)を使えば、φ2(σ)のみならずφ1(σ)が、さらには両者に関連する関数が、被測定光の偏光状態とは無関係に求められる。
従って、一般化逆行列を使って得られた列ベクトルQの要素に、さらに方程式を立てて解けば、φ2(σ)とφ1(σ)、ないしそれと等価な関数、すなわち位相属性関数を求めることができる。さらに、その結果を連立して解くと、被測定光の偏光状態が決定できる。
【0232】
さて、列ベクトルQの各要素が、式(5.7b)〜(5.7h)で与えられる場合の、具体的な計算式の例を下記に挙げる。結果のみの表示となるが、極力、第3章に説明した方法に対応させて示す。
【0233】
A. S1(σ)≠0の場合に有効な、Δφ2(σ)を求める方法
列ベクトルQのうち、pc(σ)とps(σ)は、
【数46】
として計算することができる。ここで、上式の逆正接中の分母、分子は、ともに被測定光のS1(σ)に比例している。従って、S1(σ)が0で無い限り、上式でΔφ2(σ)が求められる。
【0234】
B. S2(σ)≠0またはS3(σ)≠0の少なくともいずれか一方が成立している場合に有効な、Δφ2(σ)を求める方法
列ベクトルQの成分のうち、上記A.で使わなかったものからも、
【数47】
があることがわかる。上式の逆正接の中の分母、分子は、ともに、被測定光のS22(σ)+S32(σ)に比例している。従って、S2(σ)とS3(σ)の両方が同時に0にならない限り、上式でΔφ2(σ)が求められる。
【0235】
C. AとBの組み合わせ
3章で述べた場合(周波数フィルタリングを用いる場合)と同様に、方法AとBの適応的な組み合わせは効果的である。なお、処理は前と全く同じなので省略する。
【0236】
D. S1,S2,S3の全てが同時に0にならない限り有効な、Δφ2(σ)を求める方法
列ベクトルQに含まれる要素の、さらに別の組み合わせより、
【数48】
が導き出される。上式の逆正接の中の分母、分子は、ともに、m22(σ)S12(σ)+m−(σ)m+(σ)[S22(σ)+S32(σ)]に比例している。従って、被測定光のS1(σ),S2(σ),S3(σ)の全てが同時に0にならない限り、上式でΔφ2(σ)が求められる。
【0237】
なお、S1(σ)=S2(σ)=S3(σ)=0というのは、被測定光が無偏光の場合であり、この場合は位相属性関数の較正自体が不要である。なぜなら、偏光度(すなわち0)のみが意味のある情報となるからである。
【0238】
E. Δφ1(σ)の計算
Δφ1(σ)については、Δφ2(σ)と同様の揺らぎをしていると考えられるため、Δφ2(σ)の測定値から比例計算(例えば、厚さの比を使う)で求めることができる。
【0239】
F. 分光ストークスパラメータの復調
得られた、Δφ2(σ)とΔφ1(σ)を使って、p0(σ),pc(σ),ps(σ),qss(σ),qcc(σ),qsc(σ),qcs(σ)より被測定光の分光ストークスパラメータS0(σ),S1(σ),S2(σ),S3(σ)を決定する。たとえば下記の関係式を使えばよい。
【数49】
【実施例1】
【0240】
以下に、本発明の好適な実施例を図11〜図19を参照しつつ、詳細に説明する。分光偏光計測装置の一実施例の構成図が図11に示されている。同図に示されるように、この装置は、投光側ユニット200と受光側ユニット300とを備えている。なお、400は試料である。
【0241】
投光側ユニット200は、電源201と、電源201から給電されて点灯する光源202と、光源202の出射方向前面側に配置されたピンホール板203と、ピンホール板203のピンホール通過光を平行光化するコリメートレンズ204と、コリメートレンズ204の前面側にあって通過光を開閉するシャッタ205と、シャッタ通過光が入射される偏光子206とを含んでいる。
【0242】
偏光子206を通過後の光は投光側ユニット200から出射されて、試料400へと照射される。試料400を透過又は試料400で反射された光は、受光側ユニット300へと入射される。
【0243】
受光側ユニット300内における入射光路上には、第1の移相子301と、第2の移相子302と、検光子303と、分光器304とが順に介在されている。ここで、第1の移相子301は、被測定光(入射光)が第1の移相子301の速軸及び遅軸に垂直に入射するように配置されている。第2の移相子302は、第1の移相子301を出射した被測定光が第2の移相子302の速軸及び遅軸に垂直に入射し、かつ、第2の移相子302の速軸の方向と第1の移相子の速軸の方向とが45°となるように配置されている。検光子303は、その透過軸の方向と第2の移相子302の主軸の方向とが45°となるように配置されている。
【0244】
分光器304内には、被測定光を分光する回折格子304aと、回折格子304aにて分光された光がその受光面に入射されるCCD304bと、CCD304bの受光出力をデジタル信号に変換するA/D変換器304cとを含んでいる。A/D変換器304cから得られるデジタル受光出力信号は、分光器304から取り出され、これがパソコン(PC)等のコンピュータ305にて処理される。
【0245】
周知の通り、コンピュータ305(演算装置)は、マイクロプロセッサ等で構成される演算処理部305aと、ROM,RAM,HDD等で構成されるメモリ部305bと、ディスプレイ,プリンタ,各種データ出力装置,通信装置等で構成される測定結果出力部305cとを含んでいる。
【0246】
次に、事前較正手順のフローチャートが図12に示されている。同図に示されるように、事前較正手順として、先ず、ステップ1201では、装置(この場合、受光側ユニット300)に対して、分光ストークスパラメータが既知の光を入射させる。なお、分光ストークスパラメータが既知の光を発生させるには、例えば、装置図中の偏光子206を回転して所望の方位に合わせればよい。
【0247】
次に、ステップ1202では、分光器にて透過光の分光光量を計測する。このとき、不要な光、例えば迷光の影響を低減させるのにはシャッタ205を活用することができる。具体的には、シャッタ開と閉それぞれの状態で測定されたスペクトルの差をとれば、不要光分のスペクトルは相殺される。
【0248】
次に、ステップ1203では、透過光の分光光量を分光器よりコンピュータ305に転送して演算処理部305aにおける演算に供する。
【0249】
次に、ステップ1204では、演算処理部305aの作用により、基準位相関数と基準振幅関数とが算出される。
【0250】
次に、ステップ1205では、算出した基準位相関数と基準振幅関数がメモリ部305bに保存され、これにより事前較正手順が完了する。
【0251】
次に、測定手順のフローチャートが図13に示されている。同図に示されるように、測定手順として、先ず、ステップ1301においては、装置に被測定光を入射させる。このとき、試料400での透過や反射に伴う偏光変化を調べることが計測の目的である場合には、先ず、試料400に既知の偏光状態を持つ光を照射し、次に試料400を透過乃至反射した光を当該装置(受光側ユニット300:偏光計)に入射させればよい。
【0252】
次に、ステップ1302では、分光器304にて透過光の分光光量を計測する。このとき、不要な光、例えば迷光の影響を低減させるのにはシャッタ205を活用することができる。具体的には、シャッタ開と閉それぞれの状態で測定されたスペクトルの差をとれば、不要光分のスペクトルは相殺される。
【0253】
次に、ステップ1303では、透過光の分光光量を分光器304よりコンピュータ305へと転送して、演算処理部305aにおける処理に供する。
【0254】
次に、ステップ1304では、コンピュータ305において、演算処理部305aはメモリ部305bより基準位相関数と基準振幅関数とを取得する。
【0255】
次に、ステップ1305では、コンピュータ305において、演算処理部305aは測定した分光光量、及び基準位相関数・基準振幅関数を用いて、基準位相関数の変化量(Δφ2及びΔφ1)を算出する。
【0256】
次に、ステップ1306では、コンピュータ305において、演算処理部305aは測定した分光光量及び基準位相関数・基準振幅関数の変化量を用いて、被測定光の分光ストークスパラメータを算出する。
【0257】
次に、ステップ1307では、コンピュータ305において、演算処理部305aは被測定光の分光ストークスパラメータを出力する。このとき、測定結果出力部305cとしては、メモリ、ハードディスク、他の処理部(楕円率角、方位角算出部等)などを挙げることができる。
【0258】
以上説明したように、この実施例の分光偏光計測装置においては、図11に示されるシステム構成において、図12に示される事前較正手順並びに図13に示される測定手順を経ることにより、被測定光に関するストークスパラメータを算出するものである。
【0259】
次に、具体的な実験結果例を図14〜図19を参照しつつ説明する。この実験においては、第1の移相子301及び第2の移相子302の温度を上昇させながら偏光測定を行い、実施例装置における温度補償性能を確認した。
【0260】
実験結果例(I.事前較正)が図14に示されている。同図に示されるように、事前較正においては、先ず、図中中央上部に描かれた較正光のチャネルドスペクトルを取得し、これをフーリエ変換法(図6参照)により、各成分[1]〜[4]に分離することで、基準複素関数が求められる。図14において、K0(i)(σ)、K−(i)(σ)、K2(i)(σ)、及びK+(i)(σ)は事前較正にて求められた基準複素関数である。
【0261】
実験結果例(II.基準位相関数の変化量計算)が図15〜図17に示されている。基準位相関数の変化量を求めるためには、先ず、図15に示されるように、被測定光(方位22.5度直線偏光)のチャネルドスペクトルをフーリエ変換法により各成分([1]〜[4])に分離すると共に、成分[2],[3],[4]のそれぞれを基準複素関数K−(i)(σ)、K2(i)(σ)、及びK+(i)(σ)で除算する。図16において、F−(σ)/K−(i)(σ)、F2(σ)/K2(i)(σ)、F+(σ)/K+(i)(σ)は除算結果(振動成分)である。
【0262】
次いで、図16に示されるように、各振動成分を利用することにより、図17に示されるように、方法A、方法B、及び方法Dにより、Δφ2(σ)が求められる。すなわち、方法Aにおいては、振動成分[3]を使用することにより、方法Bにおいては、振動成分[2]及び[4]を使用することにより、方法Dにおいては、振動成分[2][3]及び[4]を使用することにより、それぞれΔφ2(σ)が求められる。
【0263】
なお、Δφ1(σ)は、Δφ2(σ)から先見情報を使用して容易に比例計算で求めることができる。そして、変動後の基準複素関数K0(σ)、K−(σ)、K2(σ)、及びK+(σ)もこれから直ちに計算により求めることができる。
【0264】
実験結果例(III.分光ストークスパラメータの復調)が図18に示されている。図から明らかなように、被測定光(方位22.5度直線偏光)のチャネルドスペクトルをフーリエ変換法により各成分[1]〜[4]に分離する共に、これと並行して求められた基準複素関数K0(σ)、K−(σ)、K2(σ)、及びK+(σ)を適宜に適用することにより、分光ストークスパラメータS0(σ)、S1(σ)、S2(σ)、及びS3(σ)が求められる。
【0265】
変調状態の復調結果が図19に示されている。この例では、Δφ1(σ)とΔφ2(σ)の補正を行う前後の楕円率角が示されている。被測定光は、方位22.5度直線偏光であるため、理想的には波数によらず0となる筈である。図から明らかなように、補正前にあっては、移相子の温度上昇に伴い、測定結果が図中矢印で示すように変化しているのに対して、補正後にあっては、移相子の温度が上昇しても、測定結果は0付近に分布していることが理解される。このことから、本発明の分光偏光計測装置にあっては、温度変動に拘わらず、安定した計測結果が得られることがわかる。
【図面の簡単な説明】
【0266】
【図1】本発明の前提となるチャネルド分光偏光計測法の原理説明図である。
【図2】分光器から得られるチャネルドスペクトルとその4つの成分との関係を示す説明図(その1)である。
【図3】分光器から得られるチャネルドスペクトルとその5つの成分との関係を示す説明図(その2)である。
【図4】分光ストークスパラメータ復調の手順(信号処理の流れ)を示す説明図である。
【図5】Step 2の一つの例を示す説明図である。
【図6】フーリエ変換法の説明図である。
【図7】事前較正と偏光測定のフローチャートである。
【図8】測定中の、較正の信号の流れを示す説明図である。
【図9】「測定中の較正」及び「分光ストークスパラメータの測定」をあわせた信号の流れを示す説明図である。
【図10】測定中に基準位相関数を較正する方法(その1,2)の比較説明図である。
【図11】分光偏光計測装置の一実施例の構成図である。
【図12】事前較正手順を示すフローチャートである。
【図13】測定手順を示すフローチャートである。
【図14】実験結果例(I.事前較正)を示す図である。
【図15】実験結果例(II.基準位相関数の変化量を計算)(その1)を示す図である。
【図16】実験結果例(II.基準位相関数の変化量を計算)(その2)を示す図である。
【図17】実験結果例(II.基準位相関数の変化量を計算)(その3)を示す図である。
【図18】実験結果例(III.分光ストークスパラメータの復調)を示す図である。
【図19】偏光状態の復調結果を示す図である。
【図20】本発明者等が先に提案したチャネルド分光偏光計測法の実験系の構成図である。
【図21】同実験系におけるチャネルドスペクトルを示すグラフである。
【図22】同実験系における規格化されたストークスパラメータを示すグラフである。
【図23】チャネルドスペクトルの温度変化による位相ずれを説明するためのグラフである。
【図24】温度変化によるストークスパラメータの変動を説明するためのグラフである。
【図25】分光器の波動軸変動による位相ずれを説明するためのグラフである。
【図26】チャネルドスペクトルと基準位相関数の関係を説明するための図である。
【符号の説明】
【0267】
1 キセノンランプ
2 偏光子
3 バビネ・ソレイユ補償子
4 測定系
5 分光器
6 コンピュータ
R1 移相子
R2 移相子
A 検光子
200 投光側ユニット
201 電源
202 光源
203 ピンホール板
204 コリメートレンズ
205 シャッタ
206 偏光子
300 受光側ユニット
301 第1移相子
302 第2移相子
303 検光子
304 分光器
304a 回折格子
304b CCD
304c A/D変換器
305 コンピュータ
305a 演算処理部
305b メモリ部
305c 測定結果出力部
400 試料
【特許請求の範囲】
【請求項1】
被測定光が順に透過する第1の移相子、第2の移相子及び検光子と、前記検光子を透過した光の分光光量を求める手段とを備え、
第2の移相子は、その主軸の方向と第1の移相子の主軸の方向とが不一致となるように配置され、
検光子は、その透過軸の方向と第2の移相子の主軸の方向とが不一致となるように配置された、偏光分光装置を用意するステップと、
偏光分光装置に被測定光を入射させて分光光量を求めるステップと、
求められた分光光量を用いて、測定系の位相属性関数の組を求めるとともに被測定光の偏光状態の波数分布を示すパラメータを求める演算ステップとを備えた分光偏光計測方法であって、
前記位相属性関数の組は、偏光分光装置の特性によって規定される関数の組であって、第1の移相子のリタデーションである第1の基準位相関数(φ1(σ))に少なくとも依存する関数及び第2の移相子のリタデーションである第2の基準位相関数(φ2(σ))に少なくとも依存する関数を含み、それ自身のみで又は偏光分光装置の特性によって規定される他の関数を加えることにより、被測定光の偏光状態の波数分布を示すパラメータを求めるのに十分な関数の組となるものである、分光偏光計測方法。
【請求項2】
前記検光子は、その透過軸の方向が第2の移相子の速軸の方向に対して45°となるように配置されたものである、請求項1に記載の分光偏光計測方法。
【請求項3】
前記演算ステップにおいて、
前記位相属性関数の組は、第1の基準位相関数及び第2の基準位相関数であり、
第1の基準位相関数と第2の基準位相関数との間の関係を示すデータが利用可能とされており、
前記演算ステップは、
求められた分光光量を用いて、波数に対して非周期振動性の第1の分光光量成分及び波数に対して第2の基準位相関数に依存し第1の基準位相関数に依存しない周波数で振動する第3の分光光量成分を求め、かつ、波数に対して第1の基準位相関数と第2の基準位相関数との差に依存する周波数で振動する第2の分光光量成分、波数に対して第1の基準位相関数と第2の基準位相関数との和に依存する周波数で振動する第4の分光光量成分及び波数に対して第1の基準位相関数に依存し第2の基準位相関数に依存しない周波数で振動する第5の分光光量成分のうち少なくとも1つを求め、
第1の基準位相関数と第2の基準位相関数との間の関係を示すデータ及び求めた各分光光量成分を用いて、第1の基準位相関数及び第2の基準位相関数を求めるとともに偏光状態の波数分布を示すパラメータを求めるものである、請求項1に記載の分光偏光計測方法。
【請求項4】
前記演算ステップにおいて、
前記位相属性関数の組は、第1の基準位相関数の較正用基準値からの第1の基準位相関数の変化量(Δφ1(σ))並びに第2の基準位相関数の較正用基準値からの第2の基準位相関数の変化量(Δφ2(σ))であり、
第1の基準位相関数の較正用基準値(φ1(i)(σ))及び第2の基準位相関数の較正用基準値(φ2(i)(σ))、並びに第1の基準位相関数の変化量と第2の基準位相関数の変化量との間の関係を示すデータが利用可能とされており、
前記演算ステップは、
求められた分光光量を用いて、波数に対して非周期振動性の第1の分光光量成分及び波数に対して第2の基準位相関数に依存し第1の基準位相関数に依存しない周波数で振動する第3の分光光量成分を求め、かつ、波数に対して第1の基準位相関数と第2の基準位相関数との差に依存する周波数で振動する第2の分光光量成分、波数に対して第1の基準位相関数と第2の基準位相関数との和に依存する周波数で振動する第4の分光光量成分及び波数に対して第1の基準位相関数に依存し第2の基準位相関数に依存しない周波数で振動する第5の分光光量成分のうち少なくとも1つを求め、
第1の基準位相関数の較正用基準値、第2の基準位相関数の較正用基準値、第1の基準位相関数の変化量と第2の基準位相関数の変化量との間の関係を示すデータ及び求めた各分光光量成分を用いて、第1の基準位相関数の変化量及び第2の基準位相関数の変化量を求めるとともに偏光状態の波数分布を示すパラメータを求めるものである、請求項1に記載の分光偏光計測方法。
【請求項5】
さらに、偏光分光装置に偏光状態の波数分布を示す各パラメータが既知である較正用の光を入射させて較正用の分光光量を求め、較正用の光の偏光状態の波数分布を示す各パラメータ及び求めた較正用の分光光量を用いて第1の基準位相関数の較正用基準値(φ1(i)(σ))及び第2の基準位相関数の較正用基準値(φ2(i)(σ))を求めるステップを備え、それによりこれらの較正用基準値が利用可能とされる、請求項4に記載の分光偏光計測方法。
【請求項6】
さらに、偏光分光装置に偏光状態の波数分布を示す各パラメータが既知である較正用の光を入射させて較正用の分光光量を求め、較正用の光の偏光状態の波数分布を示す各パラメータ及び求めた較正用の分光光量を用いて、第1の基準位相関数の較正用基準値(φ1(i)(σ))、第2の基準位相関数の較正用基準値(φ2(i)(σ))及び第1の基準位相関数の変化量と第2の基準位相関数の変化量との間の関係を示すデータを求めるステップを備え、それによりこれらの値が利用可能とされる、請求項4に記載の分光偏光計測方法。
【請求項7】
さらに、偏光分光装置に偏光状態の波数分布を示す各パラメータが既知である較正用の光を入射させて較正用の分光光量を求め、較正用の光の偏光状態の波数分布を示す各パラメータ及び求めた較正用の分光光量を用いて第1の基準位相関数と第2の基準位相関数との間の関係を示すデータを求めるステップを備え、それにより第1の基準位相関数と第2の基準位相関数との間の関係を示すデータが利用可能とされる、請求項3に記載の分光偏光計測方法。
【請求項8】
前記較正用の光は直線偏光である、請求項5に記載の分光偏光計測方法。
【請求項9】
前記較正用の光は直線偏光である、請求項7に記載の分光偏光計測方法。
【請求項10】
前記演算ステップにおいて、
分光光量の波数分布に関する情報を含む第1のベクトルが、行列と、被測定光の偏光状態の波数分布に関する情報及び前記位相属性関数の組に関する情報を含む第2のベクトルとの積によって表される関係が成り立つような前記行列の一般化逆行列の各要素の値が利用可能とされており、
前記演算ステップは、
求められた分光光量を用いて第1のベクトルの各要素の値を特定し、
前記一般化逆行列と第1のベクトルとの積演算により第2のベクトルの各要素の値を求め、
第2のベクトルに含まれる要素の値を用いて前記位相属性関数の組を求めるとともに被測定光の偏光状態の波数分布を示すパラメータを求めるものである、請求項1に記載の分光偏光計測方法。
【請求項11】
前記演算ステップにおいて、
前記位相属性関数の組は、第1の基準位相関数の較正用基準値からの第1の基準位相関数の変化量(Δφ1(σ))並びに第2の基準位相関数の較正用基準値からの第2の基準位相関数の変化量(Δφ2(σ))であり、
第1の基準位相関数の変化量と第2の基準位相関数の変化量との間の関係を示すデータが利用可能とされており、
さらに、第1の基準位相関数の較正用基準値(φ1(i)(σ))及び第2の基準位相関数の較正用基準値(φ2(i)(σ))から求められた前記行列の一般化逆行列が利用可能とされており、
前記演算ステップは、
求められた分光光量を用いて第1のベクトルの各要素の値を特定し、
前記一般化逆行列と第1のベクトルとの積演算により第2のベクトルの各要素の値を求め、
第2のベクトルに含まれる要素の値及び第1の基準位相関数の変化量と第2の基準位相関数の変化量との間の関係を示すデータを用いて、第1の基準位相関数の変化量及び第2の基準位相関数の変化量を求めるとともに偏光状態の波数分布を示すパラメータを求めるものである、請求項10に記載の分光偏光計測方法。
【請求項12】
被測定光が順に透過する第1の移相子、第2の移相子及び検光子と、前記検光子を透過した光の分光光量を求める手段とを備え、
第2の移相子は、その主軸の方向と第1の移相子の主軸の方向とが不一致となるように配置され、
検光子は、その透過軸の方向と第2の移相子の主軸の方向とが不一致となるように配置された、偏光分光装置と、
偏光分光装置に被測定光を入射させて求められた分光光量を用いて、測定系の位相属性関数の組を求めるとともに被測定光の偏光状態の波数分布を示すパラメータを求める演算装置とを備えた分光偏光計測装置であって、
前記位相属性関数の組は、偏光分光装置の特性によって規定される関数の組であって、第1の移相子のリタデーションである第1の基準位相関数(φ1(σ))に少なくとも依存する関数及び第2の移相子のリタデーションである第2の基準位相関数(φ2(σ))に少なくとも依存する関数を含み、それ自身のみで又は偏光分光装置の特性によって規定される他の関数を加えることにより、被測定光の偏光状態の波数分布を示すパラメータを求めるのに十分な関数の組となるものである、分光偏光計測装置。
【請求項13】
前記検光子は、その透過軸の方向が第2の移相子の速軸の方向に対して45°となるように配置されたものである、請求項12に記載の分光偏光計測装置。
【請求項14】
前記演算装置において、
前記位相属性関数の組は、第1の基準位相関数及び第2の基準位相関数であり、
第1の基準位相関数と第2の基準位相関数との間の関係を示すデータが利用可能とされており、
前記演算装置は、
偏光分光装置に被測定光を入射させて求められた分光光量を用いて、波数に対して非周期振動性の第1の分光光量成分及び波数に対して第2の基準位相関数に依存し第1の基準位相関数に依存しない周波数で振動する第3の分光光量成分を求め、かつ、波数に対して第1の基準位相関数と第2の基準位相関数との差に依存する周波数で振動する第2の分光光量成分、波数に対して第1の基準位相関数と第2の基準位相関数との和に依存する周波数で振動する第4の分光光量成分及び波数に対して第1の基準位相関数に依存し第2の基準位相関数に依存しない周波数で振動する第5の分光光量成分のうち少なくとも1つを求め、
第1の基準位相関数と第2の基準位相関数との間の関係を示すデータ及び求めた各分光光量成分を用いて、第1の基準位相関数及び第2の基準位相関数を求めるとともに偏光状態の波数分布を示すパラメータを求めるものである、請求項12に記載の分光偏光計測装置。
【請求項15】
前記演算装置において、
前記位相属性関数の組は、第1の基準位相関数の較正用基準値からの第1の基準位相関数の変化量(Δφ1(σ))並びに第2の基準位相関数の較正用基準値からの第2の基準位相関数の変化量(Δφ2(σ))であり、
第1の基準位相関数の較正用基準値(φ1(i)(σ))及び第2の基準位相関数の較正用基準値(φ2(i)(σ))、並びに第1の基準位相関数の変化量と第2の基準位相関数の変化量との間の関係を示すデータが利用可能とされており、
前記演算装置は、
偏光分光装置に被測定光を入射させて求められた分光光量を用いて、波数に対して非周期振動性の第1の分光光量成分及び波数に対して第2の基準位相関数に依存し第1の基準位相関数に依存しない周波数で振動する第3の分光光量成分を求め、かつ、波数に対して第1の基準位相関数と第2の基準位相関数との差に依存する周波数で振動する第2の分光光量成分、波数に対して第1の基準位相関数と第2の基準位相関数との和に依存する周波数で振動する第4の分光光量成分及び波数に対して第1の基準位相関数に依存し第2の基準位相関数に依存しない周波数で振動する第5の分光光量成分のうち少なくとも1つを求め、
第1の基準位相関数の較正用基準値、第2の基準位相関数の較正用基準値、第1の基準位相関数の変化量と第2の基準位相関数の変化量との間の関係を示すデータ及び求めた各分光光量成分を用いて、第1の基準位相関数の変化量及び第2の基準位相関数の変化量を求めるとともに偏光状態の波数分布を示すパラメータを求めるものである、請求項12に記載の分光偏光計測方法。
【請求項16】
前記演算装置において、
分光光量の波数分布に関する情報を含む第1のベクトルが、行列と、被測定光の偏光状態の波数分布に関する情報及び前記位相属性関数の組に関する情報を含む第2のベクトルとの積によって表される関係が成り立つような前記行列の一般化逆行列の各要素の値が利用可能とされており、
前記演算装置は、
偏光分光装置に被測定光を入射させて求められた分光光量を用いて第1のベクトルの各要素の値を特定し、
前記一般化逆行列と第1のベクトルとの積演算により第2のベクトルの各要素の値を求め、
第2のベクトルに含まれる要素の値を用いて前記位相属性関数の組を求めるとともに被測定光の偏光状態の波数分布を示すパラメータを求めるものである、請求項12に記載の分光偏光計測装置。
【請求項17】
前記演算装置において、
前記位相属性関数の組は、第1の基準位相関数の較正用基準値からの第1の基準位相関数の変化量(Δφ1(σ))並びに第2の基準位相関数の較正用基準値からの第2の基準位相関数の変化量(Δφ2(σ))であり、
第1の基準位相関数の変化量と第2の基準位相関数の変化量との間の関係を示すデータが利用可能とされており、
さらに、第1の基準位相関数の較正用基準値(φ1(i)(σ))及び第2の基準位相関数の較正用基準値(φ2(i)(σ))から求められた前記行列の一般化逆行列が利用可能とされており、
前記演算装置は、
偏光分光装置に被測定光を入射させて求められた分光光量を用いて第1のベクトルの各要素の値を特定し、
前記一般化逆行列と第1のベクトルとの積演算により第2のベクトルの各要素の値を求め、
第2のベクトルに含まれる要素の値及び第1の基準位相関数の変化量と第2の基準位相関数の変化量との間の関係を示すデータを用いて、第1の基準位相関数の変化量及び第2の基準位相関数の変化量を求めるとともに偏光状態の波数分布を示すパラメータを求めるものである、請求項16に記載の分光偏光計測方法。
【請求項1】
被測定光が順に透過する第1の移相子、第2の移相子及び検光子と、前記検光子を透過した光の分光光量を求める手段とを備え、
第2の移相子は、その主軸の方向と第1の移相子の主軸の方向とが不一致となるように配置され、
検光子は、その透過軸の方向と第2の移相子の主軸の方向とが不一致となるように配置された、偏光分光装置を用意するステップと、
偏光分光装置に被測定光を入射させて分光光量を求めるステップと、
求められた分光光量を用いて、測定系の位相属性関数の組を求めるとともに被測定光の偏光状態の波数分布を示すパラメータを求める演算ステップとを備えた分光偏光計測方法であって、
前記位相属性関数の組は、偏光分光装置の特性によって規定される関数の組であって、第1の移相子のリタデーションである第1の基準位相関数(φ1(σ))に少なくとも依存する関数及び第2の移相子のリタデーションである第2の基準位相関数(φ2(σ))に少なくとも依存する関数を含み、それ自身のみで又は偏光分光装置の特性によって規定される他の関数を加えることにより、被測定光の偏光状態の波数分布を示すパラメータを求めるのに十分な関数の組となるものである、分光偏光計測方法。
【請求項2】
前記検光子は、その透過軸の方向が第2の移相子の速軸の方向に対して45°となるように配置されたものである、請求項1に記載の分光偏光計測方法。
【請求項3】
前記演算ステップにおいて、
前記位相属性関数の組は、第1の基準位相関数及び第2の基準位相関数であり、
第1の基準位相関数と第2の基準位相関数との間の関係を示すデータが利用可能とされており、
前記演算ステップは、
求められた分光光量を用いて、波数に対して非周期振動性の第1の分光光量成分及び波数に対して第2の基準位相関数に依存し第1の基準位相関数に依存しない周波数で振動する第3の分光光量成分を求め、かつ、波数に対して第1の基準位相関数と第2の基準位相関数との差に依存する周波数で振動する第2の分光光量成分、波数に対して第1の基準位相関数と第2の基準位相関数との和に依存する周波数で振動する第4の分光光量成分及び波数に対して第1の基準位相関数に依存し第2の基準位相関数に依存しない周波数で振動する第5の分光光量成分のうち少なくとも1つを求め、
第1の基準位相関数と第2の基準位相関数との間の関係を示すデータ及び求めた各分光光量成分を用いて、第1の基準位相関数及び第2の基準位相関数を求めるとともに偏光状態の波数分布を示すパラメータを求めるものである、請求項1に記載の分光偏光計測方法。
【請求項4】
前記演算ステップにおいて、
前記位相属性関数の組は、第1の基準位相関数の較正用基準値からの第1の基準位相関数の変化量(Δφ1(σ))並びに第2の基準位相関数の較正用基準値からの第2の基準位相関数の変化量(Δφ2(σ))であり、
第1の基準位相関数の較正用基準値(φ1(i)(σ))及び第2の基準位相関数の較正用基準値(φ2(i)(σ))、並びに第1の基準位相関数の変化量と第2の基準位相関数の変化量との間の関係を示すデータが利用可能とされており、
前記演算ステップは、
求められた分光光量を用いて、波数に対して非周期振動性の第1の分光光量成分及び波数に対して第2の基準位相関数に依存し第1の基準位相関数に依存しない周波数で振動する第3の分光光量成分を求め、かつ、波数に対して第1の基準位相関数と第2の基準位相関数との差に依存する周波数で振動する第2の分光光量成分、波数に対して第1の基準位相関数と第2の基準位相関数との和に依存する周波数で振動する第4の分光光量成分及び波数に対して第1の基準位相関数に依存し第2の基準位相関数に依存しない周波数で振動する第5の分光光量成分のうち少なくとも1つを求め、
第1の基準位相関数の較正用基準値、第2の基準位相関数の較正用基準値、第1の基準位相関数の変化量と第2の基準位相関数の変化量との間の関係を示すデータ及び求めた各分光光量成分を用いて、第1の基準位相関数の変化量及び第2の基準位相関数の変化量を求めるとともに偏光状態の波数分布を示すパラメータを求めるものである、請求項1に記載の分光偏光計測方法。
【請求項5】
さらに、偏光分光装置に偏光状態の波数分布を示す各パラメータが既知である較正用の光を入射させて較正用の分光光量を求め、較正用の光の偏光状態の波数分布を示す各パラメータ及び求めた較正用の分光光量を用いて第1の基準位相関数の較正用基準値(φ1(i)(σ))及び第2の基準位相関数の較正用基準値(φ2(i)(σ))を求めるステップを備え、それによりこれらの較正用基準値が利用可能とされる、請求項4に記載の分光偏光計測方法。
【請求項6】
さらに、偏光分光装置に偏光状態の波数分布を示す各パラメータが既知である較正用の光を入射させて較正用の分光光量を求め、較正用の光の偏光状態の波数分布を示す各パラメータ及び求めた較正用の分光光量を用いて、第1の基準位相関数の較正用基準値(φ1(i)(σ))、第2の基準位相関数の較正用基準値(φ2(i)(σ))及び第1の基準位相関数の変化量と第2の基準位相関数の変化量との間の関係を示すデータを求めるステップを備え、それによりこれらの値が利用可能とされる、請求項4に記載の分光偏光計測方法。
【請求項7】
さらに、偏光分光装置に偏光状態の波数分布を示す各パラメータが既知である較正用の光を入射させて較正用の分光光量を求め、較正用の光の偏光状態の波数分布を示す各パラメータ及び求めた較正用の分光光量を用いて第1の基準位相関数と第2の基準位相関数との間の関係を示すデータを求めるステップを備え、それにより第1の基準位相関数と第2の基準位相関数との間の関係を示すデータが利用可能とされる、請求項3に記載の分光偏光計測方法。
【請求項8】
前記較正用の光は直線偏光である、請求項5に記載の分光偏光計測方法。
【請求項9】
前記較正用の光は直線偏光である、請求項7に記載の分光偏光計測方法。
【請求項10】
前記演算ステップにおいて、
分光光量の波数分布に関する情報を含む第1のベクトルが、行列と、被測定光の偏光状態の波数分布に関する情報及び前記位相属性関数の組に関する情報を含む第2のベクトルとの積によって表される関係が成り立つような前記行列の一般化逆行列の各要素の値が利用可能とされており、
前記演算ステップは、
求められた分光光量を用いて第1のベクトルの各要素の値を特定し、
前記一般化逆行列と第1のベクトルとの積演算により第2のベクトルの各要素の値を求め、
第2のベクトルに含まれる要素の値を用いて前記位相属性関数の組を求めるとともに被測定光の偏光状態の波数分布を示すパラメータを求めるものである、請求項1に記載の分光偏光計測方法。
【請求項11】
前記演算ステップにおいて、
前記位相属性関数の組は、第1の基準位相関数の較正用基準値からの第1の基準位相関数の変化量(Δφ1(σ))並びに第2の基準位相関数の較正用基準値からの第2の基準位相関数の変化量(Δφ2(σ))であり、
第1の基準位相関数の変化量と第2の基準位相関数の変化量との間の関係を示すデータが利用可能とされており、
さらに、第1の基準位相関数の較正用基準値(φ1(i)(σ))及び第2の基準位相関数の較正用基準値(φ2(i)(σ))から求められた前記行列の一般化逆行列が利用可能とされており、
前記演算ステップは、
求められた分光光量を用いて第1のベクトルの各要素の値を特定し、
前記一般化逆行列と第1のベクトルとの積演算により第2のベクトルの各要素の値を求め、
第2のベクトルに含まれる要素の値及び第1の基準位相関数の変化量と第2の基準位相関数の変化量との間の関係を示すデータを用いて、第1の基準位相関数の変化量及び第2の基準位相関数の変化量を求めるとともに偏光状態の波数分布を示すパラメータを求めるものである、請求項10に記載の分光偏光計測方法。
【請求項12】
被測定光が順に透過する第1の移相子、第2の移相子及び検光子と、前記検光子を透過した光の分光光量を求める手段とを備え、
第2の移相子は、その主軸の方向と第1の移相子の主軸の方向とが不一致となるように配置され、
検光子は、その透過軸の方向と第2の移相子の主軸の方向とが不一致となるように配置された、偏光分光装置と、
偏光分光装置に被測定光を入射させて求められた分光光量を用いて、測定系の位相属性関数の組を求めるとともに被測定光の偏光状態の波数分布を示すパラメータを求める演算装置とを備えた分光偏光計測装置であって、
前記位相属性関数の組は、偏光分光装置の特性によって規定される関数の組であって、第1の移相子のリタデーションである第1の基準位相関数(φ1(σ))に少なくとも依存する関数及び第2の移相子のリタデーションである第2の基準位相関数(φ2(σ))に少なくとも依存する関数を含み、それ自身のみで又は偏光分光装置の特性によって規定される他の関数を加えることにより、被測定光の偏光状態の波数分布を示すパラメータを求めるのに十分な関数の組となるものである、分光偏光計測装置。
【請求項13】
前記検光子は、その透過軸の方向が第2の移相子の速軸の方向に対して45°となるように配置されたものである、請求項12に記載の分光偏光計測装置。
【請求項14】
前記演算装置において、
前記位相属性関数の組は、第1の基準位相関数及び第2の基準位相関数であり、
第1の基準位相関数と第2の基準位相関数との間の関係を示すデータが利用可能とされており、
前記演算装置は、
偏光分光装置に被測定光を入射させて求められた分光光量を用いて、波数に対して非周期振動性の第1の分光光量成分及び波数に対して第2の基準位相関数に依存し第1の基準位相関数に依存しない周波数で振動する第3の分光光量成分を求め、かつ、波数に対して第1の基準位相関数と第2の基準位相関数との差に依存する周波数で振動する第2の分光光量成分、波数に対して第1の基準位相関数と第2の基準位相関数との和に依存する周波数で振動する第4の分光光量成分及び波数に対して第1の基準位相関数に依存し第2の基準位相関数に依存しない周波数で振動する第5の分光光量成分のうち少なくとも1つを求め、
第1の基準位相関数と第2の基準位相関数との間の関係を示すデータ及び求めた各分光光量成分を用いて、第1の基準位相関数及び第2の基準位相関数を求めるとともに偏光状態の波数分布を示すパラメータを求めるものである、請求項12に記載の分光偏光計測装置。
【請求項15】
前記演算装置において、
前記位相属性関数の組は、第1の基準位相関数の較正用基準値からの第1の基準位相関数の変化量(Δφ1(σ))並びに第2の基準位相関数の較正用基準値からの第2の基準位相関数の変化量(Δφ2(σ))であり、
第1の基準位相関数の較正用基準値(φ1(i)(σ))及び第2の基準位相関数の較正用基準値(φ2(i)(σ))、並びに第1の基準位相関数の変化量と第2の基準位相関数の変化量との間の関係を示すデータが利用可能とされており、
前記演算装置は、
偏光分光装置に被測定光を入射させて求められた分光光量を用いて、波数に対して非周期振動性の第1の分光光量成分及び波数に対して第2の基準位相関数に依存し第1の基準位相関数に依存しない周波数で振動する第3の分光光量成分を求め、かつ、波数に対して第1の基準位相関数と第2の基準位相関数との差に依存する周波数で振動する第2の分光光量成分、波数に対して第1の基準位相関数と第2の基準位相関数との和に依存する周波数で振動する第4の分光光量成分及び波数に対して第1の基準位相関数に依存し第2の基準位相関数に依存しない周波数で振動する第5の分光光量成分のうち少なくとも1つを求め、
第1の基準位相関数の較正用基準値、第2の基準位相関数の較正用基準値、第1の基準位相関数の変化量と第2の基準位相関数の変化量との間の関係を示すデータ及び求めた各分光光量成分を用いて、第1の基準位相関数の変化量及び第2の基準位相関数の変化量を求めるとともに偏光状態の波数分布を示すパラメータを求めるものである、請求項12に記載の分光偏光計測方法。
【請求項16】
前記演算装置において、
分光光量の波数分布に関する情報を含む第1のベクトルが、行列と、被測定光の偏光状態の波数分布に関する情報及び前記位相属性関数の組に関する情報を含む第2のベクトルとの積によって表される関係が成り立つような前記行列の一般化逆行列の各要素の値が利用可能とされており、
前記演算装置は、
偏光分光装置に被測定光を入射させて求められた分光光量を用いて第1のベクトルの各要素の値を特定し、
前記一般化逆行列と第1のベクトルとの積演算により第2のベクトルの各要素の値を求め、
第2のベクトルに含まれる要素の値を用いて前記位相属性関数の組を求めるとともに被測定光の偏光状態の波数分布を示すパラメータを求めるものである、請求項12に記載の分光偏光計測装置。
【請求項17】
前記演算装置において、
前記位相属性関数の組は、第1の基準位相関数の較正用基準値からの第1の基準位相関数の変化量(Δφ1(σ))並びに第2の基準位相関数の較正用基準値からの第2の基準位相関数の変化量(Δφ2(σ))であり、
第1の基準位相関数の変化量と第2の基準位相関数の変化量との間の関係を示すデータが利用可能とされており、
さらに、第1の基準位相関数の較正用基準値(φ1(i)(σ))及び第2の基準位相関数の較正用基準値(φ2(i)(σ))から求められた前記行列の一般化逆行列が利用可能とされており、
前記演算装置は、
偏光分光装置に被測定光を入射させて求められた分光光量を用いて第1のベクトルの各要素の値を特定し、
前記一般化逆行列と第1のベクトルとの積演算により第2のベクトルの各要素の値を求め、
第2のベクトルに含まれる要素の値及び第1の基準位相関数の変化量と第2の基準位相関数の変化量との間の関係を示すデータを用いて、第1の基準位相関数の変化量及び第2の基準位相関数の変化量を求めるとともに偏光状態の波数分布を示すパラメータを求めるものである、請求項16に記載の分光偏光計測方法。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【図20】
【図21】
【図22】
【図23】
【図24】
【図25】
【図26】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【図20】
【図21】
【図22】
【図23】
【図24】
【図25】
【図26】
【公開番号】特開2006−226984(P2006−226984A)
【公開日】平成18年8月31日(2006.8.31)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−221819(P2005−221819)
【出願日】平成17年7月29日(2005.7.29)
【出願人】(800000024)北海道ティー・エル・オー株式会社 (20)
【出願人】(000002945)オムロン株式会社 (3,542)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成18年8月31日(2006.8.31)
【国際特許分類】
【出願日】平成17年7月29日(2005.7.29)
【出願人】(800000024)北海道ティー・エル・オー株式会社 (20)
【出願人】(000002945)オムロン株式会社 (3,542)
【Fターム(参考)】
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