説明

分注装置及び全反射減衰を利用した測定装置

【課題】 液体を分注する際に、吸引した液体の温度が変化することを防止した分注装置を提供すること。
【解決手段】 ピペットヘッド87とともにピペットを構成するピペットチップ62には、吸引した液体の温度を測定する温度センサ91と、吸引した液体を加熱又は冷却するシート状のペルチエ素子92とが設けられている。各端子94、95を介して温度センサ91とペルチエ素子92とが接続される温度制御部90は、温度センサ91の測定結果を基にして、ペルチエ素子92の通電のON/OFF、及び通電の向きを制御してピペットチップ62が吸引した液体を加熱又は冷却し、吸引した液体の温度が任意の値で一定となるように保つ。これにより、ピペットが液体を分注する際の、液体の温度変化が防止される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、液体の分注を行う分注装置、及びこの分注装置を備えた表面プラズモン共鳴などの全反射減衰を利用した測定装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
タンパク質やDNAなどの生化学物質間における相互作用の測定や、薬品のスクリーニングなどを行う際に、全反射減衰を利用して試料の反応を測定する測定装置が知られている。
【0003】
このような全反射減衰を利用した測定装置の1つに、表面プラズモン共鳴(Surface Plasmon Resonance)現象を利用した測定装置(以下、SPR測定装置と称す)がある。なお、表面プラズモンとは、金属中の自由電子が集団的に振動することによって生じ、その金属の表面に沿って進む自由電子の粗密波である。
【0004】
例えば、特許文献1などで知られるKretschmann配置を採用したSPR測定装置では、透明な誘電体(以下、プリズムと称す)上に形成された金属膜の表面をセンサ面として、このセンサ面上で試料を反応させた後、プリズムを介してセンサ面の裏面側から全反射条件を満たすように金属膜を照射し、その反射光を測定している。
【0005】
全反射条件を満たすように金属膜に照射された光のうち、エバネッセント波と呼ばれるわずかな光は、反射せずに金属膜内を透過してセンサ面側に染み出す。この際、エバネッセント波の振動数と表面プラズモンの振動数とが一致するとSPRが発生し、反射光の強度を大きく減衰させる。また、この減衰が発生する光の入射角度(共鳴角)は、金属膜上の屈折率に応じて変化する。すなわち、SPR測定装置は、金属膜からの反射光を捉えて共鳴角を検出することにより、センサ面上の試料の反応状況を測定する。
【0006】
ところで、タンパク質やDNAなどの生体試料は、乾燥による変性や失活を防ぐため、生理的食塩水や純水、または各種のバッファ液などの溶媒に溶かされた試料溶液として扱われることが多い。特許文献1記載のSPR測定装置は、こうした生体試料の相互作用などを調べるものであり、センサ面の上には試料溶液を送液するための流路が設けられている。なお、この流路とプリズムは、装置本体に設けられた測定ステージに配置されており、ガラス基板上に金属膜を形成したチップ型のセンサユニットを測定ステージに装着することで、前述の測定が行われる。
【0007】
特許文献1では、ポンプやバルブなどに接続された配管(チューブ)を介して、試料溶液を保管する容器から直接流路に試料溶液を送り込むようにしているが、この方法では、配管内に付着した試料が後に注入する試料溶液中に混入してしまう、いわゆるコンタミネーションが生じやすいという問題があった。このため、先端を交換可能なチップ状にし、注入する液体毎にチップを交換することによって、コンタミネーションを防止したピペットを用いて、容器に保管された試料溶液を流路に分注するSPR測定装置も提案されてきている。
【特許文献1】特許第3294605号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
共鳴角に影響する金属膜上の屈折率は、試料の反応状況の他に、温度によっても変化する。測定時に温度が変化すると、試料以外の要因で共鳴角が変化することになり、測定誤差を生じさせてしまう。そのため、SPR測定装置では、予め保管された試料溶液や測定時のセンサユニットの温度を一定に保つように調節し、温度による測定誤差を防止している。
【0009】
しかしながら、ピペットを用いて試料溶液の分注を行うと、ピペットが試料溶液を吸引して保持した際に、試料溶液の温度が変化してしまうという問題がある。この温度変化によって、試料溶液を注入した直後においては、測定結果にノイズが乗ってしまうので、センサユニットの温度調節によって試料溶液の温度が馴染むまで待たなければならず、測定時間を無駄に延長させてしまう。
【0010】
本発明は、上記課題を鑑みてなされたものであって、試料溶液などの液体を分注する際に、吸引した液体の温度変化を防止した分注装置と、この分注装置を備えた全反射減衰を利用した測定装置とを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記課題を達成するため、本発明の分注装置は、先端に小孔が形成されたピペットチップと、このピペットチップを着脱自在に保持するヘッド部と、前記ピペットに液体を吸引・吐出させるポンプと、前記ピペットチップが吸引した液体の温度を測定する温度センサと、この温度センサの測定結果に基にして、前記ピペットチップが吸引した液体の温度を一定に保つ温度調節手段とを備えたことを特徴とする。
【0012】
なお、前記温度センサは、前記ピペットチップに取り付けられることが好ましく、前記ピペットチップが吸引した液体に接触して、その温度を直接測定することが好適である。
【0013】
また、前記ピペットチップに取り付けられた前記温度センサは、前記ヘッド部が前記ピペットチップを保持した際に、前記ピペットチップと前記ヘッド部とに設けられた端子を介して前記温度調節手段に接続されることが好ましい。
【0014】
さらに、前記温度センサは、熱電対、測温抵抗体、サーミスタのいずれかであることが好ましい。
【0015】
なお、前記温度センサは、前記ピペットチップが吸引した液体の温度を非接触で測定する放射温度計であってもよい。
【0016】
また、前記温度調節手段は、通電によって前記ピペットチップが吸引した液体を加熱するヒータと、前記温度センサの測定結果を基にして前記ヒータを制御する制御部とからなることが好ましい。
【0017】
さらに、ヒータは、前記ピペットチップに取り付けられていることが好ましく、通電の向きを変えることによって前記ピペットチップが吸引した液体の冷却も可能なペルチエ素子を用いることが好適である。
【0018】
また、前記ピペットチップに取り付けられた前記ヒータは、前記ヘッド部が前記ピペットチップを保持した際に、前記ピペットチップと前記ヘッド部とに設けられた端子を介して前記制御部に接続されることが好ましい。
【0019】
なお、前記ヒータは、前記ピペットチップに向けてマイクロ波を照射するマイクロ波発生器であってもよい。
【0020】
また、前記ヘッド部を、前後左右上下の3方向に移動させるヘッド移動機構を設けるようにしてもよい。
【0021】
さらに、前記ヘッド部は、複数の前記ピペットチップを保持することが好ましい。
【0022】
また、本発明の全反射減衰を利用した測定装置は、一面に薄膜層が形成された誘電体ブロックと、前記薄膜層に試料溶液を送液する流路が形成された流路部材とからなるセンサユニットに対して、全反射条件を満足するように光を照射する光源と、前記センサユニットからの反射光を受光して電気信号に光電変換する検出手段とを備えるとともに、先端に小孔が形成されたピペットチップと、このピペットチップを着脱自在に保持するヘッド部と、前記ピペットチップに前記試料溶液を吸引・吐出させるポンプとによって、前記流路に前記試料溶液を注入する分注手段と、前記ピペットチップが吸引した前記試料溶液の温度を測定する温度センサと、この温度センサの測定結果を基にして、前記ピペットチップが吸引した前記試料溶液の温度を一定に保つ温度調節手段とを設けたことを特徴とする。
【発明の効果】
【0023】
本発明の分注装置、及び全反射減衰を利用した測定装置によれば、ピペットチップが吸引した液体の温度を測定する温度センサと、この温度センサの測定結果を基にして、ピペットチップが吸引した液体の温度を一定に保つ温度調節手段とを備えたので、液体を分注する際に、吸引した液体の温度変化を防止することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0024】
図1は、全反射減衰を利用した測定装置としてのSPR測定装置2の概略構成を示すブロック図である。SPR測定装置2は、リガンドの固定(固定工程)を行う固定機4と、固定化したリガンドにアナライトを加えて両者の反応状況を測定(測定工程)する測定機6と、この測定機6によって得られたデータの解析(データ解析工程)を行うデータ解析機8とから構成されている。また、固定工程と測定工程とは、別体となったセンサユニット12に対して行われ、複数の試料の測定が円滑に行われるようにされている。
【0025】
図2は、センサユニット12の概略構成を示す分解斜視図である。センサユニット12は、上面に金属膜(薄膜層)13が形成されたプリズム(誘電体ブロック)14と、金属膜13に液体を送液する流路16が形成された流路部材41と、プリズム14の上面と流路部材41の底面とを圧接させた状態で保持する保持部材42と、この保持部材42の上方に配置される蓋部材43とから構成されている。
【0026】
流路部材41は、長尺状に成型されており、その長手方向に沿って3つの流路16が設けられている。流路16は、略U字型に屈曲された送液管であり、液体を注入する注入口16aと、それを排出する排出口16bとを有している。流路16の管径は約1mm程度であり、注入口16aと排出口16bとの間隔は、約10mm程度である。また、流路16の底部は開放されており、この開放部位は、プリズム14と圧接した際に、金属膜13によって覆われて密閉される。以下、金属膜13のうち、この開放部位で囲まれた部分(図3参照)を、センサセル17と称す。
【0027】
流路部材41は、金属膜13との密着性を高めるため、例えば、ゴムやPDMS(ポリジメチルシロキサン)などの弾性材料で成型されている。これにより、流路部材41は、プリズム14の上面と圧接された際に、弾性変形して金属膜13との接触面の隙間を埋め、各流路16の開放された底部をプリズム14とともに水密に覆う。なお、本例では、流路16の数が3つの例を説明したが、流路16の数は、3つに限らず、1つ又は2つであってもよいし、4つ以上でもよい。
【0028】
プリズム14の上面には、各流路16と対面する短冊状の金属膜13が、例えば、蒸着によって形成される。この金属膜13には、例えば、金や銀が用いられ、その膜厚は、例えば、50nmである。なお、この膜厚は、金属膜13の素材や、照射される光の波長などに応じて適宜選択される。
【0029】
金属膜13上の各流路16に対応する位置(センサセル17内)には、リガンドを固定させるためのリンカー膜22が形成されている。以下、金属膜13のうち、リンカー膜22が形成された側の面をセンサ面13a、この裏面(プリズム14に接触している面)を光入射面13bと称す。プリズム14は、入射した光を光入射面13bに向けて集光するものであり、金属膜13は、全反射条件を満たすように光入射面13bに光が入射した際に、センサ面13aでSPRを発生させる。
【0030】
プリズム14の長辺側の両側面には、保持部材42の係合部42aと係合する係合爪14aが設けられている。これらの係合により、流路部材41が保持部材42とプリズム14とによって挟み込まれ、その底面とプリズム14の上面とが圧接した状態で保持される。さらに、プリズム14の両端部には、突部14bが設けられている。後述するように、センサユニット12は、ホルダ52(図4参照)に収納された状態で、固定が行われる。突部14bは、ホルダ52と係合することによって、センサユニット12をホルダ52内の所定の収納位置に位置決めする。
【0031】
なお、プリズム14には、例えば、ホウケイクラウン(BK7)やバリウムクラウン(Bak4)などに代表される光学ガラスや、ポリメチルメタクリレート(PMMA)、ポリカーボネイト(PC)、非晶性ポリオレフィン(APO)などに代表される光学プラスチックなどを用いることができる。
【0032】
保持部材42の上面には、各流路16の注入口16a及び排出口16bに対応する位置に、ピペットなどの送液手段の先端部を進入させる受け入れ口42bが形成されている。これらの受け入れ口42bは、ピペットから吐出された液体が各注入口16aに導かれるように漏斗状に形成されている。また、各受け入れ口42bは、保持部材42が流路部材41を挟み込んでプリズム14と係合した際に、それぞれの注入口16a及び排出口16bと当接して、流路16と連結する。
【0033】
また、各受け入れ口42bの両脇には、円柱状のボス42cが設けられている。これらのボス42cは、蓋部材43に形成された穴43aと嵌合して、蓋部材43を位置決めする。蓋部材43は、各受け入れ口42b及び各ボス42cに対応する位置に穴が空けられた両面テープ44によって、保持部材42の上面に貼り付けられる。
【0034】
蓋部材43は、流路16に通じる受け入れ口42bを覆うことで、流路16内に注入された液体の蒸発を防止する。この蓋部材43は、例えば、ゴムやプラスチックなどの弾性材料で形成されており、各受け入れ口42bに対応する位置には、十字型のスリット43bが形成されている。これにより、蓋部材43は、スリット43bを弾性変形させてピペットの挿入を可能にするとともに、ピペットが抜かれた状態では初期状態を保持して受け入れ口42bを塞ぐ。
【0035】
図3に示すように、金属膜13上に形成されたリンカー膜22には、リガンドが固定されてアナライトとリガンドとの反応が生じる測定領域(以下、act領域と称す)22aと、リガンドが固定されず、act領域22aの信号測定に際しての参照信号を得るための参照領域(以下、ref領域と称す)22bとが設けられている。このref領域22bは、リンカー膜22を製膜する際に形成される。その形成方法としては、例えば、リンカー膜22に対して表面処理を施し、リンカー膜22の半分程度の領域について、リガンドと結合する結合基を失活させることにより、リンカー膜22の半分がact領域22aとなり、残りの半分がref領域22bとなる。
【0036】
図4は、固定機4の構成を概略的に示す斜視図である。固定機4の土台となる筐体ベース50の上には、複数のセンサユニット12を載置する載置スペース51が確保されている。センサユニット12は、この載置スペース51に載置された状態で固定工程の処理が施される。
【0037】
センサユニット12は、ホルダ52に収納された状態で、載置スペース51に載置される。ホルダ52は、センサユニット12を複数個(本例では、8個)収納できるようになっている。ホルダ52には、センサユニット12の突部14bと嵌合して、センサユニット12を位置決めするスリットが設けられている。また、ホルダ52の底部には、センサユニット12の両端部を支持する支持部を除いて、開口が形成されている。後述するように、測定工程においてセンサユニット12をホルダ52から取り出す場合には、この開口から押し上げ部材81a(図5参照)を挿入して、センサユニット12を押し上げる。
【0038】
載置スペース51には、ホルダ52を、例えば、10個並べて配置することができるようになっており、その数に応じた台座53が設けられている。また、各台座53には、ホルダ52を位置決めするための位置決め用ボスが形成されている。
【0039】
また、固定機4には、3組のピペット対19を連装したピペットヘッド(ヘッド部)54と、各ピペット対19に液体を吸引・吐出させるポンプ55とが設けられている。ピペットヘッド54は、ホルダ52を介して載置スペース51に配列された各センサユニット12にアクセスし、液体の注入や排出を行う。各ピペット対19は、1対のピペット19a、19b(図8参照)からなり、各ピペット19a、19bは、各センサユニット12の注入口16a、排出口16bのそれぞれに挿入される。なお、各ピペット19a、19bは、先端に小孔が形成された略円錐筒状のピペットチップ62を、ピペットヘッド54に装着することによって構成される。また、ピペットヘッド54には、ピペット対19が3組設けられているので、1つのセンサユニット12に含まれる3つの流路16に対して同時に液体を注入、もしくは排出を行うことができる。
【0040】
ポンプ55は、ピペットヘッド54に、各流路16への液体の注入と、各流路16からの吸い出しとを行わせる。この際、各ピペット対19は、一方が注入動作を行っているときには、他方が吸い出し動作を行うというように、互いに連動する。さらに、固定機4には、図示せぬコントローラが設けられており、ポンプ55による吸引や吐出の動作は、このコントローラによって制御され、吸い込み量や吐き出し量、及びタイミングなどが、ピペット対19毎にそれぞれ決定される。なお、ポンプ55には、例えば、シリンダとピストンとからなる、いわゆるシリンジポンプなどを用いることができる。
【0041】
筐体ベース50には、ピペットヘッド54をX、Y、Zの3方向に移動させるヘッド移動機構56が設けられている。ヘッド移動機構56は、例えば、搬送ベルト、プーリ、モータなどから構成される周知の移動機構であり、ピペットヘッド54を上下させる昇降機構と、この昇降機構ごとピペットヘッド54をY方向に移動自在に保持するガイドレール58を含むY方向移動機構と、ガイドレール58を両端で保持し、ガイドレール58ごとピペットヘッド54をX方向に移動させるX方向移動機構とからなる。ヘッド移動機構56は、コントローラによって制御されており、コントローラは、このヘッド移動機構56を駆動して、ピペットヘッド54の前後左右上下の位置を制御する。
【0042】
また、筐体ベース50の上には、載置スペース51の他に、流路16に注入する種々の液体を保管する複数の液保管部61と、ピペットチップ62を保管するピペットチップ保管部63と、ウエル状の複数の升がマトリクス配列されたウエルプレート64とが設けられている。
【0043】
液保管部61の数は、例えば、リガンド溶液、洗浄液、固定用バッファ液、乾燥防止液、活性化液、ブロッキング液などの使用する液体の種類に応じて決められる。各液保管部61には、6個の挿入口が直線状に設けられている。この挿入口の数、及び配列ピッチは、ピペットヘッド54のピペットの数と配列ピッチに応じて決定される。ピペットヘッド54が流路16へ液体を注入する場合には、各液保管部61にアクセスして所望の液体を吸い込んだ後、載置スペース51に移動して各流路16に注入する。
【0044】
ピペットチップ保管部63に保管されたピペットチップ62は、ピペットヘッド54に着脱自在に保持される。ピペットチップ62は、液体と直接接触するので、このピペットチップ62を介して異種の液体が混合しないように、使用する液体毎に交換される。ピペットヘッド54には、ピペットチップ62のピックアップとリリースとを行う機構が組み込まれており、ピペットチップ62の交換が自動的に行われるようになっている。ピペットヘッド54は、ピペットチップ62の交換を行う際に、まず、使用済みのピペットチップ62を図示せぬ廃却部でリリースし、この後、ピペットチップ保管部63にアクセスして未使用のピペットチップ62をピックアップする。
【0045】
ウエルプレート64は、各ピペット19a、19bが吸い上げた液体を一時的に保管したり、複数種類の液体を混合させて混合液を調合する際などに用いられる。
【0046】
また、固定機4が固定工程を行う際には、筐体ベース50がカバーによって覆われて、載置スペース51を含む固定機4の内部が遮蔽される。センサユニット12は、リガンドの固定化が完了するまでの間、載置スペース51上で所定の時間保管される。この際、固定化の進行度合いは、温度によって左右される。そのため、固定機4は、固定化を行っている間、図示せぬ温度調節器によって内部温度を所定の温度に保つ。なお、設定される温度や静置時間などは、固定するリガンドの種類などに応じて適宜決められる。
【0047】
図5は、測定機6の構成を概略的に示す斜視図である。測定機6は、ホルダ搬送機構71、ピックアップ機構72、ヘッド移動機構73、測定ステージ74からなり、これらの各部は、筐体75に収容されている。ホルダ搬送機構71は、搬送ベルト76と、この搬送ベルト76に取り付けられたキャリッジ77と、このキャリッジ77に取り付けられた、ホルダ52を載置するプレート78とから構成されている。ホルダ搬送機構71は、ホルダ52が載置されたプレート78をX方向に移動させることにより、ホルダ52に収納された各センサユニット12を、ピックアップ機構72がピックアップするピックアップ位置に運ぶ。
【0048】
ピックアップ機構72は、ホルダ52からセンサユニット12をピックアップする機構であり、ホルダ52に収納されたセンサユニット12を下方から上方に向けて押し上げる押し上げ機構81と、この押し上げ機構81によってホルダ52の上方に押し上げられたセンサユニット12を両脇から挟み込んで把持するハンドリングヘッド82とから構成されている。上述したとおり、ホルダ52の底部には開口が設けられており、プレート78は、この開口を露呈させるように枠状に成形されている。押し上げ機構81は、プレート78を介してホルダ52の開口へ進入し、センサユニット12の底面と当接して、これを押し上げる押し上げ部材81aと、この押し上げ部材81aを駆動して上下に昇降させる押し上げ部材駆動機構81bとからなる。
【0049】
ハンドリングヘッド82には、センサユニット12を挟み込む一対の爪が設けられており、この爪でセンサユニット12を把持する。ハンドリングヘッド82は、ヘッド本体82aがナット84を介してボールネジ86に取り付けられており、ホルダ52の上方のピックアップ位置と測定ステージ74との間で移動自在に設けられている。ハンドリングヘッド82は、ピックアップ位置でセンサユニット12を把持し、その状態でY方向に移動して、センサユニット12を測定ステージ74に運ぶ。また、測定が終了した後、ピックアップ位置に戻ってセンサユニット12をリリースし、測定済みのセンサユニット12をホルダ52に戻す。
【0050】
測定ステージ74には、センサユニット12が配置される位置の下方に、照明部32と検出器(検出手段)33とからなる測定部31が設けられている。センサユニット12は、複数のセンサセル17を有しており、測定はセンサセル17毎に行われる。ハンドリングヘッド82は、センサユニット12を各センサセル17の配列ピッチでY方向に移動させることにより、各センサセル17を、照明部32の光路上の測定位置に順次進入させる。なお、この図、及び図3に示すように、センサユニット12に照射される入射光線及びセンサ面13aで反射する反射光線の向きと、各センサセル17の配列方向、すなわち、各流路16水平部分の流れ方向とが直交するように、照明部32及び検出器33が配置される。
【0051】
リガンドとアナライトの反応状況は、共鳴角(センサ面13aに対して照射された光の入射角)の変化として表れる。照明部32は、例えば、光源34と、集光レンズ、拡散板、偏光板などからなる光学系36とから構成(図8参照)され、配置位置及び設置角度は、照明光の入射角が全反射条件を満足するように調整される。
【0052】
光源34としては、例えば、LED(Light Emitting Diode)、LD(Laser Diode)、SLD(Super Luminescent Diode)などの発光素子が用いられる。光源34は、こうした発光素子を1個使用し、この単一光源から各光入射面13bに向けて光を照射する。拡散板は、光源34からの光を拡散して、発光面内の光量ムラを抑える。偏光板は、照射光のうちSPRを生じさせるp偏光(入射面に平行な振動電場を持つ直線偏光)のみを通過させる。なお、LDを使用する場合など、光源34が発する照射光自体の偏光の向きが揃っている場合には、偏光板は不要である。また、偏光が揃っている光源を使用した場合でも、拡散板を通過したことによって偏光の向きが不揃いになってしまう場合には、偏光板を使用して偏光の向きを揃える。こうして拡散及び偏光された光は、集光レンズによって集光されてプリズム14に照射される。これにより、光強度にバラツキがなく様々な入射角を持つ光を光入射面13bに入射させることができる。
【0053】
検出器33は、光入射面13bで反射する光を受光して、その光強度に応じたレベルの電気信号を出力する。光入射面13bには、様々な角度の光が入射するので、光入射面13bでは、それらの光が、それぞれの入射角に応じた反射角で反射する。検出器33は、これらの様々な反射角の光を受光する。この検出器33には、例えば、CCDエリアセンサやフォトダイオードアレイが用いられ、光入射面13bにおいて様々な反射角で反射する反射光を受光して光電変換し、それをSPR信号としてデータ解析機8に出力する。
【0054】
また、図3に示すように、リンカー膜22の上には、act領域22aとref領域22bとが形成されている。検出器33は、act領域22aに対応するSPR信号をact信号として出力し、ref領域22bに対応するSPR信号をref信号として出力する。
【0055】
測定ステージの傍らには、アナライト溶液を保管するウエルプレート88が載置されている。例えば、このウエルプレート88の各ウエルには、異なる種類のアナライト溶液が収容されている。なお、ウエルプレート88に保管されたアナライト溶液や、測定位置あるセンサユニット12は、アナライト溶液の温度変化による測定誤差を防止するため、図示せぬ温度調節器によって、予め一定の温度に保たれる。
【0056】
測定機6には、固定機4のピペット対19と同様の機能を有するピペット対26が設けられており、センサユニット12の各注入口16aから流路16へ各種の液体を注入する。ヘッド移動機構73は、このピペット対26を有するピペットヘッド87を、X、Y、Zの3方向に移動させながら、ピペットヘッド87を、測定位置にあるセンサユニット12と、ウエルプレート88とに運ぶ。ヘッド移動機構73は、固定機4のヘッド移動機構56とほぼ同様の構成である。ピペットヘッド87は、測定対象となるセンサセル17にアクセスし、ポンプ89による吸引・吐出によって、流路16への液体の注入及び排出を行う。なお、ピペットヘッド87は、測定対象となる特定のセンサセル17に対して液体の注入及び排出を行うものであるから、固定機4のピペットヘッド54とは異なり、ピペット対26が1組だけ設けられている。また、図示は省略したが、測定機6には、ピペット対26がアクセス可能な位置に、測定用バッファ液や洗浄液を収容するウエルプレートや、交換用のピペットチップ62を保管するピペットチップ保管部などが設けられている。
【0057】
図6は、ピペットヘッド87の構成を概略的に示す説明図である。ピペットヘッド87とともにピペット対26を構成する各ピペットチップ62には、吸引した液体の温度を測定する温度センサ91と、吸引した液体を加熱又は冷却するシート状のペルチエ素子(ヒータ)92とが設けられている。温度センサ91、及びペルチエ素子92は、それぞれ導線93を介して、ピペットヘッド87との接触端に形成された端子94に接続されている。なお、図6においては、それぞれ1本の導線93のみが記載されているが、電気部品である温度センサ91、及びペルチエ素子92には、通常2本の導線が設けられており、導線93、及び端子94も、それぞれ2つずつ設けられているものとする。
【0058】
温度センサ91には、例えば、熱電対、測温抵抗体(白金センサ)、サーミスタなどの接触型のセンサを用いることができる。なお、図示では、ピペットチップ62の内壁面よりも温度センサ91が突出して設けられているが、温度センサ91は、内壁面に対して面一に設けるようにしてもよい。また、その取り付け位置は、吸引した液体の温度を測定できる任意の位置でよい。
【0059】
ピペットヘッド87の各端子94と対面する位置には、ピペットヘッド87がピペットチップ62を保持した際に、それぞれの端子94と接触する端子95が設けられている。なお、各端子94、及び95の位置ズレを防止するため、例えば、ピペットヘッド87にキーを設け、ピペットチップ62に嵌合するキー溝を設けるなどして、ピペットヘッド87に対してピペットチップ62が位置決めできることが好ましい。
【0060】
各端子94、及び95を介して電気的にピペットヘッド87に接続された温度センサ91、及びペルチエ素子92は、このピペットヘッド87を介して温度制御部90に接続される。温度制御部90は、温度センサ91の測定結果を基にして、ペルチエ素子92の通電のON/OFF、及び通電の向きを制御してピペットチップ62が吸引した液体を加熱又は冷却し、吸引した液体の温度が任意の値で一定となるように保つ。
【0061】
図7は、データ解析機8の構成を概略的に示すブロック図である。データ解析機8は、例えば、入力装置100、CPU(セントラル・プロセッシング・ユニット)101、ROM(リード・オンリー・メモリ)102、RAM(ランダム・アクセス・メモリ)103、HDD(ハード・ディスク・ドライブ)104、モニタ105、通信I/F106、信号処理部107などから構成されている。入力装置100は、例えば、キーボードやマウスなどであって、ユーザからの指示をデータ解析機8に入力する。CPU101は、データ解析機8の各部を統括的に制御する。ROM102には、制御用プログラムや各種の設定データなどが記憶されている。RAM103は、CPU101や信号処理部107が演算を行う際などに作業用メモリとして使用される。HDD104は、周知のデータストレージデバイスであり、このHDD104には、制御用プログラムやデータ解析プログラムなどの各種のプログラムが格納されている。また、HDD104には、測定機6によって測定された各種の測定データが記録される。通信I/F106は、検出器33から出力されたSPR信号などを受信する。信号処理部107は、取得したSPR信号に基づいてデータ解析を行う。モニタ105は、検出したSPR信号や、それに基づく解析結果などを表示する。
【0062】
次に、図8に示す説明図を用いて、上記構成によるSPR測定装置2のSPR測定方法について説明する。
【0063】
リンカー膜22にリガンドを固定する固定工程は、ホルダ52を介してセンサユニット12を固定機4の載置スペース51に載置した状態で行われる。固定機4は、ユーザからの固定開始指示に応じてヘッド移動機構56を駆動し、ピペット対19を用いて、リガンド21aを溶媒に溶かしたリガンド溶液21を、注入口16aから注入する。
【0064】
固定機4は、リガンド溶液21を注入するリガンド固定化処理を行う前の前処理として、まず、リンカー膜22に対して固定用バッファ液を送液してリンカー膜22を湿らせた後、リンカー膜22にリガンドが結合しやすくするリンカー膜22の活性化処理を施す。例えば、アミンカップリング法では、リンカー膜22としてカルボキシメチルデキストランが使用され、リガンド内のアミノ基をこのデキストランに直接共有結合させる。この場合の活性化液としては、N’−(3−ジメチルアミノプロピル)カルボジイミドヒドロクロリド(EDC)と、N−ヒドロキシコハク酸イミド(NHS)との混合液が使用される。固定機4は、この活性化処理の後、固定用バッファ液によって流路16を洗浄する。
【0065】
なお、固定用バッファ液や、リガンド溶液21の溶媒(希釈液)としては、例えば、各種のバッファ液(緩衝液)の他、生理的食塩水に代表される生理的塩類溶液や、純水などが使用される。これらの各液の種類、pH値、混合物の種類及びその濃度などは、リガンド21aの種類に応じて適宜決められる。例えば、リガンド21aとして生体試料を使用する場合には、pHを中性付近に調整した生理的食塩水が用いられる場合が多い。しかし、上記アミンカップリング法では、リンカー膜22が、カルボキシメチルデキストランにより負(マイナス)に帯電するので、このリンカー膜22と結合しやすいようにタンパク質を陽(プラス)に帯電させるため、生理的とはいえない高濃度のリン酸塩を含む緩衝作用の強いリン酸緩衝溶液(PBS:phosphatic-buffered,saline)などが使用される場合もある。
【0066】
固定機4は、こうした活性化処理及び洗浄を行った後、流路16にリガンド溶液21を注入して、リガンド固定化処理を行う。リガンド溶液21が流路16へ注入されると、溶液中に拡散しているリガンド21aが沈殿してリンカー膜22に徐々に堆積する。これにより、接触したリガンド21aがリンカー膜22と結合し、リンカー膜22上にリガンド21aが固定される。なお、固定化には、通常1時間程度かかり、この間、センサユニット12は、温度などの環境条件が所定の条件に設定された状態で保管される。また、固定化が進んでいる間、流路16内のリガンド溶液21を静置しておいてもよいが、流路16内のリガンド溶液21を攪拌して流動させるようにしてもよい。こうすることで、リガンド21aとリンカー膜22との結合が促進され、リガンド21aの固定量を増加させることができる。
【0067】
固定機4は、リンカー膜22へのリガンド21aの固定化が完了すると、リガンド溶液21をピペット19bによって吸い出して流路16から排出させた後、流路16に洗浄液を注入して固定化が完了したリンカー膜22の洗浄を行う。また、固定機4は、必要に応じてブロッキング液を注入し、リガンド21aと結合しなかったリンカー膜22の反応基を失活させるブロッキング処理を行う。ブロッキング液としては、例えば、エタノールアミン−ヒドロクロライドが使用される。このブロッキング処理を行った場合には、再び流路16が洗浄される。最終的な洗浄を行った後、固定機4は、流路16に乾燥防止液を注入する。センサユニット12は、リンカー膜22が乾燥防止液に浸された状態で測定までの間、載置スペース51や他の保管場所に保管される。
【0068】
測定工程は、センサユニット12をホルダ52ごと測定機6のプレート78に載置した状態から始まる。測定機6は、ユーザからの測定開始指示に応じてプレート78をピックアップ位置に移動させるとともに、ピックアップ機構72を駆動して、所定のセンサユニット12を測定ステージ74に運ぶ。
【0069】
測定ステージ74にセンサユニット12を運んだ測定機6は、ヘッド移動機構73を駆動して、まず、流路16に測定用バッファ液を注入する。この後、アナライトを溶媒に溶かしたアナライト溶液27を注入し、その後、再び測定用バッファ液を注入する。なお、最初に測定用バッファ液を注入する前に、一度流路16の洗浄を行うようにしてもよい。この際、ピペット対26に吸引された各種の液体の温度が、温度センサ91によって測定され、その温度が任意の値で一定となるようにペルチエ素子92と温度制御部90とによって調節される。
【0070】
検出器33によるデータの読み取りは、基準となる信号レベルを検出するために、最初に測定用バッファ液を注入した直後から開始され、アナライト溶液27を注入した後、再び測定用バッファ液が注入されるまでの間行われる。これにより、基準レベルの検出、アナライトとリガンドとの反応状況、結合したアナライトとリガンドとの測定用バッファ液注入による脱離までのSPR信号を測定することができる。
【0071】
測定用バッファ液や、アナライト溶液27の溶媒(希釈液)としては、例えば、各種のバッファ液(緩衝液)の他、生理的食塩水に代表される生理的塩類溶液や、純水などが使用される。これらの各液の種類、pH値、混合物の種類及びその濃度などは、リガンドやアナライトの種類に応じて適宜決められる。例えば、アナライトを溶けやすくするために、生理的食塩水にDMSO(ジメチル−スルホ−オキシド)を含ませてもよい。このDMSOは、信号レベルに大きく影響する。上述したとおり測定用バッファ液は、基準レベルの検出に用いられるので、アナライト溶液27中にDMSOが含まれる場合には、そのDMSO濃度と同程度のDMSO濃度を有する測定用バッファ液使用することが好ましい。
【0072】
なお、アナライト溶液27は、長時間(例えば、1年)保管されることも多く、そうした場合には、経時変化によって初期のDMSO濃度と測定時のDMSO濃度との間に濃度差が生じてしまう場合がある。厳密な測定を行う必要がある場合には、こうした濃度差をアナライト溶液27を注入したときのref信号のレベルから推定し、測定データに対して補正(DMSO濃度補正)を行うことが好ましい。
【0073】
DMSO濃度補正のための補正データは、アナライト溶液27を注入する前に、DMSO濃度が異なる複数種類の測定用バッファ液を流路16に注入して、このときのDMSO濃度変化に応じたref信号のレベルとact信号のレベルの、それぞれの変化量を調べることにより求められる。
【0074】
リガンドとアナライトとの反応状況は、検出器33の受光面内における反射光の減衰位置の推移として表れる。例えば、アナライトがリガンドと接触する前後では、センサ面13a上の屈折率が異なり、SPRが発生する共鳴角が異なる。そして、アナライトがリガンドと接触して反応を開始すると、それに応じて反射光の共鳴角が変化を開始し、受光面内における反射光の減衰位置が移動し始める。測定機6は、こうして得た試料の反応状況を表すSPR信号を、データ解析機8に出力する。
【0075】
なお、図8では、測定機6の構成が明確になるように、便宜的に光入射面13bへの入射光線及びそこで反射する反射光線の向きが、流路16内を流れる液体の方向と平行になるように、照明部32と検出器33とが配置されているが、図3及び図5に示すように、実際には、入射光線及び反射光線の向きが、液体の流れる方向と直交する方向(紙面に直交する方向)に照射されるように、照明部32と検出部33とが配置される。但し、測定部31を、この図8に示すように配置して測定を行っても、何ら問題はない。
【0076】
データ解析工程では、測定機6で得たSPR信号をデータ解析機8で解析して、アナライトの特性を定量分析する。データ解析機8は、通信I/F106を介して検出器33からSPR信号を受け取り、このSPR信号を信号処理部107に送る。
【0077】
信号処理部107は、ROM102やHDD104に記憶されたデータ解析プログラムに基づき、測定機6が得たact信号とref信号との差や比を求めてデータ解析を行う。例えば、act信号とref信号との差分データを求め、この差分データを測定データとし、これに基づいて解析を行う。こうすることで、センサユニット12やリンカー膜22などの個体差や、装置の機械的な変動などといった外乱に起因するノイズをキャンセルすることが可能となり、S/N比の良好な精度の高い測定を行うことができる。また、信号処理部107は、解析結果をモニタ105に表示するとともに、HDD104に記録する。
【0078】
本実施形態のSPR測定装置2によれば、測定機6がセンサユニット12の測定を行う際に、流路16に注入するアナライト溶液27などの液体の温度が、各ピペットチップ62に設けられた温度センサ91によって測定され、その温度が任意の値で一定となるように温度制御部90とペルチエ素子92とによって調節される。これにより、ウエルプレート88などで一定の温度に調節されたアナライト溶液27などの液体の温度が、ピペット対26で各流路16に分注される際に変化することが防止されるので、注入直後のSPR信号にノイズが乗ることがないとともに、液体の温度が一定となるまでの無駄な測定時間の延長もない。
【0079】
また、ピペットチップ62に設けられた温度センサ91とペルチエ素子92との電気的な接続は、ピペットヘッド87がピペットチップ62を保持した際に、ピペットチップ62とピペットヘッド87とに設けられた各端子94、95の接触によって行われるので、ピペットチップ62の交換時に配線などを行う必要がない。なお、端子94、95の代わりに、コネクタなどを設けて接続するようにしてもよい。
【0080】
なお、上記実施形態では、シート状のペルチエ素子92を、ピペットチップ62の外面に巻き付け、液体の加熱及び冷却を可能にしているが、加熱のみで充分な場合には、ヒータとして、例えば、電気抵抗体を薄膜状に成形したシート状のヒータを用いてもよいし、ニクロム線などの電熱線を外面や内部に巻き付けるようにしてもよい。さらには、図9に示すようように、マグネトロン(マイクロ波発生器)110からピペットチップ62に向けてマイクロ波を照射し、マイクロ波による共振作用で液体を加熱するようにしてもよい。なお、マイクロ波発生器としては、マグネトロン110の他に、クライストロンやガン・ダイオードなどを用いることができる。
【0081】
また、上記実施形態では、接触型の温度センサ91で液体の温度を直接測定するようにしているが、これに限らず、図10に示すように、ピペットチップ62が吸引した液体の温度を非接触で測定する放射温度計112を用いるようにしてもよい。マグネトロン110や放射温度計112のように、非接触の方式を用いることにより、ピペットチップ62毎に温度センサ91やペルチエ素子92を設ける必要がないので、ランニングコストを抑えることができる。なお、マグネトロン110や放射温度計112は、ピペットヘッド87がピペットチップ62を保持した際に、ピペットチップ62と対面するように、ピペットヘッド87に取り付けてもよいし、測定機6内の任意の位置に設置して、測定の直前にヘッド移動機構73によってアクセスさせるようにしてもよい。
【0082】
なお、上記実施形態では、誘電体ブロックとしてプリズム14を示しているが、誘電体ブロックには、この他に、光学ガラスや光学プラスチックなどを板状にしたものや、これらの板状のものとプリズムとを光学面平滑剤(例えば、光学マッチングオイル)で一体化させたものなどを含めるものとする。
【0083】
また、上記実施形態では、測定機6のピペット対26に本発明を適用しているが、固定機4のピペット対19に本発明を適用してもよいし、さらには、ピペットを用いる他の分注装置に本発明を適用してもよい。
【0084】
また、上記実施形態では、全反射減衰を利用した測定装置の一例として、SPR測定装置を示したが、全反射減衰を利用した測定装置としては、この他に、例えば、漏洩モードセンサが知られている。漏洩モードセンサは、誘電体と、この上に順に層設されたクラッド層と光導波層とによって構成された薄膜とからなり、この薄膜の一方の面がセンサ面となり、他方の面が光入射面となる。光入射面に全反射条件を満たすように光を入射させると、その一部が前記クラッド層を透過して前記光導波層に取り込まれる。そして、この光導波層において、導波モードが励起されると、前記光入射面における反射光が大きく減衰する。導波モードが励起される入射角は、SPRの共鳴角と同様に、センサ面上の媒質の屈折率に応じて変化する。この反射角の減衰を検出することにより、前記センサ面上の化学反応が測定される。
【図面の簡単な説明】
【0085】
【図1】SPR測定装置の概略構成を示すブロック図である。
【図2】センサユニットの概略構成を示す分解斜視図である。
【図3】1つのセンサセルを抜き出して説明する説明図である。
【図4】固定機の構成を概略的に示す斜視図である。
【図5】測定機の構成を概略的に示す斜視図である。
【図6】ピペットチップの構成を概略的に示す説明図である。
【図7】データ解析機の構成を概略的に示すブロック図である。
【図8】SPR測定方法の説明図である。
【図9】マグネトロンを用いた例を示す説明図である。
【図10】放射温度計を用いた例を示す説明図である。
【符号の説明】
【0086】
2 SPR測定装置(全反射減衰を利用した測定装置)
4 固定機
6 測定機
8 データ解析機
12 センサユニット
13 金属膜(薄膜層)
14 プリズム(誘電体ブロック)
32 照明部
33 検出器(検出手段)
34 光源
55、89 ポンプ
62 ピペットチップ
73 ヘッド移動機構
90 温度制御部(制御部)
91 温度センサ
92 ペルチエ素子(ヒータ)
94、95 端子
110 マグネトロン(マイクロ波発生器)
112 放射温度計


【特許請求の範囲】
【請求項1】
先端に小孔が形成されたピペットチップと、このピペットチップを着脱自在に保持するヘッド部と、前記ピペットチップに液体を吸引・吐出させるポンプとを備えた分注装置において、
前記ピペットチップが吸引した液体の温度を測定する温度センサと、
この温度センサの測定結果を基にして、前記ピペットチップが吸引した液体の温度を一定に保つ温度調節手段とを設けたことを特徴とする分注装置。
【請求項2】
前記温度センサは、前記ピペットチップに取り付けられていることを特徴とする請求項1記載の分注装置。
【請求項3】
前記温度センサは、前記ピペットチップが吸引した液体に接触して、その温度を直接測定することを特徴とする請求項2記載の分注装置。
【請求項4】
前記ピペットチップに取り付けられた前記温度センサは、前記ヘッド部が前記ピペットチップを保持した際に、前記ピペットチップと前記ヘッド部とに設けられた端子を介して前記温度調節手段に接続されることを特徴とする請求項2又は3記載の分注装置。
【請求項5】
前記温度センサは、熱電対、測温抵抗体、サーミスタのいずれかであることを特徴とする請求項2から4のいずれか1項に記載の分注装置。
【請求項6】
前記温度センサは、前記ピペットチップが吸引した液体の温度を非接触で測定する放射温度計であることを特徴とする請求項1記載の分注装置。
【請求項7】
前記温度調節手段は、通電によって前記ピペットチップが吸引した液体を加熱するヒータと、前記温度センサの測定結果を基にして前記ヒータを制御する制御部とからなることを特徴とする請求項1から6のいずれか1項に記載の分注装置。
【請求項8】
前記ヒータは、前記ピペットチップに取り付けられていることを特徴とする請求項7記載の分注装置。
【請求項9】
前記ヒータとして、通電の向きを変えることによって前記ピペットチップが吸引した液体の冷却も可能なペルチエ素子を用いたことを特徴とする請求項8記載の分注装置。
【請求項10】
前記ピペットチップに取り付けられた前記ヒータは、前記ヘッド部が前記ピペットチップを保持した際に、前記ピペットチップと前記ヘッド部とに設けられた端子を介して前記制御部に接続されることを特徴とする請求項8又は9記載の分注装置。
【請求項11】
前記ヒータは、前記ピペットチップに向けてマイクロ波を照射するマイクロ波発生器であることを特徴とする請求項7記載の分注装置。
【請求項12】
前記ヘッド部を、前後左右上下の3方向に移動させるヘッド移動機構を有することを特徴とする請求項1から11のいずれか1項に記載の分注装置。
【請求項13】
前記ヘッド部は、複数の前記ピペットチップを保持することを特徴とする請求項1から12のいずれか1項に記載の分注装置。
【請求項14】
一面に薄膜層が形成された誘電体ブロックと、前記薄膜層に試料溶液を送液する流路が形成された流路部材とからなるセンサユニットに対して、全反射条件を満足するように光を照射する光源と、前記センサユニットからの反射光を受光して電気信号に光電変換する検出手段とを備えた全反射減衰を利用した測定装置において、
先端に小孔が形成されたピペットチップと、このピペットチップを着脱自在に保持するヘッド部と、前記ピペットチップに前記試料溶液を吸引・吐出させるポンプとによって、前記流路に前記試料溶液を注入する分注手段と、
前記ピペットチップが吸引した前記試料溶液の温度を測定する温度センサと、
この温度センサの測定結果を基にして、前記ピペットチップが吸引した前記試料溶液の温度を一定に保つ温度調節手段とを設けたことを特徴とする全反射減衰を利用した測定装置。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2006−242858(P2006−242858A)
【公開日】平成18年9月14日(2006.9.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−61237(P2005−61237)
【出願日】平成17年3月4日(2005.3.4)
【出願人】(000005201)富士写真フイルム株式会社 (7,609)
【Fターム(参考)】