説明

列車位置検知装置

【課題】GPS受信機を複数化したうえで測位結果の監視判定に工夫を凝らすことにより装置異常にも非装置異常にも適切に対処する列車位置検知装置を実現する。
【解決手段】路面電車20に搭載されて速度計22から得た速度情報をGPS受信機33,73の測位結果(X1,Y1),(X2,Y2)に反映させることで車両位置(X5,Y5)を検知する車上処理装置34が、GPS受信機33,73の一方からしか測位結果が得られないときには異常予見状態であると判定し、さらに、路線マップデータ及び付加データに照らして測位の不能な所に居る場合には異常予見状態が発現したときに故障などの装置異常が発生したと判定するが、測位の可能な所に居る場合には異常予見状態が所定の設定時間以上に亘って継続したときに装置異常が発生したと判定する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、鉄道の車両である列車や路面電車などに搭載されて車両位置を検知する列車位置検知装置に関し、詳しくは、衛星航法システム(Global Positioning System)による測位を行うことで車両位置を検知する列車位置検知装置に関する。
【背景技術】
【0002】
GPS(Global Positioning Satellite)衛星を利用した位置検知システム(全地球測位システム)により常時走行中の位置を検知しその情報を無線で出力する車載装置を搭載したLRT(新型路面電車)が知られているが(例えば特許文献1参照)、GPS衛星からの情報により車両位置を特定する場合、GPS単独では誤差が大きいので、FM多重方式や中波ビーコン方式などのディファレンシャル測位(D-GPS、Differential Global Positioning System)を併用して測定位置を補正することが行われる。また、電波状況の悪い場合等にも対処するためにマップデータを用いて測位システムの位置情報を路線上・軌道上の位置情報に変換するマップマッチング方法も採用されるが、車両が止まっていてもGPSを利用して測定した車両位置は一点で止まることなく常に動いている状態になってしまうというGPSの迷走は無くすことができない。
【0003】
また、路面電車については、GPS受信機を搭載して衛星航法システムによる測位を行うとともに、速度発電機などの速度計から速度情報を取得してGPS受信機の測位結果に反映させることで位置情報を得るようになったものがある(例えば特許文献2参照)。
これは、上述したGPS迷走の不都合を緩和・解消すべく開発されたものであり、路面電車に搭載されて車両位置を検知する車載機であって、衛星航法システムによる測位を行って第1位置情報を得るGPS受信機と、電車の速度計から速度情報を取得する速度情報取得装置と、停留所に設置される地上機に適合した無線機と、位置情報を修正して発着を判定する車上処理装置とを備えている。
【0004】
車上処理装置は、電車の路線に対応した路線マップデータと、これを用いて第1位置情報を路線上の第2位置情報に変換するマップマッチング手段と、速度情報取得装置の速度情報に基づく位置情報の選択的更新によって第2位置情報から第3位置情報を得る速度反映手段と、停留所の位置に対応した停留所マップデータと、これを用いて第3位置情報から電車の出発および到着を判定する発着判定手段とを有し、出発時および到着時に無線機を介して第3位置情報を送信するようになっている。
【0005】
この装置は、マップマッチングでも抑えきれないGPSの迷走による車両位置情報への影響を速度情報での走行状態/停止状態と位置情報の更新/非更新との簡便な組み合わせで緩和抑制することにより停留所における電車の発着を車両位置情報に基づいて的確に判定しうるようになっている。衛星航法システムでの測定で得られる位置情報と、低精度ではあるが既存の速度計から安直に得られる速度情報との組み合わせ方を工夫したことにより、過大なコストを掛けないでも車載機側で電車の発着を的確に判定することができるようになっている。
【0006】
【特許文献1】特許第3552916号公報(P2000−43727A)
【特許文献2】特許第3888468号公報(P2006−240478A)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
ところで、衛星航法システムによる測位では、測位不能になる原因のうち最大のものが非装置異常であり、次の原因が装置異常である。非装置異常は、例えばトンネルや地下などのGPS受信不能地点へ車両が進入したために、電波を受信できなくなったり、受信できても精度が悪化するといった、一時的で修理の不要な測位不能状態である。これに対し、装置異常は、GPS受信機やアンテナ等の装置に不具合が生じた状態であり、例えば、故障して全く稼動しなくなったり、制御回路やプログラムの暴走にて正常に動作しないといった、部品交換や初期化といった修理を要する恒久的・継続的な測位不能状態である。装置異常の場合、GPS受信機から測位結果が出ないという状況だけでなく、GPS受信機が出鱈目な測位結果を出し続けるという状況も、有り得る。
【0008】
このように衛星航法システムによる測位では非装置異常による測位不能が不可避であるから、衛星航法システム依存の列車位置検知装置にあっては、測位不能のときには例えば以前の検知結果と速度情報とに基づいて車両位置を演算等で推定するといった対処が求められる。
もっとも、測位不能を招く原因には、非装置異常より発生頻度が少ないとは言っても、装置異常もあり、測位不能発生時の被害は装置異常による方が甚大になりがちなので、装置異常に対する対策も怠ることはできない。
【0009】
そのためには、測位不能になったときには装置異常に起因して測位不能になったのか非装置異常に起因して測位不能になったのかを判別することが重要になる。
しかしながら、GPS受信機の自己診断機能が的確に働き且つその診断結果を有効に利用できたような場合は別として、一台のGPS受信機の測位結果を監視するだけでは、測位可能か測位不能かは判別できても、その原因まで知ることはできない。
そこで、GPS受信機を複数化したうえで測位結果の監視判定に工夫を凝らすことにより装置異常にも非装置異常にも適切に対処する列車位置検知装置を実現することが技術的な課題となる。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の列車位置検知装置は(解決手段1)、このような課題を解決するために創案されたものであり、列車や路面電車などの車両に搭載されて車速を検出する速度計と、前記車両に搭載されて衛星航法システムによる測位を行うGPS受信機と、前記車両に搭載されて前記速度計から得た速度情報を前記GPS受信機の測位結果に反映させることで車両位置を検知する車上処理装置とを備えた列車位置検知装置において、前記GPS受信機として第1GPS受信機と第2GPS受信機とが設けられており、前記車上処理装置が、前記第1GPS受信機からも前記第2GPS受信機からも測位結果を得たときには何れか一方の測位結果または中間位置など双方の測位結果を組み合わせた測位結果に基づいて前記車両位置を求め、前記第1GPS受信機からも前記第2GPS受信機からも測位結果を得られなかったときには以前の検知結果と前記速度情報とに基づいて前記車両位置を求め、前記第1GPS受信機と前記第2GPS受信機との何れか一方からは測位結果を得たが他方からは測位結果を得られなかったときには得られた測位結果に基づいて前記車両位置を求めるとともに他方のGPS受信機に故障などの装置異常が発生した可能性が高い異常予見状態であると判定するようになっていることを特徴とする。
【0011】
また、本発明の列車位置検知装置は(解決手段2)、上記解決手段1の列車位置検知装置であって、前記車上処理装置が、前記車両の路線に対応した路線マップデータに加えて、前記路線の各位置において衛星航法システムによる測位が可能か不能かを示す付加データを保持していて、前記車両位置を前記路線マップデータ及び前記付加データに照らして測位の可能な所に居るのか測位の不能な所に居るのかを判別したうえで、測位の不能な所に居る場合には前記異常予見状態が発現したときに故障などの装置異常が発生したと判定し、測位の可能な所に居る場合には前記異常予見状態が所定の設定時間以上に亘って継続したときに故障などの装置異常が発生したと判定するようになっていることを特徴とする。
【0012】
さらに、本発明の列車位置検知装置は(解決手段3)、上記解決手段2の列車位置検知装置であって、前記第1GPS受信機のアンテナと前記第2GPS受信機のアンテナとが前記車両の前後に分かれて搭載されており、両者の離隔距離を走行する時間に応じて前記設定時間を可変するように前記車上処理装置がなっていることを特徴とする。
【0013】
また、本発明の列車位置検知装置は(解決手段4)、上記解決手段2,3の列車位置検知装置であって、前記車上処理装置が、測位の不能な所に居ると判別しているにも拘わらず前記第1GPS受信機からも前記第2GPS受信機からも測位結果を継続して得たときには前記第1GPS受信機にも前記第2GPS受信機にも故障などの装置異常が発生したと判定するようになっていることを特徴とする。
【発明の効果】
【0014】
このような本発明の列車位置検知装置にあっては(解決手段1)、列車等に搭載して用いられ、速度情報取得手段とGPS受信機と車上処理装置との協動によって、車両位置の検知がGPS迷走の不都合を緩和抑制しつつ行われるが、GPS受信機が複数化されたうえで、車上処理装置の機能が拡張されている。すなわち、少なくとも2台の第1,第2GPS受信機が設けられている。そして、第1,第2GPS受信機が共に正常かつ測位可能であれば、両受信機から測位結果が得られるので、車上処理装置によりGPS受信機の測位結果に基づく車両位置の検知が行われる。
【0015】
また、第1,第2GPS受信機が共に正常であっても非装置異常によって測位不能になっていれば、両受信機から測位結果が得られないので、車上処理装置により以前の検知結果と速度情報とに基づく車両位置の検知が行われる。
さらに、第1,第2GPS受信機の何れかが装置異常になると周囲環境が測位可能になっていても、正常な受信機からは測位結果が得られるのに対し異常な受信機からは測位結果が得られないので、車上処理装置によって、正常なGPS受信機の測位結果に基づく車両位置の検知が行われるとともに、異常予見状態になったという判定も行われる。
【0016】
このようにGPS受信機を複数化したうえで測位結果の有無に応じて車両位置の検知基準や監視判定の基準を場合分けしたことにより、異常の有無に拘わらず車両位置の検知を継続することが可能になるとともに、装置異常の発生を非装置異常から切り離して予見することも可能となる。
したがって、この発明によれば、GPS受信機の装置異常にも非装置異常にも適切に対処する列車位置検知装置を実現することができる。
【0017】
また、本発明の列車位置検知装置にあっては(解決手段2)、路線マップデータに加えて付加データも車上処理装置に保持されており、しかも、それらのデータに照らして測位の可能な所に居るのか測位の不能な所に居るのかが判別されたうえで、装置異常発生の判定が下される。
すなわち、測位の不能な所に居るとされる場合には、異常予見状態が発現したとき、GPS迷走等の不確定性を考慮しても明らかに測位不能箇所に居るとされるまでの短時間で、装置異常が発生したという判定が出る。
【0018】
これに対し、測位の可能な所に居るとされる場合には、一時的な非装置異常を恒久的な装置異常と見誤るのを回避するために、異常予見状態が所定の設定時間以上に亘って継続してから、装置異常が発生したという判定が出る。
このように、異常予見状態の検出に基づいて装置異常の有無を判別するに際し、車両位置が測位可能箇所なのか測位不能箇所なのかに応じて確認時間に長短を付けたことにより、装置異常の発生判定が迅速かつ的確になされることとなる。
【0019】
さらに、本発明の列車位置検知装置にあっては(解決手段3)、GPS衛星からの受信が車両の前後で行われるようにしたことにより、何れかのGPS受信機で測位できる確率が高まるので、GPS受信機の測位結果に基づいて正確に車両位置を検知することが、より多くの時間帯で行われることとなる。一方、そのために第1,第2GPS受信機のアンテナが離隔設置されていても、異常予見状態の検出に基づいて装置異常の有無を判別するに際して閾値的に用いられる設定時間が両アンテナ離隔距離の走行時間に応じて可変されるので、例えば測位可能箇所から測位不能箇所へ進行したような遷移状態・過渡状態が長引いた場合ですら、一時的な非装置異常を恒久的な装置異常と見誤ることはない。
これにより、異常判定の犠牲無しで車両位置の検知性能を高めることができる。
【0020】
また、本発明の列車位置検知装置にあっては(解決手段4)、単体の装置異常にとどまらず、複数台のGPS受信機に係る装置異常まで検知することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0021】
このような本発明の列車位置検知装置を路面電車20に適用して具体化した路面電車位置検知装置30について、図面を引用して説明する。図1(a)は、路面電車20の斜視図、図1(b)は、位置検知装置30の斜視図、図2は、車上処理装置34の機能ブロック図である。
【0022】
路面電車20は(図1(a)参照)、道路等に敷設された路面軌道10を走行するものであり、例えば既述したLRTでも良く、一般の路面電車でも良い。路面電車20の運転台には、制御装置21に接続された速度計22や運転方向切換スイッチ23が設けられている。
路面電車位置検知装置30は、路面電車20の車両位置を検知するために、GPSアンテナは別として大部分が制御装置21と共に路面電車20の運転台の内部や下に格納されている。
【0023】
この位置検知装置30は(図1(b)参照)、主要なハードウェアとして、FMアンテナ31とGPSアンテナ32とが接続されていてFM多重の補正方式を併用した衛星航法システムによる測位を行って車両位置情報(X1,Y1)を得るGPS受信機33(第1GPS受信機)と、FMアンテナ71とGPSアンテナ72とが接続されていてFM多重の補正方式を併用した衛星航法システムによる測位を行って車両位置情報(X2,Y2)を得るGPS受信機73(第2GPS受信機)とを具えている。GPSアンテナ32,72は(図1(a)参照)、路面電車20の前後に分かれて搭載されて、離隔距離Lだけ離れている。例えば、アンテナ32は車両の天井部のうち前端部に取り付けられているのに対し、アンテナ72は後端部に取り付けられている。
【0024】
また、位置検知装置30は(図1(b)参照)、速度計22から路面電車20の速度情報Vを取得するとともに運転方向切換スイッチ23から路面電車20の運転方向Dを検出する速度情報取得装置35と、後述する停留所40に設置される地上基地局装置41の無線機42に適合した小電力の無線機36と、車両位置情報(X1,Y1)と車両位置情報(X2,Y2)と速度情報Vと運転方向Dとから車両位置情報(X5,Y5)を算出するとともに路面電車20の停留所40への出発時および到着時に無線機36を介して車両位置情報(X5,Y5)を送信する車上処理装置34とを具えている。なお、X,Yは例えば経度・緯度を基準とした二次元座標の符号である。
【0025】
車上処理装置34は(図2参照)、プログラマブルなデジタルシグナルプロセッサやマイクロプロセッサシステムからなる情報処理装置であり、これには、マップマッチングルーチン(マップマッチング手段)と、方向反映ルーチン(方向反映手段)と、速度反映ルーチン(速度反映手段)と、位置統一ルーチン(車両位置決定手段)と、異常判定ルーチン(異常判定手段)と、発着判定ルーチン(発着判定手段)とがインストールされている。付加データの付いた路線マップデータ(路線図情報)と、停留所マップデータ(停留所位置情報)も、各ルーチンから参照可能な状態でデータメモリに記憶保持されている。また、上述の離隔距離Lは固定パラメータとして記憶保持され、異常判定に際して参照される設定時間Δtは可変パラメータとして記憶保持されている。
【0026】
路線マップデータは、路面電車20の走行している又は走行する予定の路面軌道10(路線)に対応したものであり、例えば路面軌道10を折れ線近似した場合は二次元座標点(Xm,Ym)の一連データである。これには高度や勾配が付加されることもある。
付加データ(Gm)は、路面軌道10の各位置において衛星航法システムによる測位が可能か不能かを示すものであり、路線マップデータと組み合わせられて、例えば一連の組データ(Xm,Ym,Gm)となっている。
停留所マップデータは、路面電車20の路線上に点在する停留所40の位置に対応したものであり、例えば各停留所毎に両端の二次元座標点(Xp,Yp)を規定した一連のデータである。
【0027】
マップマッチングルーチンと方向反映ルーチンと速度反映ルーチンとの組は、二組が設けられている。一組目はGPS受信機33から車両位置情報(X1,Y1)を取得して車両位置情報(X3,Y3)を生成するものであり、二組目はGPS受信機73から車両位置情報(X2,Y2)を取得して車両位置情報(X4,Y4)を生成するものである。いずれの組でも、既述したように(特許文献2も参照)、路面電車20の路線に対応した路線マップデータ(Xm,Ym)を用いて車両位置情報(X1,Y1),(X2,Y2)を路線上の位置情報に変換し、運転方向Dに応じた情報更新を行って方向を反映させ、さらに、速度情報Vに基づく位置情報の選択的更新によって車両位置情報(X3,Y3),(X4,Y4)を得るようになっている。
【0028】
位置統一ルーチンは、従来の車上処理装置34には無かったプログラムであり、車両位置情報(X1,Y1),(X2,Y2),(X3,Y3),(X4,Y4)と路線マップデータ(Xm,Ym)と離隔距離Lとから、車両位置情報(X5,Y5)と異常予見状態の判定結果とを生成するものである。具体的には、GPS受信機33から車両位置情報(X1,Y1)を得ることができ、しかもGPS受信機73から車両位置情報(X2,Y2)を得ることができたときには、車両位置情報(X3,Y3)と車両位置情報(X4,Y4)との中間位置を車両位置情報(X5,Y5)に採用するようになっている。
【0029】
また、位置統一ルーチンは、GPS受信機33から車両位置情報(X1,Y1)を得ることができず、しかもGPS受信機73から車両位置情報(X2,Y2)を得ることもできなかったときにも、車両位置情報(X3,Y3)と車両位置情報(X4,Y4)との中間位置を車両位置情報(X5,Y5)に採用する。この場合、車両位置情報(X3,Y3),(X4,Y4)がマップマッチングルーチン等によって以前の検知結果と速度情報Vとに基づいて求められたものとなっているので、車両位置情報(X5,Y5)も以前の検知結果と速度情報Vとに基づいて求められたものとなる。
【0030】
さらに、位置統一ルーチンは、GPS受信機33からは車両位置情報(X1,Y1)を得たが、GPS受信機73からは車両位置情報(X2,Y2)が得られなかったときには、車両位置情報(X3,Y3)から離隔距離Lの半分(L/2)だけ後方の位置を車両位置情報(X5,Y5)に採用するとともに、GPS受信機73が異常予見状態にあるという判定を出す。一方、GPS受信機33からは車両位置情報(X1,Y1)が得られなかったが、GPS受信機73からは車両位置情報(X2,Y2)を得たときには、車両位置情報(X4,Y4)から離隔距離Lの半分(L/2)だけ前方の位置を車両位置情報(X5,Y5)に採用するとともに、GPS受信機33が異常予見状態にあるという判定を出すようになっている。
【0031】
異常予見状態にあるという判定結果は、GPS受信機33,73に故障などの装置異常が発生した可能性が高いことを示しており、その判定もそうでないという判定も異常判定ルーチンに引き渡されるようになっている。
なお、この例では、車両位置情報(X5,Y5)に路面電車20の中間位置を採用したが、路面電車20の先頭位置である車両位置情報(X3,Y3)や,車両位置情報(X4,Y4)から離隔距離Lだけ前方の位置を採用しても良く、あるいは路面電車20の後端位置である車両位置情報(X4,Y4)や,車両位置情報(X3,Y3)から離隔距離Lだけ後方の位置を採用しても良い。
【0032】
異常判定ルーチンは、これも従来の車上処理装置34には無かったプログラムであるが、異常予見状態の判定結果と車両位置情報(X1,Y1),(X2,Y2),(X5,Y5)と路線マップデータ及び付加データ(Xm,Ym,Gm)と速度情報Vと離隔距離Lと設定時間Δtとから、装置異常の有無を判定して、異常発生時には無線機36を介して異常情報を送信するものである。具体的には、先ず、GPSアンテナ32,72の離隔距離Lを走行する時間を例えば式[L/V]で算出し、これに適宜な固定値を足して、異常判定に用いる可変閾値を算出し、これを設定時間Δtとするようになっている。なお、上記固定値は、GPS迷走等の不確定性を考慮して決められた短時間の値である。
【0033】
それから、車両位置情報(X5,Y5)を路線マップデータ及び付加データ(Xm,Ym,Gm)に照らして路面電車20が測位の可能な所に居るのか測位の不能な所に居るのかを判別する。そのうえで、測位の不能な所に居る場合には、位置統一ルーチンによる異常予見状態の判定結果を確認して、GPS受信機33,73の何れかが異常予見状態にあるという判定が上記固定値より長時間に亘って継続したときに、該当GPS受信機に装置異常が発生したと判定する。測位の可能な所に居る場合にも異常予見状態の判定結果を確認するが、GPS受信機33,73の何れかが異常予見状態にあるという判定が設定時間Δtより長時間に亘って継続したときに初めて、該当GPS受信機に装置異常が発生したと判定するようになっている。
【0034】
また、異常判定ルーチンは、路面電車20が測位の不能な所に居る場合には、位置統一ルーチンの判定結果に関わりなく、GPS受信機33から車両位置情報(X1,Y1)を得ることができ更にGPS受信機73からも車両位置情報(X2,Y2)を得ることができるという状態が所定の一定時間より長時間に亘って継続したときには、GPS受信機33にもGPS受信機73にも装置異常が発生したと判定するようになっているGPS受信機33,73の何れか一方または双方に装置異常が発生したと判定したときには、無線機36を介して異常情報を送信するようにもなっている。
【0035】
発着判定ルーチンは、既述したように(特許文献2も参照)、停留所マップデータ(Xp,Yp)を用いて車両位置情報(X5,Y5)から路面電車20の出発および到着を判定するものであるが、さらに、停留所から出発したと判定したときには、無線機36を介して出発の旨と車両位置情報(X5,Y5)とを送信し、停留所に到着したと判定したときには、無線機36を介して到着の旨と車両位置情報(X5,Y5)とを送信するようにもなっている。
なお、上述した異常判定ルーチンによる異常情報の送信も、最寄りの停留所への到着を待って行われるようになっている。
【0036】
この実施形態の位置検知装置30について、その使用態様及び動作を、図面を引用して説明する。図3は、位置検知装置30を組み込んだ路面電車位置検知システムの概要構成図である。
【0037】
この路面電車位置検知システムでは、各々の路面電車20に位置検知装置30が一セットずつ搭載され、路面軌道10に臨んで所々に設けられている停留所40には一台ずつ地上基地局装置41が設置されている。複数・多数の路面電車20を集中管理する運転管理センタ50は、一カ所で足り、路面軌道10に臨んでいる必要がないので適宜な建家等に確保され、そこにはセンタ処理装置51が設置されている。
【0038】
地上基地局装置41は、上述した無線機36に適合した小電力の無線機42と、電話回線やインターネット回線を利用して無線通信を行う携帯端末43と、両者42,43に接続されてプロトコル変換等を行う地上処理装置44とを具えたものであり、小型で安価な無線機36,42による近距離通信と携帯端末43による長距離通信とを中継するようになっている。具体的には、位置検知装置30から地上基地局装置41へ出発または到着の旨と車両位置情報とが送信されて来たときや、さらにはGPS受信機33,73の装置異常を示す異常情報が送信されて来たときにも、それをセンタ処理装置51へ転送するようになっている。
【0039】
センタ処理装置51は、地上基地局装置41から携帯端末43にて転送されて来た車両位置情報や異常情報を受信するための携帯端末52と、それで収集した車両位置情報や異常情報に基づいて複数・多数の路面電車20の運転状態を管理する中央処理装置53とを具えたものであり、監視のため図示しない表示板に運行状況や異常状態を表示したり、運行の円滑のため場合によっては各路面電車20に運転情報を配信したり、他の路面電車20へ異常情報を転送等にて通知することも、行うようになっている。
【0040】
そして、路面電車20が路面軌道10上を走行すると、それに搭載された位置検知装置30では、随時、車両位置情報(X1,Y1),(X2,Y2)と速度情報Vと運転方向Dとが取得され、その度に、路線マップデータを用いたマップマッチング処理や、運転方向Dに反する向きの位置情報更新を停止する方向反映処理、速度情報Vに基づく位置情報の選択的更新が行われて、車両位置情報(X1,Y1)から車両位置情報(X3,Y3)が算出されるとともに、車両位置情報(X2,Y2)から車両位置情報(X4,Y4)が算出される。
【0041】
また、車上処理装置34による位置統一ルーチンの実行によって、車両位置情報(X3,Y3),(X4,Y4)等から車両位置情報(X5,Y5)が算出されるとともに、車両位置情報(X1,Y1),(X2,Y2)が得られたか否かに応じてGPS受信機33,73が異常予見状態にあるか否かが判定される。それから、車上処理装置34による異常判定ルーチンの実行によって、異常予見状態の判定結果などからGPS受信機33,73に故障等の装置異常が発生したか否かが判定される。さらに、停留所マップデータを用いて車両位置情報(X5,Y5)から路面電車20の出発や到着が判定される。
【0042】
そして、最寄りの停留所40から路面電車20が出発したと判定がなされると、位置検知装置30から地上基地局装置41を介してセンタ処理装置51へ出発の旨と車両位置情報(X5,Y5)とが送信される。また、最寄りの停留所40に路面電車20が到着したと判定がなされると、位置検知装置30から地上基地局装置41を介してセンタ処理装置51へ到着の旨と車両位置情報(X5,Y5)とが送信される。さらに、そのときまでにGPS受信機33,73に故障等の装置異常が発生したとの判定がなされていると、その異常情報も、最寄りの地上基地局装置41を介してセンタ処理装置51へ送信される。
【0043】
そのため、それを受信したセンタ処理装置51では、それぞれの路面電車20が停留所にいるのか停留所間にいるのかを判別することが可能なので運行状況を的確に把握して管理することができるうえ、各路面電車20に搭載されたGPS受信機33,73の故障等まで把握して管理することができる。
しかも、この位置検知装置30にあっては、路面電車20に複数のGPS受信機33,73を搭載したうえで測位結果(X1,Y1),(X2,Y2)の有無に応じて車両位置(X5,Y5)の検知基準や監視判定の基準を場合分けしたことにより、異常の有無に拘わらず車両位置の検知を継続することが可能になるとともに、GPS受信機33,73の装置異常の発生を非装置異常から切り離して検出することができる。
【0044】
また、異常予見状態の検出に基づいてGPS受信機33,73の装置異常の有無を判別するに際し、車両位置情報(X5,Y5)を路線マップデータ及び付加データ(Xm,Ym,Gm)に照らすことにより、現在の車両位置が測位可能箇所なのか測位不能箇所なのかを調べ、それに応じて確認時間に長短を付けることにより、装置異常の発生判定が迅速かつ的確になされる。さらに、異常予見状態の検出に基づいてGPS受信機33,73の装置異常の有無を判別するに際し、GPS受信機33のGPSアンテナ32とGPS受信機73のGPSアンテナ72との離隔距離Lの走行時間(L/V)に応じて設定時間Δtを可変するようにしたので、例えばトンネル外の測位可能箇所からトンネル内の測位不能箇所への進行時間が通常より長引いたような場合でも、一時的な電波障害などの非装置異常を恒久的な装置異常と見誤ることがない。
【0045】
[その他]
上記実施形態では、位置検知装置30が路面電車20に搭載されていたが、位置検知装置30は列車にも搭載可能である。
上記実施形態では路線マップデータと停留所マップデータとが分離していたが、これらのデータは、重複する部分があるので、混在状態や併合状態で記憶保持しても良い。
上記実施形態では、速度計22が速度発電機を利用したものであったが、速度計22はスピードガンやドップラーレーダを利用したものであっても良い。
【0046】
上記実施形態では速度情報取得装置35が路面電車20の速度情報Vの取得に加えて路面電車20の運転方向Dの検出も行うようになっていたが、路面電車20の運転方向Dの検出は他の情報取得装置で行うようにしても良い。
上記実施形態ではGPS受信機33,73がGPSアンテナ32,72に加えてFMアンテナ31,71も接続されてFM多重方式のD-GPSを行うようになっていたが、GPS受信機33,73が中波ビーコン方式のD-GPSを行うようにしても良い。
【図面の簡単な説明】
【0047】
【図1】本発明の一実施形態について、列車位置検知装置の具体例である路面電車位置検知装置の構造を示し、(a)が路面電車の斜視図、(b)が路面電車位置検知装置の斜視図である。
【図2】車上処理装置の機能ブロック図である。
【図3】本発明の路面電車位置検知装置を組み込んだ路面電車位置検知システムの概要構成図である。
【符号の説明】
【0048】
10…路面軌道、20…路面電車、
21…制御装置、22…速度計、23…運転方向切換スイッチ、
30…路面電車位置検知装置(列車位置検知装置)、
31…FMアンテナ、32…GPSアンテナ、
33…GPS受信機(第2GPS受信機)、
34…車上処理装置、35…速度情報取得装置、36…無線機、
40…停留所、41…地上基地局装置、
42…無線機、43…携帯端末、44…地上処理装置、
50…運転管理センタ、51…センタ処理装置、
52…携帯端末、53…中央処理装置、
71…FMアンテナ、72…GPSアンテナ、
73…GPS受信機(第2GPS受信機)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
列車や路面電車などの車両に搭載されて車速を検出する速度計と、前記車両に搭載されて衛星航法システムによる測位を行うGPS受信機と、前記車両に搭載されて前記速度計から得た速度情報を前記GPS受信機の測位結果に反映させることで車両位置を検知する車上処理装置とを備えた列車位置検知装置において、前記GPS受信機として第1GPS受信機と第2GPS受信機とが設けられており、前記車上処理装置が、前記第1GPS受信機からも前記第2GPS受信機からも測位結果を得たときには何れか一方の測位結果または中間位置など双方の測位結果を組み合わせた測位結果に基づいて前記車両位置を求め、前記第1GPS受信機からも前記第2GPS受信機からも測位結果を得られなかったときには以前の検知結果と前記速度情報とに基づいて前記車両位置を求め、前記第1GPS受信機と前記第2GPS受信機との何れか一方からは測位結果を得たが他方からは測位結果を得られなかったときには得られた測位結果に基づいて前記車両位置を求めるとともに他方のGPS受信機に故障などの装置異常が発生した可能性が高い異常予見状態であると判定するようになっていることを特徴とする列車位置検知装置。
【請求項2】
前記車上処理装置が、前記車両の路線に対応した路線マップデータに加えて、前記路線の各位置において衛星航法システムによる測位が可能か不能かを示す付加データを保持していて、前記車両位置を前記路線マップデータ及び前記付加データに照らして測位の可能な所に居るのか測位の不能な所に居るのかを判別したうえで、測位の不能な所に居る場合には前記異常予見状態が発現したときに故障などの装置異常が発生したと判定し、測位の可能な所に居る場合には前記異常予見状態が所定の設定時間以上に亘って継続したときに故障などの装置異常が発生したと判定するようになっていることを特徴とする請求項1記載の列車位置検知装置。
【請求項3】
前記第1GPS受信機のアンテナと前記第2GPS受信機のアンテナとが前記車両の前後に分かれて搭載されており、両者の離隔距離を走行する時間に応じて前記設定時間を可変するように前記車上処理装置がなっていることを特徴とする請求項2記載の列車位置検知装置。
【請求項4】
前記車上処理装置が、測位の不能な所に居ると判別しているにも拘わらず前記第1GPS受信機からも前記第2GPS受信機からも測位結果を継続して得たときには前記第1GPS受信機にも前記第2GPS受信機にも故障などの装置異常が発生したと判定するようになっていることを特徴とする請求項2又は請求項3に記載された列車位置検知装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2008−247217(P2008−247217A)
【公開日】平成20年10月16日(2008.10.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−91285(P2007−91285)
【出願日】平成19年3月30日(2007.3.30)
【出願人】(000207470)大同信号株式会社 (83)
【出願人】(000004651)日本信号株式会社 (720)
【出願人】(000001292)株式会社京三製作所 (324)
【Fターム(参考)】