説明

制振コーティングを有する物品

【課題】タービンエンジン及びその中のバケット、ブレード、ノズル、ベーン、ストラット、燃料ノズル、燃焼ケーシング及び連絡管のような物品にかかる振動応力を低減するための手段として制振コーティングを提供する。
【解決手段】約8重量%〜約15重量%のY及び約19重量%〜約28重量%のTaを残部重量のZrOと共に含んでなる制振コーティング2を有する、バケット1、ブレード、ノズル、ベーン、ストラット、燃料ノズル、燃焼ケーシング及び連絡管のような物品とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、一般に、制振コーティングを有する物品に関する。より詳細には、本発明は、高温のガス及び燃焼過程に暴露されるもののようなタービンエンジン物品に関し、このタービンエンジン物品はその上に制振コーティングを有する。
【背景技術】
【0002】

通例、タービンエンジン及びその中の物品は、タービンエンジンの作動中に存在する過酷な環境に起因する振動応力を受ける。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】

【特許文献1】米国特許第5750272号明細書
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0004】
本開示の第1の態様は、約8重量%〜約15重量%のY及び約19重量%〜約28重量%のTaを残部重量のZrOと共に含む制振コーティングを有する物品を提供する。
【0005】
本開示の第2の態様は、タービンエンジン内で高温のガス過程に暴露される物品を提供し、この物品は約8重量%〜約15重量%のY及び約19重量%〜約20重量%のTaを残部重量のZrOと共に含む制振コーティングを有する。
【0006】
本開示の第3の態様は、タービンエンジン内で燃焼過程に暴露される物品を提供し、この物品は約8重量%〜約15重量%のY及び約19重量%〜約20重量%のTaを残部重量のZrOと共に含む制振コーティングを有する。
【0007】
本発明の上記及びその他の特徴は、本発明の様々な実施形態を示す添付の図面に関連した本発明の様々な態様に関する以下の詳細な説明からより容易に理解されるであろう。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【図1】図1は、本発明に従う燃焼タービンエンジンの一実施形態の概略図である。
【図2】図2は、本発明に従う三段階ノズルを有する実例のガスタービンアセンブリの一実施形態の断面図である。
【図3】図3は、本発明に従うエンジン物品の一実施形態における制振コーティングを有するタービンバケットを示す。
【発明を実施するための形態】
【0009】
タービンエンジン及びその中の物品にかかる振動応力を低減するための現行の手段は概して本質的に機械的である。機械的手段の典型的な例として、翼プラットフォームの下のローター構造体に挿入されたバネ様ダンパー、翼先端シュラウドに含まれるダンパー、ペンダンパー、チクレットダンパー及び/又はウェハーダンパーを挙げることができる。以上の制振方法は、例えば、現代のタービンブレードの設計の場合のようにシャンク長さ(ブレードの取付部からプラットフォームまでの長さ)が減少したときなど、完全に有効ではないことがある。また、伝統的な制振手段は、新しい大きなタービンブレードの設計の場合のように翼の外側スパンにのみ変位がある様式でも完全に有効ではないことがある。
【0010】
本明細書に記載した制振コーティングの幾つかの実施形態を実施して実現され得る1つの利点は、フェロ弾性特性及び本明細書に記載した組成を有する制振コーティングが、タービンエンジン及び/又はその中の様々な物品の表面上で、タービンエンジンの作動中それにかかる振動応力を顕著に低減するということであることが発見された。この制振コーティングは酸化タンタルをドープしたイットリア安定化ジルコニアを含んでなり、これは外部からかけられた(振動応力のような)応力の下で切り替わるフェロ弾性ドメインを示し、その結果かかった応力を消散することにより、タービンエンジン及び/又はその中の物品に制振能力を付与する。
【0011】
本明細書に記載した制振コーティングの幾つかの実施形態の実施の際に実現し得る1つの利点は、この制振コーティングがタービンエンジン及び/又はその中の物品の振動を低減することによって、タービンエンジン及び/又はその中の物品の構造的完全性及び運転寿命が増大するように振動特性を変化させるということであることも発見された。また、結果として得られる低下した疲労応力と増大した疲労寿命により、より効率的なタービンエンジン及び/又はその中の物品、例えば、より大きく、より薄く、より効率的なタービン翼の設計が可能になるということも発見された。
【0012】
図1を参照すると、燃焼タービンエンジン100の一実施形態の概略図が示されている。エンジン100は圧縮機102と燃焼器104を含んでいる。燃焼器104は燃焼領域105と燃料ノズルアセンブリ106を含んでいる。エンジン100はまたタービン108と共通の圧縮機/タービンシャフト110(ローター110ということもある)も含んでいる。一実施形態では、エンジン100はGeneral Electric社(米国ニューヨーク州スケネクタディ)から市販されている9FBエンジンといわれることもあるMS7001FBエンジンである。本発明は特定のエンジンに限定されることはなく、例えばGeneral Electric社のMS7001FA(7FA)及びMS9001FA(9FA)、GE90、並びにLMS100エンジンモデルを始めとする他のエンジンと共に使用してもよい。その他の例として、F119 Pratt and Whitney社製の軍用エンジン並びに8000H Siemens機械もある。
【0013】
作動の際、空気が圧縮機102を通って流れ、圧縮された空気が燃焼器104に供給される。具体的にいうと、圧縮された空気は燃焼器104と一体の燃料ノズルアセンブリ106に供給される。アセンブリ106は燃焼領域105と流動連通している。燃料ノズルアセンブリ106は燃料源(図1には示してない)とも流動連通しており、燃料と空気を燃焼領域105に流す。燃焼器104は燃料に点火し、これを燃焼させる。燃焼器104はタービン108に流動連通しており、そこでガス流の熱エネルギーが機械的回転エネルギーに変換される。タービン108はローター110に回転可能なように結合しており、これを駆動する。圧縮機102もシャフト110に回転可能に結合している。実例の実施形態では、複数の燃焼器104と燃料ノズルアセンブリ106がある。
【0014】
図2を参照すると、図1の燃焼タービンエンジン100と共に使用し得る三段階ノズルをもった実例のタービンアセンブリ108の一実施形態の断面図が示されている。タービンアセンブリ108はベーンサブアセンブリ112を含んでいる。ベーンサブアセンブリ112は半径方向外側のプラットフォーム114と半径方向内側のプラットフォーム116によりタービンアセンブリ108に保持されている。
【0015】
本発明の一実施形態では、約8重量%〜約15重量%のY及び約19重量%〜約28重量%のTaと共に残部重量のZrOを含んでなる制振コーティングを有する物品が提供される。残部重量という用語は、残りの割合、すなわち、制振コーティングの成分の記載した割合の総和を総重量割合100から差し引いたときの割合が、制振コーティング中に存在するZrOの重量%であることを意味する。例えば、本明細書に記載した制振コーティングの一実施形態では、制振コーティング中に約10重量%のYと約20重量%のTaが存在するならば、存在するZrOの残部重量は70重量%[100−(10+20)]である。
【0016】
一実施形態では、物品はエンジンの部品であり得る。別の実施形態では、エンジンは図1及び/又は図2に記載したエンジンであってもよいし、本明細書に記載した制振コーティングで被覆することができる物品を有するエンジンであってもよい。別の実施形態では、エンジンは少なくとも1つのガスタービンエンジン、ロケットエンジン及び超音速燃焼ラム(SCRAM)ジェットエンジンからなる群から選択され得る。別の実施形態では、エンジンは回転ハードウェアをもたない自立燃焼エンジンであってもよい。
【0017】
一実施形態では、エンジン物品は図1及び/又は図2に記載した物品又は本明細書に記載した制振コーティングで被覆することができるエンジン物品であり得る。別の実施形態では、物品は高温のガスプロセス及び/又は燃焼過程に暴露される少なくとも1種の物品からなる群から選択され得る。一実施形態では、物品は少なくとも1つのバケット、ブレード、ノズル、ベーン、ストラット、タービンケーシング及びローターからなる群から選択され得る。別の実施形態では、物品は少なくとも1つの燃料ノズル、燃焼ケーシング、燃焼ライナー及び連絡管からなる群から選択され得る。
【0018】
本発明の制振コーティングは特定のタービンエンジン及び/又はその中の物品に限定されることはなく、その他のエンジン及び/又はその中の物品に使用してもよい。さらに、本発明の制振コーティングは、本明細書に記載した物品ではなく、本明細書に記載した制振コーティングのフェロ弾性特性が有用であり得る他の物品と共に使用してもよい。
【0019】
一実施形態では、本明細書に記載したエンジン及び/又はその中のエンジン物品を被覆するのに使用される制振コーティングは約8重量%〜約15重量%のY及び約19重量%〜約28重量%のTaと共に残部重量のZrOを含み得る。別の実施形態では、制振コーティングは、さらに、ドーパントを含んでいてもよく、その少なくとも1種は酸化物及び希土類酸化物から選択され得る。一実施形態では、酸化物は少なくとも1種のCaO、MgO及びTiOからなる群から選択され得る。別の実施形態では、希土類酸化物はCeO及びYbの少なくとも1種からなる群から選択され得る。別の実施形態では、酸化物は少なくとも1種のCaO、MgO、TiO、CeO及びYbからなる群から選択され得る。
【0020】
制振コーティングの一実施形態では、コーティングは72.76重量%のZrO、8.02重量%のY及び19.22重量%のTaからなり得る。別の実施形態では、制振コーティングは85.44重量%のZrO、7.49重量%のY、4.4重量%のTiO及び2.67重量%のTaからなり得る。別の実施形態では、制振コーティングは正方晶ジルコニアからなり得る。
【0021】
一実施形態では、制振コーティングは、高温でエンジン及び/又はエンジン物品の振動応力を吸収することにより振動減衰を提供するフェロ弾性特性を有する。一実施形態では、制振コーティングは約700℃〜約1350℃の範囲の温度でフェロ弾性を示す。別の実施形態では、制振コーティングは約760℃でフェロ弾性を示す。フェロ弾性は、材料が自発的な歪みを示し得る現象である。フェロ弾性材料に応力がかかると、材料内に1つの配向から同等に安定であるが異なる配向(「双」相)へのドメイン変化が起こる。この応力により誘発された相変化の結果材料内に自発的な歪みが生じる。
【0022】
制振コーティングのフェロ弾性特性は、歪みεとかけられた応力との間のヒステリシスループの存在によって特徴付けることができよう。正方晶ジルコニアの場合、単位格子のc軸は他の2つの直交軸a及びb(=a)より約1%〜約2%大きい。c−軸に沿って、例えば振動応力によって誘発される(保磁力σの程度の)、かかった圧縮応力は、c−軸の他の2つの直交軸の1つへのフェロ弾性変態を促進することができ、正方晶比c/aに比例するフェロ弾性歪みを伴う。フェロ弾性変態は全ての単位格子の同時の切り替えとしては起こらないが、同様な配向を有するドメインの変態によって進行する。
【0023】
制振コーティングの一実施形態では、コーティングは、単位格子のc軸が他の2つの直交軸a及びb(=a)より約1%〜約2%大きく、cをaで割った商が1より大きいという基準を満たす限り、現在存在するが本明細書には述べなかった他のフェロ弾性材料又はまだ発見されてない他のフェロ弾性材料からなってもよい。制振コーティングの別の実施形態では、コーティングは、単位格子のc軸が他の2つの直交軸a及びb(=a)より約1%〜約2%大きく、cをaで割った商が1より大きいという基準を満たす限り、現在存在するが本明細書では述べなかった他の正方晶ジルコニア材料又はまだ発見されてない他の正方晶ジルコニア材料からなっていてもよい。
【0024】
本明細書に記載した制振コーティングを形成する方法は当技術分野で公知であり、簡明にするためにこれ以上述べることはしない。
【0025】
本発明の一実施形態では、本明細書に記載した制振コーティングは、空気プラズマ、高速オキシ燃料溶射(HVOF)及び真空プラズマ溶射のような溶射過程により、本明細書に記載したエンジン及び/又はエンジン部品に設置することができる。別の実施形態では、電子ビーム物理的蒸着(EB−PVD)のような物理的蒸着プロセスを使用することができる。以上のプロセスは当技術分野で公知であり、簡明にするためにこれ以上述べることはしない。
【0026】
図3を参照すると、制振コーティング2を有するエンジン物品のタービンバケット1の一実施形態が示されている。この制振コーティングの様々な実施形態は本明細書に述べられており、簡明にするためにこれ以上さらに述べることはしない。一実施形態では、制振コーティング2(陰を付けた領域で示す)はタービンバケット2全体を被覆してもよい。別の実施形態では、制振コーティング2はタービンバケット2の選択された表面領域を被覆してもよい。
【0027】
本明細書で「第1」、「第2」などの用語は順序、数量又は重要性を意味するものではなく、1つの要素を別の要素から区別するために使用されており、本明細書中の単数形態の用語は量の限定を意味するのではなく、参照された対象が少なくとも1つ存在することを意味している。量に関連して使用される「約」という修飾語は表記された値を含み、情況により示される意味を有する(例えば、特定の量の測定に伴う程度の誤差を含む)。また、本明細書中の単数形態の用語は複数も含み、例えば、金属といえば1種以上の金属を意味する。本明細書に開示されている範囲は包括的であり、独立に組み合わせることができる(例えば、「約25重量%まで又はより特定的には、約5重量%〜約20重量%」の範囲は終点を含み、また「約5重量%〜約25重量%」等の範囲内の全ての中間の値を含む)。
【0028】
以上、様々な実施形態を本明細書に記載して来たが、本明細書からすぐ分かるように、当業者は様々な組合せの要素、変形又は改良をなすことができ、それらは本発明の範囲内に入る。加えて、本発明の本質的な範囲から逸脱することなく特定の状況又は材料を本発明の教示に適合させるために多くの修正を行うことができる。従って、本発明は本発明を実施する上で考えられる最良の実施形態として開示された特定の実施形態に限定されることなく、本発明は特許請求の範囲内に入る全ての実施形態を包含する。
【符号の説明】
【0029】
1 タービンバケット
2 制振コーティング
100 燃焼タービンエンジン
102 圧縮機
104 燃焼器
105 燃焼領域
106 燃料ノズルアセンブリ
108 タービン
110 圧縮機/タービンシャフト(ローター)
112 ベーンサブアセンブリ
114 半径方向外側のプラットフォーム
116 半径方向内側のプラットフォーム

【特許請求の範囲】
【請求項1】
約8重量%〜約15重量%のY及び約19重量%〜約28重量%のTaを残部重量のZrOと共に含んでなる制振コーティング(2)を有する物品。
【請求項2】
物品がエンジン(100)の一部である、請求項1記載の物品。
【請求項3】
エンジン(100)が少なくとも1つのガスタービン、ロケットエンジン及び超音速ラムジェットエンジンからなる群から選択される、請求項2記載の物品。
【請求項4】
物品が、高温ガス過程に暴露される物品及び燃焼過程に暴露される物品の少なくとも1つからなる群から選択される、請求項1記載の物品。
【請求項5】
タービンエンジン(100)において高温ガス過程に暴露される物品であって、約8重量%〜約15重量%のY及び約19重量%〜約20重量%のTaを残部重量のZrOと共に含む制振コーティング(2)を有する、前記物品。
【請求項6】
物品が、少なくとも1つのバケット(1)、ブレード、ノズル(106)、ベーン(112)、ストラット、タービンケーシング及びローター(110)からなる群から選択される、請求項5記載の物品。
【請求項7】
コーティング(2)がさらにドーパントを含んでおり、その少なくとも1種が少なくとも1つのCaO、MgO、TiO、CeO及びYbからなる群から選択される、請求項5記載の物品。
【請求項8】
タービンエンジン(100)内で燃焼過程に暴露される物品であって、約8重量%〜約15重量%のY及び約19重量%〜約20重量%のTaを残部重量のZrOと共に含んでなる制振コーティング(2)を有する、前記物品。
【請求項9】
物品が、少なくとも1つの燃料ノズル(106)、燃焼ケーシング、燃焼ライナー及び連絡管からなる群から選択される、請求項8記載の物品。
【請求項10】
コーティング(2)がさらにドーパントを含んでおり、その少なくとも1つが少なくとも1つのCaO、MgO、TiO、CeO及びYbからなる群から選択される、請求項8記載の物品。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2011−140946(P2011−140946A)
【公開日】平成23年7月21日(2011.7.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−286861(P2010−286861)
【出願日】平成22年12月24日(2010.12.24)
【出願人】(390041542)ゼネラル・エレクトリック・カンパニイ (6,332)
【氏名又は名称原語表記】GENERAL ELECTRIC COMPANY
【Fターム(参考)】