刺繍ミシン
【課題】 紐状素材の折り重なりが一定の状態で安定して縫い付けられるようにする。紐状素材を送り出す部材が既に縫い付けられた紐状素材に引掛ることがないようにする。
【解決手段】 刺繍データに基づく布地の移動方向に応じて回転体(13)を回転制御し、針元への紐状素材(A)の案内方向が適正となるようにガイド機構の向きを変更しつつ、紐状素材を被縫製物に縫い付ける。ひだ縫い機構(N)は、ガイド機構によって案内される前記紐状素材(A)を支承する支承部材(24)と、前記支承部材に対して変位し、前記支承部材に支承された前記紐状素材を針元位置の方へと送り出す送出し部材(35)とを備える。送出し部材(35)の送出し動作によって前記紐状素材が折り重なった状態で針元位置へと案内される。
【解決手段】 刺繍データに基づく布地の移動方向に応じて回転体(13)を回転制御し、針元への紐状素材(A)の案内方向が適正となるようにガイド機構の向きを変更しつつ、紐状素材を被縫製物に縫い付ける。ひだ縫い機構(N)は、ガイド機構によって案内される前記紐状素材(A)を支承する支承部材(24)と、前記支承部材に対して変位し、前記支承部材に支承された前記紐状素材を針元位置の方へと送り出す送出し部材(35)とを備える。送出し部材(35)の送出し動作によって前記紐状素材が折り重なった状態で針元位置へと案内される。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、テープやコードなどの紐状素材を本縫いによって布地等の被縫製物に縫い付けることが可能な刺繍ミシンに関し、更に詳細には、紐状素材を折り重ねてひだ状にして縫い付けることが可能な刺繍ミシンに関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、下端部に縫い針を備え、上下に駆動される針棒と、針棒と同軸心上に組付けられ、その軸心回りの回転が自由な回転体と、この回転体とともに回転駆動されて縫い針の針元位置へ紐状素材を案内するガイドとを備え、刺繍データに基づく布地の移動方向に応じて回転体を回転制御し、針元への紐状素材の案内方向が適正となるようにガイドの向きを変更しつつ、この紐状素材を本縫いにより布地に縫い付けることが可能なミシンヘッドを備えた刺繍ミシンが知られている。
【0003】
このような刺繍ミシンにおいて、より装飾性を高めるために紐状素材を立体的に縫い付けることができるようにした刺繍ミシンが知られており、下記特許文献1には紐状素材を折り重ねて、その重なった部分を縫い付ける所謂「ひだ縫い」が可能な刺繍ミシンが開示されている。
【特許文献1】特開平7-70903号
【0004】
特許文献1の刺繍ミシンによれば、回転体とともに回転駆動されて縫い針の針元位置へ紐状素材を案内するガイドが、縫い針の下方部への進出動作と縫い針の側方部への後退動作を行う構成となっている。このガイドの進出動作によって紐状素材が折り重ねられるとともに、その状態で縫い針の針元位置へ案内され、紐状素材の重なった部分に縫い針が落ちて布地に縫い付けられる。
【0005】
図13には、特許文献1の刺繍ミシンにおいて、紐状素材を折り重ねる動作状態が示してあり、50はガイド、51は布押え体、Aは紐状素材、Sは布地である。ガイド50は、紐状素材Aの断面に合った断面形状を有する筒部分を含んでおり、この筒部分の中に紐状素材Aを挿入した状態で、図示しない揺動機構により揺動されることで、進出動作と後退動作を繰り返す。図13(a)はガイド50が後退動作によって後退した状態が示してある。ガイド50が後退した状態から進出動作を行うと、図13(b)に示すように紐状素材Aはガイド50の下方で折り重ねられる。ガイド50が更に進出動作を行うと、紐状素材Aが断面S字状に折り重ねられた状態で針元位置へ案内されて布地Sに縫い付けられる。なお、ガイド50の筒部分の中央部には、縫い付け時において針の侵入を許すように適宜の開口が設けられている。
【0006】
ここで、ガイド50の高さを変更する(低くする)ことによって、図13(c)に示すようにガイド50が進出動作を行ったとき、紐状素材Aが山状に盛り上げられるようにすることができる。ガイド50が更に進出動作を行うと布押え体51または図示しない縫糸によって山状に盛り上がった紐状素材Aがガイド50の上に折り重ねられて針元位置へ案内される。これにより紐状素材Aは逆S字状に折り重ねられた状態で布地Sに縫い付けられることになる。このように、上記特許文献1の刺繍ミシンでは、紐状素材AをS字状または逆S字状に折り重ねて立体的に縫い付けることができ、装飾性をより高めることができる。
【0007】
このように、特許文献1の刺繍ミシンでは、ガイド50の高さを変更することによって、紐状素材AをS字状または逆S字状に折り重ねて縫い付けることができるようになっている。しかしながら、紐状素材Aの折り重なりがどちら側となるかは、縫い状況によっても変わることがあった。例えば、刺繍データに基づく布地の移動方向に応じてガイド50の向きを大きく変更したときに、今までS字状であった紐状素材Aの折り重なりがその部分だけ逆S字状となることがあった。このように、特許文献1の刺繍ミシンでは紐状素材Aが意図しない状態に折り重ねられて布地Sに縫い付けられることがあった。
【0008】
また、ガイド50は布地Sの直ぐ上方で進退動作を行っている。このため、既に紐状素材Aが縫い付けられている付近で紐状素材Aを縫い付けるときに、進退動作を行うガイド50が縫い付けてある紐状素材Aに引掛かり、紐状素材Aを傷つけたりガイド50が折れ曲がる危険があった。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は上述の点に鑑みてなされたもので、紐状素材の折り重なりが一定の状態で安定して縫い付けられるようにした刺繍ミシンを提供しようとするものである。また、紐状素材の送出しのために進退動作する部材が既に縫い付けられた紐状素材に引掛ることがないようにした刺繍ミシンを提供しようとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明に係る刺繍ミシンは、縫い針を下端に有し、上下に駆動される針棒と、前記針棒と同軸心上に組付けられ、その軸心回りの回転が自由な回転体と、この回転体とともに回転して縫い針の針元位置へ紐状素材を案内するガイド機構とを備え、刺繍データに基づく布地の移動方向に応じて回転体を回転制御し、針元への紐状素材の案内方向が適正となるように前記ガイド機構の向きを変更しつつ、この紐状素材を本縫いにより被縫製物に縫い付けることが可能な刺繍ミシンにおいて、前記ガイド機構によって案内される前記紐状素材を支承する支承部材と、前記支承部材に対して変位し、前記支承部材に支承された前記紐状素材を針元位置の方へと送り出す送出し部材とを更に備え、前記送出し機構の送り出し動作によって前記紐状素材が折り重なった状態で針元位置へと案内されることを特徴とする。
【0011】
本発明によれば、ガイド機構によって案内される紐状素材を支承する支承部材に対して送出し部材が変位して、該支承部材に支承された紐状素材を針元位置の方へと送り出し、この送出し動作によって紐状素材が折り重なった状態で針元位置へと案内される。このように、支承部材に支承された紐状素材を送出し部材によって送り出す構成である(支承部材は送り出し動作に対して相対的に固定される)ため、送り出される紐状素材は支承部材によって安定して支持されることで常に同じ状態で折り重なるようになる。従って、折り重ね状態の乱れが生じないものとなる。これに伴い、意図した折り重ね状態になるように確実な制御が行えるようになる。これに伴い、1ステッチ毎の重ね縫い、あるいは2ステッチ毎の重ね縫いなど、種々の態様の重ね縫いを、意図した通りに確実に提供することができるようにもなる。
【0012】
好ましい実施形態において、前記支承部材は、前記紐状素材を載せる支承部を有し、前記送出し部材は、前記支承部の上を通って往復運動することで送り出し動作を行うことを特徴とする。これにより、送出し部材は、支承部の上を通って往復運動するために、該送出し部材が既に縫い付けられた紐状素材に引掛ることがなく、紐状素材を傷つけたり、紐状素材供給機構を損傷させたりするといったことが起こらない。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
以下、添付図面を参照して本発明の実施例を詳細に説明する。
図1〜図3には紐状素材の縫い付けが可能なミシンヘッドHが示してあり、図1は正面図、図2は左側面図、図3は右側面図である。このミシンヘッドHは周知のミシンヘッドに本発明の一実施例に係る「ひだ縫い機構N」を装着したものである。周知のミシンヘッドとしては、例えば特開平8-299639号公報に詳細な構成が開示されており、本実施例においては詳細な説明を省略する。
【0014】
ミシンヘッドHのミシンアーム1にはミシン主軸2が貫通して設けてあり、このミシン主軸2の回転によって図示しない針棒駆動機構を介して針棒3が、その下端に固定された縫い針4(図5参照)とともに上下に往復駆動される。この縫い針4の上下動と、針板5の下方に設けられた図示しない釜の回転によって周知の本縫いが行われる。
【0015】
ミシンアーム1の左側面には、布押え支持体7の昇降駆動のための昇降モータ9、布押え支持体7の方向制御のための方向制御モータ16が設けてある(図2)。またミシンアーム1の右側面には送り板(送出し部材)35を進退動させるための駆動モータ21が設けてある(図3)。なお、この駆動モータ21は、周知のミシンヘッドにおける千鳥振り駆動のためのモータであり、ひだ縫い機構Nは千鳥振り機構に換えて装着するものとしてある。すなわち、この実施例において、駆動モータ21は、本発明に関係するひだ縫い機構Nと、本発明に関係しない千鳥振り機構、の両者によって共用されるものである。しかし、これに限らず、本発明の実施にあたっては、ひだ縫い機構Nに専用のモータを設けてもよい。また、このひだ縫い機構Nに専用のモータは回転モータに限らず、リニアモータであってもよい。
【0016】
針棒3の外周には支持筒6が、ミシンアーム1の下部に固定された図示しない固定スリーブの内周面に案内されて針棒3との相対的な昇降動作及びその軸線回りの回転が可能に設けてある。支持筒6の下端部には布押え支持体7が固定してある。布押え支持体7は二股状に形成してあり、一方の外側面には上下に長いキー溝7aが形成され、他方の下方部には布押え体8が固定してある。支持筒6は、昇降モータ9の駆動によってガイド軸10に沿って昇降する昇降部材11に、駆動アーム12を介して連結してある。これにより、昇降モータ9を駆動させると支持筒6が布押え支持体7(布押え体8)とともに昇降されることとなる。
【0017】
前記図示しない固定スリーブの外周には、回転筒13がその軸線回りの回転のみ可能に設けてある。回転筒13の上端部外周にはプーリ14が形成してある。プーリ14はタイミングベルト15を介して方向制御モータ16の駆動によって回転する駆動プーリ17と連結してある。回転筒13の外周にはボビンブラケット18が固定してあり、ボビンブラケット18には紐状素材Aを巻回収納しているボビン19が回転自在に装着される。後述するように、ボビン19から繰り出された紐状素材Aがガイド部材28を介して縫い針4の針元位置へと案内されるようになっている。
【0018】
紐状素材Aを縫い針4の針元位置へと案内するためのガイド機構は、これらのボビンブラケット18、ボビン19、及び後述するガイド部材28等を含んで構成される。公知のように、刺繍縫いパターンに応じて方向制御モータ16を正転又は逆転駆動して回転筒13を適宜の角度回転させることにより、該回転筒13と共にボビンブラケット18に装着されたボビン19の向きを制御し、もって、該ボビン19から繰り出された紐状素材Aを縫いパターンに合わせた向きで縫い針4の針元位置へと案内する。
【0019】
回転筒13の外周には駆動リング20が、回転筒13に対する相対的な回転及び上下動作可能に設けてある。この駆動リング20の外周には環状溝20aが形成してあり、環状溝20aには駆動モータ21の駆動によってガイド軸22に沿って昇降する駆動アーム23の先端部(フォーク部)が係合してある。
【0020】
ひだ縫い機構Nは、前記ガイド機構によって案内される紐状素材Aを折り重ねた状態で針元位置へと案内することで、「ひだ縫い」を可能にするものである。このひだ縫い機構Nは、紐状素材Aを支承する支承部材24と紐状素材Aを送り出す送り板(送出し部材)35を含んで構成されている。図1及び図2に示すように、支承部材24は、回転筒13の下端部に固定されたベース部材25に固定ネジ26にて固定してある。ベース部材25には布押え支持体7のキー溝7aに係合するキー部材27が固定してある。このキー結合によって、ベース部材25は布押え支持体7と共に回転するが、上下動はしないようになっている。なお、図4はひだ縫い機構Nの部分を拡大して示す右側面図であり、送り板35が後退位置にある状態を示している。図5は送り板35が進出位置にある状態を示している。
【0021】
支承部材24は下端に支承部24aを有している。支承部24aの部分を拡大して示すと図6のようであり、図7はその分解図である。図6及び図7から明らかなように、支承部24aにはスリット24bが設けてあり、ボビン19から繰り出した紐状素材Aを、スリット24bの後方では支承部24aの底面に沿わせて、スリット24bから支承部24aの上面に導き出すようになっている。支承部24aには紐状素材Aを案内するガイド部材28が固定してある。図7より明らかなように、ガイド部材28は2つの部品より構成してあり、それぞれに紐状素材Aの一端を案内する案内片28a,28bが設けてある。両案内片28a,28bはスリット24b内に位置しており、このスリット24bの位置にて紐状素材Aを案内している。ガイド部材28を構成する2部品は、互いの案内片28a,28bの間隔を各種の紐状素材Aの幅に対応できるように位置調整可能となっている。
【0022】
図3あるいは図4に示すように、回転筒13の外周にはベルクランク29がピン30によって回動自在に支持してある。ベルクランク29のピン30から水平方向へ延びる部分の先端部にはローラ31が設けてあり、下方向へ延びる部分にはブラケット32を介して送りアーム33が固定ネジ34にて取り付けてある。送りアーム33の先端部には紐状素材Aを送り出す送り板35が固定してある。図1に示すように、あるいは図6で二点鎖線で示すように、送り板35の先端には縫い針4の通過を許容する通し孔(開口)35aが設けてあるとともに、紐状素材の滑りを防止する歯35bが形成してある。この通し孔35aは、図5に示すように送り板35が進出位置にあるとき、縫い針4の通過を許容する。
【0023】
前記駆動リング20には係合部材37が固定してあり、係合部材37の一部は回転筒13に形成された上下に長いキー溝13aと係合している。図4に示すように、係合部材37はフォーク部37aを有しており、フォーク部37aにはベルクランク29のローラ31が係合している。これにより、駆動モータ21の駆動によって駆動アーム23とともに駆動リング20が昇降すると、ベルクランク29がピン30を支点として送りアーム33とともに往復回動し、送り板35が図4に示す後退位置と図5に示す進出位置との間で進退動することとなる。
【0024】
また、ひだ縫い機構Nは、前述のように刺繍縫いパターンに応じた方向制御モータ16の駆動によって回転筒13が適宜の角度回転すると、ボビンブラケット18(ボビン19)、布押え支持体7(布押え体8)とともに回転することとなる。
【0025】
ひだ縫い機構Nの支承部材24及び送りアーム33は、布地を交換する際などに図8A,図8Bに示す退避位置に退避できるようになっている。図8Aは退避位置におけるひだ縫い機構Nの左側面図、図8Bは右側面図である。支承部材24には位置決めピン38が固定してあり、ベース部材25には位置決めピン38が嵌入する孔25a、25bが使用位置と退避位置に対応して設けてある。支承部材24が図2に示す使用位置にあるときには、位置決めピン38は使用位置に対応する孔25aに嵌入している。支承部材24を退避させるときは、固定ネジ26を緩めて位置決めピン38を孔25aから外し、支承部材24を(図2において)反時計方向に回動して位置決めピン38を退避位置に対応する孔25bに嵌入させて固定ネジ26を締める。
【0026】
送りアーム33には位置決めピン36が固定してあり、ブラケット32には位置決めピン36が嵌入する孔32aが設けてある。また、ブラケット32には位置決めピン36を係止可能な係止片32bが設けてある。送りアーム33が図3に示す使用位置にあるときには、位置決めピン36は孔32aに嵌入している。送りアーム33を退避させるときは、固定ネジ34を緩めて位置決めピン36を孔32aから外し、送りアーム33を(図3において)時計方向に回動して位置決めピン36を係止片32bに係止させて固定ネジ34を締める。
【0027】
本実施例において、紐状素材Aをひだ状に縫い付ける作業について説明する。
ボビン19に巻回収納された紐状素材Aを繰り出し、支承部材24の支承部24aを経て縫い針4の針元位置へと導く。この状態で布地(被縫製物)Sを、所望の刺繍縫いデータに基づきXY方向へ移動制御するとともに、針棒3を上下に駆動して縫い針4と図示しない釜とによって周知の縫い動作を行う。
【0028】
また、周知のように、昇降モータ9の駆動によって布押え体8は、針棒3の上下駆動に同期して所定のタイミングで上下動されて布押えの機能を果たす。また、周知のように、刺繍データ(刺繍縫いパターン)に応じた方向制御モータ16の駆動によって回転筒13が回転し、これに伴い、ボビンブラケット18及び布押え体8が、布地Sの移動に基づくミシンヘッドHの相対的な進行方向の前方に位置するように制御される。このとき、ひだ縫い機構Nも、回転筒13の回転に伴い、支承部材24の支承部24aがミシンヘッドHの相対的な進行方向の前方に位置するように(つまり紐状素材Aを縫い付けていくべき方向に)制御され、これにより、紐状素材Aが縫い針4の針元位置へ適正に案内される。
【0029】
また、縫い動作に連動して、1ステッチ毎若しくは複数ステッチ毎に、駆動モータ21が駆動され、これに応じて送り板35は所定の進出位置と後退位置の間で往復運動する。この送り板35の往復運動に応じて紐状素材Aが送り出され、該紐状素材Aがひだ状に重ねられた状態で縫い針4の針元位置に供給される。
【0030】
図9A〜図9Dは送り板35の進退動作の手順を示し、これによって、紐状素材Aがひだ状に重ねられる状態が示してある。
初めに、縫い針4が上下動されて少なくとも1針分の縫いが行われ、紐状素材Aの先端部が布地Sに縫い止められる。図9Aは紐状素材AがP点にて縫い止められた状態が示してあり、送り板35は所定の後退位置にある。
【0031】
次に、布地Sが刺繍データに基づいてXY方向へ移動され、縫い針4及び布押え体8が下降されるとともに、送り板35が進出されて紐状素材Aが送り出される。図9Bは、送り板35が進出している途中の状態を示す。このとき、紐状素材AはP点で縫い止められているために、図9Bに示すように送り出された分が山状に盛り上がる。
【0032】
送り板35の進出運動と縫い針4及び布押え体8の下降は更に続き、山状に盛り上がって送り出された紐状素材Aは、布押え体8または図示しない縫糸によって押し倒されて、図9Cに示すように、送り板35の上にひだ状に重ねられる。この状態で送り板35の進出運動と布押え体8の下降は停止するが、縫い針4は更に下降してひだ状に重ねられた紐状素材Aを布地Sに縫い付ける。その後、縫い針4及び布押え体8が上昇されるとともに、送り板35が後退される。
【0033】
以降、縫い針4及び布押え体8の昇降と、送り板35の進退運動を繰り返すことによって、図9Dに示すように紐状素材Aが一定の向きでひだ状に縫い付けられることとなる。
【0034】
図10には紐状素材Aをひだ状に縫い付けた一例が示してある。この図10から明らかなように、各ステッチは長さ方向に連なる所謂ランニングステッチが用いられ、紐状素材Aはこのランニングステッチに沿って縫い付けられる。従って、前記刺繍データはランニングステッチを形成するためのステッチデータ(布地SをXY方向へ駆動するためのデータ)である。このランニングステッチにて紐状素材Aが縫い付けられていく際に、各ステッチの進み方向が、該ステッチの形成毎にステッチデータに基づき演算され、その演算結果に従って回転筒13が回転制御される。この回転制御により支承部材24の支承部24aが、常に布地Sの移動に基づくミシンヘッドHの相対的な進行方向の前方に位置することになり、紐状素材Aは常にミシンヘッドHの相対的な進行方向の前方から供給されることとなる。
【0035】
紐状素材Aの縫い付け方は、送り板35の進退動のさせ方によって種々の態様となる。例えば、縫い針4の一往復毎に送り板35を進退動させると、図11に示すように1ステッチ毎に重ね縫いが行われる。また、図12に示すように1つの折り重なりを2ステッチで縫い付けるには、1ステッチ目に送り板35を進退動させて、2ステッチ目は送り板35の進退動を行わないようにするか、または、1ステッチ目に送り板35を進出させてその状態で停止し、2ステッチ目で送り板35を後退させることによって行える。他にも、ランニングステッチの1ステッチ長の変更や、送り板35の進退動ストロークの変更による折り重ね長さの変更などによって種々の態様の重ね縫いを提供できる。
【0036】
本実施例では、紐状素材Aを支承部材24の支承部24aを経て縫い針4の針元位置へと導き、支承部24aに支承された紐状素材Aを送り板35の進出によって送り出し、送り出した紐状素材Aを折り重ねるようになっている。よって、送り出される紐状素材Aは支承部材24によって送り板35(支承部材24)の下方で折り返されることはなく、送り板35の先端部にて必ず山状に盛り上がるために、紐状素材Aの折り重なりは全て同じ状態となる。これに伴い、上述したような種々の態様の重ね縫いを提供すべく、意図した折り重ね状態になるように、確実に制御することができるようになる。
【0037】
また、送り板35は支承部24a上で進退動されるために、送り板35が既に縫い付けられた紐状素材Aに引掛ることがなく、紐状素材Aを傷つけたり、送り板35が折れ曲がるといった危険性がない。
【0038】
本実施例において、送りアーム33をブラケット32を介してベルクランク29に取り付けるようにしたが、送りアーム33を直接ベルクランク29に取り付けるようにしてもよい。この場合、送りアーム33の使用位置と退避位置に対応して、位置決めピン36が嵌入する孔、又は、位置決めピン36が係止可能な係止片をベルクランク29に設ける。
【0039】
また、布押え体8の下死点位置及び昇降ストロークは任意に設定できるようになっており、本実施例では図9Bに示す状態のときには布押え体8が山状に盛り上がった紐状部材Aと当接していないが、このときに布押え体8が紐状部材Aと当接して紐状部材Aが押し倒されるようにしてもよい。このように、紐状部材Aを布押え体8との当接により早いタイミングで倒すようにすることで、送り板35の進退動ストロークが小さくひだ状の重なり(山状の盛り上がり)が小さいときでも、山状に盛り上がった紐状部材Aが確実に倒されて正規なひだ状に重ねられることとなる。
【0040】
本発明に係る刺繍ミシンは、紐状素材Aの縫付けが可能なミシンヘッドHを1つ備えたものであってもよいし、紐状素材Aの縫付けが可能なミシンヘッドHのみを複数備えたものであってもよいし、あるいは、紐状素材Aの縫付けが可能なミシンヘッドHと通常の刺繍用ミシンヘッドとを交互に備えたものであってもよい。何れの場合も、紐状素材Aの縫付けが可能なミシンヘッドHの各々に本発明を適用することができる。なお、最後の例の場合、1つの刺繍模様において、通常の刺繍縫いと紐状素材Aの縫付けを組み合わせて行うことを容易に実現できる。
【図面の簡単な説明】
【0041】
【図1】本発明の一実施例に係る紐状素材の縫い付けが可能なミシンヘッドの正面図。
【図2】同実施例に係るミシンヘッドの左側面図。
【図3】同実施例に係るミシンヘッドの右側面図。
【図4】図3におけるひだ縫い機構の部分を拡大して示す右側面図であって、送り板(送出し部材)が後退位置にある状態を示すもの。
【図5】図4と同様の右側面図であって、送り板(送出し部材)が進出位置にある状態を示すもの。
【図6】ひだ縫い機構における支承部材の下端の支承部の部分を拡大して示す斜視図。
【図7】支承部の分解図。
【図8A】退避位置におけるひだ縫い機構の左側面図。
【図8B】退避位置におけるひだ縫い機構の右側面図。
【図9A】ひだ縫い機構における送り板(送出し部材)が所定の後退位置にある状態を示す側面図。
【図9B】ひだ縫い機構における送り板(送出し部材)が進出途中にある状態を示す側面図。
【図9C】ひだ縫い機構における送り板(送出し部材)が所定の進出位置(進出終了位置)にある状態を示す側面図。
【図9D】多数のひだ縫いが形成された状態を示す側面図。
【図10】紐状素材をひだ状に縫い付けた一例を示す平面図。
【図11】1ステッチ毎に1つの折り重なりを縫う一例を示す側面図。
【図12】2ステッチ毎に1つの折り重なりを縫う一例を示す側面図。
【図13】従来のひだ縫いの一例を示す側面図。
【符号の説明】
【0042】
H ミシンヘッド
N ひだ縫い機構
A 紐状素材
S 布地(被縫製物)
1 ミシンアーム
2 ミシン主軸
3 針棒
4 縫い針
13 回転筒
16 方向制御モータ
18 ボビンブラケット
19 紐状素材を巻回収納したボビン
21 送出し用の駆動モータ
24 支承部材
24a 支承部
28 ガイド部材
33 送りアーム
35 送り板(送出し部材)
【技術分野】
【0001】
本発明は、テープやコードなどの紐状素材を本縫いによって布地等の被縫製物に縫い付けることが可能な刺繍ミシンに関し、更に詳細には、紐状素材を折り重ねてひだ状にして縫い付けることが可能な刺繍ミシンに関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、下端部に縫い針を備え、上下に駆動される針棒と、針棒と同軸心上に組付けられ、その軸心回りの回転が自由な回転体と、この回転体とともに回転駆動されて縫い針の針元位置へ紐状素材を案内するガイドとを備え、刺繍データに基づく布地の移動方向に応じて回転体を回転制御し、針元への紐状素材の案内方向が適正となるようにガイドの向きを変更しつつ、この紐状素材を本縫いにより布地に縫い付けることが可能なミシンヘッドを備えた刺繍ミシンが知られている。
【0003】
このような刺繍ミシンにおいて、より装飾性を高めるために紐状素材を立体的に縫い付けることができるようにした刺繍ミシンが知られており、下記特許文献1には紐状素材を折り重ねて、その重なった部分を縫い付ける所謂「ひだ縫い」が可能な刺繍ミシンが開示されている。
【特許文献1】特開平7-70903号
【0004】
特許文献1の刺繍ミシンによれば、回転体とともに回転駆動されて縫い針の針元位置へ紐状素材を案内するガイドが、縫い針の下方部への進出動作と縫い針の側方部への後退動作を行う構成となっている。このガイドの進出動作によって紐状素材が折り重ねられるとともに、その状態で縫い針の針元位置へ案内され、紐状素材の重なった部分に縫い針が落ちて布地に縫い付けられる。
【0005】
図13には、特許文献1の刺繍ミシンにおいて、紐状素材を折り重ねる動作状態が示してあり、50はガイド、51は布押え体、Aは紐状素材、Sは布地である。ガイド50は、紐状素材Aの断面に合った断面形状を有する筒部分を含んでおり、この筒部分の中に紐状素材Aを挿入した状態で、図示しない揺動機構により揺動されることで、進出動作と後退動作を繰り返す。図13(a)はガイド50が後退動作によって後退した状態が示してある。ガイド50が後退した状態から進出動作を行うと、図13(b)に示すように紐状素材Aはガイド50の下方で折り重ねられる。ガイド50が更に進出動作を行うと、紐状素材Aが断面S字状に折り重ねられた状態で針元位置へ案内されて布地Sに縫い付けられる。なお、ガイド50の筒部分の中央部には、縫い付け時において針の侵入を許すように適宜の開口が設けられている。
【0006】
ここで、ガイド50の高さを変更する(低くする)ことによって、図13(c)に示すようにガイド50が進出動作を行ったとき、紐状素材Aが山状に盛り上げられるようにすることができる。ガイド50が更に進出動作を行うと布押え体51または図示しない縫糸によって山状に盛り上がった紐状素材Aがガイド50の上に折り重ねられて針元位置へ案内される。これにより紐状素材Aは逆S字状に折り重ねられた状態で布地Sに縫い付けられることになる。このように、上記特許文献1の刺繍ミシンでは、紐状素材AをS字状または逆S字状に折り重ねて立体的に縫い付けることができ、装飾性をより高めることができる。
【0007】
このように、特許文献1の刺繍ミシンでは、ガイド50の高さを変更することによって、紐状素材AをS字状または逆S字状に折り重ねて縫い付けることができるようになっている。しかしながら、紐状素材Aの折り重なりがどちら側となるかは、縫い状況によっても変わることがあった。例えば、刺繍データに基づく布地の移動方向に応じてガイド50の向きを大きく変更したときに、今までS字状であった紐状素材Aの折り重なりがその部分だけ逆S字状となることがあった。このように、特許文献1の刺繍ミシンでは紐状素材Aが意図しない状態に折り重ねられて布地Sに縫い付けられることがあった。
【0008】
また、ガイド50は布地Sの直ぐ上方で進退動作を行っている。このため、既に紐状素材Aが縫い付けられている付近で紐状素材Aを縫い付けるときに、進退動作を行うガイド50が縫い付けてある紐状素材Aに引掛かり、紐状素材Aを傷つけたりガイド50が折れ曲がる危険があった。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は上述の点に鑑みてなされたもので、紐状素材の折り重なりが一定の状態で安定して縫い付けられるようにした刺繍ミシンを提供しようとするものである。また、紐状素材の送出しのために進退動作する部材が既に縫い付けられた紐状素材に引掛ることがないようにした刺繍ミシンを提供しようとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明に係る刺繍ミシンは、縫い針を下端に有し、上下に駆動される針棒と、前記針棒と同軸心上に組付けられ、その軸心回りの回転が自由な回転体と、この回転体とともに回転して縫い針の針元位置へ紐状素材を案内するガイド機構とを備え、刺繍データに基づく布地の移動方向に応じて回転体を回転制御し、針元への紐状素材の案内方向が適正となるように前記ガイド機構の向きを変更しつつ、この紐状素材を本縫いにより被縫製物に縫い付けることが可能な刺繍ミシンにおいて、前記ガイド機構によって案内される前記紐状素材を支承する支承部材と、前記支承部材に対して変位し、前記支承部材に支承された前記紐状素材を針元位置の方へと送り出す送出し部材とを更に備え、前記送出し機構の送り出し動作によって前記紐状素材が折り重なった状態で針元位置へと案内されることを特徴とする。
【0011】
本発明によれば、ガイド機構によって案内される紐状素材を支承する支承部材に対して送出し部材が変位して、該支承部材に支承された紐状素材を針元位置の方へと送り出し、この送出し動作によって紐状素材が折り重なった状態で針元位置へと案内される。このように、支承部材に支承された紐状素材を送出し部材によって送り出す構成である(支承部材は送り出し動作に対して相対的に固定される)ため、送り出される紐状素材は支承部材によって安定して支持されることで常に同じ状態で折り重なるようになる。従って、折り重ね状態の乱れが生じないものとなる。これに伴い、意図した折り重ね状態になるように確実な制御が行えるようになる。これに伴い、1ステッチ毎の重ね縫い、あるいは2ステッチ毎の重ね縫いなど、種々の態様の重ね縫いを、意図した通りに確実に提供することができるようにもなる。
【0012】
好ましい実施形態において、前記支承部材は、前記紐状素材を載せる支承部を有し、前記送出し部材は、前記支承部の上を通って往復運動することで送り出し動作を行うことを特徴とする。これにより、送出し部材は、支承部の上を通って往復運動するために、該送出し部材が既に縫い付けられた紐状素材に引掛ることがなく、紐状素材を傷つけたり、紐状素材供給機構を損傷させたりするといったことが起こらない。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
以下、添付図面を参照して本発明の実施例を詳細に説明する。
図1〜図3には紐状素材の縫い付けが可能なミシンヘッドHが示してあり、図1は正面図、図2は左側面図、図3は右側面図である。このミシンヘッドHは周知のミシンヘッドに本発明の一実施例に係る「ひだ縫い機構N」を装着したものである。周知のミシンヘッドとしては、例えば特開平8-299639号公報に詳細な構成が開示されており、本実施例においては詳細な説明を省略する。
【0014】
ミシンヘッドHのミシンアーム1にはミシン主軸2が貫通して設けてあり、このミシン主軸2の回転によって図示しない針棒駆動機構を介して針棒3が、その下端に固定された縫い針4(図5参照)とともに上下に往復駆動される。この縫い針4の上下動と、針板5の下方に設けられた図示しない釜の回転によって周知の本縫いが行われる。
【0015】
ミシンアーム1の左側面には、布押え支持体7の昇降駆動のための昇降モータ9、布押え支持体7の方向制御のための方向制御モータ16が設けてある(図2)。またミシンアーム1の右側面には送り板(送出し部材)35を進退動させるための駆動モータ21が設けてある(図3)。なお、この駆動モータ21は、周知のミシンヘッドにおける千鳥振り駆動のためのモータであり、ひだ縫い機構Nは千鳥振り機構に換えて装着するものとしてある。すなわち、この実施例において、駆動モータ21は、本発明に関係するひだ縫い機構Nと、本発明に関係しない千鳥振り機構、の両者によって共用されるものである。しかし、これに限らず、本発明の実施にあたっては、ひだ縫い機構Nに専用のモータを設けてもよい。また、このひだ縫い機構Nに専用のモータは回転モータに限らず、リニアモータであってもよい。
【0016】
針棒3の外周には支持筒6が、ミシンアーム1の下部に固定された図示しない固定スリーブの内周面に案内されて針棒3との相対的な昇降動作及びその軸線回りの回転が可能に設けてある。支持筒6の下端部には布押え支持体7が固定してある。布押え支持体7は二股状に形成してあり、一方の外側面には上下に長いキー溝7aが形成され、他方の下方部には布押え体8が固定してある。支持筒6は、昇降モータ9の駆動によってガイド軸10に沿って昇降する昇降部材11に、駆動アーム12を介して連結してある。これにより、昇降モータ9を駆動させると支持筒6が布押え支持体7(布押え体8)とともに昇降されることとなる。
【0017】
前記図示しない固定スリーブの外周には、回転筒13がその軸線回りの回転のみ可能に設けてある。回転筒13の上端部外周にはプーリ14が形成してある。プーリ14はタイミングベルト15を介して方向制御モータ16の駆動によって回転する駆動プーリ17と連結してある。回転筒13の外周にはボビンブラケット18が固定してあり、ボビンブラケット18には紐状素材Aを巻回収納しているボビン19が回転自在に装着される。後述するように、ボビン19から繰り出された紐状素材Aがガイド部材28を介して縫い針4の針元位置へと案内されるようになっている。
【0018】
紐状素材Aを縫い針4の針元位置へと案内するためのガイド機構は、これらのボビンブラケット18、ボビン19、及び後述するガイド部材28等を含んで構成される。公知のように、刺繍縫いパターンに応じて方向制御モータ16を正転又は逆転駆動して回転筒13を適宜の角度回転させることにより、該回転筒13と共にボビンブラケット18に装着されたボビン19の向きを制御し、もって、該ボビン19から繰り出された紐状素材Aを縫いパターンに合わせた向きで縫い針4の針元位置へと案内する。
【0019】
回転筒13の外周には駆動リング20が、回転筒13に対する相対的な回転及び上下動作可能に設けてある。この駆動リング20の外周には環状溝20aが形成してあり、環状溝20aには駆動モータ21の駆動によってガイド軸22に沿って昇降する駆動アーム23の先端部(フォーク部)が係合してある。
【0020】
ひだ縫い機構Nは、前記ガイド機構によって案内される紐状素材Aを折り重ねた状態で針元位置へと案内することで、「ひだ縫い」を可能にするものである。このひだ縫い機構Nは、紐状素材Aを支承する支承部材24と紐状素材Aを送り出す送り板(送出し部材)35を含んで構成されている。図1及び図2に示すように、支承部材24は、回転筒13の下端部に固定されたベース部材25に固定ネジ26にて固定してある。ベース部材25には布押え支持体7のキー溝7aに係合するキー部材27が固定してある。このキー結合によって、ベース部材25は布押え支持体7と共に回転するが、上下動はしないようになっている。なお、図4はひだ縫い機構Nの部分を拡大して示す右側面図であり、送り板35が後退位置にある状態を示している。図5は送り板35が進出位置にある状態を示している。
【0021】
支承部材24は下端に支承部24aを有している。支承部24aの部分を拡大して示すと図6のようであり、図7はその分解図である。図6及び図7から明らかなように、支承部24aにはスリット24bが設けてあり、ボビン19から繰り出した紐状素材Aを、スリット24bの後方では支承部24aの底面に沿わせて、スリット24bから支承部24aの上面に導き出すようになっている。支承部24aには紐状素材Aを案内するガイド部材28が固定してある。図7より明らかなように、ガイド部材28は2つの部品より構成してあり、それぞれに紐状素材Aの一端を案内する案内片28a,28bが設けてある。両案内片28a,28bはスリット24b内に位置しており、このスリット24bの位置にて紐状素材Aを案内している。ガイド部材28を構成する2部品は、互いの案内片28a,28bの間隔を各種の紐状素材Aの幅に対応できるように位置調整可能となっている。
【0022】
図3あるいは図4に示すように、回転筒13の外周にはベルクランク29がピン30によって回動自在に支持してある。ベルクランク29のピン30から水平方向へ延びる部分の先端部にはローラ31が設けてあり、下方向へ延びる部分にはブラケット32を介して送りアーム33が固定ネジ34にて取り付けてある。送りアーム33の先端部には紐状素材Aを送り出す送り板35が固定してある。図1に示すように、あるいは図6で二点鎖線で示すように、送り板35の先端には縫い針4の通過を許容する通し孔(開口)35aが設けてあるとともに、紐状素材の滑りを防止する歯35bが形成してある。この通し孔35aは、図5に示すように送り板35が進出位置にあるとき、縫い針4の通過を許容する。
【0023】
前記駆動リング20には係合部材37が固定してあり、係合部材37の一部は回転筒13に形成された上下に長いキー溝13aと係合している。図4に示すように、係合部材37はフォーク部37aを有しており、フォーク部37aにはベルクランク29のローラ31が係合している。これにより、駆動モータ21の駆動によって駆動アーム23とともに駆動リング20が昇降すると、ベルクランク29がピン30を支点として送りアーム33とともに往復回動し、送り板35が図4に示す後退位置と図5に示す進出位置との間で進退動することとなる。
【0024】
また、ひだ縫い機構Nは、前述のように刺繍縫いパターンに応じた方向制御モータ16の駆動によって回転筒13が適宜の角度回転すると、ボビンブラケット18(ボビン19)、布押え支持体7(布押え体8)とともに回転することとなる。
【0025】
ひだ縫い機構Nの支承部材24及び送りアーム33は、布地を交換する際などに図8A,図8Bに示す退避位置に退避できるようになっている。図8Aは退避位置におけるひだ縫い機構Nの左側面図、図8Bは右側面図である。支承部材24には位置決めピン38が固定してあり、ベース部材25には位置決めピン38が嵌入する孔25a、25bが使用位置と退避位置に対応して設けてある。支承部材24が図2に示す使用位置にあるときには、位置決めピン38は使用位置に対応する孔25aに嵌入している。支承部材24を退避させるときは、固定ネジ26を緩めて位置決めピン38を孔25aから外し、支承部材24を(図2において)反時計方向に回動して位置決めピン38を退避位置に対応する孔25bに嵌入させて固定ネジ26を締める。
【0026】
送りアーム33には位置決めピン36が固定してあり、ブラケット32には位置決めピン36が嵌入する孔32aが設けてある。また、ブラケット32には位置決めピン36を係止可能な係止片32bが設けてある。送りアーム33が図3に示す使用位置にあるときには、位置決めピン36は孔32aに嵌入している。送りアーム33を退避させるときは、固定ネジ34を緩めて位置決めピン36を孔32aから外し、送りアーム33を(図3において)時計方向に回動して位置決めピン36を係止片32bに係止させて固定ネジ34を締める。
【0027】
本実施例において、紐状素材Aをひだ状に縫い付ける作業について説明する。
ボビン19に巻回収納された紐状素材Aを繰り出し、支承部材24の支承部24aを経て縫い針4の針元位置へと導く。この状態で布地(被縫製物)Sを、所望の刺繍縫いデータに基づきXY方向へ移動制御するとともに、針棒3を上下に駆動して縫い針4と図示しない釜とによって周知の縫い動作を行う。
【0028】
また、周知のように、昇降モータ9の駆動によって布押え体8は、針棒3の上下駆動に同期して所定のタイミングで上下動されて布押えの機能を果たす。また、周知のように、刺繍データ(刺繍縫いパターン)に応じた方向制御モータ16の駆動によって回転筒13が回転し、これに伴い、ボビンブラケット18及び布押え体8が、布地Sの移動に基づくミシンヘッドHの相対的な進行方向の前方に位置するように制御される。このとき、ひだ縫い機構Nも、回転筒13の回転に伴い、支承部材24の支承部24aがミシンヘッドHの相対的な進行方向の前方に位置するように(つまり紐状素材Aを縫い付けていくべき方向に)制御され、これにより、紐状素材Aが縫い針4の針元位置へ適正に案内される。
【0029】
また、縫い動作に連動して、1ステッチ毎若しくは複数ステッチ毎に、駆動モータ21が駆動され、これに応じて送り板35は所定の進出位置と後退位置の間で往復運動する。この送り板35の往復運動に応じて紐状素材Aが送り出され、該紐状素材Aがひだ状に重ねられた状態で縫い針4の針元位置に供給される。
【0030】
図9A〜図9Dは送り板35の進退動作の手順を示し、これによって、紐状素材Aがひだ状に重ねられる状態が示してある。
初めに、縫い針4が上下動されて少なくとも1針分の縫いが行われ、紐状素材Aの先端部が布地Sに縫い止められる。図9Aは紐状素材AがP点にて縫い止められた状態が示してあり、送り板35は所定の後退位置にある。
【0031】
次に、布地Sが刺繍データに基づいてXY方向へ移動され、縫い針4及び布押え体8が下降されるとともに、送り板35が進出されて紐状素材Aが送り出される。図9Bは、送り板35が進出している途中の状態を示す。このとき、紐状素材AはP点で縫い止められているために、図9Bに示すように送り出された分が山状に盛り上がる。
【0032】
送り板35の進出運動と縫い針4及び布押え体8の下降は更に続き、山状に盛り上がって送り出された紐状素材Aは、布押え体8または図示しない縫糸によって押し倒されて、図9Cに示すように、送り板35の上にひだ状に重ねられる。この状態で送り板35の進出運動と布押え体8の下降は停止するが、縫い針4は更に下降してひだ状に重ねられた紐状素材Aを布地Sに縫い付ける。その後、縫い針4及び布押え体8が上昇されるとともに、送り板35が後退される。
【0033】
以降、縫い針4及び布押え体8の昇降と、送り板35の進退運動を繰り返すことによって、図9Dに示すように紐状素材Aが一定の向きでひだ状に縫い付けられることとなる。
【0034】
図10には紐状素材Aをひだ状に縫い付けた一例が示してある。この図10から明らかなように、各ステッチは長さ方向に連なる所謂ランニングステッチが用いられ、紐状素材Aはこのランニングステッチに沿って縫い付けられる。従って、前記刺繍データはランニングステッチを形成するためのステッチデータ(布地SをXY方向へ駆動するためのデータ)である。このランニングステッチにて紐状素材Aが縫い付けられていく際に、各ステッチの進み方向が、該ステッチの形成毎にステッチデータに基づき演算され、その演算結果に従って回転筒13が回転制御される。この回転制御により支承部材24の支承部24aが、常に布地Sの移動に基づくミシンヘッドHの相対的な進行方向の前方に位置することになり、紐状素材Aは常にミシンヘッドHの相対的な進行方向の前方から供給されることとなる。
【0035】
紐状素材Aの縫い付け方は、送り板35の進退動のさせ方によって種々の態様となる。例えば、縫い針4の一往復毎に送り板35を進退動させると、図11に示すように1ステッチ毎に重ね縫いが行われる。また、図12に示すように1つの折り重なりを2ステッチで縫い付けるには、1ステッチ目に送り板35を進退動させて、2ステッチ目は送り板35の進退動を行わないようにするか、または、1ステッチ目に送り板35を進出させてその状態で停止し、2ステッチ目で送り板35を後退させることによって行える。他にも、ランニングステッチの1ステッチ長の変更や、送り板35の進退動ストロークの変更による折り重ね長さの変更などによって種々の態様の重ね縫いを提供できる。
【0036】
本実施例では、紐状素材Aを支承部材24の支承部24aを経て縫い針4の針元位置へと導き、支承部24aに支承された紐状素材Aを送り板35の進出によって送り出し、送り出した紐状素材Aを折り重ねるようになっている。よって、送り出される紐状素材Aは支承部材24によって送り板35(支承部材24)の下方で折り返されることはなく、送り板35の先端部にて必ず山状に盛り上がるために、紐状素材Aの折り重なりは全て同じ状態となる。これに伴い、上述したような種々の態様の重ね縫いを提供すべく、意図した折り重ね状態になるように、確実に制御することができるようになる。
【0037】
また、送り板35は支承部24a上で進退動されるために、送り板35が既に縫い付けられた紐状素材Aに引掛ることがなく、紐状素材Aを傷つけたり、送り板35が折れ曲がるといった危険性がない。
【0038】
本実施例において、送りアーム33をブラケット32を介してベルクランク29に取り付けるようにしたが、送りアーム33を直接ベルクランク29に取り付けるようにしてもよい。この場合、送りアーム33の使用位置と退避位置に対応して、位置決めピン36が嵌入する孔、又は、位置決めピン36が係止可能な係止片をベルクランク29に設ける。
【0039】
また、布押え体8の下死点位置及び昇降ストロークは任意に設定できるようになっており、本実施例では図9Bに示す状態のときには布押え体8が山状に盛り上がった紐状部材Aと当接していないが、このときに布押え体8が紐状部材Aと当接して紐状部材Aが押し倒されるようにしてもよい。このように、紐状部材Aを布押え体8との当接により早いタイミングで倒すようにすることで、送り板35の進退動ストロークが小さくひだ状の重なり(山状の盛り上がり)が小さいときでも、山状に盛り上がった紐状部材Aが確実に倒されて正規なひだ状に重ねられることとなる。
【0040】
本発明に係る刺繍ミシンは、紐状素材Aの縫付けが可能なミシンヘッドHを1つ備えたものであってもよいし、紐状素材Aの縫付けが可能なミシンヘッドHのみを複数備えたものであってもよいし、あるいは、紐状素材Aの縫付けが可能なミシンヘッドHと通常の刺繍用ミシンヘッドとを交互に備えたものであってもよい。何れの場合も、紐状素材Aの縫付けが可能なミシンヘッドHの各々に本発明を適用することができる。なお、最後の例の場合、1つの刺繍模様において、通常の刺繍縫いと紐状素材Aの縫付けを組み合わせて行うことを容易に実現できる。
【図面の簡単な説明】
【0041】
【図1】本発明の一実施例に係る紐状素材の縫い付けが可能なミシンヘッドの正面図。
【図2】同実施例に係るミシンヘッドの左側面図。
【図3】同実施例に係るミシンヘッドの右側面図。
【図4】図3におけるひだ縫い機構の部分を拡大して示す右側面図であって、送り板(送出し部材)が後退位置にある状態を示すもの。
【図5】図4と同様の右側面図であって、送り板(送出し部材)が進出位置にある状態を示すもの。
【図6】ひだ縫い機構における支承部材の下端の支承部の部分を拡大して示す斜視図。
【図7】支承部の分解図。
【図8A】退避位置におけるひだ縫い機構の左側面図。
【図8B】退避位置におけるひだ縫い機構の右側面図。
【図9A】ひだ縫い機構における送り板(送出し部材)が所定の後退位置にある状態を示す側面図。
【図9B】ひだ縫い機構における送り板(送出し部材)が進出途中にある状態を示す側面図。
【図9C】ひだ縫い機構における送り板(送出し部材)が所定の進出位置(進出終了位置)にある状態を示す側面図。
【図9D】多数のひだ縫いが形成された状態を示す側面図。
【図10】紐状素材をひだ状に縫い付けた一例を示す平面図。
【図11】1ステッチ毎に1つの折り重なりを縫う一例を示す側面図。
【図12】2ステッチ毎に1つの折り重なりを縫う一例を示す側面図。
【図13】従来のひだ縫いの一例を示す側面図。
【符号の説明】
【0042】
H ミシンヘッド
N ひだ縫い機構
A 紐状素材
S 布地(被縫製物)
1 ミシンアーム
2 ミシン主軸
3 針棒
4 縫い針
13 回転筒
16 方向制御モータ
18 ボビンブラケット
19 紐状素材を巻回収納したボビン
21 送出し用の駆動モータ
24 支承部材
24a 支承部
28 ガイド部材
33 送りアーム
35 送り板(送出し部材)
【特許請求の範囲】
【請求項1】
縫い針を下端に有し、上下に駆動される針棒と、
前記針棒と同軸心上に組付けられ、その軸心回りの回転が自由な回転体と、
この回転体とともに回転して縫い針の針元位置へ紐状素材を案内するガイド機構と
を備え、刺繍データに基づく布地の移動方向に応じて回転体を回転制御し、針元への紐状素材の案内方向が適正となるように前記ガイド機構の向きを変更しつつ、この紐状素材を本縫いにより被縫製物に縫い付けることが可能な刺繍ミシンにおいて、
前記ガイド機構によって案内される前記紐状素材を支承する支承部材と、
前記支承部材に対して変位し、前記支承部材に支承された前記紐状素材を針元位置の方へと送り出す送出し部材と
を更に備え、前記送出し部材の送出し動作によって前記紐状素材が折り重なった状態で針元位置へと案内されることを特徴とする刺繍ミシン。
【請求項2】
前記支承部材は、前記紐状素材を載せる支承部を有し、
前記送出し部材は、前記支承部の上を通って往復運動することで送り出し動作を行うことを特徴とする請求項1に記載の刺繍ミシン。
【請求項3】
前記送出し部材を駆動して前記送出し動作を行わせる駆動機構を具備する請求項1又は2に記載の刺繍ミシン。
【請求項4】
前記駆動機構は、モータと該モータの運動を前記送出し部材に伝達する伝達機構を含む請求項3に記載の刺繍ミシン。
【請求項5】
前記送出し部材は、前記紐状素材に接する箇所に滑り防止構造を有することを特徴とする請求項1に記載の刺繍ミシン。
【請求項6】
前記送出し部材は、所定の進出位置と後退位置の間で往復運動するものであり、進出位置にあるとき縫い針の通過を許すよう、開口が設けられていることを特徴とする請求項1に記載の刺繍ミシン。
【請求項7】
前記送出し部材の往復運動を1ステッチにつき1回行うことを特徴とする請求項6に記載の刺繍ミシン。
【請求項8】
前記送出し部材の往復運動を複数ステッチにつき1回行うことを特徴とする請求項6に記載の刺繍ミシン。
【請求項9】
紐状素材の縫い付けを行うミシンヘッドを複数有し、各ミシンヘッド毎に、前記回転体と、前記ガイド機構と、前記支承部材と、前記送出し部材とを具備する請求項1に記載の刺繍ミシン。
【請求項10】
通常の刺繍縫いを行うミシンヘッドと、紐状素材の縫い付けを行うミシンヘッドとを有し、前記紐状素材の縫い付けを行うミシンヘッドにおいて、前記回転体と、前記ガイド機構と、前記支承部材と、前記送出し部材とを具備する請求項1に記載の刺繍ミシン。
【請求項1】
縫い針を下端に有し、上下に駆動される針棒と、
前記針棒と同軸心上に組付けられ、その軸心回りの回転が自由な回転体と、
この回転体とともに回転して縫い針の針元位置へ紐状素材を案内するガイド機構と
を備え、刺繍データに基づく布地の移動方向に応じて回転体を回転制御し、針元への紐状素材の案内方向が適正となるように前記ガイド機構の向きを変更しつつ、この紐状素材を本縫いにより被縫製物に縫い付けることが可能な刺繍ミシンにおいて、
前記ガイド機構によって案内される前記紐状素材を支承する支承部材と、
前記支承部材に対して変位し、前記支承部材に支承された前記紐状素材を針元位置の方へと送り出す送出し部材と
を更に備え、前記送出し部材の送出し動作によって前記紐状素材が折り重なった状態で針元位置へと案内されることを特徴とする刺繍ミシン。
【請求項2】
前記支承部材は、前記紐状素材を載せる支承部を有し、
前記送出し部材は、前記支承部の上を通って往復運動することで送り出し動作を行うことを特徴とする請求項1に記載の刺繍ミシン。
【請求項3】
前記送出し部材を駆動して前記送出し動作を行わせる駆動機構を具備する請求項1又は2に記載の刺繍ミシン。
【請求項4】
前記駆動機構は、モータと該モータの運動を前記送出し部材に伝達する伝達機構を含む請求項3に記載の刺繍ミシン。
【請求項5】
前記送出し部材は、前記紐状素材に接する箇所に滑り防止構造を有することを特徴とする請求項1に記載の刺繍ミシン。
【請求項6】
前記送出し部材は、所定の進出位置と後退位置の間で往復運動するものであり、進出位置にあるとき縫い針の通過を許すよう、開口が設けられていることを特徴とする請求項1に記載の刺繍ミシン。
【請求項7】
前記送出し部材の往復運動を1ステッチにつき1回行うことを特徴とする請求項6に記載の刺繍ミシン。
【請求項8】
前記送出し部材の往復運動を複数ステッチにつき1回行うことを特徴とする請求項6に記載の刺繍ミシン。
【請求項9】
紐状素材の縫い付けを行うミシンヘッドを複数有し、各ミシンヘッド毎に、前記回転体と、前記ガイド機構と、前記支承部材と、前記送出し部材とを具備する請求項1に記載の刺繍ミシン。
【請求項10】
通常の刺繍縫いを行うミシンヘッドと、紐状素材の縫い付けを行うミシンヘッドとを有し、前記紐状素材の縫い付けを行うミシンヘッドにおいて、前記回転体と、前記ガイド機構と、前記支承部材と、前記送出し部材とを具備する請求項1に記載の刺繍ミシン。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8A】
【図8B】
【図9A】
【図9B】
【図9C】
【図9D】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8A】
【図8B】
【図9A】
【図9B】
【図9C】
【図9D】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【公開番号】特開2008−125911(P2008−125911A)
【公開日】平成20年6月5日(2008.6.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−316239(P2006−316239)
【出願日】平成18年11月22日(2006.11.22)
【出願人】(000219749)東海工業ミシン株式会社 (55)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成20年6月5日(2008.6.5)
【国際特許分類】
【出願日】平成18年11月22日(2006.11.22)
【出願人】(000219749)東海工業ミシン株式会社 (55)
【Fターム(参考)】
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