説明

前後二分割型ドアトリムの成形方法

【課題】二色成形による前後二分割型ドアトリムの成形方法であって、ウエスト部における分割機構部の構成に工夫を加えることで、分割部においてウエストフランジが切欠されることなく、全長に亘りウエストフランジを形成することにより、ウエスト部の剛性を高め、変形を防止し、取付安定性を高める。
【解決手段】前後二分割型ドアトリム10は、上下方向に延びる分割ライン11を境界として、トリム・フロント20とトリム・リヤ30とを一体化して構成され、ウエスト部10aにおける分割ライン11には、段差13が設定されている。そして、この段差13を有効に利用して、ドアトリム10のウエスト部10aにおける分割機構部80として成形金型40の段差53と当接シールする横方向にスライドするスライド式分割駒81を配置することで、ウエストフランジ12の切欠部をなくし、ウエスト部10aの全長に亘りウエストフランジ12の設定を可能とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、前後二分割型ドアトリムの成形方法に係り、特に、分割部においてもウエストフランジが切欠されることなく、ウエスト部の全長に亘りウエストフランジを設けることができ、ウエスト部の剛性を強化でき、変形を確実に防止できるとともに、パネルへの取付安定性を高めた前後二分割型ドアトリムの成形方法に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば、図18には、二色成形品の一例として、前後二分割タイプのドアトリム1が示されている。このドアトリム1は、トリム・フロント2と、トリム・リヤ3との前後二分割体から構成され、両者を分割する上下方向に延びる分割ラインaにより、製品面が前後に二分割されている。
【0003】
次に、前後二分割体からなるドアトリム1の従来の成形方法について説明する。まず、使用する成形金型4は、図19に示すように、所定ストローク上下動可能な成形上型5と、成形上型5の下方に位置する固定側の成形下型6と、溶融樹脂を供給するために成形下型6に連結されている射出機7a,7bと、成形下型6に配設され、キャビティを分割する分割バー8とから構成されている。
【0004】
従って、トリム・フロント2及びトリム・リヤ3をそれぞれ成形するには、成形上型5を所定ストローク下降操作して、成形上下型5,6を型締めする。この成形上下型5,6の型締め時には、分割バー8の駆動シリンダ8aが伸長動作することにより、分割バー8は、上方に位置しており、成形上型5の型面と当接状態にあり、この分割バー8によりキャビティはトリム・フロント2及びトリム・リヤ3とを形成するそれぞれのキャビティC1,C2に区画されている。そして、まず、第1のキャビティC1内に射出機7aから溶融樹脂M1が射出充填されてトリム・フロント2が成形される。
【0005】
その後、駆動シリンダ8aが収縮動作することにより、成形下型6内に入り込むように分割バー8が後退動作して、第1のキャビティC1と第2のキャビティC2とが連通するとともに、第2のキャビティC2内に射出機7bから溶融樹脂M2が射出充填されてトリム・リヤ3が成形される。
【0006】
また、ドアトリム1は、図示しないドアウインドウガラスに対するシール機能を有するドアインナーシール(図示せず)を装着するためのウエストフランジ9がドアトリム1のウエスト部に設けられている。ウエスト部における分割バー8については、図20(a)においてトリム・フロント2の成形時における分割バー8の位置関係を示し、図20(b)においてトリム・リヤ3の成形時における分割バー8の位置関係を示す。そして、図21に示すように、分割バー8は、駆動シリンダ8aにより上下駆動されるが、分割バー8の動作方向は、ウエストフランジ9と干渉するため、ウエストフランジ9には切欠部9aが設定されている。尚、二色成形品の従来の成形方法並びに成形金型の具体例については、特許文献1に詳細に記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2003−127174号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
このように、従来の前後二分割型のドアトリム1の成形方法は、分割バー8によりキャビティを二分割し、各キャビティC1,C2に溶融樹脂M1,M2を射出充填することで、トリム・フロント2とトリム・リヤ3とが二色成形されている。そして、ドアトリム1のウエストフランジ9については、分割バー8が昇降動作するのを許容するために、図22に示すように、分割バー8の形状に相当する切欠部9aが型構造上形成され、ドアトリム1におけるウエスト部において剛性が不足し、変形を誘発し易く、かつパネルへの取付安定性に劣るという問題点が指摘されている。
【0009】
この発明は、このような事情に鑑みてなされたもので、トリム・フロントとトリム・リヤとから構成され、ウエスト部の先端縁に沿ってウエストフランジが設定された前後二分割型ドアトリムの成形方法において、分割部分のウエストフランジに切欠部が形成されることなく、ウエスト部の剛性を充分確保でき、変形を有効に抑制することができるとともに、パネルへの取付安定性を高めた前後二分割型ドアトリムの成形方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記目的を達成するために本発明者等は、鋭意研究の結果、前後二分割型ドアトリムにおいて、ウエスト部における分割部付近に段差形状を設定し、横方向にスライドする分割駒を成形金型の段差部分相当箇所の内面に当接させることで、キャビティを区画するか、成形金型の段差部分に当接する分割バーを斜め方向に駆動させることでキャビティを区画することにより、それぞれウエストフランジの設定が可能になることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0011】
すなわち、本発明は、成形上下型を型締めし、両金型間に画成されるキャビティを分割機構部により複数のキャビティに分割し、各キャビティに異なる溶融樹脂を射出機からそれぞれ射出充填することで、トリム・フロントとトリム・リヤを一体化するとともに、トリム・フロント及びトリム・リヤのウエスト部先端縁に沿ってウエストフランジを一体化してなる前後二分割型ドアトリムの成形方法において、前記ドアトリムのウエスト部におけるトリム・フロントとトリム・リヤの分割部に段差が設けられているとともに、ウエスト部の分割機構部は、スライド式に動作して、成形上型の段差内面とシールするスライド式分割駒とウエストフランジをシールするフランジシール用分割バーが設けられており、上記スライド式分割駒が前進して成形上型の段差の内面をシールするとともに、フランジシール用分割バーが上昇した状態で一方側のキャビティ内に溶融樹脂を射出充填して、トリム・リヤを成形した後、スライド式分割駒が後退するとともに、フランジシール用分割バーが下降した状態で他方側のキャビティ内に溶融樹脂を射出充填して、トリム・フロントを成形することを特徴とする。
【0012】
ここで、前後二分割型ドアトリムは、トリム・フロントとトリム・リヤの前後二分割体を上下方向に沿って延びる分割ラインを境界として両者を一体化して構成されている。そして、特に本発明方法においては、分割ラインのウエスト部において、トリム・フロントかトリム・リヤのいずれか一方側に段差が設定されており、成形金型の段差面と分割機構部とでシール作用を達成させることにより分割機構部がウエストフランジと干渉しないため、分割部においてもウエストフランジが切欠されることなく、全長に亘りウエストフランジが設定されている。
【0013】
また、前後二分割型ドアトリムを構成するトリム・フロント及びトリム・リヤに使用する樹脂材料は、1種類の熱可塑性樹脂でも2種類以上の熱可塑性樹脂からなっても良く、好ましくは、ポリエチレン系樹脂、ポリプロピレン系樹脂、ポリスチレン系樹脂、ポリエチレンテレフタレート系樹脂、ポリビニルアルコール系樹脂、塩化ビニル系樹脂、ポリアミド系樹脂、ポリアセタール系樹脂、ポリカーボネート系樹脂、アイオノマー系樹脂、アクリロニトリル/ブタジエン/スチレン(ABS)樹脂等が使用でき、これらの熱可塑性樹脂中に各種充填剤を混入しても良い。使用できる充填剤としては、ガラス繊維、カーボン繊維等の無機繊維、タルク、クレイ、シリカ、炭酸カルシウム等の無機粒子がある。また、酸化防止剤、紫外線吸収剤、着色剤、難燃剤、低収縮剤等の各種の添加剤が配合されても良い。
【0014】
更に、本発明方法に使用する成形金型は、所定ストローク上下動可能な成形上型と、この成形上型の下方に位置する固定側である成形下型と、成形下型に連結され、溶融樹脂を供給する射出機と、トリム・フロントとトリム・リヤとの分割ラインと対応する部位に設けられる分割機構部とから構成されている。そして、上記射出機は、二つの異なるキャビティに対応するように2機設定されている。更に、キャビティを分割する分割機構部は、製品一般部に対応する一般部の分割機構部とウエスト部に対応するウエスト部の分割機構部とを備えている。一般部の分割機構部は、成形下型に内挿される上下動可能な分割バーと、この分割バーを駆動するシリンダとから構成されている。
【0015】
また、ドアトリムのウエスト部に相当する分割機構部には、トリムの段差形状に相当するキャビティ内にスライド式分割駒が収容されているとともに、ウエストフランジをシールするフランジシール用分割バーが設けられている。そして、スライド式分割駒は、進退動作用シリンダの前進動作により、成形金型の段差面に当接して二つのキャビティを区画する一方、進退動作用シリンダの後退動作により、段差面から離れて二つのキャビティを連通させる。また、フランジシール用分割バーは、上下動作用シリンダの駆動によりウエストフランジ形成部位を区画、あるいは連通させる。
【0016】
従って、スライド式分割駒はウエストフランジと干渉することがなく、スライド式分割駒とフランジシール用分割バーの動作により、トリム・フロント及びトリム・リヤの双方の成形を精度良行なうことができるとともに、ウエスト部全長に亘りウエストフランジを設定することができる。
【0017】
次いで、本発明の好ましい実施の形態においては、成形上下型を型締めし、両金型間に画成されるキャビティを分割機構部により複数のキャビティに分割し、各キャビティに異なる溶融樹脂を射出機からそれぞれ射出充填することで、トリム・フロントとトリム・リヤを一体化するとともに、トリム・フロント及びトリム・リヤのウエスト部先端縁に沿ってウエストフランジを一体化してなる前後二分割型ドアトリムの成形方法において、前記ドアトリムのウエスト部におけるトリム・フロントとトリム・リヤの分割部に段差が設けられているとともに、ウエスト部の分割機構部は、横方向にスライドして、成形上型の段差の内面とシールするスライド式分割駒が設けられており、このスライド式分割駒は、スライド動作時、ウエストフランジ側に突出する成形金型のシール用凸部と当接シールする凸部が設けられており、スライド式分割駒が前進動作して、成形上型の段差の内面とシールする際、上記凸部がウエストフランジ形成部位をシールすることで、キャビティを区画し、キャビティ内に溶融樹脂を射出充填して、トリム・リヤを所要形状に成形し、その後、スライド式分割駒が後退して、ウエストフランジを含めたキャビティ間を連通させて、他方側のキャビティ内に溶融樹脂を射出充填して、トリム・フロントを上記トリム・リヤと一体化することを特徴とする。
【0018】
ここで、ウエストフランジ形成部位の金型側のシール用凸部とスライド式分割駒の凸部とが当接することで、フランジシール用分割バーを廃止することができる。従って、この実施の形態によれば、スライド式分割駒が前進して成形金型の段差面と当接する時、スライド式分割駒の凸部とウエストフランジ形成部位の金型に設けたシール用凸部とが当接するため、従来必要としたフランジシール用分割バーと、これを駆動させる上下動作用シリンダを廃止でき、金型構造を簡素化できる。
【0019】
更に、本発明方法の別の実施の形態においては、成形上下型を型締めし、両金型間に画成されるキャビティを分割機構部により複数のキャビティに分割し、各キャビティに異なる溶融樹脂を射出機からそれぞれ射出充填することで、トリム・フロントとトリム・リヤを一体化するとともに、トリム・フロント及びトリム・リヤのウエスト部先端縁に沿ってウエストフランジを一体化してなる前後二分割型ドアトリムの成形方法において、前記ドアトリムのウエスト部におけるトリム・フロントとトリム・リヤの分割部に段差を設けるとともに、ウエスト部の分割機構部として斜め方向に下降する分割バーを設け、この分割バーを成形上型の段差の内面に当接シールさせることで、ウエストフランジを含むキャビティ間を区画及び連通させて、それぞれのキャビティ内に溶融樹脂を射出充填して、ウエストフランジをウエスト部の全長に亘り備える形態でトリム・フロントとトリム・リヤとを一体化することを特徴とする。
【0020】
そして、この実施の形態によれば、分割バーはウエスト部においては斜め方向に上下動作を行ない、上昇時には金型の段差面と当接して、二つのキャビティを区画するとともに、下降時には斜め方向に下降することで、二つのキャビティを連通させる。尚、段差の寸法分下降ストロークは少なくて済む。
【発明の効果】
【0021】
以上説明した通り、本発明に係る前後二分割型ドアトリムの成形方法は、トリム・フロントとトリム・リヤとの境界部位のウエスト部に段差を設け、この段差に相当するキャビティ内にスライド式分割駒、あるいは斜め方向に駆動する分割バーを配置し、スライド式分割駒、あるいは分割バーと金型段差面とを当接させて二つのキャビティを区画するというものであるから、スライド式分割駒、あるいは分割バーはウエストフランジを貫通する方向に駆動させる必要がないため、ドアトリムのウエスト部全長に亘りウエストフランジを設定することができ、ウエスト部における剛性を高め、変形を有効に防止することができるとともに、パネルや相手部品に対する取付安定性を高めることができるという効果を有する。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】本発明方法により成形された前後二分割型ドアトリムを示す正面図である。
【図2】図1中II−II線断面図である。
【図3】図1に示す前後二分割型ドアトリムにおけるウエスト部を示す斜視図である。
【図4】図1に示す前後二分割型ドアトリムを成形する際に使用する成形金型の全体構成を示す説明図である。
【図5】図4に示す成形金型におけるウエスト部の分割機構部の構成を示す説明図である。
【図6】本発明方法に使用する成形金型におけるウエスト部の分割機構部の構成を示す説明図である。
【図7】本発明方法に使用する成形金型におけるスライド式分割駒とトリムとの関係を示す説明図である。
【図8】本発明方法におけるトリム・リヤの成形工程を示す説明図である。
【図9】本発明方法におけるトリム・リヤの成形工程におけるウエスト部の分割機構部の作用を示す説明図である。
【図10】本発明方法におけるトリム・フロントの成形工程を示す説明図である。
【図11】本発明方法におけるトリム・フロントの成形工程におけるウエスト部の分割機構部の作用を示す説明図である。
【図12】本発明方法の変形例を使用して成形した前後二分割型ドアトリムのウエスト部の構成を示す斜視図である。
【図13】本発明方法の変形例におけるウエスト部の分割機構部の構成を示すもので、二つのキャビティを区画した状態を示す説明図である。
【図14】本発明方法の変形例におけるウエスト部の分割機構部の構成を示すもので、二つのキャビティを連通させた状態を示す説明図である。
【図15】本発明方法の更に別の変形例における分割バーのキャビティ区画状態を示す説明図である。
【図16】本発明方法の更に別の変形例における分割バーのキャビティ連通状態を示す説明図である。
【図17】本発明方法の更に別の変形例における分割バーの動作状態を示す説明図である。
【図18】従来の前後二分割型ドアトリムを示す正面図である。
【図19】従来の前後二分割型ドアトリムの成形に使用する成形金型の概要図である。
【図20】従来の成形金型におけるウエスト部の分割バーを示す説明図である。
【図21】従来の成形金型におけるウエスト部の分割バーを示す説明図である。
【図22】従来の前後二分割型ドアトリムにおけるウエストフランジ付近の構成を示す斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、本発明に係る前後二分割型ドアトリムの成形方法の好適な実施例について、添付図面を参照しながら詳細に説明する。尚、念のため付言すれば、本発明の要旨は特許請求の範囲に記載した通りであり、以下に説明する実施例の内容は、本発明の一例を単に示すものに過ぎない。
【実施例】
【0024】
図1乃至図17は本発明の一実施例を示すもので、図1は本発明方法を適用して成形した前後二分割型ドアトリムの正面図、図2は同ドアトリムの構成を示す断面図、図3は同ドアトリムにおけるウエストフランジを示す斜視図、図4は同前後二分割型ドアトリムの成形に使用する成形金型の全体構成を示す説明図、図5,図6は同成形金型におけるウエスト部の分割機構部の構成を示す各説明図、図7は同ウエスト部における分割機構部とトリムとの関係を示す説明図、図8乃至図11は本発明方法の各工程を示す説明図、図12乃至図14は本発明の変形例を示すもので、図12はウエストフランジの形状を示す説明図、図13,図14は同変形例における分割機構部の動作を示す各説明図、図15乃至図17は本発明の更に別の変形例を示すもので、図15,図16は分割バーの上昇時と下降時のそれぞれの設定位置を示し、図17は分割バーの動作を示す説明図である。
【0025】
図1乃至図3において、ツートンタイプの前後二分割型ドアトリム10は、トリム・フロント20とトリム・リヤ30との前後二分割体から構成されている。そして、トリム・フロント20には、ドアを開閉する際に使用するインサイドハンドルユニット21が装着されているとともに、トリム・リヤ30には、乗員が肘を掛けて休めるアームレスト31が設けられている。そして、トリム・フロント20とトリム・リヤ30の製品面は、上下方向に沿って延びる分割ライン11を境界として前後に区画されている。そして、図3に示すように、ドアトリム10のウエスト部10aの先端には、ドアウインドウガラスをシールするドアインナーシール(共に図示せず)を取り付けるためのウエストフランジ12が設けられている。ここで、従来では金型構造上分割ライン11付近のウエストフランジ12には切欠部が余儀なく形成されていたが、本発明では、分割ライン11においても、切欠部が形成されることなく、全長に亘りウエストフランジ12が設けられている。従って、ウエスト部10aにおける剛性が強化され、ウエスト部10aにおける変形が未然に防止できるとともに、パネルや相手部品に対する取付安定性を高めた理想的な構成となっている。そのために、図3に示すように、分割ライン11におけるウエスト部10aには、段差13を設けることが必要である。この実施例では、トリム・フロント20側に段差13が設定されているが、造形上、段差13はトリム・リヤ30側に設けても良い。
【0026】
本発明は、このようにウエスト部10aにおいて段差13を設定することで、分割ライン11の端末部においてもウエストフランジ12を設けることを可能にしたものである。以下、その理由について説明する。図4は、上記ドアトリム10を成形する際に使用する成形金型40の全体構成を示すもので、図5乃至図7は、同成形金型40におけるドアトリム10のウエスト部10aに対応する分割機構部の構成並びに動作が示されている。まず、全体構成について図4を基に説明する。成形金型40は、所定ストローク上下動可能な成形上型50と、成形上型50と対をなす固定側の成形下型60と、トリム・フロント20とトリム・リヤ30とを分割する分割機構部(一般部の分割機構部70、ウエスト部の分割機構部80)とから大略構成されている。
【0027】
更に詳しくは、成形上型50は、製品形状に合致したキャビティ部51が形成されており、成形上型50の上面に連結された昇降シリンダ52により所定ストローク上下駆動される。一方、成形下型60には、成形上型50のキャビティ部51に対応するコア部61が設けられており、このコア部61に対して2機の射出機62a,62bが連結されている。そして、これら2機の射出機62a,62bから供給される溶融樹脂M1,M2は、成形下型60に設けられてマニホールド63a,63b、ゲート64a,64bの樹脂通路を通じてコア部61の型面所定位置、すなわち、キャビティC1とキャビティC2とに分配供給される。次いで、一般部の分割機構部70は、図1中分割ライン11に沿って延びる分割バー71と、この分割バー71を成形上型50の可動方向とほぼ同一方向に所定ストローク上下動作させる駆動シリンダ72とから構成されている。従って、トリム・フロント20とトリム・リヤ30とを同一の成形金型40を使用して連続する工程で成形する際、この分割機構部70により樹脂漏れが生じることがなく良好に成形できる。
【0028】
更に、ドアトリム10におけるウエスト部10aに配置される分割機構部80の構成について、図5乃至図7を基に説明する。その前に、まず、トリム・フロント20に段差13を設けているが、それに対応する成形上型50についても、段差53が形成されており、これと関連して、ウエスト部10aの分割機構部80は、成形上型50の段差53と当接離反するスライド式分割駒81とウエストフランジ12をシールするフランジシール用分割バー82とから構成されており、スライド式分割駒81は、進退動作用シリンダ83によりスライド方向に進退動作されるとともに、フランジシール用分割バー82は上下動作用シリンダ84により上下駆動される。すなわち、二つのキャビティC1,C2を区画する時には、スライド式分割駒81は進退動作用シリンダ83が伸長することで、成形上型50の段差53と当接してキャビティC1,C2を良好にシールしている。尚、この時、上下動作用シリンダ84の伸長動作により、図6に示すように、フランジシール用分割バー82についても、キャビティC2内に侵入し、ウエストフランジ形成部位をシールしている。また、スライド式分割駒81が進退動作する際、成形上型50の型面との間で摩擦が生じ、スライド式分割駒81が損傷するのを未然に防止するために成形上型50の型面とスライド式分割駒81との間にスペースが設けられている。
【0029】
そして、進退動作用シリンダ83が収縮動作して、スライド式分割駒81が後退するとともに、上下動作用シリンダ84が収縮して、フランジシール用分割バー82が下降して、キャビティC1,C2とが連通される。尚、参考までに、スライド式分割駒81とトリム・フロント20の段差13との関係について図7に示す。
【0030】
次いで、上述した構成の成形金型40を使用して図1乃至図3に示すドアトリム10の成形方法について説明する。尚、本実施例では、トリム・フロント20に段差13を形成したため、まず、段差13を形成していないトリム・リヤ30から成形を行なう。図8,図9は、トリム・リヤ30の成形工程を示すもので、図8に示すように、成形上型50が所定ストローク下降して、成形上下型50,60が型締めされる。この時、一般部の分割機構部70における分割バー71は、駆動シリンダ72の伸長動作により上昇し、分割バー71は成形上型50の型面と当接シールすることで二つのキャビティC1,C2を良好なシール性でもって区画している。そして、この状態で第1の射出機62aから溶融樹脂M1がマニホールド63a、ゲート64aを通じて第1のキャビティC1内に射出充填されて、トリム・リヤ30が所要形状に成形される。この実施例では、溶融樹脂M1として汎用の合成樹脂を使用することができる。例えば、ポリエチレン系樹脂、ポリプロピレン系樹脂、ポリスチレン系樹脂、ポリエチレンテレフタレート系樹脂、ポリビニルアルコール系樹脂、塩化ビニル系樹脂、ポリアミド系樹脂、ポリアセタール系樹脂、ポリカーボネート系樹脂、アイオノマー系樹脂、アクリロニトリル/ブタジエン/スチレン(ABS)樹脂等から適宜選択して良い。上記熱可塑性樹脂中に適宜フィラー、例えば、ガラス繊維、カーボン繊維等の無機繊維や、タルク、クレイ、シリカ、炭酸カルシウム等の無機粒子を素材とした充填剤が混入されていても良い。
【0031】
ここで、ドアトリム10のウエスト部10aにおける分割機構部80は、進退動作用シリンダ83の伸長動作により、スライド式分割駒81は、図5に示すように成形上型50の段差53に当接するように前進しており、フランジシール用分割バー82についても、上下動作用シリンダ84の伸長動作によりウエストフランジ形成部位まで侵入して、キャビティC1,C2を良好に区画しているため、溶融樹脂M1が漏出することなくトリム・リヤ30を精度良く成形できる。
【0032】
その後、トリム・リヤ30の成形が完了すれば、図10に示すように、一般部の分割機構部70における分割バー71が駆動シリンダ72の収縮動作により下降して、キャビティC1,C2が連通される。そして、射出機62bからマニホールド63b、ゲート64bを通じてキャビティC2内に溶融樹脂M2が射出充填されて、既に成形されているトリム・リヤ30に対してトリム・フロント20が一体化されて、図2に示すように前後二分割型のドアトリム10の成形が完了する。
【0033】
この時、図11に示すように、ウエスト部10aの分割機構部80においては、進退動作用シリンダ83及び上下動作用シリンダ84の収縮動作により、スライド式分割駒81は矢印A方向に後退するとともに、フランジシール用分割バー82においても矢印B方向に沿って所定ストローク下降して、ウエストフランジ12が従来のように切欠されることなく、全長に亘り形成され、トリム・フロント20とトリム・リヤ30との一体成形が完了する。
【0034】
このように、上述した実施例においては、前後二分割型のドアトリム10のウエスト部10aにおいて、段差13を設け、分割機構部80について、ウエストフランジ12と干渉することなく、段差13に対応する成形上型50の段差53をシール面として有効に利用することで、ウエストフランジ12が分割部において切欠されることなく、全長に亘りウエストフランジ12が設けられることにより、剛性を強化でき、ウエスト部10aにおける変形を未然に防止するとともに、パネルや相手部品に対する取付安定性を高めることができるという効果がある。
【0035】
次いで、図12乃至図14は上述実施例の変形例を示すもので、ウエスト部10aにおける分割機構部80の構成として、フランジシール用分割バー82及び上下動作用シリンダ84を廃止するために、スライド式分割駒81に凸部81aを設け、この凸部81aと当接シールするようにウエストフランジ形成部位の成形下型60についてもシール用凸部65を設定したことが特徴である。従って、トリム・リヤ30を成形する際は、図13に示すように、スライド式分割駒81と、成形上型50の段差53とが当接シールして、キャビティC1,C2とを良好に区画することができるとともに、ウエストフランジ12に対応するスペースにおいても、成形下型60にシール用凸部65が形成され、このシール用凸部65とスライド式分割駒81の凸部81aとが当接することで、ウエストフランジ形成部位におけるシール性を確保することができる。そして、図14に示すように、トリム・フロント20の成形時においては、ウエスト部10aの分割機構部80において、進退動作用シリンダ83が収縮動作して、スライド式分割駒81が後退すれば、ウエストフランジ形成部位においても、シール用凸部65とスライド式分割駒81の凸部81aとが離反することで、ウエストフランジ12についても、キャビティC1とC2とを連通させることができ、トリム・フロント20及びトリム・リヤ30双方のウエスト部10a全長に亘りウエストフランジ12を一体成形することができる。尚、上記シール用凸部65に相当するようにウエストフランジ12には、薄肉部12aが形成されている(図12参照)。
【0036】
次いで、図15乃至図17は、本発明の更に別の変形例を示すもので、ウエスト部10aの分割機構部80は、斜め方向に上下動作する分割バー85が設けられている。この変形例においても、トリム・リヤ30の成形時においては、図15に示すように、分割バー85は成形上型50と当接しており、樹脂漏れが生じることなく、トリム・リヤ30の成形を行なうことができる。そして、図16に示すように、トリム・フロント20の成形時においては、分割バー85は図16中矢印方向、すなわち斜め下方向に動作するが、この変形例においても、ウエスト部10aに段差13が形成されているため、この部位にウエストフランジ12を設定することができる。
【0037】
そして、図17(a)は、分割バー85の動作をドアトリム10の正面側から見た図であり、図17(b)は、分割バー85の動作を示す断面図である。この時、分割バー85は、図17(b)に示すように、斜め方向に下降する条件を備えていれば、図17(a)に示すように、P1で示す下方向、あるいはP2で示す斜め方向どちらでも良い。従って、成形上型50に段差53を設け、この段差53と分割バー85とを当接シールさせるため、成形上型50の型面と当接させる場合に比べ分割バー85のストロークが少なくて済み、小容量化が可能となる。また、図17(b)で示す板厚(図中dで示す)を薄く設定でき、軽量化に貢献できるという効果もある。。
【産業上の利用可能性】
【0038】
以上説明した実施例は、トリム・フロント20とトリム・リヤ30とからなる前後二分割型ドアトリム10であり、実施例においては、トリム・フロント20に段差13を設定する構成を採用し、まず、トリム・リヤ30を成形し、次いでトリム・フロント20の成形を行なったが、これとは逆にトリム・リヤ30に段差13を設定する構成を採用すれば、トリム・フロント20の成形を最初に行ない、その後、トリム・リヤ30の成形を引き続いて行なうようにすれば良く、段差13を相手側に設定すれば、成形の順序を変更するだけで良い。
【符号の説明】
【0039】
10 前後二分割型ドアトリム
10a ウエスト部
11 分割ライン
12 ウエストフランジ
13 段差
20 トリム・フロント
21 インサイドハンドルユニット
30 トリム・リヤ
31 アームレスト
40 成形金型
50 成形上型
51 キャビティ部
52 昇降シリンダ
53 段差
60 成形下型
61 コア部
62a,62b 射出機
63a,63b マニホールド
64a,64b ゲート
65 シール用凸部
70 分割機構部(一般部)
71 分割バー
72 駆動シリンダ
80 分割機構部(ウエスト部)
81 スライド式分割駒
82 フランジシール用分割バー
83 進退動作用シリンダ
84 上下動作用シリンダ
85 分割バー
C1,C2 キャビティ
M1,M2 溶融樹脂

【特許請求の範囲】
【請求項1】
成形上下型(50,60)を型締めし、両金型(50,60)間に画成されるキャビティを分割機構部(70,80)により複数のキャビティ(C1,C2)に分割し、各キャビティ(C1,C2)に異なる溶融樹脂(M1,M2)を射出機(62a,62b)からそれぞれ射出充填することで、トリム・フロント(20)とトリム・リヤ(30)を一体化するとともに、トリム・フロント(20)及びトリム・リヤ(30)のウエスト部先端縁に沿ってウエストフランジ(12)を一体化してなる前後二分割型ドアトリム(10)の成形方法において、
前記ドアトリム(10)のウエスト部(10a)におけるトリム・フロント(20)とトリム・リヤ(30)の分割部に段差(13)が設けられているとともに、ウエスト部(10a)の分割機構部(80)は、スライド式に動作して、成形上型(50)の段差(53)内面とシールするスライド式分割駒(81)とウエストフランジ(12)をシールするフランジシール用分割バー(82)が設けられており、上記スライド式分割駒(81)が前進して成形上型(50)の段差(53)の内面をシールするとともに、フランジシール用分割バー(82)が上昇した状態で一方側のキャビティ(C1)内に溶融樹脂(M1)を射出充填して、トリム・リヤ(30)を成形した後、スライド式分割駒(81)が後退するとともに、フランジシール用分割バー(82)が下降した状態で他方側のキャビティ(C2)内に溶融樹脂(M2)を射出充填して、トリム・フロント(20)を成形することを特徴とする前後二分割型ドアトリムの成形方法。
【請求項2】
成形上下型(50,60)を型締めし、両金型(50,60)間に画成されるキャビティを分割機構部(70,80)により複数のキャビティ(C1,C2)に分割し、各キャビティ(C1,C2)に異なる溶融樹脂(M1,M2)を射出機(62a,62b)からそれぞれ射出充填することで、トリム・フロント(20)とトリム・リヤ(30)を一体化するとともに、トリム・フロント(20)及びトリム・リヤ(30)のウエスト部先端縁に沿ってウエストフランジ(12)を一体化してなる前後二分割型ドアトリム(10)の成形方法において、
前記ドアトリム(10)のウエスト部(10a)におけるトリム・フロント(20)とトリム・リヤ(30)の分割部に段差(13)が設けられているとともに、ウエスト部(10a)の分割機構部(80)は、横方向にスライドして、成形上型(50)の段差(53)の内面とシールするスライド式分割駒(81)が設けられており、このスライド式分割駒(81)は、スライド動作時、ウエストフランジ(12)側に突出する成形金型(40)のシール用凸部(65)と当接シールする凸部(81a)が設けられており、スライド式分割駒(81)が前進動作して、成形上型(50)の段差(53)の内面とシールする際、凸部(81a)がウエストフランジ形成部位をシールすることで、キャビティ(C1,C2)を区画し、キャビティ(C1)内に溶融樹脂(M1)を射出充填して、トリム・リヤ(30)を所要形状に成形し、その後、スライド式分割駒(81)が後退して、ウエストフランジ(12)を含めたキャビティ(C1,C2)間を連通させて、他方側のキャビティ(C2)内に溶融樹脂(M2)を射出充填して、トリム・フロント(20)を上記トリム・リヤ(30)と一体化することを特徴とする前後二分割型ドアトリムの成形方法。
【請求項3】
成形上下型(50,60)を型締めし、両金型(50,60)間に画成されるキャビティを分割機構部(70,80)により複数のキャビティ(C1,C2)に分割し、各キャビティ(C1,C2)に異なる溶融樹脂(M1,M2)を射出機(62a,62b)からそれぞれ射出充填することで、トリム・フロント(20)とトリム・リヤ(30)を一体化するとともに、トリム・フロント(20)及びトリム・リヤ(30)のウエスト部先端縁に沿ってウエストフランジ(12)を一体化してなる前後二分割型ドアトリム(10)の成形方法において、
前記ドアトリム(10)のウエスト部(10a)におけるトリム・フロント(20)とトリム・リヤ(30)の分割部に段差(13)を設けるとともに、ウエスト部(10a)の分割機構部(80)として斜め方向に下降する分割バー(85)を設け、この分割バー(85)を成形上型(50)の段差(53)の内面に当接シールさせることで、ウエストフランジ(12)を含むキャビティ(C1,C2)間を区画及び連通させて、それぞれのキャビティ(C1,C2)内に溶融樹脂(M1,M2)を射出充填して、ウエストフランジ(12)をウエスト部(10a)の全長に亘り備える形態でトリム・フロント(20)とトリム・リヤ(30)とを一体化することを特徴とする前後二分割型ドアトリムの成形方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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【図21】
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【図22】
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【公開番号】特開2010−274558(P2010−274558A)
【公開日】平成22年12月9日(2010.12.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−130202(P2009−130202)
【出願日】平成21年5月29日(2009.5.29)
【出願人】(000124454)河西工業株式会社 (593)
【Fターム(参考)】