前後輪駆動車両のエンジン始動制御装置
【課題】電気式差動部の第1モータジェネレータMG1によりエンジンを回転駆動して始動する際の反力によって生じる駆動トルク変動を、後輪側の動力伝達経路に連結された第2モータジェネレータMG2を利用して適切に抑制できるようにする。
【解決手段】前後輪動力分配装置14の3つの回転要素(CS、CCA、CR)の中の2つの回転要素(CS、CR)を連結可能なクラッチCLが設けられ、MG1によりエンジン20を回転駆動して始動する際にクラッチCLが係合させられることにより、MG2によって反力を適切に受け止めて駆動トルク変動を抑制できる。クラッチCLを係合させると、前後輪44、34の差動が制限されてタイトコーナーブレーキング現象等が生じる可能性があるが、舵角Φが所定以上の場合はエンジン20の始動を中止するため、エンジン20の始動制御に起因して旋回走行時にタイトコーナーブレーキング現象等が発生することが防止される。
【解決手段】前後輪動力分配装置14の3つの回転要素(CS、CCA、CR)の中の2つの回転要素(CS、CR)を連結可能なクラッチCLが設けられ、MG1によりエンジン20を回転駆動して始動する際にクラッチCLが係合させられることにより、MG2によって反力を適切に受け止めて駆動トルク変動を抑制できる。クラッチCLを係合させると、前後輪44、34の差動が制限されてタイトコーナーブレーキング現象等が生じる可能性があるが、舵角Φが所定以上の場合はエンジン20の始動を中止するため、エンジン20の始動制御に起因して旋回走行時にタイトコーナーブレーキング現象等が発生することが防止される。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は前後輪駆動車両に係り、特に、電気式差動部の第1回転機によりエンジンを回転駆動(クランキング)して始動する際の駆動トルク変動を抑制する技術に関するものである。
【背景技術】
【0002】
(a) 差動機構の回転要素に動力伝達可能に連結された第1回転機の運転状態が制御されることにより、差動入力部材の回転速度と差動出力部材の回転速度との差動状態が制御される電気式差動部と、(b) 前記差動入力部材に動力伝達可能に連結されたエンジンと、(c) 入力回転要素、前後輪の一方の第1車輪に作動的に連結された第1出力回転要素、および前後輪の他方の第2車輪に作動的に連結された第2出力回転要素の3つの回転要素から成り、前記差動出力部材からその入力回転要素に入力された動力をその第1出力回転要素と第2出力回転要素とに分配する前後輪動力分配装置と、(d) 前記第1出力回転要素と前記第1車輪との間の動力伝達経路に動力伝達可能に連結された第2回転機と、を有する前後輪駆動車両が知られている。特許文献1に記載の前後輪駆動車両はその一例で、電気式差動部の差動機構および前後輪動力分配装置として何れも遊星歯車装置が用いられているとともに、第1回転機、第2回転機として、電動モータおよび発電機の機能が選択的に得られるモータジェネレータが用いられている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2004−114944号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、このような前後輪駆動車両においてエンジンを始動する際に、第1回転機によりエンジンを回転駆動(クランキング)することが考えられる。その場合、エンジンが回転駆動される際の反力、すなわち吸排気のポンピング作用やフリクションなどに起因するエンジン負荷トルク(回転抵抗)によって生じる反力が、前後輪動力分配装置を介して前後輪に連結された差動出力部材によって受け止められるが、その際に前後輪に反力が伝達されて駆動トルク変動(始動時ショック)が発生するという問題があった。また、エンジンが自力回転するようになる運転開始(起動)直後には、エンジントルクが急に増大することにより同じく駆動トルク変動が生じることがある。何れの場合も、第1車輪については、第2回転機のトルク制御で駆動トルク変動を抑制することができるが、第2車輪についてはそのようなトルク制御を行うことができないため、駆動トルク変動が生じることが避けられない。第2車輪側の動力伝達経路にも回転機を設ければ、そのトルク制御で駆動トルク変動を抑制することができるが、新たに回転機を追加しなければならないため、コストや搭載スペースの点で好ましくない。
【0005】
本発明は以上の事情を背景として為されたもので、その目的とするところは、電気式差動部の第1回転機によりエンジンを回転駆動して始動する際の駆動トルク変動を、前後輪動力分配装置と前後輪の一方の第1車輪との間の動力伝達経路に連結された第2回転機を利用して適切に抑制できるようにすることにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
かかる目的を達成するために、第1発明は、(a) 差動機構の回転要素に動力伝達可能に連結された第1回転機の運転状態が制御されることにより、差動入力部材の回転速度と差動出力部材の回転速度との差動状態が制御される電気式差動部と、(b) 前記差動入力部材に動力伝達可能に連結されたエンジンと、(c) 入力回転要素、前後輪の一方の第1車輪に作動的に連結された第1出力回転要素、および前後輪の他方の第2車輪に作動的に連結された第2出力回転要素の3つの回転要素から成り、前記差動出力部材からその入力回転要素に入力された動力をその第1出力回転要素と第2出力回転要素とに分配する前後輪動力分配装置と、(d) 前記第1出力回転要素と前記第1車輪との間の動力伝達経路に動力伝達可能に連結された第2回転機と、を有する前後輪駆動車両のエンジン始動制御装置において、(e) 前記前後輪動力分配装置の3つの回転要素の何れか2つを相対回転不能に連結可能な係合装置を有し、前記第1回転機により前記エンジンを回転駆動して始動する際にその係合装置を係合させることを特徴とする。
【0007】
第2発明は、第1発明の前後輪駆動車両のエンジン始動制御装置において、車両の舵角が所定以上の場合は前記エンジンの始動を行わないことを特徴とする。
【発明の効果】
【0008】
このような前後輪駆動車両のエンジン始動制御装置においては、前後輪動力分配装置の3つの回転要素の何れか2つを相対回転不能に連結可能な係合装置が設けられ、第1回転機によりエンジンを回転駆動して始動する際にその係合装置が係合させられると、前後輪動力分配装置の3つの回転要素の相対回転が制限されて一体的に結合される。これにより、一方の第1車輪側の動力伝達経路に連結された第2回転機のトルクを、エンジン始動時のエンジントルク変動(負荷トルクや出力トルク)に応じて制御することにより、そのエンジントルク変動に起因して生じる駆動トルク変動(始動ショック)を適切に抑制することができる。
【0009】
一方、このようにエンジン始動のために係合装置を係合させると、前後輪動力分配装置の3つの回転要素の相対回転が制限されて一体的に結合されるため、旋回走行時の前後輪の差動が制限されてアンダーステア傾向となったりタイトコーナーブレーキング現象が発生したりする。このため、第2発明のように車両の舵角が所定以上の場合はエンジンの始動を行わないようにし、係合装置が解放状態に保持されるようにすることが望ましく、これによりエンジンの始動制御に起因して旋回走行時にアンダーステア傾向になったりタイトコーナーブレーキング現象が発生したりすることが防止される。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】本発明が適用された前後輪駆動車両の動力伝達装置を説明する骨子図である。
【図2】図1の動力伝達装置の電気式差動部の3つの回転要素の回転速度の関係を直線上で表すことができる共線図で、前後輪動力分配装置の共線図を併せて示した図である。
【図3】図1の動力伝達装置が備えている電子制御装置の入出力信号の一例を説明する図である。
【図4】図3の電子制御装置によって実行される制御機能の要部を説明する機能ブロック線図である。
【図5】エンジン走行とモータ走行とを切り換える駆動力源切換制御で用いられる駆動力源マップの一例を示す図である。
【図6】図1の動力伝達装置が備えているエンジンの燃費マップの一例である。
【図7】図4のエンジン始動制御手段によって行われるエンジン始動制御の内容を具体的に説明するフローチャートである。
【図8】図7のフローチャートにおいてエンジン始動の可否を判断する車速V1、V2および操舵角判定値Φ1の一例を示す図である。
【図9】車両停止時に図7のフローチャートに従ってエンジン始動制御が行われた場合の各部のトルクや回転速度、クラッチのON、OFFの変化を示すタイムチャートの一例である。
【図10】車両走行時に図7のフローチャートに従ってエンジン始動制御が行われた場合の各部のトルクや回転速度、クラッチのON(係合)、OFF(解放)の変化を示すタイムチャートの一例である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明の前後輪駆動車両は、エンジンの他に第1回転機および第2回転機を備えており、その何れか一方或いは両方を車両走行用の動力源として使用し、エンジンは専ら発電のために使用する電気自動車、或いはそれ等の回転機およびエンジンを共に走行用動力源として使用するハイブリッド車両に好適に適用される。電気式差動部の差動入力部材に連結されるエンジンは、燃料の燃焼によって動力を発生するガソリンエンジンやディーゼルエンジン等の内燃機関が好適に用いられる。
【0012】
電気式差動部は、差動機構として例えばシングルピニオン型或いはダブルピニオン型の単一の遊星歯車装置を備えて構成されるが、複数の遊星歯車装置を用いて構成することもできるし、傘歯車式の差動装置を用いることもできるなど、種々の態様が可能である。この電気式差動部は、例えば前記第1回転機、差動入力部材、および差動出力部材にそれぞれ連結された差動機構の3つの回転要素の回転速度を直線上で表すことができる共線図上において、差動入力部材に連結された回転要素が中間に位置するように構成されるが、差動出力部材に連結された回転要素が中間に位置するように構成した場合にも適用され得る。
【0013】
第1回転機および第2回転機は回転電気機械のことで、例えば電気で回転駆動される電動モータ、或いは電動モータおよび発電機の両方の機能が選択的に得られるモータジェネレータが好適に用いられるが、構成によっては例えば第1回転機として発電機を採用することもできる。第2回転機は、第1出力回転要素と第1車輪との間の動力伝達経路に直接連結されても良いが、増速或いは減速する変速機等を介して連結することもできる。第1車輪は前輪であっても後輪であっても良い。
【0014】
エンジン始動制御は、車両の停止時に行われても良く、その場合は第1回転機を力行制御してエンジンを回転駆動するとともに、そのエンジン回転時の反力で差動出力部材に作用する逆回転方向の反力トルクを第2回転機の力行トルクの制御で相殺するようにすれば良い。また、第2回転機を動力源として走行するモータ走行時には、差動出力部材は車速に応じた速度で回転させられる一方、第1回転機はその差動出力部材の回転速度に応じて同じ回転方向または逆回転方向へ回転させられるため、その第1回転機を回生制御或いは必要に応じて力行制御することによりエンジンを回転駆動することができるとともに、その際のエンジン回転時の反力で差動出力部材に作用する逆回転方向の反力トルクを第2回転機の力行トルクの制御で相殺するようにすれば良い。第2回転機を動力源とするモータ走行時には、運転者の要求出力トルクに応じて力行トルクが制御されるため、エンジン始動時の反力に応じたトルクを加算するなどして第2回転機の力行トルクを増大補正すれば良い。エンジンが自力回転するようになる運転開始直後の駆動トルク変動に対しては、第2回転機の回生トルク制御や力行トルクの低減制御で対応することができる。
【0015】
エンジン始動時のポンピング作用等によるエンジン負荷トルクで差動出力部材に作用する反力トルクの変化特性は、エンジン負荷トルクの特性や電気式差動部の差動機構のトルク比などから予め求めることができるため、その反力トルクを相殺できる第2回転機のトルクを予め設定しておいて、フィードフォワード制御で第2回転機の力行トルクを制御することが望ましい。実際のエンジン負荷トルクを検出して第2回転機のトルクを制御するようにしても良いなど、反力トルクによる駆動トルク変動を抑制できる他の制御を採用することもできる。エンジン運転開始直後のエンジントルク増大に伴う駆動トルク変動についても、同様に第2回転機のフィードフォワード制御等で抑制することができる。
【0016】
前後輪動力分配装置は、電気式差動部と同様に差動機構として例えばシングルピニオン型或いはダブルピニオン型の単一の遊星歯車装置を備えて構成されるが、複数の遊星歯車装置を用いて構成することもできるし、傘歯車式の差動装置を用いることもできるなど、種々の態様が可能である。差動機構がシングルピニオン型の単一の遊星歯車装置の場合、例えば共線図上で中間に位置するキャリアが入力回転要素とされ、差動機構がダブルピニオン型の単一の遊星歯車装置の場合、例えば共線図上で中間に位置するリングギヤが入力回転要素とされるが、共線図上の端に位置する回転要素が入力回転要素とされる場合にも本発明は適用され得る。
【0017】
上記前後輪動力分配装置の入力回転要素と前記差動出力部材とは一体的に連結されても良いが、クラッチ等の断続装置を介して連結したり増速或いは減速する変速機を介して連結したりするなど種々の態様が可能である。
【0018】
係合装置は、油圧式、電磁式等の摩擦係合装置、例えば単板式や多板式の摩擦クラッチが好適に用いられ、前後輪動力分配装置の3つの回転要素の中の任意の2つを相対回転不能に連結するように配設される。例えば第1出力回転要素と第2出力回転要素とを一体的に連結するように設けられるが、何れか一方の出力回転要素と入力回転要素とを連結するように配設されても良い。この係合装置を、オーバーステア時等の差動制限クラッチとして使用することも可能である。
【0019】
第2発明では、アンダーステア傾向になったりタイトコーナーブレーキング現象が発生したりすることを防止するため、車両の舵角が所定以上の場合にはエンジンの始動が禁止されるなどして行われないが、第1発明の実施に際しては、例えば係合装置を解放したままエンジン始動制御を行ったり、アンダーステア傾向やタイトコーナーブレーキング現象の発生が抑制されるように係合装置を半係合状態(半クラッチ状態)としてエンジン始動制御を行ったりしても良い。
【0020】
車両停止時には、上記アンダーステア傾向やタイトコーナーブレーキング現象の問題が発生しないため、車速が略0の車両停止時には舵角の大きさに拘らず係合装置を係合させてエンジン始動制御を行っても差し支えない。また、車速が高くなるに従って最大舵角は小さくなり、アンダーステア傾向やタイトコーナーブレーキング現象の問題が発生し難くなるため、所定車速以上では舵角の大きさに拘らず係合装置を係合させてエンジン始動制御が行われるようにしても良い。すなわち、第2発明の実施に際しては、例えばアンダーステア傾向やタイトコーナーブレーキング現象の問題が発生する可能性がある所定の車速領域で舵角が所定以上の場合にエンジンの始動が行われないようにすれば良い。
【0021】
本発明は、電気式差動部の差動出力部材が前後輪動力分配装置を介して前輪および後輪に常に作動的に連結されて動力伝達される場合に好適に適用されるが、動力伝達を遮断するクラッチ等の断続装置が配設されている場合でも、その断続装置が接続されて動力伝達される状態でエンジン始動制御を行う場合には、本発明が適用されることにより同様の作用効果が得られる。
【実施例】
【0022】
以下、本発明の実施例を、図面を参照しつつ詳細に説明する。
図1は、本発明の一実施例であるハイブリッド駆動型の前後輪駆動車両の動力伝達装置10を説明する骨子図で、電気式差動部12および前後輪動力分配装置14を備えている。電気式差動部12は、差動機構としてシングルピニオン型の差動用遊星歯車装置16を備えており、差動用遊星歯車装置16のキャリアSCAには、差動入力部材としての差動入力軸18等を介してエンジン20が連結されているとともに、サンギヤSSには第1モータジェネレータMG1が連結されており、リングギヤSRには差動出力部材22が一体的に連結されている。エンジン20はガソリンエンジンやディーゼルエンジン等の内燃機関で、差動入力軸18に直接或いは図示しない脈動吸収ダンパー等を介して間接的に連結されている。第1モータジェネレータMG1は第1回転機として設けられたもので、電動モータおよび発電機の両方の機能を選択的に発揮できる。
【0023】
このように構成された電気式差動部12は、差動用遊星歯車装置16の3つの回転要素であるサンギヤSS、キャリアSCA、リングギヤSRがそれぞれ相互に相対回転可能とされて差動作用が働く差動状態とされることから、エンジン20の出力が第1モータジェネレータMG1と差動出力部材22とに分配される。分配されたエンジン20の出力の一部で第1モータジェネレータMG1が回転駆動されることにより、その第1モータジェネレータMG1の回生制御(発電制御)で電気エネルギーが発生させられ、その電気エネルギーにより、後輪側の動力伝達経路に設けられた第2モータジェネレータMG2が力行制御されるとともに、余剰の電気エネルギーがバッテリーである蓄電装置64(図4参照)に充電される。また、電気式差動部12は電気的な差動装置として機能させられ、所謂無段変速状態(電気的CVT状態)とされて、エンジン20の所定回転に拘わらず差動出力部材22の回転が第1モータジェネレータMG1の回転速度に応じて連続的に変化させられる。すなわち、電気式差動部12は、その変速比γS(=差動入力軸18の回転速度/差動出力部材22の回転速度)が最小値γSmin から最大値γSmax まで連続的に変化させられる電気的な無段変速機として機能する。このように、電気式差動部12に動力伝達可能に連結された第1モータジェネレータMG1の運転状態が制御されることにより、差動入力軸18の回転速度すなわちエンジン回転速度NEと差動出力部材22の回転速度との差動状態が制御される。
【0024】
前後輪動力分配装置14は、差動機構として機能するシングルピニオン型の分配用遊星歯車装置24を主体として構成されており、その分配用遊星歯車装置24のキャリアCCAは入力回転要素で、前記差動出力部材22に一体的に連結されている。また、サンギヤCSは後輪側出力軸26に一体的に連結されており、リングギヤCRは前輪側出力歯車28に一体的に連結されている。そして、後輪側出力軸26は、後側左右輪動力分配装置32等を介して左右の後輪34に作動的に連結されているとともに、サンギヤCSから後側左右輪動力分配装置32までの動力伝達経路には第2モータジェネレータMG2が動力伝達可能に連結されている。この第2モータジェネレータMG2は第2回転機に相当し、本実施例では副動力源として設けられており、電動モータおよび発電機の両方の機能を選択的に発揮できるが、主として電動モータとして用いられ、後輪34を回転駆動してモータ走行を行ったり、前記エンジン20を動力源とする走行時にアシストトルクを付与したりする。また、前輪側出力歯車28は、カウンタ歯車36、ドリブン歯車38、伝達シャフト40、および前側左右輪動力分配装置42等を介して左右の前輪44に作動的に連結されている。なお、前記電気式差動部12、前後輪動力分配装置14、第1モータジェネレータMG1、第2モータジェネレータMG2は、その軸心に対して略対称的に構成されているため、図1の骨子図ではその下側半分が省略されている。また、符号56はケースである。
【0025】
上記前輪側出力歯車28と第2モータジェネレータMG2との間の部分には、油圧式の摩擦係合装置としてクラッチCLが配設されており、前輪側出力歯車28と後輪側出力軸26とを相対回転不能に連結できるようになっている。すなわち、前後輪動力分配装置14を構成している分配用遊星歯車装置24のリングギヤCRとサンギヤCSとが一体的に連結されるのであり、これにより分配用遊星歯車装置24の3つの回転要素(CS、CCA、CR)の相対回転が制限されて一体的に結合され、車両走行時には一体回転させられるようになって前輪44および後輪34の差動が制限される。
【0026】
本実施例の前後輪駆動車両は、FR(フロントエンジン・リヤドライブ)車をベースとした4輪駆動車両で、電気式差動部12と第2モータジェネレータMG2との間に遊星歯車式の前後輪動力分配装置14が配設されることにより、電気式差動部12から前輪44にも動力が伝達されるようにしたものである。
【0027】
図2は、前記電気式差動部12の3つの回転要素(SS、SCA、SR)の回転速度を直線上で表すことができる共線図で、前後輪動力分配装置14の共線図を併せて示したものである。シングルピニオン型の差動用遊星歯車装置16によって差動作用が得られる電気式差動部12の各回転要素(SS、SCA、SR)の間隔の比率は差動用遊星歯車装置16のギヤ比ρSに応じて定まり、シングルピニオン型の分配用遊星歯車装置24によって差動作用が得られる前後輪動力分配装置14の各回転要素(CS、CCA、CR)の間隔の比率は分配用遊星歯車装置24のギヤ比ρCに応じて定まる。そして、本実施例では、電気式差動部12の3つの回転要素(SS、SCA、SR)のうち、共線図において中間に位置するキャリアSCAにエンジン20が連結されており、そのキャリアSCAに対して間隔が狭い側のリングギヤSRに差動出力部材22が連結され、間隔が広い側のサンギヤSSに第1モータジェネレータMG1が連結されている。また、前後輪動力分配装置14の3つの回転要素(CS、CCA、CR)のうち、共線図において中間に位置するキャリアCCAが入力回転要素で、前記電気式差動部12のリングギヤSRに一体的に連結されており、間隔が広い側のサンギヤCSが第1出力回転要素で、後輪用出力軸26を介して後輪34に作動的に連結されており、反対側のリングギヤCRが第2出力回転要素で、前輪用出力歯車28を介して前輪44に作動的に連結されている。後輪34は前後輪の一方の第1車輪に相当し、前輪44は前後輪の他方の第2車輪に相当する。上記差動用遊星歯車装置16のギヤ比ρS、分配用遊星歯車装置24のギヤ比ρCは、それぞれトルク分配比等を考慮して適宜定められる。
【0028】
ここで、前記前輪側出力歯車28およびドリブン歯車38の歯数は互いに等しく、同じ方向へ等速回転させられるとともに、後輪34側の終減速比(デフ比)irと前輪44側の終減速比(デフ比)ifは互いに等しく、前後輪動力分配装置14から後輪34、前輪44までの変速比γrおよびγfは互いに等しい。これにより、ステアリングの舵角Φが所定値以下の直進走行ではキャリアCCAおよびサンギヤCSは互いに同じ回転速度で回転させられ、前後輪動力分配装置14は略一体的に回転させられる。
【0029】
図3は、本実施例の動力伝達装置10を制御するための電子制御装置80に入力される信号及びその電子制御装置80から出力される信号を例示している。この電子制御装置80は、CPU、ROM、RAM、及び入出力インターフェースなどから成る所謂マイクロコンピュータを含んで構成されており、RAMの一時記憶機能を利用しつつROMに予め記憶されたプログラムに従って信号処理を行うことによりエンジン20、第1モータジェネレータMG1、第2モータジェネレータMG2に関するハイブリッド駆動制御等を実行するものである。
【0030】
電子制御装置80には、図3に示すような各センサやスイッチなどから、エンジン水温TEMPW を表す信号、シフトレバーのシフトポジションPSHを表す信号、エンジン20の回転速度であるエンジン回転速度NEを表す信号、エアコンの作動を表す信号、後輪側出力軸26の回転速度NOUT に対応する車速Vを表す信号、クラッチCLを係合させたり各部を潤滑したりする油圧制御回路70(図4参照)の作動油の油温TOIL を表す信号、サイドブレーキ操作を表す信号、フットブレーキ操作を表す信号、触媒温度を表す信号、運転者の出力要求量に対応するアクセルペダルの操作量であるアクセル操作量(開度)Accを表す信号、カム角を表す信号、スノーモード設定を表す信号、車両の前後加速度Gを表す信号、オートクルーズ走行を表す信号、車両の重量(車重)を表す信号、各車輪の車輪速を表す信号、第1モータジェネレータMG1の回転速度NMG1を表す信号、第2モータジェネレータMG2の回転速度NMG2を表す信号、蓄電装置64の蓄電量(残量)SOCを表す信号、ヨーレイト(ヨー角速度)Yを表す信号、前輪34の舵角Φを表す信号などが、それぞれ供給される。
【0031】
また、上記電子制御装置80からは、エンジン出力を制御するエンジン出力制御装置60(図4参照)への制御信号、例えばエンジン20の吸気管に備えられた電子スロットル弁のスロットル弁開度θTHを操作するスロットルアクチュエータへの駆動信号や、燃料噴射装置による吸気管或いはエンジン20の筒内への燃料供給量を制御する燃料供給量信号、点火装置によるエンジン20の点火時期を指令する点火信号、過給圧を調整するための過給圧調整信号などが出力される。また、電動エアコンを作動させるための電動エアコン駆動信号、第1モータジェネレータMG1、第2モータジェネレータMG2の作動をそれぞれ指令する指令信号、シフトインジケータを作動させるためのシフトポジション(操作位置)表示信号、電気式差動部12の変速比γSを表示させるための変速比表示信号、スノーモードであることを表示させるためのスノーモード表示信号、制動時の車輪のスリップを防止するABSアクチュエータを作動させるためのABS作動信号、クラッチCLの油圧アクチュエータを制御するために油圧制御回路70(図4参照)に含まれるCLソレノイドバルブ等を作動させるバルブ指令信号、この油圧制御回路70に設けられたレギュレータバルブ(調圧弁)によりライン圧PLを調圧するための信号、そのライン圧PLが調圧されるための元圧の油圧源である電動オイルポンプを作動させるための駆動指令信号、電動ヒータを駆動するための信号、クルーズコントロール制御用コンピュータへの信号等が、それぞれ出力される。
【0032】
図4は、電子制御装置80による制御機能の要部を説明する機能ブロック線図で、ハイブリッド制御手段82およびエンジン始動制御手段90を機能的に備えている。ハイブリッド制御手段82は、エンジン20を効率の良い作動域で作動させるとともに、エンジン20と第2モータジェネレータMG2との動力配分を制御したり、第1モータジェネレータMG1の発電による反力を最適になるように変化させて電気式差動部12の電気的な無段変速機としての変速比γSを制御したりする。すなわち、そのときの走行車速Vにおいて、運転者の出力要求量としてのアクセル操作量Accや車速Vから車両の目標(要求)出力を算出するとともに、その車両の目標出力と充電要求値から必要なトータル目標出力を算出する。そして、そのトータル目標出力が得られるように、伝達損失、補機負荷、第2モータジェネレータMG2のアシストトルク等を考慮して目標エンジン出力を算出し、その目標エンジン出力が得られるエンジン回転速度NEとエンジントルクTEとなるように、エンジン20を制御するとともに第1モータジェネレータMG1の発電量を制御する。
【0033】
また、エンジン20を効率のよい作動域で作動させるために定まるエンジン回転速度NEと、車速Vに応じて定まる差動出力部材22の回転速度、すなわちリングギヤSRの回転速度とを整合させるために、電気式差動部12が電気的な無段変速機として機能させられる。すなわち、ハイブリッド制御手段82は、エンジン回転速度NEとエンジン20の出力トルク(エンジントルク)TEとで構成される二次元座標内において、運転性と燃費性とを両立するように予め実験的に求められて記憶された図6に破線で示すようなエンジン20の最適燃費曲線(燃費マップ、関係)に基づいて、その最適燃費曲線に沿ってエンジン20が作動させられるように、車速Vに応じて電気式差動部12の変速比γSを制御する。
【0034】
このとき、ハイブリッド制御手段82は、第1モータジェネレータMG1により発電された電気エネルギーをインバータ62を通して蓄電装置64や第2モータジェネレータMG2へ供給するので、エンジン20の動力の主要部は機械的に差動出力部材22へ伝達されるが、エンジン20の動力の一部は第1モータジェネレータMG1の発電のために消費されてそこで電気エネルギーに変換される。その電気エネルギーは、インバータ62を通して第2モータジェネレータMG2へ供給され、その第2モータジェネレータMG2が駆動されてそのトルクが後輪側出力軸26に加えられる。この電気エネルギーの発生から第2モータジェネレータMG2で消費されるまでに関連する機器により、エンジン20の動力の一部を電気エネルギーに変換し、その電気エネルギーを機械的エネルギーに変換するまでの電気パスが構成される。通常の定常走行時には図2に実線で示すように、第1モータジェネレータMG1の回転速度NMG1は略0に保持されるか、或いは車速Vに応じてエンジン回転方向と同じ正回転方向へ回転させられ、回生制御によって電気エネルギーを発生させるとともに、エンジン20によって差動出力部材22(リングギヤSR)を正回転方向へ回転駆動する際の反力が受け止められる。
【0035】
また、ハイブリッド制御手段82は、車両の停止中又は走行中に拘わらず、電気式差動部12の電気的CVT機能によって第1モータジェネレータ回転速度NMG1を制御することにより、エンジン回転速度NEを略一定に維持したり任意の回転速度に制御したりする。
【0036】
また、ハイブリッド制御手段82は、スロットル制御のためにスロットルアクチュエータにより電子スロットル弁を開閉制御させる他、燃料噴射制御のために燃料噴射装置による燃料噴射量や噴射時期を制御させ、点火時期制御のためにイグナイタ等の点火装置による点火時期を制御させる指令を単独で或いは組み合わせてエンジン出力制御装置60に出力して、必要なエンジン出力を発生するようにエンジン20の出力制御を実行するエンジン出力制御手段を機能的に備えている。例えば、基本的には図示しない予め記憶された関係からアクセル操作量Accに基づいてスロットルアクチュエータを駆動し、アクセル操作量Accが増加するほどスロットル弁開度θTHを増加させるようにスロットル制御を実行する。
【0037】
また、ハイブリッド制御手段82は、エンジン20の停止又はアイドル状態に拘わらず、電気式差動部12の電気的CVT機能(差動作用)によってモータ走行させることができる。例えば、一般的にエンジン効率が高トルク域に比較して悪いとされる比較的低出力トルク域すなわち低エンジントルク域、或いは車速Vの比較的低車速域すなわち低負荷域においては、エンジン20を停止又はアイドル状態とし、第2モータジェネレータMG2のみを動力源として用いて走行するモータ走行を実行する。例えば図5の切換線Aよりも原点側、すなわち低トルク側或いは低車速側は予め定められたモータ走行領域である。図5は車速Vおよび要求出力トルクTOUT(アクセル操作量Accなど)をパラメータとして切換線Aが定められた駆動力源マップの一例で、予め定められたエンジン走行車速Ve以上では要求出力トルクTOUTの大きさに拘らずエンジン走行とされる。モータ走行では、後輪34のみを駆動して走行する後輪駆動走行となる。エンジン20が停止している時には、そのエンジン20の引き摺りを抑制して燃費を向上させるため、例えば第1モータジェネレータMG1を無負荷状態とすることにより空転させて、電気式差動部12の電気的CVT機能(差動作用)によりエンジン回転速度NEを0乃至略0に維持することが望ましい。モータ走行領域であっても、所定の加速時など必要に応じてエンジン20を作動させてエンジン20および第2モータジェネレータMG2の両方を動力源として走行する。また、蓄電装置64の充電や暖機等のために必要に応じてエンジン20を運転状態とする。
【0038】
ハイブリッド制御手段82は、エンジン20を動力源として走行するエンジン走行時であっても、上述した電気パスによる第1モータジェネレータMG1からの電気エネルギーおよび/または蓄電装置64からの電気エネルギーを第2モータジェネレータMG2へ供給し、その第2モータジェネレータMG2を駆動して後輪34にトルクを付与することにより、エンジン20の動力を補助するための所謂トルクアシストが可能である。例えばアクセルペダルが大きく踏込み操作された加速走行時や登坂路などでは、第2モータジェネレータMG2を力行制御してトルクアシストを行う。図5において切換線Aよりも外側、すなわち高トルク側或いは高車速側は、エンジン走行が行われるエンジン走行領域であるが、必要に応じて第2モータジェネレータMG2によるトルクアシストが行われる。
【0039】
また、ハイブリッド制御手段82は、第1モータジェネレータMG1を無負荷状態として自由回転すなわち空転させることにより、電気式差動部12がトルクの伝達を不能な状態すなわち電気式差動部12内の動力伝達経路が遮断された状態と同等の状態であって、且つ電気式差動部12からの出力が発生されない状態とすることが可能である。すなわち、ハイブリッド制御手段82は、第1モータジェネレータMG1を無負荷状態とすることにより、電気式差動部12を、その動力伝達経路が電気的に遮断される中立状態(ニュートラル状態)とすることが可能である。
【0040】
また、ハイブリッド制御手段82は、アクセルオフの惰性走行時(コースト走行時)やフットブレーキによる制動時などには、燃費を向上させるために車両の運動エネルギーすなわち後輪34から入力される逆駆動力により第2モータジェネレータMG2が回転駆動される際に、その第2モータジェネレータMG2を回生制御して発電機として作動させ、その電気エネルギーをインバータ62を介して蓄電装置64へ充電する回生制御手段としての機能を有する。この回生制御は、蓄電装置64の蓄電容量SOCやブレーキペダル操作量に応じた制動力を得るための油圧ブレーキによる制動力の制動力配分等に基づいて決定された回生量となるように制御される。
【0041】
一方、前記エンジン始動制御手段80は、例えばエンジン20を走行用動力源として用いるためや、極低温時に暖機するため、或いは蓄電装置64の蓄電量SOCが低下した場合に蓄電装置64を充電するため等に、走行中或いは車両停止時にエンジン20を始動する。このエンジン始動制御手段80は、基本的には第1モータジェネレータMG1によりエンジン20を回転駆動(クランキング)してそのエンジン20を始動する。すなわち、例えば車両停止時には、図2の共線図に一点鎖線の直線K1で示すように、第1モータジェネレータMG1をエンジン回転方向と同じ正回転方向へ所定のエンジン始動トルクTMG1sで回転駆動(力行制御)すると、車両停止により差動出力部材22(リングギヤSR)が回転速度0に保持されることから、エンジン20のポンピング作用等によるエンジン負荷トルク(回転抵抗)TErに抗してエンジン回転速度NEが所定の始動回転速度まで強制的に上昇させられ、燃料噴射制御等の始動制御が行われることによりエンジン20を始動させることができる。また、第2モータジェネレータMG2を動力源とするモータ走行時には、エンジン回転速度NEが略0に保持されることから破線の直線K2で示す関係になり、第1モータジェネレータMG1は逆回転方向へ回転させられる。このため、その第1モータジェネレータMG1を回生制御して回転速度NMG1を0に接近させることにより、或いは更に力行制御で正回転方向へ回転駆動することにより、エンジン負荷トルクTErに抗してエンジン回転速度NEを所定の始動回転速度まで強制的に上昇させることができ、燃料噴射制御等の始動制御が行われることによりエンジン20を始動させることができる。
【0042】
ここで、このように電気式差動部12の第1モータジェネレータMG1によりエンジン20を回転駆動してエンジン20を始動する場合、そのエンジン負荷トルクTErに応じた反力が差動出力部材22に作用し、そのまま前後輪動力分配装置14を介して前後輪44、34に伝達されるため、その反力に起因して駆動トルク変動が発生する。また、エンジン20が自力回転するようになる運転開始直後には、エンジントルクが急に増大することにより同じく駆動トルク変動が発生する。本実施例では、このような始動時ショックを抑制するため、図4に示すように前記エンジン始動制御手段90はエンジン始動可否判断手段92、クラッチ係合手段94、および駆動トルク変動抑制手段96を機能的に備えており、図7のフローチャートに従って信号処理を行うことにより、その始動時ショックを抑制しつつエンジン20を始動するようになっている。図7のステップS2、S3、S7、およびS11はエンジン始動可否判断手段92に相当し、ステップS4、S8はクラッチ係合手段94に相当し、ステップS5、S9は駆動トルク変動抑制手段96に相当する。
【0043】
図7のステップS1では、エンジン20を走行用動力源として用いるためや、極低温時に暖機するため、或いは蓄電装置64の蓄電量SOCが低下した場合に蓄電装置64を充電するため等に、走行中或いは車両停止時にエンジン20を始動するエンジン始動指令が出力されたか否かを判断する。そして、エンジン始動指令が出力された場合はステップS2以下を実行する。ステップS2では車速Vおよび舵角Φを読み込み、ステップS3では車速Vが予め定められた第1車速V1よりも低いか否かを判断する。第1車速V1は、クラッチCLを係合してもアンダーステア傾向やタイトコーナーブレーキング現象の問題が発生しない略0付近の低車速であり、V<V1の場合にはステップS4〜S6の車両停止時のエンジン始動制御を実行する。
【0044】
ステップS4ではクラッチCLを係合させ、前後輪動力分配装置14を構成している分配用遊星歯車装置24の3つの回転要素(CS、CCA、CR)の相対回転を阻止して一体的に結合し、この場合には略回転停止状態に保持する。ステップS5では、第1モータジェネレータMG1を所定のエンジン始動トルクTMG1sで力行制御し、前記エンジン負荷トルクTErに抗してエンジン回転速度NEを所定の始動回転速度まで強制的に上昇させるとともに、燃料噴射制御等の始動制御を行ってエンジン20を始動する一方、そのエンジン負荷トルクTErに応じて差動出力部材22に作用する反力トルクを相殺するように、第2モータジェネレータMG2を相殺トルクTMG2rで正回転方向へ力行制御する。すなわち、この場合は回転速度が略0の差動出力部材22を逆回転方向へ回転させる反力トルクが作用するため、その反力トルクを相殺するように、前後輪動力分配装置14を介して差動出力部材22に連結された第2モータジェネレータMG2を正回転方向へ力行制御するのであるが、前後輪動力分配装置14は上記クラッチCLの係合で相対回転不能に一体的に連結されているため、後輪側出力軸26に配設された第2モータジェネレータMG2によっても、反力トルクを適切に受け止めて駆動トルク変動を適切に防止することができる。
【0045】
エンジン負荷トルクTErによる反力トルクを相殺するための第2モータジェネレータMG2の相殺トルクTMG2rは、エンジン負荷トルクTErに基づいて差動用遊星歯車装置16のトルク比に応じて定まるため、例えばエンジン12の始動時のエンジン負荷トルクTErの変化特性に応じて反力トルクを相殺するための相殺トルクTMG2rの変化パターンを予め設定しておくことにより、フィードフォワード制御で第2モータジェネレータMG2の力行制御を行うことができる。また、エンジン20が自力回転するようになる運転開始直後には、エンジントルクTEが急に増大することに起因する駆動トルク変動を抑制するため、第2モータジェネレータMG2のトルク(回生トルク)TMG2を予め定められた変化パターンに従って変化させるように、その第2モータジェネレータMG2をフィードフォワード制御する。そして、このようなエンジン始動制御および駆動トルク変動抑制制御が終了したら、ステップS6でクラッチCLを解放する。
【0046】
図9は、車両停止時にステップS4〜S6のエンジン始動制御が行われた場合の各部のトルクや回転速度、クラッチCLの係合(ON)、解放(OFF)の変化を示すタイムチャートの一例である。時間t1は、ステップS3がYES(肯定)になってステップS4以下のエンジン始動制御が開始された時間で、時間t2は、エンジン20が自力回転するようになった運転開始時間で、時間t3は、一連のエンジン始動制御および駆動トルク変動抑制制御が終了してクラッチCLが解放された時間である。なお、第1モータジェネレータMG1のエンジン始動トルクTMG1s、第2モータジェネレータMG2の相殺トルクTMG2r、およびエンジン負荷トルクTErの相互の関係(比率)や、第1モータジェネレータ回転速度NMG1およびエンジン回転速度NEの相互の関係(比率)は、電気式差動部12の差動用遊星歯車装置16のトルク比或いはギヤ比ρSに応じて定まるが、これ等の関係は必ずしも正確に表したものではなく、概略の傾向を示したものである。図10のタイムチャートも同様である。
【0047】
図7に戻って、前記ステップS3の判断がNO(否定)の場合、すなわち車速Vが第1車速V1以上の車両走行時には、ステップS7を実行し、車速Vが第2車速V2よりも高いか否かを判断する。第2車速V2は、クラッチSLを係合してもアンダーステア傾向やタイトコーナーブレーキング現象の問題が発生する可能性がなくなる中程度の車速、例えば20〜30km/時程度の車速であり、V>V2の場合にはステップS8〜S10の車両走行時のエンジン始動制御を実行する。すなわち、運転者が操舵可能な最大舵角は、図8に示すように車速Vが高くなるに従って小さくなり、アンダーステア傾向やタイトコーナーブレーキング現象の問題が発生し難くなるため、所定車速(ここでは第2車速V2)以上では舵角Φの大きさに拘らずクラッチCLを係合させてエンジン始動制御を行うことができるのである。なお、本実施例では、エンジン走行車速Ve以上ではエンジン20は常に運転状態であるため、実質的にそのエンジン走行車速Veよりも低車速において、エンジン始動制御手段90によるエンジン始動制御が行われる。
【0048】
上記ステップS7の判断がNO(否定)の場合、すなわち車速Vが第2車速V2以下の場合で、V1≦V≦V2の時には、続いてステップS11を実行する。ステップS11では、舵角Φが予め定めれた判定値Φ1より大きいか否かを判断し、Φ>Φ1の場合にはステップS12でエンジン始動不可と判断してエンジン20の始動を中止するが、Φ≦Φ1の場合は、ステップS8〜S10の車両走行時のエンジン始動制御を実行する。すなわち、車速VがV1≦V≦V2の走行時には比較的大きな舵角Φで旋回走行できるが、その時にクラッチCLを係合させると、前後輪動力分配装置14の差動が制限されてアンダーステア傾向になったりタイトコーナーブレーキング現象が発生したりするため、舵角Φが予め定められた判定値Φ1より大きい場合にはエンジン20の始動制御を中止するのである。判定値Φ1は、例えば予め実験やシミュレーション等によって一定値が定められる。図8の斜線部は、ステップS11の判断がYES(肯定)となる領域、すなわちエンジン始動制御が中止される領域である。
【0049】
ステップS8〜S10の車両走行時のエンジン始動制御は、基本的には前記ステップS4〜S6の車両停止時のエンジン始動制御と同じであるが、第2モータジェネレータMG2を動力源とするモータ走行時には、電気式差動部12の各部の回転速度は前記図2に破線の直線K2で示す関係になり、第1モータジェネレータMG1は逆回転方向へ回転させられる。このため、ステップS9のエンジン始動制御では、その第1モータジェネレータMG1を前記エンジン始動トルクTMG1sで回生制御して回転速度NMG1を0に接近させることにより、或いは更に力行制御で正回転方向へ回転駆動することにより、エンジン負荷トルクTErに抗してエンジン回転速度NEを所定の始動回転速度まで強制的に上昇させるとともに、燃料噴射制御等の始動制御を行ってエンジン20を始動させることになる。また、エンジン負荷トルクTErは車両停止時と同じであるが、第2モータジェネレータMG2は、運転者の要求出力トルクTOUTに応じて力行トルクが制御されているため、エンジン負荷トルクTErに応じて予め定められた前記相殺トルクTMG2rを加算してその力行トルクを増大補正し、フィードフォワード制御する。エンジン20が自力回転するようになる運転開始直後には、エンジントルクTEが急に増大することに起因する駆動トルク変動を抑制するため、第2モータジェネレータMG2のトルク(力行トルクまたは回生トルク)TMG2を予め定められた変化パターンに従って変化させるように、その第2モータジェネレータMG2をフィードフォワード制御する。
【0050】
図10は、車両走行時にステップS8〜S10のエンジン始動制御が行われた場合の各部のトルクや回転速度、クラッチCLの係合(ON)、解放(OFF)の変化を示すタイムチャートの一例で、時間t1はステップS7の判断がYES(肯定)かステップS11の判断がNO(否定)となってステップS8以下のエンジン始動制御が開始された時間で、時間t2は、エンジン20が自力回転するようになった運転開始時間で、時間t3は、一連のエンジン始動制御および駆動トルク変動抑制制御が終了してクラッチCLが解放された時間である。
【0051】
このように、本実施例の前後輪駆動車両においては、前後輪動力分配装置14の3つの回転要素(CS、CCA、CR)の中の2つの回転要素、すなわちサンギヤCSとリングギヤCRとを、相対回転不能に連結可能なクラッチCLが設けられ、第1モータジェネレータMG1によりエンジン20を回転駆動して始動する際にそのクラッチCLが係合させられると、前後輪動力分配装置14の3つの回転要素(CS、CCA、CR)の相対回転が制限されて一体的に結合される。これにより、後輪34側の動力伝達経路に連結された第2モータジェネレータMG2のトルクTMG2を、エンジン始動時のエンジントルク変動(負荷トルクや出力トルク)に応じて制御することにより、そのエンジントルク変動に起因して生じる駆動トルク変動(始動ショック)を適切に抑制することができる。
【0052】
一方、このようにエンジン始動のためにクラッチCLを係合させると、前後輪動力分配装置14の3つの回転要素(CS、CCA、CR)の相対回転が制限されて一体的に結合されるため、旋回走行時の前後輪44、34の差動が制限されてアンダーステア傾向となったりタイトコーナーブレーキング現象が発生したりする。このため、本実施例では、そのようなアンダーステア傾向やタイトコーナーブレーキング現象が問題となる旋回走行時、すなわち舵角Φが判定値Φ1よりも大きくてステップS11の判断がYES(肯定)となった場合には、ステップS12でエンジン20の始動が中止される。これにより、エンジン20の始動制御に起因して旋回走行時にアンダーステア傾向になったりタイトコーナーブレーキング現象が発生したりすることが防止される。
【0053】
また、本実施例では、車速Vが第1車速V1よりも低車速で実質的に略停止状態でアンダーステア傾向やタイトコーナーブレーキング現象の問題が生じない場合、或いは第2車速V2よりも高車速でアンダーステア傾向やタイトコーナーブレーキング現象が発生するような舵角操作が実質的に不可能な場合は、舵角Φの大きさに拘らずステップS4以下、或いはステップS8以下を実行してエンジン20の始動制御を行うため、エンジン20の始動中止が必要最小限に抑制される。
【0054】
以上、本発明の実施例を図面に基づいて詳細に説明したが、これはあくまでも一実施形態であり、本発明は当業者の知識に基づいて種々の変更、改良を加えた態様で実施することができる。
【符号の説明】
【0055】
12:電気式差動部 14:前後輪動力分配装置 16:差動用遊星歯車装置(差動機構) 18:差動入力軸(差動入力部材) 20:エンジン 22:差動出力部材 34:後輪(第1車輪) 44:前輪(第2車輪) 80:電子制御装置 90:エンジン始動制御手段 CCA:キャリア(入力回転要素) CS:サンギヤ(第1出力回転要素) CR:リングギヤ(第2出力回転要素) MG1:第1モータジェネレータ(第1回転機) MG2:第2モータジェネレータ(第2回転機) CL:クラッチ(係合装置)
【技術分野】
【0001】
本発明は前後輪駆動車両に係り、特に、電気式差動部の第1回転機によりエンジンを回転駆動(クランキング)して始動する際の駆動トルク変動を抑制する技術に関するものである。
【背景技術】
【0002】
(a) 差動機構の回転要素に動力伝達可能に連結された第1回転機の運転状態が制御されることにより、差動入力部材の回転速度と差動出力部材の回転速度との差動状態が制御される電気式差動部と、(b) 前記差動入力部材に動力伝達可能に連結されたエンジンと、(c) 入力回転要素、前後輪の一方の第1車輪に作動的に連結された第1出力回転要素、および前後輪の他方の第2車輪に作動的に連結された第2出力回転要素の3つの回転要素から成り、前記差動出力部材からその入力回転要素に入力された動力をその第1出力回転要素と第2出力回転要素とに分配する前後輪動力分配装置と、(d) 前記第1出力回転要素と前記第1車輪との間の動力伝達経路に動力伝達可能に連結された第2回転機と、を有する前後輪駆動車両が知られている。特許文献1に記載の前後輪駆動車両はその一例で、電気式差動部の差動機構および前後輪動力分配装置として何れも遊星歯車装置が用いられているとともに、第1回転機、第2回転機として、電動モータおよび発電機の機能が選択的に得られるモータジェネレータが用いられている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2004−114944号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、このような前後輪駆動車両においてエンジンを始動する際に、第1回転機によりエンジンを回転駆動(クランキング)することが考えられる。その場合、エンジンが回転駆動される際の反力、すなわち吸排気のポンピング作用やフリクションなどに起因するエンジン負荷トルク(回転抵抗)によって生じる反力が、前後輪動力分配装置を介して前後輪に連結された差動出力部材によって受け止められるが、その際に前後輪に反力が伝達されて駆動トルク変動(始動時ショック)が発生するという問題があった。また、エンジンが自力回転するようになる運転開始(起動)直後には、エンジントルクが急に増大することにより同じく駆動トルク変動が生じることがある。何れの場合も、第1車輪については、第2回転機のトルク制御で駆動トルク変動を抑制することができるが、第2車輪についてはそのようなトルク制御を行うことができないため、駆動トルク変動が生じることが避けられない。第2車輪側の動力伝達経路にも回転機を設ければ、そのトルク制御で駆動トルク変動を抑制することができるが、新たに回転機を追加しなければならないため、コストや搭載スペースの点で好ましくない。
【0005】
本発明は以上の事情を背景として為されたもので、その目的とするところは、電気式差動部の第1回転機によりエンジンを回転駆動して始動する際の駆動トルク変動を、前後輪動力分配装置と前後輪の一方の第1車輪との間の動力伝達経路に連結された第2回転機を利用して適切に抑制できるようにすることにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
かかる目的を達成するために、第1発明は、(a) 差動機構の回転要素に動力伝達可能に連結された第1回転機の運転状態が制御されることにより、差動入力部材の回転速度と差動出力部材の回転速度との差動状態が制御される電気式差動部と、(b) 前記差動入力部材に動力伝達可能に連結されたエンジンと、(c) 入力回転要素、前後輪の一方の第1車輪に作動的に連結された第1出力回転要素、および前後輪の他方の第2車輪に作動的に連結された第2出力回転要素の3つの回転要素から成り、前記差動出力部材からその入力回転要素に入力された動力をその第1出力回転要素と第2出力回転要素とに分配する前後輪動力分配装置と、(d) 前記第1出力回転要素と前記第1車輪との間の動力伝達経路に動力伝達可能に連結された第2回転機と、を有する前後輪駆動車両のエンジン始動制御装置において、(e) 前記前後輪動力分配装置の3つの回転要素の何れか2つを相対回転不能に連結可能な係合装置を有し、前記第1回転機により前記エンジンを回転駆動して始動する際にその係合装置を係合させることを特徴とする。
【0007】
第2発明は、第1発明の前後輪駆動車両のエンジン始動制御装置において、車両の舵角が所定以上の場合は前記エンジンの始動を行わないことを特徴とする。
【発明の効果】
【0008】
このような前後輪駆動車両のエンジン始動制御装置においては、前後輪動力分配装置の3つの回転要素の何れか2つを相対回転不能に連結可能な係合装置が設けられ、第1回転機によりエンジンを回転駆動して始動する際にその係合装置が係合させられると、前後輪動力分配装置の3つの回転要素の相対回転が制限されて一体的に結合される。これにより、一方の第1車輪側の動力伝達経路に連結された第2回転機のトルクを、エンジン始動時のエンジントルク変動(負荷トルクや出力トルク)に応じて制御することにより、そのエンジントルク変動に起因して生じる駆動トルク変動(始動ショック)を適切に抑制することができる。
【0009】
一方、このようにエンジン始動のために係合装置を係合させると、前後輪動力分配装置の3つの回転要素の相対回転が制限されて一体的に結合されるため、旋回走行時の前後輪の差動が制限されてアンダーステア傾向となったりタイトコーナーブレーキング現象が発生したりする。このため、第2発明のように車両の舵角が所定以上の場合はエンジンの始動を行わないようにし、係合装置が解放状態に保持されるようにすることが望ましく、これによりエンジンの始動制御に起因して旋回走行時にアンダーステア傾向になったりタイトコーナーブレーキング現象が発生したりすることが防止される。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】本発明が適用された前後輪駆動車両の動力伝達装置を説明する骨子図である。
【図2】図1の動力伝達装置の電気式差動部の3つの回転要素の回転速度の関係を直線上で表すことができる共線図で、前後輪動力分配装置の共線図を併せて示した図である。
【図3】図1の動力伝達装置が備えている電子制御装置の入出力信号の一例を説明する図である。
【図4】図3の電子制御装置によって実行される制御機能の要部を説明する機能ブロック線図である。
【図5】エンジン走行とモータ走行とを切り換える駆動力源切換制御で用いられる駆動力源マップの一例を示す図である。
【図6】図1の動力伝達装置が備えているエンジンの燃費マップの一例である。
【図7】図4のエンジン始動制御手段によって行われるエンジン始動制御の内容を具体的に説明するフローチャートである。
【図8】図7のフローチャートにおいてエンジン始動の可否を判断する車速V1、V2および操舵角判定値Φ1の一例を示す図である。
【図9】車両停止時に図7のフローチャートに従ってエンジン始動制御が行われた場合の各部のトルクや回転速度、クラッチのON、OFFの変化を示すタイムチャートの一例である。
【図10】車両走行時に図7のフローチャートに従ってエンジン始動制御が行われた場合の各部のトルクや回転速度、クラッチのON(係合)、OFF(解放)の変化を示すタイムチャートの一例である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明の前後輪駆動車両は、エンジンの他に第1回転機および第2回転機を備えており、その何れか一方或いは両方を車両走行用の動力源として使用し、エンジンは専ら発電のために使用する電気自動車、或いはそれ等の回転機およびエンジンを共に走行用動力源として使用するハイブリッド車両に好適に適用される。電気式差動部の差動入力部材に連結されるエンジンは、燃料の燃焼によって動力を発生するガソリンエンジンやディーゼルエンジン等の内燃機関が好適に用いられる。
【0012】
電気式差動部は、差動機構として例えばシングルピニオン型或いはダブルピニオン型の単一の遊星歯車装置を備えて構成されるが、複数の遊星歯車装置を用いて構成することもできるし、傘歯車式の差動装置を用いることもできるなど、種々の態様が可能である。この電気式差動部は、例えば前記第1回転機、差動入力部材、および差動出力部材にそれぞれ連結された差動機構の3つの回転要素の回転速度を直線上で表すことができる共線図上において、差動入力部材に連結された回転要素が中間に位置するように構成されるが、差動出力部材に連結された回転要素が中間に位置するように構成した場合にも適用され得る。
【0013】
第1回転機および第2回転機は回転電気機械のことで、例えば電気で回転駆動される電動モータ、或いは電動モータおよび発電機の両方の機能が選択的に得られるモータジェネレータが好適に用いられるが、構成によっては例えば第1回転機として発電機を採用することもできる。第2回転機は、第1出力回転要素と第1車輪との間の動力伝達経路に直接連結されても良いが、増速或いは減速する変速機等を介して連結することもできる。第1車輪は前輪であっても後輪であっても良い。
【0014】
エンジン始動制御は、車両の停止時に行われても良く、その場合は第1回転機を力行制御してエンジンを回転駆動するとともに、そのエンジン回転時の反力で差動出力部材に作用する逆回転方向の反力トルクを第2回転機の力行トルクの制御で相殺するようにすれば良い。また、第2回転機を動力源として走行するモータ走行時には、差動出力部材は車速に応じた速度で回転させられる一方、第1回転機はその差動出力部材の回転速度に応じて同じ回転方向または逆回転方向へ回転させられるため、その第1回転機を回生制御或いは必要に応じて力行制御することによりエンジンを回転駆動することができるとともに、その際のエンジン回転時の反力で差動出力部材に作用する逆回転方向の反力トルクを第2回転機の力行トルクの制御で相殺するようにすれば良い。第2回転機を動力源とするモータ走行時には、運転者の要求出力トルクに応じて力行トルクが制御されるため、エンジン始動時の反力に応じたトルクを加算するなどして第2回転機の力行トルクを増大補正すれば良い。エンジンが自力回転するようになる運転開始直後の駆動トルク変動に対しては、第2回転機の回生トルク制御や力行トルクの低減制御で対応することができる。
【0015】
エンジン始動時のポンピング作用等によるエンジン負荷トルクで差動出力部材に作用する反力トルクの変化特性は、エンジン負荷トルクの特性や電気式差動部の差動機構のトルク比などから予め求めることができるため、その反力トルクを相殺できる第2回転機のトルクを予め設定しておいて、フィードフォワード制御で第2回転機の力行トルクを制御することが望ましい。実際のエンジン負荷トルクを検出して第2回転機のトルクを制御するようにしても良いなど、反力トルクによる駆動トルク変動を抑制できる他の制御を採用することもできる。エンジン運転開始直後のエンジントルク増大に伴う駆動トルク変動についても、同様に第2回転機のフィードフォワード制御等で抑制することができる。
【0016】
前後輪動力分配装置は、電気式差動部と同様に差動機構として例えばシングルピニオン型或いはダブルピニオン型の単一の遊星歯車装置を備えて構成されるが、複数の遊星歯車装置を用いて構成することもできるし、傘歯車式の差動装置を用いることもできるなど、種々の態様が可能である。差動機構がシングルピニオン型の単一の遊星歯車装置の場合、例えば共線図上で中間に位置するキャリアが入力回転要素とされ、差動機構がダブルピニオン型の単一の遊星歯車装置の場合、例えば共線図上で中間に位置するリングギヤが入力回転要素とされるが、共線図上の端に位置する回転要素が入力回転要素とされる場合にも本発明は適用され得る。
【0017】
上記前後輪動力分配装置の入力回転要素と前記差動出力部材とは一体的に連結されても良いが、クラッチ等の断続装置を介して連結したり増速或いは減速する変速機を介して連結したりするなど種々の態様が可能である。
【0018】
係合装置は、油圧式、電磁式等の摩擦係合装置、例えば単板式や多板式の摩擦クラッチが好適に用いられ、前後輪動力分配装置の3つの回転要素の中の任意の2つを相対回転不能に連結するように配設される。例えば第1出力回転要素と第2出力回転要素とを一体的に連結するように設けられるが、何れか一方の出力回転要素と入力回転要素とを連結するように配設されても良い。この係合装置を、オーバーステア時等の差動制限クラッチとして使用することも可能である。
【0019】
第2発明では、アンダーステア傾向になったりタイトコーナーブレーキング現象が発生したりすることを防止するため、車両の舵角が所定以上の場合にはエンジンの始動が禁止されるなどして行われないが、第1発明の実施に際しては、例えば係合装置を解放したままエンジン始動制御を行ったり、アンダーステア傾向やタイトコーナーブレーキング現象の発生が抑制されるように係合装置を半係合状態(半クラッチ状態)としてエンジン始動制御を行ったりしても良い。
【0020】
車両停止時には、上記アンダーステア傾向やタイトコーナーブレーキング現象の問題が発生しないため、車速が略0の車両停止時には舵角の大きさに拘らず係合装置を係合させてエンジン始動制御を行っても差し支えない。また、車速が高くなるに従って最大舵角は小さくなり、アンダーステア傾向やタイトコーナーブレーキング現象の問題が発生し難くなるため、所定車速以上では舵角の大きさに拘らず係合装置を係合させてエンジン始動制御が行われるようにしても良い。すなわち、第2発明の実施に際しては、例えばアンダーステア傾向やタイトコーナーブレーキング現象の問題が発生する可能性がある所定の車速領域で舵角が所定以上の場合にエンジンの始動が行われないようにすれば良い。
【0021】
本発明は、電気式差動部の差動出力部材が前後輪動力分配装置を介して前輪および後輪に常に作動的に連結されて動力伝達される場合に好適に適用されるが、動力伝達を遮断するクラッチ等の断続装置が配設されている場合でも、その断続装置が接続されて動力伝達される状態でエンジン始動制御を行う場合には、本発明が適用されることにより同様の作用効果が得られる。
【実施例】
【0022】
以下、本発明の実施例を、図面を参照しつつ詳細に説明する。
図1は、本発明の一実施例であるハイブリッド駆動型の前後輪駆動車両の動力伝達装置10を説明する骨子図で、電気式差動部12および前後輪動力分配装置14を備えている。電気式差動部12は、差動機構としてシングルピニオン型の差動用遊星歯車装置16を備えており、差動用遊星歯車装置16のキャリアSCAには、差動入力部材としての差動入力軸18等を介してエンジン20が連結されているとともに、サンギヤSSには第1モータジェネレータMG1が連結されており、リングギヤSRには差動出力部材22が一体的に連結されている。エンジン20はガソリンエンジンやディーゼルエンジン等の内燃機関で、差動入力軸18に直接或いは図示しない脈動吸収ダンパー等を介して間接的に連結されている。第1モータジェネレータMG1は第1回転機として設けられたもので、電動モータおよび発電機の両方の機能を選択的に発揮できる。
【0023】
このように構成された電気式差動部12は、差動用遊星歯車装置16の3つの回転要素であるサンギヤSS、キャリアSCA、リングギヤSRがそれぞれ相互に相対回転可能とされて差動作用が働く差動状態とされることから、エンジン20の出力が第1モータジェネレータMG1と差動出力部材22とに分配される。分配されたエンジン20の出力の一部で第1モータジェネレータMG1が回転駆動されることにより、その第1モータジェネレータMG1の回生制御(発電制御)で電気エネルギーが発生させられ、その電気エネルギーにより、後輪側の動力伝達経路に設けられた第2モータジェネレータMG2が力行制御されるとともに、余剰の電気エネルギーがバッテリーである蓄電装置64(図4参照)に充電される。また、電気式差動部12は電気的な差動装置として機能させられ、所謂無段変速状態(電気的CVT状態)とされて、エンジン20の所定回転に拘わらず差動出力部材22の回転が第1モータジェネレータMG1の回転速度に応じて連続的に変化させられる。すなわち、電気式差動部12は、その変速比γS(=差動入力軸18の回転速度/差動出力部材22の回転速度)が最小値γSmin から最大値γSmax まで連続的に変化させられる電気的な無段変速機として機能する。このように、電気式差動部12に動力伝達可能に連結された第1モータジェネレータMG1の運転状態が制御されることにより、差動入力軸18の回転速度すなわちエンジン回転速度NEと差動出力部材22の回転速度との差動状態が制御される。
【0024】
前後輪動力分配装置14は、差動機構として機能するシングルピニオン型の分配用遊星歯車装置24を主体として構成されており、その分配用遊星歯車装置24のキャリアCCAは入力回転要素で、前記差動出力部材22に一体的に連結されている。また、サンギヤCSは後輪側出力軸26に一体的に連結されており、リングギヤCRは前輪側出力歯車28に一体的に連結されている。そして、後輪側出力軸26は、後側左右輪動力分配装置32等を介して左右の後輪34に作動的に連結されているとともに、サンギヤCSから後側左右輪動力分配装置32までの動力伝達経路には第2モータジェネレータMG2が動力伝達可能に連結されている。この第2モータジェネレータMG2は第2回転機に相当し、本実施例では副動力源として設けられており、電動モータおよび発電機の両方の機能を選択的に発揮できるが、主として電動モータとして用いられ、後輪34を回転駆動してモータ走行を行ったり、前記エンジン20を動力源とする走行時にアシストトルクを付与したりする。また、前輪側出力歯車28は、カウンタ歯車36、ドリブン歯車38、伝達シャフト40、および前側左右輪動力分配装置42等を介して左右の前輪44に作動的に連結されている。なお、前記電気式差動部12、前後輪動力分配装置14、第1モータジェネレータMG1、第2モータジェネレータMG2は、その軸心に対して略対称的に構成されているため、図1の骨子図ではその下側半分が省略されている。また、符号56はケースである。
【0025】
上記前輪側出力歯車28と第2モータジェネレータMG2との間の部分には、油圧式の摩擦係合装置としてクラッチCLが配設されており、前輪側出力歯車28と後輪側出力軸26とを相対回転不能に連結できるようになっている。すなわち、前後輪動力分配装置14を構成している分配用遊星歯車装置24のリングギヤCRとサンギヤCSとが一体的に連結されるのであり、これにより分配用遊星歯車装置24の3つの回転要素(CS、CCA、CR)の相対回転が制限されて一体的に結合され、車両走行時には一体回転させられるようになって前輪44および後輪34の差動が制限される。
【0026】
本実施例の前後輪駆動車両は、FR(フロントエンジン・リヤドライブ)車をベースとした4輪駆動車両で、電気式差動部12と第2モータジェネレータMG2との間に遊星歯車式の前後輪動力分配装置14が配設されることにより、電気式差動部12から前輪44にも動力が伝達されるようにしたものである。
【0027】
図2は、前記電気式差動部12の3つの回転要素(SS、SCA、SR)の回転速度を直線上で表すことができる共線図で、前後輪動力分配装置14の共線図を併せて示したものである。シングルピニオン型の差動用遊星歯車装置16によって差動作用が得られる電気式差動部12の各回転要素(SS、SCA、SR)の間隔の比率は差動用遊星歯車装置16のギヤ比ρSに応じて定まり、シングルピニオン型の分配用遊星歯車装置24によって差動作用が得られる前後輪動力分配装置14の各回転要素(CS、CCA、CR)の間隔の比率は分配用遊星歯車装置24のギヤ比ρCに応じて定まる。そして、本実施例では、電気式差動部12の3つの回転要素(SS、SCA、SR)のうち、共線図において中間に位置するキャリアSCAにエンジン20が連結されており、そのキャリアSCAに対して間隔が狭い側のリングギヤSRに差動出力部材22が連結され、間隔が広い側のサンギヤSSに第1モータジェネレータMG1が連結されている。また、前後輪動力分配装置14の3つの回転要素(CS、CCA、CR)のうち、共線図において中間に位置するキャリアCCAが入力回転要素で、前記電気式差動部12のリングギヤSRに一体的に連結されており、間隔が広い側のサンギヤCSが第1出力回転要素で、後輪用出力軸26を介して後輪34に作動的に連結されており、反対側のリングギヤCRが第2出力回転要素で、前輪用出力歯車28を介して前輪44に作動的に連結されている。後輪34は前後輪の一方の第1車輪に相当し、前輪44は前後輪の他方の第2車輪に相当する。上記差動用遊星歯車装置16のギヤ比ρS、分配用遊星歯車装置24のギヤ比ρCは、それぞれトルク分配比等を考慮して適宜定められる。
【0028】
ここで、前記前輪側出力歯車28およびドリブン歯車38の歯数は互いに等しく、同じ方向へ等速回転させられるとともに、後輪34側の終減速比(デフ比)irと前輪44側の終減速比(デフ比)ifは互いに等しく、前後輪動力分配装置14から後輪34、前輪44までの変速比γrおよびγfは互いに等しい。これにより、ステアリングの舵角Φが所定値以下の直進走行ではキャリアCCAおよびサンギヤCSは互いに同じ回転速度で回転させられ、前後輪動力分配装置14は略一体的に回転させられる。
【0029】
図3は、本実施例の動力伝達装置10を制御するための電子制御装置80に入力される信号及びその電子制御装置80から出力される信号を例示している。この電子制御装置80は、CPU、ROM、RAM、及び入出力インターフェースなどから成る所謂マイクロコンピュータを含んで構成されており、RAMの一時記憶機能を利用しつつROMに予め記憶されたプログラムに従って信号処理を行うことによりエンジン20、第1モータジェネレータMG1、第2モータジェネレータMG2に関するハイブリッド駆動制御等を実行するものである。
【0030】
電子制御装置80には、図3に示すような各センサやスイッチなどから、エンジン水温TEMPW を表す信号、シフトレバーのシフトポジションPSHを表す信号、エンジン20の回転速度であるエンジン回転速度NEを表す信号、エアコンの作動を表す信号、後輪側出力軸26の回転速度NOUT に対応する車速Vを表す信号、クラッチCLを係合させたり各部を潤滑したりする油圧制御回路70(図4参照)の作動油の油温TOIL を表す信号、サイドブレーキ操作を表す信号、フットブレーキ操作を表す信号、触媒温度を表す信号、運転者の出力要求量に対応するアクセルペダルの操作量であるアクセル操作量(開度)Accを表す信号、カム角を表す信号、スノーモード設定を表す信号、車両の前後加速度Gを表す信号、オートクルーズ走行を表す信号、車両の重量(車重)を表す信号、各車輪の車輪速を表す信号、第1モータジェネレータMG1の回転速度NMG1を表す信号、第2モータジェネレータMG2の回転速度NMG2を表す信号、蓄電装置64の蓄電量(残量)SOCを表す信号、ヨーレイト(ヨー角速度)Yを表す信号、前輪34の舵角Φを表す信号などが、それぞれ供給される。
【0031】
また、上記電子制御装置80からは、エンジン出力を制御するエンジン出力制御装置60(図4参照)への制御信号、例えばエンジン20の吸気管に備えられた電子スロットル弁のスロットル弁開度θTHを操作するスロットルアクチュエータへの駆動信号や、燃料噴射装置による吸気管或いはエンジン20の筒内への燃料供給量を制御する燃料供給量信号、点火装置によるエンジン20の点火時期を指令する点火信号、過給圧を調整するための過給圧調整信号などが出力される。また、電動エアコンを作動させるための電動エアコン駆動信号、第1モータジェネレータMG1、第2モータジェネレータMG2の作動をそれぞれ指令する指令信号、シフトインジケータを作動させるためのシフトポジション(操作位置)表示信号、電気式差動部12の変速比γSを表示させるための変速比表示信号、スノーモードであることを表示させるためのスノーモード表示信号、制動時の車輪のスリップを防止するABSアクチュエータを作動させるためのABS作動信号、クラッチCLの油圧アクチュエータを制御するために油圧制御回路70(図4参照)に含まれるCLソレノイドバルブ等を作動させるバルブ指令信号、この油圧制御回路70に設けられたレギュレータバルブ(調圧弁)によりライン圧PLを調圧するための信号、そのライン圧PLが調圧されるための元圧の油圧源である電動オイルポンプを作動させるための駆動指令信号、電動ヒータを駆動するための信号、クルーズコントロール制御用コンピュータへの信号等が、それぞれ出力される。
【0032】
図4は、電子制御装置80による制御機能の要部を説明する機能ブロック線図で、ハイブリッド制御手段82およびエンジン始動制御手段90を機能的に備えている。ハイブリッド制御手段82は、エンジン20を効率の良い作動域で作動させるとともに、エンジン20と第2モータジェネレータMG2との動力配分を制御したり、第1モータジェネレータMG1の発電による反力を最適になるように変化させて電気式差動部12の電気的な無段変速機としての変速比γSを制御したりする。すなわち、そのときの走行車速Vにおいて、運転者の出力要求量としてのアクセル操作量Accや車速Vから車両の目標(要求)出力を算出するとともに、その車両の目標出力と充電要求値から必要なトータル目標出力を算出する。そして、そのトータル目標出力が得られるように、伝達損失、補機負荷、第2モータジェネレータMG2のアシストトルク等を考慮して目標エンジン出力を算出し、その目標エンジン出力が得られるエンジン回転速度NEとエンジントルクTEとなるように、エンジン20を制御するとともに第1モータジェネレータMG1の発電量を制御する。
【0033】
また、エンジン20を効率のよい作動域で作動させるために定まるエンジン回転速度NEと、車速Vに応じて定まる差動出力部材22の回転速度、すなわちリングギヤSRの回転速度とを整合させるために、電気式差動部12が電気的な無段変速機として機能させられる。すなわち、ハイブリッド制御手段82は、エンジン回転速度NEとエンジン20の出力トルク(エンジントルク)TEとで構成される二次元座標内において、運転性と燃費性とを両立するように予め実験的に求められて記憶された図6に破線で示すようなエンジン20の最適燃費曲線(燃費マップ、関係)に基づいて、その最適燃費曲線に沿ってエンジン20が作動させられるように、車速Vに応じて電気式差動部12の変速比γSを制御する。
【0034】
このとき、ハイブリッド制御手段82は、第1モータジェネレータMG1により発電された電気エネルギーをインバータ62を通して蓄電装置64や第2モータジェネレータMG2へ供給するので、エンジン20の動力の主要部は機械的に差動出力部材22へ伝達されるが、エンジン20の動力の一部は第1モータジェネレータMG1の発電のために消費されてそこで電気エネルギーに変換される。その電気エネルギーは、インバータ62を通して第2モータジェネレータMG2へ供給され、その第2モータジェネレータMG2が駆動されてそのトルクが後輪側出力軸26に加えられる。この電気エネルギーの発生から第2モータジェネレータMG2で消費されるまでに関連する機器により、エンジン20の動力の一部を電気エネルギーに変換し、その電気エネルギーを機械的エネルギーに変換するまでの電気パスが構成される。通常の定常走行時には図2に実線で示すように、第1モータジェネレータMG1の回転速度NMG1は略0に保持されるか、或いは車速Vに応じてエンジン回転方向と同じ正回転方向へ回転させられ、回生制御によって電気エネルギーを発生させるとともに、エンジン20によって差動出力部材22(リングギヤSR)を正回転方向へ回転駆動する際の反力が受け止められる。
【0035】
また、ハイブリッド制御手段82は、車両の停止中又は走行中に拘わらず、電気式差動部12の電気的CVT機能によって第1モータジェネレータ回転速度NMG1を制御することにより、エンジン回転速度NEを略一定に維持したり任意の回転速度に制御したりする。
【0036】
また、ハイブリッド制御手段82は、スロットル制御のためにスロットルアクチュエータにより電子スロットル弁を開閉制御させる他、燃料噴射制御のために燃料噴射装置による燃料噴射量や噴射時期を制御させ、点火時期制御のためにイグナイタ等の点火装置による点火時期を制御させる指令を単独で或いは組み合わせてエンジン出力制御装置60に出力して、必要なエンジン出力を発生するようにエンジン20の出力制御を実行するエンジン出力制御手段を機能的に備えている。例えば、基本的には図示しない予め記憶された関係からアクセル操作量Accに基づいてスロットルアクチュエータを駆動し、アクセル操作量Accが増加するほどスロットル弁開度θTHを増加させるようにスロットル制御を実行する。
【0037】
また、ハイブリッド制御手段82は、エンジン20の停止又はアイドル状態に拘わらず、電気式差動部12の電気的CVT機能(差動作用)によってモータ走行させることができる。例えば、一般的にエンジン効率が高トルク域に比較して悪いとされる比較的低出力トルク域すなわち低エンジントルク域、或いは車速Vの比較的低車速域すなわち低負荷域においては、エンジン20を停止又はアイドル状態とし、第2モータジェネレータMG2のみを動力源として用いて走行するモータ走行を実行する。例えば図5の切換線Aよりも原点側、すなわち低トルク側或いは低車速側は予め定められたモータ走行領域である。図5は車速Vおよび要求出力トルクTOUT(アクセル操作量Accなど)をパラメータとして切換線Aが定められた駆動力源マップの一例で、予め定められたエンジン走行車速Ve以上では要求出力トルクTOUTの大きさに拘らずエンジン走行とされる。モータ走行では、後輪34のみを駆動して走行する後輪駆動走行となる。エンジン20が停止している時には、そのエンジン20の引き摺りを抑制して燃費を向上させるため、例えば第1モータジェネレータMG1を無負荷状態とすることにより空転させて、電気式差動部12の電気的CVT機能(差動作用)によりエンジン回転速度NEを0乃至略0に維持することが望ましい。モータ走行領域であっても、所定の加速時など必要に応じてエンジン20を作動させてエンジン20および第2モータジェネレータMG2の両方を動力源として走行する。また、蓄電装置64の充電や暖機等のために必要に応じてエンジン20を運転状態とする。
【0038】
ハイブリッド制御手段82は、エンジン20を動力源として走行するエンジン走行時であっても、上述した電気パスによる第1モータジェネレータMG1からの電気エネルギーおよび/または蓄電装置64からの電気エネルギーを第2モータジェネレータMG2へ供給し、その第2モータジェネレータMG2を駆動して後輪34にトルクを付与することにより、エンジン20の動力を補助するための所謂トルクアシストが可能である。例えばアクセルペダルが大きく踏込み操作された加速走行時や登坂路などでは、第2モータジェネレータMG2を力行制御してトルクアシストを行う。図5において切換線Aよりも外側、すなわち高トルク側或いは高車速側は、エンジン走行が行われるエンジン走行領域であるが、必要に応じて第2モータジェネレータMG2によるトルクアシストが行われる。
【0039】
また、ハイブリッド制御手段82は、第1モータジェネレータMG1を無負荷状態として自由回転すなわち空転させることにより、電気式差動部12がトルクの伝達を不能な状態すなわち電気式差動部12内の動力伝達経路が遮断された状態と同等の状態であって、且つ電気式差動部12からの出力が発生されない状態とすることが可能である。すなわち、ハイブリッド制御手段82は、第1モータジェネレータMG1を無負荷状態とすることにより、電気式差動部12を、その動力伝達経路が電気的に遮断される中立状態(ニュートラル状態)とすることが可能である。
【0040】
また、ハイブリッド制御手段82は、アクセルオフの惰性走行時(コースト走行時)やフットブレーキによる制動時などには、燃費を向上させるために車両の運動エネルギーすなわち後輪34から入力される逆駆動力により第2モータジェネレータMG2が回転駆動される際に、その第2モータジェネレータMG2を回生制御して発電機として作動させ、その電気エネルギーをインバータ62を介して蓄電装置64へ充電する回生制御手段としての機能を有する。この回生制御は、蓄電装置64の蓄電容量SOCやブレーキペダル操作量に応じた制動力を得るための油圧ブレーキによる制動力の制動力配分等に基づいて決定された回生量となるように制御される。
【0041】
一方、前記エンジン始動制御手段80は、例えばエンジン20を走行用動力源として用いるためや、極低温時に暖機するため、或いは蓄電装置64の蓄電量SOCが低下した場合に蓄電装置64を充電するため等に、走行中或いは車両停止時にエンジン20を始動する。このエンジン始動制御手段80は、基本的には第1モータジェネレータMG1によりエンジン20を回転駆動(クランキング)してそのエンジン20を始動する。すなわち、例えば車両停止時には、図2の共線図に一点鎖線の直線K1で示すように、第1モータジェネレータMG1をエンジン回転方向と同じ正回転方向へ所定のエンジン始動トルクTMG1sで回転駆動(力行制御)すると、車両停止により差動出力部材22(リングギヤSR)が回転速度0に保持されることから、エンジン20のポンピング作用等によるエンジン負荷トルク(回転抵抗)TErに抗してエンジン回転速度NEが所定の始動回転速度まで強制的に上昇させられ、燃料噴射制御等の始動制御が行われることによりエンジン20を始動させることができる。また、第2モータジェネレータMG2を動力源とするモータ走行時には、エンジン回転速度NEが略0に保持されることから破線の直線K2で示す関係になり、第1モータジェネレータMG1は逆回転方向へ回転させられる。このため、その第1モータジェネレータMG1を回生制御して回転速度NMG1を0に接近させることにより、或いは更に力行制御で正回転方向へ回転駆動することにより、エンジン負荷トルクTErに抗してエンジン回転速度NEを所定の始動回転速度まで強制的に上昇させることができ、燃料噴射制御等の始動制御が行われることによりエンジン20を始動させることができる。
【0042】
ここで、このように電気式差動部12の第1モータジェネレータMG1によりエンジン20を回転駆動してエンジン20を始動する場合、そのエンジン負荷トルクTErに応じた反力が差動出力部材22に作用し、そのまま前後輪動力分配装置14を介して前後輪44、34に伝達されるため、その反力に起因して駆動トルク変動が発生する。また、エンジン20が自力回転するようになる運転開始直後には、エンジントルクが急に増大することにより同じく駆動トルク変動が発生する。本実施例では、このような始動時ショックを抑制するため、図4に示すように前記エンジン始動制御手段90はエンジン始動可否判断手段92、クラッチ係合手段94、および駆動トルク変動抑制手段96を機能的に備えており、図7のフローチャートに従って信号処理を行うことにより、その始動時ショックを抑制しつつエンジン20を始動するようになっている。図7のステップS2、S3、S7、およびS11はエンジン始動可否判断手段92に相当し、ステップS4、S8はクラッチ係合手段94に相当し、ステップS5、S9は駆動トルク変動抑制手段96に相当する。
【0043】
図7のステップS1では、エンジン20を走行用動力源として用いるためや、極低温時に暖機するため、或いは蓄電装置64の蓄電量SOCが低下した場合に蓄電装置64を充電するため等に、走行中或いは車両停止時にエンジン20を始動するエンジン始動指令が出力されたか否かを判断する。そして、エンジン始動指令が出力された場合はステップS2以下を実行する。ステップS2では車速Vおよび舵角Φを読み込み、ステップS3では車速Vが予め定められた第1車速V1よりも低いか否かを判断する。第1車速V1は、クラッチCLを係合してもアンダーステア傾向やタイトコーナーブレーキング現象の問題が発生しない略0付近の低車速であり、V<V1の場合にはステップS4〜S6の車両停止時のエンジン始動制御を実行する。
【0044】
ステップS4ではクラッチCLを係合させ、前後輪動力分配装置14を構成している分配用遊星歯車装置24の3つの回転要素(CS、CCA、CR)の相対回転を阻止して一体的に結合し、この場合には略回転停止状態に保持する。ステップS5では、第1モータジェネレータMG1を所定のエンジン始動トルクTMG1sで力行制御し、前記エンジン負荷トルクTErに抗してエンジン回転速度NEを所定の始動回転速度まで強制的に上昇させるとともに、燃料噴射制御等の始動制御を行ってエンジン20を始動する一方、そのエンジン負荷トルクTErに応じて差動出力部材22に作用する反力トルクを相殺するように、第2モータジェネレータMG2を相殺トルクTMG2rで正回転方向へ力行制御する。すなわち、この場合は回転速度が略0の差動出力部材22を逆回転方向へ回転させる反力トルクが作用するため、その反力トルクを相殺するように、前後輪動力分配装置14を介して差動出力部材22に連結された第2モータジェネレータMG2を正回転方向へ力行制御するのであるが、前後輪動力分配装置14は上記クラッチCLの係合で相対回転不能に一体的に連結されているため、後輪側出力軸26に配設された第2モータジェネレータMG2によっても、反力トルクを適切に受け止めて駆動トルク変動を適切に防止することができる。
【0045】
エンジン負荷トルクTErによる反力トルクを相殺するための第2モータジェネレータMG2の相殺トルクTMG2rは、エンジン負荷トルクTErに基づいて差動用遊星歯車装置16のトルク比に応じて定まるため、例えばエンジン12の始動時のエンジン負荷トルクTErの変化特性に応じて反力トルクを相殺するための相殺トルクTMG2rの変化パターンを予め設定しておくことにより、フィードフォワード制御で第2モータジェネレータMG2の力行制御を行うことができる。また、エンジン20が自力回転するようになる運転開始直後には、エンジントルクTEが急に増大することに起因する駆動トルク変動を抑制するため、第2モータジェネレータMG2のトルク(回生トルク)TMG2を予め定められた変化パターンに従って変化させるように、その第2モータジェネレータMG2をフィードフォワード制御する。そして、このようなエンジン始動制御および駆動トルク変動抑制制御が終了したら、ステップS6でクラッチCLを解放する。
【0046】
図9は、車両停止時にステップS4〜S6のエンジン始動制御が行われた場合の各部のトルクや回転速度、クラッチCLの係合(ON)、解放(OFF)の変化を示すタイムチャートの一例である。時間t1は、ステップS3がYES(肯定)になってステップS4以下のエンジン始動制御が開始された時間で、時間t2は、エンジン20が自力回転するようになった運転開始時間で、時間t3は、一連のエンジン始動制御および駆動トルク変動抑制制御が終了してクラッチCLが解放された時間である。なお、第1モータジェネレータMG1のエンジン始動トルクTMG1s、第2モータジェネレータMG2の相殺トルクTMG2r、およびエンジン負荷トルクTErの相互の関係(比率)や、第1モータジェネレータ回転速度NMG1およびエンジン回転速度NEの相互の関係(比率)は、電気式差動部12の差動用遊星歯車装置16のトルク比或いはギヤ比ρSに応じて定まるが、これ等の関係は必ずしも正確に表したものではなく、概略の傾向を示したものである。図10のタイムチャートも同様である。
【0047】
図7に戻って、前記ステップS3の判断がNO(否定)の場合、すなわち車速Vが第1車速V1以上の車両走行時には、ステップS7を実行し、車速Vが第2車速V2よりも高いか否かを判断する。第2車速V2は、クラッチSLを係合してもアンダーステア傾向やタイトコーナーブレーキング現象の問題が発生する可能性がなくなる中程度の車速、例えば20〜30km/時程度の車速であり、V>V2の場合にはステップS8〜S10の車両走行時のエンジン始動制御を実行する。すなわち、運転者が操舵可能な最大舵角は、図8に示すように車速Vが高くなるに従って小さくなり、アンダーステア傾向やタイトコーナーブレーキング現象の問題が発生し難くなるため、所定車速(ここでは第2車速V2)以上では舵角Φの大きさに拘らずクラッチCLを係合させてエンジン始動制御を行うことができるのである。なお、本実施例では、エンジン走行車速Ve以上ではエンジン20は常に運転状態であるため、実質的にそのエンジン走行車速Veよりも低車速において、エンジン始動制御手段90によるエンジン始動制御が行われる。
【0048】
上記ステップS7の判断がNO(否定)の場合、すなわち車速Vが第2車速V2以下の場合で、V1≦V≦V2の時には、続いてステップS11を実行する。ステップS11では、舵角Φが予め定めれた判定値Φ1より大きいか否かを判断し、Φ>Φ1の場合にはステップS12でエンジン始動不可と判断してエンジン20の始動を中止するが、Φ≦Φ1の場合は、ステップS8〜S10の車両走行時のエンジン始動制御を実行する。すなわち、車速VがV1≦V≦V2の走行時には比較的大きな舵角Φで旋回走行できるが、その時にクラッチCLを係合させると、前後輪動力分配装置14の差動が制限されてアンダーステア傾向になったりタイトコーナーブレーキング現象が発生したりするため、舵角Φが予め定められた判定値Φ1より大きい場合にはエンジン20の始動制御を中止するのである。判定値Φ1は、例えば予め実験やシミュレーション等によって一定値が定められる。図8の斜線部は、ステップS11の判断がYES(肯定)となる領域、すなわちエンジン始動制御が中止される領域である。
【0049】
ステップS8〜S10の車両走行時のエンジン始動制御は、基本的には前記ステップS4〜S6の車両停止時のエンジン始動制御と同じであるが、第2モータジェネレータMG2を動力源とするモータ走行時には、電気式差動部12の各部の回転速度は前記図2に破線の直線K2で示す関係になり、第1モータジェネレータMG1は逆回転方向へ回転させられる。このため、ステップS9のエンジン始動制御では、その第1モータジェネレータMG1を前記エンジン始動トルクTMG1sで回生制御して回転速度NMG1を0に接近させることにより、或いは更に力行制御で正回転方向へ回転駆動することにより、エンジン負荷トルクTErに抗してエンジン回転速度NEを所定の始動回転速度まで強制的に上昇させるとともに、燃料噴射制御等の始動制御を行ってエンジン20を始動させることになる。また、エンジン負荷トルクTErは車両停止時と同じであるが、第2モータジェネレータMG2は、運転者の要求出力トルクTOUTに応じて力行トルクが制御されているため、エンジン負荷トルクTErに応じて予め定められた前記相殺トルクTMG2rを加算してその力行トルクを増大補正し、フィードフォワード制御する。エンジン20が自力回転するようになる運転開始直後には、エンジントルクTEが急に増大することに起因する駆動トルク変動を抑制するため、第2モータジェネレータMG2のトルク(力行トルクまたは回生トルク)TMG2を予め定められた変化パターンに従って変化させるように、その第2モータジェネレータMG2をフィードフォワード制御する。
【0050】
図10は、車両走行時にステップS8〜S10のエンジン始動制御が行われた場合の各部のトルクや回転速度、クラッチCLの係合(ON)、解放(OFF)の変化を示すタイムチャートの一例で、時間t1はステップS7の判断がYES(肯定)かステップS11の判断がNO(否定)となってステップS8以下のエンジン始動制御が開始された時間で、時間t2は、エンジン20が自力回転するようになった運転開始時間で、時間t3は、一連のエンジン始動制御および駆動トルク変動抑制制御が終了してクラッチCLが解放された時間である。
【0051】
このように、本実施例の前後輪駆動車両においては、前後輪動力分配装置14の3つの回転要素(CS、CCA、CR)の中の2つの回転要素、すなわちサンギヤCSとリングギヤCRとを、相対回転不能に連結可能なクラッチCLが設けられ、第1モータジェネレータMG1によりエンジン20を回転駆動して始動する際にそのクラッチCLが係合させられると、前後輪動力分配装置14の3つの回転要素(CS、CCA、CR)の相対回転が制限されて一体的に結合される。これにより、後輪34側の動力伝達経路に連結された第2モータジェネレータMG2のトルクTMG2を、エンジン始動時のエンジントルク変動(負荷トルクや出力トルク)に応じて制御することにより、そのエンジントルク変動に起因して生じる駆動トルク変動(始動ショック)を適切に抑制することができる。
【0052】
一方、このようにエンジン始動のためにクラッチCLを係合させると、前後輪動力分配装置14の3つの回転要素(CS、CCA、CR)の相対回転が制限されて一体的に結合されるため、旋回走行時の前後輪44、34の差動が制限されてアンダーステア傾向となったりタイトコーナーブレーキング現象が発生したりする。このため、本実施例では、そのようなアンダーステア傾向やタイトコーナーブレーキング現象が問題となる旋回走行時、すなわち舵角Φが判定値Φ1よりも大きくてステップS11の判断がYES(肯定)となった場合には、ステップS12でエンジン20の始動が中止される。これにより、エンジン20の始動制御に起因して旋回走行時にアンダーステア傾向になったりタイトコーナーブレーキング現象が発生したりすることが防止される。
【0053】
また、本実施例では、車速Vが第1車速V1よりも低車速で実質的に略停止状態でアンダーステア傾向やタイトコーナーブレーキング現象の問題が生じない場合、或いは第2車速V2よりも高車速でアンダーステア傾向やタイトコーナーブレーキング現象が発生するような舵角操作が実質的に不可能な場合は、舵角Φの大きさに拘らずステップS4以下、或いはステップS8以下を実行してエンジン20の始動制御を行うため、エンジン20の始動中止が必要最小限に抑制される。
【0054】
以上、本発明の実施例を図面に基づいて詳細に説明したが、これはあくまでも一実施形態であり、本発明は当業者の知識に基づいて種々の変更、改良を加えた態様で実施することができる。
【符号の説明】
【0055】
12:電気式差動部 14:前後輪動力分配装置 16:差動用遊星歯車装置(差動機構) 18:差動入力軸(差動入力部材) 20:エンジン 22:差動出力部材 34:後輪(第1車輪) 44:前輪(第2車輪) 80:電子制御装置 90:エンジン始動制御手段 CCA:キャリア(入力回転要素) CS:サンギヤ(第1出力回転要素) CR:リングギヤ(第2出力回転要素) MG1:第1モータジェネレータ(第1回転機) MG2:第2モータジェネレータ(第2回転機) CL:クラッチ(係合装置)
【特許請求の範囲】
【請求項1】
差動機構の回転要素に動力伝達可能に連結された第1回転機の運転状態が制御されることにより、差動入力部材の回転速度と差動出力部材の回転速度との差動状態が制御される電気式差動部と、
前記差動入力部材に動力伝達可能に連結されたエンジンと、
入力回転要素、前後輪の一方の第1車輪に作動的に連結された第1出力回転要素、および前後輪の他方の第2車輪に作動的に連結された第2出力回転要素の3つの回転要素から成り、前記差動出力部材から該入力回転要素に入力された動力を該第1出力回転要素と該第2出力回転要素とに分配する前後輪動力分配装置と、
前記第1出力回転要素と前記第1車輪との間の動力伝達経路に動力伝達可能に連結された第2回転機と、
を有する前後輪駆動車両のエンジン始動制御装置において、
前記前後輪動力分配装置の3つの回転要素の何れか2つを相対回転不能に連結可能な係合装置を有し、前記第1回転機により前記エンジンを回転駆動して始動する際に該係合装置を係合させる
ことを特徴とする前後輪駆動車両のエンジン始動制御装置。
【請求項2】
車両の舵角が所定以上の場合は前記エンジンの始動を行わない
ことを特徴とする請求項1に記載の前後輪駆動車両のエンジン始動制御装置。
【請求項1】
差動機構の回転要素に動力伝達可能に連結された第1回転機の運転状態が制御されることにより、差動入力部材の回転速度と差動出力部材の回転速度との差動状態が制御される電気式差動部と、
前記差動入力部材に動力伝達可能に連結されたエンジンと、
入力回転要素、前後輪の一方の第1車輪に作動的に連結された第1出力回転要素、および前後輪の他方の第2車輪に作動的に連結された第2出力回転要素の3つの回転要素から成り、前記差動出力部材から該入力回転要素に入力された動力を該第1出力回転要素と該第2出力回転要素とに分配する前後輪動力分配装置と、
前記第1出力回転要素と前記第1車輪との間の動力伝達経路に動力伝達可能に連結された第2回転機と、
を有する前後輪駆動車両のエンジン始動制御装置において、
前記前後輪動力分配装置の3つの回転要素の何れか2つを相対回転不能に連結可能な係合装置を有し、前記第1回転機により前記エンジンを回転駆動して始動する際に該係合装置を係合させる
ことを特徴とする前後輪駆動車両のエンジン始動制御装置。
【請求項2】
車両の舵角が所定以上の場合は前記エンジンの始動を行わない
ことを特徴とする請求項1に記載の前後輪駆動車両のエンジン始動制御装置。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【公開番号】特開2010−215038(P2010−215038A)
【公開日】平成22年9月30日(2010.9.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−62042(P2009−62042)
【出願日】平成21年3月13日(2009.3.13)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成22年9月30日(2010.9.30)
【国際特許分類】
【出願日】平成21年3月13日(2009.3.13)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】
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