説明

動力伝達装置

【課題】製造コストの増大する事態や適用対象の大型化を招来することなく、過負荷に伴う問題や精度上の問題を解決すること。
【解決手段】内周ギヤ部30a,40aを介してプラネタリギヤ20に歯合する第1リングギヤ30及び第2リングギヤ40と、第1リングギヤ30を停止要素として予め設定した大きさのブレーキトルクを付与するブレーキ手段とを備え、サンギヤ10を入力要素とし、かつ第2リングギヤ40を出力要素とする動力伝達装置であって、ブレーキ手段は、傾斜面33a,61aを介して第1リングギヤ30に係合することにより第1リングギヤ30との相対回転を規制する一方、第1リングギヤ30にブレーキトルクを超える回転トルクが加えられた場合には傾斜作用により相対的に離隔移動することで停止要素との相対回転を許容する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、動力伝達装置に関するもので、特に、トルクリミッター機能を有した動力伝達装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
この種の動力伝達装置としては、例えば、特許文献1に記載されたものがある。この特許文献1に記載された動力伝達装置では、遊星歯車機構のサンギヤが入力要素、プラネタリキャリヤが出力要素として構成されている。リングギヤには、摩擦部材が軸方向に押圧されて所望のブレーキトルクが作用している。
【0003】
この動力伝達装置では、サンギヤを回転した場合、摩擦部材によってリングギヤの回転が規制された状態にあるため、プラネタリキャリヤが公転して動力を伝達することができる。この状態からプラネタリキャリヤの回転負荷トルクがブレーキトルクを上回ると、ブレーキトルクに打ち勝ってリングギヤが回転して駆動源の駆動トルクを逃がすことができ、遊星歯車機構に破損等の損傷を来す恐れがない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2007−170547号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、特許文献1に記載された動力伝達装置においては、リングギヤに対する摩擦部材の押圧力が唯一リングギヤの回転を規制するための構成である。つまり、リングギヤに対する摩擦部材の押圧力を増大させれば、より確実にリングギヤの回転を規制することができるようになる。しかしながら、リングギヤに対する摩擦部材の押圧力を増大させるには、押圧部材として設定荷重の大きいものを適用する必要がある。設定荷重の大きな押圧部材適用した場合には、その設定荷重に対応して各部の剛性を高めなければならず、装置の大型化や製造コストの増大を招来する要因となる。しかも、押圧部材の荷重を大きく設定したとしても、リングギヤのマイクロスリップを防止することは困難である。従って、例えば動力伝達装置を位置決め機構に適用した場合には、その精度に影響を与える恐れがある。
【0006】
本発明は、上記実情に鑑みて、製造コストの増大する事態や適用対象の大型化を招来することなく、過負荷に伴う問題や精度上の問題を解決することのできる動力伝達装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するため、本発明に係る動力伝達装置は、自身の軸心回りに回転可能に配設した第1ギヤ部材と、前記第1ギヤ部材に歯合し、自身の軸心回りに回転可能、かつ前記第1ギヤ部材の軸心回りに公転可能となるようにキャリヤに支持させた中間ギヤ部材と、内周部に内周ギヤ部を有し、前記第1ギヤ部材の軸心回りに回転可能に配設するとともに、内周ギヤ部を介して前記中間ギヤ部材に歯合する第2ギヤ部材と、前記第1ギヤ部材、前記第2ギヤ部材及び前記キャリヤのいずれか一つを停止要素として予め設定した大きさのブレーキトルクを付与するブレーキ手段とを備え、前記ブレーキ手段のブレーキトルクを付与しない残りの2つのうちの一方を入力要素とし、かつ他方を出力要素とする動力伝達装置であって、前記ブレーキ手段は、傾斜面を介して前記停止要素に係合することにより該停止要素との相対回転を規制する一方、前記停止要素に前記ブレーキトルクを超える回転トルクが加えられた場合には傾斜作用により相対的に離隔移動することで前記停止要素との相対回転を許容することを特徴とする。
【0008】
また、本発明に係る動力伝達装置は、自身の軸心回りに回転可能に配設した第1ギヤ部材と、前記第1ギヤ部材に歯合し、自身の軸心回りに回転可能、かつ前記第1ギヤ部材の軸心回りに公転可能に支持させた中間ギヤ部材と、内周部に内周ギヤ部を有し、前記第1ギヤ部材の軸心回りに回転可能に配設するとともに、内周ギヤ部を介して前記中間ギヤ部材に歯合する第2ギヤ部材と、内周部に前記第2ギヤ部材の内周ギヤ部とは異なる歯数の内周ギヤ部を有し、前記第1ギヤ部材の軸心回りに回転可能に配設するとともに、内周ギヤ部を介して前記中間ギヤ部材に歯合する第3ギヤ部材と、前記第2ギヤ部材を停止要素として予め設定した大きさのブレーキトルクを付与するブレーキ手段とを備え、前記第1ギヤ部材を入力要素とし、かつ前記第3ギヤ部材を出力要素とする動力伝達装置であって、前記ブレーキ手段は、傾斜面を介して前記第2ギヤ部材に係合することにより該第2ギヤ部材との相対回転を規制する一方、前記第2ギヤ部材に前記ブレーキトルクを超える回転トルクが加えられた場合には傾斜作用により相対的に離隔移動することで前記第2ギヤ部材との相対回転を許容することを特徴とする。
【0009】
また、本発明は、上述した動力伝達装置において、前記ブレーキ手段は、前記停止要素に形成した傾斜面と、前記停止要素の傾斜面に当接する傾斜面を有した当接部材と、前記当接部材の傾斜面を前記停止要素の傾斜面に押圧する押圧部材とを備えたことを特徴とする。
【0010】
また、本発明は、上述した動力伝達装置において、前記ブレーキ手段は、前記停止要素に形成した傾斜面と、前記傾斜面を介して前記停止要素を押圧する押圧部材とを備えたことを特徴とする。
【0011】
また、本発明は、上述した動力伝達装置において、前記第2ギヤ部材は、外周部に外周ギヤ部を有したものであり、前記ブレーキ手段は、外周部に外周ギヤ部を有し、この外周ギヤ部を前記第2ギヤ部材の外周ギヤ部に歯合させた状態で自身の軸心回りに回転可能に配設した第4ギヤ部材と、前記第4ギヤ部材を回転可能、かつ軸心方向に沿ってスライド可能に支持するブレーキ軸部材と、前記ブレーキ軸部材の先端部に軸方向の移動を規制した状態で設けた当接部と、前記第4ギヤ部材を当接部に押圧する押圧部材とを備え、前記第4ギヤ部材と前記当接部との間に前記傾斜面を設けたことを特徴とする。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、出力要素に作用する回転負荷トルクがブレーキトルクを下回る場合には入力要素が駆動されると、停止要素の回転が規制されるため出力要素が回転される。一方、出力要素に作用する回転負荷トルクがブレーキトルクを超えると、入力要素が駆動した場合にも出力要素の回転が規制された状態となり、ブレーキトルクに打ち勝って停止要素が回転されることになる。これにより、別途アクチュエータやアクチュエータの駆動を制御するためのコントローラを要することなく出力要素への動力伝達を絶つことが可能となる。しかも、ブレーキ手段として傾斜面を介して停止要素に係合することにより停止要素との相対回転を規制する一方、停止要素にブレーキトルクを超える回転トルクが加えられた場合には傾斜作用により相対的に離隔移動することで停止要素との相対回転を許容するものを適用しているため、入力要素が回転していない場合に停止要素が回転する事態を確実に阻止し、不必要時に出力要素が回転することを防止できる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1−1】図1−1は、本発明の実施の形態1である動力伝達装置の側面一部破断図である。
【図1−2】図1−2は、本発明の実施の形態1である動力伝達装置の側面一部破断図であり、ブレーキトルクを超える回転トルクが加えられた状態を示す。
【図2】図2は、図1−1に示した動力伝達装置の断面側面図である。
【図3】図3は、図1−1に示した動力伝達装置の断面平面図である。
【図4】図4は、本発明の実施の形態2である動力伝達装置の側面一部破断図である。
【図5】図5は、図4に示した動力伝達装置の断面側面図である。
【図6】図6は、本発明の実施の形態3である動力伝達装置の断面側面図である。
【図7】図7は、図6に示した動力伝達装置の断面平面図である。
【図8−1】図8−1は、図6に示した動力伝達装置の要部側面図である。
【図8−2】図8−2は、図6に示した動力伝達装置の要部側面図であり、ブレーキトルクを超える回転トルクが加えられた状態を示す。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下に添付図面を参照して、本発明に係る動力伝達装置の好適な実施の形態について詳細に説明する。
【0015】
(実施の形態1)
図1−1〜図3は、本発明の実施の形態1である動力伝達装置を示したものである。ここで例示する動力伝達装置は、駆動モータ1を駆動源としたアクチュエータユニットに適用されるもので、駆動モータ1の駆動軸1aにサンギヤ(第1ギヤ部材)10を備えている。サンギヤ10は、外周部に外周ギヤ部10aを有した平歯車であり、互いの軸心を合致させた状態で駆動モータ1の駆動軸1aに固着してある。このサンギヤ10には、複数のプラネタリギヤ(中間ギヤ部材)20を介して第1リングギヤ(第2ギヤ部材)30及び第2リングギヤ(第3ギヤ部材)40が歯合することによって不思議歯車機構が構成してある。
【0016】
プラネタリギヤ20は、外周部に外周ギヤ部20aを有し、かつ軸が一体の平歯車であり、サンギヤ10の周囲に3つ配設してある。これらのプラネタリギヤ20は、それぞれの軸心がサンギヤ10の軸心と平行になり、かつ互いに等間隔となる態様で上下一対のプラネタリキャリヤ21に支持させてある。図1において下方に位置するプラネタリキャリヤ21には、底壁に摺動孔21aが形成してある。この摺動孔21aは、駆動モータ1の本体ケース1bに設けた突出部1cを摺動可能に嵌合させることにより、本体ケース1bに対してプラネタリキャリヤ21を駆動軸1aの軸心回りに回転可能に支持する。プラネタリキャリヤ21に支持させた個々のプラネタリギヤ20は、外周ギヤ部20aを介してサンギヤ10に歯合しており、それぞれが自身の軸心回りに回転可能、かつプラネタリキャリヤ21を介してサンギヤ10の軸心回りに公転可能である。
【0017】
第1リングギヤ30は、円環状を成し、その内周面に内周ギヤ部30aを有したものである。この第1リングギヤ30は、本体ケース1bに取り付けた固定体2の上面において駆動軸1aの軸心回りに回転することが可能である。
【0018】
この第1リングギヤ30には、開口端面の外周部に周壁31が構成してあるとともに、周壁31よりもさらに外周となる部位にフランジ32が形成してある。周壁31は、第1リングギヤ30の開口端面外周部から突出した環状を成す部分であり、第1リングギヤ30と同一軸心となるように構成してある。フランジ32は、第1リングギヤ30の基端部外周から径外方向に向けて突出した部分であり、その上面の複数箇所に凸状部33を有している。凸状部33は、図1−2に示すように、突出するに従って漸次幅が狭くなるような略台形形状に形成したもので、両側にそれぞれ傾斜面33aを有している。
【0019】
第2リングギヤ40は、図1−1〜図3に示すように、有底の円筒状を成し、その内周面に内周ギヤ部40aを有するとともに、底壁の外表面において自身の軸心上となる部位に一体の出力軸部41を有したものである。上述の第1リングギヤ30と比較した場合、第2リングギヤ40は、その外径が僅かに小さく構成し、かつ内周ギヤ部40aの歯数が第1リングギヤ30の内周面に形成した内周ギヤ部30aとは互いに異なるように構成してある。この第2リングギヤ40は、その開口端面を第1リングギヤ30の開口端面に当接させることにより、第1リングギヤ30との間にプラネタリキャリヤ21を含む3つのプラネタリギヤ20並びにサンギヤ10を収容している。
【0020】
一方、上記動力伝達装置には、第2リングギヤ40を覆う位置にカバー部材50が設けてある。カバー部材50は、有底の円筒状を成し、底壁の中心部に貫通孔50aを有したもので、この貫通孔50aに第2リングギヤ40の出力軸部41を貫通させた状態で駆動モータ1の本体ケース1bに取り付けてある。
【0021】
カバー部材50の内部には、当接部材60及び押圧バネ(押圧部材)70が配設してある。当接部材60は、第1リングギヤ30の周壁31よりも太径の内径を有した円環状を成すもので、駆動軸1aの軸心回りに回転可能となる状態で周壁31の外周部に配設してある。当接部材60において第1リングギヤ30のフランジ32に対向する端面には、複数の凹状部61が設けてある。凹状部61は、第1リングギヤ30の凸状部33を嵌合することのできる形状及び寸法に形成したもので、傾斜面33aに対向する傾斜面61aを有するとともに、第1リングギヤ30に設けた複数の凸状部33のすべてを同時に嵌合できるようにその数及び位置が調整してある。この当接部材60には、カバー部材50の内周面に設けた係合溝52に嵌合する係合突起62が設けてある。この係合突起62は、カバー部材50の係合溝52に係合することにより、カバー部材50との相対回転を規制する一方、カバー部材50に対して駆動軸1aの軸心方向に沿った移動を許容するように機能するものである。押圧バネ70は、カバー部材50と当接部材60との間に介在させたコイルバネである。この押圧バネ70は、当接部材60を介して第1リングギヤ30を常時固定体2の上面に押圧することにより、第1リングギヤ30に対して予め設定したブレーキトルクを付与するように機能する。
【0022】
ここで、上記動力伝達装置においては、上述したように第1リングギヤ30に形成した凸状部33と当接部材60に形成した凹状部61とが嵌合する構成であり、当接部材60に対して第1リングギヤ30を相対回転させるには凸状部33と凹状部61との嵌合状態を解除する必要がある。すなわち、サンギヤ10及びプラネタリギヤ20を介して第1リングギヤ30に駆動モータ1からの回転力が作用すると、凸状部33及び凹状部61において互いに当接する傾斜面33a,61aの作用により、押圧バネ70の押圧力に抗して当接部材60が第1リングギヤ30から離隔するように移動し、凸状部33と凹状部61との嵌合状態が解除されることになる。従って、押圧バネ70によるブレーキトルクとは、凸状部33と凹状部61との嵌合状態を解除するのに必要な回転トルクと同等となる。
【0023】
上記のように構成した動力伝達装置では、駆動モータ1を駆動すると、サンギヤ10が自身の軸心回りに一方方向に回転する。このとき、出力軸部41の回転負荷トルクがブレーキトルクよりも小さい場合には、当接部材60に対する第1リングギヤ30の相対回転が阻止された状態にある。従って、サンギヤ10の回転によってプラネタリギヤ20が自転しながら公転し、これらプラネタリギヤ20の公転によって第2リングギヤ40が回転することになり、出力軸部41を介して外部へ駆動モータ1の動力を出力することができる。
【0024】
この場合、上述したように、当接部材60と第1リングギヤ30とは、凸状部33と凹状部61とが互いに嵌合することによって相対回転が阻止された状態となっている。従って、これら当接部材60と第1リングギヤ30との間には、凸状部33と凹状部61との嵌合状態が解除されない限り、マイクロスリップが発生することはない。しかも、押圧バネ70の設定荷重としては、凹状部61からの凸状部33の逸脱を阻止する程度のものであれば良く、当接部材60と第1リングギヤ30との間の摩擦力のみによって第1リングギヤ30の回転を規制するものに比べて小さく設定することが可能となる。これにより、動力伝達装置各部の剛性を大きく設定する必要もなく、装置の大型化や製造コストの増大を抑えることができるようになる。
【0025】
一方、上述した状態において出力軸部41の回転負荷トルクがブレーキトルクを超えると、凸状部33と凹状部61との間において互いに当接した傾斜面33a,61aの作用により、押圧バネ70の押圧力に抗して凸状部33と凹状部61との嵌合状態が解除され、当接部材60に対して第1リング部材が回転することになり、第2リングギヤ40への動力伝達が絶たれる。
【0026】
上述の状態から再び出力軸部41の回転負荷トルクがブレーキトルクを下回ると、凸状部33と凹状部61との嵌合状態が継続されることになり、サンギヤ10の回転によって第2リングギヤ40が回転し、出力軸部41を介して外部へ駆動モータ1の動力を出力することができる。
【0027】
このように、上記動力伝達装置によれば、別途アクチュエータやアクチュエータの駆動を制御するためのコントローラを要することなく出力軸部41への動力伝達を断続することができるようになる。しかも、上述したように、凸状部33と凹状部61とが嵌合状態にある場合には、マイクロスリップが発生し得ないため、押圧バネ70の設定荷重を増大させることなく不必要時に第1リングギヤ30が回転する事態を確実に防止することができる。これにより、例えば動力伝達装置を位置決め機構に適用した場合、高い精度を確保することが可能となる。
【0028】
(実施の形態2)
図4及び図5は、本発明の実施の形態2である動力伝達装置を示したものである。ここで例示する動力伝達装置は、実施の形態1と同様、駆動モータ1を駆動源としたアクチュエータユニットに適用されるもので、実施の形態1とは、ブレーキ手段の構成のみが異なっている。
【0029】
すなわち、実施の形態2の動力伝達装置では、第1リングギヤ(第2ギヤ部材)30と固定体2との間にウェーブワッシャ(押圧部材)80を介在させるとともに、このウェーブワッシャ80の押圧力により、第1リングギヤ30をカバー部材50の段部53に当接させるようにしている。ウェーブワッシャ80は、図5に示すように、基準となる平板状の基部80aに対して押圧部80bが屈曲形成され、かつ押圧部80bの複数箇所に半球状の湾曲凸部80cを突出形成した押圧部材であり、固定体2に対する相対回転が阻止された状態で固定体2に取り付けてある。第1リングギヤ30において固定体2に対向する端面には、ウェーブワッシャ80の湾曲凸部80cに嵌合する凹部35が形成してある。第1リングギヤ30の凹部35は、ウェーブワッシャ80のすべての湾曲凸部80cのすべてを同時に嵌合できるようにその数及び位置が調整してある。
【0030】
実施の形態2のウェーブワッシャ80は、実施の形態1の押圧バネ70と同様、第1リングギヤ30に対して予め設定したブレーキトルクを付与するように機能する。ここで、上記動力伝達装置においては、第1リングギヤ30に形成した凹部35とウェーブワッシャ80に形成した湾曲凸部80cとが嵌合する構成であり、固定体2に対して第1リングギヤ30を相対回転させるには凹部35と湾曲凸部80cとの嵌合状態を解除する必要がある。すなわち、サンギヤ(第1ギヤ部材)10及びプラネタリギヤ(中間ギヤ部材)20を介して第1リングギヤ30に駆動モータ1からの回転力が作用すると、湾曲凸部80c及び凹部35において互いに当接する湾曲した傾斜面80d,35aの作用により、ウェーブワッシャ80の押圧力に抗して湾曲凸部80cが凹部35から逸脱するように弾性変形し、湾曲凸部80cと凹部35との嵌合状態が解除されることになる。従って、ウェーブワッシャ80によるブレーキトルクとは、湾曲凸部80cと凹部35との嵌合状態を解除するのに必要な回転トルクと同等となる。尚、その他の構成については、実施の形態1と同様であるため、同一の符号を付してそれぞれの詳細説明を省略する。
【0031】
上記のように構成した動力伝達装置では、駆動モータ1を駆動すると、サンギヤ10が自身の軸心回りに一方方向に回転する。このとき、出力軸部41の回転負荷トルクがブレーキトルクよりも小さい場合には、固定体2に対する第1リングギヤ30の相対回転が阻止された状態にある。従って、サンギヤ10の回転によってプラネタリギヤ20が自転しながら公転し、これらプラネタリギヤ20の公転によって第2リングギヤ(第3ギヤ部材)40が回転することになり、出力軸部41を介して外部へ駆動モータ1の動力を出力することができる。
【0032】
この場合、上述したように、固定体2と第1リングギヤ30とは、ウェーブワッシャ80の湾曲凸部80cと凹部35とが互いに嵌合することによって相対回転が阻止された状態となっている。従って、これら固定体2と第1リングギヤ30との間には、湾曲凸部80cと凹部35との嵌合状態が解除されない限り、マイクロスリップが発生することはない。しかも、ウェーブワッシャ80の設定荷重としては、凹部35からの湾曲凸部80cの逸脱を阻止する程度のものであれば良く、固定体2と第1リングギヤ30との間の摩擦力のみによって第1リングギヤ30の回転を規制するものに比べて小さく設定することが可能となる。これにより、動力伝達装置各部の剛性を大きく設定する必要もなく、装置の大型化や製造コストの増大を抑えることができるようになる。
【0033】
一方、上述した状態において出力軸部41の回転負荷トルクがブレーキトルクを超えると、湾曲凸部80cと凹部35との間において互いに当接した傾斜面80d,35aの作用により、ウェーブワッシャ80の押圧力に抗して湾曲凸部80cと凹部35との嵌合状態が解除され、固定体2に対して第1リングギヤ30が回転することになり、第2リングギヤ40への動力伝達が絶たれる。
【0034】
上述の状態から再び出力軸部41の回転負荷トルクがブレーキトルクを下回ると、湾曲凸部80cと凹部35との嵌合状態が継続されることになり、サンギヤ10の回転によって第2リングギヤ40が回転し、出力軸部41を介して外部へ駆動モータ1の動力を出力することができる。
【0035】
このように、上記動力伝達装置によれば、別途アクチュエータやアクチュエータの駆動を制御するためのコントローラを要することなく出力軸部41への動力伝達を断続することができるようになる。しかも、上述したように、湾曲凸部80cと凹部35とが嵌合状態にある場合には、マイクロスリップが発生し得ないため、ウェーブワッシャ80の設定荷重を増大させることなく不必要時に第1リングギヤ30が回転する事態を確実に防止することができる。これにより、例えば動力伝達装置を位置決め機構に適用した場合、高い精度を確保することが可能となる。
【0036】
(実施の形態3)
図6〜図8−2は、本発明の実施の形態3である動力伝達装置を示したものである。ここで例示する動力伝達装置は、実施の形態1と同様、駆動モータ1を駆動源としたアクチュエータユニットに適用されるもので、駆動モータ1の駆動軸1aにサンギヤ(第1ギヤ部材)10を備えている。サンギヤ10は、外周部に外周ギヤ部10aを有した平歯車であり、互いの軸心を合致させた状態で駆動モータ1の駆動軸1aに固着してある。このサンギヤ10には、複数のプラネタリギヤ(中間ギヤ部材)20を介して第1リングギヤ130(第2ギヤ部材)及び第2リングギヤ(第3ギヤ部材)40が歯合することによって不思議歯車機構が構成してある。
【0037】
プラネタリギヤ20は、外周部に外周ギヤ部20aを有し、かつ軸が一体の平歯車であり、サンギヤ10の周囲に3つ配設してある。これらのプラネタリギヤ20は、それぞれの軸心がサンギヤ10の軸心と平行になり、かつ互いに等間隔となる態様で上下一対のプラネタリキャリヤ21に支持させてある。図6において下方に位置するプラネタリキャリヤ21には、底壁に摺動孔21aが形成してある。この摺動孔21aは、駆動モータ1の本体ケース1bに設けた突出部1cを摺動可能に嵌合させることにより、本体ケース1bに対してプラネタリキャリヤ21を駆動軸1aの軸心回りに回転可能に支持する。プラネタリキャリヤ21に支持させた個々のプラネタリギヤ20は、外周ギヤ部20aを介してサンギヤ10に歯合しており、それぞれが自身の軸心回りに回転可能、かつプラネタリキャリヤ21を介してサンギヤ10の軸心回りに公転可能である。
【0038】
第1リングギヤ130は、有底の円筒状を成し、その内周面に内周ギヤ部130a及び外周面に外周ギヤ部130bを有したものである。この第1リングギヤ130は、底壁に設けた摺動穴130cにプラネタリキャリヤ21の下方突部を摺動可能に嵌合させることにより、本体ケース1bに対して駆動軸1aの軸心回りに回転することが可能である。
【0039】
第2リングギヤ40は、有底の円筒状を成し、その内周面に内周ギヤ部40aを有するとともに、底壁の外表面において自身の軸心上となる部位に一体の出力軸部41を有したものである。上述の第1リングギヤ130と比較した場合、第2リングギヤ40は、その外径が僅かに小さく構成し、かつ内周ギヤ部40aの歯数が第1リングギヤ130の内周面に形成した内周ギヤ部130aとは互いに異なるように構成してある。この第2リングギヤ40は、その開口を第1リングギヤ130の開口に対向させることにより、駆動軸1aの軸心回りに回転することが可能であり、かつ第1リングギヤ130との間にプラネタリキャリヤ21を含む3つのプラネタリギヤ20並びにサンギヤ10を収容している。
【0040】
一方、上記動力伝達装置は、ブレーキ軸部材150を備えている。ブレーキ軸部材150は、駆動モータ1の本体ケース1bに付設した支持部材5に取り付けたもので、第1リングギヤ130の外周となる部位に自身の軸心が駆動軸1aの軸心と平行となる状態で配設してある。このブレーキ軸部材150には、フライホイールギヤ(第4ギヤ部材)160及び当接体170が設けてある。
【0041】
フライホイールギヤ160は、外周部に外周ギヤ部160aを有した平歯車であり、ブレーキ軸部材150の軸心回りに回転可能、かつブレーキ軸部材150に対してその軸心方向に沿ってスライド可能となるようにブレーキ軸部材150に配設してある。このフライホイールギヤ160は、ブレーキ軸部材150の軸心回りに回転した場合に大きな慣性力を得ることができるように、大きな質量をもって構成してある。当接体170は、ブレーキ軸部材150において支持部材5との間にフライホイールギヤ160を挟持する位置に固定した円板状部材であり、フライホイールギヤ160とほぼ同等の外径に形成してある。
【0042】
また、フライホイールギヤ160には、当接体170に対向する面の外周部に複数の凸状部161が設けてある一方、当接体170には、フライホイールギヤ160に対向する面の外周部に複数の凹状部171が設けてある。凸状部161は、突出するに従って漸次幅が狭くなるような略台形形状に形成したもので、両側にそれぞれ傾斜面161aを有している。凹状部171は、フライホイールギヤ160の凸状部161を嵌合することのできる形状及び寸法に形成したもので、傾斜面161aに対向する傾斜面171aを有するとともに、フライホイールギヤ160に設けた複数の凸状部161のすべてを同時に嵌合できるようにその数及び位置が調整してある。
【0043】
さらに、上記動力伝達装置には、支持部材5とフライホイールギヤ160との間に押圧バネ180が介在させてある。押圧バネ180は、フライホイールギヤ160の端面を当接体170の端面に常時押圧することにより、フライホイールギヤ160を介して第1リングギヤ130に予め設定したブレーキトルクを付与するものである。本実施の形態3では、コイル状に巻回したコイルバネをブレーキ軸部材150の外周部に配置することによって押圧バネ180を構成している。
【0044】
ここで、上記動力伝達装置においては、上述したようにフライホイールギヤ160に形成した凸状部161と当接体170に形成した凹状部171とが嵌合する構成であり、当接体170に対してフライホイールギヤ160を相対回転させるには凸状部161と凹状部171との嵌合状態を解除する必要がある。すなわち、サンギヤ10、プラネタリギヤ20及び第1リングギヤ130を介してフライホイールギヤ160に駆動モータ1からの回転力が作用すると、凸状部161及び凹状部171において互いに当接する傾斜面161a,171aの作用により、押圧バネ180の押圧力に抗して当接体170からフライホイールギヤ160が離隔するように移動し、凸状部161と凹状部171との嵌合状態が解除されることになる。従って、押圧バネ180によるブレーキトルクとは、凸状部161と凹状部171との嵌合状態を解除するのに必要な回転トルクと同等となる。
【0045】
上記のように構成した動力伝達装置では、駆動モータ1を駆動すると、サンギヤ10が自身の軸心回りに一方方向に回転する。このとき、出力軸部41の回転負荷トルクがブレーキトルクよりも小さい場合には、当接体170に対するフライホイールギヤ160の相対回転が阻止され、かつ駆動モータ1に対して第1リングギヤ130の相対回転が阻止された状態にある。従って、サンギヤ10の回転によってプラネタリギヤ20が自転しながら公転し、これらプラネタリギヤ20の公転によって第2リングギヤ40が回転することになり、出力軸部41を介して外部へ駆動モータ1の動力を出力することができる。
【0046】
この場合、上述したように、当接体170とフライホイールギヤ160とは、凸状部161及び凹状部171が互いに嵌合することによって相対回転が阻止された状態となっている。従って、これら当接体170とフライホイールギヤ160との間には、凸状部161と凹状部171との嵌合状態が解除されない限り、マイクロスリップが発生することはなく、フライホイールギヤ160に噛み合う第1リングギヤ130にマイクロスリップが発生することもない。しかも、押圧バネ180の設定荷重としては、凹状部171からの凸状部161の逸脱を阻止する程度のものであれば良く、当接体170とフライホイールギヤ160との間の摩擦力のみによってフライホイールギヤ160の回転を規制するものに比べて小さく設定することが可能となる。これにより、動力伝達装置各部の剛性を大きく設定する必要もなく、装置の大型化や製造コストの増大を抑えることができるようになる。
【0047】
一方、上述した状態において出力軸部41の回転負荷トルクがブレーキトルクを超えると、凸状部161と凹状部171との間において互いに当接した湾曲傾斜面161a,171aの作用により、押圧バネ180の押圧力に抗して凸状部161と凹状部171との嵌合状態が解除され、当接体170に対してフライホイールギヤ160が回転することになり、さらに第1リングギヤ130が駆動モータ1に対して回転することにより、第2リングギヤ40への動力伝達が絶たれる。
【0048】
上述の状態から再び出力軸部41の回転負荷トルクがブレーキトルクを下回ると、凸状部161と凹状部171との嵌合状態が継続されることになり、サンギヤ10の回転によって第2リングギヤ40が回転し、出力軸部41を介して外部へ駆動モータ1の動力を出力することができる。
【0049】
このように、上記動力伝達装置によれば、別途アクチュエータやアクチュエータの駆動を制御するためのコントローラを要することなく出力軸部41への動力伝達を断続することができるようになる。しかも、上述したように、凸状部161と凹状部171とが嵌合状態にある場合には、マイクロスリップが発生し得ないため、押圧バネ180の設定荷重を増大させることなく不必要時にフライホイールギヤ160及び第1リングギヤ130が回転する事態を確実に防止することができる。これにより、例えば動力伝達装置を位置決め機構に適用した場合、高い精度を確保することが可能となる。
【0050】
尚、上述した実施の形態1〜3では、いずれもリングギヤを2つ備えた不思議歯車機構を適用したものを例示しているが、リングギヤが1つとなる遊星歯車機構を適用して構成することも可能である。また、サンギヤを入力要素とする一方、リングギヤを出力要素とするものを例示しているが、入力要素及び出力要素は任意に変更可能である。
【0051】
さらに、上述した実施の形態1では、第1リングギヤに凸状部を設ける一方、当接部材に凹状部を形成しているが、凸状部及び凹状部は逆の態様でも構わない。同様に、実施の形態2では、第1リングギヤに凹部を形成する一方、ウェーブワッシャに湾曲凸部を形成し、実施の形態3では、フライホイールギヤに凸状部を設ける一方、当接体に凹状部を設けるようにしているが、それぞれ逆の態様で凹凸を形成しても良い。
【符号の説明】
【0052】
1 駆動モータ
10 サンギヤ
20 プラネタリギヤ
21 プラネタリキャリヤ
30 第1リングギヤ
33 凸状部
33a 傾斜面
35 凹部
35a 傾斜面
40 第2リングギヤ
41 出力軸部
60 当接部材
61 凹状部
61a 傾斜面
70 押圧バネ
80 ウェーブワッシャ
80c 湾曲凸部
80d 傾斜面
130 第1リングギヤ
150 ブレーキ軸部材
160 フライホイールギヤ
161 凸状部
161a 傾斜面
170 当接体
171 凹状部
171a 傾斜面
180 押圧バネ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
自身の軸心回りに回転可能に配設した第1ギヤ部材と、
前記第1ギヤ部材に歯合し、自身の軸心回りに回転可能、かつ前記第1ギヤ部材の軸心回りに公転可能となるようにキャリヤに支持させた中間ギヤ部材と、
内周部に内周ギヤ部を有し、前記第1ギヤ部材の軸心回りに回転可能に配設するとともに、内周ギヤ部を介して前記中間ギヤ部材に歯合する第2ギヤ部材と、
前記第1ギヤ部材、前記第2ギヤ部材及び前記キャリヤのいずれか一つを停止要素として予め設定した大きさのブレーキトルクを付与するブレーキ手段と
を備え、前記ブレーキ手段のブレーキトルクを付与しない残りの2つのうちの一方を入力要素とし、かつ他方を出力要素とする動力伝達装置であって、
前記ブレーキ手段は、傾斜面を介して前記停止要素に係合することにより該停止要素との相対回転を規制する一方、前記停止要素に前記ブレーキトルクを超える回転トルクが加えられた場合には傾斜作用により相対的に離隔移動することで前記停止要素との相対回転を許容することを特徴とする動力伝達装置。
【請求項2】
自身の軸心回りに回転可能に配設した第1ギヤ部材と、
前記第1ギヤ部材に歯合し、自身の軸心回りに回転可能、かつ前記第1ギヤ部材の軸心回りに公転可能に支持させた中間ギヤ部材と、
内周部に内周ギヤ部を有し、前記第1ギヤ部材の軸心回りに回転可能に配設するとともに、内周ギヤ部を介して前記中間ギヤ部材に歯合する第2ギヤ部材と、
内周部に前記第2ギヤ部材の内周ギヤ部とは異なる歯数の内周ギヤ部を有し、前記第1ギヤ部材の軸心回りに回転可能に配設するとともに、内周ギヤ部を介して前記中間ギヤ部材に歯合する第3ギヤ部材と、
前記第2ギヤ部材を停止要素として予め設定した大きさのブレーキトルクを付与するブレーキ手段と
を備え、前記第1ギヤ部材を入力要素とし、かつ前記第3ギヤ部材を出力要素とする動力伝達装置であって、
前記ブレーキ手段は、傾斜面を介して前記第2ギヤ部材に係合することにより該第2ギヤ部材との相対回転を規制する一方、前記第2ギヤ部材に前記ブレーキトルクを超える回転トルクが加えられた場合には傾斜作用により相対的に離隔移動することで前記第2ギヤ部材との相対回転を許容することを特徴とする動力伝達装置。
【請求項3】
前記ブレーキ手段は、
前記停止要素に形成した傾斜面と、
前記停止要素の傾斜面に当接する傾斜面を有した当接部材と、
前記当接部材の傾斜面を前記停止要素の傾斜面に押圧する押圧部材と
を備えたことを特徴とする請求項1または請求項2に記載の動力伝達装置。
【請求項4】
前記ブレーキ手段は、
前記停止要素に形成した傾斜面と、
前記傾斜面を介して前記停止要素を押圧する押圧部材と
を備えたことを特徴とする請求項1または請求項2に記載の動力伝達装置。
【請求項5】
前記第2ギヤ部材は、外周部に外周ギヤ部を有したものであり、
前記ブレーキ手段は、
外周部に外周ギヤ部を有し、この外周ギヤ部を前記第2ギヤ部材の外周ギヤ部に歯合させた状態で自身の軸心回りに回転可能に配設した第4ギヤ部材と、
前記第4ギヤ部材を回転可能、かつ軸心方向に沿ってスライド可能に支持するブレーキ軸部材と、
前記ブレーキ軸部材の先端部に軸方向の移動を規制した状態で設けた当接部と、
前記第4ギヤ部材を当接部に押圧する押圧部材と
を備え、前記第4ギヤ部材と前記当接部との間に前記傾斜面を設けたことを特徴とする請求項2に記載の動力伝達装置。

【図1−1】
image rotate

【図1−2】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8−1】
image rotate

【図8−2】
image rotate


【公開番号】特開2011−112072(P2011−112072A)
【公開日】平成23年6月9日(2011.6.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−266431(P2009−266431)
【出願日】平成21年11月24日(2009.11.24)
【出願人】(503366841)株式会社アイカムス・ラボ (27)
【Fターム(参考)】