説明

動力伝達装置

【課題】トランスミッションとトランスファとに潤滑油を独立して封入された動力伝達装置への潤滑油の供給を容易にする。
【解決手段】差動機構5を収容するトランスミッションケース7内に第1潤滑油90を封入し、トランスミッション9と、駆動軸61が挿入される中空軸11を備えた変換機構13を収容してトランスミッションケース7に連結されるトランスファケース15内に第2潤滑油91を封入し、トランスファ17と、デフケース3と中空軸11とを連結する連結部19と、第1潤滑油と第2潤滑油とを区画するシール手段と、中空軸11の空間S3内とトランスファケース15内とを連通し、空間S3内に第2潤滑油91を供給する供給路37と、中空軸11と駆動軸61の間に、駆動軸が回転するまでは非供給状態で、駆動軸61が回転すると中空軸11の空間S3内に供給された第2潤滑油を連結部側へ排出する潤滑油調整手段100とを有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両に用いられる動力伝達装置に係り、詳しくは動力伝達装置内部の潤滑に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、トランスミッション側のトランスミッションケース内における潤滑と、PTU(トランスファ)側のPTUケース内における潤滑とをシールによって区画した動力伝達装置が記載されている。この動力伝達装置では、トランスミッション側とPTU側とを連結する連結部は、PTUケース内の潤滑油によって潤滑されている。しかし、連結部がトランスミッション側の潤滑油と区画されたトランスファ側の潤滑油によって潤滑されているが、PTU入力軸と駆動軸とを組付けた状態でなければトランスファ側の潤滑油を封入することができず、トランスファ側のすべての部品を組付けた状態でなければ、連結部に潤滑油を供給することができなかった。
【0003】
そこで、特許文献2では、駆動軸が挿入される部分に、PTU(トランスファ)内の潤滑油を連結部に供給する供給路を形成し、駆動軸が挿入される部分から当該供給路をシッピングプラグ等で密閉し、PTU入力軸と駆動軸との組付け時にシッピングプラグを外してから駆動軸とPTU入力軸とを組付けていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2008−57633号公報
【特許文献2】特開2009−115309号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、特許文献2の構成であると、シッピングプラグを外しPTU(トランスファ)内の潤滑油が供給路から流出するまでに組付け作業を完了しなければ、PTU(トランスファ)内の潤滑油が無駄に流れてしまうとともに、流出した潤滑油により作業性が損なわれてしまう。
また、動力伝達装置には、変換機構を間にして差動機構と反対側に、前輪左右の差動制限機構が配置されるものもあり、このような構成の動力伝達装置では、レイアウト上、シッピングプラグの設定ができないため、連結部に対して潤滑油の供給が難しい。
本発明は、トランスミッション側とトランスファ側とに潤滑油を独立して封入されていても、トランスミッション側とトランスファ側との連結部に作業性を損なうことなく潤滑油を容易に供給することができる動力伝達装置の提供を目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明に係る動力伝達装置は、デフケースを有した差動機構と該差動機構を収容するトランスミッションケースとを有し、トランスミッションケース内に第1潤滑油を封入するとともに駆動源からの駆動力を変速させるトランスミッションと、内部に形成された空間内に駆動軸が挿入された中空軸を備えた変換機構と該変換機構を収容してトランスミッションケースに連結されるトランスファケースとを有し、トランスファケース内に第2潤滑油を封入するとともに、トランスミッションからの駆動力を方向変換させるトランスファと、デフケースと中空軸とを連結する連結部と、第1潤滑油と第2潤滑油とを区画するシール手段と、中空軸の空間内とトランスファケース内とを連通し、空間内に第2潤滑油を供給する供給路と、中空軸と駆動軸の間に配置され、駆動軸が回転するまでは非供給状態であり、中空軸の空間内に供給された第2潤滑油を駆動軸が回転することで連結部側へ排出する供給状態となる潤滑油調整手段とを有することを特徴としている。
本発明に係る動力伝達装置において、潤滑油調整手段は、供給路側に位置する一端側に潤滑油導入口が形成された隔壁部と、隔壁部と反対側に位置する他端側に、駆動軸が回転するまでは中空軸と駆動軸の間を塞ぎ、駆動軸が回転することで発生する遠心力により中空軸と駆動軸の間を開放するように弾性変形する舌片部とを備えたシール部材であることを特徴としている。
本発明に係る動力伝達装置において、シール部材は、隔壁部と舌片部との間に、潤滑油導入口から流入する第2潤滑油を保持する貯留部を有することを特徴としている。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、トランスミッションケース内に封入された第1潤滑油と、トランスファケース内に封入された第2潤滑油が、シール手段で区画されていて、中空軸の空間内とトランスファケース内とを連通して空間内に第2潤滑油を供給する供給路と、中空軸と駆動軸の間に配置され、駆動軸が回転するまでは非供給状態であり、中空軸の空間内に供給された第2潤滑油を、駆動軸が回転することでデフケースと中空軸とを連結する連結部側へ排出する供給状態となる潤滑油調整手段を有するので、トランスミッション側とトランスファ側とが潤滑油を独立して封入されていても、トランスミッション側とトランスファ側との連結部に作業性を損なうことなく潤滑油を容易に供給することができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【図1】本発明に係る動力伝達装置を備えた車両の動力系を示す概略図である。
【図2】前輪左右の差動制限機構を有する動力伝達装置のトランスファの断面図である。
【図3】本発明の主要部となる供給路と潤滑油調整手段の構成と配置を軸線方向から見たときの拡大断面図である。
【図4】(a)は、潤滑油調整手段の構成と非供給状態を示す拡大図、(b)は中空軸の回転によりトランスファ用の潤滑油が空間から潤滑油調整手段内に導入された状態を示す拡大図、(c)は潤滑油調整手段の供給状態を示す拡大図である。
【図5】潤滑油調整手段の別な構成と配置を軸線方向から見たときの拡大断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
図1を用いて本形態に係る動力伝達装置が適用される車両の動力系について説明する。図1に示すように、車両の動力系は、エンジン501などの駆動源及び変速機構としてのトランスミッション9と、差動機構5と、差動機構5の差動制限を行なう差動制限機構80と、前車軸505,507と、前輪509,511と、トランスファ17と、後輪側プロペラシャフト513と、前輪側から後輪側へ伝達される駆動力を制御可能に断続するカップリング515と、リヤデフ517と、後車軸519,521と、後輪523,525などから構成されている。
【0010】
駆動源の駆動力はトランスミッション9からデフケース3を介して差動機構5に伝達され、一対のサイドギア49,51に連結された駆動軸59,61を介して前車軸505,507から前輪509,511に配分されると共に、デフケース3と連結した中空軸となるアウトプットフランジ11に伝達された駆動力が分岐されてトランスファ17から後輪側プロペラシャフト513を介してカップリング515に伝達され、カップリング515が接続されるとリヤデフ517に伝達され、後車軸519,521から後輪523,525に配分されて4輪駆動状態になる。また、カップリング515の接続が解除されると、車両は前輪駆動の2輪駆動状態になる。
【0011】
本形態の動力伝達装置1は、デフケース3を有した差動機構5と、差動機構5を収容するトランスミッションケース7とを有して駆動源からの駆動力を変速させるトランスミッション9と、アウトプットフランジ11を有した変換機構13と差動制限機構80と収容して、トランスミッションケース7に連結されるトランスファケース15とを備えたトランスミッション9からの駆動力を方向変換させるトランスファ17と、トランスミッションケース7内に封入されてトランスミッション9側を潤滑・冷却するトランスミッション用の潤滑油となるトランスミッションオイル90(第1潤滑油)と、トランスファケース15内に封入されてトランスファ17側を潤滑・冷却するトランスファ用の潤滑油となるトランスファオイル91(第2潤滑油)と、デフケース3とアウトプットフランジ11とを連結する連結部19と、トランスミッションオイル90とトランスファオイル91とを区画するシール手段とを有している。そして、シール手段はトランスミッションケース7に配置されてトランスミッションオイル90とトランスミッションケース7外部とを区画する第1のシール手段21,23,27と、トランスファケース15に配置されてトランスファオイル91とトランスファケース15外部とを区画する第2のシール手段29,31とを有し、連結部19は第1のシール手段21,23,27と第2のシール手段29,31との間に形成された空間部35に臨むように配置されている。
【0012】
トランスミッション9は、変速機構41と、差動機構5と、トランスミッションケース7などから構成されている。変速機構41は、トランスミッションケース7に収容され、駆動源からの駆動力を変速して変速ギア組43に伝達し、デフケース3を介して差動機構5へ伝達する。
【0013】
差動機構5は、デフケース3と、ピニオンシャフト45と、ピニオン46、47と、一対のサイドギア49,51から構成され、トランスミッションケース7に収容されている。デフケース3は、軸方向両側に一対のベアリング53,55を介してトランスミッションケース7に回転可能に支持されている。また、デフケース3には、変速ギア組43を構成するリングギア57が設けられており、駆動源からの駆動力が伝達されて回転駆動され、一対のサイドギア49,51に駆動力を分配している。また、デフケース3の端部には、変換機構13のアウトプットフランジ11が連結部19によってスプライン連結されている。
【0014】
ピニオンシャフト45は、端部をデフケース3に係合され、デフケース3と一体に回転駆動される。ピニオン46,47は、一対のサイドギア49,51に駆動力を伝達すると共に、噛み合っている一対のサイドギア49,51に差回転が生じると回転駆動されるようにピニオンシャフト45に自転可能に支持されている。
【0015】
一対のサイドギア49,51は、デフケース3に回転自在に支持され、ピニオン47と噛み合っている。また、一対のサイドギア49,51には、一対の駆動軸59,61が連結されており、駆動源からの駆動力を前輪509,511に伝達している。この一対の駆動軸59,61のうち一方の駆動軸61は、一端がトランスファケース15及びアウトプットフランジ11内の軸心を貫通してサイドギア51に連結部63でスプライン連結しており、他端が前車軸507側にクラッチハブ801を介して連結されている。
【0016】
トランスミッションケース7は、駆動源に隣接配置され、駆動源、車体などの静止系に固定されている。このトランスミッションケース7内に形成される空間S1内には、図2に示すように、トランスミッション9の各摺動部を潤滑・冷却するトランスミッションオイル90が封入されている。
【0017】
このようなトランスミッション9は、差動機構5のデフケース3の端部内周側に形成された連結部19でトランスファ17側のアウトプットフランジ11の外周側にスプライン連結されており、トランスミッション9側からトランスファ17側へ駆動源の駆動力が伝達される。なお、符号25は、駆動軸61の抜け止め用クリップを示す。
【0018】
トランスファ17は、図1,図2に示すように、変換機構13と差動制限機構80とトランスファケース15などから構成されている。変換機構13は、アウトプットフランジ11と変換ギア組65から構成され、トランスファケース15に収容されている。
【0019】
アウトプットフランジ11は、一対のベアリング67,69を介して両端側をトランスファケース15に支持されている。アウトプットフランジ11には、リングギア71が固定されている。このリングギア71には、後輪側プロペラシャフト513に連結されたドライブピニオン73が噛み合う。これらリングギア71とドライブピニオン73によって変換ギア組65が構成されている。
【0020】
ドライブピニオン73は、後輪側プロペラシャフト513に連結されるドライブシャフト75と一体に設けられている。ドライブシャフト75は、ベアリング77を介してトランスファケース15に支持されている。このドライブシャフト75の端部は、後輪側プロペラシャフト513に連結される。この変換ギア組65によって、アウトプットフランジ11を介してトランスファ17に入力された駆動源の駆動力を後輪側プロペラシャフト513側に分岐して伝達している。
【0021】
トランスファケース15は、複数のハウジングから構成され、トランスミッションケース7に固定されている。また、各ハウジングの接合部には、シール部材であるOリング79が配置されていると共に、トランスファケース15とトランスミッションケース7との接合部にもOリング83が配置されている。このトランスファケース15内の空間S2には、トランスファ17内各摺動部を潤滑・冷却するトランスファオイル91が封入されている。
【0022】
このようにトランスミッションケース7とトランスファケース15とでは封入されるオイルの種類が異なり、トランスミッションケース7内とトランスファケース15内とは、シール手段によって区画されている。
【0023】
差動制限機構80は、変換機構13を間にして差動機構5と反対側に配置されていて、差動機構5による前輪左右の差動制限を行う周知のものである。差動制限機構80は、複数のクラッチ板を有する周知の摩擦式の差動制限機構としたが、差動制限機構80としては、このような形成に限定されるものではなく、所謂回転数感応式の差動制限機構であってもよい。
【0024】
図2に示す差動制限機構80は、円筒状のクラッチケース800の内部に複数の第1のクラッチプレート802を具え、クラッチケース800の右端には端壁803が一体に取り付けられている。端壁803は、クラッチケース800の右端をほぼ閉塞しており、クラッチハブ801の外周面にシール材804を介して回動自在に組み付けられている。
【0025】
クラッチハブ801は、駆動軸61とスプラインで一体に嵌合しており、クラッチケース800に対向した外周面に第2のクラッチプレート805が複数取り付けられている。第1のクラッチプレート802と第2のクラッチプレート805は、交互に設けられており、多板クラッチ806を構成している。多板クラッチ806の右方にはプッシャープレート807が配置され、プッシャープレート807と端壁803の間には押圧機構810が設けられている。
【0026】
端壁803の右方には、電磁コイル811が設けられている。電磁コイル811は、円板状の取付基板812に取り付けられており、取付基板812とともに図示しないステーを介してエンジン501に固定されている。電磁コイル811は、図示しない制御装置に接続していて、この制御装置からの作動信号により、あるいはドライバ等を介して適宜作動される。
【0027】
端壁803はベアリング813を介して取付基板812に回動自在に取り付けられている。取付基板812に取り付けられた電磁コイル811と端壁803とは互いに対向した状態で、回動自在となっている。更に端壁803の内周面には、ベアリング814が設けてあり、ベアリング814を介して端壁803はクラッチハブ801に回動自在に取り付けられている。
【0028】
押圧機構810は、多板クラッチ806の側方に設けられている。押圧機構810は、パイロットクラッチ820とカム機構821からなり、端壁803を挟んでパイロットクラッチ820が電磁コイル811に対向している。カム機構821は、プッシャープレート807と円板822の対向面に、それぞれ円周方向に徐々に浅くなった溝を具え、溝の内部に球体823が配設されている。
【0029】
プッシャープレート807はクラッチハブ801と一体であり、円板822はクラッチハブ801とは回転自在で、パイロットクラッチ820に連結している。そして電磁コイル811に通電がなされ、パイロットクラッチ820が端壁803側に吸引されると、仮にアウトプットフランジ11と駆動軸61の間に回転差が生じていると、円板822がクラッチケース800に引きずられる。すると、プッシャープレート807と円板820の溝が円周方向にずれ、溝の浅い部分どうしで球体823を挟むこととなり、その楔作用でプッシャープレート807と円板820を軸方向に離す。これにより、多板クラッチ806が軸方向に押圧され、アウトプットフランジ11とクラッチハブ801、つまり駆動軸61の間に生じる回転差に制限を加えることになる。
【0030】
シール手段は、図2に示すように、第1のシール手段21,23,27と、第2のシール手段29,31とで構成されている。第1のシール手段21は、トランスミッションケース7とデフケース3の端部外周との間に配置されている。第1のシール手段23は、デフケース3の内周部とサイドギア51のボス部外周との間に配置されている。第1のシール手段27は、蓋状に形成され、サイドギア51内部の駆動軸61の先端が位置された部分に駆動軸61と当接しないように配置されている。これら第1のシール手段21,23,27は、トランスミッションケース7内に封入されたトランスミッションオイル90とトランスミッションケース7外部とを区画し、トランスミッションオイル90がトランスファ17側に流出しないように区画している。
【0031】
第2のシール手段29は、トランスファケース15とアウトプットフランジ11の一端側外周との間に配置されている。第2のシール手段31は、トランスファケース15とアウトプットフランジ11の他端側外周との間に配置されている。これら第2のシール手段29,31は、トランスファケース15内に封入されたトランスファオイル91とトランスファケース15外部とを区画し、トランスファオイル91がトランスミッション9側に流出しないように区画している。第1のシール手段21,23,27と第2のシール手段29,31との間には、空間部35が形成されている。
【0032】
空間部35内には、デフケース3とアウトプットフランジ11との連結部19が配置されている。このため、連結部19は、トランスミッションオイル90とトランスファオイル91から区画された状態となっている。
【0033】
アウトプットフランジ11内には、アウトプットフランジ11内に挿入された駆動軸61の外周面61aとアウトプットフランジ11の内側面11aとの間に空間S3が形成される。アウトプットフランジ11には、この空間S3とトランスファケース15内の空間S2とを連通し、空間S3内にトランスファオイル91を供給する供給路37が形成されている。本形態において、空間S2内のトランスファオイル91は、アウトプットフランジ11が回転してトランスファオイル91内を移動しているときに、供給口37から空間S3内に流入する。
【0034】
アウトプットフランジ11の内側面11aと駆動軸61の外周面61aの間(空間S3)には、潤滑油調整手段100が配置されている。潤滑油調整手段100は、図3に示すように環状を成し、図4に示すように、その断面が略U字形状を成し、U字形状の底部105を駆動軸61の外周面61aに装着して空間S3内を全周方向に遮蔽する。潤滑油調整手段100は、供給路37側に位置する一端側に潤滑油導入口101が形成された隔壁部102が、隔壁部102と反対側に位置する他端側に駆動軸61が回転するまではアウトプットフランジ11の内側面11aと駆動軸61の外周面61aとの間を塞ぎ、駆動軸61が回転することで発生する遠心力によりアウトプットフランジ11と駆動軸61の間を開放するように弾性変形する舌片部103が、隔壁部102と舌片部103との間に、潤滑油導入口101から流入するトランスファオイル91を保持する貯留部104が形成されたシール部材として構成されている。
【0035】
潤滑油調整手段100は、全体がゴムなどの弾性部材で形成されていて、隔壁部102と底部105の内部に、断面L字状の補強部材106がインサート成形等により一体的に設けられている。潤滑油調整手段100は、隔壁部102の上部と底部が、アウトプットフランジ11の内側面11aと駆動軸61の外周面に接触していて、供給路37から流れ込むトランスファオイル91が隔壁部102を駆動軸61の軸線方向に貫通する潤滑油導入口101からだけ貯留部104に流入されるように形成されている。
【0036】
舌片部103には補強部材106はなく、ゴムの弾性を利用して図4(a)に示すように、アウトプットフランジ11の内側面11aに、その先端103aが弾性変形して撓んだ状態で圧接している。この状態は、駆動軸61の停止状態のときであり、潤滑油調整手段100の非供給状態を示す。
【0037】
舌片部103は、駆動軸61が回転して遠心力が発生すると、図4(c)に示すように、遠心ポンプの効果によりアウトプットフランジ11の内側面11aから先端103aが離間してアウトプットフランジ11と駆動軸61の間、詳しくはアウトプットフランジ11の内側面11aと舌片部103の先端103aとの間を開放するように弾性変形する。この図4(c)に示す舌片部103の先端103aがアウトプットフランジ11の内側面11aから離間した状態は、連結部19側へトランスファオイル91を排出する供給状態となる。
【0038】
このような構成の動力伝達装置1では、トランスミッションオイル90とトランスミッションケース7の外部とを区画する第1のシール手段21,23,27によってトランスミッションオイル90をトランスミッションケース7内に封入することができ、トランスファオイル91とトランスファケース15の外部とを区画する第2のシール手段29,31によってトランスファオイル91をトランスファケース15内に封入することができる。
【0039】
連結部19がトランスミッションオイル90及びトランスファオイル91から独立した第1のシール手段21,23,27と第2のシール手段29,31との間に形成された空間部35に配置されているので、連結部19に潤滑油を供給する場合、この空間部35内に潤滑油を供給するだけで良い。
【0040】
車両が前進または後退してアウトプットフランジ11が回転して供給路37がトランスファオイル91内に位置した供給位置を占めると、図4(b)に示すように、トランスファオイル91が供給路37を介して空間部S3内に供給され、潤滑油導入口101を介して貯留部104に流入する。
【0041】
ここで駆動軸61が回転すると、図4(c)に示すように、貯留部104内に流入したトランスファオイル91が遠心力によって、底面105側からアウトプットフランジ11の内側面11a側に移動するとともに、舌片部103の先端103aが内側面11aから離間する方向に弾性変形する。このため、内側面11aと舌片部103の先端103aとの間が開放されるので、内側面11a側に移動したトランスファオイル91が連結部19側に排出され、連結部19に潤滑油として供給することができる。
【0042】
本形態では、トランスミッションケース9内に封入されたトランスミッションオイル90とトランスファケース15内に封入されたトランスファオイル91が、シール手段で区画されていて、アウトプットフランジ11の空間S3内とトランスファケース内とを連通して空間S3内にトランスファオイル91を供給する供給路37と、アウトプットフランジ11と駆動軸61の間に配置され、アウトプットフランジ11が駆動軸61と一体回転するまでは非供給状態であり、アウトプットフランジ11が回転することでアウトプットフランジ11の空間S3内に供給されたトランスファオイル91を、デフケース3とアウトプットフランジ11を連結する連結部19側へ排出する供給状態となる潤滑油調整手段100を有するので、トランスミッション9側とトランスファ17側とが潤滑油を独立して封入されていても、トランスミッション9側とトランスファ7側との連結部19に作業性を損なうことなく潤滑油を容易に供給することができる。
【0043】
本形態において、供給路37はアウトプットフランジ11に1つだけ形成したが、供給路37の数は、例えば図5に示す潤滑油調整手段100Aのように、位相を変えて複数形成してもよい。この場合、複数形成した供給路37の少なくとも1つがトランスファオイル91内に位置するように形成することで、空間S3にはアウトプットフランジ11が回転しなくても、図4(b)に示すように、絶えずトランスファオイル91が流入した状態となるので、駆動軸61が回転した際に、すばやく連結部19に潤滑油としてトランスファオイル91を供給することができる。
【0044】
同様に、潤滑油導入口101に関しても、1つではなく図5に示すように、位相を変えて複数形成してもよい。このような潤滑油導入口101の数や開口面積は、連結部19で必要とする潤滑油の量に応じて適宜設定すればよい。
【符号の説明】
【0045】
1 動力伝達装置
3 デフケース
5 差動機構
7 トランスミッションケース
9 トランスミッション
11 中空軸
13 変換機構
15 トランスファケース
17 トランスファ
19 連結部
21,23,25,27 シール手段
29,31 シール手段
37 供給路
61 駆動軸
90 第1潤滑油
91 第2潤滑油
100、100A 潤滑油調整手段
501 駆動源
S3 中空軸の空間
101 潤滑油導入口
102 隔壁部
103 舌片部
104 貯留部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
デフケースを有した差動機構と該差動機構を収容するトランスミッションケースとを有し、前記トランスミッションケース内に第1潤滑油を封入するとともに駆動源からの駆動力を変速させるトランスミッションと、
内部に形成された空間内に駆動軸が挿入された中空軸を備えた変換機構と該変換機構を収容して前記トランスミッションケースに連結されるトランスファケースとを有し、前記トランスファケース内に第2潤滑油を封入するとともに、前記トランスミッションからの駆動力を方向変換させるトランスファと、
前記デフケースと前記中空軸とを連結する連結部と、
前記第1潤滑油と前記第2潤滑油とを区画するシール手段と、
前記中空軸の空間内とトランスファケース内とを連通し、前記空間内に前記第2潤滑油を供給する供給路と、
前記中空軸と前記駆動軸の間に配置され、前記駆動軸が回転するまでは非供給状態であり、前記中空軸の空間内に供給された第2潤滑油を前記駆動軸が回転することで前記連結部側へ排出する供給状態となる潤滑油調整手段とを有することを特徴とする動力伝達装置。
【請求項2】
請求項1記載の動力伝達装置において、
前記潤滑油調整手段は、前記供給路側に位置する一端側に潤滑油導入口が形成され隔壁部と、前記隔壁部と反対側に位置する他端側に、前記駆動軸が回転するまでは前記中空軸と前記駆動軸の間を塞ぎ、前記駆動軸が回転することで発生する遠心力により前記中空軸と前記駆動軸の間を開放するように弾性変形する舌片部とを備えたシール部材であることを特徴とする動力伝達装置。
【請求項3】
請求項2記載の動力伝達装置において、
前記シール部材は、前記隔壁部と前記舌片部との間に、前記潤滑油導入口から流入する第2潤滑油を保持する貯留部を有することを特徴とする動力伝達装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2012−172759(P2012−172759A)
【公開日】平成24年9月10日(2012.9.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−35053(P2011−35053)
【出願日】平成23年2月21日(2011.2.21)
【出願人】(000006286)三菱自動車工業株式会社 (2,892)
【Fターム(参考)】