説明

化合物半導体素子エピタキシャル成長基板、半導体素子およびそれらの製造方法

【課題】 ポリッシングやラッピングなどの基板の表面加工によるコストの増加、基板厚さ減少による使用回数の低下、基板割れによる歩留まりの低下の問題が起こることなく、基板とエピタキシャル成長された素子層を分離後、再度、エピタキシャル成長により素子層を形成可能な化合物半導体素子エピタキシャル半導体成長基板およびその製造方法を提供する。
【解決手段】 半導体基板上にエピタキシャル成長によって化合物半導体素子層が形成された化合物半導体素子エピタキシャル成長基板であって、半導体基板と化合物半導体素子層との間に、順次積層された半導体基板上に形成された基板材料と異なる材料からなる基板保護層と、基板と素子層を分離するための中間層とをさらに備えることを特徴とする化合物半導体素子エピタキシャル成長基板、およびその製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、エピタキシャル成長によって製造される化合物半導体素子エピタキシャル成長基板の低コスト化に関し、特に、高効率多接合型化合物太陽電池の低コスト化に関する。また本発明は、エピタキシャル成長に用いられる半導体基板を再利用することによる基板コストの削減に関する。
【背景技術】
【0002】
太陽電池のようにエピタキシャル膜を大量に必要とする場合、材料コストや素子作製時間が可能な限り小さいことが要求される。このうち、材料コストにおいては、基板のコストの割合が大きいので、素子形成後に基板を薄くしたり、素子から基板を剥離して再利用するなどの手法により、材料コストを低減させるような開発が行われている。その中で、最もコスト低減に繋がる方法は基板を素子から剥離して再利用する方法である。
【0003】
エピタキシャル成長用の半導体基板と、エピタキシャル成長させた化合物半導体素子を分離した後、基板を再度使用する技術として、従来、たとえば、基板表面にポーラス形状を形成し、その後、素子層をエピタキシャル成長させ、ポーラス形状を形成した部分(中間層)に存在する多数の空孔を切り取り面して、基板と素子層を機械的に分離する方法が知られている。しかし、この方法では、基板表面にポーラス形状が残るため、表面加工による平坦化や清浄化が必要となる。
【0004】
また、基板表面より極浅い部分にイオン注入によって原子変位層を形成し、その後、素子層をエピタキシャル成長させ、原子変位層(中間層)を切り取り面して、基板と素子層を機械的に分離することによって基板を再度使用する方法も従来から知られている。しかし、この方法では基板表面に損傷が残るため、表面加工による平坦化や清浄化が必要とある。
【0005】
さらに、基板表面に選択エッチングできる中間層を形成した後、素子層をエピタキシャル成長させ、中間層をエッチング除去することで基板と素子層を化学処理により分離する方法も、基板を再度使用する従来技術として知られている。しかし、この方法では、基板表面に化学変化による変質層が残るため、やはり表面加工による平坦化や清浄化が必要となる。
【0006】
このように基板を再度使用する従来技術として知られているいずれの方法も、分離した後の基板表面の荒れや汚染が問題となり、平坦化や清浄化のための基板表面ポリッシング、ラッピングなどの加工が必要であった。そのため、表面加工にコストがかかるほか、基板の厚さの低下による使用回数の減少、基板の割れによる歩留まりの低下が問題となっていた。
【非特許文献1】B.Asper et al.,Electron.Lett.35,p.1024(1999)
【非特許文献2】J.Schermer et al.,Appl.Phys.Lett.76,p.2131(2000)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、上記課題を解決するためになされたものであり、その目的とするところは、ポリッシングやラッピングなどの基板の表面加工によるコストの増加、基板厚さ減少による使用回数の低下、基板割れによる歩留まりの低下の問題が起こることなく、基板とエピタキシャル成長された素子層を分離後、再度、エピタキシャル成長により素子層を形成可能な化合物半導体素子エピタキシャル半導体成長基板およびその製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、半導体基板上にエピタキシャル成長によって化合物半導体素子層が形成された化合物半導体素子エピタキシャル成長基板であって、半導体基板と化合物半導体素子層との間に、順次積層された半導体基板上に形成された基板材料と異なる材料からなる基板保護層と、基板と素子層を分離するための中間層とをさらに備えることを特徴とする化合物半導体素子エピタキシャル成長基板である。
【0009】
本発明において、前記基板保護層は、半導体基板とのエッチング選択比80%以上の割合でエッチング除去できるものであることが好ましい。
【0010】
また本発明における前記基板保護層は、半導体基板と格子整合することが好ましい。
【0011】
また、本発明における前記中間層は、基板および素子層をエッチングすることのない液体または気体によってエッチングできる材料からなることが好ましい。
【0012】
本発明の化合物半導体素子エピタキシャル成長基板は、前記半導体基板がGaAsであり、基板保護層がIn0.5Ga0.5P、(AlGa)0.5In0.5PまたはAlxGa1-xAs(x>0.3)であるのが、好ましい。
【0013】
本発明はまた、半導体基板と、半導体基板上に形成された基板材料と異なる材料からなる基板保護層と、エピタキシャル成長によって基板保護層上に形成された化合物半導体素子層とを備える化合物半導体素子エピタキシャル成長基板であって、基板保護層と化合物半導体素子層との間に、基板と素子層を分離するための中間層をさらに有することを特徴とする化合物半導体素子エピタキシャル成長基板から中間層を除去し、半導体基板と化合物半導体素子層とを分離させる工程と、基板保護層をエッチング除去して半導体基板表面を露出させる工程と、露出された半導体基板上に、基板保護層、中間層、化合物半導体素子層を準次成長させる工程とを含む、化合物半導体素子エピタキシャル成長基板の製造方法も提供する。
【発明の効果】
【0014】
本発明の化合物半導体素子エピタキシャル成長基板は、半導体基板と化合物半導体素子層との間に、順次積層された半導体基板上に形成された基板材料と異なる材料からなる基板保護層と、基板と素子層を分離するための中間層とを備えるものである。このような本発明の化合物半導体素子エピタキシャル成長基板によれば、中間層において素子層と半導体基板とを分離させることができ、これにより、分離後の半導体基板上の基板保護層を除去することで、平坦、かつ、清浄な表面を保持した半導体基板を得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
図1は、本発明の好ましい一例の化合物半導体素子エピタキシャル成長基板1を模式的に示す図である。本発明の化合物半導体素子エピタキシャル成長基板1は、半導体基板2上に、基板保護層3、中間層4および化合物半導体素子層(素子層)5が順次積層されてなる基本構造を有する。ここで、基板の「上方向」とは、基板の厚み方向一方に沿った方向を指す。なお、本明細書中における「半導体素子」とは、化合物半導体素子を含み、具体的には、太陽電池(GaAs太陽電池、InGaAs太陽電池、InGaP太陽電池、AlInGaP太陽電池、InGaNAs太陽電池などの単一または複数の太陽電池をトンネル接合で繋げた多接合太陽電池)などが挙げられる。
【0016】
本発明における半導体基板2は、その形成材料としては、当分野において従来より広く用いられているものを特に制限なく用いることができる。このような半導体基板2の形成材料としては、たとえば、GaAs、Ge、InP、サファイア、Siなどを挙げることができる。中でも、高効率太陽電池素子の成長のために、格子整合し結晶欠陥密度の低い高品質の層を成長できる点で、GaAsが好ましい。
【0017】
半導体基板2は、その厚みは特に制限されるものではないが、100〜10000μmであるのが好ましく、300〜1000μmであるのがより好ましい。半導体基板2の厚みが100μm未満であると、成長中に歪み易い、ハンドリングなどで割れやすい傾向にあるためであり、また、10000μmを越えると、成長装置内での基板支持が複雑になる、重くなりハンドリングが困難になる傾向にあるためである。
【0018】
基板保護層3は、上述した半導体基板2とは異なる材料にて形成され、半導体基板2とのエッチング選択比80%以上(より好適には98%以上)の割合でエッチング除去できるものであることが好ましい。このようなエッチング選択比であることによって、後述する本発明の化合物半導体素子エピタキシャル成長基板の製造方法によって、基板保護層3と化合物半導体素子エピタキシャル素子層5とを分離後、半導体基板2上の基板保護層3のみを効率的にエッチング除去することで、平坦、かつ、清浄な表面が保持された半導体基板2を簡便に回収することができ、化合物半導体素子エピタキシャル成長基板の製造に再利用することができる。
【0019】
また本発明における前記基板保護層3は、半導体基板2と格子整合することが好ましい。基板保護層3が半導体基板2と格子整合していることによって、基板表面から保護層付近の原子層を歪ませることがなく、基板表面への損傷が少ないため、基板の再利用の回数を増加させることができるためである。
【0020】
本発明における基板保護層3は、上述した半導体基板2とは異なる材料にて形成されるならば、その形成材料は特に制限されないが、たとえば、GaAs基板を用いた場合、InGaP、AlGaInP、AlGaAs(x>0.3)、GaAsPなどが挙げられる。中でも、基板と格子整合し、エッチング選択比が80%以上であることから、In0.5Ga0.5P、(AlGa)0.5In0.5PまたはAlxGa1-xAs(x>0.3)が好ましい。
【0021】
基板保護層3は、その厚みが0.01〜2μmであるのが好ましく、0.05〜0.5μmであるのがより好ましい。基板保護層3の厚みが0.01μm未満であると、薄すぎて、エッチングにより、部分的に剥離される傾向にあるためであり、また、2μmを越えると、エピタキシャル成長に要するコストが増加する傾向にあるためである。
【0022】
基板保護層3と素子層5との間に形成される中間層4は、半導体基板2と素子層5を分離するために形成されるものであって、基板および素子層をエッチングすることのない液体または気体によってエッチングできる材料にて形成されることが好ましい。このような材料としては、たとえば、基板が上述した中から選ばれる適宜の材料にて形成され、素子層が後述する中から選ばれる適宜の材料にて形成される場合、AlAs、AlxGa1-xAs(x>0.5)、InGaP、AlInGaPなどを挙げることができる。中でも、AlAs、AlxGa1-xAs(x>0.5)、In0.5Ga0.5P、(AlGa)0.5In0.5P、AlAsが好ましい。エッチングのための液体または気体としては、たとえば、フッ酸系水溶液、塩酸系溶液、硫酸系溶液、アンモニア系水溶液、水酸化カリウム系溶液、塩素系ガス、フッ素系ガスなどが挙げられる。
【0023】
中間層4は、その厚みが0.003〜2μmであるのが好ましく、0.005〜0.1μmであるのがより好ましい。中間層4の厚みが0.003μm未満であると、基板面内にて中間層が形成されていない領域が発生する傾向にあるためであり、また、2μmを越えると、エッチング量が増加し、エッチング速度が低下する傾向にあるためである。
【0024】
素子層5は、上記中間層4上にエピタキシャル成長によって形成される1層以上の層であれば特に制限はなく、用途に応じて従来公知の適宜の材料にて形成することができる。素子層5は、高効率の太陽電池が得られるという点で、裏面電界層、ベース層、エミッタ層、窓層の構造物をトンネル接合を介して二層構造とするのが好ましい。図1に示す例では、素子層5において、第一層目の構造体として、裏面電界層11であるp−InGaP層、ベース層12であるp−GaAs層、エミッタ層13であるn−GaAs層、窓層14であるAlInP層が形成される。また、トンネル接合層15であるInGaP層およびAlGaAs層を介して、第二層目の構造体として、裏面電界層16であるp−AlInP層、ベース層17であるp−InGaP層、エミッタ層18であるAlInP層、窓層19であるAlInP層が形成される。さらに、最表層には、コンタクト層20であるn−GaAs層が形成される。各層の厚みは、その機能に応じ、好ましい範囲に適宜選択することができる。勿論、図1に示した素子層5の積層構造はあくまで例示であって、本発明における素子層5はこれに限定されるものではない。
【0025】
本発明の化合物半導体素子エピタキシャル成長基板1は、上述したように半導体基板2と化合物半導体素子層5との間に、順次積層された半導体基板2上に形成された基板材料と異なる材料からなる基板保護層3と、基板2と素子層5を分離するための中間層4とを備えるものである。このような本発明の化合物半導体素子エピタキシャル成長基板1によれば、中間層4において素子層5と半導体基板2とを分離させることができ、これにより、分離後の半導体基板2上の基板保護層3を除去することで、平坦、かつ、清浄な表面を保持した半導体基板2を得ることができる。
【0026】
上述した構造を備える本発明の化合物半導体素子エピタキシャル成長基板1は、たとえば以下の手順にて製造することができる。
【0027】
まず、縦型MOCVD装置を用い、半導体基板2上に、基板保護層3、中間層4を順次成長させて積層していく。たとえば、半導体基板2としてGaAs基板を用い、基板保護層3としてInGaP層、中間層4としてAlAs層を形成する場合、InGaP層の成長にはTMI(トリメチルインジウム)、TMGおよびPH3(ホスフィン)を原料に用い、また、AlAs層の成長にはTMA(トリメチルアルミニウム)、AsH3(アルシン)を原料として用いることができる。
【0028】
さらに、その上に、素子層5をエピタキシャル成長させる。図1に示した例の積層構造を有する素子層5を形成する場合、第一層目の構造体として、裏面電界層11であるp−InGaP層、ベース層12であるp−GaAs層、エミッタ層13であるn−GaAs層、窓層14であるAlInP層が形成される。また、トンネル接合層15であるInGaP層およびAlGaAs層を介して、第二層目の構造体として、裏面電界層16であるp−AlInP層、ベース層17であるp−InGaP層、エミッタ層18であるAlInP層、窓層19であるAlInP層、コンタクト層20であるn−GaAs層を順次積層して形成していく。InGaP層の成長には上述と同様にTMI(トリメチルインジウム)、TMGおよびPH3(ホスフィン)を原料に用い、GaAs層の成長にはTMG(トリメチルガリウム)とAsH3(アルシン)を原料として用いることができる。また、AlInP層の成長にはTMA(トリメチルアルミニウム)、TM1およびPH3を原料として用いることができる。GaAs層、InGaP層およびAlInP層の全ての成長において、n型層形成のための不純物にSiH4(モノシラン)を用い、p型層形成のための不純物にDEZnを用いることができる。また、トンネル接合を形成するAlGaAs層の成長には、TMI、TMGおよびAsH3を原料に用い、p型不純物として、CBr4(四臭化炭素)を用いることができる。このように、図1に示した例の構造を備える化合物半導体素子エピタキシャル成長基板1を製造することができる。
【0029】
成長温度としては、トンネル接合層以外の層は、600〜700℃の範囲内であるのが、少数キャリア寿命を向上させる点で好ましく、トンネル接合層は、500〜600℃の範囲内であるのが、不純物の再蒸発を防止し、高濃度にドーピングできる点で好ましい。
【0030】
図2は、本発明の化合物半導体素子エピタキシャル成長基板の製造方法を説明するための図であり、図3は、本発明の製造方法により得られる太陽電池セルを模式的に示す図である。本発明はまた、半導体基板2と、半導体基板2上に形成された基板材料と異なる材料からなる基板保護層3と、エピタキシャル成長によって基板保護層3上に形成された化合物半導体素子層5とを備える化合物半導体素子エピタキシャル成長基板1であって、基板保護層3と化合物半導体素子層5との間に、基板2と素子層5を分離するための中間層4をさらに有する化合物半導体素子エピタキシャル成長基板1から中間層4を除去し、半導体基板と化合物半導体素子層とを分離させる工程と、基板保護層をエッチング除去して半導体基板2表面を露出させる工程と、露出された半導体基板2上に、基板保護層3、中間層4、化合物半導体素子層5を準次成長させる工程とを含む、化合物半導体素子エピタキシャル成長基板の製造方法も提供する。
【0031】
本発明の化合物半導体素子エピタキシャル成長基板の製造方法に先立ち、上述したようにして作成した、たとえば図1に示したような構造を備える化合物半導体素子エピタキシャル成長基板1の素子層5によってセル前駆体(太陽電池セルの前駆体)を形成するよう、加工を施す。まず、図1に示した化合物半導体素子エピタキシャル成長基板1のコンタクト層20上にGaAs層21を形成後、所望のパターンの表面電極25を形成する。表面電極25の形成は、たとえば、まず、フォトリソグラフィ法によって所望の電極パターンの形状に窓明けしたレジストを塗布し、真空蒸着装置に導入してレジストを形成後、たとえばGeを12%含むAuからなる層(たとえば100nm)を抵抗加熱法により形成した後、Ni層(たとえば20nm)、Au層(たとえば5000nm)を連続してEB蒸着方法により形成した後、たとえばリフトオフ法にて所望のパターンに形成する。
【0032】
次に、表面電極25をマスクとして、表面電極25が形成されていない部分のGaAs層21を、たとえばアルカリ水溶液を用いてエッチングする。続いて、フォトリソグラフィ法により、メサエッチングパターンの窓明けをしたレジストを形成し、窓明けされた部分のエピタキシャル層をアルカリ水溶液および酸溶液にてエッチングし、中間層4を露出させる(エッチング後に残された表面電極25が形成された素子層5を「セル前駆体31」と呼称する。)。
【0033】
次に、セル前駆体31の表面にワックス32を塗布後、プラスチック製の支持基板33を接着し、図2に示す構造を形成する。ワックス32としては、たとえばアピエゾンワックスを好適に用いることができる。また、支持基板33としては、たとえば、耐薬品性の高い、ガラス、セラミックまたはSiで形成された板状物を用いることができる。支持基板33の接着は、たとえば、除去可能なワックスまたはレジストを用いて行うことができる。
【0034】
このようにして図2の構造物を形成後、上述した本発明の化合物半導体素子エピタキシャル成長基板の製造方法を行う。すなわち、最初の工程ではまず、中間層4を除去して半導体基板2と化合物半導体素子層5(図2に示した例においてはセル前駆体31)を分離する。中間層4の除去は、図2に示した構造物を、たとえばフッ酸水溶液に投入して中間層4をエッチングすることで行うことができる。分離後の各セル前駆体31については、裏面にたとえば真空蒸着、スパッタリング、電解メッキ、無電解メッキ、イオンプレーティング、スプレー、溶着、印刷のような方法で電極(裏面電極)26を形成後、高温でワックスを溶かし、前駆体を支持基板から分離した後、有機溶剤に浸してワックス32を除去することで、図3に示すような構造物(太陽電池セル)に形成することができる。
【0035】
次の工程では、半導体基板2より基板保護層3をエッチング除去して、半導体基板2の表面を露出させる。このようにして得られた半導体基板2は、従来とは異なり、平坦で、かつ、清浄な基板表面を有するものである。上述したように好ましくは基板保護層3として、半導体基板とのエッチング選択比80%以上の割合でエッチング除去できるものを用いることで、基板表面に損傷が生じることなく、簡便に平坦で清浄な基板表面を得ることができる。基板保護層3のエッチングは、基板保護層の形成材料に応じ、適宜のエッチング溶液、条件にて行うことができる。たとえば、図1に示したように基板保護層3としてInGaP層を用いている場合には、HCl溶液に浸すことで、基板保護層3をエッチング除去することができる。
【0036】
その後、露出された半導体基板2上に、基板保護層3、中間層4、化合物半導体素子層5を準次成長させる。この際、エピタキシャル成長における通常プロセスとして、基板と基板保護層との間に、基板と同じ材料をバッファー層として数nm以上施すことが好ましい。この工程に供する前に、半導体基板2を超純水でリンスした後、N2ブローで乾燥させておくことが好ましい。またエピタキシャル成長前の通常プロセスとして、基板をエッチングする溶液にて、基板表面から数nm程度エッチングすることが好ましい。基板保護層3、中間層4、化合物半導体素子層5の形成は、上述したのと同様にして行えばよい。こうして回収した半導体基板2を用いて再び図1に示した構造の化合物半導体素子エピタキシャル成長基板1を製造する。本発明の化合物半導体素子エピタキシャル成長基板の製造方法においては、このようなサイクルを繰り返すことで、半導体基板2を何度も再利用して、図3に示したような太陽電池セルを製造することができる。
【0037】
以下、本発明をさらに具体的に説明するが、これらの実施例により本発明が限定されるものではない。
【0038】
<実施例1>
まず、MOCVD法を用い、半導体基板2であるn型GaAs基板上に図1に示す層構造を作製した。すなわち、50mm径のGaAs基板(1E18cm-3、Siドープ)を縦型MOCVD装置に投入し、まず、基板保護層3としてIn0.5Ga0.5P層を0.1μm形成した。続いてエッチング分離のための中間層4としてAlAs層を0.02μm形成し、エッチング停止のためにInGaP層を0.1μm成長し、太陽電池層構造を順次成長させ、素子層5を形成した。
【0039】
成長温度は700℃とし、GaAs層の成長では、原料としてTMG(トリメチルガリウム)とAsH3(アルシン)を用いた。InGaP層の成長ではTMI(トリメチルインジウム)、TMGおよびPH3(ホスフィン)を原料に用いた。AlInP層の成長ではTMA(トリメチルアルミニウム)、TM1およびPH3を原料に用いた。GaAs、InGaPおよびAlInP層の全ての成長において、n型層形成のための不純物にSiH4(モノシラン)を用い、p型層形成のための不純物にDEZnを用いた。トンネル接合を形成するAlGaAs層の成長には、TMI、TMGおよびAsH3を原料に用い、p型不純物として、CBr4(四臭化炭素)を用いた。
【0040】
エピタキシャル層表面のコンタクト層(n型GaAs層)上に、フォトリソグラフィー法によって、電極パターンの窓明けをしたレジストを形成し、真空蒸着装置に導入し、レジストを形成した上に、Geを12%含むAuからなる層(100nm)を抵抗加熱法により形成した後、Ni層(20nm)、Au層(5000nm)を連続してEB蒸着方法により形成した。その後、リフトオフ法にて所望のパターンの表面電極を形成した。次に、表面電極をマスクとして、電極が形成されていない部分のGaAsコンタクト層をアルカリ水溶液にてエッチングした。
【0041】
続いて、フォトリソグラフィー法により、メサエッチングパターンの窓明けをしたレジストを形成し、窓明けされた部分のエピタキシャル層をアルカリ水溶液および酸溶液にてエッチングし、中間層4のAlAs層を露出させた。
【0042】
次に、メサエッチング部以外のセル受光面にワックスを塗布し、プラスティック板を接着し、図2に示すような断面構造を作製した。その後、上はをHF水溶液に投入し、メサエッチング部分からセル層下部のAlAs中間層をエッチング除去することでセル層と基板を分離した。その後、各セルの裏面に電極を形成した後、ワックスを除去し、図3に示すような構造の第1回目のプロセスによる太陽電池セルを完成させた。セルのサイズは10mm×10mmで50mm径基板から12枚を作製した。
【0043】
その後、基板側に形成されている基板保護層3であるInGaP層をHClによりエッチング除去し、GaAs基板表面を露出させた。超純水でリンスした後、N2ブローで乾燥させ、MOCVD装置に再度投入し、図1の構造を再度エピタキシャル成長させた。上記のプロセスを再度実施し、図3に示す構造と同様の第2回目のプロセスによる太陽電池セルを完成させた。
【0044】
セル特性評価として、AM1.5G基準太陽光を照射するソーラーシミュレーターにより、光照射時の電流電圧特性を測定し、短絡電流、開放電圧および変換効率を測定した。表1に、第1回目および第2回目において作製されたセルの諸特性の比較を示す。
【0045】
【表1】

【0046】
再使用した基板上に作製された第2回目のセルにおいても、第1回目とほとんど差のない特性が得られ、本発明による基板の再利用が有効に実施されることが確認された。
【0047】
今回開示された実施の形態はすべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は上記した説明ではなくて特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
【図面の簡単な説明】
【0048】
【図1】本発明の好ましい一例の化合物半導体素子エピタキシャル成長基板1を模式的に示す図である。
【図2】本発明の化合物半導体素子エピタキシャル成長基板の製造方法を説明するための図である。
【図3】本発明の製造方法により得られる太陽電池セルを模式的に示す図である。
【符号の説明】
【0049】
1 化合物半導体素子エピタキシャル成長基板、2 半導体基板、3 基板保護層、4 中間層、5 化合物半導体素子層、11 裏面電界層、12 ベース層、13 エミッタ層、14 窓層、15 トンネル接合層、16 裏面電界層、17 ベース層、18 エミッタ層、19 窓層、20 コンタクト層、25 表面電極、26 裏面電極、31 セル先駆体、32 ワックス、33 支持基板。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
半導体基板上にエピタキシャル成長によって化合物半導体素子層が形成された化合物半導体素子エピタキシャル成長基板であって、
半導体基板と化合物半導体素子層との間に、順次積層された半導体基板上に形成された基板材料と異なる材料からなる基板保護層と、基板と素子層を分離するための中間層とをさらに備えることを特徴とする化合物半導体素子エピタキシャル成長基板。
【請求項2】
前記基板保護層は、半導体基板とのエッチング選択比80%以上の割合でエッチング除去できるものであることを特徴とする、請求項1に記載の化合物半導体素子エピタキシャル成長基板。
【請求項3】
前記基板保護層は、半導体基板と格子整合することを特徴とする、請求項1または2に記載の化合物半導体素子エピタキシャル成長基板。
【請求項4】
前記中間層は、基板および素子層をエッチングすることのない液体または気体によってエッチングできる材料からなることを特徴とする、請求項1〜3のいずれかに記載の化合物半導体素子エピタキシャル成長基板。
【請求項5】
前記半導体基板がGaAsであり、基板保護層がIn0.5Ga0.5P、(AlGa)0.5In0.5PまたはAlxGa1-xAs(x>0.3)であることを特徴とする、請求項1〜4のいずれかに記載の化合物半導体素子エピタキシャル成長基板。
【請求項6】
半導体基板と、半導体基板上に形成された基板材料と異なる材料からなる基板保護層と、エピタキシャル成長によって基板保護層上に形成された化合物半導体素子層とを備える化合物半導体素子エピタキシャル成長基板であって、基板保護層と化合物半導体素子層との間に、基板と素子層を分離するための中間層をさらに有することを特徴とする化合物半導体素子エピタキシャル成長基板から中間層を除去し、半導体基板と化合物半導体素子層とを分離させる工程と、
基板保護層をエッチング除去して半導体基板表面を露出させる工程と、
露出された半導体基板上に、基板保護層、中間層、化合物半導体素子層を準次成長させる工程とを含む、化合物半導体素子エピタキシャル成長基板の製造方法。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
半導体基板上にエピタキシャル成長によって化合物半導体素子層が形成された化合物半導体素子エピタキシャル成長基板であって、
半導体基板と化合物半導体素子層との間に、半導体基板側から順に、基板材料と異なる材料からなる基板保護層と、半導体基板化合物半導体素子層分離可能とするための中間層とが積層されてなることを特徴とする化合物半導体素子エピタキシャル成長基板。
【請求項2】
前記基板保護層は、半導体基板とのエッチング選択比80%以上の割合でエッチング除去できるものであることを特徴とする、請求項1に記載の化合物半導体素子エピタキシャル成長基板。
【請求項3】
前記基板保護層は、半導体基板と格子整合することを特徴とする、請求項1または2に記載の化合物半導体素子エピタキシャル成長基板。
【請求項4】
前記中間層は、基板および素子層をエッチングすることのない液体または気体によってエッチングできる材料からなることを特徴とする、請求項1〜3のいずれかに記載の化合物半導体素子エピタキシャル成長基板。
【請求項5】
前記半導体基板がGaAsであり、基板保護層がIn0.5Ga0.5P、(AlGa)0.5In0.5PまたはAlxGa1-xAs(x>0.3)であることを特徴とする、請求項1〜4のいずれかに記載の化合物半導体素子エピタキシャル成長基板。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれかに記載の化合物半導体素子エピタキシャル成長基板から、半導体基板、基板保護層および中間層を分離して得られた化合物半導体素子層を用いた、半導体素子
【請求項7】
半導体基板と、半導体基板上に形成された基板材料と異なる材料からなる基板保護層と、エピタキシャル成長によって基板保護層上に形成された化合物半導体素子層とを備える化合物半導体素子エピタキシャル成長基板であって、基板保護層と化合物半導体素子層との間に、半導体基板化合物半導体素子層分離可能とするための中間層をさらに有することを特徴とする化合物半導体素子エピタキシャル成長基板から中間層を除去し、半導体基板と化合物半導体素子層とを分離させる工程と、
基板保護層をエッチング除去して半導体基板表面を露出させる工程と、
露出された半導体基板上に、基板保護層、中間層、化合物半導体素子層を順次成長させる工程とを含む、化合物半導体素子エピタキシャル成長基板の製造方法。
【請求項8】
請求項7の化合物半導体素子エピタキシャル成長基板の製造方法により得られる化合物半導体素子層を用いて半導体素子を製造することを特徴とする、半導体素子の製造方法

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2006−80305(P2006−80305A)
【公開日】平成18年3月23日(2006.3.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−262854(P2004−262854)
【出願日】平成16年9月9日(2004.9.9)
【出願人】(000005049)シャープ株式会社 (33,933)
【Fターム(参考)】