説明

半導体インク配合物

【課題】薄膜トランジスタの製造において有用な半導体インク配合物を提供する。
【解決手段】半導体インク配合物は、構造式(A)のチオフェン部分を含む半導体材料と、第1の溶媒と、第1の溶媒と混和性であり、第1の溶媒の表面張力に等しいかまたはそれより大きい表面張力を有する第2の溶媒とを含み、該半導体材料が室温にて0.1重量%未満の溶解度を有する。


(上記構造式(A)中、Rは、アルキルおよび置換アルキルから選択される。)

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、様々な実施形態の電子デバイス、例えば薄膜トランジスタ(「TFT」)における使用に適した配合物(formulation)および方法に関する。本発明はまた、このような組成物および方法を用いて製造される構成部品または層、ならびにこのような材料を含有する電子デバイスに関する。
【背景技術】
【0002】
薄膜トランジスタ(TFT)は、例えば、センサー、イメージスキャナ、電子ディスプレイ装置を含む現代の電子技術の基本となる構成部品である。TFTは、一般に、支持基板、3つの導電性電極(ゲート電極、ソース電極およびドレイン電極)、チャネル半導体層、および、ゲート電極を半導体層と分離する電気的に絶縁性のゲート誘電体層から構成される。一般に、製造コストが非常に低いだけでなく、物理的に小型である、軽量である、柔軟性があるなどの魅力的な機械的特性も兼ね備えたTFTを作製することが望ましい。一つのアプローチは、TFTの1つ以上の構成部品に有機化合物が含まれる有機薄膜トランジスタ(「OTFT」)によるものである。特に、一部の構成部品は、安価な、十分理解された印刷技術を用いて蒸着し、模様を付けることができる。
【0003】
インクジェット印刷は、OTFTを二次加工するための非常に有望な方法であると考えられている。二次加工処理に関して、有機半導体をインクジェット印刷することは重要な段階である。従って、噴出させることのできる(jettable)半導体インクが必要とされる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】米国特許第6,770,904号明細書
【特許文献2】米国特許第6,872,801号明細書
【特許文献3】米国特許第6,897,284号明細書
【特許文献4】米国特許第6,949,762号明細書
【特許文献5】米国特許第7,112,649号明細書
【特許文献6】米国特許第7,132,500号明細書
【特許文献7】米国特許第7,256,418号明細書
【0005】
インク組成物を形成するための一つの一般的なアプローチは、半導体材料を適当な溶媒中に溶かして分散体用のインク溶液を形成することである。分散体は一般に、基板表面(誘電体表面)が低い表面エネルギーを有するボトムゲートTFT構成(図1参照)において半導体材料を印刷するのに適している。しかし、インク組成物は、インクジェット印刷の全ての要件、例えば表面張力要件などに合致しない場合があり得る。例えば、一部の分散体の表面張力は、トップゲートTFT構成(図4参照)におけるような高い表面エネルギーを有する基板へ半導体材料を印刷するには低すぎる。低い表面張力により、半導体材料は所望のチャネル領域を超えて広げられ、望ましくないキャパシタンスを引き起こす。半導体材料自体の構造、分子量、および/または負荷を変えることなく増加した表面張力を有する半導体インク配合物を提供することが望ましい。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
様々な実施形態において開示されるものは、半導体インク配合物である。インク配合物は表面張力の制御を可能にし、従ってトップゲート薄膜トランジスタの製造において有用である。このような配合物を作製および使用するための方法も開示される。
【課題を解決するための手段】
【0007】
一部の実施形態では、次式に示す構造式(A)のチオフェン部分を含む半導体材料と、第1の溶媒と、第1の溶媒と混和性であり、第1の溶媒の表面張力に等しいかまたはそれより大きい表面張力を有する第2の溶媒と、を含み、該半導体材料が室温にて0.1重量%未満の溶解度を有する、半導体インク配合物が開示される。
【0008】
【化1】

【0009】
上記構造式(A)中、Rは、アルキルおよび置換アルキルから選択される。
【0010】
実施形態では、半導体材料は、式(I)の構造を有し得る。
【0011】
【化2】

【0012】
上記式(I)中、RおよびRは独立に、アルキルおよび置換アルキルから選択され、x、y、およびzは独立に1〜約5であり、nは、重合の程度である。
【0013】
実施形態では、RおよびRは独立に、1〜約24個の炭素原子を有するアルキルから選択されてもよい。一部の実施形態では、RとRは同一である。
【0014】
半導体材料は、式(II)であってもよい。
【0015】
【化3】

【0016】
第1の溶媒は、ハロゲン化芳香族溶媒、例えばクロロベンゼン、ジクロロベンゼン、トリクロロベンゼン、およびクロロトルエンである。具体的な実施形態では、第1の溶媒は1,2−ジクロロベンゼンである。
【0017】
第2の溶媒は、6炭素環(six-carbon ring)、例えば安息香酸ベンジル、安息香酸メチル、アセトフェノン、2’−クロロアセトフェノン、キノリン、およびベンゾニトリルなどを含み得る。具体的な実施形態では、第2の溶媒は、安息香酸ベンジルである。
【0018】
特定の組合せでは、第1の溶媒は1,2−ジクロロベンゼンであり、第2の溶媒は安息香酸ベンジルである。第1の溶媒対第2の溶媒の重量比((第1の溶媒):(第2の溶媒))は、約20:1〜約20:10であってもよい。
【0019】
インク配合物は、約28mN/m〜約35mN/mの表面張力を有し得る。
【0020】
半導体材料は、凝集体および溶質分子の両方として存在し得る。一部の実施形態では、凝集体は、半導体材料の50重量%より多い。他の実施形態では、凝集体は半導体材料の80重量%より多い。
【0021】
その他の実施形態では、薄膜トランジスタの半導体層を形成する方法が開示され、それには、
a)構造式(A)のチオフェン部分を含む半導体材料と、第1の溶媒と、第1の溶媒と混和性であり、第1の溶媒の表面張力に等しいかまたはそれより大きい表面張力を有する第2の溶媒とを含み、該半導体材料が室温にて0.1重量%未満の溶解度を有する、インク組成物を準備する工程と、
b)トランジスタの基板の上にインク組成物を適用する工程と、
c)インク組成物を乾燥させて半導体層を形成する工程と、が含まれる。
【0022】
【化4】

【0023】
上記構造式(A)中、Rは、アルキルおよび置換アルキルから選択される。
【0024】
その他の実施形態では、半導体インク配合物の表面張力を制御する方法が提供され、それには、
a)構造式(A)のチオフェン部分を含む半導体材料と、該半導体材料がそれに対して室温にて0.1重量%以上の溶解度を有する第1の溶媒と、第1の溶媒と混和性であり、第1の溶媒の表面張力に等しいかまたはそれより大きい表面張力を有する第2の溶媒とを含み、該半導体材料が室温にて0.1重量%未満の溶解度を有する、インク組成物を準備する工程と、
b)第1の溶媒と第2の溶媒との重量比を、約20:1〜約20:10に調整してインク組成物の表面張力を制御する工程と、が含まれる。
【0025】
【化5】

【0026】
上記構造式(A)中、Rは、アルキルおよび置換アルキルから選択される。
【0027】
第1の溶媒と第2の溶媒との重量比は、約10:1〜約10:3であってもよい。
【0028】
また、この方法により製造される層および/または薄膜トランジスタも開示される。
【0029】
これらおよびその他の本明細書に開示の例示的な実施形態の非限定的な特徴は、下記においてより詳細に記載される。
【図面の簡単な説明】
【0030】
【図1】OTFTの第1の例示的な実施形態である。
【図2】OTFTの第2の例示的な実施形態である。
【図3】OTFTの第3の例示的な実施形態である。
【図4】OTFTの第4の例示的な実施形態である。
【発明を実施するための形態】
【0031】
本明細書に開示される構成部品、方法、および装置のより完全な理解は、添付される図面を参照することにより得ることができる。これらの図は、本開発を実証する便宜性および容易性に基づく単なる模式図であり、そのために、デバイスまたはその構成部品の相対的なサイズおよび寸法を示し、および/または例示的な実施形態の範囲を規定または限定することを意図するものではない。
【0032】
具体的な用語が、以下の説明中で明確にする目的で用いられているが、これらの用語は、図面での説明のために選択される実施形態の特定の構造のみを言及することが意図されるものであり、本明細書に開示の範囲を規定または限定することを意図するものではない。図面および下記の次の説明において、同様の数字表示が同様の機能の構成部品をさすことは当然理解される。
【0033】
図1は、第1のボトムゲートOTFTの実施形態または構成を示す。OTFT10は、ゲート電極30および誘電体層40に接触している基板20を含む。ここではゲート電極30が基板20の内部に描かれているが、これは必須ではない。しかし、誘電体層40がゲート電極30をソース電極50、ドレイン電極60、および半導体層70から分離することは重要である。ソース電極50は半導体層70に接触する。ドレイン電極60も半導体層70に接触する。半導体層70は、ソース電極50およびドレイン電極60の上面および両者の間に延びている。任意に適用し得る界面層80が誘電体層40と半導体層70との間に設置されてもよい。
【0034】
図2は、第2のボトムゲートOTFTの実施形態または構成を示す。OTFT10は、ゲート電極30および誘電体層40に接触している基板20を含む。半導体層70は、誘電体層40の上方または上面に設置され、誘電体層40をソース電極50およびドレイン電極60から分離している。任意に適用し得る界面層80が誘電体層40と半導体層70との間に設置されてもよい。
【0035】
図3は、第3のボトムゲートOTFTの実施形態または構成を示す。OTFT10は、ゲート電極としても作用し、かつ、誘電体層40に接触している基板20を含む。半導体層70は、誘電体層40の上方または上面に設置され、誘電体層40をソース電極50およびドレイン電極60から分離している。任意に適用し得る界面層80が誘電体層40と半導体層70との間に設置されてもよい。
【0036】
図4は、トップゲートOTFTの実施形態または構成を示す。OTFT10は、ソース電極50、ドレイン電極60、および半導体層70に接触している基板20を含む。半導体層70は、ソース電極50およびドレイン電極60の上面および両者の間に延びている。誘電体層40は半導体層70の上にある。ゲート電極30は誘電体層40の上にあり、半導体層70に接触していない。任意に適用し得る界面層80が誘電体層40と半導体層70との間に設置されてもよい。
【0037】
半導体層は、トップゲート薄膜トランジスタを含む薄膜トランジスタを形成する際の使用に適した半導体インク配合物から形成されてもよい。半導体インク配合物は、半導体材料、第1の溶媒A、および第2の溶媒Bを含む。
【0038】
実施形態では、半導体材料は、構造式(A)のチオフェン部分を含む。好ましい実施形態では、半導体材料は高分子半導体材料である。
【0039】
【化6】

【0040】
上記構造式(A)中、Rはアルキルまたは置換アルキルである。
【0041】
さらなる実施形態では、半導体材料は式(I)である。
【0042】
【化7】

【0043】
上記式(I)中、RおよびRは独立に、アルキルおよび置換アルキルから選択され、x、y、およびzは独立に1〜約5であり、nは、重合の程度である。nは通常2〜約10,000、好ましくは約5〜約50の数字である。特定の実施形態では、RおよびRは独立に1〜約24個の炭素原子を有するアルキルから選択され、さらなる実施形態では、RとRは同一である。特定の実施形態では、xとzは等しい。
【0044】
具体的な実施形態では、半導体材料は、式(II)である。
【0045】
【化8】

【0046】
上記式(II)中、nは2〜約100の数字である。この特定の半導体材料は、PQT−12としても公知である。その他の具体的な半導体材料としては、ポリ(3−アルキルチオフェン)、および米国特許第6,770,904号、同第6,949,762号、および同第6,621,099号に開示される半導体ポリマーが挙げられ、それらの開示は参照により全文が本明細書に組み込まれる。
【0047】
2種類の溶媒に関して、第2の溶媒Bは、第1の溶媒Aと混和性であり、第1の溶媒Aの表面張力に等しいかまたはそれより大きい表面張力を有する。半導体材料はまた、第2の溶媒B中で室温にて0.1重量%未満の溶解度を有する。一部の実施形態では、半導体材料はまた、第1の溶媒A中で室温にて0.1重量%以上の溶解度を有する。
【0048】
実施形態では、第1の溶媒Aは、ハロゲン化芳香族溶媒である。例示的なハロゲン化芳香族溶媒としては、クロロベンゼン、ジクロロベンゼン、トリクロロベンゼン、およびクロロトルエンが挙げられる。具体的な実施形態では、第1の溶媒Aは、1,2−ジクロロベンゼンを含む。
【0049】
実施形態では、第2の溶媒Bは、6炭素環を含む。特定の実施形態では、第2の溶媒Bは、安息香酸ベンジル、安息香酸メチル、アセトフェノン、2’−クロロアセトフェノン、キノリン、およびベンゾニトリルからなる群から選択される溶媒を含む。具体的な実施形態では、第2の溶媒Bは、安息香酸ベンジルである。
【0050】
一部の具体的な実施形態では、第1の溶媒Aは、1,2−ジクロロベンゼンであり、第2の溶媒Bは、安息香酸ベンジルである。
【0051】
半導体インク配合物は、第1の溶媒A、第2の溶媒B、および半導体材料を混合することにより作製される。一般に、半導体材料は配合物の約0.1〜約1.0重量パーセント、または配合物の約0.1〜約0.5重量パーセントである。実施形態では、半導体材料は、凝集体(例えば、ナノサイズの凝集体)と溶質分子の両方の形態でインク配合物中に存在し得る。溶媒Bを使用すると、溶媒Aおよび溶媒Bの混合物の表面張力はほんの少し改善され、インク組成物の表面張力の増強に少し貢献する。他方、溶媒Bを使用すると、2種類の溶媒Aおよび溶媒Bの混合物中の半導体材料の溶解度は劇的に低下し、その結果、インク組成物中の、溶媒Aにより安定化され得るナノサイズの凝集体の母集団が増加し、溶質分子の母集団が減少する。
【0052】
理論に拘泥されるものではないが、凝集体の量の増加および溶解した半導体分子の量の低下は、インク組成物の表面張力の有意な改善をもたらすと考えられる。半導体材料は表面活性成分であるので、溶解した半導体分子は溶媒の表面張力を著しく低下させる。実施形態では、インク組成物は、約28mN/m〜約35mN/m、または約30mN/m〜約33mN/mの表面張力を有する。凝集体の母集団は溶媒A対溶媒Bの比率を変えることにより調節することができるので、インク配合物の表面張力は、溶媒A対溶媒Bの比率を変えることにより調節することができる。実施形態では、凝集体は、インク組成物中の半導体材料の50重量%より多く、インク組成物中の半導体材料の80重量%より多い場合が含まれる。
【0053】
実施形態では、第1の溶媒A対第2の溶媒Bの重量比は、約20:1〜約20:10であり、それには約10:1〜約10:3が含まれる。溶媒Bをインク配合物の1重量パーセントからインク配合物の約30重量パーセントに変えると、半導体材料中の凝集体の母集団は約10%〜約100%まで増え得る。表面張力は、溶媒Aのみを含む半導体材料の配合物と比較して、最低5ミリニュートン(mN)/メートルずつ上げることができる。この半導体インク配合物の表面張力の増加は、単なる溶媒AおよびBの混合物の表面張力の増加よりもはるかに大きい。
【0054】
実施形態では、半導体インク組成物は、約2センチポアズ〜約40センチポアズ、好ましくは約2センチポアズ〜15センチポアズの粘度を有する。この粘度はインクジェット印刷に適している。
【0055】
表面張力の増加した半導体インク配合物は、薄膜トランジスタ、特に図4に示されるようなトップゲートトランジスタにおいて半導体層を形成するために用いることができる。そこでは、有機半導体材料は、疎水性のゲート誘電体よりはむしろプラスチック基板に堆積され得る。配合物は一般にトランジスタの表面に堆積され、次に乾燥されて層を形成する。例示的な堆積方法としては、液体堆積法、例えばスピンコーティング、浸漬コーティング、ブレードコーティング、ロッドコーティング、スクリーン印刷、スタンピング、インクジェット印刷など、ならびに当技術分野で公知のその他の便宜な方法が挙げられる。実施形態では、堆積方法は、インクジェット印刷である。その結果得られる半導体層は、厚さが約5nm〜約1000nm、特に厚さが約10nm〜約100nmである。
【0056】
溶媒Aおよび溶媒Bの両方を含む半導体インク組成物は、溶媒Aのみを含むインク組成物よりもいくつかの利点を有する。第1に、表面張力の強化により、印刷ノズルからのインクの漏出が防止される。第2に、基板に印刷される際に、得られるインクは高い表面張力のためにより小さな滴径を形成し、従ってより高い印刷解像度が可能となる。第3に、得られるインクは、特に、半導体層が大抵の場合高エネルギー基板表面に印刷されるトップゲートトランジスタの二次加工において、半導体層の広がりを防止する。
【0057】
基板は、限定されるものではないが、シリコン、ガラスプレート、プラスチックフィルムまたはシートを含む材料で構成されてもよい。構造上柔軟な装置には、プラスチック基板、例えばポリエステル、ポリカーボネート、ポリイミドシートなどを用いてもよい。基板の厚さは、約10マイクロメートル〜10ミリメートルを超えてもよく、例示的な厚さは、特に軟質なプラスチック基板には約50マイクロメートル〜約5ミリメートル、ガラスまたはシリコンなどの硬質な基板には約0.5〜約10ミリメートルである。
【0058】
ゲート電極は、導電性材料で構成される。それは、薄い金属膜、導電性高分子フィルム、導電性インクまたはペーストから作製された導電膜、または基板自体、例えば高濃度ドープシリコンであってもよい。ゲート電極材料の例としては、限定されないが、アルミニウム、金、銀、クロム、酸化インジウムスズ、導電性ポリマー類、例えば、ポリスチレンスルホナートをドープしたポリ(3,4−エチレンジオキシチオフェン)(PSS−PEDOT)、および、カーボンブラック/グラファイトまたは銀コロイドからなる導電性インク/ペーストが挙げられる。ゲート電極は、真空蒸発、金属または導電性の金属酸化物のスパッタリング、従来のリソグラフィーおよびエッチング、化学気相成長、スピンコーティング、キャスティングまたは印刷、またはその他の蒸着法により作製することができる。ゲート電極の厚さは、金属膜に関しては約10〜約500ナノメートル、導電性ポリマーに関しては約0.5〜約10マイクロメートルの範囲である。
【0059】
誘電体層は、一般に無機金属膜、有機高分子膜、または有機無機複合膜であってもよい。誘電体層として適した無機材料の例は、酸化シリコン、窒化珪素、酸化アルミニウム、チタン酸バリウム、チタン酸バリウムジルコニウムなどが挙げられる。適した有機高分子の例は、ポリエステル、ポリカーボネート、ポリ(ビニルフェノール)、ポリイミド、ポリスチレン、ポリメタクリレート、ポリアクリレート、エポキシ樹脂などが挙げられる。誘電体層の厚さは、用いる材料の誘電率によって決まり、例えば、約10ナノメートル〜約500ナノメートルであり得る。誘電体層は、例えば、約10−12ジーメンス/センチメートル(S/cm)未満の導電率を有し得る。誘電体層は、ゲート電極を形成する際に記載される方法を含む、当技術分野で公知の従来法を用いて形成される。
【0060】
ソース電極およびドレイン電極としての使用に適した典型的な材料としては、金、銀、ニッケル、アルミニウム、白金、導電性ポリマー、および導電性インクなどのゲート電極材料が挙げられる。具体的な実施形態では、電極材料は低い接触抵抗を半導体にもたらす。典型的な厚さは、例えば、約40ナノメートル〜約1マイクロメートルであり、より具体的な厚さは約100〜約400ナノメートルである。本明細書に開示のOTFT装置は半導体チャネルを含む。半導体チャネル幅は、例えば、約5マイクロメートル〜約5ミリメートルであってもよく、具体的なチャネル幅は約100マイクロメートル〜約1ミリメートルであってもよい。半導体チャネル長は、例えば、約1マイクロメートル〜約1ミリメートルであってもよく、より具体的なチャネル長は約5マイクロメートル〜約100マイクロメートルであってもよい。
【0061】
ソース電極は接地され、例えば約0ボルト〜約80ボルトのバイアス電圧がドレイン電極に印加されて、例えば約+10ボルト〜約−80ボルトの電圧がゲート電極に印加される場合に、半導体チャネルを超えて運搬される電荷キャリアが収集される。電極は、当技術分野で公知の従来法を用いて形成または蒸着されてもよい。
【0062】
所望であれば、TFTの上面にバリヤ層を堆積させて、環境条件、例えばその電気的性質を低下させ得る光、酸素および湿度などからそれを保護してもよい。このようなバリヤ層は当技術分野で公知であり、単にポリマーから成ってもよい。
【0063】
OTFTの様々な構成部品は、図に示されるように、任意の順序で基板の上に堆積されてもよい。用語「基板の上」は、各々の構成部品が直接に基板に接触することを必要とすると解釈されるべきではない。この用語は、基板に対する構成部品の位置を説明すると解釈されるべきである。しかし、一般に、ゲート電極および半導体層は双方とも誘電体層に接触しているべきである。さらに、ソース電極およびドレイン電極は双方とも半導体層に接触しているべきである。本開示の方法により形成される半導体ポリマーは、有機薄膜トランジスタの任意の適当な構成部品の上に堆積されてそのトランジスタの半導体層を形成することができる。
【0064】
以下の実施例は本明細書に開示の方法および装置を説明する。実施例は単なる実例であり、そこに示される材料、条件、または処理パラメータに関して本発明を限定することを意図するものではない。
【実施例】
【0065】
[比較例1]
22ミリグラムのPQT−12を、10グラムの1,2−ジクロロベンゼンに加熱することにより溶かして黄赤色の溶液を形成する。熱溶液を水浴中で室温まで放冷させ、それと同時に超音波振動を10〜15分間印加した(42kHzの100Wソニケーター)。黄赤色の溶液は、完全に室温まで冷めた時点で濃紫色となった。濃紫色の組成物を1μmのシリンジフィルターで濾過して大きな粒子を除去し、安定した半導体インク配合物を得た。
【0066】
安定した半導体インクを得、そのインクの表面張力を室温にて25.20mN/mと測定した。これは1,2−ジクロロベンゼン(37.8mN/m)の表面張力よりも有意に低い。このことにより、PQT−12半導体が、たとえ約0.2重量%という非常に低い濃度であってもPQT−12/1,2−ジクロロベンゼン組成物の表面張力を劇的に低下させる表面活性ポリマーであることが示される。
【0067】
[比較例2]
2.0ミリグラムのPQT−12を1.0グラムの安息香酸ベンジルに添加した。混合物を約120℃に加熱してPQT−12を溶かし、水浴中で室温まで放冷させ、それと同時に超音波振動を印加した。ポリマーは析出し、安定したインク配合物は形成されなかった。
【0068】
[比較例3]
2.0ミリグラムのPQT−12を1.0グラムのキノリンに添加した。混合物を約120℃に加熱してPQT−12を溶かし、水浴中で室温まで放冷させ、それと同時に超音波振動を印加した。ポリマーは析出し、安定したインク配合物は形成されなかった。
【0069】
[実施例1]
1,2−ジクロロベンゼン(溶媒A)および安息香酸ベンジル(溶媒B)からなる混合物を、溶媒A対溶媒Bの重量比を変えて3種類作製し、1A(10:1)、1B(10:2)、および1C(10:3)とラベルした。PQT−12を比較例1中と同じ濃度(すなわち22mg/溶媒g)で混合物に溶解させた。次に、混合物を超音波処理すると濃紫色の組成物が生じた。濾過した後、安定した半導体インク配合物が得られた。
【0070】
[結果]
溶媒混合物(すなわち半導体材料を添加する前)およびインク配合物(すなわち半導体材料を添加した後)の表面張力を測定した。結果を表1に示す。溶媒Aおよび溶媒Bの量は重量部で表される。改善率は比較例1に対して測定される。
【0071】
【表1】

【0072】
PQTを混合溶媒に添加すると全ての配合物において表面張力が低下した。このことは、PQT−12が表面活性ポリマーであることを示す。安息香酸ベンジル(溶媒B)を23重量%まで添加すると(実施例1C)、単なる混合溶媒(AおよびB)の表面張力は、比較例1と比較して1mN/m未満、または約2%増加した。しかし、インク配合物の表面張力は、比較例1と比べておよそ7mN/m、つまりおよそ30%増加した。表面張力の変化は2種類を混合した溶媒の表面張力の変化と大体同じであると予測していたので、このインク配合物の表面張力の大きな変化は予期せぬものであった。表面張力は、2つの溶媒の重量比を変えることによっても調節することができた。
【0073】
薄膜トランジスタを、半導体インク配合物を用いて二次加工した。約200ナノメートルの厚さの熱成長酸化シリコン層をその上に含むnドープシリコンウエハを用いた。ウエハは基板およびゲート電極として機能した。酸化シリコン層はゲート誘電体層の役割を果たし、約15nF/cmのキャパシタンスを有した。シリコンウエハを最初にイソプロパノール、アルゴンプラズマ、およびイソプロパノールで洗浄し、次に空気乾燥させた。次に、該ウエハを、オクチルトリクロロシランのトルエン中0.1M溶液に60℃にて20分間浸漬して誘電体表面を改質した。ウエハを、トルエンおよびイソプロパノールで洗浄し、次に乾燥させた。実施例1Cの配合物を改質した酸化シリコン表面の上にスピンコーティングし、それに続いて乾燥し、真空オーブン中でアニーリングした。金のソース電極およびドレイン電極を半導体層の上に蒸着させて装置を仕上げた。
【0074】
トランジスタを、周囲条件下、キースレー4200 SCSでキャラクタライズした。この装置は0.1cm/V・秒の電界効果移動度と10を上回る電流オン/オフ比を示した。この性能は、比較例1の配合物から二次加工された装置に匹敵し、溶媒Bが存在することによる装置性能への悪影響はなかった。
【符号の説明】
【0075】
10 OTFT(有機薄膜トランジスタ)、20 基板、30 ゲート電極、40 誘電体層、50 ソース電極、60 ドレイン電極、70 半導体層、80 界面層。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
構造式(A)のチオフェン部分を含む半導体材料と、
第1の溶媒と、
第1の溶媒と混和性であり、第1の溶媒の表面張力に等しいかまたはそれより大きい表面張力を有する第2の溶媒とを含み、該半導体材料が室温にて0.1重量%未満の溶解度を有する、半導体インク配合物。
【化1】

(上記構造式(A)中、Rは、アルキルおよび置換アルキルから選択される。)
【請求項2】
薄膜トランジスタの半導体層を形成する方法であって、
a)構造式(A)のチオフェン部分を含む半導体材料と、第1の溶媒と、第1の溶媒と混和性であり、第1の溶媒の表面張力に等しいかまたはそれより大きい表面張力を有する第2の溶媒と、を含み、該半導体材料が室温にて0.1重量%未満の溶解度を有する、インク組成物を準備する工程と、
b)トランジスタの基板の上にインク組成物を適用する工程と、
c)インク組成物を乾燥させて半導体層を形成する工程と、
を含む、方法。
【化2】

(上記構造式(A)中、Rは、アルキルおよび置換アルキルから選択される。)
【請求項3】
半導体インク配合物の表面張力を制御する方法であって、
a)構造式(A)のチオフェン部分を含む半導体材料と、該半導体材料がそれに対して室温にて0.1重量%以上の溶解度を有する第1の溶媒と、第1の溶媒と混和性であり、第1の溶媒の表面張力に等しいかまたはそれより大きい表面張力を有する第2の溶媒と、を含み、該半導体材料が室温にて0.1重量%未満の溶解度を有する、インク組成物を準備する工程と、
b)第1の溶媒対第2の溶媒の重量比を、約20:1〜約20:10に調整してインク組成物の表面張力を制御する工程と、
を含む、方法。
【化3】

(上記構造式(A)中、Rは、アルキルおよび置換アルキルから選択される。)

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2010−93260(P2010−93260A)
【公開日】平成22年4月22日(2010.4.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−232981(P2009−232981)
【出願日】平成21年10月7日(2009.10.7)
【出願人】(596170170)ゼロックス コーポレイション (1,961)
【氏名又は名称原語表記】XEROX CORPORATION
【Fターム(参考)】