説明

半導体デバイス用基板の洗浄液

【課題】基板表面に付着したパーティクルや有機物の汚染、金属汚染及び有機物と金属による複合汚染の除去性と再付着防止性に優れ、基板表面を腐食することなく、高度に清浄化することができる半導体デバイス用基板洗浄液を提供する。特に、疎水性のため薬液をはじき易く、パーティクル除去性が悪い低誘電率(Low−k)材料の洗浄性に優れた洗浄液を提供する。
【解決手段】(A)有機酸、(B)界面活性剤、及び(C)無機酸を含有することを特徴とする半導体デバイス用の基板の洗浄液。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、金属汚染やパーティクル汚染が問題となる半導体、ガラス、金属、セラミックス、樹脂、磁性体、超伝導体などの基板表面の洗浄に用いられる洗浄液に関する。詳しくは、本発明は、高清浄な基板表面が要求される、半導体素子やディスプレイデバイス用等の半導体デバイス用基板の製造工程において、半導体デバイス用基板表面を効果的に洗浄するための洗浄液に関する。
【0002】
本発明の半導体デバイス用基板洗浄液は、特に、シリコンなどの半導体材料、窒化シリコン、酸化シリコン、ガラス、低誘電率(Low−k)材料などの絶縁材料、遷移金属又は遷移金属化合物などを表面の一部あるいは全面に有する半導体デバイス用基板において、基板表面に付着した微粒子(パーティクル)や有機汚染、金属汚染及び有機物と金属による複合汚染を除去し、併せて再付着を抑制し、基板表面の荒れや腐食を引き起こすことなく高度に清浄化する洗浄液として有用である。
【背景技術】
【0003】
マイクロプロセッサー、ロジックLSI、DRAM、フラッシュメモリーやCCDなどの半導体デバイスや、TFT液晶などのフラットパネルディスプレイデバイスの製造工程では、シリコンや酸化シリコン、ガラス等の基板表面にサブミクロンからナノメーターオーダーの寸法でパターン形成や薄膜形成を行っており、製造の各工程において、基板表面の微量な汚染を低減することが極めて重要な課題となっている。基板表面の微量汚染の中でも、特にパーティクル汚染、有機物汚染及び金属汚染は、デバイスの電気的特性や歩留まりを低下させるため、次工程に持ち込む前に極力低減する必要がある。このような汚染の除去には、一般的には洗浄液による基板表面の洗浄が行われている。
【0004】
近年、半導体デバイス製造においては一層のスループット向上、生産効率化が要求されており、益々微細化・高集積化傾向にある半導体デバイス製造用の基板の洗浄には、基板表面のパーティクル汚染、有機物汚染及び金属汚染の除去性のみならず、除去後の再付着防止性に優れた、且つ迅速に基板表面を高清浄化することができる洗浄技術が望まれている。
【0005】
従来、半導体デバイス用基板のパーティクル汚染の除去に用いる洗浄液としては、アルカリ性溶液が有効であることが知られており、半導体素子やディスプレイデバイス用等の半導体デバイス用基板表面の洗浄には、アンモニア水溶液や水酸化カリウム水溶液、水酸化テトラメチルアンモニウム水溶液等のアルカリ性水溶液が用いられている。またアンモニア、過酸化水素、水を含む洗浄液(「SC−1洗浄液」又は「APM洗浄液」という。)による洗浄(「SC−1洗浄」又は「APM洗浄」という。)も広く用いられている(W.Kern and D.A.Puotinen:RCA Review,p.187,June(1970)など)。
【0006】
しかし、アルカリ性洗浄液では、基板表面のシリコンや酸化シリコン膜のエッチングが懸念されており、また、有機物と金属による複合汚染を十分に除去することが困難であるという問題を有していた。
そこで近年、基板表面の金属汚染除去に有効な酸性溶液に、パーティクル汚染の除去性向上などを目的として界面活性剤を添加した酸性洗浄液が提案されている。例えば、特開平7−216392号公報では特定の界面活性剤とフッ化水素酸を用いてシリコンウエーハを洗浄することを、また、特開平8−69990号公報では、シリコンウエーハの洗浄にフッ酸水溶液に界面活性剤及びオゾンを添加することを提案している。また、特開2001−7071号公報では、金属配線を有する基板に吸着した金属不純物及び粒子汚染の除去の為に、分散剤及び/又は界面活性剤に有機酸化合物を添加した洗浄液を用いることが提案されている。
【0007】
しかし、フッ化水素酸やその塩を用いた溶液では、共存する薄膜層のエッチングに加えてフッ素イオンの含有による廃液処理に問題を抱えていた。また、界面活性剤に有機酸化合物を添加した洗浄液では、疎水性の強い低誘電率(Low−k)材料では、基板表面を十分に濡らすことが困難であり、基板表面の汚染除去性が十分ではなかった。
【特許文献1】特開平7−216392号公報
【特許文献2】特開平8−69990号公報
【特許文献3】特開2001−7071号公報
【非特許文献1】W.Kern and D.A.Puotinen:RCA Review,p.187,June(1970)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
従来より、層間絶縁膜として用いられている親水性の高いTEOS等の酸化シリコンに代わり、配線材料に低抵抗のCuを導入して高速化・高集積化されたLSIデバイスを実現する為、層間絶縁膜に疎水性の強い低誘電率(Low−k)材料を用いることが予定されているが、このものは、洗浄液等の薬液をはじき易く、このため、洗浄による汚染除去が困難である。低誘電率(Low−k)材料のような疎水性の基板表面に対しても、金属汚染、パーティクル汚染、有機物と金属による複合汚染の除去性、及び再付着防止性に優れた洗浄液は提供されておらず、半導体デバイス用基板の洗浄における課題となっていた。
【0009】
また、銅配線などの金属配線を有する半導体デバイス基板の洗浄については、半導体デバイス基板上に金属膜を形成した後のCMP(化学的機械研磨:Chemical Mechanical Polishing)洗浄で、金属配線上に有機残渣が残ることがあり、これを如何にして、金属配線を腐食させずに除去するかが急務の課題となっている。
従って、本発明は、これらの問題を解決するための半導体デバイス用基板洗浄液を提供することを目的とする。
【0010】
詳しくは、シリコンなどの半導体材料、窒化シリコン、酸化シリコン、ガラス、低誘電率(Low−k)材料などの絶縁材料、遷移金属又は遷移金属化合物などを表面の一部あるいは全面に有する半導体デバイス用基板において、その基板表面に付着したパーティクルや有機物の汚染、金属汚染及び有機物と金属による複合汚染を効率的に除去すると共に、再付着を抑制し、基板表面の荒れや腐食を引き起こすことなく、高度に清浄化することができる半導体デバイス用基板洗浄液を提供することを目的とする。特に、本発明は、疎水性であるため薬液をはじき易く、パーティクル除去性に劣る低誘電率(Low−k)材料の洗浄性に優れた半導体デバイス用基板洗浄液を提供することを目的とする。また、金属配線を有する半導体デバイス基板の洗浄について、半導体デバイス基板上に金属膜を形成した後のCMP(化学的機械研磨:Chemical Mechanical Polishing)洗浄で金属配線上に残る有機物を効率良く除去する半導体デバイス用の基板洗浄剤を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者らは上記課題を解決するべく鋭意検討を重ねた結果、有機酸に特定の界面活性剤を組み合わせ、更に無機酸を併用することによって、上記課題を解決できることを見出し、本発明を完成させた。
即ち本発明は以下を要旨とする。
[1] 以下の3成分(A)〜(C)を含有することを特徴とする半導体デバイス用の基板の洗浄液。
(A)有機酸
(B)界面活性剤
(C)無機酸
[2] [1]において、pHが1.0〜2.5であることを特徴とする半導体デバイス用基板の洗浄液。
[3] [1]又は[2]において、(B)界面活性剤が陰イオン型界面活性剤であることを特徴とする半導体デバイス用基板の洗浄液。
[4] [1]又は[2]において、(B)界面活性剤が非イオン型界面活性剤であることを特徴とする半導体デバイス用基板の洗浄液。
[5] [3]において、(B)界面活性剤として、非イオン型界面活性剤及び陰イオン型界面活性剤の2種類の界面活性剤を含有していることを特徴とする半導体デバイス用基板の洗浄液。
[6] [1]、[2]、[4]又は[5]において、(B)界面活性剤がアルキレンオキサイド型非イオン型界面活性剤であることを特徴とする半導体デバイス用基板の洗浄液。
[7] [1]、[2]、[4]、[5]又は[6]において、(B)界面活性剤が以下の2種類の非イオン性界面活性剤(B−1)及び(B−2)を含むことを特徴とする半導体デバイス用基板の洗浄液。
(B−1)HLB値が13以上20以下の非イオン型界面活性剤
(B−2)HLB値が5以上13未満の非イオン型界面活性剤
[8] [1]乃至[7]の何れかにおいて、(A)有機酸がポリカルボン酸であることを特徴とする半導体デバイス用基板の洗浄液。
[9] [1]乃至[8]の何れかにおいて、更に(D)錯化剤を含むことを特徴とする半導体デバイス用基板の洗浄液。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、シリコンなどの半導体材料、窒化シリコン、酸化シリコン、ガラス、低誘電率(Low−k)材料などの絶縁材料、遷移金属又は遷移金属化合物などを表面の一部あるいは全面に有する半導体デバイス用基板において、基板表面に付着した微粒子(パーティクル)や有機汚染、金属汚染及び有機物−金属の複合汚染を洗浄により効果的に除去し、また、系内に微粒子等が混入した際にもその再付着を効果的に抑制することができる。
【0013】
特に、薬液をはじき易い疎水性の低誘電率(Low−k)材料の濡れ性をよくし、その洗浄性を高めることができる。また、洗浄性に加えて、表面のラフネス抑制及び低エッチング性を両立することが可能であることから、本発明は、半導体デバイスやディスプレイデバイスなどの製造工程における汚染洗浄用などの表面処理技術として、工業的に非常に有用である。
【0014】
また、金属配線と層間絶縁膜とを有する配線基板を化学機械研磨(CMP)した後の洗浄について、本発明によれば、層間絶縁膜に対する洗浄効率が向上する他、金属配線上の残留物に対しても、金属配線を腐食させずに効率よく除去できることも期待される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
以下に本発明の実施の形態を詳細に説明する。
本発明の半導体デバイス用基板洗浄液は、以下の3成分(A)〜(C)を含有するものである。
(A)有機酸
(B)界面活性剤
(C)無機酸
本発明においては、有機酸に界面活性剤を組み合わせ、更に無機酸を併用することを特徴としている。
【0016】
本発明の洗浄液は、特に、金属配線と層間絶縁膜とを有する配線基板を化学機械研磨(CMP)した後の洗浄について適している。これは、以下のような機構に基づくものと推定される。化学機械研磨剤には、銅エッチングを促進させる酸化剤と共に、これを抑制させる防錆剤としてBTA(ベンゾトリアゾール)を用いる。そこで、このBTAが酸化後の銅イオンと複雑な錯体を形成して、銅配線上に残留してしまうと推定される。また、層間絶縁膜上には、近年の基板の疎水化により、異物が付着しやすくなっている。
【0017】
ここで、本発明者等は、銅と防錆剤との錯体の安定性はpHに依存しており、pHが低い程、防錆効果が発揮しにくくなることを見出した。即ち、銅イオンと防錆剤イオンとは、酸を介して平衡関係にあり、低pHにするほど、銅と防錆剤との錯体が不安定になり、銅配線上の残留物が溶解しやすくなる。しかしながら、低pHにすると、銅上の防錆剤も除去されやすくなってしまうため、銅配線腐食が進みやすくなってしまう。そこで、更に鋭意検討を重ねたところ、ノニオン系界面活性剤に強い防錆効果のあることが判明した。
【0018】
ノニオン系界面活性剤が防錆効果を奏するのは、以下の機構によるものと推定される。銅材表面は、研磨工程にて酸化処理を受けているため、表面は親水化している。一方、層間絶縁膜は、近年の低誘電率化材料化で、疎水化が進む傾向にある。非イオン型界面活性剤は、分子構造内に疎水性基と親水性基を有している。例えば、アルキレンオキサイド型のノニオン系界面活性剤を例に説明すると、アルキレンオキサイド部分は、見かけ上、水和しており(曇点(油水分離する温度)未満では、水と水和して安定化)、親水性基として働いている。即ち、親水化した銅配線にアルキレンオキサイド基が吸着して基板を覆っているため、又は、界面活性剤の疎水基が液側に向くために銅エッチングが抑制されているために、防錆効果を発現していると推定される。一方、疎水性の層間絶縁膜上では、非イオン型界面活性剤のアルキル基部分が吸着するため、濡れ性が促進される。そして、吸着した界面活性剤は、水洗又は基板加熱により除去できる。上述の通り、非イオン型界面活性剤を用いると、液を低pH側にしても防食効果を発現でき、且つ、銅防錆剤溶解及び層間絶縁膜の親水化にも有効に働くと推定される。なお、ここで、アニオン系界面活性剤を用いると、低pH化による腐食促進をしてしまうと推定される。即ち、非イオン型界面活性剤を含み、低pHである洗浄液は、銅配線と層間絶縁膜が露出した配線デバイスの洗浄において、特に、CMP研磨後の洗浄剤として、非常に好適と考えられる。
【0019】
[半導体デバイス用基板洗浄液]
<(A)有機酸>
本発明で用いる(A)有機酸は水溶性であれば特に限定されないが、溶解性及び化合物の安定性より有機カルボン酸及び/又は有機スルホン酸が好ましい。
有機カルボン酸は、カルボキシル基を1又は2以上有するものであればよく、また本発明の所期の効果を阻害しない限り、カルボキシル基以外の官能基を有していてもよい。
【0020】
有機カルボン酸としては、蟻酸、酢酸、プロピオン酸、酪酸、イソ酪酸、吉草酸、エチルメチル酢酸、トリメチル酢酸などのカルボキシル基を1つ有するもの、及び、蓚酸、コハク酸、マロン酸、マレイン酸、フマル酸、クエン酸、イタコン酸、グルタル酸、ジメチルマロン酸、シトラコン酸、酒石酸、リンゴ酸、アジピン酸、ヘプタン酸等のカルボキシル基を2以上有する有機ポリカルボン酸等が挙げられる。洗浄液への溶解性が高く溶解安定性もよい点では、脂肪族ポリカルボン酸類が好ましく、なかでも炭素数2〜10の脂肪族ポリカルボン酸が好ましい。好ましくは、蓚酸、マロン酸、コハク酸、酒石酸、グルタル酸、リンゴ酸、アジピン酸、クエン酸が挙げられ、更に好ましくは、マロン酸、酒石酸、クエン酸が挙げられる。
【0021】
また、有機スルホン酸の代表的なものとしてメタンスルホン酸、エタンスルホン酸、n−プロパンスルホン酸、i−プロパンスルホン酸、n−ブタンスルホン酸等の脂肪族スルホン酸、フェニルスルホン酸等の芳香族スルホン酸が挙げられる。この内、水溶性の点から、好ましくは、メタンスルホン酸、エタンスルホン酸等のアルキルスルホン酸が挙げられ、更に好ましくは、メタンスルホン酸が挙げられる。
【0022】
これら有機酸は1種を単独で用いてもよく、2種以上を任意の割合で混合して使用してもよい。
本発明の洗浄液中の(A)有機酸の濃度は、目的に応じて適宜選択すればよいが、洗浄性の確保のためには洗浄液全体に対して通常0.01重量%以上であり、好ましくは0.05重量%以上、より好ましくは0.1重量%以上であり、洗浄液における溶解安定性等のためには、洗浄液全体に対して通常30重量%以下、好ましくは25重量%以下、より好ましくは20重量%以下である。
【0023】
なお、これら有機酸は陽イオンとの塩として洗浄液中に存在していてもよく、この場合の陽イオンとしては特に制限はないが、例えばアンモニウムイオン、1級、2級、3級又は4級のアルキルアンモニウムイオン、アルカリ金属イオン、ホスホニウムイオン、或いはスルホニウムイオンなどを用いることができる。なかでも基材表面における金属イオン残留等による基板金属への拡散・残留による影響が少ない点で、アンモニウムイオン、アルキルアンモニウムイオンが好ましく、中でも、アルキルアンモニウムイオンが最も好ましい。アルキルアンモニウムイオンのアルキル基は、洗浄液への溶解性を考慮して適宜選択すればよいが、通常、炭素数1〜4のアルキル基である。
【0024】
<(B)界面活性剤>
本発明の洗浄液に含まれる界面活性剤(B)は、非イオン型又は陰イオン型が好ましく、この両者を含有している洗浄液が更に好ましい。
<非イオン型界面活性剤>
本発明の洗浄液に含まれる非イオン型界面活性剤(B)は、分子内に疎水基と親水基を持ち、対象となるデバイスにおいて疎水部と親水部に各々が吸着作用できるものであれば、特に限定されるものではない。界面活性剤(B)は、アルキレンオキサイド型ノニオン界面活性剤が好ましい。
【0025】
本発明の洗浄液を疎水性の強い低誘電率(Low−k)材料に適用する場合、界面活性剤(B)は、以下の2種類の非イオン性界面活性剤(B−1)及び(B−2)を含むのが特に好ましい。
(B−1)HLB値が13以上20以下の非イオン型界面活性剤
(B−2)HLB値が5以上13未満の非イオン型界面活性剤
なお、本発明において、界面活性剤のHLB(Hydrophile−Lypophile−Ballance)値とは、グリフィン法に基づき、(親水基の分子量/界面活性剤の分子量)×(100/5)により算出された値(「新版 界面活性剤ハンドブック」第3版 工学図書株式会社 平成8年 P234)である。
【0026】
界面活性剤(B−1)は、HLB値として13〜20の値を有しており、従来のデバイスにおける親水性の層間絶縁膜等に対しては、良好な界面活性作用によるパーティクル汚染の除去、及び再付着防止等の機能を発現するが、層間絶縁膜として疎水性の強い低誘電率(Low−k)材料を用いる次世代のデバイス基板の洗浄に際には、洗浄液がはじかれやすい。一方、界面活性剤(B−2)は、HLB値が5以上13未満であり、一般的には浸透性の高い界面活性剤に分類されるが、HLBの値が小さく界面活性剤(B−2)のみでは、有機酸溶液に、溶解しにくい。
【0027】
ここで、(A)有機酸に界面活性剤(B−1)及び界面活性剤(B−2)を併用することにより、優れた界面活性剤(B−1)の界面活性作用により、界面活性剤(B−2)を均一に分散溶解させることが可能となる。これら(A)、(B−1)及び(B−2)の3成分を同時に含有する洗浄液は、疎水性の強い低誘電率(Low−k)材料に対しても十分な濡れ性を有することにより、基板表面に付着したパーティクルや有機物の汚染、金属汚染及び有機物と金属による複合汚染を効率的に洗浄除去し、併せて再付着を抑制し、基板表面の荒れや腐食を引き起こすことなく、高度に清浄化することができる。
【0028】
<(B−1)HLB値が13以上20未満の非イオン型界面活性剤>
界面活性剤(B−1)は、洗浄性、分散性及び低起泡性の点から、HLB値が13〜20の非イオン型界面活性剤であればよく、特に制限はないが、酸性洗浄液における安定性の点から、アルキレンオキサイド型の非イオン型界面活性剤であることが好ましく、特に、置換基(ただし、環境への影響の点からフェニル基を除く)を有していてもよい炭化水素基と、ポリオキシアルキレン基とを同一分子構造内に有しているアルキレンオキサイド型の非イオン型界面活性剤が好ましく、とりわけ、この界面活性剤(B―1)は、下記一般式(I)で表されるポリオキシアルキレンエーテルであることが、パーティクル汚染の除去性や再付着防止能などの観点から好ましい(以下において、下記一般式(I)で表されるアルキレンオキサイド型非イオン型界面活性剤を「界面活性剤(I)」と称す場合がある。)。
【0029】
界面活性剤(B―1)のHLB値の下限は13であり、好ましくは14であり、同上限は20であり、好ましくは18であり、更に好ましくは16である。
−O−(AO)−X (I)
(但し、Rは置換基(フェニル基を除く)を有していてもよい炭化水素基を示し、AOはアルキレンオキサイドを示す。炭化水素基R1に含まれる炭素数(a)とポリオキシアルキレン基(AO)中のオキシアルキレン基数(b)は、通常9≦a、8≦bであり、且つ、1.0≦a/b≦1.6を満たす整数である。Xは水素原子、置換基を有していてもよい炭素数1〜4のアルキル基又はアシル基を示す。)
【0030】
この界面活性剤(I)のポリオキシアルキレンアルキルエーテルのうち、AOがエチレンオキサイド及び/又はプロピレンオキサイドであるポリオキシアルキレンエーテルが好ましく、とりわけ、AOがエチレンオキサイドであるポリオキシエチレンアルキルエーテルがより好ましい。
【0031】
界面活性剤(I)等のアルキレンオキサイド型非イオン型界面活性剤において、その炭化水素基R1に含まれる炭素数(a)とポリオキシエチレン基等のオキシアルキレン基数(b)の比率(a/b)(以下「a/b比」と称す場合がある。)は、通常1.0以上1.6以下であり、好ましくは1.0以上1.4以下である。a/b比が上記下限以上であると、パーティクル除去能力や再付着防止能力の点で好ましく、また、水への溶解性もあり、廃液処理の負荷も少ないと考えられる。また、a/b比が上記上限以下であると洗浄液の適用条件によらず界面活性剤(B―1)が細かい油滴となって析出して白濁することがなく、洗浄性能に優れ、油滴の残留などの問題が起きにくいため好ましい。
【0032】
また、炭化水素基Rに含まれる炭素数(a)は9以上であり、好ましくは10以上である。また、好ましくは16未満であり、更に好ましくは14以下である。なお、主鎖に置換基として炭化水素基を有する際には、主鎖となる炭化水素基と置換基である炭化水素基における炭素数の合計を(a)とする。(a)が上記下限以上であると、パーティクル除去性の点で好ましく、また(a)が上記上限以下であると水への溶解性や廃液処理の負荷が少ない点で好ましい。
【0033】
この炭化水素基Rとしては、飽和アルキル其としてノニル基、デシル基、ウンデシル基、ラウリル基、トリデシル基、テトラデシル基等が挙げられ、この炭化水素基が有していても良い置換基としては、ヒドロキシ基、エーテル基、ハロゲン、エステル基、ニトロ基、アミド基等が挙げられる。
また、ポリオキシアルキレン基のオキシアルキレン基数(b)は8以上であり、より好ましくは8以上16以下、更に好ましくは8以上14以下である。(b)が上記下限以上であると、パーティクル除去性の点で好ましく、また、(b)が上記上限以下であると、廃液処理の負荷が少なく、また界面活性剤(B―1)の洗浄液中での分解が起こりにくい点で好ましい。
【0034】
界面活性剤(B−1)として、本発明に好適な界面活性剤(I)の具体例としては、ポリオキシエチレン(b=8)ノニルエーテル、ポリオキシエチレン(b=9)デシルエーテル、ポリオキシエチレン(b=11)ウンデシルエーテル、ポリオキシエチレン(b=10)ラウリルエーテル、ポリオキシエチレン(b=11)ラウリルエーテル、ポリオキシエチレン(b=10)トリデシルエーテル、ポリオキシエチレン(b=12)トリデシルエーテル、ポリオキシエチレン(b=11)テトラデシルエーテル、ポリオキシエチレン(b=13)テトラデシルエーテル、ポリオキシエチレン(b=12)ペンタデシルエーテル、ポリオキシエチレン(b=14)ペンタデシルエーテル、ポリオキシエチレン(b=12)セチルエーテル、ポリオキシエチレン(b=15)セチルエーテルなどが挙げられる。
【0035】
本発明においては、上記好適範囲内であれば、(a)及び(b)やその他の置換基等が異なる複数の界面活性剤(I)を任意の割合で併用してもよい。
なお、複数種の界面活性剤(I)を併用する際、全界面活性剤(I)のa/b比の平均値が通常1.0以上1.6以下、炭素数(a)の平均値が9以上、オキシアルキレン基数(b)が平均値8以上を満たせば、各々個別の界面活性剤(I)においてa/b比が1.0未満であったり1.6を超えたり、また(a)が9未満であったり、(b)が8未満であってもよい。
【0036】
本発明の洗浄液における界面活性剤(B―1)の含有量は、洗浄液に対して下限が通常0.0001重量%、好ましくは0.0003重量%、さらに好ましくは0.001重量%であり、特に好ましくは0.005重量%であり、同上限が通常4重量%であり、好ましくは3重量%であり、更に好ましくは2重量%であり、特に好ましくは0.5重量%であり、それらより更に好ましくは0.1重量%であり、最も好ましくは0.05重量%である。洗浄液の界面活性剤(B)の濃度が上記下限以上であると、界面活性剤(B―1)によるパーティクル汚染除去性能の点で好ましく、また上記上限以下であると、泡立ちがおこりにくく、また廃液を生分解処理する場合の負荷も増大しにくいので好ましい。
【0037】
<(B−2)HLB値が5以上13未満の非イオン型界面活性剤>
本発明の洗浄液に含まれる界面活性剤(B−2)は、浸透性及び低起泡性の点から、HLB値が5以上13未満の非イオン型界面活性剤であればよく、特に制限はないが、アルキレンオキサイド型の非イオン型界面活性剤であることが好ましく、置換基(ただし、フェニル基を除く)を有していてもよい炭化水素基と、ポリオキシアルキレン基とを同一分子構造内に有しているアルキレンオキサイド型の非イオン型界面活性剤が好ましく、とりわけ、この界面活性剤(B−2)は、下記一般式(II)で表されるポリオキシアルキレンエーテルであることが、パーティクル汚染の除去性や再付着防止能などの観点から好ましい。(以下において、下記一般式(II)で表されるアルキレンオキサイド型非イオン型界面活性剤を「界面活性剤(II)」と称す場合がある。)
界面活性剤(B−2)のHLB値の下限は5であり、好ましくは8である。また、同HLB値は13未満であり、好ましくは12以下であり、更に好ましくは11以下である。
【0038】
−O−(BO)−Y (II)
(但し、Rは置換基(フェニル基を除く)を有していてもよい炭化水素基を示し、BOはアルキレンオキサイドを示す。炭化水素基Rに含まれる炭素数(c)とポリオキシアルキレン基(BO)中のオキシアルキレン基数(d)は、通常c≦15、d≦7であり、且つ、1.5≦c/d≦7を満たす整数である。Yは水素原子、置換基を有していてもよい炭素数1〜4のアルキル基又はアシル基を示す。)
【0039】
この界面活性剤(II)のポリオキシアルキレンアルキルエーテルのうち、BOがエチレンオキサイド及び/又はプロピレンオキサイドであるポリオキシアルキレンエーテルが好ましく、とりわけ、BOがエチレンオキサイドであるポリオキシエチレンアルキルエーテルがより好ましい。
【0040】
界面活性剤(II)等のアルキレンオキサイド型非イオン型界面活性剤において、その炭化水素基Rに含まれる炭素数(c)とポリオキシエチレン基等のオキシアルキレン基数(d)の比率(c/d)(以下「c/d比」と称す場合がある。)は、通常、1.5以上であり、好ましくは2.0以上であり、また、通常7以下であり、好ましくは4以下である。c/d比が上記下限以上であると疎水性の強い基板に対する洗浄液の濡れ性、及び、パーティクルや有機物汚染、金属汚染及び有機物と金属による複合汚染の除去性能の点で好ましい。また、c/d比が上記上限以下であると界面活性剤(B−2)が細かい油滴となって析出して白濁することがなく、洗浄性能の低下や油滴の残留などの問題が起こりにくいので好ましい。
【0041】
また、炭化水素基Rに含まれる炭素数(c)は通常15以下であり、好ましくは14以下である。更に好ましくは13以下、8以上である。なお、主鎖に置換基として炭化水素基を有する際には、主鎖となる炭化水素基と置換基である炭化水素基における炭素数の合計を(c)とする。(c)が上記下限以上であると、疎水性基板に対する濡れ性の向上の点で好ましく、また(c)が上記上限以下であると水への溶解性低下や廃液処理の負荷増加が低い点で好ましい。
【0042】
この炭化水素基Rとしては、飽和アルキル其としてノニル基、デシル基、ウンデシル基、ラウリル基、トリデシル基、基等が挙げられ、この炭化水素基が有していても良い置換基としては、ヒドロキシ基、エーテル基、ハロゲン、エステル基、ニトロ基、アミド基等が挙げられる。
また、ポリオキシアルキレン基のオキシアルキレン基数(d)は7以下が好ましく、より好ましくは6以下、更に好ましくは5以下、2以上である。(d)が上記上限以下であると、疎水性基板に対する洗浄液の塗れ性の点で好ましい。また(d)が2以上であると、界面活性剤(B−2)の溶解性や、洗浄液中での安定性の点で好ましい。
【0043】
界面活性剤(II)として、本発明に好適な界面活性剤(B−2)の具体例としては、ポリオキシエチレン(d=4)ノニルエーテル、ポリオキシエチレン(d=4)デシルエーテル、ポリオキシエチレン(d=4)ウンデシルエーテル、ポリオキシエチレン(d=4)ラウリルエーテル、ポリオキシエチレン(d=5)ラウリルエーテル、ポリオキシエチレン(d=4)トリデシルエーテル、ポリオキシエチレン(d=5)トリデシルエーテル、ポリオキシエチレン(d=5)テトラデシルエーテル、ポリオキシエチレン(d=6)ペンタデシルエーテルなどが挙げられる。
【0044】
本発明においては、本発明の範囲内であれば(c)及び(d)やその他の置換基等が異なる複数の界面活性剤(II)を任意の割合で併用してもよい。
なお、複数種の界面活性剤(II)を併用する際、全界面活性剤(II)のc/d比の平均値、炭素数(c)及び、オキシアルキレン基数(d)が上記の好ましい範囲を満たせば、各々個別の界面活性剤(II)においてc/d比、(c)又は(d)が上記の好ましい範囲外であってもよい。
【0045】
本発明の洗浄液における界面活性剤(B−2)の含有量は、洗浄液に対して下限が通常0.0005重量%、好ましくは0.001重量%、さらに好ましくは0.003重量%、特に好ましくは0.01重量%であり、同上限が通常5重量%、好ましくは4重量%、さらに好ましくは3重量%、特に好ましくは1.0重量%、最も好ましくは0.5重量%である。洗浄液の界面活性剤(B−2)の濃度が上記下限以上であると、界面活性剤(B−2)による疎水性基板に対する洗浄液の濡れ性向上効果の点で好ましく、また上記上限以下であると、廃液を生分解処理する場合の負荷が増大しすぎないため好ましい。
【0046】
また、界面活性剤(B−1)と界面活性剤(B−2)の相対比(重量比)は、界面活性剤(B−1):界面活性剤(B−2)が1:1以上であることが好ましく、1:2以上であることが更に好ましく、1:10以下であることが好ましく、1:5以下であることが好ましい。
界面活性剤(B−2)に対する界面活性剤(B−1)の量が上記下限以上であると、界面活性剤(B−2)を洗浄液中に安定に溶解させやすい点で好ましく、上記上限以下であると、本発明において、界面活性剤(B−2)を用いる効果が十分に発現しやすい点で好ましい。
【0047】
<陰イオン型界面活性剤>
本発明の洗浄液は、陰イオン型界面活性剤を含んでいるのが好ましい。また、陰イオン型界面活性剤は、微粒子除去性等の点から水溶性であるのが好ましい。
水溶性の陰イオン型界面活性剤としては、アルファオレフィンスルホン酸、アルキルスルホン酸、アルキルベンゼンスルホン酸、アルキル硫酸エステル、アルキルエーテル硫酸エステル、メチルタウリン酸、スルホコハク酸、エーテルスルホン酸及びこれらの塩のうち、1種又は2種以上を好ましく用いることができる。この中でも、洗浄液に添加した際の界面活性剤の安定性及び微粒子等のパーティクル除去性の観点より、アルキルベンゼンスルホン酸、メチルタウリン酸、スルホコハク酸及びこれらの塩が好ましい。
【0048】
本発明の洗浄液における水溶性の陰イオン型界面活性剤の含有量は、特に、以下の範囲が好ましい。洗浄液に対して通常0.0001重量%以上、好ましくは0.0003重量%以上、さらに好ましくは0.001重量%以上で、通常0.5重量%以下、好ましくは0.1重量%以下、さらに好ましくは0.05重量%以下である。陰イオン型界面活性剤の濃度が上記下限以上であると、陰イオン型界面活性剤を添加したことによる疎水性基板に対する洗浄液の微粒子除去効果の点で好ましく、また、上記上限以下であると、廃液を生分解処理する場合の負荷が過大にならず好ましい。
【0049】
<(B)界面活性剤の金属不純物濃度>
市販の界面活性剤は、微量不純物を含んでいることが多い。特に、非イオン型界面活性剤は、通常販売されている形態において1〜数千重量ppm程度のNa、K、Fe等の金属不純物やハロゲンイオンなどの陰イオン成分が含有している場合がある。
本発明の洗浄剤にこれらの不純物が含まれていると、金属汚染やその他汚染源となる可能性がある。本発明の洗浄液は、洗浄液中の金属不純物のうち、少なくともNa、Mg、Al、K、Ca、Fe、Cu、Pb、Znの各々の含有量が20ppb以下、中でも5ppb以下、特に0.1ppb以下であることが、洗浄による半導体デバイス用基板の金属汚染を防止する上で好ましい。特に、本発明の洗浄液は、これら金属不純物の合計含有量が20ppb以下であることが好ましく、中でも5ppb以下、特に0.1ppb以下であることが好ましい。
このため、本発明に使用される界面活性剤(B)は、予め含まれる不純物、特に、Na、Mg、Al、K、Ca、Fe、Cu、Pb、Znの各々の含有量を10重量ppm以下、中でも3重量ppm以下とすることが好ましく、特に1重量ppm以下とするのが好ましい。
【0050】
このような精製された界面活性剤を得るためには、例えば、界面活性剤を水で溶解した後、イオン交換樹脂に通液し、樹脂にイオン性不純物を捕捉させることによって精製すればよい。
【0051】
<(A)及び(B)成分の好適配合比>
本発明の洗浄液において、前述の(A)及び(B)成分を含有することによる本発明の効果を十分に得るために、これらの成分の相対的な含有量比は、次のような範囲であることが好ましい。
即ち、(A)有機酸は、(B)界面活性剤に対して、下限が1重量倍であることが好ましく、3重量倍であることが更に好ましく、同上限が20重量倍であることが好ましく、10重量倍であることが更に好ましい。
【0052】
<pH>
本発明の洗浄液は、pH1.0〜5.0の酸性洗浄液であることが好ましい。中でも洗浄液のpH1.2以上であることがより好ましく、また、pHの上限は4.0であることがより好ましく、2.5であることが特に好ましい。洗浄液のpHが上記下限以上であると、基板表面に露出している遷移金属又は遷移金属化合物などの一部あるいは全面が腐食するまでには到りにくく、pHが上記上限以下であると、本発明の目的である汚染の除去や再付着防止効果の点から好ましい。また、金属膜を形成した半導体デバイス基板のCMP洗浄後の洗浄性の点でも、pHが低い方が有利である。
従って、本発明の洗浄液の(A)有機酸や、後述のその他の成分のうち、pHに影響を及ぼす成分の濃度は、その好適な含有量の範囲において、洗浄液のpHがこのような好適pHとなるように、適宜調整することが好ましい。
【0053】
<(C)無機酸>
本発明で用いる無機酸としては、水溶液中で溶解解離して水素イオンを出して、pHを1.0まで下げることができる強酸が好ましい。具体的には、塩酸、硫酸、ハロゲン化水素酸、珪フッ酸等が挙げられる。中でも、塩酸、硫酸等がシリコン基板の洗浄等の際にも使用されていることからより好ましい。酸の使用量は、pHを上述の好ましい範囲に調整できる量であればよい。例えば、pHを1.0にするには、100%の解離度の強酸の場合、最大で1重量%となる。
【0054】
<(D)錯化剤>
本発明の洗浄液においては、更に(D)錯化剤を含有させると、基板表面の金属汚染をより一層低減した極めて高清浄な表面が得られるので好ましい。
本発明に用いられる(D)錯化剤は従来公知の任意のものを使用できる。(D)錯化剤の選択にあたっては、基板表面の汚染レベル、金属の種類、基板表面に要求される清浄度レベル、錯化剤コスト、化学的安定性等から総合的に判断して選択すればよく、本発明の洗浄液に使用し得る(D)錯化剤としては、例えば、以下に示すものが挙げられる。
【0055】
(1)ドナー原子である窒素とカルボキシル基及び/又はホスホン酸基を有する化合物
例えば、グリシン等のアミノ酸類;イミノ2酢酸、ニトリロ3酢酸、エチレンジアミン4酢酸[EDTA]、トランス−1,2−ジアミノシクロヘキサン4酢酸[CyDTA]、ジエチレントリアミン5酢酸[DTPA]、トリエチレンテトラミン6酢酸[TTHA]等の含窒素カルボン酸類;エチレンジアミンテトラキス(メチレンホスホン酸)[EDTPO]、ニトリロトリス(メチレンホスホン酸)[NTPO]、プロピレンジアミンテトラ(メチレンホスホン酸)[PDTMP]等の含窒素ホスホン酸類などが挙げられる。
【0056】
(2)芳香族炭化水素環を有し、且つ該環を構成する炭素原子に直接結合したOH基及び/又はO−基を2つ以上有する化合物 例えば、カテコール、レゾルシノール、タイロン等のフェノール類及びその誘導体などが挙げられる。
【0057】
(3)上記(1)、(2)の構造を併せ持った化合物
(3−1)エチレンジアミンジオルトヒドロキシフェニル酢酸[EDDHA]及びその誘導体 例えば、エチレンジアミンジオルトヒドロキシフェニル酢酸[EDDHA]、エチレンジアミン−N,N’−ビス〔(2−ヒドロキシ−5−メチルフェニル)酢酸〕[EDDHMA]、エチレンジアミン−N,N’−ビス〔(2−ヒドロキシ−5−クロルフェニル)酢酸〕[EDDHCA]、エチレンジアミン−N,N’−ビス〔(2−ヒドロキシ−5−スルホフェニル)酢酸〕[EDDHSA]などの芳香族含窒素カルボン酸類;エチレンジアミン−N,N’−ビス〔(2−ヒドロキシ−5−メチルフェニル)ホスホン酸〕、エチレンジアミン−N,N’−ビス〔(2−ヒドロキシ−5−ホスホフェニル)ホスホン酸〕などの芳香族含窒素ホスホン酸類が挙げられる。
【0058】
(3−2)N,N’−ビス(2−ヒドロキシベンジル)エチレンジアミン−N,N’−二酢酸[HBED]及びその誘導体 例えば、N,N’−ビス(2−ヒドロキシベンジル)エチレンジアミン−N,N’−二酢酸[HBED]、N,N’−ビス(2−ヒドロキシ−5−メチルベンジル)エチレンジアミン−N,N’−二酢酸[HMBED]、N,N’−ビス(2−ヒドロキシ−5−クロルベンジル)エチレンジアミン−N,N’−二酢酸などが挙げられる。
【0059】
(4)その他
エチレンジアミン、8−キノリノール、o−フェナントロリン等のアミン類;ギ酸、酢酸等のカルボン酸類;フッ化水素酸、塩酸、臭化水素、ヨウ化水素等のハロゲン化水素又はそれらの塩;リン酸、縮合リン酸等のオキソ酸類又はそれらの塩等が挙げられる。
これらの錯化剤は、酸の形態のものを用いてもよいし、アンモニウム塩等の塩の形態のものを用いてもよい。
【0060】
上述した錯化剤の中でも、洗浄効果、化学的安定性等の理由から、グリシン等のアミノ酸類、エチレンジアミン4酢酸[EDTA]、ジエチレントリアミン5酢酸[DTPA]などの含窒素カルボン酸類;エチレンジアミンテトラキス(メチレンホスホン酸)[EDTPO]、プロピレンジアミンテトラ(メチレンホスホン酸)[PDTMP]などの含窒素ホスホン酸類;エチレンジアミンジオルトヒドロキシフェニル酢酸[EDDHA]及びその誘導体;N,N’−ビス(2−ヒドロキシベンジル)エチレンジアミン−N,N’−二酢酸[HBED]などが好ましい。
【0061】
中でも、洗浄効果の観点から、エレンジアミンジオルトヒドロキシフェニル酢酸[EDDHA]、エチレンジアミン−N,N’−ビス〔(2−ヒドロキシ−5−メチルフェニル)酢酸〕[EDDHMA]、ジエチレントリアミン5酢酸[DTPA]、エチレンジアミン4酢酸[EDTA]、プロピレンジアミンテトラ(メチレンホスホン酸)[PDTMP]が好ましい。
【0062】
これらの錯化剤は1種を単独で用いてもよく、2種以上を任意の割合で併用してもよい。
本発明の洗浄液中の(D)錯化剤の濃度は、汚染金属不純物の種類と量、基板表面に要求される清浄度レベルによって任意に選択すればよいが、一般的には通常1重量ppm以上、中でも5重量ppm以上、特に10重量ppm以上で、10000重量ppm以下、中でも1000重量ppm以下、特に200重量ppm以下が好ましい。(D)錯化剤の濃度が上記下限以上であると錯化剤による汚染除去や付着防止効果の点で好ましく、一方、上記上限以下であると経済的に有利であり、基板表面に錯化剤が付着して、表面処理後に残留する危険性が少ないので好ましい。
【0063】
なお、錯化剤は、通常販売されている試薬において1〜数千重量ppm程度のFe等の金属不純物が含有している場合があるので、本発明に使用する錯化剤が金属汚染源となる場合が考えられる。これらは、初期には錯化剤と安定な錯体を形成して存在しているが、表面処理剤として長時間使用しているうちに錯化剤が分解し、金属が遊離して基体表面に付着してしまうのである。そのため、本発明に使用される錯化剤は、予め含まれるFe、Al、Zn等の金属不純物各々の含有量を5重量ppm以下とすることが好ましく、特に2重量ppm以下とするのが好ましい。このような精製された錯化剤を得るためには、例えば酸性又はアルカリ性溶液に錯化剤を溶解した後、不溶性不純物を濾過分離して取り除き、再び中和して結晶を析出させ、該結晶を液と分離することによって精製すればよい。
【0064】
<その他の成分>
本発明の洗浄液は、その性能を損なわない範囲において、更にその他の成分を任意の割合で含有していてもよい。他の成分としては、含硫黄有機化合物(2−メルカプトチアゾリン、2−メルカプトイミダゾリン、2−メルカプトエタノール、チオグリセロール等)、含窒素有機化合物(ベンゾトリアゾール、3−アミノトリアゾール、N(R)(Rは炭素数1〜4のアルキル基)、N(ROH)(Rは炭素数1〜4のアルキル基)、ウレア、チオウレア等)、水溶性ポリマー(ポリエチレングリコール、ポリビニルアルコール等)、アルキルアルコール系化合物(ROH(Rは炭素数1〜4のアルキル基))などの防食剤、硫酸、塩酸などの酸、ヒドラジンなどの還元剤、水素、アルゴン、窒素などの溶存ガス、フッ酸、フッ化アンモニウム、BHF(バッファードフッ酸)等のドライエッチング後に強固に付着したポリマー等の除去効果が期待できるエッチング促進剤などが挙げられる。
【0065】
また、本発明の洗浄液に含有させることができる他の成分として過酸化水素、オゾン、酸素などの酸化剤も挙げられる。半導体デバイス用基板の洗浄工程において、酸化膜のないシリコン(ベアシリコン)基板表面を洗浄する際には、酸化剤の配合により、基板表面へのエッチングによる表面荒れを抑えることができるので好ましい。本発明の洗浄液に過酸化水素等の酸化剤を含有させる場合には、その洗浄液中の濃度が通常0.001重量%以上、特に0.01重量%以上で、通常5重量%以下、特に1重量%以下となるように用いることが好ましい。
【0066】
<洗浄液媒体>
本発明の洗浄液の主要媒体は水であり、高清浄な基板表面を得たい場合には、通常脱イオン水、好ましくは超純水が用いられる。また、水の電気分解によって得られる電解イオン水や、水に水素ガスを溶存させた水素水などを用いることもできる。
【0067】
<調製方法>
本発明の洗浄液の調製方法は、従来公知の方法によればよい。
洗浄液の構成成分、即ち、(A)有機酸、(B)界面活性剤、(C)無機酸、及び必要に応じて用いられる(D)錯化剤、その他の成分と、媒体である水のうち、何れか2成分又は3成分以上を予め配合し、その後に残りの成分を混合してもよいし、一度に全部を混合してもよい。
この内、(A)有機酸と(B)界面活性剤を配合した後に、(C)無機酸を配合し、pHを調整するのが好ましい。但し、非イオン型界面活性剤は、水中で安定して分散するまでに時間がかかるため、十分、熟成する時間を確保することが好ましい。また、(B)界面活性剤として、(B−1)と(B−2)の2種類を用いる場合は、界面活性剤(B−2)は、洗浄液の媒体である水への溶解性の点から、それのみより、界面活性剤(B−1)を溶解した後の水に添加するか、或いは、界面活性剤(B−2)と界面活性剤(B−1)とを同時に水に添加して混合することが好ましい。
【0068】
<洗浄対象基板(半導体デバイス用基板)>
本発明の洗浄液は、金属汚染やパーティクル汚染が問題となる半導体、ガラス、金属、セラミックス、樹脂、磁性体、超伝導体などの半導体デバイス用基板表面の洗浄に使用される。特に、高清浄な基板表面が要求される、半導体素子やディスプレイデバイス用などの半導体デバイス用基板を製造する工程における、半導体デバイス用基板表面の洗浄に好適に使用される。これらの基板の表面には、配線、電極などが存在していてもよい。配線や電極の材料としては、Si、Ge、GaAs等の半導体材料;SiO、窒化シリコン、ガラス、低誘電率(Low−k)材料、酸化アルミニウム、遷移金属酸化物(酸化チタン、酸化タンタル、酸化ハフニウム、酸化ジルコニウム等)、(Ba,Sr)TiO(BST)、ポリイミド、有機熱硬化性樹脂などの絶縁材料;W、Cu、Al等の金属又はこれらの合金、シリサイド、窒化物などが挙げられる。ここで、Low−k材料とは、TEOSなどの酸化シリコンの比誘電率が3.8〜3.9であるのに対し、比誘電率が3.5以下である材料の総称である。
【0069】
本発明の洗浄液は、その表面において電極や配線材料の有無に関わらず、半導体デバイス用基板の表面洗浄に好適に用いられる。その中でも、本発明の洗浄液は、表面に絶縁膜
等を有し、基板表面における水の接触角が60度以上の半導体デバイス用基板の洗浄に好適に用いられる。
基板を洗浄する際に接触角が大きいと、洗浄液等の薬液をはじき易くなり、基板表面の金属汚染除去、パーティクル汚染、有機物と金属による複合汚染の除去が不十分となるために、基板に対する洗浄液の接触角は40度以下が好ましく、より好ましくは30度以下、更に好ましくは25度以下である。また、金属膜を形成した半導体デバイス基板のCMP洗浄後の洗浄性は、pHが低い方が有利であるが、低pHにおける接触角は、主に非イオン性界面活性剤の濃度に依存して決まる。
【0070】
特に、本発明の洗浄液は、表面に遷移金属又は遷移金属化合物を有する半導体デバイス用基板の洗浄に好適に用いられる。本発明における遷移金属又は遷移金属化合物としては、W(タングステン)、Cu(銅)、Ti(チタン)、Cr(クロム)、Co(コバルト)、Zr(ジルコニウム)、Hf(ハフニウム)、Mo(モリブデン)、Ru(ルテニウム)、Au(金)、Pt(白金)、Ag(銀)等の遷移金属及びこれらのチッ化物、酸化物、シリサイド等の遷移金属化合物が挙げられ、好ましくは、W(タングステン)及び/又はCu(銅)である。
【0071】
銅を表面に有する基板の洗浄を行う工程としては、銅を配線材料として用いた場合の、銅配線と層間絶縁膜等を有する基板表面の洗浄が挙げられる。具体的には、半導体デバイスに銅膜を形成した後の洗浄工程、特に銅膜に対してCMP(化学的機械研磨:Chemical Mechanical Polishing)を行った後の洗浄工程、銅配線上の層間絶縁膜にドライエッチングによりホールを開けた後の洗浄用としても適用される。この銅配線の洗浄を行う際には、洗浄により銅配線の膜厚が変化すると、配線抵抗等の増加をもたらし、デバイスとしての配線遅延等、各種特性を劣化させるので好ましくない。洗浄におけるエッチング量は10nm/min以下であることが好ましく、より好ましくは8nm/min以下、さらに好ましくは5nm/min以下であることが好ましい。
【0072】
本発明の洗浄液はまた、表面に層間絶縁膜材料となる低誘電率(Low−k)材料を有する半導体デバイス用基板の洗浄にも、好適に用いられる。Low−k材料としては、有機ポリマー材料・無機ポリマー(シロキサン系)材料・多孔質(ポーラス)材料と、大きく三つに分けられる。有機ポリマー材料としては、Polyimide、BCB(Benzocyclobutene)、Flare(Honeywell社)、SiLK(Dow Chemical)等が上げられ、無機ポリマー材料としては、FSG(Fluorinated silicate glass)、BLACK DIAMOND(Applied Materials)、Aurora(日本ASM)等が挙げられる。
【0073】
<半導体デバイス用基板洗浄液の洗浄方法>
本発明の洗浄液を用いて半導体デバイス用基板を洗浄する方法は、通常、洗浄液を直接基板に接触させる方法で行われる。洗浄液の基板への接触方法には、洗浄槽に洗浄液を満たして基板を浸漬させるディップ式、ノズルから基板上に洗浄液を流しながら基板を高速回転させるスピン式、基板に液を噴霧して洗浄するスプレー式等が挙げられる。この様な洗浄を行うための装置としては、カセットに収容された複数枚の基板を同時に洗浄するバッチ式洗浄装置、1枚の基板をホルダーに装着して洗浄する枚葉式洗浄装置等がある。洗浄後の基板にパーティクルが残存すると、後の工程において配線等寸法の変化や抵抗変化、断線や絶縁膜の誘電率変化等の潜在的な要因となるために好ましくない。
【0074】
洗浄時間は、バッチ式洗浄装置の場合、通常30秒以上、好ましくは1分以上で、通常30分以下、好ましくは15分以下、枚葉式洗浄装置の場合には通常1秒以上、好ましくは5秒以上で、通常15分以下、好ましくは5分以下である。洗浄時間が上記下限以上であると洗浄効果の点で好ましく、上記上限以下であるとスループットの低下が起こりにくく好ましい。本発明の洗浄液は、上記いずれの方法にも適用できるが、短時間でより効率的な汚染除去ができる点から、スピン式やスプレー式の洗浄に好ましく用いられる。洗浄装置のタイプとしては、洗浄時間の短縮、洗浄剤使用量の削減が問題となっている枚葉式洗浄装置に適用すると、これらの問題が解消するので好ましい。
【0075】
洗浄液の温度は任意であり、通常は室温で行うが、洗浄効果を向上させる目的で、40℃以上、70℃以下程度に加温して行ってもよい。即ち、本発明の洗浄液による洗浄は、通常20℃以上、70℃以下の幅広い温度範囲で実施することができる。
更に、表面にシリコンが露出している基板を洗浄する場合には、シリコン表面に有機物汚染が残留しやすいので、基板を温度300℃以上の加熱処理工程に供して熱分解させるか、オゾン水処理によって有機物を酸化分解処理することが好ましい。
【0076】
また、本発明の洗浄方法においては、物理力による洗浄方法(物理洗浄)、たとえば洗浄ブラシを用いたスクラブ洗浄などの機械的洗浄、あるいは超音波洗浄と併用させることが好ましい。中でも超音波照射又はブラシスクラブを併用すると、パーティクル汚染の除去性がさらに向上し、洗浄時間の短縮にも繋がるので好ましい。
特に、CMPを施した基板については、樹脂製ブラシを用いて洗浄するのが好ましい。ブラシ洗浄の際に用いる樹脂製ブラシの材質は任意であるが、例えばPVA(ポリビニルアルコール)を用いるのが好ましい。
【0077】
また、基板に周波数0.5メガヘルツ以上の超音波を照射すると、界面活性剤との相乗作用により、パーティクルの除去性が著しく向上するので好ましい。
更に、水の電気分解によって得られる電解イオン水や、水に水素ガスを溶存させた水素水による洗浄を本発明の洗浄方法の前及び/又は後に組み合わせてもよい。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
以下の3成分(A)〜(C)を含有することを特徴とする半導体デバイス用の基板の洗浄液。
(A)有機酸
(B)界面活性剤
(C)無機酸
【請求項2】
請求項1において、pHが1.0〜2.5であることを特徴とする半導体デバイス用基板の洗浄液。
【請求項3】
請求項1又は2において、(B)界面活性剤が陰イオン型界面活性剤であることを特徴とする半導体デバイス用基板の洗浄液。
【請求項4】
請求項1又は2において、(B)界面活性剤が非イオン型界面活性剤であることを特徴とする半導体デバイス用基板の洗浄液。
【請求項5】
請求項3において、(B)界面活性剤として、非イオン型界面活性剤及び陰イオン型界面活性剤の2種類の界面活性剤を含有していることを特徴とする半導体デバイス用基板の洗浄液。
【請求項6】
請求項1、2、4又は5において、(B)界面活性剤がアルキレンオキサイド型非イオン型界面活性剤であることを特徴とする半導体デバイス用基板の洗浄液。
【請求項7】
請求項1、2、4、5又は6において、(B)界面活性剤が以下の2種類の界面活性剤(B−1)及び(B−2)を含むことを特徴とする半導体デバイス用基板の洗浄液。
(B−1)HLB値が13以上20以下の非イオン型界面活性剤
(B−2)HLB値が5以上13未満の非イオン型界面活性剤
【請求項8】
請求項1乃至7の何れか1項において、(A)有機酸がポリカルボン酸であることを特徴とする半導体デバイス用基板の洗浄液。
【請求項9】
請求項1乃至8の何れか1項において、更に(D)錯化剤を含むことを特徴とする半導体デバイス用基板の洗浄液。

【公開番号】特開2009−105299(P2009−105299A)
【公開日】平成21年5月14日(2009.5.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−277299(P2007−277299)
【出願日】平成19年10月25日(2007.10.25)
【出願人】(000005968)三菱化学株式会社 (4,356)
【Fターム(参考)】