説明

半導体バルク結晶および半導体バルク結晶の製造方法

【課題】格子定数が下地基板と略等しい乃至同一の単結晶の化合物半導体結晶をエピタキシャル成長させるに当たり、当該化合物半導体結晶をクラックフリーのものとして大面積のエピタキシャル半導体基板を提供すること。
【解決手段】半導体バルク結晶の製造に際し、下地基板と化合物半導体単結晶との間に、下地基板と化合物半導体単結晶とが直接接する態様で空洞を形成したり、下地基板の主面に凹凸を形成し、さらに、化合物半導体単結晶のエピタキシャル成長方向に直交する結晶軸の下地基板の格子定数a1と化合物半導体単結晶の格子定数a2の差の比率である格子不整合度(2|a1−a2|/[a1+a2])を1×10-3以下とした。上記空洞や凹凸によりエピタキシャル成長途中におけるクラックの発生を抑制することができ、大面積のクラックフリーのエピタキシャル半導体バルク結晶を提供することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は半導体バルク結晶に関し、より詳細には、下地の半導体結晶上にクラックフリーの化合物半導体単結晶をエピタキシャル成長させた半導体バルク結晶およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、半導体結晶をエピタキシャル成長させる際、同種の半導体結晶からなる下地基板の入手が困難な場合には、異種下地基板の上にバッファ層やトレンチ構造を設けるなどの手法により下地基板とエピタキシャル成長させた半導体結晶との格子定数差に起因する格子歪みを緩和させ、クラック等の発生を抑制する手法が採用されてきた。
【0003】
例えば、ワイドバンドギャップ半導体結晶として実用化されているGaNに代表されるIII族窒化物半導体は、高融点で且つ融点付近の窒素の解離圧が高いことから融液からのバルク成長が困難であることに加え、GaN系の大口径自立基板の入手が必ずしも容易ではなかった。このため、サファイヤ等の異種基板を下地基板として用い、ハイドライド気相成長(HVPE)法や有機金属化学気相成長(MOCVD)法等の気相成長法によりIII族窒化物半導体結晶をエピタキシャル成長させる手法が採られてきた。
【0004】
例えば、特表2002−518826号公報(特許文献1)には、6H−SiC(0001)などの基板上に、低欠陥密度の窒化ガリウム半導体層を得るために、基礎的窒化ガリウム層の側壁をこの基礎的窒化ガリウム層にあるトレンチ内に横方向に成長させて、横方向の窒化ガリウム半導体層を形成するステップを含んでなる窒化ガリウム半導体層の製造方法の発明が開示されている。
【0005】
また、特表2003−518737号公報(特許文献2)には、炭化ケイ素やシリコンあるいはサファイヤなどの基板上に複数の脆弱なポストを形成し、この脆弱なポストにより、基板と当該脆弱なポスト上のその後に形成される窒化ガリウム半導体層との間の熱膨張率の不一致によるクラックを生じさせ、さらに、降温時における基板と窒化ガリウム半導体層との間の熱膨張率の不一致によって、脆弱なポストの少なくとも幾つかにクラックを生じさせ、それによって窒化ガリウム半導体層中の応力を除去する工程を含む窒化ガリウム半導体層の作製方法の発明が開示されている。
【0006】
特表2003−511871号公報(特許文献3)にも、GaN結晶が、典型的には、非GaN下地基板上を覆うヘテロエピタキシャル層として作製されるところ、GaNは最も適する基板結晶に関してかなりの格子不整合を有することに起因する転位密度を低減させるための「GaNの横方向エピタキシャルオーバーグロース(LEO)」法が開示されている。
【0007】
具体的には、炭化珪素やサファイヤあるいは珪素等の基板上に開口部を有するマスクを形成し、窒化ガリウム及び窒化ガリウムのIII族窒化物合金から成る群より選択されるエピタキシャル層を該開口部から垂直方向に且つ該マスクを横断させて横方向に成長させ、かつ、該エピタキシャル層の横方向成長速度を、該マスク上で核形成する多結晶質窒化物材料が該エピタキシャル層の横方向成長を妨害しない充分な速度に維持する工程を含む、窒化ガリウム系半導体構造の作製方法の発明が開示されている。
【0008】
さらに、特開2000−106455号公報(特許文献4)にも、サファイヤや炭化珪素あるいはMgAl24といった異種基板の成長面に凹部と凸部を設け、この凹凸基板上にGaN膜を形成し、凹部ではGaN膜と基板の間に空洞を有する態様とすることで、GaN膜の応力歪みによる結晶の高品質化及びGaN膜内でのクラック発生防止が図られる旨が記載されている。
【0009】
ところで、近年では、GaN系の自立基板も入手が可能となり、この自立基板上にGaN系半導体単結晶をエピタキシャル成長させることも可能となってきた。このような自立基板を下地基板として用いることとすれば、エピタキシャル成長させたGaN系単結晶の格子定数との差が実質的にゼロとなり、基板とエピタキシャル成長結晶との界面での格子歪みが顕著に低下することとなるため、高品質のGaN系半導体単結晶を得ることが容易なものとなる。
【0010】
そして、エピタキシャル成長結晶の厚みを500μm〜1mm程度とすれば、結晶成長後に下地基板を取り除いて加工研磨を行うことにより新たにGaN系半導体の単結晶基板を得ることができる。また、下地基板上に数mm〜数cmの厚さの単結晶を成長させ、その単結晶バルクをスライシングすることとすれば、1枚の下地基板から複数枚のGaN系単結晶基板を得ることができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】特表2002−518826号公報
【特許文献2】特表2003−518737号公報
【特許文献3】特表2003−511871号公報
【特許文献4】特開2000−106455号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
従来の化合物半導体結晶のエピタキシャル成長技術分野の技術常識に照らせば、下地基板とその上に成長させる結晶の格子定数が一致する場合には、界面には格子不整合に起因する歪みは生じないからクラックの発生も起きないことが期待される。
【0013】
しかし、後述するように、本発明者らが検討したところによれば、例え、下地基板と当該基板上にエピタキシャル成長させた化合物半導体結晶が同型の結晶構造を有し、かつ、構成元素も同一であり、格子定数が理論的に同一であったとしても、数10μm〜数100μm以上といった比較的厚い化合物半導体単結晶をエピタキシャル成長させると、その成長中に結晶にクラックが発生して下地基板そのものが割れてしまうという現象が起こることが分かった。
【0014】
つまり、従来の化合物半導体結晶のエピタキシャル成長技術分野の技術常識からすれば、半導体結晶の自立基板上に化合物半導体単結晶をホモエピタキシャル成長させる場合には、上掲の特許文献等に記載されているような特別な手法を採用しなくともクラックなどの問題が発生しないと考えられるところ、本発明者らの検討では、仮に化合物半導体単結晶をホモエピタキシャル成長させる場合であっても、下地基板及びエピタキシャル成長結晶には何らかの原因による格子歪みが生じ、これがクラックを誘引してしまうという解決すべき新たな課題が見出された。
【0015】
本発明は、このような新規な課題を解決するためになされたもので、その目的とするところは、格子定数が下地基板と略等しい乃至同一の単結晶の化合物半導体単結晶を比較的厚くエピタキシャル成長させるに当たり、当該化合物半導体単結晶をクラックフリーのものとして大面積のエピタキシャル半導体基板を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0016】
本発明に係る第1の態様の半導体バルク結晶は、半導体結晶の下地基板の上に化合物半導体単結晶をエピタキシャル成長させた半導体バルク結晶であって、前記下地基板と前記化合物半導体単結晶との間には空洞が形成されるとともに該空洞を挟んで前記下地基板と前記化合物半導体単結晶とが直接接しており、前記エピタキシャル成長の方向に直交する結晶軸の前記下地基板の格子定数a1と前記化合物半導体単結晶の格子定数a2の差の比率である格子不整合度(2|a1−a2|/[a1+a2])が1×10-3以下であり、前記化合物半導体単結晶はクラックフリーである、ことを特徴とする。
【0017】
本発明に係る第2の態様の半導体バルク結晶は、半導体結晶の下地基板の上に化合物半導体単結晶をエピタキシャル成長させた半導体バルク結晶であって、前記下地基板と前記化合物半導体単結晶との間には空洞が形成されるとともに該空洞を挟んで前記下地基板と前記化合物半導体単結晶とが直接接しており、前記下地基板と前記化合物半導体単結晶の構成元素が同一であり、前記化合物半導体単結晶はクラックフリーである、ことを特徴とする。
【0018】
本発明に係る第3の態様の半導体バルク結晶は、少なくとも一方主面に凹部と凸部を設けた半導体結晶の下地基板の上に化合物半導体単結晶をエピタキシャル成長させた半導体バルク結晶であって、前記エピタキシャル成長の方向に直交する結晶軸の前記下地基板の格子定数a1と前記化合物半導体単結晶の格子定数a2の差の比率である格子不整合度(2|a1−a2|/[a1+a2])が1×10-3以下であり、前記化合物半導体単結晶はクラックフリーである、ことを特徴とする。
【0019】
本発明に係る第4の態様の半導体バルク結晶は、少なくとも一方主面に凹部と凸部を設けた半導体結晶の下地基板の上に化合物半導体単結晶をエピタキシャル成長させた半導体バルク結晶であって、前記下地基板と前記化合物半導体単結晶の構成元素が同一であり、前記化合物半導体単結晶はクラックフリーであることを特徴とする。
【0020】
本発明に係る第5の態様の半導体バルク結晶は、エピタキシャル成長方向に直交する結晶面の格子面間隔の成長方向への変化Δd/daveが2.71×10-5以下であることを特徴とする。ここで、Δd/dave=[d(max)−d(min)]/dave)であり、d(max)、d(min)、およびdaveはそれぞれ、エピタキシャル成長方向に直交する結晶面の格子面間隔を成長方向に沿って全測定したときの、格子面間隔の最大値、最小値、および平均値を表す。
【0021】
本発明に係る第1の態様の半導体バルク結晶の製造方法は、半導体結晶の下地基板の少なくとも一方主面に凹部と凸部を設ける工程と、前記下地基板の一方主面に化合物半導体単結晶をクラックフリーでエピタキシャル成長させる工程を備え、前記エピタキシャル成長の方向に直交する結晶軸の前記下地基板の格子定数a1と前記化合物半導体単結晶の格子定数a2の差の比率である格子不整合度(2|a1−a2|/[a1+a2])を1×10-3以下とする、ことを特徴とする。
【0022】
本発明に係る第2の態様の半導体バルク結晶の製造方法は、半導体結晶の下地基板の少なくとも一方主面に凹部と凸部を設ける工程と、前記下地基板の一方主面に化合物半導体単結晶をクラックフリーでエピタキシャル成長させる工程を備え、前記下地基板と前記化合物半導体単結晶の構成元素を同一とする、ことを特徴とする。
【発明の効果】
【0023】
本発明では、半導体結晶の下地基板の上に化合物半導体単結晶をエピタキシャル成長させて半導体バルク結晶を得るに際し、エピタキシャル成長の方向に直交する結晶軸の下地基板の格子定数a1と化合物半導体単結晶の格子定数a2の差の比率(格子不整合度;2|a1−a2|/[a1+a2])が1×10-3以下である場合、または下地基板と化合物半導体単結晶の構成元素が同一である場合に、下地基板と化合物半導体単結晶とが直接接する態様で空洞を形成したり、下地基板に凹凸を設けたりしたことによって、化合物半導体単結晶のエピタキシャル成長途中におけるクラックの発生を抑制することができ、大面積かつ厚膜のクラックフリーの半導体バルク結晶を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【図1】図1A〜Cは、代表的な窒化物半導体であるGaN結晶を、GaNの自立基板の上に気相法によりホモエピタキシャル成長させた際にクラックが生じ、基板が2分割される様子を説明するための図である。
【図2】図2は、下地基板の格子定数とその上にエピタキシャル成長させる結晶の面内格子定数の格子不整合度Δa/aaveとミスフィット転位発生の臨界膜厚(μm)の関係を説明するための図である。
【図3】図3A〜Nは、実施例における、単結晶GaN自立基板表面に凹凸を形成するための加工手順を説明するための図である。
【図4】図4は、上述したMOCVD法によるGaN成長中のその場観察による基板の凹凸構造のストライプに垂直な方向の反り(曲率)の成長に伴う変化を示す図である。
【図5】図5は、比較例4の、凹凸構造のストライプに垂直な方向の反り(曲率)の成長に伴う変化を示す図である。
【図6】図6は、主面に凹凸を設けた下地基板上にGaN結晶をMOCVD成長させた後の試料の一部をヘキ開して観察したSEM像である。
【図7】図7は、HVPE法によるGaN成長に用いた装置の構成の概要を説明するための図である。
【図8】図8A〜Cは、単結晶GaN自立基板上にGaN単結晶をエピタキシャル成長させた基板のGaN結晶の格子面間隔測定について説明するための図である。
【図9】図9は、実施例1の格子面間隔測定の結果を纏めた図である。
【図10】図10は、比較例1の格子面間隔測定の結果を纏めた図である。
【図11】図11は、比較例2の格子面間隔測定の結果を纏めた図である。
【図12】図12は、実施例1で自立基板に形成した凹凸を説明するための図である。
【発明を実施するための形態】
【0025】
以下に、図面を参照して、本発明の半導体基板およびその製造方法について説明する。なお、本明細書中で用いられる「下地基板」なる用語は、例えば単結晶窒化ガリウム基板などのようないわゆる「単結晶基板」を意味し、その主面にエピタキシャル膜が形成されたいわゆる「エピ基板」や積層体が形成されたものなどは含まれない。以下に記載する構成要件の説明は、本発明の代表的な実施態様に基づいてなされることがあるが、本発明はそのような実施態様に限定されるものではない。
【0026】
先ず、本発明者らが見出した新たな課題、すなわち、仮に化合物半導体単結晶をホモエピタキシャル成長させる場合であっても、下地基板の結晶及びエピタキシャル成長結晶には何らかの原因による格子歪みが生じ、これがクラックを誘引してしまうという解決すべき新たな課題について簡単に説明する。
【0027】
図1A〜Cは、代表的な窒化物半導体であるGaNの結晶10Bを、GaNの自立基板10Aの上に気相法によりホモエピタキシャル成長させた際にクラックが生じ、基板が2分割される様子を説明するための図である。
【0028】
なお、自立基板10Aは、単結晶バルクからスライシングによって得たGaN単結晶基板であり、その主面はc面(0001)、厚みは概ね400μmである。
【0029】
上述したように、従来の化合物半導体結晶のエピタキシャル成長技術分野の技術常識からすれば、半導体結晶の自立基板上に化合物半導体単結晶をホモエピタキシャル成長させる場合には、特別な組成や結晶状態のバッファ層を設けたりトレンチを形成するなどの特別な手法を採用する必要性がないと考えられる。
【0030】
事実、GaN自立基板10Aの表面に特別な処理を施さない状態でGaN結晶10Bをエピタキシャル成長させても、当該GaN結晶10Bの厚みが数μm程度と比較的薄い場合には、成長中はもとより、冷却後に反応装置外に取り出した後も、クラックの発生は認められない(図1A)。
【0031】
しかし、本発明者らが比較的厚いGaN結晶をエピタキシャル成長させる実験を行ったところ、GaN結晶10Bの厚み(t)が数10〜数100μmを超える場合(図1B)、何らかの理由により結晶中に歪みが蓄積されて結晶成長中にクラックが発生し、下地基板10Aも2分割するほどのワレが生じるという現象を確認した(図1C)。
【0032】
ヘテロエピタキシャル成長の場合に発生するクラックは、成長中ではなく、装置内での冷却時に下地基板と化合物半導体単結晶との熱膨張係数差などにより発生するから、本発明者らが確認した上述のホモエピタキシャル成長時のクラック発生は、ヘテロエピタキシャル成長時のクラック発生と、メカニズムが異なるものと考えられる。
【0033】
このような現象が生じるメカニズムの詳細は現時点では明らかではないものの、本発明者らは、上述のようなクラック発生を抑制するためにはエピタキシャル成長時の応力制御が必要であるとの結論に至り、種々の検討を重ねて本発明を成すに至った。
【0034】
図2は、下地基板の格子定数とその上にエピタキシャル成長させる結晶の面内格子不整合度(Δa/aave)とミスフィット転位発生の臨界膜厚の関係を説明するための図で、この図中には、People−Beanのモデルで理論計算した結果も示している。
【0035】
ここで、上記面内格子不整合度(Δa/aave)は、エピタキシャル成長の方向に直交する結晶軸の下地基板の格子定数a1とエピタキシャル成長させる結晶の格子定数a2の差の比率(2|a1−a2|/[a1+a2])である。なお、「下地基板の格子定数」とは、下地基板を構成する結晶全体の格子定数である。
【0036】
また、ミスフィット転位とは、エピタキシャル成長の際に基板と成長層との間に格子不整合(ミスフィット)があるために発生する転位をいう。ミスフィット転位発生の臨界膜厚が膜厚増加による歪みの大きさの指標になると考えられる。
【0037】
People−Beanのモデルに基づけば、両者間の格子定数の不整合度(2|a1−a2|/[a1+a2])が10-4程度であれば臨界膜厚は数mmであり、10-5程度であれば数cm〜数10cmの臨界膜厚となる。
【0038】
つまり、従来の理論計算によれば、格子定数の不整合度(2|a1−a2|/[a1+a2])が10-5程度に小さい場合には、100μm程度の結晶をエピタキシャル成長させてもミスフィット転位は生じることがない。そして、格子定数の不整合度(2|a1−a2|/[a1+a2])が10-5程度のエピタキシャル成長は、実質的にホモエピタキシャル成長であると考えることができ、このような場合には、特別な処理等を施さなくても、ミスフィット転位が発生するほどの歪みの蓄積がない100μm程度の厚みのエピタキシャル成長結晶を成長させることができることが期待される。
【0039】
しかし、図2中に破線で領域を示したように、本発明者らの実験結果によれば、格子定数の不整合度(2|a1−a2|/[a1+a2])が10-5程度以下と考えられる場合でも、実際には結晶内には歪みが蓄積されており、従来の理論計算からミスフィット転位の発生が予想されるよりも遥かに薄い30μm程度の成長を行っただけで、クラックが発生してしまう。
【0040】
発明者らが鋭意検討した結果、格子定数が実質同程度であり、下地基板と化合物半導体単結晶の格子不整合度が1×10-3以下である場合であっても、下地基板上に化合物半導体単結晶をエピタキシャル成長させて得られた半導体バルク結晶の格子面間隔を測定すると、該エピタキシャル成長の方向に直交する結晶面の格子面間隔が、成長方向で変化していることが確認された。つまり、結晶そのものに固有の格子定数としては一定となるはずのホモエピタキシャル成長においても、格子面間隔が相違することを初めて見出した。本発明者らの検討によれば、クラックフリーの化合物半導体単結晶を得るためには、下地基板と化合物半導体結晶の格子不整合度は、1×10-3以下であることが必要であり、好ましくは1×10-4以下であり、より好ましくは1×10-5以下である。
【0041】
ここで、本明細書における格子面間隔とは、X線回折などによる結晶の実測値としての格子間隔のことを指す。一方で、本明細書おける格子定数とは、結晶夫々の物質固有の既知の値であり、文献で報告されている値、これらから算出可能な値等を指す。
【0042】
本発明者らの検討により、成長方向での格子面間隔の変化が極めて少ない半導体バルク結晶を得ることが可能となった。本発明により得られる半導体バルク結晶は、半導体結晶からなる下地基板の上に化合物半導体単結晶をエピタキシャル成長させた半導体バルク結晶であって、エピタキシャル成長方向に直交する結晶面の格子面間隔の成長方向への変化(Δd/dave=[d(max)−d(min)]/dave)が1.5×10-5以下である部分を有することが好ましい。ここで、d(max)は測定範囲における格子面間隔の最大値、d(min)は測定範囲における格子面間隔の最小値、daveは測定範囲における格子面間隔の平均値を表す。
【0043】
そこで、本発明の一態様では、半導体結晶の下地基板の上に化合物半導体単結晶をエピタキシャル成長させた半導体バルク結晶の製造に際し、下地基板と前記化合物半導体単結晶との間に空洞を形成し、エピタキシャル成長の方向に直交する結晶軸の下地基板の格子定数a1と化合物半導体単結晶の格子定数a2の差の比率である格子不整合度(2|a1−a2|/[a1+a2])を1×10-3以下として、化合物半導体単結晶をクラックフリーのものとする。
【0044】
本発明の他の態様では、半導体結晶の下地基板の上に化合物半導体単結晶をエピタキシャル成長させた半導体バルク結晶の製造に際し、下地基板と化合物半導体単結晶との間に空洞を形成して、下地基板と化合物半導体単結晶の構成元素が同一であっても、化合物半導体単結晶をクラックフリーのものとする。
【0045】
本発明の別の態様では、半導体結晶の下地基板の上に化合物半導体単結晶をエピタキシャル成長させた半導体バルク結晶の製造に際し、少なくとも一方主面に凹部と凸部を設けた半導体結晶の下地基板の上に化合物半導体単結晶をエピタキシャル成長させ、エピタキシャル成長の方向に直交する結晶軸の下地基板の格子定数a1と化合物半導体単結晶の格子定数a2の差の比率である格子不整合度(2|a1−a2|/[a1+a2])を1×10-3以下として、前記化合物半導体単結晶をクラックフリーのものとする。
【0046】
本発明のさらに別の態様では、半導体結晶の下地基板の上に化合物半導体単結晶をエピタキシャル成長させた半導体バルク結晶の製造に際し、少なくとも一方主面に凹部と凸部を設けた半導体結晶の下地基板の上に化合物半導体単結晶をエピタキシャル成長させ、下地基板と化合物半導体単結晶の構成元素が同一であっても、化合物半導体単結晶をクラックフリーのものとする。
【0047】
本発明によれば、厚みが30μm以上、好ましくは100μm以上であり、より好ましくは200μm以上、さらに好ましくは500μm以上であるクラックフリーの化合物半導体単結晶を得ることができる。ここで、クラックフリーとは結晶の有効エリアにおいて実質的にクラックが存在しないことを言うが、好ましくは結晶の中央部分であって、外周から10mm幅の周縁部を除く範囲でクラックが全く存在しないことであり、より好ましくは外周から5mm幅の周縁部を除く範囲でクラックが全く存在しないことであり、更に好ましくは外周から3mm幅の周縁部を除く範囲でクラックが全く存在しないことであり、最も好ましくは結晶中にクラックが全く存在しないことである。
【0048】
上述の空洞は、例えば、周期的にストライプ状に設けられる。このとき、好ましくは、空洞の周期を0.1μm以上1000μm以下、成長主面の面内方向の空洞の短辺長を0.1μm以上、成長主面に垂直な方向の空洞の長さを0.1μm以上に形成する。上述の凹部と凸部は、例えば、交互に且つストライプ状に設けられる。このとき、好ましくは、凸部の上面であるテラス部の短辺長を0.1μm以上1000μm以下、凹部である溝の短辺長を0.1μm以上、溝の深さを0.1μm以上に形成する。
【0049】
本発明において、化合物半導体単結晶は下地基板上に直接エピタキシャル成長させることが好ましい。つまり、下地基板と化合物半導体単結晶とは空洞または凹凸を挟んで直接接していることが好ましい。このような態様としては、後述するように、同一の化合物半導体単結晶を別々の方法によって成長させて、一体のエピタキシャル成長結晶とする方法も含まれる。つまり、本発明に係る化合物半導体単結晶は、単一の単結晶層からなるものであっても良く、複数の単結晶層を有するものであっても良い。また、前記複数の単結晶層は、1種類の成長方法を用いて連続的に形成されたものであっても良く、異なる複数種類の成長方法を用いて断続的に形成されたものであっても良い。例えば、HVPE法で連続的に形成された複数の単結晶層や、MOCVD法及びHVPE法を用いて断続的に形成された複数の単結晶層等が挙げられる。
【0050】
上記化合物半導体単結晶は窒化物系半導体結晶とすることができ、下地基板と化合物半導体単結晶の構成元素が同一であってもよく、あるいは、例えば、m及びnを何れも2以上の整数としたときに、下地基板はm元系の窒化物系半導体結晶であり、化合物半導体単結晶はn元系の窒化物系半導体結晶であって、下地基板と化合物半導体単結晶の構成元素の少なくとも2つが同一であるようなものであってもよい。なお、下地基板のm種類の構成元素と化合物半導体結晶のn種類の構成元素は、mとnの比が1:1程度の割合で同一であることがより好ましい。
【0051】
ここで、「構成元素」の意味に結晶中のドーパントも包含させ、下地基板中のドーパントと化合物半導体単結晶中のドーパントが同一であるようにしてもよい。蓋し、ドーパントの量によっても、極めて僅かではあるが、格子定数(格子面間隔)が変化するからである。
【0052】
一般に、上述したような関係にある下地基板と化合物半導体単結晶は、同型の結晶構造を有している。例えば、下地基板と化合物半導体単結晶は、GaN、AlN、InNやAlGaN、InGaNなどの混晶を用いることができる。下地基板と化合物半導体単結晶の組合せとしては、上記のうち異なる種の組合せとしてもよいが、同一種を組合せることが好ましい。
【0053】
エピタキシャル成長させる化合物半導体単結晶と下地基板との間に空洞を形成するには、公知の手法を用いることができる。例えば、下地基板上の任意の部分にマスクを形成した後にエピタキシャル成長を行い、ウェットエッチングで上記マスクを溶解させて空洞を形成する方法や、下地基板に凹凸を形成しエピタキシャル成長時に化合物半導体結晶を横方向成長(ラテラル成長)させる方法等が挙げられる。
【0054】
以下では、下地基板上の任意の部分にマスクを形成した後にエピタキシャル成長を行い、ウェットエッチングでマスクを溶解させて空洞を形成する方法について、その詳細を説明する。例えば、予め、下地基板の主面にエピタキシャル結晶成長を阻害する様なマスクを成膜する。このマスク用の膜としては、例えば酸化珪素、窒化珪素などの絶縁膜が挙げられる。マスク成膜の手法に特別な制限はないが、スパッタリング法、プラズマCVD法、EB−PVD法等が例示される。このマスク膜の厚さは、好ましくは1nm以上10μm以下、更に好ましくは5nm以上8μm以下であり、最も好ましくは10nm以上5μm以下である。厚みが薄過ぎると空洞としての機能を発現するための高さの基板面内均一性の確保が困難であり、厚過ぎると後のエッチングによる除去や化合物半導体結晶の横方向成長の制御が困難になる。
【0055】
このマスク膜にプライマーとしてヘキサメチルジシラザンを塗布し、続いてフォトレジストを塗布する。プライマーをフォトレジストの下に塗布することにより、マスク膜の疎水性を高めてフォトレジストの密着性を高めることができる。
【0056】
次に、任意のパターンが形成されたフォトマスクを介してh線等を含む水銀灯で露光し、有機アミンであるテトラエチルアンモニウムヒドロキシド水溶液によりアルカリ現像を行う。これにより、フォトレジストのパターニングが行われる。パターンは任意の形状とすることができる。例えば、ストライプ、格子、四角形、ドット、ホール等の形状が挙げられる。ストライプ等の方位も特に限定は無いが、好ましくは(11−20)等のa面や(1−100)等のm面に平行であることが望ましい。
【0057】
ポジ型のフォトレジストを用いた場合、フォトマスクを介して露光された箇所のフォトレジストが現像で溶解し、予め成膜を行ったマスク膜が現れる。続いて、バッファードフッ酸(NH4HF2)により、フォトレジストのパターンが除去された部分(露光部)のマスク膜をウェットエッチングで取り除く。この後、露光されていない箇所(未露光部)のフォトレジストをアセトンで溶解させる。これにより、主面の任意の箇所にマスク膜が形成され、マスク部としてパターニングされた基板が得られる。
【0058】
続いて、有機金属気相成長法(MOVPE)を用い、下地基板主面上にマスク膜が形成されていない領域(開口部)から化合物半導体結晶をエピタキシャル成長させる。なお、化合物半導体結晶のエピタキシャル成長は、ハイドライド気相成長法(HVPE)や分子線気相成長法(MBE)等によってもよい。エピタキシャル成長の条件を制御することにより、開口部からエピタキシャル成長した化合物半導体結晶の厚みがマスク部の高さを越えた後に横方向成長させ、更に、互いに隣接する開口部から成長した化合物半導体結晶同士が完全には接合しない状態とすることができる。続いて、隣接する開口部から成長した化合物半導体結晶同士が完全には接合しない状態の基板をフッ酸に浸漬し、マスク膜を溶出させる。このような手順により、空洞部を有する化合物半導体結晶層が得られる。
【0059】
以下では、下地基板に凹凸を形成する方法について、その詳細を説明する。下地基板の主面に窒化珪素や酸化珪素等のエピタキシャル結晶成長を阻害するマスク膜を成膜した後にマスク膜をパターニングする段階までは、上述した空洞形成の手法と同じである。
【0060】
パターニングの後、誘導結合型反応性エッチングにて、マスク膜が無い開口に溝を設けことにより、下地基板主面に任意のパターンで凹凸を形成することができる。このエッチング量を多くすることにより、溝を深くした下地基板を作製し、化合物半導体単結晶をエピタキシャル成長させる際の横方向成長を速くする条件とすれば、下地基板と化合物半導体単結晶との間に自然と空洞が形成される。
【0061】
また、溝の底面や側壁に窒化珪素や酸化珪素等のマスク膜を形成すると、より簡単に、下地基板と化合物半導体単結晶との間に空洞を形成することができる。溝の底面や側壁のみにマスク膜を形成する方法としては、リフトオフ法や、フォトレジストを用いたセルフアライン法、あるいは、パターンニング等により保護層を形成した後にドライエッチングやウェットエッチングを行う方法等が挙げられる。
【0062】
凹凸の構造については、結晶内の歪みを緩和するために十分な空洞を形成するのに適した溝深さ、溝幅、テラス幅であることが望ましい。溝深さは0.5μm以上が好ましく、1μm以上がより好ましく、2μm以上が最も好ましい。溝幅は0.5μm以上が好ましく、1μm以上がより好ましく、2μm以上が最も好ましい。テラス幅は、25μm以下が好ましく、15μm以下がより好ましく、10μm以下が最も好ましい。
【0063】
下地基板の主面がc面であり、HVPE法により溝加工基板上に直接成長を行い、c面を主面としたエピタキシャル成長を促進させる場合は、テラス幅は1μm以上が好ましく、3μm以上がより好ましく、5μm以上が最も好ましい。また主面をc面とした下地基板であって、HVPE成長法で直接溝加工基板上に非c面ファセット成長を促進させる場合は、テラス幅を5μm以下とすることが好ましい。
【0064】
下地基板と下地基板上にエピタキシャル成長させる化合物半導体結晶の間の格子不整合度としては、1×10-3以下が好ましい。
【0065】
結晶主面の面指数としては、{0001}、{1−100}、{11−20}、{11−22}や{20−21}面が好ましいが、他の面にも適応可能である。
【0066】
下地基板上にエピタキシャル成長させる化合物半導体結晶の種類としては、GaNやAlN、InN、およびそれらの混晶が好ましい。
【0067】
本発明の半導体バルク結晶にスライス、研磨などの一般に知られる加工を施すことにより、半導体基板とすることができる。該半導体基板は、結晶性や反り、オフ角分布に優れるため、デバイスを作成するための基板や上述の下地基板として好適に用いることができる。
【0068】
以下に、実施例により本発明をより具体的に説明する。本発明の半導体バルク結晶は、窒化物系の化合物半導体結晶をエピタキシャル成長させたものに限定されないが、以下の実施例では、GaNの自立基板上にGaN結晶をエピタキシャル成長させる場合を例に説明する。
【実施例】
【0069】
[実施例1]
図3A〜Nは、本実施例における、単結晶GaN自立基板表面に凹凸を形成するための加工手順を説明するための図である。
【0070】
[下地基板]
下地基板として、単結晶窒化ガリウム(GaN)基板(10)を準備した(図3A)。この単結晶GaN基板は、厚さ400μm、直径50mmの円盤状で、表面が{0001}面(C面)の自立基板である。なお、後述する加工条件で形成される凹凸の形状を評価するために、上記単結晶GaN自立基板を複数用意した。
【0071】
[凹凸加工]
上記GaN自立基板の表面に、下記の条件で凹凸加工を施した。
【0072】
[基板洗浄]
先ず、GaN自立基板の表面に、プラズマCVD法により、SiO2膜(11)を約0.85μm堆積させた(図3B)。
【0073】
[OAP塗布]
洗浄後のGaN自立基板の表面にプライマー(12)としてヘキサメチルジシラザン(HMDS:東京応化工業(株)製「OAP」)を塗布した(図3C)。先ず1000
rpmで7秒間、次に4000rpmで30秒間、スピナーで均一にした後、70℃で5分間ベーキングを行った。これはSiO2膜と後述のレジストの密着性を向上させるために必要な工程である。
【0074】
[レジスト塗布]
上記HMDS(12)上にポジ型レジスト(13)を塗布し(図3D)、上述のOAP塗布と同様の手順でスピナーにより均一にした後、90℃で30分間のプリベーキングを行った。プリベーキングはレジストを定着させるための工程である。なお、用いたポジ型レジストは、東京応化工業(株)製「OFPR−800」である。
【0075】
[露光]
露光用Crマスクを用いてレジストの露光を行った。このCrマスクのパターンには、ライン(Mask)/スペース(Window)が7μm/3μmのストライプパターンが形成されており、下地基板であるGaN自立基板の表面に、ストライプ方向が<1−100>となるようにCrマスクをセットして露光を行った。露光時間は8秒とし、露光後に120℃で30分間のポストベーキングを行った。
【0076】
[現像]
露光後のGaN自立基板をポジ型レジスト用現像液(東京応化工業(株)製「NMD−
3」)に30秒間浸し、露光部分のレジスト(13)およびHMDS(12)を除去した(図3E)。その後、純水で約30秒間リンスした。
【0077】
[SiO2除去およびレジスト除去]
濃度22%のバッファードフッ酸(NH4HF2)により、SiO2(11)のウェットエッチングを行った(図3F)。エッチング時間は5分20秒である。その後、アセトン溶媒中で超音波洗浄を行い、残存レジスト(13)およびHMDS(12)を溶解除去した(図3G)。
【0078】
[エッチング]
反応性イオンエッチング(RIE)法により、自立基板表面のSiO2(11)が除去された領域のGaNを深さ5μm程度エッチングして溝を形成した(図3H)。なお、当該エッチング時の装置条件は、RFパワー200W、Cl2ガス流量30sccm、エッチング時間10分である。
【0079】
[SiO2除去]
濃度22%のバッファードフッ酸(NH4HF2)により、SiO2(11)のウェットエッチングを行った(図3I)。エッチング時間は30秒である。
【0080】
[凹部マスク形成]
表面に凹凸を形成したGaN自立基板の凹部に、後述するMOCVD成長時のGaNの成長を阻害する目的で約100nmのSiO2マスクを形成した(図3N)。SiO2膜のパターンニングはフォトレジストを用いて、溝部のレジストが厚くなることを利用して作製する手法(図3J〜M)を用いた。
【0081】
このようにして表面に凹凸を形成したGaN自立基板(10)の一部をヘキ開して平面SEM像および断面SEM像の観察を行ったところ、基板の中央部において、溝深さ5.3μm、テラス幅2.4μm、溝幅4.0μmであることを確認した。
【0082】
[MOCVD成長]
後述するHVPE法によるGaNの成長に先立ち、横方向成長により空洞形成を促進させる目的で、上述した凹凸形成後のGaN自立基板上に、MOCVD法によるGaNの成長を行った。反応炉内にキャリアガスとしてのH2ガスと窒素源としてのNH3ガスを流しながら基板を加熱し、基板温度が1000℃に到達したところでGa源としてのTMGガスを反応炉内に流してGaNの結晶成長を開始した。なお、このときのTMGおよびNH3のガス流量はそれぞれ25sccmおよび4.0slmとし、V/III比は2982とした。
【0083】
基板温度1000℃で3分間の結晶成長を行った後、基板温度を1090℃に上げて237分間の結晶成長を行った。その後、TMGのガス供給を停止して結晶成長を停止すると共に、キャリアガスをN2に切り替えて基板温度を300℃まで下げた。基板温度が300℃まで下がったところでNH3のガス供給を停止し、H2ガスを供給しながら基板温度を室温まで下げた。このMOCVD成長により得られたGaNの膜厚は、概ね9μmである。
【0084】
図4は、上述したMOCVD法によるGaN成長中のその場観察による基板の凹凸構造のストライプに垂直な方向の反り(曲率)の成長に伴う変化を示す図である。反りのその場観察は、二つに分けられたレーザビームの反射スポットの間隔を測定することにより行った。
【0085】
図4において、反り(曲率)のプラス(+)の値が下地基板の裏面側が凸に反る方向であり、マイナス(−)の値が成長面側が凸に反る方向である。後述する比較例4における、凹凸構造のない通常のGaN基板上の成長(図5を参照)とは異なり、反りの増加傾向は認められなかった。
【0086】
図4中、成長開始から2.5h付近までは、基板の凹凸構造の凸部から横方向への成長が進み、空洞が形成されるのに費やされた時間であり、基板表面は平坦になっておらず、レーザ光の反射を用いた反り測定が正しく行えなかった領域である。2.5hから成長終了までの時間は、平坦表面に薄膜成長が進行した領域である。この図からわかるように、この膜成長領域で成長中に反り量の増加は観測されなかった。この実験事実は下地基板とエピタキシャル成長結晶の間に形成された空洞による歪みの緩和と関係があると考えられる。
【0087】
図6は、上記MOCVD成長後の試料の一部をヘキ開して観察したSEM像である。下地基板の上には、エピタキシャル成長したGaN結晶中に、溝の配置周期に対応して、下地基板と化合物半導体単結晶が直接接する態様の空洞が周期的に形成され、これら空洞上でGaN結晶同士が完全に接合し、平坦表面を形成している。本発明においては、下地基板と化合物半導体単結晶との間に設けられる空洞は、下地基板と化合物半導体単結晶とが直接接する態様で形成される。つまり、下地基板上に第一の化合物半導体単結晶を設け当該第一の化合物半導体単結晶内部に空洞を形成、つまり、下地基板表面に開口しない空洞を形成した後に、その上に第二の化合物半導体単結晶をエピタキシャル成長させる等の態様は採用しない。その理由は、基板が有する格子歪みに起因する化合物半導体単結晶の品質低下を回避するためである。化合物半導体単結晶の成長に用いられる基板には、貫通転位や基底面転位が相当程度存在しその分布は不均一である結果、基板は格子歪の分布を有する。このような基板に、第二の化合物半導体単結晶を成長させる際の方法とは異なる方法で第一の化合物半導体単結晶を形成したり或いは第二の化合物半導体単結晶と同じ成長方法ではあっても異なる条件(成長温度等)で第一の化合物半導体単結晶を形成する場合において、第一の化合物半導体単結晶内部に下地基板表面に開口しない空洞を形成したとしても、その上に形成される第二の化合物半導体単結晶は、基板そのものによる影響を受けてしまう。つまり、空隙を形成したとしても、それが下地基板表面に開口していない場合には、基板が有する格子歪ないしその分布状態が、化合物半導体単結晶中で増大ないし引き継がれてしまう。このような理由から、基板上に第一の化合物半導体単結晶を設け、当該第一の化合物半導体単結晶内部に下地基板表面に開口しない空洞を形成した後に、その上に第二の化合物半導体単結晶をエピタキシャル成長させることは好ましくない。
【0088】
[HVPE成長]
上記の条件で育成したGaN膜の上に、HVPE法によるGaN厚膜の結晶成長を行った。
【0089】
図7は、このHVPE法によるGaN成長に用いた装置の構成の概要を説明するための図で、図中の符号100はリアクタ、101〜104はガス導入管、105はリザーバ、106はヒータ、107は基板ホルダ、108はガス排出管である。また、G1〜4はそれぞれ、H2キャリアガス、N2キャリアガス、III族原料ガス、およびV族原料ガスである。
【0090】
リアクタ100の材質としては、石英、多結晶ボロンナイトライド(BN)ステンレス等が用いられる。好ましい材質は石英である。リアクタ100内には、反応開始前にあらかじめ雰囲気ガスを充填しておく。雰囲気ガスとしては、例えばH2ガス、N2ガス、He、Ne、Arのような不活性ガス等を挙げることができる。これらのガスは混合して用いてもよい。
【0091】
基板ホルダ107の材質としてはカーボンが好ましく、SiCで表面をコーティングしているものがより好ましい。基板ホルダ107の形状は、本発明の下地基板112を設置することができる形状であれば特に制限されないが、結晶成長する際に成長している結晶の上流側に構造物が存在しないものであることが好ましい。上流側に結晶が成長する可能性のある構造物が存在すると、そこに多結晶体が付着し、その生成物としてHClガスが発生して結晶成長させようとしている結晶に悪影響が及んでしまう。基板ホルダ107の下地基板載置面の大きさは、載置する下地基板よりも小さいことが好ましい。すなわち、ガス上流側から見たときに、下地基板の大きさで基板ホルダ107が隠れるくらいの大きさであることがさらに好ましい。
【0092】
下地基板を基板ホルダ107に載置するとき、下地基板の成長面はガス流れの上流側(図7ではリアクタの上方)を向くように載置することが好ましい。すなわち、空洞を形成し得る面または下地基板の凹凸を有する面に向かってガスが流れるように載置することが好ましく、空洞を形成し得る面または下地基板の凹凸を有する面に垂直な方向からガスが流れるようにすることがより好ましい。このように下地基板を載置することによって、より均一で結晶性に優れたIII族窒化物結晶を得ることができる。
【0093】
リザーバ105には、III族源となる原料を入れる。そのようなIII族源となる原料として、Ga、Al、Inなどを挙げることができる。リザーバ105にガスを導入するための導入管103からは、リザーバ105に入れた原料と反応するガスを供給する。例えば、リザーバ105にIII族源となる原料を入れた場合は、導入管103からHClガスを供給することができる。このとき、HClガスとともに、導入管103からキャリアガスを供給してもよい。キャリアガスとしては、例えばH2ガス、N2ガス、He、Ne、Arのような不活性ガス等を挙げることができる。これらのガスは混合して用いてもよい。キャリアガスは雰囲気ガスと同一であっても異なっていてもよいが、同一であることが好ましい。
【0094】
導入管101からは、窒素源となる原料ガスを供給する。通常はNH3ガスを供給する。また、導入管102からは、キャリアガスを供給する。キャリアガスとしては、導入管103から供給するキャリアガスと同じものを例示することができる。導入管102から供給するキャリアガスと導入管103から供給するキャリアガスは同じものであることが好ましい。また、導入管102からは、ドーパントガスを供給することもできる。例えば、SiH4やSiH2Cl2等のn型のドーパントガスを供給することができる。
【0095】
導入管104からは、エッチングガスを供給することができる。エッチングガスとしては、塩素系のガスを挙げることができ、HClガスを用いることが好ましい。エッチングガスの流量を総流量に対して0.1%〜3%程度とすることによりエッチングを行うことができる。好ましい流量は総流量に対して1%程度である。ガスの流量はマスフローコントロラー(MFC)等で制御することができ、個別のガスの流量は常にMFCで監視することが好ましい。
【0096】
導入管101、102、104から供給する上記ガスは、それぞれ互いに入れ替えて別の導入管から供給しても構わない。また、V族源となる原料ガスとキャリアガスは、同じ導入管から混合して供給してもよい。さらに他の導入管からキャリアガスを混合してもよい。これらの供給態様は、リアクタ100の大きさや形状、原料の反応性、目的とする結晶成長速度などに応じて、適宜決定することができる。
【0097】
ガス排出管108は、ガス導入のための導入管101〜104とは反対側のリアクタ内壁から排出することができるように設置するのが一般的である。図7では、ガス導入のための導入管101〜104が設置されているリアクタ上面とは反対に位置するリアクタ底面にガス排出管108が設置されている。ガス導入のための導入管がリアクタ右側面に設置されている場合は、ガス排出管はリアクタ左側面に設置されていることが好ましい。このような態様を採用することによって、一定方向に向けて安定にガスの流れを形成することができる。
【0098】
HVPE法による結晶成長は、通常は800℃〜1200℃で行い、900℃〜1100℃で行うことが好ましく、925℃〜1070℃で行うことがより好ましく、950℃から1050℃で行うことがさらに好ましい。リアクタ内の圧力は10kPa〜200kPaであるのが好ましく、30kPa〜150kPaであるのがより好ましく、50kPa〜120kPaであるのがさらに好ましい。エッチングを行うときのエッチング温度や圧力は、上記の結晶成長の温度や圧力と同一であっても異なっていてもよい。
【0099】
以下に、具体的な手順を説明する。
【0100】
先ず、基板(10)を、直径70mm、厚さ20mmのSiCコーティングしたカーボン製の基板ホルダ(107)上に置き、HVPE装置のリアクタ(100)内に配置した。
【0101】
リアクタ(100)内を1025℃まで昇温した後、H2キャリアガス(G1)と、N2キャリアガス(G2)と、GaとHClの反応生成物であるGaClガス(G3)と、NH3ガス(G4)とを、導入管101〜104からそれぞれ供給しながら、GaN層を23.5時間成長させた。このGaN成長工程では、成長圧力を1.01×105Paとし、GaClガス(G3)の分圧を7.39×102Paとし、NH3ガス(G4)の分圧を7.05×103Paとした。
【0102】
このHVPE法によるGaN成長工程の終了後、リアクタ(100)内を室温まで降温して、エピタキシャル成長結晶としてIII族窒化物結晶であるGaN単結晶を得た。得られたGaN単結晶は、触針式の膜厚計で測定したところ、2.2mmであった。また、目視による検査で、クラックが生じていないことを確認した。なお、実施例1では、GaN自立基板上にGaN単結晶を成長させているため、その格子不整合度は0である。
【0103】
[格子面間隔測定]
エピタキシャル成長後の結晶全体の歪みの分布を定量的に調べるために、以下のようにX線回折により格子面間隔測定を行った。
【0104】
図8A〜Cは、上述のGaN単結晶付き基板(GaNバルク結晶)のGaN結晶の格子面間隔測定について説明するための図である。サンプルは、GaNバルク結晶(30)から、c軸に沿ったm面を断面(図8A中の破線)とする板状に切り出し、このサンプルの格子面間隔を高分解能X線回折装置(パナリティカル製X’Pert Pro MRD)により測定した。
【0105】
X線ビームはX線管球をラインフォーカスとし、発散スリットをGe(220)非対称2回反射モノクロメータの手前に挿入し、CuKα1線を用い、モノクロメータの先にピンホールコリメーターを装着し、サンプル表面でガウシアン関数近似の半値全幅(full width at half maximum:FWHM)で水平方向100μm、鉛直方向200μmとなるようにした。サンプルはc軸方向が水平方向に、a軸方向が鉛直方向になるようにサンプルステージに固定した。基板の半径方向に沿う複数の箇所(図8A中のa、b、c)で、図8Bに測定点を図示したように、結晶成長方向(c軸方向)に沿って、当該ライン上で(300)面の2θ−ωスキャンを100μm間隔で連続的に行い、格子面間隔の変化を調べた。格子面間隔は2θ−ωスキャンのスペクトルをガウシアン関数によりフィッティングしピークを求め、それより動力学的理論に基づく計算により求めた。2θ−ωスキャンの際受光側にはGe(220)3回反射型モノクロメータ(所謂アナライザ)と比例計数型検出器を用いた。X線装置筐体内の温度は24.5±1℃以内に制御し、温度変動の測定への影響の抑制に努めた。2θの原点は測定開始時に較正し、測定終了後ずれがないことを確認した。
【0106】
測定する格子面間隔は(300)面を採用した。例えば(100)面に比べて2θが高角側の測定となるために角度分解能の精度がより高い測定をおこなうことができるためである。先ず、ひとつの測定ラインの下地基板(10)とエピタキシャル成長結晶(20)の全域にわたるGaNの(300)面の格子面間隔(単位はÅ)の最大値、最小値、及び平均値をそれぞれ、d1(max)、d1(min)、d1(ave)とすると、基板の中心部の測定箇所aではd1(max)=0.920685、d1(min)=0.920661、d1(ave)=0.920678となり、[d1(max)−d1(min)]/d1(ave)の値は2.61x10-5と非常に小さな値となり、格子歪分布の小さな良質な結晶が得られたことがわかった。なおサンプル端部の極端に回折強度の小さい部分のデータは除いた。
【0107】
また、基板の端部から5mmだけ内側の測定箇所bではd1(max)=0.920692、d1(min)=0.920666、d1(ave)=0.920682となり、[d1(max)−d1(min)]/d1(ave)の値は2.71x10-5と、非常に小さな値となり、格子歪分布の小さな良質な結晶が得られたことがわかった。
【0108】
さらに、測定箇所aと測定箇所bの中間の測定箇所cでは、d1(max)=0.920706、d1(min)=0.920686、d1(ave)=0.920692となり、[d1(max)−d1(min)]/d1(ave)の値は2.17x10-5と、非常に小さな値となり、格子歪分布の小さな良質な結晶が得られたことがわかった。このようにa、b、cいずれの箇所においても格子面間隔分布は非常に小さな値となり、格子歪分布の小さな良質な結晶が得られたことがわかった。
【0109】
次に、図8Cに図示したように、ひとつの測定ラインの下地基板(10)と当該下地基板の裏面から1.5mmまでのエピタキシャル成長結晶(20)の領域にわたるGaNの(300)面の格子面間隔(単位はÅ)の最大値、最小値、及び平均値をそれぞれd2(max)、d2(min)、d2(ave)とすると、測定箇所aではd2(max)=0.920685、d2(min)=0.920675、d2(ave)=0.920679となり、[d2(max)−d2(min)]/d2(ave)の値は1.09×10-5となった。
【0110】
また、測定箇所bでは、d2(max)=0.920689、d2(min)=0.920671、d2(ave)=0.920681となり、[d2(max)−d2(min)]/d2(ave)の値は1.96×10-5となった。
【0111】
さらに、測定箇所cでは、d2(max)=0.920706、d2(min)=0.920686、d2(ave)=0.920692となり、[d2(max)−d2(min)]/d2(ave)の値は2.17×10-5となった。
【0112】
図9は、上記格子面間隔測定の結果を纏めた図である。
【0113】
[実施例2]
実施例1ではMOCVD成長させた膜厚9μmのGaNの上にHVPE法により厚膜(2.2mm)のGaNを結晶成長させた。本実施例2では、凹凸を形成したGaN自立基板の上に直接、厚膜のGaNをHVPE法で結晶成長させた。
【0114】
[下地基板表面への凹凸形成]
下地基板として、単結晶窒化ガリウム(GaN)基板を準備した。この単結晶GaN基板は、実施例1と同様に、厚さ400μm、直径50mmの円盤状で、表面が{0001}面(C面)の自立基板である。なお、表面の凹凸形成の条件は、露光用Crマスクのストライプパターンが、ライン(Mask)/スペース(Window)で10μm/2μmである点、および、RIE法によりエッチングしたGaNの溝深さが1.3μmである点以外は、実施例1と同様である。
【0115】
上記条件で形成した凹凸の様子を断面SEM像(二次電子像)で観察したところ、溝深さが1.3μm、テラス幅が7.6μm、溝幅が3.0μmであることが確認された。
【0116】
[HVPE成長]
上記の条件で凹凸形成したGaN自立基板上に、図7に示した装置を用いて、HVPE法によるGaN厚膜の結晶成長を行った。
【0117】
実施例1と同様に、基板(10)を、直径70mm、厚さ20mmのSiCコーティングしたカーボン製の基板ホルダ(107)上に置き、HVPE装置のリアクタ(100)内に配置した。リアクタ(100)内を1025℃まで昇温した後、H2キャリアガス(G1)と、N2キャリアガス(G2)と、GaとHClの反応生成物であるGaClガス(G3)と、NH3ガス(G4)とを、導入管101〜104からそれぞれ供給しながら、GaN層を23.5時間成長させた。成長圧力を1.01×105Paとし、GaClガス(G3)の分圧を7.39×102Paとし、NH3ガス(G4)の分圧を7.05×103Paとした。
【0118】
このHVPE法によるGaN成長工程の終了後、リアクタ(100)内を室温まで降温して、エピタキシャル成長結晶としてIII族窒化物結晶であるGaN単結晶を得た。得られたGaN単結晶は、触針式の膜厚計で測定したところ、実施例1と同様に、2.2mmであった。また、目視による検査で、クラックが生じていないことを確認した。なお、実施例2においても、GaN自立基板上にGaN単結晶を成長させているため、その格子不整合度は0である。
【0119】
[比較例1]
下地基板として、単結晶窒化ガリウム(GaN)基板を準備した。この単結晶GaN基板は、実施例1及び2と同様に、厚さ400μm、直径50mmの円盤状で、表面が{0001}面(C面)の自立基板である。この自立基板の表面には凹凸を形成することなく、実施例1と同様にHVPE成長を行ってGaN単結晶を得た。
【0120】
得られたGaN単結晶は、触針式の膜厚計で測定したところ、厚さが2.2mmであった。また、目視による検査でクラックの発生が認められた。この試料を断面観察した結果、自立基板表面から数10〜数100μm成長した時点でクラックが発生していることは確認できたが、クラック発生個所を正確に特定することはできなかった。なお、比較例1においても、GaN自立基板上にGaN単結晶を成長させているため、その格子不整合度は0である。
【0121】
実施例1と同様にサンプルを作製し、格子面間隔測定を行った。先ず、ひとつのc軸に沿った測定ラインの下地基板とエピタキシャル成長結晶の全域にわたるGaNの(300)面の格子面間隔(単位はÅ)の最大値、最小値、及び平均値をそれぞれ、d1(max)、d1(min)、d1(ave)とすると、基板の中心部の測定箇所aではd1(max)=0.920678、d1(min)=0.920635、d1(ave)=0.920666となり、[d1(max)−d1(min)]/d1(ave)の値は4.67×10-5となった。
【0122】
また、基板の端部から5mmだけ内側の測定箇所bではd1(max)=0.920661、d1(min)=0.920633、d1(ave)=0.920645となり、[d1(max)−d1(min)]/d1(ave)の値は3.04×10-5となった。
【0123】
なお、測定箇所aと測定箇所bの中間の測定箇所cでの測定は行っていない。
【0124】
次に、ひとつの測定ラインの下地基板と当該下地基板の裏面から1.5mmまでのエピタキシャル成長結晶の領域にわたるGaNの(300)面の格子面間隔(単位はÅ)の最大値、最小値、及び平均値をそれぞれd2(max)、d2(min)、d2(ave)とすると、測定箇所aではd2(max)=0.920678、d2(min)=0.920667、d2(ave)=0.920672となり、[d2(max)−d2(min)]/d2(ave)の値は1.19×10-5となった。
【0125】
また、測定箇所bでは、d2(max)=0.920661、d2(min)=0.920633、d2(ave)=0.920647となり、[d2(max)−d2(min)]/d2(ave)の値は3.04×10-5となった。
【0126】
なお、測定箇所aと測定箇所bの中間の測定箇所cでの測定は行っていない。
【0127】
図10は、上記格子面間隔測定の結果を纏めた図である。図9に示した実施例1の測定結果と図10に示した比較例1の測定結果を比較すると、c軸方向の1.5mmの長さの測定範囲内では格子面間隔変化の程度の差異ははっきりとは認められないが、1.5mm以上の測定領域では、実施例1の方が格子面間隔変化が小さいことが明瞭にみてとれる。このように本発明により広い範囲において格子面間隔変化の小さい歪分布の小さな結晶が得られる。
【0128】
[比較例2]
下地基板として、比較例1と同様の、凹凸形成無しの単結晶窒化ガリウム(GaN)基板を準備した。この自立基板の表面に、HVPE成長の成膜時間を32時間とした以外は実施例1と同様の条件で、HVPE成長を行ってGaN単結晶を得た。
【0129】
得られたGaN単結晶は、触針式の膜厚計で測定したところ、厚さが4.46mmであった。また、目視による検査でクラックの発生が認められた。この試料を断面観察した結果、自立基板表面から540μm成長した時点でクラックが発生していることが確認できた。なお、比較例2においても、GaN自立基板上にGaN単結晶を成長させているため、その格子不整合度は0である。
【0130】
実施例1と同様にサンプルを作製し、格子面間隔測定を行った。先ず、ひとつのc軸に沿った測定ラインの下地基板とエピタキシャル成長結晶の全域にわたるGaNの(300)面の格子面間隔(単位はÅ)の最大値、最小値、及び平均値をそれぞれ、d1(max)、d1(min)、d1(ave)とすると、基板の中心部の測定箇所aで、d1(max)=0.920797、d1(min)=0.920679、d1(ave)=0.920700となり、[d1(max)−d1(min)]/d1(ave)の値は1.28×10-4となった。
【0131】
なお、測定箇所bおよび測定箇所cでの測定は行っていない。
【0132】
次に、ひとつの測定ラインの下地基板と当該下地基板の裏面から1.5mmまでのエピタキシャル成長結晶の領域にわたるGaNの(300)面の格子面間隔(単位はÅ)の最大値、最小値、及び平均値をそれぞれd2(max)、d2(min)、d2(ave)とすると、測定箇所aではd2(max)=0.920797、d2(min)=0.920679、d2(ave)=0.920708となり、[d2(max)−d2(min)]/d2(ave)の値は1.28×10-4となった。
【0133】
なお、測定箇所bおよび測定箇所cでの測定は行っていない。
【0134】
図11は、上記格子面間隔測定の結果を纏めた図である。
【0135】
[比較例3]
下地基板として、比較例1と同様の、凹凸形成無しの単結晶窒化ガリウム(GaN)基板を準備した。この自立基板の表面に、HVPE成長の成膜時間を32時間とした以外は実施例1と同様の条件で、HVPE成長を行ってGaN単結晶を得た。
【0136】
得られたGaN単結晶は、触針式の膜厚計で測定したところ、厚さが4.2mmであった。また、目視による検査でクラックの発生が認められた。この試料を断面観察した結果、自立基板表面から33μm成長した時点でクラックが発生していることが確認できた。なお、比較例3においても、GaN自立基板上にGaN単結晶を成長させているため、その格子不整合度は0である。
【0137】
[実施例1と比較例1のクラック発生の有無]
実施例1と比較例1のクラック発生の有無を確認した。図12に示したような形状の凹凸を形成した自立基板上にGaN膜をエピタキシャル成長させた実施例1のものではクラック(および基板割れ)が発生していないのに対し、かかる凹凸を形成しない自立基板上にエピタキシャル成長させた比較例1のものでは、クラックの発生に伴って基板が2分割されるワレが生じていた。
【0138】
[比較例4]
通常基板の反り測定:
単結晶GaN自立基板表面に凹凸を形成しなかったことと成長時間を2時間とした以外は実施例1と同様の方法でMOCVD成長を行った。膜厚は約4μmであった。
【0139】
図5は、MOCVD法によるGaN成長中のその場観察による基板の反り(曲率)を示す図である。図5において、反り(曲率)の+の値が基板の裏面側が凸に反る方向であり、−の値が成長面側が凸に反る方向である。図から成長とともに反り量が増加している様子が明瞭に見て取れる。平均して1μmあたり4km-1の割合で反り量が基板の裏面が凸になる方向に増加した。反り量ははじめの膜厚2μm成長後基板の裏面側が凸の方向に10km-1増加となった。膜厚4μm成長後では反り量は基板の裏面側が凸の方向に15km-1増加となった。
【産業上の利用可能性】
【0140】
本発明により得られる半導体バルク結晶は、さまざまな用途に用いることができる。例えば、化合物半導体結晶が窒化物半導体結晶である場合には、紫外、青色又は緑色等の発光ダイオード、半導体レーザ等の比較的短波長側の発光素子や、電子デバイス等の半導体デバイスの基板として有用である。
【符号の説明】
【0141】
10A 下地基板
10B GaN結晶
10 単結晶GaN基板
11、14 SiO2
12 HMDS
13、15 ポジ型レジスト
100 リアクタ
101〜104 導入管
105 リザーバ
106 ヒータ
107 基板ホルダ
108 ガス排出管
G1 H2キャリアガス
G2 N2キャリアガス
G3 III族原料ガス
G4 V族原料ガス

【特許請求の範囲】
【請求項1】
半導体結晶の下地基板の上に化合物半導体単結晶をエピタキシャル成長させた半導体バルク結晶であって、
前記下地基板と前記化合物半導体単結晶との間には空洞が形成されるとともに該空洞を挟んで前記下地基板と前記化合物半導体単結晶とが直接接しており、
前記エピタキシャル成長の方向に直交する結晶軸の前記下地基板の格子定数a1と前記化合物半導体単結晶の格子定数a2の差の比率である格子不整合度(2|a1−a2|/[a1+a2])が1×10-3以下であり、
前記化合物半導体単結晶はクラックフリーである、
ことを特徴とする半導体バルク結晶。
【請求項2】
半導体結晶の下地基板の上に化合物半導体単結晶をエピタキシャル成長させた半導体バルク結晶であって、
前記下地基板と前記化合物半導体単結晶との間には空洞が形成されるとともに該空洞を挟んで前記下地基板と前記化合物半導体単結晶とが直接接しており、
前記下地基板と前記化合物半導体単結晶の構成元素が同一であり、
前記化合物半導体単結晶はクラックフリーである、
ことを特徴とする半導体バルク結晶。
【請求項3】
少なくとも一方主面に凹部と凸部を設けた半導体結晶の下地基板の上に化合物半導体単結晶をエピタキシャル成長させた半導体バルク結晶であって、
前記エピタキシャル成長の方向に直交する結晶軸の前記下地基板の格子定数a1と前記化合物半導体単結晶の格子定数a2の差の比率である格子不整合度(2|a1−a2|/[a1+a2])が1×10-3以下であり、
前記化合物半導体単結晶はクラックフリーである、
ことを特徴とする半導体バルク結晶。
【請求項4】
前記下地基板と前記化合物半導体単結晶の構成元素が同一である、請求項3に記載の半導体バルク結晶。
【請求項5】
少なくとも一方主面に凹部と凸部を設けた半導体結晶の下地基板の上に化合物半導体単結晶をエピタキシャル成長させた半導体バルク結晶であって、
前記下地基板と前記化合物半導体単結晶の構成元素が同一であり、前記化合物半導体単結晶はクラックフリーであることを特徴とする半導体バルク結晶。
【請求項6】
前記化合物半導体単結晶の厚みが30μm以上である、請求項1乃至6の何れか1項に記載の半導体バルク結晶。
【請求項7】
前記凹部と前記凸部が交互に且つストライプ状に設けられている、請求項3乃至6の何れか1項に記載の半導体バルク結晶。
【請求項8】
前記化合物半導体単結晶は窒化物系半導体結晶である、請求項1乃至7の何れか1項に記載の半導体バルク結晶。
【請求項9】
m及びnを何れも2以上の整数としたときに、前記下地基板はm元系の窒化物系半導体結晶であり、前記化合物半導体単結晶はn元系の窒化物系半導体結晶であって、前記下地基板と前記化合物半導体単結晶の構成元素の少なくとも2つが同一である、請求項8に記載の半導体バルク結晶。
【請求項10】
前記下地基板中のドーパントと前記化合物半導体単結晶中のドーパントが同一である、請求項1乃至9の何れか1項に記載の半導体バルク結晶。
【請求項11】
前記下地基板と前記化合物半導体単結晶は同型の結晶構造を有している、請求項1乃至10の何れか1項に記載の半導体バルク結晶。
【請求項12】
エピタキシャル成長方向に直交する結晶面の格子面間隔の成長方向への変化Δd/daveが2.71×10-5以下であることを特徴とする半導体バルク結晶。
ここで、Δd/dave=[d(max)−d(min)]/dave)であり、d(max)、d(min)、およびdaveはそれぞれ、エピタキシャル成長方向に直交する結晶面の格子面間隔を成長方向に沿って全測定したときの、格子面間隔の最大値、最小値、および平均値を表す。
【請求項13】
エピタキシャル成長方向に直交する結晶面の格子面間隔の測定範囲が1.5mm超過であることを特徴とする請求項12に記載の半導体バルク結晶。
【請求項14】
半導体結晶の下地基板の少なくとも一方主面に凹部と凸部を設ける工程と、
前記下地基板の一方主面に化合物半導体単結晶をクラックフリーでエピタキシャル成長させる工程を備え、
前記エピタキシャル成長の方向に直交する結晶軸の前記下地基板の格子定数a1と前記化合物半導体単結晶の格子定数a2の差の比率である格子不整合度(2|a1−a2|/[a1+a2])を1×10-3以下とする、
ことを特徴とする半導体バルク結晶の製造方法。
【請求項15】
前記下地基板と前記化合物半導体単結晶の構成元素が同一である、請求項14に記載の半導体基バルク結晶の製造方法。
【請求項16】
半導体結晶の下地基板の少なくとも一方主面に凹部と凸部を設ける工程と、
前記下地基板の一方主面に化合物半導体単結晶をクラックフリーでエピタキシャル成長させる工程を備え、
前記下地基板と前記化合物半導体単結晶の構成元素を同一とする、ことを特徴とする半導体バルク結晶の製造方法。
【請求項17】
前記化合物半導体単結晶の厚みが30μm以上である、請求項14乃至16の何れか1項に記載の半導体バルク結晶の製造方法。
【請求項18】
前記凹部と前記凸部を交互に且つストライプ状に設ける、請求項14乃至17の何れか1項に記載の半導体バルク結晶の製造方法。
【請求項19】
前記化合物半導体単結晶は窒化物系半導体結晶である、請求項14乃至18の何れか1項に記載の半導体バルク結晶の製造方法。
【請求項20】
m及びnを何れも2以上の整数としたときに、前記下地基板はm元系の窒化物系半導体結晶であり、前記化合物半導体単結晶はn元系の窒化物系半導体結晶であって、前記下地基板と前記化合物半導体単結晶の構成元素の少なくとも2つが同一である、請求項19に記載の半導体バルク結晶の製造方法。
【請求項21】
前記下地基板中のドーパントと前記化合物半導体単結晶中のドーパントが同一である、請求項14乃至20の何れか1項に記載の半導体バルク結晶の製造方法。
【請求項22】
前記下地基板と前記化合物半導体単結晶は同型の結晶構造を有している、請求項14乃至21の何れか1項に記載の半導体バルク結晶の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【公開番号】特開2012−197218(P2012−197218A)
【公開日】平成24年10月18日(2012.10.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−48864(P2012−48864)
【出願日】平成24年3月6日(2012.3.6)
【出願人】(000005968)三菱化学株式会社 (4,356)
【出願人】(304026696)国立大学法人三重大学 (270)
【Fターム(参考)】