説明

半導体基板の超臨界乾燥方法

【課題】半導体基板上に生じるパーティクルを低減すると共に、乾燥処理に要する時間を短縮することができる半導体基板の超臨界乾燥方法を提供する。
【解決手段】本実施形態によれば、微細パターンが形成された半導体基板の純水リンス後に、半導体基板の表面を水溶性有機溶媒に置換し、水溶性有機溶媒に濡れた状態でチャンバ内に導入する。そして、チャンバ内の温度を昇温して、水溶性有機溶媒を超臨界状態にする。その後、チャンバ内を純水が液化しない温度に保ちながら圧力を下げ、超臨界状態の水溶性有機溶媒を気体に変化させてチャンバから排出し、半導体基板を乾燥させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の実施形態は、半導体基板の超臨界乾燥方法に関する。
【背景技術】
【0002】
半導体装置の製造工程には、リソグラフィ工程、エッチング工程、イオン注入工程などの様々な工程が含まれている。各工程の終了後、次の工程に移る前に、ウェーハ表面に残存した不純物や残渣を除去してウェーハ表面を清浄にするための洗浄工程及び乾燥工程が実施されている。
【0003】
例えば、エッチング工程後のウェーハの洗浄処理では、ウェーハの表面に洗浄処理のための薬液が供給され、その後に純水が供給されてリンス処理が行われる。リンス処理後は、ウェーハ表面に残っている純水を除去してウェーハを乾燥させる乾燥処理が行われる。
【0004】
乾燥処理を行う方法としては、例えばウェーハ上の純水をイソプロピルアルコール(IPA)に置換してウェーハを乾燥させるものが知られている。しかし、この乾燥処理時に、液体の表面張力によりウェーハ上に形成されたパターンが倒壊するという問題があった。
【0005】
このような問題を解決するため、表面張力がゼロとなる超臨界乾燥が提案されている。例えば、チャンバ内において、表面がIPAで濡れているウェーハを、超臨界状態とした二酸化炭素(超臨界CO流体)に浸漬した状態とすることで、ウェーハ上のIPAが超臨界CO流体に溶解する。そして、IPAが溶解している超臨界CO流体を徐々にチャンバから排出する。その後、チャンバ内を降圧/降温し、超臨界CO流体をガス(気体)へ相転換させてからチャンバ外へ排出することによりウェーハを乾燥させる。
【0006】
しかし、チャンバ内の圧力を下げて、二酸化炭素を超臨界状態からガス(気体)へ相転換する際に、超臨界CO流体に溶解した状態でチャンバ内に残留していたIPAが、ウェーハ上に凝集再吸着し、パーティクル(乾燥痕)が生じるという問題があった。また、超臨界CO流体に溶解したIPAをチャンバ内から十分に排出するには、超臨界CO流体をチャンバへ供給し続けると共に、IPAが溶解した超臨界CO流体を少しずつ排出し続ける必要があるため、乾燥処理に要する時間が長くなるという問題があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2003−92240号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、半導体基板上に生じるパーティクルを低減すると共に、乾燥処理に要する時間を短縮することができる半導体基板の超臨界乾燥方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本実施形態によれば、微細パターンが形成された半導体基板の純水リンス後に、半導体基板の表面を水溶性有機溶媒に置換し、水溶性有機溶媒に濡れた状態でチャンバ内に導入する。そして、チャンバ内の温度を昇温して、水溶性有機溶媒を超臨界状態にする。その後、チャンバ内を純水(水溶性有機溶媒中に混入したリンス純水)が液化しない温度に保ちながら圧力を下げ、超臨界状態の水溶性有機溶媒を気体に変化させてチャンバから排出し、半導体基板を乾燥させる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】圧力と温度と物質の相状態との関係を示す状態図である。
【図2】本発明の第1の実施形態に係る超臨界乾燥装置の概略構成図である。
【図3】同第1の実施形態に係る超臨界乾燥方法を説明するフローチャートである。
【図4】水溶性有機溶媒と純水の蒸気圧曲線を示すグラフである。
【図5】本発明の第2の実施形態に係る超臨界乾燥方法を説明するフローチャートである。
【図6】水溶性有機溶媒と非水溶性有機溶媒の蒸気圧曲線を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明の実施の形態を図面に基づいて説明する。
【0012】
(第1の実施形態)まず、超臨界乾燥について説明する。図1は、圧力と温度と物質の相状態との関係を示す状態図である。超臨界乾燥に用いられる超臨界流体の機能物質には、三態と称される気相(気体)、液相(液体)、固相(固体)の3つの存在状態がある。
【0013】
図1に示すように、上記3つの相は、気相と液相との境界を示す蒸気圧曲線(気相平衡線)、気相と固相との境界を示す昇華曲線、固相と液相との境界を示す溶解曲線で区切られる。これら3つの相が重なったところが三重点である。この三重点から蒸気圧曲線が高温側に延びると、気相と液相が共存する限界である臨界点に達する。この臨界点では、気相と液相の密度が等しくなり、気液共存状態の界面が消失する。
【0014】
そして、臨界点より高温、高圧の状態では、気相、液相の区別がなくなり、物質は超臨界流体となる。超臨界流体とは、臨界温度以上で高密度に圧縮された流体である。超臨界流体は、溶媒分子の拡散力が支配的である点においては気体と類似している。一方、超臨界流体は、分子の凝集力の影響が無視できない点においては液体と類似しているため、種々の物質を溶解する性質を有している。
【0015】
また、超臨界流体は、液体に比べ非常に高い浸潤性を有し、微細な構造にも容易に浸透する特徴がある。
【0016】
また、超臨界流体は、超臨界状態から直接気相に転移するように乾燥させることで、気体と液体の界面が存在しないように、すなわち毛管力(表面張力)が働かないようにして、微細構造を破壊することなく乾燥することができる。超臨界乾燥とは、このような超臨界流体の超臨界状態を利用して基板を乾燥することである。
【0017】
次に、図2を用いて、半導体基板の超臨界乾燥を行う超臨界乾燥装置について説明する。図2に示すように、超臨界乾燥装置10は、ヒータ12が内蔵されたチャンバ11を備えている。チャンバ11は、SUS等で形成された高圧容器である。ヒータ12は、チャンバ11内の温度を調整することができる。図2では、ヒータ12がチャンバ11に内蔵されている構成を示しているが、ヒータ12をチャンバ11の外周部に設ける構成にしてもよい。
【0018】
また、チャンバ11には、超臨界乾燥処理の対象となる半導体基板Wを保持するリング状の平板であるステージ13が設けられている。
【0019】
チャンバ11には配管15が連結されており、チャンバ11内の気体や超臨界流体を、この配管15を介して外部に排出することができる。配管15には、チャンバ11の内圧を監視制御しながらバルブ開度を調整する制御バルブ16が設けられている。制御バルブ16を閉じることにより、チャンバ11内を密閉状態にすることができる。
【0020】
次に、図3に示すフローチャートを用いて、本実施形態に係る半導体基板の洗浄及び乾燥方法を説明する。
【0021】
(ステップS101)処理対象の半導体基板が図示しない洗浄チャンバに搬入される。そして、半導体基板の表面に薬液が供給され、洗浄処理が行われる。薬液には、例えば、硫酸、フッ酸、塩酸、過酸化水素等を用いることができる。
【0022】
ここで、洗浄処理とは、レジストを半導体基板から剥離するような処理や、パーティクルや金属不純物を除去する処理や、基板上に形成された膜をエッチング除去する処理等を含むものである。半導体基板には、微細パターンが形成されている。この微細パターンは、洗浄処理前から形成されているものでもよいし、この洗浄処理により形成されるものでもよい。
【0023】
(ステップS102)ステップS101の洗浄処理の後に、半導体基板の表面に純水が供給され、半導体基板の表面に残留していた薬液を純水によって洗い流す純水リンス処理が行われる。
【0024】
(ステップS103)ステップS102の純水リンス処理の後に、表面が純水で濡れている半導体基板を水溶性有機溶媒に浸漬させ、半導体基板表面の液体を純水から水溶性有機溶媒に置換する液体置換処理が行われる。
【0025】
ここで用いられる水溶性有機溶媒は、例えば、イソプロピルアルコール(IPA)等のアルコールや、ケトンなどであり、純水よりも蒸気圧が高い(沸点が低い)ものである。以下、水溶性有機溶媒にIPAを使用した場合について説明を行う。
【0026】
なお、この液体置換処理により、半導体基板表面はIPAに濡れた状態となるが、このIPAには(少量ではあるが)純水が混入すると考えられる。
【0027】
(ステップS104)ステップS103の液体置換処理の後に、半導体基板が、表面がIPAで濡れた状態のまま、自然乾燥しないように、洗浄チャンバから搬出され、図2に示すチャンバ11に導入され、ステージ13に固定される。そして、制御バルブ16を閉じてチャンバ11の内部を密閉状態にする。
【0028】
(ステップS105)ヒータ12を用いて、密閉状態のチャンバ11内において、半導体基板の表面を覆っているIPAを加熱する。加熱されて気化したIPAの増加により、密閉されて一定容積となっているチャンバ11内の圧力は、図4の破線で示されるIPAの蒸気圧曲線に従って増加する。
【0029】
ここで、チャンバ11内の実際の圧力は、チャンバ11内に存在する全ての気体分子の分圧の総和となるが、本実施形態では、気体IPAの分圧をチャンバ11内の圧力として説明する。
【0030】
図4に示すように、チャンバ11内の圧力がIPAの臨界圧力Pcに達した状態で、IPAを臨界温度Tc以上に加熱すると、チャンバ11内のIPA(気体IPA及び液体IPA)は、超臨界状態となる。これにより、チャンバ11内は超臨界IPA(超臨界状態のIPA)で充填され、半導体基板の表面は、超臨界IPAに覆われた状態となる。
【0031】
なお、IPAが超臨界状態となるまで、半導体基板の表面を覆う液体IPAが全て気化しないように、すなわち半導体基板が液体IPAで濡れ、チャンバ11内に気体IPAと液体IPAが共存しているようにする。
【0032】
気体の状態方程式(PV=nRT;Pは圧力、Vは体積、nはモル数、Rは気体定数、Tは温度)に、温度Tc、圧力Pc、チャンバ11の容積を代入することで、IPAが超臨界状態になる時に、チャンバ11内に気体状態で存在するIPAの量nc(mol)が求められる。
【0033】
従って、ステップS105で加熱を開始する前にチャンバ11内にはnc(mol)以上の液体IPAが存在する必要がある。チャンバ11に導入される半導体基板上のIPAの量がnc(mol)未満である場合は、図示しない薬液供給部からチャンバ11内に液体IPAを供給し、チャンバ11内にnc(mol)以上の液体IPAを存在させるようにする。
【0034】
なお、このステップS105における加熱に伴い、液体IPAに混入して半導体基板の表面に存在していた純水も気化が進み、図4において実線で示される純水の蒸気圧曲線に従って、純水の分圧が上昇する。純水は、チャンバ11内の温度、その時の純水の蒸気圧、及びチャンバ11の容積に基づく量が気体(水蒸気)として存在し、それ以外は液体として存在する。液体IPAに混入していた純水は少量であるため、全て又は大半の純水が水蒸気になっていると考えられる。
【0035】
(ステップS106)ステップS105でIPAが超臨界状態になった後、ヒータ12を用いてさらに加熱を行い、チャンバ11内を所定温度Tw以上に昇温する(図4の矢印A1参照)。温度Twは、飽和水蒸気圧がIPAの臨界圧力Pcとなるときの純水の温度(沸点)である。IPAの臨界圧力Pcは約5.4MPaであるため、温度Twは約270℃となる。この時、チャンバ11内の純水は全て水蒸気として存在する。
【0036】
(ステップS107)ステップS106の加熱後、制御バルブ16を開いて、チャンバ11内の超臨界IPAを排出し、チャンバ11内を降圧する(図4の矢印A2参照)。この時、チャンバ11内の温度を所定温度Tw以上に維持しておく。
【0037】
チャンバ11内の圧力がIPAの臨界圧力Pc以下になると、IPAは超臨界流体から気体に相変化する。チャンバ11内の温度をTw以上にしているため、IPAが相変化した後も、純水は気体のままであり、再液化を防止できる。
【0038】
(ステップS108)チャンバ11内を大気圧まで降圧した後、チャンバ11を冷却し、半導体基板をチャンバ11から搬出する。
【0039】
または、チャンバ11内を大気圧まで降圧した後、半導体基板を高温のまま冷却チャンバ(図示せず)に搬送して冷却してもよい。この場合、チャンバ11を常にある程度の高温状態に保つことができるので、半導体基板の乾燥処理に要する時間を短縮することができる。
【0040】
このように、本実施形態では、半導体基板の表面を覆うIPAを液体IPAから超臨界IPAに置換し、その後、チャンバ11内の超臨界IPAを気体IPAに直接相変化するように乾燥させる。そのため、半導体基板上の微細パターンに毛管力(表面張力)が働かず、微細パターンを破壊することなく半導体基板を乾燥させることができる。
【0041】
また、チャンバ11内を降圧して、超臨界IPAを気体IPAに相変化させる際に、チャンバ11内の温度を、IPAの臨界圧力よりも純水の蒸気圧が高くなる温度にしておくことで、チャンバ11内の純水を気体(水蒸気)のままにしておき、液体になることを防止している。そのため、チャンバ11内の水蒸気が液化して半導体基板上に吸着し、パーティクル(乾燥シミ)が生じることを防止できる。
【0042】
本実施形態は、チャンバ11内のIPAを加熱して超臨界状態にし、チャンバ11内の温度をTw以上に維持しながらチャンバ11内を降圧して半導体基板を乾燥させている。一方、従来の超臨界乾燥方法では、長い時間をかけてチャンバに超臨界CO流体を供給し続け、半導体基板上及びチャンバ内のIPAを十分に溶解させて少しずつチャンバから排出し、チャンバ内から十分にIPAを排出してから、チャンバ内を降圧/硬温していた。本実施形態では、従来の超臨界乾燥方法のようにIPAが溶解した超臨界CO流体をチャンバから少しずつ排出させるといった時間のかかる処理を行う必要がないため、乾燥処理に要する時間を短縮することができる。
【0043】
このように、本実施形態に係る半導体基板の超臨界乾燥方法によれば、半導体基板上に生じるパーティクルを低減すると共に、乾燥処理に要する時間を短縮することができる。
【0044】
上記第1の実施形態では、水溶性有機溶媒にIPAを用いた例について説明したが、IPA以外の水溶性有機溶媒を使用した場合でも、同様の処理を行うことができる。
【0045】
また、上記第1の実施形態では、ステップS106でチャンバ11内を温度Tw以上まで昇温してから、ステップS107でチャンバ11内を降圧していたが、超臨界IPAが気体IPAに相変化する時にチャンバ11内の温度がTw以上になっていればよいので、チャンバ11内の降圧と昇温を並行して実施してもよい。
【0046】
(第2の実施形態)上記第1の実施形態では、半導体基板の純水リンス処理(ステップS102)の後に、半導体基板表面の液体を純水から水溶性有機溶媒に置換する液体置換処理(ステップS103)を行い、表面が水溶性有機溶媒で濡れた半導体基板をチャンバ11に導入(ステップS104)していたが、本実施形態では、半導体基板表面の液体を純水から水溶性有機溶媒に置換した後、半導体基板をチャンバ11に導入する前に、半導体基板表面の液体を水溶性有機溶媒から非水溶性有機溶媒に置換する。不燃性の非水溶性有機溶媒を使用することで、可燃性の水溶性有機溶媒を使用する上記第1の実施形態と比較して、チャンバ11のコストを削減することができる。
【0047】
図5に示すフローチャートを用いて、本実施形態に係る半導体基板の洗浄及び乾燥方法を説明する。なお、図5のステップS201、ステップS202、及びステップS203は、上記第1の実施形態における図3のステップS101、S102、及びステップS103と同様であるため、説明を省略する。
【0048】
(ステップS204)ステップS203の液体置換処理の後、表面が水溶性有機溶媒(IPAとする)で濡れた半導体基板を非水溶性有機溶媒に浸漬させ、半導体基板表面の液体をIPAから非水溶性有機溶媒に置換する液体置換処理が行われる。
【0049】
非水溶性有機溶媒には、水溶性有機溶媒よりも蒸気圧が高い(沸点が低い)もの、例えば、フッ化アルコール、ハイドロフルオロエーテル(HFE(例えばAE−3000(CFCHOCFCHF)))、クロロフルオロカーボン(CFC)、ハイドロフルオロカーボン(HFC)、パーフルオロカーボン(PFC)等を用いることができる。以下、非水溶性有機溶媒にHFEを使用する場合について説明する。
【0050】
この液体置換処理により、半導体基板表面はHFEに濡れた状態となるが、このHFEには(少量ではあるが)IPAが混入すると考えられる。
【0051】
(ステップS205)ステップS204の液体置換処理の後に、半導体基板が、表面がHFEで濡れた状態のまま、自然乾燥しないように、洗浄チャンバから搬出され、図2に示すチャンバ11に導入され、ステージ13に固定される。そして、制御バルブ16を閉じてチャンバ11の内部を密閉状態にする。
【0052】
(ステップS206)ヒータ12を用いて、密閉状態のチャンバ11内において、半導体基板の表面を覆っているHFEを加熱する。加熱されて気化したHFEの増加により、密閉されて一定容積となっているチャンバ11内の圧力は、図6の破線で示されるHFEの蒸気圧曲線に従って増加する。
【0053】
ここで、チャンバ11内の実際の圧力は、チャンバ11内に存在する全ての気体分子の分圧の総和となるが、本実施形態では、気体HFEの分圧をチャンバ11内の圧力として説明する。
【0054】
図6に示すように、チャンバ11内の圧力がHFEの臨界圧力Pc’に達した状態で、HFEを臨界温度Tc’以上に加熱すると、チャンバ11内のHFE(気体HFE及び液体HFE)は、超臨界状態となる。これにより、チャンバ11内は超臨界HFE(超臨界状態のHFE)で充填され、半導体基板の表面は、超臨界HFEに覆われた状態となる。
【0055】
なお、HFEが超臨界状態となるまで、半導体基板の表面を覆う液体HFEが全て気化しないように、すなわち半導体基板が液体HFEで濡れ、チャンバ11内に気体HFEと液体HFEが共存しているようにする。
【0056】
気体の状態方程式(PV=nRT;Pは圧力、Vは体積、nはモル数、Rは気体定数、Tは温度)に、温度Tc’、圧力Pc’、チャンバ11の容積を代入することで、HFEが超臨界状態になる時に、チャンバ11内に気体状態で存在するHFEの量nc’(mol)が求められる。
【0057】
従って、ステップS206で加熱を開始する前にチャンバ11内にはnc’(mol)以上の液体HFEが存在する必要がある。チャンバ11に導入される半導体基板上のHFEの量がnc’(mol)未満である場合は、図示しない薬液供給部からチャンバ11内に液体HFEを供給し、チャンバ11内にnc’(mol)以上の液体HFEを存在させるようにする。
【0058】
なお、このステップS206における加熱に伴い、液体HFEに混入して半導体基板の表面に存在していたIPAも気化が進み、図6において実線で示されるIPAの蒸気圧曲線に従って、IPAの分圧が上昇する。IPAは、チャンバ11内の温度、その時のIPAの蒸気圧、及びチャンバ11の容積に基づく量が気体として存在し、それ以外は液体として存在する。液体HFEに混入していたIPAは少量であるため、全て又は大半のIPAが気体になっていると考えられる。
【0059】
(ステップS207)ステップS206でHFEが超臨界状態になった後、ヒータ12を用いてさらに加熱を行い、チャンバ11内を所定温度Ts以上に昇温する(図6の矢印A3参照)。温度Tsは、IPAの蒸気圧が、HFEの臨界圧力Pc’となるときのIPAの温度(沸点)である。HFEの臨界圧力Pc’は約2.4MPaであるため、温度Tsは約200℃となる。この時、チャンバ11内のIPAは全て気体として存在する。
【0060】
(ステップS208)ステップS207の加熱後、制御バルブ16を開いて、チャンバ11内の超臨界HFEを排出し、チャンバ11内を降圧する(図6の矢印A4参照)。この時、チャンバ11内の温度を所定温度Ts以上に維持しておく。
【0061】
チャンバ11内の圧力がHFEの臨界圧力Pc’以下になると、HFEは超臨界流体から気体に相変化する。チャンバ11内の温度をTs以上にしているため、HFEが相変化した後も、IPAは気体のままであり、再液化を防止できる。
【0062】
(ステップS209)チャンバ11内を大気圧まで降圧した後、チャンバ11を冷却し、半導体基板をチャンバ11から搬出する。
【0063】
または、チャンバ11内を大気圧まで降圧した後、半導体基板を高温のまま冷却チャンバ(図示せず)に搬送して冷却してもよい。この場合、チャンバ11を常にある程度の高温状態に保つことができるので、半導体基板の乾燥処理に要する時間を短縮することができる。
【0064】
このように、本実施形態では、半導体基板の表面を覆うHFEを液体HFEから超臨界HFEに置換し、その後、チャンバ11内の超臨界HFEを気体HFEに直接相変化するように乾燥させる。そのため、半導体基板上の微細パターンに毛管力(表面張力)が働かず、微細パターンを破壊することなく半導体基板を乾燥させることができる。
【0065】
また、チャンバ11内を降圧して、超臨界HFEを気体HFEに相変化させる際に、チャンバ11内の温度を、HFEの臨界圧力よりもIPAの蒸気圧が高くなる温度にしておくことで、チャンバ11内のIPAを気体のままにしておき、液体になることを防止している。そのため、チャンバ11内の気体IPAが液化して半導体基板上に吸着し、パーティクルが生じることを防止できる。
【0066】
また、本実施形態は、チャンバ11内のHFEを加熱して超臨界状態にし、チャンバ11内の温度をTs以上に維持しながらチャンバ11内を降圧して半導体基板を乾燥させている。一方、従来の超臨界乾燥方法では、長い時間をかけてチャンバに超臨界CO流体を供給し続け、半導体基板上及びチャンバ内のIPAを十分に溶解させて少しずつチャンバから排出し、チャンバ内から十分にIPAを排出してから、チャンバ内を降圧/硬温していた。本実施形態では、従来の超臨界乾燥方法のようにIPAが溶解した超臨界CO流体をチャンバから少しずつ排出させるといった時間のかかる処理を行う必要がないため、乾燥処理に要する時間を短縮することができる。
【0067】
このように、本実施形態に係る半導体基板の超臨界乾燥方法によれば、半導体基板上に生じるパーティクルを低減すると共に、乾燥処理に要する時間を短縮することができる。さらに、乾燥に用いるチャンバ11のコストを削減することができる。
【0068】
上記第2の実施形態では、水溶性有機溶媒にIPA、非水溶性有機溶媒にHFEを使用した例について説明したが、IPA以外の水溶性有機溶媒、HFE以外の非水溶性有機溶媒を使用した場合でも、同様の処理を行うことができる。
【0069】
上記第2の実施形態では、ステップS207でチャンバ11内を温度Ts以上まで昇温してから、ステップS208でチャンバ11内を降圧していたが、超臨界HFEが気体HFEに相変化する時にチャンバ11内の温度がTs以上になっていればよいので、チャンバ11内の降圧と昇温を並行して実施してもよい。
【0070】
なお、本発明は上記実施形態そのままに限定されるものではなく、実施段階ではその要旨を逸脱しない範囲で構成要素を変形して具体化できる。また、上記実施形態に開示されている複数の構成要素の適宜な組み合わせにより、種々の発明を形成できる。例えば、実施形態に示される全構成要素から幾つかの構成要素を削除してもよい。さらに、異なる実施形態にわたる構成要素を適宜組み合わせてもよい。
【符号の説明】
【0071】
10 超臨界乾燥装置
11 チャンバ
12 ヒータ
13 ステージ
15 配管
16 制御バルブ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
薬液を用いて半導体基板を洗浄する工程と、
前記洗浄後に、純水を用いて前記半導体基板をリンスする工程と、
前記リンス後に、前記半導体基板の表面に水溶性有機溶媒を供給して、前記半導体基板の表面を覆う液体を純水から前記水溶性有機溶媒に置換する工程と、
表面が前記水溶性有機溶媒で濡れた前記半導体基板をチャンバ内に導入する工程と、
前記チャンバ内の温度を前記水溶性有機溶媒の臨界温度以上に昇温して、前記水溶性有機溶媒を超臨界状態にする工程と、
前記水溶性有機溶媒を超臨界状態にした後、前記チャンバ内の温度を純水が液化しない所定温度に保ちながら前記チャンバ内の圧力を下げ、超臨界状態の前記水溶性有機溶媒を気体に変化させて、前記チャンバから排出する工程と、
を備える半導体基板の超臨界乾燥方法。
【請求項2】
前記所定温度は、前記水溶性有機溶媒の臨界圧力よりも純水の蒸気圧が高くなる温度であることを特徴とする請求項1に記載の半導体基板の超臨界乾燥方法。
【請求項3】
前記水溶性有機溶媒は純水よりも蒸気圧が高いことを特徴とする請求項1又は2に記載の半導体基板の超臨界乾燥方法。
【請求項4】
前記水溶性有機溶媒は、アルコール又はケトンを含むことを特徴とする請求項3に記載の半導体基板の超臨界乾燥方法。
【請求項5】
薬液を用いて半導体基板を洗浄する工程と、
前記洗浄後に、純水を用いて前記半導体基板をリンスする工程と、
前記リンス後に、前記半導体基板の表面に水溶性有機溶媒を供給して、前記半導体基板の表面を覆う液体を純水から前記水溶性有機溶媒に置換する工程と、
前記置換後に、前記半導体基板の表面に非水溶性有機溶媒を供給して、前記半導体基板の表面を覆う液体を前記水溶性有機溶媒から前記非水溶性有機溶媒に置換する工程と、
表面が前記非水溶性有機溶媒で濡れた前記半導体基板をチャンバ内に導入する工程と、
前記チャンバ内の温度を前記非水溶性有機溶媒の臨界温度以上に昇温して、前記非水溶性有機溶媒を超臨界状態にする工程と、
前記非水溶性有機溶媒を超臨界状態にした後、前記チャンバ内の温度を前記水溶性有機溶媒が液化しない所定温度に保ちながら前記チャンバ内の圧力を下げ、超臨界状態の前記非水溶性有機溶媒を気体に変化させて、前記チャンバから排出する工程と、
を備える半導体基板の超臨界乾燥方法。
【請求項6】
前記所定温度は、前記非水溶性有機溶媒の臨界圧力よりも前記水溶性有機溶媒の蒸気圧が高くなる温度であることを特徴とする請求項5に記載の半導体基板の超臨界乾燥方法。
【請求項7】
前記非水溶性有機溶媒は前記水溶性有機溶媒よりも蒸気圧が高いことを特徴とする請求項5又は6に記載の半導体基板の超臨界乾燥方法。
【請求項8】
前記水溶性有機溶媒はアルコール又はケトンを含み、前記非水溶性有機溶媒はフッ化アルコール、ハイドロフルオロエーテル(HFE)、クロロフルオロカーボン(CFC)、ハイドロフルオロカーボン(HFC)、及びパーフルオロカーボンのうちいずれか1つを含むことを特徴とする請求項7に記載の半導体基板の超臨界乾燥方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2012−109301(P2012−109301A)
【公開日】平成24年6月7日(2012.6.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−254922(P2010−254922)
【出願日】平成22年11月15日(2010.11.15)
【出願人】(000003078)株式会社東芝 (54,554)
【Fターム(参考)】