説明

半導体封止充てん用熱硬化性樹脂組成物及び半導体装置

【課題】高温下での接続信頼性に優れた、すなわち高温下でも充分な接着力、かつ良好な接続状態で半導体を封止充てんすることが可能な半導体封止充てん用熱硬化性樹脂組成物を提供すること。
【解決手段】熱硬化性樹脂、硬化剤、フラックス剤、平均粒径が異なる少なくとも2種類以上の無機フィラを必須成分としており、前記無機フィラは、平均粒径が100nm以下の無機フィラ、及び平均粒径が100nmより大きい無機フィラを含む半導体封止充てん用熱硬化性樹脂組成物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、半導体封止充てん用熱硬化性樹脂組成物及びそれを用いて製造された半導体装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、電子機器の小型化、高機能化の進展に伴って、半導体装置に対して小型化、薄型化及び電気特性の向上(高周波伝送への対応など)が求められている。これに伴い、従来のワイヤーボンディングで半導体チップを基板に実装する方式から、半導体チップにバンプと呼ばれる導電性の突起電極を形成して基板電極と直接接続するフリップチップ接続方式への移行が始まっている。
半導体チップに形成されるバンプとしては、はんだや金で構成されたバンプが用いられているが、近年の微細接続化に対応するために、銅バンプや銅ピラーの先端にはんだ層またはスズ層が形成された構造のバンプが用いられるようになってきている。
また、高信頼性化のために、金属接合による接続が求められており、はんだバンプを用いたはんだ接合や銅ピラーの先端にはんだ層やスズ層が形成された構造のバンプによる金属接合だけでなく、銅バンプや金バンプを用いた場合でも、基板電極側にはんだ層やスズ層を形成して、金属接合させる接続方法が採用されている。
【0003】
さらに、フリップチップ接続方式では半導体チップと基板の熱膨張係数差に由来する熱応力が接続部に集中して接続部を破壊するおそれがあることから、この熱応力を分散して接続信頼性を高めるために、半導体チップと基板の間の空隙を樹脂で封止充てんする必要がある。一般に、樹脂による封止充てんは、半導体チップと基板をはんだなどを用いて接続した後、空隙に液状封止樹脂を毛細管現象を利用して注入する方式が採用されている。
【0004】
チップと基板を接続する際には、はんだ表面の酸化膜を還元除去して金属接合を容易にするために、ロジンや有機酸などからなるフラックスを用いている。ここで、フラックスの残渣が残ると、液状樹脂を注入した場合にボイドと呼ばれる気泡発生の原因になったり、酸成分によって配線の腐食が発生し、接続信頼性が低下することから、残渣を洗浄する工程が必須であった。しかし、接続ピッチの狭ピッチ化に伴って、半導体チップと基板の間の空隙が狭くなっているため、フラックス残渣の洗浄が困難になる場合があった。さらに、半導体チップと基板の間の狭い空隙に液状樹脂を注入するのに長時間を要して生産性が低下するという課題があった。
【0005】
このような液状封止樹脂の課題を解決するために、はんだ表面の酸化膜を還元除去する性質(フラックス活性)を備えた封止樹脂を用いて、封止樹脂を基板に供給した後、半導体チップと基板を接続すると同時に、半導体チップと基板の間の空隙を樹脂で封止充てんし、フラックス残渣の洗浄を省略することが可能となる先供給方式と呼ばれる接続方法が提案されており、この接続方法に対応した封止充てん用樹脂の開発が行われている(例えば、特許文献1〜3参照)。
【0006】
さらに、接続プロセスを簡略化するために、半導体ウエハのバンプ形成面に封止充てん用樹脂層を形成した後、半導体チップに個片化することによって、複数の樹脂層形成チップを一括で作製し、半導体チップと基板を接続する、いわゆるウエハプロセスが注目されており、このプロセスに対応した封止充てん用樹脂の開発も盛んに行われている(例えば、特許文献4〜6参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2003−138100号明細書
【特許文献2】特開2005−320368号明細書
【特許文献3】特開2009−24099号明細書
【特許文献4】特表2007−504684号明細書
【特許文献5】特開2008−294382号明細書
【特許文献6】特開2009−135308号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
ところで、近年の鉛フリー化の動きに伴って、これまでの共晶はんだではなくSn−Ag−Cuなどの鉛フリーはんだが用いられるようになってきており、半導体装置の実装温度が240℃から260℃に高温化している。このため、封止充てん用樹脂に対しても高温下での高信頼性化の要求が高まっており、特に高温下でのさらなる接着力の向上が求められている。
【0009】
そこで本発明は、高温下での接続信頼性に優れた、すなわち高温下でも充分な接着力、かつ良好な接続状態で半導体を封止充てんすることが可能な半導体封止充てん用熱硬化性樹脂組成物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は、熱硬化性樹脂、硬化剤、フラックス剤、平均粒径が異なる少なくとも2種類以上の無機フィラを必須成分としており、無機フィラは、平均粒径が100nm以下の無機フィラ、及び平均粒径が100nmより大きい無機フィラを含む半導体封止充てん用熱硬化性樹脂組成物を提供する。なお、ここでいう、平均粒径はレーザー光回折法を利用した粒度分布測定装置でメジアン径として求めることができるものである。
【0011】
かかる半導体封止充てん用熱硬化性樹脂組成物によれば、高温下でも充分な接着力、かつ良好な接続状態で半導体を封止充てんすることが可能である。
【0012】
上記半導体封止充てん用熱硬化性樹脂組成物は、取り扱い性を向上させることができる点から、フィルム状に形成されていることが好ましい。
【0013】
上記半導体封止充てん用熱硬化性樹脂組成物は、本発明の効果をより高度に奏することができる点から、250℃における粘度が100Pa・s以下であることが好ましい。
【0014】
上記半導体封止充てん用熱硬化性樹脂組成物は、555nmの光に対する透過率が10%以上であることが好ましい。半導体封止充てん用熱硬化性樹脂組成物を上述のウエハプロセスに対応させるためには、ダイシングや位置合わせ時に半導体ウエハ表面のパターン形状やアライメントマークを、封止充てん用樹脂層を通して認識する必要があるが、555nmの光に対する透過率を上記範囲とすることにより、これを容易に行うことができる。
【0015】
本発明はまた、上記半導体封止充てん用熱硬化性樹脂組成物を用いて製造された半導体装置を提供する。
【0016】
かかる半導体装置は、上述の半導体封止充てん用熱硬化性樹脂組成物を用いているので、接続信頼性に優れる。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、高温下でも充分な接着力、かつ良好な接続状態で半導体を封止充てんすることが可能な半導体封止充てん用熱硬化性樹脂組成物、及びこれを用いた半導体装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】本発明の熱硬化性樹脂組成物を用いて製造された半導体装置の一例を示す断面図である。
【図2】実施例5の熱硬化性樹脂組成物を半導体チップに貼り付けて、フリップチップボンダーの認識カメラで半導体チップ表面に形成されているアライメントマークを観察した結果を示す写真である。
【図3】実施例5の熱硬化性樹脂組成物を用いて作製した半導体装置の接続状態を観察した断面図である。
【図4】比較例2の熱硬化性樹脂組成物を用いて作製した半導体装置の接続状態を観察した断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
本発明の半導体封止充てん用熱硬化性樹脂組成物(以下、単に「熱硬化性樹脂組成物」ともいう。)は、熱硬化性樹脂、硬化剤、フラックス剤、平均粒径が異なる少なくとも2種類以上の無機フィラを必須成分とする。
【0020】
熱硬化性樹脂としては、フェノール樹脂、シアネート樹脂、ベンゾシクロブテン樹脂、アクリレート樹脂、メタクリレート樹脂、エポキシ樹脂などが挙げられ、耐熱性や作業性の観点からエポキシ樹脂を用いることが特に望ましい。
【0021】
エポキシ樹脂としては、2官能以上であれば特に限定されず、例えばビスフェノールA型エポキシ樹脂、ビスフェノールF型エポキシ樹脂、ビスフェノールS型エポキシ樹脂、フェノールノボラック型エポキシ樹脂、クレゾールノボラック型エポキシ樹脂、ビフェニル型エポキシ樹脂、ハイドロキノン型エポキシ樹脂、ジフェニルスルフィド骨格含有エポキシ樹脂、フェノールアラルキル型多官能エポキシ樹脂、ナフタレン骨格含有多官能エポキシ樹脂、ジシクロペンタジエン骨格含有多官能エポキシ樹脂、トリフェニルメタン骨格含有多官能エポキシ樹脂、アミノフェノール型エポキシ樹脂、ジアミノジフェニルメタン型エポキシ樹脂、その他各種多官能エポキシ樹脂を用いることができる。これらの中でも、低粘度化、低吸水率、高耐熱性の観点から、ビスフェノールA型エポキシ樹脂、ビスフェノールF型エポキシ樹脂、ナフタレン骨格含有多官能エポキシ樹脂、ジシクロペンタジエン骨格含有多官能エポキシ樹脂、トリフェニルメタン骨格含有多官能エポキシ樹脂を用いることが望ましい。また、これらのエポキシ樹脂の性状としては25℃で液状でも固形でも構わない。また、これらのエポキシ樹脂は単独または2種以上を混合して用いてもよい。
【0022】
熱硬化性樹脂の硬化剤としては、例えば、イミダゾール類、酸無水物類、アミン類、フェノール類、ヒドラジド類、ポリメルカプタン類、ルイス酸−アミン錯体、有機過酸化物、光酸発生剤が挙げられる。これらはエポキシ樹脂の硬化剤としても用いることができ、それらの中でも、低粘度化、保存安定性、硬化物の耐熱性などの観点から、イミダゾール類、酸無水物類、アミン類、フェノール類を用いることが望ましい。
【0023】
イミダゾール類としては、例えば、2MZ、C11Z、2PZ、2E4MZ、2P4MZ、1B2MZ、1B2PZ、2MZ−CN、2E4MZ−CN、2PZ−CN、C11Z−CN、2PZ−CNS、C11Z−CNS、2MZ−A、C11Z−A、2E4MZ−A、2P4MHZ、2PHZ、2MA−OK、2PZ−OK(四国化成工業株式会社製、製品名)や、これらのイミダゾール類をエポキシ樹脂と付加させた化合物が挙げられる。また、これら硬化剤をポリウレタン系、ポリエステル系の高分子物質等で被覆してマイクロカプセル化したものは可使時間が延長されるために好ましい。これらは単独または2種以上を混合して使用することもできる。
【0024】
イミダゾール類の配合量としては、エポキシ樹脂に対して0.1〜10重量%配合することが望ましく、より好ましくは0.5〜10重量%、さらに好ましくは1〜10重量%である。0.1重量%より少ないと、充分に硬化しないおそれがあり、10重量%を超えると保存安定性が低下したり、ゲル化時間が速くなりすぎるおそれがある。
【0025】
酸無水物としては、例えば、マレイン酸無水物、コハク酸無水物、ドデセニルコハク酸無水物、フタル酸無水物、テトラヒドロフタル酸無水物、メチルテトラヒドロフタル酸無水物、ヘキサヒドロフタル酸無水物、メチルヘキサヒドロフタル酸無水物、エンドメチレンテトラヒドロフタル酸、メチルエンドメチレンテトラヒドロフタル酸、メチルハイミック酸無水物、ピロメリット酸二無水物、ベンゾフェノンテトラカルボン酸二無水物、ポリアゼライン酸無水物、アルキルスチレン−マレイン酸無水物共重合体、3,4−ジメチル−6−(2−メチル−1−プロペニル)−4−シクロヘキセン−1,2−ジカルボン酸無水物、1−イソプロピル−4−メチル−ビシクロ[2.2.2]オクト−5−エン−2,3−ジカルボン酸無水物、エチレングリコールビストリメリテート、グリセロールトリスアンヒドロトリメリテートを用いることができる。これらの中でも、特に、耐熱性や耐湿性の観点から、メチルテトラヒドロフタル酸無水物、メチルヘキサヒドロフタル酸無水物、エンドメチレンテトラヒドロフタル酸、メチルエンドメチレンテトラヒドロフタル酸、3,4−ジメチル−6−(2−メチル−1−プロペニル)−4−シクロヘキセン−1,2−ジカルボン酸無水物、1−イソプロピル−4−メチル−ビシクロ[2.2.2]オクト−5−エン−2,3−ジカルボン酸無水物、エチレングリコールビストリメリテート、グリセロールトリスアンヒドロトリメリテートを用いることが望ましい。これらは単独または2種以上を混合して使用することもできる。
【0026】
酸無水物の配合量としては、エポキシ基の数と酸無水物基から発生するカルボン酸の数の比(エポキシ基の数/カルボン酸の数)が0.5〜1.5となるように配合することが好ましく、より好ましくは0.7〜1.2である。0.5より小さい場合、カルボン酸基が過剰に残存し、上記範囲にある場合と比べて絶縁信頼性が低下するおそれがあり、1.5より大きい場合、硬化が充分進行しないおそれがある。
【0027】
アミン類としては、1級または2級アミノ基を分子内に少なくとも一つ以上有している化合物であれば特に限定されないが、保存安定性及び硬化物の耐熱性の観点から芳香族アミン類が望ましい。芳香族アミン類としては、例えば、ジアミノジフェニルメタン、ジアミノジフェニルスルホン、ジアミノジフェニルスルフィド、メタキシレンジアミン、3,3’−ジエチル−4,4’−ジアミノジフェニルメタン、3,3’,5,5’−テトラエチル−4,4’−ジアミノジフェニルメタン、4,4’−ジアミノジフェニルスルホン、4,4’−ジアミノジフェニルスルフィド、2,2−ビス−[4−(4−アミノフェノキシ)フェニル]−ヘキサフルオロプロパン、2,2−ビス(4−アミノフェニル)−ヘキサフルオロプロパン、2,4−ジアミノトルエン、1,4−ジアミノベンゼン、1,3−ジアミノベンゼン、ジエチルトルエンジアミン、ジメチルトルエンジアミン、アニリン類、アルキル化アニリン類、N−アルキル化アニリン類を用いることができる。これらは単独または2種以上を混合して使用することもできる。
【0028】
アミン類の配合量としては、エポキシ基の数と活性水素の数の比(エポキシ基の数/活性水素の数)が0.5〜1.5になるように配合することが望ましく、より好ましくは0.7〜1.2である。0.5より小さい場合にはアミン類が過剰に残存し、耐湿信頼性が低下するおそれがあり、1.5より大きい場合には、硬化が充分に進行しないおそれがある。
【0029】
フェノール類としては、ビスフェノール樹脂、フェノールノボラック樹脂、ナフトールノボラック樹脂、アリル化フェノールノボラック樹脂、ビフェノール樹脂、クレゾールノボラック樹脂、フェノールアラルキル樹脂、クレゾールナフトールホルムアルデヒド重縮合物、トリフェニルメタン型多官能フェノール樹脂、キシリレン変性フェノールノボラック樹脂、キシリレン変性ナフトールノボラック樹脂、各種多官能フェノール樹脂等を使用することができる。これらは1種を単独でまたは2種以上の混合体として使用することができる。
【0030】
フェノール類の配合量としては、エポキシ基の数とフェノール性水酸基の数の比(エポキシ基の数/フェノール性水酸基の数)が0.5〜1.5になるように配合することが望ましく、より好ましくは0.7〜1.2である。0.5より小さい場合にはフェノール類が過剰に残存し、耐湿信頼性が低下するおそれがあり、1.5より大きい場合には硬化が充分進行しないおそれがある。
【0031】
酸無水物類、アミン類、フェノール類を硬化剤として用いる場合、硬化促進剤を併用してもよい。硬化促進剤としては前記イミダゾール類の他に、3級アミン類、1,8−ジアザビシクロ(5.4.0)ウンデセン−7や1,5−ジアザビシクロ(4.3.0)ノネン−5などの環状アミン類及びそれらのテトラフェニルボレート塩、トリブチルホスフィンなどのトリアルキルホスフィン類、トリフェニルホスフィンなどのトリアリールホスフィン類、テトラフェニルホスホニウムテトラフェニルボレートやテトラ(n−ブチル)ホスホニウムテトラフェニルボレートなどの4級ホスホニウム塩などを用いることができる。配合量はゲル化時間や保存安定性を考慮して適宜設定される。
【0032】
フラックス剤としてはアルコール類、フェノール類、カルボン酸類の中から選ばれる少なくとも1種類の化合物を用いることが望ましい。
【0033】
アルコール類としては、分子内に少なくとも2個以上のアルコール性水酸基を有する化合物であれば特に制限はなく、例えば、1,3−ジオキサン−5,5−ジメタノール、1,5−ペンタンジオール、2,5−フランジメタノール、ジエチレングリコール、テトラエチレングリコール、ペンタエチレングリコール、ヘキサエチレングリコール、1,2,3−ヘキサントリオール、1,2,4−ブタントリオール、1,2,6−ヘキサントリオール、3−メチルペンタン−1,3,5−トリオール、グリセリン、トリメチロールエタン、トリメチロールプロパン、エリトリトール、ペンタエリトリトール、リビトール、ソルビトール、2,4−ジエチル−1,5−ペンタンジオール、プロピレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノエチルエーテル、1,3−ブチレングリコール、2−エチル−1,3−ヘキサンジオール、N−ブチルジエタノールアミン、N−エチルジエタノールアミン、ジエタノールアミン、トリエタノールアミン、N,N−ビス(2−ヒドロキシエチル)イソプロパノールアミン、ビス(2−ヒドロキシメチル)イミノトリス(ヒドロキシメチル)メタン、N,N,N’,N’−テトラキス(2−ヒドロキシエチル)エチレンジアミン、1,1’,1’’,1’’’−(エチレンジニトリロ)テトラキス(2−プロパノール)を用いることができる。中でも、3級窒素原子を有する化合物、例えば、N−ブチルジエタノールアミン、N−エチルジエタノールアミン、トリエタノールアミン、N,N−ビス(2−ヒドロキシエチル)イソプロパノールアミン、ビス(2−ヒドロキシメチル)イミノトリス(ヒドロキシメチル)メタン、N,N,N’,N’−テトラキス(2−ヒドロキシエチル)エチレンジアミン、1,1’,1’’,1’’’−(エチレンジニトリロ)テトラキス(2−プロパノール)は、その他の化合物に比較して、良好なフラックス活性を示すことから望ましい。良好なフラックス活性を示す詳細な理由は明らかではないが、アルコール性水酸基による酸化膜還元能と、3級窒素原子上の不対電子に由来する電子供与性による還元能が併せて作用することに起因していると推測される。これらの化合物は単独で用いてもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0034】
フェノール類としては、少なくとも2個以上のフェノール性水酸基を有する化合物であれば特に制限はなく、例えば、カテコール、レゾルシノール、ハイドロキノン、ビフェノール、ジヒドロキシナフタレン、ヒドロキシハイドロキノン、ピロガロール、メチリデンビフェノール(ビスフェノールF)、イソプロピリデンビフェノール(ビスフェノールA)、エチリデンビフェノール(ビスフェノールAD)、1,1,1−トリス(4−ヒドロキシフェニル)エタン、トリヒドロキシベンゾフェノン、トリヒドロキシアセトフェノン、ポリp−ビニルフェノールが挙げられる。さらに、少なくとも2個以上のフェノール性水酸基を有する化合物として、フェノール性水酸基を分子内に少なくとも1個以上有する化合物から選ばれる少なくとも1種類以上の化合物とハロメチル基、アルコキシメチル基またはヒドロキシルメチル基を分子内に2個有する芳香族化合物、ジビニルベンゼン及びアルデヒド類から選ばれる少なくとも1種類以上の化合物との重縮合物も用いることができる。フェノール性水酸基を分子内に少なくとも1個以上有する化合物としては、例えば、フェノール、アルキルフェノール、ナフトール、クレゾール、カテコール、レゾルシノール、ハイドロキノン、ビフェノール、ジヒドロキシナフタレン、ヒドロキシハイドロキノン、ピロガロール、メチリデンビフェノール(ビスフェノールF)、イソプロピリデンビフェノール(ビスフェノールA)、エチリデンビフェノール(ビスフェノールAD)、1,1,1−トリス(4−ヒドロキシフェニル)エタン、トリヒドロキシベンゾフェノン、トリヒドロキシアセトフェノン、ポリp−ビニルフェノールが挙げられる。また、ハロメチル基、アルコキシメチル基またはヒドロキシルメチル基を分子内に2個有する芳香族化合物としては、例えば、1,2−ビス(クロロメチル)ベンゼン、1,3−ビス(クロロメチル)ベンゼン、1,4−ビス(クロロメチル)ベンゼン、1,2−ビス(メトキシメチル)ベンゼン、1,3−ビス(メトキシメチル)ベンゼン、1,4−ビス(メトキシメチル)ベンゼン、1,2−ビス(ヒドロキシメチル)ベンゼン、1,3−ビス(ヒドロキシメチル)ベンゼン、1,4−ビス(ヒドロキシメチル)ベンゼン、ビス(クロロメチル)ビフェニル、ビス(メトキシメチル)ビフェニルが挙げられる。アルデヒド類としては、例えば、ホルムアルデヒド(その水溶液としてホルマリン)、パラホルムアルデヒド、トリオキサン、ヘキサメチレンテトラミンが挙げられる。重縮合物としては、例えば、フェノールとホルムアルデヒドの重縮合物であるフェノールノボラック樹脂、クレゾールとホルムアルデヒドとの重縮合物であるクレゾールノボラック樹脂、ナフトール類とホルムアルデヒドとの重縮合物であるナフトールノボラック樹脂、フェノールと1,4−ビス(メトキシメチル)ベンゼンとの重縮合物であるフェノールアラルキル樹脂、ビスフェノールAとホルムアルデヒドの重縮合物、フェノールとジビニルベンゼンとの重縮合物、クレゾールとナフトールとホルムアルデヒドの重縮合物が挙げられ、これらの重縮合物をゴム変性したものや分子骨格内にアミノトリアジン骨格やジシクロペンタジエン骨格を導入したものでもよい。さらに、これらのフェノール性水酸基を有する化合物をアリル化することによって液状したものとして、アリル化フェノールノボラック樹脂、ジアリルビスフェノールA、ジアリルビスフェノールF、ジアリルビフェノールなどが挙げられる。これらの化合物は単独で用いてもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0035】
カルボン酸類としては、脂肪族カルボン酸、芳香族カルボン酸のいずれであってもよい。脂肪族カルボン酸としては、例えば、マロン酸、メチルマロン酸、ジメチルマロン酸、エチルマロン酸、アリルマロン酸、2,2’−チオジ酢酸、3.3’−チオジプロピオン酸、2,2’−(エチレンジチオ)ジ酢酸、3,3’−ジチオジプロピオン酸、2−エチル−2−ヒドロキシ酪酸、ジチオジグリコール酸、ジグリコール酸、アセチレンジカルボン酸、マレイン酸、リンゴ酸、2−イソプロピルリンゴ酸、酒石酸、イタコン酸、1,3−アセトンジカルボン酸、トリカルバリン酸、ムコン酸、β−ヒドロムコン酸、コハク酸、メチルコハク酸、ジメチルコハク酸、グルタル酸、α−ケトグルタル酸、2−メチルグルタル酸、3−メチルグルタル酸、2,2−ジメチルグルタル酸、3,3−ジメチルグルタル酸、2,2−ビス(ヒドロキシメチル)プロピオン酸、クエン酸、アジピン酸、3−tert−ブチルアジピン酸、ピメリン酸、フェニルシュウ酸、フェニル酢酸、ニトロフェニル酢酸、フェノキシ酢酸、ニトロフェノキシ酢酸、フェニルチオ酢酸、ヒドロキシフェニル酢酸、ジヒドロキシフェニル酢酸、マンデル酸、ヒドロキシマンデル酸、ジヒドロキシマンデル酸、1,2,3,4−ブタンテトラカルボン酸、スベリン酸、4,4’−ジチオジ酪酸、けい皮酸、ニトロけい皮酸、ヒドロキシけい皮酸、ジヒドロキシけい皮酸、クマリン酸、フェニルピルビン酸、ヒドロキシフェニルピルビン酸、カフェ酸、ホモフタル酸、トリル酢酸、フェノキシプロピオン酸、ヒドロキシフェニルプロピオン酸、ベンジルオキシ酢酸、フェニル乳酸、トロパ酸、3−(フェニルスルホニル)プロピオン酸、3,3−テトラメチレングルタル酸、5−オキソアゼライン酸、アゼライン酸、フェニルコハク酸、1,2−フェニレンジ酢酸、1,3−フェニレンジ酢酸、1,4−フェニレンジ酢酸、ベンジルマロン酸、セバシン酸、ドデカン二酸、ウンデカン二酸、ジフェニル酢酸、ベンジル酸、ジシクロヘキシル酢酸、テトラデカン二酸、2,2−ジフェニルプロピオン酸、3,3−ジフェニルプロピオン酸、4,4−ビス(4−ヒドロキシフェニル)吉草酸、ピマール酸、パラストリン酸、イソピマル酸、アビエチン酸、デヒドロアビエチン酸、ネオアビエチン酸、アガト酸が挙げられる。芳香族カルボン酸としては、例えば、安息香酸、2−ヒドロキシ安息香酸、3−ヒドロキシ安息香酸、4−ヒドロキシ安息香酸、2,3−ジヒドロキシ安息香酸、2,4−ジヒドロキシ安息香酸、2,5−ジヒドロキシ安息香酸、2,6−ジヒドロキシ安息香酸、3,4−ジヒドロキシ安息香酸、2,3,4−トリヒドロキシ安息香酸、2,4,6−トリヒドロキシ安息香酸、3,4,5−トリヒドロキシ安息香酸、1,2,3−ベンゼントリカルボン酸、1,2,4−ベンゼントリカルボン酸、1,3,5−ベンゼントリカルボン酸、2−[ビス(4−ヒドロキシフェニル)メチル]安息香酸、1−ナフトエ酸、2−ナフトエ酸、1−ヒドロキシ−2−ナフトエ酸、2−ヒドロキシ−1−ナフトエ酸、3−ヒドロキシ−2−ナフトエ酸、6−ヒドロキシ−2−ナフトエ酸、1,4−ジヒドロキシ−2−ナフトエ酸、3,5−ジヒドロキシ−2−ナフトエ酸、3,7−ジヒドロキシ−2−ナフトエ酸、2,3−ナフタレンジカルボン酸、2,6−ナフタレンジカルボン酸、2−フェノキシ安息香酸、ビフェニル−4−カルボン酸、ビフェニル−2−カルボン酸、2−ベンゾイル安息香酸が挙げられる。これらの中でも、保存安定性や入手容易さの観点から、コハク酸、リンゴ酸、イタコン酸、2,2−ビス(ヒドロキシメチル)プロピオン酸、アジピン酸、3,3’−チオジプロピオン酸、3,3’−ジチオジプロピオン酸、1,2,3,4−ブタンテトラカルボン酸、スベリン酸、セバシン酸、フェニルコハク酸、ドデカン二酸、ジフェニル酢酸、ベンジル酸、4,4−ビス(4−ヒドロキシフェニル)吉草酸、アビエチン酸、2,5−ジヒドロキシ安息香酸、3,4,5−トリヒドロキシ安息香酸、1,2,4−ベンゼントリカルボン酸、1,3,5−ベンゼントリカルボン酸、2−[ビス(4−ヒドロキシフェニル)メチル]安息香酸を用いることが望ましい。これらの化合物は単独で用いてもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0036】
さらにフラックス剤としては、室温で液状であっても固形であっても構わないが、保存安定性の観点から室温で固形の化合物を用いることが望ましい。
【0037】
熱硬化樹脂組成物中のフラックス剤の含有量は、熱硬化性樹脂100質量部に対して、例えば1〜10質量部とすることができる。
【0038】
無機フィラは、平均粒径が100nm以下(好ましくは75nm以下)の無機フィラ、及び平均粒径が100nmより大きい(好ましくは150nmより大きい)無機フィラを含む。ここでいう平均粒径とは、粒度分布計で測定したメジアン径を指す。
【0039】
無機フィラの材質としては、例えば、ガラス、二酸化ケイ素(シリカ)、酸化アルミニウム(アルミナ)、ケイ素とアルミニウムの複合酸化物(ムライト)、酸化チタン(チタニア)、ケイ素とチタンの複合酸化物、酸化マグネシウム、二酸化ジルコニウム(ジルコニア)、酸化セリウム(セリア)、カーボンブラック、マイカ、硫酸バリウム、窒化ホウ素が挙げられる。中でも、シリカ、アルミナ、ムライト、ケイ素とチタンの複合酸化物、窒化ホウ素が不純物の観点から、特に好適である。また、形状としては、破砕状、真球状、りん片状、針状などがあるが、分散性の観点から、真球状のものが望ましい。
【0040】
無機フィラは表面処理されていないものでも、シランカップリング剤などであらかじめ表面処理されたものでもよいが、分散性を向上させるために、少なくとも平均粒径が100nm以下の無機フィラは表面処理されたものを用いることが望ましい。表面処理によって、無機フィラ表面に導入される官能基としては、例えば、アルキル基、ビニル基、アクリル基、メタクリル基、アミノ基、ウレイド基、フェニル基、グリシジル基、アニリノ基、イソシアヌル基、スチリル基が挙げられ、中でも、アルキル基、アクリル基、フェニル基、グリシジル基は分散性の観点から好ましい。また、表面処理に用いられるシランカップリング剤としては、例えば、ビニルトリメトキシシラン、3−メルカプトプロピルトリメトキシシラン、3−アクリロキシプロピルトリメトキシシラン、3−メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン、3−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、3−グリシドキシプロピルメチルジメトキシシラン、3−アミノプロピルトリメトキシシラン、3−(2−アミノエチル)アミノプロピルトリメトキシシラン、3−(2−アミノエチル)プロピルメチルジメトキシシラン、3−アニリノプロピルトリメトキシシラン、3−アニリノプロピルトリメトキシシラン、3−ウレイドプロピルトリメトキシシラン、メチルトリメトキシシラン、ジメチルジメトキシシラン、トリメチルメトキシシラン、メチルトリフェノキシシラン、n−プロピルトリメトキシシラン、n−ブチルトリメトキシシラン、イソブチルトリメトキシシラン、n−ヘキシルトリメトキシシラン、シクロヘキシルトリメトキシシラン、n−オクチルトリメトキシシラン、n−デシルトリメトキシシラン、1,6−ビス(トリメトキシシリル)ヘキサン、フェニルトリメトキシシラン、ジフェニルジメトキシシラン、p−スチリルトリメトキシシラン、2−(3,4エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシラン、N−フェニル−3−アミノプロピルトリメトキシシラン、1,3,5−N−トリス(トリメトキシシリルプロピル)イソシアヌレートが挙げられる。
【0041】
無機フィラの配合量としては、熱硬化性樹脂組成物全体の30〜80wt%が望ましく、40〜70wt%がより望ましく、40〜65wt%がさらに望ましい。配合量が30wt%未満であると、熱膨張係数が大きくなり、信頼性が低下するおそれがあり、80wt%を超えると、熱硬化性樹脂組成物の粘度が高くなりすぎて、接続信頼性が低下したり、フィルム状熱硬化性樹脂組成物の場合は脆くなって取り扱い性が低下する場合がある。
【0042】
平均粒径が100nm以下の無機フィラの配合量は、無機フィラ全体の10〜90wt%であることが望ましく、20〜90wt%であることがより望ましく、30〜90wt%であることがさらに望ましい。10wt%未満であると、接着力を向上させる効果が低下する場合がある。90wt%を超えると熱硬化性樹脂組成物の粘度が高くなりすぎて、接続信頼性が低下したり、フィルム状熱硬化性樹脂組成物の場合は脆くなって取り扱い性が低下する場合がある。
【0043】
また、後述するようにダイシングラインや接続時の位置合わせを行うための基準マークを、熱硬化性樹脂組成物層を通して認識することができるようにするためには、平均粒径が100nm以下の無機フィラの配合量は、無機フィラ全体の45wt%以上であることが望ましく、50wt%以上であることがより望ましい。
【0044】
なお、平均粒径が100nm以下の無機フィラの平均粒径の下限値としては、特に限定されないが、分散性や取り扱い性を考慮して、10nm以上であることが望ましい。また、平均粒径が100nmより大きい無機フィラの平均粒径の上限値は、10μmであることが望ましく、より望ましくは5μmである。平均粒径が10μmを超えると、半導体チップと基板の間隔よりも大きくなる場合があり、半導体チップを接続する際に、半導体チップにダメージが発生するおそれがある。
【0045】
平均粒径が100nm以下の無機フィラの粒径分布は、例えば30〜200nmとすることができ、平均粒径が100nmより大きい無機フィラの粒径分布は、例えば100〜2000nmとすることができる。
【0046】
平均粒径が100nm以下の無機フィラを配合することによって、接着力が向上する機構は明確になっていないが、平均粒径が100nm以下の小さいフィラがそれ以外の無機フィラ間の隙間に充てんされることによって、硬化物中のフィラ充てん密度が向上することや熱硬化性樹脂と無機フィラの接触する面積が増大することによって、硬化物のバルク強度が向上することが関係していると考えられる。
【0047】
さらに、熱硬化性樹脂組成物には、シランカップリング剤、チタンカップリング剤、酸化防止剤、レベリング剤、イオントラップ剤などの添加剤を配合してもよい。これらは単独で用いてもよいし、2種以上を組み合わせてもよい。配合量については、各添加剤の効果が発現するように調整すればよい。
【0048】
熱硬化性樹脂組成物は、室温でペースト状であっても、フィルム状であっても構わないが、取り扱い性の観点からフィルム状であることが望ましい。
【0049】
熱硬化性樹脂組成物は、フィルム状に形成するための熱可塑性樹脂を含んでいてもよい。熱可塑性樹脂としては、フェノキシ樹脂、ポリイミド樹脂、ポリアミド樹脂、ポリカルボジイミド樹脂、フェノール樹脂、シアネートエステル樹脂、アクリル樹脂、ポリエステル樹脂、ポリエチレン樹脂、ポリエーテルスルホン樹脂、ポリエーテルイミド樹脂、ポリビニルアセタール樹脂、ポリビニルブチラール樹脂、ウレタン樹脂、ポリウレタンイミド樹脂、アクリルゴム等が挙げられ、その中でも耐熱性及びフィルム形成性に優れるフェノキシ樹脂、ポリイミド樹脂、ポリビニルブチラール樹脂、ポリウレタンイミド樹脂、アクリルゴム等が望ましく、フェノキシ樹脂、ポリイミド樹脂がより好ましい。その重量平均分子量としては5000より大きいことが望ましいが、より望ましくは10000以上であり、さらに望ましくは20000以上である。重量平均分子量が5000以下の場合にはフィルム形成能が低下する場合がある。なお、重量平均分子量はGPC(Gel Permeation Chromatography)を用いて、ポリスチレン換算で測定した値である。また、これらの熱可塑性樹脂は単独または2種以上の混合体や共重合体として使用することもできる。
【0050】
熱硬化樹脂組成物中の熱可塑性樹脂の含有量は、熱硬化性樹脂100質量部に対して、例えば0〜300質量部とすることができる。
【0051】
熱硬化性樹脂組成物の250℃における粘度は100Pa・s以下であることが望ましい。100Pa・sより粘度が高いと、接続信頼性が低下するおそれがある。なお、250℃における粘度の下限値は特に制限されないが、0.1Pa・s以上が望ましく、0.5Pa・s以上がより望ましい。粘度が0.1Pa・sより小さいと、半導体チップと基板を接続する際に、熱硬化性樹脂組成物が半導体チップの側面を這い上がり、接続装置に付着するおそれがある。
【0052】
熱硬化性樹脂組成物の250℃におけるゲル化時間は、1〜30sであることが望ましく、より望ましくは1〜20sであり、さらに望ましくは3〜15sである。1sより短いと、はんだが溶融する前に硬化してしまい、接続信頼性が低下するおそれがあり、30sより長いと生産性が低下したり、硬化が不充分になって接続信頼性が低下するおそれがある。なお、ゲル化時間は、熱硬化性樹脂組成物を250℃に設定した熱板上に置き、スパチュラなどで攪拌し、攪拌不能になるまでの時間を指す。
【0053】
熱硬化性樹脂組成物の硬化物において、ガラス転移温度以下の平均線膨張係数は、60×10−6/℃以下であることが好ましく、55×10−6/℃以下であることがより好ましく、50×10−6/℃以下であることがさらに好ましい。熱膨張係数が60×10−6/℃より大きい場合、冷熱サイクル試験において、樹脂の膨張と収縮によって発生する応力が大きくなり、接続信頼性が低下するおそれがある。
【0054】
熱硬化性樹脂組成物は、熱硬化性樹脂、硬化剤、フラックス剤、無機フィラ、及びその他添加剤をプラネタリミキサ、らいかい機、ビーズミル、3本ロールなどを用いて攪拌混合することによって作製することができる。
【0055】
さらにフィルム状に形成する場合、熱可塑性樹脂、熱硬化性樹脂、硬化剤、フラックス剤、無機フィラ、及びその他添加剤をトルエン、酢酸エチル、メチルエチルケトン、シクロヘキサノン、N−メチルピロリドンなどの有機溶媒中でプラネタリミキサやビーズミルを用いて混合することによってワニスを作製し、そのワニスを、ナイフコーターやロールコーターを用いて、離型処理が施されたフィルム基材上に塗布した後、有機溶媒を乾燥除去することによって製造することができる。
【0056】
離型処理が施されたフィルム基材としては、ポリエチレンテレフタレート、ポリウレタン、ポリ塩化ビニル、ポリビニルアセテート、ポリビニルブチラール、ポリオレフィンなどが挙げられる。
【0057】
無機フィラを配合する際には、粉体のものを用いてもよいし、溶剤中に分散させたスラリーを用いてもよいし、熱硬化性樹脂や硬化剤に分散させてマスターバッチ化したものを用いてもよいし、熱硬化性樹脂を溶剤に溶かしたワニス中に分散させたものを用いてもよい。特に、平均粒径が100nm以下の無機フィラを用いる場合には、取り扱い性の観点から、溶剤中に分散させたスラリーや、熱硬化性樹脂や硬化剤に分散させてマスターバッチ化したものや、熱硬化性樹脂を溶剤に溶かしたワニス中に分散させたものを用いることが望ましい。
【0058】
室温でペースト状の熱硬化性樹脂組成物は、ディスペンスや印刷によって半導体チップや基板に供給することが可能であり、室温でフィルム状の熱硬化性樹脂組成物では、所定の大きさに切り出したものを半導体チップや基板に半導体チップまたは基板に貼り付けることによって供給することができる。
【0059】
さらに、半導体ウエハのバンプ形成面に、熱硬化性樹脂組成物層を形成した後、半導体チップに個片化することによって、該熱硬化性樹脂組成物を半導体チップのバンプ形成面に供給することが可能である。この方法によって該熱硬化性樹脂組成物が供給された複数の半導体チップを一括で作製することが可能になるため、生産性の向上が期待される。
【0060】
半導体ウエハのバンプ形成面に熱硬化性樹脂組成物層を形成する方法としては、ペースト状のものをスピンコートや印刷によって塗布する方法、フィルム状のものをラミネートする方法を用いることができるが、取り扱い性や作業性の観点からフィルム状のものをラミネートする方法が望ましい。フィルム状の熱硬化性樹脂組成物を半導体ウエハのバンプ形成面にラミネートするには、ホットロールラミネータや真空ラミネーターを用いることができる。
【0061】
半導体ウエハのバンプ形成面に熱硬化性樹脂組成物層を形成した場合、ダイシングラインや接続時の位置合わせを行うための基準マークを熱硬化性樹脂組成物層を通して認識するために、熱硬化性樹脂組成物には光透過性が必要であり、555nmの可視光に対して10%以上の透過率を示すことが望ましい。
【0062】
バンプ形成面に熱硬化性樹脂組成物層が形成された半導体ウエハを半導体チップに個片化するには、ブレードダイシング、レーザーダイシング、ステルスダイシングなどによって行うことができる。また、バンプ形成面に熱硬化性樹脂組成物層が形成された半導体ウエハを、半導体ウエハのバンプ形成面と反対側の面をダイシングテープに貼り合わせてダイシング装置に固定してもよいし、熱硬化性樹脂組成物層がダイシングテープに接するように貼り合わせ、ダイシング装置に固定してもよい。
【0063】
また、半導体ウエハとしては、バックグラインド加工によってあらかじめ所定の厚さに薄化加工したものを用いてもよいし、バックグラインド加工する前の半導体ウエハのバンプ形成面に熱硬化性樹脂組成物層を形成し、バックグラインドテープを熱硬化性樹脂組成物層と接するように貼り合わせてバンプ形成面と反対側の面からバックグラインドによって半導体ウエハを所定の厚さに薄化加工してもよい。さらに、バックグラインド加工する前の半導体ウエハのダイシングラインに沿って、ダイシング装置によってハーフカット加工によって溝を形成した後、バンプ形成面に熱硬化性樹脂組成物層を形成し、バックグラインドテープを熱硬化性樹脂組成物層と接するように貼り合わせてバンプ形成面と反対側の面からバックグラインドによって前記溝を露出させて、半導体ウエハを薄化するとともに、半導体チップに個片化してもよい。
【0064】
また、熱硬化性樹脂組成物の供給量は半導体チップのサイズや半導体チップと基板の間の空隙の体積に合わせて、適宜設定される。特に熱硬化性樹脂組成物がフィルム状の場合、その厚さは通常、接続前のバンプ高さの0.5〜2.0倍であることが好ましく、0.6〜1.8倍であることがより好ましく、0.7〜1.7倍であることがさらに好ましい。0.5倍よりも薄いと、樹脂の未充てんによるボイドが発生したり、フィルム状の熱硬化性樹脂組成物をバンプが形成された半導体ウエハに貼り付ける際に、バンプを充分に埋め込めずにバンプ周辺部に気泡が残存してしまい、接続時にボイドとなって接続信頼性を低下させるおそれがある。厚さが2.0倍を超える場合には、接続時にチップ接続領域から排出された熱硬化性樹脂組成物が半導体チップ側面を伝わって接続装置に付着してしまうおそれがある。
【0065】
半導体チップと基板を接続するには、半導体チップと基板を位置合わせした後、はんだまたはスズの融点以上の温度に加熱しながら加圧することによって、はんだまたはスズの表面酸化膜がフラックス剤によって除去されるとともに、はんだまたはスズが速やかに溶融して、バンプと基板電極が金属接合される。
【0066】
加熱・加圧時間としては、0.1〜20sであることが望ましく、0.1〜15sであることがより望ましく、0.1〜10sであることがさらに望ましい。0.1sより短い場合には、バンプと電極間からの樹脂排除やはんだやスズの表面酸化膜の除去が充分に行われず、接続信頼性が低下するおそれがある。接続時間が20sを超える場合には、生産性が低下するおそれがある。
【0067】
半導体チップを基板に押圧する際の荷重としては、バンプと基板電極間からの樹脂排除を行うのに必要な荷重を半導体チップの面積やバンプ数によって適宜設定するが、半導体チップにクラックなどのダメージが発生しないように、半導体チップの面積に対して、2MPa以下の圧力となることが望ましく、1.5MPa以下の圧力であることがより望ましく、1MPa以下の圧力であることがさらに望ましい。また、1バンプ当たり0.5N以下であることが望ましく、0.2N以下であることがより望ましく、0.1N以下であることがさらに望ましい。
【0068】
また、熱硬化性樹脂組成物に含まれるフラックス剤の活性温度以上の温度かつはんだまたはスズの融点より低い温度で半導体チップを基板に押圧する第一工程と、はんだまたはスズの融点以上となるように加圧しながら加熱を行い、半導体チップと基板とをはんだまたはスズによる金属接合によって接続する第二工程を備えるようにして接続してもよい。
【0069】
第一工程はバンプと基板電極の間からの樹脂排除を行うとともに、はんだやスズ表面の酸化膜をフラックス剤によって還元除去することを目的にしており、第一工程における加熱温度はフラックス剤がフラックス活性を示す温度以上かつ、はんだまたはスズの融点より低い温度に設定される。このように温度を設定することによって、加熱によって低粘度化した樹脂をバンプと基板電極間から排除するとともに、はんだまたはスズ表面の酸化膜が除去された状態で、熱硬化性樹脂組成物中に配置されることになり、再酸化を防止可能である。しかし、はんだまたはスズの融点以上の温度には達していないので金属接合による接続部の形成には至っていない。また、室温で固形のフラックス剤を用いた場合、フラックス活性を示すためにはその融点や軟化点以上の温度で液状または低粘度状態になって、はんだやスズの表面に均一に濡れる必要があることから、第一工程における加熱温度の下限は、固形のフラックス剤の融点や軟化点となる。さらに、固形のフラックス剤の融点や軟化点がはんだやスズの融点以上では、はんだやスズ表面の酸化膜が除去されるとともにはんだやスズが溶融してしまい、溶融したはんだやスズ内部に熱硬化性樹脂組成物やフィラが取り込まれるトラッピングが発生する可能性があることから、固形のフラックス剤の融点や軟化点は、はんだまたはスズの融点より低い温度であることが望ましい。また、第一工程を行うことによって、エポキシ樹脂と硬化剤の反応が一部開始して低分子量成分が高分子量化しており、第二工程における高温接続条件下で低分子量成分が揮発して発生するボイドの抑制効果が期待される。
【0070】
第一工程において半導体チップを基板に押圧する際の荷重としては、バンプと基板電極間からの樹脂排除を行うのに必要な荷重を半導体チップの面積やバンプ数によって適宜設定するが、半導体チップにクラックなどのダメージが発生しないように、半導体チップの面積に対して、2MPa以下の圧力となることが望ましく、1.5MPa以下の圧力であることがより望ましく、1MPa以下の圧力であることがさらに望ましい。また、1バンプ当たり0.5N以下であることが望ましく、0.2N以下であることがより望ましく、0.1N以下であることがさらに望ましい。
【0071】
第一工程の加熱時間は、通常0.1〜20sであることが望ましく、0.5〜15sであることがより望ましく、1.0〜15sであることがさらに望ましい。加熱時間が0.1sより短いと、はんだまたはスズ表面の酸化膜が均一に除去されなかったり、バンプと基板電極間からの樹脂排除が不充分になるおそれがあり、加熱時間が20sを超えると生産性が低下するおそれがある。また、第一工程の加熱温度における熱硬化性樹脂組成物のゲル化時間以上に加熱時間を設定すると、第二工程において、溶融したはんだまたはスズの流動がゲル化した熱硬化性樹脂組成物によって阻害され、充分な濡れ性を発現できないおそれがあることから、加熱時間は用いる熱硬化性樹脂組成物のゲル化時間によって適宜設定することが望ましい。
【0072】
第二工程では、はんだやスズを溶融させてバンプと基板電極を金属接合させることを目的としており、加熱温度は、はんだまたはスズの融点以上の温度に設定される。第一工程においてはんだまたはスズ表面の酸化膜の除去とバンプと基板電極間の樹脂排除が完了しているため、はんだやスズが速やかに溶融して基板電極やバンプ表面に良好な濡れ性を発現し、トラッピングを抑制可能である。
【0073】
第二工程の加熱時間は0.1〜20sであることが望ましく、より望ましくは0.5〜15sであり、さらに望ましいのは1.0〜15sである。加熱時間が0.1sより短いと、はんだまたはスズが基板電極やバンプ表面に充分濡れず接続信頼性が低下するおそれがあり、20sを超えると生産性が低下するおそれがある。また、第二工程の加熱温度における熱硬化性樹脂組成物のゲル化時間以上に加熱時間を設定することによって、ゲル化した熱硬化性樹脂組成物が金属接合による接続部を補強し、接続終了後の冷却過程において、半導体チップと基板の熱膨張係数差に起因する熱応力が金属接合による接続部に集中して発生するクラックなどの接続不良を抑制する効果が期待されることから、加熱時間は用いる熱硬化性樹脂組成物のゲル化時間によって適宜設定することが望ましい。
【0074】
第二工程では、半導体チップと基板を押圧せずに行うことも可能であるが、封止樹脂の熱膨張によって半導体チップが持ち上げられて接続信頼性が低下しないように、半導体チップと基板を押圧することが望ましい。第二工程において半導体チップを基板に押圧する際の荷重としては、第1工程と同様に半導体チップにダメージが発生しないように、半導体チップの面積に対して、2MPa以下の圧力となることが望ましく、1.5MPa以下の圧力であることがより望ましく、1MPa以下の圧力であることがさらに望ましい。また、1バンプ当たり0.5N以下であることが望ましく、0.2N以下であることがより望ましく、0.1N以下であることがさらに望ましい。
【0075】
第一工程及び第二工程を単一の接続装置で連続して行ってもよいが、接続装置を昇温したり冷却したりする必要があることから作業時間が長くなり、生産性が低下する場合がある。一方、第一工程と第二工程を分離して、別の接続装置でそれぞれ行うことによって、接続装置の設定温度を一定に保ったままで作業可能となり、高い生産性を実現できる。また、昇温や冷却機構(パルスヒート機構)を備えた接続装置ではなく、一定温度に加熱可能な機構(コンスタントヒート機構)を備えた接続装置で行うことができるため、設備の簡略化が可能となる。
【0076】
さらに、第一工程を行う際に、半導体チップと基板の位置合わせを行ってもよいが、第一工程を行う前に、半導体チップと基板を位置合わせした後、フラックス剤の活性温度よりも低い温度かつ熱硬化性樹脂組成物が粘着性を示す温度において、半導体チップを基板に仮固定する工程を行ってもよい。このような仮固定工程を設けることによって、複数の半導体チップと基板について、第一工程及び第二工程を一括で行うことが可能となり、高い生産性を実現することができる。
【0077】
熱硬化性樹脂組成物中に含まれる水分やその他の残存揮発分を除去して、接続時のボイドを抑制するために、熱硬化性樹脂組成物を基板や半導体チップに供給した後、加熱処理を行ってもよい。加熱温度としては80〜120℃、加熱時間としては10秒〜30分行うことが望ましい。加熱温度が80℃より低いと、水分や残存揮発分を除去するのに長時間を要し、生産性が低下するおそれがあり、120℃より高いと、熱硬化性樹脂組成物の硬化反応が進行して、増粘してしまい、接続信頼性が低下するおそれがある。加熱時間が10秒より短いと水分を除去する効果が充分でなく、接続時にボイドが発生するおそれがあり、30分より長いと生産性が低下する。また、水分や残存揮発分が1%以下となるように、加熱処理条件を設定することによって、接続時のボイドを効果的に抑制することが可能となる。
【0078】
さらに、熱硬化性樹脂組成物を基板や半導体チップに供給して、上記加熱処理を行った後、再度空気中の水分を吸収してしまわないように、熱硬化性樹脂組成物を供給した基板や半導体チップを室温より高い温度に保持しておくことが望ましく、50〜60℃に保持しておくことが望ましい。
【0079】
さらに、接続信頼性を高めるために、半導体チップと基板を接続した後、加熱オーブンなどで加熱処理し、熱硬化性樹脂組成物の硬化をさらに進行させてもよい。
【0080】
半導体チップと基板を接続する装置としては、通常のフリップチップボンダーを用いることができる。また、半導体チップと基板の位置合わせ及び半導体チップを基板に仮固定する工程を行うのにフリップチップボンダーを用い、第1工程と第2工程を加圧、加熱機構を備えた熱圧着装置で行ってもよい。
【0081】
半導体チップとしては、特に限定はなく、シリコン、ゲルマニウムなどの元素半導体、ガリウムヒ素、インジウムリンなどの化合物半導体等、各種半導体を用いることができる。
【0082】
半導体チップに形成されているバンプとしては、はんだバンプ、銅バンプ、銅ピラー先端にはんだまたはスズ層が形成された構造のバンプ、金バンプを用いることができる。はんだとしてはSn−37Pb(融点183℃)を用いてもよいが、環境への影響を考慮して、Sn−3.5Ag(融点221℃)、Sn−2.5Ag−0.5Cu−1Bi(融点214℃)、Sn−0.7Cu(融点227℃)、Sn−3Ag−0.5Cu(融点217℃)、Sn−92Zn(融点198℃)などの鉛フリーはんだを用いることが望ましい。また、微細接続化への対応から、銅バンプや銅ピラー先端にはんだまたはスズ層が形成された構造のバンプが好適である。
【0083】
基板としては、通常の回路基板でもよく、また、半導体チップでもよい。回路基板の場合、ガラスエポキシ、ポリイミド、ポリエステル、セラミックなどの絶縁基板表面に形成された銅などの金属層の不要な個所をエッチング除去して配線パターンが形成されたもの、絶縁基板表面に銅めっきなどによって配線パターンを形成したもの、絶縁基板表面に導電性物質を印刷して配線パターンを形成したものなどを用いることができる。
【0084】
配線パターンの表面には、金層、はんだ層、スズ層、防錆皮膜層の中から選ばれる1種類の表面処理層が形成されていることが望ましい。金層及びスズ層は無電解または電解めっきによって形成することが可能である。はんだ層はめっきによって形成してもよいし、はんだペーストを印刷によって塗布した後、加熱溶融する方法や、微細なはんだ粒子を配線パターン上に配置して加熱溶融する方法で形成可能である。防錆皮膜層は、プリフラックスとも呼ばれ、専用の薬液中に基板を浸漬することによって、銅などで形成された配線パターン表面の酸化膜を除去するとともに、表面に有機成分からなる防錆皮膜を形成することができ、はんだやスズに対する良好な濡れ性を確保可能であることと微細接続化への対応から好適である。なお、半導体チップに形成されているバンプが金バンプの場合、金属接合部を形成するために、はんだ層またはスズ層が形成されていることが必須となる。
【0085】
次に、本発明の熱硬化性樹脂組成物を用いて製造される半導体装置について説明する。
【0086】
図1は、本発明に係る半導体装置の一実施形態を示す模式断面図である。図1に示される半導体装置10は、回路基板7と、半導体チップ5と、回路基板7と半導体チップ5との間に配置された封止樹脂6とを備える。封止樹脂6は、本発明の熱硬化性樹脂組成物の硬化物からなり回路基板7と半導体チップ5との間の空隙を封止している。回路基板7は、インターポーザー等の基板と、この基板の一方の面上に設けられた配線4とを備える。回路基板7の配線(電極)4と半導体チップ5とは、半導体チップ5上に設けられた複数のバンプ3によって電気的に接続されている。また、回路基板7は、配線4が設けられた面と反対側の面に電極パッド2と、電極パッド2上に設けられたはんだボール1とを有しており、他の回路部材との接続が可能となっている。
【0087】
本発明の熱硬化性組成物を用いて製造される半導体装置としては、インターポーザーと呼ばれる基板上に半導体チップが搭載された構造のCSP(チップサイズパッケージ)やBGA(ボールグリッドアレイ)、半導体チップの上に別の半導体チップが搭載された構造のCoC(チップオンチップ)、貫通電極によって複数の半導体チップが3次元的に積層された構造の3Dパッケージなどが挙げられる。
【実施例】
【0088】
以下、実施例及び比較例によって本発明を説明するが、本発明の範囲はこれらによって限定されるものではない。
【0089】
(実施例1〜5及び比較例1〜3)
表1に示す組成に基づいて、無機フィラがメチルエチルケトン中に分散されたスラリー(フィラ濃度51重量%)中に、各材料を固形分濃度が50〜70重量%になるように溶解混合したワニスを作製した。このワニスをビーズミルで分散処理した後、セパレータフィルム(PETフィルム)上にナイフコーターを用いて塗布し、70℃のオーブンで10分間乾燥させることによって、厚さ25〜30μmのフィルム状熱硬化性樹脂組成物を作製した。
【0090】
【表1】

【0091】
(原材料)
フェノキシ樹脂:ε−カプロラクトン変性フェノキシ樹脂PKCP80(Inchem Corporation製、製品名)
エポキシ樹脂:トリスフェノールメタン型多官能エポキシ樹脂EP1032H60(ジャパンエポキシレジン株式会社製、製品名)
酸無水物:3,4−ジメチル−6−(2−メチル−1−プロペニル)−4−シクロヘキセン−1,2−ジカルボン酸無水物と1−イソプロピル−4−メチルビシクロ−[2.2.2]オクト−5−エン−2,3−ジカルボン酸無水物の混合物YH307(ジャパンエポキシレジン株式会社製、製品名)
フラックス剤:アジピン酸(シグマアルドリッチ製、製品名、融点152℃)
硬化促進剤:テトラ(n−ブチル)ホスホニウムテトラフェニルボレートPX−4PB(日本化学工業株式会社製、製品名)
無機フィラ1:球状シリカSE2050SEE(アドマテックス株式会社製、製品名、平均粒径0.5μm、表面にグリシジル基を有するシリカ)
無機フィラ2:球状シリカSE2050(アドマテックス株式会社製、製品名、平均粒径0.5μm、表面未処理シリカ)
無機フィラ3:球状シリカSE1050SEE(アドマテックス株式会社製、製品名、平均粒径0.2μm、表面にグリシジル基を有するシリカ)
無機フィラ4:球状ナノシリカアドマナノ(アドマテックス株式会社製、製品名、平均粒径50nm、表面にフェニル基を有するシリカ)
カップリング剤:3−グリシドキシプロピルトリメトキシシランSH6040(東レ・ダウコーニング・シリコーン株式会社製、製品名)
【0092】
(粘度測定)
粘度は、平行板プラストメータ法に基づき、式(1)及び式(2)に従って、以下の手順で測定した。
15mm角(厚さ0.7mm)のガラス板の上に直径6mmの円形に打ち抜いたフィルム状熱硬化性樹脂組成物を貼り付け、セパレータフィルムをはく離した後、酸化膜付きシリコンチップ(サイズ12mm角、厚さ0.55mm)の酸化膜面がフィルム状熱硬化性樹脂組成物に接するように配置したものを準備した。これを、フリップチップボンダーFCB3(パナソニックファクトリーソリューションズ製、製品名)に配置し、ヘッド温度290℃、ステージ温度50℃、荷重14N、加圧時間5s(到達250℃)の条件で熱圧着した。樹脂体積を一定と仮定すると式(2)の関係が成立することから、加圧後の半径を顕微鏡で測定し、式(1)に従い、250℃での粘度を算出した。
【数1】


η:粘度(Pa・s)
F:荷重(N)
t:加圧時間(s)
Z:加圧後の樹脂厚み(m)
:加圧前の樹脂厚み(m)
V:樹脂の体積(m
【0093】
Z/Z=(r/r) …式(2)
:加圧前の樹脂厚み
Z:加圧後の樹脂厚み
:加圧前の樹脂の半径(直径6mmで打ち抜いているので、3mm)
r:加圧後の樹脂の半径
【0094】
(ゲル化時間測定方法)
250℃の熱板上にセパレーターをはく離したフィルム状熱硬化性樹脂組成物を配置し、スパチュラで攪拌不能になるまでの時間をゲル化時間とした。
【0095】
(平均線膨張係数測定)
フィルム状熱硬化性樹脂組成物を175℃で2時間加熱処理して得た硬化物を幅3mm、長さ40mmの大きさに切り出したものを準備し、セイコーインスツルメント社製TMA/SS6000(製品名)を用いて、チャック間距離20mm、測定温度範囲0〜300℃、昇温速度5℃/min、フィルム断面積に対して0.5MPaとなる引っ張り荷重の条件で測定を行い、ガラス転移温度以下の平均線膨張係数を測定した。
【0096】
(接着力測定方法)
5mm角に打ち抜いたフィルム状熱硬化性樹脂組成物を5mm角の酸化膜付きシリコンチップ(厚み550μm)の酸化膜形成面に貼り付けて、セパレータフィルムをはく離した後、12mm角のシリコンチップ(#2000仕上げ、厚み550μm)にフィルム状熱硬化性樹脂組成物が接するように配置し、圧力0.5MPa、温度190℃、時間10秒間で圧着した後、圧力0.5MPa、温度180℃、時間10秒間圧着した。さらに、175℃のオーブン中で2時間加熱処理した後、85℃/相対湿度60%の恒温恒湿槽に24時間放置した。これを、260℃の熱板上に20秒放置した後、Dagy社製ボンドテスタシリーズ4000(製品名)でシェア速度50μm/秒でシェア強度を測定した。得られたシェア強度を接着面積である25mmで割った値を接着力として算出した。
【0097】
(光透過率測定方法)
セパレーター上に形成された厚み30μmのフィルム状熱硬化性樹脂組成物とセパレーター単体を準備し、それぞれ30mm×30mmのサイズに切り出した後、株式会社日立ハイテクノロジーズ社製分光光度計U−3310のサンプル取り付け部にセパレーター上に形成されたフィルム状熱硬化性樹脂組成物を、リファレンス取り付け部にセパレーター単体を設置し、400〜800nmの波長領域において、スキャン速度300nm/分で光透過率を測定し、555nmにおける光透過率を読み取った。
【0098】
(半導体チップと基板の接続方法1)
銅ピラー先端に鉛フリーはんだ層(Sn−3.5Ag:融点221℃)を有する構造のバンプが形成された半導体チップとして、日立超LSIシステムズ製JTEG PHASE11_80(サイズ7.3mm×7.3mm、バンプピッチ80μm、バンプ数328、厚み0.15mm、商品名)、基板としてプリフラックス処理によって防錆皮膜を形成した銅配線パターンを表面に有するガラスエポキシ基板を準備した。続いて、フィルム状熱硬化性樹脂組成物を8mm×8mmに切り出し、基板上の半導体チップが搭載される領域に80℃/0.5MPa/5秒の条件で貼り付けた後、セパレータフィルムをはく離した。フリップチップボンダーFCB3(パナソニックファクトリーソリューションズ製、製品名)の40℃に設定したステージ上にフィルム状熱硬化性樹脂組成物が貼り付けられた基板を吸着固定し、半導体チップと位置合わせした後、仮固定工程として、荷重25N、ヘッド温度100℃で5秒間圧着を行い(到達90℃)、半導体チップを基板上に仮固定した。次いで、第一工程として、フリップチップボンダーのヘッド温度を220℃に設定し、荷重25〜40Nで10秒間圧着を行った(到達190℃)。さらに、第二工程として、フリップチップボンダーのヘッド温度を290℃に設定し、荷重25〜40Nで10秒間圧着を行った(到達250℃)。
【0099】
なお、実施例5のフィルム状熱硬化性樹脂組成物を半導体チップに貼り付けて、フリップチップボンダーの認識カメラで半導体チップ表面に形成されているアライメントマークを観察した結果を示す写真を図2に示す。
【0100】
(半導体チップと基板の接続方法2)
銅ピラー先端に鉛フリーはんだ層(Sn−3.5Ag:融点221℃)を有する構造のバンプが形成された半導体チップとして、日立超LSIシステムズ製JTEG PHASE11_80(サイズ7.3mm×7.3mm、バンプピッチ80μm、バンプ数328、厚み0.15mm、商品名)、基板としてプリフラックス処理によって防錆皮膜を形成した銅配線パターンを表面に有するガラスエポキシ基板を準備した。フィルム状熱硬化性樹脂組成物がバンプ形成面に接するように80℃に加熱したホットロールラミネータで貼り合せた後、半導体ウエハのバンプ形成面と反対の面がダイシングテープに貼り合せられるように配置して、ウエハリングに半導体ウエハを固定した。フィルム状熱硬化性樹脂組成物のセパレータフィルムをはく離した後、ブレードダイシング装置を用いて、7.3mm×7.3mmの半導体チップに個片化し、バンプ形成面にフィルム状熱硬化性樹脂組成物が貼り合わされた半導体チップを作製した。フリップチップボンダーFCB3(パナソニックファクトリーソリューションズ製、製品名)の40℃に設定したステージ上に前記ガラスエポキシ基板を配置し、フィルム状熱硬化性樹脂組成物が貼り合わされた半導体チップと位置合わせした後、仮固定工程として、荷重25N、ヘッド温度100℃で1秒間圧着を行い(到達90℃)、半導体チップを基板上に仮固定した。次いで、第一工程として、フリップチップボンダーのヘッド温度を220℃に設定し、荷重25〜40Nで10秒間圧着を行った(到達190℃)。さらに、第二工程として、フリップチップボンダーのヘッド温度を290℃に設定し、荷重25〜40Nで10秒間圧着を行った(到達250℃)。
【0101】
(導通検査)
半導体チップと基板を接続した半導体装置について、328バンプのデイジーチェーン接続が確認できたものを合格(○)として、デイジーチェーン接続が確認できなかったものを不合格(×)として評価した。
【0102】
(ボイド評価)
半導体チップと基板を接続した半導体装置を超音波探傷装置(日立建機製FineSAT)で観察し、チップ面積に対してボイドが占める面積が1%以下となるものを合格(○)として、1%未満となるものを不合格(×)として評価した。
【0103】
(接続状態評価)
半導体チップと基板を接続した半導体装置の接続部を断面研磨することによって露出させ、光学顕微鏡で観察した。接続部にトラッピングが見られず、はんだが配線に充分濡れているものを合格(○)として、それ以外のものを不合格(×)として評価した。
なお、実施例5のフィルム状熱硬化性樹脂組成物を用いて作製した半導体装置の接続状態を観察した断面図を図3に、比較例2のフィルム状熱硬化性樹脂組成物を用いて作製した半導体装置の接続状態を観察した断面図を図4にそれぞれ示す。
【0104】
実施例1〜6及び比較例1〜3について評価した結果を表2に示す。
【0105】
【表2】

【0106】
平均粒径の異なる2種類のシリカフィラを含み、その一方が平均粒径0.5μmのシリカフィラ、もう一方が平均粒径50nmのシリカフィラである実施例1〜6では、平均粒径0.5μmのシリカフィラのみを含む比較例1や平均粒径が0.5μmと0.2μmのシリカフィラを含む比較例3よりも高温での接着力が向上していた。また、実施例1〜6では平均線膨張係数が実施例1〜3と比較して大きく変化することはなく、低い平均線膨張係数を示していた。また、実施例3〜6では、10%以上の光透過率を示し、ウエハプロセスでのサンプル作製が可能であったのに対して、比較例1及び3では光透過率が低く、ダイシングパターンやアライメントマークを認識することができず、サンプル作製ができなかった。また、平均粒径50nmのシリカフィラのみを含む比較例2では、高い光透過性を示し、接着力も向上していたが、250℃での粘度が高く、接続不良が発生した。
【0107】
以上に説明したとおり、実施例の熱硬化性樹脂組成物によれば、高温での高接着力化を実現でき、かつウエハプロセスに対応可能である。
【符号の説明】
【0108】
1…はんだボール、2…電極パッド、3…バンプ、4…配線、5…半導体チップ、6…封止樹脂、7…回路基板、10…半導体装置。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
熱硬化性樹脂、硬化剤、フラックス剤、平均粒径が異なる少なくとも2種類以上の無機フィラを必須成分としており、前記無機フィラは、平均粒径が100nm以下の無機フィラ、及び平均粒径が100nmより大きい無機フィラを含む半導体封止充てん用熱硬化性樹脂組成物。
【請求項2】
フィルム状に形成されている、請求項1に記載の半導体封止充てん用熱硬化性樹脂組成物。
【請求項3】
250℃における粘度が100Pa・s以下である、請求項1または2に記載の半導体封止充てん用熱硬化性樹脂組成物。
【請求項4】
555nmの光に対する透過率が10%以上である、請求項1〜3のいずれか一項に記載の半導体封止充てん用熱硬化性樹脂組成物。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれか一項に記載の半導体封止充てん用熱硬化性樹脂組成物を用いて製造された半導体装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2012−89750(P2012−89750A)
【公開日】平成24年5月10日(2012.5.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−236592(P2010−236592)
【出願日】平成22年10月21日(2010.10.21)
【出願人】(000004455)日立化成工業株式会社 (4,649)
【Fターム(参考)】