説明

半導体封止用樹脂組成物およびそれを用いた半導体装置

【課題】外部からの水分侵入を効果的に防止することができ且つ成形性も良好な半導体封止用樹脂組成物およびそれを用いた半導体装置を提供する。
【解決手段】半導体封止用樹脂組成物は、樹脂と複数の細孔が表面に形成された球形粒子状のフィラーとを含んでなり、前記フィラーの複数の細孔の平均の径が硬化前の樹脂分子よりも小さく、前記フィラーの細孔を含む表面にアルカリ土類金属が添着されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、半導体封止用樹脂組成物およびそれを用いた半導体装置に関し、特に半導体素子をパッケージングする際の吸湿技術に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、トランジスター、IC、LSI等の半導体素子の封止にはエポキシ樹脂が広く使用されている。たとえば、半導体素子をリードフレームの所定位置に搭載し電気的に接続した後に、半導体素子とその電気的接続部とを全面的にエポキシ樹脂でモールドして封止している。またイメージセンサーや光ディスク用受光素子等の光素子を搭載した半導体装置では、絶縁基体の凹部底面に光素子を固着し、該光素子の電極を前記絶縁基体に配置されたリードにボンディングワイヤなどで電気的に接続し、しかる後に前記絶縁基体の上面に透光性蓋体を樹脂封止材を介して接合することで、光素子を絶縁基体と蓋体とから成る容器(半導体素子収納用パッケージ)内部に気密に収容したものがあるが、前記絶縁基体がエポキシ樹脂で形成されることが多い。
【0003】
しかしこの種の半導体装置において、エポキシ樹脂等の樹脂材料が耐湿性に劣ると、大気中に含まれる水分が絶縁基体や被覆材を通して半導体素子側へ容易に浸入し、半導体素子の電極やボンディングワイヤ等に酸化腐食が発生するだけでなく、絶縁基体と蓋体とから成る容器内部に結露が発生し、光素子を搭載した半導体装置である場合には、透光性蓋体に曇りが発生して光素子への入射効率が低下したり、部分的な曇りによって画素等への光入射が不均一になるという欠点があった。
【0004】
そこで、絶縁基体に水分の浸入を防止するためシリカやアルミナ等の粒子から成るフィラーを埋入させておくことが提案されたが、絶縁基体の成形性を考慮するとフィラーの埋入量は最大で約95重量%であり、5重量%程度は依然としてエポキシ樹脂等の樹脂材が存在するので、水分の浸入は完全に遮断されず、上記の欠点は解消されないままであった。
【0005】
近年、絶縁基体にシリカ等のフィラーを60乃至95重量%埋入させるとともに、5乃至30重量%のフィラーに容積が0.1乃至2.0ml/gの細孔を形成するか、あるいは該絶縁基体中に、表面に半径が10乃至100オングストロームの細孔を有する吸湿材を1.0乃至50重量%埋入させることが提案された。これらにより、絶縁基体や被覆材への水分の浸入が大幅に阻止され、また浸入した少量の水分は該細孔内に完全に吸着されることとなって、半導体素子やボンディングワイヤまで水分が到達することは防止され、ボンディングワイヤ等の酸化腐食、それによる断線の発生は防止されるようになった(特許文献1、2)。
【0006】
フィラー自体の吸湿性を向上させるために、フィラー材料として多孔質の非晶質シリカ系定型粒子を用い、さらにその粒子にアルカリ金属成分あるいはアルカリ土類金属成分を添着させることで、粒子中の細孔を収縮させ、吸湿性と粒子強度との両立を図る技術も開示されている(特許文献3参照)。
【特許文献1】特開平7−221226号公報
【特許文献2】特開平8−078558号公報
【特許文献3】特開平9−208809号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
近年の機器の小型化に対応すべく、半導体装置の小型化・薄型化が要望されており、そのためには半導体素子を封止する封止部材の小型化・薄型化が必要である。しかし例えば上記の絶縁基体において、フィラー密度は一定として厚みを低減すると、蓋体とにより構成される容器内部に侵入する水分は急激に増加する。外部からの水分侵入は主として樹脂材料を通した拡散現象によって起こるためである。これを防止するためにはフィラー密度を増加させればよいのであるが、そうすると今度は樹脂材料の流動性等が問題となる。フィラーの混入量が増すほどに樹脂材料の流動性が低下し、ついには樹脂材料内にフィラーを混合して練りこむことができなくなってしまう。
【0008】
本発明は、上記問題に鑑み、外部からの水分侵入を効果的に防止することができ且つ成形性も良好な半導体封止用樹脂組成物およびそれを用いた半導体装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決するために、本発明の半導体封止用樹脂組成物は、樹脂と複数の細孔が表面に形成された球形粒子状のフィラーとを含んでなり、前記フィラーの複数の細孔の平均の径が硬化前の樹脂分子よりも小さく、前記フィラーの細孔を含む表面にアルカリ土類金属が添着されていることを特徴とする。
【0010】
また、樹脂と複数の細孔が表面に形成された球形粒子状のフィラーとを含んでなり、前記フィラーの複数の細孔のうち最も多く分布する細孔の径が硬化前の樹脂分子よりも小さく、前記フィラーの細孔を含む表面にアルカリ土類金属が添着されていることを特徴とする。
【0011】
前記細孔の径は4nmから9nmの範囲であることが好ましい。前記樹脂はエポキシ樹脂であってよい。前記フィラーはシリカ粒子であってよい。
本発明の半導体装置は、1または複数の半導体素子を上記のいずれかの半導体封止用樹脂組成物を用いて封止したことを特徴とする。たとえば、前記半導体封止用樹脂組成物により形成された開口部を有する絶縁基体の内部に前記半導体素子が固着され、前記開口部が蓋体で気密されている。前記半導体素子が光素子である場合には、前記蓋体は透光性蓋体である。
【0012】
上記のいずれかに記載の半導体封止用樹脂組成物により形成された開口部を有する絶縁基体も本発明を構成する。
【発明の効果】
【0013】
本発明の半導体封止用樹脂組成物は、フィラーの細孔径を硬化前の樹脂分子に関係付けて選定するとともに、細孔内を含むフィラーの表面をアルカリ土類金属の添着により改質したことにより、成形時の樹脂流動性を損なうことなく、外部からの水分侵入防止に寄与するフィラーの混入許容量を増大し、実効的な水分吸着に寄与する比表面積を確保し、吸湿性を向上させることが可能になった。
【0014】
この半導体封止用樹脂組成物で半導体素子を封止した半導体装置は、外部の水分が入り込むのを防止することができ、高信頼性を確保できる。同半導体封止用樹脂組成物によって、半導体素子を封止する容器を形成する場合には、長期間使用時も結露等を防止することができ、半導体素子が光素子である場合も感度低下や感度の領域ムラが起こらない。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
以下、本発明の実施の形態について図面を参照しながら説明する。
図1は本発明の一実施形態における半導体装置の断面図である。半導体素子1は、開口部2aを有した断面凹状の絶縁基体2の内底面に接着材(図示せず)によって固着され、該開口部2aは絶縁基体2の上面に封止材(図示せず)によって接合された蓋体3によって気密されており、半導体素子1は絶縁基体2と蓋体3とから成る容器内部に封止されている。
【0016】
半導体素子1は、イメージセンサー、光ディスク用受光素子などの光素子であってもよいし、その他の素子であってもよいが、光素子である場合には蓋体3はガラス等の透光性蓋体が用いられる。
【0017】
絶縁基体2には、側壁を貫通するリード4が一体に取り付けられ、そのリード4の内端が側壁の段部の上面に露出していて、半導体素子1の電極1aとリード4の内端とが容器内部においてワイヤ5によって電気的に接続されている。一般に、リード4はCuを主成分とする合金で形成され、表面に金メッキが施されている。ワイヤ5は金線である。
【0018】
絶縁基体2は、樹脂と複数の細孔が表面に形成された球形粒子状のフィラーとを含んだ半導体封止用樹脂組成物を用いて成形されている。フィラーの複数の細孔の平均の径あるいは前記複数の細孔のうち最も多く分布する細孔の径は硬化前の樹脂分子よりも小さく、細孔を含むフィラーの表面にはアルカリ土類金属が添着されている。
【0019】
このため、フィラーが吸湿材として機能し、この種の半導体装置においては前述したように絶縁基体2を構成する主に樹脂材料での拡散によって起こっていた容器外部からの水分の侵入は防止される。よって容器内部を低湿度に保ち、結露等を防止することができ、高信頼性の半導体装置を実現できる。半導体素子として光素子を搭載している場合は、長期間使用時もガラス等の透光性蓋体の曇りは起こらず、感度低下や感度の領域ムラが起こらないため、特に好都合である。
【0020】
なおここでは、半導体素子1をワイヤ5を用いてワイヤボンドしているが、フリップチップボンドしてもよいし、複数の半導体素子を搭載してもよい。絶縁基体2に側壁を貫通するリード4を設けているが、それに代えて底部を貫通するビアなどの導体を設けてもよい。絶縁基体2の上面に蓋体3を接合するための封止材にも上記の半導体封止用樹脂組成物を用いるのが望ましい。
【0021】
さらには、図示したような中空パッケージタイプの半導体装置でなくとも、例えば全面モールドタイプの半導体装置に上記の半導体封止用樹脂組成物を適用しても、水分の侵入を防止することができる。
【0022】
以下、上記の半導体封止用樹脂組成物について詳述する。
絶縁基体2などの半導体封止用の樹脂成形体における吸湿性を向上させるためには、細孔を有したフィラーそのものの混入割合を増加させることが有効であるが、フィラーの混入量が増加すると樹脂材料の流動性が低下し、ついには樹脂材料内にフィラーを混練できなくなってしまうことは既に述べた。
【0023】
フィラーの混入量の増加につれて樹脂流動性が低下する要因は、フィラーと樹脂との間の摩擦であると推測される。フィラーの表面積が増加すれば見かけの摩擦係数が増加するので、樹脂流動性を低下させることなくフィラー混入量を増加させるためには、フィラー表面積を減少させればよく、また形状としては球状であるのが好ましいと推測される。しかし単に表面積を減少させたのでは、水分を吸着可能な面積が減少し、吸湿性が低下することは明らかである。
【0024】
そこで、フィラーの表面積を決定するパラメータ、すなわち、フィラーの比表面積(単位重量当たりの細孔内を含めた表面積)と、細孔容積(単位重量当たりの細孔が占める体積)と、平均細孔径とについて、樹脂流動性との相関を調べた。
【0025】
フィラーは、球状シリカ粒子を用い、樹脂材料中に20wt%混入させた。樹脂材料は、オルソクレゾールノボラック(以下、OCNという)タイプの同一のエポキシ樹脂を一定量で用いた。
【0026】
樹脂流動性としてはスパイラルフロー長を測定した。スパイラルフロー長とは、一定圧力および一定温度に保たれた渦巻状溝を有する金型に試料を注入したときに、その試料が硬化するまでに流動して充填された溝長さを言い、樹脂流動性の目安として用いられることが多い。フロー長が長いほど樹脂流動性が高い。結果を図2(a)(b)(c)に示す。図中の矢印は樹脂材料内にフィラーが練りこめない状態を示す。
【0027】
図2(a)(b)からわかるように、当初の予測に反して、比表面積あるいは細孔容積と樹脂流動性との間には明らかな相関は見られなかった。比表面積が増加しても樹脂流動性の低下は見られなかったのみならず、最も比表面積が小さい試料で樹脂材料内にフィラーが練り込めないという現象が見られた。また細孔容積が増加しても樹脂流動性の低下は見られず、わずかな容積差でフィラーが練りこめなくなっている。一方、図2(c)において、平均細孔径が増大するにつれてフロー長が減少する傾向が見られ、これらの間に相関があることが認められた。
【0028】
この結果は、フィラー表面の細孔の平均細孔径をある値以下にすることで、フィラーの混入割合を増加しても、所望のフロー長(樹脂流動性)を確保することが可能であることを示す。換言すると、フィラー表面の細孔の平均細孔径をある値以下にすることで、実効的な水分吸着に寄与する比表面積とフィラーの混入割合の増加と樹脂流動性とを確保することが可能であることを示すものである。
【0029】
図3に球状シリカ粒子の細孔径と細孔容積との関係を示す。
図3(a)に示す球状シリカ粒子は、従来より用いられているもので、数nm程度の径を有する細孔が最も多い。
【0030】
図3(b)に示す球状シリカ粒子は、数nm程度の径を有する細孔の密度が図3(a)のものと比べて数倍以上に高い。数nm程度の径に対応する細孔容積が大きいことに表れている。このような分布となるよう調整することで、比表面積の増大とフィラーの混入割合の増大とを両立することが可能である。
【0031】
ところで、フィラー混入量の増加につれて樹脂流動性が低下するのは、ここまで説明してきたフィラーの細孔径だけでなく、樹脂自体の構造も関わると推測される。図4にOCNタイプのエポキシ樹脂の分子骨格を示す。点線で囲んだ部分が繰り返し単位となっており、そのサイズは〜1.1nm程度である。通常のエポキシ樹脂では、重合(硬化)前の分子は、このような繰り返し単位が数単位連鎖した形(集合体)で存在していると考えられている。
【0032】
図5に示すように、かかる重合前のエポキシ樹脂11よりもシリカ粒子12の細孔13の径が小さいと、エポキシ樹脂11は細孔13内に侵入することができない。このときのエポキシ樹脂11とシリカ粒子12との摩擦は、シリカ粒子12の巨視的な表面形状及び表面積に依存すると考えられる。
【0033】
一方、エポキシ樹脂11よりもシリカ粒子12の細孔13の径が大きいと、エポキシ樹脂11は細孔13内に侵入する。このときのエポキシ樹脂11とシリカ粒子12との摩擦は、シリカ粒子12の巨視的な表面形状及び表面積だけでなく、微視的な形状、表面積にも依存すると考えられる。そしてこの場合、エポキシ樹脂11が細孔13内に侵入しない上記の場合と比べて、見かけの摩擦係数が急激に上昇し、フィラーたるシリカ粒子12の混入割合が低下するものと考えられる。
【0034】
そこで、OCNタイプのエポキシ樹脂を用いて、シリカ粒子の表面の平均細孔径とスパイラルフロー長との相関を調べた。シリカ粒子は、先の図2の試験と同一条件になるように20wt%混入した。結果を図6に示す。
【0035】
球状シリカ粒子を用いた場合、平均細孔径が4nm程度から9nm程度の範囲のもので樹脂の流動性は損なわれておらず、この範囲内であれば、シリカ粒子の混入割合を特に低下させずに比表面積を上げることが可能であると言える。
【0036】
角形状シリカ粒子を用いた場合には、平均細孔径が4nm未満と小さくても、20wt%を練りこむことはできなかった。シリカ粒子の表面の巨視的形状によって、見かけの摩擦係数が増加し、樹脂の流動性が低下したためと推測される。
【0037】
これらの結果は上述した予想に合致する。フィラー表面の細孔の平均径を樹脂が流動する際の微視的「サイズ」以下にすることで、つまり硬化前の樹脂分子よりも小さくすることで、樹脂流動性を損なわずに、またフィラーの比表面積を低下させることなく、混入割合を増大させることが可能になり、従来よりも吸湿性を向上させることが可能となる。先の図3(b)の球状シリカ粒子は、この観点からも、良好な結果が得られるものであり、本発明に用いられる。
【0038】
しかしここまで説明したような細孔径分布とするだけでは十分な吸湿特性が得られない場合がある。細孔の形成密度を大幅に増大させることは粒子強度等の関係から困難なためである。このような場合にはフィラー表面の改質を行って吸湿性の向上を図る。
【0039】
図7に球状シリカ粒子の表面形状を示す。図7(a)は先の図3(a)の球状シリカ粒子の表面の電子顕微鏡写真、図7(b)は先の図3(b)の球状シリカ粒子の表面の電子顕微鏡写真である。
【0040】
図7(a)の球状シリカ粒子の表面と比べて、図7(b)の球状シリカ粒子の表面は凹凸が大きくなっている。シリカ粒子表面に細孔が数多く形成されているためである。かかる球状シリカ粒子について表面の改質を行うことで吸湿性のさらなる向上を図ることができる。
【0041】
図7(c)に、シリカ粒子の表面に細孔内をも含めてアルカリ土類金属であるMg成分を吸着させた状態を模式的に示す。シリカ粒子に吸着したMgが水のOH基と結合し、さらにシリカ粒子中のシラノール基と結合して安定化するというように、水の物理吸着だけでなく化学吸着も同時に起こるので、シリカ粒子1個あたりの水分吸収量を増加させることが可能となり、Mg吸着させていないシリカ粒子よりも吸湿率が大幅に向上する。
【0042】
この水分吸着メカニズムを図8を参照してさらに詳しく説明する。
図8(a)に示すように、シリカ粒子の表面に吸着したMgは周囲雰囲気中の水分HOと反応してMg(OH)となり、このMg(OH)がシリカ粒子中のシラノール基(Si−OH)と反応してSi−O−Mg−OHとなり、シリカ粒子表面で水が安定化する。
【0043】
Mg(OH)とSi−OHとの反応の際にHOが生成するが、生成したHOは、Mgに結合したOH基と弱く結合する形でシリカ粒子表面に間接的に吸着するため、そしてそのような吸着水が脱離するのは105〜150℃程度であるため、通常の半導体装置の使用温度(90℃以下)で脱離する確率は低く、吸湿性は低下しない。シラノール基(Si−OH)どうしの反応でもHOが生成する可能性があるが(図8(b)参照)、そのためには800℃に灼熱する必要がある。シラノール基(Si−OH)に対する結合水が脱離する温度も400℃程度である。したがって、これらのHOの生成、脱離の恐れはない。
【0044】
このように、シリカ粒子表面にMgを吸着させておくことで、Mgとの化学反応による水分吸着が起こるほか分子間力による水分吸着(物理吸着)が起こるので、同じ表面積・細孔容積を有するシリカ粒子をMg吸着なく使用する場合に比べて、水分吸着量を大きく増加できるのである。
【0045】
このときに、図8(c)に示すように、孔径の小さい細孔21はMg−OH(図中の●)で覆われることで閉塞されていき、いくつかの細孔21が集合してなる孔径の大きい細孔22に変化するが、このような吸湿の過程での細孔径の増大は既に樹脂材料中に練り込んだシリカ粒子で起こるので、特に問題とはならない。
【0046】
なお、シリカ粒子の表面にMgなどのアルカリ土類金属を吸着させることは、アルカリ土類金属イオンを含む溶液にシリカ粒子を含浸させることによって可能である。アルカリ土類金属でなくアルカリ金属を吸着させておくことも考えられるが、アルカリ土類金属の方が結合手が多いこと、またアルカリ金属は反応性に富むためシリカ粒子表面に吸着しても再脱離しやすいこと等があるため、アルカリ土類金属を用いる方が安定した吸湿特性が得られる。
【実施例】
【0047】
次の材料を混合して半導体封止用樹脂組成物を調製した。
樹脂材料:OCNタイプのエポキシ樹脂
フィラー材料:Mgを吸着させた球状シリカ粒子を20wt%
比較のために、Mgを吸着していない球状シリカ粒子を用いること以外は上記と同様にして半導体封止用樹脂組成物を調製した。
【0048】
また、次の材料を混合して半導体封止用樹脂組成物を調製した。
樹脂材料:ビフェニルタイプのエポキシ樹脂
フィラー材料:Mgを吸着させた球状シリカ粒子を15wt%
比較のために、Mgを吸着していない球状シリカ粒子を用いること以外は上記と同様にして半導体封止用樹脂組成物を調製した。
【0049】
各樹脂組成物において、Mgを吸着していない球状シリカ粒子は、図3(b)に示した細孔径分布を有するもので、Mgを吸着させた球状シリカ粒子は同シリカ粒子をMgを含む溶液で処理したものである。
【0050】
各半導体封止用樹脂組成物を所定の形状に成形し、各成形品の吸湿率を、85℃、相対湿度85%の条件で、50時間にわたって測定した。結果を図9に示す。Mg吸着した球状シリカ粒子を用いたものをOCN1、そうでないものをOCN2と記す。Mg吸着した球状シリカ粒子を用いたものをビフェニル1、そうでないものをビフェニル2と記す。
【0051】
図9よりわかるように、Mgを吸着させた球状シリカ粒子を混入したことで、Mgを吸着させていない球状シリカ粒子を混入した場合に比べて、OCNタイプのエポキシ樹脂を用いた成形品で約30%、ビフェニルタイプのエポキシ樹脂を用いた成形品で約40%、吸湿率が向上した。
【0052】
以上説明したように、フィラー表面の細孔径をある範囲に選定し、またその表面にアルカリ土類金属を吸着させることによって、樹脂成形時の樹脂流動性を損なうことなく、実効的な水分吸着に寄与する比表面積を確保し、樹脂材料への混入割合を増大させることが可能になり、従来よりも格段に吸湿性を向上させることが可能となる。
【0053】
なお、エポキシ樹脂に対してフィラーとして球状シリカ粒子を混入した例について説明してきたが、エポキシ樹脂以外の樹脂、あるいは、シリカ粒子以外のフィラーの使用も可能である。
【産業上の利用可能性】
【0054】
本発明に係る半導体封止用樹脂組成物は、半導体素子をパッケージングして防湿するのに効果的であり、イメージセンサーや光ディスク用受光素子等の光素子を搭載した半導体装置の製造に特に有用である。
【図面の簡単な説明】
【0055】
【図1】本発明の一実施形態における半導体装置の断面図
【図2】本発明の半導体封止用樹脂組成物に含有するフィラーの表面積を決定するパラメータとスパイラルフロー長との関係を示した図
【図3】本発明の半導体封止用樹脂組成物にフィラーとして含有するシリカ粒子の細孔径と細孔容積との関係を示した図
【図4】本発明の半導体封止用樹脂組成物に含有するエポキシ樹脂の一例の分子骨格を示した図
【図5】本発明の半導体封止用樹脂組成物にフィラーとして含有するシリカ粒子表面でのエポキシ樹脂の付着状態を示した模式図
【図6】本発明の半導体封止用樹脂組成物にフィラーとして含有するシリカ粒子表面の平均細孔径とスパイラルフロー長との相関を示した図
【図7】本発明の半導体封止用樹脂組成物にフィラーとして含有するシリカ粒子の表面形状を示す電子顕微鏡写真および断面模式図
【図8】本発明の半導体封止用樹脂組成物にフィラーとして含有するシリカ粒子の水分吸着メカニズムの説明図
【図9】本発明の半導体封止用樹脂組成物を用いた成形品の吸湿性の経時変化を従来品と対比して示した図
【符号の説明】
【0056】
1 半導体素子
2 絶縁基体
2a 開口部
3 蓋体
4 リード
5 ワイヤ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
樹脂と複数の細孔が表面に形成された球形粒子状のフィラーとを含んでなり、前記フィラーの複数の細孔の平均の径が硬化前の樹脂分子よりも小さく、前記フィラーの細孔を含む表面にアルカリ土類金属が添着されている半導体封止用樹脂組成物。
【請求項2】
樹脂と複数の細孔が表面に形成された球形粒子状のフィラーとを含んでなり、前記フィラーの複数の細孔のうち最も多く分布する細孔の径が硬化前の樹脂分子よりも小さく、前記フィラーの細孔を含む表面にアルカリ土類金属が添着されている半導体封止用樹脂組成物。
【請求項3】
前記細孔の径は4nmから9nmの範囲である請求項1または請求項2のいずれかに記載の半導体封止用樹脂組成物。
【請求項4】
前記フィラーはシリカ粒子である請求項1または請求項2のいずれかに記載の半導体封止用樹脂組成物。
【請求項5】
前記樹脂はエポキシ樹脂である請求項1または請求項2のいずれかに記載の半導体封止用樹脂組成物。
【請求項6】
1または複数の半導体素子を請求項1または請求項2のいずれかに記載の半導体封止用樹脂組成物を用いて封止した半導体装置。
【請求項7】
前記半導体封止用樹脂組成物により形成された開口部を有する絶縁基体の内部に前記半導体素子が固着され、前記開口部が蓋体で気密されている請求項6記載の半導体装置。
【請求項8】
前記半導体素子は光素子であり、前記蓋体は透光性蓋体である請求項7記載の半導体装置。
【請求項9】
請求項1または請求項2のいずれかに記載の半導体封止用樹脂組成物により形成された開口部を有する絶縁基体。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate


【公開番号】特開2009−19064(P2009−19064A)
【公開日】平成21年1月29日(2009.1.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−180406(P2007−180406)
【出願日】平成19年7月10日(2007.7.10)
【出願人】(000005821)パナソニック株式会社 (73,050)
【Fターム(参考)】