説明

半導体機械構造体及びそれを用いた光走査ミラー

【課題】半導体機械構造体において、気密性を確保すると共に各部を絶縁分離し、且つ、製造コストを低くする。
【解決手段】光走査ミラー1は、SOI基板200からなる半導体部100と、半導体部100の上面、下面に接合されたガラス基板を用いてなる上部保護基板110及び下部保護基板120を有している。半導体部100は、SOI基板200の第1シリコン層200aに形成され、ミラー面20が搭載された可動部50を有している。第1シリコン層200aはトレンチ101a,101b等の絶縁分離部が形成されることにより複数の部位に絶縁分離され、各部位の電位を変更して可動部50の櫛歯電極7,8に電圧を印加可能である。トレンチ101a,101b等の絶縁分離部は半導体部100の外周側部に露出せず、上部保護基板110及び下部保護基板120を半導体部100に接合することにより、光走査ミラー1の内部の気密を容易に確保可能である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、半導体基板に設けられた電圧印加部に電圧を印加することによりその半導体基板上に構成された可動構造を駆動可能な半導体機械構造体及びそれを用いた光走査ミラーに関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、例えばバーコードリーダやプロジェクタ等の光学機器として、ミラー面が設けられた可動部を揺動させて、そのミラー面に入射した光ビーム等をスキャンする光走査ミラーを用いたものが知られている(例えば、特許文献1参照)。光走査ミラーとしては、例えば、マイクロマシニング技術を用いて成形される半導体機械構造体を有する小型のものが知られている。このような半導体機械構造体は、光走査ミラーとして用いられるときにミラー面が形成される可動部と、可動部を支持する固定フレームとを有している。可動部と固定フレームとは互いにヒンジにより連結されている。可動部は、例えば、可動部と固定フレームとの間に形成された互いに噛合う一対の櫛歯電極により駆動される。櫛歯電極は、例えば互いの電極が数μm程度の間隔で噛み合うように形成されており、互いの電極間に電圧が印加されることにより静電力を発生する。可動部は、櫛歯電極が発生する駆動力により、ヒンジを捻りながら固定フレームに対し回動し、ヒンジを軸として揺動する。このような光走査ミラーにおいて、小さな駆動電圧で、光を走査するのに必要な振れ角を確保するためには、光走査ミラーの可動部やヒンジが設けられている部位の周囲の駆動環境を真空にすることが効果的である。特許文献1には、例えば、半導体基板上に形成した光走査ミラーにガラス基板を陽極接合し、真空気密封止を達成する方法が開示されている。
【0003】
例えば上述のような静電駆動型の光走査ミラーでは、櫛歯電極等の駆動力を発生する駆動部と、駆動部に電圧を印加するための配線部と、外部から電圧が印加される電極端子とは導電性を確保することが必要である。このような光走査ミラーは、半導体機械構造を用いているものであるため、別途金属等により配線部や電極端子等を形成するよりも、低抵抗率の半導体基板をそのまま利用する方が、製造コストを低くすることができて有利である。ところで、低抵抗率の半導体基板を用いる場合には、駆動部、配線部、及び電極端子は、適宜互いに絶縁分離しておくことが必要であり、半導体基板には絶縁分離のための分離溝を形成することが不可欠である。しかしながら、例えば特許文献1に記載されているように、可動板等が設けられている半導体基板の層を完全に分離するように分離溝を形成すると、真空気密封止した後に個々の光走査ミラーをチップとして切り出した際には、光走査ミラーの内外が外周側部に開口した分離溝を介して空間的に接続され、チップ内部を真空に保つことができなくなるという問題がある。これを防ぐため、分離溝を形成した後に当該分離溝を絶縁性を有する樹脂等で埋めることにより気密性を保持するようにすることも考えられるが、この場合、製造工程が複雑化し、製造コストが高くなる。
【特許文献1】特開2004−109651号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は、上記問題点を鑑みてなされたものであり、気密性を確保すると共に各部を絶縁分離することができ、且つ、製造コストが低い半導体機械構造体を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記目的を達成するため、請求項1の発明は、半導体基板に形成され、電圧が印加されることにより駆動力を発生する駆動部を有する可動構造と、前記駆動部に電圧を印加するために当該半導体基板に設けられ、互いに絶縁された複数の部分を有する電圧印加部と、前記電圧印加部の複数の部分を互いに絶縁するように前記半導体基板に形成された絶縁分離部とを備えた半導体機械構造体において、前記絶縁分離部は、前記可動構造と当該可動構造の周辺部において閉ループを形成するように、且つ、当該半導体機械構造体の外周側部に露出しないように形成されているものである。
【0006】
請求項2の発明は、請求項1の発明において、前記半導体基板は、活性層及びBOX(Buried OXide)層を有するSOI(Silicon On Insulator)基板であって、前記可動構造は前記活性層を含むように形成されており、前記絶縁分離部は、前記BOX層に到達し前記活性層を分離するように前記活性層に形成された溝部を有するものである。
【0007】
請求項3の発明は、請求項1又は請求項2の発明において、前記半導体基板のうち少なくとも前記絶縁分離部が形成されている一面に接合されたガラス基板をさらに有するものである。
【0008】
請求項4の発明は、請求項1乃至請求項3のいずれか一項の発明において、前記電圧印加部に外部から電圧印加可能に構成された貫通電極をさらに有するものである。
【0009】
請求項5の発明は、請求項1乃至請求項4のいずれか一項に記載の半導体機械構造体を有し、前記可動構造に光を反射可能なミラー面が設けられているものである。
【発明の効果】
【0010】
請求項1の発明によれば、絶縁分離部が半導体機械構造体の外周側部に露出しないので、各部を絶縁分離しつつ、半導体基板の上面に保護基板を接合し封止した場合に容易に気密性を確保することができる。絶縁分離部として複雑な構造を用いることなく気密性を確保することができるので、製造コストを低減することができる。
【0011】
請求項2の発明によれば、SOI基板を用いて可動構造を活性層を含むように形成することにより、絶縁分離部を、活性層を分離するような溝部として形成することができる。従って、容易に絶縁分離部を形成することができ、製造コストをさらに低減することができる。
【0012】
請求項3の発明によれば、半導体基板と陽極接合等により容易に接合可能なガラス基板を用いて半導体機械構造の気密を確保することができるので、半導体機械構造の製造コストを低くすることができる。また、ガラス基板は半導体基板と熱膨張係数が近いので、半導体機械構造を確実に動作可能にすることができる。
【0013】
請求項4の発明によれば、製造容易な構造の貫通電極を設けることにより電圧印加部に電圧印加をすることができるので、半導体機械構造の製造コストを低くすることができる。
【0014】
請求項5の発明によれば、上述と同様に、各部を絶縁分離しつつ、半導体基板の上面にカバー基板を接合し封止した場合に、絶縁分離部として複雑な構造を用いる必要がない。従って、容易に気密性を確保してより光走査ミラーの効率を高め信頼性を高めることができ、且つ、製造コストを低減することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
以下、本発明の一実施形態について図面を参照して説明する。図1、図2(a),(b)、及び図3は、本実施形態に係る光走査ミラー(半導体機械構造体)の一例を示す。光走査ミラー1は、例えば、バーコードリーダ、外部のスクリーン等に画像を投影するプロジェクタ装置、又は光スイッチ等の光学機器に搭載される小型のものであり、外部の光源等(図示せず)から入射する光ビーム等をスキャン動作させる機能を有している。
【0016】
先ず、光走査ミラー1の構成について以下に説明する。図1に示すように、光走査ミラー1は、導電性を有する第1シリコン層(活性層)200aと第2シリコン層(基板層)200bとをシリコンの酸化膜(BOX(Buried OXide)層)220を介して接合して成る、3層のSOI(Silicon on Insulator)基板200から構成された半導体部100を有している。酸化膜220は絶縁性を有しているので、第1シリコン層200aと第2シリコン層200bとは互いに絶縁されている。第1シリコン層200aの厚みは、例えば30μm程度であり、第2シリコン層200bの厚みは、例えば400μm程度である。また、SOI基板200の上面の一部には、酸化膜220bが形成されている(図3に図示)。図2(a)に示すように、光走査ミラー1は、例えば、上面視で一辺が数mm程度の略正方形又は略矩形である直方体状の素子であり、半導体部100と、第1シリコン層200aの上面に接合された上部保護基板(ガラス基板)110と、第2シリコン層200bの下面に接合された下部保護基板120(ガラス基板)等で構成されている。
【0017】
図1に示すように、半導体部100は、上面視で略矩形形状であり上面にミラー面20が形成されたミラー部2と、ミラー部2の周囲を囲むように略矩形の環状に形成された可動フレーム3と、可動フレーム3の周囲を囲むように形成され、光走査ミラー1の側周部となる固定フレーム4とを有している。可動フレーム3と固定フレーム4とは、互いに並んで1つの軸を成すように、固定フレーム4の互いに対向する2側面から各面に直交するように形成された梁状の2つの第1ヒンジ5により連結されている。一方、ミラー部2と可動フレーム3とは、第1ヒンジ5の長手方向と直交する方向に、互いに並んで1つの軸を成すように形成された梁状の2つの第2ヒンジ6により連結されている。第1ヒンジ5及び第2ヒンジ6は、それらそれぞれが成す軸が、上面視でミラー部2の重心位置を通過するように形成されている。第1ヒンジ5及び第2ヒンジの幅寸法は、例えば、それぞれ、5μm程度、30μm程度である。ミラー部2は、第2ヒンジ6を回転軸として、可動フレーム3に対して回動可能に可動フレーム3に支持されている。一方、可動フレーム3は、第1ヒンジ5を回転軸として、固定フレーム4に対して回動可能に固定フレーム4に支持されている。すなわち、この光走査ミラー1において、ミラー部2と可動フレーム3とが、第1ヒンジ5により構成される軸回りに、固定フレーム4に対し回動可能な可動部(可動構造)50を構成している。ミラー部2は、第1ヒンジ5と第2ヒンジ6とによりそれぞれ構成される2つの軸回りに、2次元的に回動可能に構成されている。図2(b)に示すように、可動フレーム3の下面には、可動フレーム3に接合され、可動フレーム3と一体に回動可能に支持体9が設けられている。また、固定フレーム4には、3つの貫通穴接合部(電圧印加部)10a,10b,10cが設けられている。以下、第2ヒンジ6の長手方向をX方向と称し、第1ヒンジ5の長手方向をY方向と称し、X方向とY方向に直交する垂直な方向をZ方向と称する。なお、ミラー部2、ミラー面20、又は可動フレーム3等の形状は、矩形に限られず、円形等他の形状であっても良い。
【0018】
この光走査ミラー1は、静電力を駆動力としてミラー部2を回動させるものであり、半導体部100において、可動フレーム3と固定フレーム4との間の第1ヒンジ5が形成されていない部位には第1櫛歯電極(駆動部)7が形成されており、ミラー部2と可動フレーム3との間の第2ヒンジ6が形成されていない部位には第2櫛歯電極(駆動部)8が形成されている。第1櫛歯電極7は、可動フレーム3のうちX方向に略直交する2側面にそれぞれ櫛歯形状に形成された電極3bと、固定フレーム4のうち電極3bに対向する部位にそれぞれ形成された電極4aとが、一対に互いに噛み合うように配置されて構成されている。第2櫛歯電極8は、ミラー部2のうちY方向に略直交する2側面にそれぞれ櫛歯形状に形成された電極2aと、可動フレーム3のうち電極2aに対向する部位にそれぞれ櫛歯形状に形成された電極3aとが、一対に互いに噛み合うように配置されて構成されている。第1櫛歯電極7及び第2櫛歯電極8において、電極3b,4a間の隙間や、電極2a,3a間の隙間は、例えば、2μm乃至5μm程度の大きさとなるように構成されている。第1櫛歯電極7及び第2櫛歯電極8は、それぞれの電極3b,4a間、又は電極2a,3a間に電圧が印加されることにより、電極3b,4a間、又は電極2a,3aに、互いに引き合う方向に作用する静電力を発生する。
【0019】
ミラー部2、可動フレーム3、固定フレーム4等は、それぞれ、後述するようにSOI基板200をマイクロマシニング技術を用いて加工することにより形成されている。以下に、半導体部100の各部位について、SOI基板200の各層の構造も含めて説明する。
【0020】
ミラー部2及び可動フレーム3は、第1シリコン層200aに形成されている。ミラー面20は、例えばアルミニウム製の薄膜であり、ミラー部2の上面に外部から入射する光ビームを反射可能に形成されている。ミラー部2は、第2ヒンジ6を通る垂直平面(zx平面に平行な平面)に対し略対称形状に形成されており、第2ヒンジ6回りにスムーズに揺動するように構成されている。図3に示すように、可動フレーム3には、第1シリコン層200aに、第1シリコン層200aの上端から下端まで連通し、酸化膜220に到達するような溝形状の空隙を構成するトレンチ101a(溝部)が形成されている。トレンチ101aが形成されていることにより、可動フレーム3は、第1ヒンジ5の一方と接続され電極3a及び電極3bと一体となる部位と、2つの第2ヒンジ6を支持する軸支部3c及び軸支部3cに導通部3dを介して接続され第1ヒンジ5の他方に軸支される軸支部3eから成る部位と、導通部3dにミラー部2の中央部に関し上面視で略点対称となる形状に形成された3つのバランス部3fと、の5つの部位に分割されている。トレンチ101aは、第1シリコン層200aを分離しているので、これらの5つの部位は、互いに絶縁されている。なお、バランス部3fは、形成されていなくてもよい。
【0021】
支持体9は、可動フレーム3の下方(z方向)の酸化膜220及び第2シリコン層200bにより構成されている。支持体9には、トレンチ101aにより分割された可動フレーム3の5つの部位が共に接合されている。換言すると、支持体9は、可動フレーム3のうちトレンチ101aが形成されている部位の下方に、第1シリコン層200aに接合されたまま形成されている。このように支持体9に5つの部位が共に接合されていることにより、可動フレーム3と支持体9とが、第1ヒンジ5を回転軸として一体に回動可能に構成されている。図2(b)に示すように、本実施形態において、支持体9は、可動フレーム3の下面のうち電極3a,3bを除く部位を略覆うように、平面視で第1ヒンジ5に対し略対称形状となる環状に形成されている。また、支持体9の第2シリコン層200bからなる部位の厚みは、固定フレーム4の第2シリコン層200bからなる部位の厚みと略同程度に形成されている。すなわち、支持体9は、第1ヒンジ5を通る垂直平面(y−z平面に平行な平面)に対し略対称形状に形成されている。また、可動フレーム3のトレンチ101aは、バランス部3fを形成するために、第1ヒンジ5を通る垂直平面に対し略対称となる位置及び形状に設けられている。これにより、支持体9を含む可動部50の重心の位置は、第1ヒンジ5により構成される回転軸に、平面視で略一致するように構成されており、支持体9を含む可動部50が第1ヒンジ5回りにスムーズに揺動し、光走査ミラー1によるスキャンがより適正に行われるように構成されている。なお、支持体9の第2シリコン層200bからなる部位の厚みは、固定フレーム4の第2シリコン層200bからなる部位の厚みよりも薄く又は厚く形成されていてもよい。
【0022】
固定フレーム4は、第1シリコン層200a、酸化膜220、及び第2シリコン層200bにより構成されている。固定フレーム4の上面には、3つの貫通穴接合部10a,10b,10cが、互いに並んで形成されている。固定フレーム4には、トレンチ101aと同様に、第1シリコン層200aを複数の部位に分割するように、トレンチ101b(溝部)が形成されている。第1シリコン層200aの下方には酸化膜220及び第2シリコン層200bが接合されており、トレンチ101bは第1シリコン層200aにのみ形成されているので、固定フレーム4全体は一体に構成されている。
【0023】
トレンチ101bは、固定フレーム4の第1シリコン層200aを、貫通穴接合部10a,10b,10cとそれぞれ略同電位となる、互いに絶縁された3つの部位に分割している。このうち、貫通穴接合部10aと同電位となる部位は、第1ヒンジ5のうち、可動フレーム3のうち軸支部3eに接続された、貫通穴接合部10aから離れた一方の部位を支持する軸支部4dを有している。貫通穴接合部10aと軸支部4dとは、トレンチ101bが形成されていることにより幅が細く形成された導通部4eにより接続されている。また、貫通穴接合部10bと略同電位となる部位は、第1ヒンジ5の他方を支持する軸支部4fを有している。貫通穴接合部10cと略同電位となる部位は、固定フレーム4のうち貫通穴接合部10a,10bと同電位となる上記の2つの部位を除いた部位であり、この部位に電極4aが形成されている。
【0024】
このようにトレンチ101a,101bが形成されていることにより、第1シリコン層200aには、貫通穴接合部10aが形成され電極2aと略同電位となる部位と、貫通穴接合部10bが形成され可動フレーム3側の電極3a,3bと略同電位となる部位と、貫通穴接合部10cが形成され固定フレーム4側の電極4aと略同電位となる部位との、3つの部位が設けられている。各貫通穴接合部10a,10b,10cは、後述のように外部から電位を変更可能であり、これらの各貫通穴接合部10a,10b,10cの電位を変更することにより第1櫛歯電極7と第2櫛歯電極8を駆動し、光走査ミラー1を駆動可能である。すなわち、本実施形態において、第1シリコン層200aのうち、貫通穴接合部10a,10b,10c及びそれらと同電位となる部位で構成され、互いに絶縁された3つの部分は、第1櫛歯電極7と第2櫛歯電極8に電圧を印加するための電圧印加部を構成している。また、これら電圧印加部の3つの部分は、第1シリコン層200aに形成された、トレンチ101a,101bと、ミラー部2と可動フレーム3との間の空隙及び可動フレーム3と固定フレーム4との間の空隙を含む絶縁分離部により、互いに絶縁されている。本実施形態において、絶縁分離部は、図1に示すように、可動部50と可動部50の周辺部において、閉ループを形成するように形成されている。ここでいう閉ループとは、上面視で半導体部100の外部に連通していないことを意味しており、絶縁分離部は、第1シリコン層200aの外周側部には絶縁分離部は露出していない。すなわち、図2(a)に示すように、第1シリコン層200aの上面に上部保護基板110が接合された状態では、絶縁分離部は光走査ミラー1の外部に露出しないように構成されている。
【0025】
上部保護基板110及び下部保護基板120は、固定フレーム4の第1シリコン層200aの上面及び第2シリコン層200bの下面に、それぞれ接合されている。上部保護基板110は、固定フレーム4に接合される接合部111と、可動部50の上部に位置する光透過部112と、貫通穴接合部10a,10b,10cにそれぞれ対応する位置に形成された3つの貫通穴(貫通電極)113とを有している。図3に示すように、光透過部112は、キャビティ(Cavity)構造を有しており、可動部50の回動を妨げないように、下面すなわち半導体部100側から掘り込まれた凹部112aが設けられている。貫通穴113は、上部保護基板110が半導体部100に接合された状態で貫通穴接合部10a,10b,10cが上面に露出するように形成されている。すなわち、貫通穴113は、貫通穴接合部10a,10b,10cへ電圧印加するための貫通電極として機能し、上部保護基板110により半導体部100の上面を覆いつつ、貫通穴接合部10a,10b,10cに電圧印加可能にしている。貫通穴113は、貫通穴接合部10a,10b,10cの略中央にそれぞれ位置しており、その径は、貫通穴接合部10a,10b,10cの寸法より小さい、例えば0.5mm程度とするのが好ましい。なお、貫通孔接合部10a,10b,10cには、電極を取り出す際に、外部との電気的な導通を良くするために、例えばアルミニウム膜等の金属膜を形成してもよい。この場合、金属膜は、上部保護基板110と第1シリコン層200aとの接合を妨げないように、貫通穴113の穴径より小さくすることが好ましい。
【0026】
ここで、上部保護基板110は、光透過性および第1シリコン層200aとの接合の容易性から、ガラス基板とすることが好ましい。例えば、コーニング社製パイレックス(登録商標)ガラスであれば、光透過性が良く、また、ガラス中にナトリウムが含まれていることから陽極接合により容易にシリコンと接合することができる。なお、上部保護基板110の材質はこれに限られず、少なくとも光透過部112が光走査ミラー1を用いて走査する光線を透過可能な材料を用いて構成されていればよい。
【0027】
下部保護基板120は、上部保護基板110と同様に、キャビティ構造を有しており、可動部50の回動を妨げないように、可動部50及び支持体9の下方に対応する部位が上面すなわち半導体部100側から彫り込まれ、凹部121が形成されている。下部保護基板120としても、上部保護基板110と同様にガラス基板を用いることができる。なお、下部保護基板120は、上部保護基板110と異なり光透過性が要求されないため、例えば加工が容易なシリコンを用いて構成することができる。
【0028】
上部保護基板110及び下部保護基板120は、内部の半導体部100を保護するものであるため、その厚さは0.5mm乃至1.5mm程度とすれば十分であるが、接合後のサイズを考慮すると、例えば0.6mm程度であることが好ましい。また、凹部112a,121の深さは、可動部50の回動を妨げない程度で、例えば0.3mmとされているのが好ましい。
【0029】
次に、光走査ミラー1の動作について説明する。第1櫛歯電極7及び第2櫛歯電極8は、それぞれ、いわゆる垂直静電コムとして動作し、ミラー部2は、第1櫛歯電極7及び第2櫛歯電極8が所定の駆動周波数で駆動力を発生することにより駆動される。第1櫛歯電極7及び第2櫛歯電極8は、例えば、電極3a,3bが基準電位に接続された状態で、電極2a及び電極4aの電位をそれぞれ周期的に変化させることにより駆動され、静電力を発生する。この光走査ミラー1においては、第1櫛歯電極7及び第2櫛歯電極8それぞれが、例えば矩形波形状の電圧が印加されて周期的に駆動力を発生するように構成されている。
【0030】
上述のように形成されたミラー部2や可動フレーム3は、一般に多くの場合、その成型時に内部応力等が生じることにより、静止状態でも水平姿勢ではなく、きわめて僅かであるが傾いている。そのため、例えば第1櫛歯電極7が駆動されると、静止状態からであっても、ミラー部2に略垂直な方向の駆動力が加わり、ミラー部2が第2ヒンジ6を回転軸として第2ヒンジ6を捻りながら回動する。そして、第2櫛歯電極8の駆動力を、ミラー部2が電極2a,3aが完全に重なりあうような姿勢となったときに解除すると、ミラー部2は、その慣性力により、第2ヒンジ6を捻りながら回動を継続する。そして、ミラー部2の回動方向への慣性力と、第2ヒンジ6の復元力とが等しくなったとき、ミラー部2のその方向への回動が止まる。このとき、第2櫛歯電極8が再び駆動され、ミラー部2は、第2ヒンジ6の復元力と第2櫛歯電極8の駆動力により、それまでとは逆の方向への回動を開始する。ミラー部2は、このような第2櫛歯電極8の駆動力と第2ヒンジ6の復元力による回動を繰り返して、第2ヒンジ6回りに揺動する。可動フレーム3も、ミラー部2の回動時と略同様に、第1櫛歯電極7の駆動力と第1ヒンジ5の復元力による回動を繰り返し、第1ヒンジ5回りに、支持体9と一体に揺動する。このとき、支持体9を含む可動部50が一体として揺動し、ミラー部2の姿勢が変化する。これにより、ミラー部2は、2次元的な揺動を繰り返す。
【0031】
第2櫛歯電極8は、ミラー部2と第2ヒンジ6により構成される振動系の共振周波数の略2倍の周波数の電圧が印加されて駆動される。また、第1櫛歯電極7は、ミラー部2、可動フレーム3及び支持体9と第1ヒンジ5とにより構成される振動系の共振周波数の略2倍の周波数の電圧が印加されて駆動される。これにより、ミラー部2が共振現象を伴って駆動され、その揺動角が大きくなるように構成されている。なお、第1櫛歯電極7や第2櫛歯電極8の電圧の印加態様や駆動周波数は、上述に限られるものではなく、例えば、駆動電圧が正弦波形で印加されるように構成されていても、また、電極3a,3bの電位が、電極2a及び電極4aの電位と共に変化するように構成されていてもよい。
【0032】
以下に、図4乃至図9を参照し、光走査ミラー1の製造工程について説明する。なお、図4乃至図9は、図3に示した部位と略同一の部位についての断面図である。まず、酸素および水蒸気雰囲気の拡散炉中で、SOI基板200の上下両表面に酸化膜を形成する(図4)。そして、活性層すなわち第1シリコン層200aの上面に形成された酸化膜220bの表面のうち、可動部50や第1ヒンジ5及び第2ヒンジ6等の形状に、フォトリソグラフィにより、レジスト(図示せず)をパターニングする。その後、RIE(Reactive Ion Etching)により酸化膜220bのうちレジストにマスクされていない部位を除去し、第1シリコン層200aのうち可動部50等が形成されない部位を露出させ、酸素プラズマ中でレジストを除去する(図5)。第1シリコン層200a上面には、例えばアルミニウムをスパッタリングすることによりアルミニウム膜を形成する。アルミニウム膜は、例えば厚みが5000Å程度になるように形成される。そして、フォトリソグラフィによりレジスト(図示せず)をパターニングした後にRIEを行い、アルミニウム膜のうちミラー面20以外の部位を除去し、レジストも除去する(図6)。これにより、ミラー面20が形成される。
【0033】
ミラー面20を形成した後、第1シリコン層200a上にレジスト230をパターニングして形成し、D−RIE(Deep Reactive Ion Etching)を行い、第1シリコン層200aのうち上面が露出している部位をエッチングする。SOI基板200の酸化膜220のエッチングレートは、第1シリコン層200aのエッチングレートの1パーセント未満であるため、第1シリコン層200aの表面の酸化膜220bおよび酸化膜220はほとんどエッチングされない。これにより、第1シリコン層200aに、可動部50、第1ヒンジ5及び第2ヒンジ6、第1櫛歯電極7及び第2櫛歯電極8等となる形状が形成される。これと同時に、可動部50となる部位にはトレンチ101aが形成され、固定フレーム4となる部位には、トレンチ101bが形成される(図7)。レジスト230は、酸素プラズマ中で除去しておく。
【0034】
次に、SOI基板200のうち支持基板である第2シリコン層200b(裏面側)の加工を行う。裏面側の加工は、例えば、表面側である第1シリコン層200aの上面を保護のためレジスト230で覆って行われる。まず、第2シリコン層200bの表面に形成された酸化膜220b上に、フォトリソグラフィによりレジスト232をパターニングする。レジスト232は、支持体9及び固定フレーム4に対応する形状に形成される。そして、レジスト232が形成されていない部位の酸化膜220bを、RIEによりエッチングし、露出した第2シリコン層200bを、D−RIEにより掘り込む(図8)。このとき、上述と同様に、エッチングレートの違いにより、第2シリコン層200bは酸化膜220まで掘り込まれ、酸化膜220はほとんどエッチングされない。その後、レジスト232を、酸素プラズマ中で除去する。なお、レジスト232は、第2シリコン層200bのエッチング中に除去されるように構成されていてもよく、その場合、製造工程を省手順化することができる。また、レジスト232の支持体9に対応する部位の厚みを予め調整しておくことにより、エッチング終了後に支持体9が若干エッチングされているようにし、支持体9の厚みを小さくするようにしてもよい。
【0035】
その後、半導体部100の下方に露出する酸化膜220を、RIEにより除去する。これにより、可動部50やミラー部2が、第1ヒンジ5及び第2ヒンジ6を介して揺動可能になる。また、これにより、トレンチ101aの下方に、酸化膜220と第2シリコン層200bとで構成された支持体9が、トレンチ101aにより絶縁分離された可動フレーム3の複数の部位が共に接合された状態で形成される。なお、これと同時に、第2シリコン層200bの表面の酸化膜220bも除去される。その後、半導体部100の上下のレジスト230,232を除去することにより、半導体部100が完成する。
【0036】
半導体部100が完成した後、半導体部100に上部保護基板110及び下部保護基板120を接合する。本実施形態においては、上部保護基板110及び下部保護基板120に共にガラス基板を用いた場合について説明する。ガラス基板とSOI基板200は、例えば陽極接合によって、容易に且つ確実に接合することができる。
【0037】
上部保護基板110及び下部保護基板120の接合工程は、例えば、ミラー面20を保護する観点から、上部保護基板110を先に半導体部100の上面側に接合し、下部保護基板120をその後半導体部100の下面側に接合して行う。上部保護基板110の接合工程では、先ず、凹部112aや貫通穴113が形成されたガラス基板と半導体部100のSOI基板200とを重ね、10Pa以下の真空環境下で、数百℃程度まで加熱する。このとき、好ましくは1Pa以下の環境にすることで、接合後の真空度をより高くすることができる。また、温度に関しては、300℃から400℃程度に保つことが好ましい。その後、ガラス基板とSOI基板200が所望の温度になったところで、SOI基板200の接合側のシリコン層すなわち第1シリコン層200aに対して400V乃至800V程度の電圧を、ガラス基板に印加する。このように電圧を印加した状態で20分乃至60分程度保持することにより、半導体部100に上部保護基板110を良好に接合させることができる。上部保護基板110を接合した後、下部保護基板120も、上述と同様にして半導体部100の第2シリコン層200bに陽極接合され(図9)、図3に示すように光走査ミラー1が完成する。なお、接合方法は、陽極接合に限るものではなく、種々の方法を用いて接合すればよい。
【0038】
以上説明したように、本実施形態において、SOI基板200を用いて半導体部100を形成しているので、第1シリコン層200aの3つの部位を、溝状のトレンチ101a,101bや空隙等で容易且つ確実に互いに絶縁分離することができる。このとき、その絶縁分離部は光走査ミラー1の外周側部に露出しないので、半導体部100の上面に上部保護基板110を接合し封止した場合に容易に気密性を確保することができる。絶縁分離部として複雑な構造を用いることなく確実に気密性を確保することができるので、光走査ミラー1の製造コストを低減することができる。
【0039】
さらにまた、本実施形態では、半導体部100と陽極接合により容易に接合可能なガラス基板である上部保護基板110及び下部保護基板120を用いて光走査ミラー1の気密を確保することができるので、光走査ミラー1の製造コストをさらに低くすることができ、且つ、より確実に光走査ミラー1の気密を保つことができる。また、半導体部100と熱膨張計数が近いガラス基板を上部保護基板110及び下部保護基板120として用いるので、光走査ミラー1に歪み等が発生しにくく、光走査ミラー1をより確実に駆動することができる。なお、ガラス基板は、半導体部100のうち少なくとも絶縁分離部が形成されている一面に接合する保護基板、すなわち本実施形態においては上部保護基板110として用いればよい。このように上部保護基板110にガラス基板を用いることにより、微細な溝状のトレンチ101a,101bが設けられていても、その面について確実に気密を保つように、且つ容易に、上部保護基板110を接合することができる。
【0040】
なお、本発明は上記実施形態の構成に限定されるものではなく、発明の趣旨を変更しない範囲で適宜に種々の変形が可能である。例えば、トレンチ101aやトレンチ101bの配置や、貫通穴接合部10a,10b,10cの配置などは、上述に限られず、適宜変更可能である。また、光走査ミラー1は、上記実施形態のような2軸ジンバル型のものではなく、例えば1軸に揺動可能なものであってもよい。さらにまた、貫通穴接合部10a,10b,10c等の電圧印加部への電圧印加可能な電極の外部への取り出しは、上述のように上部保護基板110に貫通穴113を設けて行うものに限らない。例えば、上部保護基板110に、予め、貫通穴接合部10a,10b,10c等に対応するように導体を配線しておき、その状態で上部保護基板110を半導体部100に接合することにより、上部保護基板110により光走査ミラー1の内部の気密を保ちつつ、外部から電圧印加可能に構成することができる。また、光走査ミラー1の製造工程は、上記に限らず、例えば、第1シリコン層200aを加工した後に、上部保護基板110を第1シリコン層200aに接合し、その後、第2シリコン層200bを加工し、第2シリコン層200bに下部保護基板120を接合しても構わない。
【0041】
また、本発明は、ミラー面を有し光を走査する光走査ミラーに限られず、駆動部を有する可動構造と電圧印加部と絶縁分離部とが半導体基板に形成された半導体機械構造体に広く適用可能である。この場合、駆動部は上述のような櫛歯電極に限られるものではなく、圧電素子等であってもよい。すなわち、絶縁分離部が半導体構造体の外周側部に露出しないように閉じているように構成することにより、製造容易な構造としつつ気密性を確保することができる。
【図面の簡単な説明】
【0042】
【図1】本発明の一実施形態に係る光走査ミラーの一例を示す分解斜視図。
【図2】(a)は上記光走査ミラーの上面側を示す斜視図、(b)は同光走査ミラーの下面側を示す斜視図。
【図3】図2(a)のA−A線断面図。
【図4】上記光走査ミラーの半導体部の製造工程における側断面図。
【図5】上記光走査ミラーの半導体部の製造工程における側断面図。
【図6】上記光走査ミラーの半導体部の製造工程における側断面図。
【図7】上記光走査ミラーの半導体部の製造工程における側断面図。
【図8】上記光走査ミラーの半導体部の製造工程における側断面図。
【図9】上記光走査ミラーの製造工程における側断面図。
【符号の説明】
【0043】
1 光走査ミラー(半導体機械構造体)
7 第1櫛歯電極(駆動部)
8 第2櫛歯電極(駆動部)
20 ミラー面
50 可動部(可動構造)
101a,101b トレンチ(絶縁分離部、溝部)
110 上部保護基板(ガラス基板)
113 貫通穴(貫通電極)
120 下部保護基板(ガラス基板)
200 SOI基板
200a 第1シリコン層(活性層)
220 酸化膜(BOX層)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
半導体基板に形成され、電圧が印加されることにより駆動力を発生する駆動部を有する可動構造と、
前記駆動部に電圧を印加するために前記半導体基板に設けられ、互いに絶縁された複数の部分を有する電圧印加部と、
前記電圧印加部の複数の部分を互いに絶縁するように前記半導体基板に形成された絶縁分離部とを備えた半導体機械構造体において、
前記絶縁分離部は、前記可動構造と当該可動構造の周辺部において閉ループを形成するように、且つ、当該半導体機械構造体の外周側部に露出しないように形成されていることを特徴とする半導体機械構造体。
【請求項2】
前記半導体基板は、活性層及びBOX(Buried OXide)層を有するSOI(Silicon On Insulator)基板であって、
前記可動構造は前記活性層を含むように形成されており、
前記絶縁分離部は、前記BOX層に到達し前記活性層を分離するように前記活性層に形成された溝部を有することを特徴とする請求項1記載の半導体機械構造体。
【請求項3】
前記半導体基板のうち、少なくとも前記絶縁分離部が形成されている一面に接合されたガラス基板をさらに有することを特徴とする請求項1又は請求項2記載の半導体機械構造体。
【請求項4】
前記電圧印加部に外部から電圧印加可能に構成された貫通電極をさらに有することを特徴とする請求項1乃至請求項3のいずれか一項に記載の半導体機械構造体。
【請求項5】
請求項1乃至請求項4のいずれか一項に記載の半導体機械構造体を有し、前記可動構造に光を反射可能なミラー面が設けられていることを特徴とする光走査ミラー。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2010−8613(P2010−8613A)
【公開日】平成22年1月14日(2010.1.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−166606(P2008−166606)
【出願日】平成20年6月25日(2008.6.25)
【出願人】(000005832)パナソニック電工株式会社 (17,916)
【Fターム(参考)】